(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】排気浄化装置及び排気浄化方法
(51)【国際特許分類】
F01N 3/24 20060101AFI20231222BHJP
【FI】
F01N3/24 E
(21)【出願番号】P 2020013023
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴置 哲典
(72)【発明者】
【氏名】本間 隆行
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120144(JP,A)
【文献】特開2014-211155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともアンモニアを燃料とする内燃機関と、
前記内燃機関の下流に配置され、前記内燃機関から排出され
た排気ガスに含まれる未燃のアンモニア及び窒素酸化物を酸化還元する触媒と、
前記触媒の下流に配置され、アンモニアを吸着する吸着器と、
前記触媒が所定の温度になるまで、前記内燃機関に供給される前記燃料及び酸素を含む混合気の当量比を1.1以上に調節する制御部と、
を備え
、
前記制御部は、前記燃料が水素を含む場合に、前記燃料中に含まれる前記アンモニアに対する前記水素の質量割合が増加するにつれて前記混合気の当量比が増加するように、前記内燃機関に供給される混合気の組成を調節する排気浄化装置。
【請求項2】
少なくともアンモニアを燃料とする内燃機関と、
前記内燃機関の下流に配置され、前記内燃機関から排出された排気ガスに含まれる未燃のアンモニア及び窒素酸化物を酸化還元する触媒と、
前記触媒の下流に配置され、アンモニアを吸着する吸着器と、
前記触媒が所定の温度になるまで、前記内燃機関に供給される前記燃料及び酸素を含む混合気の当量比を1.1以上に調節する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記触媒が前記所定の温度に到達した後、前記混合気の当量比を1.0に調節する排気浄化装置。
【請求項3】
前記所定の温度は、前記触媒の活性化温度以上である請求項1
又は請求項2に記載の排気浄化装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記燃料が水素を含む場合に、前記混合気の制御中心当量比が以下の式(1)を満たす制御を行う請求項
1に記載の排気浄化装置。
[制御中心当量比]=1.2+0.2×[水素の質量]/[アンモニアの質量]・・・(1)
【請求項5】
前記制御部は、前記触媒が前記所定の温度に到達した後、前記混合気の当量比を1.0に調節する請求項
1に記載の排気浄化装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記触媒が前記所定の温度になるまで、前記混合気の当量比を1.1~1.3に調節する請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の排気浄化装置。
【請求項7】
少なくともアンモニアを燃料とする内燃機関と、
前記内燃機関から排出され
た排気ガスに含まれる未燃のアンモニア及び窒素酸化物を酸化還元する触媒と、
前記触媒の下流に配置され、アンモニアを吸着する吸着器と、
を備える排気浄化装置を用い、
前記触媒が所定の温度になるまで、前記燃料及び酸素を含む混合気の当量比を1.1以上に調節
し、
前記燃料が水素を含む場合に、前記燃料中に含まれる前記アンモニアに対する前記水素の質量割合が増加するにつれて前記混合気の当量比が増加するように、前記内燃機関に供給される混合気の組成を調節する排気浄化方法。
【請求項8】
少なくともアンモニアを燃料とする内燃機関と、
前記内燃機関から排出され
た排気ガスに含まれる未燃のアンモニア及び窒素酸化物を酸化還元する触媒と、
前記触媒の下流に配置され、アンモニアを吸着する吸着器と、
を備える排気浄化装置を用い、
前記触媒が所定の温度になるまで、前記燃料及び酸素を含む混合気の当量比を1.1以上に調節
し、前記触媒が前記所定の温度に到達した後、前記混合気の当量比を1.0に調節する排気浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化装置及び排気浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒を利用して、エンジンなどの内燃機関の排気に含まれる一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)等の窒素酸化物(NOx)等の有害物質を浄化する技術が知られている。また、内燃機関として、アンモニアを燃料とするアンモニアエンジンが検討されている。アンモニアは炭素原子を含まないため、アンモニアエンジンでの燃焼により二酸化炭素が発生しないという利点がある。
【0003】
アンモニアが完全燃焼した場合、アンモニアは全て窒素と水に変換される。しかしながら、アンモニアエンジンにてアンモニアを実際に燃焼させた場合、不完全燃焼成分が存在し、例えば、未反応のアンモニア、NO等の窒素酸化物などを含む排気がアンモニアエンジンから排出される。そのため、触媒等を用いて排気に含まれる未反応のアンモニア、NO等の窒素酸化物などを浄化することが望まれる。
【0004】
例えば、アンモニアの燃焼により駆動力を得る内燃機関の排気を浄化する排気浄化装置であって、アンモニアの排出を抑制することが可能な排気浄化装置が提案されている。
より具体的には、アンモニアを燃料とする内燃機関からの排気が流通する主流路に設けられた、三元触媒機能及びアンモニア吸着機能を有する触媒と、前記触媒からのアンモニアの脱離と、前記触媒の活性化温度と、の少なくとも一方に関連する情報に応じて、前記触媒の上流側における排気の混合比を量論から希薄へと変更させる制御部と、を備える排気浄化装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
さらに、アンモニアを燃料とする内燃機関からの排気が流通する主流路に設けられた、酸化作用及び還元作用を有する酸化還元触媒と、前記主流路に設けられた選択還元触媒と、前記選択還元触媒の温度を取得する温度取得部と、前記温度取得部により取得された前記選択還元触媒の温度が、前記選択還元触媒の活性化温度を超えた場合に、前記酸化還元触媒及び前記選択還元触媒の上流側における排気の混合比を量論から希薄へと変更させる制御部と、を備える、排気浄化装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-167822号公報
【文献】特開2019-167823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載の排気浄化装置では、内燃機関の始動直後等の触媒が活性化温度に達する前においては、選択還元触媒等の触媒に排気中のアンモニアを吸着させることによって、アンモニアの排出を抑制できる。しかしながら、アンモニアを吸着する触媒に窒素酸化物は吸着されないため、内燃機関の始動時にて、排気に含まれる窒素酸化物が排気浄化装置から外部に放出されるおそれがある。
【0007】
本開示の目的は、アンモニアを燃料とする内燃機関の始動時にて、未燃アンモニア及び窒素酸化物の排出が抑制可能な排気浄化装置及び排気浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は以下のとおりである。
<1> 少なくともアンモニアを燃料とする内燃機関と、前記内燃機関の下流に配置され、前記内燃機関から排出された前記排気ガスに含まれる未燃のアンモニア及び窒素酸化物を酸化還元する触媒と、前記触媒の下流に配置され、アンモニアを吸着する吸着器と、前記触媒が所定の温度になるまで、前記内燃機関に供給される前記燃料及び酸素を含む混合気の当量比を1.1以上に調節する制御部と、を備える排気浄化装置。
<2> 前記所定の温度は、前記触媒の活性化温度以上である<1>に記載の排気浄化装置。
<3> 前記制御部は、前記燃料が水素を含む場合に、前記燃料中に含まれる前記アンモニアに対する前記水素の質量割合が増加するにつれて前記混合気の当量比が増加するように、前記内燃機関に供給される混合気の組成を調節する<1>又は<2>に記載の排気浄化装置。
<4> 前記制御部は、前記燃料が水素を含む場合に、前記混合気の制御中心当量比が以下の式を満たす制御を行う<3>に記載の排気浄化装置。
[制御中心当量比]=1.2+0.2×[水素の質量]/[アンモニアの質量]・・・(1)
<5> 前記制御部は、前記触媒が前記所定の温度に到達した後、前記混合気の当量比を1.0に調節する<1>~<4>のいずれか1つに記載の排気浄化装置。
<6> 前記制御部は、前記触媒が前記所定の温度になるまで、前記混合気の当量比を1.1~1.3に調節する<1>~<5>のいずれか1つに記載の排気浄化装置。
【0009】
<6> 少なくともアンモニアを燃料とする内燃機関と、前記内燃機関から排出された前記排気ガスに含まれる未燃のアンモニア及び窒素酸化物を酸化還元する触媒と、前記触媒の下流に配置され、アンモニアを吸着する吸着器と、を備える排気浄化装置を用い、前記触媒が所定の温度になるまで、前記燃料及び酸素を含む混合気の当量比を1.1以上に調節する排気浄化方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、アンモニアを燃料とする内燃機関の始動時にて、未燃アンモニア及び窒素酸化物の排出が抑制可能な排気浄化装置及び排気浄化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態の排気浄化装置の概略構成図である。
【
図2】アンモニア(NH
3)から窒素(N
2)への反応経路を示す図面である。
【
図3】燃焼終了時の燃焼室内の状態を示す模式図である。
【
図4】燃料としてアンモニアを用いた場合にて、内燃機関から排出された排気ガス中の一酸化窒素(NO)濃度及びアンモニア(NH
3)濃度と、混合気の当量比との関係を示すグラフである。
【
図5】触媒温度及び混合気の当量比の時間変化を表すグラフである。
【
図6】燃料としてアンモニア及び水素の混合ガス(混合質量比1:1)を用いた場合にて、内燃機関から排出された排気ガス中の一酸化窒素(NO)濃度及びアンモニア(NH
3)濃度と、混合気の当量比との関係を示すグラフである。
【
図7】本発明の一実施形態の排気浄化装置の動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合、原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
【0013】
[排気浄化装置]
本開示の排気浄化装置は、少なくともアンモニアを燃料とする内燃機関と、前記触媒の下流に配置され、前記内燃機関から排出された前記排気ガスに含まれる未燃のアンモニア及び窒素酸化物を酸化還元する触媒と、前記触媒の下流に配置され、アンモニアを吸着する吸着器と、前記触媒が所定の温度になるまで、前記内燃機関に供給される前記燃料及び酸素を含む混合気の当量比を1.1以上に調節する制御部と、を備える。
【0014】
本開示の排気浄化装置では、内燃機関の始動によりアンモニアが内燃機関にて燃焼され、内燃機関から排出された排気ガスが触媒に供給されることによって触媒の温度が上昇する。制御部は、触媒が所定の温度になるまで、内燃機関に供給される燃料及び酸素を含む混合気の当量比を1.1以上に調節する。これにより、内燃機関から排出された排気ガスにおいて、一酸化窒素等の窒素酸化物の濃度を低減させることができる。さらに、排気ガスに含まれる未燃のアンモニアは、触媒が所定の温度になるまでは吸着器に吸着される。以上により、本開示の排気浄化装置では、アンモニアを燃料とする内燃機関の始動時にて、未燃アンモニア及び窒素酸化物の排出が抑制可能である。
【0015】
本開示の排気浄化装置では、制御部は、触媒が所定の温度になるまで、燃料及び酸素を含む混合気の当量比を1.1~1.3に調節することが好ましく、1.15~1.25に調節することがより好ましい。前述の混合気の当量比を1.1以上に調節することで内燃機関から排出された排気ガス中の窒素酸化物の濃度を低減させることができ、前述の混合気の当量比を1.3以下に調節することで排気ガス中の未燃アンモニアの濃度も低減させることができる。以上により、アンモニアを内燃機関にて効率よく燃焼でき、さらに、吸着器にて吸着が必要なアンモニアの量が低減し、吸着器の容積を低減させることができる。
なお、混合気の当量比は、「理論空燃比/実際の混合気の空燃比」を意味する。混合気の当量比が1.0よりも大きいことは、実際の混合気の空燃比が理論空燃比よりも小さく、燃料に対して空気不足であることを意味する。また、混合気の当量比が1.0よりも小さいことは、実際の混合気の空燃比が理論空燃比よりも大きく、燃料に対して空気が過剰であることを意味する。
【0016】
本開示の排気浄化装置では、所定の温度は、触媒の活性化温度以上であることが好ましく、触媒の活性化温度よりも高いことがより好ましい。触媒が活性化温度以上となることで排気ガスに含まれる未燃のアンモニア及び窒素酸化物が好適に酸化還元され、排気ガスが浄化される。
【0017】
制御部は、触媒が所定の温度に到達した後、混合気の当量比を1.0に調節することが好ましい。混合気の当量比が1.0を超えていることは、燃料に対して空気不足であることを示しており、例えば、不完全燃焼成分は水素等として排出される。そのため、触媒が所定の温度(好ましくはその活性化温度以上の温度、より好ましくはその活性化温度よりも高い温度)に到達した後は混合気の当量比を1.0に制御して触媒による排気浄化とともに燃焼効率を高めて熱効率を高めることが好ましい。
【0018】
内燃機関に供給される燃料は水素をさらに含んでいてもよい。水素をアンモニアと混合することで難燃性のアンモニアを効率よく燃焼させることができる。燃料が水素を含む場合、燃料中に含まれるアンモニアに対する水素の質量割合(水素の質量/アンモニアの質量)は1:0.5~1:2であることが好ましく、1:1~1:2であることがより好ましい。
【0019】
本開示の排気浄化装置では、制御部は、燃料が水素を含む場合に、燃料中に含まれるアンモニアに対する水素の質量割合が増加するにつれて混合気の当量比が増加するように、内燃機関に供給される混合気の組成を調節することが好ましい。これにより、内燃機関から排出された排気ガスにおいて、一酸化窒素等の窒素酸化物の濃度を好適に低減させることができる。
【0020】
制御部は、燃料が水素を含む場合に、混合気の制御中心当量比が以下の式(1)を満たす制御を行うことが好ましい。
[制御中心当量比]=1.2+0.2×[水素の質量]/[アンモニアの質量]・・・(1)
制御中心当量比が前述の式を満たすことにより、内燃機関から排出された排気ガス中の窒素酸化物の濃度を低減させることができ、さらに、排気ガス中の未燃アンモニアの濃度も低減させることができる。
【0021】
さらに、制御部は、燃料が水素を含む場合に、制御中心当量比からの当量比の変動が-0.1~0.1となるように内燃機関に供給される混合気の組成を調節することが好ましく、-0.05~0.05となるように内燃機関に供給される混合気の組成を調節することがより好ましい。
例えば、燃料中に含まれるアンモニアに対する水素の質量割合が1である場合、制御中心当量比は1.4であることが好ましく、混合気の当量比は1.3~1.5であることが好ましく、1.35~1.45であることがより好ましい。
【0022】
以下、本発明の一実施形態の排気浄化装置について説明する。
図1は、本開示の排気浄化装置の概略構成図である。
【0023】
図1に示す通り、排気浄化装置100は、スロットル1と、燃料供給弁2と、点火プラグ3、燃焼室4及びピストン5を備える内燃機関20と、酸化還元触媒6と、選択還元触媒を含む吸着器7と、を備える。さらに、排気浄化装置100は、燃焼室4から排出された排気ガスの混合比を取得する混合比センサ8と、酸化還元触媒6の温度を取得する温度センサ9と、吸着器7の温度を取得する温度センサ10と、各センサにて取得された流量情報、混合比情報及び温度情報に基づいてスロットル1、燃料供給弁2及び点火プラグ3を制御する制御部11を備える。
【0024】
排気浄化装置100では、スロットル1にて流量調節された空気と、燃料供給弁2から供給されたアンモニアとが流路内にて混合された混合気が内燃機関20の燃焼室4に供給される。また、燃料供給弁2からアンモニアとともに水素を流路内に供給してもよく、別途配置された水素供給弁から水素を流路内に供給してもよい。
【0025】
燃焼室4に設置された点火プラグ3によって燃焼室4に供給された混合気を点火して燃焼させ、これによりピストン5が上下に往復する。
【0026】
アンモニアを燃焼させて生じる排気ガスが内燃機関20から流路内に排出され、流路内に排出された排気ガスは、内燃機関20の下流に配置された酸化還元触媒6及び吸着器7を順に通過して排気浄化装置100の外部に供給される。
【0027】
スロットル1は、燃焼室4に供給される空気の流量を調節する。スロットル1の上流に配置された空気流量計13にて取得された流量情報を制御部11が受信し、制御部11は、要求される空気とアンモニアとの混合気の当量比に基づいてスロットル1を調節して燃焼室4に供給される空気の流量を調節する。
【0028】
燃料供給弁2は、燃焼室4に供給されるアンモニアを流路内に供給する。制御部11は、要求される空気とアンモニアとの混合気の当量比に基づいて燃料供給弁2から流路内に供給するアンモニアの量を調節する。また、制御部11は、燃料供給弁2からアンモニアとともに水素を流路内に供給する場合、又は、別途配置された水素供給弁から水素を流路内に供給する場合、混合気の制御中心当量比が前述の式(1)を満たすように、流路内に供給するアンモニアの量及び水素の量を調節することが好ましい。
【0029】
内燃機関20は、点火プラグ3、燃焼室4及びピストン5を備え、燃料及び空気を含む混合気を燃焼室4にて燃焼させることで熱エネルギーを機械的エネルギーに変える原動機である。以下に、混合気の当量比が1の場合の統括反応式を示す。以下の式(2)に示すように、アンモニアが完全燃焼したときにアンモニアは全て窒素と水に変換される。
4NH3+3O2+11.286N2→6H2O+13.286N2・・・(2)
【0030】
実際には式(2)まで反応が進行せずに未燃成分が排気ガス中には存在する。未燃成分としては、一酸化窒素等の窒素酸化物、アンモニア等が挙げられる。
図2にてアンモニア(NH
3)から窒素(N
2)への反応経路を示す。
図2に示すように、アンモニアから窒素に至る過程で一酸化窒素(NO)等の窒素酸化物が生成することがわかる。
【0031】
図3にて燃焼終了時の燃焼室内の状態を模式的に示す。
図3にて、(a)は上面図であり、(b)は側面図である。
図3に示すように、燃焼室4の大半のアンモニアは燃焼し終えており、窒素と水に変換されている。一方、シリンダ壁、ヘッド下面、ピストン頂面、ピストンリングより上部のクレビスと呼ばれる隙間等には燃焼しきれなかったアンモニアが残っている。また、既燃領域における燃焼ガス中には窒素まで反応が進まなかった窒素酸化物が含まれている。
【0032】
酸化還元触媒6は、酸化作用及び還元作用を有する触媒である。酸化還元触媒6としては、三元触媒(Three-Way Catalyst)が挙げられる。酸化還元触媒6としては、セラミックス、酸化チタン等を担体として用い、白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属を活性触媒成分として担持した触媒が挙げられる。
【0033】
吸着器7は、選択還元触媒を含む。選択還元触媒は、アンモニアの吸着作用を有する触媒であればよい。選択還元触媒としては、SCR触媒(Selective Catalytic Reduction catalyst)が挙げられる。選択還元触媒としては、セラミックス、酸化チタン等を担体として用い、ゼオライトを活性触媒成分として担持した触媒が挙げられる。選択還元触媒は、温度が上昇することによって活性化し、吸着したアンモニアを浄化する触媒であることが好ましい。
【0034】
混合比センサ8は、燃焼室4と酸化還元触媒6との間の流路内に配置され、燃焼室4から排出された排気ガスの混合比を取得する。混合比センサ8にて取得された混合比情報を、制御部11が受信する。
【0035】
温度センサ9は、酸化還元触媒6内に配置され、その触媒内の温度を測定する。温度センサ9にて測定された温度情報を、制御部11が受信する。
【0036】
温度センサ10は、吸着器7内に配置され、吸着器7内の温度を測定する。温度センサ10は、選択還元触媒内に配置され、その触媒内の温度を測定してもよい。温度センサ10にて測定された温度情報を、制御部11が受信する。
【0037】
制御部11は、排気浄化装置の外部からの出力要求信号を受信し、また、混合比センサ8にて取得された混合比情報、温度センサ9にて測定された温度情報及び温度センサ10にて測定された温度情報及び空気流量計13にて取得された流量情報を受信する。さらに、制御部11は、各センサにて取得された流量情報、混合比情報及び温度情報に基づいてスロットル1、燃料供給弁2及び点火プラグ3をそれぞれ制御する。
【0038】
燃焼室4から排出された排気ガスに含まれる未燃アンモニア及び窒素酸化物の量は空気とアンモニアとの混合比に左右される。
図4は、内燃機関20内の燃焼場を対象に、反応計算によって求めた排気ガス中の一酸化窒素濃度及びアンモニア濃度と、混合気の当量比との関係を示すグラフである。
図4に示すように、混合気の当量比を1.0未満とし、燃料に対して空気が過剰である混合気では、一酸化窒素が生成しやすく、徐々に混合気の当量比を大きくしていくと排気ガス中の一酸化窒素の量が減る傾向がある。このため、酸化還元触媒6の温度が活性化温度以上となるまでの間、混合気の当量比を1.1以上に調節して排気浄化装置100を運転させることで、排気ガス中の一酸化窒素を低減できる。
【0039】
また、
図4に示すように、混合気の当量比が小さいときにアンモニアはほぼ全てが燃焼するが、混合気の当量比が大きくなると既燃領域でもアンモニアが未燃で残りやすくなり、排気ガス中のアンモニアの量が増加する傾向にある。そこで、混合気の当量比を調節して排気ガス中のアンモニア及び一酸化窒素の両方を低減することが好ましい。
【0040】
混合気の当量比が1.2付近にて排気ガス中の一酸化窒素の量及び排気ガス中のアンモニアの量がどちらも低くなる傾向にある。このため、酸化還元触媒6の温度が活性化温度以上となるまでの間、混合気の当量比を1.2を中心とする1.1~1.3に調節して排気浄化装置100を運転させることで、排気ガス中のアンモニア及び一酸化窒素を低減できる。
【0041】
酸化還元触媒6の温度が活性化温度以上となった場合、混合気の当量比を1.0に調節することが好ましい。これにより、酸化還元触媒6による排気浄化とともに燃焼効率を高めて熱効率を高めることができる。
【0042】
図5を用いて、触媒温度と混合気の当量比との好ましい関係を説明する。
図5は、触媒温度及び混合気の当量比の時間変化を表すグラフである。例えば、
図5に示すように、内燃機関を始動してから触媒の温度が触媒の活性化温度であるT2を超えてT1に到達するまで、制御部は燃料及び空気を含む混合気の当量比を1.2に調節すればよい。次に、触媒の温度がT1に到達した後、混合気の当量比を1.2から1.0に調節すればよい。
【0043】
燃料が水素を含む場合、燃焼室4から排出された排気ガスに含まれる未燃アンモニア及び窒素酸化物の量は空気とアンモニア及び水素を含む燃料との混合比に左右される。
図6は、燃料としてアンモニア及び水素の混合ガス(混合質量比1:1)を用いた場合にて、内燃機関20内の燃焼場を対象に、反応計算によって求めた排気ガス中の一酸化窒素(NO)濃度及びアンモニア(NH
3)濃度と、混合気の当量比との関係を示すグラフである。
【0044】
図6に示すように、例えば、混合気の当量比が1.2未満である場合に一酸化窒素が生成しやすく、徐々に混合気の当量比を大きくしていくと排気ガス中の一酸化窒素の量が減る傾向がある。例えば、燃料としてアンモニア及び水素の混合ガス(混合質量比1:1)を用いた場合に、酸化還元触媒6の温度が活性化温度以上となるまでの間、混合気の制御中心当量比を1.4に調節することが好ましく、混合気の当量比を1.3~1.5に調節することが好ましい。
【0045】
燃料が水素を含む場合に、酸化還元触媒6の温度が活性化温度以上となるまでの間、混合気の制御中心当量比が以下の式(1)を満たす制御を行って排気浄化装置100を運転させることで、排気ガス中の一酸化窒素を低減できる。
[制御中心当量比]=1.2+0.2×[水素の質量]/[アンモニアの質量]・・・(1)
【0046】
図7に示すフローチャートに基づいて、本発明の一実施形態の排気浄化装置の動作の流れを説明する。
ステップS1にて、アンモニア及び空気を含む混合気の当量比が1.1以上であるか判断する。アンモニア及び空気を含む混合気の当量比が1.1以上でない場合、例えば、スロットル1を調節して燃焼室4に供給される空気の流量を調節したり、燃料供給弁2から流路内に供給されるアンモニアの量を調節したりすることで、混合気の当量比を1.1以上に調節する。混合気の当量比を1.1以上に調節することで、燃焼室4から排出された排気ガス中の一酸化窒素の量を低減することができる。
【0047】
ステップS2にて、酸化還元触媒6の温度を取得する。ステップS3にて、酸化還元触媒6の温度が活性化温度以上であるか判断する。酸化還元触媒6の温度が活性化温度以上である場合、ステップS4にて、アンモニア及び空気を含む混合気の当量比を1.0に調節する。酸化還元触媒6の温度が活性化温度に到達した後に、混合気の当量比を1.0に調節することで、酸化還元触媒6による排気浄化とともに燃焼効率を高めて熱効率を高めることができる。
[排気浄化方法]
本開示の排気浄化方法は、少なくともアンモニアを燃料とする内燃機関と、前記内燃機関から排出された前記排気ガスに含まれる未燃のアンモニア及び窒素酸化物を酸化還元する触媒と、前記触媒の下流に配置され、アンモニアを吸着する吸着器と、を備える排気浄化装置を用い、前記触媒が所定の温度になるまで、前記燃料及び酸素を含む混合気の当量比を1.1以上に調節する方法である。
【0048】
本開示の排気浄化方法では、内燃機関の始動によりアンモニアが内燃機関にて燃焼され、内燃機関から排出された排気ガスが触媒に供給されることによって触媒の温度が上昇する。さらに、触媒が所定の温度になるまで、内燃機関に供給される燃料及び酸素を含む混合気の当量比を1.1以上に調節する。これにより、内燃機関から排出された排気ガスにおいて、一酸化窒素等の窒素酸化物の濃度を低減させることができる。さらに、排気ガスに含まれる未燃のアンモニアは、触媒が所定の温度になるまでは吸着器に吸着される。以上により、本開示の排気浄化方法では、アンモニアを燃料とする内燃機関の始動時にて、未燃アンモニア及び窒素酸化物の排出が抑制可能である。
【0049】
本開示の排気浄化方法にて用いる排気浄化装置は、前述の本開示の排気浄化装置と同様の制御部を備えていてもよい。また、本開示の排気浄化方法は、前述の本開示の排気浄化装置を用いて、内燃機関から排出された排気ガスを浄化する方法であってもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 スロットル
2 燃料供給弁
3 点火プラグ
4 燃焼室
5 ピストン
6 酸化還元触媒
7 吸着器
8 混合比センサ
9、10 温度センサ
11 制御部
20 内燃機関
100 排気浄化装置