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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】クラッチレリーズ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/08 20060101AFI20231222BHJP
   B60K 23/02 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
F16D25/08 B
F16D25/08 H
B60K23/02 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020016722
(22)【出願日】2020-02-04
(65)【公開番号】P2021124149
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】江口 康彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 一樹
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04225028(US,A)
【文献】特開昭55-142122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14
F16D 25/06-25/12
B60K 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レリーズレバーを有するクラッチ装置をレリーズ操作するためのクラッチレリーズ装置であって、
シリンダ
前記シリンダ内を軸方向に移動可能なピストン
前記ピストンに対して軸方向に相対移動可能であり、前記レリーズレバーを押圧するレリーズプレートと、
遠心子を有し、前記遠心子に遠心力が作用したときに前記レリーズプレートの前記ピストンに対する軸方向の相対移動をロックするロック機構と、
を備え、
前記ロック機構は、
軸方向に配列された複数の被係合部を含み、前記ピストンと一体的に軸方向に移動可能なスライドガイド、をさらに有し、
前記遠心子は、前記被係合部に対向し且つ前記被係合部に係合可能な係合部を含み、
前記係合部と前記被係合部とは、前記遠心力が作用したときに互いに係合する、
クラッチレリーズ装置。
【請求項2】
前記係合部は、前記遠心子の一方の端部に配置され、
前記遠心子は、
前記係合部とは反対の端部に配置されるウェイトと、
前記係合部と前記ウェイトとの間に配置される支点と、
をさらに含む、
請求項に記載のクラッチレリーズ装置。
【請求項3】
レリーズレバーを有するクラッチ装置をレリーズ操作するためのクラッチレリーズ装置であって、
シリンダと、
前記シリンダ内を軸方向に移動可能なピストンと、
前記ピストンに対して軸方向に相対移動可能であり、前記レリーズレバーを押圧するレリーズプレートと、
遠心子を有し、前記遠心子に遠心力が作用したときに前記レリーズプレートの前記ピストンに対する軸方向の相対移動をロックするロック機構と、
を備え、
前記ロック機構は、
前記レリーズプレートに対して径方向外側に配置され、軸方向に移動可能なスライドスリーブと、
前記遠心子を径方向外側に移動させることにより、前記スライドスリーブを軸方向に移動させるカム機構と、
前記スライドスリーブが軸方向に移動したときに、前記レリーズプレートと前記レリーズプレートの隣接部材との隙間に噛み合う噛み合い機構と、
をさらに有する、
クラッチレリーズ装置。
【請求項4】
前記シリンダと前記ピストンとによって画定されるエア室をさらに有する、
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のクラッチレリーズ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチレリーズ装置、特に、エンジンとトランスミッションとの間に配置されたクラッチ装置をレリーズ操作するためのクラッチレリーズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のクラッチ装置において動力伝達状態を解除する操作(以下、レリーズ操作という)をするために、クラッチレリーズ装置が設けられている。レリーズ装置は、たとえばクラッチペダルの操作により油圧を介してスレーブシリンダを作動させ、これによってレリーズ軸受が軸方向に移動する。このレリーズ軸受の移動によって、クラッチ装置を構成するレリーズレバーが押圧され、プレッシャプレートによるクラッチディスクへの押圧力が解除される。すなわち、クラッチ装置における動力伝達状態が解除される。ここで、レリーズレバーはたとえば、ダイヤフラムスプリングである。
【0003】
また、レリーズ装置を大型化することなくレリーズ操作時における踏力を軽減するために、Concentric Pneumatic Clutch Actuator(CPCA)式のレリーズ装置が用いられている。CPCA式のレリーズ装置は、トランスミッションの入力軸と同軸で設けられたシリンダ及びピストンを有している。そして、シリンダに空圧を供給することでピストンが作動し、軸方向に移動する。
【0004】
ここで、クラッチディスクの摩擦部材の摩耗が進むと、ダイヤフラムスプリングの周縁部分がクラッチディスク側に近づく。同時に、ダイヤフラムスプリングの中心近傍がクラッチディスクから離れる側に移動する。これによりクラッチレリーズ装置は、レリーズに必要な操作量に加えクラッチディスクの摩耗によるダイヤフラムスプリングの移動量分の操作量が必要になる。そのため、軸方向寸法を抑える摩耗追従の技術が求められている。
【0005】
そこで、例えば特許文献1(独国特許出願公開第102017205925号明細書)及び特許文献(国際公開第2018/077464号)は、ピストンの位置を摩擦部材が摩耗していない状態(以下、初期状態ともいう)での位置に戻すことにより、摩耗追従させる技術を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】独国特許出願公開第102017205925号明細書
【文献】国際公開第2018/077464号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の方法では、ピストンを、初期状態での位置まで軸方向に移動する必要がある。つまり、レリーズ操作のために必要なスペース(以下、搭載軸方向スペースともいう)が長くなる。
【0008】
本発明の課題は、レリーズ操作のためのスペースを短縮できるクラッチレリーズ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一側面に係るクラッチレリーズ装置は、レリーズレバーを有するクラッチ装置をレリーズ操作するためのクラッチレリーズ装置である。クラッチレリーズ装置は、シリンダ、ピストン、レリーズプレート、及び、ロック機構と、を備える。ピストンは、シリンダ内を軸方向に移動可能である。レリーズプレートは、ピストンに対して軸方向に相対移動可能であり、レリーズレバーを押圧する。ロック機構は、遠心子を有する。ロック機構は、遠心子に遠心力が作用したときに、レリーズプレートのピストンに対する軸方向の相対移動をロックする。
【0010】
この装置では、ピストンではなく、レリーズプレートがレリーズレバーを押圧する。そのため、摩耗追従のために軸方向に移動するのはレリーズプレートである。つまり、摩耗追従のためにピストンは動かないため、搭載軸方向スペースが短縮される。
【0011】
(2)本発明の一側面に係るクラッチレリーズ装置のロック機構は、スライドガイド、をさらに有する。スライドガイドは、軸方向に配列された複数の被係合部を有し、ピストンと一体的に軸方向に移動可能である。遠心子は、被係合部に対向し且つ被係合部に係合可能な係合部を含む。係合部と被係合部とは、遠心力が作用したときに互いに係合する。
【0012】
ここでは、ロック機構は、係合部を有する遠心子と、被係合部を有するスライドガイドと、を有し、遠心力が作用すると係合部と被係合部とが係合する。エンジン稼働中は遠心力が作用するため、エンジン稼働中、常に摩耗追従機構をロックすることができる。そのため、摩耗追従機構の不本意な解除や、ミスアジャスト、オーバーアジャストが発生しにくい。
【0013】
(3)本発明の一側面に係るクラッチレリーズ装置において、係合部は、遠心子の一方の端部に配置される。遠心子は、ウェイトと、支点と、をさらに含む。係合部は、遠心子の一方の端部に配置される。ウェイトは、係合部とは反対の端部に配置される。支点は、係合部とウェイトとの間に配置される。
【0014】
ここでは、遠心子がウェイトと支点とを含む。この構成により、遠心力が作用すると、支点を基点として、ウェイトが配置された端部が径方向外側に開く。同時に、係合部が配置された端部は、被係合部に近づき、係合部が被係合部に係合する。これにより、レリーズプレートがスライドガイドに固定され、ピストンの推力をクラッチに伝えてクラッチレリーズすることができる。
【0015】
(4)本発明の一側面に係るクラッチレリーズ装置のロック機構は、スライドスリーブと、カム機構と、噛み合い機構と、をさらに有してもよい。スライドスリーブは、レリーズプレートに対して径方向外側に配置され、軸方向に移動可能である。カム機構は、遠心子を径方向外側に移動させることにより、スライドスリーブを軸方向に移動させる。噛み合い機構は、スライドスリーブが軸方向に移動したときに、レリーズプレートとレリーズプレートの隣接部材との隙間に噛み合う。
【0016】
ここでは、遠心力が作用すると、噛み合い機構が噛み合う。エンジン稼働中は遠心力が作用するため、エンジン稼働中、常に摩耗追従機構をロックすることができる。そのため、摩耗追従機構の不本意な解除や、ミスアジャスト、オーバーアジャストが発生しにくい。
【0017】
(5)本発明の一側面に係るクラッチレリーズ装置は、シリンダと前記ピストンとによって画定されるエア室をさらに有する。
【0018】
ここでは、ピストンが摩耗追従のために移動する必要がないため、エア室内の無効容量を最小かつ一定に保つことができる。そのため、レスポンスの向上と制御が安定する。
【発明の効果】
【0019】
以上のような本発明では、クラッチレリーズ装置において、レリーズ操作のためにピストンが移動するために必要なスペースを短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のクラッチレリーズ装置の断面構成図。
図2】クラッチディスクの摩擦部材の摩耗がない状態(初期状態)でのレリーズプレートの位置を示す図。
図3】本発明のクラッチレリーズ装置の径方向に平行な面における横断面図。
図4図4のA-Aの位置での断面の拡大図。
図5】クラッチディスクの摩擦部材が摩耗した状態でのレリーズプレートの位置を示す図。
図6】遠心力が作用した時の本発明のクラッチレリーズ装置の径方向に平行な面における横断面図。
図7】本発明の別の実施形態において、クラッチディスクの摩擦部材の摩耗がない状態(初期状態)でのレリーズプレートの位置を示す図。
図8図7のカム機構部分を拡大した図。
図9図7の噛み合い機構部分を拡大した図。
図10】本発明の別の実施形態において、クラッチディスクの摩擦部材が摩耗した状態でのレリーズプレートの位置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態によるクラッチレリーズ装置100の断面図である。図1において、左側にクラッチ装置が配置され、右側にトランスミッションが配置されている。このクラッチレリーズ装置100は、エンジンとトランスミッションとの間に配置されたクラッチ装置をレリーズ操作するための装置である。すなわち、このクラッチレリーズ装置100によって、クラッチ装置を構成するレリーズレバーの押圧力が解除され、これにより、クラッチ装置における動力伝達状態が解除される。ここで、レリーズレバーは、ダイヤフラムスプリング101である。
【0022】
図1の断面図において、O-O線が回転軸線である。なお、以下の説明において、「軸方向」とは回転軸Oが延びる方向を示し、図1の右側を「軸方向第1側」、図1の左側を「軸方向第2側」とする。また、「径方向」とは、回転軸Oを中心とした円の半径方向を意味する。
【0023】
クラッチレリーズ装置100は、シリンダ2と、ピストン3と、レリーズプレート5と、ロック機構6と、を備えている。クラッチレリーズ装置100はさらに、スライドガイド7と、付勢部材8と、エア室Cと、を備える。
【0024】
[シリンダ2]
図1において、シリンダ2は、内周円筒部21と、シリンダケース22と、を有している。
【0025】
内周円筒部21は、径方向においてトランスミッションの入力軸(図示せず)の外側に、入力軸と同軸で配置されている。
【0026】
シリンダケース22は、円板部22aと、円板部22aの外周端部から軸方向第2側に延びる外周円筒部22bと、を有している。
【0027】
外周円筒部22bは、内周円筒部21とほぼ平行に延びている。円板部22aには、エア室Cに空気を供給するためのエア供給口(図示せず)が形成されている。
【0028】
[ピストン3]
ピストン3は、シリンダ2の内周円筒部21と外周円筒部22bとの間に、入力軸と同軸で配置されている。
【0029】
ピストン3は、シリンダ2の内周円筒部21及び外周円筒部22bに沿って軸方向に移動可能である。具体的には、ピストン3は、内周円筒部21の外周面と、外周円筒部22bの内周面と、に沿って移動可能である。内周円筒部21及び外周円筒部22bは、それぞれシリンダ2の摺動面である。
【0030】
ピストン3は、摺動部34と、軸受支点35と、外周支持部36と、を有している。
【0031】
摺動部34は、筒状に形成され、シリンダ2の内周円筒部21の外周面に沿って摺動可能である。
【0032】
軸受支点35は、摺動部34の軸方向第1側の端部から径方向外方に延びるとともに、軸受支点35の外周部は軸方向第2側に延びている。すなわち、軸受支点35の内周部には、軸受収容部(図示せず)が形成されている。
【0033】
軸受収容部には、レリーズベアリング4の外輪がはめ込まれている。ピストン3の軸受収容部は、レリーズベアリング4の全体を支持する。
【0034】
外周支持部36は、筒状に形成され、軸受支点35の外周部から軸方向第1側に延びている。外周支持部36は、シリンダ2の外周円筒部22bの内周面に沿って摺動可能である。
【0035】
[レリーズプレート5]
図1及び図2を参照して、レリーズプレート5は、ピストン3に対して軸方向に相対移動可能に配置されている。レリーズプレート5は、回転軸Oを中心として回転可能である。レリーズプレート5は、押圧部5aと、レリーズプレート摺動部5bとを有する。
【0036】
押圧部5aは、円環状である。押圧部5aは、ダイヤフラムスプリング101の内周端部に沿って伸びている。押圧部5aは、ダイヤフラムスプリング101の内周端部に対向し、当接している。押圧部5aは、レリーズ装置作動時に、ピストン3の推力を伝達して、ダイヤフラムスプリング101の内周端部を押圧する。
【0037】
レリーズプレート摺動部5bは、筒状であり、軸方向に延びる。押圧部5aは、レリーズプレート摺動部5bから径方向外側に突出する。
【0038】
[ロック機構6]
図4は、図3のA-Aでの断面図である。図3及び図4を参照して、ロック機構6は、スライドガイド7と、遠心子9と、を含む。詳細には、図4を参照して、ロック機構6は、遠心子9の係合部91と、スライドガイド7の被係合部71と、を含む。係合部91の複数の突条部と、被係合部71の複数の溝とは、互いに係合可能である。
【0039】
<スライドガイド7>
図1を参照して、スライドガイド7は、軸方向に延びている。スライドガイド7は、円筒状である。スライドガイド7は、トランスミッションの入力軸の外側に配置される。スライドガイド7は、ピストン3と一体的に軸方向に移動可能である。詳細には、スライドガイド7は、レリーズベアリング4を介してピストン3に取り付けられている。スライドガイド7は、レリーズベアリング4の内輪に固定される。スライドガイド7は、回転軸Oを中心として回転可能である。
【0040】
スライドガイド7は、径方向外側の面に、軸方向に配列された複数の被係合部71を有する。被係合部71は、軸方向に配列された複数の溝である。
【0041】
<遠心子9>
遠心子9は、レリーズプレート5に取り付けられる。
【0042】
図3を参照して、遠心子9は、本体部90と、係合部91と、ウェイト92と、ピン93と、を含む。
【0043】
本体部90は、周方向に延びている。本体部90は、ピン93によって、径方向に揺動可能に取り付けられている。
【0044】
係合部91は、軸方向に配列された複数の突条部である。係合部91は、遠心子9の一方の端部に配置される。この係合部91に、スライドガイド7の被係合部71が係合する。
【0045】
ウェイト92は、係合部91とは反対の本体部90の端部に配置される。ピン93は、係合部91とウェイト92との間に配置される。支点は、ピン93の中心軸である。
【0046】
エンジンが始動すると、レリーズプレート5が回転し、ウェイト92に遠心力が作用する。遠心力が作用したときに係合部91と被係合部71とが係合することにより、レリーズプレート5のピストン3に対する軸方向の相対移動がロックされる。
【0047】
エンジンが停止すると、レリーズプレート5の回転が止まり、ウェイト92に遠心力が作用しなくなる。遠心力が作用しない場合、係合部91と被係合部71との係合が解除される。これにより、レリーズプレート5のピストン3に対する軸方向の相対移動のロックが解除される。ロックが解除されると、スライドガイド7の外側の面を、レリーズプレート5が摺動可能になる。
【0048】
[付勢部材8]
レリーズプレート5とスライドガイド7との間に、付勢部材8が配置される。付勢部材8は、クラッチ装置をレリーズする方向にレリーズプレート5を付勢する。これにより、レリーズプレート5とダイヤフラムスプリング101とは、常に接触した状態である。付勢部材8は、コイルスプリングである。
【0049】
[エア室C]
エア室Cは、シリンダ2とピストン3とによって画定される。詳細には、シリンダ2の内周円筒部21、円板部22a、外周円筒部22b、及びピストン3によって、エア室Cが形成されている。エア室Cには、スプリング27が配置される。
【0050】
[動作]
クラッチディスクの摩擦部材の摩耗がない初期状態では、図2のように、レリーズプレート5は、スライドガイド7の軸方向第2側寄りに配置される。
【0051】
図5を参照して、クラッチディスクの摩擦部材の摩耗が進むと、ダイヤフラムスプリング101の周縁部分が軸方向第2側(クラッチディスク側)に移動する。同時に、ダイヤフラムスプリング101の中心近傍が軸方向第1側に移動する。ダイヤフラムスプリング101の押圧により、レリーズプレート5も、軸方向第1側に移動する。ウェイト92が回転して遠心力が作用すると、この位置で、レリーズプレート5のピストン3に対する軸方向の相対移動がロックされる。つまり、摩耗追従機構がロックされる。詳細には、以下のとおりである。
【0052】
エンジン停止時には、図3に示すとおり、遠心子9とスライドガイド7との間には隙間が空いている。
【0053】
エンジンが始動すると、レリーズプレート5が回転する。つまり、ウェイト92が回転する。そのため、ウェイト92に遠心力が作用して、ウェイト92が径方向においてレリーズプレート5の外側に移動しようとする。このとき、図6に示すように、遠心子9はピン93により支持されているため、ピン93を中心として、径方向において係合部91を有する側が内側に移動する。この揺動によって、スライドガイド7の被係合部71に遠心子9の係合部91が係合する。これにより、摩耗追従機構がロックされる。
【0054】
本発明の一実施形態においては、エンジン稼働中、遠心力により常に摩耗追従機構がロックされる。そのため、振動で摩耗追従機構が解除されたり、ゴミ等によりミスアジャストやオーバーアジャストが発生したりすることが抑制される。
【0055】
摩耗追従機構がロックされており、かつ、クラッチ装置に対するレリーズ操作(たとえば、クラッチペダルの踏み操作)がなされていない状態では、ダイヤフラムスプリング101の押圧力によってクラッチディスクがプレッシャプレートとフライホイールとの間に挟持されている。したがって、クラッチ装置は、クラッチオンの状態であり、エンジンからの動力は、トランスミッションに伝達される。
【0056】
なお、レリーズ操作がなされていない状態では、レリーズプレート5は、付勢部材8の付勢力によってダイヤフラムスプリング101に押圧されている。ここでは、レリーズプレート5の押圧部5aとダイヤフラムスプリング101との間には隙間は生じていない。
【0057】
クラッチペダルを踏む、又は、電子制御装置より、クラッチオフの指令が出ると、空気が取り込まれる。取り込まれた空気は、エア室Cに供給される。
【0058】
エア室Cに空気が供給されると、ピストン3は、軸方向第2側に押し出される。摩耗追従機構がロックされているため、ピストン3の推力がレリーズプレート5に伝達される。これにより、レリーズプレート5の押圧部5aがダイヤフラムスプリング101の中心部を押圧し、プレッシャプレートの押圧力を解除する。これによりクラッチディスクがフライホイールから離れ、エンジンからトランスミッションに対する動力の伝達が断たれる。
【0059】
一方、クラッチペダルを戻すと、エア室Cの空気が排気される。エア室Cから空気が排気されると、ピストン3は、ダイヤフラムスプリング101の押圧力により軸方向第1側に戻る。これにより、クラッチディスクがフライホイールを押圧し、エンジンからトランスミッションに対する動力が伝達される。
【0060】
エンジンが停止すると、レリーズプレート5の回転が止まる。そのため、ウェイト92に遠心力が作用しなくなる。遠心力が作用しない場合、係合部91と被係合部71との係合が解除される。これにより、レリーズプレート5のピストン3に対する軸方向の相対移動のロックが解除される。ロックが解除されると、スライドガイド7の外側の面を、レリーズプレート5が摺動可能になる。
【0061】
以上の動作において、ピストン3及びレリーズベアリング4のピストン3がクラッチの摩耗分移動するのではなく、レリーズプレート5が移動することにより摩耗追従する。これにより、搭載軸方向スペースを短縮することができる。
【0062】
さらに、ピストン3が摩耗追従のために移動する必要がないため、エア室C内の無効容量を最小かつ一定に保つことができる。その結果、レスポンスが向上する。
【0063】
[他の実施形態]
本発明は、以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0064】
変形例1
上記実施形態では、ロック機構6は、遠心子9と、スライドガイド7と、を有する構成であったが、特にこれに限定されない。
【0065】
例えば、図7を参照して、ロック機構は、スライドスリーブ106を有するロック機構107であってもよい。
【0066】
この場合、レリーズプレート105は、押圧部105aと、レリーズプレート摺動部105bと、を有する。
【0067】
押圧部105aは、円板状である。押圧部105aは、ダイヤフラムスプリング101の内周端部に対向し、当接している。押圧部105aは、レリーズ装置作動時に、ピストン3の推力を伝達して、ダイヤフラムスプリング101の内周端部を押圧する。
【0068】
レリーズプレート摺動部105bは、押圧部105aの径方向内側の端部から軸方向第1側に突出する。レリーズプレート摺動部105bは、筒状であり、軸方向に延びる。レリーズプレート摺動部105bは、トランスミッションの入力軸の外側を摺動する。レリーズプレート摺動部105bの径方向外側に、スライドスリーブ摺動部106aが配置される。
【0069】
レリーズプレート摺動部105bの軸方向第1側の端部は、軸方向第1側に向かって、外径が徐々に小さくなる。つまり、スライドスリーブ摺動部106aの軸方向第1側の端部は、先細りのテーパ面を有している。
【0070】
ロック機構107は、遠心子108と、スライドスリーブ106と、カム機構109と、噛み合い機構110と、をさらに有する。
【0071】
遠心子108は、遠心力によって径方向に移動可能である。遠心子108は、ウェイト部108aと、第2カム部108bと、を有する。ウェイト部108aは、レリーズプレート105の押圧部105a内に配置される。ウェイト部108aは、遠心子108が回転して遠心力が作用すると、径方向外側に移動する。
【0072】
第2カム部108bは、ウェイト部108aから、径方向内側に向かって突出する。第2カム部108bは、第2カム面109bを有する。第2カム面109bは、軸方向第2側を向き、径方向外側を向くように傾斜する。第2カム面109bと、第1カム面109aとは、軸方向において対向している。詳細には、第2カム面109bと、第1カム面109aとは、接触している。
【0073】
スライドスリーブ106は、スライドスリーブ摺動部106aと、第1カム部106bと、を有する。スライドスリーブ摺動部106aは、円筒状である。第1カム部106bは、スライドスリーブ摺動部106aの第2側の端部から径方向外側に突出する。スライドスリーブ106は、軸方向に移動可能である。
【0074】
図8を参照して、第1カム部106bは、第1カム面109aを有する。第1カム面109aは、軸方向第1側を向き、径方向内側を向くように傾斜している。
【0075】
図7を参照して、スライドスリーブ摺動部106aは、ボール110aを収容するための貫通孔106cを有する。ボール110aは貫通孔106cに収容可能である。ボール110aは転動可能である。
【0076】
カム機構109は、スライドスリーブ106に設けられた第1カム面109aと、遠心子108に設けられた第2カム面109bと、によって構成される。第1カム面109aと第2カム面109bとは、軸方向に対して同じ角度で傾斜している。第2カム面109bに、第1カム面109aが当接可能である。第1カム面109a及び第2カム面109bは、互いの面を滑って移動可能である。
【0077】
カム機構109は、遠心子108の径方向外側への移動を、スライドスリーブ106を軸方向第2側に移動させる推力に変換するように構成されている。
【0078】
カム機構109は、遠心力が作用したときに、遠心子108が径方向外側に移動することにより、スライドスリーブ106を軸方向第2側に移動させる。カム機構109は、さらに、遠心力が作用しなくなると、遠心子108が径方向内側に移動することにより、バネ113がスライドスリーブ106を軸方向第1側に移動させる。
【0079】
噛み合い機構110は、レリーズプレート105の先端部の一部と、スライドスリーブ106の一部と、レリーズプレート105の隣接部材の一部と、スライドスリーブ106の貫通孔106cに収容されるボール110aと、を含む。レリーズプレート105の隣接部材は、レリーズベアリング111である。レリーズベアリング111とレリーズプレート105の押圧部105aとの間には、付勢部材112が配置され、クラッチ装置をレリーズする方向にレリーズプレート105を付勢する。
【0080】
図9を参照して、レリーズプレート105のテーパ面の先端部の径方向外側面とレリーズベアリング111の径方向内側面との距離d1は、ボール110aの直径d0よりも大きい。レリーズプレート105のテーパ面の基端面の径方向外側面とレリーズベアリング111の径方向内側面との距離d2は、ボール110aの直径d0よりも小さい。そのため、噛み合い機構110は、スライドスリーブ106が軸方向に移動したときに、レリーズプレート105と、レリーズプレート105の隣接部材と、の隙間に噛み合う。
【0081】
図10を参照して、クラッチディスクの摩擦部材の摩耗が進むと、ダイヤフラムスプリング101の外周縁部分が軸方向第2側(クラッチディスク側)に近づく。同時に、ダイヤフラムスプリング101の中心近傍が軸方向第1側に移動する。ダイヤフラムスプリング101の押圧により、レリーズプレート105も、軸方向第1側に移動する。遠心力が作用すると、この位置で、レリーズプレート105のピストンに対する軸方向の相対移動がロックされる。つまり、摩耗追従機構がロックされる。詳細には以下のとおりである。
【0082】
エンジンが始動すると、遠心子108が回転する。そのため、遠心子108に遠心力が作用する。その遠心力によって、遠心子108が径方向外側に移動しようとする。これにより、第2カム面109bが第1カム面109aを軸方向第2側に押圧する。遠心子9の第2カム面109bがスライドスリーブ106の第1カム面109aに係合している。そのため、第1カム面109aが径方向外側に移動し、スライドスリーブ106が軸方向第2側に移動する。
【0083】
スライドスリーブ106が軸方向第2側に移動することにより、噛み合い機構110のボール110aが、レリーズプレート105のテーパ面とレリーズベアリング111の内輪との間において噛み合う。これにより、レリーズプレート105のピストンに対する軸方向の相対移動がロックされる。つまり、摩耗追従機構がロックされる。
【0084】
以上の動作において、ピストン及びレリーズベアリング111であるピストンがクラッチの摩耗分移動するのではなく、レリーズプレート105が移動することにより摩耗追従する。これにより、搭載軸方向スペースを短縮することができる。
【0085】
さらに、ピストンが摩耗追従のために移動する必要がないため、エア室C内の無効容量を最小かつ一定に保つことができる。その結果、レスポンスが向上する。
【0086】
エンジンが停止すると、遠心子108の回転が止まる。そのため、遠心子108に遠心力が作用しなくなる。遠心力が作用しない場合、遠心子108が径方向内側に移動しようとする。このとき、第1カム面109aが径方向内側に移動し、スライドスリーブ106が軸方向第1側に移動する。これにより、噛み合い機構110が解除され、ロック機構107が解除される。ロック機構107が解除されると、レリーズプレート105がピストンに対して摺動可能になる。
【0087】
変形例2
上記変形例1では、レリーズプレート105の隣接部材は、レリーズベアリング111であったが、特にこれに限定されない。レリーズプレート105の隣接部材は、例えば、ピストンであってもよい。
【0088】
変形例3
上記実施形態では、ダイヤフラムスプリング式のクラッチ装置を対象としていたが、特にこれに限定されない。クラッチ装置は、コイルスプリング等のクラッチ装置であってもよい。
【符号の説明】
【0089】
2 シリンダ
3 ピストン
4、111 レリーズベアリング
5、105 レリーズプレート
6、107 ロック機構
7 スライドガイド
9、108 遠心子
100、200 クラッチレリーズ装置
106 スライドスリーブ
109 カム機構
110 噛み合い機構
C エア室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10