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  • 特許-スライドハンマー 図1
  • 特許-スライドハンマー 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】スライドハンマー
(51)【国際特許分類】
   B25D 1/16 20060101AFI20231222BHJP
【FI】
B25D1/16
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020044875
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021146401
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】503032946
【氏名又は名称】住友重機械建機クレーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 孝治
(72)【発明者】
【氏名】花原 晃
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-113485(JP,U)
【文献】特開2012-206193(JP,A)
【文献】特開2001-159242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に沿ってスライドするハンマー部材と、
前記ハンマー部材に対して前記軸線方向の少なくとも片側に設けられ、スライドする前記ハンマー部材の前記軸線方向の端面と当接するあて面部材とを有するスライドハンマーであって、
少なくとも前記あて面部材と前記ハンマー部材との当接部の外側を覆うカバー部材を有し、
前記ハンマー部材は、前記カバー部材の外側からスライド操作可能に構成され
前記ハンマー部材が前記あて面部材に当接して力を加えられる対象物と連結する部材を有しているスライドハンマー。
【請求項2】
前記軸線方向に平行であるスライド軸を備え
前記ハンマー部材は、前記スライド軸に対してスライドする
請求項1に記載のスライドハンマー。
【請求項3】
前記ハンマー部材の外周から突出している取手部を有する請求項1又は2に記載のスライドハンマー。
【請求項4】
前記あて面部材は、前記連結する部材とは前記ハンマー部材を挟んで反対側に位置する請求項1から3のいずれか一項に記載のスライドハンマー。
【請求項5】
さらに、前記あて面部材は、前記ハンマー部材から見て前記連結する部材側にも配置されている請求項4に記載のスライドハンマー。
【請求項6】
前記カバー部材は、前記取手部を外側に通す前記軸線方向に沿った開口部を有し、
前記開口部は、前記ハンマー部材が前記あて面部材に当接した状態で、前記取手部と前記開口部の前記軸線方向における端部との間に前記軸線方向について隙間が生じるように形成され、
前記開口部の前記軸線方向の一方の端部は、前記カバー部材の前記軸線方向の一方の一端部まで達して形成され、前記開口部の前記軸線方向の他方の端部は、前記カバー部材の前記軸線方向の他方の一端部まで達して形成されていない
請求項3に記載のスライドハンマー。
【請求項7】
軸線方向に沿ってスライドするハンマー部材と、
前記ハンマー部材に対して前記軸線方向の少なくとも片側に設けられ、スライドする前記ハンマー部材の前記軸線方向の端面と当接するあて面部材とを有するスライドハンマーであって、
少なくとも前記あて面部材と前記ハンマー部材との当接部の外側を覆うカバー部材を有し、
前記ハンマー部材は、前記カバー部材の外側からスライド操作可能に構成され、
前記ハンマー部材が前記あて面部材に当接して力を加えられる対象物と係合する係合部材を有すスライドハンマー。
【請求項8】
前記係合部材は、前記対象物と前記軸線方向以外から係合して前記対象物の前記軸線方向の移動を規制する請求項7に記載のスライドハンマー。
【請求項9】
前記係合部材は、前記スライドハンマーに対して着脱可能に構成される請求項7又は8に記載のスライドハンマー。
【請求項10】
複数種類の前記係合部材が、着脱により交換可能に構成される請求項9に記載のスライドハンマー。
【請求項11】
前記あて面部材よりも前記軸線方向の外側に突出し、前記カバー部材に対して固定された押さえ部を有する請求項1から10のいずれか一項に記載のスライドハンマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドハンマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軸に沿ってスライド可能なハンマー部材と、ハンマー部材のスライドにより衝突する衝突部とを備え、ハンマー部材が衝突する衝撃によって発生する力を利用して引き抜きや押し込みの対象となるピン等の部材の挿抜を行うスライドハンマーが活用されている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-126871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のスライドハンマーは、ハンマー部材を手作業で繰り返し衝突部に衝突させる作業が行われ、ハンマー部材と衝突部との間に手を挟まぬよう慎重に作業を行う必要があり、作業性が悪いという問題があった。
【0005】
本発明は、作業性の良好なスライドハンマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
軸線方向に沿ってスライドするハンマー部材と、
前記ハンマー部材に対して前記軸線方向の少なくとも片側に設けられ、スライドする前記ハンマー部材の前記軸線方向の端面と当接するあて面部材とを有するスライドハンマーであって、
少なくとも前記あて面部材と前記ハンマー部材との当接部の外側を覆うカバー部材を有し、
前記ハンマー部材は、前記カバー部材の外側からスライド操作可能に構成され
前記ハンマー部材が前記あて面部材に当接して力を加えられる対象物と連結する部材を有している。
また、他の発明は、
軸線方向に沿ってスライドするハンマー部材と、
前記ハンマー部材に対して前記軸線方向の少なくとも片側に設けられ、スライドする前記ハンマー部材の前記軸線方向の端面と当接するあて面部材とを有するスライドハンマーであって、
少なくとも前記あて面部材と前記ハンマー部材との当接部の外側を覆うカバー部材を有し、
前記ハンマー部材は、前記カバー部材の外側からスライド操作可能に構成され、
前記ハンマー部材が前記あて面部材に当接して力を加えられる対象物と係合する係合部材を有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、作業性の良好なスライドハンマーを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るスライドハンマーを示す側面図である。
図2図1のV-V線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係るスライドハンマー10を示す側面図、図2図1のV-V線に沿った断面図である。
【0010】
[スライドハンマーの構成]
このスライドハンマー10は、錘となるハンマー部材30の衝突による衝撃を利用して、挿入穴に対する挿入部材(対象物)の挿入又は引き抜きを行う機器である。挿入部材は、挿入穴に対しての挿入又は引き抜きを行うあらゆる部材を対象とすることが可能である。ここでは、二つの部材の各々に設けられた同径の挿入穴に同時に挿入して二つの部材連結し、引き抜くことで分離可能とするピン部材Pを対象とする場合を例示する。また、ピン部材Pには、挿入方向後端部にスライドハンマー10との連結を容易に行うためのボルトが固定装備されており、当該ボルトを介して挿入又は引き抜き作業が行われる場合を例示する。
【0011】
スライドハンマー10は、スライド軸20と、ハンマー部材30と、あて面部材としての第一エンドプレート41及び第二エンドプレート42と、カバー部材50と、係合部材としてのホルダ60とを主に備えている。
これらの各部材は、いずれも十分な剛性を備える材料、例えば、鋼鉄やステンレス等の金属材料で形成されている。
【0012】
スライド軸20は、直線状の丸棒であり、その一端部には、ホルダ60及び第一エンドプレート41が取り付けられ、他端部近傍には、第二エンドプレート42が取り付けられている。
以下の説明では、スライド軸20の長手方向を軸線方向Cとする。また、スライド軸20におけるホルダ60の取り付け側を「前」とし、第二エンドプレート42の取り付け側を「後」とする。
【0013】
スライド軸20の前端部は、スライド軸全体よりも外径が幾分小さく形成されており、その外周に雄ネジが形成されてネジ部21となっている。
第一エンドプレート41は円板であり、その中心にネジ部21に螺合するネジ穴411が貫通形成されている。また、ホルダ60の後端部にもネジ部21に螺合するネジ穴63が形成されている。
従って、ネジ部21の後端部まで第一エンドプレート41を螺入し、さらに、その前側にホルダ60を締結することにより、スライド軸20の前端部に第一エンドプレート41及びホルダ60を固定することができる。
【0014】
また、スライド軸20の後端部近傍には、第二エンドプレート42が固定されている。第二エンドプレート42は、第一エンドプレート41と外径が等しい円板であり、その中心には、スライド軸20の後端部側を挿入可能な貫通孔が形成されている。第二エンドプレート42は、スライド軸20の後端部よりも幾分前側となる規定の取り付け位置で溶接等によりスライド軸20に固定されている。
【0015】
なお、第二エンドプレート42は、スライド軸20に対して、規定の取り付け位置よりも後方にズレが生じないように固定することができればその固定方法は問わない。例えば、スライド軸20の規定の取り付け位置よりも後側の外径が大きくなる様に段差を形成し、段差に当接するまでスライド軸20を第二エンドプレート42に挿入しても良い。また、スライド軸20の後端部にもネジ部を形成し、第二エンドプレート42を螺入又はナットで締結して固定しても良い。
【0016】
スライド軸20の第二エンドプレート42よりも後方となる部分は、後述するカバー部材50の後端部から軸線方向Cに沿って外部に突出する。このスライド軸20のカバー部材50から後方外部に突出した部分は、ピン部材Pの挿入又は引き抜き作業時において、作業者がスライドハンマー10を片手で押さえるための押さえ部22となっている。この押さえ部22には、押さえやすいようにグリップ部材を装着しても良い。
【0017】
ハンマー部材30は、第一及び第二エンドプレート41,42よりも僅かに外径が小さな円柱状のブロックであり、その中心には、スライド軸20を挿入可能な中心孔31が軸線方向Cに沿って貫通形成されている。ハンマー部材30の中心孔31の内周とスライド軸20の外周との間には、例えば、潤滑剤が塗布されており、ハンマー部材30は、スライド軸20に沿って滑動可能となっている。
【0018】
ハンマー部材30は、スライド軸20上で第一エンドプレート41と第二エンドプレート42との間に配置され、ハンマー部材30の前進移動の際にその前端面が第一エンドプレート41の後面に当接し、ハンマー部材30の後退移動の際にその後端面が第二エンドプレート42の前面に当接する。即ち、第一エンドプレート41の後面と第二エンドプレート42の前面とが、それぞれハンマー部材30に対するあて面43,44となっている。
【0019】
ハンマー部材30は、勢いを付けて前進移動させると、第一エンドプレート41のあて面43に衝突し、その衝撃がホルダ60を介してピン部材Pに伝わり、当該ピン部材Pを挿入穴に向かって前方に挿入することができる。
また、ハンマー部材30は、勢いを付けて後退移動させると、第二エンドプレート42のあて面44に衝突し、その衝撃がホルダ60を介してピン部材Pに伝わり、当該ピン部材Pを挿入穴から後方に引き抜くことができる。
なお、ハンマー部材30と第一エンドプレート41、第二エンドプレート42は、直接的に接触しなくとも良く、ハンマー部材30と第一エンドプレート41のいずれか及びハンマー部材30と第二エンドプレート42のいずれかは、その間に別部材を介在させてもよい。例えば、シム(丸い板)などを介在させてもよい。また、例えば、衝突の際の騒音抑えるために、互いの衝突面のいずれかに防音に適した軟質部材(ハンマー部材30、第一及び第二エンドプレート41,42よりも軟質な部材)を取り付けてもよい。
【0020】
また、ハンマー部材30には、外側に突出した方向、例えば、軸線方向Cを中心とする円周の直径方向の双方の外側に向かってその外周面から延出された一対の取手部32が装備されている。これら一対の取手部32は、カバー部材50の外部に突出して設けられている。取手部32とカバー部材50との関係の詳細については後述する。
【0021】
カバー部材50は、前述したように、円筒状であり、スライド軸20、ハンマー部材30、第一及び第二エンドプレート41,42を内部に格納する。
カバー部材50は、その内径が第一及び第二エンドプレート41,42の外径にほぼ等しく設定されている。さらに、カバー部材50の軸線方向Cの長さは、スライド軸20上に固定された第一エンドプレート41から第二エンドプレート42に渡る長さに設定されている。
【0022】
そして、カバー部材50の前端部に第一エンドプレート41が挿入され、後端部に第二エンドプレート42が挿入された状態で、カバー部材50の後端部の内周と第二エンドプレート42の外周とが溶接により固定されている。なお、カバー部材50の前端部の内周と第一エンドプレート41の外周も同様に固定しても良い。また、これらの固定方法は溶接に限らず、強度が確保可能であれば、接着やネジ止め、圧入等、他の固定方法を利用しても良い。
【0023】
上記のように、第一エンドプレート41から第二エンドプレート42に渡ってこれらの外周にカバー部材50が設けられるので、第一エンドプレート41と第二エンドプレート42の間に配置されたハンマー部材30は、カバー部材50の内側に格納された状態となる。また、第一エンドプレート41の前側に設けられたホルダ60は、カバー部材50の前端部から外部前方に突出した状態となり、スライド軸20の後端部の押さえ部22は、カバー部材50の後端部から外部後方に突出した状態となる。
【0024】
カバー部材50の外周であって、軸線方向Cを中心とする円周の直径方向の両側には、前述したハンマー部材30に設けられた一対の取手部32をそれぞれ個別に外部に突出させるためのスリット状の開口部51が軸線方向Cに沿って形成されている。
これらの開口部51により、カバー部材50から外部に突出した一対の取手部32は、ハンマー部材30の軸線方向Cに沿った滑動動作を阻害せず、円滑な滑動動作を確保することができる。
なお、一対の取手部32は、ハンマー部材30の外周に対して溶接等によって固着しても良いし、挿入穴に圧入、或いは、ネジ穴に螺入することで取り付けても良い。
【0025】
また、各開口部51の後端部は、いずれも、カバー部材50の後端部の近傍にまで形成されているが、カバー部材50の後端部には達していない。
そして、図1の実線で示した取手部32に示すように、各開口部51の後端部は、ハンマー部材30が第二エンドプレート42に当接した状態で、取手部32と開口部51の後端部との間に軸線方向Cについて隙間Sが生じる位置まで形成されている。
この隙間Sは、ハンマー部材30を第二エンドプレート42に当接する方向に操作した場合に、開口部51の後端部に取手部32が衝突して破損等が生じることを回避すると共に、取手部32と開口部51の後端部との間に手や指等を挟まないようにするために設けられている。従って、隙間Sの幅は、指の挟みを生じない程度かそれ以上の幅とすることが好ましい。例えば、隙間Sの幅は30[mm]かそれ以上に設定されている。
さらに、隙間Sの幅は、取手部32の軸線方向Cの幅よりも長くすることが好ましい。
【0026】
一方、各開口部51の前端部は、いずれも、カバー部材50の前端部まで達しており、カバー部材50の前端部を周方向に分断している。
このように、カバー部材50の開口部51の軸線方向Cにおける少なくとも一方(前端部)について、カバー部材50の前端部に達して分断するように形成するのは以下の理由による。
即ち、スライドハンマー10の組み立て作業時おいて、一対の取手部32を開口部51の前端部を通して開口部51の内側に入れることができ、カバー部材50にハンマー部材30を格納する作業を容易に行うことが可能となるからである。
仮に、開口部51がカバー部材50の前端部を分断していない場合には、ハンマー部材30をカバー部材50の内部に格納してから、開口部51を通じて取手部32の取り付けを行わねばならず、開口部51の分断構造は、このような煩雑な取り付け作業を解消することが可能である。
【0027】
ホルダ60は、前述したように、その後端部にネジ穴63が設けられ、スライド軸20の前端部のネジ部21に取り付けられている。
ホルダ60は、略円柱状のブロックであり、スライド軸20及びカバー部材50と同心となるように、スライド軸20のネジ部21に取り付けられている。
ホルダ60の後端部外周には、ネジ部21が螺入するネジ穴63まで達する小さなネジ穴64が形成されており、この小さなネジ穴64には、頭無しネジからなる止めネジ61が螺入されている。この止めネジ61は、スライド軸20のネジ部21を締結して、ホルダ60が回転してスライド軸20に対して緩みが生じないように固定することができる。
【0028】
また、ホルダ60は、その前端面から外周面の概ね前半部分にかけて、ピン部材Pのボルトの頭部が嵌合する凹部62が形成されている。この凹部62は、ホルダ60の外周から中心に向かって、ボルトの側面視形状に応じた凹み形状で形成されている。即ち、図2に示すように、凹部62は、前側部分がボルトの軸部の直径に応じた幅であり、後側部分がボルトの頭部の幅に応じた幅となっている。
即ち、凹部62は、ピン部材Pのボルトと軸線方向C以外の方向(例えば、軸線方向Cに直交する方向)から係合してピン部材Pのボルトに対する軸線方向Cの移動を規制する構造となっている。
従って、ピン部材Pを後方に引き抜く際には、凹部62の幅の狭い前側部分がボルトを拘束して、後方への引き抜き力を伝えることができる。また、ピン部材Pを前方に挿入する際には、凹部62の後側部分の内部後面がボルトの頭部に圧接して、前方への押圧力を伝えることができる。
このように、ホルダ60は、その凹部62からなる凹凸構造により、軸線方向Cを中心とする円周の半径方向に沿ったホルダ60の凹部62に対する格納動作により、簡単に相互に連結することが可能である。
【0029】
[スライドハンマーの組み立て]
次に、スライドハンマー10の組み立てについて説明する。
スライドハンマー10は、まず、スライド軸20に対して規定の位置に第二エンドプレート42を溶接で固定する。
次いで、第二エンドプレート42をカバー部材50の後端部に挿入し、相互間を溶接により固定する。そして、スライド軸20が中心孔31に挿入されるようにハンマー部材30をカバー部材50の前端部から内側に格納する。このとき、ハンマー部材30の外周には一対の取手部32が取り付けられているが、これらの各取手部32は、カバー部材50の各開口部51における開口した前端部側からその内側に通される。
そして、ハンマー部材30をカバー部材50内に格納した後には、スライド軸20のネジ部21に第一エンドプレート41を取り付け、さらに、ホルダ60によって締結する。さらに、ホルダ60は、止めネジ61により固定する。
第一エンドプレート41とカバー部材50とを溶接する場合には、ホルダ60の固定後に行う。
このようにして、スライドハンマー10が組み立てられる。
【0030】
[スライドハンマーの取り扱い]
次に、スライドハンマー10の取り扱いについて説明する。
まず、ピン部材Pの引き抜き作業の場合には、ホルダ60の凹部62にピン部材Pのボルトの頭部を、軸線方向Cを中心とする円周の半径方向外側から挿入して係合状態とする。
そして、作業者は一方の腕で押さえ部22を持ち、他方の腕でハンマー部材30の一方の取手部32を持つ。その状態から、取手部32を後方に引き、ハンマー部材30を第二エンドプレート42のあて面44に衝突させる。この衝突による衝撃が、スライド軸20やカバー部材50を通じてホルダ60からピン部材Pのボルトに伝わり、引き抜き力が作用して、ピン部材が挿入穴から引き抜かれる。なお、一回でピン部材Pが抜けない場合には、ハンマー部材30の第二エンドプレート42への衝突の操作を複数回繰り返し行う。
【0031】
また、ピン部材Pの挿入作業の場合には、引き抜きと同様にホルダ60の凹部62にピン部材Pのボルトを係合させる。
そして、作業者は一方の腕で押さえ部22を持ち、他方の腕でハンマー部材30の一方の取手部32を前方に操作して、ハンマー部材30を第一エンドプレート41のあて面43に衝突させる。この衝突による衝撃が、スライド軸20やカバー部材50を通じてホルダ60からピン部材Pのボルトに伝わり、押し込み力が作用して、ピン部材Pが挿入穴に挿入される。この場合も、一回でピン部材Pが十分に挿入されない場合には、ハンマー部材30の第一エンドプレート41への衝突の操作を複数回繰り返し行う。
【0032】
[発明の実施形態の技術的効果]
スライドハンマー10は、第一エンドプレート41と第二エンドプレート42との間でハンマー部材30の外側を覆うカバー部材50を有している。
このため、スライドハンマー10の使用時において、ハンマー部材30が第一エンドプレート41や第二エンドプレート42に当接する際に、作業者は、カバー部材50によって手や指を保護することが可能となる。そして、これにより、手や指の怪我を防ぐための過剰な注意を払う必要がなくなるので、作業性の向上を図ることが可能となる。
【0033】
また、スライドハンマー10は、ハンマー部材30の軸線方向Cの両側に第一エンドプレート41と第二エンドプレート42とを備えているので、ハンマー部材30の前進移動を伴う作業と後退移動を伴う作業の両方を行うことができ、ピン部材Pの挿入作業と引き抜き作業の両方を行うことが可能である。
【0034】
また、スライドハンマー10は、軸線方向Cに平行であって、ハンマー部材30がスライドするスライド軸20を備えているので、ハンマー部材30の動作を安定させることができ、さらなる作業性の向上を図ることが可能となる。
【0035】
さらに、スライドハンマー10は、取手部32がハンマー部材30に対して、軸線方向Cを中心とする円周の半径方向外側に設けられているので、装置の軸線方向Cにおける小型化を図ることが可能となる。また、ハンマー部材30のスライド操作を容易に行うことができ、さらなる作業性の向上を図ることが可能となる。
【0036】
また、カバー部材50の開口部51は、ハンマー部材30が第二エンドプレート42に当接した状態で、取手部32と開口部51の後端部との間に軸線方向Cについて隙間Sが生じるように形成されている。
このため、ハンマー部材30のスライド操作時の取手部32の衝突から開口部51を保護することが可能となる。さらに、取手部32の開口部51の後端部との間に手や指を挟むことをより効果的に防止することができるので、これらに対する過剰な注意を低減し、さらなる作業性の向上を図ることが可能となる。
【0037】
一方、開口部51の前端部は、カバー部材50の軸線方向Cの前端部まで達して形成されているので、スライドハンマー10の組み立ての際に、取手部32を有するハンマー部材30をカバー部材50の前端部側から容易に挿入することができ、組立性の向上を図ることが可能となる。
【0038】
また、スライドハンマー10は、ピン部材Pのボルトに係合するホルダ60を有するので、ピン部材Pとホルダ60の連結を容易に行うことが可能である。
特に、ホルダ60がピン部材Pのボルトを軸線方向Cを中心とする円周の半径方向に沿って嵌め込み可能な凹部62を有し、当該凹部62は軸線方向Cに沿ったピン部材Pの移動を規制するので、凹部62にボルトを挿入するだけで、ホルダ60とボルトとを連結状態とすることができ、容易に作業を始めることが可能となる。これにより、スライドハンマー10のさらなる作業性の向上を図ることが可能となる。
【0039】
また、スライドハンマー10のスライド軸20は、第二エンドプレート42よりも後方外側に突出した押さえ部22を有しているので、押さえ部22で支えながら取手部32を操作することができ、作業性のさらなる向上を図ることが可能となる。
また、前述した直径方向の両側にそれぞれ取手部32が設けられているので、左右いずれの腕で取手部32を操作することも可能となり、作業を行う場所に適した姿勢で作業を行うことが可能となり、また、利き腕が左右いずれであっても適正に作業を行うことが可能である。
【0040】
また、ホルダ60は、止めネジ61を操作することでスライド軸20から容易に着脱することができるので、破損時に容易に交換可能となる。
なお、ピン部材Pの係合部の形状に応じて適した形状の凹部62を有する複数種類のホルダ60を用意し、ピン部材Pの係合部の形状に応じて適した形状の凹部62を有するホルダ60との交換を行う構成としても良い。例えば、異なるサイズのボルトの頭の嵌合に適した凹部62を個々に有する複数種類のホルダ60を交換して使用しても良い。これにより、種々のピン部材Pの挿入や引き抜き作業を行うことが可能となる。
【0041】
[その他]
上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、実施形態のスライドハンマー10は、ピン部材Pを挿入又は引き抜きの対象としているがこれに限定されず、挿入や引き抜きが必要なあらゆる部材を対象とすることができる。
例えば、穴に嵌入するベアリングやブッシング等を、スライドハンマー10によって挿入又は引き抜きの対象としても良い。
スライドハンマー10の用途としては、特に限定されないが、例えば、クレーンのブーム同士を固定するピンや旋回ベアリングの固定に使用されるピン等のクレーンの組立に使用するときに、特に有用である。
【0042】
さらに、ピン部材Pのように挿入部よりも拡径された頭部を有する部材を対象物とすることが好適だが、頭部を有さない部材も作業の対象とすることができる。
その場合、頭部を有さない部材の挿入の際には、ホルダ60を当接させて挿入方向に押し込みを行えば良いし、引き抜きの場合には、頭部を有さない部材にネジ穴を形成してホルダ60に嵌合可能なボルトを螺嵌し、ボルトを介して引き抜き方向に引き抜きを行えば良い。
また、ホルダ60を外して、スライド軸20の前端部のネジ部を、頭部を有さない部材のネジ穴に螺入して、引き抜きを行っても良い。
【0043】
また、ホルダ60は、凹部62を有する構造に限らず、挿入又は引き抜きを行う方向を向いた当接面を有する構造であれば良い。その場合、ピン部材P等の対象物は、ホルダ60の当接面に対して対向して当接する当接面を有し、互いの当接面を当接させた状態で作業を行うことが好ましい。
【0044】
また、ホルダ60は、スライドハンマー10に対して着脱可能であれば、ネジ止めに限定されない。ここで「着脱可能」とは、溶接等の固定状態ではなく、手動又は工具を用いて可逆的に取り付け、取り外しを行うことが可能であることをいう。
例えば、一例として、スライド軸20の前端部の外周にネジ部に替えて軸線方向Cを中心とする円周の半径方向外側に突出した突起部を設け、ホルダ60の後端部には、ネジ穴に替えてスライド軸20の前端部に挿入可能な挿入穴を形成する。この挿入穴の内周には、突起部を挿入可能な凹溝を軸線方向Cの前方に向かって形成し、凹溝を前方に途中で周方向に屈曲させる。これにより、ホルダ60の挿入穴にスライド軸20の前端部を挿入し、途中でスライド軸20を回転させることにより、その突起部が凹溝の屈曲部で周方向に移動して、ホルダ60をスライド軸20から抜けないように取り付けることが可能となる。
【0045】
また、スライドハンマー10では、スライド軸20がハンマー部材30を軸線方向Cに沿って滑動可能に支持する構成を例示したが、これに限らず、例えば、カバー部材50が内周面によりハンマー部材30を軸線方向Cに沿って滑動可能に支持する構成としても良い。その場合、スライド軸20の構成を省略することが可能となり、部品点数の低減を図ることが可能となる。
【0046】
ハンマー部材30,第一及び第二エンドプレート41,42及びカバー部材50の軸垂直断面形状は、円形を例示したが、これに限定されない。例えば、四角形状等の他の形状であっても良い。
【0047】
また、ハンマー部材30に取手部32を設ける構成を例示したが、ハンマー部材30をカバー部材50の外側から操作可能な他の部材を設けてもよい。例えば、ハンマー部材30に一端部が連結され、カバー部材50の外側に他端部が引き出された紐、ワイヤ等でハンマー部材30を操作しても良い。
また、カバー部材50から外部に突出した一対の取手部32を例示したが、取手部32は、片側に一つのみ設ける構成としても良い。
【0048】
また、ハンマー部材30の両側にあて面部材としての第一エンドプレート41と第二エンドプレート42とをそれぞれ設けているが、これらはいずれか一方を有する構成としても良い。
例えば、第一エンドプレート41のみを設け、スライドハンマー10をピン部材Pの挿入作業専用に構成してもよい。また、第二エンドプレート42のみを設け、スライドハンマー10をピン部材Pの引き抜き作業専用に構成してもよい。
これらの場合、カバー部材は、ハンマー部材30と第一エンドプレート41又は第二エンドプレート42との間に設け、ハンマー部材30の可動域全体を覆う構成とすることが好ましい。
【0049】
また、カバー部材50は、第一エンドプレート41から第二エンドプレート42に渡る全範囲を覆う構成としたが、少なくとも、第一エンドプレート41とハンマー部材30との(第一エンドプレート41とハンマー部材30とが当接する位置の周囲)と第二エンドプレート42とハンマー部材30との当接部(第二エンドプレート42とハンマー部材30とが当接する位置の周囲)とを覆う構成であれば良い。
また、第一エンドプレート41と第二エンドプレート42のいずれか一方のみを備える構成の場合には、カバー部材は、第一エンドプレート41又は第二エンドプレート42とハンマー部材30との当接部を覆う構成としても良い。
【符号の説明】
【0050】
10 スライドハンマー
20 スライド軸
21 ネジ部
22 押さえ部
30 ハンマー部材
31 中心孔
32 取手部
41 第一エンドプレート(あて面部材)
42 第二エンドプレート(あて面部材)
43 あて面
44 あて面
50 カバー部材
51 開口部
60 ホルダ
61 止めネジ
62 凹部(凹凸構造)
C 軸線方向
P ピン部材(対象物)
S 隙間
図1
図2