(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】中鎖脂肪酸トリグリセリドとアスコルビン酸とを含有する加熱殺菌済み容器詰め飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20231222BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20231222BHJP
A23L 33/12 20160101ALN20231222BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/00 F
A23L2/00 B
A23L33/12
(21)【出願番号】P 2020066429
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】野中 翔太
(72)【発明者】
【氏名】宗口 瑛
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-200659(JP,A)
【文献】国際公開第2019/066068(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/124615(WO,A1)
【文献】特開2012-010686(JP,A)
【文献】特開2016-005451(JP,A)
【文献】特開2009-142180(JP,A)
【文献】特開2009-089641(JP,A)
【文献】特開2008-206474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
C12G 1/00 - 3/08
C12H 1/00 - 6/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸の量が、6mg/100ml以上であり、
アスコルビン酸の質量の中鎖脂肪酸トリグリセリドの質量に対する割合(アスコルビン酸/中鎖脂肪酸トリグリセリド)が、0.0003以上0.1340以下であり、
さらに、カテキン、カテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、またはエピガロカテキンガレートから選択される1以上のカテキン類を、上記カテキン類の合計量として1mg/100ml以上含む、
加熱殺菌済み容器詰め飲料。
【請求項2】
中鎖脂肪酸トリグリセリドの量が500mg/100ml以上である、請求項1に記載の加熱殺菌済み容器詰め飲料。
【請求項3】
中鎖脂肪酸トリグリセリドにおける中鎖脂肪酸が、炭素数8の飽和脂肪酸及び/又は炭素数10の飽和脂肪酸である、請求項1又は2に記載の加熱殺菌済み容器詰め飲料。
【請求項4】
加熱殺菌が、85℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法で行われたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の加熱殺菌済み容器詰め飲料。
【請求項5】
アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、かつ、中鎖脂肪酸トリグリセリドの量に対するアスコルビン酸の量の割合(アスコルビン酸/中鎖脂肪酸トリグリセリド)が0.0003以上0.1340以下である飲料を加熱殺菌及び容器詰めして保管した際に生じる不快臭を抑制する方法であって、
前記飲料に、カテキン、カテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、またはエピガロカテキンガレートから選択される1以上のカテキン類を、上記カテキン類の合計量として1mg/100ml以上含有させることを含む、上記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中鎖脂肪酸トリグリセリドとアスコルビン酸とを一定の割合で含有し、かつ、加熱殺菌されて容器詰めされている飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
中鎖脂肪酸トリグリセリドは、天然ではヤシ油やパーム核油などに見出される油脂である。中鎖脂肪酸トリグリセリドは、小腸から吸収された後、門脈を経由して直接に肝臓に送られ、肝臓で急速に代謝されることから、効率の良いエネルギー補給源として利用されている。また、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、一般的な長鎖脂肪酸からなる油脂に比べて、体脂肪として蓄積されにくいことが知られている。例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドを、ダイエットや糖質制限をしている人、また、高齢や病気が原因で食が細い人の通常の食事に加えることで、エネルギーを良好に補給することができる。
【0003】
上記の他にも、中鎖脂肪酸トリグリセリドについて、各種の効果が報告されている。例えば、特許文献1には、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を、神経疾患並びに脳エネルギー欠乏に関する状態及び疾患を含む広範囲の疾患を治療するために使用することが記載されている。
【0004】
生体内以外の効果として、例えば、特許文献2には、従来の乳脂肪を含む飲料に、中鎖脂肪酸トリグリセリドを飲料全体に対して0.01~1重量%添加することにより、乳脂肪由来の白色浮遊物の発生が抑制され、乳入り飲料中で乳脂肪が安定化されることが記載されている。
【0005】
アスコルビン酸(ビタミンC)は、容器詰め飲料中で酸化防止剤として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2018-537091号公報
【文献】特開2007-61053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような各種の効果を有する中鎖脂肪酸トリグリセリドを日常的に気軽に摂取できる、中鎖脂肪酸トリグリセリドを含有する嗜好性の高い容器詰め飲料を開発することは望ましいと考えられる。しかしながら、本発明者らが検討した結果、中鎖脂肪酸トリグリセリドに加えて、一定の割合でアスコルビン酸(ビタミンC)を含有させ、かつ、加熱殺菌をして容器詰めを行った場合、常温でおよそ7か月間相当の保管後に、米糠が劣化した際に発生するような不快な臭いが生じることがわかった。本発明者らの検討によれば、このような劣化した米糠のような不快臭は、アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、かつ、中鎖脂肪酸トリグリセリドの量に対するアスコルビン酸の量の割合(アスコルビン酸/中鎖脂肪酸トリグリセリド)が0.0003以上0.1340以下である飲料を加熱殺菌及び容器詰めして保管した際に生じることがわかった。また、この不快臭は、加熱殺菌及び容器詰めの直後にはほとんど感じられず、保管後に感じられるようになることもわかった。
【0008】
本発明は、アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、かつ、中鎖脂肪酸トリグリセリドの量に対するアスコルビン酸の量の割合(アスコルビン酸/中鎖脂肪酸トリグリセリド)が0.0003以上0.1340以下である飲料を加熱殺菌及び容器詰めして長期保管した際に生じる劣化した米糠のような不快臭を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、さらに鋭意検討した結果、アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、かつ、中鎖脂肪酸トリグリセリドの量に対するアスコルビン酸の量の割合(アスコルビン酸/中鎖脂肪酸トリグリセリド)が0.0003以上0.1340以下である飲料に対し、カテキン、カテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、またはエピガロカテキンガレートから選択される1以上のカテキン類を、上記カテキン類の合計量で1mg/100ml以上含有させることにより、上記の飲料を加熱殺菌して保管した際に生じる劣化した米糠のような不快な臭いを低減することができることを見出した。すなわち、本発明は以下に関する。
[1]アスコルビン酸の量が、6mg/100ml以上であり、
アスコルビン酸の質量の中鎖脂肪酸トリグリセリドの質量に対する割合(アスコルビン酸/中鎖脂肪酸トリグリセリド)が、0.0003以上0.1340以下であり、
さらに、カテキン、カテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、またはエピガロカテキンガレートから選択される1以上のカテキン類を、上記カテキン類の合計量として1mg/100ml以上含む、
加熱殺菌済み容器詰め飲料。
[2]中鎖脂肪酸トリグリセリドの量が500mg/100ml以上である、[1]に記載の加熱殺菌済み容器詰め飲料。
[3]中鎖脂肪酸トリグリセリドにおける中鎖脂肪酸が、炭素数8の飽和脂肪酸及び/又は炭素数10の飽和脂肪酸である、[1]又は[2]に記載の加熱殺菌済み容器詰め飲料。
[4]加熱殺菌が、85℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法で行われたものである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の加熱殺菌済み容器詰め飲料。
[5]アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、かつ、中鎖脂肪酸トリグリセリドの量に対するアスコルビン酸の量の割合(アスコルビン酸/中鎖脂肪酸トリグリセリド)が0.0003以上0.1340以下である飲料を加熱殺菌及び容器詰めして保管した際に生じる不快臭を抑制する方法であって、
前記飲料に、カテキン、カテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、またはエピガロカテキンガレートから選択される1以上のカテキン類を、上記カテキン類の合計量として1mg/100ml以上含有させることを含む、上記方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、中鎖脂肪酸トリグリセリドと、一定割合のアスコルビン酸とを含有しながら、加熱殺菌及び容器詰めして保管した際の劣化した米糠のような不快な臭いが低減された加熱殺菌済み容器詰め飲料を提供することができる。加熱殺菌済み容器詰め飲料は、飲用される前に比較的長期にわたり保管されることがあるが、本発明により、保管後の不快臭の問題が生じにくい嗜好性の高い中鎖脂肪酸トリグリセリド含有容器詰め飲料を提供することができる。嗜好性の高い中鎖脂肪酸トリグリセリド含有飲料は、中鎖脂肪酸トリグリセリドの効果を期待して日常的に摂取する人にとって、中鎖脂肪酸トリグリセリドの便利な摂取源となると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<アスコルビン酸>
本発明の加熱殺菌済み容器詰め飲料は、アスコルビン酸を含有する。本発明でアスコルビン酸というときは、特に記載した場合を除き、L-アスコルビン酸を指す。L-アスコルビン酸は、ビタミンCと称されることもある。アスコルビン酸は、食品として許容されるアスコルビン酸の塩(例えば、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸アンモニウム、アスコルビン酸グリコシド、アスコルビン酸ステアリン酸エステル、アスコルビン酸パルミチン酸エステル)として飲料に添加してもよい。あるいは、アスコルビン酸を豊富に含む天然素材(例えば、レモン、オレンジ、アセロラなどの果実由来の天然素材、あるいは、ブロッコリー、メキャベツ、ピーマン、コマツナ、カリフラワーなどの野菜由来の天然素材)を本発明の飲料に添加することにより、アスコルビン酸を飲料中に含有させてもよい。
【0012】
本発明の加熱殺菌済み容器詰め飲料は、アスコルビン酸を6mg/100ml以上含む。より好ましくは10mg/100ml以上であり、さらに好ましくは16mg/100ml以上である。アスコルビン酸の量の上限は特に限定されないが、アスコルビン酸の添加により発生する酸味を考慮すると、80mg/100ml以下が好ましく、30mg/100ml以下がさらに好ましい。また、本発明の加熱殺菌済み容器詰め飲料は、後述する中鎖脂肪酸トリグリセリドの質量に対するアスコルビン酸の質量の割合(アスコルビン酸/中鎖脂肪酸トリグリセリド)が、0.0003以上0.1340以下であり、好ましくは0.0010以上0.050以下である。本発明者らは、加熱殺菌済み容器詰め飲料において、アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、かつ、アスコルビン酸の質量の中鎖脂肪酸トリグリセリドの質量に対する割合が0.0003以上0.1340以下である場合に、常温でおよそ7か月間相当の保管後に、米糠が劣化した際に発生するような不快な臭いが生じることを見出した。本発明は、この劣化した米糠のような不快臭を、後述する特定量以上のカテキン類を併用することにより低減させることができることを見出したことに基づくものである。なお、ここでアスコルビン酸の質量は、使用したアスコルビン酸及びその塩の質量を「アスコルビン酸(C6H8O6)」の質量に換算して得た値をいう。中鎖脂肪酸トリグリセリド及びカテキン類の量については後述する。
【0013】
容器詰め飲料中のアスコルビン酸の量は、以下の方法で測定することができる:
容器詰め飲料を開栓し、飲料を純水にて適宜希釈し、メンブレンフィルターにて濾過後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析に供する。分析条件は以下のとおり:
・カラム:Shodex RSpak KC-811(8.0mmI.D.×300mm)
・カラム温度:40℃
・移動相:10mmol/l リン酸
・検出:UV210nm
・注入量:20μl
・流速:0.5ml/分。
【0014】
<中鎖脂肪酸トリグリセリド>
本発明の加熱殺菌済み容器詰め飲料は、中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、MCTと略すこともある。)を含有する。本明細書において、MCTは、炭素数8の飽和脂肪酸(カプリル酸)及び/又は炭素数10の飽和脂肪酸(カプリン酸)を構成脂肪酸とするトリグリセリドをいう。1つのMCT分子は、単一の種類の飽和脂肪酸からなっていてもよいし、あるいは炭素数8の飽和脂肪酸と炭素数10の飽和脂肪酸の両方を含んでいてもよい。また、複数の種類のMCT分子が混合されたものを用いてよい。
【0015】
MCT全体における炭素数8の飽和脂肪酸(C8)と炭素数10の飽和脂肪酸(C10)との割合(質量比)は、特に限定されないが、好ましくはC8:C10=5:95~95:5、さらに好ましくは40:60~75:25、さらに好ましくは50:50~60:40である。MCT全体における構成脂肪酸の量の測定方法は後述する。
【0016】
MCTとしては、天然物から得られたものや、化学合成により製造されたものなどを使用することができる。MCTは市販されている。市販のMCT製品(MCTオイルなど)には、MCT以外にも副成分として、中鎖脂肪酸や中鎖脂肪酸のジグリセリド及びモノグリセリド、また、短鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸グリセリドなどが含まれることがあるが、下記で定義するMCTの量が本発明の範囲を満たすならば、これらが共存するものを用いてもよい。
【0017】
本発明の加熱殺菌済み容器詰め飲料中のMCTの量は、MCTの質量に対するアスコルビン酸の質量の割合(アスコルビン酸/MCT)が、0.0003以上0.1340以下を満たす範囲である。本発明者らは、加熱殺菌済み容器詰め飲料が、アスコルビン酸との比で上記を満たすような範囲でMCTを含有している際に、長期保管後に劣化した米糠のような不快臭が生じることを見出した。本発明は、この劣化した米糠のような不快臭を、後述する特定量以上のカテキン類を併用することにより低減させることができることを見出したことに基づくものである。
【0018】
加熱殺菌済み容器詰め飲料に含まれるMCTの量は、上述の通り、アスコルビン酸/MCT(質量比)で、0.0003以上0.1340以下となる量であればよく、特に限定されないが、MCTの健康効果を考えれば、MCTを高含有させることは好ましい。例えば、MCTの量は500mg/100ml以上が好ましく、1000mg/100ml以上が好ましく、3000mg/100ml以上がさらに好ましい。MCTの量の上限値は特に限定されないが、32000mg/100mlを超える場合には、飲用時にのどにざらつきが生じることから、32000mg/100ml以下がより好ましく、20000mg/100ml以下がさらに好ましい。
【0019】
なお、本明細書でMCTの量というときは、炭素数8の飽和脂肪酸(カプリル酸)及び/又は炭素数10の飽和脂肪酸(カプリン酸)を構成脂肪酸とするトリグリセリドの量をいうものとする。容器詰め飲料中のMCTの量は、以下の方法で測定することができる:
容器詰め飲料を開栓し、飲料から脂質を適切な方法で抽出した後、トリグリセリド含量をAOCS Ce5-86に準じて測定し、また、各脂肪酸の量をAOCS Ce1f-96に準じて測定し、これらの値から炭素数8の飽和脂肪酸(カプリル酸)及び/又は炭素数10の飽和脂肪酸(カプリン酸)を構成脂肪酸とするトリグリセリドの量を出することにより得ることができる。
【0020】
<カテキン類>
本発明の加熱殺菌済み容器詰め飲料は、上記のアスコルビン酸及びMCTに加えて、カテキン類を含有する。アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、かつ、MCTの量に対するアスコルビン酸の量の割合(アスコルビン酸/MCT)が0.0003以上0.1340以下である加熱殺菌済み容器詰め飲料に対し、1mg/100ml以上のカテキン類を含有させることにより、上記の飲料を長期保管した際に生じる劣化した米糠のような不快臭を低減させることができる。なお、本明細書中では、カテキン、カテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、及びエピガロカテキンガレートの8種を総称して「カテキン類」と呼ぶこととする。本発明の飲料は、上記8種のカテキン類のうちの1種以上を含む。本明細書で「カテキン類の量」をいうときには、上記8種の合計量をいうものとする。すなわち、「カテキン類の量」は、飲料が上記8種のカテキン類のうちの1種のみを含む場合には、その1種の量であり、飲料が上記8種のカテキン類のうちの2種以上を含む場合には、その2種以上の合計量である。
【0021】
カテキン類としては、市販のものを用いてもよい。また、茶葉などのカテキン類を含有する天然素材を本発明の飲料に添加することにより、カテキン類を飲料中に含有させてもよい。
【0022】
本発明の加熱殺菌済み容器詰め飲料は、カテキン類を1mg/100ml以上含有する。より好ましくは5mg/100ml以上であり、さらに好ましくは10mg/100ml以上である。カテキン類の量の上限は特に限定されないが、カテキンによる苦みの増加を考慮すると、120mg/100ml以下が好ましく、90mg/100ml以下がさらに好ましい。カテキン類の合計量における各カテキンの割合は特に限定されないが、例えば、エピガロカテキンガレートが0.05mg/100ml以上が好ましく、0.07mg/100ml以上が好ましい。
【0023】
容器詰め飲料中のカテキン類の量は、以下の方法で測定することができる:
容器詰め飲料を開栓し、メンブレンフィルター(孔径0.45μm)を用いて飲料から固形分を除去した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析に供する。
・HPLC装置:TOSOH HPLCシステムLC8020 modelII
・カラム:TSKgel ODS80T sQA(4.6mm×150mm)
・カラム温度:40℃
・移動相A:水-アセトニトリル-トリフルオロ酢酸(90:10:0.05)
・移動相B:水-アセトニトリル-トリフルオロ酢酸(20:80:0.05)
・検出:UV275nm
・注入量:20μl
・流速:1ml/分
・グラジエントプログラム:
時間(分) %A %B
0 100 0
5 92 8
11 90 10
21 90 10
22 0 100
29 0 100
30 100 0
・標準物質:カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、及びエピガロカテキンガレート。
【0024】
<加熱殺菌済み容器詰め飲料>
本発明は、アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、かつ、MCTの量に対するアスコルビン酸の量の割合(アスコルビン酸/MCT)が0.0003以上0.1340以下である飲料を加熱殺菌及び容器詰めして保管した際に生じる劣化した米糠のような不快臭の問題を、上記飲料に特定量以上のカテキン類を含有させることにより、解決するものである。本発明の飲料は、加熱殺菌と容器詰めの両方が行われている。「加熱殺菌済み容器詰め飲料」の製造において、加熱殺菌と容器詰めを行う順番は特に限定されず、通常の容器詰め飲料を製造する手順にしたがって行えばよい。例えば、缶飲料とする場合には、調合液を缶に所定量充填し、レトルト殺菌を行ってもよいし、ペットボトルや紙パック、カップ、瓶飲料とする場合には、例えばUHT殺菌等を行ってから、所定量をホットパック充填或いは低温で無菌充填してもよい。
【0025】
本明細書において、「加熱殺菌」とは、85℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法をいう。より好ましくは、加熱殺菌は、120℃で4分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法である。「同等以上の効力」における温度と時間の計算方法については、「清涼飲料水の製造における衛生管理計画手引書 2018年11月 (一社)全国清涼飲料連合会」に記載されている。
【0026】
本発明の飲料を充填する容器の種類は特に限定されず、アルミ缶、スチール缶、PETボトル、ガラス瓶、紙容器、カップなど、通常用いられる容器を例示することができる。本発明の飲料は、これらの容器に充填された後、閉栓される。
【0027】
<その他>
その他、本発明の飲料には、本発明の効果を妨げない範囲で、通常の飲料と同様に、各種添加剤、例えば、甘味料などの調味料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、乳化剤、安定化剤、保存料、pH調整剤、品質安定剤などを配合してもよい。また、飲料の種類に応じて、茶抽出液、コーヒー抽出液、炭酸ガス、果汁、乳類、アルコールなどを配合してもよい。
【0028】
本発明の飲料の種類は、特に限定されない。例えば、茶飲料、コーヒー飲料、エナジードリンク、炭酸飲料、ココア飲料、果汁飲料、スポーツ飲料、乳飲料、アルコール飲料などを挙げることができる。これらの中では、茶飲料は特に好ましい態様である。「茶飲料」とは、茶葉の抽出物や穀類の抽出物を主成分として含有する飲料をいい、例えば、緑茶(煎茶、深蒸し茶、釜炒り茶、玉緑茶、手揉み茶、かぶせ茶、玉露、碾茶など)などの不発酵茶;烏龍茶(鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶など)などの半発酵茶;紅茶(ダージリン、アッサム、スリランカなど)などの発酵茶;麦茶、玄米茶、そば茶などの穀類茶をベースとする飲料が挙げられる。
【0029】
<方法>
本発明は、別の側面ではアスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、かつ、MCTの量に対するアスコルビン酸の量の割合(アスコルビン酸/MCT)が0.0003以上0.1340以下である加熱殺菌済み容器詰め飲料における保管時に発生する劣化した米糠のような不快臭を低減する方法である。また、本発明は、別の側面では、アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、MCTの量に対するアスコルビン酸の量の割合(アスコルビン酸/MCT)が0.0003以上0.1340以下であり、かつ、長期保管時に発生する劣化した米糠のような不快臭が低減された加熱殺菌済み容器詰め飲料の製造方法である。これらの方法は、具体的には、以下の工程を有する:
アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、かつ、MCTの量に対するアスコルビン酸の量の割合(アスコルビン酸/MCT)が0.0003以上0.1340以下である飲料を準備する工程、
飲料に、カテキン、カテキンガレート、エピカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレート、エピガロカテキン、またはエピガロカテキンガレートから選択される1以上のカテキン類を、上記カテキン類の合計量として1mg/100ml以上含有させる工程、次いで、
得られた飲料を加熱殺菌及び容器詰めする工程。
【実施例】
【0030】
以下、実験例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<加熱殺菌済み容器詰め飲料の製造1>
イオン交換水に、乳化剤としてカゼインナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル(SE-1670、三菱ケミカルフーズ社製)、及びグリセリン脂肪酸エステル(タイヨウ01、太陽化学社製)を、それぞれ1kgあたり、1g、0.8g、0.5gとなるように添加した。ここに、アスコルビン酸(L-アスコルビン酸、DSM製)、MCT(スコレー(登録商標)64G、日清オイリオ社製、脂肪酸組成:C8脂肪酸60質量%、C10脂肪酸40質量%)、及びカテキン類(サンフェノン(登録商標)EGCg-OP、太陽化学社製)を添加し、混合した。混合液を缶に充填し、閉栓した後、125℃、5分間の加熱殺菌処理を行い、加熱殺菌済み容器詰め飲料とした。各飲料を、常温でおよそ7か月間相当の保管となる加速保管試験に供した。保管試験後の各飲料のアスコルビン酸量、MCT量、アスコルビン酸(VC)/MCTの値、及びカテキン類量を表1に示す。保管試験後の各飲料を、以下の官能評価に供した。
【0031】
<官能評価>
上述の保管試験後の各飲料を、5℃に冷却してから開栓し、官能評価に供した。官能評価では、3人の十分に訓練された専門パネラーが各飲料をそれぞれ飲用し、以下の評価基準で「米糠が劣化した際に発生する不快な臭いに似た香味」について評価を行った。なお、「米糠が劣化した際に発生する不快な臭いに似た香味」とは、具体的には「油脂が劣化・酸化した際に発するのに類似した香味」であり、評価を行う前に、上記の評価軸について、パネラー間で評価点の基準のすり合わせを行った。パネラー3名の評価点の平均を表1に示す。評価は10点を満点(不快な臭い・香味を全く感じない)、1点を最低点(不快な臭い・香味が強すぎて飲用できない)として行った。なお、平均点が5.0点以上は飲料として許容できる。評価の結果パネラー間の評価点のばらつきはほとんど見られなかった。
【0032】
【0033】
表1の参考例1及び2の結果より、アスコルビン酸の量が6mg/100ml未満である場合には、MCTを含有し、加熱殺菌及び保管をしていても、劣化した米糠のような不快臭はあまり感じられず、飲料として許容できるものとなったことがわかる。また、参考例3の結果より、アスコルビン酸/MCTが0.0003以上0.1340以下の範囲外である場合には、6mg/100mlのアスコルビン酸と、MCTとを含有し、加熱殺菌及び保管をしていても、劣化した米糠のような不快臭はあまり感じられず、飲料として許容できるものとなったことがわかる。
【0034】
一方、比較例1~5の結果から、アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、かつ、アスコルビン酸/MCTが、0.0003以上0.1340以下である場合、加熱殺菌及び保管後に、劣化した米糠のような不快臭が顕著に発生したことがわかる。なお、比較例3及び4の各飲料を加熱殺菌前に飲用した際には、劣化した米糠のような不快臭は少なかった(評価点はそれぞれ8.3点及び7.5点)。また、比較例1~5の各飲料を加熱殺菌後に5℃に調整して飲用した際には、劣化した米糠のような不快臭は少なかった(評価点:7.5~8.8点)。このことから、劣化した米糠のような不快臭は、加熱殺菌及び保管により生じることがわかる。
【0035】
実施例1~8の結果から、アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、かつ、アスコルビン酸/MCTが、0.0003以上0.1340以下である場合であっても、カテキン類を1mg/100ml併存させることにより、加熱殺菌及び保管により生じる劣化した米糠のような不快臭が有意に低減し、飲料として許容できるもの(評価点:5.0以上)となることがわかる。
【0036】
<加熱殺菌済み容器詰め飲料の製造2>
イオン交換水に、乳化剤としてカゼインナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル(SE-1670、三菱ケミカルフーズ社製)、及びグリセリン脂肪酸エステル(タイヨウ01、太陽化学社製)を、それぞれ1kgあたり、1g、0.8g、0.5gとなるように添加した。ここに、カテキン類を含有する市販の紅茶パウダー2種と緑茶パウダー1種をそれぞれ溶解させ、アスコルビン酸(L-アスコルビン酸、DSM製)とMCT(スコレー(登録商標)64G、日清オイリオ社製、脂肪酸組成:C8脂肪酸60質量%、C10脂肪酸40質量%)とを添加し、紅茶飲料2種と緑茶飲料1種を調製した。得られた飲料を缶に充填し、閉栓した後、125℃、5分間の加熱殺菌処理を行い、加熱殺菌済み容器詰め飲料とした。各飲料を、常温でおよそ7か月間相当の保管となる加速保管試験に供した。保管試験後の各飲料のアスコルビン酸量、MCT量、アスコルビン酸(VC)/MCTの値、及び各種カテキンの量を表2に示す。表2中のアスコルビン酸量、MCT量、及び各種カテキンの量の単位は、「mg/100ml」である。保管試験後の各飲料を、上述の「製造1」と同様に、上述の条件の官能評価に供した。結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
表2の結果より、アスコルビン酸の量が6mg/100ml以上であり、アスコルビン酸/MCTが、0.0003以上0.1340以下であり、カテキン類の合計量が1mg/100ml以上である紅茶飲料及び緑茶飲料は、劣化した米糠のような不快臭が少なく、飲料として許容できるものとなったことがわかる。