(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】パラジウムめっき液及びめっき方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/44 20060101AFI20231222BHJP
【FI】
C23C18/44
(21)【出願番号】P 2020067193
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【氏名又は名称】北原 明彦
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【氏名又は名称】村上 浩之
(72)【発明者】
【氏名】金子 陽平
(72)【発明者】
【氏名】大神 雄平
(72)【発明者】
【氏名】田邉 克久
(72)【発明者】
【氏名】前田 剛志
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-124280(JP,A)
【文献】特開2010-261082(JP,A)
【文献】特開平11-269658(JP,A)
【文献】国際公開第2007/102644(WO,A1)
【文献】特開2003-332391(JP,A)
【文献】特開2013-023693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C18/00-18/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
析出性を低下させることなく、浴安定性を向上させたパラジウムめっき液であって、
水溶性パラジウム化合物と、
少なくともエチレンジアミン又はプロピレンジアミン骨格を有する化合物を含む1種類以上の錯化剤と、
ギ酸又はその塩と、
硫黄化合物とを含有し、
前記硫黄化合物の分子内にスルフィド基を2つ以上有することを特徴とするパラジウムめっき液。
【請求項2】
前記硫黄化合物は、下記の一般式で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のパラジウムめっき液。
【化1】
【請求項3】
前記硫黄化合物の濃度は、0.01mg/L~50mg/Lであることを特徴とする請求項1又は2に記載のパラジウムめっき液。
【請求項4】
前記錯化剤の濃度は、0.5g/L~25g/Lであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1に記載のパラジウムめっき液。
【請求項5】
前記錯化剤は、少なくとも下記の一般式で表されるエチレンジアミン又はプロピレンジアミンを有する化合物を含む1種類以上の化合物であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のパラジウムめっき液。
【化2】
【請求項6】
析出性を低下させることなく、浴安定性を向上させたパラジウムめっき液を用いためっき方法であって、
下地金属の表面にパラジウムめっきを施すパラジウムめっき工程を有し、
前記パラジウムめっきを施すために用いられるめっき液は、水溶性パラジウム塩と、少なくともエチレンジアミン又はプロピレンジアミン骨格を有する化合物を含む1種類以上の錯化剤と、ギ酸又はその塩と、硫黄化合物を含有し、
前記硫黄化合物の分子内にスルフィド基を2つ以上有することを特徴とするめっき方法。
【請求項7】
前記下地金属は、金、ニッケル、パラジウム、銅若しくはその合金、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項6に記載のめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、析出性を低下させることなく、浴安定性を向上させたパラジウムめっき液及びめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パラジウム皮膜は、良好な電気伝導度を示し、耐食性に優れることから電子部品、触媒、耐熱材料等に利用されている。表面処理の分野では、パラジウム皮膜は例えばニッケルの下地金属が熱履歴により金表面へ拡散することを防止することから、ワイヤーボンディング用途やはんだ付け用途に優れたENEPIG(銅上に無電解ニッケルめっき、無電解パラジウムめっき、置換金めっきの順にめっきする工法)工程中で重要な役割を果たしている。
【0003】
無電解パラジウムめっきに用いられるめっき液としては、次亜リン酸化合物、水素化ホウ素化合物、ギ酸化合物、ヒドラジン化合物が還元剤として用いられているが、従来からパラジウムめっき液の共通課題として、めっきの浴安定性が低く、浴寿命が短い。そこで安定性向上を目的としためっき浴が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、パラジウムめっき液について、還元剤としてギ酸、錯化剤としてアミノカルボン酸、浴安定剤として二価の硫黄化合物を使用した無電解パラジウムめっき液が記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、パラジウムめっき液について、還元剤として次亜リン酸ナトリウムや水素化ホウ素ナトリウム、錯化剤としてアンモニア又はアミン化合物、安定剤として二価の硫黄化合物を使用した無電解パラジウムめっき液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第39721582号公報
【文献】特開昭62-124280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、今後さらなる析出性を低下させることなく、浴安定性を向上させることが求められているところ、特許文献1ではアミノカルボン酸を錯化剤として使用しているが、それでは浴安定性が不十分である。また、特許文献2ではアンモニア又はアミン化合物を錯化剤として使用しているが、還元剤である次亜リン酸ナトリウム又は水素化ホウ素化合物を使用していることからリンやホウ素がパラジウム皮膜に共析するため、皮膜が硬く、脆くなる。
【0008】
そこで、本発明はパラジウムめっきの析出性を低下させることなく、パラジウムめっきの浴安定性を向上させたパラジウムめっき液及びめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るパラジウムめっき液は、析出性を低下させることなく、浴安定性を向上させたパラジウムめっき液であって、水溶性パラジウム化合物と、少なくともエチレンジアミン又はプロピレンジアミン骨格を有する化合物を含む1種類以上の錯化剤と、ギ酸又はその塩と、硫黄化合物とを含有し、前記硫黄化合物の分子内にスルフィド基を2つ以上有することを特徴とする。
【0010】
このようにすれば、パラジウムめっきの析出性を低下させることなく、パラジウムめっきの浴安定性を向上させることができる。
【0011】
このとき、本発明の一態様では、前記硫黄化合物は、下記の一般式で表される化合物としてもよい。
【化1】
【0012】
このようにすれば、硫黄化合物がより適切となり、さらにパラジウムめっきの析出性を低下させることなく、パラジウムめっきの浴安定性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記硫黄化合物の濃度は、0.01mg/L~50mg/Lとしてもよい。
【0014】
このようにすれば、硫黄化合物の濃度が適正となり、さらにパラジウムめっきの析出性を低下させることなく、パラジウムめっきの浴安定性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明の一態様では、前記錯化剤の濃度は、0.5g/L~25g/Lとしてもよい。
【0016】
このようにすれば、錯化剤の濃度が適正となり、さらにパラジウムめっきの析出性を低下させることなく、パラジウムめっきの浴安定性を向上させることができる。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記錯化剤は、少なくとも下記の一般式で表されるエチレンジアミン又はプロピレンジアミンを有する化合物を含む1種類以上の化合物であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載のパラジウムめっき液。
【化2】
【0018】
このようにすれば、エチレンジアミン又はプロピレンジアミン骨格を有する化合物が最適となり、さらにパラジウムめっきの析出性を低下させることなく、パラジウムめっきの浴安定性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の他の態様では、析出性を低下させることなく、浴安定性を向上させたパラジウムめっき液を用いためっき方法であって、下地金属の表面にパラジウムめっきを施すパラジウムめっき工程を有し、前記パラジウムめっきを施すために用いられるめっき液は、水溶性パラジウム塩と、少なくともエチレンジアミン又はプロピレンジアミン骨格を有する化合物を含む1種類以上の錯化剤と、ギ酸又はその塩と、硫黄化合物を含有し、前記硫黄化合物の分子内にスルフィド基を2つ以上有することを特徴とする。
【0020】
このようにすれば、パラジウムめっきの析出性を低下させることなく、パラジウムめっきの浴安定性を向上させることができる。
【0021】
前記下地金属は、金、ニッケル、パラジウム、銅若しくはその合金、又はそれらの組み合わせとしてもよい。
【0022】
このようにすれば、下地金属が金、ニッケル、パラジウム、銅若しくはその合金、又はそれらの組み合わせの金属表面にパラジウムめっきをすることができ、パラジウムめっきの析出性を低下させることなく、パラジウムめっきの浴安定性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、パラジウムめっきの析出性を低下させることなく、パラジウムめっきの浴安定性を向上させたパラジウムめっき液及びめっき方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の他の実施形態に係るめっき方法の概略を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0026】
[1、パラジウムめっき液]
本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき液は、析出性を低下させることなく、浴安定性を向上させることができる。本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき液は、水溶性パラジウム化合物と、少なくともエチレンジアミン又はプロピレンジアミン骨格を有する化合物を含む1種類以上の錯化剤と、ギ酸又はその塩と、硫黄化合物とを含有し、上記硫黄化合物の分子内にスルフィド基を2つ以上有することを特徴とする。
【0027】
ここでめっき液とは、めっきをするために用いられる液であって、各種金属及び添加剤が一つの容器に濃縮されたもの、各種金属及び添加剤が複数の容器に分かれ各容器に各種金属及び添加剤が濃縮されたもの、上記濃縮されたもの等を水で調整し槽に建浴したもの、及び各種金属及び添加剤を添加し調整し建浴したものをいう。
【0028】
本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき液は、例えば、ワイヤーボンディング用途やはんだ付け用途に優れたENEPIG工程中に用いられる金めっきをするためのパラジウムめっき液に好適に用いられる。また、無電解パラジウムめっき浴に好適に用いられる。そして、本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき液は、当該パラジウムめっき液に含まれる硫黄化合物によって、浴分解に対する安定性の向上が得られ、めっきの析出性を低下させることなく、浴安定性を向上させることができる。
【0029】
ここで、めっきの生産性を考慮した場合、析出速度は速いことが好ましいが、同時に浴分解に対するリスクが存在している。浴の安定性を向上させるには錯化剤濃度を高くすることや、錯化作用の強い化合物を用いることが知られているが、長期保存した場合、アミン化合物が変質してめっきの速度低下を引き起こす一因となる。
【0030】
そこで、本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき液は、少なくともエチレンジアミン又はプロピレンジアミン骨格を有する化合物を含む1種類以上の錯化剤と、分子内にスルフィド基を2つ以上有する硫黄化合物を組み合わせて使用することによって、めっき速度を低下させることなく浴安定性を格段に向上させることが可能となる。本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき液に用いられる錯化剤及び硫黄化合物は、少なくともエチレンジアミン又はプロピレンジアミン骨格を有する化合物を含むこと、スルフィド基を2つ以上有する硫黄化合物であることが重要である。また、スルフィド基を2つ以上有する硫黄化合物の濃度が低くても効果を発揮することも特徴の1つである。好ましい濃度は後述する。
【0031】
水溶性パラジウム化合物は、限定はされないが例えば、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩酸塩、テトラアンミンパラジウム硫酸塩等が用いられる。中でもテトラアンミンパラジウム塩酸塩、テトラアンミンパラジウム硫酸塩は水溶性に優れている。
【0032】
エチレンジアミン又はプロピレンジアミン骨格を有する化合物を含む錯化剤としては、少なくとも下記の一般式で表されるエチレンジアミン又はプロピレンジアミンを有する化合物を含む1種類以上の化合物であることが好ましい。限定はされないが例えば、エチレンジアミン4酢酸、エチレンジアミン等が用いられる。
【化3】
【0033】
硫黄化合物の分子内にスルフィド基を2つ以上有する化合物としては、下記の一般式で表される化合物であることが好ましい。硫黄化合物を添加する目的としては、浴を安定させる目的である。
【化4】
【0034】
硫黄化合物としては、限定はされないが例えば、(エチレンジチオ)二酢酸((Ethylenedithio)diacetic Acid)、3,3’-(エチレンジチオ)ジプロピオニトリル(3,3'-(Ethylenedithio)dipropionitrile)、3,6-ジチア-1、8-オクタンジオール(3,6-Dithia-1,8-octanediol)、メチレンビス(チオグリコール酸)(Methylenebis(thioglycolic Acid))、3,7-ジチア-1,9-ノナンジオール(3,7-Dithia-1,9-nonanediol)が用いられる。
【0035】
水溶性パラジウム塩の濃度は、0.1g/L~10g/Lであることが好ましく、0.2g/L~5g/L、さらには0.5g/L~2g/Lとすることが好ましい。
【0036】
錯化剤の濃度は、0.5g/L~25g/L、1g/L~25g/Lであることが好ましく、1g/L~10g/L、さらには3g/L~8g/Lとすることが好ましい。錯化剤の濃度が0.5g/L未満の場合は、浴の安定性が低下する場合がある。一方、錯化剤の濃度が25g/Lを超えると析出速度が低下する場合がある。
【0037】
ギ酸又はその塩の濃度は、1g/L~100g/Lであることが好ましく、5g/L~50g/L、さらには10g/L~40g/Lとすることが好ましい。
【0038】
硫黄化合物の濃度は、0.01mg/L~50mg/Lであることが好ましく、0.05mg/L~5mg/L、さらには0.05mg/L~2mg/Lとすることが好ましい。硫黄化合物の濃度が0.01mg/L未満の場合は、浴安定性が低下する場合がある。一方、硫黄化合物の濃度が50mg/Lを超えると析出速度が低下する場合がある。上述もしたが、硫黄化合物は低い濃度でも浴の安定性を十分に発揮できる。
【0039】
以上より、本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき液によれば、パラジウムめっきの析出性を低下させることなく、パラジウムめっきの浴安定性を向上させたパラジウムめっき液を提供することができる。
【0040】
[2、めっき方法]
次に本発明の他の実施形態に係るめっき方法について説明する。本発明の他の実施形態に係るめっき方法は、析出性を低下させることなく、浴安定性を向上させたパラジウムめっき液を用いためっき方法である。本発明の他の実施形態に係るめっき方法は、少なくとも、下地金属の表面にパラジウムめっきを施すパラジウムめっき工程S4を有する。
図1に示すように、パラジウムめっき工程S4の前に下地めっきを施し、下地金属を形成するための下地めっき工程S3と、下地めっき工程S3の前処理として、クリーナー工程S1、ソフトエッチング工程S2を有してもよい。また、パラジウムめっき工程S4の後に金めっき工程S5を有してもよい。以下それぞれの工程について説明する。
【0041】
[2-1、クリーナー工程S1]
クリーナー工程S1では、被めっき物表面の洗浄、濡れ性の向上等を行う。また、被めっき物表面の電位調整を行う。クリーナー工程S1で用いられるクリーナー液は、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、アミン化合物、硫酸などが添加される。なお、アミン化合物はクリーナー液がアルカリ性のときに添加されることが好ましい。なお、被めっき物としては例えば、プリント基板、BGA・ICなどのパッケージ基板、パワーモジュール基板、樹脂基板やセラミック基板等の回路が設けられた基板が用いられる。
【0042】
[2-2、ソフトエッチング工程S2]
ソフトエッチング工程S2では、被めっき物上の銅などの金属を溶解させ、金属表面の酸化物及びクリーナー工程S1で吸着した界面活性剤を除去する。ソフトエッチング工程S2で用いられる処理液は、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、硫酸などが添加される。また、ソフトエッチング工程S2の後に、被めっき物上の銅などの金属表面に残った酸化物を除去する酸洗工程(酸洗処理)を行ってもよい。
【0043】
[2-3、下地めっき工程S3]
下地めっき工程S3は、被めっき物に下地金属を形成するための下地めっきを施す。下地めっき工程S3は、電解又は無電解めっきとしてもよい。また、下地めっき工程S3に用いられるめっき液は、公知のものが用いられ、下地めっき液中のイオンを、次亜リン酸やジメチルアミンボラン等の還元剤や電解により還元し、下地金属を被めっき物に析出させる。下地金属は、金、ニッケル、銅、パラジウム(アクチベーター処理したものも含む)、銀若しくはその合金、又はそれらの組み合わせとしてもよい。さらに、下地金属は、金、ニッケル、銅、パラジウム(アクチベーター処理したものも含む)若しくはその合金、又はそれらの組み合わせであることが好ましい。限定はされないが例えば、下地金属が、銅と金、銅とニッケル、銅としてもよい。
【0044】
[2-4、パラジウムめっき工程S4]
パラジウムめっき工程S4は、下地めっき工程S3で施された下地金属の表面にパラジウムめっきを施す。パラジウムめっき工程S4は無電解パラジウムめっきが好ましい。また、パラジウムめっき工程S4に用いられるめっき液は、少なくともエチレンジアミン又はプロピレンジアミン骨格を有する化合物を含む1種類以上の錯化剤と、ギ酸又はその塩と、硫黄化合物を含有する。そして、硫黄化合物の分子内にスルフィド基を2つ以上有することを特徴とする。つまり、上述したパラジウムめっき液が用いられる。そして、パラジウムめっき液の特徴は上述した通りである。
【0045】
[2-5、金めっき工程S5]
金めっき工程S5は、パラジウムめっき工程S4で施されたパラジウムめっき表面に金めっきを施す。金めっき工程S5は無電解金めっきが好ましく、析出方法は、置換、置換還元、還元が用いられる。また、金めっき工程S5に用いられるめっき液は、公知のものが用いられ、水溶性シアン化金化合物、錯化剤等が用いられる。
【0046】
以上より、本発明の他の実施形態に係るめっき方法によれば、パラジウムめっきの析出性を低下させることなく、パラジウムめっきの浴安定性を向上させためっき方法を提供することができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明の一実施形態に係るパラジウムめっき液及び本発明の他の実施形態に係るめっき方法について実施例により詳しく説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
実施例1では、表1に示すように、クリーナー工程、湯洗工程(湯洗洗浄)、ソフトエッチング工程、酸洗工程、ニッケルめっき工程、パラジウムめっき工程を行った。ニッケルめっき及びパラジウムめっきは、無電解ニッケルめっき5μm、無電解パラジウムめっきを行った。なお、各工程間に水洗を行った。また、被めっき物として上村工業製BGA基板と、電極が銅からなるTEGウェハーを用いた。
【0049】
【0050】
そして、めっき析出速度とめっきの浴安定性を評価した。めっき析出速度(μm/5min)は、上村工業製BGA基板にて一般的な析出速度を確認し、電極が銅からなるTEGウェハーにて微小パット(100×100μmパット)の析出速度を確認した。また、蛍光X線式測定器(フィッシャー・インスタメンツ社製XDV-μ)を用いてパラジウムめっき皮膜の膜厚を測定した。浴安定性は、無電解パラジウムめっき工程にて上記基板及びウェハーにめっきを行った後、加速試験として、パラジウムめっき後の液温を80℃に昇温させ、浴分解の有無を目視で行った。
【0051】
なお、浴の分解は、浴中に金属パラジウムが浮遊又は沈殿しているかを目視で確認した。なお、金属パラジウムが浮遊又は沈殿しているということは、パラジウムイオンが還元された状態となり、めっき浴が不安定であることを示す。
【0052】
また、パラジウムめっき液に、水溶性パラジウム塩として塩化パラジウム(パラジウムとして2g/L)を、錯化剤としてエチレンジアミン4酢酸(10g/L)及びエチレンジアミン(5g/L)を、還元剤としてギ酸ナトリウム(20g/L)、下記の化学式5に示す硫黄化合物1として(エチレンジチオ)二酢酸((Ethylenedithio)diacetic Acid)(0.3mg/L)を添加した。また、パラジウムめっき液のpHは6.0、温度は60℃とした。
【0053】
[実施例2]
実施例2では、パラジウムめっき液に、水溶性パラジウム塩として硫酸パラジウム(パラジウムとして2g/L)を、下記の化学式5に示す硫黄化合物2として3,3’-(エチレンジチオ)ジプロピオニトリル(3,3'-(Ethylenedithio)dipropionitrile)(0.5mg/L)を添加した。それ以外は実施例1と同様とした。
【0054】
[実施例3]
実施例3では、パラジウムめっき液に、水溶性パラジウム塩としてテトラアンミンパラジウム塩酸塩(パラジウムとして2g/L)を、下記の化学式5に示す硫黄化合物3として3,6-ジチア-1、8-オクタンジオール(3,6-Dithia-1,8-octanediol)(0.3mg/L)を添加した。それ以外は実施例1と同様とした。
【0055】
[実施例4]
実施例4では、パラジウムめっき液に、水溶性パラジウム塩としてテトラアンミンパラジウム硫酸塩(パラジウムとして2g/L)を、下記の化学式5に示す硫黄化合物4としてメチレンビス(チオグリコール酸)(Methylenebis(thioglycolic Acid))(0.3mg/L)を添加した。それ以外は実施例1と同様とした。
【0056】
[実施例5]
実施例5では、パラジウムめっき液に、水溶性パラジウム塩として塩化パラジウム(パラジウムとして2g/L)を、下記の化学式5に示す硫黄化合物5として3,7-ジチア-1,9-ノナンジオール(3,7-Dithia-1,9-nonanediol)(0.5mg/L)を添加した。それ以外は実施例1と同様とした。
【0057】
[比較例1]
比較例1では、パラジウムめっき液に、水溶性パラジウム塩として塩化パラジウム(パラジウムとして2g/L)を添加し、硫黄化合物は添加しなかった。それ以外は実施例1と同様とした。
【0058】
[比較例2]
比較例2では、パラジウムめっき液に、錯化剤としてエチレンジアミン4酢酸(10g/L)及びL-アスパラギン酸(13.3g/L)を添加し、エチレンジアミンは添加しなかった。また、下記の化学式5に示す硫黄化合物6としてチオジグリコール酸(thiodiglycolic Acid)(30mg/L)を添加した。それ以外は実施例1と同様とした。
【0059】
[比較例3]
比較例3では、下記の化学式5に示す硫黄化合物6としてチオジグリコール酸(thiodiglycolic Acid)(1mg/L)を添加した。それ以外は実施例1と同様とした。
【0060】
[比較例4]
比較例4では、下記の化学式5に示す硫黄化合物6としてチオジグリコール酸(thiodiglycolic Acid)(5mg/L)を添加した。それ以外は実施例1と同様とした。
【0061】
[比較例5]
比較例5では、下記の化学式5に示す硫黄化合物6としてチオジグリコール酸(thiodiglycolic Acid)(30mg/L)を添加した。それ以外は実施例1と同様とした。
【0062】
以上の実施例1~5及び比較例1~5の条件と析出速度、浴安定性(〇:金属パラジウムの浮遊・析出無し、×:金属パラジウムの浮遊・析出有り)の結果を表2に示す。また、実施例1~5及び比較例1~5で添加された硫黄化合物を下記の化学式5に示す。なお、表2中の硫黄化合物1は、化学式5の1を示す(以下同様)。
【0063】
【0064】
結果として、実施例1~5に示されるパラジウムめっき液を用いた析出性は、BGA基板への析出速度が0.10μm/5min、TEGウェハー微小部への析出速度が0.08~0.10μm/5minであり良好であった。一方で、比較例2、4、5に示されるパラジウムめっき液を用いた析出性は、BGA基板への析出速度が0.10μm/5minであったが、TEGウェハー微小部への析出速度が0.00μm/5min(未析出)であり良好でなかった。これは、浴安定剤として添加したチオジグリコール酸が析出を阻害したためと考えられる。なお、比較例1、3に示されるパラジウムめっき液を用いた析出性は、BGA基板への析出速度が0.11μm/5min又は0.10μm/5min、TEGウェハー微小パットへの析出速度が0.10μm/5minと高いのは、浴安定剤としての硫黄化合物が添加されていない、又はその濃度が低いためであり、浴安定性が悪いためである。
【0065】
また、実施例に示されるパラジウムめっき液を用いた浴安定性は、実施例1~5に示されるパラジウムめっき液は、80℃での昇温加速試験において浴分解が見られなく、良好であった。一方で、比較例1~5に示されるパラジウムめっき液を用いた浴安定性は、浴中に金属パラジウムが浮遊又は沈殿し、浴分解が発生したため、良好ではなかった。これは、硫黄化合物の分子内にスルフィド基が2つ以上有していないことから浴安定性が低いためと考えられる。
【0066】
スルフィド基が1つの場合は、浴安定性の効果を得るために、スルフィド基を2つ有する化合物と比較して添加量を多くする必要がある。しかし、その添加量を多くすると、TEGウェハー微小パットへの析出性が低下するため、両者を両立させることは困難である。そこで、本実施形態に係るパラジウムめっき液及びめっき方法によれば、エチレンジアミン又はプロピレンジアミンを有する化合物を含む1種類以上の錯化剤と、分子内にスルフィド基を2つ以上有する硫黄化合物を含有するので、一般的な析出速度ばかりでなく微小パットへの析出速度を低下させることなく、かつ良好な浴安定性を向上させることができた。
【0067】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0068】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、パラジウムめっき液及びめっき方法の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0069】
S1 クリーナー工程 S2 ソフトエッチング工程 S3 下地めっき工程、S4 パラジウムめっき工程、S5 金めっき工程