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特許7407646路面舗装補修材、路面舗装補修材の製造方法及び路面舗装補修方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】路面舗装補修材、路面舗装補修材の製造方法及び路面舗装補修方法
(51)【国際特許分類】
   E01C 23/00 20060101AFI20231222BHJP
   E01C 7/18 20060101ALI20231222BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231222BHJP
   C08L 95/00 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
E01C23/00 A
E01C7/18
C08L101/00
C08L95/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020068481
(22)【出願日】2020-04-06
(65)【公開番号】P2021165470
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】593084638
【氏名又は名称】トーヨーマテラン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】林 鋭治
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 敬太
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-327835(JP,A)
【文献】特開2001-072860(JP,A)
【文献】特開昭61-277702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 21/00-23/24
E01C 1/00-17/00
C08L 101/00
C08L 95/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無数の造粒体からなる路面舗装補修材であって、
該造粒体は、核となる骨材と、該骨材を被覆する粘着材からなる粘着層と、から構成され、
該粘着層の表層が、鹸化された脂肪酸によって非粘着化されていることを特徴とする路面舗装補修材。
【請求項2】
前記粘着材が、樹脂組成物とアスファルトとを含んでなることを特徴とする請求項1に記載の路面舗装補修材。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、可塑剤が添加されたものであることを特徴とする請求項2に記載の路面舗装補修材。
【請求項4】
請求項1に記載の路面舗装補修材の製造方法であって、
前記骨材と前記粘着材とを撹拌し、該骨材に該粘着材を被覆させる被覆工程と、
該骨材に該粘着材が被覆してなる粘着層の表層に、脂肪酸をコーティングさせ、鹸化材を用いて該脂肪酸を鹸化する、鹸化工程と、
を含むことを特徴とする路面舗装補修材の製造方法。
【請求項5】
前記粘着材は、樹脂組成物とアスファルトとを含み、
前記骨材に、加熱溶解された該粘着材を被覆させることを特徴とする請求項4に記載の路面舗装補修材の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の路面舗装補修材を補修部位に充填することを特徴とする路面舗装補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルトやコンクリートなどで舗装された路面を補修する路面舗装補修材、路面舗装補修材の製造方法、路面舗装補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などが走行する路面には、アスファルトやコンクリートなどで舗装が施されている。舗装が施された路面は、ガス管や水道管などの新設や保全の工事、地震などによる地盤変形、自動車などの走行による振動、水が入ることによる凍結融解又は経年劣化などによって、ひび割れ、欠損又は陥没などの損傷が生じることがある。路面に損傷が生じた際に、路面は、路面舗装補修材によって、仮復旧や復旧がなされる。路面舗装補修材は、路面の受ける振動に耐えうる可撓性が必要とされ、アスファルトなど可撓性を有する結合材を主結合材とする路面舗装補修材が使用されてきた。しかし、アスファルトなど可撓性を有する結合材を主結合材とする路面舗装補修材は、使用(施工)するには、アスファルトなどを溶融させるため加熱する必要があり、簡便に施工することができるものではなかった。このため、常温でも施工することが可能な、路面舗装補修材が用いられるようになった。
【0003】
常温でも施工することが可能な、従来の路面舗装補修材として、特許文献1には、アスファルト、潤滑油、消石灰及び鉄鋼スラグ並びに骨材を含有する路面舗装補修材が記載されている。特許文献2には、アスファルト、石油潤滑油、脂肪酸及びセメント並びに骨材を含有する路面舗装補修材が記載されている。また、特許文献3には、アスファルト、乾性油及び反応促進剤並びに骨材を含有する路面舗装補修材が記載されている。これらは、主結合材としてのアスファルトに潤滑油などを含浸させることによって、施工可能な粘度の補修材とし、消石灰、セメント又は反応促進剤などの硬化促進剤及び水によって、補修材を硬化(高粘度化)させて、補修材の物理的強度を確保するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-327835号公報
【文献】特許第6458194号公報
【文献】特開2018-199779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の路面舗装補修材は、消石灰、セメント又は反応促進剤などの硬化促進剤が湿気(水分)と反応することにより、物理的強度を上げる、いわゆる湿気硬化型の補修材である。このため、従来の路面舗装補修材は、長期的な保存には適さないという課題があった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、路面が受ける振動に耐えうる可撓性を有しつつ、長期的な保存が可能な路面舗装補修材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る路面舗装補修材は、無数の造粒体からなる路面舗装補修材であって、
該造粒体は、核となる骨材と、該骨材を被覆する粘着材からなる粘着層と、から構成され、
該粘着層の表層が、非粘着化されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の路面舗装補修材によれば、骨材に、粘着材が被覆された粘着層を有しているため、施工箇所に、路面舗装補修材を押圧することによって、骨材の粘着層同士が粘着して一体化された補修層が形成される。補修層は、粘着材によって一体化されているため、施工箇所である路面が受ける振動に耐えうる可撓性を有している。また、粘着層の表層が、非粘着化されているため、押圧されない限り、路面舗装補修材は、粘着して一体化することがないため、長期的な保存が可能なものとすることができる。
【0009】
ここで、上記路面舗装補修材において、前記粘着材が、樹脂組成物とアスファルトとを含んでなるものとすることができる。
【0010】
これによれば、アスファルトが樹脂組成物の融点を下げることができるため、製造性に優れるものとすることができる。
【0011】
また、上記路面舗装補修材において、前記粘着層の前記表層が、鹸化された脂肪酸によって非粘着化されているものとすることができる。
【0012】
これによれば、路面舗装補修材は、長期的な保存が可能なものとすることができる。
【0013】
ここで、本発明に係る路面舗装補修材の製造方法は、上記の路面舗装補修材の製造方法であって、
前記骨材と前記粘着材とを撹拌し、該骨材に該粘着材を被覆させる被覆工程と、
該骨材に該粘着材が被覆してなる粘着層の表層に、脂肪酸をコーティングさせ、鹸化材を用いて該脂肪酸を鹸化する、鹸化工程と、
を含むものとすることができる。
【0014】
本発明の路面舗装補修材の製造方法によれば、路面舗装補修材は、骨材に、粘着材を被覆させた粘着層を形成し、粘着層の表層を脂肪酸と鹸化材によって鹸化させ、非粘着化させることができる。これにより路面舗装補修材は、可撓性を有しつつ、長期的な保存が可能なものとすることができる。
【0015】
ここで、上記路面舗装補修材の製造方法において、前記粘着材は、樹脂組成物とアスファルトとを含み、
前記骨材に、加熱溶解された該粘着材を被覆させるものとすることができる。
【0016】
これによれば、加熱溶解によって、樹脂組成物とアスファルトとを短時間で相溶化させることができるため、製造性に優れるものとすることができる。
【0017】
ここで、本発明に係る路面舗装補修方法は、上記の路面舗装補修材を補修部位に充填することを特徴とする。
【0018】
本発明の路面舗装補修方法によれば、簡便に路面舗装補修材を路面舗装に施工することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の路面舗装補修材によれば、路面が受ける振動に耐えうる可撓性を有しつつ、長期的な保存が可能なものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る路面舗装補修材の実施形態について説明する。本明細書および特許請求の範囲における各用語の意味は次の通りである。
【0021】
「%」(配合単位における)は、特に断らない限り、「質量%」を意味する。「メジアン粒径」は、JIS標準ふるい(JIS Z 8801-1:2019)で求めたメジアン径(d50)を意味する。
【0022】
実施形態の路面舗装補修材は、自動車又は航空機などが走行する路面、工場内の床などの補修に使用することができる。また、湿潤軟弱地盤の緊急補修、凸凹地盤の平滑化、歩行通路等の雑草の繁茂防止としても使用可能なものである。路面舗装補修材は、アスファルトやコンクリートなどで舗装された路面を補修する無数の造粒体からなり、補修部位に施工(充填)され、路面舗装補修材の無数の造粒体の粘着層を形成する粘着材同士がそれぞれ粘着することによって、一体化された路面舗装補修層を形成する。
【0023】
路面舗装補修材は、無数の造粒体からなり、核となる骨材と、骨材に粘着材が被覆させた粘着層と、を有し、粘着層の表層が、非粘着化されているものである。粘着層を形成する粘着材は、樹脂組成物とアスファルトとを含有し、粘着層の表層は、脂肪酸と鹸化材によって、鹸化された脂肪酸からなる非粘着層が形成される。なお、骨材に粘着材を被覆させるとは、骨材の全表面に粘着材を覆い被せることに限定されるものではなく、覆い被せる面積が骨材の表面積の50%以上であれば足りるものである。実施形態の路面舗装補修材として、路面舗装補修材同士を好適に融着させることができるためである。
【0024】
粘着材を形成する樹脂組成物(ゴム)は、天然ゴム、合成ゴムどちらであっても使用することができ、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、イソブチエン・イソプレンゴム(ブチルゴム)(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(ACM)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Si,Q)、メチルシリコーンゴム(MQ)、ビニル・メチルシリコーンゴム(VMQ)、フェニル・メチルシリコーンゴム(PMQ)、などを使用することができる。これらの中でも、耐候性及び耐久性に優れるエチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム及びブチルゴムを好んで使用することができ、特に、耐久性に優れるブチルゴムをより好んで使用することができる。なお、これら樹脂組成物(ゴム)は、粘着性を保持させる観点から、加硫されていない未加硫ゴムであることが好ましい。
【0025】
アスファルトは、路面舗装補修材の製造の際に、樹脂組成物を加熱して溶解させる際の樹脂組成物の融点を下げる融剤として使用されるものである。アスファルトとしては、天然アスファルト、JIS K 2207:2006に規定される石油アスファルト(ストレートアスファルト、ブローンアスファルト)などを使用することができる。これらの中でも、常温で個体であり取扱性に優れるブローンアスファルトを好んで使用することができる。樹脂組成物に対するアスファルトの添加量は、樹脂組成物100質量部に対して、10~60質量部であることが好ましい。好適に樹脂組成物の融点を下げることができるためである。アスファルトの添加量が樹脂組成物100質量部に対して10質量部未満である場合には、融剤としての効果が不十分で、樹脂組成物を加熱して溶解させるのにエネルギーを要し不経済となるおそれがある。一方、60質量部を超える場合には、粘着材が硬くなり、路面舗装補修材同士が融着せず、施工後の粘着層の強度が満たされず、車両の通行による耐摩耗性が満たされないおそれがある。より好ましくは、樹脂組成物に対するアスファルトの添加量は、樹脂組成物100質量部に対して、20~50質量部である。
【0026】
粘着材を形成する樹脂組成物には、可塑剤を添加することができる。可塑剤が添加されることによって、路面舗装補修材は、冬場などの低温環境下であっても粘着材の粘着性を発揮させることができ、無数の造粒体の粘着材からなる粘着層同士を粘着させて補修層を形成することができる。また、路面舗装補修材の製造の際に、融剤としても作用し、樹脂組成物の融点を下げることができる。可塑剤として、粘着材として使用する樹脂組成物の種類に適した可塑剤を使用することができるが、汎用の可塑剤として、パラフィン系可塑剤、ナフテン系可塑剤、脂肪族炭化水素系可塑剤、芳香族炭化水死系可塑剤などを使用することができる。これらは市販品を使用することができる。樹脂組成物に対する可塑剤の添加量は、樹脂組成物100質量部に対して、5~60質量部であることが好ましい。低温環境下であっても粘着材の粘着性を発揮させることができる、路面舗装補修材の製造の際に、融点を下げることができるためである。可塑剤の添加量が樹脂組成物100質量部に対して5質量部未満である場合には、可塑化の効果満たされず、低温環境下において、粘着材からなる粘着層がそれぞれ粘着しないおそれがある。また、路面舗装補修材の製造の際に、融剤としての作用が発現されないおそれがある。一方、60質量部を超える場合には、可塑剤の添加量が過剰なものとなり、路面舗装補修材を補修部位に充填(施工)し、路面舗装補修材の補修層を形成させたときに、補修層の可撓性が顕在化し、車両の通行により変形し、耐変形性が満たされないおそれがある。より好ましくは、樹脂組成物に対する可塑剤の添加量は、樹脂組成物100質量部に対して、10~40質量部である。
【0027】
脂肪酸は、骨材に被覆した粘着材の表面をコーティングし、次に記載する鹸化材によってカルボキシ基が鹸化されることにより、粘着材の表層を非粘着化させる非粘着層を形成する酸である。脂肪酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸に係らず使用することができる。飽和脂肪酸として、ブチル酸(4:0)、バレリアン酸(5:0)、カプロン酸(6:0)、ヘプチル酸(7:0)、カプリル酸(8:0)、ペラルゴン酸(9:0)、カプリン酸(10:0)、ラウリン酸(12:0)、ミリスチン酸(14:0)、ペンタデシル酸(15:0)、パルミチン酸(16:0)、マルガリン酸(17:0)、ステアリン酸(18:0)、アラキジン酸(20:0)、ベヘン酸(22:0)、リグノセリン酸(24:0)などを使用することができる。不飽和脂肪酸として、パルミトレイン酸(16:1(n-7))、オレイン酸(18:1(n-9))、バクセン酸(18:1(n-7))、リノール酸(18:2(n-6))、(9,12,15)-リノレン酸(18:3(n-3))、(6,9,12)-リノレン酸(18:3(n-6))、エレオステアリン酸(18:3(n-5))、8,11-エイコサジエン酸(20:2(n-9))、5,8,11-エイコサトリエン酸(20:3(n-9))、5,8,11-エイコサテトラエン酸(20:4(n-6))などを使用することができる。なお、脂肪酸の名称の後に続く括弧の記載は、脂肪酸の数値表現(略式名)である。より好ましくは、非粘着層の安定性に優れる、飽和脂肪酸の、カプロン酸(6:0)、ヘプチル酸(7:0)、カプリル酸(8:0)、ペラルゴン酸(9:0)、カプリン酸(10:0)、ラウリン酸(12:0)、不飽和脂肪酸の、パルミトレイン酸(16:1(n-7))、オレイン酸(18:1(n-9))、バクセン酸(18:1(n-7))、リノール酸(18:2(n-6))、(9,12,15)-リノレン酸(18:3(n-3))、(6,9,12)-リノレン酸(18:3(n-6))、エレオステアリン酸(18:3(n-5))、を使用することができる。さらに好ましくは、飽和脂肪酸の、ヘプチル酸(7:0)、カプリル酸(8:0)、ペラルゴン酸(9:0)、不飽和脂肪酸の、パルミトレイン酸(16:1(n-7))、オレイン酸(18:1(n-9))、バクセン酸(18:1(n-7))、を使用することができる。
【0028】
樹脂組成物に対する脂肪酸の添加量は、樹脂組成物100質量部に対して、3~30質量部であることが好ましい。路面舗装補修材の粘着材からなる粘着層の表面を好適に覆うことができるためである。脂肪酸の添加量が樹脂組成物100質量部に対して3質量部未満である場合には、路面舗装補修材の粘着材からなる粘着層の表面に対して脂肪酸の量が不足し、粘着層の表面全体について覆うことができないおそれがある。一方、30質量部を超える場合には、路面舗装補修材の粘着材からなる粘着層の表面に対して脂肪酸の量が過剰な量となり、不経済となるおそれがある。より好ましくは、樹脂組成物に対する脂肪酸の添加量は、樹脂組成物100質量部に対して、8~20質量部である。
【0029】
鹸化材とは、骨材に被覆した粘着材の表面を覆った脂肪酸のカルボキシ基を鹸化させて、粘着材の表層を非粘着化させるアルカリを付与するアルカリ付与材である。粘着材の表層が非粘着化されることにより、路面舗装補修材は、押圧されない限り、路面舗装補修材は、粘着して一体化することがないため、長期的な保存が可能なものとすることができ、また、保管した際のケーキング(材料が引っ付き固まる)を防ぐことができる。
【0030】
鹸化材として、ケイ酸リチウム化合物、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酸化ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、ケイ酸カリウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、セメント又はこれらの混合物を使用することができる。なお、セメントは、ポルトランドセメント(JIS R 5210:2019)に規定される、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及び耐硫酸塩ポルトランドセメント、高炉セメント(JIS R 5211:2019)、フライアッシュセメント(JIS R 5213:2019)、エコセメント(JIS R 5214:2019)、アルミナセメント(JIS R 2521:1995)などを使用することができる。
【0031】
樹脂組成物に対する鹸化材の添加量は、樹脂組成物100質量部に対して、30~60質量部であることが好ましい。路面舗装補修材の粘着材からなる粘着層の表面を好適に非粘着化することができるためである。鹸化材の添加量が樹脂組成物100質量部に対して30質量部未満である場合には、路面舗装補修材の粘着材からなる粘着層の表面に対して鹸化材の量が不足し、粘着層の表面全体について非粘着化することができないおそれがあり、路面舗装補修材の保管の際に、ケーキングが生じるおそれがある。一方、60質量部を超える場合には、路面舗装補修材の粘着材からなる粘着層の表面に対して鹸化材の量が過剰な量となり、不経済となるおそれがある。より好ましくは、樹脂組成物に対する鹸化材の添加量は、樹脂組成物100質量部に対して、30~50質量部である。
【0032】
骨材は、路面舗装補修材の核となる小体であり、粘着材が被覆されて路面舗装補修材の造粒体が形成される。骨材として、砕石、砕砂、珪砂、寒水石(石灰石粉砕物)、セルベン(衛生陶器粉砕物)及びこれらの組み合わせなどを使用することができる。これらの中でも、砕石、砕砂、珪砂、寒水石が、安価で且つ入手容易なため、好んで使用することができる。
【0033】
骨材の粒子径(メジアン粒径)は、0.5~10mmが好ましい。路面舗装補修の作業性に優れ、路面舗装補修体の強度に優れるからである。骨材の粒子径が0.5mm未満の場合には、路面舗装補修体の強度が不十分となるおそれがある。一方、10mmを超えると、路面舗装補修の作業性が劣るおそれがある。より好ましくは、1~7mmである。
【0034】
粘着材に対する骨材の配合量は、粘着材100質量部に対して、700~2200質量部であることが好ましい。路面舗装補修材の粘着性を好適に発揮することができるためである。骨材の添加量が粘着材100質量部に対して700質量部未満である場合には、骨材に対して粘着材が過剰な量となり、路面舗装補修材から形成された補修層の可撓性が顕在化し、車両の通行により変形し、耐変形性が満たされないおそれがある。一方、2200質量部を超える場合には、骨材に対して粘着材が不足し、路面舗装補修材同士が融着せず、施工後の補修層の強度が満たされず、車両の通行による耐摩耗性が劣るおそれがある。より好ましくは、粘着材に対する骨材の添加量は、粘着材100質量部に対して、900~1500質量部である。なお、上記から、骨材に対する粘着材の割合(粘着材/骨材)の好ましい範囲は、4.5~14.3%であり、より好ましい範囲は、6.7~11.1%である。
【0035】
路面舗装補修材には、上記した原材料以外にも目的に応じて各種の添加剤を含有させることができる。各種の添加剤として、路面舗装補修材のカビ等の発生を防ぐ防藻・防カビ剤、錆の発生を防ぐ防錆剤、路面舗装補修材に生じた空隙を埋める微粉末としてのフライアッシュ、シリカヒューム、高炉スラグ、石灰石、珪砂、タルクなど、路面舗装補修材に色を加える着色剤又は顔料、などを必要に応じて使用することができる。
【0036】
次に、実施形態の路面舗装補修材の製造方法について説明する。実施形態の路面舗装補修材は、骨材に粘着材を被覆させて粘着層を形成させる被覆工程、被覆工程の後に行われる、粘着層の表層に脂肪酸をコーティングさせ脂肪酸のカルボキシ基を鹸化材によって鹸化させる鹸化工程、によって製造される。
【0037】
最初の工程となる被覆工程は、骨材に粘着材を被覆させて粘着層を形成させる工程である。粘着材は、原材料として、樹脂組成物と、アスファルトと、可塑剤などの添加剤とが加熱溶解され、混合物となることによって粘着材となる。粘着材は、加熱された状態で骨材と撹拌され、骨材を被覆することによって粘着層を形成する。
【0038】
粘着材の原材料の加熱溶解する際の溶解炉の設定温度は、200~300℃であることが好ましい。効率良く粘着材の原材料を加熱溶解させることができるためである。溶解炉の設定温度が200℃未満の場合には、溶解に時間を要し、製造効率が劣るおそれがある。一方、300℃を超える場合には、樹脂組成物が変質して、粘着材が変質するおそれがある。より好ましくは、加熱溶解の際の溶解炉の設定温度は、200~250℃であり、さらに好ましくは、200~230℃である。
【0039】
加熱溶解された粘着材は、骨材と共に混合撹拌されることにより、骨材を被覆し、粘着層が形成される。撹拌には、パドルミキサーを使用し、撹拌が継続されることによって、粘着材と骨材は冷却される。撹拌は、次の鹸化工程まで継続させる。
【0040】
鹸化工程は、骨材に粘着材が被覆した粘着層の表層に、脂肪酸をコーティングさせ、脂肪酸のカルボキシ基を鹸化材によって鹸化させる工程である。
【0041】
鹸化工程は、先ず、粘着層が形成された骨材に、撹拌しながら脂肪酸を散布して、粘着層の表層に、脂肪酸をコーティングさせる。粘着層の表層に散布された脂肪酸は、炭化水素基側が粘着材である粘着層に相溶し、カルボキシ基側が粘着層の表層側に配向した状態で、粘着層の表層をコーティングする。なお、脂肪酸を散布させる際の骨材(及び粘着層)は、60℃以下に冷却する。脂肪酸の熱分解を防止するためである。
【0042】
次に、脂肪酸にコーティングされた粘着層に、続けて撹拌しながら鹸化材を散布して、脂肪酸のカルボキシ基を鹸化させる。脂肪酸のカルボキシ基が鹸化されることによって、粘着材からなる粘着層の表層は、粘着性を失った非粘着層が形成される。
【0043】
路面舗装補修材の表層が粘着性を失っているため、路面舗装補修材は、押圧されない限り、それぞれが粘着して一体化することがない。一方、押圧されて、非粘着層に亀裂が生じた際には、路面舗装補修材の表面に粘着材が現れ、路面舗装補修材は、それぞれが粘着して一体化することができる状態となる。
【0044】
路面舗装補修材は、表層に非粘着層が形成されることによって、完成する。路面舗装補修材は、袋体などに梱包され、路面舗装補修材を施工する施工業者などに出荷される。出荷後の路面舗装補修材は、押圧されない限り、粘着して一体化(ケーキング)することがないため、長期的な保存が可能なものとなる。
【0045】
次に、実施形態の路面舗装補修方法について説明する。実施形態の路面舗装補修方法は、路面に生じた、ひび割れ、欠損、陥没などの損傷部位に、実施形態の路面舗装補修材を充填し、作業者の足や転圧機等で充填された路面舗装補修材を押圧するものである。
【0046】
路面舗装補修材が作業者の足や転圧機等で押圧されることにより、非粘着層に亀裂が生じ、路面舗装補修材の表面に粘着材が現れ、路面舗装補修材は、それぞれが粘着して、損傷部位の形状(埋める形状)で一体化し、損傷部位が補修された路面舗装補修層が形成される。形成された路面舗装補修層は、粘着材によって一体化されているため、施工箇所である路面が受ける振動に耐えうる可撓性を有している。
【0047】
なお、実施形態の路面舗装補修材は、その構成を以下のような形態に変更しても実施することができる。
【0048】
実施形態の路面舗装補修材では、粘着層の表層を鹸化された脂肪酸によって非粘着化させたが、非粘着化は、例えば75μmをパスする(JIS Z 8801-1)珪砂粉や石灰石粉などの微粒子を粘着層の表層にコーティングさせることによっても非粘着化させることができる。この場合、微粒子をコーティングさせる際の骨材及び粘着層の温度は、高温(例えば100℃以上)であることが好ましい。粘着層を形成する粘着材の粘着性が高く、微粒子が粘着層の表層にコーティングしやすくなるためである。
【0049】
また、非粘着化は、樹脂塗料を粘着層の表層にコーティングさせることによっても非粘着化させることができる。この場合、樹脂塗料のTg(ガラス転移温度)は、80℃以上であるものが好ましい。ケーキングを好適に防ぐことができるためである。Tgが80℃以上の樹脂塗料として、塩化ビニル系樹脂塗料(Tg:87℃)、メタクリル酸メチル系樹脂塗料(Tg:90℃)、スチレン系樹脂塗料(Tg:100℃)などを使用することができる。
【実施例
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、試験例1~48が実施例であり、試験例49が比較例である。路面舗装補修材の組成等と性能評価結果を表1~表4にそれぞれ記載する。路面舗装補修材の組成は、質量比で記載した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
表中の原材料の名称には記号を用いた。使用した記号を括弧書きに一般名称又は原材料名を添えて以下に記載する。
【0055】
砕石(砕石7号(粒子径(メジアン粒径:5mm)))
砕砂(砕砂(粒子径(メジアン粒径:2mm)))
BT(ブチルゴム系樹脂組成物(未加硫))
SB(スチレンブタジエンゴム系樹脂組成物(未加硫))
EP(エチレンプロピレンゴム系樹脂組成物(未加硫))
BRA(ブローンアスファルト10-20)
BRB(ブローンアスファルト30-40)
KA(パラフィン系可塑剤)
KB(ナフテン系可塑剤)
KC(芳香族炭化水素系可塑剤)
SO(脂肪酸(オレイン酸))
SK(脂肪酸(カプリル酸))
ANC(鹸化材(普通ポルトランドセメント))
ABC(鹸化材(高炉セメントB種))
TA(その他添加剤(顔料、微粉末フライアッシュなど))
これらには、市販品を用いた。
【0056】
これら試験例の路面舗装補修材について、以下に記載する評価項目の試験を行った。なお、以下に記載する評価項目の試験における評価の×は、評価項目の一部が満たされないだけのものであって、実施例から外れることを意味するものではない。
【0057】
(1)溶解時間
溶解時間は、製造時の効率評価として、粘着材原材料(樹脂組成物、アスファルト、可塑剤)が溶解して粘着材になるまでに要する時間である。測定は、容量750Lのゴム溶解炉ミキサを用い、粘着材原材料500kgが不均一なく溶解するまでに要した時間を測定した。そして、溶解時間が、3時間以内であるものを○、3時間を超えて5時間以内であるものを△、5時間を超えるものを×、として評価した。
【0058】
(2)混練時間
混練時間は、製造時の効率評価として、粘着材が骨材(砕石、砕砂)を被覆するまでに要する時間である。測定は、パドルミキサ(300L水平2軸強制練りミキサ)を用い、200kgの骨材に対して規定量の粘着材を用い、均一に被覆することができるまでに要した時間を測定した。そして、混練時間が、1分以内であるものを○、1分を超えて3分以内であるものを△、3分を超えるものを×、として評価した。
【0059】
(3)耐摩耗性
耐摩耗性は、製品の性能評価として、施工した路面舗装補修材からなる補修層の自動車等車両の通行に対する耐摩耗性である。試験例の路面舗装補修材の施工は、アスファルト舗装体に直径60cm深さ5cmの凹み部分を形成し、試験例の路面舗装補修材を補修部位に、施工面の高さがアスファルト舗装体から1cm程度盛り上がるように充填し、体重60kgの成人男性が足で200回押圧することによって行った。なお、試験例49の他社品については、その標準施工に準じて行った。試験は、愛知県春日井市明知町内の一般道路で90日間、自動車等車両を自然通行させることによって行った。評価は、定点から試験前後をそれぞれ撮影した画像から摩耗減量を測定した。そして、摩耗減量が、施工した路面舗装補修材の量の10%以内であるものを○、10%を超えて30%以内であるものを△、30%を超えるものを×、として評価した。
【0060】
(4)耐変形性
耐変形性は、製品の性能評価として、施工した路面舗装補修材からなる補修層の自動車等車両の通行に対する耐変形性である。試験例の路面舗装補修材の施工及び試験は、上記の耐摩耗性と同じである。評価は、定点から試験前後をそれぞれ撮影した画像から減量した高さと形状を測定した。そして、減量した高さと形状が、3mm以内であり、かつ、大きな変形異常がみられないものを○、3mmを超えて5mm以内であり、かつ、大きな変形異常がみられないものを△、5mmを超える、又は、大きな変形異常がみられるものを×、として評価した。
【0061】
(5)長期保管後のケーキング
長期保管後のケーキングは、製品の保管上の評価として、保管した際のケーキング(材料が引っ付き固まる)の状態である。測定は、試験例の路面舗装補修材を梱包体に梱包された状態で屋根付き倉庫に1年間自然保管し、梱包体を開封して、その状態を確認した。そして、路面舗装補修材に、材料同士が引っ付き固まった固まりの発生はなく、施工するにあたり問題がないものを○、固まりの発生があるものの簡単に崩せるものであり、施工するにあたり問題がないものを△、容易に崩すことができない固まりの発生があるものを×、として評価した。
【0062】
(6)開封後のケーキング
開封後のケーキングは、製品の保管上の評価として、開封した路面舗装補修材のケーキングの状態である。測定は、路面舗装補修材の梱包体を開封し、路面舗装補修材を梱包体が開封された状態で1日静置し、その後、路面舗装補修材を梱包体で再度梱包し、屋根付き倉庫に90日間自然保管し、梱包体を開封して、その状態を確認した。そして、路面舗装補修材に、材料同士が引っ付き固まった固まりの発生はなく、施工するにあたり問題がないものを○、固まりの発生があるものの簡単に崩せるものであり、施工するにあたり問題がないものを△、容易に崩すことができない固まりの発生があるものを×、として評価した。
【0063】
(7)材料コスト
材料コストは、路面舗装補修材の原材料コストを相対比較した。そして、性能に対して安価であるものを○、同等価であるものを△、高価であるものを×として評価した。
【0064】
(試験例1~試験例24)
試験例1~試験例24は、好ましい範囲となる試験例であり、試験例1がベストモードとなる試験例である。これらは、ほぼ全ての評価項目において優れた評価が得られた。
【0065】
(試験例25~試験例27)
試験例25~試験例27は、樹脂組成物に対してアスファルトの含有量がやや少ない(樹脂組成物100質量部に対して10質量部未満)試験例である。アスファルトの含有量がやや少ないため、溶解時間に5時間以上を要し、製造効率がやや劣るものであった。
【0066】
(試験例28~試験例30)
試験例28~試験例30は、樹脂組成物に対してアスファルトの含有量がやや多い(樹脂組成物100質量部に対して60質量部を超える)試験例である。アスファルトの含有量がやや多いため、耐摩耗性試験において、摩耗減量が30%を超え、性能評価がやや劣るものであった。また、材料コストが性能に対して高価であった。
【0067】
(試験例31~試験例33)
試験例31~試験例33は、樹脂組成物に対して可塑剤の含有量がやや少ない(樹脂組成物100質量部に対して5質量部未満)試験例である。可塑剤の含有量がやや少ないため、溶解時間に5時間以上を要し、また、混練時間が3分を超え、製造効率がやや劣るものであった。
【0068】
(試験例34~試験例36)
試験例34~試験例36は、樹脂組成物に対して可塑剤の含有量がやや多い(樹脂組成物100質量部に対して60質量部を超える)試験例である。可塑剤の含有量がやや多いため、耐変形性試験において、大きな変形異常がみられ、性能評価がやや劣るものであった。また、材料コストが性能に対して高価であった。
【0069】
(試験例37~試験例39)
試験例37~試験例39は、樹脂組成物に対して脂肪酸及び鹸化材の含有量がやや少ない(樹脂組成物100質量部に対して、脂肪酸は3質量部未満、鹸化材は30質量部未満)試験例である。脂肪酸及び鹸化材の含有量がやや少ないため、長期保管後のケーキング及び開封後のケーキング試験において、それぞれ、容易に崩すことができない固まりの発生が確認され、性能評価がやや劣るものであった。
【0070】
(試験例40~試験例42)
試験例40~試験例42は、樹脂組成物に対して脂肪酸及び鹸化材の含有量がやや多い(樹脂組成物100質量部に対して、脂肪酸は30質量部を超える、鹸化材は60質量部を超える)試験例である。製造効率及び性能評価に問題はないものの、脂肪酸及び鹸化材の含有量がやや多く過剰であるため、材料コストが性能に対して高価であった。
【0071】
(試験例43~試験例45)
試験例43~試験例45は、骨材に対する粘着材の割合がやや多い(粘着材/骨材が14.3%を超える)試験例である。粘着材の割合がやや多いため、耐変形性試験において、大きな変形異常がみられ、性能評価がやや劣るものであった。また、材料コストが性能に対して高価であった。
【0072】
(試験例46~試験例48)
試験例46~試験例48は、骨材に対する粘着材の割合がやや少ない(粘着材/骨材が4.5%未満)試験例である。粘着材の割合がやや少ないため、混練時間が3分を超え、製造効率がやや劣るものであった。また、耐摩耗性試験において、摩耗減量が30%を超え、性能評価がやや劣るものであった。
【0073】
(試験例49)
試験例49は、他社品の湿気硬化型補修材を用いた性能評価を行った。他社品の湿気硬化型補修材は、空気中の湿気により、長期保管後のケーキング及び開封後のケーキング試験において、それぞれ、崩すことができない固まりの発生が確認され、性能評価が劣るものであった。