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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】3-アセトキシスチレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/08 20060101AFI20231222BHJP
   C07C 69/017 20060101ALI20231222BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231222BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/017 B
C07B61/00 300
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020074556
(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公開番号】P2021172588
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】和田 佳奈子
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-178227(JP,A)
【文献】特開平10-316618(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108285409(CN,A)
【文献】特開2002-053515(JP,A)
【文献】特開平07-181691(JP,A)
【文献】特開平08-157410(JP,A)
【文献】特表2003-509503(JP,A)
【文献】特開2004-331515(JP,A)
【文献】特開2019-210274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のi)~iii)の工程を含む3-アセトキシスチレンの製造方法
i) 下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Rは、1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基または2-テトラヒドロピラニル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。)で表される芳香族ハロゲン化合物とマグネシウムとを反応させる工程
ii) i)で得られた反応生成物と臭化ビニルまたは塩化ビニルとを、ニッケル触媒の存在下で反応させて、一般式(2)
【化2】
(一般式(2)中、Rは1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基または2-テトラヒドロピラニル基を示す。)で表されるオキシスチレン誘導体を得る工程
iii) ii)で得られたオキシスチレン誘導体を、スルホン酸化合物の存在下で、無水酢酸と反応させる工程。
【請求項2】
スルホン酸化合物が、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸およびトリフルオロメタンスルホン酸からなる群から選ばれる化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトレジスト材料として有用であることが知られているヒドロキシスチレンポリマーの中間原料として有用な化合物である3-アセトキシスチレンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
p-ヒドロキシスチレンなどのヒドロキシスチレン誘導体は、多種多様な工業用途において潜在的な有用性を有する芳香族化合物である。
特に、近年の半導体デバイスの微細化と高集積化を背景として、高解像度と高感度を有するフォトレジスト材料が要望される中、光照射によって容易に脱離する保護基にて水酸基を保護したポリヒドロキシスチレン類が有用であることが知られており、ポリヒドロキシスチレン類の原料であるヒドロキシスチレン誘導体、例えば、分子中の水酸基をアセトキシ基、エトキシエトキシ基、テトラヒドロピラニル基などで保護して得られる化合物は、レジスト材料の原料として非常に有用な化合物である。
ヒドロキシスチレン誘導体の水酸基をアセトキシ基で保護したアセトキシスチレンの製造方法は、従来、種々のものが知られている。
【0003】
例えば、3-アセトキシスチレンについては、ヒドロキシベンズアルデヒドをアセチル化してアセトキシベンズアルデヒドとし、有機溶媒中、亜鉛金属とトリメチルクロロシランや塩化アセチルのような活性な塩化物を触媒としてジブロモメタンを反応させ、アセトキシスチレンを得る方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
また、1-(3-アセトキシフェニル)エチルカルボキシレートを鉱酸、酸性イオン交換樹脂、有機酸、無機化合物等の酸性触媒と反応させ、生成物であるアセトキシスチレンを連続蒸留により留出させる方法が開示されている(例えば特許文献2参照)
更に、メタ-第三級ブトキシスチレンを出発原料として、ぎ酸、酢酸、プロピオン酸、しゅう酸等の脂肪族カルボン酸の触媒存在下に、無水酢酸等のアセチル化剤と反応させる方法が開示されている(例えば特許文献3参照)。
3-アセトキシブロモベンゼンを出発原料に、パラジウム触媒とアミンなどの塩基の共存下、エチレン雰囲気の高圧反応によって3-アセトキシスチレンを得る方法が開示されている(例えば特許文献4参照)。
しかしながら、上記各方法で目的物を得るためには、毒性の高いハロゲン化アルキルや高引火性のガスを使用したり、特殊反応を行うための設備や副生ガスの捕集、無害化工程を必要としたりする。このためこれらの方法は安全性および経済性に優れた簡便な製法として満足できるものではなく、さらに改善された方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-157410号公報
【文献】特開2004-331515号公報
【文献】特開平10-316618号公報
【文献】特開2019-210274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来の技術の持つ欠点を解決した、工業的に容易に入手可能な原料が使用可能であり、有害な反応試薬を使用したり、特殊な設備を必要としたりしない、新しい3-アセトキシスチレンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題の解決を図るべく、3-アセトキシスチレンの製造方法について詳細に検討した。
その結果、工業的に容易に入手可能な原料を使用可能で、有害な反応試薬を使用したり、特殊な設備を必要としたりせず、高純度の3-アセトキシスチレンを製造する条件を見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
即ち、本発明の3-アセトキシスチレンの製造方法は下記の構成である。
[1] 次のi)~iii)の工程を含む3-アセトキシスチレンの製造方法。
i) 下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Rは、1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基または2-テトラヒドロピラニル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。)で表される芳香族ハロゲン化合物とマグネシウムとを反応させる工程
ii) i)で得られた反応生成物と臭化ビニルまたは塩化ビニルとを、ニッケル触媒の存在下で反応させて、一般式(2)
【化2】
(一般式(2)中、Rは1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基または2-テトラヒドロピラニル基を示す。)で表されるオキシスチレン誘導体を得る工程
iii) ii)で得られたオキシスチレン誘導体を、スルホン酸化合物の存在下で、無水酢酸と反応させる工程
【0008】
[2] [1]に記載のスルホン酸化合物が、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸およびトリフルオロメタンスルホン酸からなる群から選ばれる化合物である、3-アセトキシスチレン製造方法。
【発明の効果】
【0009】
上記の通り、本発明によれば、工業的に容易に入手可能な原料が使用可能であり、有害な反応試薬を使用したり、特殊な設備を必要としたりしない工程により、高純度の3-アセトキシスチレンを製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の3-アセトキシスチレンの製造方法は次の通りである。
下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Rは、1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基、2-テトラヒドロピラニル基を示し、Xは塩素原子または臭素原子またはヨウ素原子を示す。)で表される芳香族ハロゲン化合物とマグネシウムを反応させ、
次いで得られた反応生成物と臭化ビニルまたは塩化ビニルとをニッケル触媒の存在下で反応させることで得られる、一般式(2)
【化2】
(一般式(2)中のRは1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基または2-テトラヒドロピラニル基を示す。)で表されるオキシスチレン誘導体を、スルホン酸化合物の存在下で、無水酢酸と反応させることを特徴とする3-アセトキシスチレンの製造方法に係る。さらに上記のスルホン酸化合物が、硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸およびトリフルオロメタンスルホン酸からなる群から選ばれるものである方法に係る。
【0011】
ここで、本明細書において、上記一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物とマグネシウムとを反応させて反応生成物を得るi)の工程をグリニャール化工程またはグリニャール化反応という。また、グリニャール化工程またはグリニャール化反応により得られる生成物と臭化ビニルまたは塩化ビニルとを、ニッケル触媒の存在下で反応させて、上記一般式(2)で表されるオキシスチレン誘導体を得るii)の工程をクロスカップリング工程またはクロスカップリング反応という。さらに、上記一般式(2)で表されるオキシスチレン誘導体をスルホン酸化合物の存在下で、無水酢酸と反応させて3-アセトキシスチレンを得るiii)の工程を官能基変換工程または官能基変換反応という。
【0012】
上記の通り、本発明によれば、3-アセトキシスチレンを製造する方法が提供され、特にグリニヤール化反応、クロスカップリング反応および官能基変換反応による簡便な工程で、高純度の3-アセトキシスチレンを製造する方法を提供できる。以下に、各工程について詳細に説明する。
【0013】
<グリニャール工程(i)の工程)>
グリニャール工程は、下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Rは、1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基または2-テトラヒドロピラニル基を示し、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を示す。)で表される芳香族ハロゲン化合物とマグネシウムとを反応させる工程である。
【0014】
グリニャール工程で使用するマグネシウムの使用量は、原料である芳香族ハロゲン化合物に対して、0.8倍モル~2.0倍モルの範囲であれば良く、好ましくは1.0倍モル~1.5倍モル量の範囲である。0.8倍モル量より少ないと、原料である芳香族ハロゲン化合物が残り、未反応の芳香族ハロゲン化合物がグリニャール試薬とカップリング反応した不純物が増加することがあるため、収率が低下することがある。また、2.0倍モルより多いと、後処理が煩雑となる上、マグネシウムの失活剤として使用する酸性水溶液も多量に必要となることがあるため、経済的な面から避けることが好ましい。
【0015】
<クロスカップリング工程(ii)の工程)>
クロスカップリング工程は、i)で得られた反応生成物と臭化ビニルまたは塩化ビニルとを、ニッケル触媒の存在下で反応させて、一般式(2)
【化2】
(一般式(2)中、Rは1-エトキシエチル基、1-シクロヘキシルオキシエチル基または2-テトラヒドロピラニル基を示す。)で表されるオキシスチレン誘導体を得る工程である。
【0016】
クロスカップリング反応における臭化ビニルまたは塩化ビニルの使用量は、一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対して、1.0倍モル以上であればよく、経済性や後処理工程での煩雑さを考慮すると、1.4倍モル以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の方法において使用されるニッケル触媒は、ニッケル化合物であれば特に限定されるものではなく、具体的な例として、Ni(acac)、NiCl等が例示される。
また、各種の配位子を併用しても良く、配位子の添加方法としては、ニッケル化合物と配位子を予め系外で反応させてから添加する方法、反応系にニッケル化合物と配位子を添加し、系内で調製する方法がとられる。配位子としては、ニッケル化合物に配位するものであれば何れでも良く、リン系化合物、チッソ系化合物、オレフィン系化合物等が選ばれる。特にリン系化合物が配位子として好ましい。
配位子の具体的な例としては、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン[dppe]、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン[dppp]、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン[dppb]、トリフェニルホスフィン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン[dppf]、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1-ビナフチル[BINAP]、ビス(2-ジフェニルホスフィノフェニル)エーテル[DPEphos]、9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)ザンテン[XANTphos]、トリ-tert-ブチルホスフィン、1,5-シクロオクタジエン[COD]、2,2’-ビピリジル等が例示される。
ニッケル触媒の使用量としては、一般式(1)で表される芳香族ハロゲン化合物に対して、0.01モル%~10モル%の範囲であれば良く、経済性や後処理工程での煩雑さを考慮すると、0.1モル%~2.0モル%であることが好ましい。また、配位子の使用量は特に限定されないが、ニッケル化合物の金属に対し、0.5倍モル量~10倍モル量の範囲が選ばれる。
【0018】
本発明の方法において使用されるグリニャール反応およびその後のクロスカップリング反応の溶媒としては格別の限定はないが、好ましくはエーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒が用いられ、具体的には、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が例示される。また、溶媒は単一で用いても混合して用いてもどちらでも良い。
【0019】
本発明の方法におけるグリニャール化反応の温度は、0℃~溶媒の還流温度の範囲である。好ましくは10℃~40℃の範囲である。また、クロスカップリング反応の温度は、-10℃~溶媒の還流温度の範囲であり、好ましくは0℃~30℃の範囲である。
【0020】
本発明の方法におけるクロスカップリング反応の実施形態としては、製造したグリニャール試薬の溶液中に、臭化ビニルまたは塩化ビニルを添加する反応で実施しても良いし、臭化ビニルまたは塩化ビニル中にグリニャール試薬を添加して反応を実施しても良い。
反応終了後は、常法に従い反応液に酸性水溶液を加えて処理した後、有機層を分離する。続いて、有機層を水洗処理し、溶媒を留去した後、通常の精製操作、例えば、蒸留、再結晶などの操作により、目的とするオキシスチレン誘導体を得ることができる。
なお、オキシスチレン誘導体は、蒸留、再結晶などの精製操作を行わなくても、溶媒を留去するだけで、次工程の官能基変換工程に使用することが可能である。特に限定するのものでは無いが、有機層の水洗処理においては、次工程のスルホン酸化合物の失活を防ぐため、有機層と分離した水層のpHを8以下まで洗浄することがより好ましい。
【0021】
<官能基変換工程(iii)の工程)>
官能基変換工程は、ii)で得られたオキシスチレン誘導体を、スルホン酸化合物の存在下で、無水酢酸と反応させる工程である。
【0022】
スルホン酸化合物としては、公知のスルホン酸化合物であれば特に限定されるものでは無いが、例えば、硫酸、有機スルホン酸が挙げられ、より具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、カンファースルホン酸等の脂肪族スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ビフェニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、p-トルイジンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリナフタレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等の高分子スルホン酸等を挙げることができる。これらスルホン酸化合物のうち、好ましくは硫酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸が挙げられ、一種を単独で又は二種以上を任意に組み合わせても使用できる。
特に、限定されるものではないが、通常、仕込みの一般式(2)で表されるオキシスチレン誘導体に対して、0.1モル%~50モル%の範囲で用いられる。
【0023】
無水酢酸の使用量としては、仕込みの一般式(2)で表されるオキシスチレン誘導体に対して、0.8当量~5.0当量であることが好ましく、反応性と後処理の煩雑性とを考慮すると、1.0当量~2.5当量であることがより好ましい。
【0024】
本発明において、上記官能基変換工程の反応は、無溶媒でも充分行うことができるが、溶媒を用いて行うこともできる。用いうる溶媒としては、反応条件下で不活性、例えば用いられるスルホン酸化合物に対して不活性であり、且つ良好な撹拌を維持しうる溶媒であれば、特に限定するものでは無い。例えば、エーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、有機ハロゲン系溶媒などの単独およびこれらの混合物を挙げることができ、これらの内でも芳香族炭化水素系溶媒が好ましい。さらに芳香族炭化水素系溶媒として、具体的には、反応性、溶媒の除去性(沸点)および経済性を考慮すると、トルエン、キシレンが好ましい。また、溶媒は単一で用いても混合して用いてもどちらでも良い。
【0025】
本発明の反応の反応時間は特に制限されないが、副生物抑制の観点等から、好ましくは1時間~20時間が良い。また本発明方法の反応の反応温度は-10℃~100℃の範囲を例示できるが、好ましくは0℃~50℃の範囲が良い。
【0026】
反応終了後は、常法に従い反応液にアルカリ性水溶液を加えて処理した後、有機層を分離する。続いて、溶媒を留去した後、通常の精製操作、例えば、減圧蒸留、カラムクロマトグラフィーなどの操作により、目的とする3-アセトキシスチレン誘導体を得る。
なお、減圧蒸留により精製する場合は、公知の重合禁止剤を添加することができる。
【実施例
【0027】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されて解釈されるものではない。
なお、アセトキシ化反応の成績について、ガスクロマトグラフィー分析を以下の条件により行ない、そのピーク面積比から原料の転化率および目的物の選択率を算出した。
・装置:島津製作所製 GC-2014(株式会社島津製作所製)
・カラム:キャピラリーカラムNB-5(ジーエルサイエンス株式会社製)
アセトキシ化反応原料転化率(%)=目的物GC面積%/(未反応原料GC面積%+目的物GC面積%)×100
アセトキシ化反応選択率(%)=(目的物GC面積%/(原料GC面積%-未反応原料GC面積%))×100
【0028】
合成例1
温度計を装着した2L四つ口フラスコに、室温、窒素雰囲気下において、3-ブロモフェノール 502.65g(2.91mol)、トリフルオロ酢酸 14.90g(0.13mol)、トルエン 750gを加え、エチルビニルエーテル 241.32g(3.35mol)を20℃で3時間かけて滴下した。同温にて14時間熟成した。
【0029】
反応終了後、得られた反応液を10℃まで冷却し、20%水酸化ナトリウム水溶液 280gを加え、30分間撹拌した。分液後、溶媒を減圧留去し、赤褐色液体として、3-(1-エトキシエトキシ)ブロモベンゼン 746.88gを得た。
【0030】
実施例1 3-(1-エトキシエトキシ)スチレンの合成
温度計を装着した2L四つ口フラスコに、室温、窒素雰囲気下において、マグネシウム粉 24.80g(1.02mmol)、テトラヒドロフラン 234.15gを加え、撹拌下に20℃とし、臭化エチル 5.29g(48.6mmol)を10分かけて滴下後、同温にて30分撹拌した。
さらに、合成例1で取得した3-(1-エトキシエトキシ)ブロモベンゼン 215.82g(純分200.00g、0.82mmol)を3時間かけて加え、さらに3時間熟成した。
3-(1-エトキシエトキシ)ブロモベンゼンの転化率は100%、選択率は98%であった。
【0031】
上記の操作によって得られたグリニャール試薬に、[1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル(II)ジクロリド 2.05g(3.91mmol)とトルエン 330.5gを加えた後、反応温度を20~30℃に保ちながら、塩化ビニルガス 61.5g(0.98mol)を5時間かけて吹き込んだ。
グリニャール試薬の転化率は97%、選択率97%であった。
【0032】
反応終了後、反応液に20%塩化アンモニウム水溶液を加えて生成した塩を溶解し、有機層を分離した。得られた有機層を20%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄後、溶媒を減圧留去した。赤褐色液体として、3-(1-エトキシエトキシ)スチレン 172.13gを得た。
以上の操作を複数回行い、得られた3-(1-エトキシエトキシ)スチレンを以下の実施例に供した。
【0033】
実施例2 3-(1-エトキシエトキシ)スチレンの合成
実施例1において、反応終了後、20%塩化アンモニウムを加えて生成した塩を溶解し、有機層を分離した後、得られた有機層を20%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄するまでは実施例1と同様に行った。
更に、飽和食塩水で水層のpHが8以下になるまで有機層の洗浄をした後、溶媒を減圧留去した。赤褐色液体として、3-(1-エトキシエトキシ)スチレン 171.05gを得た。
ここで飽和食塩水による有機層の洗浄により、残留するアルカリ成分の量を低減させることができ、次工程で用いるスルホン酸化合物の作用を効率化できる。
【0034】
実施例3 3-アセトキシスチレンの合成(硫酸触媒)
温度計を装着した2L四つ口フラスコに、室温、窒素雰囲気下において、無水酢酸 260.33g(2.55mol)、硫酸 3.33g(34.0mmol)、トルエン780gを加え、撹拌下に20℃とし、実施例1で取得した3-(1-エトキシエトキシ)スチレン 443.16g(純分334.58g、1.70mol)を同温にて3時間かけて滴下した。
滴下後、硫酸 2.51g(25.6mmol)を10分かけて追加し、20℃で15時間熟成した。アセトキシ化反応の転化率は100%、選択率は93%であった。
【0035】
反応終了後、反応液を10℃まで冷却後、10%水酸化ナトリウム水溶液を加えて30分間撹拌し、さらに純水を加えて、30分撹拌した。
有機層を分離後、重合禁止剤として、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール) 14.04gを有機層に溶解させた後、溶媒を減圧留去し、さらに減圧蒸留にて無色透明液体 142.25gを得た。
【0036】
核磁気共鳴分析、質量分析による分析の結果、当該無色溶液は、3-アセトキシスチレンであることを確認した。また、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、3-アセトキシスチレンの純度は、99.3%であった。
GPCでオリゴマー濃度を測定したところ、オリゴマー濃度は0.04%で、重合物の混入も抑制されていることが分かった。
【0037】
実施例4 3-アセトキシスチレンの合成(硫酸触媒、追加なし)
温度計を装着した2L四つ口フラスコに、室温、窒素雰囲気下において、無水酢酸 260.33g(2.55mol)、硫酸 3.33g(34.0mmol)、トルエン780gを加え、撹拌下に20℃とし、実施例2で取得した3-(1-エトキシエトキシ)スチレン 442.55g(純分334.58g、1.70mol)を同温にて3時間かけて滴下した。
更に20℃で3時間熟成した。アセトキシ化反応の転化率は100%、選択率は94%であった。
反応液を10℃まで冷却後、2%水酸化ナトリウム水溶液を加えて30分間撹拌し、30分撹拌した。
有機層を分離後、重合禁止剤として、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール) 14.04gを有機層に溶解させた後、溶媒を減圧留去し、さらに減圧蒸留にて無色透明液体 143.02gを得た。
【0038】
核磁気共鳴分析、質量分析による分析の結果、当該無色溶液は、3-アセトキシスチレンであることを確認した。また、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、3-アセトキシスチレンの純度は、99.4%であった。
GPCでオリゴマー濃度を測定したところ、オリゴマー濃度は0.06%で、重合物の混入も抑制されていることが分かった。
【0039】
実施例5 3-アセトキシスチレンの合成(トリフルオロメタンスルホン酸触媒)
実施例4において、硫酸の代わりにトリフルオロメタンスルホン酸を使用した以外は、実施例4と同様に行い、無色透明溶液 145.41gを得た(転化率は100%)。また、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、3-アセトキシスチレンの純度は、99.0%であった。
なお、オリゴマー濃度は0.06%であった。
【0040】
実施例6 3-アセトキシスチレンの合成(トルエンスルホン酸触媒)
実施例4において、硫酸の代わりにトルエンスルホン酸・一水和物を使用した以外は、実施例4と同様に行い、無色透明溶液 130.85gを得た(転化率は100%)。また、ガスクロマトグラフィーで分析した結果、3-アセトキシスチレンの純度は、99.1%であった。
なお、オリゴマー濃度は0.03%であった。
【0041】
比較例1 3-アセトキシスチレンの合成(トリフルオロ酢酸触媒)
実施例4において、硫酸の代わりにトリフルオロ酢酸を使用した以外は、実施例4と同様に行った。しかし、アセトキシ化反応の転化率は、実施例1~4における100%と比較し、5.9%と低かった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の3-アセトキシスチレンを製造する方法は、副生ガスを補修する特殊な設備を使用したり、高温での反応を必要としたりしないことから、簡便で安全な工程で高純度の3-アセトキシスチレンを製造することが可能である。従って本発明は、産業上非常に有効である。