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特許7407723ヒト抗IL-33モノクローナル抗体含有医薬用組成物
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  • 特許-ヒト抗IL-33モノクローナル抗体含有医薬用組成物 図1
  • 特許-ヒト抗IL-33モノクローナル抗体含有医薬用組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】ヒト抗IL-33モノクローナル抗体含有医薬用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20231222BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231222BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20231222BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231222BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231222BHJP
   C07K 16/24 20060101ALN20231222BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20231222BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K9/08
A61K9/19
A61K47/22
A61K47/26
C07K16/24
C12N15/13
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020546239
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2019036239
(87)【国際公開番号】W WO2020054871
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2018173103
(32)【優先日】2018-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002956
【氏名又は名称】田辺三菱製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】池本 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】森 直樹
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 浩
(72)【発明者】
【氏名】谷本 昌彦
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-008003(JP,A)
【文献】国際公開第2015/099175(WO,A1)
【文献】内山 進,バイオ医薬品の分析のコツ 品質評価のための基礎と応用 第6回 タンパク質溶液の性質,PHARM TECH JAPAN,2018年01月,第34巻, 第1号,p.109-120,ISSN 0910-4739
【文献】本田 真也 ほか,バイオ医薬品の分析のコツ 品質評価のための基礎と応用 第9回 タンパク質の安定性分析と安定化設計(後編),PHARM TECH JAPAN,2018年04月,第34巻, 第5号,p.885-894,ISSN 0910-4739
【文献】伊豆津 健一,タンパク質医薬品の凍結乾燥,薬剤学,2012年,第72巻, 第6号,p.353-358,ISSN 0372-7629
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-16/46
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体を有効成分として含有する医薬用組成物であって、
前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体がA10-1C04であって、
前記医薬用組成物が塩化ナトリウムを本質的に含有せず、150mg/mLの前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体、10mMヒスチジン、4%(w/v)ソルビトール、及び0.02%(w/v)ポリソルベート80を含み、pHが5.5~6.5に調整された、医薬用組成物。
【請求項2】
皮下投与のための、請求項1に記載の医薬用組成物。
【請求項3】
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体を有効成分として含有する医薬用組成物であって、
前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体がA10-1C04であって、
前記医薬用組成物が塩化ナトリウムを本質的に含有せず、10mg/mLの前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体、10mMヒスチジン、3.6%(w/v)ソルビトール、及び0.02%(w/v)ポリソルベート80を含み、pHが5.5~6.5に調整された、医薬用組成物。
【請求項4】
静脈内投与のための、請求項3に記載の医薬用組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の医薬用組成物の凍結乾燥製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)含有医薬用組成物に関し、特に白濁を抑制し、pH等の保存安定性を改善した抗体含有医薬用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の抗体含有医薬用組成物が開発され実用に供されているが、多くの抗体含有医薬用組成物は静脈注射用医薬用組成物として用いられている。一方、医療現場のニーズにより、抗体含有医薬用組成物を自己注射可能な皮下注射用医薬用組成物として開発する要望が高くなっている。
【0003】
皮下注射用の抗体含有医薬用組成物を設計するにあたっては、1回あたりの抗体投与量が大量となる一方で(100~200mg程度)、皮下注射では一般的に注射液量の制限があることから、投与液中の抗体の高濃度化が必要となる。そこで、凍乾前より少ない容量の水を用いて凍結乾燥医薬用組成物を再溶解することにより高濃度抗体含有医薬用組成物を調製する、いわゆる凍乾濃縮技術を利用した高濃度抗体含有医薬用組成物が使用されることが多い。
【0004】
抗体のサブタイプの1つであり、医薬用に汎用されるIgG抗体は、約150kDaの高分子量の糖蛋白質であり、主に抗体の可変領域の構造(アミノ酸配列や糖鎖構造)が非常に多様であるため、抗体の分子種ごとに異なった物性を示す。
【0005】
抗体は加熱や振動等の物理的な刺激、界面活性剤、酸化還元剤、糖等の化合物との相互作用、あるいは長期に保存することにより凝集や分解、化学反応がおこり変性してしまうことがある。抗体が変性すると、抗原やFcレセプターとの結合性が変化することにより、抗体の機能・効果が減弱したり、凝集した抗体が炎症を惹起するという懸念がある。凝集性等の変性のしやすさは抗体の分子種ごとに異なる。
【0006】
抗体は荷電アミノ酸や極性の高いアミノ酸、糖鎖を含むことから抗体溶液中のイオンと相互作用することにより、イオンの不均衡な分布を生じさせ、抗体溶液のpHを変化(pHドリフト)させることがある(ドナン効果)。抗体溶液のpHの変化は抗体の保存安定性に影響する場合があるが、ドナン効果の強さは抗体の分子種ごとに異なる。
【0007】
高濃度の抗体溶液は、タンパク質の巨大分子としての性質及び分子間相互作用によりそれ自体粘度の高い溶液を形成する傾向にある。抗体溶液の粘度が増加すると、抗体を投与することが困難となる。抗体の濃度を高めることによる抗体溶液の粘度の増加は抗体の分子種ごとに異なる。
【0008】
さらに、抗体溶液を長期に保存する場合、pHの変化や不溶性及び/又は可溶性凝集体の生成を始めとする劣化現象が課題となることがあるが、やはり抗体の分子種ごとに異なる。
【0009】
一般に、抗体含有医薬用組成物には長期保存した後も活性成分の損失が少ない、安定化させた医薬用組成物とするための様々な工夫がなされており、有効成分である抗体と緩衝剤等の種々な添加剤を溶解して医薬用組成物として製造される。しかし、特に高濃度の抗体を含有する医薬用組成物においては、抗体の凝集、白濁、粘度上昇やpHドリフトを防止するための技術はいまだ不十分である。
【0010】
我々はIL-33に結合する複数のヒト抗IL-33モノクローナル抗体を取得した(特許文献1:国際公開第2015/099175)が、これらの抗体を含有し、投与に適した医薬用組成物を開発するニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2015/099175号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、対象への投与に適したヒト抗IL-33モノクローナル抗体含有医薬用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ヒト抗IL-33モノクローナル抗体を製剤化した場合、白濁することを見出し、その白濁の原因が凝集体の形成であることを見出した。また、その白濁は、NaCl濃度やpHに依存していることを見いだした。本発明は、かかる知見に基づき完成させたものでる。
【0014】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
[1] ヒト抗IL-33モノクローナル抗体を有効成分として含有する医薬用組成物であって、
前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体の重鎖の相補性決定領域1(H1)、重鎖の相補性決定領域2(H2)、重鎖の相補性決定領域3(H3)、軽鎖の相補性決定領域1(L1)、軽鎖の相補性決定領域2(L2)及び軽鎖の相補性決定領域3(L3)のそれぞれのアミノ酸配列の組み合わせが表1のC1からC5のいずれか1つであって、
前記医薬用組成物が塩化ナトリウムを本質的に含有しない、または30mM未満の塩化ナトリウムを含有する、医薬用組成物。
【表1】

[2] 前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体重鎖可変領域及び軽鎖の可変領域のそれぞれのアミノ酸配列の組み合わせが表2のV1からV5のいずれか1つである[1]に記載の医薬用組成物。
【表2】

[3] 前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体がA10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02である[1]または[2]に記載の医薬用組成物。
[4] 塩化ナトリウム濃度が10mM以下の[1]~[3]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[5] 塩化ナトリウムを本質的に含有しない[1]~[4]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[6] pHが4より大きく、8未満に調整された、[1]~[5]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[7] pHが5以上、7以下に調整された、[1]~[6]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[8] 酢酸塩、ヒスチジンまたはリン酸塩の緩衝剤によりpHが調整された[1]~[7]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[9] ヒスチジンによりpHが調整された[1]~[8]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[10] 有効成分の濃度が175mg/ml未満である[1]~[9]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[11] 有効成分の濃度が150mg/ml以下である[1]~[10]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[12] ポリオールを少なくとも一つ含有する[1]~[11]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[12-1] ポリオールが、二糖類及び糖アルコールからなる群から選択される糖類である、[12]に記載の医薬用組成物。
[13] ポリオールが、3~5%(w/v)ソルビトールである、[12]又は[12-1]に記載の医薬用組成物。
[14] 界面活性剤を含有する[1]~[13]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[15] 前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、[14]に記載の医薬用組成物。
[15-1] 前記界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート80またはポロキサマー188である、[15]に記載の医薬用組成物。
[16] 10mMヒスチジン、4%(w/v)ソルビトール、0.02%(w/v)ポリソルベート80、150mg/mlの有効成分を含み、pHが5.5~6.5に調整された[1]~[15-1]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[17] 皮下投与のための[16]に記載の医薬用組成物。
[18] 10mMヒスチジン、3.6%(w/v)ソルビトール、0.02%(w/v)ポリソルベート80、10mg/mlの有効成分を含み、pHが5.5~6.5に調整された[1]~[15-1]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[19] 静脈内投与のための[18]に記載の医薬用組成物。
[20] 有効成分がA10-1C04である、[1]~[19]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[21] [1]~[20]のいずれか1項に記載の医薬用組成物の凍結乾燥製剤。
【0015】
[22] IL-33関連疾患を治療または予防する方法であって、
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体を有効成分として含有する医薬用組成物を、それを必要とする対象に投与すること、
を含み、
ここで前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体の重鎖の相補性決定領域1(H1)、重鎖の相補性決定領域2(H2)、重鎖の相補性決定領域3(H3)、軽鎖の相補性決定領域1(L1)、軽鎖の相補性決定領域2(L2)及び軽鎖の相補性決定領域3(L3)のそれぞれのアミノ酸配列の組み合わせが前記表1のC1からC5のいずれか1つであって、
ここで前記医薬用組成物が、塩化ナトリウムを本質的に含有しない、または30mM未満の塩化ナトリウムを含有することを特徴とする、方法。
[23] 前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のそれぞれのアミノ酸配列の組み合わせが前記表2のV1からV5のいずれか1つである[22]に記載の方法。
[24] 前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体がA10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02である[22]または[23]に記載の方法。
[25] 前記医薬用組成物の塩化ナトリウム濃度が10mM以下である、[22]~[24]のいずれか1項に記載の方法。
[26] 前記医薬用組成物は、塩化ナトリウムを本質的に含有しない[22]~[25]のいずれか1項に記載の方法。
[27] 前記医薬用組成物は、pHが4より大きく、8未満に調整されたものである、[22]~[26]のいずれか1項に記載の方法。
[28] 前記医薬用組成物は、pHが5以上、7以下に調整されたものである、[22]~[27]のいずれか1項に記載の方法。
[29] 前記医薬用組成物は、酢酸塩、ヒスチジンまたはリン酸塩の緩衝剤によりpHが調整されたものである、[22]~[28]のいずれか1項に記載の方法。
[30] 前記医薬用組成物は、ヒスチジンによりpHが調整されたものである、[22]~[29]のいずれか1項に記載の方法。
[31] 有効成分の濃度が175mg/ml未満である[22]~[30]のいずれか1項に記載の方法。
[32] 有効成分の濃度が150mg/ml以下である[22]~[31]のいずれか1項に記載の方法。
[33] 前記医薬用組成物は、ソルビトール、スクロース、トレハロース及びマンニトールからなる群から選択される少なくとも1つを含有する[22]~[32]のいずれか1項に記載の方法。
[34] 前記医薬用組成物は、3~5%(w/v)ソルビトールを含有する[22]~[33]のいずれか1項に記載の方法。
[35] 前記医薬用組成物は、界面活性剤を含有する[22]~[34]のいずれか1項に記載の方法。
[36] 前記界面活性剤がポリソルベート20、ポリソルベート80またはポロキサマー188である[35]に記載の方法。
[37] 10mMヒスチジン、4%(w/v)ソルビトール、0.02%(w/v)ポリソルベート80、150mg/mlの有効成分を含み、pHが5.5~6.5に調整された[22]~[36]のいずれか1項に記載の方法。
[38] 前記投与が、皮下投与である、[37]に記載の方法。
[39] 10mMヒスチジン、3.6%(w/v)ソルビトール、0.02%(w/v)ポリソルベート80、10mg/mlの有効成分を含み、pHが5.5~6.5に調整された[22]~[36]のいずれか1項に記載の方法。
[40] 前記投与が、静脈内投与である、[39]に記載の方法。
[41] 有効成分がA10-1C04である、[22]~[40]のいずれか1項に記載の方法。
【0016】
[42] IL-33関連疾患の治療または予防における使用のための医薬組成物であって、
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体を有効成分として含有し、
ここで前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体の重鎖の相補性決定領域1(H1)、重鎖の相補性決定領域2(H2)、重鎖の相補性決定領域3(H3)、軽鎖の相補性決定領域1(L1)、軽鎖の相補性決定領域2(L2)及び軽鎖の相補性決定領域3(L3)のそれぞれのアミノ酸配列の組み合わせが前記表1のC1からC5のいずれか1つであって、
ここで前記医薬用組成物が、塩化ナトリウムを本質的に含有しない、または30mM未満の塩化ナトリウムを含有することを特徴とする、医薬組成物。
【0017】
[43] IL-33関連疾患の治療または予防のための医薬用組成物の製造のための使用であって、
前記医薬組成物が、ヒト抗IL-33モノクローナル抗体を含有し、塩化ナトリウムを本質的に含有しない、または30mM未満の塩化ナトリウムを含有するものであって、
ここで前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体の重鎖の相補性決定領域1(H1)、重鎖の相補性決定領域2(H2)、重鎖の相補性決定領域3(H3)、軽鎖の相補性決定領域1(L1)、軽鎖の相補性決定領域2(L2)及び軽鎖の相補性決定領域3(L3)のそれぞれのアミノ酸配列の組み合わせが前記表1のC1からC5のいずれか1つである、使用。
[44] 二糖類がスクロース及びトレハロースからなる群より選択される糖類であり、糖アルコールがソルビトール及びマンニトールからなる群から選択される糖類である、[12-1]に記載の医薬用組成物。
[45] 二糖類がスクロースであり、糖アルコールがソルビトールである、[12-1]または[44]に記載の医薬用組成物。
[46] 20℃における水への溶解度が100g/100g以上のポリオールを少なくとも一つ含有する、[1]~[12]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[47] 20℃における水への溶解度が100g/100g以上のポリオールが、20℃における水への溶解度が100g/100g以上の糖類である、[46]のいずれか1項に記載の医薬用組成物。
[48] 20℃における水への溶解度が100g/100g以上の糖類が、ソルビトール及びスクロースから選択される糖類である、[47]に記載の医薬組成物。
[49] 前記非イオン性界面活性剤がポリソルベート20、ポリソルベート80またはポロキサマー188である[15]に記載の医薬用組成物。
[50]ヒト抗IL-33モノクローナル抗体を有効成分として含有する医薬用組成物であって、
前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体の重鎖の相補性決定領域1(H1)、重鎖の相補性決定領域2(H2)、重鎖の相補性決定領域3(H3)、軽鎖の相補性決定領域1(L1)、軽鎖の相補性決定領域2(L2)及び軽鎖の相補性決定領域3(L3)のそれぞれのアミノ酸配列の組み合わせが表1のC1からC5のいずれか1つであって、
前記医薬用組成物が、緩衝剤と、非イオン性界面活性剤と、ポリオールを含有する医薬用組成物。
[51]ポリオールが、20℃における水への溶解度が100g/100g以上のポリオールである、[50]に記載の医薬組成物。
[52]塩化ナトリウムを本質的に含有しない、または30mM未満の塩化ナトリウムを含有する、[50]又は[51]に記載の医薬組成物。
(1) ヒト抗IL-33モノクローナル抗体を有効成分として含有する医薬用組成物であって、
前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体がA10-1C04であって、
前記医薬用組成物が塩化ナトリウムを本質的に含有せず、150mg/mLの前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体、10mMヒスチジン、4%(w/v)ソルビトール、及び0.02%(w/v)ポリソルベート80を含み、pHが5.5~6.5に調整された、医薬用組成物。
(2) 皮下投与のための、(1)に記載の医薬用組成物。
(3) ヒト抗IL-33モノクローナル抗体を有効成分として含有する医薬用組成物であって、
前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体がA10-1C04であって、
前記医薬用組成物が塩化ナトリウムを本質的に含有せず、10mg/mLの前記ヒト抗IL-33モノクローナル抗体、10mMヒスチジン、3.6%(w/v)ソルビトール、及び0.02%(w/v)ポリソルベート80を含み、pHが5.5~6.5に調整された、医薬用組成物。
(4) 静脈内投与のための、(3)に記載の医薬用組成物。
) (1)~()のいずれか1つに記載の医薬用組成物の凍結乾燥製剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明のヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)含有医薬用組成物(または本発明に用いられる医薬組成物)は、白濁が抑制されているため、安全性や効力に優れている。また、本発明の医薬組成物は、溶液状態でpHが著しく変動することなく安定に長期保存可能であり、製剤の保存や使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、A10-1C04抗体のP7N処方の白濁を示す。
図2図2は、糖の添加による白濁抑制効果を示す。A10-1C04抗体のソルビトールを添加した処方(A5S、H6S、P6S、P7S)では白濁が改善されていた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の理解を容易にするために、用語を説明する。
【0021】
[医薬用組成物]
本明細書において、医薬用組成物とは、ヒト等の動物に投与できるように調製された組成物をいう。したがって、医薬用組成物は剤型された製剤を指してもよい。
【0022】
[本質的に]
本明細書において、「塩化ナトリウムを本質的に含有しない」とは、本発明の医薬組成物に塩化ナトリウムを添加しない場合等をいい、本発明の医薬用組成物が白濁してしまう程度の塩化ナトリウムを含まないものをいう。
【0023】
[界面活性剤]
本明細書において、界面活性剤とは、分子内に水になじみやすい部分(親水基)と、油になじみやすい部分(親油基・疎水基)を持つ物質の総称をいう。抗体製剤に一般に用いられる任意の界面活性剤を使用しうるが、一例としてポリソルベート20、ポリソルベート80、ポロキサマー188があげられる。
【0024】
[抗体]
本明細書での用語「抗体」は、最も広義で使用され、ヒト抗体、ヒト化抗体及び非ヒト種に由来する抗体及びモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体を含む。また、本明細書での「抗体」は多重特異性抗体(たとえば、二重特異性抗体)、薬物融合抗体(ADC)であってもよく、さらにdAbs、scFv、Fab、F(ab)’2、Fab’等の抗原結合断片であってもよい。
【0025】
[モノクローナル抗体]
本明細書での用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で使用されるとき、実質的に均質な抗体の集団からなる抗体を指し、すなわち、たとえば、糖鎖やアミノ酸修飾等の軽微な相違を除いて、集団を構成する個々の抗体が同一である。通常、異なる抗体を含むポリクローナル抗体とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一のエピトープに結合する。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体の集団から得られるような抗体の特徴を指し示すのであって、特定の方法による抗体の調製を必要とするとは解釈されるべきではない。たとえば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体はKohlerら、Nature,256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製されてもよいし、又は組換えDNA法(たとえば、米国特許第4,816,567号を参照)によって作製されてもよい。「モノクローナル抗体」は、たとえば、Clacksonら、Nature,352:624-628(1991)及びMarksら、J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)に記載された技法を用いてファージ抗体ライブラリから単離されてもよい。
【0026】
[5種類のヒト抗IL-33モノクローナル抗体]
本発明に使用される5種類のヒト抗IL-33モノクローナル抗体は、国際公開第2015/099175号に開示されている、A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04及びA26-1F02の5クローンのヒト抗IL-33モノクローナル抗体をいい、以下のアミノ酸配列の重鎖、軽鎖からなるヒト抗IL-33モノクローナル抗体をいう。
(a)A10-1C04:
・重鎖:
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSDYYMNWVRQAPGKGLEWVSSISRYSSYIYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDIGGMDVWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列表の配列番号1);及び
・軽鎖:
QSVLTQPPSASGTPGQRVTISCTGSSSNIGAVYDVHWYQQLPGTAPKLLIYRNNQRPSGVPDRFSGSKSGTSASLAISGLRSEDEADYYCQTYDSSRWVFGGGTKLTVLGQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS(配列表の配列番号2)

(b)A23-1A05:
・重鎖:
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSNYYMHWVRQAPGKGLEWVSSISARSRYHYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARLATRHNAFDIWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列表の配列番号3);及び
・軽鎖:
QSVLTQPPSASGTPGQRVTISCSGSSSNIGNNAVSWYQQLPGTAPKLLIYASNMRVIGVPDRFSGSKSGTSASLAISGLRSEDEADYYCGAWDDSQKALVFGGGTKLTVLGQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS(配列表の配列番号4)

(c)A25-2C02:
・重鎖:
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSNYYMHWVRQAPGKGLEWVSSISARSSYIYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARLATRNNAFDIWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列表の配列番号5);及び
・軽鎖:
QSVLTQPPSASGTPGQRVTISCSGSSSNIGRNAVNWYQQLPGTAPKLLIYASNMRVSGVPDRFSGSKSGTSASLAISGLRSEDEADYYCWAWDDSQKVGVFGGGTKLTVLGQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS(配列表の配列番号6)

(d)A25-3H04:
・重鎖:
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSRYYMHWVRQAPGKGLEWVSSISAQSSHIYYADSVEGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARLATRQNAFDIWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列表の配列番号7);及び
・軽鎖:
QSVLTQPPSASGTPGQRVTISCSGSSSNIGRNAVNWYQQLPGTAPKLLIYASNMRRSGVPDRFSGSKSGTSASLAISGLRSEDEADYYCSAWDDSQKVVVFGGGTKLTVLGQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS(配列表の配列番号8)

(e)A26-1F02:
・重鎖:
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSNYYMHWVRQAPGKGLEWVSSISARSSYLYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARLATRHVAFDIWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK(配列表の配列番号9);及び
・軽鎖:
QSVLTQPPSASGTPGQRVTISCSGSSSNIGNNAVNWYQQLPGTAPKLLIYASNMRRPGVPDRFSGSKSGTSASLAISGLRSEDEADYYCEAWDDSQKAVVFGGGTKLTVLGQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS(配列表の配列番号10)
【0027】
[相補性決定領域(CDR)]
本明細書において相補性決定領域(CDR)とは、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。CDRは一般に「超可変領域」ともよばれ、抗体の分子種ごとにユニークなアミノ酸配列であり、Kabatらの方法で特定される(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed.Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。CDRは抗体の軽鎖に3個(L1、L2、L3)、抗体の重鎖に3個(H1、H2、H3)存在し、A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04、A26-1F02の5クローンの各CDRは以下のとおりである。
(a)A10-1C04:
H1:DYYMN(配列表の配列番号11)
H2:SISRYSSYIYYADSVKG(配列表の配列番号12)
H3:DIGGMDV(配列表の配列番号13)
L1:TGSSSNIGAVYDVH(配列表の配列番号14)
L2:RNNQRPS(配列表の配列番号15)
L3:QTYDSSRWV(配列表の配列番号16)

(b)A23-1A05:
H1:NYYMH(配列表の配列番号17)
H2:SISARSRYHYYADSVKG(配列表の配列番号18)
H3:LATRHNAFDI(配列表の配列番号19)
L1:SGSSSNIGNNAVS(配列表の配列番号20)
L2:ASNMRVI(配列表の配列番号21)
L3:GAWDDSQKALV(配列表の配列番号22)

(c)A25-2C02:
H1:NYYMH(配列表の配列番号17)
H2:SISARSSYIYYADSVKG(配列表の配列番号23)
H3:LATRNNAFDI(配列表の配列番号24)
L1:SGSSSNIGRNAVN(配列表の配列番号25)
L2:ASNMRVS(配列表の配列番号26)
L3:WAWDDSQKVGV(配列表の配列番号27)

(d)A25-3H04:
H1:RYYMH(配列表の配列番号28)
H2:SISAQSSHIYYADSVEG(配列表の配列番号29)
H3:LATRQNAFDI(配列表の配列番号30)
L1:SGSSSNIGRNAVN(配列表の配列番号25)
L2:ASNMRRS(配列表の配列番号31)
L3:SAWDDSQKVVV(配列表の配列番号32)

(e)A26-1F02:
H1:NYYMH(配列表の配列番号17)
H2:SISARSSYLYYADSVKG(配列表の配列番号33)
H3:LATRHVAFDI(配列表の配列番号34)
L1:SGSSSNIGNNAVN(配列表の配列番号35)
L2:ASNMRRP(配列表の配列番号36)
L3:EAWDDSQKAVV(配列表の配列番号37)
【0028】
[可変領域]
本明細書において可変領域とは、モノクローナル抗体の定常領域以外の部分をいい、抗原との結合に関与し、抗原によって種々に変化する抗体の特異性を決定する部分である。可変領域には重鎖可変領域、軽鎖可変領域が存在し、A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04、A26-1F02の5クローンの各重鎖可変領域、軽鎖可変領域は以下のとおりである。
(a) A10-1C04:
・重鎖可変領域:
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSDYYMNWVRQAPGKGLEWVSSISRYSSYIYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDIGGMDVWGQGTLVTVSS(配列表の配列番号38)
・軽鎖可変領域:
QSVLTQPPSASGTPGQRVTISCTGSSSNIGAVYDVHWYQQLPGTAPKLLIYRNNQRPSGVPDRFSGSKSGTSASLAISGLRSEDEADYYCQTYDSSRWVFGGGTKLTVLG(配列表の配列番号39)

(b)A23-1A05:
・重鎖可変領域:
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSNYYMHWVRQAPGKGLEWVSSISARSRYHYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARLATRHNAFDIWGQGTLVTVSS(配列表の配列番号40)
・軽鎖可変領域:
QSVLTQPPSASGTPGQRVTISCSGSSSNIGNNAVSWYQQLPGTAPKLLIYASNMRVIGVPDRFSGSKSGTSASLAISGLRSEDEADYYCGAWDDSQKALVFGGGTKLTVLG(配列表の配列番号41)

(c)A25-2C02:
・重鎖可変領域:
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSNYYMHWVRQAPGKGLEWVSSISARSSYIYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARLATRNNAFDIWGQGTLVTVSS(配列表の配列番号42)
・軽鎖可変領域:
QSVLTQPPSASGTPGQRVTISCSGSSSNIGRNAVNWYQQLPGTAPKLLIYASNMRVSGVPDRFSGSKSGTSASLAISGLRSEDEADYYCWAWDDSQKVGVFGGGTKLTVLG(配列表の配列番号43)

(d)A25-3H04:
・重鎖可変領域:
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSRYYMHWVRQAPGKGLEWVSSISAQSSHIYYADSVEGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARLATRQNAFDIWGQGTLVTVSS(配列表の配列番号44)
・軽鎖可変領域:
QSVLTQPPSASGTPGQRVTISCSGSSSNIGRNAVNWYQQLPGTAPKLLIYASNMRRSGVPDRFSGSKSGTSASLAISGLRSEDEADYYCSAWDDSQKVVVFGGGTKLTVLG(配列表の配列番号45)

(e)A26-1F02:
・重鎖可変領域:
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSNYYMHWVRQAPGKGLEWVSSISARSSYLYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARLATRHVAFDIWGQGTLVTVSS(配列表の配列番号46)
・軽鎖可変領域:
QSVLTQPPSASGTPGQRVTISCSGSSSNIGNNAVNWYQQLPGTAPKLLIYASNMRRPGVPDRFSGSKSGTSASLAISGLRSEDEADYYCEAWDDSQKAVVFGGGTKLTVLG(配列表の配列番号47)
【0029】
「安定」
本明細書において「安定」とは、抗体含有医薬用組成物がその特性(例えば、物理的特性、化学的特性及び/または生物学的活性)を保存後も事実上保持することをいう。例えば、抗体をはじめとするタンパク質の安定性を測定するための様々な分析技術が当技術分野で入手でき、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee Ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., Pubs. (1991)及びJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10:29-90 (1993)で概説されている。抗体含有医薬用組成物の安定性は、選択された温度で選択された時間の間、評価されうる。「安定な」抗体含有医薬用組成物は、冷蔵温度(2~8℃)で少なくとも1か月、3か月、6カ月、12カ月、好ましくは2年、及び、より好ましくは3年の間、または室温(23~27℃)で少なくとも3カ月、好ましくは6カ月、及び、より好ましくは1年の間、またはストレス条件下(約40℃または約50℃)で少なくとも1週間、2週間、1カ月、好ましくは3カ月、及び、より好ましくは6カ月の間、有意な変化が観察されない抗体含有医薬用組成物である。様々な安定性基準、例えば視覚的検査異常(白濁等)、pH、粘度、抗体の抗原への結合性、抗体の抗原分子に対する阻害活性(例えば、IL-33によるIL-6の産生誘導の阻害活性)、抗体のエフェクター機能、抗体の分解を指標として使用することができる。
【0030】
「エフェクター機能」
抗体の「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(天然の配列のFc領域又はアミノ酸配列変異体のFc領域)に起因するそれらの生物活性を指す。抗体のエフェクター機能の例には、C1q結合、補体依存性細胞傷害性、Fc受容体結合、抗体依存性の細胞介在性の細胞傷害性(ADCC)、貪食作用、細胞表面受容体(たとえば、B細胞受容体、BCR)の下方調節等が挙げられる。
【0031】
[白濁]
本明細書において、「白濁」とは、色及び/または透明性(濁度)の視覚的検査により、白色に濁った状態であることをいう。白濁していることは、さらにフローサイト粒子画像解析装置やパーティクルカウンターによる微粒子の測定、動的光散乱法(DLS)による相互作用パラメータ(以下、単に「相互作用パラメータ」または「Kd値」という)の測定、濁度(650nmの吸光度(OD650))の測定により分析することができる。「白濁」と相関する分析値としては、例えば、抗体含有医薬組成物のOD650が0.009、0.010、0.011、0.012、0.013、または0.014以上であること、Kd値が0、-1、-2、-3、または-4mL/g以下の値を示すこと、及び/またはパーティクルカウンターによる1.5μm以上の粒子が500、750、1000、1250または1500個/mL以上であることである。
【0032】
[凍結乾燥製剤]
本明細書において「凍結乾燥製剤」は、水がほとんどない乾燥した(例えば、フリーズドライされた)医薬用組成物を指す。抗体の凍結乾燥技術は当技術分野では周知であり、例えば、Rey & May (2004) Freeze-Drying/Lyophilization of Pharmaceutical &Biological Products ISBN 0824748689を参照する。
【0033】
[IL-33]
IL-33はIL-1ファミリーに属するサイトカインであり、NF-HEVとも呼ばれる。IL-33は、サイトカインとして細胞外に放出されると、IL-33受容体(ST2及びIL-1RAcP)と結合し、当該IL-33受容体を発現する細胞において、細胞内シグナル伝達を開始させるという機能を有する。IL-33により誘導されるシグナル伝達には、非限定的に、NF-κB経路と、MAPKKs経路とがあり、最終的に各種のサイトカインやケモカイン、炎症性メディエータの産生を惹起する。IL-33により誘導されるサイトカインの例として、TNF-α、IL-1β、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-13等が挙げられ、特にIL-5、IL-6、及びIL-13が誘導される。IL-33により誘導されるケモカインの例としてCXCL2、CCL2、CCL3、CCL6、CCL17、CCL24等が挙げられる。IL-33により誘導される炎症性メディエータの例としてPGD2、LTB4等が挙げられる。IL-33により誘導されるサイトカインやケモカイン、炎症性メディエータは、免疫系細胞の遊走、サイトカイン産生、脱顆粒に関与し炎症を惹起する。本発明では、「5種類のヒト抗IL-33モノクローナル抗体」が結合して前記機能のうち少なくとも1つの機能を阻害するものであれば、全長IL-33または成熟型IL-33のいずれかを指してもよいし、それらの相同性のある誘導体若しくは変異体であってもよい。また、ヒトIL-33でも他の生物由来のIL-33でもよい。
【0034】
[薬学的に許容される]
本明細書において用語「薬学的に許容される」は、有効成分(複数可)の生物学的活性の有効性に干渉せず、かつ無毒であることを意味する。
【0035】
[等張]
本明細書で使用されるとき、「等張の」製剤は、ヒト血液と実質的に同一の浸透圧を有する。等張の医薬用組成物は一般に血液を基準とした浸透圧比で約0.9~1.2を有する。浸透圧は、たとえば、蒸気圧型又は氷凍結型の浸透圧計を用いて測定することができる。
【0036】
[pHドリフト]
本明細書において用語「pHドリフト」は、本発明の医薬用組成物のpH値が保存または濃縮等の処理前後で変化することをいう。
【0037】
以下、本発明の実施態様について説明する。なお、以下の実施態様は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施態様のみに限定されない。
【0038】
本発明にかかるヒト抗IL-33モノクローナル抗体は公知技術、例えば特許文献1に記載の方法で製造できる。
【0039】
上述のように製造されたモノクローナル抗体は、透析や限外濾過装置、あるいは硫安沈殿等の方法により、所望の組成物として製剤化することができる。また、所望の緩衝剤を含む溶液とした後に、糖類や界面活性剤等を後から添加して製剤化することも可能である。
【0040】
本発明者らは、5種類のヒト抗IL-33モノクローナル抗体を溶液としたときに一部凝集し、白濁してしまうことを見出した。白濁は抗体を含む凝集体である微粒子の形成によるものであり、医薬組成物としたときに、有効成分である抗体の生物活性の低下や、免疫原性の高い凝集体による抗薬物抗体(ADA)誘導による薬物動態の悪化、さらに凝集体自身による炎症の惹起が懸念される。従って、白濁を抑制することが必要である。そこで、本発明は、白濁が抑制された医薬組成物に関する。本発明の医薬組成物は、有効成分として5種類のヒト抗IL-33モノクローナル抗体を有効成分として含有し、さらに塩、緩衝剤、界面活性剤、糖類等が含まれうる。
【0041】
[塩濃度]
本発明者らは5種類のヒト抗IL-33モノクローナル抗体の白濁の原因が主に塩であることを見出した。そこで、本発明に係る医薬用組成物は塩濃度が低いことが好ましく、50mM以下、40mM以下、30mM以下、25mM以下、20mM以下、15mM以下、10mM以下、5mM以下、3mM以下、2mM以下、1mM以下が好ましく、塩を本質的に含まないことがより好ましい。また本発明に係る医薬用組成物は塩濃度が低いことが好ましく、50mM未満、40mM未満、30mM未満、25mM未満、20mM未満、15mM未満、10mM未満、5mM未満、3mM未満、2mM未満、1mM未満が好ましく、塩を本質的に含まないことがより好ましい。なお、本発明に係る医薬用組成物において、低濃度の、または本質的に含まれない塩の例としては、無機塩又は有機塩が挙げられる。無機塩の例としては、特に塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウムがあげられるが、塩化ナトリウムであることが好ましい。
【0042】
[緩衝剤及びpH]
本発明の医薬用組成物は緩衝剤によりpHが調節される。医薬用組成物として適する緩衝剤としては、限定されずに、グルコン酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩、リン酸塩[例えば、ナトリウムまたはカリウム]、コハク酸塩[例えば、ナトリウム]、酢酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、グリシン、アルギニン及びその組合せがあげられ、調節するpH値により、使い分けることができる。本発明の医薬用組成物は酢酸塩、ヒスチジン、またはリン酸塩を緩衝剤として含むことが好ましく、ヒスチジンを緩衝剤として含むことがより好ましい。緩衝剤の濃度は薬学的に許容されれば特に限定されないが、1mM~150mMが好ましく、5mM~100mMがより好ましく、10mM~50mMがさらに好ましい。また緩衝剤の濃度は約1mM、約5mM、約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、約45mMまたは約50mMが好ましい。塩、特に無機塩の緩衝剤を用いる観点では、30mM未満、特に10mM以下の濃度を用いることが好ましい。
【0043】
本発明の医薬用組成物には緩衝剤としてヒスチジン(例えば、5mM~50mM、例えば、10mM~50mM、約5mM、約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、約45mM、約50mMの濃度)が特に有益である。一実施態様では、安定な医薬用組成物は、5mM~20mMのヒスチジンを含む。医薬用組成物のpHは4.0~8.0の範囲内であってよく、4.5~7.5の範囲内のpH、例えば、5.0~7.0、5.2~6.8、例えば、約4.2、約4.3、約4.4、約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、約5.0、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、約5.5、約5.6、約5.7、約5.8、約5.9、約6.0、約6.1、約6.2、約6.3、約6.4、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8が一般的である。本発明の医薬用組成物はpH4またはpH8では長期保存において濁度が増加する。また、本発明の医薬用組成物はpH4またはpH8では長期保存においてpHドリフトが著しい。したがって、一実施態様では、安定な抗体含有医薬組成物のpHは、4より大きく8未満であり、好ましくは5以上7以下であり、さらに好ましくは5.5以上6.5以下であり、最も好ましいのは6.0である。
【0044】
[界面活性剤]
本発明の医薬用組成物は界面活性剤を含むことが好ましい。医薬用組成物として適する界面活性剤には、限定されずに、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、双性イオン界面活性剤及びその組合せが含まれる。本発明用の一般的な界面活性剤には、限定されずに、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート)、ソルビタントリオレエート、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノステアレート)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート)、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート)、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル(例えば、ポリエチレングリコールジステアレート)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(例えばポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)、ポリオキシエチレン蜜蝋誘導体(例えば、ポリオキシエチレンソルビトール蜜蝋)、ポリオキシエチレンラノリン誘導体(例えば、ポリオキシエチレンラノリン)、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド(例えば、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド)、C10~C18アルキル硫酸(例えば、セチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム)、平均2~4モルのエチレンオキシド単位を追加したポリオキシエチレンC10~C18アルキルエーテル硫酸(例えば、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム)及びC1~C18アルキルスルホコハク酸エステル酸塩(例えば、ラウリルスルホコハク酸ナトリウムエステル)、ならびに天然の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質(例えば、スフィンゴミエリン)及びC12~C18脂肪酸のショ糖エステルが含まれる。
本発明の医薬用組成物は、これらの界面活性剤の1つまたは複数を含むことができる。好ましい界面活性剤は、非イオン性界面活性剤(例えばソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタントリオレエート、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン蜜蝋誘導体、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド)であり、より好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポロキサマー188)またはポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、例えばポリソルベート20、40、60もしくは80である。界面活性剤の濃度は、本技術分野において通常される任意の濃度であってよく、一例として約0.01%(w/v)~約0.1%(w/v)、例えば、約0.01%(w/v)~約0.04%(w/v)、例えば、約0.01%(w/v)、約0.02%(w/v)、約0.04%(w/v)、約0.06%(w/v)、約0.08%(w/v)、約0.1%(w/v)の濃度で使用しうる。界面活性剤の中で特に、ポリソルベート80(Tween80)が特に有益である。一実施態様では、安定な医薬用組成物は、約0.02%(w/v)のポリソルベート80を含む。一実施態様では、安定な医薬用組成物は、約0.02%(w/v)のポリソルベート20を含む。
【0045】
[ポリオール]
本発明の医薬用組成物はポリオールを含むことが好ましく、ポリオールの添加により医薬用組成物の浸透圧を調節することができ、また凝集物の生成を抑制することができる。
本発明の医薬組成物に含まれるポリオールとしては、薬学的に許容されれば特に限定されないが、20℃における水100gに対して100g以上溶解するポリオール(すなわち、20℃における水への溶解度が100g/100g以上のポリオール)が好ましい。
ポリオールは、多価アルコールとも言い、2つ以上のアルコール性水酸基を有する分子であれば良いが、例えば、グリセロール(グリセリン)、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、糖類等が挙げられ、好ましくは糖類が挙げられる。
本発明の医薬用組成物として適する糖類には、限定されずに、単糖類、二糖類、三糖類、多糖類、糖アルコール、還元糖、非還元糖等を含む一般式(CH2O)nを有する化合物及びその誘導体である。糖類の例には、単糖類としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、二糖類としてはスクロース、トレハロース、ラクトース、マルトース、ラクツロース、マルツロース、イソ-マルツロース、メリビオース、三糖類としてはメレジトース、ラフィノース、マルトトリオース、多糖類としては、スタキオース、デキストラン、糖アルコールとしてはソルビトール、マンニトール、エリスリトール、マルチトール、ラクチトール、アラビトール、キシリトール等が挙げられる。単糖類、二糖類、三糖類のうち、還元糖としてはグルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース、ラクツロース、マルツロース、イソ-マルツロース、メリビオース、メレジトース、マルトトリオースが挙げられ、非還元糖としてはトレハロース、スクロース、ラフィノースが挙げられる。本発明の医薬用組成物に含まれる糖類としては、ソルビトール、スクロース、トレハロースまたはマンニトール、が好ましく、ソルビトールまたはスクロースが最も好ましい。
本発明の医薬用組成物に含まれる糖類の濃度は、薬学的に許容されれば特に限定されないが、50mM~300mMが好ましく、165mM~275mMがより好ましく、200mM~220mMがさらに好ましい。また糖類の濃度は約50mM、約55mM、約100mM、約110mM、約150mM、約165mM、約200mM、約220mM、約275mM、約300mMが好ましい。一実施態様では、安定な医薬用組成物は、3%~5%(w/v)(165~275mM)のソルビトールを含む。一実施態様では、安定な医薬用組成物は、約3.6%(w/v)または約4%(w/v)(それぞれ、約200mMまたは約220mM)のソルビトールを含む。
【0046】
好ましくは、本発明の医薬用組成物の浸透圧比は、0.5~4、より好ましくは、0.7~3、さらに好ましくは、1~2、最も好ましく等張(0.9~1.2)であり、例えば約0.9、約1.0、約1.1、約1.2、約1.3、約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9、約2.0である。医薬用組成物の浸透圧は、有効成分以外に加える成分、例えば塩又はポリオールなどの濃度により調節することができる。塩濃度を低下させる観点から、医薬組成物の浸透圧は、ポリオールを用いて調節することが好ましい。
【0047】
[ヒト抗IL-33モノクローナル抗体]
本発明の医薬用組成物は有効成分としてヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)を含む。本発明の医薬用組成物に含まれるヒト抗IL-33モノクローナル抗体の濃度は、薬学的に許容されれば特に限定されないが、1mg/mL~200mg/mL、5mg/mL~175mg/mL、10mg/mL~150mg/ml、20mg/mL~150mg/mLが好ましく、例えば約1、約5、約10、約20、約25、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、約100、約110、約120、約130、約140、約150、約160、約170、約175mg/mLである。本発明の医薬用組成物の抗体濃度は175mg/mL以上では粘度が高いため、175mg/mL未満であることが好ましく、150mg/mL以下であることがより好ましい。一実施態様では、安定な医薬用組成物は、約10mg/mLまたは約150mg/mLのA10-1C04を含む。一実施態様では、安定な医薬用組成物は、約10mg/mLまたは約150mg/mLのA23-1A05を含む。一実施態様では、安定な医薬用組成物は、約10mg/mLまたは約150mg/mLのA25-2C02を含む。一実施態様では、安定な医薬用組成物は、約10mg/mLまたは約150mg/mLのA25-3H04を含む。一実施態様では、安定な医薬用組成物は、約10mg/mLまたは約150mg/mLのA26-1F02を含む。
【0048】
本発明の医薬用組成物は粘度が適切であり、どのような患者でも容易に投与できることが好ましい。粘度は低ければ強い力を要することなく投与でき、本発明者らは本発明の医薬用組成物については、粘度が約20cP以上で投与時の注射筒からの射出がやや困難となることを見出した。そこで、本発明に係る医薬用組成物は粘度が50cP以下であることが好ましく、30cP以下であることがより好ましく、20cP以下であることがさらに好ましく、10cP以下であることが最も好ましい。一実施態様では、本発明の医薬用組成物は、約1、約2、約5、約10、約15、約20cPである。本発明の粘度はレオメトリー(回転式あるいはキャピラリー)で測定することができる。
【0049】
[医薬用組成物を使用する方法]
本発明の医薬用組成物は、例えば、喘息、アレルギー(アトピー性皮膚炎、花粉症)、子宮内膜症等のIL-33関連疾患を有する患者の処置(治療、予防等)のために使用される。投与様式は特に限定しないが、全身投与でもよく、局所投与でもよい。例えば、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与があげられる。本発明の医薬用組成物は、例えば皮下投与であれば、投与量が限られるため、高濃度のヒト抗IL-33抗体を含有することが好ましく、例えば、10mMヒスチジン、4%(w/v)ソルビトール、0.02%(w/v)ポリソルベート80、150mg/mlの有効成分を含み、pHが5.5~6.5に調整された医薬用組成物であることが好ましい。本発明の医薬用組成物は、例えば静脈内投与であれば、低濃度のヒト抗IL-33抗体を含有してもよく、例えば、10mMヒスチジン、3.6%(w/v)ソルビトール、0.02%(w/v)ポリソルベート80、10mg/mlの有効成分を含み、pHが5.5~6.5に調整された医薬用組成物であることが好ましい。
【0050】
IL-33関連疾患の例として、非限定的に、喘息、アトピー性皮膚炎、じんま疹、花粉症、アナフィラキシーショック、好酸球性副鼻腔炎、好酸球増多症候群、チャーグ・ストラウス症候群、アレルギー性脳脊髄炎、リウマチ性多発筋痛、リウマチ性心疾患、多発性硬化症、関節炎(例えば、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬性関節炎、変形性関節症、ライター症候群等)、全身性エリトマトーデス(円板状狼蒼を含む)、乾癬、強直性脊椎炎、肝炎(例えば、自己免疫性肝炎、慢性活動性肝炎等)、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、グルテン感受性腸疾患等)、全身性エリトマトーデス、シェーグレン症候群、ベーチェット病、天疱瘡、類天疱瘡、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性炎症性眼疾患、自己免疫性新生児血小板減少症、自己免疫性好中球減少、自己免疫性卵巣炎及び睾丸炎、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性甲状腺炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、重症筋無力症、アドレナリン作動薬耐性、円形脱毛症(alopecia greata)、抗リン脂質症候群、副腎の自己免疫疾患(例えば、自己免疫性アジソン病等)、セリアックスプルー-皮膚炎、慢性疲労免疫機能障害症候群(CFIDS)、寒冷凝集素病、本態性混合クリオグロブリン血症、線維筋痛-線維筋炎、糸球体腎炎(例えば、IgA腎症(nephrophathy)等)、グレーブス病、甲状腺機能亢進症(すなわち、橋本甲状腺炎)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、混合結合組織病、1型または免疫介在性糖尿病、悪性貧血、多発性軟骨炎(polychrondritis)、多腺症候群、スティッフマン症候群、白斑、サルコイドーシス、多腺性内分泌障害、他の内分泌腺不全、動脈硬化症、肝線維症(例えば、原発性胆汁性肝硬変等)、肺線維症(例えば、突発性肺線維症等)、慢性閉塞性肺疾患、強皮症(CREST症候群、レイノー現象等を含む)、子宮内膜症、子宮腺筋症、尿細管間質性腎炎、デンスデポジット病、急性腎障害、心筋炎、心筋症、神経炎(例えば、ギラン・バレー症候群等)、結節性多発性動脈炎、心臓切開症候群(cardiotomy syndrome)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、IgA神経障害、扁平苔癬、メニエール病、ポスト心筋梗塞(post-MI)、ブドウ膜炎、ブドウ膜炎眼炎(Uveitis Opthalmia)、血管炎、原発性無ガンマグロブリン血症、癌(例えば、脳腫瘍、喉頭癌、口唇口腔癌、下咽頭癌、甲状腺癌、食道癌、乳癌、肺癌、胃癌、副腎皮質癌、胆管癌、胆嚢癌、肝臓癌、膵臓癌、膀胱癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、睾丸癌、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、ユーイング腫瘍、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、黒色腫、中皮腫、多発性骨髄腫等)、免疫系による排除に抵抗を示す感染(例えば、重症急性呼吸器症候群(SARS))、強毒性インフルエンザ感染症に伴う致死的サイトカインストーム、並びに、敗血症が挙げられ、好ましくは、喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、アナフィラキシーショック、強皮症、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節炎、全身性エリトマトーデス、強直性脊椎炎、肝線維症、肺線維症、急性腎障害、血管炎及び癌等が挙げられる。
【0051】
本発明の「安定な」医薬用組成物は、冷蔵温度(2~8℃)で少なくとも12カ月、好ましくは2年間、さらに好ましくは3年間、または室温(22~28℃)で少なくとも3カ月、好ましくは6カ月、さらに好ましくは1年間、有意な変化が観察されない。例えば、5℃で2年間保存後に白濁が見られず、OD650が0.014以下、好ましくは0.01以下、さらに好ましくは0.008以下であり、pHドリフトが1以下、好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.5以下であり、Kd値が-4mL/g以上、好ましくは-2mL/g以上、さらに好ましくは正の値であり、あるいは、パーティクルカウンターによる1.5μm以上の粒子が1500個/mL以下、好ましくは1000個/mL以下、さらに好ましくは750個/mL以下、最も好ましくは500個/mL以下である。
【0052】
本発明の医薬用組成物には、必要に応じてさらに、保存剤、吸着防止剤、無痛化剤、含硫還元剤、酸化防止剤等を適宜添加することができる。
【0053】
保存剤としては薬学的に許容されれば特に限定されないが、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾールを挙げることができる。
【0054】
吸着防止剤としては薬学的に許容されれば特に限定されないが、例えば、ヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコールを挙げることができる。
【0055】
無痛化剤としては薬学的に許容されれば特に限定されないが、例えば、リドカイン等の局所麻酔剤を挙げることができる。
【0056】
含硫還元剤としては薬学的に許容されれば特に限定されないが、例えば、N-アセチルシステイン、N-アセチルホモシステイン、チオクト酸、チオジグリコール、チオエタノールアミン、チオグリセロール、チオソルビトール、チオグリコール酸及びその塩、チオ硫酸ナトリウム、グルタチオン、炭素原子数1~7のチオアルカン酸等のスルフヒドリル基を有するものが挙げられる。
【0057】
酸化防止剤としては薬学的に許容されれば特に限定されないが、例えば、エリソルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、α-トコフェロール、酢酸トコフェロール、L-アスコルビン酸及びその塩、L-アスコルビン酸パルミテート、L-アスコルビン酸ステアレート、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、没食子酸トリアミル、没食子酸プロピルあるいはエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等のキレート剤が挙げられる。
【0058】
本発明の医薬用組成物はより長期に保存するために凍結乾燥製剤でもよい。
【0059】
本発明を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例
【0060】
比較例1:ヒト抗IL-33モノクローナル抗体含有医薬用組成物の白濁
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)を溶媒(10mM Na-phosphate/pH7/150 mM NaCl/0.02%(w/v)Polysobate80)(以下、「P7N」と略す。)に150mg/mLの濃度になるように調製し、肉眼による性状を確認したところ白濁が認められた(例えば、A10-1C04について図1に示す)。なお、白濁の有無の確認は、黒色の背景にて白色光(13W蛍光灯)下で肉眼にて観察した。また、この医薬用組成物をFlowCam(Fluid Imaging Technologies製)でサブビジブル粒子(5μm以上の微粒子)を測定したところ、1919個/mLの微粒子が検出された。これらの結果から、ヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)は凝集性が高く、製剤化が困難であると考えられた。
【0061】
比較例2:ヒト抗IL-33モノクローナル抗体含有医薬用組成物の白濁に対するpHの効果
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)の白濁を解消するために、比較例1の処方を元に緩衝剤を下記の通り変更して医薬用組成物のpHを変化させた。抗体濃度は150mg/mlとした。検討した処方を以下に示す。
・10mM Na-acetate/pH4/150 mM NaCl/0.02%(w/v)Polysobate80(以下、「A4N」と略す。)
・10mM Na-acetate/pH5/150 mM NaCl/0.02%(w/v)Polysobate80(以下、「A5N」と略す。)
・10mM Histidine/pH6/150 mM NaCl/0.02%(w/v)Polysobate80(以下、「H6N」と略す。)
・10mM Na-phosphate/pH6/150 mM NaCl/0.02%(w/v)Polysobate80(以下、「P6N」と略す。)
・10mM Na-phosphate/pH7/150 mM NaCl/0.02%(w/v)Polysobate80(以下、「P7N」と略す。)及び
・10mM Na-phosphate/pH8/150 mM NaCl/0.02%(w/v)Polysobate80(以下、「P8N」と略す。)
性状の評価を行った結果、pH4、5、6、7、8いずれの処方でも白濁した。この結果から、処方のpHを変えても白濁は改善しないと考えられた。
なお、肉眼による性状確認は、比較例1に記載の方法で観察した。
【0062】
実施例1:糖の添加による白濁抑制効果
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)の白濁を解消するために、比較例2の処方であるA4N、A5N、H6N、P6N、P7N及びP8Nに含まれる塩化ナトリウムの代わりにソルビトールを5%添加した以下の処方で評価した。抗体濃度は150mg/mlとした。
・10mM Na-acetate/pH4/5%(w/v) Sorbitol/0.02%(w/v)Polysobate80(以下、「A4S」と略す。)
・10mM Na-acetate/pH5/5%(w/v) Sorbitol/0.02%(w/v)Polysobate80(以下、「A5S」と略す。)
・10mM Histidine/pH6/5%(w/v) Sorbitol/0.02%(w/v)Polysobate80(以下、「H6S」と略す。)
・10mM Na-phosphate/pH6/5% (w/v)Sorbitol/0.02%(w/v)Polysobate80(以下、「P6S」と略す。)
・10mM Na-phosphate/pH7/5%(w/v) Sorbitol/0.02%(w/v)Polysobate80(以下、「P7S」と略す。)
・10mM Na-phosphate/pH8/5%(w/v) Sorbitol/0.02%(w/v)Polysobate80(以下、「P8S」と略す。)
性状及びOD650(濁度)の評価を行った結果、塩化ナトリウムの代わりにソルビトールを添加することで白濁が改善された(例えば、A10-1C04について図2に示す)。また、ソルビトールを添加することで40℃で3カ月後もOD650の増大は抑制され、特に、pH5~7で抑制効果は良好であった(表3)。
なお、肉眼による性状確認は、比較例1に記載の方法で観察した。OD650は各処方の溶液100μLについてMolecular Device マイクロプレートリーダー(SoftMax Proソフトウェア―)にて650nmでの吸光度を測定した。
【0063】
【表3】
【0064】
実施例2:塩濃度と白濁(1)
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)を10mM Histidine/pH6.0またはpH5.5の緩衝液に溶解し、NaClを0、50、100mM添加した時の、凝集性の指標である相互作用パラメータ(Kd値)の測定を行った。測定温度は25℃とし、抗体濃度は0.5、1、2.5、5、10、20mg/mLとなるよう調製した。その結果、NaCl添加量50mM以上でKd値が負になった(凝集性が大きくなった)ことから、NaCl添加量は50mM未満が良いと考えられた(例えば、A10-1C04について表4に示す)。なお、Kd値は、動的光散乱法により拡散係数(Dm)を求め、抗体濃度(横軸)と拡散係数(縦軸)のプロットから傾きを求め、この傾きを濃度0の時の拡散係数(D0)で割って算定できる。すなわち、Kd値は以下の関係式から算出する。Kd値は、値が正で大きいほど凝集性は低い。

Dm=D0(1+Kd値×[抗体濃度])
【0065】
【表4】
【0066】
実施例3:塩濃度と白濁(2)
10mM Histidine/pH6.0/3.6%(w/v) SorbitolにNaClを0、5、10、30mM添加し、凝集性の指標であるKd値の測定を行った。抗体は2.5、5、10、14mg/mLのA10-1C04を用いた。その結果、NaCl添加量30mM以上でKd値が負になった(NaClを0、5、10及び30mMのKd値はそれぞれ、17.3、7.3、1.2及び-4.0mL/g)ことから、NaCl添加量は30mM未満が良いと考えられた。Kd値は、実施例2に記載の方法で算出した。
【0067】
実施例4:pHドリフト
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)を含む医薬組成物の長期保存時のpHの推移を測定した。抗体濃度は150mg/mLとし、pH4~8の処方について調べた(A4S、A5S、H6S、P6S、P7S、P8S)。各製剤について、調製時及び2、4、8、12週間40℃で保存した時のpHを測定した。その結果、pH4(A4S)、pH8(P8S)の処方でpHのドリフトが顕著であった(例えば、A10-1C04について表5に示す)。従って、pHドリフトの少ないpH5から7の処方が良いと考えられた。
【0068】
【表5】
【0069】
実施例5:抗体濃度と粘度
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)を10mM Histidine/pH6/3.6%(w/v) Sorbitol/0.02%(w/v) Polysobate80の処方において、抗体濃度15、50、100、125、150、175、200mg/mlで医薬用組成物を調製した。測定温度25℃での粘度を粘度計(Brookfield製DV3TLVCJ0型粘度計(CPA-40Z spindle、CPA-44YZ sample cup))を用いて測定した。A10-1C04の抗体濃度15、50、100、125、150、175及び200mg/mLの粘度はそれぞれ、1.19、1.84、5.33、9.15、16.29、47.98、84.96cPであり、150mg/mLを超えると急激に粘度が増加することが分かった。さらに、各粘度の溶液を調製し、注射筒を用いた射出性を調べたところ、粘度約20cPを超えるとやや投与困難となることが分かり、抗体濃度は175mg/ml未満が良いと考えられた。
【0070】
実施例6:糖添加と凝集性評価及び微粒子生成抑制効果
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)の10mM Histidine/pH6.0の組成物を、抗体濃度0.6125、1.25、2.5、5及び10mg/mLで調製して、スクロースまたはソルビトールを添加した場合の凝集性の指標であるKd値に与える効果を確認した。Kd値は、実施例2に記載の方法で算出した。例えば、A10-1C04を用いた場合のKd値は、糖非添加で33.4mL/gであり、3.6%(w/v)のスクロースまたはソルビトールを添加すると、それぞれ24.7、33.5mL/gで、いずれも正の値であった。この結果から、ソルビトールの代わりにスクロースを添加しても良いと考えられた。また、抗体濃度10mg/mlでソルビトールを3.6%(w/v)添加した処方(10mM Histidine/pH6.0/3.6%(w/v)Sorbitol)について、調製時及び50℃で1週間保存時の1.5μm以上の微粒子をパーティクルカウンターHIAC(HACH製 System 9703+型)を用いて測定した。HIACによる測定は、インジェクション量100μLで各検体について4回測定を実施し、1回目のデータは棄却した。その結果、ソルビトール非添加時と比べ、ソルビトール3.6%(w/v)を添加した場合、微粒子数の増加が抑制されたことから、ソルビトールを添加することで凝集抑制効果があると考えられた(例えば、A10-1C04について表6に示す)。
【0071】
【表6】
【0072】
実施例7:界面活性剤の凝集抑制効果
10mg/mLのヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)の10mM Histidine/pH6/3.6%(w/v) Sorbitolの組成物を調製して、界面活性剤としてポリソルベート20またはポリソルベート80を0.02%(w/v)添加した場合の凝集性に与える効果を確認した。界面活性剤の添加、非添加にかかわらず、調製時では凝集は認められなかった。
【0073】
実施例8:皮下投与製剤、静脈内投与製剤の安定性
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)の静脈内投与製剤(10mg/mL抗体/10mM Histidine/pH6/3.6%(w/v) Sorbitol/0.02%(w/v)ポリソルベート80)及び、皮下投与製剤(150mg/mL抗体/10mM Histidine/pH6/4%(w/v) Sorbitol/0.02%(w/v)ポリソルベート80)を調製した。静脈内投与製剤について調べたところ、5℃で24か月保存後も白濁、凝集微粒子数の増加及びpHドリフトは認められず、安定であることが確認された。皮下投与製剤についても同様に安定性を評価することができる。
【0074】
実施例9:ヒト抗IL-33モノクローナル抗体含有医薬用組成物の白濁に対するpHの効果(2)
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)の白濁を解消するために、比較例2で確認した処方のpHの範囲で塩化ナトリウムが含まれない以下の処方を調製した。
・10mM Na-acetate/pH4/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「A4」と略す。)
・10mM Na-acetate/pH5/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「A5」と略す。)
・10mM Histidine/pH6/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「H6」と略す。)
・10mM Histidine/pH7/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「H7」と略す。)
・10mM Na-phosphate/pH8/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「P8」と略す。)
例えば、150mg/mLのA10-1C04について性状の評価を行った結果、塩化ナトリウムの非添加により白濁が改善された。また、特に、pH4~7で抑制効果は良好であった(表7)。
【0075】
【表7】
【0076】
実施例10:ヒト抗IL-33モノクローナル抗体含有医薬用組成物の白濁に対する塩の効果(2)
ヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)の白濁を解消するために、実施例9の処方であるA4、A5、及びH6に各種濃度の塩化ナトリウムを加え評価した。
・10mM Na-acetate/pH4/10mM NaCl/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「A4N10」と略す。)
・10mM Na-acetate/pH4/30mM NaCl/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「A4N30」と略す。)
・10mM Na-acetate/pH4/50mM NaCl/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「A4N50」と略す。)
・10mM Na-acetate/pH4/100mM NaCl/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「A4N100」と略す。)
・10mM Na-acetate/pH5/10mM NaCl/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「A5N10」と略す。)
・10mM Na-acetate/pH5/30mM NaCl/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「A5N30」と略す。)
・10mM Na-acetate/pH5/50mM NaCl/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「A5N50」と略す。)
・10mM Na-acetate/pH5/100mM NaCl/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「A5N100」と略す。)
・10mM Histidine/pH6/10mM NaCl/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「H6N10」と略す。)
・10mM Histidine/pH6/30mM NaCl/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「H6N30」と略す。)
・10mM Histidine/pH6/50mM NaCl/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「H6N50」と略す。)
・10mM Histidine/pH6/100mM NaCl/0.02%(w/v)Polysorbate80(以下、「H6N100」と略す。)
例えば、150mg/mLのA10-1C04について性状の評価を行った結果、pH4~6で10mMの塩化ナトリウムでは白濁が抑制され、30mMを超える塩化ナトリウムでは白濁がみられた(表8)。
【表8】
【0077】
実施例11:界面活性剤の凝集抑制効果(2)
10mg/mLのヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)の界面活性剤の影響を確認するため、界面活性剤を添加した下記の処方を製造した。その後、これら検体を50℃の恒温槽内でローテ―ターを用いて30rpmで回転させた。経時的に取り出した検体を2000~3750Luxの蛍光灯下で白板及び黒板を背景に各5秒間目視検査した。界面活性剤非添加の系では2日後で凝集物が多数観察されたが、ポリソルベート80及びポロキサマー188を添加した検体は7日後も凝集物が観察されず、特にポリソルベート80を0.02%以上添加系では14日後も凝集物が観察されなかった。ポリソルベート20を添加した検体は4日後まで異物が観察されず、7日後に少量の異物が観察されたが、14日後に異物は観察されなかった。例えば、A10-1C04について実施した結果を表9に示す。
10mM Histidine/pH6 (以下 『H6(-)』と略す)
10mM Histidine/pH6/0.02%(w/v)Poloxamer188 (以下 『H6PX』と略す)
10mM Histidine/pH6/0.02%(w/v)Polysorbate20 (以下 『H6P20』と略す)
10mM Histidine/pH6/0.01%(w/v)Polysorbate80 (以下 『H6PS1』と略す)
10mM Histidine/pH6/0.02%(w/v)Polysorbate80 (以下 『H6PS2』と略す)
10mM Histidine/pH6/0.05%(w/v)Polysorbate80 (以下 『H6PS5』と略す)
【表9】
【0078】
実施例12:糖添加と凝集性評価(2)
10mg/mLのヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)の10mM Histidine/pH6.0の組成物を調製して、マンニトール、トレハロース、スクロースまたはソルビトールを添加した薬液を調製した。その後、これら検体を-80℃で8時間以上保管し凍結させ、その後室温にて4時間以上放置し融解させた。これらを繰り返し6回行った。その後、2000~3750Luxの蛍光灯下で白板及び黒板を背景に各5秒間目視検査した。糖を加えることで、非添加系に比べ、凍結融解後の凝集体の量が少なくなり、特にソルビトール及びスクロースを用いた系で凝集物の抑制効果がみられた。例えば、A10-1C04について行った結果を表10に示す。
10mM Histidine/pH6 (以下 『H6(-)』と略す)
10mM Histidine/pH6/3.0%(w/v)Sorbitol(以下 『H6So3』と略す)
10mM Histidine/pH6/3.6%(w/v)Sorbitol(以下 『H6So3.6』と略す)
10mM Histidine/pH6/4.0%(w/v)Sorbitol(以下 『H6So4』と略す)
10mM Histidine/pH6/5.0%(w/v)Sorbitol(以下 『H6So5』と略す)
10mM Histidine/pH6/3.6%(w/v)Sucrose(以下 『H6Su』と略す)
10mM Histidine/pH6/3.6%(w/v)Trehalose (以下 『H6Tr』と略す)
10mM Histidine/pH6/3.6%(w/v)Mannitol (以下 『H6Ma』と略す)
【0079】
【表10】
【0080】
実施例13:凍結乾燥
150mg/mLのヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)の10mM Histidine/pH6.0/0.02%(w/v)Polysorbate80の組成物を調製して、マンニトール、トレハロース、スクロースまたはソルビトールを添加後、棚式凍結乾燥(共和真空製)にて凍結乾燥した。性状は凍結乾燥後のケーキの形状を目視で確認した。
再溶解性は注射用水を加え、5℃で半日間静置後に溶液にケーキ形状が残っていないかを確認した。いずれの検体もケーキ形状は良好で、注射用水添加後の再溶解を確認した。凍結乾燥製剤での調製が可能であることが確認された。例えば、A10-1C04について行った結果を表11に示す。
10mM Histidine/pH6/0.02%(w/v)Polysorbate80/4.0% (w/v)Sorbitol (以下 『LYSO』と略す)
10mM Histidine/pH6/0.02%(w/v)Polysorbate80/4.0% (w/v)Sucrose (以下 『LYSU』と略す)
10mM Histidine/pH6/0.02%(w/v)Polysorbate80/4.0% (w/v)Trehalose (以下 『LYTR』と略す)
10mM Histidine/pH6/0.02%(w/v)Polysorbate80/2.0% (w/v)Mannitol (以下 『LYMA』と略す)
【表11】
【0081】
実施例14:安定性試験(1)
10mg/mLのヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)の10mM Histidine/pH6/0.02%(w/v)Polysorbate80/3.6%(w/v)Sorbitolの組成物を調製して、ガラスバイアルに充填し、ハロゲン化ブチルゴム栓で打栓したものを長期安定性試験として2~8℃の温度で1年、2年及び3年保管した。目視検査は2000~3750Luxの蛍光灯下で白板及び黒板を背景に各5秒間実施し、凝集の有無を確認した。結合活性は以下の方法で評価した。ヒトIL-33を96ウェルプレートに添加し一晩固相化した。BSAを用いてブロッキング後、各ウェルに試料溶液を添加し、HRP標識抗ヒトIgG抗体を反応させ、TMBで発色させた。その後、プレートリーダー(モレキュラーデバイス社)で450nmと650nmの吸光度を測定し、EC50を求めた。同様に測定した標準溶液のEC50を求め、その比率を算出した。いずれの測定ポイントでも凝集及びpHドリフトも観察されず、抗体の結合活性も減少しなかった。例えば、A10-1C04について行った結果を表12に示す。
【表12】
【0082】
実施例15:安定性試験(2)
150mg/mLのヒト抗IL-33モノクローナル抗体(A10-1C04、A23-1A05、A25-2C02、A25-3H04またはA26-1F02)の10mM Histidine/pH6/0.02%(w/v)Polysorbate80/4.0%(w/v)Sorbitolの組成物を調製して、ガラスバイアルに充填し、ハロゲン化ブチルゴム栓で打栓したものを長期安定性試験として2~8℃の温度で3か月及び6か月保管した。評価は実施例14と同様の方法で行った。いずれの測定ポイントでも凝集及びpHドリフトも観察されず、抗体の結合活性も減少しなかった。例えば、A10-1C04について行った結果を表13に示す。
【表13】
図1
図2
【配列表】
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