(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】ピペット先端部と共に使用するためのピペット、およびピペットと共に使用するための異なる種類のいくつかのピペット先端部を含むピペット先端部系列
(51)【国際特許分類】
B01L 3/02 20060101AFI20231222BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
B01L3/02 D
G01N1/00 101K
(21)【出願番号】P 2020555476
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2019060324
(87)【国際公開番号】W WO2019206879
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-04
(32)【優先日】2018-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505404725
【氏名又は名称】エッペンドルフ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【氏名又は名称】水内 龍介
(72)【発明者】
【氏名】ブルクハルト ライヒムース
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ ドゥンケル
(72)【発明者】
【氏名】イェンス ヴィルマル
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ダーヴィト
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-520039(JP,A)
【文献】特開2006-231326(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0227271(US,A1)
【文献】特表2007-516836(JP,A)
【文献】特表2004-501745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 3/02
G01N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
・棒状のピペットハウジング(2)と、
・上端に取り付け用開口部(84)を有するカラー(77)を備えているピペット先端部(70)を取り付けるための前記ピペットハウジング(2)の下端のネック(5)と、
・前記ピペット先端部(70)へと液体サンプルを引き込むため、および前記ピペット先端部(70)から前記サンプルを吐出するために、変位要素(79)を変位させるための駆動要素(12)と、前記ピペットハウジング(2)から突出し、前記ピペットハウジングに対して変位可能である操作要素(9)とを備える駆動装置(46)と、
・前記ネック(5)の隣に配置され、前記ピペットハウジングに対して前記ネック(5)の長手方向に変位可能であり、前記ピペット先端部(70)が前記ネック(5)へと取り付けられるときにピペット先端部(70)の前記カラー(77)によって変位させられるスキャン要素(48)を有しているスキャン装置(47)と、
・前記スキャン装置(47)に結合した機械式の表示装置(34)であって、前記スキャン装置(47)は、カラー(77)の高さがピペット先端部(70)の種類に特有であるピペット先端部(70)を前記ネック(5)に取り付けることにより、ピペット先端部(70)の種類に応じて表示を調整するように、前記スキャン要素(48)の前記ピペットハウジング(2)に対する位置に依存する該表示装置(34)の表示を調整するように設計されている、機械式の表示装置(34)と
を備える、異なる種類のピペットを含むピペット先端部系列のうちの一ピペット先端部と一緒に使用するためのピペットであって、
・前記ピペットハウジング(2)上に取り付けられた第1の調整要素(10)と、第1または第2のストッパ装置(32、44)上の第2の調整要素とを備えており、前記第1の調整要素(10)の調整によって測定ストロークを調整する調整装置(11)と、
・前記調整装置(11)の調整を表示するための前記調整装置(11)に結合した機械式カウンタ(34)と
をさらに備え、
・前記スキャン装置(47)は、前記ピペットハウジングに対する前記スキャン要素(48)の位置に依存する前記カウンタ(34)のカウント範囲を調整するように設計された前記カウンタ(34)上の機械式範囲調整装置に結合している
ことを特徴とするピペット。
【請求項2】
前記ピペット先端部(70)の種類に応じた表示は、容積の表示を含み、あるいは容積
の表示である、請求項1に記載のピペット。
【請求項3】
前記スキャン装置(47)は、垂直方向に前記ピペットハウジング(2)上を変位可能に案内されたプッシャー(49)を有し、該プッシャー(49)は、下端に前記スキャン要素(48)を有し、上端は前記表示装置(34)に結合している、請求項1または2に記載のピペット。
【請求項4】
前記プッシャー(49)は、垂直方向に互いに重ねられた異なる公称容積データ(57、58)を外側に有し、あるいはピペット先端部(70)の種類を示す別個の他のデータを有し、前記ピペットハウジング(2)は、前記プッシャー(49)の前記公称容積データまたは前記他のデータの変位領域に窓(36)を有し、該窓(36)を通して前記プッシャー(49)上のただ1つの公称容積データ(57、58)の全体またはただ1つの他のデータの全体を外側から見て取ることができる、請求項3に記載のピペット。
【請求項5】
・前記駆動要素(12)を第1の方向に変位させることによって互いに接触させることができる前記駆動装置(46)上の第1のストッパ要素(23)と前記ピペットハウジング(2)上の第2のストッパ要素(27)とを備える第1のストッパ装置(32)と、
・前記第1のストッパ装置(32)と一緒に前記駆動装置(46)の測定ストロークを定めるために、前記駆動要素(12)を前記第1の方向とは反対の第2の方向に変位させることによって互いに接触させることができる前記駆動装置上の第3のストッパ要素(37)と前記ピペットハウジング(2)上の第4のストッパ要素とを備える第2のストッパ装置(44)と
を備える、請求項1~4のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項6】
前記範囲調整装置は、前記カウンタ(34)の前方の外側に配置された前記プッシャー上端にマーク(55)を備えることにより、カラー(77)の高さが異なるピペット先端部(70)が前記ネック(5)に取り付けられるときに前記プッシャー(49)が異なる程度まで上方に変位させられることで、前記マーク(55)を異なるカウント範囲を表示するように前記カウンタ(34)の異なるカウンタローラ(35)の側方または間に位置させることができる、請求項3または5に記載のピペット。
【請求項7】
前記スキャン要素(48)は、前記ネック(5)を下端に有する前記ピペットハウジング(2)のシャフト(4)に沿って垂直方向に動かすことができるプッシャースリーブ(50)の前記プッシャー下端に形成されている、請求項3~6のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項8】
前記マークは、前記プッシャー上端に接続された開口部(51)の棒状の目盛りマーク(54)である、請求項
6に記載のピペット。
【請求項9】
前記操作要素(9)が解放されたときに前記第1のストッパ要素(23)が前記第2のストッパ要素(27)に接触するまで前記駆動要素(12)を前記第1の方向に変位させるために、前記ピペットハウジング(2)上の第1の接触点と前記駆動装置(46)上の第2の接触点とを有する第1のばね装置(45)を備える、請求項
5に記載のピペット。
【請求項10】
前記プッシャー(49)上の第5のストッパ要素(60)と前記ピペットハウジング(2)上の第6のストッパ要素(64)とを備える第3のストッパ装置(65)、および前記ネック(5)にピペット先端部(70)が取り付けられていないときに前記プッシャー(49)を下方に押して前記第5のストッパ要素(60)を前記第6のストッパ要素(64)上に位置させるために前記ピペットハウジング(2)上の第3の接触点と前記プッシャー(49)上の第4の接触点とを備える第2のばね装置(66)を有する、請求項3~
4のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項11】
前記プッシャー(49)は、上部において、前記ピペットハウジング(2)の上端から突出する取り外しボタン(85)に接続され、前記取り外しボタン(85)の作動により、ピペット先端部(70)を前記プッシャー下端によって前記ネック(5)から滑り落とすために、前記プッシャー(49)を下方に変位させることができる、請求項3~10のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項12】
前記ピペットハウジング(2)上を垂直方向に案内される取り外しプッシャー(97)を前記プッシャー(49)に加えて有しており、前記取り外しプッシャー(97)は、上端において取り外しボタン(85)に接続され、下端は前記ネックに隣接する前記プッシャー(49)の下端に対して半径方向にオフセットされて配置されており、(i)前記プッシャー(49)および取り外しプッシャー(97)の下端は、2つの周状の段差(100、101)を上端に有しているピペット先端部(70)を前記ネック(5)へと取り付けることによって、前記プッシャー(49)を前記段差(100)の内側によって変位させることができ、前記取り外しプッシャー(97)を前記段差(101)の外側によって変位させることはできず、前記取り外しボタン(85)を作動させることによって、前記取り外しプッシャー(97)の下端を前記ピペット先端部(70)の前記段差(101)の外側に押し付けて、前記ピペット先端部(70)を前記ネック(5)から滑り落とすことができるように、同じ高さに配置され、あるいは(ii)前記プッシャー(49)の下端が前記取り外しプッシャー(97)の下端よりも下方に配置されることで、平たい上端を有するピペット先端部(70)を前記ネック(5)へと取り付けることによって、前記プッシャー(49)を上方に変位させることができ、前記取り外しプッシャー(97)を上方に変位させることはできず、前記取り外しボタン(85)を作動させることによって、前記取り外しプッシャー(97)を前記ピペット先端部(70)の上端に押し付けることができ、前記ピペット先端部(70)を前記ネック(5)から滑り落とすことができる、
請求項3に記載のピペット。
【請求項13】
前記ネック(5)が、下端から離れた位置における外周に周状のショルダ(7)を有し、ピペット先端部(70)を、前記カラー(77)の内周において半径方向内側に突出している周状の内側段差(76)にて、前記内側段差(76)が前記ショルダ(7)に接触するまで押し込むことができる、
請求項1~11又は請求項12のいずれか一項に記載のピペット。
【請求項14】
異なる種類の少なくとも2つのピペット先端部(70)を含んでおり、各々のピペット先端部(70)は、下端に位置する先端開口部(73)と、上端に位置するピペット先端部(70)の種類に特有である高さの取り付け用開口部(84)を有するカラー(77)と、ピペット(1)の特定の輪郭を有するネック(5)への取り付けのための前記カラー(77)の内周の座領域とを有する、ピペットと一緒に使用するためのピペット先端部系列であって、
異なる種類のピペット先端部(70)を、該ピペット先端部(70)の座領域(78.1)によって、前記ネック(5)上の前記カラー(77)が異なる高さに上方へと突出するように、前記ネック(5)の同じ取り付け領域(5.1)へと取り付けることができる、ピペット先端部系列。
【請求項15】
以下の特徴、すなわち公称容積、形状、寸法、材料、コーティングの有無、表面処理の有無、管にフィルタが挿入されているか否か、電気絶縁性または導電性、および清浄度のうちの1つ以上に関して相違する少なくとも2つのピペット先端部(70)を含む、
請求項14に記載のピペット先端部系列。
【請求項16】
同じネック(5)における異なる公称容積を有するピペット先端部(70)の前記カラー(77)の上方への突出高さの違いが、機械式カウンタ(34)のカウンタローラ(35)の高さの1倍または整数倍である、
請求項14または15に記載のピペット先端部系列。
【請求項17】
前記高さの違いは、1~7mmの1倍または整数倍である、
請求項14~16のいずれか一項に記載のピペット先端部系列。
【請求項18】
前記座領域(78.1)の上方に、前記カラー(77)は、上端または内周において半径方向内側に突出した周状の内側段差(76.1)を有し、前記カラー(77)は、前記ピペット先端部(70)をネック(5)へと前記上端または前記内側段差(76.1)が前記ネック(5)のショルダ(7)に接触するまで押し込むことができるように、前記内側段差(76.1)の上方の拡大部分を有する、
請求項14~17のいずれか一項に記載のピペット先端部系列。
【請求項19】
各々のピペット先端部(70)は、上端に2つの同心な周状の段差(100、101)を有し、一方の段差(100)は前記先端開口部(73)の下方に対して他方の段差(101)よりもさらに上方に突出している、
請求項14~18のいずれか一項に記載のピペット先端部系列。
【請求項20】
前記先端開口部(73)と取り付け用開口部(84)との間の円筒形のプランジャ移動領域(71)と、ポジティブディスプレイスメント式ピペットとして形成されたピペット(1)のストロークロッド(12)の穴に取り付けられる上端のプランジャロッド(83)を備えるプランジャ(79)とを有する
、請求項14~19のいずれか一項に記載のピペット先端部系列。
【請求項21】
請求項1~13のいずれか一項に記載のピペットと、
請求項14~20のいずれか一項に記載のピペット先端部系列からの少なくとも1つのピペット先端部(70)とを含むピペットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペット先端部と共に使用するためのピペットに関する。さらに、本発明は、ピペットと共に使用するための異なる種類のいくつかのピペット先端部を含むピペット先端部系列に関する。
【背景技術】
【0002】
ピペットは、特には、科学および産業研究所において、医学、分子生物学、および製薬の応用分野で、選択された量の液体を供給するために利用されている。液体は、特には、単一の液体成分からなる均質な(単相の)液体、または複数の液体成分の均質な混合物(溶液)であってよい。さらに、液体は、液体と別の液体または固体との不均一な(多相の)混合物(乳液または懸濁液)であってもよい。
【0003】
ピペットは、ピペット先端部を固定するためのネック(アタッチメント)を下端に備える棒状のピペットハウジングを有する。ネックは、多くの場合、円錐形、円筒形、あるいは部分的に円錐形および円筒形の突出部であり、「ワーキングコーン」とも呼ばれる。ピペット先端部は、下端に先端開口部を有し、上端にはピペット先端部をネックへと固定することができる取り付け用開口部を有している中空のチューブである。液体は、ピペット先端部へと引き込まれ、ピペット先端部から吐出される。液体の引き込みおよび吐出は、ピペットによって制御される。定量ピペットは、不変の一定の量を得るように機能する。可変ピペットであれば、投薬される量を調整することができる。調整による量を表示するために、機械式のカウンタが使用される。量を調整するために、駆動装置のストロークを、カウンタに連結された調整装置によって調整することができる。使用後に、ピペット先端部は、アタッチメントから取り外され、新しいピペット先端部と交換することが可能である。このようにして、後のピペット使用時の汚染を回避することができる。
【0004】
エアクッション式ピペットは、ネックの孔へとチャネルによって接続されたピペットハウジング内のプランジャ/シリンダシステムを有する。エアクッション式ピペットのためのピペット先端部(エアクッション式ピペット先端部)には、プランジャが組み込まれていない。シリンダにおいてプランジャを変位させることにより、エアクッションが移動し、ネックに固定されたピペット先端部へと液体が吸い込まれ、さらにはピペット先端部から液体が吐出される。エアクッション式ピペットの欠点は、吸い込んだ液体の重量、ならびに温度、気圧、および湿度の影響に起因して、エアクッションの長さが変化することで、投薬量の誤差が生じることである。エアロゾルによるピペットの汚染も、問題になる可能性がある。
【0005】
ポジティブディスプレイスメント式ピペットが、プランジャが組み込まれたピペット先端部(ポジティブディスプレイスメント式ピペット先端部)と一緒に使用される。この形式のピペットは、ピペット先端部を固定するためのネックと、組み込まれたプランジャに結合してプランジャを動かすことができる駆動装置とを有する。プランジャが液体に直接接触するため、エアクッションの影響は存在しない。ポジティブディスプレイスメント式ピペットは、特には、高い蒸気圧、高い粘度、または高い密度の液体を供給するのに適しており、汚染を避けるためにエアロゾルが存在しないことが重要である分子生物学の用途に適している。
【0006】
使い捨てであり、あるいは再利用されるエアクッション式ピペット先端部またはポジティブディスプレイスメント式ピペット先端部は、プラスチックまたはガラスで構成される。
【0007】
ピペットは、さまざまなサイズにて、いずれの場合も適合する種類のピペット先端部と一緒に提供され、あるいは互いに近い公称容積を有するいくつかの適合する種類のピペット先端部と一緒に提供される。さまざまな用途のために、ユーザは、さまざまなサイズのピペットおよびピペット先端部を有する必要があり、したがって対応する購入、保守、および保管のコストが発生する。正しい割り当てを容易にするために、ピペットおよびピペット先端部のカラーコードによる識別が知られている。この場合、ユーザによる誤解の危険が存在する。
【0008】
欧州特許第2574402号明細書(特許文献1)が、シリンジの種類に応じたコードをシリンジシリンダの上端に有している投薬装置において使用するためのシリンジを説明している。さらに、シリンジと一緒に使用するための投薬装置が説明されており、この投薬装置は、コードをスキャンするためのリングセンサを備えるスキャン装置を評価装置に接続して有しており、評価装置が、エラーなくスキャンが行われた場合に、コードに応じた動作状態をとるように投薬装置を制御する。これは、例えば設定された投薬量の表示装置を備えている。
【0009】
独国特許出願公開第19948818号明細書(特許文献2)が、シリンジプランジャの上端にコードを有しているシリンジと、コードを読み取るための情報読み取り部を有しているピペット(「シリンジホルダー」)とを説明している。例えば50mLのシリンジなど、特定の種類の特定のシリンジが認識されると、この値を、光学ディスプレイ要素(LEDまたはLCDなど)によって出力することができる。
【0010】
国際公開第2011/110141号パンフレット(特許文献3)、ソビエト特許出願公開第597411号明細書(特許文献4)、および米国特許第4679446号(特許文献5)が、間に段差を有するいくつかの円錐部分へと分割されたアタッチメントを備えており、異なる円錐部分は異なるサイズのピペット先端部を取り付けるための異なるクランプゾーンを有しているエアクッション式ピペットを説明している。いくつかのチャネルがネックを貫いて延びており、チャネルのうちの1つは、ネックの中央の底面で終わり、他のチャネルは、段差の底面で終わっている。チャネルの他端は、プランジャ/シリンダシステムに接続されている。ネックに複数のチャネルがあり、複数のプランジャ/シリンダシステムが存在することから、これらのエアクッション式ピペットは、複雑な設計である。異なるサイズのピペット先端部を取り付けるとき、クランプゾーンが異なるがゆえに、取り付け力も異なる。
【0011】
欧州特許出願第0152120号明細書(特許文献6)が、デジタルリニア駆動モジュールと、デジタルリニア駆動モジュールへと接続されるピペット先端部を固定するための円錐形のネックを有するさまざまなサイズの変位モジュールとを備えるエアクッション式ピペット先端部を説明している。特定のサイズであり、かつ変位モジュールに適合したピペット先端部を、別個の変位モジュールのネックに固定することができる。異なるサイズのピペット先端部を使用するために、変位モジュールを、ピペット先端部のサイズに適合した変位モジュールと交換する必要がある。
【0012】
米国特許出願公開第2002/0001545号明細書(特許文献7)および米国特許第6,749,812号明細書(特許文献8)が、ピペット先端部を取り付けるためのばね式アタッチメントと、このアタッチメント上をガイドされるばね式エジェクタスリーブとを有する自動式の先端部エジェクタを備えたエアクッション式ピペットを説明している。さらに、ピペット先端部について、異なる種類の先端部が異なる基本構成を有している先端部の認識が存在する。この先端部の認識においては、ピペット先端部の種類の違いが、エジェクタスリーブに対するアタッチメントの変位の相違を電子センサによって検出することによって認識される。
【0013】
これらの既知のピペットは、ピペット先端部またはシリンジが電子センサによって認識されるという欠点を有する。この場合には、アタッチメントの変位およびエジェクタスリーブの変位の両方が、電子センサによって検出される。電子センサは、力、蒸気、などからの強いストレスにさらされる可能性があり、故障する恐れがある。電子機器は、設計を複雑にし、装置のコストを増加させる。さらに、電子機器は、ピペットを殺菌消毒する可能性を制限する。ピペット先端部の種類が異なると、アタッチメントへの取り付け面のサイズが異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】欧州特許第2574402号明細書
【文献】独国特許出願公開第19948818号明細書
【文献】国際公開第2011/110141号パンフレット
【文献】ソビエト特許出願公開第597411号明細書
【文献】米国特許第4679446号
【文献】欧州特許出願第0152120号明細書
【文献】米国特許出願公開第2002/0001545号明細書
【文献】米国特許第6,749,812号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような背景に対して、本発明の目的は、故障しにくく、さまざまな種類のピペット先端部と共に使用することができるピペットを生み出すことである。さらに、故障しにくい同じピペットと共に使用することができる異なる種類の複数のピペット先端部を含むピペット先端部系列が生み出される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、請求項1の特徴を備えるピペットによって達成される。本発明の好都合な実施形態が、従属請求項に明記される。
【0017】
ピペット先端部と共に使用するための本発明によるピペットは、
・棒状のピペットハウジングと、
・上端に取り付け用開口部を有するカラーを備えているピペット先端部を取り付けるための前記ピペットハウジングの下端のネックと、
・前記ピペット先端部へと液体サンプルを引き込むため、および前記ピペット先端部から前記サンプルを吐出するために、変位要素を変位させるための駆動要素と、前記ピペットハウジングから突出し、前記ピペットハウジングに対して変位可能である操作要素とを備える駆動装置と、
・前記ネックの隣に配置され、前記ピペットハウジングに対して前記ネックの長手方向に変位可能であり、前記ピペット先端部が前記ネックへと取り付けられるときにピペット先端部の前記カラーによって変位させられるスキャン要素を有しているスキャン装置と、
・前記スキャン装置に結合した機械式の表示装置と
を備え、
前記スキャン装置は、カラーの高さがピペット先端部の種類に特有であるピペット先端部を前記ネックに取り付けることにより、ピペット先端部の種類に応じて表示を調整するように、前記スキャン要素の前記ピペットハウジングに対する位置に依存する前記表示装置の表示を調整するように設計される。
【0018】
本発明によるピペットは、ピペット先端部系列のうちの一ピペット先端部と共に使用するのに適している。異なる種類のピペット先端部を、同じピペットのネックに取り付けることができる。これらは、ピペット先端部系列を形成する。異なる種類のピペット先端部は、特には以下の特徴、すなわち公称容積、形状、寸法、材料(PPおよび/またはPEなど)、コーティングの有無、表面処理の有無(洗剤含有液体の流出を改善するためのパール効果を有する処理など)、管にフィルタが挿入されている(フィルタ先端部)か否か、電気絶縁性または導電性、および清浄度(標準、滅菌、無タンパク質、PCRフリー、生物学的に純粋、など)のうちの1つ以上に関して相違する。異なる種類のピペット先端部は、異なる高さのカラーを有する。同じ種類のピペット先端部は、同じ高さのカラーを有する。カラーの高さは、ピペット先端部の種類に特有である。カラーは、ピペット先端部の上端に位置する領域であり、この領域にて、このピペット先端部は、ネックへと取り付けられたときにネックから上方に突出し、あるいはネックへと入り込む。ネックへの固定のために、ピペット先端部は、カラーの内周に座領域を有する。スキャン要素は、先端部がネックへと取り付けられるときにピペット先端部のカラーによって変位させられるように、ネックの隣に配置される。したがって、スキャン要素は、ネックに取り付けられたピペット先端部のカラーによって変位させられるのに適している。そのようにすることで、スキャン要素を、異なる高さのカラーによって異なる程度に変位させることができる。しかしながら、高さが低いカラーでは変位させられることがなく、高さが高い(または、いくつかの異なる高さの)カラーによって変位させることが可能であってもよい。スキャン要素によって検出されたカラーの高さに応じて、スキャン装置は、表示装置の表示を調整する。表示は、例えば、容積の表示またはピペット先端部の別の特徴の表示を含む。ユーザは、さまざまな種類のピペット先端部を使用して、使用柱の種類に応じた表示を直接読み取ることができる。表示は、それぞれの場合に使用されているピペット先端部の種類に自動的に合わせられる。機械式の表示装置は、異なる表示を機械的に調整できる表示装置である。表示を調整するために、表示装置はスキャン装置に結合している。表示は、スキャン要素の変位によって調整される。ピペットが、いかなる電気的なセンサも必要とせずにピペット先端部の種類を検出するため、故障のリスクが軽減される。また、ピペットを電子的なコンポーネントを必要とせずに純粋に機械的なやり方で設計でき、したがって電池の交換または電池の充電が存在せず、滅菌の可能性が広がることも好都合である。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、ピペット先端部の種類に応じた表示は、容積の表示を含み、あるいは容積の表示である。この実施形態において、異なる種類のピペット先端部は、公称容積が異なるピペット先端部である。公称容積は、ピペット作業に使用することができるピペット先端部の容積である。これは、製造者によって確立され、測定範囲を示すために使用される。別の実施形態によれば、カラーの高さが、ピペット先端部の公称容積につれて増加する。別の実施形態によれば、カラーの高さが、ピペット先端部の公称容積につれて減少する。容積の表示は、表示装置によって表示される少なくとも1つの容積を含む。可変ピペットに関して、これは、特定の公称容積を有するピペット先端部が取り付けられたときの調整装置の特定の調整における投薬可能量であり、さらには/あるいは可変ピペットまたは固定容積ピペットに関して、これは、取り付けられたピペット先端部の公称容積である。ピペット先端部の公称容積が増加すると、容積表示はより高い値へと移動する。これにより、容積表示がそれぞれの場合に使用されるピペット先端部に自動的に合わせられる。ユーザは、異なる公称容積のピペット先端部を使用して、調整後のピペット採取量および/または公称容積を、解釈の苦労を伴うことなく表示要素から直接的に読み取ることができる。
【0020】
本発明の別の実施形態によれば、機械式の表示装置は、スキャン要素がネックに取り付けられたピペット先端部のカラーによって変位させられていない場合に、ピペット先端部の特定の種類に依存する表示を示す。これは、ピペット先端部がネックに取り付けられていない場合や、スキャン要素を変位させるほどには高くない短いカラーを有するピペット先端部がネックに取り付けられている場合である。いずれの場合も、表示装置は、短いカラーを有するピペット先端部の種類に応じた表示を表示するように調整される。この場合、スキャン要素を、ストッパ装置によって初期位置に保持することができ、スキャン要素は、短いカラーを有するピペット先端部がネックに取り付けられるとき、初期位置から変位させられることがない。スキャン要素を変位させるための充分な高さの長いカラーを備えたピペット先端部がネックに取り付けられると、スキャン装置は、長いカラーを備えた取り付けられたピペット先端部の種類に応じて表示を調整する。別の実施形態において、表示装置の表示は、カラーを有するピペット先端部がネックに取り付けられているときに常に調整される。
【0021】
別の実施形態によれば、操作要素は、駆動要素に結合している。別の実施形態によれば、操作要素は、駆動要素にしっかりと接続され、あるいは歯車装置を介して駆動要素に結合する。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、ピペットは、エアクッション式ピペット先端部と共に使用するためのエアクッション式ピペットである。別の実施形態によれば、変位装置がピペットハウジング内に配置され、チャネルを介してネックの下端の穴に接続される。別の実施形態によれば、変位装置は、変位要素を備えた変位チャンバであり、変位要素を変位チャンバ内で変位させることができる。別の実施形態によれば、変位装置は、変位可能なプランジャを有するシリンダであり、変位可能なプランジャは、シリンダ内を密封の様相で案内される。別の実施形態によれば、駆動要素は、ピペットハウジング内で垂直方向に変位可能であり、下端において変位要素に結合し、上端において操作要素に結合したストロークロッドである。別の実施形態によれば、操作要素は、ピペットハウジングの上端から突出しており、少なくとも部分的にピペットハウジングへと押し込むことができる操作ボタンである。
【0023】
別の実施形態によれば、ピペットは、ポジティブディスプレイスメント式ピペット先端部と共に使用するためのポジティブディスプレイスメント式ピペットである。別の実施形態によれば、駆動要素は、ピペット先端部に組み込まれたプランジャから突出するプランジャロッドを取り付けるための垂直なボアホールを下端に備えるネックの垂直貫通チャネル内を案内されるストロークロッドである。別の実施形態によれば、ストロークロッドの上端は、操作要素に結合する。別の実施形態によれば、操作要素は、ピペットハウジングの上端から突出しており、少なくとも部分的にピペットハウジングへと押し込むことができる操作ボタンである。
【0024】
別の実施形態によれば、ピペットは、固定容積ピペットである。駆動要素を、固定容積ピペット内で、定められた測定ストロークによって往復移動させることができる。ポジティブディスプレイスメント式ピペットとして設計された場合、ピペットを、同じ測定ストロークで異なる容積を計り取るために、さまざまな直径の管と、いずれの場合も管の直径に合わせられたプランジャの直径とを有するポジティブディスプレイスメント式ピペット先端部と共に使用することができる。別の実施形態によれば、固定容積ピペットは、アタッチメントに取り付けられたピペット先端部の公称容積を表示する表示装置を有する。
【0025】
別の実施形態によれば、ピペットは、可変ピペットである。これは、調整可能な容積を有する。別の実施形態によれば、ピペットの測定ストロークが調整可能である。別の実施形態によれば、ピペットは、調整された測定ストロークを表示する表示装置を有する。別の実施形態によれば、表示装置は、カウンタである。別の実施形態によれば、可変ピペットは、ピペットハウジングの上端に配置された容積を調整するための第1の調整要素を備える。別の実施形態によれば、第1の調整要素は、操作要素でもあり、あるいは追加の構成要素である。追加の構成要素として設計される場合、第1の調整要素は、例えば、操作ボタンを取り囲むピペットハウジングの上端に回転可能に取り付けられたスリーブ状の調整ノブであり、操作ボタンを調整ノブへと少なくとも部分的に押し込むことができる。別の実施形態によれば、可変ピペットは、アタッチメントに取り付けられたピペット先端部の公称容積を表示する表示装置を有する。別の実施形態によれば、表示装置は、調整された体積に加えて公称容積を表示する。
【0026】
別の実施形態によれば、ピペットは、操作要素が解放された後に駆動要素を第1のストッパ装置が有効になる(第1のストッパ装置に接触する)まで上方に変位させるプランジャばねを有する。操作要素を作動させることにより、ストロークロッドを、第2のストッパ装置が有効になる(第2のストッパ装置に接触する)までプランジャばねの作用と反対に下方へと変位させることができる。別の実施形態によれば、操作要素は、駆動要素を異なる方向に駆動することを可能にする歯車装置を介して、駆動要素に結合する。別の実施形態によれば、駆動装置は切り換え装置を備え、したがって操作要素の作動時に、まず駆動要素を第2のストッパ装置が有効になるまで下方に変位させることができ、操作要素のさらなる作動にて、切り換え装置は、第1のストッパ装置が有効になるまで反対方向の駆動要素の変位を制御する。
【0027】
別の実施形態によれば、ピペット先端部の公称容積またはピペットにおいて使用できる種類に特有のピペット先端部の他の特徴が、ピペット上に記載され、さらには/あるいはピペットは、公称容積またはピペットにおいて使用できる種類に特有のピペット先端部の他の特徴に言及する1つ以上のIDを備える。別の実施形態によれば、公称容積または種類に特有の他の特徴が、ピペット先端部上に記載され、さらには/あるいはピペット先端部は、公称容積または種類に特有のピペット先端部の他の特徴に言及する1つ以上のIDを備える。
【0028】
別の実施形態によれば、ネックはピペットハウジングにしっかりと接続され、好ましくはネックをピペットハウジングに対して動かすことができない。ネックは、ピペットハウジングに直接的または間接的に接続されてよい。特には、ネックを、ピペットハウジングを支え、ピペットハウジングにしっかりと接続されるフレームまたはシャーシに、しっかりと接続することができる。
【0029】
別の実施形態によれば、スキャン装置は、垂直方向にピペットハウジング上を変位可能に案内されたプッシャーを備え、プッシャーは、下端にスキャン要素を有し、プッシャー上端は表示装置に結合している。この実施形態において、プッシャーの下端、したがってプッシャーを、カラーの高さが異なるピペット先端部をネックへと取り付けることによって、異なる程度まで上方に変位させることができる。変位の間に、プッシャー上端は、表示装置に作用し、したがってピペット先端部の種類に応じて容積の表示または他の表示を調整する。
【0030】
別の実施形態によれば、プッシャーは、垂直方向に互いに重ねられた異なる公称容積データを外側に有し、あるいはピペット先端部の種類を示す別個の他のデータを有し、ピペットハウジングは、プッシャーの公称容積データまたは他のデータの変位領域に窓を有し、この窓を通してプッシャー上のただ1つの公称容積データの全体またはただ1つの他のデータの全体を外側から見て取ることができる。公称容積データまたは他の情報ならびに窓は、ネックに取り付けられた各々のピペット先端部について、関連の公称容積データまたは他の情報を窓を通して外部から視認できるように配置される。これは、ピペット先端部のカラーの高さによって制御される。これにより、どの種類のピペット先端部が取り付けられているかを、ユーザが容易に認識できるようになる。
【0031】
別の実施形態によれば、ピペットは、駆動要素を第1の方向に変位させることによって互いに接触させることができる駆動装置上の第1のストッパ要素とピペットハウジング上の第2のストッパ要素とを有する第1のストッパ装置と、第1のストッパ装置と一緒に駆動装置の測定ストロークを定めるために、駆動要素を第1の方向とは反対の第2の方向に変位させることによって互いに接触させることができる駆動装置上の第3のストッパ要素とピペットハウジング上の第4のストッパ要素とを有する第2のストッパ装置とを備える。
【0032】
別の実施形態によれば、ピペットは、ピペットハウジング上に取り付けられた第1の調整要素と、第1の調整要素を調整することによって測定ストロークを調整するための第1または第2のストッパ装置上の第2の調整要素とを有する調整装置、ならびに調整装置の調整を表示するために調整装置に結合した機械式のカウンタを備え、スキャン装置は、ピペットハウジングに対するスキャン要素の位置に依存するカウンタのカウント範囲を調節するように設計されたカウンタ上の機械式の範囲調整装置に結合する。
【0033】
別の実施形態によれば、範囲調整装置は、カウンタの前方の外側に配置されたプッシャー上端にマークを備えることにより、カラーの高さが異なるピペット先端部がネックに取り付けられるときにプッシャーが異なる程度まで上方に変位させられることで、マークを異なるカウント範囲を表示するようにカウンタの異なる位置の側方または間に位置させることができる。この実施形態において、マークは、異なる高さのカラーによって、カウンタの異なる位置の側方または間に配置され、すなわち最初の小数点前位置の側方または背後、および/または最初の小数点後位置の側方または前方に配置される。カラーの高さに応じて、測定ストロークの所与の調節において取り付けられたピペット先端部によって計り取ることができる量をカウンタが直接表示するように、マークを調整することができる。これにより、カウンタのカウント範囲を10の累乗にてずらすことができる。これにより、同じピペットを使用して、公称容積が10の累乗にて互いに相違するピペット先端部を使用することができる。
【0034】
別の実施形態によれば、範囲調整装置は、カウンタを調整装置に結合させる切り換え可能な歯車装置を備える。切り換え可能な歯車装置を切り換えることにより、歯車装置のさまざまな伝達比を選択することができる。カラーの高さに応じて、測定ストロークの所与の調節において取り付けられたピペット先端部によって計り取ることができる量をカウンタが表示するように、歯車装置を切り換えることができる。
【0035】
別の実施形態によれば、スキャン要素は、ネックを下端に有するピペットハウジングのハウジングシャフトに沿って垂直方向に動かすことができるプッシャースリーブのプッシャー下端に形成される。プッシャースリーブは、ハウジングシャフト上をきわめて容易かつ正確に案内される。
【0036】
別の実施形態によれば、マークは、プッシャーの上端に接続された開口部の境界である。カウンタの数字を、開口部およびピペットハウジングの窓を通して外部から読み取ることができる。別の実施形態によれば、開口部は、取り付けられたピペット先端部について調整されたピペット容積を表示する数字だけが読み取り可能かつ/または開口部によって縁取られ、さらには/あるいはマークは、最初の小数点前位置および/または最高の小数点後位置を表示する。別の実施形態によれば、カウンタの位置またはカウンタローラは、互いに上下に配置される。追加の実施形態によれば、カウンタの位置、またはカウンタローラは、水平方向に互いに隣接して配置される。この実施形態において、マークは、プッシャーの上端の変位をマークの水平変位に変換する伝達機構によってプッシャーの上端に接続される。別の実施形態によれば、マークは、取り付けられたピペット先端部に当てはまるカウンタの最小の小数点前位置の後ろおよび/またはカウンタの最高の小数点後位置に配置されることができる開口部の開口部フレーム内の棒状の目盛りマークである。
【0037】
別の実施形態によれば、ピペットは、操作要素が解放されたときに第1のストッパ要素が第2のストッパ要素に接触するまで駆動要素を第1の方向に変位させるために、ピペットハウジング上の第1の接触点と駆動装置上の第2の接触点とを有する第1のばね装置を備える。
【0038】
別の実施形態によれば、第1のばね装置は、下端においてハウジング上の第1のばね支えに当接し、上端においてストロークロッド上の第2のばね支えに当接する第1のらせんばねである。別の実施形態によれば、ストロークロッドは、第1のらせんばねを通って案内される。
【0039】
別の実施形態によれば、操作要素は、同時に第1の調整要素でもあり、操作要素は、ハウジング内に回転可能に取り付けられ、第1の歯車装置を介して第2の調整要素に結合する。別の実施形態によれば、第1の歯車装置は、スピンドルナットと、スピンドルナットと螺合し、操作要素に回転可能に結合し、ストロークロッドを案内する細長いボアを有している垂直方向に整列したねじスピンドルと、ピペットハウジング内に垂直方向に整列し、スピンドルナットを案内する直線ガイドとを備える。この場合、スピンドルナットは第2の調整要素であり、スピンドルナットの下面は第1のストッパ要素であり、ストロークロッドから半径方向に突出するスピンドルナットの下方のビードが第2のストッパ要素である。
【0040】
別の実施形態によれば、機械式のカウンタは、第2の歯車装置によってハウジングに回転可能に取り付けられた調整ボタンまたは操作ボタンに結合する。
【0041】
別の実施形態は、プッシャー上の第5のストッパ要素とピペットハウジング上の第6のストッパ要素とを備える第3のストッパ装置、ならびにネックにピペット先端部が取り付けられていないときにプッシャーを下方に押して第5のストッパ要素を第6のストッパ要素上に位置させるためにピペットハウジング上の第3の接触点とプッシャー上の第4の接触点とを備える第2のばね装置を有する。これにより、ピペット先端部の取り付け前に、プッシャーは特定の下部停止位置に保持され、この位置からプッシャーを上方へとピペット先端部をネックに取り付けることによって変位させることができる。
【0042】
別の実施形態によれば、第2のばね装置は、下端においてプッシャー上の第3のばね支えに保持され、上端においてハウジング上の第4のばね支えに保持される第2のらせんばねである。この実施形態は、単純に設計されており、省スペースである。
【0043】
プランジャロッドをストロークロッドのボアホールに取り付けるために、ピペット先端部を取り付けた後に第2のストッパ装置が有効になるまで操作ボタンを押し込むことによってストロークロッドを下方に変位させることができる。これを、ピペット先端部に液体を引き込む直前に行うことができる。引き込みを行うために、ユーザは操作ボタンを離すだけでよく、なぜならば、第1のばね装置がストロークロッドを上方に変位させるからである。操作ボタンを再度押し下げると、ピペット先端部において液体が放出される。
【0044】
ピペット先端部を、ピペットから手動で取り外すことができる。ポジティブディスプレイスメント式ピペットの別の実施形態によれば、プランジャが組み込まれたピペット先端部の操作要素による取り外しが、ストロークロッドが下部ストロークロッド部分を有し、垂直なボアホールが下部ストロークロッド部分の上端まで延び、第3のばね装置が、上部ストロークロッド部分に組み込まれ、操作要素を下方へと押し込むことによって最初に上部ストロークロッド部分を第3のストッパ要素が第4のストッパ要素に当接するまで下部ストロークロッド部分と同時に下方に変位させることができるように構成され、操作ボタンがさらに強く押されると、第3のばね装置が圧縮され、上部ストロークロッド部分が下部ストロークロッド部分へとさらに深く進入することにより、プランジャロッドが垂直なボアホールから押し出され、ピペット先端部がネックから押し出されることで、可能にされる。
【0045】
さらなる実施形態によれば、エアクッション式ピペットは、操作要素および/または追加の取り外しボタンを作動させることによってピペット先端部の解放を可能にするエジェクタを有する。
【0046】
別の実施形態によれば、プッシャーは、上部において、ピペットハウジングの上端から突出する取り外しボタンに接続され、取り外しボタンの作動により、ピペット先端部をプッシャー下端によってネックから滑り落とすために、プッシャーを下方に変位させることができる。エジェクタは、ピペット先端部を手動でピペット先端部に触れることなくネックから取り外すことができるプッシャーによって実現される。
【0047】
組み込まれたプランジャをストロークロッドから取り外すために、ピペット先端部からのプランジャの取り外しを、ピペット先端部を滑り落とすことによってプランジャがストロークロッドから分離されるように、ストッパによって制限することができる。
【0048】
別の実施形態は、取り外しボタンの上方変位を制限するように設計された取り外しボタン上の第7のストッパ要素とハウジング上の第8のストッパ要素とを備える第4のストッパ装置、ならびにプッシャーが上方に変位させられるときに取り外しボタンの上方変位を阻止し、取り外しボタンが下方に変位させられるときにプッシャーも同時に下方に変位させるように設計された取り外しボタンとプッシャーとの間の伝達装置を有する。結果として、非作動の取り外しボタンの出発位置が、プッシャーが上方に変位しても変化しない。結果として、カラーの高さが異なるピペット先端部を取り付けても、取り外しボタンが異なる出発位置をとることがない。さらに、ピペット先端部をネックから滑り落とすための取り外しボタンの経路を、使用されるピペット先端部に関係なく一定に保つことができる。取り外しボタンとプッシャーとが互いに堅固に接続されている実施形態と比較して、操作の快適さおよび見た目が改善される。
【0049】
別の実施形態によれば、(i)伝達装置が、取り外しボタン上の第5の接触点とプッシャー上の第6の接触点とを有する第4のばね装置であることにより、プッシャーが上方に変位させられるときに第4のばね装置が圧縮され、取り外しボタンが下方に変位させられるときは、最初に第4のばね装置が圧縮され、次いで取り外しボタンがプッシャーと共に動き、あるいは(ii)伝達装置が、取り外しボタンに対するプッシャーの上方変位を許容し、プッシャーに対する取り外しボタンの下方変位を阻止する取り外しボタンとプッシャーとの間に配置されたロック装置である。1つの好ましい実施形態によれば、ロック装置は逆止装置である。
【0050】
変種(i)および変種(ii)の両方において、取り外しボタンの上方への変位は、第4のストッパ装置によって制限される。したがって、取り外しボタンは、所定の上部停止位置をとり、そこから下方へと変位させることが可能である。
【0051】
変種(i)において、取り外しボタンと取り出しロッドは、互いに堅固に接続されているのではなく、第4のばね装置によって接続されている。第4のばね装置は、特には、(らせん)ばね、または軟質弾性要素(ゴム、シリコーン、または熱可塑性エラストマーからなる要素など)であってよい。取り外しボタンとプッシャーとが互いにわずかに離れているだけであるため、取り外しボタンの作動時に、最初に第4のばね装置が圧縮され、取り外しボタンがプッシャーに当接すると、プッシャーが一緒に下方に変位する。他方で、ピペット先端部が取り付けられるとき、プッシャーの上方変位は、取り外しボタンの上方移動を、第4のストッパ装置によって阻止されるため生じさせず、第4のばね装置が圧縮されるだけである。
【0052】
変種(ii)においては、取り外しボタンとプッシャーとがロック装置によって互いに接続される。ロック装置は、構成要素について特定の方向への移動を阻止する機能を有する一方で、反対方向への移動は引き続き可能である。ロック装置は、例えば、取り外しボタンに取り付けられ、フリーホイールを有している歯車を備える。片側において、プッシャーはラックなどの歯を備える。ピペット先端部を取り付けるとき、エジェクタが上方に移動し、歯車は自由に回転する。対照的に、取り外しボタンの作動時には、歯車の自由な回転が止められ、プッシャーが一緒に下方へと移動して、プッシャー下端でピペット先端部をネックから滑り落とす。
【0053】
プッシャーに加えて、別の実施形態は、ピペットハウジング上を垂直方向に案内される取り外しプッシャーを有し、取り外しプッシャーは、上端において取り外しボタンに接続され、下端はネックに隣接するプッシャーの下端に対して半径方向にオフセットされて配置されており、(i)プッシャーおよび取り外しプッシャーの下端は、2つの周状の段差を上端に有しているピペット先端部をネックへと取り付けることによって、プッシャーを内側の段差によって変位させることができ、取り外しプッシャーを外側の段差によって変位させることはできず、取り外しボタンを作動させることによって、取り外しプッシャーの下端をピペット先端部の外側の段差に押し付けて、ピペット先端部をネックから滑り落とすことができるように、同じ高さに配置され、あるいは(ii)プッシャーの下端が取り外しプッシャーの下端よりも下方に配置されることで、平たい上端を有するピペット先端部をネックへと取り付けることによって、プッシャーを上方に変位させることができ、取り外しプッシャーを上方に変位させることはできず、取り外しボタンを作動させることによって、取り外しプッシャーをピペット先端部の上端に押し付けることができ、ピペット先端部をネックから滑り落とすことができる。
【0054】
この実施形態において、範囲の調整およびピペット先端部の取り外しは、プッシャーと、プッシャーとは別個の取り外しプッシャーによって達成される。例えば、外側および内側プッシャースリーブが存在でき、ここで、内側プッシャースリーブは、ピペットのシャフト上を案内され、外側プッシャースリーブは、内側プッシャースリーブにおいて案内される。ピペット先端部を取り付けるとき、一方のプッシャースリーブが上方へと押され、範囲の調整を動かす一方で、他方のプッシャースリーブは変位しない。このプッシャースリーブは、取り外しボタンの作動時にのみ使用される。これは、変種(i)において、ピペット先端部が上端に2つの同心な周状の段差を有し、上方へとより大きく突出している方の段差が、範囲の調整を作動させ、取り外しプッシャーの下端が、上方への突出が少ない方の段差に接触する。変種(ii)において、これは、プッシャーが非作動状態にあるときに取り外しプッシャーよりもさらに下方へと突出しており、したがって平坦な上端を有するピペット先端部が取り付けられることで、プッシャーは変位させられるが、取り外しプッシャーは変位させられないことで達成される。
【0055】
別の実施形態によれば、アタッチメントは、下端から離れた位置における外周に周状のショルダを有し、したがってピペット先端部を、カラーの上端またはカラーの内周において半径方向内側に突出している周状の内側段差によって、内側段差がショルダに接触するまでアタッチメントへと取り付けることができる。これにより、アタッチメントが、特定の種類の取り付けられたピペット先端部に常に同じ深さまで係合することが保証される。ピペット先端部のカラーが内側段差の上方に広がった部分を有しており、ショルダの上方のアタッチメントがカラーに対応するようには広くない場合、ピペット先端部を、内側段差の下方の座領域によってのみアタッチメントに取り付けることができる。たとえピペット先端部をカラーの上端がショルダに接触するまでアタッチメントへと押し込むことができる場合でも、カラーの上端よりも下方の座領域によってのみアタッチメントへと取り付けることができる。これにより、カラーの高さが相違する異なる種類のピペット先端部を、同じきつさでアタッチメントに取り付けることができる。これは、過度の力を加えることなく、ピペット先端部をアタッチメントにしっかりと固定し、ピペット先端部をアタッチメントから解放するのに有利である。カラーの上端またはカラーの内側段差がショルダに接触するまでピペット先端部をアタッチメントへと押し込むことができる以下でさらに説明されるピペット先端部系列の実施形態において、カラーの上端または内側段差は、「第9のストッパ要素」と呼ばれる。
【0056】
別の実施形態によれば、ピペットは、単一チャネルピペットである。単一チャネルピペットは、ハウジングの下端にピペット先端部を取り付けるための単一のアタッチメントだけを有する。別の実施形態によれば、ピペットは、多チャネルピペットである。多チャネルピペットは、複数のピペット先端部を同時に取り付けるためにピペットハウジングの下端に複数の並列なアタッチメントを有するピペットである。この実施形態において、スキャン装置は、特にはただ1つのネックまたは複数のネックに隣接して配置されたスキャン要素を有することができる。
【0057】
さらに、前記目的は、請求項17の特徴を有するピペット先端部系列によって達成される。ピペット先端部系列の好都合な実施形態が、従属請求項に示される。
【0058】
ピペットと一緒に使用するための本発明によるピペット先端部系列は、異なる種類の少なくとも2つのピペット先端部を含んでおり、各々のピペット先端部は、下端に位置する先端開口部と、上端に位置し、取り付け用開口部を有し、ピペット先端部の種類に特有である高さを有しているカラーと、ピペットの特定の輪郭を有するネックへの取り付けのためのカラーの内周の座領域とを有し、異なる種類のピペット先端部を、これらのピペット先端部の座領域によって、ネック上でカラーが異なる高さに上方へと突出するように、ネックの同じ取り付け領域へと取り付けることができる。
【0059】
カラーは、ピペット先端部の上端に位置する領域であり、この領域にて、このピペット先端部は、ネックへと取り付けられたときにネックから上方に突出し、あるいはネックへと入り込む。カラーの高さを、例えば、カラーの内周上の周状ビードによって形成されるピペット先端部の座領域から出発して測定することができる。異なる種類のピペット先端部を、実際に、それらの座領域によってネックの同じ取り付け領域に取り付けることができるため、座領域からのカラーの上端の距離は、ネックのカラーへの挿入深さに比例して増加する。このピペット先端部系列において、ピペット先端部は、異なる高さのカラーによって、スキャン装置によってピペットの表示装置の表示がピペット先端部の種類に応じて調整されるように、ピペットのスキャン装置のスキャン要素を制御する。したがって、異なる種類のピペット先端部がアタッチメントに取り付けられるとき、取り付けられた各々のピペット先端部の種類を示すように表示が調整される。ピペット先端部系列のピペット先端部は、エアクッション式ピペット先端部またはポジティブディスプレイスメント式ピペット先端部であってよい。ポジティブディスプレイスメント式ピペット先端部は、先端開口部と取り付け用開口部との間の内部の円筒形のプランジャ移動経路を有し、プランジャ移動経路に沿って移動することができるプランジャが組み込まれている。
【0060】
異なる種類のピペット先端部は、特には以下の特徴、すなわち公称容積、形状、寸法、材料(PPおよび/またはPEなど)、コーティングの有無、表面処理の有無(洗剤含有液体の流出を改善するためのパール効果を有する処理など)、管にフィルタが挿入されている(フィルタ先端部)か否か、電気絶縁性または導電性、および清浄度(標準、滅菌、無タンパク質、PCRフリー、生物学的に純粋、など)のうちの1つ以上に関して相違する。
【0061】
別の実施形態によれば、ピペット先端部系列は、公称容積が異なる少なくとも2つのピペット先端部を含み、公称容積が異なるピペット先端部を、それらの座領域によって同じネックへと、カラーがネック上で異なる高さへと突出するように取り付けることができる。このピペット先端部系列において、ピペット先端部は、異なる高さのカラーによって、スキャン装置によってピペットの表示装置の容積表示がカラーの高さに応じて調整または保持されるように、ピペットのスキャン装置のスキャン要素を制御する。結果として、公称容積の異なるピペット先端部がアタッチメントに取り付けられると、適切な容積表示が常に表示される。
【0062】
一実施形態によれば、ピペット先端部系列は、公称容積が10の累乗にて互いに相違するピペット先端部を含む。これらのピペット先端部を、機械式のカウンタを有するピペットにおいて使用し、カウンタローラのうちの1つに隣接するスキャン装置のマークを調整することができる。このピペット先端部系列において、カラーの高さは、カウンタローラの高さの1倍または整数倍だけ異なる。
【0063】
異なる種類のピペット先端部を、それらの座領域によって同じネックの同じ取り付け領域へと取り付けることができるため、さまざまな種類のピペットを同じ取り付け力でネックに取り付けることが可能になる。これは、ネックにさまざまな種類のピペット先端部を等しくしっかりと固定するのに好都合である。取り付け領域は、ネックの周囲を延びておりかつ段差を有していないネックの連続的な領域である。別の実施形態によれば、異なる種類のピペット先端部は、ネックの同じ取り付け領域へと排他的に取り付けることができるように構成される。この実施形態においては、さまざまな種類のピペット先端部をネックの取り付け領域以外の領域に取り付けることが不可能であることで、同一の取り付け力が達成される。エアクッション式ピペット先端部において、これは、同一の取り付け力のネックへのシール座をもたらすことができる。別の実施形態によれば、ピペット先端部の座領域は、周状のビードおよび/または周状の溝を含む。別の実施形態によれば、ピペット先端部の座領域のビードが、ピペットのネックの取り付け領域の溝に係合し、さらには/あるいは取り付け領域のビードが、座領域の溝に係合する。
別の実施形態によれば、カラーの高さの差は、1~7mmの範囲内に位置し、特には3~5mmの範囲内に位置し、好ましくは4.5mmであるカウンタローラの高さの1倍または整数倍である。上述の範囲であれば、カウンタホイールの数字を容易に視覚的に検出できる一方で、構造の体積が小さい。
【0064】
本発明によるピペット先端部系列のピペット先端部は、ピペットのネックへの取り付けを可能にするための内周の取り付け用開口部に隣接する座領域を有する。座領域は、ネックの少なくとも一部分の輪郭に合わせられる。この点に関して、座領域は、ネックの少なくとも一部分の輪郭(例えば、円筒形または円錐形の輪郭)と相補的な輪郭を有することができ、あるいはネックの少なくとも一部分の輪郭(例えば、円筒形または円錐形の輪郭)に合わせられた内周において突出するシールおよび/または案内構造(シールおよび/または案内ビードなど)を有することができる。公称容積が異なるピペット先端部を、それらの座領域によって、同じネックへと、それらのカラーがネック上で上方へと異なる高さに突出するように取り付けることができる。
【0065】
別の実施形態によれば、ピペットのアタッチメントへの取り付けは、ピペットに接触することによってピペットのネックへのピペット先端部の押し込みを防止する第9のストッパ要素によって確立される。第9のストッパ要素は、例えば、ピペット先端部の内周を巡って延びており、半径方向内側に突出しており、ネックの下端に当接するピペット先端部の内側段差であり、あるいは下向きに先細りであり、ネックの下端に当接するピペット先端部の円錐形のブレーキ領域である。第9のストッパ要素は、エアクッション式ピペット先端部およびポジティブディスプレイスメント式ピペット先端部において上述のやり方で形成することが可能である。ポジティブディスプレイスメント式ピペット先端部において、第9のストッパ要素は、別の実施形態によれば、半径方向外側に突出し、ピペットのストロークロッドに当接するプランジャまたはプランジャロッドの上面または周状のショルダである。
【0066】
別の実施形態によれば、第9のストッパ要素は、カラーの上端であり、あるいはカラーの内周を巡って延び、半径方向内側に突出するピペット先端部の内側段差であり、カラーは、この内側段差の上方に広がった部分を有し、したがってピペット先端部を、カラーの上端または内側段差がアタッチメントのショルダに当接するまで、カラーの上端または内側段差の下方に配置された座領域によって、ピペットのアタッチメントへとカラーの上端または内側段差に接触するまで取り付けることができる。この実施形態は、特定の種類のピペット先端部を同じ高さまでアタッチメントへと押し込むことができることを保証する。カラーの上端は、カラーの上端または内側段差がショルダ上に位置するかどうかに関係なく、スキャン装置のスキャン要素を制御することができる。別の実施形態によれば、ピペット先端部は、カラーの上端の下方または内側段差の下方の座領域によってのみピペット先端部をアタッチメントに取り付けることができ、内側段差の上方のカラーの広がった部分によってアタッチメントに取り付けることはできないように設計される。別の実施形態によれば、ピペット先端部は、それらの座領域によってアタッチメントのショルダの下方のアタッチメントの円筒形または円錐形の部分へと取り付けることができるように設計される。別の実施形態によれば、ピペット先端部は、内側段差の上方のカラーの広がった部分によってショルダの上方のアタッチメントの円筒形または円錐形の部分に取り付けることができないように設計される。別の実施形態によれば、内側段差の上方のカラーの広がった部分は、ピペット先端部がアタッチメントに取り付けられたときに、カラーの広がった部分とショルダの上方のアタッチメントの広がった部分との間にギャップが存在するように設計される。これにより、異なる種類のピペット先端部を同じアタッチメントに同じきつさで取り付けることができるようになる。これにより、過度の力を必要とせずに、アタッチメントへのピペット先端部のしっかりとした取り付け、およびアタッチメントからのピペット先端部の容易な取り外しが促進される。
【0067】
別の実施形態によれば、座領域は、ショルダに接触するまでピペット先端部をアタッチメントに取り付けることを可能にするカラーの上端まで延びる。別の実施形態によれば、座領域は、ショルダに接触するまでピペット先端部をアタッチメントに取り付けることを可能にする内側段差まで延びる。
【0068】
別の実施形態によれば、ピペット先端部系列は、カラーの上端がショルダに接触するまでアタッチメントへと押し込むことができるように設計されたピペット先端部と、内側段差がショルダに接触するまでアタッチメントへと押し込むことができるように設計された別の種類の少なくとも1つのピペット先端部とを含む。別の実施形態によれば、ピペット先端部系列は、内側段差がショルダに接触するまでピペットのアタッチメントへと押し込むことができるように設計された異なる種類の少なくとも2つのピペット先端部を含む。
【0069】
別の実施形態によれば、各々のピペット先端部は、上端に2つの同心な周状の段差を有し、一方の段差は下方のシリンジ開口部に対して他方の段差よりもさらに突出している。これらのピペット先端部は、取り外しボタンが非作動時に取り付けられたピペット先端部のカラーの高さに関係なく同じ位置を保持するピペットにおいて好都合に有用である。
【0070】
別の実施形態によれば、ピペット先端部系列は、公称容積が10μl、25μl、100μl、250μl、または1,000μlのうちの少なくとも2つであるピペット先端部を含む。
【0071】
別の実施形態によれば、ピペット先端部系列は、10μl、100μl、およびおそらくは1000μl、あるいは25μlおよび250μlの公称容積を有するピペット先端部を含む。これらの実施形態によれば、機械式の表示装置が、マークを異なる小数の位へと移動させることによって、異なる公称容積を有するピペット先端部で容積表示を変更できることがきわめて好都合である。
【0072】
さらに、本発明は、請求項1~16のいずれか一項に記載のピペットと、請求項17~23のいずれか一項に記載のピペット先端部系列からの少なくとも1つのピペット先端部とを含むピペットシステムに関する。このピペットシステムは、請求項1~16のいずれか一項に記載のピペットおよび請求項17~23のいずれか一項に記載のピペット先端部系列のピペット先端部の利点を有する。
【0073】
下記に、本発明によるピペット先端部および本発明によるピペット先端部系列の実施形態が示されている:
1.
・棒状のピペットハウジングと、
・上端に取り付け用開口部を有するカラーを備えているピペット先端部を取り付けるための前記ピペットハウジングの下端のネックと、
・前記ピペット先端部へと液体サンプルを引き込むため、および前記ピペット先端部から前記サンプルを吐出するために、変位要素を変位させるための駆動要素と、前記ピペットハウジングから突出し、前記ピペットハウジングに対して変位可能である操作要素とを備える駆動装置と、
・前記ネックの隣に配置され、ピペット先端部が前記ネックへと取り付けられるときに、前記カラーによって前記ピペットハウジングに対して前記ネックの長手方向に変位可能であるスキャン要素を有しているスキャン装置と、
・前記スキャン装置に結合した機械式の表示装置であって、前記スキャン装置は、種類が異なり、カラーの高さがピペット先端部の種類に特有であるピペット先端部を前記ネックに取り付けるときにピペット先端部の種類に依存して表示装置の表示を調整するように設計されている、機械式の表示装置と
を備える、一ピペット先端部と一緒に使用するためのピペット。
2.
前記ピペット先端部の種類に応じた表示は、容積の表示を含み、あるいは容積の表示である、1に記載のピペット。
3.
前記スキャン装置は、垂直方向に前記ピペットハウジング上を変位可能に案内されたプッシャーを有し、該プッシャーは、下端に前記スキャン要素を有し、上端は前記表示装置に結合している、1または2に記載のピペット。
4.
前記プッシャーは、垂直方向に互いに重ねられた異なる公称容積データを外側に有し、あるいはピペット先端部の種類を示す別個の他のデータを有し、前記ピペットハウジングは、前記プッシャーの前記公称容積データまたは前記他のデータの変位領域に窓を有し、該窓を通して前記プッシャー上のただ1つの公称容積データの全体またはただ1つの他のデータの全体を外側から見て取ることができる、2または3に記載のピペット。
5.
・前記駆動要素を第1の方向に変位させることによって互いに接触させることができる前記駆動装置上の第1のストッパ要素と前記ピペットハウジング上の第2のストッパ要素とを備える第1のストッパ装置と、
・前記第1のストッパ装置と一緒に前記駆動装置の測定ストロークを定めるために、前記駆動要素を前記第1の方向とは反対の第2の方向に変位させることによって互いに接触させることができる前記駆動装置上の第3のストッパ要素と前記ピペットハウジング上の第4のストッパ要素とを備える第2のストッパ装置と
を備える、1~4のいずれか一項に記載のピペット。
6.
・前記ピペットハウジング上に取り付けられた第1の調整要素と、第1または第2のストッパ装置上の第2の調整要素とを備えており、前記第1の調整要素の調整によって測定ストロークを調整する調整装置と、
・前記調整装置の調整を表示するための前記調整装置に結合した機械式カウンタと
をさらに備え、
・前記スキャン装置は、上端に高さの異なるカラーを備えるピペット先端部を前記ネックに取り付けるときに範囲調整装置がカラーの高さに依存する前記カウンタのカウント範囲を調整する前記カウンタ上の機械式範囲調整装置に結合している
ことを特徴とする、5に記載のピペット。
7.
前記範囲調整装置は、前記カウンタの前方の外側に配置された前記プッシャー上端にマークを備えることにより、カラーの高さが異なるピペット先端部が前記ネックに取り付けられるときに前記プッシャーが異なる程度まで上方に変位させられることで、前記マークを異なるカウント範囲を表示するように前記カウンタの異なるカウンタローラの側方または間に位置させることができる、6に記載のピペット。
8.
前記スキャン要素は、前記ネックを下端に有する前記ピペットハウジングのシャフトに沿って垂直方向に動かすことができるプッシャースリーブの前記プッシャー下端に形成されている、1~7のいずれか一項に記載のピペット。
9.
前記マークは、前記プッシャー上端に接続された開口部の棒状の目盛りマークである、7または8に記載のピペット。
10.
前記操作要素が解放されたときに前記第1のストッパ要素が前記第2のストッパ要素に接触するまで前記駆動要素を前記第1の方向に変位させるために、前記ピペットハウジング上の第1の接触点と前記駆動装置上の第2の接触点とを有する第1のばね装置を備える、1~9のいずれか一項に記載のピペット。
11.
前記プッシャー上の第5のストッパ要素と前記ピペットハウジング上の第6のストッパ要素とを備える第3のストッパ装置、および前記ネックにピペット先端部が取り付けられていないときに前記プッシャーを下方に押して前記第5のストッパ要素を前記第6のストッパ要素上に位置させるために前記ピペットハウジング上の第3の接触点と前記プッシャー上の第4の接触点とを備える第2のばね装置を有する、1~10のいずれか一項に記載のピペット。
12.
前記プッシャーは、上部において、前記ピペットハウジングの上端から突出する取り外しボタンに接続され、前記取り外しボタンの作動により、ピペット先端部を前記プッシャー下端によって前記ネックから滑り落とすために、前記プッシャーを下方に変位させることができる、1~11のいずれか一項に記載のピペット。
13.
前記取り外しボタン上の第7のストッパ要素と、前記ピペットハウジング上の第8のストッパ要素とを備える第4のストッパ装置を有し、前記第4のストッパ装置が前記取り外しボタンの上方変位を制限するように設計され、前記プッシャーが上方に変位させられるときに前記取り外しボタンの上方変位を阻止し、前記取り外しボタンが下方に変位させられるときに前記プッシャーも同時に下方に変位させられるように設計された前記取り外しボタンとプッシャーとの間の伝達装置をさらに有する、12に記載のピペット。
14.
(i)前記伝達装置が、前記取り外しボタン上の第5の接触点と前記プッシャー上の第6の接触点とを有する第4のばね装置であることにより、前記プッシャーが上方に変位させられるときに前記第4のばね装置が圧縮され、前記取り外しボタンが下方に変位させられるときは、最初に前記第4のばね装置が圧縮され、次いで前記取り外しボタンが前記プッシャーと共に動き、あるいは(ii)前記伝達装置が、前記取り外しボタンに対する前記プッシャーの上方変位を許容し、前記プッシャーに対する前記取り外しボタンの下方変位を阻止する前記取り外しボタンとプッシャーとの間に配置されたロック装置である、13に記載のピペット。
15.
前記ピペットハウジング上を垂直方向に案内される取り外しプッシャーを前記プッシャーに加えて有しており、前記取り外しプッシャーは、上端において取り外しボタンに接続され、下端は前記ネックに隣接する前記プッシャーの下端に対して半径方向にオフセットされて配置されており、(i)前記プッシャーおよび取り外しプッシャーの下端は、2つの周状の段差を上端に有しているピペット先端部を前記ネックへと取り付けることによって、前記プッシャーを前記内側の段差によって変位させることができ、前記取り外しプッシャーを前記外側の段差によって変位させることはできず、前記取り外しボタンを作動させることによって、前記取り外しプッシャーの下端を前記ピペット先端部の前記外側の段差に押し付けて、前記ピペット先端部を前記ネックから滑り落とすことができるように、同じ高さに配置され、あるいは(ii)前記プッシャーの下端が前記取り外しプッシャーの下端よりも下方に配置されることで、平たい上端を有するピペット先端部を前記ネックへと取り付けることによって、前記プッシャーを上方に変位させることができ、前記取り外しプッシャーを上方に変位させることはできず、前記取り外しボタンを作動させることによって、前記取り外しプッシャーを前記ピペット先端部の上端に押し付けることができ、前記ピペット先端部を前記アタッチメントから滑り落とすことができる、1~11のいずれか一項に記載のピペット。
16.
前記アタッチメントが、下端から離れた位置における外周に周状のショルダを有し、ピペット先端部を、前記カラーの内周において半径方向内側に突出している周状の内側段差にて、前記内側段差が前記ショルダに接触するまで押し込むことができる、1~15のいずれか一項に記載のピペット。
17.
異なる種類の少なくとも2つのピペット先端部を含んでおり、各々のピペット先端部は、下端に位置する先端開口部と、上端に位置するピペット先端部の種類に特有である高さの取り付け用開口部を有するカラーと、ピペットの特定の輪郭を有するネックへの取り付けのための前記カラーの内周の座領域とを有する、ピペットと一緒に使用するためのピペット先端部系列であって、
異なる種類のピペット先端部を、該ピペット先端部の座領域によって、前記ネック上の前記カラーが異なる高さに上方へと突出するように、前記ネックの同じ取り付け領域へと取り付けることができる、ピペット先端部系列。
18.
以下の特徴、すなわち公称容積、形状、寸法、材料、コーティングの有無、表面処理の有無、管にフィルタが挿入されているか否か、電気絶縁性または導電性、および清浄度のうちの1つ以上に関して相違する少なくとも2つのピペット先端部を含む、17に記載のピペット先端部系列。
19.
同じネックにおける異なる公称容積を有するピペット先端部の前記カラーの上方への突出高さの違いが、機械式カウンタのカウンタローラの高さの1倍または整数倍である、17または18に記載のピペット先端部系列。
20.
前記高さの違いは、1~7mm、好ましくは3~5mm、好ましくは4.5mmの1倍または整数倍である、17~19のいずれか一項に記載のピペット先端部系列。
21.
前記座領域の上方に、前記カラーは、上端または内周において半径方向内側に突出した周状の内側段差を有し、前記カラーは、前記ピペット先端部をアタッチメントへと前記上端または前記内側段差が前記アタッチメントのショルダに接触するまで押し込むことができるように、前記内側段差の上方の拡大部分を有する、17~20のいずれか一項に記載のピペット先端部系列。
22.
各々のピペット先端部は、上端に2つの同心な周状の段差を有し、一方の段差は前記下方の先端開口部に対して前記他方の段差よりもさらに上方に突出している、17~21のいずれか一項に記載のピペット先端部系列。
23.
前記先端開口部と取り付け用開口部との間の円筒形のプランジャ移動領域と、ポジティブディスプレイスメント式ピペットとして形成されたピペットのストロークロッドの穴に取り付けられる上端のプランジャロッドを備えるプランジャとを有する、17~22のいずれか一項に記載のピペット先端部系列。
24.
1~16のいずれか一項に記載のピペットと、17~23のいずれか一項に記載のピペット先端部系列からの少なくとも1つのピペット先端部とを含むピペットシステム。
【0074】
本発明は、本発明の例示的な実施形態の添付の図面を参考に下記にてさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】不作動状態のポジティブディスプレイスメント式ピペットの縦断面を示す。
【
図2】駆動装置に取り付けられ、駆動装置に結合したピペット先端部を備える同様のポジティブディスプレイスメント式ピペットの縦断面を示す。
【
図3】ピペット先端部を取り外したときに同様のポジティブディスプレイスメント式ピペットの縦断面を示す。
【
図4a】ハウジングなしに取り付けられた10μLのピペット先端部を備える同様のポジティブディスプレイスメント式ピペットを各々のケースにおいて斜視側面図で示す。
【
図4b】ハウジングと共に取り付けられた10μLのピペット先端部を備える同様のポジティブディスプレイスメント式ピペットを各々のケースにおいて斜視側面図で示す。
【
図5a】ハウジングなしに取り付けられた100μLのピペット先端部を備える同様のポジティブディスプレイスメント式ピペットを各々のケースにおいて斜視側面図で示す。
【
図5b】ハウジングと共に取り付けられた100μLのピペット先端部を備える同様のポジティブディスプレイスメント式ピペットを各々のケースにおいて斜視側面図で示す。
【
図6】公称容積10μLを有する取り付けられたピペット先端部を備える同様のポジティブディスプレイスメント式ピペットを各々のケースにおいて正面図で示す。
【
図7】公称容積100μLを有する取り付けられたピペット先端部を備える同様のポジティブディスプレイスメント式ピペットを各々のケースにおいて正面図で示す。
【
図8】ピペット先端部が取り付けられていない同様のポジティブディスプレイスメント式ピペットを各々のケースにおいて正面図で示す。
【
図9】公称容積10μLを有する取り付けられたピペット先端部を備える同様のポジティブディスプレイスメント式ピペットのシャフトの縦断面を示す。
【
図10】公称容積100μLを有する取り付けられたピペット先端部を備える同様のポジティブディスプレイスメント式ピペットのシャフトの縦断面を示す。
【
図11】取り外しボタンとエアクッション式ピペットの取り外しプッシャ―との間のばねを備える伝達装置を非常に概略的な図で示す。
【
図12】取り外しボタンとエアクッション式ピペットのプッシャ―との間のロック装置を備えるギア装置を非常に概略的な図で示す。
【
図14】別々のスキャン装置と取り外し装置を備えるエアクッション式ピペットと上端に段差を備えるピペット先端部を非常に概略的な図で示す。
【
図15】両方向にプランジャを変位させるための操作レバーと切り替え装置を備えるポジティブディスプレイスメント式ピペットを正面図で示す。
【
図16】両方向にプランジャを変位させるための操作レバーと切り替え装置を備えるポジティブディスプレイスメント式ピペットを側面図で示す。
【
図17】両方向にプランジャを変位させるための操作レバーと切り替え装置を備えるポジティブディスプレイスメント式ピペットを正面図と側面図から斜視図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0076】
本出願において、「上部」および「下部」ならびに「垂直」および「水平」という表現、ならびにこれらから派生した「上方」および「下方」ならびに「互いに上下に」などの用語は、ネックを垂直方向に向けてピペットハウジングの下向きの端部に位置させたポジティブディスプレイスメント式ピペットの配置を基準にする。ピペット先端部に関して、これらの表現は、ピペット先端部の中央軸を垂直方向に向け、先端開口部を下部に配置し、取り付け用開口部を上部に配置した状態を基準にする。
【0077】
図1によれば、ポジティブディスプレイスメント式ピペットとして設計されたピペット1が、上部がハンドル3として形作られ、下部がシャフト4として形作られた実質的に棒状のピペットハウジング2を有する。段差にて下方へと先細りになるネック5が、シャフト4の下端から突出している。第1のショルダ6およびその上方の第2のショルダ7が、ネックの外周を巡って延びている。ネック5の下端から、貫通チャネル8がピペットハウジング2内へと垂直方向に延びている。
【0078】
上部において閉じており、下部において開いているスリーブ状の操作ボタンの形態の操作要素9が、ピペットハウジング2の上端から突出している。操作要素9の下方に、ピペットハウジング2の上端の測定ストロークを調整するための調整装置11のスリーブ状の調整ノブの形態の第1の調整要素10が配置されている。操作要素9を、第1の調整要素10へと垂直方向にほぼ完全に押し込むことができる。
【0079】
ストロークロッド12の下端が、ネック5の貫通チャネル8に上方から係合する。ストロークロッドは、ピペットハウジング2内を上方に延び、操作要素9の下側に接続される。
【0080】
ストロークロッド12は、上部ストロークロッド部分13および下部ストロークロッド部分14を備える。上部ストロークロッド部分13は、上部ストロークロッド部分13を下部ストロークロッド部分14内で変位させることができるように、下部ストロークロッド部分14の全体を貫いて長手方向に延びる垂直方向の第1のボアホール15へと上方から挿入される。
【0081】
管状ケージ16の下部が、径違いソケットの形態の接続要素17の上部に(例えば、ねじ込みによって)固定される。ケージ16の下端は、内周を巡って延びている接続要素17の第1の突起18に当接する。下部ストロークロッド部分14は、接続要素17の下部に(例えば、押し込みによって)固定される。接続要素17の上部は、下部よりも内径および外径が大きく、接続要素17は、上部と下部との間に外周の第3のショルダ19を有する。
【0082】
ケージ16は、上部において、内側へと半径方向に突出する周辺の第2の突起20によって縁取られている。上部ストロークロッド部分13は、ケージ16および接続要素17を通って案内される。上部ストロークロッド部分13は、ケージ16内に配置された周辺ビード21を有する。第1のらせんばね22が、あらかじめ縮められて、上部ストロークロッド部分13上でビード21と第1の突起18との間に位置する。これにより、ビード21が第2の突起20に押し付けられる。
【0083】
ケージ16の上側は、第1のストッパ要素23である。その上方に、ピペットハウジング2内に固定されたスピンドルナット24が配置される。ねじスピンドル25が、スピンドルナット24に係合し、上部ストロークロッド部分13を案内する第2のボアホール26を有する。ねじスピンドル25の下面は、第2のストッパ要素27を形成する。スピンドルナット24およびねじスピンドル25は、第2のストッパ要素27の垂直位置を調整するための第1の歯車装置の構成要素である。
【0084】
第1の調整要素10は、調整スリーブ28にきつく接続される。これは、調整スリーブ28の内側の軸方向に延びる溝30と、これらの溝30に係合する半径方向外向きに突出した翼部31とを備えるキャッチ装置29を介して、ねじスピンドル25に一緒に回転するように結合し、垂直方向にお互いに対して変位できる様相でねじスピンドル25に結合する。結果として、第1の調整要素10を回転させることにより、第2のストッパ要素27の軸方向位置を、第1の調整要素10を軸方向に変位させることなく、ピペットハウジング2内で調整することができる。
【0085】
第1のストッパ要素23と第2のストッパ要素27とが協働して、ストロークロッド12の上方への変位を制限する第1のストッパ装置32を形成する。
【0086】
上部ストロークロッド部分13は、スピンドルナット24を通って案内され、操作要素9を押し込むことによって垂直下向きに変位させることができるように、操作要素9にきつく接続されている。
【0087】
調整スリーブ28は、下端において、ピニオン33によって機械式カウンタの形態の機械式表示装置に結合している。垂直な回転軸上に互いに上下に配置されたカウンタ34のカウンタローラ35を、ピペットハウジング2の垂直な側面の第1の窓36.1を通して外側から視認することができる。
【0088】
接続要素17の下面は、第3のストッパ要素37である。
【0089】
ピペットハウジング2内の接続要素17の下方に、中央貫通穴39をフロア40に有しているポット状の第4のストッパ要素38が保持され、下部ストロークロッド部分14が中央貫通穴39を通って延びている。第4のストッパ要素38は、その上端に接触する補償ばね41によってしっかりと保持され、外周を延びるフランジ42によってピペットハウジング2内の第4のショルダ43においてピペットハウジング2内に支持される。第3のストッパ要素37と第4のストッパ要素38とが協働して、下部ストロークロッド部分14の下向きの変位を制限する第2のストッパ装置44を形成する。
【0090】
円錐ばねの形態の第1のばね装置45が、操作ボタン9が放されたときに第1のストッパ装置32に接触するまでケージ16を上方へと変位させるために、フロア40の上側におけるピペットハウジング2内の第1の接触点と、接続要素17の第3のショルダ19における第2の接触点とを有する。
【0091】
ストロークロッド12および操作ボタン9は、プランジャの駆動装置46の一部である。
【0092】
図4および
図5によれば、スキャン装置47が、ピペットハウジング2上に取り付けられる。前者は、プッシャー49の下端によって形成されるスキャン要素48を有する。下部において、プッシャー49は、シャフト4上を案内されるプッシャースリーブ50と、上部の開口部51とを有する。プッシャースリーブ50および開口51部は、ロッド52によって互いに接続される。ロッド52は、下部において、プッシャースリーブ50から側方に突出する突起53に固定される。開口部51の棒状の目盛りマーク54が、カウンタ34の最も低い小数点前位置の後ろ、および/または最も高い小数点後位置の前に調整することができるマーク55を形成する。
【0093】
ピペットハウジング2の内側において、開口部51は、目盛りマーク54を透明な窓ガラスによって覆われたピペットハウジング2の第1の窓36.1を通して外側から視認できるように、カウンタ34の前方の外側に配置される。
【0094】
開口部51の上端に、いくつかの異なる公称容積データ57、58が互いに上下に配置されているタブ56が位置する。公称容積データ57、58を、透明な窓ガラスによって覆われたピペットハウジング2の第2の窓36.2を通して外側から見て取ることができる。
【0095】
プッシャー49のロッド52は、第5のストッパ要素60を形成する半径方向に突出したディスク59を支持している。
【0096】
突起53は、ピペットハウジング2の側面に配置されたダクト62の下端に位置するダクト開口部61を通って配置される。ダクト62内で、ロッド52は、ピペットハウジング2の水平隔壁63の穴を通って案内される。隔壁63(
図4にも示されている)の上側は、第5のストッパ要素60に接触することによってプッシャー49の下向きの変位を制限する第6のストッパ要素64である。第5のストッパ要素60と第6のストッパ要素64とが協働して、第3のストッパ装置65を形成する。
【0097】
第2のらせんばね67の形態の第2のばね装置66が、上部において、ピペットハウジング2のカウンタ34用のホルダ68上の第3の接触点に当接し、下部において、開口部51の水平フレーム部分69上の第4の接触点に当接する。第2のらせんばね67は、第5のストッパ要素60を第6のストッパ要素64に接触させておくために、あらかじめ縮められている。
【0098】
図2および
図3によれば、ピペット先端部70は、円筒形のプランジャ移動領域71を有する。円筒形のプランジャ移動領域71の下端には、円錐形の初期部分72が存在する。先端開口部73が、初期部分72の下端の中央に配置されている。
【0099】
プランジャ移動領域71は、上部において、円錐形の遷移領域74に接続されており、円錐形の遷移領域74は、円筒形の接続領域75に隣接している。円筒形の接続領域75は、広がり部76によってカラー77に接続されている。カラー77は、上向きに広がるわずかに円錐形の形状を有する。内周には、座領域78.1に属し、あるいは座領域78.1を形成する周状ビード78を有する。
【0100】
プランジャ79が、ピペット先端部70内に配置されている。前者は、円筒形のプランジャ移動領域71へと挿入することができる円錐形のプランジャ部分80を有する。上端において、プランジャ部分80は、シールエッジ81によってプランジャ移動領域71に対してシールされる。下部において、プランジャ部分80を、ピペット先端部70の円錐形の初期部分72へと挿入することができる。
【0101】
上部において、プランジャ部分80は、遷移領域74へと挿入することができる円錐形の接続部分82に接続されている。短いプランジャロッド83が、遷移領域74から上方に延びている。
【0102】
異なる公称容積を有するピペット先端部70は、円筒形のプランジャ移動領域71および対応する円錐形のプランジャ部分80の断面が異なる。さらに、座領域78.1に対するカラー77の高さが異なる点でも相違する。
【0103】
ピペット先端部70の取り付け用開口部84は、カラー77の上端に位置する。
【0104】
図2および
図4~
図7によれば、ピペット1は、ネック5にて、プランジャ79が組み込まれたピペット先端部70の取り付け用開口部84へと挿入される。ピペット先端部70をネック5に取り付けるとき、カラー77内の内側の段差76.1(
図9を参照)またはカラー77の上端(
図10を参照)が、第2のショルダ7に接触する。両方の実施形態において、ビード78は、ピペット先端部70がカラー5にしっかりと固定されるように、やはりカラー5へのあらかじめの張力のもとで、第1のショルダ6の下方に位置する。この場合、両方の実施形態におけるビード78、したがって座領域78.1は、カラー5の同じクランプゾーン5.1に対してシールの様相で位置する。
【0105】
カラー77の上端が第2のショルダ7に接触するとき、プッシャー49が動くことはなく、機械式カウンタ34の表示は変わらないままである。これは、
図2、
図5、
図7、および
図10に示される100mLのピペット先端部を取り付ける場合である。表示は、ピペット先端部70が取り付けられていない状態のピペットを示している
図8における表示と同じである。目盛りマーク54が、最も低い小数点前位置または最も高い小数点後位置をユーザに示している。
【0106】
内側の段差76.1が第2のショルダ7に接触すると、内側の段差76.1よりも突出したカラー77の上端が、プッシャー49の下端に接触し、第2のらせんばね67の作用に逆らってプッシャー49を上方に移動させる。この場合に、開口部51が変位し、したがって目盛りマーク54がカウンタ34の2つのカウンタローラ35の間の別の位置へと押し動かされる。これは、
図4、
図6、および
図9に示される10mLのピペット先端部1を取り付ける場合である。目盛りマーク54の変位は、カラー77の高さに依存する。したがって、ピペット先端部70の公称容積に応じて、目盛りマーク54は、カウンタ34の特定の位置の隣に調整される。
【0107】
さらに、取り付けられたピペット先端部70の特定の公称容積データ57、58が、第2の窓36.2においてユーザに示される。
【0108】
以下で、ピペット1によるピペット作業を説明する。
【0109】
プランジャロッド83が、第2のストッパ装置44に接触するまで操作要素9を押し下げることによって、ストロークロッド12に接続される。この場合に、プランジャロッド83は、ストロークロッド12の第1のボアホール15に固定される。これが
図2に示されている。
【0110】
次に、操作要素9が押し下げられると、ピペット先端部70の下端を容器内の液体に浸すことができる。操作要素9が解放されると、ストロークロッド12、したがってプランジャ79は、第1のストッパ装置32に接触するまで第1のばね装置45によって上方に変位し、液体がピペット先端部70へと引き込まれる。
【0111】
引き込まれた液体を吐出するために、ピペット先端部70の下端が別の容器に挿入され、第2のストッパ装置44に接触するまで操作要素9を押し下げることによって液体が吐出される。そのようにするとき、プランジャ79は、ピペット先端部70において最下方位置へと動かされ、液体が先端開口部73を通って容器へと追い出される。
【0112】
図3によれば、操作要素9が、ピペット先端部70を解放するためにさらに押し下げられ、第1のらせんばね22が圧縮され、上部ストロークロッド部分13によってプランジャロッド83が第1のボアホール15から押し出される。
【0113】
エアクッション式ピペットとして設計されたピペット1が与えられると、ストロークロッド12は、操作要素9を作動させることによってピペットハウジング2に配置されたシリンダ内で変位させることができるプランジャに結合する。シリンダは、チャネルを介してネック5の下端の穴に接続されている。
【0114】
ポジティブディスプレイスメント式ピペットと同様に、スキャン装置47を、シャフト4上を案内されるプッシャースリーブ50を有するプッシャー49の下端にスキャン要素48を有するように設計することができる。プッシャー49は、上部において、カウンタ34のカウンタローラ35の側方の調整用のマーク55に結合し、該当する場合には、ウィンドウに種々の公称容積データ57、58を表示するためのタブ56に結合する。
【0115】
さらに、プッシャー49をピペット先端部70を取り外すためにも使用することができる。これを達成するために、
図9によるプッシャー49は、ピペットハウジング2から外向きに突出する取り外しボタン85に結合する。原則として、取り外しボタン85を、プッシャー49に堅固に接続することができる。しかしながら、これは、取り外しボタン85の位置が、取り付けられたピペット先端部70のカラー77の高さに依存するという結果をもたらす。
【0116】
図11から
図13の典型的な実施形態において、これは、取り外しボタン85の上方変位を制限する取り外しボタン85上の第7のストッパ要素87およびピペットハウジング2上の第8のストッパ要素88を備える第4のストッパ装置86を設けることによって防止される。さらに、プッシャー49が上方に変位するときに取り外しボタン85を上方に変位させることがなく、取り外しボタン85が下方へと変位するときにプッシャー49も下方へと動かす伝達装置89が、取り外しボタン85とプッシャー49との間に存在する。
【0117】
図11によれば、伝達装置89は、取り外しボタン85とプッシャー49のロッド52との間の第3のらせんばね91として設計された第4のばね装置90である。
【0118】
第4のばね装置90は、取り外しボタン85が押されていないときに第4のストッパ装置86が働くようにあらかじめ縮められている。ピペット先端部70が取り付けられると、プッシャー49が上方に変位し、第4のばね装置90が圧縮される。取り外しボタン85は、依然として上方の停止位置にある。取り外しボタン85が操作されると、まず第4のばね装置90がさらに圧縮される。次いで、取り外しボタン85がプッシャー49のロッド52を押すことで、ピペット先端部70がネック5から滑り落ちる。
【0119】
図12および
図13によれば、伝達装置89は、取り外しボタン85とプッシャー49との間に配置されたロック装置92を備える。この場合、ロック装置92は、取り外しボタン85に回転可能に取り付けられ、フリーホイール94を有している歯車93である。ロッド52が、歯車93と係合する歯付きラック95を片側に有する。
【0120】
取り外しボタン85が操作されていないとき、第5のばね装置96の作用により、第4のストッパ装置86が働いている。ピペット先端部70が取り付けられるとき、プッシャー49は上方に変位し、歯車93はこれに伴って自由に回転する。取り外しボタン85が操作されるときにのみ、歯車93の自由な回転が止められ、ロッド52が一緒に下方へと移動する。結果として、プッシャー49がピペット先端部70をネック5から押し出す。
【0121】
図14によれば、ピペット先端部70が取り付けられているときの取り外しボタン85の変位は、プッシャー49に加えて取り外しプッシャー97がさらに存在することで防止される。下端において、プッシャー49は、シャフト上を案内される内側プッシャースリーブ98を有し、取り外しプッシャー97は、下端において内側プッシャースリーブ98上を案内される外側プッシャースリーブ99を有する。
【0122】
上端において、ピペット先端部70は、2つの同心な周状の段差100、101を有し、内側の段差100は、外側の段差101よりも垂直方向にさらに上方に突出している。
【0123】
ピペット先端部70を取り付けるとき、内側の段差100がプッシャー49を作動させ、機械式カウンタ34上の目盛りマーク54を調整する。取り外しプッシャー97が外側の段差101によって動かされることはない。取り外しボタン85を押し下げると、取り外しプッシャー97の下端が外側の段差101に接触し、ピペット先端部70をネック5から押し外す。
【0124】
図15~
図17によれば、ポジティブディスプレイスメント式ピペットとして設計されたピペット1は、垂直方向に上下に往復させることができる操作レバー102として設計された操作要素9を垂直な側面に備え、容積を調整するためのノブ103として設計された第1の調整要素10を上端に備えるピペットハウジング2を有する。下部において、ポジティブディスプレイスメント式ピペット先端部70をネック5に固定することができる。
【0125】
操作レバー102を下方に1回または数回押すことにより、調整された量をピペット先端部70へと引き込むことができる。操作レバー102を下向きに押すことによって下方へと圧縮され、解放後に操作レバー102を上方へと戻すばねが、ピペットハウジング2内に配置されている。操作レバー102の移動距離および/または操作の回数は、調整された量に依存する。さらに、引き込まれた液体を、操作レバー102を下方に1回または複数回動かすことによって、ピペット先端部70から送出することができる。操作、または操作の回数は、やはり調整された量に依存する。
【0126】
操作レバー102を下方へと動かすことによってピペット先端部70への液体の引き込みおよびピペット先端部70からの液体の吐出の両方を制御するために、ピペット1の駆動装置は、調整された量をピペット先端部70へと引き込んだ後に、操作レバー102を作動させることによるプランジャ79の変位方向を逆にする切り換え装置を有する。結果として、引き込まれた液体のピペット先端部70からの吐出が、操作レバー102をさらに作動させることによってもたらされる。
【符号の説明】
【0127】
1 ピペット
2 ピペットハウジング
3 ハンドル
4 シャフト
5 ネック
5.1 取り付け領域
6 第1のショルダ
7 第2のショルダ
8 貫通チャネル
9 操作要素
10 第1の調整要素
11 調整装置
12 ストロークロッド
13 上部ストロークロッド部分
14 下部ストロークロッド部分
15 ボアホール
16 ケージ
17 接続要素
18 第1の突起
19 第3のショルダ
20 第2の突起
21 ビード
22 第1のらせんばね
23 第1のストッパ要素
24 スピンドルナット
25 ねじスピンドル
26 第2のボアホール
27 第2のストッパ要素
28 調整スリーブ
29 キャッチ装置
30 溝
31 翼部
32 第1ストッパ装置
33 ピニオン
34 表示装置
35 カウンタローラ
36.1 第1の窓
36.2 第2の窓
37 第3のストッパ要素
38 第4のストッパ要素
39 中央貫通穴
40 フロア
41 貫通バネ
42 フランジ
43 第4のショルダ
44 第2のストッパ装置
45 第1のばね装置
46 駆動装置
47 スキャン装置
48 スキャン要素
49 プッシャ―
50 プッシャ―スリーブ
51 開口部
52 ロッド
53 突起
54 目盛りマーク
55 マーク
56 タブ
57 公称容積データ
58 公称容積データ
59 ディスク
60 第5のストッパ要素
61 ダクト開口部
62 ダクト
63 隔壁
64 第6のストッパ要素
65 第3のストッパ装置
66 第2のばね装置
67 第2のらせんばね
68 ホルダ
69 フレーム部分
70 ピペット先端部
71 プランジャ移動領域
72 円錐形の初期部分
73 先端開口部
74 円錐形の遷移領域
75 円筒形の接続領域
76 広がり部
76.1 内側段差
77 カラー
78 ビード
78.1 座領域
79 プランジャ
80 円錐形のプランジャ部分
81 シールエッジ
82 円錐形の接続部分
83 プランジャロッド
84 取り付け開口部
85 取り外しボタン
86 第4のストッパ装置
87 第7のストッパ要素
88 第8のストッパ要素
89 伝達装置
90 第4のばね装置
91 第3のらせんばね
92 ロック装置
93 歯車
94 フリーホイール
95 歯付きラック
96 第5のばね装置
97 取り外しプッシャ―
98 内側プッシャ―スリーブ
99 外側プッシャ―スリーブ
100 内側の段差
101 外側の段差
102 操作レバー
103 ノブ