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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】水溶液中の重金属を除染する方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/01 20210101AFI20231222BHJP
   C02F 1/461 20230101ALI20231222BHJP
   C25C 1/00 20060101ALI20231222BHJP
   C25C 1/16 20060101ALI20231222BHJP
   C25C 1/18 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
C25B1/01 A
C02F1/461 101B
C25C1/00 301Z
C25C1/16 B
C25C1/18
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020572748
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 EP2019067482
(87)【国際公開番号】W WO2020002683
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】1856045
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(73)【特許権者】
【識別番号】520433300
【氏名又は名称】シーワイ・セルジー・パリ・ユニヴェルシテ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ソフィ・プーロン-パジェ
(72)【発明者】
【氏名】ラナ・シュマーヌ
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-111892(JP,A)
【文献】特開平04-066187(JP,A)
【文献】特開平05-039585(JP,A)
【文献】特開平08-260175(JP,A)
【文献】特開2000-272922(JP,A)
【文献】特開2001-046995(JP,A)
【文献】特開2002-173790(JP,A)
【文献】特開2003-082489(JP,A)
【文献】特表2005-515302(JP,A)
【文献】特開2007-117965(JP,A)
【文献】特開2007-117966(JP,A)
【文献】特開2010-053416(JP,A)
【文献】特開2013-095979(JP,A)
【文献】特開2013-111573(JP,A)
【文献】特開2013-230966(JP,A)
【文献】特開2017-178749(JP,A)
【文献】仏国特許出願公開第02977804(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/461 - 1/467
C22B 3/20
C25B 1/01
C25C 1/00
C25C 1/08
C25C 1/12
C25C 1/16
C25C 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの重金属を含有する水溶液を電気化学的に汚染除去する方法であって、
a)水溶液のpHを測定する工程、任意選択で続いて、強酸又は強塩基の添加により前記pHを調整する工程と、
b)前記水溶液を、参照電極、対電極、及び導電性基板を含む作用電極と接触させる工程と、
c)前記参照電極と、前記対電極と、前記作用電極とを含むアセンブリに定電位を印加する工程であって、その後、前記作用電極上に少なくとも1つの重金属酸化物の薄膜が形成される、工程と、
d)汚染除去された水溶液及び前記酸化物薄膜を回収する工程と
を含み、
水溶液が幾つかの重金属を含有する場合、工程a)、工程b)、工程c)及び工程d)を繰り返してもよく、
重金属が、鉛、銅、ニッケル、及びそれらの混合物からなる群から選択される、方法。
【請求項2】
導電性基板が、ステンレス鋼、半導体、貴金属及びそれらの混合物で構成される群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水溶液が、鉛、ニッケル、銅又はそれらの混合物を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
8未満のpHを有する、鉛を含有する水溶液を汚染除去する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法であって、
鉛を含有する水溶液のpHが4以下である場合、工程c)の電位が1.65V~1.95Vの間(標準水素電極に対して)であり、
鉛を含有する水溶液のpHが4~8の間である場合、工程c)の電位が1.15V~1.85Vの間(標準水素電極に対して)である、方法。
【請求項5】
8より高いpHを有する、鉛を含有する水溶液を汚染除去する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法であって、工程a)に続いて、強酸を添加して4~8の間のpHを有する水溶液を得る工程が行われ、工程c)で、1.15V~1.85Vの間(標準水素電極に対して)の電位が印加される、方法。
【請求項6】
銅を含有する水溶液を汚染除去する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法であって、
工程a)で測定される前記銅を含有する水溶液のpHが8よりも高い場合は、前記工程a)に続いて強酸を添加し、前記pHが4未満である場合は、前記工程a)に続いて強塩基を添加して、4~8の間のpHを有する水溶液を得る工程が行われ、
前記4~8の間のpHを有する水溶液に印加される工程c)の電位が、0.15V~0.25Vの間(標準水素電極に対して)である、方法。
【請求項7】
ニッケルを含有する水溶液を汚染除去する、請求項1からのいずれか一項に記載の方法であって、
工程a)で測定される前記ニッケルを含有する水溶液のpHが8よりも高い場合は、前記工程a)に続いて強酸を添加し、pHが4未満である場合は、前記工程a)に続いて強塩基を添加して、4~8の間のpHを有する水溶液を得る工程が行われ、
前記4~8の間のpHを有する水溶液に印加される工程c)の電位が1.35V~1.55Vの間(標準水素電極に対して)である、方法。
【請求項8】
工程c)が、ポテンショスタットを使用してクロノアンペロメトリーを実施することを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、電気化学的プロセスを実行することによって水溶液中の重金属を除染する方法である。
【背景技術】
【0002】
金属汚染は、アルミニウム、ヒ素、クロム、コバルト、銅、マンガン、モリブデン、ニッケル、亜鉛等の種々の金属、又はこれらよりも有毒なカドミウム、水銀若しくは鉛等の重金属に起因し得る。人間による多様な活動が、責任を担っている。この汚染は、本質的に産業廃棄物に、特に皮革工場(カドミウム、クロム)、製紙工場(水銀)、塩素生産工場(水銀)及び冶金産業、廃水処理ステーションからの残留スラッジの農地適用、幾つかの防カビ剤の使用(水銀)、廃棄物焼却後に排出される降下大気粉塵(水銀)に、又は車両燃料の燃焼(鉛)、若しくは屋根及び道路上への雨水流出(亜鉛、銅、鉛)に由来している。
【0003】
金属は生分解性でないため、金属汚染は特に問題を引き起こす。更に、食物連鎖を通じて生体で濃縮されるようになるものもある。したがって、金属は、人間が摂取する幾つかの種、例えば魚で非常に高レベルに達する可能性がある。
【0004】
現在のところ、これらの汚染物質、特に重金属を除去する汚染除去方法又は除染方法は、粉末形態に対する溶液中での沈殿等の物理化学的方法、又は膜方法を主に使用する。これらの方法は粉末の濾過を必要とし、必ずしもカドミウムとの分離を可能にするわけではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】https://www.epd.gov.hk/eia/register/report/eiareport/eia_2242014/EIA/app/app02.02.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特に鉛及びカドミウムの効率的な分離を可能にする、水溶液中の重金属を除染する簡素な方法を提供することである。
【0007】
本発明の更なる目的は、低コストであり、かつ非常に低い電気エネルギー投入のみを要する、水溶液中の重金属を除染する方法を提供することである。
【0008】
本発明の更なる目的は、粉末形態の材料を回収するのに通常必要とされる濾過工程を省くことを可能にする、水溶液中の重金属を除染する方法を提供することである。
【0009】
本発明の更なる目的は、塩化物、硫酸塩、硝酸塩又は酢酸塩等の溶液中の各種塩の存在にもかかわらず、又はそれらの濃度に関係なく効率的である、水溶液中の重金属を除染する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、少なくとも1つの重金属を含有する水溶液を電気化学的に汚染除去する方法であって、
a)水溶液のpHを測定する工程、任意選択で続いて、強酸又は強塩基の添加により前記pHを調整する工程と、
b)前記水溶液を、参照電極、対電極、及び導電性基板を含む作用電極と接触させる工程と、
c)定電位をアセンブリに印加する工程であって、その後、前記作用電極上に少なくとも1つの重金属の薄膜が形成される、工程と、
d)汚染除去された水溶液及び前記薄膜を回収する工程と
を含み、水溶液が幾つかの重金属を含有する場合、工程a)、工程b)、工程c)及び工程d)を繰り返してもよい、方法に関する。
【0011】
したがって、本発明は、少なくとも1つの重金属を含有する水溶液を電気化学的に汚染除去する方法であって、
a)水溶液のpHを測定する工程、任意選択で続いて、強酸又は強塩基の添加により前記pHを調整する工程と、
b)前記水溶液を、参照電極、対電極、及び導電性基板を含む作用電極と接触させる工程と、
c)定電位をアセンブリに印加する工程であって、その後、前記作用電極上に少なくとも1つの重金属酸化物の薄膜が形成される、工程と、
d)汚染除去された水溶液及び前記酸化物薄膜を回収する工程と
を含み、水溶液が幾つかの重金属を含有する場合、工程a)、工程b)、工程c)及び工程d)を繰り返してもよい、方法に関する。
【0012】
本発明の方法は、重金属の濃度に関係なく、また汚染除去されるべき溶液中に含有される化学種(塩化物、硫酸塩、硝酸塩又は酢酸塩)及びそれらの濃度(イオン強度)に関係なく、鉛等の重金属の完全な除去を可能にするため、特に好適で効率的である。
【0013】
本発明の方法は更に、非常に低コストであり、設備、特に電極を、有効性を損なわずに数回使用することができる。
【0014】
この方法はまた、外気温で、また空気中で、簡素で低コストの設備を用いて、非常に低い電気エネルギー投入で行われるという点で好適である。
【0015】
この方法で到達される除染収率は、産業媒質における再循環用の水の処理、放出前の、又は従来の処理に加えた産業排水の処理を想定することを可能にするものである。
【0016】
一実施形態において、本発明の方法は、好ましくはセパレータも、膜も、隔膜も含有しない容器中で行われる。
【0017】
一実施形態において、本発明の方法は、上述の強酸又は強塩基以外の試薬又は更なる媒質を汚染除去されるべき溶液に添加することを含まない。
【0018】
一実施形態において、本発明の方法は、塩化物又はフルオロケイ酸塩媒質等の特定の媒質中で行われない。
【0019】
一実施形態において、本発明の方法は、外気温で行われる。
【0020】
一実施形態において、本発明の方法は、温度10℃~50℃の間、特に10℃~40℃の間の温度で行われる。
【0021】
好ましくは、本発明の方法は、大気圧で行われる。
【0022】
本発明では、上記で定義される少なくとも1つの重金属を含有する水溶液はまた、以下で<<除染されるべき水溶液>>、<<汚れた水溶液>>、<<汚染除去されるべき水溶液>>、又は<<汚染された水溶液>>とも呼ばれる。
【0023】
本発明によれば、本方法の完了時に得られる水溶液はまた、以下で<<汚染除去された水溶液>>又は<<除染された水溶液>>とも呼ばれる。
【0024】
一実施形態において、除染されるべき水溶液は、少なくとも0.5mg/Lの少なくとも1つの重金属を含む。
【0025】
一実施形態において、前記水溶液は、約0.5mg/L~100mg/Lの少なくとも1つの重金属を含む。
【0026】
本発明によれば、<<重金属>>という用語は、5g/cmよりも高い密度を有し、また或る特定の濃度に続いて、海洋生物及び/又は生物に影響を及ぼし得る自然金属元素を指定する。
【0027】
重金属中でも、例えば、鉛、銅、ニッケル、水銀、アルミニウム、チタン、ヒ素、銀、ビスマス、及びそれらの混合物を挙げることができる。
【0028】
好ましくは、本発明では、重金属は、導電性酸化物を生産する可能性がある。より好ましくは、重金属は、特に15未満の低溶解度生成物(pK)を特に有する導電性酸化物又は半導電性酸化物を生産する可能性がある。
【0029】
好ましくは、本発明の重金属は、少なくとも2つの酸化状態を有する:まず、金属は、1つの酸化状態で溶液中に可溶性であり(酸化数+1)、次に、金属は、電子伝導性(又は半伝導性)である付着している薄い膜の形態の酸化物タイプの不溶性化合物を形成することによって、印加される電位の影響下で酸化し得るか、又は還元され得る(酸化数+2)
【0030】
1つの好適な実施形態において、本発明の重金属は、鉛、ニッケル、銅及びそれらの混合物によって形成される群から選択される。したがって、1つの好ましい実施形態において、水溶液は、鉛、ニッケル、銅又はそれらの混合物を含む。
【0031】
本発明では、除染されるべき水溶液は、単一重金属又は種々の重金属の混合物を含む。特に、以下で記載するように、水溶液が幾つかの重金属を含有する場合、工程a)、工程b)、工程c)及び工程d)を繰り返してもよい。
【0032】
工程a)
上述するように、本発明の方法は、汚染除去されるべき水溶液のpHを測定する事前工程を含む。測定したpHに応じて、また汚染除去を実行するための所望の範囲を得るために、本方法は更に、強酸又は強塩基の添加により前記溶液のpHを調整する工程を含む。
【0033】
強酸として、例えば、塩酸、硫酸又は硝酸を挙げることができる。
【0034】
強塩基として、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを挙げることができる。
【0035】
一実施形態において、工程a)の前に、本発明の方法は、前記溶液中に含有される重金属のタイプ、好ましくは濃度を決定するために、前記汚染除去されるべき水溶液をアッセイする工程を含む。前記工程は、当業者に周知の方法に従って実施される。
【0036】
以下で説明するように、汚染除去されるべき溶液が幾つかの重金属を含む場合、この工程a)を繰り返すことができ、続いてpHを測定して、重金属のタイプに適合され得る。
【0037】
工程b)
本発明の方法は更に、汚染除去されるべき水溶液を、電気化学システムと接触させる工程を含む。
【0038】
したがって、前記水溶液は、少なくとも1つの参照電極、対電極及び作用電極と接触される。上述するように、この工程は、いかなるセパレータも、膜も、隔膜も有さない従来の容器中で行われる。
【0039】
参照電極として、電気化学デバイスで従来使用される任意の参照電極を挙げることができる。例えば、飽和カロメル電極(SCE)、硫酸水銀電極(MSE)又は塩化銀電極を挙げることができる。
【0040】
一実施形態において、本発明で使用される参照電極は、硫酸水銀電極である。
【0041】
対電極として、電気化学デバイスで従来使用される対電極を挙げることができる。例えば、白金を挙げることができる。
【0042】
一実施形態において、本発明で使用される対電極は、白金線である。
【0043】
上述するように、作用電極は、少なくとも1つの導電性基板を含む。この導電性基板は、導電性材料、半導電性材料、貴金属及びそれらの混合物の中から選択される材料で構成され得る。
【0044】
一実施形態において、導電性基板は、ステンレス鋼、半導体、貴金属及びそれらの混合物によって形成される群から選択される。
【0045】
本発明では、作用電極は、導電性基板であり得るか、又は作用電極は、導電性基板を含んでもよい。したがって、一実施形態において、作用電極は、絶縁部分及び導電部分を含む。この実施形態によれば、例えば、作用電極は、任意選択でドープされた半導体、例えば二酸化スズSnOで少なくとも部分的にコーティングされたガラス板から形成される。
【0046】
1つの好ましい実施形態において、作用電極は、SnOでコーティングされたガラス板又はステンレス鋼電極である。
【0047】
以下で説明するように、汚染除去されるべき溶液が幾つかの重金属を含む場合、この工程b)を繰り返すことができ、使用される電極は、必ずしも同じではない。例えば、第1の重金属を除去するための第1の作用電極、続いて、別の重金属を除去するために、同じか又は異なる第2の作用電極を使用することが可能である。
【0048】
工程c)
種々の電極を、汚染除去されるべき溶液と接触させた後、定電位が、このアセンブリに印加される。
【0049】
一実施形態において、印加されるべき電位は、汚染除去されるべき金属のタイプに応じて、また工程a)で任意選択で調整される測定したpHに応じて決定される。
【0050】
好ましくは、本発明の工程(c)は、ポテンショスタットを使用してクロノアンペロメトリーを実施することを含む。
【0051】
この工程、即ち電位の印加は、上記で定義される作用電極上での少なくとも1つ重金属酸化物の薄膜を形成させる。
【0052】
以下で説明するように、汚染除去されるべき溶液が幾つかの重金属を含む場合、この工程c)を繰り返すことができ、電位は、重金属のタイプに適合され得る。これらの反復工程c)後に、幾つかの重金属薄膜、特に重金属酸化物の薄膜が得られ、これらは、引き続いて、特に純粋な形態で回収される。上述するように、薄膜はそれぞれ、種々の作用電極上で回収され得る。
【0053】
工程d)
工程c)後、重金属薄膜、重金属酸化物薄膜、又は重金属、特に重金属酸化物の薄膜(除染されるべき溶液が幾つかの重金属を含有する場合)は回収される。更に、除染又は汚染除去された溶液が得られる。
【0054】
好ましくは、工程d)後に得られる溶液は、汚染除去された水溶液であり、その中で、重金属濃度は、10-8mol/L、即ち2.07μg/Lの領域内である。
【0055】
WHO基準(https://www.epd.gov.hk/eia/register/report/eiareport/eia_2242014/EIA/app/app02.02.pdfを参照)は、鉛含有量10μg/Lを提供する。
【0056】
したがって、本発明は更に、上記で定義される方法を用いて得ることが可能な重金属薄膜に関する。
【0057】
したがって、本発明は更に、上記で定義される方法を用いて得ることが可能な少なくとも1つの重金属酸化物の薄膜に関する。
【0058】
好ましくは、このようにして得られる薄膜は、特におよそ1マイクロメートル、特に1μm~20μmの間の厚さを有する付着層の形態の薄膜である。
【0059】
汚染除去されるべき水溶液が鉛を含有する場合、本発明の方法は、前記溶液のpHに応じて、下記の通りに実行され得る。
【0060】
一実施形態において、鉛を含有し、かつ8未満のpHを有する水溶液を汚染除去する、本発明の方法は、上記で定義される工程a)及び工程b)を含み、工程c)は、下記の通りに実施される:
-鉛を含有する水溶液のpHが4以下である場合、工程c)の電位は1.65V~1.95Vの間(標準水素電極SHEに対して)であり、
-鉛を含有する水溶液のpHが4~8の間である場合、工程c)の電位は、SHEに対して1.15V~1.85Vの間である。
【0061】
一実施形態において、鉛を含有する汚染除去されるべき水溶液が8よりも高いpHを有する場合は、工程a)に続いて強酸、例えばHCl、HNO又はHSOを添加して4~8の間のpHを有する水溶液を得る工程が行われる。
【0062】
工程c)では、1.15V~1.85Vの間の電位が印加される(標準水素電極に対して)。
【0063】
本発明は更に、銅を含有する水溶液を汚染除去する、上記で定義される方法であって、
-工程a)で測定される前記銅を含有する水溶液のpHが8よりも高い場合は、前記工程a)に続いて強酸、例えばHCl、HNO又はHSOを添加し、前記pHが4未満である場合は、前記工程a)に続いて強塩基、例えばNaOH又はKOHを添加して、4~8の間のpHを有する水溶液を得る工程が行われ、
-前記4~8の間のpHを有する水溶液に印加される工程c)の電位は、SHEに対して0.15V~0.25Vの間である、方法に関する。
【0064】
本発明は更に、ニッケルを含有する水溶液を汚染除去する、上記で定義される方法であって、
-工程a)で測定される前記ニッケルを含有する水溶液のpHが8よりも高い場合は、前記工程a)に続いて強酸、例えばHCl、HNO又はHSOを添加し、前記pHが4未満である場合は、前記工程a)に続いて強塩基、例えばKOH又はNaOHを添加して、4~8の間のpHを有する水溶液を得る工程が行われ、
-前記4~8の間のpHを有する水溶液に印加される、工程c)の電位は、SHEに対して1.35V~1.55Vの間である、方法に関する。
【0065】
本発明はまた、カドミウムと、カドミウムとは異なる少なくとも1つの重金属とを含む水溶液中で、カドミウムを他の重金属と分離する方法であって、上記で定義される本発明の方法の工程の実行を含む、方法に関する。
【0066】
特に、この実施形態において、汚染除去されるべき溶液は、少なくともカドミウムと、例えば鉛、ニッケル及び/又は銅の中から選択される少なくとも1つの他の重金属とを含有する。この方法では、カドミウムは他の重金属と異なり除去できないので溶液中に残るため、カドミウムを分離することが可能である。
【0067】
上述するように、本発明の方法は、重金属の混合物を含む溶液を汚染除去するように適用され得る。
【0068】
したがって、本発明はまた、少なくとも2つの重金属M1及びM2を含有する水溶液S1を電気化学的に汚染除去する方法であって、
a)水溶液S1のpHを測定する工程、任意選択で続いて、強酸又は強塩基の添加により前記pHを調整する工程と、
b)前記水溶液S1を、参照電極、対電極、及び導電性基板を含む作用電極WE1と接触させる工程と、
c)定電位E1をアセンブリに印加する工程であって、その後、重金属M1の薄膜が、前記作用電極WE1上に形成される、工程と、
d)金属M1が除去された水溶液S2、及び金属M1の薄膜を回収する工程と、
e)水溶液S2のpHを測定する工程、任意選択で続いて、強酸又は強塩基の添加により前記pHを調整する工程と、
f)前記水溶液S2を、参照電極、対電極、及び導電性基板を含む作用電極WE2と接触させる工程であって、これらの電極が、場合により工程b)の電極と同じであるか又は異なる、工程と、
g)定電位E2をアセンブリに印加する工程であって、その後、重金属M2の薄膜が、前記作用電極WE2上に形成され、電位E1及び電位E2は同じであるか又は異なる、工程と
h)金属M1及び金属M2が除去された水溶液S3、及び金属M2の薄膜を回収する工程と
を含む、方法に関する。
【0069】
本発明は更に、少なくとも2つの重金属M1及びM2を含有する水溶液S1を電気化学的に汚染除去する方法であって、
a)水溶液S1のpHを測定する工程、任意選択で続いて、強酸又は強塩基の添加により前記pHを調整する工程と、
b)前記水溶液S1を、参照電極、対電極、及び導電性基板を含む作用電極WE1と接触させる工程と、
c)定電位E1をアセンブリに印加する工程であって、その後、重金属M1の少なくとも1つの酸化物の薄膜が、前記作用電極WE1上に形成される、工程と、
d)金属M1が除去された水溶液S2、及び金属M1の少なくとも1つの酸化物の薄膜を回収する工程と、
e)水溶液S2のpHを測定する工程、任意選択で続いて、強酸又は強塩基の添加により前記pHを調整する工程と、
f)前記水溶液S2を、参照電極、対電極、及び導電性基板を含む作用電極WE2と接触させる工程であって、これらの電極が、場合により工程b)の電極と同じであるか又は異なっている、工程と、
g)定電位E2をアセンブリに印加する工程であって、その後、重金属M2の少なくとも1つの酸化物の薄膜が、前記作用電極WE2上に形成され、電位E1及び電位E2は同じであるか又は異なる、工程と
h)金属M1及び金属M2が除去された水溶液S3、及び金属M2の少なくとも1つの酸化物の薄膜を回収する工程と
を含む、方法に関する。
【0070】
汚染除去されるべき水溶液が2つよりも多い重金属を含有する場合、工程a)、工程b)、工程c)及び工程d)(又は工程e)、工程f)、工程g)及び工程h))を、金属(単数又は複数)のタイプに応じて繰り返す。
【0071】
一実施形態において、除染されるべき溶液を接触させる連続工程を実施するために、前記溶液は、電極の同じアセンブリ(参照電極、対電極及び作用電極)と接触され得るが、除染されるべき溶液を含有する異なる連続浴中で接触されてもよい。例えば、上述するように、除染されるべき溶液が2つの重金属M1及びM2を含有する場合、電極はこの溶液と接触して配置されて、重金属M1を除去して、重金属M2を含有する(しかし、重金属M1を伴わない)水溶液を得ることが可能となり、続いて溶液が回収される。次に、異なる作用電極、並びに同じ参照電極及び対電極が、重金属M2を含有する前記水溶液と接触して配置される。続いて、金属M1及びM2が除去された溶液が回収される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
図2】エネルギー分散型分光EDS分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0073】
[実施例]
以下で記載する実施例全てにおいて、除染方法は、以下のように行った:
-従来の80mLの反応器(ビーカータイプ)、及び
-3つの電極:参照電極(硫酸水銀)、対電極(白金線)及び付着膜が析出される作用電極。作用電極は、SnOでコーティングされたガラス板であるか、或いは作用電極は、溶液と接触する表面がスコッチテープ(3cm)で限定されているステンレス鋼(60×15mm)に存在する。
【0074】
実験は、溶解した酸素を除去するための脱気を必要せず、空気中で、外気温にて、大気圧で平均的な一定の攪拌下で行った。攪拌に関して、マグネチックスターラーを使用した(速度は250rpmに設定)。攪拌の利点は、この方法の素早い加速である。
【0075】
除染方法は、クロノアンペロメトリー用のポテンショスタットを使用し、即ち、実験の全継続期間にわたって同じ電位のままである定電位を印加する。
【0076】
印加する電位の値は、以下の実施例で明記するように、重金属及び溶液のpHに依存して様々である。
【0077】
溶解された重金属が完全に除去されると、電流は実質的にゼロ及び一定になり、実験が完了していることを示すため、実験の期間は、溶液中に含有される溶解された重金属の初期濃度の関数である。
【0078】
実施例1:鉛除去の事例
4以下のpHの酸性溶液に関して、鉛の除染方法は、1.65V~1.85V/SHE(標準水素電極)の間に相当する、1V~1.2V/硫酸水銀電極の電位下で行われる。
【0079】
4~8の間のpHを有する溶液に関して、Pbの除染方法は、0.7V~0.9V/硫酸水銀電極(1.35V~1.55V/SHE)の間の電位下で行われる。
【0080】
Pbは全て、鉛及び酸素のみで構成される導電性基板上に析出される薄い付着している酸化物薄膜の形態で除去される。
【0081】
27mg/LのPb(II)の濃度(50mL中に6.5×10-6mol、即ち1.3×10-4mol/L)を有する溶液を、SnO電極上で処理する例:
溶液の初期pHに依存した2つの考え得る処理:
【0082】
1.pH=2である場合、Pbは、1V/硫酸水銀電極の電位を12時間印加することによって、SnO基板上に析出される、鉛及び酸素(O約70%及びPb30%)のみで構成される鉛酸化物の付着している薄膜の形態で、この溶液から完全に除去された。
【0083】
2.pH=4.2である場合、Pbは、0.7V/硫酸水銀電極の電位を8時間印加することによって、SnO基板上に析出される、鉛及び酸素(O約60%及びPb40%)のみで構成される鉛酸化物の付着している薄膜の形態で、この溶液から完全に除去された。
【0084】
これらの2つの条件下でのPb(II)の除染は、99.99%であった。これらの処理後に、測定される残存濃度は、およそ10-8M(2.07μg/L)であり、これは、環境水及び飲料水基準に相当する。
【0085】
作用電極(例えば、SnO)上に形成される固体を、図1に示すように走査型電子顕微鏡法(SEM)で特性化した(<<1>>は除去される鉛結晶を示し、また<<2>>は二酸化スズの導電性基板を示す)。
【0086】
エネルギー分散型分光EDSにより、薄膜が、下記のパーセント:O 60%及びPb約40%で鉛及び酸素のみで構成されることが確認された(図2)。
【0087】
溶液中の塩の存在の影響を検査するために、毎回1mol/Lの濃度で、NaCl、又はNaSO、又はNaNO又は酢酸ナトリウムのいずれかを含有する溶液を用いて、同じ検査を行った。全ての事例において、Pbの完全な除染は、溶液中に存在する種に関係なく、導電性電極(例えば、SnO)上での先述と等価のパーセント(O 60%及びPb40%)を有する酸素及び鉛のみを含有する純粋な鉛酸化物の付着している薄膜の形態で、常に得られた。
【0088】
実施例2:銅除去の事例
溶液のpHが、酸性であり、4未満である場合、Cuは、この除染方法に従って除去されない。
【0089】
4≦pH≦8の間のpHを有する溶液に関して、Cuの除染方法は、-0.4V~-0.5V/硫酸水銀電極(0.25V~0.15V/SHE)の間の電位下で行われる。これらの条件下で、Cu(II)の除染は、約99.99%である。Cuは、導電性基板(例えば、SnO)上に析出される酸化銅(O約50%及びCu約50%)の付着している薄膜の形態で除去される。
【0090】
SnO電極上での、8.2mg/L(50ml中に6.5×10-6mol、即ち1.3×10-4mol/L)の溶液に関する除染の例:
pH=7を有する溶液に関して、Cuは、-0.45V/硫酸水銀電極の電位を48時間(0.2V/SHE)印加することによって、SnO基板上に析出される付着している薄膜の形態で、完全に除去された。
【0091】
実施例3:ニッケル除去の事例
4≦pH≦8の間のpHを有する溶液に関して、Niの除染方法は、0.7V~0.9V/硫酸水銀電極(1.35V~1.55V/SHE)の間の電位下で行われる。
【0092】
7.6mg/L(50mL中に6.5×10-6mol、即ち1.3×10-4mol/L)の溶液に関する除染の例
pH=4.2に関して、Niは、0.7V/硫酸水銀電極(1.35V/SHE)の電位を72時間印加することによって、SnO基板上に析出される付着している薄膜の形態で、完全に除去された。
【0093】
実施例4:カドミウム単独の事例
Cdは、1つの酸化状態のみを有するため、Cdは、溶液のpH条件に関係なく、この除染方法で除去することはできない。カドミウムが、溶液中に定量的に存在するため、これは、カドミウムと、他の重金属との非常に良好な分離にとって非常に興味が持たれる点である。
【0094】
実施例5:鉛、ニッケル、銅及びカドミウムの混合物の事例
実験は、溶液中で同じ初期量(それぞれに関して、50mL中6.5×10-6mol、即ち、1.3×10-4mol/Lの濃度)を有するこれらの4つの重金属(Pb、Cu、Ni、Cd)の混合物を用いて行った。溶液の初期pHの値は、任意の調整の前には、およそ1.9に近かった。
【0095】
この混合物中に含有される各金属の除去処理は、別々に行った。
【0096】
まず、Pbを除去するために、溶液のpHは、任意の調整の前には、1.9であり(酸性)、したがって、pHを変更する必要がなかった。電位E=1Vを印加した。
【0097】
24時間後、Pbは全て、電極に付着する固体酸化物薄膜の形態で除去された。
【0098】
次に、Niを除去するために、50mL容量に関して1M NaOH 400μLの添加により、pHおよそ4に調整した。電位E=0.7Vを印加した。3日後、Niは全て、電極に付着する固体薄膜の形態で除去された。
【0099】
続いて、pH値をおよそ7に調整して、E=-0.45Vを2日間印加することによって、Cuを除去した。この処理後、銅は、電極に付着する固体薄膜の形態で除去された。
【0100】
Cdは、溶液中に、完全にかつ定量的に残った。
【符号の説明】
【0101】
1 鉛結晶
2 導電性基板
図1
図2