(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】電子ビーム検査装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231222BHJP
F16C 32/06 20060101ALI20231222BHJP
G12B 5/00 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
H01L21/68 N
F16C32/06 A
G12B5/00 T
(21)【出願番号】P 2021102160
(22)【出願日】2021-06-21
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日下部 龍一
(72)【発明者】
【氏名】小林 典之
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/104806(WO,A1)
【文献】特開2002-170765(JP,A)
【文献】特開2004-116753(JP,A)
【文献】特開昭63-192864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
F16C 32/06
G12B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを照射するビーム照射装置と、
前記電子ビームが照射される試料を移動可能に支持するステージ機構と、
前記ステージ機構に空気を供給するポンプと、を備え、
前記ステージ機構は、
ガイド軸と、
前記ガイド軸に静圧軸受を介して移動可能に支持され、第1圧力室及び第2圧力室を有するスライダと、
前記第1圧力室の圧力を制御する第1サーボバルブと、
前記第2圧力室の圧力を制御する第2サーボバルブと、
前記第1サーボバルブから排気された空気が通過する第1排気配管と、
前記第2サーボバルブから排気された空気が通過する第2排気配管と、
前記第1排気配管に設けられた排気バルブと、を備え、
前記第1サーボバルブ及び前記第2サーボバルブは、電力の供給が停止した場合、排気用のラインが開放され、
前記排気バルブは、前記第1サーボバルブ及び前記第2サーボバルブの駆動時に、開放され、前記第1サーボバルブ及び前記第2サーボバルブへの電力供給が停止した際に、閉じられ、
前記第2排気配管は、前記第1サーボバルブ及び前記第2サーボバルブへの電力供給が停止した場合、開放される
電子ビーム検査装置。
【請求項2】
前記第2排気配管は、常に開放されている
請求項1に記載の電子ビーム検査装置。
【請求項3】
前記静圧軸受は、前記スライダにおける前記ガイド軸と対向する面に設けられた溝部であり、
前記溝部には、前記ポンプからエア供給配管を介して空気が供給され、
前記溝部は、前記第1圧力室及び前記第2圧力室と連通する
請求項1又は2に記載の電子ビーム検査装置。
【請求項4】
前記第1排気配管は、排気用配管と、調整用配管に分岐され、
前記排気バルブは、前記排気用配管に設けられ、
前記調整用配管には、前記排気用配管を通過する空気の量を調整する排気流量調整機構が設けられる
請求項1から3のいずれか1項に記載の電子ビーム検査装置。
【請求項5】
前記ポンプは、前記第1サーボバルブ及び前記第2サーボバルブを駆動させる電源とは異なる電源により駆動する
請求項1から4のいずれか1項に記載の電子ビーム検査装置。
【請求項6】
前記ステージ機構には、前記スライダが所定の位置に移動した際に、前記スライダの移動を規制するロック機構が設けられる
請求項1から5のいずれか1項に記載の電子ビーム検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム検査装置は、電子ビームを試料に対して高精細に照射するために、試料を移動可能に支持するステージ装置の移動精度を向上させることが求められている。近年では、ステージ装置の移動精度を向上させるために、静圧流体軸受を用いたステージ装置を適用することが考えられている。静圧流体軸受は、案内軸と移動体との隙間部分に潤滑流体によって流体膜を形成することにより、流体膜の厚み寸法分だけ案内軸から移動体を浮上させ、移動体の滑らかな移動を実現する軸受である。また、特許文献1には、潤滑流体として気体を用いたエアステージ装置に関する技術が記載されている。
【0003】
特許文献1には、水平な固定部材にスライドテーブルを静圧軸受で非接触状態に支持し、固定部材とスライドテーブルの間に形成されたエア圧力室のエア圧をエア圧制御系で制御して両エア圧力室のエア圧差によりスライドテーブルに推力を作用させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、停電時や緊急停止の際に圧力室に空気を供給するサーボバルブが停止した際、ステージを移動するスライダの位置をコントロールできなくなる、という問題を有していた。そのため、特許文献1に記載された技術を電子ビーム検査装置に適用した場合、サーボバルブが停止した際に、スライダが使用者の意図に反した位置に移動し、ステージ装置に載置された試料が他の装置に接触し、試料や他の装置が破損するおそれがあった。
【0006】
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、停電時や緊急停止の際にサーボバルブが停止した場合でも装置全体の安全性を高めることができる電子ビーム検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の電子ビーム検査装置は、電子ビームを照射するビーム照射装置と、電子ビームが照射される試料を移動可能に支持するステージ機構と、ステージ機構に空気を供給するポンプと、を備えている。
ステージ機構は、ガイド軸と、スライダと、第1サーボバルブと、第2サーボバルブと、第1排気配管と、第2排気配管と、排気バルブと、を備えている。
スライダは、ガイド軸に静圧軸受を介して移動可能に支持され、第1圧力室及び第2圧力室を有する。第1サーボバルブは、第1圧力室の圧力を制御する。第2圧力室の圧力を制御する。第1排気配管は、第1サーボバルブから排気された空気が通過する。第2排気配管は、第2サーボバルブから排気された空気が通過する。排気バルブは、第1排気配管に設けられる。そして、排気バルブは、第1サーボバルブ及び第2サーボバルブの駆動時に、開放され、第1サーボバルブ及び第2サーボバルブへの電力供給が停止した際に、閉じられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電子ビーム検査装置によれば、停電時や緊急停止の際にサーボバルブが停止した場合でも装置全体の安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態例にかかる電子ビーム検査装置を示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施の形態例にかかる電子ビーム検査装置のステージ装置を示す平面図である。
【
図3】本発明の実施の形態例にかかる電子ビーム検査装置におけるステージ機構を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態例にかかる電子ビーム検査装置におけるステージ機構のサーボバルブがオフになった状態を示す説明図である。
【
図5】本発明の実施の形態例にかかる電子ビーム検査装置におけるステージ機構のサーボバルブがオフになった状態を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施の形態例にかかる電子ビーム検査装置におけるステージ機構のスライダが安全位置まで退避した状態を示す説明図である。
【
図7】本発明の実施の形態例にかかる電子ビーム検査装置におけるステージ機構のロック機構を示す説明図である。
【
図8】本発明の実施の形態例にかかる電子ビーム検査装置におけるステージ機構のロック機構が作動した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電子ビーム検査装置の実施の形態例について、
図1~
図8を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0011】
1.実施の形態例
1-1.電子ビーム検査装置の構成
まず、本発明の実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかる電子ビーム検査装置について
図1を参照して説明する。
図1は、本例の電子ビーム検査装置を模式的に示す説明図である。
【0012】
図1に示す電子ビーム検査装置1は、試料に電子ビームを照射し、パターン検査するものである。
図1に示すように、電子ビーム検査装置1は、電子ビームを照射するビーム照射装置2と、真空チャンバー3と、防振台4と、を備えている。真空チャンバー3の内部3aには、試料を保持するチャック31と、チャック31に保持された試料を移動可能に支持するステージ装置40が配置されている。なお、ステージ装置40の詳細な構成については、後述する。また、真空チャンバー3の内部3aには、試料を交換する試料交換室22と、マスクの位置を調整するマスク調整室21が連通している。
【0013】
さらに、ビーム照射装置2は、電子ビームを照射する電子銃と、対物レンズや集束レンズ等からなる光学系ユニットと、を備えている。そして、ビーム照射装置2には、電子銃に電力を供給する高圧電源11と、光学系ユニットに電力を供給するレンズ電源12が接続されている。
【0014】
また、電子ビーム検査装置1は、描画パターンデータ準備部13と、データ転送部14と、描画制御部15と、ステージ制御部16と、レーザ測長部17と、エアサーボ制御部18と、真空制御を行うポンプ19とを備えている。
【0015】
描画パターンデータ準備部13は、試料に描画する描画パターンデータを作成する。そして、描画パターンデータ準備部13は、作成した描画パターンデータを、データ転送部14を介して描画制御部15に出力する。描画制御部15は、ビーム照射装置2及びステージ制御部16に接続されている。そして、描画制御部15は、データ転送部14から取得した描画パターンデータに基づいて、ビーム照射装置2及びステージ制御部16を制御する。ビーム照射装置2は、描画制御部15により、電子ビームの照射位置や、照射タイミング、ビーム系等が制御される。
【0016】
ステージ制御部16は、レーザ測長部17と、エアサーボ制御部18に接続されている。レーザ測長部17は、チャック31に設けたミラー32に向けてレーザを照射し、ミラー32を反射したレーザを受光する。そして、レーザ測長部17は、ステージ装置40に支持されたチャック31及び試料の位置を計測する。レーザ測長部17は、位置情報をステージ制御部16に出力する。
【0017】
ステージ制御部16は、レーザ測長部17から取得した位置情報と、描画制御部15から出力された制御信号に基づいて、エアサーボ制御部18にステージ装置40の制御信号を出力し、ステージ装置40の駆動を制御する。エアサーボ制御部18は、ステージ装置40に接続されている。そして、エアサーボ制御部18は、後述するステージ装置40のサーボバルブ51、52(
図3参照)の駆動を制御する。
【0018】
ポンプ19は、真空チャンバー3及びステージ装置40に接続されている。そして、ポンプ19は、真空チャンバー3内の空気を吸引すると共に、ステージ装置40に空気を供給する。なお、ポンプ19は、ビーム照射装置2に接続された高圧電源11やレンズ電源12とは異なる電源から電力が供給されている。
【0019】
次に、
図2を参照してステージ装置40について説明する。
図2は、ステージ装置40を示す平面図である。
ステージ装置40は、第1ステージ機構41と、第2ステージ機構42Aと、第3ステージ機構42Bとを有している。第1ステージ機構41、第2ステージ機構42A及び第3ステージ機構42Bは、それぞれスライダ43と、スライダ43を移動可能に支持するガイド軸44とを有している。
【0020】
第1ステージ機構41のガイド軸44は、水平方向と平行をなす第1の方向Xと平行に配置されている。第2ステージ機構42Aは、第1ステージ機構41の第1の方向Xの一端部に配置され、第3ステージ機構42Bは、第1ステージ機構41の第1の方向Xの他端部に配置されている。そして、第1ステージ機構41のガイド軸44の両端部は、第2ステージ機構42A及び第3ステージ機構42Bのスライダ43に支持されている。
【0021】
第2ステージ機構42A及び第3ステージ機構42Bのガイド軸44は、水平方向と平行をなし、かつ第1の方向Xと直交する第2の方向Yと平行に配置されている。また、第2ステージ機構42A及び第3ステージ機構42Bのガイド軸44は、防振台4(
図1参照)に支持されている。そして、第1ステージ機構41のスライダ43には、チャック31(
図1参照)及び試料が載置される。
【0022】
次に、ステージ機構41、42A、42Bの詳細な構成について
図3を参照して説明する。なお、第1ステージ機構41、第2ステージ機構42A及び第3ステージ機構42Bは、それぞれ同一の構成を有しているため、ここでは第1ステージ機構41について説明する。なお、以下の説明では、第1ステージ機構41を単にステージ機構41と称する。
【0023】
図3は、ステージ機構41を示す断面図である。
図3に示すように、ステージ機構41は、スライダ43と、ガイド軸44と、第1サーボバルブ51と、第2サーボバルブ52と、流量調整バルブ53と、レギュレータ54と、排気バルブ55と、を備えている。
【0024】
スライダ43は、中空の矩形状に形成されている。スライダ43には、圧力室46と、貫通孔50が形成されている。圧力室46は、スライダ43の内部に形成されている。貫通孔50は、スライダ43の第1の方向Xの両端部に形成されており、圧力室46に連通している。なお、第2ステージ機構42A及び第3ステージ機構42Bの貫通孔50は、スライダ43の第2の方向Yの両端部に形成される。この貫通孔50には、ガイド軸44が貫通する。
【0025】
また、貫通孔50におけるガイド軸44と対向する面には、溝部49が形成されている。溝部49には、エア供給配管61が接続されている。そして、溝部49には、エア供給配管61を介してポンプ19(
図1参照)から空気が常に供給される。溝部49に圧縮空気が供給されることで、スライダ43の貫通孔50の内面とガイド軸44との外周面との間には、空気の膜が形成される。これにより、スライダ43は、ガイド軸44と非接触の状態で支持される。そして、溝部49により、静圧軸受が構成される。
【0026】
ガイド軸44は、仕切り部45が設けられている。仕切り部45は、ガイド軸44の外周面から略直角に突出したフランジ部である。仕切り部45は、ガイド軸44におけるスライダ43の圧力室46内に配置される。そのため、スライダ43の圧力室46は、仕切り部45により第1圧力室47と、第2圧力室48に仕切られる。第1圧力室47及び第2圧力室48は、貫通孔50を介して溝部49と連通する。
【0027】
なお、第1ステージ機構41では、第1圧力室47は、仕切り部45の第1の方向Xの一端部側に形成され、第2圧力室48は、仕切り部45の第1の方向Xの他端部に形成される。また、第2ステージ機構42A及び第3ステージ機構42Bでは、第1圧力室47は、仕切り部45の第2の方向Yの一端部に形成され、第2圧力室48は、仕切り部45の第2の方向Yの他端部に形成される。
【0028】
第1圧力室47は、第1配管62を介して第1サーボバルブ51に接続されている。また、第2圧力室48は、第2配管64を介して第2サーボバルブ52に接続されている。
【0029】
第1サーボバルブ51及び第2サーボバルブ52には、それぞれ供給用の配管を介してポンプ19(
図1参照)に接続されている。また、第1サーボバルブ51及び第2サーボバルブ52には、エアサーボ制御部18に接続されており、エアサーボ制御部18により駆動が制御される。第1サーボバルブ51は、エアサーボ制御部18からの制御信号に基づいて、第1圧力室47に空気を供給及び排気することで、第1圧力室47の空気圧を制御する。また、第2サーボバルブ52は、エアサーボ制御部18からの制御信号に基づいて、第2圧力室48に空気を供給及び排気することで、第2圧力室48の空気圧を制御する。
【0030】
第1サーボバルブ51と第2サーボバルブ52により、第1圧力室47の空気圧と、第2圧力室48の空気圧とに差(以下、単に「差圧」という)を生じさせることで、スライダ43をガイド軸44に沿って移動させる。具体的には、2つのサーボバルブ51、52は、第1圧力室47の空気圧を第2圧力室48の空気圧よりも高くすることにより、スライダ43を第1の方向Xの一端部側(
図3の左方向)に移動させる。また、2つのサーボバルブ51、52は、第2圧力室48の空気圧を第1圧力室47の空気圧よりも高くすることにより、スライダ43を第1の方向Xの他端部側(
図3の右方向)に移動させる。そして、2つのサーボバルブ51,52は、第1圧力室47の空気圧と第2圧力室48の空気圧とを均等にすることにより、スライダ43を停止状態に維持する。
【0031】
第1サーボバルブ51と第2サーボバルブ52は、停電時や緊急停止時により駆動が停止した場合、供給用のラインが閉じられる。すなわち、第1サーボバルブ51と第2サーボバルブ52の駆動が停止した場合、ポンプ19から供給された空気は、第1配管62及び第2配管64を介して第1圧力室47及び第2圧力室48に供給されない。また、第1サーボバルブ51と第2サーボバルブ52は、駆動が停止した場合、後述する第1排気配管63、65に接続される排気用のラインが開放された状態となる。
【0032】
第1サーボバルブ51には、排気用の第1排気配管63が接続されている。同様に、第2サーボバルブ52にも、排気用の第2排気配管65が接続されている。なお、第2サーボバルブ52の第2排気配管65は、常に開放されている。
【0033】
第1サーボバルブ51の第1排気配管63は、排気用配管63aと調整用配管63bの2つに分岐している。排気用配管63aには、排気流量調整機構を示す流量調整バルブ53及びレギュレータ54が設けられている。また、調整用配管63bには、排気バルブ55が設けられている。
【0034】
排気バルブ55は、電力が供給されているときは、開放され、電力の供給が遮断されると、閉じられる。そのため、ステージ機構41が通常状態、すなわち第1サーボバルブ51及び第2サーボバルブ52が駆動している状態では、開放される。そして、第1サーボバルブ51が駆動時に排気された空気は、排気バルブ55から排気される。また、排気バルブ55は、ステージ機構41が停止状態、すなわち第1サーボバルブ51及び第2サーボバルブ52への電力供給が停止した状態では、閉じられる。
【0035】
流量調整バルブ53及びレギュレータ54は、排気用配管63aの圧力が所定の圧力に達すると開放される。そして、流量調整バルブ53及びレギュレータ54により、排気用配管63aを流れる空気の流量及び圧力を調整する。
【0036】
2.ステージ機構の動作例
次に、上述した構成を有するステージ機構41が停電や緊急停止により停止した際の動作例を
図4から
図6を参照して説明する。
図4及び
図5は、ステージ機構41停止した状態を示す説明図である。ステージ機構41のスライダ43が安全位置まで退避した状態を示す説明図である。
【0037】
図4に示すように、電子ビーム検査装置1が停電や緊急停止すると、エアサーボ制御部18も停止し、ステージ機構41の第1サーボバルブ51及び第2サーボバルブ52の駆動も停止する。そして、上述したように、第1サーボバルブ51及び第2サーボバルブ52の供給用のラインが遮断される。そのため、第1サーボバルブ51及び第2サーボバルブ52に接続された第1配管62及び第2配管64からの第1圧力室47及び第2圧力室48への空気の供給が遮断される。
【0038】
なお、ポンプ19は、ビーム照射装置2に接続された高圧電源11やレンズ電源12や、第1サーボバルブ51及び第2サーボバルブ52に電力を供給する電源とは異なる電源から電力が供給されている。そのため、ポンプ19は、他の装置が停止した場合でも、真空チャンバー3や、ステージ機構41に空気が供給される。したがって、スライダ43の静圧軸受を構成する溝部49には、エア供給配管61を介してポンプ19から空気が供給される。
【0039】
溝部49と第1圧力室47及び第2圧力室48は、連通している。そのため、第1サーボバルブ51及び第2サーボバルブ52が停止した場合でも、第1圧力室47及び第2圧力室48には、溝部49を介して空気70が供給される。
【0040】
なお、第1サーボバルブ51及び第2サーボバルブ52は、電力の供給が停止した場合、排気用のラインが開放される。そのため、第1圧力室47内の空気は、第1配管62及び第1サーボバルブ51を介して第1排気配管63に流れ、第2圧力室48内の空気は、第2配管64及び第2サーボバルブ52を介して第2排気配管65に流れる。
【0041】
また、
図5に示すように、第1サーボバルブ51の第1排気配管63に設けられた排気バルブ55は、電力の供給が停止されると閉じられる。そのため、第1サーボバルブ51の第1排気配管63から排気される空気は、排気用配管63
bから調整用配管63
aに流れる。また、調整用配管63
aには、流量調整バルブ53及びレギュレータ54が設けられているため、調整用配管63
aを流れる空気の量が制限される。また、第2サーボバルブ52の第2排気配管65は、開放されている。
【0042】
そのため、第1サーボバルブ51の第1排気配管63から排気される空気の量と、第2サーボバルブ52の第2排気配管65から排気される空気の量に差が生じる。本例では、第1サーボバルブ51の第1排気配管63から排気される空気の量は、第2サーボバルブ52の第2排気配管65から排気される空気の量よりも減少する。その結果、第1サーボバルブ51に接続された第1圧力室47の空気圧が、第2サーボバルブ52に接続された第2圧力室48の空気圧よりも高くなる。
【0043】
第1圧力室47の空気圧が第2圧力室48の空気圧よりも高くなるため、
図6に示すように、スライダ43は、第1の方向Xの一端部側(
図6の左方向)に移動する。これにより、停電や緊急停止により第1サーボバルブ51及び第2サーボバルブ52への電力の供給が停止した場合でも、スライダ43を所望の方向に移動させることができ、スライダ43を安全な位置に退避させることができる。その結果、スライダ43が使用者の意図に反して移動し、スライダ43やスライダ43に載置された試料等が他の装置に接触して、装置が破損することを防止することができ、電子ビーム検査装置1全体の安全性を高めることができる。
【0044】
さらに、第1サーボバルブ51の第1排気配管63には、排気される空気の量を調整する流量調整バルブ53及びレギュレータ54が設けられている。そのため、第2サーボバルブ52の第2排気配管65から排気される空気の量が、第1サーボバルブ51の第1排気配管63から排気される空気の量よりも急激に増大することを防止することができる。これにより、第1圧力室47と第2圧力室48の差圧をコントロールすることができ、スライダ43が移動する速度を調整することができる。その結果、スライダ43の移動速度が急激に上昇し、他の装置に接触することを防ぐことができる。
【0045】
図7及び
図8は、ステージ機構41に設けたロック機構を示す図である。
図7に示すように、ステージ機構41には、スライダ43が安全な位置に退避(以下、「退避位置」という)した際に、スライダ43の移動を規制するロック機構82が設けられている。ロック機構82は、ロック受け部80と、ロック部81とを有している。ロック受け部80は、スライダ43に固定されている。そして、ロック受け部80には、係合穴80aが形成されている。
【0046】
ロック部81は、ステージ機構41が載置される防振台4(
図1参照)に固定されている。また、ロック部81は、スライダ43の退避位置に設置されている。そして、ロック部81には、係合ピン83が設けられている。
【0047】
図8に示すように、スライダ43が退避位置まで移動すると、係合ピン83がロック受け部80の係合穴80aを臨む。そして、係合ピン83がロック部81から突出することで、係合ピン83が係合穴80aと係合する。これにより、退避位置まで移動したスライダ43をロック機構82により固定することができる。
【0048】
なお、スライダ43をロックさせるロック機構82としては、上述した例に限定されるものではない。ロック機構としては、例えば、スライダ43又は防振台4の一方に設けられたフック部と、スライダ43又は防振台4の他方に設けられフック部と係合するフック受け部で構成してもよく、その他各種のロック機構が適用できるものである。
【0049】
なお、本発明は上述しかつ図面に示した実施の形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々に変形実施が可能である。
【0050】
上述した実施の形態例では、ステージ機構41としてスライダ43が水平方向に移動する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、スライダ43が鉛直方向に移動するステージ機構にも適用できるものである。
【0051】
また、上述した実施の形態例では、電子ビーム検査装置の一例として説明したが、これに限定されるものではない。例えば、電子ビーム露光装置や、電子顕微鏡、電子ビームを用いて試料を測定する測定装置、電子ビームを用いて試料を加工する加工装置などその他各種の装置に適用できるものである。
【0052】
なお、本明細書において、「平行」及び「直交」等の単語を使用したが、これらは厳密な「平行」及び「直交」のみを意味するものではなく、「平行」及び「直交」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある、「略平行」や「略直交」の状態であってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…電子ビーム検査装置(電子ビーム描画装置)、 2…ビーム照射装置、 3…真空チャンバー、 4…防振台、 11…高圧電源、 12…レンズ電源、 15…描画制御部、 16…ステージ制御部、 17…レーザ測長部、 18…エアサーボ制御部、 19…ポンプ、 40…ステージ装置、 41A、42A、42B…ステージ機構、 43…スライダ、 44…ガイド軸、 45…仕切り部、 46…圧力室、 47…第1圧力室、 48…第2圧力室、 49…溝部(静圧軸受)、 50…貫通孔、 51…第1サーボバルブ、 52…第2サーボバルブ、 53…流量調整バルブ、 54…レギュレータ、 55…排気バルブ、 61…エア供給配管、 62…第1配管、 63…第1排気配管、 63a…排気用配管、 63b…調整用配管、 64…第2配管、 65…第2排気配管、 70…空気、 80…ロック受け部、 80a…係合穴、 81…ロック部、 82…ロック機構、 83…係合ピン