(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】ドリル工具
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20231222BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
B23B51/00 T
B23B51/00 J
B23B27/20
(21)【出願番号】P 2021504433
(86)(22)【出願日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2019071284
(87)【国際公開番号】W WO2020030726
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】102018119445.5
(32)【優先日】2018-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503128054
【氏名又は名称】ハルトメタル-ウェルクゾーグファブリック ポール ホーン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュミダ, ペーター パウル
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァイガー, マンフレート ヨーゼフ
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-150219(JP,A)
【文献】特開2006-192553(JP,A)
【文献】特開平07-251301(JP,A)
【文献】特開昭54-069888(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19710995(DE,A1)
【文献】米国特許第04367991(US,A)
【文献】国際公開第03/068437(WO,A1)
【文献】特開2008-178967(JP,A)
【文献】米国特許第04265574(US,A)
【文献】特開昭54-116795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00
B23B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸(14)に沿って延在し前記中心軸(14)に平行に配向される第1の当接面(24)を有する第1の切削インサート取付部(16)および前記中心軸(14)に平行に配向される第2の当接面(26)を有する第2の切削インサート取付部(18)を備える工具ホルダー(12)と、
CVD厚膜ダイヤモンドでできており、前記第1の切削インサート取付部(16)に固着されるように接続され、側面の1つが前記第1の当接面(24)に当接する第1の切削インサート(20)と、
CVD厚膜ダイヤモンドでできており、前記第2の切削インサート取付部(18)に固着されるように接続され、側面の1つが前記第2の当接面(26)に当接する第2の切削インサート(22)と
を備えるドリル工具(10)であって、
第1の切削インサート(20)の軸方向部分が、工具ホルダー(12)の端面端(38)を越えて突出し、第1の切削インサート(20)が、軸方向部分において、前記中心軸(14)に直交して配向され、前記工具ホルダー(12)の前記端面端(38)に配置される第1の仮想平面(54)に対して傾斜した第1の主刃先(42)を有し、前記第1の主刃先(42)の半径方向外端(58)が、前記第1の主刃先(42)の半径方向内端(60)における前記第1の仮想平面(54)からの距離よりも長い距離だけ前記第1の仮想平面(54)から離間し、前記第1の主刃先(42)が前記第1の仮想平面(54)と交差せず、
前記第1の主刃先(42)が、前記中心軸(14)に沿った第2の仮想平面(56)であって、前記第1の当接面(24)に直交して配向される第2の仮想平面(56)と接触または交差している直線的な刃先であり、
前記第1の主刃先(42)の長さが、前記工具ホルダー(12)の直径(D)の半分よりも長く、前記第1の切削インサート(20)の半径方向部分が、前記工具ホルダー(12)の外周(40)を越えて突出しており、
前記第2の切削インサート(22)の軸方向部分が、前記工具ホルダー(12)の端面端(38)を越えて突出し、前記第2の切削インサート(22)が、軸方向部分において、前記第1の仮想平面(54)に対して傾斜した第2の主刃先(44)を有し、前記第2の主刃先(44)の半径方向外端(62)が、前記第2の主刃先(44)の半径方向内端(64)における前記第1の仮想平面(54)からの距離よりも長い距離だけ前記第1の仮想平面(54)から離間し、前記第2の主刃先(44)が前記第1の仮想平面(54)と交差せず、
前記第2の切削インサート(22)の半径方向部分が、前記工具ホルダー(12)の外周(40)を越えて突出しており、
前記中心軸(14)に直交する半径方向(28)において測定される前記第2の切削インサート(22)の寸法が、前記半径方向(28)において測定される前記第1の切削インサート(20)の寸法よりも小さく、前記第2の主刃先(44)が、前記第2の仮想平面(56)と接触も交差もしない、ドリル工具(10)。
【請求項2】
前記第1の当接面(24)が、前記中心軸(14)に直交する前記工具ホルダー(12)の半径方向(28)に平行に配向されている、請求項1に記載のドリル工具。
【請求項3】
前記第1の主刃先(42)が、前記第1の当接面(24)に平行に配向されている、請求項1または2に記載のドリル工具。
【請求項4】
前記第1の主刃先(42)が、前記第1の仮想平面(54)に対して0.2°から3°の角度で傾斜している、請求項1から3のいずれか一項に記載のドリル工具。
【請求項5】
前記第1の切削インサート(20)が、前記中心軸(14)に平行で
ある第1の副刃先(46)を前記半径方向部分に含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のドリル工具。
【請求項6】
前記第1の副刃先(46)が、半径部および/または面取り部によって前記第1の主刃先(42)に接続されている、請求項5に記載のドリル工具。
【請求項7】
前記第1の副刃先(46)が、前記第1の主刃先(42)に対して90°未満の角度で傾斜している、請求項5または6に記載のドリル工具。
【請求項8】
前記第2の当接面(26)が、前記第1の当接面(24)に平行にオフセットされて配置されている、請求項1に記載のドリル工具。
【請求項9】
前記第1の主刃先(42)が、前記第1の仮想平面(54)に対して第1の角度(α)で傾斜し、前記第2の主刃先(44)が、前記第1の仮想平面(54)に対して、前記第1の角度(α)とは異なる第2の角度(δ)で傾斜している、請求項1に記載のドリル工具。
【請求項10】
側面視において、前記第1の主刃先および前記第2の主刃先(42、44)が、180°よりも小さいが174°よりも大きい角度(ε)を囲む、請求項9に記載のドリル工具。
【請求項11】
前記ドリル工具(10)が、回転対称でも鏡面対称でもない、請求項1から10のいずれか一項に記載のドリル工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心軸に沿って延在し中心軸に平行に配向される第1の当接面を有する第1の切削インサート取付部を備える工具ホルダーを有するドリル工具に関する。ドリル工具は、第1の切削インサート取付部に固定され、その側面の1つで第1の当接面に当接する第1の切削インサートをさらに備えている。
【背景技術】
【0002】
本発明によるドリル工具は、焼結超硬合金またはセラミックの機械加工に特に適している。しかし、本発明によるドリル工具の使用は、このような材料で作られたワークピースの機械加工に限定されないが、これは好ましい用途である。
【0003】
焼結超硬合金は、非常に高い硬度を有している。焼結超硬合金は、切削材料としての使用に加えて、パンチ、ハンマー、または摩耗部品として成形技術でよく使用される。焼結超硬合金で作られたこのような部品の機械加工は、伝統的に主に研削と侵食によって行われる。刃先がダイヤモンド層でコーティングされた超硬合金で作られたフライス工具も知られている。しかし、焼結超硬合金の機械加工に適したドリルは、出願人には知られていない。
【0004】
焼結超硬合金で作られたワークピースの貫通穴または止まり穴の製造は、この材料の非常に高い硬度のために、実際には非常に複雑であることがしばしば判明する。特にこのような穴にネジ山が切削されるべき場合は、非常に精密で、同時に非常に高い硬度の非常に安定した刃先を備えた工具を使用することが絶対に必要である。これは、以前から知られている侵食プロセスでは事実上不可能である。これまでのところ、これはダイヤモンドコーティングされた超硬合金フライス工具でのみ可能であった。しかし、このようなダイヤモンドコーティングされた超硬合金フライス工具の耐用年数は非常に短いため、このようなフライス工具の使用は、コストがかかることが判明している。
【0005】
従来のドリルによる焼結超硬合金の穴あけは、特に以下の理由により、これまで不可能であった:以前から知られているドリル工具の強度と安定性の欠如に加えて、焼結超硬合金の機械加工中の極端な熱の発生が主な障害である。さらに、従来のドリル工具を使用すると、ドリルが回転するドリルの中心または先端から切削プロセスが開始し、内側から外側に進むため、ここではドリルの切削速度は通常ゼロであるから、ドリルの中心で過度の圧力が強まる。したがって、穴あけによる焼結超硬合金の機械加工には、特別に適合された刃先形状のドリル工具が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、上記の問題を克服し、焼結超硬合金およびセラミックの機械加工に特に適したドリル工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
最初に記載したタイプのドリル工具を発端として、この目的は、本発明に従って解決される。すなわち、本発明は、第1の切削インサートの軸方向部分が、工具ホルダーの端面端を越えて突出し、第1の切削インサートが、軸方向部分において、中心軸に直交して配向され、工具ホルダーの端面端に配置される第1の仮想平面に対して傾斜した第1の主刃先を有し、第1の主刃先の半径方向外端が、第1の主刃先の半径方向内端における第1の仮想平面からの距離よりも長い距離だけ第1の仮想平面から離間し、第1の主刃先が第1の仮想平面と交差せず、第1の主刃先が、中心軸に沿っており、第1の当接面に直交して配向される第2の仮想平面とさらに接触または交差している。
【0008】
本発明によるドリル工具は、非常に高い硬度を有する材料を機械加工するために特別に適合された刃先形状を特徴とする。この刃先形状の特徴は、主刃先の外側から内側への傾斜である。主刃先の半径方向外端は、主刃先の半径方向内端よりも工具ホルダーの端面端をさらに越えて軸方向(すなわち、中心軸に平行)に突出している。
【0009】
したがって、本発明によるドリル工具では、ワークピースの最初の切削は、内側から外側にではなく、外側から内側に行われる。本発明によるドリル工具は、ドリル先端が中心になく、ドリルヘッドが凸状の刃先形状を有していない。さもなければほとんどの場合には、ドリルヘッドが凹状の刃先形状を有している。これにより、ドリルヘッドの中心への圧力が大幅に軽減される。したがって、ドリルの中心での切削速度を大幅に打ち消すことができる(典型的にはゼロにすることができる)。
【0010】
主刃先のこの特徴の経過のより良い説明のために、本明細書では2つの仮想平面が参照され、これらの仮想平面は、主刃先の形状および位置を説明するためにのみ役立つ。第1の仮想平面は、中心軸に直交して配向され、工具ホルダーの端面端を通るか、または工具ホルダーの端面端と接触している。これは、一種の垂直面またはyz平面を表す。この第1の仮想平面に対して、本明細書では第1の主刃先と呼ばれる切削インサートの主刃先は、第1の主刃先の半径方向外端が第1の主刃先の半径方向内端における第1の仮想平面からの距離よりも長い距離だけ第1の仮想平面から離間するように傾斜している。しかし、第1の主刃先は、この第1の仮想平面の片側全面にある一方で、工具ホルダーは、この第1の仮想平面の反対側全面にある。
【0011】
第1の主刃先の形状および位置を説明する第2の仮想平面は、工具ホルダーの中心軸に沿っており、第1の当接面に直交している。したがって、工具ホルダーの中心軸は、この第2の仮想平面にある。第1の主刃先は、この第2の仮想平面と接触または交差している。したがって、第1の主刃先は、ドリルヘッドの中心まで、または中心を越えて切削されるため、凹状の刃先形状にかかわらず、機械加工もドリルヘッドの中心で実行され、材料がドリル穴の中心に残らない。
【0012】
第1の主刃先の刃先形状により、ドリル工具がワークピースに配置されると、ドリルヘッドの半径方向外端で機械加工が開始する。これにより、安定性が向上し、穴の軸方向の精度と真円度が高くなる。
【0013】
第1の切削インサートは、好ましくは、CVD厚膜ダイヤモンドで作られている。上記の第1の主刃先の形状と位置によって、摩擦に対するCVD厚膜ダイヤモンドの優れた特性が利用されると同時に破損に対する特性が保護されるように、CVD厚膜ダイヤモンドの高い耐摩耗性を使用することが可能になった。したがって、幾何学的に定義された刃先を備えた非常に硬い材料を効率的かつ低応力で機械加工することが可能である。
【0014】
本発明の改良によれば、第1の当接面は、中心軸に直交する工具ホルダーの半径方向に平行に配向されている。したがって、第1の当接面は、中心軸と半径方向の両方に平行である。すなわち、第1の当接面は、第1および第2の仮想平面に直交している。したがって、この改良によれば、工具ホルダーと第1の切削インサートとの間の動力伝達は、半径方向および中心軸に直交する円周方向である。
【0015】
別の改良によれば、第1の主刃先は、第1の当接面に平行に配向されている。半径方向または第1の仮想平面に対して、第1の主刃先は、好ましくは、0.2°から3°の角度で傾斜している。
【0016】
上記のように、第1の主刃先は、半径方向外側から半径方向内側に傾斜しており、凹状の刃先形状をもたらす。したがって、ワークピースを機械加工する場合は、最初は半径方向外側にある切削圧力が、第1の主刃先に沿って外側から内側にゆっくりと第1の切削インサートに伝達されるため、第1の主刃先の全体に負荷が加わることが遅れる。これにより、切削圧力が安定し、第1の主刃先でのチャンクが回避される。
【0017】
別の改良によれば、第1の主刃先の長さは、工具ホルダーの直径の半分よりも大きい。
【0018】
この改良では、第1の主刃先は、好ましくは、ドリル工具の中心を越えて最も外側から内側に切削する。この場合、ドリル工具は、1つのみの切削インサートと1つの主刃先とを備えた単一の切削工具、すなわち第1の主刃先を備えた第1の切削インサートとして構成され得る。
【0019】
後者の改良では、第1の切削インサートの半径方向部分は、好ましくは、工具ホルダーの外周を越えて突出し、第1の切削インサートは、中心軸に平行であるか、または最大2°だけ中心軸に対して傾斜した第1の副刃先を半径方向部分に含む。
【0020】
この第1の副刃先は、中心軸からの距離が第1の主刃先の半径方向外端の中心軸からの距離よりも長い距離だけ離間している。第1の副刃先は、ドリル工具が円周上のワークピースに支持される一種のサポートとして役立つ。したがって、それは主にガイドとして役立つ。しかし、同時に、この箇所で材料も除去される。第1の副刃先がドリル工具の中心軸に対してわずかに傾斜している場合、これにより、より良いフリーホイーリングが保証されるが、第1の副刃先は、その際、ほとんどの部分が、機械加工されるべきワークピースと接触しないため、この箇所で、第1の切削インサートとワークピースとの摩擦はほとんど生じない。
【0021】
別の改良によれば、第1の副刃先は、半径部および/または面取り部によって第1の主刃先に接続されている。
【0022】
半径部および/または面取り部は、刃先角、ひいてはワークピースの最初の切削が始まる点を形成する。したがって、半径部および/または面取り部は切削に寄与する。したがって、それは、一種の角刃先である。
【0023】
別の改良によれば、第1の副刃先は、第1の主刃先に対して90°未満の角度で傾斜している。
【0024】
90°未満の角度は、上記のように、第1の主刃先が半径方向に対してある角度で内側に傾斜していると同時に、第1の副刃先が中心軸に対して傾斜しているという事実から既に生じている。
【0025】
別の改良によれば、工具ホルダーは、中心軸に平行に配向される第2の当接面を有する第2の切削インサート取付部を備え、第2の切削インサートは、第2の切削インサートがその側面の1つで第2の当接面に当接する第2の切削インサート取付部に固定される。
【0026】
したがって、本発明による工具は、2つの切削工具または多数の切削工具としても構成され得る。第2の切削インサートが当接する第2の当接面は、好ましくは、第1の当接面に平行にオフセットされて配置されている。2つの当接面のオフセットは、好ましくは、第1の切削インサートの第1の主刃先と第2の切削インサートの第2の主刃先との間に最大600分の1のギャップが存在するように実現される。この刃先ギャップは、0に設定することもできる。しかし、2つの切削インサートの2つの主刃先は、互いに重ならない。
【0027】
切削インサートの数に応じて、異なる切削インサートの主刃先は、好ましくは、穴の異なる半径方向セグメントを機械加工する。2つの切削インサートを使用する場合、好ましくは、第1の切削インサートの第1の主刃先は、最も外側から穴の中心を越えて穴を機械加工する一方で、第2の切削インサートの第2の主刃先は、穴の半径方向外側領域のみを機械加工する。したがって、穴の半径方向内側領域または半径方向中央領域では、第1の切削インサートのみが切削する一方で、半径方向外側領域では、穴は、第1の切削インサートと第2の切削インサートの両方によって機械加工される。
【0028】
改良によれば、第2の切削インサートの軸方向部分は、工具ホルダーの端面端を越えて突出し、第2の切削インサートは、第2の主刃先の半径方向外端における第1の仮想平面からの距離が第2の主刃先の半径方向内端における第1の仮想平面からの距離よりも長い距離だけ離間し、第2の主刃先が第1の仮想平面と交差しないように、第1の仮想平面に対して傾斜した第2の主刃先を軸方向部分に備えている。したがって、第2の切削インサートの第2の主刃先は、第1の切削インサートの第1の主刃先と同様、外側から内側に傾斜している。
【0029】
別の改良によれば、第1の主刃先は、第1の仮想平面に対して第1の角度で傾斜している一方で、第2の主刃先は、第1の仮想平面に対して第1の角度とは異なる第2の角度で傾斜している。
【0030】
好ましくは、両方の主刃先は、外側から内側に傾斜しているため、凹状の刃先形状が生じる。切削インサートの2つの当接面に直交する側面図では、第1の主刃先と第2の主刃先は、好ましくは、180°よりも小さいが174°よりも大きい角度を囲む。174°という最小角度は、第1の仮想平面に対する3°の両方の主刃先の傾斜から生じる。
【0031】
好ましくは、半径方向に測定された、すなわち中心軸に直交する第2の切削インサートの寸法は、半径方向に測定された第1の切削インサートの寸法よりも小さい。
【0032】
第1の主刃先は、好ましくは、穴を最も外側から内側に中心を越えて機械加工する一方で、第2の主刃先は、好ましくは、穴の半径方向外端のみを機械加工する。したがって、第2の主刃先は、工具ホルダーの中心まで延在していない、または中心を越えて延在していない。すなわち、第2の主刃先は、第2の仮想平面と交差または接触していない。
【0033】
しかし、改良によれば、第2の主刃先は、工具ホルダーの外周を越えて突出することも可能であるが、第1の切削インサートは突出していない。このような構成では、穴の半径方向外端は、第2の切削インサートによってのみ機械加工され、穴の半径方向内端は、第1の切削インサートによってのみ機械加工される。
【0034】
第2の切削インサートのみが工具ホルダーの外周を越えて突出するか、両方の切削インサートが工具ホルダーの外周を越えて突出するかにかかわらず、第2の切削インサートは、工具ホルダーの外周を越えて延在する半径方向部分を有し、第2の切削インサートは、中心軸に平行であるか、または中心軸に対して最大2°傾斜している第2の副刃先を半径方向部分に備えている。
【0035】
第1の切削インサートと同様に、第2の副刃先は、半径部および/または面取り部によって第2の主刃先に接続されている。
【0036】
好ましくは、本発明によるドリル工具は、回転対称でも鏡面対称でもないように設計されている。
【0037】
改良によれば、切削インサートは、各々しっかりと結合するように工具ホルダーに接続されている。これにより、切削インサートと工具ホルダーの安定した接続が保証される。
【0038】
好ましくは、切削インサートは、工具ホルダーにハンダ付けされる。原理上は、溶接接続も可能であるが、この場合、切削インサートは、好ましくはCVD厚膜ダイヤモンドで作られ、工具ホルダーは、好ましくは超硬合金で作られるため、ハンダ接続が有利である。
【0039】
言うまでもなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上記の特徴および以下に説明される特徴は、各場合に示される組合せだけでなく、他の組合せも単独で使用することができる。
【0040】
本発明の実施形態は、図面に示され、以下の説明でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明の第1の実施形態によるドリル工具の斜視図を示す図である。
【
図2】
図1のドリル工具のドリルヘッドの詳細を側面図で示す図である。
【
図3】
図1のドリル工具のドリルヘッドの正面からの上面図を示す図である。
【
図4】
図1のドリル工具のドリルヘッドを、それに取り付けられた切削インサートのない側面図で示す図である。
【
図5】
図1のドリル工具のドリルヘッドを、それに取り付けられた切削インサートのない斜視図で示す図である。
【
図6】第2の実施形態による本発明によるドリル工具のドリルヘッドを側面図で示す図である。
【
図7】
図6のドリルヘッドを正面からの上面図で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図1は、本発明によるドリル工具の第1の実施形態の斜視図を示している。ドリル工具は、その中にその全体が参照番号10で示されている。
【0043】
ドリル工具10は、好ましくは、回転対称でも鏡面対称でもないように設計されている。
【0044】
ドリル工具10は、中心軸14に沿って延在する工具ホルダー12を備えている。その端面端の領域では、本明細書に示される実施形態の工具ホルダー12は、より良い区別のために、第1の切削インサート取付部16および第2の切削インサート取付部18と呼ばれる2つの切削インサート取付部16、18を備えている。2つの切削インサート取付部16、18は、第1の切削インサート20および第2の切削インサート22と呼ばれる2つの切削インサート20、22を受け入れるために使用される。
【0045】
2つの切削インサート20、22は、示される実施形態では異なるサイズである。そのサイズの違いに加えて、本実施形態の2つの切削インサート20、22は、正確には同じ形状も有していない。
【0046】
示される実施形態のドリル工具10は、2つの切削インサート20、22を備えているが、ここでは、2つの切削インサートのうちの一方、すなわち切削インサート20のみでドリル工具10の機能に十分であろうことに留意されたい。ドリル工具10には、本発明の範囲を逸脱することなく、3つ以上の切削インサートを備えることもできる。
【0047】
切削インサート20、22が配置されている切削インサート取付部16、18は、切削インサート20、22が示されていない
図4および
図5に詳細に示されている。両方の切削インサート取付部16、18は、各々、2つの切削インサート20、22が配置される当接面24および26を備えている(
図3も参照)。第1の当接面24および第2の当接面26と呼ばれるこれらの2つの当接面24、26は、好ましくは、工具ホルダー12の中心軸14に平行に延在している。同様に好ましくは、2つの当接面24、26は、互いに平行に延在し、工具ホルダー12の半径方向28に平行に延在している。中心軸14に直交する半径方向28は、
図3に矢印で簡単に示されている。
【0048】
2つの切削インサート20、22の各々は、工具ホルダー12上の別の支持面がさらに接する側面を有している。
図4および
図5では、第1の切削インサート20が接する前記支持面は、参照番号30で示されている。第2の切削インサート22が支持される第2の切削インサート取付部18の対応する支持面は、
図4および
図5では隠れており、明示的には示されていない。しかし、支持面30と同様に、それは、工具ホルダー12の中心軸14に対して鋭角(90°未満の角度)となるように延在している。
【0049】
2つの切削インサート20、22は、工具ホルダー12に、より正確には切削インサート取付部16、18に、好ましくは、固着されるように接続されている。2つの切削インサート20、22は、特に好ましくは、切削インサート取付部16、18にハンダ付けされている。切削インサート20、22は、好ましくは、CVD厚膜ダイヤモンドで作られている。工具ホルダー12は、好ましくは、超硬合金で作られている。
【0050】
切削インサート20、22は、それらが取り付けられている工具ホルダー12の前部分とともに、ドリルヘッド32を形成する。これは、
図2および
図3に、側面図(
図2)および正面からの上面図(
図3)として詳細に示されている。本明細書に示される実施形態では、工具ホルダー12に設けられる2つの冷却剤経路の2つの出口34は、このドリルヘッド32上に配置されている。これらの冷却剤経路は、例えば、切削プロセス中に、インサート20、22を冷却するために、ドリルヘッド32の領域内に冷却された空気を運ぶために使用することができる。もちろん、空気の代わりに、他の任意の冷却剤も、冷却剤経路を通って冷却剤出口34に運ぶことができる。
【0051】
ワークピースから除去されたチップは、ドリルヘッド32から工具ホルダー12に沿って後方に延在するチップ溝36を介して運ばれる。本明細書に示される実施形態では、ドリル工具10は、2つのこのようなチップ溝36を備え、チップ溝36の一方は、第1の切削インサート20に割り当てられ、2つのチップ溝36のうちの他方は、第2の切削インサート22に割り当てられている。
【0052】
図1から
図3に示される第1の実施形態では、2つの切削インサート20、22は、工具ホルダー12の端面端38を軸方向(すなわち中心軸14に沿って)に越えて外側に突出するとともに、それに対して横方向に、ドリルヘッド32の外周40を半径方向28に越えて外側に突出している。
【0053】
2つの切削インサート20、22の各々は、主刃先42、44および副刃先46、48を備えている。主刃先42、44は、工具ホルダー12の端面端38を越えて突出する切削インサート20、22の軸方向部分に配置されている。副刃先46、48は、ドリルヘッド32の外周40を越えて突出する半径方向部分に配置されている。
【0054】
第1の切削インサート20の主刃先42は、本明細書では第1の主刃先42と呼ばれる。第2の切削インサート22の主刃先44は、本明細書では第2の主刃先44と呼ばれる。それに応じて、第1の切削インサート20の副刃先46は第1の副刃先と呼ばれ、第2の切削インサート22の副刃先48は第2の副刃先48と呼ばれる。
【0055】
第1の主刃先42は、面取り部および/または半径部として構成され得る角刃先50によって第1の副刃先46に接続されている。第2の主刃先44は、面取り部および/または半径部としても構成され得る第2の角刃先52によって第2の副刃先48に接続されている。これらの2つの角刃先50、52は、好ましくは、各切削インサート20、22において工具ホルダー12の中心軸14からの距離が最大となる部分を形成している。
【0056】
角刃先50、52が半径部として構成されている場合、それらは、好ましくは0.1mmから1mmの範囲の半径を有している。角刃先50、52が面取り部として構成されている場合、それらは、好ましくは隣接する主刃先42、44に対して5°から20°の角度で傾斜し、0.2mmから1mmの範囲の長さを有している。
【0057】
主および副刃先42、44、46、48の位置および形状を説明するために、2つの仮想平面が参照され、これらはより良い説明にのみ役立つ。2つの仮想平面は、
図2および
図4に一点鎖線として示され、参照番号54、56で示されている。2つの仮想平面54、56は、互いに直交して配向される2つの平面である。本明細書では第1の仮想平面54と呼ばれる仮想平面54は、工具ホルダー12の中心軸14に直交して配向され、工具ホルダー12の端面端38を通る。本明細書では第2の仮想平面56と呼ばれる仮想平面56は、それに直交して配向されている。工具ホルダー12の中心軸14は、この第2の仮想平面56に配置されている。両方の仮想平面54、56は、好ましくは、切削インサート取付部16、18の2つの当接面24、26に直交して延在している。すなわち、第1の仮想平面54は、工具ホルダー12の端面端38を通る半径方向平面を形成している。他方、第2の仮想平面56は、半径方向28および中心軸14に沿っている。
【0058】
第1の切削インサート20の第1の主刃先42は、第1の角刃先50に隣接する第1の主刃先42の半径方向外端58における第1の仮想平面54からの距離が、第1の主刃先42の半径方向内端60における第1の仮想平面54からの距離よりも長い距離を有するように、第1の仮想平面54に対して傾斜している。しかし、第1の主刃先42の両端58、60は、第1の仮想平面54の同じ側、すなわち、第1の仮想平面54の工具ホルダー12に対向する側とは反対側に配置されている。したがって、第1の主刃先42は、第1の仮想平面54と交差していない。
【0059】
上述の配置によれば、第1の仮想平面54に対して、または半径方向28に対して主刃先42が傾斜する結果となる。この傾斜は、
図2に角度αで示されている。角度αは、好ましくは0.2°から3°である。第1の主刃先42は、第2の仮想平面56と接触しているか、または交差している。すなわち、第1の主刃先42は、ドリル工具10の中心まで延在するか(第2の仮想平面56と接触している場合)、またはドリル工具10の中心を越えて延在している(第2の仮想平面56と交差している場合)。
【0060】
第1の切削インサート20の第1の副刃先46は、好ましくは、工具ホルダー12の中心軸14に平行に延在しているか、または工具ホルダー12の中心軸14に対して最大2°の角度で傾斜している。この角度は、
図2では角度βとして示されている。
【0061】
半径方向28に対する第1の主刃先の傾斜(角度α)、および中心軸14に対する第1の副刃先46の任意の傾斜(角度β)は、第1の主刃先42と第1の副刃先46との間の角度γ(好ましくは90°よりも小さい)をもたらす。この角度γは、特に好ましくは85°から89.8°の範囲である。
【0062】
第2の切削インサート22の第2の主刃先44も、第1の仮想平面54に対して傾斜している。対応する傾斜角は、
図2では角度δとして示されている。また、第2の主刃先44の傾斜は、第2の主刃先44の半径方向外端62が、第2の主刃先44の半径方向内端64における第1の仮想平面54からの距離よりも大きな距離だけ第1の仮想平面54から離間するようになっている。第2の主刃先44も、第1の仮想平面54とは交差していない。
【0063】
これにより、主刃先42および44の間の角度εが、180°未満となるが、好ましくは174°よりも大きい。好ましくは、角度εは、174°よりも大きいが、179.6°未満である。主刃先42、44の組み合わせにより、ドリルヘッド32の軸方向端面端が凹状の刃先形状となる。
【0064】
第2の切削インサート22の第2の主刃先44は、第1の切削インサート20の第1の主刃先42とは異なり、ドリル工具10の中心まで延在していない。したがって、第2の主刃先44は、第2の仮想平面56と接触または交差していない。
【0065】
図1から
図3に示される実施形態では、第2の切削インサート22の第2の副刃先48は、工具ホルダー12の中心軸14に平行に延在している。しかし、第1の副刃先46と同様に、それは、中心軸14に対して最大2°だけ傾斜することができる。角度α、βおよびδによる主および副刃先42、44、46、48の上述した傾斜にかかわらず、主および副刃先42、44、46、48は、好ましくは、切削インサート取付部の16、18の2つの当接面24、26に平行に延在している。主および副刃先42、44、46、48は、好ましくは、すべて真っ直ぐな刃先として構成されている。
【0066】
ドリル工具10でワークピースを機械加工する場合、角刃先50、52は、主刃先42、44の上述した傾斜のために、最初にワークピースと接触している。したがって、ドリルヘッド32は、ワークピース上でこれらの2つの角刃先50、52でそれ自体を支持している。半径方向28に対する主刃先42、44の上述した傾斜のために、第1の切断は、外側から内側に進む。これにより、切削圧力が刃先形状の外側から内側にゆっくりと伝達され、全負荷が遅れるため、切削インサート20、22の耐摩耗性が大幅に向上する。これにより、切削圧力が安定するため、主刃先42、44でのブレイクアウトを回避することができる。切削インサート20、22を、CVD厚膜ダイヤモンド切削インサートとして設計すると、高強度刃先を備えたドリル工具が得られ、焼結炭化物やセラミックなどの非常に硬い材料の機械加工が可能になる。ドリル工具10の中心への圧力は、主刃先42、44の上述した傾斜によって大幅に軽減される。開発された刃先形状により、ドリルの中心での切削速度を大幅に打ち消し、典型的には0にすることが可能である。角50、52の支持により、安定性が向上し、これにより、穴の軸方向の精度と真円度とが最高になる。副刃先46、48の傾斜は、穴の外側面の摩擦を最小化する。
【0067】
ドリル工具10の高精度特性を保証することができるように、さらに好ましくは、刃先形状または刃先42、44、46、48は、レーザー加工によって製造される。
【0068】
図3に示される正面からの上面図は、さらに以下のことを示す。2つの切削インサート20、22は、好ましくは、異なるサイズを有している。第1の切削インサート20は、特にその半径方向延出部分に関して、第2の切削インサート22よりも大きい。好ましくは、第1の切削インサート20は、工具ホルダー12の直径の半分よりも大きい半径方向28の延長部分を有している。
図1および
図3では直径Dとして示されているこの直径は、ドリルヘッド32の直径を指している。後部において、工具ホルダー12は、クランプ部66を備え、その直径は、好ましくは、直径Dよりも大きい。上記のように、第1の切削インサート20の第1の主刃先42は、最も外側から中心に、またはそれを越えて切削するため、第1の主刃先44も、ドリルヘッド32の直径Dの半分よりも大きい長さを有している。
【0069】
図3に示される正面からの上面図では、2つの主刃先42、44の間にある距離d
1も描かれている。この距離d
1は600分の1を超えてはならない。しかし、距離d
1は、0でもあり得る。
【0070】
図6および
図7は、ドリルヘッド32の領域において、第2の切削インサート22のみが、工具ホルダー12の外周40を越えて半径方向外向きに突出する、ドリル工具10の第2の実施形態を示している。これに対し、第1の切削インサート20の第1の副刃先46は、ドリルヘッド32の領域において、工具ホルダー12の外周40を越えて半径方向外向きに突出することなく、工具ホルダー12の内側に配置されている。しかし、主および副刃先42、44、46、48の特徴的な傾斜は、第1の実施形態と異ならない。したがって、第1の実施形態との主な違いは、
図6および
図7に示されるドリル工具10では、穴の外側輪郭が、第2の切削インサート22のみで機械加工され、穴の中心が、第1の切削インサート20のみで機械加工されることである。この外側領域と内側領域との間で、穴は、第1の実施形態のように、両方の切削インサート20、22で機械加工される。
【0071】
3つ以上の切削インサートを提供することも考えられ、各切削インサートの主刃先は、穴の外側から内側に穴の半径方向のセグメントを機械加工する。しかし、第1の切削インサート20が、
図1から
図3の第1の実施形態に示されるように構成されている場合、第1の実施形態では、切削インサート20は、最も外側から中心までの輪郭全体を機械加工するため、1つの切削インサート20のみを使用することで十分である。