(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】対象者から生理学的尺度を取得するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20231222BHJP
A61B 5/33 20210101ALI20231222BHJP
A61B 5/022 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
A61B8/14
A61B5/33 210
A61B5/022 100A
(21)【出願番号】P 2021535001
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 EP2019086182
(87)【国際公開番号】W WO2020127646
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-12-15
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】マエッセン ラルフ テオドルス フーベルトゥス
(72)【発明者】
【氏名】バラゴナ マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ラウ ケヴィン ダニエル セン ハン
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0228190(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0196384(US,A1)
【文献】特開2013-188478(JP,A)
【文献】特表2008-535555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/03、8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者から生理学的尺度を取得するための、コンピュータ実施される方法であって、前記方法は、
心臓系の数値モデルを取得するステップと、
非侵襲的な手法で前記対象者から生理学的データを取得するステップと、
前記生理学的データに基づいて前記数値モデルを更新するステップと、
歪みデータを含む前記生理学的データを、更新された前記数値モデルに提供するステップと、
更新された前記数値モデルの出力に基づいて生理学的尺度を導出するステップであって、前記生理学的尺度は、圧力-ボリュームループと圧力-歪み関係とを含む、ステップとを有
し、
前記歪み、前記圧力、及び前記ボリュームは、何れも、前記対象者の心室についてのパラメータである、方法。
【請求項2】
前記生理学的データは、超音波データと
心電図データと血圧とのうちの1つ又は複数を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記超音波データは、2D超音波画像データと3D超音波画像データとドップラ超音波データとのうちの1つ又は複数を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記血圧は、動脈圧波形とカフ圧値とのうちの1つ又は複数を含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記数値モデルは、圧力-ボリューム関係と前記心臓系の剛性とエネルギーの保存と質量の保存と運動量の保存とに基づく、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記心臓系は、左心室と全身動脈とを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記心臓系は心臓を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記数値モデルを更新するステップは、前記生理学的データに基づいてモデルパラメータを特定するステップと前記モデルパラメータを前記数値モデルに提供するステップとを有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記モデルパラメータは、体循環パラメータと充満パラメータと駆出パラメータと剛性パラメータとのうちの1つ又は複数を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記生理学的尺度は、流体反応性を更に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記生理学的尺度をユーザに対して表示するステップを更に有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
コンピュータプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されたとき、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法を実現する、コンピュータプログラム。
【請求項13】
対象者から生理学的尺度を取得するための処理ユニットであって、前記処理ユニットは、
心臓系の数値モデルを取得することと、
非侵襲的な手法で前記対象者から取得された生理学的データに基づいて前記数値モデルを更新することと、
歪みデータを含む前記生理学的データを、更新された前記数値モデルに提供することと、
更新された前記数値モデルの出力に基づいて生理学的尺度を導出することであって、前記生理学的尺度は、圧力-ボリュームループと圧力-歪み関係とを含む、ことと
を実施
し、
前記歪み、前記圧力、及び前記ボリュームは、何れも、前記対象者の心室についてのパラメータである、処理ユニット。
【請求項14】
対象者から生理学的尺度を取得するためのシステムであって、前記システムは、非侵襲的な手法で前記対象者から生理学的データを取得する生理学的センサと、請求項13に記載の処理ユニットとを備え、
前記生理学的センサは、
前記生理学的データが超音波データを含む場合の超音波トランスデューサと、
前記生理学的データが心電図データを含む場合の心電図センサと、
前記生理学的データが血圧データを含む場合の血圧測定デバイスと
のうちの1つ又は複数を備える、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理学的測定の分野に関し、より具体的には、生理学的システムをモデリングするための生理学的測定の使用の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の圧送機能は、駆出期及び充満期によって特徴付けられ得る。駆出の間、心臓の筋肉は収縮して、心臓から循環内へと血液を駆出する力を生成する。これとは逆に、充満の間、心臓の筋肉は弛緩して、循環から心臓内への血液の再充満を可能とする。心臓の筋肉の収縮又は弛緩のどちらかの機能障害は、収縮期又は拡張期の心機能不全をもたらす。
【0003】
典型的には、筋肉の収縮及び弛緩の直接的な測定は臨床環境においては不可能であるので、典型的には、血行力学及び心室運動などの心臓機能を特徴付けるために代理的尺度が利用される。
【0004】
重要な代理的尺度としては、収縮、弛緩中に心臓によって生成及び持続される力、心筋エネルギーなどと直接的な関係を有することによる、心室血圧-ボリューム曲線があり、これはP-Vループと称される。しかしながら、典型的には、P-Vループの心室圧力成分は、カテーテル挿入を介して侵襲的にのみ測定され得る。これは非常に侵襲的な処置であるので、このようなカテーテルに基づいた心室圧力測定は臨床的実践においては一般的ではない。
【0005】
心室圧力のための様々な非侵襲的推定が存在する。このような推定は、典型的には、集団ベースであり、収縮終期圧力推定のためのカフ圧及び超音波測定されたストロークボリューム、充満圧力測定のためのドップラ組織撮像など、圧力を非侵襲的に測定された変数と相関させるために経験的な関係性が使用される。
【0006】
これらの推定の非直接的な性質によって、個々の患者における圧力は、これらの技術によって過大に又は過少に推定されることがある。更に、これらの推定は、収縮期又は拡張期の圧力推定に限って注目しているが、心機能不全の進行は、収縮期及び拡張期の機能障害の結合として見られることが多くなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、心臓の収縮中及び弛緩中の両方における心臓機能を推定するための非侵襲的方法への需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は特許請求の範囲において定められる。
【0009】
本発明の態様に従う実施例によると、対象者から生理学的尺度を取得するための方法であって、方法は、
心臓系の数値モデルを取得するステップと、
非侵襲的な手法で対象者から生理学的データを取得するステップと、
生理学的データに基づいて数値モデルを更新するステップと、
生理学的データを、更新された数値モデルに提供するステップと、
更新された数値モデルの出力に基づいて生理学的尺度を導出するステップであって、生理学的尺度は圧力-ボリュームループ、すなわちP-Vループを含む、ステップと
を有する方法が提供される。
【0010】
方法は、数値モデルによってP-Vループの非侵襲的な導出を提供し、これは、ユーザ及び入手可能な生理学的データに個人化されており、それによって、導出される生理学的尺度の正確性を増加させる。
【0011】
このようにして、測定されたデータは、最終的な尺度が導出される前に、ユーザに固有の心臓系の数値シミュレーションに提供される。これにより、侵襲的な測定のための典型的な要件が回避される一方、現在の非侵襲的な代替手法に存在する正確性の問題が克服される。
【0012】
典型的には、患者の完全なP-Vループを導出する唯一のやり方は、カテーテルの非常に侵襲的な使用を介することであり、これは、典型的には、標準的な手順の一部としては用いられない。現在の非侵襲的な代替手法は、典型的には、圧力-ボリュームループのほんの2,3のポイント又は一部分のみを導出することに集中している。更に、これらの推定は、典型的には、集団ベースであり、経験的な関係性によって圧力を非侵襲的に測定された変数と相関させている。
【0013】
故に、数値モデルは、対象者の心臓系の機能を正確にシミュレートする手段を提供し、それによって、個人化された手法での心機能のシミュレーションを可能とする。それ故、数値モデルは、最終的な尺度の正確性を犠牲にすることなく、圧力-ボリュームループを含むこのような基準値を導出する非侵襲的な手段を提供する。
【0014】
心室圧力-ボリューム関係などの心機能の非侵襲的な推定は、様々な異なる臨床環境において心臓機能の評価を提供する。更には、方法は、侵襲的な処置に関連するリスクをこうむることなく定期的に用いられる。
【0015】
実施形態において、生理学的データは、
超音波データと;
心電図データと;
血圧と
のうちの1つ又は複数を含む。
【0016】
これらのデータタイプは、広範囲の生理学的尺度が導出されることを可能とする。
【0017】
更なる実施形態において、超音波データは、
2D超音波画像データと;
3D超音波画像データと;
ドップラ超音波データと
のうちの1つ又は複数を含む。
【0018】
所与のタイプの超音波データの入手可能性は、特定の臨床状況においては限定的である場合があるが、有用な尺度を生成するために任意の入手可能なタイプが使用され得る。
【0019】
実施形態において、血圧は、
動脈圧波形と;
カフ圧値と
のうちの1つ又は複数を含む。
【0020】
所与のタイプの圧力データの入手可能性は、特定の臨床状況においては限定的である場合があるが、有用な尺度を生成するために任意の入手可能なタイプが使用され得る。
【0021】
1つの構成において、数値モデルは、
圧力-ボリューム関係と;
心臓系の剛性と;
エネルギーの保存と;
質量の保存と;
運動量の保存と
に基づく。
【0022】
例えば、このような物理的保存則に準拠することによって、数値モデルの正確性が増加され、それによって、最終的な尺度の正確性が増加される。
【0023】
実施形態において、心臓系は、左心室と全身動脈とを含む。
【0024】
例えば、心臓系は、左心臓と全身動脈とを含む。
【0025】
実施形態において、心臓系は心臓を含む。
【0026】
1つの構成において、数値モデルを更新するステップは、
生理学的データに基づいてモデルパラメータを特定するステップと;
モデルパラメータを数値モデルに提供するステップと
を有する。
【0027】
このようにして、ユーザに固有のデータが、数値モデルのためのパラメータを設定するために利用され、それによって、数値モデルを個々のユーザに対して個人化する。
【0028】
更なる実施形態において、モデルパラメータは、
体循環パラメータと;
充満パラメータと;
駆出パラメータと;
剛性パラメータと
のうちの1つ又は複数を含む。
【0029】
1つの構成において、生理学的尺度は、圧力-歪み関係を含む。
【0030】
実施形態において、生理学的尺度は、流体反応性を含む。
【0031】
実施形態において、方法は、生理学的尺度をユーザに対して表示するステップを更に有する。
【0032】
本発明の態様に従う実施例によると、コンピュータプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラムであって、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されたとき、上述された方法を実現するように適合されたコンピュータプログラムが提供される。
【0033】
本発明の態様に従う実施例によると、対象者から生理学的尺度を取得するための処理ユニットであって、処理ユニットは、
心臓系の数値モデルを取得することと;
生理学的データに基づいて数値モデルを更新することと;
生理学的データを、更新された数値モデルに提供することと;
更新された数値モデルの出力に基づいて生理学的尺度を導出することであって、生理学的尺度は圧力-ボリュームループ、すなわちP-Vループを含む、ことと
を実施するように適合された処理ユニットが提供される。
【0034】
本発明の態様に従う実施例によると、対象者から生理学的尺度を取得するためのシステムであって、システムは、
非侵襲的な手法で対象者から生理学的データを取得するように適合された生理学的センサと、上述されたプロセッサとを備え、生理学的センサは、
生理学的データが超音波データを含む場合の超音波トランスデューサと;
生理学的データが心電図データを含む場合の心電図センサと;
生理学的データが血圧データを含む場合の血圧測定デバイスと
のうちの1つ又は複数を備える生理学的センサと;
を備えるシステムが提供される。
【0035】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下に説明される実施形態から明らかであり、これらを参照して明瞭にされるであろう。
【0036】
次に、本発明のより良好な理解のために、及び、本発明がどのように実行に移されるかをより明確に示すために、添付の図面が例示のみを目的として参照される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】全体的な動作を説明するために超音波診断撮像システムを図示する図である。
【
図3】数値モデルの概略的表現を図示する図である。
【
図4】圧力-ボリュームループを示すグラフを図示する図である。
【
図5】圧力-ボリューム関係を示すグラフを図示する図である。
【
図6】流体反応性を示すグラフを図示する図である。
【
図7】心室-動脈結合を示すグラフを図示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明が図面を参照して説明される。
【0039】
詳細な説明及び特定の実施例は、装置、システム及び方法の例示的な実施形態を示すが、例示のみを目的とすると意図されるものであり、本発明の範囲を限定すると意図されるものでないことが理解されるべきである。本発明の装置、システム及び方法のこれらの及び他の特徴、態様、及び利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲、及び添付の図面からより良好に理解されよう。図面は単なる概略であって、縮尺通りに描かれていないことが理解されるべきである。図面全体を通じて同一の又は類似の部分を示すために同一の参照番号が使用されることも理解されるべきである。
【0040】
本発明は、対象者から生理学的尺度、特にはP-Vループを取得するための方法を提供する。方法は、心臓系の数値モデルを取得するステップと、非侵襲的な手法で対象者から生理学的データを取得するステップとを有する。次いで、数値モデルは生理学的データに基づいて更新される。次いで、生理学的データは、更新された数値モデルに提供され、更新された数値モデルの出力に基づいて生理学的尺度が導出され、生理学的尺度はP-Vループを含む。
【0041】
最初に、例示的な超音波システムの一般的な動作が、
図1を参照して、システムの信号処理機能を強調して説明され、というのは、本発明は、トランスデューサアレイによって測定される信号の処理に関するからである。
【0042】
システムは、超音波を送信し、エコー情報を受信するためのトランスデューサアレイ6を有するアレイトランスデューサプローブ4を備える。トランスデューサアレイ6は、CMUTトランスデューサ、PZT又はPVDFなどの材料で形成された圧電トランスデューサ、又は任意の他の適切なトランスデューサ技術を備える。本実施例において、トランスデューサアレイ6は、関心領域の2D平面又は3次元的ボリュームをスキャン可能なトランスデューサ8の2次元的アレイである。別の実施例において、トランスデューサアレイは1Dアレイである。
【0043】
トランスデューサアレイ6は、トランスデューサ要素による信号の受信を制御するマイクロビーム形成器12に結合される。マイクロビーム形成器は、米国特許第5,997,479号(Savordら)、米国特許第6,013,032号(Savord)及び米国特許第6,623,432号(Powersら)において説明されているように、「グループ」又は「パッチ」と一般的に呼ばれるトランスデューサのサブアレイによって受信された信号の少なくとも部分的なビーム形成を行うことが可能である。
【0044】
マイクロビーム形成器は全体的に任意選択的であることに留意されたい。更に、システムは、マイクロビーム形成器12が結合され得る送信/受信(T/R)スイッチ16を含み、これは送信及び受信モード間でアレイをスイッチングし、マイクロビーム形成器が使用されず、トランスデューサアレイが主システムビーム形成器によって直接的に動作される場合に主ビーム形成器20を高エネルギー送信信号から保護する。トランスデューサアレイ6からの超音波ビームの送信は、T/Rスイッチ16によってマイクロビーム形成器に結合されたトランスデューサコントローラ18及び主送信ビーム形成器(図示せず)によって指示され、主送信ビーム形成器は、ユーザインタフェース又は制御パネル38のユーザ操作から入力を受信し得る。コントローラ18は、送信モード中にアレイ6のトランスデューサ要素を(直接的に又はマイクロビーム形成器を介して)駆動するように構成された送信回路を含み得る。
【0045】
典型的なラインごとの撮像シーケンスにおいて、プローブ内のビーム形成システムは、以下のように動作する。送信中に、ビーム形成器(実施態様に応じてマイクロビーム形成器でも主システムビーム形成器であってもよい)は、トランスデューサアレイ、又はトランスデューサアレイのサブ開口を作動させる。サブ開口は、より大きなアレイ内のトランスデューサの1次元的ライン又はトランスデューサの2次元的パッチである。送信モードにおいて、アレイ又はアレイのサブ開口によって生成された超音波ビームのフォーカシング及びステアリングは以下に説明されるように制御される。
【0046】
対象者から後方散乱エコー信号を受信すると、受信された信号は、受信された信号を整列させるために(以下に説明されるように)受信ビーム形成され、サブ開口が使用されている場合には、次いで、サブ開口が、例えば1つのトランスデューサ要素分だけシフトされる。次いで、シフトされたサブ開口が作動され、トランスデューサアレイの全てのトランスデューサ要素が作動されるまでプロセスが繰り返される。
【0047】
各ライン(又はサブ開口)について、最終的な超音波画像の関連付けられたラインを形成するために使用されるトータルな受信された信号は、受信期間中に所与のサブ開口のトランスデューサ要素によって測定された電圧信号の和である。以下のビーム形成プロセスに従って結果としてもたらされるライン信号は、典型的には無線周波数(RF)データと称される。次いで、様々なサブ開口によって生成された各ライン信号(RFデータセット)は、最終的な超音波画像のラインを生成するための追加的な処理を受ける。時間経過に伴うライン信号の振幅における変化は、深度に伴う超音波画像の輝度における変化の一因となり、高振幅ピークは最終的な画像における明るいピクセル(又はピクセルの集合)に対応する。ライン信号の開始近くで現れるピークは、浅い構造からのエコーを表し、その一方で、ライン信号において後になって次第に現れるピークは、対象者内のより深い深さにおける構造からのエコーを表す。
【0048】
トランスデューサコントローラ18によって制御される機能のうちの1つは、ビームがステアリング及びフォーカシングされる方向である。ビームは、トランスデューサアレイから真っ直ぐ前方に(トランスデューサアレイに直交するように)ステアリングされ、又は、より広い視野のために異なる角度にステアリングされる。送信ビームのステアリング及びフォーカシングは、トランスデューサ要素作動時間の関数として制御される。
【0049】
2つの方法が、一般的な超音波データ取得において区別され得る。すなわち、平面波撮像及び「ビームステアリング」撮像である。2つの方法は、送信モード(「ビームステアリング」撮像)及び/又は受信モード(平面波撮像及び「ビームステアリング」撮像)におけるビーム形成の存在によって区別され得る。
【0050】
先ずフォーカシング機能について見てみると、トランスデューサ要素の全てを同時に作動させることによって、トランスデューサアレイは、対象者内を進むにつれて発散する平面波を生成する。この場合、超音波のビームは、フォーカシングされないままである。トランスデューサの作動に位置依存性時間遅延を導入することによって、焦点ゾーンと称される所望のポイントにビームの波頭を収斂させることが可能である。焦点ゾーンは、横方向ビーム幅が送信ビーム幅の半分未満となるポイントとして定義される。このようにして、最終的な超音波画像の横方向解像度が向上される。
【0051】
例えば、もしも時間遅延が、トランスデューサアレイの最も外側の要素から始めて中央の要素で終了するようにトランスデューサ要素を連続的に作動させるならば、焦点ゾーンは、中央の要素に沿ってプローブから離間した所与の距離において形成される。プローブからの焦点ゾーンの距離は、トランスデューサ要素の作動の各後続ラウンドの間の時間遅延に応じて変化する。ビームは、焦点ゾーンを通過した後、発散を開始し、遠距離場撮像領域を形成する。トランスデューサアレイに接近して位置する焦点ゾーンでは、超音波ビームは遠距離場において迅速に発散し、最終的な画像におけるビーム幅アーチファクトにつながることに留意されたい。典型的には、トランスデューサアレイと焦点ゾーンとの間に位置する近距離場は、超音波ビームの重複が大きいために詳細をほとんど表さない。故に、焦点ゾーンの場所を変化させることで、最終的な画像の品質に著しい変化をもたらし得る。
【0052】
送信モードにおいては、超音波画像が複数の焦点ゾーン(その各々が異なる送信焦点を有する)に分割されない限り、ただ1つの焦点が定められることに留意されたい。
【0053】
加えて、対象者内からエコー信号を受信すると、受信フォーカシングを実施するために、上述されたものと逆の処理を実施可能である。換言すれば、到来する信号は、トランスデューサ要素によって受信され、信号処理のためにシステム内に渡される前に電子的時間遅延される。このことの最も単純な実施例は遅延和ビーム形成と称される。トランスデューサアレイの受信フォーカシングは、時間の関数として動的に調節可能である。
【0054】
次にビームステアリングの機能について見てみると、トランスデューサ要素への時間遅延の正確な適用を通じて、超音波ビームがトランスデューサアレイを離れるに従って超音波ビームに所望の角度を与えることが可能である。例えば、トランスデューサアレイの第1のサイドのトランスデューサを作動させ、次いでアレイの反対サイドにおける残りのトランスデューサをシーケンスの終了時に作動させることによって、ビームの波頭には、第2のサイドに向かう角度が付けられる。トランスデューサアレイの法線に対するステアリング角度の大きさは、後続のトランスデューサ要素の作動の合間の時間遅延の大きさに依存する。
【0055】
更に、ステアリングされたビームをフォーカシングさせることが可能であり、各トランスデューサ要素に適用される総時間遅延は、フォーカシング時間遅延及びステアリング時間遅延の両方の和である。この場合、トランスデューサアレイは、位相式アレイと称される。
【0056】
作動のためにDCバイアス電圧を必要とするCMUTトランスデューサの場合、トランスデューサアレイのためのDCバイアス制御器45を制御するためにトランスデューサコントローラ18が結合され得る。DCバイアス制御器45は、CMUTトランスデューサ要素に印加されるDCバイアス電圧を設定する。
【0057】
トランスデューサアレイの各トランスデューサ要素について、典型的にはチャンネルデータと称されるアナログ超音波信号が、受信チャンネルを経由してシステムに入力される。受信チャンネルにおいて、部分的にビーム形成された信号が、マイクロビーム形成器12によってチャンネルデータから生成され、次いで、主受信ビーム形成器20に渡され、そこで、トランスデューサの個々のパッチからの部分的にビーム形成された信号は、無線周波数(RF)データと称される完全にビーム形成された信号へと合成される。各ステージにおいて実施されるビーム形成は、上述されたように実行され、又は、追加的な機能を含む。例えば、主ビーム形成器20は、128個のチャンネルを有し、その各々が、数ダース又は数百個のトランスデューサ要素のパッチから部分的にビーム形成された信号を受信する。このようにして、トランスデューサアレイの数千個のトランスデューサによって受信された信号は、1つのビーム形成された信号に効果的に寄与し得る。
【0058】
ビーム形成された受信信号は、信号プロセッサ22に結合される。信号プロセッサ22は、受信されたエコー信号を、帯域通過フィルタリング、デシメーション、I及びQ成分分離、組織及び微小気泡から戻ってきた非線的(基本周波数のより高い高調波)エコー信号の識別を可能とするように線的及び非線的信号を分離するように働く高調波信号分離など、様々なやり方で処理し得る。信号プロセッサは、スペックル低減、信号合成、及びノイズ除去等の追加的な信号増強も実施する。信号プロセッサにおける帯域通過フィルタはトラッキングフィルタでもよく、その通過帯域は、エコー信号がより深い深さから受信されるにつれて、高周波数帯域から低周波数帯域にスライドし、それによって、典型的には解剖学的情報を欠いたより深い深さからのより高い周波数のノイズを拒絶する。
【0059】
送信及び受信のためのビーム形成器は、異なるハードウェアにおいて実現され、異なる機能を有し得る。勿論、受信機ビーム形成器は、送信ビーム形成器の特性を考慮して設計される。
図1においては、簡略化のために、受信機ビーム形成器12、20だけが図示されている。完全なシステムにおいては、送信マイクロビーム形成器及び主送信ビーム形成器を有する送信チェーンも存在するであろう。
【0060】
マイクロビーム形成器12の機能は、アナログ信号経路の数を減少させるために、信号の初期合成を提供することである。これは、典型的には、アナログドメインにおいて実施される。
【0061】
最終的なビーム形成は、主ビーム形成器20において、典型的にはデジタル化の後になされる。
【0062】
送信及び受信チャンネルは、固定的な周波数帯域を有する同一のトランスデューサアレイ6を使用する。しかしながら、送信パルスが占める帯域幅は、使用される送信ビーム形成に応じて変化し得る。受信チャンネルは、全体的なトランスデューサ帯域幅を捕捉し得(これは古典的な手法である)、又は、帯域通過処理を使用することによって、所望の情報(例えば、主高調波の高調波)を含む帯域幅だけを抽出し得る。
【0063】
次いで、RF信号は、Bモード(すなわち、輝度モード又は2D撮像モード)プロセッサ26及びドップラプロセッサ28に結合される。Bモードプロセッサ26は、器官の組織及び血管などの身体内の構造の撮像のために、受信された超音波信号に対して振幅検知を実施する。ラインごとの撮像の場合には、各ライン(ビーム)は、関連付けられたRF信号によって表現され、その振幅は、Bモード画像におけるピクセルに割り当てられる輝度値を生成するために使用される。画像内のピクセルの正確な場所は、RF信号に沿った関連付けられた振幅測定の場所及びRF信号のライン(ビーム)番号によって求められる。米国特許第6,283,919号(Roundhillら)及び米国特許第6,458,083号(Jagoら)において説明されるように、このような構造のBモード画像は、高調波又は基本画像モードにおいて、又はこの両者の組合せにおいて形成される。ドップラプロセッサ28は、画像野における血球の流動などの運動する物質の検知のために、組織運動及び血流から生じる時間的に互いに異なる信号を処理する。ドップラプロセッサ28は、典型的には、身体内の選択されたタイプの物質から戻ったエコーを通過又は拒絶するように設定されたパラメータを有する壁フィルタを含む。
【0064】
Bモード及びドップラプロセッサによって生成される構造及び運動信号は、スキャンコンバータ32と多平面リフォーマッタ44とに結合される。スキャンコンバータ32は、エコー信号をそれらが受信された空間的関係に、所望の画像フォーマットにおいて配置する。換言すれば、スキャンコンバータは、RFデータを円柱座標系から画像ディスプレイ40上での超音波画像の表示に適したデカルト座標系へと変換するように働く。Bモード撮像の場合においては、所与の座標におけるピクセルの輝度は、その場所から受信されたRF信号の振幅に比例する。例えば、スキャンコンバータは、エコー信号を、2次元的な(2D)扇形状フォーマット又はピラミッド状の3次元的な(3D)画像に配置する。スキャンコンバータは、Bモード構造画像を画像野のポイントにおける運動に対応する色と重畳し得、ここで、ドップラ推定速度は所与の色を生む。合成されたBモード構造画像及びカラードップラ画像は、構造画像野内の組織及び血流の運動を表す。米国特許第6,443,896号(Detmer)において説明されているように、多平面リフォーマッタは、身体のボリューム領域における共通平面内のポイントから受信されたエコーを、その平面の超音波画像へと変換する。米国特許第6,530,885号(Entrekinら)において説明されているように、ボリュームレンダラ42は、3Dデータセットのエコー信号を、所与の基準点から見た投影3D画像に変換する。
【0065】
2D又は3D画像は、画像ディスプレイ40上での表示のための更なる増強、バッファリング、及び一時的保存のために、スキャンコンバータ32、多平面リフォーマッタ44、及びボリュームレンダラ42から、画像プロセッサ30に結合される。撮像プロセッサは、例えば強い減衰又は屈折に起因する音響陰影、例えば弱い減衰に起因する後方増強、例えば反射率の高い組織界面が極接近して位置する残響アーチファクトなどの特定の撮像アーチファクトを最終的な超音波画像から除去するように適合される。加えて、画像プロセッサは、最終的な超音波画像のコントラストを向上させるために、特定のスペックル低減機能を取り扱うように適合される。
【0066】
撮像のために使用されることに加えて、ドップラプロセッサ28によって生成された血流値及びBモードプロセッサ26によって生成された組織構造情報は、定量化プロセッサ34に結合される。定量化プロセッサは、器官のサイズ及び在胎齢などの構造的測定値に加えて、血流のボリュームレートなどの種々の流動状態の測定値を生成する。定量化プロセッサは、ユーザ制御パネル38から、測定が行われるべき画像の解剖学的構造におけるポイントなどの入力を受信する。
【0067】
定量化プロセッサからの出力データは、ディスプレイ40上の画像による測定グラフィック及び値の再現のため、及び、画像ディスプレイ40からの音響出力のために、グラフィックプロセッサ36に結合される。グラフィックプロセッサ36は、超音波画像とともに表示するためのグラフィック重畳も生成し得る。これらのグラフィック重畳は、患者名、画像の日付及び時間、撮像パラメータなどの標準的な識別情報を含み得る。これらの目的のために、グラフィックプロセッサは、ユーザインタフェース38から、患者名などの入力を受信する。ユーザインタフェースは、トランスデューサアレイ6からの超音波信号の生成、したがって、トランスデューサアレイ及び超音波システムによって生成される画像を制御するために、送信コントローラ18にも結合され得る。コントローラ18の送信制御機能は、実施される機能のうちの1つに過ぎない。コントローラ18は、動作のモード(ユーザによって与えられる)、対応して必要な送信機構成、及び受信機のアナログ-デジタルコンバータにおける帯域通過構成も考慮する。コントローラ18は、固定的な状態のステートマシンであってよい。
【0068】
ユーザインタフェースは、多平面リフォーマット(MPR)画像の画像野における定量化された測定を実施するために使用される複数のMPR画像の平面の選択及び制御のために多平面リフォーマッタ44にも結合される。
【0069】
本明細書において説明される方法は、処理ユニット上で実施される。このような処理ユニットは、
図1を参照して上述されたシステムなどの超音波システム内に位置する。例えば、上述された画像プロセッサ30が、以下に詳述される方法のステップのいくつか又は全てを実施する。代替的に、処理ユニットは、対象者に関連する入力を受信するように適合された、監視システムなどの任意の適切なシステム内に位置する。
【0070】
図2は、対象者からP-Vループを取得するための方法100を図示する。P-Vループは、対象者の左心室のP-Vループであってよい。
【0071】
方法は、ステップ110において、心臓系の数値モデルを取得することによって開始する。数値モデルは、左心室及び全身動脈又は心臓などの所与の心臓系の機能をシミュレートする。より具体的には、心臓系は、左心臓と全身動脈とを含む。以下において、心臓系の数値モデルの実施例が
図3を参照して説明される。
【0072】
数値モデルは、様々な物理的原理に基づいて構築される。例えば、数値モデルは、圧力-ボリューム関係;心臓系の剛性;エネルギーの保存;質量の保存;及び運動量の保存のうちの任意の1つ又は複数に基づく。数値モデルは、対象者の動脈系を表す全身動脈モデルも含み得る。
【0073】
数値モデルに物理的原理を組み込むことによって、様々なソースからのデータ(超音波データ;末梢血圧;臨床的ガイドライン;機械学習推定など)が、質量、運動量及びエネルギーの保存などの物理的原理に従って融合され得るフレームワークが提供される。それ故、圧力推定などの数値モデルからの結果的な推定はより無矛盾なものになり、これは、特には、異なる撮像モダリティ及び/又は異なる時間的瞬間からの入力が使用されるときに当てはまる。
【0074】
ステップ120において、非侵襲的な手法で対象者から生理学的データが取得される。生理学的データは、任意の非侵襲的な手法で対象者から取得されてよい。
【0075】
例えば、生理学的データは、超音波データ;血圧測定値;心電図データ;脳波図データ;筋電図データ;及び呼吸データを含む。
【0076】
特には、超音波データは、2D超音波画像データと;3D超音波画像データと;ドップラ超音波データとのうちの1つ又は複数を含む。更に、血圧は、動脈圧波形と;カフ圧値とのうちの1つ又は複数を含む。
【0077】
特定のデータタイプの入手可能性は、所与の状況のリソースによって変化する。例えば、診断への適用においては、高い時間分解能超音波ボリューム及び/又は流量データが入手可能であるが、血圧データは限定的である。或は、集中治療への適用においては、高い時間分解能血圧データが入手可能であるが、超音波データは入手不可能であるか、又は非常に限定的である。このような状況において、非連続的なボリュームデータを数値モデルに組み込むことが可能である。
【0078】
実施例において、生理学的データは、対象者の左心室の超音波データ及び動脈血圧を含む。超音波データは、左心室のボリューム波形を抽出するためにセグメント化される。このようにして、圧力情報及びボリューム情報が数値モデルに提供される。
【0079】
ボリューム波形は、分析波形の最小二乗フィットから構築される。分析波形は、例えば、大動脈及び僧帽弁流量波形を含む。流量波形は、対称的な半正弦波形;非対称的な半正弦波形;ゼロ流量の心拍静止期のE波及びA波による充満波形;ゼロ流量でない心拍静止期のE波及びA波による充満波形;心拍静止期でないE波及びA波による充満波形のうちの1つ又は複数によって表される。E波とは左心房が収縮する前の左心室の早期充満を指し、A波とは、心房の収縮中の左心室の充満を指す。
【0080】
分析フィットは、限定的なフレームレートによる超音波データからは失われてしまう生理学的イベント(等容性フェーズなど)を保存する制約条件を使用することによってボリューム波形を再構築するためのより堅牢な方法を提供する。
【0081】
分析ボリューム波形は更に、ECGデータ又はドップラ超音波データなどの追加的な生理学的データに基づいて調節される。
【0082】
更に、ボリュームセグメント化は全ての超音波画像フレームから必要とされるものではないので、分析ボリューム波形は簡略化もされる。ボリュームフィッティングは、収縮終期ボリューム、拡張終期ボリューム、及びそれらに関連するタイミングのみを使用して実施される。
【0083】
ステップ130において、数値モデルは、生理学的データに基づいて更新される。
【0084】
換言すれば、患者に固有のデータが、数値モデルを個々のユーザに対して調整するために使用される。患者に固有の入力(超音波データから得られた超音波ボリュームセグメント化又は末梢血圧測定値など)を使用することによって、数値モデルは各患者に対して個人化され得、このことは、例えば心室圧力などの心機能の患者に固有の推定を提供する。
【0085】
数値モデルを更新するステップは、生理学的データに基づいてモデルパラメータを特定するステップと、モデルパラメータを数値モデルに提供するステップとを有する。
【0086】
例えば、モデルパラメータは、体循環パラメータと;充満パラメータと;駆出パラメータと;剛性パラメータとのうちの1つ又は複数を含む。
【0087】
例えば、動脈血圧測定値は、全身動脈モデルのパラメータを調整するために使用される。動脈血圧測定値は、最大、最小、及び平均血圧値のうちの1つ又は複数を含む。動脈血圧測定値は、数値モデルにおける全身系の抵抗性及びコンプライアンスを調節するために使用される。
【0088】
心室圧力測定値を導出するために、大動脈弁の圧力勾配の推定が必要とされる。大動脈弁の圧力勾配は、ドップラ超音波測定を使用して推定される。最も単純な実施態様において、大動脈弁の圧力勾配は0であると想定される。
【0089】
数値モデルの較正は、全血圧波形を使用して更に向上される。このようにして、数値モデルは、例えば、心臓系のシミュレーションにおいて圧力減衰定数を含むことによって、対象者に対して更に個人化される。全血圧波形は、例えば、圧平眼圧測定又は超音波撮像による血管直径測定によって、非侵襲的に決定される。
【0090】
数値モデルを較正するために使用される血圧情報は、上腕動脈又は橈骨動脈などの末梢動脈から取得される。このような場所の圧力の測定値は、血管の直径及び剛性における相違に起因して、中央大動脈の圧力値に対して増幅される。これは、数学的な伝達関数によって又は異なる人口統計からの集団データ(これは、性別、年齢、既知の血圧状態などを含む)に基づく最小値/最大値のスケーリングの適用によってなど、様々な方法によって修正される。
【0091】
数値モデルにおいて、モデルパラメータは、多段的な手法を使用して特定される。例えば、心臓の駆出及び充満を表すパラメータが特定される前に、体循環を表すパラメータが先ず特定される(すなわち、心臓系の後負荷に関連付けられたパラメータ)。これらの患者に固有のパラメータは、生理学に基づく法則、直接的な最適化法、順次的なフィルタリング法などの技術を合わせたものを使用して推定される。
【0092】
ステップ140において、生理学的データは、更新された数値モデルに提供される。
【0093】
こうして、数値モデルは、対象者の挙動を模倣するやり方で心臓系をシミュレートする。それ故、数値モデルは、対象者の心臓系の正確な表現という文脈内で対象者から得られた生理学的データを解釈する手段を提供する。
【0094】
例えば、上述された分析ボリューム波形は、P-Vループの全身的部分を再構築するために動脈圧測定値に従って調整された数値モデル、例えば全身動脈モデルへの入力として使用される。
【0095】
数値モデルに物理的原理を組み込むことによって、心臓超音波測定値との圧力測定値の自動的な整合が提供される。
【0096】
ステップ150において、更新された数値モデルの出力に基づいて、生理学的尺度、特にはP-Vループが導出される。
【0097】
例えば、生理学的尺度は、圧力-ボリュームループに加えて、圧力-歪み関係;及び流体反応性を含み、これらは、以下において
図6を参照して更に論じられる。
【0098】
次いで、P-Vループは、対象者に関係する介護者又は医療専門家などのユーザに対して表示される。
【0099】
生理学的データが対象者の左心室の超音波データ及び動脈血圧のみを含む上述された実施例において、P-Vループは、収縮期情報のみを搬送する。換言すれば、結果としてもたらされるP-Vループは、左心室の収縮期の挙動に関連する部分的P-Vループである。
【0100】
P-Vループは、拡張期圧力情報を使用して完成される。拡張期の充満圧力入力は、E/E’比率などの集団ベースの超音波圧力代理値を使用して非侵襲的に取得される。E/E’比率は、早期僧帽弁流入速度と僧帽弁輪早期拡張期速度との間の比率である。
【0101】
分析ボリューム波形における対応する時間との代理圧力測定値の相関は、充満中の圧力-ボリューム関係の線形化された推定を提供する。これは、拡張期充満中の圧力の外挿及びP-Vループの完成を可能とする。
【0102】
図3は、心臓系、すなわち左心臓210及び大動脈220の数値モデル200の概略的表現を図示する。
【0103】
この実施例において、心臓周期中の血流をモデリングする簡略化された0D手法が示されている。しかしながら、説明されるフレームワーク内に1D/3Dモデリング手法を組合わせることも可能であり、更に、完全な循環系のモデルを含むことも可能である。
【0104】
例えば、診断環境において、数値モデルは、対象者の左心室における心室圧力を推定するために必要とされる。
図3は、電子回路として表されたこのような数値モデル200の実施例を示す。
【0105】
図3において図示されたモデルにおいて、電圧は血圧を表し、電流は血流を表す。この手法において、動脈系の異なる室(心房、心室、大血管など)が、抵抗及び容量などの血行力学的な相似物に関連する電気的コンポーネントにグループ化されている。
【0106】
左心臓210から始まって、ソース(Pla)は、可変コンデンサ230に荷電し、血液を左心室に圧送する左心房を模倣する。左心房は、左心室(可変コンデンサ)をその受動性限界まで充満する。
【0107】
可変コンデンサ230の容量は、心室の剛性、すなわち筋肉収縮を表す。ボリュームは、ユーザの生理学的データから導出される状態変数である。
【0108】
Elvは、左心室のエラスタンスを指す。これは、左心室内の圧力に対する心室ボリュームに関連する。これは剛性(すなわち、心室の筋肉収縮)の尺度であるが、厳密に材料剛性ではない。この関係は、同時的な心室圧力及びボリューム波形から経験的に測定されている。
【0109】
電荷は、回路に沿って進み、ダイオード240は流れの方向を定める弁として働く。次いで、血液(電荷)は、大動脈220内に移動し、体循環系に入る。
【0110】
抵抗項(僧帽弁抵抗Rmv、大動脈弁抵抗Rav、近位全身抵抗Rsys=p、遠位全身抵抗Rsys=d)は、血流に対する血管及び弁の抵抗を表し、所与のエリアにおける圧力に直接的に関連する。Csysは、全身コンプライアンスを表す。
【0111】
この実施例において、モデルパラメータは、電気的な相似を使用して表される。しかしながら、このようなモデルは、質量の保存などの物理的原理に従い、例えば、モデルの各ノードへの血流(電流)が保存される。更に、電気的な相似は、変形可能な血管における血流について、質量及び運動量の保存方程式の線形化から導出され得る。
【0112】
モデルの圧力推定を(例えば、対象者から取得された超音波データからの)心室ボリュームの測定値と組合わせることによって、対象者の圧力-ボリュームループを構築することが可能である。
【0113】
図3において図示された実施例は、左心臓の多くの可能なモデルの1つに過ぎないことに留意されたい。モデルの種々のコンポーネントは、特定の適用用途に応じて交換される。例えば、モデルは、動的な左心房、逆流性の僧帽弁などを含むように適合される。上述されたように、数値モデルは全身動脈モデルを含んでもよい。
【0114】
この実施例において、超音波ボリューム情報が入手可能であるものと想定されている。しかしながら、このような情報の入手可能性は、特定の適用エリアに依存し、例えば患者監視への適用においては、超音波ボリュームデータの入手可能性は、診断への適用においてよりも限定的である。モデルは、心臓診断におけるドップラ波形など、特定の適用用途のために追加的な超音波データを組み込むように適合される。しかしながら、この追加的なデータは日常的に収集されなければならない。
【0115】
上述された数値モデルは、超音波分析プラットフォームに一体化され得る。このことは、モデルが患者に固有の左心臓のセグメント化を利用することを可能とする。
【0116】
図4は、ボリュームVに対する圧力Pのグラフ300を図示する。
【0117】
心臓の圧力及びボリュームにおける同時的な変化は、左心室の圧力-ボリュームループ310を構築するために利用され得る。
【0118】
心室圧力及びボリュームの範囲は、心臓の圧送能力、例えば、鼓動のたびに消費されるエネルギー又は心室-動脈効率への洞察を提供する。このことは心機能不全の特徴付けを可能とし、D.R.Warrinerらによる「Closing the loop:Modelling of heart failure progression from health to end-stage using a meta-analysis of left ventricular pressure-volume loops」、PLoS One、vol.9、no.12、1~19ページ、2014年、において説明されているように、心機能不全トレンド320が特定される。
【0119】
図5は、一連の圧力-ボリュームループ360を含むボリュームVに対する圧力Pのグラフ350を図示する。
【0120】
上述されたような使用に加えて、圧力-ボリュームループ360は、エクササイズ、ストレス、及び薬物などの異なる条件に反応する心臓の能力についての情報も提供する。D.Burkhoffによる「Assessment of systolic and diastolic ventricular properties via pressure-volume analysis:a guide for clinical,translational,and basic researchers」、AJP Hear.Circ.Physiol、vol.289、no.2、H501-H512ページ、2005年、において論じられているように、種々の鼓動からの複数の圧力-ボリュームループを分析することによって、収縮終期圧力-ボリューム関係370及び拡張終期圧力-ボリューム関係380などの重要な生理学的パラメータが求められ得る。このような基準値は、心臓がその圧送及び充満性能を変化させることができること、又はできないことを明らかにする。
【0121】
上述されたように、圧力-ボリュームループ再構築のための現在の一体化された解決策は、侵襲的であり(例えば、Millar Incaシステム)、圧力及びボリュームの同時的な記録のために2つのカテーテルシステムを有する。ボリュームの測定は、典型的には、コンダクタンスカテーテル技術を使用して実施される。しかしながら、C.-H.Chenらによる「Comparison of Continuous Left Ventricular Volumes by Transthoracic Two-Dimensional Digital Echo Quantification with Simultaneous Conductance Catheter Measurements in Patients with Cardiac Diseases」、Am.J.Cardiol、vol.80、no.6、756~761ページ、1997年9月、において実証されたように、このようなデバイスの有する正確性は、非侵襲的超音波法と似通ったものであると報告されている。
【0122】
それ故、正確性を損なうことなく、上述された数値モデルに対して非侵襲的測定値が提供され得る。
【0123】
心室ボリューム(これは超音波データによって取得される)とともに、心臓の収縮中の心室圧力の生成も、歪みなどの他の基準値に相関される。同様にボリュームにおける変化に関連して、歪みも収縮中に生じる寸法的変化の尺度である。E.Samsetによる「Evaluation of segmental myocardial work in the left ventricle」において論じられているように、歪みは、局所的に測定され得るので、圧力-歪みプロットは、心室の異なる領域の収縮性能を特徴付けるために使用され得る。
【0124】
換言すれば、歪みは測定されて、対象者から取得される生理学的データの一部を形成する。次いで、歪みデータは、対象者の心機能の尺度を導出するために、数値モデルに提供される。既に論じられたように、圧力の推定は対象者に対して個人化される(例えば、モデルに基づく近似又は数学的変換を介することによる)。
【0125】
上述された数値モデルは、対象者の流体反応性のリアルタイム評価を実施するためにも使用される。
【0126】
不適切な組織内潅流を有する重病患者(例えば、ショックを経験した患者)では、流体の投与は、典型的には、潅流を復元するための第1のステップである。追加的な流体を与えることは、心臓の前負荷を増加させ、これは、ストロークボリューム/心臓出力を増加させることを目的とし、それによって、適切な潅流を復元する。
【0127】
図6は、ボリュームVに対する前負荷PLのグラフ400を図示する。
【0128】
このグラフは、いくつかのプロットを含み、プロット410は正常な収縮期機能を示し、プロット420は欠陥のある収縮期機能を示す。
【0129】
ストロークボリュームにおける相対的な増加は、心臓の現在の前負荷に依存する。フランク-スターリング機序としても知られる前負荷とストロークボリュームとの間の関係は、グラフ400において示されるように非線形的である。前負荷のレベルがより低いと、心臓の収縮力が最大になるので、心臓は、より高いレベルの前負荷と比べるとストロークボリュームにおけるより大きな増加を生成することができる。
【0130】
更に、心臓自体の機能状態は、ストロークボリュームの生成において役割を果たす。エリア430及びエリア440において示されるように、収縮期機能が減退した心臓では、ストロークボリュームにおける相対的な増加は、前負荷の同一の変化に対して、収縮期機能が正常な心臓におけるよりも著しく小さい。ここで、エリア430は収縮期機能が減退した心臓のストロークボリュームにおける相対的増加を表し、エリア440は正常な収縮期機能を有する心臓のストロークボリュームにおける相対的増加を表す。
【0131】
上述されたように、心臓系のストロークボリュームは超音波データから求められる。
【0132】
ストロークボリュームを増加することによる追加的な流体に反応するこの能力は、典型的には、流体反応性と称され、心臓系の数値モデルから導出される。P.E.Marik、X.Monnet、及びJ.-L.Teboulによる「Hemodynamic parameters to guide fluid therapy」、Ann.Intensive Care、vol.1、no.1、1ページ、2011年、において実証されたように、臨床的研究は、重病患者のおよそ50%だけが適切な流体反応性を示すことを明らかにしている。
【0133】
故に、流体反応性をリアルタイムで評価する数値モデルの能力は、流体投与から積極的に利益を受ける対象者を分類するツールを提供する。
【0134】
Frank-Starling曲線の対象者の動作ポイントは、圧力-ボリュームループ分析によって直接的に評価され得る。上述されたように、圧力-ボリュームループを鼓動ごとに再構築することによって、前負荷とストロークボリュームとの間の関係が直接的に求められ得る。
【0135】
上述された数値モデルは、対象者における敗血症性ショックのリアルタイム検知を実施するためにも使用される。
【0136】
敗血症性ショックは、虚血、器官機能不全、最終的には死につながる低血圧性(低い血圧)状態である。敗血症性ショックは、心臓及び循環の両方に影響を与え、心室-動脈結合における変化を分析することで、数値モデルによってシミュレートされているので、敗血症性ショックを検知する手法が提供される。
【0137】
図7は、圧力Pに対するボリュームVのグラフ450を図示し、プロット460は、対象者から導出された圧力-ボリュームループを表す。
【0138】
心室-動脈結合の1つの尺度は、収縮終期エラスタンスEesの動脈エラスタンスEaに対する比率である。人間においては、Ees/Eaの正常な比率はおよそ1.0であり、心臓が最適な効率で動作していることを示す。しかしながら、F.Guarracino、B.Ferro、A.Morelli、P.Bertini、R.Baldassarri及びM.R.Pinskyによる「Ventriculoarterial decoupling in human septic shock」、Crit.Care、vol.18、no.2、R80ページ、2014年、は、敗血症性ショックの場合には、この比率は1.36を越えて上昇することを実証した。これらの基準値は、
図7に示された圧力-ボリュームループから求められ、上述された数値モデルから導出される。
【0139】
敗血症性ショックの血行力学的管理のために現在の推奨事項には、カニューレ挿入による動脈圧の監視とカテーテル挿入又は心エコー検査による充満圧力の評価とが含まれる。しかしながら、このような情報は圧力-ボリュームループ内にも含まれている。故に、圧力-ボリュームループのリアルタイムの推定を提供することで、敗血症性ショックを評価するために現在使用されている基準値が、敗血症性ショック及び心室-動脈結合の別の潜在的な基準値とともに提供される。更には、数値モデルから導出されたリアルタイムの圧力-ボリュームループは、昇圧剤による治療の効果が観察されることを可能とし、臨床医が敗血症性ショックを検知及び治療するためのツールを提供する。
【0140】
特許請求された発明を実践するにあたって、図面、本開示、及び添付の特許請求の範囲を検討することにより、開示された実施形態に対する変形例が、当業者によって理解及び実行され得る。特許請求の範囲において、「備える、含む、有する」という語は、他の要素又はステップを排除するものではなく、単数形は、複数性を排除するものではない。単一のプロセッサ又は他のユニットが、特許請求の範囲に列挙されたいくつかのアイテムの機能を完遂し得る。特定の手段が互いに異なる従属請求項において列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組合わせが有利に使用され得ないことを示すものではない。コンピュータプログラムは、他のハードウェアとともに又はその一部として供給される、光学的記憶媒体又は固体媒体などの適切な媒体上に記憶/分配されてよいが、インターネット又は他の有線若しくは無線の遠隔通信システムを介してなど、他の形態において分配されてもよい。特許請求の範囲における任意の参照符号は、範囲を限定するものと解釈されるべきではない。