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  • 特許-フィルタ回路 図1
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  • 特許-フィルタ回路 図4
  • 特許-フィルタ回路 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】フィルタ回路
(51)【国際特許分類】
   H03H 17/00 20060101AFI20231222BHJP
   H03H 17/02 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
H03H17/00 621J
H03H17/02 671Z
H03H17/00 621K
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021562538
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2020042228
(87)【国際公開番号】W WO2021111838
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2019219817
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 幸光
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-322020(JP,A)
【文献】特開2003-271115(JP,A)
【文献】特開平3-175497(JP,A)
【文献】特開2017-123539(JP,A)
【文献】特開2007-195204(JP,A)
【文献】特開2011-055420(JP,A)
【文献】特開2000-244774(JP,A)
【文献】特開平6-216711(JP,A)
【文献】特開平9-181604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 17/00-17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号が入力する入力部と、
前記信号の入力値に応じた出力値を出力する出力部と、
前記入力値及び前記出力値を記憶する第1記憶部と、
前記入力値と前記出力値とを比較する比較部と、
前記比較部の出力に応じて出力値を補正する補正部と
を含み、
前記比較部は、今回の入力値と前回の出力値との比較を行い、
前記補正部は、前記比較部における前記今回の入力値と前記前回の出力値との差分の絶対値が所定値よりも大きければ、前記今回の入力値及び前記前回の出力値に第1補正値を加算し、前記差分の絶対値が前記所定値以下であれば、前記今回の入力値及び前記前回の出力値に前記第1補正値よりも小さい第2補正値を加算し、
前記出力部は、前記第1補正値又は前記第2補正値が加算された今回の入力値及び前回の出力値に基づいて今回の出力値を計算する、フィルタ回路。
【請求項2】
前回の入力値を記憶する第2記憶部をさらに含み、
前記出力部は、前記第1補正値又は前記第2補正値が加算された今回の入力値及び前回の出力値と、前記第2記憶部に記憶された前記前回の入力値とに基づいて今回の出力値を計算する、請求項1記載のフィルタ回路。
【請求項3】
前記出力部は、前記出力値を計算する際に、前記前回の出力値の重みを前記今回の入力値の重みよりも大きくする、請求項1又は2記載のフィルタ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、乗算要素を有するデジタルフィルタにおいて、前記乗算要素のフィルタ定数を乗じる乗算手段と、前記乗算手段の乗算結果のうち、小数部に相当する下位バイトの値を、一回の乗算毎に積分する積分手段と、前記積分手段の演算結果で、±1以上に値がオーバフローしたことを検出し、オーバフローが発生した時のみ±1を出力し、それ以外の時には0を出力するオーバフロー検出手段と、前記乗算結果のうち、整数部に相当する上位バイトの値に、前記オーバフロー検出手段の出力を加算する加算手段を有することを特徴とするデジタルフィルタがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平07-030373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カットオフ周波数における信号の減衰特性を良好にするためには、デジタルフィルタにおける演算量が増加する。
【0005】
従来のデジタルフィルタにおいて、カットオフ周波数での良好な減衰特性を得るためには、演算量の増加に対応するために、加算手段の出力を保持するバッファの多段化が必要になり、メモリ(バッファ)のサイズが増大する。
【0006】
そこで、演算量を低減しつつ良好な減衰特性が得られるフィルタ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施の形態のフィルタ回路は、信号が入力する入力部と、前記信号の入力値に応じた出力値を出力する出力部と、前記入力値及び前記出力値を記憶する第1記憶部と、前記入力値と前記出力値とを比較する比較部と、前記比較部の出力に応じて出力値を補正する補正部とを含み、前記比較部は、今回の入力値と前回の出力値との比較を行い、前記補正部は、前記比較部における前記今回の入力値と前記前回の出力値との比較値が所定値よりも大きければ、前記今回の入力値及び前記前回の出力値に第1補正値を加算し、前記比較値が前記所定値以下であれば、前記今回の入力値及び前記前回の出力値に前記第1補正値よりも小さい第2補正値を加算し、前記出力部は、前記第1補正値又は前記第2補正値が加算された今回の入力値及び前回の出力値に基づいて今回の出力値を計算する。
【発明の効果】
【0008】
演算量を低減しつつ良好な減衰特性が得られるフィルタ回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態のフィルタ回路100を示す図である。
図2】比較計算部150が実行する処理を表すフローチャートである。
図3A】ローパスフィルタの応答を示す図である。
図3B】ローパスフィルタの応答を示す図である。
図4】フィルタ回路100の周波数の追従性を示す図である。
図5】ローパスフィルタの出力波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のフィルタ回路を適用した実施の形態について説明する。
【0011】
<実施の形態>
図1は、実施の形態のフィルタ回路100を示す図である。フィルタ回路100は、入力部110、バッファ120、130、140、比較計算部150、出力計算部160、及び出力部170を含む。
【0012】
フィルタ回路100は、一例として、8ビット又は16ビットのマイクロコンピュータによって実現されるデジタルフィルタである。ここでは、フィルタ回路100が所定のセンサに接続され、センサで検出される信号が入力される形態について説明する。センサで検出される信号は、高周波ノイズを含む。
【0013】
フィルタ回路100は、入力される信号(入力信号)のうちのカットオフ周波数以上の成分を遮断し、カットオフ周波数よりも低い成分のみを出力するローパスフィルタである。
【0014】
入力部110は、フィルタ回路100に接続され、センサで検出される入力信号Inputが入力される入力端子である。入力部110は、フィルタ回路100の内部では、バッファ120の入力端子に接続されている。入力部110は、フィルタ回路100を実現するマイクロコンピュータの入力端子である。
【0015】
バッファ120は、入力部110に接続される入力端子と、バッファ140及び比較計算部150に接続される出力端子とを有し、入力部110から入力される入力信号Inputをバッファ140及び比較計算部150に出力する。
【0016】
バッファ130は、出力計算部160に接続される入力端子と、比較計算部150に接続される出力端子とを有する。バッファ130は、出力計算部160から出力される出力値Outputを保持し、次の制御周期において前回の出力値(前回出力値)preOutputとして比較計算部150に出力する。
【0017】
バッファ140は、バッファ120に接続される入力端子と、比較計算部150に接続される出力端子とを有する。バッファ140は、バッファ120から入力される入力信号Inputを保持し、次の制御周期において前回の入力信号(前回入力信号)preInputとして出力する。
【0018】
比較計算部150は、比較部151と補正部152を有する。比較計算部150は、バッファ120、130、140に接続される入力端子と、出力計算部160に接続される出力端子とを有する。
【0019】
比較部151は、バッファ120から入力される入力信号Inputと、バッファ130から入力される前回出力値preOutputとを比較する。補正部152は、比較部151の比較結果に応じて、バッファ120から入力される入力信号Inputと、バッファ130から出力される前回出力値preOutputと、バッファ140から入力される前回入力信号preInputとを補正して出力計算部160に出力する。
【0020】
出力計算部160は、比較計算部150に接続される入力端子と、出力部170及びバッファ130に接続される出力端子とを有する。出力計算部160は、比較計算部150から出力される補正済みの入力信号Input、前回出力値preOutput、及び前回入力信号preInputに対して所定の重み付けをして和を取る計算を行うことで、出力値Outputを出力する。
【0021】
出力計算部160は、次式に従って、重み付けを行うとともに和を取ることで出力値Outputを計算し、出力する。
Output= preOutput/2 + preOutput/4 + preOutput/32 + preOutput/16 + Input/8 + PreInput/32
【0022】
出力計算部160は、上式の右辺の各項(preOutput/2、preOutput/4、preOutput/32、preOutput/16、Input/8、PreInput/32)について、小数点以下を切り捨てた整数値を求め、各項の整数値の和を計算する。上式の右辺の6個の項に付けられる重みは、それぞれ、1/2、1/4、1/32、1/16、1/8、1/32である。
【0023】
高周波ノイズは、信号レベルの変化が大きい。高周波ノイズを除去可能なローパスフィルタを実現にするために、出力計算部160は、前回出力値preOutputの重みを大きくし、入力信号Inputと前回入力信号preInputについての重みを小さくしている。
【0024】
前回出力値preOutputの重みを大きくするのは、出力値Outputが前回出力値preOutputから大きく変化しないようにするためである。また、前回入力信号preInputの重みを1/8にすることで、入力信号Inputの信号レベルを出力値Outputに加えつつ、前回出力値preOutputから大きく変化しないようにしている。また、前回入力信号preInputの重みを入力信号Inputの重みよりも小さくすることで、前回入力信号preInputの信号レベルを出力値Outputに加えつつ、出力値Outputへの影響を最小限にしている。
【0025】
出力計算部160がこのような重み付けを行うことで、ローパスフィルタを実現している。
【0026】
出力部170は、出力計算部160の出力値Outputを出力する。出力部170は、例えば、フィルタ回路100が接続される所定のセンサの検出結果を利用する機器等に接続される。
【0027】
以上のようなフィルタ回路100は、入力信号Inputのうちのカットオフ周波数以上の成分を遮断した出力値Outputを出力する処理を所定の制御周期で繰り返し実行する。
【0028】
図2は、比較計算部150が実行する処理を表すフローチャートである。比較計算部150は、図2に示すスタートからエンドまでの処理を所定の制御周期で繰り返し実行する。
【0029】
比較部151は、バッファ120から入力される入力信号Inputと、バッファ130から入力される前回出力値preOutputとの差分の絶対値(Abs(preOutput - Input))を求め、絶対値が4以上であるかどうかを判定する(ステップS1)。
【0030】
ステップS1の処理は、比較部151が、バッファ120から入力される入力信号Inputと、バッファ130から入力される前回出力値preOutputとを比較する処理である。
【0031】
比較部151によって差分の絶対値が4以上である(S1:YES)と判定されると、補正部152は、入力信号Input、前回出力値preOutput、前回入力信号preInputに大きな補正値を用いて補正する(ステップS2)。具体的には、補正部152は、入力信号Input、前回出力値preOutput、前回入力信号preInputに4を加算する補正を行う。
【0032】
比較部151によって差分の絶対値が4以上ではない(S1:NO)と判定されると、補正部152は、入力信号Inputと、前回出力値preOutputと、前回入力信号preInputに小さな補正値を用いて補正する(ステップS3)。具体的には、補正部152は、入力信号Input、前回出力値preOutput、前回入力信号preInputに2を加算する補正を行う。
【0033】
比較部151によって求められる差分の絶対値が4以上である場合は、入力信号Inputと前回出力値preOutputとの差分が比較的大きい場合であり、前回出力値preOutputに対して入力信号Inputが比較的大きく変化している場合である。
【0034】
出力計算部160が出力値Outputを計算する際には、重みを付けた各項の小数点以下を切り捨てるため、切り捨てによる丸め誤差が生じる。このような丸め誤差を小さくするために、補正部152は、入力信号Inputの変化が大きなときは、より大きな値にして遮断されやすくするために大きな値を加算し、入力信号Inputの変化が小さなときは、遮断されにくくするために小さな値を加算するようにしている。
【0035】
なお、ステップS2における補正値は4に限られず、ステップS3における補正値よりも大きければよい。また、ステップS3における補正は2に限られず、ステップS2における補正値よりも小さければよい。
【0036】
図3A及び図3Bは、ローパスフィルタの応答を示す図である。図3Aにはフィルタ回路100の応答(破線の特性)を示し、図3Bには比較用にフィルタ回路100から比較計算部150を取り除いたローパスフィルタの応答(破線の特性)を示す。図3A図3Bにおいて横軸は時間(ミリ秒(ms))、縦軸は信号レベル(単位なし)である。
【0037】
図3A図3Bにおいて、実線はステップ入力の波形を示し、破線はローパスフィルタの出力値Outputの応答を示し、一点鎖線は多段化されたバッファを有する従来のローパスフィルタにおいて小数点以下も考慮して求めた出力値の応答を示す。図3A図3Bに示す実線のステップ入力の波形、及び、一点鎖線の応答は同一のものである。
【0038】
図3Aに示すように、ステップ入力の波形に対して、フィルタ回路100の出力値Outputは、約10msで立ち上がっており、入力の100に対して約97の信号レベルが得られている。従来のローパスフィルタ(一点鎖線)と比べると、応答が速いことが分かる。
【0039】
また、図3Bに示すように、ステップ入力の波形に対して、比較用のフィルタ回路100の出力値Outputは、約15msで立ち上がり、入力の100に対して約78の信号レベルであった。従来のローパスフィルタ(一点鎖線)よりは応答が速いが、フィルタ回路100よりも応答が遅く、かつ、信号レベルが小さいことが分かる。
【0040】
このように、フィルタ回路100は、応答が速く、入力への追従性が良いことが確認できた。
【0041】
図4は、フィルタ回路100の周波数の追従性を示す図である。図4に示す特性は、シミュレーションで得たものである。図4において、横軸は時間(ミリ秒)、縦軸は信号レベル(単位なし)である。また、濃い色の線で示す特性は入力信号の特性であり、薄い色の線で示す特性は出力値Outputの特性である。図4では、時間の経過に従って、入力信号の周波数を徐々に高くしており、具体的には、10Hzから10kHzまで連続的に上昇させている。
【0042】
出力値Outputは、入力信号の周波数が低いうちは入力信号の信号レベルよりも少し小さい(振幅が小さい)程度であるが、入力信号の周波数が高くなると、振幅が約1/10に減衰している。また、周波数の増大に対して滑らかに追従していることが分かる。
【0043】
このように、高周波側で減衰率が大きくなっていることから、高周波ノイズを除去できるローパスフィルタが得られていることが分かる。
【0044】
図5は、ローパスフィルタの出力波形を示す図である。図5に示す特性は、実験で得た特性である。図5において、横軸は時間(ミリ秒)、縦軸は信号レベル(単位なし)を示す。
【0045】
図5において、最も濃い色の特性は入力信号Inputであり、中間の濃さの特性はフィルタ回路100の出力値Outputであり、最も薄い色の特性は、多段化された8個のバッファを有する従来のローパスフィルタにおいて小数点以下も考慮して求めた出力値である。
【0046】
図5では、図4と同様に、時間の経過に従って、入力信号の周波数を徐々に高くしており、具体的には、10Hzから10kHzまで連続的に上昇させている。
【0047】
入力信号Inputに対して、フィルタ回路100、及び、従来のローパスフィルタの出力は減衰しており、フィルタ回路100の出力値Outputは、従来のローパスフィルタの出力値よりも減衰率が大きい(より小さい振幅になっている)ことが分かる。
【0048】
以上のように、フィルタ回路100は、応答が速く、多段化したバッファを有する従来のローパスフィルタよりも大きい減衰率が得られる。フィルタ回路100は、バッファ(120、130、140)の数が3個であり、比較計算部150の比較部151での差分の計算、補正部152での補正値の加算、及び、出力計算部160における重み付け和の計算だけで出力値Outputが得られる。
【0049】
したがって、演算量を低減しつつ良好な減衰特性が得られるフィルタ回路100を提供することができる。フィルタ回路100は、8ビットや16ビット程度のマイクロコンピュータで実現可能である。
【0050】
なお、以上では、フィルタ回路100がバッファ140を含む形態について説明したが、バッファ140を含まなくてもよい。この場合には、出力計算部150の出力には、補正された前回入力信号preInputは含まれないことになり、出力計算部160は前回入力信号preInputを含めずに出力値Outputを計算することになる。
【0051】
以上、本発明の例示的な実施の形態のフィルタ回路について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0052】
尚、本国際出願は、2019年12月4日に出願した日本国特許出願2019-219817号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容は本国際出願にここでの参照により援用されるものとする。
【符号の説明】
【0053】
100 フィルタ回路
110 入力部
120、130、140 バッファ
150 比較計算部
151 比較部
152 補正部
160 出力計算部
170 出力部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5