(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカーを発現する間葉系幹細胞及びその調製方法、並びに上記間葉系幹細胞を含む医薬組成物及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/51 20150101AFI20231222BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20231222BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20231222BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231222BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231222BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20231222BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231222BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20231222BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231222BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20231222BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20231222BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20231222BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231222BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20231222BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20231222BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231222BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
A61K35/51
C12N5/0775
A61K38/17
A61P35/00
A61P29/00
A61P37/02
A61P25/28
A61P3/00
A61P9/00
A61P19/08
A61P1/00
A61P11/00
A61P1/16
A61P13/12
A61P1/02
A61P17/00
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2022095708
(22)【出願日】2022-06-14
(62)【分割の表示】P 2018514714の分割
【原出願日】2017-04-27
【審査請求日】2022-07-05
(32)【優先日】2016-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】池山 芳史
(72)【発明者】
【氏名】宇野 栄子
(72)【発明者】
【氏名】湯本 真代
(72)【発明者】
【氏名】吉野 みほ子
(72)【発明者】
【氏名】ノ スアン チュン
(72)【発明者】
【氏名】西田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】上谷 亜希子
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104666347(CN,A)
【文献】特開2015-077074(JP,A)
【文献】特開2012-223191(JP,A)
【文献】特表2012-508733(JP,A)
【文献】特表2013-521806(JP,A)
【文献】特表2008-505164(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0307844(US,A1)
【文献】国際公開第2016/027850(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/137419(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/118795(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/043286(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0070794(KR,A)
【文献】BioMed Research International,2014年,Vol. 2014,p.1-13,DOI: 10.1155/2014/109389
【文献】Osteoarthritis and Cartilage,2014年,Vol. 22,p.S441 799,DOI: 10.1016/j.joca.2014.02.834
【文献】日大医誌 ,2016年04月01日,75 (2),61-66
【文献】J. Cell. Physiol., 2011, Vol.226, No.3, pp.843-851
【文献】PLoS ONE, 2013, Vol.8, Issue 3, e60461 (pp.1-8)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/0775
A61K 35/51
A61K 35/28
A61K 38/00
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165の細胞表面マーカーを発現する
臍帯由来間葉系幹細胞の培養上清を含み、上記培養上清がクロスべインレスー2(Crossveinless-2)及びエクトジスプラシン-A2(Ectodysplasin-A2)を含有する、医薬組成物。
【請求項2】
上記培養上清が、アクチビンA、Dkk-3、デコリン、HGF、Dkk-1、プログラニュリン、GDF-15、アンジオポエチンー1、CCL28(VIC)、潜在型TGF-β結合タンパク質1(Latent TGF-beta bp1)、GDF1、VEGF-C、BTC(ベタセルリン)、ニドゲン-1(Nidogen-1)、GLO-1(グリオキサラーゼ-1)、sgp130(可溶型gp130)、コルディン様-2(Chordin-Like 2)及びEMAP-IIからなる群より選択される少なくとも1種をさらに含有する、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
癌、前癌性症状、炎症性疾患、免疫疾患、神経変性疾患、代謝疾患、循環器疾患、心疾患、骨疾患、胃腸疾患、肺疾患、肝疾患、腎疾患及び口腔疾患からなる群より選択される疾患の予防又は治療のために用いられる、請求項1
又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
癌、前癌性症状、炎症性疾患、循環器疾患、心疾患、肺疾患、肝疾患及び口腔疾患からなる群より選択される疾患の予防又は治療のために用いられる、請求項
3記載の医薬組成物。
【請求項5】
肺癌、心筋炎、心肥大症、動脈硬化、肺・呼吸器炎症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝炎、肝硬変及び歯周病からなる群より選択される疾患の予防又は治療のために用いられる、請求項
4記載の医薬組成物。
【請求項6】
上皮若しくは内皮のバリア機能の低下に起因する疾患、又はIL-1が関与する疾患の予防又は治療のために用いられる、請求項1から
5のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項7】
バリア機能の低下が、上皮又は内皮細胞層におけるタイトジャンクション機能の低下に起因する、請求項
6記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカーを発現する間葉系幹細胞及びその調製方法、並びに上記間葉系幹細胞を含む医薬組成物及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体の細胞又は組織を利用した医薬品の開発や、再生医療の研究が進み、注目されている。このうち、ES細胞やiPS細胞は、臓器再生技術又は創薬スクリーニングツールとして研究が加速されている。一方、骨髄、脂肪組織、臍帯等から体性幹細胞(間葉系幹細胞)を分離して利用する細胞療法は、再生医療の中でも、病気等によって損傷を受けた組織を修復するための体性幹細胞の本来の機能を利用するものであるため、より実現性の高いものとして注目され、研究が進められている。体性幹細胞(間葉系幹細胞)は、一般的には、全ての臓器や組織に分化できるわけでなく特定の組織や臓器に分化することが知られている。
【0003】
また、体性幹細胞(間葉系幹細胞)は、上述のような損傷を受けた組織を修復させる効果だけでなく、各種疾患に対する治療効果を有することも知られている。例えば、臍帯組織に由来する体性幹細胞(間葉系幹細胞)には、移植提供者に対して組織適合性不適合な移植受容者における、逆免疫反応(GVHD)を抑制する効果があること(特許文献1参照)、特定の臍帯組織由来間葉系幹細胞は、パーキンソン病の治療のために使用できること(特許文献2参照)、さらに、特定の臍帯組織由来間葉系幹細胞には、循環器系の疾患に対する治療効果があること(特許文献3参照)が知られている。しかし、これらの間葉系幹細胞の各種疾患に対する治療効果は、十分とは言えない。
【0004】
特許文献4~6には、臍帯組織由来の細胞を含む治療用細胞組成物が開示されている。これらの治療用細胞組成物が含む臍帯組織由来の細胞は、インターロイキン8、レチクロン1、ケモカイン受容体(C-X-Cモチーフ)リガンド3を高発現しており、さらに、MCP-1、MCP1β、IL-6、GCP-2、HGF、KGF、FGF、HB-EGF、BDNF、TPO、RANTESおよびTIMP1を分泌している。さらに、臍帯またはその羊膜から単離された幹細胞が各種サイトカインの遺伝子を発現していることも開示されている(特許文献7及び8)。また、臍帯血由来の間葉系幹細胞を含む組成物が、神経疾患の治療に用いられること、これらの間葉系幹細胞の培養液が、アクチビンA、PF4、デコリン、ガレクチン3、GDF15等を含むことが開示されている(特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2009-519978号公報
【文献】特表2008-525489号公報
【文献】特表2007-528705号公報
【文献】特許5425399号
【文献】特許5425400号
【文献】特許5148873号
【文献】特開2013-066473号公報
【文献】特開2015-504662号公報
【文献】特開2014-240388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、各種疾患に対して優れた治療効果を奏する新規の間葉系幹細胞及びその間葉系幹細胞を含んだ新規の医薬組成物、並びにそれらの調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ある特定の間葉系幹細胞を含む医薬組成物が、各種疾患に対して優れた治療効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0008】
(1)CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカーを発現する間葉系幹細胞。
(2)CD29、CD73、CD90、CD105及びCD166陽性である、(1)記載の間葉系幹細胞。
(3)クロスべインレスー2(Crossveinless-2)及びエクトジスプラシン-A2(Ectodysplasin-A2)を分泌する(1)又は(2)記載の間葉系幹細胞。
(4)アクチビンA、Dkk-3、デコリン、HGF、Dkk-1、プログラニュリン、GDF-15、アンジオポエチンー1、CCL28(VIC)、潜在型TGF-β結合タンパク質1(Latent TGF-beta bp1)、GDF1、VEGF-C、BTC(ベタセルリン)、ニドゲン-1(Nidogen-1)、GLO-1(グリオキサラーゼ-1)、sgp130(可溶型gp130)、コルディン様-2(Chordin-Like 2)及びEMAP-IIからなる群より選択される少なくとも1種をさらに分泌する、(1)から(3)のいずれかに記載の間葉系幹細胞。
(5)臍帯、脂肪又は骨髄由来である、(1)から(4)のいずれか記載の間葉系幹細胞。
(6)(1)から(5)のいずれか記載の間葉系幹細胞及び/又はその培養上清を含む、医薬組成物。
(7)医薬組成物が間葉系幹細胞を含む場合、CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカーを発現する間葉系幹細胞の比率が、医薬組成物の含む間葉系幹細胞全体の70%以上である、(6)記載の医薬組成物。
(8)医薬組成物が間葉系幹細胞を含む場合、CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカーを発現する間葉系幹細胞の比率が、医薬組成物の含む間葉系幹細胞全体の90%以上である、(7)記載の医薬組成物。
(9)癌、前癌性症状、炎症性疾患、免疫疾患、神経変性疾患、代謝疾患、循環器疾患、心疾患、骨疾患、胃腸疾患、肺疾患、肝疾患、腎疾患及び口腔疾患からなる群より選択される疾患の予防又は治療のために用いられる、(6)から(8)のいずれか記載の医薬組成物。
(10)癌、前癌性症状、炎症性疾患、循環器疾患、心疾患、肺疾患、肝疾患及び口腔疾患からなる群より選択される疾患の予防又は治療のために用いられる、(9)記載の医薬組成物。
(11)肺癌、心筋炎、心肥大症、動脈硬化、肺・呼吸器炎症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝炎、肝硬変及び歯周病からなる群より選択される疾患の予防又は治療のために用いられる、(10)記載の医薬組成物。
(12)上皮若しくは内皮のバリア機能の低下に起因する疾患、又はIL-1が関与する疾患の予防又は治療のために用いられる、(6)から(11)のいずれか記載の医薬組成物。
(13)バリア機能の低下が、上皮又は内皮細胞層におけるタイトジャンクション機能の低下に起因する、(12)記載の医薬組成物。
(14)CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカーを発現する間葉系幹細胞を誘導、濃縮又は分離選別する工程を含む、上記マーカーを発現する間葉系幹細胞の調製方法。
(15)CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカーを発現する間葉系幹細胞を誘導、濃縮又は分離選別する工程を含む、疾患の予防又は治療のために用いられる医薬組成物の調製方法。
(16)疾患が、癌、前癌性症状、炎症性疾患、免疫疾患、神経変性疾患、代謝疾患、循環器疾患、心疾患、骨疾患、胃腸疾患、肺疾患、肝疾患、腎疾患及び口腔疾患からなる群より選択される、(15)記載の医薬組成物の調製方法。
(17)CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカーを発現する間葉系幹細胞及び/又はその培養上清を用いる、疾患の予防又は治療方法。
(18)間葉系幹細胞が、CD29、CD73、CD90、CD105及びCD166陽性である、(17)記載の方法。
(19)間葉系幹細胞が、クロスべインレスー2(Crossveinless-2)及びエクトジスプラシン-A2(Ectodysplasin-A2)を分泌する(17)又は(18)記載の方法。
(20)間葉系幹細胞が、アクチビンA、Dkk-3、デコリン、HGF、Dkk-1、プログラニュリン、GDF-15、アンジオポエチンー1、CCL28(VIC)、潜在型TGF-β結合タンパク質1(Latent TGF-beta bp1)、GDF1、VEGF-C、BTC(ベタセルリン)、ニドゲン-1(Nidogen-1)、GLO-1(グリオキサラーゼ-1)、sgp130(可溶型gp130)、コルディン様-2(Chordin-Like 2)及びEMAP-IIからなる群より選択される少なくとも1種をさらに分泌する、(19)記載の方法。
(21)間葉系幹細胞が、臍帯、脂肪又は骨髄由来である、(17)から(20)のいずれかに記載の方法。
(22)疾患が、癌、前癌性症状、炎症性疾患、免疫疾患、神経変性疾患、代謝疾患、循環器疾患、心疾患、骨疾患、胃腸疾患、肺疾患、肝疾患、腎疾患及び口腔疾患からなる群より選択される、(17)から(21)のいずれかに記載の方法。
(23)疾患が、癌、前癌性症状、炎症性疾患、循環器疾患、心疾患、肺疾患、肝疾患及び口腔疾患からなる群より選択される、(22)記載の方法。
(24)疾患が、肺癌、心筋炎、心肥大症、動脈硬化、肺・呼吸器炎症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝炎、肝硬変及び歯周病からなる群より選択される、(23)記載の方法。
(25)疾患が、上皮若しくは内皮のバリア機能の低下に起因する疾患、又はIL-1が関与する疾患である、(17)から(24)のいずれか記載の方法。
(26)バリア機能の低下が、上皮又は内皮細胞層におけるタイトジャンクション機能の低下に起因する(25)記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカーを発現する間葉系幹細胞は、マクロファージ等の免疫細胞からの炎症性サイトカイン産生を抑制する作用や、バリア機能亢進作用に優れると共に、酸化ストレスに対する耐性もあり、ダメージを受け難い細胞である、といった特性を有する。また、上記特定マーカーを発現する間葉系幹細胞の培養上清は、心筋細胞、血管内皮細胞、肺上皮癌細胞、肝星細胞、歯肉線維芽細胞等に作用して、炎症や線維化に関連する遺伝子発現を適切に調節する効果も奏する。そのため、これらの間葉系幹細胞及び/又はその培養上清を含む本発明の医薬組成物は、癌、前癌性症状、炎症性疾患、免疫疾患、神経変性疾患、代謝疾患、循環器疾患、心疾患、骨疾患、胃腸疾患、肺疾患、肝疾患、腎疾患、口腔疾患等の種々の疾患に対する優れた治療効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の間葉系幹細胞の細胞表面マーカー発現を示す図である。
【
図2】本発明の間葉系幹細胞の細胞表面マーカー発現を示す図である。
【
図3】本発明の間葉系幹細胞の培養上清のバリア機能亢進活性を示す図である。
【
図4】本発明の間葉系幹細胞の炎症性サイトカイン産生抑制効果を示す図である。
【
図5】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト血管内皮細胞に対する抗線維化効果を示す図である。
【
図6】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト血管内皮細胞に対する抗線維化効果を示す図である。
【
図7】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト肺上皮癌細胞に対する抗炎症効果を示す図である。
【
図8】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト肺上皮癌細胞に対する抗線維化効果を示す図である。
【
図9】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト肝星細胞に対する抗炎症効果を示す図である。
【
図10】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト肝星細胞に対する抗炎症効果を示す図である。
【
図11】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト肝星細胞に対する抗炎症効果を示す図である。
【
図12】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト肝星細胞に対する抗線維化効果を示す図である。
【
図13】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト心筋細胞に対する抗炎症効果を示す図である。
【
図14】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト心筋細胞に対する抗炎症効果を示す図である。
【
図15】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト心筋細胞に対する抗線維化効果を示す図である。
【
図16】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト歯肉線維芽細胞に対する抗炎症効果を示す図である。
【
図17】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト歯肉線維芽細胞に対する歯肉減少抑制効果を示す図である。
【
図18】本発明の間葉系幹細胞の培養上清の、ヒト歯肉線維芽細胞に対する歯肉減少抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のCD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカー(以下、「特定マーカー」ともいう)を発現する間葉系幹細胞は、IL-6等の炎症性サイトカインの産生抑制作用やバリア機能亢進作用に優れる細胞である、といった特性を有する。また、心筋細胞、血管内皮細胞、肺上皮癌細胞、肝星細胞、歯肉線維芽細胞等に作用して、炎症や線維化に関連する遺伝子発現を適切に調節する効果も奏する。さらに、本発明の間葉系幹細胞は、クロスべインレスー2(Crossveinless-2)及びエクトジスプラシン-A2(Ectodysplasin-A2)を分泌し、また、アクチビンA、Dkk-3、デコリン、HGF、Dkk-1、プログラニュリン、GDF-15、アンジオポエチンー1、CCL28(VIC)、潜在型TGF-β結合タンパク質1(Latent TGF-beta bp1)、GDF1、VEGF-C、BTC(ベタセルリン)、ニドゲン-1(Nidogen-1)、GLO-1(グリオキサラーゼ-1)、sgp130(可溶型gp130)、コルディン様-2(Chordin-Like 2)、EMAP-IIから選択される特定のサイトカインを分泌することから、上記の特性以外にもこれらのサイトカインが有する機能をも有する。また、本発明の間葉系幹細胞は、未分化性を維持していると同時に、分化条件下では目的の機能を有する細胞に効率よく分化することができる。このような特定マーカーを発現する間葉系幹細胞及び/又はその培養上清を含む本発明の医薬組成物は、種々の疾患に対する優れた治療効果を奏する。以下に、本発明における特定マーカーを発現する間葉系幹細胞、その培養上清、それらを含む医薬組成物等について説明する。
【0012】
[特定マーカーを発現する間葉系幹細胞]
本発明において間葉系幹細胞とは、骨細胞、心筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞等の間葉系に属する細胞への分化能を有し、この分化能を維持したまま増殖できる細胞を意味する。例えば骨髄、脂肪、血液、骨膜、真皮、臍帯、胎盤、羊膜、絨毛膜、脱落膜、筋肉、子宮内膜、真皮、歯小嚢、歯根膜、歯髄、歯胚等由来の間葉系幹細胞が挙げられ、好ましくは臍帯由来、脂肪由来、骨髄由来の間葉系幹細胞であり、より好ましくは臍帯由来の間葉系幹細胞である。ここで、「由来」とは、上記細胞が、供給源である組織から獲得され、成長、或いはin vitroで操作された細胞であることを示す。なお、本発明の特定マーカーを発現する間葉系幹細胞は、上記間葉系幹細胞の集合体であり、互いに異なる特性を有する複数種の間葉系幹細胞を含む集合体であってもよいし、実質的に均一な間葉系幹細胞の集合体であってもよい。
【0013】
本発明における間葉系幹細胞は、被検体由来である自家性細胞であってもよいし、同種の別の対象に由来する他家性細胞であってもよい。好ましくは他家性細胞である。
【0014】
「特定マーカーを発現する」とは、間葉系幹細胞が特定マーカー遺伝子を発現していること、若しくは特定マーカータンパクを発現していること、又はその両方を発現していることをいう。すなわち、間葉系幹細胞がCD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカーの遺伝子及び/又はタンパクを発現していることをいう。ここで、間葉系幹細胞が各マーカーを発現しているか否かの判断は、遺伝子発現については、例えば遺伝子チップアレイ、ポリメラーゼ連鎖反応(逆転写酵素PCR、リアルタイムPCR、従来のPCR)等の従来公知の方法により行うことができる。また、タンパク発現については、例えば、各マーカータンパクに特異的に結合する抗体を用いたFACS解析(フローサイトメトリー)、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)等の従来公知の方法により行うことができる。いずれの場合も、各マーカー遺伝子又はタンパクを発現していない細胞を陰性対照として、発現の有無や、発現の高低を判断する。
【0015】
本発明の間葉系幹細胞は、CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカーを発現する。すなわち、本発明の間葉系幹細胞は、少なくとも、CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165のうちのいずれか1種を発現し、好ましくは、いずれか2種を発現し、より好ましくはいずれか3種を発現し、さらに好ましくはいずれか4種を発現し、特に好ましくは全てを発現する。上記特定マーカーを発現している間葉系幹細胞は、より優れた抗炎症作用、抗線維化作用、バリア機能亢進作用、抗酸化能等を示す。
【0016】
CD201は、Endothelial protein C receptor (EPCR)としても知られている分子である。CD201は、心臓と肺の動脈と静脈の内皮細胞に強く発現しており、肺と皮膚の毛細血管にはそれより弱く発現している。樹状細胞、単球、白血球といくつかの腫瘍細胞にも発現している。CD201の主な作用は抗凝固である。CD201はプロテインCと高いアフィニティで結合し、トロンビン-トロンボモジュリン複合体によるプロテインCの活性化を増大する。その他、CD201は感染、外傷、造血、自己免疫応答に対する炎症応答のような多くの病態生理学的なプロセスで重要な役割を果たしている。
【0017】
CD46は、4つのアイソフォームから成る膜貫通型糖タンパクである。CD46はほとんどの有核細胞に発現し、補体成分C3b及びC4bと結合することにより補体機能の調節役として機能し、自己補体攻撃からの宿主防衛に働く。CD46はpathogen magnetと呼ばれ、麻疹ウイルス、ヒトヘルペスウイルス6型、A群連鎖球菌とネイセリアを含むいくつかの病原体の感染に関与することが知られている。
【0018】
CD56は、分子量140kDaのNeural Cell Adhesion Molecule(N-CAM)のアイソフォームで、NK細胞のマーカーとして有用な抗原である。CD56は、末梢血の大顆粒リンパ球(LGL)サブポピュレーションやナチュラルキラー活性を持つすべての細胞に中程度の強さで発現している。またT細胞のサブセット、骨髄系細胞、ミエローマの一部にも発現する。
【0019】
CD147は、I型1回膜貫通タンパク質で、ベイシジンもしくはextracellular matrix metalloproteinase inducer(EMMPRIN)としても知られている。CD147は上皮細胞、内皮細胞、白血球や癌細胞など多種の細胞に発現している。脳の非腫瘍性領域の血管上皮や癌細胞に発現しているが、悪性グリオーマ中の増殖している血管では発現していない。CD147は様々な生理学的、病理学的活性を有することが知られている。中でもマトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)の誘導因子としての機能が最もよく知られている。その他、リンパ球応答、モノカルボン酸輸送体の発現、精子形成の制御等に関わることが示されている。
【0020】
CD165は、37-42kDaの膜表面糖タンパク質で、ほとんどの胸腺細胞、胸腺上皮細胞、大多数の血小板、線繊維芽細胞、T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)細胞、中枢神経組織のニューロン、膵臓の膵島細胞、腎臓のボーマン嚢に発現している。CD165は、細胞分化の過程において、胸腺細胞と胸腺上皮細胞の結合に関与していることが知られている。
【0021】
本発明の間葉系幹細胞は、上記特定マーカーを発現するという特徴に加えて、例えば、成長特徴(例えば、継代から老化までの集団倍加能力、倍加時間)、核型分析(例えば、正常な核型、母体系統又は新生児系統)、フローサイトメトリー(例えば、FACS分析)による上記以外の表面マーカー発現、免疫組織化学及び/又は免疫細胞化学(例えば、エピトープ検出)、遺伝子発現プロファイリング(例えば、遺伝子チップアレイ;逆転写PCR、リアルタイムPCR、従来型PCR等のポリメラーゼ連鎖反応)、miRNA発現プロファイリング、タンパク質アレイ、サイトカイン等のタンパク質分泌(例えば、血漿凝固解析、ELISA、サイトカインアレイ)、代謝産物(メタボローム解析)、本分野で知られている他の方法等によって、特徴付けられてもよい。本発明における特定マーカーを発現する間葉系幹細胞は、例えば、以下のような特徴を有する。
【0022】
(特定マーカー以外の表面マーカーの発現)
特定マーカーを発現する本発明の間葉系幹細胞は、未分化性の指標となるCD29、CD73、CD90、CD105及びCD166を発現している。
【0023】
(特定マーカー以外の遺伝子発現)
本発明における特定マーカーを発現する間葉系幹細胞は、特定マーカー遺伝子に加えて、他の遺伝子発現の有無によって特徴付けられてもよい。本発明の特定マーカーを発現する間葉系幹細胞が発現している遺伝子としては、例えば、MT1X、NID2、CPA4、DKK1、ANKRD1、TIMP3、MMP1、オステオプロテゲリン(Osteoprotegerin;TNFRSF11B)、IGFBP5、SLC14A1等が挙げられる。特定マーカーを発現する本発明の間葉系幹細胞は、MT1X、NID2、CPA4、DKK1、ANKRD1、TIMP3、MMP1、オステオプロテゲリン(Osteoprotegerin;TNFRSF11B)、IGFBP5及びSLC14A1からなる群より選択される少なくとも1種の遺伝子を発現していることが好ましい。より好ましくは2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、さらに好ましくは6種以上、7種以上、8種以上、9種以上の、特に好ましくは、上記の全ての遺伝子を発現している。
【0024】
なお、このときの各遺伝子の発現は、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、細胞から常法によりmRNAを調製し、発現の有無や程度を確認したい遺伝子についてqRT-PCRを行い、それぞれの遺伝子発現を解析することができる。
【0025】
MT1Xは、システインリッチな低分子量タンパクであり(分子量500~14,000Da)、ゴルジ体の膜に局在している。MT1Xの機能の詳細は不明であるが、抗酸化タンパクとして、酸化ストレスに対する防御機構に関与している可能性が示唆されている。また、MT1Xは細胞の未分化性の指標となるタンパクであるとも言われている。本発明の特定マーカーを発現する間葉系幹細胞がMT1Xを発現していることの効果として、細胞が酸化ストレス耐性を獲得していることが挙げられ、疾患の治療に用いる場合に、よりダメージに強い細胞である点で好ましい。
【0026】
NID2は、ラミニンγ1鎖に結合し、ラミニンをIV型コラーゲンに結びつけることで基底膜の形成と維持に関与しているタンパクである。中枢神経組織内におけるほとんどの基底膜に発現している。本発明の特定マーカーを発現する間葉系幹細胞がNID2を発現していることの効果としては、筋肉細胞(特に、骨格筋、心筋)への分化能が向上している可能性が考えられる。
【0027】
CPA4は、タンパク質のC末端アミノ酸を切断するタンパク分解酵素のひとつである。また、CPA4は前立腺癌マーカーとしても知られるタンパクであり、癌の悪性度に比例して発現が上昇することが知られている。活発に増殖する未分化性の高い細胞において発現が上昇している傾向があることから、本発明の特定マーカーを発現する間葉系幹細胞がCPA4を発現していることは、本発明の特定マーカーを発現する間葉系幹細胞が未分化性及び増殖性が高いことを示唆していると言える。
【0028】
ANKRD1は、間葉系幹細胞の他、心筋、平滑筋、線維芽細胞、肝星細胞等に発現しているタンパクであり、分化の過程や、ストレスに関与して作用する転写因子である。多くの心疾患に関与していることが判明している。また、創傷治癒過程にある線維芽細胞や肝障害時の肝星細胞において発現が上昇すること、ANKRD1を欠失させたマウスでは傷の治りが遅れること等が知られている(Susan E. Samaras et al. The American Journal of Pathology, Vol. 185, No. 1, January 2015, Inge Mannaerts et al, Journal of Hepatology 2015)。また、MMP10,13等の細胞外基質分解酵素の発現を制御する核内因子である(Karinna Almodovar-Garcia et al. MCB 2014)。よって、本発明の特定マーカーを発現する間葉系幹細胞がANKRD1を発現していることの効果としては、心筋細胞への分化能向上や創傷治癒効果亢進、線維化組織の細胞外基質のリモデリングに関与する等の可能性が考えられる。
【0029】
DKK1は、Wntシグナル阻害剤として機能するタンパクであり、Canonical経路の抑制化に寄与していると考えられている。そのため、骨分化に関しては促進的方向に作用して骨分化能を向上させる。骨粗しょう症においては発現が低下することが知られている。一方、細胞の未分化性維持及び増殖には良い影響を与えていると考えられており、胎児発達にも寄与していることも知られている。
【0030】
TIMP3(Tissue Inhibitor of Metalloproteinase 3)は、MMP1、MMP2、MMP3、MMP9、MMP13の活性化を抑制する。さらに、MMP3はその他の多くのMMPの活性化に関与していることから、TIMP3は広範なMMPの抑制因子として機能する。また、VEGFのVEGFR2への結合を抑制することで血管新生を抑制することや、アポトーシス促進シグナルとして働くことが知られている。
【0031】
MMP1(Matrix metalloproteinase 1)は、I型、II型、III型、V型コラーゲンを対象に分解するタンパク質である。主要なECMを対象にしていることから、細胞分裂や細胞遊走の際に働くことが知られている。炎症反応によって発現が増加することが知られており、炎症時の組織破壊やリモデリングに関与している。
【0032】
オステオプロテゲリン(Osteoprotegerin;TNFRSF11B)は、破骨細胞分化因子(RANKL)のデコイ受容体で、RANKを介したNF-κBシグナルの活性化を阻害する。骨芽細胞、線維芽細胞、肝細胞などから産生され、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化を阻害する。オステオプロテゲリンの局所投与により骨形成が促進されたり、逆にノックダウンにより骨粗鬆症を生じるという報告がある。
【0033】
IGFBP-5は、インシュリン様成長因子(IGF)結合タンパク質で、ほとんどのIGFはIGFBPと結合した状態で存在している。IGFBPの機能として、IGFシグナルを増強することが挙げられる。また、TNFR1の遺伝子発現を促進するほか、TNFR1タンパク質に対してアンタゴニスト的に働くことで、TNFαシグナルを抑制することが知られている。また、乳癌細胞で、IGFBP-5が細胞接着、生存率の増加を促進し、細胞遊走を抑制することが報告されている。
【0034】
SLC14A1は、尿素トランスポーターであり、腎臓で発現が高く、細胞内の尿素濃度のコントロールを行っている。間葉系幹細胞でも発現していることは示されており、特に軟骨分化時に発現低下することが報告されている。
【0035】
(マイクロRNA発現)
特定マーカーを発現する本発明の間葉系幹細胞は、miRNAの発現の有無によってさらに特徴付けられてもよい。本発明の間葉系幹細胞が発現しているmiRNAとしては、例えば、hsa-miR-145-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-199b-5p、hsa-miR-503-5p、hsa-let-7e-5p、hsa-miR-132-3p、hsa-miR-196a-5p、hsa-miR-324-3p、hsa-miR-328-3p、hsa-miR-382-5p、hsa-let-7d-5p等が挙げられる。本発明の間葉系幹細胞は、hsa-miR-145-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-199b-5p、hsa-miR-503-5p、hsa-let-7e-5p、hsa-miR-132-3p、hsa-miR-196a-5p、hsa-miR-324-3p、hsa-miR-328-3p、hsa-miR-382-5p、及びhsa-let-7d-5pからなる群より選択される少なくとも1種のマイクロRNAを発現していることが好ましい。より好ましくは2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上の、さらに好ましくは7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上、12種以上の、特に好ましくは、上記の全てのマイクロRNAを発現している。
【0036】
なお、このときのマイクロRNAの発現は、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、細胞から常法によりmRNAを調製し、qRT-PCRもしくは市販のマイクロRNAアレイ等により、細胞中のマイクロRNA発現を解析することができる。
【0037】
(サイトカイン分泌)
特定マーカーを発現する本発明の間葉系幹細胞は、以下の特定のサイトカイン分泌の有無によってさらに特徴付けられてもよい。本発明の間葉系幹細胞は、クロスべインレス-2(Crossveinless-2)及びエクトジスプラシン-A2(Ectodysplasin-A2)を分泌する。
【0038】
本発明の間葉系幹細胞は、アクチビンA、Dkk-3、デコリン、HGF、Dkk-1、プログラニュリン、GDF-15、アンジオポエチンー1、CCL28(VIC)、潜在型TGF-β結合タンパク質1(Latent TGF-beta bp1)、GDF1、VEGF-C、BTC、ニドゲン-1(Nidogen-1)、GLO-1(グリオキサラーゼ-1)、sgp130(可溶型gp130)、コルディン様-2(Chordin-Like 2)及びEMAP-IIからなる群より選択される少なくとも1種をさらに分泌することがより好ましく、アクチビンA、Dkk-3、デコリン、HGF、Dkk-1、プログラニュリン、GDF-15、アンジオポエチンー1、CCL28(VIC)、潜在型TGF-β結合タンパク質1(Latent TGF-beta bp1)、GDF1及びVEGF-Cからなる群より選択される少なくとも1種をさらに分泌することが特に好ましく、アクチビンA、Dkk-3、デコリン、HGF、Dkk-1、プログラニュリン、GDF-15及びアンジオポエチンー1からなる群より選択される少なくとも1種をさらに分泌することが最も好ましい。
【0039】
クロスべインレスー2(Crossveinless-2、CV-2)は、BMPER(BMP binding endothelial regulator)とも知られている、骨形成タンパク質(BMP)結合タンパク質である。
【0040】
エクトジスプラシン-A2(Ectodysplasin-A2、EDA-A2)は、TNFレセプタースーパーファミリーのリガンドであり、毛髪、歯牙、汗腺などの外胚葉から分化した多様な器官の発達に関与するものと知られている。
【0041】
アンジオポエチン-1は、脈管形成(vasculogenesis)又は血管新生(angiogenesis)を促進する糖タンパク質である。
【0042】
アクチビンAは、インヒビンベータA(インヒビンβA:INHBA)とも知られている蛋白質のホモダイマーである。ヒトにおいて、INHBAは、INHBA遺伝子によりコーディングされるものと知られる。
【0043】
Dkk-1は分泌タンパク質としてLRP-5/-6と結合することで細胞外からWntシグナルを負に制御すると報告されている。Dkk-3は、Dkk-1とは異なるメカニズムで細胞増殖抑制やアポトーシス誘導を行い、癌化抑制・癌細胞死誘導を制御する分子であると考えられている。
【0044】
デコリンは、平均分子量が約90ないし約140kDaのプロテオグリカンである。デコリンは、スモールロイシンリッチプロテオグリカン(small leucine-rich proteoglycan:SLRP)ファミリに属し、コンドロイチン硫酸(chondroitin sulfate:CS)またはデルマタン硫酸(dermatan sulfate:DS)から構成されたグリコースアミノグリカン(glycosaminoglycan:GAG)を有するロイシン反復(leucine repeats)を含む蛋白質コアを含む。生体内ではユビキタスに発現し、コラーゲン線維の集合や細胞の増殖などに関与していることが知られている。本発明の特定マーカーを発現する間葉系幹細胞においてデコリンの分泌が上昇していることの効果としては、炎症部位、損傷部位における組織修復効果、組織における細胞増殖促進効果等が期待できる。
【0045】
HGFは、肝細胞増殖因子である。
【0046】
プログラニュリン(PGN)は、グラニュリンの前駆体である。プログラニュリンは、高度に保存された12-システイングラニュリン/エピテリンモチーフの7.5反復を有する単一の前駆体蛋白質であり、グラニュリン(granulin:GRN)は、前記プログラニュリンからカットされて分泌された、グリコシル化されたペプチドのファミリである。プログラニュリンは、プロエピテリン及びPC細胞由来成長因子ともいう。
【0047】
GDF-15(成長分化因子15、growth differentiation factor 15)は、マクロファージ阻害サイトカイン1(macrophage inhibitory cytokine 1:MIC1)とも知られている、傷組織及び疾病過程で炎症経路(inflammatory pathway)及び細胞死経路を調節する役割を行う形質転換成長因子ベータ(transforming growth factor beta:TGF-β)スーパーファミリに属する蛋白質である。
【0048】
本発明の間葉系幹細胞が分泌している上記以外のサイトカインとしては、例えばオステオプロテゲリン、MMP1等が挙げられる。本発明の間葉系幹細胞は、オステオプロテゲリン及び/又はMMP1を分泌していることが好ましく、両方のサイトカインを分泌していることがさらに好ましい。
【0049】
オステオプロテゲリン(Osteoprotegerin;TNFRSF11B)は、遺伝子発現の項において記載した通り、破骨細胞分化因子(RANKL)のデコイ受容体で、RANKを介したNF-κBシグナルの活性化を阻害する。骨芽細胞、線維芽細胞、肝細胞などから産生され、破骨前駆細胞の破骨細胞への分化を阻害する。オステオプロテゲリンの局所投与により骨形成が促進されたり、逆にノックダウンにより骨粗鬆症を生じるという報告がある。
【0050】
MMP1(Matrix metalloproteinase 1)は、遺伝子発現の項において記載した通り、間質コラゲナーゼであり、I型、II型、III型、V型コラーゲンのへリックス部位を特異的に切断し、組織破壊や組織再構築に関与する酵素である。本発明の特定マーカーを発現する間葉系幹細胞においてMMP1の分泌が、特定マーカー陰性細胞と比較して低いことの効果としては、炎症部位、損傷部位における組織修復効果等が期待できる。
【0051】
なお、サイトカインの分泌量(培養上清中の濃度)は、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、ELISA法等が挙げられる。
【0052】
(分化の方向性)
特定マーカーを発現する本発明の間葉系幹細胞は、骨、脂肪、軟骨への分化能を有する。それぞれの分化能については、当業者に公知の分化誘導条件により上記間葉系幹細胞集団を培養して、判断することができる。
【0053】
骨細胞への分化誘導法としては、従来から用いられている誘導方法を用いることができ、特に限定されないが、典型的には、以下のような方法により誘導できる。即ち、本発明の間葉系幹細胞を数日間培養した後、培地中にFBS等の血清、デキサメタゾン、β-グリセロールホスフェート(β-glycerol phosphate)、アスコルビン酸-2-ホスフェート(ascorbic acid-2-phosphate)が含まれた分化培養液に懸濁して播種する。なお、上記分化培養液としては、市販の骨細胞分化用培地を用いてもよい。このような市販の骨分化用培地としては、例えば、OsteoLife Complete Osteogenesis Medium (Lifeline, LM-0023)、Mesenchymal Stem Cell Osteogenic Differentiation Medium (タカラバイオ社,D12109)等が挙げられる。骨分化のための培養では、分化培養用播種から24時間~72時間程度の後に培地交換を行い、以後、3~4日毎に培地交換を行い、2週間~1ヶ月程度培養する。
【0054】
脂肪細胞への分化誘導方法としては、従来から用いられている誘導方法を用いることができ、特に限定されないが、典型的には、レチノイン酸を添加した培養液で数日間浮遊培養した後、インシュリン及びトリヨードサイロニン(T3)を添加した培養液で培養する。また、従来この種の細胞の培養に用いられる培養条件を利用することができ、例えば、培地の種類、組成物の内容、組成物の濃度、及び培養温度等に関して特に制限はない。また、培養期間は、典型的には21日を超えない期間培養をするのが好ましいが、30日~40日程度培養を継続することも可能である。具体的には、以下のような方法により脂肪細胞を誘導できる。即ち、本発明の間葉系幹細胞を数日間培養した後、脂肪細胞分化用培地に懸濁してクラボウ分化プロトコール推奨細胞密度にて播種する。上記分化用培地としては、例えば、ヒト間葉系幹細胞用脂肪細胞分化用培地:AdipoLife DfKt-1 (Lifeline, LL-0050)、 AdipoLife DfKt-2 (Lifeline , LL-0059)、Mesenchymal Stem Cell Adipogenic Differentiation Medium(タカラバイオ社,D12107)等が挙げられる。脂肪分化のための培養では、分化培養用播種から24~72時間程度の後に培地交換を行い、以後、3~4日毎に培地交換を行い、2週間~1ヶ月程度培養する。
【0055】
軟骨細胞への分化誘導法としては、従来から用いられている誘導方法を用いることができ、特に限定されないが、典型的には、本発明の間葉系幹細胞をコラーゲンゲル等と混合してゲル化し、DMEM等の培地に、デキサメタゾン、アスコルビン酸-2-ホスフェート、ピルビン酸ナトリウム(sodium pyruvate)、TGF-β3(Transforming Growth Factor-β3)、ITSプラスプレミックス(ITS plus premix)(インシュリン、トレンスフェリン、亜セレン酸の混合物)が含まれた分化培養液を添加して培養することができる。1週に2~3回程度培養液を交換しながら3週間程度培養する。具体的には、以下のような方法により軟骨細胞を誘導できる。即ち、本発明の間葉系幹細胞を数日間培養した後、軟骨分化用培地に懸濁して、クラボウ分化プロトコール推奨細胞密度にて、マイクロマス法を用いて播種する。上記軟骨分化用培地としては、例えば、ChondroLife Complete Chondrogenesis Medium (Lifeline, LM-0023)、Mesenchymal Stem Cell Chondrogenic Differentiation Medium w/o Inducers(タカラバイオ社,D12110)等が挙げられる。その後、3~4日毎に培地交換を行い、2週間~1ヶ月程度培養する。
【0056】
上記の分化誘導方法にて得られた細胞は、生化学的アプローチ或いは形態観察により分化した細胞の種類を確認することができる。例えば、顕微鏡による細胞観察、種々の細胞染色法、ハイブリダイゼーションを用いたノーザンブロット法、RT-PCR法等のさまざまな確認方法によって分化した細胞の種類を特定することができる。
【0057】
脂肪細胞、骨細胞及び軟骨細胞は、その細胞の形状からは判定が困難であるが、細胞内脂質を染色する(例えばOil Red O染色法により赤く染色できる。)ことにより脂肪細胞の存在を確認することができる。また、細胞をアリザリンレッド(Alizarin red)染色を行うことにより骨細胞の存在を確認することができる。また、アルシアンブルー(Alcian blue)染色、サフラニンO染色、又はトルイジンブルー染色を行うことにより軟骨細胞の存在を確認することができる。
【0058】
本発明の間葉系幹細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞への分化能を有するが、特に脂肪細胞、骨細胞への分化能が、従来の培地によって培養された間葉系幹細胞集団と比較して顕著に向上している。
【0059】
[特定マーカーを発現する間葉系幹細胞の調製]
特定マーカーを発現する間葉系幹細胞の調製方法は特に限定されないが、例えば以下のようにして調製することができる。すなわち、臍帯、脂肪組織、骨髄等の組織から、当業者に公知の方法に従って、間葉系幹細胞を分離、培養し、特定マーカーに特異的に結合する抗体(抗CD201抗体、抗CD46抗体、抗CD56抗体、抗CD147抗体及び/又は抗CD165抗体)を用いて、特定マーカー陽性細胞をセルソーター、磁気ビーズ等で分離する等の方法により取得することができる。これらの方法によって得られる細胞集団において、細胞集団の70%以上が特定マーカー陽性であることが好ましく、80%以上が特定マーカー陽性であることがより好ましく、90%以上が特定マーカー陽性であることがさらに好ましく、95%以上が特定マーカー陽性であることが特に好ましく、99%以上が特定マーカー陽性であることが最も好ましい。以下に、特定マーカーを発現する間葉系幹細胞の調製方法を具体的に説明する。
【0060】
本発明における特定マーカーを発現する間葉系幹細胞の調製方法としては、例えば以下のような方法を用いることができる。すなわち、(A)間葉系幹細胞を含む組織を、酵素等で処理する工程、(B)上記酵素処理により得られた細胞を適切な培養培地に懸濁して付着培養を行う工程、(C)浮遊細胞を除去する工程、(D)間葉系幹細胞を継代培養する工程等を含む方法により、間葉系幹細胞を取得、培養することができる。各工程について以下に、詳細に説明する。
【0061】
(A)間葉系幹細胞を含む組織を、酵素等で処理する工程において、臍帯、脂肪、骨髄等の間葉系幹細胞を含む組織は、生理食塩水(例えばリン酸緩衝食塩水(PBS))等を用いて、攪拌して沈降させること等(遠心分離による方法も含む)により洗浄する。この操作により、上記組織に含まれる夾雑物を組織から除去することができる。残存する細胞が、さまざまなサイズの塊として存在する場合には、細胞そのものの損傷を最小限に抑えながら解離させるために洗浄後の細胞塊を、細胞間結合を弱めるか、又は細胞間結合を破壊する酵素(例えばコラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシン等)で処理することが好ましい。使用する酵素の量及び処理期間は、使用される条件に依存して変わるが、当技術分野の技術常識の範囲で行うことができる。このような酵素処理に代えて、又は併用して、細胞塊を、機械的な攪拌、超音波エネルギー、熱エネルギー等の他の処理法で分解することができるが、細胞の損傷を最小限に抑えるため、酵素処理のみで行うことが好ましい。酵素を用いた場合、細胞に対する有害な作用を最小限に抑えるために、酵素による処理後は、培地等を用いて酵素を失活させることが望ましい。
【0062】
上記工程により得られる細胞懸濁物は、凝集状の細胞のスラリー又は懸濁物、並びに各種夾雑細胞、例えば赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、及び線維芽細胞を含む。したがって、続いて凝集状態の細胞とこれらの夾雑細胞を分離、除去してもよいが、後述する浮遊細胞等除去工程により、除去可能であることから、当該分離、除去は割愛しても良い。夾雑細胞を分離、除去する場合、細胞を上清と沈殿に強制的に分ける遠心分離によって達成することができる。得られた夾雑細胞を含む沈殿は、適切な溶媒に懸濁させる。懸濁状の細胞には、赤血球を含む恐れがあるが、後述する固体表面への接着による選択により、赤血球は除外されるため、溶解する工程は必ずしも必要ではない。赤血球を選択的に溶解する方法として、例えば、塩化アンモニウムによる溶解による高張培地又は低張培地中でのインキュベーション等、当技術分野で周知の方法を使用することができる。溶解後、例えば濾過、遠心沈降、又は密度分画によって溶解物を所望の細胞から分離してもよい。
【0063】
次に(B)上記酵素処理により得られた細胞を適切な培養培地に懸濁して付着培養を行う工程において、懸濁状の細胞において、間葉系幹細胞の純度を高めるために、1回もしくは連続して複数回洗浄し、遠心分離し、培地に再懸濁してもよい。この他にも、細胞を、細胞表面マーカープロファイルを基に、又は細胞のサイズ及び顆粒性を基に分離しても良い。この工程において、特定マーカータンパクを発現している細胞のみを、セルソーター、磁気ビーズ等を用いた免疫学的手法により選択的に分離してもよい。
【0064】
再懸濁において用いる培地は、間葉系幹細胞を培養できる培地であれば、特に限定されないが、例えば、動物細胞用の基礎培地に、血清及び/又は血清代替物等を添加して作製することができる。また、間葉系幹細胞の培養に適した培地として市販されているものを用いてもよい。なお、本発明においては間葉系幹細胞やその培養上清を動物(ヒトを含む)の疾患の治療のために用いるため、できるだけ生物由来原料を含まない培地(例えば、無血清培地)であることが好ましい。特に異種由来成分を含まない(ゼノフリー)培地が好ましい。
【0065】
上記基礎培地の組成は、培養するべき細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、イーグル培地のような最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地α(MEM-α)、間葉系細胞基礎培地(MSCBM)、Ham’s F-12及びF-10培地、DMEM/F12培地、Williams培地E、RPMI-1640培地、MCDB培地、199培地、Fisher培地、Iscove改変ダルベッコ培地(IMDM)、McCoy改変培地等が挙げられる。
【0066】
血清は、例えば、ヒト血清、ウシ胎児血清(FBS)、ウシ血清、仔ウシ血清、ヤギ血清、ウマ血清、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清等があるがこれらに限定されない。血清を用いる場合、基礎培地に対して、0.5%~15%、好ましくは、5%~10%を添加しても良い。基礎培地に加える上記血清代替物としては、例えば、アルブミン、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、亜セレン酸ナトリウム、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロール等が挙げられる。
【0067】
上記基礎培地には、必要に応じて、さらにアミノ酸、無機塩類、ビタミン類、増殖因子、抗生物質、微量金属類、幹細胞分化誘導剤、抗酸化剤、炭素源、塩、糖、糖前駆体、植物由来加水分解物、サーファクタント、アンモニア、脂質、ホルモン、緩衝剤、指示薬、ヌクレオシド、ヌクレオチド、酪酸、有機物、DMSO、動物由来生成物、遺伝子誘導剤、細胞内pHの調節剤、ベタイン、浸透圧保護剤、鉱物、等の物質を添加しても良いが、これらの物質に限定されない。これらの物質の使用濃度は特に限定されず、通常の哺乳動物細胞用培地に用いられる濃度で用いることができる。
【0068】
上記アミノ酸としては、例えば、グリシン、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン等が挙げられる。
【0069】
上記無機塩類としては、例えば、塩化カルシウム、硫酸銅、硝酸鉄(III)、硫酸鉄、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。
【0070】
上記ビタミン類としては、例えば、コリン、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB4、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB7、ビタミンB12、ビタミンB13、ビタミンB15、ビタミンB17、ビタミンBh、ビタミンBt、ビタミンBx、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンF、ビタミンK、ビタミンM、ビタミンP等が挙げられる。
【0071】
その他、基礎培地に添加できる具体的な物質としては、塩基性線繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、内皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、肝細胞増殖因子(HGF)等の増殖因子;ペニシリン、ストレプトマイシン、ネオマイシン硫酸塩、アンホテリシンB、ブラストサイジン、クロラムフェニコール、アモキシシリン、バシトラシン、ブレオマイシン、セファロスポリン、クロルテトラサイクリン、ゼオシン及びピューロマイシン等の抗生物質;グルコース、ガラクトース、フルクトース、スクロース等の炭素源;マグネシウム、鉄、亜鉛、カルシウム、カリウム、ナトリウム、銅、セレン、コバルト、スズ、モリブデン、ニッケル、ケイ素等の微量金属;β-グリセロリン酸、デキサメタゾン、ロシグリタゾン、イソブチルメチルキサンチン、5-アザシチジン等の幹細胞分化誘導剤;2-メルカプトエタノール、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、N-アセチルシステイン等の抗酸化剤;アデノシン5’-一リン酸、コルチコステロン、エタノールアミン、インスリン、還元型グルタチオン、リポ酸、メラトニン、ヒポキサンチン、フェノールレッド、プロゲステロン、プトレシン、ピルビン酸、チミジン、トリヨードチロニン、トランスフェリン、ラクトフェリン等が挙げられる。
【0072】
本発明における間葉系幹細胞に好適な無血清培地としては、市販の無血清培地が挙げられる。例えば、PromoCell社、Lonza社、Biological Industries社、Veritas社、R&D Systems社、Corning社及びRohto社等から間葉系幹細胞用として予め調製された培地として提供されているもの等が挙げられる。
【0073】
続いて、間葉系幹細胞を分化させずに培養容器等の固体表面上で、上述の適切な培地を使用して、適切な細胞密度及び培養条件で培養する。固体表面を有する培養容器の形状は特に限定されないが、シャーレやフラスコ等が好適に用いられる。本発明における間葉系幹細胞の培養条件は、それぞれの間葉系幹細胞に適した方法であれば特に限定されず、従来と同様の方法が用いられる。通常、30℃~37℃の温度、2%~7%CO2環境下、5%~21%O2環境下で行われる。
【0074】
(C)浮遊細胞を除去する工程において、培養容器の固体表面に非付着状態の浮遊細胞及び細胞の破片等を除去し、生理食塩水(例えばリン酸緩衝食塩水;PBS)等を用いて付着細胞を洗浄する。本発明では、最終的に培養容器の固体表面に付着した状態で留まる細胞を、間葉系幹細胞の細胞集団として選択することができる。
【0075】
次に、(D)間葉系幹細胞を継代培養する工程を行う。培養方法は、それぞれの細胞に適した方法であれば特に限定されず、従来と同様の方法が用いられる。通常、30℃~37℃の温度、2%~7%CO2環境下、5%~21%O2環境下で行われる。また、間葉系幹細胞の継代の時期及び方法もそれぞれの間葉系幹細胞に適していれば特に限定されず、間葉系幹細胞の形態を観察しながら、従来と同様に行うことができる。培養に用いる培地としては、工程(B)と同様のものを用いることができる。なお、細胞の全培養期間に渡って無血清培地等を用いて行われてもよい。
【0076】
上記(D)工程の培養によって得られた間葉系幹細胞から、特定マーカータンパクを発現している細胞のみを、セルソータ―、磁気ビーズ等を用いた免疫学的手法により選択的に分離する工程(E)をさらに含むことが好ましい。(E)工程により、特定マーカーを発現する間葉系幹細胞を効率的に取得することができる。
【0077】
得られた間葉系幹細胞は、治療用に輸液製剤等に懸濁して調製し、患者に対して使用してもよく、一旦凍結保存してもよい。凍結保存は、当業者に従来公知の方法により行うことができる。凍結した細胞を患者に対して使用する際には、解凍後そのまま投与してもよく、輸液製剤等に懸濁したものを投与してもよい。
【0078】
[医薬組成物]
本発明の医薬組成物は、特定マーカーを発現する間葉系幹細胞及び/又はその培養上清を含むことを特徴とする。上述のとおり、特定マーカーを発現する本発明の間葉系幹細胞は、IL-6等の炎症性サイトカインの産生抑制作用等の抗炎症作用、バリア機能亢進作用、抗線維化作用に優れる、といった特性を有する。また、未分化性を維持していると同時に、分化条件下では目的の機能を有する細胞に効率よく分化することができる。このような特定マーカーを発現する間葉系幹細胞及び/又はその培養上清を含む本発明の医薬組成物は、種々の疾患に対する優れた治療効果を奏する。本発明の医薬組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、特定マーカーを発現する間葉系幹細胞及び/又はその培養上清に加えて、その他の成分を含んでいてもよい。
【0079】
本発明の医薬組成物は、間葉系幹細胞集団及び/又はその培養上清を含み、この間葉系幹細胞集団の一部又は全部が特定マーカーを発現する間葉系幹細胞である。特定マーカーを発現する間葉系幹細胞の特性等については、特定マーカーを発現する間葉系幹細胞の項で説明した通りである。本発明の医薬組成物が含む間葉系幹細胞集団のうち特定マーカーを発現する間葉系幹細胞が占める割合は高いほど好ましい。上記割合は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましく、99%以上であることが最も好ましい。
【0080】
[医薬組成物の調製方法]
本発明は、特定マーカーを発現する間葉系幹細胞を誘導、濃縮又は分離選別する工程を含む、疾患の予防又は治療のために用いられる医薬組成物の調製方法も含む。上記疾患としては、癌、前癌性症状、炎症性疾患、免疫疾患、神経変性疾患、代謝疾患、循環器疾患、心疾患、骨疾患、胃腸疾患、肺疾患、肝疾患、腎疾患及び口腔疾患からなる群より選択される疾患が挙げられる。
【0081】
本発明の医薬組成物の調製方法は、特定マーカーを発現する間葉系幹細胞を誘導、濃縮又は分離選別する工程を含む。上記特定マーカーを発現する間葉系幹細胞を誘導する工程で採用される方法としては、間葉系幹細胞における特定マーカー発現を誘導、増強できる方法であれば特に限定されない。
【0082】
特定マーカーを発現する間葉系幹細胞を濃縮、分離選別する工程で採用される方法としては、例えば、上述のような、特定マーカーを特異的に認識する抗体を用い、セルソーター、磁気ビーズ等を用いる方法が挙げられる。これらの方法によると、特定マーカータンパクを細胞表面に発現している間葉系幹細胞を選択的に濃縮、分離選別することができる。
【0083】
本発明における間葉系幹細胞の培養上清としては、間葉系幹細胞を培養して得られる上清であれば特に限定されないが、上記の「特定マーカーを発現する間葉系幹細胞の調製」の項において詳細に説明した培養方法により得られる培養上清であることが好ましい。即ち、まず間葉系幹細胞を培養し、続いて交換培地中で間葉系幹細胞を培養して得られる培養上清である。
【0084】
なお、本明細書における間葉系幹細胞の培養上清とは、間葉系幹細胞が増殖または生存し得る条件の下、間葉系幹細胞が増殖または生存し得る培養液で間葉系幹細胞を培養して得られた培養液(培養後の培養液)から間葉系幹細胞を除去したものを意味するが、このような培養上清から、例えば、残存培地成分(培養前の培養液の成分のうち、培養後の培養液中に残存している成分)、培養液の水分などの、本発明の効果に寄与しない成分の少なくとも一部をさらに除去したものも、便宜上、本明細書における間葉系幹細胞の培養上清に含まれるものとする。なお、簡便性の観点からは、培養後の培養液から間葉系幹細胞を除去したものをそのまま培養上清として用いることが好ましい。
【0085】
本発明における間葉系幹細胞の培養上清は、クロスべインレスー2(Crossveinless-2)及びエクトジスプラシン-A2(Ectodysplasin-A2)を含有する。好ましくは、アクチビンA、Dkk-3、デコリン、HGF、Dkk-1、プログラニュリン、GDF-15、アンジオポエチンー1、CCL28、潜在型TGF-β結合タンパク質1、GDF1又はVEGF-C、BTC、ニドゲン-1、GLO-1、sgp130、コルディン様-2又はEMAP-IIをさらに含有する。より好ましくは、オステオプロテゲリン又はMMP-1をさらに含有する。本発明における間葉系幹細胞の培養上清は、これら全てのサイトカインを含有することがさらに好ましい。
【0086】
本発明の医薬組成物は、上述の「特定マーカーを発現する間葉系幹細胞を誘導、濃縮又は分離選別する工程」により取得した、特定マーカーを発現する間葉系幹細胞に加えて、本発明の効果を損なわない範囲であれば、特定マーカー陰性の間葉系幹細胞、その他の細胞を含んでいてもよく、その用途や形態に応じて、常法に従い、薬学的に許容される担体や添加物を含有させてもよい。このような担体や添加物としては、例えば、等張化剤、増粘剤、糖類、糖アルコール類、防腐剤(保存剤)、殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、安定化剤、キレート剤、油性基剤、ゲル基剤、界面活性剤、懸濁化剤、結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、発泡剤、流動化剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、溶解補助剤、抗酸化剤、甘味剤、酸味剤、着色剤、呈味剤、香料又は清涼化剤等が挙げられるが、これらに限定されない。代表的な成分として例えば次の担体、添加物等が挙げられる。
【0087】
[本発明の特定マーカーを発現する間葉系幹細胞及び医薬組成物の用途]
(培養上清のバリア機能亢進作用)
特定マーカーを発現する本発明の間葉系幹細胞の培養上清は、特定マーカー陰性の従来の間葉系幹細胞の培養上清と比較して、より優れた細胞のバリア機能亢進効果を示す。即ち、本発明における特定マーカーを発現する間葉系幹細胞の培養上清は、炎症によって障害を受けた細胞のバリア機能を回復させる顕著な効果を有するため、本発明の特定マーカーを発現する間葉系幹細胞及びそれを含む医薬組成物は、炎症に関連する疾患の治療に好適に用いることができる。また、特定マーカーを発現する間葉系幹細胞又はその培養上清は、化粧品用組成物、食品用組成物等としても用いることもできる。
【0088】
(抗炎症作用)
特定マーカーを発現する本発明の間葉系幹細胞は、炎症状態において、マクロファージからの炎症性サイトカインの産生を抑制する効果を有する。この効果は、特定マーカー陰性の従来の間葉系幹細胞と比較して、有意に高いものである。そのため、本発明の特定マーカーを発現する間葉系幹細胞及びそれを含む医薬組成物は、炎症に関連する疾患の治療に好適に用いることができる。また、特定マーカーを発現する間葉系幹細胞又はその培養上清は、化粧品用組成物、食品用組成物等としても用いることもできる。
【0089】
(血管内皮細胞に対する抗線維化効果)
特定マーカーを発現する本発明の間葉系幹細胞は、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)に対して作用し、線維化に関連する遺伝子であるTGFβ及びCOL3A1の発現を抑制する効果を示す。したがって、本発明の間葉系幹細胞は、血管内皮細胞の線維化が関与する動脈硬化等の疾患に有効であるといえる。
【0090】
(肺上皮細胞に対する抗炎症効果、抗線維化効果)
本発明の間葉系幹細胞の培養上清は、ヒト肺上皮癌細胞(A549等)に対して作用し、炎症に関連する遺伝子であるLITAF、線維化に関連する遺伝子であるCOL1A1の発現を抑制する効果を示す。したがって、本発明の間葉系幹細胞は、肺上皮細胞の炎症、線維化が関与する肺・呼吸器炎症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の疾患に有効であるといえる。さらに、肺癌に対する効果も期待できる。
【0091】
(肝星細胞に対する抗炎症効果、抗線維化効果)
本発明の間葉系幹細胞の培養上清は、ヒト肝星細胞(Human Hepatic Stellate Cells;hHsteC)に対して作用し、炎症に関連する遺伝子であるIL-1β、LITAF、IL-8、線維化に関連する遺伝子であるCOL1A1の発現を抑制する効果を示す。したがって、本発明の間葉系幹細胞は、肝星細胞の炎症、線維化が関与する肺・呼吸器炎症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の疾患に有効であるといえる。
【0092】
(心筋細胞に対する抗炎症効果、抗線維化効果)
本発明の間葉系幹細胞の培養上清は、ヒト心筋細胞(Human Cardiac Myocytes;hCM)に対して作用し、炎症に関連する遺伝子であるLITAF、TNFα、線維化に関連する遺伝子であるTGFβの発現を抑制する効果を示す。したがって、本発明の間葉系幹細胞は、心筋細胞の炎症、線維化が関与する心筋炎、心肥大症等の疾患に有効であるといえる。
【0093】
(歯肉線維芽細胞に対する抗炎症効果、抗線維化効果)
本発明の間葉系幹細胞の培養上清は、ヒト歯肉線維芽細胞(Human Gingival Fibroblasts;hGF)に対して作用し、炎症に関連する遺伝子であるLITAFの発現を抑制し、線維化に関連する遺伝子であるCOL1A1、COL3A1の発現を増強する効果を示す。hGFについては、歯周病の改善のためには線維化が促進されることが好ましいと考えられる。すなわち、COL1A1、COL3A1の発現が増強される場合、歯周病改善効果があると判断できる。したがって、本発明の間葉系幹細胞は、歯肉線維芽細胞が関与する歯周病等の疾患に有効であるといえる。
【0094】
特定マーカーを発現する本発明の間葉系幹細胞及びそれを含む医薬組成物を細胞医薬品として用いることができる疾患としては、例えば癌、前癌性症状、炎症性疾患、免疫疾患、神経変性疾患、代謝疾患、循環器疾患、心疾患、骨疾患、胃腸疾患、肺疾患、肝疾患、腎疾患及び口腔疾患が挙げられる。具体的には、例えば肺癌、心筋炎、心肥大症、動脈硬化、静脈炎、肺・呼吸器炎症、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝炎、肝線維症、肝硬変、歯周病、軟骨分解、関節リウマチ、乾癬性関節炎、脊椎関節炎、変形性関節症、痛風、乾癬、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、うっ血性心不全、脳卒中、大動脈弁狭窄症、腎不全、狼瘡、膵炎、アレルギー、線維症、貧血、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、化学療法/放射線関連合併症、I型糖尿病、II型糖尿病、自己免疫性肝炎、C型肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、劇症肝炎、セリアック病、非特異性大腸炎、アレルギー性結膜炎、糖尿病性網膜症、シェーグレン症候群、ブドウ膜炎アレルギー性鼻炎、喘息、石綿症、珪肺、慢性肉芽腫性炎症、嚢胞性線維症、サルコイドーシス、糸球体腎炎、脈管炎、皮膚炎、HIV関連悪液質、大脳マラリア、強直性脊椎炎、らい病、肺線維症、線維筋痛、食道癌、胃食道逆流症、バレット食道、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、虫垂癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肛門癌、膵臓癌、肝臓癌、胆嚢癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、卵巣癌、乳癌、甲状腺癌等が挙げられる。
【0095】
これらのうち、本発明の間葉系幹細胞及びそれを含む医薬組成物を細胞医薬品として用いることができる疾患としては、癌、前癌性症状、炎症性疾患、循環器疾患、心疾患、肺疾患、肝疾患及び口腔疾患が好ましく、具体的には、肺癌、心筋炎、心肥大症、動脈硬化、静脈炎、肺・呼吸器炎症、気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肝炎、肝線維症、肝硬変、歯周病が好ましい。
【0096】
本発明の医薬組成物を医薬品として用いる場合の投与方法としては、特に制限されないが、血管内投与(好ましくは静脈内投与)、腹腔内投与、腸管内投与、皮下投与等が好ましく、中でも、血管内投与がより好ましい。
【0097】
本発明の医薬組成物の用量(投与量)は、患者の状態(体重、年齢、症状、体調等)、及び本発明の医薬組成物の剤形等によって異なり得るが、十分な予防又は治療効果を奏する観点から、その量は多い方が好ましく、一方、副作用を抑制する観点からはその量は少ない方が好ましい傾向にある。通常、成人に投与する場合には、細胞数として、5×102~1×1012個/回、好ましくは1×104~1×1011個/回、より好ましくは1×105~1×1010個/回である。なお、本用量を1回量として、複数回投与してもよく、本用量を複数回に分けて投与しても良い。また、通常、成人に投与する場合には、体重当たりの細胞数として、1×10~5×1010個/kg、好ましくは1×102~5×109個/kg、より好ましくは1×103~5×108個/kgである。なお、本用量を1回量として、複数回投与してもよく、本用量を複数回に分けて投与しても良い。
【0098】
本発明は、特定マーカーを発現する間葉系幹細胞、又は特定マーカーを発現する間葉系幹細胞を含む医薬組成物を用いることを特徴とする、疾患の予防又は治療方法を含む。上記疾患としては、例えば、癌、前癌性症状、炎症性疾患、免疫疾患、神経変性疾患、代謝疾患、循環器疾患、心疾患、骨疾患、胃腸疾患、肺疾患、肝疾患、腎疾患、口腔疾患等が挙げられる。
【実施例】
【0099】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
<特定マーカーを発現する間葉系幹細胞の調製>
臍帯由来間葉系幹細胞(UC-MSC;Umbilical Cord derived Mesenchymal Stem Cells Wharton’s Jelly(HMSC-WJ)、FC-0020、LifeLine社)、脂肪由来間葉系幹細胞(AD-MSC;Adipose derived Mesenchymal Stem Cells、FC-0034、LifeLine社)、又は骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC;Bone Marrow derived Mesenchymal Stem Cells, LifeLine社)を、37℃、5%CO2の条件下、LifeLine社推奨培地(以下、単に「推奨培地」ともいう)にて馴化した後、2~3日おきに継代しながら培養を続けた。培養過程の途中で、必要に応じて抗CD201抗体、抗CD46抗体、抗CD56抗体、抗CD147抗体又は抗CD165抗体で染色後、セルソーターによりそれぞれの抗原陽性の細胞を選別する。
【0101】
<特定マーカーを発現する間葉系幹細胞の確認及び解析>
(FACS解析)
得られた間葉系幹細胞(臍帯由来、脂肪由来、骨髄由来)について、FACSにてCD201、CD46、CD56、CD147及びCD165の発現を解析した。結果を
図1に示す。また、細胞の未分化性を確認する目的で、FACSにて細胞表面マーカー(CD29、CD73、CD90、105及び/又はCD166)の発現を解析した。結果を
図2に示す。
【0102】
図1に示す通り、本発明の臍帯由来間葉系幹細胞は、CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165を高発現している。また、本発明の脂肪由来間葉系幹細胞及び骨髄由来間葉系幹細胞はCD201、CD46、CD147、CD165のいずれも高発現しているが、CD56の発現は殆ど見られない。また、
図2に示す通り、本発明の臍帯由来間葉系幹細胞は、未分化マーカーであるCD29、CD73、CD90、105及びCD166も発現している。骨髄由来間葉系幹細胞は、CD29、CD73、CD90及び105を発現している。
【0103】
(特定マーカー発現間葉系幹細胞の細胞内のmiRNA発現量)
上記で得られた特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞から常法によりmRNAを調製し、miRNAアレイ(miScript miRNA PCR array;MIHS-105Z及びMIHS-117Z(inflammatory response & autoimmunity及びFibrosis、QIAGEN社製)により、細胞中のmiRNA発現を解析した。同様の実験を2回行った。
【0104】
合計で約150種のmiRNAについて解析した結果、特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞は、hsa-let-7e-5p、hsa-miR-132-3p、hsa-miR-196a-5p、hsa-miR-324-3p、hsa-miR-328-3p、hsa-miR-382-5p、hsa-let-7d-5p、hsa-miR-145-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-29b-3p、hsa-miR-34a-5p、hsa-miR-199b-5p、hsa-miR-503-5pを発現していた。
【0105】
(特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞の培養上清へのサイトカイン分泌)
本発明のUC-MSC(継代8回目)を1.5×106cells/plateとなるよう100mm plateに播種した。翌日、培地を0.2%FCS含有DMEM/F-12培地(2ml/well)に交換した。48時間後に培養上清を回収した。
【0106】
上記で得られたUC-MSCの培養上清を10倍濃縮後、サイトカインアレイ(RayBio社製Biotin Label-Based (L-Series) Human Antibody Array 493 (L-493))を用いて公知の方法により分析した。陰性対照としては、48時間、細胞培養環境と同じ環境に置いた0.2%FCS含有DMEM/F-12培地を用いた。分析の結果、クロスべインレスー2(Crossveinless-2)、エクトジスプラシン-A2(Ectodysplasin-A2)、アンジオポエチンー1、アクチビンA、Dkk-3、デコリン、HGF、Dkk-1、プログラニュリンおよびGDF-15の発現量が、陰性対照と比較して32倍以上増大していた。また、CCL28、潜在型TGF-β結合タンパク質1、GDF1、VEGF-C、BTC、ニドゲン-1、GLO-1、sgp130、コルディン様-2、EMAP-IIの発現量が、陰性対照と比較して20~30倍増大していた。よって、前記臍帯由来間葉系幹細胞は、これらサイトカインを多く分泌することで特徴づけられる細胞である。陰性対照を1として各サイトカイン分泌量を下記表に示す。
【0107】
【0108】
上記で得られた特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞(推奨培地に馴化後、培地交換した細胞)を、8日後に播種し直し、翌日0.2%FBS含有DMEM/F12に交換し、2日後(48時間後)、培養上清を回収した。回収した培養上清中のDecorin、Osteoprotegerin、MMP1量をELISAにて測定した。結果を以下の表2に示す。
【0109】
【0110】
上記表2に示す通り、特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞の培養上清中には、デコリン、オステオプロテゲリン、MMP1が含まれていることがわかった。
【0111】
(培養上清のバリア機能亢進作用)
[特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞培養上清の回収]
上記で得られた特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞の継代8回目の細胞を1.5×105cells/wellとなるよう6well plateに播種した。翌日、培地を非馴化培地(10%FCS含有DMEM/F-12培地、2ml/well)に交換した。24時間後に培養上清(Sup-1)を回収し、新しい培地を2ml/well注ぎ、培養を継続した。さらに24時間後に再び培養上清(Sup-2)を回収した。
【0112】
[腸管バリアモデルでの特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞培養上清の効果の検討]
ヒト結腸癌由来細胞株Caco-2を10%FCS含有DMEM培地で継代培養し、継代数3回目の細胞を本実験に用いた。Caco-2を、トランスウェル(Corning Costar #3460)に6×10
4cells/wellで播種し、翌日、細胞がトランスウェルに付着していることを確認し、培地を除去した。上記特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞の培養上清(Sup-1)を10%FCS含有DMEM培地で10倍希釈したものをトランスウェルに添加した。翌日、培地を除去し、上記特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞の培養上清(Sup-2)を10%FCS含有DMEM培地で4倍希釈したものを添加した。さらに、IL-1βを1.5ng/mlとなるよう添加し、さらに20時間培養した後、TER(経上皮電気抵抗値)を測定した。同じ条件で培養したCaco-2の細胞数(吸光度)を細胞増殖アッセイキット(WST-8、#343-07623、同仁化社)により測定し、得られたTERを細胞数で除した値をTER値(TER Value)として
図3に示した。各実験例の条件を下記表3に示す。
【0113】
【0114】
図3に示すように、実験例1と実験例3を比較すると、IL-1β処理を行った実験例3のCaco-2細胞間バリア強度(TER値)は、IL-1β処理を行っていない実験例1より低くなり、Caco-2細胞間バリア強度(TER値)がIL-1β処理により低下したことがわかる。また、特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞の培養上清を添加することにより、この低下したCaco-2細胞間バリア強度(TER値)が正常レベルまで回復した(実験例4)。この結果から、特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞の培養上清には、低下したCaco-2細胞間バリア強度を回復させる効果、即ちバリア機能亢進効果があることがわかった。
【0115】
(抗炎症効果)
上記で得られた特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞を下記の試験に用いた。
【0116】
染色試薬Calcein-AMの0.5mM DMSO溶液を10%FCS DMEMにて1,000倍希釈したものを準備した。マウスマクロファージ細胞株Raw264.7にCalcein-AM含有培地を添加し5%CO2、37℃にて3時間の前培養を行ったのち、5×105cells/wellで48well plateに播種した。
【0117】
翌日、上記特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞を、5×10
3cells/wellとなるように添加し、上記特定マーカー発現間葉系幹細胞とRaw264.7との共培養を開始した。共培養開始から4時間後にLPSを100ng/mLとなるように添加した。17-18時間後、培養上清を回収した。培養上清中のIL-6量をELISA(mIL-6ELISA,R&D Duoset DY406-05)により測定した。なお、培養上清回収後、予めRaw264.7に取り込ませたCalcein-AMの蛍光値を測定し、割り戻すことでIL-6量の細胞数補正を行った。結果を
図4に示す。
【0118】
図4に示すように、特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞との共培養により、マクロファージ細胞株Raw264.7が産生する炎症性サイトカインであるIL-6産生が抑制された。また、その抑制効果は、ポジティブコントロールであるデキサメタゾン(100nM DEX)と同程度であった。
【0119】
(骨分化能について)
上記で得られた特定マーカー発現間葉系幹細胞(臍帯由来又は脂肪由来)を、クラボウ分化プロトコール推奨細胞密度にて、骨細胞分化用培地(ヒト間葉系幹細胞用 骨細胞分化用培地:OsteoLife Complete Osteogenesis Medium (Lifeline, LM-0023))を用いて、24well plate (cellbind, 3337, Corning)に播種した。骨分化のための培養では、分化培養用播種から48時間後に培地交換を行い、以後、28日まで3-4日ごとに培地交換を行った。染色方法としては、播種後21日目以降に、染色するwellをPBSで1回洗浄した後、無水エタノールを添加し30分間室温で置くことで細胞の固定を行った。無水エタノールを吸引し、クリーンベンチ内で約30分間静置、乾燥させた。2%アリザリンレッド溶液を添加し、15分間室温で静置した後、DW(蒸留水)で2回洗浄し、乾燥させた。染色写真は顕微鏡(Olympus IX70)を用いて撮影した。アリザリンレッド染色の結果、特定マーカー発現間葉系幹細胞は、骨への分化能を有していることがわかった。
【0120】
(脂肪分化能について)
上記で得られた特定マーカー発現間葉系幹細胞(臍帯由来又は脂肪由来)を、クラボウ分化プロトコール推奨細胞密度にて、分化培地{ヒト間葉系幹細胞用 脂肪細胞分化用培地:AdipoLife DfKt-1 (Lifeline, LL-0050) or AdipoLife DfKt-2 (Lifeline , LL-0059)を用いて、24well plate (cellbind, 3337, Corning)、に播種した。脂肪分化のための培養では、分化培養用播種から48時間後に培地交換を行い、以後、28日まで3-4日ごとに培地交換を行った。染色方法としては、播種後21日目以降に、染色するwellをPBSで1回洗浄した後、4% (v/v) パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液で培地を少し残すようにしながら2回洗浄した。4% (v/v) パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液を再度添加し、20分間室温で静置した。その後、培地を少し残すようにしながら、DW(蒸留水)で2回洗浄し、100%イソプロパノールで1回洗浄した。DW(蒸留水)で60%に希釈したオイルレッドO染色原液を添加し、30分間37℃で静置後、完全に吸引した。その後60%イソプロパノールを添加し、10秒ほど待ち、DW(蒸留水)を加えた。DW(蒸留水)で2回洗浄後、顕微鏡(Olympus IX70)で写真撮影した。なお、AdipoLife DfKt-2のAdipoLife BM (100ml) にDifFactor 3 (10ml)を加えて分化培地とした。 オイルレッドO染色の結果、特定マーカー発現間葉系幹細胞は、脂肪細胞への分化能を有していることがわかった。
【0121】
(軟骨分化能について)
上記で得られた特定マーカー発現間葉系幹細胞(臍帯由来又は脂肪由来)を、クラボウ分化プロトコール推奨細胞密度にて、分化培地(ヒト間葉系幹細胞用 軟骨細胞分化用培地:ChondroLife Complete Chondrogenesis Medium (Lifeline, LM-0023))を用いて、24well plate (3527, Corning)に播種した。軟骨分化のための培養では、マイクロマス法で播種を行った。具体的には、回収した細胞を各維持培地で1.6 × 107 cells/mlに濃縮し、24well plate (3526, Corning)に5ulずつ4drops/wellで滴下し、2時間37℃, 5%CO2で静置した後、500ul/wellで軟骨分化培地を添加した。その後、21日まで3日ごとに培地交換を行った。染色方法としては、播種後21日目以降に、染色するwellをPBSで1回洗浄した後、10%中性緩衝ホルマリン液を添加し、30分間室温で置くことで細胞の固定を行った。その後、DW(蒸留水)で1回洗浄し、3%酢酸を添加し、1分間静置した。アルシアンブルー染色液を添加後20分間室温で静置した後、染色液を吸引し、3%酢酸を添加して3分間待った。最後にDW(蒸留水)で2回洗浄し、デジタルカメラで撮影した。その結果、特定マーカー発現間葉系幹細胞は、軟骨細胞への分化能を有することがわかった。
【0122】
(培養上清のヒト血管内皮細胞に対する線維化抑制作用)
[特定マーカー発現間葉系幹細胞の培養上清の回収]
上記特定マーカー発現臍帯由来間葉系幹細胞(推奨培地に馴化後、培地交換した細胞)の凍結保存後の細胞を解凍し、上記推奨培地又は処方培地(DMEM/F-12培地に、L-グルタミン、アスコルビン酸、ヒト組み換え型アルブミン、ウシ血清由来Fetuin、炭酸水素ナトリウム、HEPES、Lipid混合液、ITSE混合液、bFGF、プロゲステロン、ハイドロコルチゾン、VO-OHPic、Pifithrin-α(ピフィスリン-α)、SB203580、塩化リチウム及びY-27632を加えた培地)中で培養し、3日後に播種し直した。翌日培地を0.2%FBS、1%AB(Antibiotic-Antimycotic(Gibco社))含有DMEM/F12に交換し、2日後(48時間後)、培養上清を回収した。上記推奨培地で培養した細胞から得られた培養上清をMSCsup1、上記処方培地で培養した細胞から得られた培養上清をMSCsup2とした。以下の実験に用いるコントロール培地としては、0.2%FBS含有DMEM/F-12培地(細胞なし)を48時間培養器に入れておいたものを用いた。
【0123】
ヒト血管内皮細胞HUVECを、6well plateに1×10
5cells/wellで播種し、翌日、培地を除き、上記培養上清(MSCsup1又はMSCsup2)又は上記コントロール培地を培養用培地で1/2に希釈したものを各wellに添加した。24時間後、又は48時間後に細胞を回収し、常法に従いRNAを分離し、リアルタイムPCRによってTGFβ、COL3A1の発現の程度を確認し、コントロールでの発現強度を1とした場合のそれぞれの強度を
図5、
図6に示した。
【0124】
本発明の間葉系幹細胞の培養上清は、ヒト血管内皮細胞HUVECに対して作用し、線維化に関連する遺伝子であるTGFβ及びCOL3A1の発現を抑制する効果を示した。このことは、本発明の間葉系幹細胞の培養上清が、血管内皮細胞の線維化が関与する動脈硬化等の疾患に有効であることを示唆している。
【0125】
(培養上清のヒト肺上皮癌細胞に対する抗炎症作用及び線維化抑制作用)
ヒト肺上皮癌細胞株A549を、6well plateに1×10
5cells/wellで播種し、翌日、培地を除き、上記培養上清(MSCsup1又はMSCsup2)若しくは上記コントロール培地又はこれらを培養用培地で1/2に希釈したもの、又は上記培養培地(MSCsup1又はMSCsup2)のみ、若しくは上記コントロール培地のみを各wellに添加した。24時間後に細胞を回収し、常法に従いRNAを分離し、リアルタイムPCRによってLITAF、COL1A1の発現の程度を確認し、コントロールでの発現強度を1とした場合のそれぞれの強度を
図7、
図8に示した。
【0126】
本発明の間葉系幹細胞の培養上清は、ヒト肺上皮癌細胞株A549に対して作用し、炎症に関連する遺伝子であるLITAF、線維化に関連する遺伝子であるCOL1A1の発現を抑制する効果を示した。このことは、本発明の間葉系幹細胞の培養上清が、肺上皮細胞の炎症、線維化が関与する肺・呼吸器炎症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の疾患に有効であることを示唆している。
【0127】
(培養上清のヒト肝星細胞に対する抗炎症作用及び線維化抑制作用)
ヒト肝星細胞(Human Hepatic Stellate Cells;hHsteC)を、6well plateに1×10
5cells/wellで播種し、翌日、培地を除き、上記培養上清(MSCsup1又はMSCsup2)若しくは上記コントロール培地を各wellに添加した。24時間後にLPSを100ng/mLになるよう添加し、添加の24時間後に細胞を回収し、常法に従いRNAを分離し、リアルタイムPCRによってIL-1β、LITAF、IL-8、COL1A1の発現の程度を確認し、コントロールでの発現強度を1とした場合のそれぞれの強度を
図9~12に示した。
【0128】
本発明の間葉系幹細胞の培養上清は、ヒト肝星細胞hHsteCに対して作用し、炎症に関連する遺伝子であるIL-1β、LITAF、IL-8、線維化に関連する遺伝子であるCOL1A1の発現を抑制する効果を示した。このことは、本発明の間葉系幹細胞の培養上清が、肝星細胞の炎症、線維化が関与する肺・呼吸器炎症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の疾患に有効であることを示唆している。
【0129】
(培養上清のヒト心筋細胞に対する抗炎症作用及び線維化抑制作用)
ヒト心筋細胞(Human Cardiac Myocytes;hCM)を、6well plateに1×10
5cells/wellで播種し、翌日、培地を除き、上記培養上清(MSCsup1)又は上記コントロール培地を各wellに添加した。48時間後に細胞を回収し、常法に従いRNAを分離し、リアルタイムPCRによってLITAF、TNFα、TGFβの発現の程度を確認し、コントロールでの発現強度を1とした場合のそれぞれの強度を
図13~15に示した。
【0130】
本発明の間葉系幹細胞の培養上清は、ヒト心筋細胞hCMに対して作用し、炎症に関連する遺伝子であるLITAF、TNFα、線維化に関連する遺伝子であるTGFβの発現を抑制する効果を示した。このことは、本発明の間葉系幹細胞の培養上清が、心筋細胞の炎症、線維化が関与する心筋炎、心肥大症等の疾患に有効であることを示唆している。
【0131】
(培養上清のヒト歯肉線維芽細胞に対する抗炎症作用及び線維化促進作用)
ヒト歯肉線維芽細胞(Human Gingival Fibroblasts;hGF)を、6well plateに1×10
5cells/wellで播種し、翌日、培地を除き、上記培養上清(MSCsup1、MSCsup2)又は上記コントロール培地を各wellに添加した。48時間後に細胞を回収し、常法に従いRNAを分離し、リアルタイムPCRによってLITAF、COL1A1、COL3A1の発現の程度を確認し、コントロールでの発現強度を1とした場合のそれぞれの強度を
図16~18に示した。なお、hGFについては、歯周病の改善のためには線維化が促進されることが好ましいと考えられる。すなわち、COL1A1、COL3A1の発現が増強される場合、歯周病改善効果があると判断できる。
【0132】
本発明の間葉系幹細胞の培養上清は、ヒト歯肉線維芽細胞hGFに対して作用し、炎症に関連する遺伝子であるLITAFの発現を抑制し、線維化に関連する遺伝子であるCOL1A1、COL3A1の発現を増強する効果を示した。このことは、本発明の間葉系幹細胞の培養上清が、歯周病の予防及び/又は治療に有効であることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0133】
CD201、CD46、CD56、CD147及びCD165からなる群より選択される少なくとも1種の細胞表面マーカーを発現する間葉系幹細胞は、マクロファージ等の免疫細胞からの炎症性サイトカイン産生を抑制する作用や、バリア機能亢進作用に優れると共に、酸化ストレスに対する耐性もあり、ダメージを受け難い細胞である、といった特性を有する。また、上記特定マーカーを発現する間葉系幹細胞の培養上清は、心筋細胞、血管内皮細胞、肺上皮癌細胞、肝星細胞、歯肉線維芽細胞等に作用して、炎症や線維化に関連する遺伝子発現を適切に調節する効果も奏する。そのため、これらの間葉系幹細胞を含む本発明の医薬組成物は、癌、前癌性症状、炎症性疾患、免疫疾患、神経変性疾患、代謝疾患、循環器疾患、心疾患、骨疾患、胃腸疾患、肺疾患、肝疾患、腎疾患、口腔疾患等の種々の疾患に対する優れた治療効果を示す。