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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20231222BHJP
   C10M 113/02 20060101ALN20231222BHJP
   C10M 113/10 20060101ALN20231222BHJP
   C10M 113/12 20060101ALN20231222BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20231222BHJP
   C10M 119/22 20060101ALN20231222BHJP
   C10M 135/10 20060101ALN20231222BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20231222BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20231222BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20231222BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20231222BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M113/02
C10M113/10
C10M113/12
C10M115/08
C10M119/22
C10M135/10
C10N10:04
C10N30:12
C10N40:00 Z
C10N50:10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022530511
(86)(22)【出願日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 JP2021021128
(87)【国際公開番号】W WO2021251250
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2020100512
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102670
【氏名又は名称】NOKクリューバー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】志村 明彦
(72)【発明者】
【氏名】新田 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】中司 慶太
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-230795(JP,A)
【文献】特開平10-280176(JP,A)
【文献】特開2011-042747(JP,A)
【文献】特開2003-082378(JP,A)
【文献】特開2018-059618(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061134(WO,A1)
【文献】特開2020-132644(JP,A)
【文献】特開2015-086428(JP,A)
【文献】特開平10-317176(JP,A)
【文献】国際公開第2010/013708(WO,A1)
【文献】特開2004-091764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、
アルキルベンゼンスルフォネート金属塩と、
アルキルナフタレンスルフォネート金属塩と、
カーボンブラック、アエロジル、ベントン、テレフタラメート、ジウレア化合物、フタロシアニン、ポリテトラフルオロエチレンおよびメラミンシアヌレートから選択される増ちょう剤と、
を含有する潤滑剤組成物であって
前記アルキルベンゼンスルフォネート金属塩は、下記一般式(2)で表され、
【化1】
(上記一般式(2)において、a=1または2であり、R は炭素数9~40のアルキル基であり、M 2+ は2価の金属カチオンを表す。)
前記アルキルナフタレンスルフォネート金属塩は、下記一般式(4)で表され、
【化2】
(上記一般式(4)において、b=2であり、R は炭素数9~40のアルキル基であり、M 2+ は2価の金属カチオンを表す。)
前記潤滑剤組成物中の、アルキルベンゼンスルフォネート金属塩の含有量が0.8~1.7質量%であり、
前記潤滑剤組成物中の、アルキルナフタレンスルフォネート金属塩の含有量が0.1~1.2質量%であり、
前記潤滑剤組成物中の、アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の合計含有量が1~2.2質量%であり、
アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の総質量に対するアルキルベンゼンスルフォネート金属塩の質量割合である、(アルキルベンゼンスルフォネート金属塩の質量)/(アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の総質量)は、0.4~0.92であり、
アルミニウム防錆剤である、潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記アルキルベンゼンスルフォネート金属塩は、アルキルベンゼンスルフォネートカルシウム塩であり、
前記アルキルナフタレンスルフォネート金属塩は、アルキルナフタレンスルフォネートバリウム塩である、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から金属の防錆性を向上させる潤滑剤組成物の開発が進められてきた。特許文献1(特許第4351945号公報)は、ワックスと、スルホン酸塩、カルボン酸、エステル、ザルコシン、アミンおよびホウ素化合物から選択される少なくとも1種とを含有する、さび止め剤組成物を開示する。特許文献2(特許第5672631号公報)は、基油と、添加剤として中性金属スルホネート、過塩基性金属スルホネート、アスパラギン酸誘導体およびリン酸エステルとを含有し、摩擦特性、耐摩耗性および防錆性を有する潤滑剤組成物を開示する。特許文献3(国際公開第2011/019028号)は、脂環式ウレアグリースと、ナフテン酸金属塩、脂肪族アミン塩および有機スルホン酸金属塩から選択される少なくとも1種とを含有し、耐フレッチング性に優れたグリース組成物を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4351945号公報
【文献】特許第5672631号公報
【文献】国際公開第2011/019028号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の潤滑剤組成物よりも更に防錆性に優れた潤滑剤組成物の開発が望まれていた。そこで、本発明者らは、2種類の特定の金属塩を特定の重量比で含有することにより、金属、合金に対してより優れた防錆性を付与できることを発見し、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、優れた防錆性を有する潤滑剤組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の各態様は、以下のとおりである。
[1]基油と、
アルキルベンゼンスルフォネート金属塩と、
アルキルナフタレンスルフォネート金属塩と、
を含有し、
アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の合計含有量が1~2.2質量%であり、
アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の総質量に対するアルキルベンゼンスルフォネート金属塩の質量割合は、0.3以上である、潤滑剤組成物。
[2]前記アルキルベンゼンスルフォネート金属塩は、アルキルベンゼンスルフォネートカルシウム塩であり、
前記アルキルナフタレンスルフォネート金属塩は、アルキルナフタレンスルフォネートバリウム塩である、上記[1]に記載の潤滑剤組成物。
[3]前記アルキルベンゼンスルフォネート金属塩は、2つのアルキル基を有する、上記[1]または[2]に記載の潤滑剤組成物。
[4]アルミニウム防錆剤である、上記[1]から[3]までの何れか1つに記載の潤滑剤組成物。
【発明の効果】
【0006】
優れた防錆性を有する潤滑剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の潤滑剤組成物は、基油と、アルキルベンゼンスルフォネート金属塩と、アルキルナフタレンスルフォネート金属塩とを含有する。潤滑剤組成物中の、アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の合計含有量が1~2.2質量%である。合計含有量が1質量%以上で2.2質量%以下であることにより、金属表面上に十分な保護膜を形成することができる。また、アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の総質量に対するアルキルベンゼンスルフォネート金属塩の質量割合(質量比)である、(アルキルベンゼンスルフォネート金属塩の質量)/(アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の総質量)は0.3以上である。アルキルベンゼンスルフォネート金属塩の質量割合が0.3以上であることにより、より安定した添加剤(アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩)の保護膜を形成することができる。本発明の潤滑剤組成物では、アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩を特定の含有量・含有比で含有することにより、これらの金属塩が相乗的に作用して、より安定で強固な添加剤(アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩)の保護膜を形成し、潤滑剤組成物を塗布した金属、合金の溶出、および塩化物、水酸化物の生成を効果的に防止することができる。この結果、金属、合金の腐食進行を効果的に抑制することができる。
【0008】
以下では、本発明の潤滑剤組成物を構成する各成分を詳細に説明する。
(基油)
基油の種類は特に限定されないが、例えば合成油および鉱油等が挙げられる。合成油および鉱油は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。合成油としては、例えばポリα-オレフィン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリブテン(ポリイソブチレン)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の炭化水素油;ジエステル(ジカルボン酸とモノアルコールとのエステル)、ポリオールエステル、芳香族エステル等のエステル油;アルキルジフェニルエーテル等のエーテル油等が挙げられる。これらの合成油は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。芳香族エステルとしては、例えばフタル酸エステル、イソフタル酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル等が挙げられる。ポリオールエステルとしては、例えば多価アルコールとモノカルボン酸とのエステルが挙げられる。多価アルコールとしては、β水素を持たない多価アルコールが好ましい。このような多価アルコールとしては、例えばトリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。また、モノカルボン酸としては、例えば酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸等の炭素数4~16の一価脂肪酸等が挙げられる。より具体的には、基油としてトリメリット酸トリ(n-C~C10アルキル)を挙げることができる。
【0009】
(アルキルベンゼンスルフォネート金属塩)
アルキルベンゼンスルフォネート金属塩としては本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されない。アルキルベンゼンスルフォネート金属塩は、アルキルベンゼンスルホン酸の金属塩であり、ベンゼン環を構成する少なくとも一つの炭素原子にアルキル基が結合している。該アルキル基の数は特に限定されず、アルキルベンゼンスルフォネート金属塩は1~5つのアルキル基を有することができるが、2つのアルキル基を有することが好ましい。アルキル基は親油性を示す程度に長鎖であることが好ましい。より具体的には、アルキル基の炭素数は9~40であることが好ましく、9~36であることがより好ましい。アルキル基としては例えば、C10~C18アルキル基、C15~C36分岐基等を挙げることができる。アルキルベンゼンスルフォネート金属塩としては例えば、下記一般式(1)および(2)の構造を有するアルキルベンゼンスルフォネート金属塩を挙げることができる。
【化1】
上記一般式(1)および(2)において、a=1~5の整数であり、a=1の時、Rはアルキル基であり、a=2~5の時、Rはそれぞれ独立してアルキル基または有機基を表すが少なくとも一つのRはアルキル基である。上記一般式(1)のMは1価の金属カチオンを表し、上記一般式(2)のM2+は2価の金属カチオンを表す。潤滑剤組成物中のアルキルベンゼンスルフォネート金属塩の含量は、0.3~2.1質量%であることが好ましく、0.5~2.1質量%であることがより好ましく、1~2.1質量%であることがさらに好ましい。潤滑剤組成物中のアルキルベンゼンスルフォネート金属塩の含量が上記範囲内であることによって、金属や合金の表面を効果的に保護することができる。アルキルベンゼンスルフォネート金属塩を構成する金属としては特に限定されないが、例えば、アルカリ金属(Li、Na、K)、アルカリ土類金属(Ca、Sr、Ba)等を挙げることができる。好ましくは、アルキルベンゼンスルフォネート金属塩はアルキルベンゼンスルフォネートカルシウム塩であるのがよい。また、アルキルベンゼンスルフォネートカルシウム塩は、2つのアルキル基を有することが好ましい。
【0010】
(アルキルナフタレンスルフォネート金属塩)
アルキルナフタレンスルフォネート金属塩としては本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されない。アルキルナフタレンスルフォネート金属塩は、アルキルナフタレンスルホン酸の金属塩であり、ナフタレン環を構成する少なくとも一つの炭素原子にアルキル基が結合している。該アルキル基の数は特に限定されず、アルキルナフタレンスルフォネート金属塩は1~7つのアルキル基を有することができる。アルキル基は親油性を示す程度に長鎖であることが好ましい。より具体的には、アルキル基の炭素数は9~40であることが好ましく、9~36であることがより好ましい。アルキル基としては例えば、ノニル基等を挙げることができる。アルキルナフタレンスルフォネート金属塩としては例えば、下記一般式(3)および(4)の構造を有するアルキルナフタレンスルフォネート金属塩を挙げることができる。
【化2】
上記一般式(3)および(4)において、b=1~7の整数であり、b=1の時、Rはアルキル基であり、b=2~7の時、Rはそれぞれ独立してアルキル基または有機基を表すが少なくとも一つのRはアルキル基である。上記一般式(3)のMは1価の金属カチオンを表し、上記一般式(4)のM2+は2価の金属カチオンを表す。潤滑剤組成物中のアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の含量は、0.1~1.54質量%であることが好ましく、0.1~1.5量%であることがより好ましく、0.2~1.3質量%であることがさらに好ましい。潤滑剤組成物中のアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の含量が上記範囲内であることによって、金属や合金の表面を効果的に保護することができる。アルキルナフタレンスルフォネート金属塩を構成する金属としては特に限定されないが、例えば、アルカリ金属(Li、Na、K)、アルカリ土類金属(Ca、Sr、Ba)等を挙げることができる。好ましくは、アルキルナフタレンスルフォネート金属塩はアルキルナフタレンスルフォネートバリウム塩であるのがよい。
【0011】
アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩はそれぞれ、防錆作用を有するが、潤滑剤組成物はこれらの2種類の金属塩を含有することにより、より安定で強固な添加剤(アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩)の保護膜を形成することができる。潤滑剤組成物中の、アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の合計含有量は1~2.2質量%である。アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の合計含有量は1.2~2.2質量%であることが好ましく、1.8~2.2質量%であることがより好ましい。アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の総質量に対するアルキルベンゼンスルフォネート金属塩の質量割合(質量比)である、(アルキルベンゼンスルフォネート金属塩の質量)/(アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の総質量)は0.3以上である。(アルキルベンゼンスルフォネート金属塩の質量)/(アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の総質量)は、0.3~0.98であることが好ましく、0.3~0.95であることがより好ましく、0.5~0.9であることがさらに好ましい。
【0012】
(その他の添加剤)
一実施形態の潤滑剤組成物は、本発明の目的を害しない範囲で、増ちょう剤、酸化防止剤、極圧剤、粘度指数向上剤等を適宜、選択して含有することができるが、水と親和性の高い金属石けん系増ちょう剤は水に溶出したり、水と反応して加水分解を起こすことから使用しない方が望ましい。増ちょう剤としては例えば、カーボンブラック、アエロジル、ベントン、テレフタラメート、ウレア、フタロシアニン、ポリテトラフルオロエチレンおよびメラミンシアヌレート等を挙げることができる。増ちょう剤であるウレアとしては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとn-オクチルアミンとの反応物を挙げることができる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン酸系酸化防止剤および硫黄系酸化防止剤等を挙げることができる。極圧剤としては、例えばリン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物、スルフィド類、ジスルフィド類等の硫黄化合物、ジアルキルジチオリン酸金属塩、ジアルキルジチオカルバミン酸金属塩等の硫黄系金属塩、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等の塩素化合物などを挙げることができる。より具体的には、極圧剤としてZnDTP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)を挙げることができる。粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、スチレン-イソプレン共重合体水素化物等を挙げることができる。
【0013】
一実施形態の潤滑剤組成物は、金属や合金材の表面に塗布することで、金属、合金材の防錆剤として好適に用いることができる。潤滑剤組成物を塗布する金属、合金の種類は特に限定されないが、潤滑剤組成物はアルミニウム防錆剤であることが好ましい。この際、潤滑剤組成物を塗布するアルミニウム合金としてはISO/FDIS 3522に規定の以下の各種合金を挙げることができる。
・ADC1(Cu 1.0質量%以下、Si 11.0~13.0質量%、Mg 0.3質量%以下、Zn 0.5質量%以下、Fe 1.3質量%以下、Mn 0.3質量%以下、Ni 0.5質量%以下、Sn 0.1質量%以下、Pb 0.20質量%以下、Ti 0.30質量%以下、残部Al)、
・ADC3(Cu 0.6質量%以下、Si 9.0~11.0質量%、Mg 0.4~0.6質量%、Zn 0.5質量%以下、Fe 1.3質量%以下、Mn 0.3質量%以下、Ni 0.5質量%以下、Sn 0.1質量%以下、Pb 0.15質量%以下、Ti 0.30質量%以下、残部Al)、
・ADC5(Cu 0.2質量%以下、Si 0.3質量%以下、Mg 4.0~8.5質量%、Zn 0.1質量%以下、Fe 1.8質量%以下、Mn 0.3質量%以下、Ni 0.1質量%以下、Sn 0.1質量%以下、Pb 0.10質量%以下、Ti 0.20質量%以下、残部Al)、
・ADC6(Cu 0.1質量%以下、Si 1.0質量%以下、Mg 2.5~4.0質量%、Zn 0.4質量%以下、Fe 0.8質量%以下、Mn 0.4~0.6質量%、Ni 0.1質量%以下、Sn 0.1質量%以下、Pb 0.10質量%以下、Ti 0.20質量%以下、残部Al)、
・ADC10(Cu 2.0~4.0質量%、Si 7.5~9.5質量%、Mg 0.3質量%以下、Zn 1.0質量%以下、Fe 1.3質量%以下、Mn 0.5質量%以下、Ni 0.5質量%以下、Sn 0.2質量%以下、Pb 0.20質量%以下、Ti 0.30質量%以下、残部Al)、
・ADC10Z(Cu 2.0~4.0質量%、Si 7.5~9.5質量%、Mg 0.3質量%以下、Zn 3.0質量%以下、Fe 1.3質量%以下、Mn 0.5質量%以下、Ni 0.5質量%以下、Sn 0.2質量%以下、Pb 0.20質量%以下、Ti 0.30質量%以下、残部Al)、
・ADC12(Cu 1.5~3.5質量%、Si 9.6~12.0質量%、Mg 0.3質量%以下、Zn 1.0質量%以下、Fe 1.3質量%以下、Mn 0.5質量%以下、Ni 0.5質量%以下、Sn 0.2質量%以下、Pb 0.20質量%以下、Ti 0.30質量%以下、残部Al)、
・ADC12Z(Cu 1.5~3.5質量%、Si 9.6~12.0質量%、Mg 0.3質量%以下、Zn 3.0質量%以下、Fe 1.3質量%以下、Mn 0.5質量%以下、Ni 0.5質量%以下、Sn 0.2質量%以下、Pb 0.20質量%以下、Ti 0.30質量%以下、残部Al)、
・ADC14(Cu 4.0~5.0質量%、Si 16.0~18.0質量%、Mg 0.45~0.65質量%、Zn 1.5質量%以下、Fe 1.3質量%以下、Mn 0.5質量%以下、Ni 0.3質量%以下、Sn 0.3質量%以下、Pb 0.20質量%以下、Ti 0.30質量%以下、残部Al)。
【0014】
一実施形態の潤滑剤組成物をアルミニウム防錆剤として用いる場合、例えば、車や鉄道のボディパネルやシャシー部品、ラジエーター、トランスミッションハウジング、EPS(電動パワーステアリング)、ECU(電子制御ユニット)、ルーフキャリア、センターピラー、タンクカバー、フレームレール、コンバーター、モーター、ショックタワー、クロスメンバー、オイルポンプ、ウォーターポンプ、エンジンブロック、建築部材のアルミ建材等のアルミニウム部材に用いることができる。より具体的には、一実施形態の潤滑剤組成物は、車載及び産業機械のインバーター、EPSモーターケースの嵌合部、コネクタ、ケースの嵌合部等に使用されるアルミニウム部材の腐食防止用の防錆剤として使用することができる。
【実施例
【0015】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0016】
(実施例1~7および比較例1~13)
下記表1および表2に示す配合比で、各材料を配合して潤滑剤組成物を調製した。次いで、2枚のアルムニウム合金板を準備した。アルミニウム合金板は、以下の材質、寸法のものを用いた。
材質;ADC12、Cu 2.37質量%、Si 10.55質量%、Zn 0.01質量%、Fe 0.12質量%、Ni 0.01質量%、Al 86.94質量%、
寸法;長さ20mm×20mm、厚さ5mm、
表面粗さRa;0.5μm
2枚の該アルムニウム合金板の間に、各例で調製した潤滑剤組成物を0.5ml塗布したものを試験片とし、該試験片を試験片治具で固定した。試験片治具は、1対の互いに対向する治具の間に試験片を挟むように配置して、該1対の治具の四隅のネジを2Nmの締め付けトルクで締め付けて固定した。この後、試験片に塩水浸漬試験を行った。塩水浸漬試験では具体的に、試験片を固定した試験片治具を、恒温槽内に満たした80℃、3質量%濃度の塩水内に浸漬させて100時間、静置した。次に、塩水内から試験片を取り出して、室温下で24時間、乾燥させた。乾燥後のアルミニウム合金板について端面からの錆の成長距離を目視で観察した。そして、アルミニウム合金板の表面に錆が観察されず錆の成長距離が0mmであったものを防錆性に優れるものとして「○」、アルミニウム合金板表面の端面からの錆の成長距離が0mmを超え1mm未満であったものを防錆性が許容範囲内であるものとして「△」、アルミニウム合金板表面の端面からの錆の成長距離が1mm以上であったものを防錆性に劣るものとして「×」と評価した。評価結果を表1および2に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
表1および2中の潤滑剤組成物を構成する各材料の数値は、質量部を表す。また、表1および2において、「合計含有量」は潤滑剤組成物中の、アルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の合計含有量(質量%)を表し、「含有比」はアルキルベンゼンスルフォネート金属塩およびアルキルナフタレンスルフォネート金属塩の総質量に対するアルキルベンゼンスルフォネート金属塩の質量割合(-)を表す。
【0020】
また、表1および2中の各材料の名称は以下の通りである。
基油:トリメックス N08(製品名)、花王ケミカル社製、トリメリット酸トリ(ノルマルC~C10アルキル)、
増ちょう剤:ジウレア化合物(4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートとn-オクチルアミンとの反応物)、
アルキルナフタレンスルフォネート金属塩1:NA-SUL BSN(製品名)、楠本化成社製、ジノニルナフタレンスルフォネートバリウム塩、
アルキルナフタレンスルフォネート金属塩2:NA-SUL Ca-1089(製品名)、楠本化成社製、ジノニルナフタレンスルフォネートカルシウム塩、
アルキルベンゼンスルフォネート金属塩1:ADDITIN RC 4103(製品名)、Rhein Chemie Rheinau GmbH社製、モノC15~C36分岐アルキルベンゼンスルフォネートバリウム塩、
アルキルベンゼンスルフォネート金属塩2:ADDITIN RC 4220(製品名)、Rhein Chemie Rheinau GmbH社製、ジC10~C18アルキルベンゼンスルフォネートカルシウム塩、
極圧剤:アデカキクルーブZ112、ADEKA社製、ZnDTP(ジチオリン酸亜鉛)
【0021】
表1の結果から、本発明の潤滑剤組成物を用いた塩水浸漬試験の評価結果は「○」または「△」であり、アルミニウム合金板に塗布した場合に優れた防錆性を示すことが分かる。一方、表2の結果から、本発明の潤滑剤組成物を用いなかった塩水浸漬試験の評価結果は「×」であり、アルミニウム合金板に塗布した場合に防錆性が劣ることが分かる。