(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】サイドエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/235 20060101AFI20231222BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20231222BHJP
B60N 2/427 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
B60R21/235
B60R21/207
B60N2/427
(21)【出願番号】P 2022532439
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(86)【国際出願番号】 JP2021019907
(87)【国際公開番号】W WO2021261159
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2020107049
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
(72)【発明者】
【氏名】桜井 努
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-201080(JP,A)
【文献】特開2015-134533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートのシートバックの内部にあるサイドフレームに取り付けられるサイドエアバッグ装置であって、
緊急時に前記車両用シートの側方で車両の前方に向かって膨張展開して、当該車両用シートに着座する乗員を保護するエアバッグクッションと、
前記シートバックの内部裏面材と前記エアバッグクッションとの間に、前記エアバッグクッションの表面素材よりも摩擦係数が大きい高摩擦面を有する中間部材と、を備え、
前記エアバッグクッションは、膨張展開時に、前記高摩擦面を介して前記シートバックの内部裏面材と接触
し、
前記中間部材は、前記エアバッグクッションの表面上に設けられたシート状部材である、サイドエアバッグ装置。
【請求項2】
前記エアバッグクッションは、前記サイドフレームに少なくとも1つの留め点で取り付けられており、
前記中間部材は、前記エアバッグクッションの表面上のうち、前記サイドフレームとは反対側の表面上に位置している、請求項
1に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項3】
車両用シートのシートバックの内部にあるサイドフレームに取り付けられるサイドエアバッグ装置であって、
緊急時に前記車両用シートの側方で車両の前方に向かって膨張展開して、当該車両用シートに着座する乗員を保護するエアバッグクッションと、
前記シートバックの内部裏面材と前記エアバッグクッションとの間に、前記エアバッグクッションの表面素材よりも摩擦係数が大きい高摩擦面を有する中間部材と、を備え、
前記エアバッグクッションは、膨張展開時に、前記高摩擦面を介して前記シートバックの内部裏面材と接触
し、
前記中間部材は、前記エアバッグクッションの表面の少なくとも一部に層状に付加された高摩擦層である、サイドエアバッグ装置。
【請求項4】
車両用シートのシートバックの内部にあるサイドフレームに取り付けられるサイドエアバッグ装置であって、
緊急時に前記車両用シートの側方で車両の前方に向かって膨張展開して、当該車両用シートに着座する乗員を保護するエアバッグクッションと、
前記シートバックの内部裏面材と前記エアバッグクッションとの間に、前記エアバッグクッションの表面素材よりも摩擦係数が大きい高摩擦面を有する中間部材と、を備え、
前記エアバッグクッションは、膨張展開時に、
当該エアバッグクッションの厚み方向の両側において、前記高摩擦面を介して前記シートバックの内部裏面材と接触する、サイドエアバッグ装置。
【請求項5】
車両用シートのシートバックの内部にあるサイドフレームに取り付けられるサイドエアバッグ装置であって、
緊急時に前記車両用シートの側方で車両の前方に向かって膨張展開して、当該車両用シートに着座する乗員を保護するエアバッグクッションと、
前記シートバックの内部裏面材と前記エアバッグクッションとの間に、前記エアバッグクッションの表面素材よりも摩擦係数が大きい高摩擦面を有する中間部材と、を備え、
前記エアバッグクッションは、前記サイドフレームに複数の留め点で取り付けられており、
前記エアバッグクッションは、膨張展開時に、
前記複数の留め点の最も離れた二点を結ぶ距離よりも長い距離で、前記高摩擦面を介して前記シートバックの内部裏面材と接触する、サイドエアバッグ装置。
【請求項6】
車両用シートのシートバックの内部にあるサイドフレームに取り付けられるサイドエアバッグ装置であって、
緊急時に前記車両用シートの側方で車両の前方に向かって膨張展開して、当該車両用シートに着座する乗員を保護するエアバッグクッションと、
前記シートバックの内部裏面材と前記エアバッグクッションとの間に、前記エアバッグクッションの表面素材よりも摩擦係数が大きい高摩擦面を有する中間部材と、を備え、
前記エアバッグクッションは、膨張展開時に、前記高摩擦面を介して前記シートバックの内部裏面材と接触
し、
前記サイドフレームは、車両の幅方向に互いに離間して配置された第1のフレーム部分と第2のフレーム部分を有し、
前記第1のフレーム部分は、前記第2のフレーム部分よりも車両の幅方向の中央側に位置しており、
前記サイドエアバッグ装置は、前記サイドフレームのうち、前記第1のフレーム部分に取り付けられている、サイドエアバッグ装置。
【請求項7】
前記中間部材は、前記エアバッグクッションの膨張展開時に当該エアバッグクッションと前記シートバックの内部裏面材とが前記高摩擦面を介して対向する位置にのみ、設けられている、請求項1
から6のいずれか一項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項8】
前記中間部材の前記高摩擦面の摩擦係数は、前記シートバックの前記内部裏面材の摩擦係数よりも大きい、請求項1
から7のいずれか一項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項9】
前記中間部材は、前記シートバックの前記内部裏面材の表面上に設けられたシート状部材である、請求項
4から6のいずれか一項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項10】
前記中間部材は、前記シートバックの前記の表面の少なくとも一部に層状に付加された高摩擦層である、請求項
4から6のいずれか一項に記載のサイドエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートのシートバックの内部にあるサイドフレームに取り付けられるサイドエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置では、エアバッグクッションの膨張展開性は、エアバッグ装置の性能に大きな影響を与える。一般に、エアバッグクッションは、折り畳められた状態で車内の所定箇所に収納されるため、その折り畳められた部分同士が膨張展開時に互いに擦れあう。この擦れあいを低減して膨張展開のスムース性を改善するための技術として、摩擦係数が小さい材料によってエアバッグクッションを構成することが知られている(参照:特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-254243号公報
【文献】特開2004-332121号公報
【文献】国際公開第2002/061200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両用シートに内蔵されるサイドエアバッグ装置では、エアバッグクッションの展開挙動や膨張展開の姿勢は、エアバッグクッションが膨張展開時に接触する部分、例えばシートバック内のシートパッドとの摩擦力によって支持される。しかし、摩擦係数が小さいエアバッグクッションを用いた場合、シートパッドとの間に生じる摩擦力が小さくなるため、展開挙動等を十分に支持できなくなるおそれがある。このような問題は、ニアサイドエアバッグよりもエアバッグクッションの大きさが大きくなるファーサイドエアバッグ(フロントセンターエアバッグ)において、より顕著になると考えられる。
【0005】
本発明は、エアバッグクッションの展開挙動の安定性の向上に寄与するサイドエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るサイドエアバッグ装置は、車両用シートのシートバックの内部にあるサイドフレームに取り付けられるサイドエアバッグ装置であって、緊急時に車両用シートの側方で車両の前方に向かって膨張展開して、車両用シートに着座する乗員を保護するエアバッグクッションと、シートバックの内部裏面材とエアバッグクッションとの間に、エアバッグクッションの表面素材よりも摩擦係数が大きい高摩擦面を有する中間部材と、を備え、エアバッグクッションは、膨張展開時に、前記高摩擦面を介して前記シートバックの内部裏面材と接触する。
【0007】
この態様によれば、膨張展開時、エアバッグクッションとシートバックの内部裏面材とは、直接接触するのではなく、中間部材の高摩擦面を介して間接接触する。このため、膨張展開時、直接接触する場合に比べて、エアバッグクッションとシートバックとの間でより大きな摩擦力が生じる。これにより、エアバッグクッションに対する拘束力又は支持力を向上させることができるので、エアバッグクッションの展開挙動の安定性を向上させ、ひいては乗員を保護する性能を向上させることができる。また、エアバッグクッションの表面素材の自由度を高めることもできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エアバッグクッションの展開挙動の安定性の向上に寄与するサイドエアバッグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る車両のシートの外観形状を示す斜視図である。
【
図2】
図1のシートのシートフレームを示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係るサイドエアバッグ装置の取付位置を示す正面図である。
【
図5】
図1のシートに搭載された第1実施形態に係るサイドエアバッグ装置の概略側面図であり、エアバッグクッションが展開した後の状態を車幅方向の外側から見た様子を示すものである。
【
図6A】
図5の展開したエアバッグクッションの単体の状態を示す側面図である。
【
図6B】
図5の展開したエアバッグクッションの単体の状態を示す正面図である。
【
図8】第1実施形態に係るサイドエアバッグ装置と比較例に係るサイドエアバッグ装置の効果を示す図である。
【
図9】第2実施形態に係るサイドエアバッグ装置の概略側面図であり、エアバッグクッションが展開した後の状態を車幅方向の外側から見た様子を示すものである。
【
図10A】
図9の展開したエアバッグクッションの単体の状態を示す側面図である。
【
図10B】
図9の展開したエアバッグクッションの単体の状態を示す正面図である。
【
図12】第3実施形態に係るサイドエアバッグ装置の概略側面図であり、エアバッグクッションが展開した後の状態を車幅方向の外側から見た様子を示すものである。
【
図13A】
図12の展開したエアバッグクッションの単体の状態を示す側面図である。
【
図13B】
図12の展開したエアバッグクッションの単体の状態を示す正面図である。
【
図15】第4実施形態に係るサイドエアバッグ装置の概略側面図であり、エアバッグクッションが展開した後の状態を車幅方向の外側から見た様子を示すものである。
【
図16A】
図15の展開したエアバッグクッションの単体の状態を示す側面図である。
【
図16B】
図15の展開したエアバッグクッションの単体の状態を示す正面図である。
【
図18】変形例に係るサイドエアバッグ装置の取付位置を示す正面図である。
【
図20】別の変形例に係るサイドエアバッグ装置の取付位置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係るサイドエアバッグ装置について説明する。本書において、上下、左右及び前後を以下のとおり定義する。乗員が正規の姿勢で座席(シート)に着座した際に、乗員が向いている方向を前方、その反対方向を後方と称し座標の軸を示すときは前後方向とする。また、乗員が正規の姿勢でシートに着座した際に、乗員の右側を右方向、乗員の左側を左方向と称し座標の軸を示すときは左右方向とする。同様に、乗員が正規の姿勢で着座した際に、乗員の頭部方向を上方、乗員の腰部方向を下方と称し座標の軸を示すときは上下方向とする。また、図面に表示する「内」とは、車両の幅方向の内側又は乗員側を指し、「外」とは、車両の幅方向の外側又はドアパネル側を指す。
【0011】
[第1実施形態]
<車両シート100>
まず、
図1から
図4を参照して、第1実施形態に係る車両シート100の構成について説明する。
図1に示すように、車両シート100は、乗員の背中を支えるシートバック1と、乗員が着座するシートクッション2と、乗員の頭部を支えるヘッドレスト3と、を備えている。車両シート100は、例えば、運転席又は助手席であるが、後部座席であってもよい。
【0012】
図1に示すように、シートバック1は、車幅方向側部において前方に膨出した左右一対のサイドサポート部12、12を有している。任意一方又は両方のサイドサポート部12の内部に、サイドエアバッグ装置20が設けられている。ここでは、車両の幅方向の中央側に位置するサイドサポート部12にサイドエアバッグ装置20が内蔵されている。
【0013】
図2に示すように、シートバック1及びシートクッション2の内部には、それぞれ、シートの骨格を形成するシートフレーム1f及び着座フレーム2fが設けられている。シートフレーム1f及び着座フレーム2fは、金属部品又は硬質樹脂を加工してなり、互いにリクライニング機構4を介して連結されている。
【0014】
シートフレーム1fは、サイドフレーム10を有している。サイドフレーム10は、車両の幅方向に互いに離間して配置された第1のフレーム部分10a及び第2のフレーム部分10bを有し、第2のフレーム部分10bは、車両の幅方向の外側に位置し、第1のフレーム部分10aは、第2のフレーム部分10bよりも車両の幅方向の中央側に位置している。第1及び第2のフレーム部分10a、10bは、それぞれ上下方向に延在しており、この上端部同士及び下端部同士がそれぞれ上部フレーム及び下部フレームによって連結されている。以下では、第1のフレーム部分10aを「中央側サイドフレーム10a」と呼ぶことがある。
【0015】
中央側サイドフレーム10aは、
図4に示すように、例えば、前後方向に延びるフレーム側壁部10dと、フレーム側壁部10dの前端及び後端からシート内側に短く延びるフレーム前壁部10e及びフレーム後壁部10fと、で構成されている。そして、フレーム側壁部10dのシート外側の面にサイドエアバッグ装置20が固定されることで、サイドエアバッグ装置20がサイドフレーム10に取り付けられている。
【0016】
シートフレーム1f及び着座フレーム2fの表面及び周囲には、シートパッド16が設けられており、シートパッド16の表面が表皮14によって覆われている(参照:
図4)。シートパッド16は、例えば、ウレタン発泡材等からなるパッド部分と、不織布等からなりパッド部分を覆うカバー部と、で構成される。シートパッド16のカバー部の一部は、シートパッド16の内部裏面材17を構成している。内部裏面材17によって囲まれるように、シートバック1の内部には空間Sが画成されており、この空間Sにサイドエアバッグ装置20が内蔵されている。表皮14は、例えば、皮革、ファブリック等で構成される。表皮14は、内側に織り込まれ互いに縫製によって連結されている、継ぎ目18、22を有している。前方の継ぎ目18は、サイドエアバッグ装置20が作動した時に開裂する(参照:
図7)。
【0017】
<サイドエアバッグ装置20>
次に、
図3及び
図4を参照して、サイドエアバッグ装置20の詳細について説明する。サイドエアバッグ装置20は、エアバッグクッション30と、インフレータ32と、中間部材50と、を有している。なお、
図5、6A及び6Bにおいて、網掛けを施している箇所が中間部材50である。
【0018】
エアバッグクッション30は、緊急時に車両シート100の側方で車両の前方に向かって膨張展開して、車両シート100に着座する乗員を保護するものである。エアバッグクッション30は、例えば、1枚又は複数枚の基布を適宜の位置で縫合又は接着することによって袋状に形成されており、膨張展開用ガスの供給を受けて扁平状態から展開状態へと変形する。エアバッグクッション30を構成する基布の表面素材は、例えば、無溶剤型シリコーンである。扁平状態のエアバッグクッション30は、例えば、ロール状、アコーディオン状又はこれらを組み合わせた形態で巻回又は折り畳まれている。展開状態へと変形するエアバッグクッション30は、サイドサポート部12の前方及び上方に向かって膨張展開する(参照:
図5)。膨張展開したエアバッグクッション30によって、正規着座状態の乗員は、車両幅方向の内側(横方向)への移動を拘束され得る。なお、以下では、エアバッグクッション30が膨張展開したときを「膨張展開時」と呼ぶことがある。
【0019】
インフレータ32は、エアバッグクッション30に膨張展開用のガスを供給するものである。インフレータ32は、車両側ECUと電気的に接続されている。例えば、インフレータ32は、車両の側面衝突時にその衝撃を検知した信号を車両側ECUから受信して作動する。インフレータ32としては、ガス発生剤、圧縮ガス又はこれらの両方が充填されたものなど、各種のものを利用することができる。
【0020】
インフレータ32は、その大部分がエアバッグクッション30の内部に収容される一方、スタッドボルト34がエアバッグクッション30の外部に突出している(参照:
図4、6A及び6B)。一例を挙げると、インフレータ32は、ガス発生剤を充填した有底の円筒体と、円筒体の開放端部に設けた着火装置と、円筒体の外周部に設けたスタッドボルト34と、を有している。着火装置によって円筒体内のガス発生剤を着火することにより、ガスを発生させ、円筒体の周面にある複数の噴出孔からエアバッグクッション30内に膨張展開用のガスを供給する。
【0021】
スタッドボルト34は、円筒体の軸方向(上下方向)に離間して、複数(ここでは二つ)が設けられている。また、スタッドボルト34は、シート外側からシート内側に向けて延びており、サイドフレーム10のフレーム側壁部10dの前後方向の中間部を貫通し、シート内側の先端部をナットによってフレーム側壁部10dに固定されている。この締結固定された状態では、エアバッグクッション30を構成する基布の一部が、インフレータ32によってフレーム側壁部10dのシート外側の面に押し付けられる。すなわち、エアバッグクッション30は、スタッドボルト34によって構成される複数の留め点(ここでは二つの留め点)でサイドフレーム10に取り付けられている。なお、他の実施態様では、一つの留め点であってもよいし、スタッドボルト34以外の部品で留め点を構成してもよい。
【0022】
中間部材50は、シートバック1の内部裏面材(上記例では、シートパッド16の内部裏面材17)とエアバッグクッション30との間に、エアバッグクッション30の表面素材よりも摩擦係数が大きい高摩擦面52を有する。また、高摩擦面52の摩擦係数は、シートバック1の内部裏面材17の摩擦係数よりも大きい。エアバッグクッション30は、膨張展開時に、高摩擦面52を介してシートバック1の内部裏面材17と接触するようになっている(参照:
図7)。
【0023】
高摩擦面52は、高摩擦材料によって形成することができる。このような高摩擦材料は、エアバッグクッション30の表面素材(上記例では無溶剤型シリコーン)及びシートパッド16の内部裏面材17(上記例では不織布)よりも、摩擦係数が大きい限り、各種のものを用いることができる。例えば、高摩擦材料として、コート布120gのコート基布(トップコート無)又はゴムを用いることができる。
【0024】
中間部材50は、エアバッグクッション30が膨張展開時に高摩擦面52を介してシートバック1の内部裏面材17と接触することが保証される限り、各種の構成を採用することができる。例えば、中間部材50は、エアバッグクッション30又は内部裏面材17の表面上に設けられるシート状部材とすることができる。この場合、中間部材50は、エアバッグクッション30又は内部裏面材17の表面に固定されてもよいし、あるいは、一部が当該表面に対して動くことができるように位置決め又は取り付けられてもよい。このような固定、位置決め又は取り付けは、縫合、接着など、各種の方法で行うことができる。中間部材50が可動に設けられる場合には、中間部材50の内面及び外面の両方(すなわち表裏両面)を高摩擦面52とすることができる。一方、中間部材50がエアバッグクッション30又は内部裏面材17の表面に固定される場合には、その固定されている面と反対側の面が高摩擦面52となる。例えば、中間部材50の内面がエアバッグクッション30の表面に固定される場合、中間部材50の外面が高摩擦面52となる(参照:
図6B)。シート状部材としての中間部材50は、例えば、全体を高摩擦面52に係る高摩擦材料によって形成してもよいし、一部のみ(高摩擦面52としての構成が必要な箇所のみ)高摩擦材料によって形成してもよい。
【0025】
他の実施態様では、中間部材50は、エアバッグクッション30又は内部裏面材17の表面の少なくとも一部に層状に付加される高摩擦層とすることができる。この場合、中間部材50は、エアバッグクッション30又は内部裏面材17の一部を構成する。すなわち、中間部材50は、エアバッグクッション30又は内部裏面材17と一体となる。この場合、その一体となっている面と反対側の面が、中間部材50の高摩擦面52となる。例えば、中間部材50の内面がエアバッグクッション30の表面上に積層される場合、中間部材50の外面が高摩擦面52となる(参照:
図6B)。中間部材50としての高摩擦層は、例えば樹脂層からなり、上述の高摩擦材料によって形成することができる。以下では、中間部材50として、エアバッグクッション30の表面に固定されたシート状部材を例に説明する。
【0026】
図4に示すように、中間部材50は、エアバッグクッション30の表面上のうち、中央側サイドフレーム10aとは反対側の表面上に位置している。具体的には、エアバッグクッション30は中央側サイドフレーム10aのフレーム側壁部10dのシート外側の面を反力面として膨張展開していくところ、中間部材50は、かかる反力面側ではなく、これとは反対側のエアバッグクッション30の表面上に位置している。
【0027】
図5~
図7に示すように、中間部材50は、エアバッグクッション30の膨張展開時にエアバッグクッション30とシートパッド16の内部裏面材17とが対向する位置にのみ設けられている。すなわち、膨張展開したエアバッグクッション30とシートパッド16の内部裏面材17とが高摩擦面52を介して接触する位置から外れた位置には、中間部材50が存在しないように、中間部材50はエアバッグクッション30の表面上の限定的な領域にのみ設けられている。
【0028】
また、
図5~6Bに示すように、中間部材50が設けられる領域は、側面示において、二つのスタッドボルト34間の領域よりも大きくなっている。したがって、エアバッグクッション30は、膨張展開時に、二つのスタッドボルト34(二つの留め点)を結ぶ距離よりも長い距離で、中間部材50の高摩擦面52を介してシートパッド16の内部裏面材17と接触することになる。なお、留め点が3点以上となる場合には、最も離れた二点を結ぶ距離よりも長い距離で、エアバッグクッション30は、高摩擦面52を介して内部裏面材17と接触すればよい。
【0029】
また、
図7に示すように中間部材50は、膨張展開したエアバッグクッション30によって、シートパッド16の内部裏面材17に押し付けられる。この場合、中間部材50は、シート内外方向の両側において、シートパッド16の内部裏面材17に押し付けられる。したがって、エアバッグクッション30は、膨張展開時に、そのエアバッグクッション30の厚み方向の両側において、中間部材50の高摩擦面52を介してシートパッド16の内部裏面材17と接触する。
【0030】
続いて、
図8を参照して、比較例に係るサイドエアバッグ装置と比較しながら、第1実施形態に係るサイドエアバッグ装置20の効果、具体的には中間部材50の作用について時間経過に沿って説明する。ここで、両者の相違は、比較例に係るサイドエアバッグ装置は、中間部材50を採用していないことのみである。なお、比較例に係るサイドエアバッグ装置に係る構成要素の符号として、サイドエアバッグ装置20の構成要素の符号に「´」を追加している。
【0031】
図8に示すように、インフレータ32によってガスの供給が開始した直後の0msのとき、エアバッグクッション30、30´が膨張展開を開始する。すると、エアバッグクッション30、30´は、その膨張力によってサイドサポート部12、12´の継ぎ目18を開裂させ、サイドサポート部12、12´の外部に露出し始める。
【0032】
供給開始から20msのとき、エアバッグクッション30、30´は、サイドサポート部12、12´の前方及び上方に向かって膨張展開していく。このとき、エアバッグクッション30、30´の大部分は、シートバックのサイドサポート部の前方及び上方に位置する。この時点まで、両者の姿勢はほぼ同じである。
【0033】
そして、供給開始から40msのとき、比較例に係るエアバッグクッション30´は、第1実施形態に係るエアバッグクッション30よりも、上部が後方側に倒れこむように傾く。これは、第1実施形態に係るエアバッグクッション30は、中間部材50の高摩擦面52を介してシートパッド16に接触しているため、後方側への倒れ込みが抑制されるからである。
【0034】
その後、供給開始から60msのとき、エアバッグクッション30、30´の膨張展開はほぼ完了する。この時点においても、比較例に係るエアバッグクッション30´は、第1実施形態に係るエアバッグクッション30よりも、上部が後方側に倒れこむように傾く。換言すると、比較例に係るエアバッグクッション30´は、後方側への傾きが継続するのに対し、第1実施形態に係るエアバッグクッション30は、そのような傾きが引き続き抑制される。このように、第1実施形態に係るエアバッグクッション30は、比較例に係るエアバッグクッション30´に比べて、シートバック1の前方側かつ上方側に膨張展開した位置を維持されるようになっている。
【0035】
以上説明したとおり、本実施形態に係るサイドエアバッグ装置20によれば、エアバッグクッション30が、膨張展開時に、シートバック1の内部裏面材17に直接接触するのではなく、エアバッグクッション30の表面素材よりも摩擦係数が大きい高摩擦面52を介してシートバック1の内部裏面材17と接触する。このような中間部材50の高摩擦面52を利用した間接接触は、直接接触の場合に比べて、エアバッグクッション30とシートバック1の内部裏面材17との間により大きな摩擦力をもたらす。これにより、エアバッグクッション30に対する拘束力又は支持力を向上させることができるので、エアバッグクッション30の展開挙動の安定性を向上させ、ひいては乗員を保護する性能を向上させることができる。また、エアバッグクッション30の表面素材の自由度を高めることもできる。
【0036】
とりわけ、中間部材50は、エアバッグクッション30の膨張展開時にエアバッグクッション30とシートバック1のシートパッド16の内部裏面材17とが中間部材50の高摩擦面52を介して対向する位置にのみ、設けられている。このため、中間部材50の領域を必要最小限にとどめることができる。これにより、例えばエアバッグクッション30が折り畳まれている場合であっても、その展開のスムース性を最大限確保できる。
【0037】
また、エアバッグクッション30は、膨張展開時に、エアバッグクッション30の厚み方向の両側において、中間部材50の高摩擦面52を介してシートバック1の内部裏面材17と接触する。これにより、中間部材50を介した間接接触の領域を広く確保することができるので、エアバッグクッション30に対する拘束力又は支持力をより向上させることができる。
【0038】
同様に、エアバッグクッション30は、膨張展開時に、複数の留め点の最も離れた二点を結ぶ距離よりも長い距離で、中間部材50を介してシートバック1のシートパッド16の内部裏面材17と接触する。これにより、中間部材50を介した間接接触の領域を広く確保することができるので、エアバッグクッション30に対する拘束力又は支持力をより向上させることができる。よって、エアバッグクッション30の展開挙動の安定性の向上により一層寄与する。
【0039】
次に、第2実施形態から第4実施形態に係るサイドエアバッグ装置20について説明する。第2~第4実施形態と第1実施形態との相違は、概ねエアバッグクッション30の形状並びに中間部材50の位置、大きさ、範囲又はそれらの組合せである。したがって、2~第4実施形態と第1実施形態とは、中間部材50の材料、構造(シート状部材、高摩擦層など)、中間部材50をどこにどのように設けるかなどの点では共通する。例えば、(1)エアバッグクッション30の膨張展開時にエアバッグクッション30とシートパッド16の内部裏面材17とが対向する位置にのみ中間部材50を設ける点、(2)中間部材50をエアバッグクッション30側に設ける場合には、エアバッグクッション30の表面上のうち、サイドフレーム10とは反対側の表面上に中間部材50を位置させる点、(3)エアバッグクッション30が、膨張展開時に、その厚み方向の両側において、中間部材50の高摩擦面52を介してシートパッド16の内部裏面材17と接触する点、及び、(4)エアバッグクッション30が、膨張展開時に、二つのスタッドボルト34を結ぶ距離よりも長い距離で、中間部材50の高摩擦面52を介してシートパッド16の内部裏面材17と接触する点などは、共通する。以下、第2~第4実施形態について、中間部材50として、エアバッグクッション30の表面に固定されたシート状部材を例に、相違点を中心に説明する。
【0040】
[第2実施形態]
図9から
図11に示すように、エアバッグクッション30は、正面視凸字状からなり、上側に第1クッション部301及び下側に第2クッション部302を有する。第2クッション部302は、膨張展開した際、車両の幅方向における寸法が第1実施形態に係るエアバッグクッション30よりも大きくなるように構成されている。また、膨張展開した第2クッション部302の大部分は、サイドサポート部12の外部に露出するが、残りの一部は、サイドサポート部12の内部にとどまるようになっている。中間部材50は、第2クッション部302の当該一部に設けられている。
【0041】
このような第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に、エアバッグクッション30は、膨張展開時に、第2クッション部302の一部が高摩擦面52を介してシートバック1の内部裏面材17と接触する。これにより、エアバッグクッション30に対する拘束力又は支持力を向上させることができるので、エアバッグクッション30の展開挙動の安定性を向上させ、ひいては乗員を保護する性能を向上させることができる。加えて、第2クッション部302が車両の幅方向に比較的大きいため、車両シート100上の乗員のみならず、その隣に座った別の乗員も保護し得る。
【0042】
[第3実施形態]
図12から
図14に示すように、エアバッグクッション30は、膨張展開した際、中央部分の厚みが周縁部分の厚みよりもわずかに小さくなるように形成されている。すなわち、膨張展開したエアバッグクッション30は、中央部分が車両の幅方向の両側から窪むように形成されている。また、エアバッグクッション30には、3本のテザー33の各一端が取り付けられている。3本のテザー33の各一端は、例えば、膨張展開したエアバッグクッション30の周縁部分の上部、下部及び側部に取り付けられている。3本のテザー33の各他端は、車両シート100(例えばサイドフレーム10、参照:
図1及び
図2)に取り付けられている。3本のテザー33によって、エアバッグクッション30と車両シート100とを連結することで、エアバッグクッション30の展開挙動、方向及び姿勢の少なくとも一つがコントロールされる。中間部材50は、エアバッグクッション30の上記周縁部分の一部に設けられている。この設けられた位置は、エアバッグクッション30に対するテザー33の取付位置から外れた位置となっている。
【0043】
このような第3実施形態によれば、第1実施形態と同様に、エアバッグクッション30は、膨張展開時に、周縁部分の一部が高摩擦面52を介してシートバック1の内部裏面材17と接触する。これにより、エアバッグクッション30に対する拘束力又は支持力を向上させることができるので、エアバッグクッション30の展開挙動の安定性を向上させ、ひいては乗員を保護する性能を向上させることができる。加えて、テザー33によって、エアバッグクッション30の膨張展開の挙動等がコントロールされるため、その展開挙動の安定性をさらに向上させることができる。
【0044】
[第4実施形態]
図15から
図17に示すように、エアバッグクッション30は、車両の幅方向に隣り合う第1クッション部301及び第2クッション部302を有し、第2クッション部302は、第1クッション部301よりも小さく形成されている。第1クッション部301と、第2クッション部302とは内部が連通されている。第2クッション部302は、第1クッション部301よりも、車両の幅方向の内側に設けられている。このため、エアバッグクッション30が膨張展開したとき、正規着座状態の乗員は、第1クッション部301と接触する。中間部材50は、第1クッション部301の一部に設けられており、エアバッグクッション30の膨張展開時、正面視、第1クッション部301と第2クッション部302との間に位置する。
【0045】
このような第4実施形態によれば、第1実施形態と同様に、エアバッグクッション30は、膨張展開時に、第1クッション部301の一部が高摩擦面52を介してシートバック1の内部裏面材17と接触する。これにより、エアバッグクッション30に対する拘束力又は支持力を向上させることができるので、エアバッグクッション30の展開挙動の安定性を向上させ、ひいては乗員を保護する性能を向上させることができる。
【0046】
[その他の変形例]
以上説明した各実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。例えば、サイドエアバッグ装置20をサイドフレーム10に取り付ける向き/位置は、第1及び第2実施形態のように外付けとしてもよいし、第3及び実施形態及び第4実施形態のように内付けとしてもよい。また、前者を内付けとし、後者を外付けとしてもよい。
【0047】
例えば、
図18及び
図19に示すように、サイドエアバッグ装置20では、インフレータ32のスタッドボルト34が、シート内側からシート外側に向けて延びており、シート外側からナットによってサイドフレーム10のフレーム側壁部10dに固定される。エアバッグクッション30は、フレーム側壁部10dの内面側からサイドフレーム10のフレーム前壁部10eへと回り込むように設けられる。
【0048】
また、例えば、
図20及び
図21に示すように、サイドエアバッグ装置20では、インフレータ32のスタッドボルト34が、シート内側からシート外側に向けて延びており、シート外側からナットによってサイドフレーム10のフレーム側壁部10dに固定される。エアバッグクッション30は、フレーム側壁部10dの内面側からサイドフレーム10のフレーム前壁部10eへ回り込み、さらにフレーム側壁部10dの外面側へと向かうように設けられる。
【符号の説明】
【0049】
1…シートバック、1f…シートフレーム、2…シートクッション、2f…着座フレーム、3…ヘッドレスト、4…リクライニング機構、10…サイドフレーム、10a…第1のサイドフレーム、10b…第2のサイドフレーム、14…表皮、16…シートパッド、17…内部裏面材、18、22、24…継ぎ目、20…サイドエアバッグ装置、30…エアバッグクッション、32…インフレータ、34…スタッドボルト、50…中間部材、52…高摩擦面