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特許7407941O-ホスホセリン排出タンパク質変異体、並びにそれを用いたO-ホスホセリン、システイン及びその誘導体の生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】O-ホスホセリン排出タンパク質変異体、並びにそれを用いたO-ホスホセリン、システイン及びその誘導体の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20231222BHJP
   C07K 14/245 20060101ALI20231222BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231222BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231222BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231222BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231222BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231222BHJP
   C12P 13/06 20060101ALI20231222BHJP
   C12P 13/12 20060101ALI20231222BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20231222BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20231222BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20231222BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
C12N15/31
C07K14/245 ZNA
C12N1/19
C12N1/15
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
C12P13/06 Z
C12P13/12 B
C12N9/02
C12N9/10
C12N15/53
C12N15/54
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022536603
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-14
(86)【国際出願番号】 KR2021007172
(87)【国際公開番号】W WO2021251734
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】10-2020-0069753
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12720P
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM12721P
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヘ・ミン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】シム,ヒ-ジン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジン・ナム
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-526017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00- 15/90
C12P 1/00- 41/00
C07K 1/00- 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を有する、O-ホスホセリン(O-phosphoserine,OPS)排出活性を示すポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列及びそれと90%以上の配列同一性を有する、請求項1に記載のO-ホスホセリン(O-phosphoserine,OPS)排出活性を示すポリペプチド。
【請求項3】
請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項1に記載のポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含むO-ホスホセリン生産微生物。
【請求項5】
前記微生物は、さらにホスホセリンホスファターゼ(phosphoserine phosphatase,SerB)の活性が内在性活性より弱化した、請求項4に記載の微生物。
【請求項6】
前記微生物は、さらにホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(phosphoglycerate dehydrogenase,SerA)又はホスホセリンアミノトランスフェラーゼ(phosphoserine aminotransferase,SerC)の活性が内在性活性より強化された、請求項4に記載の微生物。
【請求項7】
前記微生物は、大腸菌(Escherichia coli)である、請求項4に記載の微生物。
【請求項8】
請求項1に記載のポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含むO-ホスホセリン生産微生物を培地で培養するステップを含む、O-ホスホセリンの生産方法。
【請求項9】
前記方法は、培養した培地又は微生物からO-ホスホセリンを回収するステップをさらに含む、請求項8に記載のO-ホスホセリンの生産方法。
【請求項10】
a)請求項1に記載のポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含むO-ホスホセリン生産微生物を培地で培養してO-ホスホセリン又はそれを含む培地を生産するステップと、
b)O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfliydrylase,OPSS)又はそれを発現する微生物の存在下で、前記a)ステップで生産されたO-ホスホセリン又はそれを含む培地を硫化物と反応させるステップとを含む、システイン又はその誘導体の生産方法。
【請求項11】
前記システイン誘導体の生産方法は、前記b)ステップで生成されたシステインをシステイン誘導体に変換するステップをさらに含む、請求項10に記載のシステイン又はその誘導体の生産方法。
【請求項12】
前記硫化物は、NaS、NaSH、(NHS、HS及びNaからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項10に記載のシステイン又はその誘導体の生産方法。
【請求項13】
配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を有する、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドのO-ホスホセリン、システイン又はシステイン誘導体の生産のための使用。
【請求項14】
配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を有する、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドのO-ホスホセリンを微生物から排出するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、O-ホスホセリン(O-phosphoserine,OPS)排出タンパク質変異体、並びにそれを用いたO-ホスホセリン、システイン及びシステイン誘導体の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-システインは、あらゆる生物体の硫黄代謝において重要なアミノ酸であり、毛髪のケラチンなどの生体内タンパク質、グルタチオン、ビオチン、メチオニン及びその他硫黄を含有する代謝産物の合成に用いられるだけでなく、コエンザイムA生合成の前駆物質として用いられる。
【0003】
微生物を用いてL-システインを生産する方法として、1)微生物を用いてD,L-ATC(D,L-2-aminothiazoline-4-carboxylic acid)を生物学的に変換する方法、2)大腸菌を用いてL-システインを生産する直接発酵法(特許文献1,非特許文献1)、3)微生物を用いてO-ホスホセリン(O-phosphoserine,以下「OPS」)を発酵生産し、その後O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfhydrylase,以下「OPSS」)の触媒作用下で硫化物と反応させてL-システインに変換する方法(特許文献2)が公知である。
【0004】
ここで、前記3)の方法によりシステインを高収率で生産するためには、前駆体であるOPSを過剰量生産する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第5972663号明細書
【文献】米国特許第8557549号明細書
【文献】米国特許第7662943号明細書
【文献】米国特許第6258573号明細書
【文献】米国特許第9127324号明細書
【文献】米国特許出願公開第2019/0233859号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/0247727号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Wada M and Takagi H ,Appl.Microbiol.Biochem.,73:48-54,2006
【文献】J.Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989
【文献】F.M.Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.,New York
【文献】Pearson et al(1988)[Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85]:2444
【文献】Rice et al.,2000,Trends Genet.16:276-277
【文献】Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48:443-453
【文献】Devereux,J.,et al,Nucleic Acids Research 12:387(1984)
【文献】Atschul,[S.][F.,][ET AL,J MOLEC BIOL 215]:403(1990)
【文献】Guide to Huge Computers,Martin J.Bishop,[ED.,]Academic Press,San Diego,1994
【文献】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48:1073
【文献】Smith and Waterman,Adv.Appl.Math(1981)2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff,eds.,Atlas Of Protein Sequence And Structure,National Biomedical Research Foundation,pp.353-358(1979)
【文献】Gribskov et al(1986)Nucl.Acids Res.14:6745
【文献】Sambrook et al.,supra,9.50-9.51,11.7-11.8
【文献】Ahmed Zahoor,Computational and structural biotechnology journal,vol 3,2012 October
【文献】Wendisch V F et al.,Curr Opin Microbiol.2006 Jun;9(3):268-74
【文献】Peters-Wendisch P et al.,Appl Environ Microbiol.2005 Nov;7 1(l l):7 139-44.
【文献】Grant GA et al.,J.Biol.Chem.,39:5357-5361,1999
【文献】Grant GA et al.,Biochem.,39:7316-7319,2000
【文献】Grant GA et al.,J.Biol.Chem.,276:17844-17850,2001
【文献】Peters-Wendisch P et al.,Appl.Microbiol.BiotechnoL,60:37-441,2002
【文献】Mino K and Ishikawa K ,FEBSletters,551:133-138,2003
【文献】Bums K E et al.,J.Am.Chem.Soc,127:11602-11603,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、OPS生産菌株で生産されたOPSを細胞外に円滑に排出させることのできる排出因子において、その活性が増大した変異体を解明し、前記変異体によりOPS排出が向上することを確認し、本出願を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願は、O-ホスホセリン(O-phosphoserine,OPS)排出活性を示すポリペプチドを提供することを目的とする。
【0009】
また、本出願は、本出願のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本出願は、本出願のポリヌクレオチドを含むベクターを提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本出願は、本出願のポリペプチド、本出願のポリヌクレオチド、及び本出願のベクターの少なくとも1つを含むO-ホスホセリン生産微生物を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本出願は、本出願のO-ホスホセリン生産微生物を培地で培養するステップを含む、O-ホスホセリンの生産方法を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、本出願は、a)本出願のポリペプチド、本出願のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び本出願のポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含むO-ホスホセリン生産微生物を培地で培養してO-ホスホセリン又はそれを含む培地を生産するステップと、b)O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfliydrylase,OPSS)又はそれを発現する微生物の存在下で、前記a)ステップで生産したO-ホスホセリン又はそれを含む培地を硫化物と反応させるステップとを含む、システイン又はその誘導体の生産方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0014】
本出願のO-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチドを用いて、O-ホスホセリン生産能を有する微生物を培養すると、従来の非改変又は変異体タンパク質を用いた場合に比べて高収率のO-ホスホセリン生産が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本出願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。また、以下の具体的な記述に本出願が限定されるものではない。
【0016】
上記目的を達成するための本出願の一態様は、配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を有する、O-ホスホセリン(O-phosphoserine,OPS)排出活性を示すポリペプチドを提供する。
【0017】
本出願における「O-ホスホセリン(O-phosphoserine,以下「OPS」)」とは、セリンのリン酸(phosphoric acid)エステルであり、様々なタンパク質の構成要素である。前記OPSは、L-システインの前駆体であり、OPSスルフヒドリラーゼ(OPS sulfhydrylase,OPSS)の触媒作用下で硫化物と反応してシステインに変換されるが、これに限定されるものではない(特許文献2)。
【0018】
本出願における「OPS排出活性を示すポリペプチド」とは、OPSを細胞外に排出する活性を有する膜タンパク質を意味する。前記膜タンパク質は、大腸菌由来のものであってもよい。本出願における前記O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチドは、YhhS MFS(major facilitator superfamily)トランスポーター又はその変異体であってもよい。具体的には、本出願のポリペプチドは、過剰量のOPSが存在する条件下で生育阻害が解除された大腸菌からのOPS排出活性を示すタンパク質として解明されている野生型YhhS MFS(major facilitator superfamily)トランスポーターより向上したOPS排出活性を示すYhhS MFSトランスポーターの変異体であってもよい。
【0019】
本出願における「変異体(variant)」とは、少なくとも1つのアミノ酸が保存的置換(conservative substitution)及び/又は改変(modification)により上記列挙した配列(the recited sequence)とは異なるが、前記タンパク質の機能(functions)又は特性(properties)が維持されるタンパク質を意味する。変異体は、数個のアミノ酸置換、欠失又は付加により識別される配列(identified sequence)とは異なる。このような変異体は、一般に前記タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸を改変し、その改変したタンパク質の特性を評価することにより識別することができる。すなわち、変異体の能力は、本来のタンパク質(native protein)より向上するか、変わらないか又は低下する。また、一部の変異体には、N末端リーダー配列や膜貫通ドメイン(transmembrane domain)などの少なくとも1つの部分が除去された変異体も含まれる。他の変異体には、成熟タンパク質(mature protein)のN及び/又はC末端から一部分が除去された変異体も含まれる。前記「変異体」には、変異型、改変、変異したタンパク質、変異型ポリペプチド、変異などの用語(英語表現では、modification、modified protein、modified polypeptide、mutant、mutein、divergent、variantなど)が用いられるが、変異を意味する用語であればいかなるものでもよい。本出願の目的上、前記変異体は、天然の野生型又は非改変タンパク質に比べて変異したタンパク質の活性が上昇したものであるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本出願における「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。前記変異体は、少なくとも1つの生物学的活性を依然として有する状態で、例えば少なくとも1つの保存的置換を有する。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。例えば、電荷を帯びた側鎖(electrically charged amino acid)を有するアミノ酸のうち正に荷電した(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リシン及びヒスチジンが挙げられ、負に荷電した(酸性)アミノ酸としては、グルタミン酸及びアスパラギン酸が挙げられ、電荷を帯びていない側鎖(uncharged amino acid)を有するアミノ酸のうち非極性アミノ酸(nonpolar amino acid)としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン及びプロリンが挙げられ、極性(polar)又は親水性(hydrophilic)アミノ酸としては、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンが挙げられ、前記非極性アミノ酸のうち芳香族アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが挙げられる。
【0021】
また、変異体は、ポリペプチドの特性と二次構造に最小限の影響を及ぼすアミノ酸の欠失又は付加を含んでもよい。例えば、ポリペプチドは、翻訳と同時に(co-translationally)又は翻訳後に(post-translationally)タンパク質の移転(transfer)に関与するタンパク質のN末端のシグナル(又はリーダー)配列に結合されてもよい。また、前記ポリペプチドは、ポリペプチドを確認、精製又は合成できるように、他の配列又はリンカーに結合されてもよい。
【0022】
具体的には、本出願のOPS排出活性を示すポリペプチドは、配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を含む、OPS排出活性を示すポリペプチド、又は、配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を含む、OPS排出活性を示すポリペプチドであってもよい。
【0023】
本出願のOPS排出活性を示すポリペプチドは、配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を含む、OPS排出活性を示すポリペプチドであってもよく、配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列からなるか、必須に構成される、OPS排出活性を示すポリペプチドであってもよい。
【0024】
また、本出願のOPS排出活性を示すポリペプチドは、配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を有するポリペプチドであると共に、配列番号11又は配列番号1で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、90%、95%又は99%以上、かつ100%未満の同一性を示すアミノ酸配列を有し、実質的に前記ポリペプチドと同一又は相当するOPS排出能を示すポリペプチドであればいかなるものでもよい。また、そのような同一性を有する配列であって、実質的にOPS排出能を示すアミノ酸配列を有するポリペプチドであれば、配列番号11のアミノ酸配列の88番目、207番目、241番目、246番目、330番目に相当するアミノ酸位置以外の一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたポリペプチド変異体も本出願に含まれることは言うまでもない。
【0025】
具体的には、本出願によるOPS排出活性を示すポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドであってもよい。
【0026】
本出願において、配列番号1のアミノ酸配列を有する、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を含む、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチドであってもよく、配列番号1のアミノ酸配列で表される、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチドであってもよく、配列番号1のアミノ酸配列から必須に構成される(consisting essentially of)、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチドであってもよく、配列番号1のアミノ酸配列からなる、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチドであってもよい。また、本出願のO-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列の前後の無意味な配列付加を除外するものではない。
【0027】
本出願における配列番号1とは、OPS排出活性を示すアミノ酸配列を意味する。具体的には、配列番号1は、yhhS遺伝子によりコードされる、OPS排出活性を示すタンパク質であるYhhS MFSトランスポーターの変異体を形成するアミノ酸配列である。
【0028】
前記yhhS遺伝子によりコードされる、OPS排出活性を示すタンパク質であるYhhS MFSトランスポーターのアミノ酸配列は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列が得られる。前記YhhS MFSトランスポーターのアミノ酸配列としては、例えば配列番号11が挙げられる。また、YhhS MFSトランスポーターのアミノ酸配列は、大腸菌(Escherichia coli,E.coli)由来のアミノ酸配列であるが、これに限定されるものではない。
【0029】
本出願の他の態様は、配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を有する、O-ホスホセリン(O-phosphoserine,OPS)排出活性を示すポリペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列を有する、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0030】
配列番号11、配列番号1、O-ホスホセリン、及びO-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチドについては前述した通りである。
【0031】
本出願における「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であって、所定の長さより長いDNA又はRNA鎖を意味する。
【0032】
前記ポリヌクレオチドは、本出願のOPS排出活性を示すポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであればいかなるものでもよい。本出願において、OPS排出タンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子は、yhhS遺伝子であってもよい。また、前記遺伝子は、大腸菌(Escherichia coli,E.coli)由来のものであるが、これに限定されるものではない。
【0033】
具体的には、本出願のOPSの排出活性を示すポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものであってもよく、含むものであってもよい。また、本出願のOPSの排出活性を示すポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるものであってもよく、必須に構成されるものであってもよい。前記ポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により、又は前記ポリペプチドを発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、ポリペプチドのアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。本出願のポリヌクレオチドは、例えば配列番号2の塩基配列との相同性又は同一性が少なくとも80%、90%、95%又は99%以上である塩基配列を含むものであるか、有するものであるが、これらに限定されるものではない。一実施例として、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号2の塩基配列との相同性又は同一性が少なくとも80%、90%、95%又は99%以上である塩基配列からなるものであるか、必須に構成されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
また、本出願のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより、配列番号1のアミノ酸配列をコードする配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(例えば、非特許文献2、3)に具体的に記載されている。例えば、相同性又は同一性の高いポリヌクレオチド同士、40%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性又は同一性を有するポリヌクレオチド同士をハイブリダイズし、それより相同性又は同一性の低いポリヌクレオチド同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0035】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願のポリヌクレオチドには、実質的に類似する核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸フラグメントが含まれてもよい。
【0036】
本出願における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が関連する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0037】
保存されている(conserved)ポリペプチド又はポリヌクレオチドの配列相同性又は同一性は標準的な配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全体又は全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上ハイブリダイズする。そのハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドがコドンの代わりに縮退コドンを有するようにするものであってもよい。
【0038】
任意の2つのポリペプチド又はポリヌクレオチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献4のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,非特許文献5)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献6)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献7)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献8、9及び10)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0039】
ポリペプチド又はポリヌクレオチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献11に開示されているように、非特許文献6などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)二進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献12に開示されているように、非特許文献13の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含んでもよい。
【0040】
また、任意の2つのポリペプチド又はポリヌクレオチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、定義されたストリンジェントな条件下にてサザンハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に周知の方法(例えば、非特許文献2)で決定される。
【0041】
具体的には、相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0042】
ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切な厳格さはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(非特許文献14参照)。
【0043】
本出願のさらに他の態様は、配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を有する、O-ホスホセリン(O-phosphoserine,OPS)排出活性を示すポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は配列番号1のアミノ酸配列を有する、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0044】
配列番号11、配列番号1、O-ホスホセリン、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、及びポリヌクレオチドについては前述した通りである。
【0045】
本出願における「ベクター」とは、好適な宿主内で標的ポリペプチド又はタンパク質を発現させることができるように、好適な調節配列に作動可能に連結された前記標的ポリペプチド又はタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA産物を意味する。前記調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレータ配列、好適なmRNAリボソーム結合部位配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製及び機能することができ、ゲノム自体に組み込まれてもよい。
【0046】
本出願に用いられるベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pSK系、pSKH系、pET系などを用いることができる。具体的には、pCL、pSK、pSKH130、pDZ、pACYC177、pACYC184、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0047】
前記ポリヌクレオチドの染色体への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換え(homologous recombination)により行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0048】
前記ベクターは、染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、すなわち標的核酸分子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面変異型タンパク質の発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられてもよい。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0049】
本出願における「形質転換」とは、標的ポリペプチド又はタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするポリペプチド又はタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、いかなるものでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的ポリペプチド又はタンパク質をコードするDNA及びRNAを含む。
【0050】
前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入される。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0051】
また、前記「作動可能に連結」されたものとは、本出願の標的ポリペプチド又はタンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0052】
本出願のさらに他の態様は、配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を有する、O-ホスホセリン(O-phosphoserine,OPS)排出活性を示すポリペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列を有する、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、本出願のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び本出願のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含むO-ホスホセリン生産微生物を提供する。
【0053】
配列番号11、配列番号1、O-ホスホセリン、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、ポリヌクレオチド及びベクターについては前述した通りである。
【0054】
本出願における「O-ホスホセリン(OPS)生産微生物」とは、自然に弱いOPS生産能を有する微生物、又はOPS生産能のない親株に自然の又は人為的な遺伝的改変が行われてOPS生産能が付与された微生物を意味する。具体的には、前記微生物は、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドを発現する微生物であるが、これに限定されるものではない。本出願における前記「OPS生産微生物」は、「OPS生産能を有する微生物」、「OPS生産菌株」、「OPS生産株」と混用される。
【0055】
本出願の目的上、前記OPS生産微生物において、前記微生物は、本出願のO-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、本出願のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び本出願のポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含むことにより、それらから発現する前記ポリペプチドの活性が強化されるにつれて、OPSの生産量が野生型又は改変前の微生物より増加したものであってもよい。これは、野生型微生物がOPSを生産することができないか、OPSを生産したとしても極微量しか生産できないのに対して、本出願のOPS排出活性を示すポリペプチドを導入してその活性を強化することにより、OPS生産量を増加させることができることに意義がある。すなわち、本出願のOPS生産微生物は、本出願のOPS排出活性を示すポリペプチドの活性が内在性活性より強化されたものであるが、これに限定されるものではない。
【0056】
本出願における「内在性活性より強化」するとは、本来微生物が天然状態で有するタンパク質の活性よりその活性が増加することを意味する。
【0057】
本出願における「発現するように/する」とは、標的ポリペプチド又はタンパク質が微生物に導入されるか、微生物で発現するように改変された状態を意味する。前記標的ポリペプチド又はタンパク質が微生物中に存在するポリペプチド又はタンパク質の場合、内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が強化された状態を意味する。
【0058】
本出願におけるポリペプチド又はタンパク質活性の「強化」とは、ポリペプチド又はタンパク質の活性を内在性活性に比べて増加させることを意味する。前記「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する場合に、形質変化の前に親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチド又はタンパク質の活性を意味する。これは、「改変前の活性」と混用される。ポリペプチド又はタンパク質の活性が内在性活性に比べて「強化」又は「増加」するとは、形質変化の前に親株又は非改変微生物が本来有していた特定ポリペプチド又はタンパク質の活性に比べて向上することを意味する。
【0059】
前記「活性の増加」は、外来ポリペプチド又はタンパク質の導入により達成してもよく、内在性ポリペプチド又はタンパク質の活性の強化により達成してもよい。具体的には、内在性ポリペプチド又はタンパク質の活性の強化により達成してもよい。前記ポリペプチド又はタンパク質の活性が強化されたか否かは、当該ポリペプチド又はタンパク質の活性の程度、発現量、又は当該タンパク質から排出される産物の量の増加により確認することができる。
【0060】
本出願において、前記活性強化の対象となるポリペプチド又はタンパク質、すなわち標的ポリペプチド又はタンパク質は、YhhS MFSトランスポーターの変異体であり、具体的には野生型YhhS MFSトランスポーターより向上したOPS排出活性を示すYhhS MFSトランスポーターの変異体であるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
また、本出願において、前記当該ポリペプチド又はタンパク質から排出される産物は、O-ホスホセリンであるが、これに限定されるものではない。
【0062】
前記ポリペプチド又はタンパク質の活性の強化には、当該分野で周知の様々な方法を適用することができ、標的ポリペプチド又はタンパク質の活性を改変前の微生物より強化できるものであれば、いかなるものでもよい。前記方法は、これらに限定されるものではないが、遺伝子工学又はタンパク質工学を用いたものである。
【0063】
前記遺伝子工学を用いてポリペプチド又はタンパク質の活性を強化する方法は、例えば1)前記ポリペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子又はポリヌクレオチドの細胞内コピー数を増加させる方法、2)前記ポリペプチド又はタンパク質をコードする染色体上の遺伝子の発現調節配列を活性が強力な配列に置換する方法、3)前記ポリペプチド又はタンパク質の開始コドン又は5’UTR領域の塩基配列を改変する方法、4)前記ポリペプチド又はタンパク質の活性が増加するように染色体上のポリヌクレオチド配列を改変する方法、5)前記ポリペプチド又はタンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチドや、前記ポリヌクレオチドのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを導入する方法、6)前記方法の組み合わせなどにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
前記タンパク質工学を用いてポリペプチド又はタンパク質の活性を強化する方法は、例えばポリペプチド又はタンパク質の三次構造を分析し、露出部分を選択して改変する方法や、化学的に修飾する方法などにより行われるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
前記1)ポリペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子又はポリヌクレオチドの細胞内コピー数を増加させる方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば当該ポリペプチド又はタンパク質をコードする遺伝子又はポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターを宿主細胞に導入することにより行われる。あるいは、前記遺伝子が作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体に前記遺伝子又はポリヌクレオチドを挿入することのできるベクターを宿主細胞に導入することにより行われるが、これらに限定されるものではない。前記ベクターについては前述した通りである。
【0066】
前記2)ポリペプチド又はタンパク質をコードする染色体上の遺伝子の発現調節配列を活性が強力な配列に置換する方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記発現調節配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行われるか、より強い活性を有する核酸配列に置換することにより行われる。前記発現調節配列には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれる。前記方法は、具体的には、本来のプロモーターに代えて強力な異種プロモーターを連結するものであるが、これに限定されるものではない。
【0067】
公知の強力なプロモーターの例としては、CJ7プロモーター(特許文献3)、CJ1プロモーター(特許文献3)、lacプロモーター、Trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター及びtetプロモーターが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
前記3)ポリペプチド又はタンパク質の開始コドン又は5’UTR領域の塩基配列を改変する方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記ポリペプチド又はタンパク質の内在性開始コドンを前記内在性開始コドンに比べてポリペプチド又はタンパク質の発現率が高い他の開始コドンに置換するものであるが、これに限定されるものではない。
【0069】
前記4)前記ポリペプチド又はタンパク質の活性が増加するように染色体上のポリヌクレオチド配列を改変する方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記ポリヌクレオチド配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行われるか、より高い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に置換することにより行われる。前記置換は、具体的には相同組換えにより前記遺伝子を染色体に挿入するものであるが、これに限定されるものではない。
【0070】
ここで、用いられるベクターは、染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選択マーカーについては前述した通りである。
【0071】
前記5)前記ポリペプチド又はタンパク質の活性を示す外来ポリヌクレオチドを導入する方法は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば前記ポリペプチド又はタンパク質と同一/類似の活性を示すポリペプチド又はタンパク質をコードする外来ポリヌクレオチドや、そのコドン最適化された変異型ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することにより行われる。前記外来ポリヌクレオチドは、前記ポリペプチド又はタンパク質と同一/類似の活性を示すものであれば、その由来や配列が限定されるものではない。また、宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるように、導入された前記外来ポリヌクレオチドのコドンを最適化して宿主細胞に導入してもよい。前記導入は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前述したように導入したポリヌクレオチドが発現することにより、ポリペプチド又はタンパク質が産生されてその活性が増加する。
【0072】
最後に、6)前記方法の組み合わせは、前記1)~5)の少なくとも1つの方法を共に適用することにより行われる。
【0073】
このようなポリペプチド又はタンパク質の活性の強化は、対応するポリペプチド又はタンパク質の活性又は濃度が野生型微生物や改変前の微生物の菌株で発現したポリペプチド又はタンパク質の活性又は濃度に比べて増加するものであるか、当該ポリペプチド又はタンパク質から生産される産物の量が増加するものであるが、これらに限定されるものではない。本出願における「改変前の菌株」又は「改変前の微生物」とは、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、天然菌株自体、又は自然要因もしくは人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する前の菌株を意味する。前記「改変前の菌株」又は「改変前の微生物」は、「非変異菌株」、「非改変菌株」、「非変異微生物」、「非改変微生物」又は「基準微生物」と混用される。
【0074】
本出願における前記基準微生物は、OPSを生産することが知られている微生物であるCA07-0012、内在性SerA(D-3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ,D-3-phosphoglycerate dehydrogenase)及びSerC(3-ホスホセリンアミノトランスフェラーゼ,3-phosphoserine aminotransferase)の活性を強化させた菌株CA07-0022/pCL_Prmf-serA*(G336V)-serC(KCCM11103P,特許文献2)、並びに内在性ホスホセリンホスファターゼ(phosphoserine phosphatase,SerB)の活性を弱化させた菌株CA07-0012(KCCM11121P,特許文献2)であるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
本出願の微生物は、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換されて製造される組換え微生物であるが、これに限定されるものではない。
【0076】
本出願の微生物は、OPSを生産できるものであれば、その種類が特に限定されるものではなく、原核細胞及び真核細胞のいずれであってもよく、具体的には原核細胞である。前記原核細胞は、例えばエシェリキア(Escherichia)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Seratia)属、プロビデンシア(Providencia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物菌株が挙げられ、具体的にはエシェリキア属微生物であり、より具体的には大腸菌(Escherichia coli)であるが、これらに限定されるものではない。特に、本出願のエシェリキア属微生物においては、L-セリンの生合成経路の酵素であるSerA、SerC及びSerBにより、OPS及びL-セリンを生産することができる(非特許文献15,16,17)。
【0077】
本出願のOPS生産微生物は、さらにホスホセリンホスファターゼ(phosphoserine phosphatase,SerB)の活性が内在性活性より弱化したものであってもよい。
【0078】
本出願のSerBは、OPSをL-セリン(L-serine)に変換する活性を有するので、前記SerB活性が弱化するように変異した微生物は、OPSを蓄積するという特徴を有し、OPSの生産に有用である。本出願のSerBは、配列番号3で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質であるか、含むタンパク質であるか、又は配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質であるか、必須に構成されるタンパク質であるが、これらに限定されるものではない。また、本出願のSerBは、SerBの活性を示すものであれば、配列番号3で表されるアミノ酸配列との相同性又は同一性が少なくとも80%、90%、95%又は99%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよく、含むものであってもよい。さらに、本出願のSerBは、配列番号3で表されるアミノ酸配列との相同性又は同一性が少なくとも80%、90%、95%又は99%以上であるアミノ酸配列からなるものであってもよく、必須に構成されるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。さらに、前記SerBをコードするポリヌクレオチドは、配列番号3で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものであってもよく、含むものであってもよい。さらに、前記SerBをコードするポリヌクレオチドは、配列番号3で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるものであってもよく、必須に構成されるものであってもよい。本出願のSerBをコードするポリヌクレオチドは、コドンの縮退により、又は前記SerBタンパク質を発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、SerBタンパク質のアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。本出願のSerBをコードするポリヌクレオチドは、配列番号4の塩基配列との相同性又は同一性が少なくとも80%、90%、95%又は99%以上、かつ100%未満である塩基配列を有するものであるか、含むものである。また、本出願のSerBをコードするポリヌクレオチドは、配列番号4の塩基配列との相同性又は同一性が少なくとも80%、90%、95%又は99%以上、かつ100%未満である塩基配列からなるものであるか、必須に構成されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0079】
本出願における「内在性活性より弱化」するとは、酵素又はタンパク質の発現が天然の野生型菌株、親株、又は当該タンパク質が改変されていない菌株に比べて全く発現しないことや、発現してもその活性がなくなるか、減少することを意味する。ここで、前記減少は、前記タンパク質をコードする遺伝子の変異、発現調節配列の改変、遺伝子の一部又は全部の欠損などによりタンパク質の活性が本来微生物が有するタンパク質の活性より減少した場合や、それをコードする遺伝子の発現阻害、翻訳(translation)阻害などにより細胞内で全体的なタンパク質の活性の程度が天然の菌株又は改変前の菌株より低下した場合や、それらの組み合わせを含む概念である。
【0080】
このようなタンパク質の活性の弱化は、当該分野で周知の様々な方法により達成することができる。前記方法の例として、前記タンパク質の活性が欠失又は弱化するように前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子配列を改変する方法、前記タンパク質をコードする前記遺伝子の発現が減少するように発現調節配列を改変する方法、前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法、前記染色体上の遺伝子の転写産物に相補的に結合させて前記mRNAからタンパク質への翻訳を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入する方法、前記タンパク質をコードする遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を人為的に付加することにより2次構造物を形成させてリボソーム(ribosome)の付着を不可能にする方法、前記タンパク質をコードする前記遺伝子のポリヌクレオチド配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転写するようにプロモーターを付加する方法(Reverse transcription engineering,RTE)などが挙げられ、それらの組み合わせによっても達成することができるが、上記例に特に限定されるものではない。
【0081】
具体的には、前記染色体上の遺伝子配列を改変する方法は、前記タンパク質の活性がさらに弱化するように、遺伝子配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、活性がさらに弱化するように改良された遺伝子配列又は活性がなくなるように改良された遺伝子配列に置換することにより行うこともできる。
【0082】
前記発現調節配列を改変する方法は、前記発現調節配列の活性がさらに弱化するように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行うこともでき、より活性が弱い核酸配列に置換することにより行うこともできる。前記発現調節配列には、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と翻訳の終結を調節する配列が含まれる。
【0083】
前記タンパク質をコードする遺伝子の一部又は全部を欠失させる方法は、細菌中の染色体挿入用ベクターを用いて、染色体内の内在性標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを一部の核酸配列が欠失したポリヌクレオチド又はマーカー遺伝子に置換することにより行うことができる。例えば、相同組換えにより遺伝子を欠失させる方法が挙げられる。また、前記「一部」とは、ポリヌクレオチドの種類により異なり、具体的には1~300個、好ましくは1~100個、より好ましくは1~50個であるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0084】
また、発現調節配列を改変する方法は、前記発現調節配列の活性がさらに弱化するように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行ったり、より弱い活性を有する核酸配列に置換することにより行うことができる。前記発現調節配列には、プロモーター、オペレータ配列、リボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と翻訳の終結を調節する配列が含まれる。
【0085】
また、染色体上の遺伝子配列を改変する方法は、前記タンパク質の活性がさらに弱化するように、遺伝子配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、活性がさらに弱化するように改良された遺伝子配列又は活性がなくなるように改良された遺伝子配列に置換することにより行うこともできる。
【0086】
さらに、本出願のOPSを生産する微生物は、さらにホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(phosphoglycerate dehydrogenase,SerA)又はホスホセリンアミノトランスフェラーゼ(phosphoserine aminotransferase,SerC)の活性が内在性活性より強化されたものであってもよい。
【0087】
前記SerAは、3-ホスホグリセリン酸(3-phosphoglycerate)を3-ホスホヒドロキシピルビン酸(3-phospho-hydroxypyruvate)に変換する活性を有するタンパク質であり、前記SerCは、3-ホスホヒドロキシピルビン酸をOPSに変換する活性を有するタンパク質である。よって、前記SerA又は/及びSerCの活性が強化された微生物は、OPS生産菌株として有用である。
【0088】
前記SerAは、これらに限定されるものではないが、配列番号5もしくは6で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質であるか、含むタンパク質であるか、又は配列番号5もしくは6で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質であるか、必須に構成されるタンパク質である。配列番号5で表されるアミノ酸配列は、野生型SerAの配列であり、配列番号6で表されるアミノ酸配列は、セリンのフィードバック阻害が解除されたSerA変異体の配列である。また、野生型SerAの活性、又はセリンのフィードバック阻害が解除されたSerA変異体の活性を示すものであれば、本出願のSerAは、配列番号5又は6で表されるアミノ酸配列との相同性又は同一性が少なくとも80%、90%、95%又は99%以上、かつ100%未満であるアミノ酸配列を有するものであってもよく、含むものであってもよいが、これらに限定されるものではない。さらに、野生型SerAの活性、又はセリンのフィードバック阻害が解除されたSerA変異体の活性を示すものであれば、本出願のSerAは、配列番号5又は6で表されるアミノ酸配列との相同性又は同一性が少なくとも80%、90%、95%又は99%以上、かつ100%未満であるアミノ酸配列からなるものであってもよく、必須に構成されるものであってもよい。前記セリンのフィードバック阻害が解除されたSerA変異体とは、SerAをコードする遺伝子のヌクレオチドを挿入したり、野生型SerAをコードする遺伝子を置換するなどの方法で変異を導入することにより、セリン又はグリシンのフィードバック阻害からその活性を保持したり、強化したものを意味し、前記セリンのフィードバック阻害が解除されたSerA変異体は周知である(非特許文献18,19,20,21,特許文献4)。
【0089】
さらに、前記SerAの野生型、又はセリンのフィードバック阻害が解除されたSerA変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号5及び6のいずれかで表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものであるか、含むものである。さらに、前記SerAの野生型、又はセリンのフィードバック阻害が解除されたSerA変異体をコードするポリヌクレオチドは、配列番号5及び6のいずれかで表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるものであるか、必須に構成されるものであるが、これらに限定されるものではない。前記SerAの野生型、又はセリンのフィードバック阻害が解除されたSerA変異体をコードするポリヌクレオチドは、コドンの縮退により、又は前記ポリペプチドを発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、前記SerAの野生型、又はセリンのフィードバック阻害が解除されたSerA変異体をコードするポリペプチドのアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。例えば、配列番号5で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号7の塩基配列との相同性又は同一性が少なくとも80%、90%、95%又は99%以上である塩基配列であり、配列番号6で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号8の塩基配列との相同性又は同一性が少なくとも80%、90%、95%又は99%以上である塩基配列であるが、これらに限定されるものではない。
【0090】
前記SerCは、例えば配列番号9で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質であるか、含むタンパク質であるか、又は配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質であるか、必須に構成されるタンパク質であるが、これらに限定されるものではない。また、SerCの活性を示すものであれば、前記SerCは、配列番号9で表されるアミノ酸配列との相同性又は同一性が少なくとも80%、90%、95%又は99%以上、かつ100%未満であるアミノ酸配列を有するものであってもよく、含むものであってもよいが、これらに限定されるものではない。さらに、SerCの活性を示すものであれば、前記SerCは、配列番号9で表されるアミノ酸配列との相同性又は同一性が少なくとも80%、90%、95%又は99%以上、かつ100%未満であるアミノ酸配列からなるものであってもよく、必須に構成されるものであってもよい。
【0091】
さらに、前記SerCをコードするポリヌクレオチドは、配列番号9で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するものであってもよい。前記ポリヌクレオチドは、コドンの縮退により、又は前記ポリペプチドを発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、ポリペプチドのアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。前記SerCをコードするポリヌクレオチドは、例えば配列番号10の塩基配列との相同性又は同一性が80%、90%、95%又は99%以上である塩基配列を有するものであるか、含むものであるが、これらに限定されるものではない。さらに、本出願のSerCをコードするポリヌクレオチドは、配列番号10の塩基配列との相同性又は同一性が80%、90%、95%又は99%以上である塩基配列からなるものであるか、必須に構成されるものである。
【0092】
本出願における「内在性活性より強化」及び強化方法については前述した通りである。
また、前記微生物は、さらにOPSの細胞内への流入又は分解能力を減少させた微生物であってもよい。
【0093】
このようなOPS生産微生物に関しては、前述した内容以外にも、特許文献2などに開示されている内容が本出願の参考資料として用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0094】
本出願のさらに他の態様は、配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を有する、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列を有する、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、本出願のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び本出願のポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含むO-ホスホセリン生産微生物を培地で培養するステップを含む、O-ホスホセリンの生産方法を提供する。
【0095】
配列番号11、配列番号1、O-ホスホセリン、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター及び微生物については前述した通りである。
【0096】
本出願における「培養」とは、前記微生物を適宜調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当該技術分野で公知の好適な培地と培養条件で行うことができる。このような培養過程は、当業者であれば選択される菌株に応じて容易に調整して用いることができる。具体的には、前記培養は、回分、連続及び流加培養であるが、これらに限定されるものではない。
【0097】
前記SerB活性が内在性活性より弱化した組換え微生物の培養は、前記微生物のセリン要求性が誘導され、培地にグリシン又はセリンがさらに含まれてもよい。グリシンは、精製されたグリシン、グリシンを含むイースト抽出物、トリプトンの形態で供給されてもよく、培養液に含まれる濃度は、通常は0.1~10g/L、具体的には0.5~3g/Lである。また、セリンは、精製されたセリン、セリンを含有するイースト抽出物、トリプトンなどの形態で供給されてもよく、培養液に含まれる濃度は、通常は0.1~5g/L、具体的には0.1~1g/Lである。
【0098】
前記培地に含まれる炭素源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースなどの糖及び炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などの油脂、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの脂肪酸、グリセリン、エタノールなどのアルコール、酢酸などの有機酸が挙げられる。これらの物質は、単独で用いることもでき、混合物として用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0099】
前記培地に含まれる窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆粕、尿素などの有機窒素源、及び硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源が挙げられる。これら窒素源は、単独で用いることもでき、組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0100】
前記培地に含まれるリン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、及びそれらに相当するナトリウム含有塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
また、前記培地は、硫酸マグネシウム、硫酸鉄などの金属塩を含有してもよく、その他、アミノ酸、ビタミン、好適な前駆体などを含有してもよい。これらの培地又は前駆体は、培養物に回分式又は連続式で添加することができるが、これらに限定されるものではない。
【0102】
培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化学物を培養物に好適な方法で添加することにより、培養物のpHを調整することができる。また、培養中には、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。さらに、培養物の好気状態を維持するために、培養物中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよい。培養物の温度は、通常は25℃~40℃、具体的には30℃~35℃である。培養物の培養期間は、所望の有用物質の生産量が得られるまで続けられ、具体的には10~100時間である。しかし、これらに限定されるものではない。
【0103】
本出願は、本出願の方法で前記培養するステップの前に、培地を準備するステップをさらに含むが、これに限定されるものではない。
【0104】
本出願は、本出願の方法で前記培養するステップの後に、前記培養ステップで生産されたOPSを回収するステップをさらに含んでもよい。その方法は、培養方法、例えば回分、連続又は流加培養方法に応じて、当該分野で公知の好適な方法を用いて培養液から目的とするOPSを分離及び精製して回収するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0105】
本出願のさらに他の態様は、a)配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を有する、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列を有する、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、本出願のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び本出願のポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含むO-ホスホセリン生産微生物を培地で培養してO-ホスホセリン又はそれを含む培地を生産するステップと、b)O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfliydrylase,OPSS)又はそれを発現する微生物の存在下で、前記a)ステップで生産されたO-ホスホセリン又はそれを含む培地を硫化物と反応させるステップとを含む、システイン又はその誘導体の生産方法を提供する。
【0106】
配列番号11、配列番号1、O-ホスホセリン、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター及び微生物については前述した通りである。
【0107】
本出願における「誘導体」とは、ある化合物の一部を化学的に変化させることにより得られる類似の化合物であって、概して化合物中の水素原子又は特定原子団が他の原子又は原子団に置換された化合物を意味する。
【0108】
本出願における「システイン誘導体」とは、システインの水素原子又は特定原子団が他の原子又は原子団に置換された化合物を意味する。一例として、システインのアミノ基(-NH)の窒素原子又はチオール基(-SH)の硫黄原子に他の原子又は原子団が結合された形態が挙げられ、例えばNAC(N-acetylcysteine)、SCMC(S-Carboxymetylcysteine)、BOC-CYS(ME)-OH、(R)-S-(2-Amino-2-carboxyethyl)-L-homocysteine、(R)-2-Amino-3-sulfopropionic acid、D-2-Amino-4-(ethylthio)butyric acid、3-sulfino-L-alanine、Fmoc-Cys(Boc-methyl)-OH、Seleno-L-cystine、S-(2-Thiazolyl)-L-cysteine、S-(2-Thienyl)-L-cysteine、S-(4-Tolyl)-L-cysteineなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0109】
本出願の方法によりシステインを生産するものであれば、システイン誘導体への変換は、当該技術分野で周知の方法で容易に様々なシステイン誘導体に変換するものであってもよい。
【0110】
具体的には、前記システイン誘導体の生産方法は、前記b)ステップで生成されたシステインをシステイン誘導体に変換するステップをさらに含むものであり、例えばシステインをアセチル化剤(acetylation agent)と反応させてNAC(N-acetylcysteine)を合成したり、システインを塩基性条件でハロ酢酸(haloacetic acid)と反応させてSCMC(S-Carboxymetylcysteine)を合成するが、これらに限定されるものではない。
【0111】
前記システイン誘導体は、主に製薬原料として、鎮咳剤、咳止め剤、気管支炎、気管支喘息、咽喉炎などの治療剤に用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
本出願における「O-ホスホセリンスルフヒドリラーゼ(O-phosphoserine sulfhydrylase,OPSS)」とは、OPSにチオール基(thiol group,SH基)を提供して前記OPSをシステインに変換する反応を触媒する酵素を意味する。前記酵素は、アエロピュルム・ペルニクス(Aeropymm pernix)、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、マイコバクテリウム・スメグマチス(Mycobacterium smegmatics)、トリコモナス・バギナリス(Trichomonas vaginalis)(非特許文献22,23)から見出されたものである。また、前記OPSSには、野生型OPSSタンパク質だけでなく、前記OPSSをコードするポリヌクレオチド配列の一部の配列が欠失、置換又は付加された配列であって、野生型OPSSタンパク質の生物学的活性と同等又はそれ以上の活性を示す変異体タンパク質も含まれ、特許文献2及び5に開示されているOPSSタンパク質及びその変異体タンパク質も全て含まれる。
【0113】
前記硫化物は、当該技術分野で通常用いられる固体だけでなく、pH、圧力、溶解度の差により液体又は気体の形態で提供されてもよく、スルフィド(sulfide,S2-)、チオスルフェート(thiosulfate,S 2-)などの形態でチオール基(thiol group,SH基)に変換することのできる硫化物であればいかなるものでもよい。具体的には、チオール基をOPSに提供するNaS、NaSH、HS、(NHS、NaSH及びNaが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記反応は、1つのOPS官能基に1つのチオール基を提供して1つのシステイン又はシステイン誘導体を作製する反応であり、前記反応における硫化物の添加量は、OPSのモル濃度の0.1~3倍であり、具体的には1~2倍であるが、これらに限定されるものではない。
【0114】
また、本出願においては、前記反応ステップで生産されたシステインを回収するステップをさらに含んでもよい。ここで、当該分野で公知の好適な反応を用いて、反応液から目的とするシステインを分離及び精製して回収することができる。
【0115】
本出願のさらに他の態様は、配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を有する、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドのO-ホスホセリン、システイン又はシステイン誘導体の生産のための使用を提供する。
【0116】
本出願のさらに他の態様は、配列番号11のアミノ酸配列のa)241番目に相当する位置のイソロイシン(I)がトレオニン(T)に、246番目に相当する位置のアスパラギン酸(D)がバリン(V)に、330番目に相当する位置のバリン(V)がイソロイシン(I)に置換され、b)88番目に相当する位置のアミノ酸がフェニルアラニンであり、c)207番目に相当する位置のアミノ酸がリシン(K)である配列を有する、O-ホスホセリン排出活性を示すポリペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドのO-ホスホセリンを微生物から排出するための使用を提供する。
【0117】
配列番号11、配列番号1、O-ホスホセリン、システイン、システイン誘導体及び微生物については前述した通りである。
【実施例
【0118】
以下、実施例を挙げて本出願をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本出願を例示する好ましい実施形態にすぎず、本出願がこれらに限定されるものではない。なお、本明細書に記載されていない技術的事項は、本出願の技術分野又は類似技術分野における熟練した技術者が十分に理解し、容易に実施することのできるものである。
【実施例1】
【0119】
yhhS major facilitator superfamily(MFS)トランスポーター変異体の作製
O-ホスホセリン生産菌株におけるO-ホスホセリン(O-phosphoserine,以下「OPS」)の排出活性を増加させるために、OPS排出タンパク質の活性を増加させるべく、OPS排出タンパク質であるYhhS MFS(major facilitator superfamily)トランスポーター(配列番号11)及びそれをコードする遺伝子yhhS(配列番号12)の変異体を作製した。具体的な過程は次の通りである。
【0120】
まず、yhhS遺伝子変異体ライブラリーの作製を試みた。そのために、大腸菌野生型菌株(Escherichia coli K12-W3110,ATGG27325)のゲノムDNAを鋳型とし、遺伝子特異的プライマー対(配列番号13及び14)を用いて任意突然変異誘発PCR(JENA error prone PCR)を行った。PCRは、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を20サイクル行い、次いで72℃で5分間の重合反応を行うものとした。このような過程で作製した突然変異遺伝子断片をrhtBプロモーター含有pCL1920ベクターに挿入するために、まずpCL_PrhtBベクターを作製した。rhtBプロモーター(配列番号15)断片を確保するために、特異的プライマー対(配列番号16及び17)を用いてPCRを行った。PCRは、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で5分間の重合反応を行うものとした。SacIとSmaIにより切断したpCL1920ベクター(GeneBank No AB236930)にrhtBプロモーター断片を挿入してpCL_PrhtBを確保した。pCL_PrhtBベクターをSmaIとPstIで切断し、その後上記PCRにより得られた突然変異遺伝子断片をインフュージョンクローニングキット(in-fusion cloning kit,Clontech Laboratories,Inc.)でクローニングした。クローニングは、50℃で60分間反応させるものとした。このようにして、pCL_PrhtB-yhhS遺伝子変異体プラスミドライブラリーを作製した。ここで用いたプライマー配列を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
このような過程で作製した組換えプラスミドライブラリーをHTS(high Throughtput Screening)によりスクリーニングした。ここで、スクリーニングベース菌株としては、大腸菌野生型菌株W3110において内在性ホスホセリンホスファターゼ(phosphoserine phosphatase,serB)の活性を弱化させた菌株CA07-0012(KCCM11121P,特許文献2)を用いた。
【0123】
次に、OPS排出活性が増加した変異体を得るために、前述したように作製したpCL_PrhtB-yhhS遺伝子変異体プラスミドライブラリーを前記ベース菌株CA07-0012にエレクトロポレーションにより形質転換し、その後過剰量のOPSを添加した培地条件で培養し、生育低下が解除されたコロニー3種を選択した。次に、選択したコロニー3種からプラスミドを得て、シーケンシング法により塩基配列を分析した。
【0124】
このような過程により、過剰量のOPS添加条件で生育低下の解除に関与するyhhS遺伝子変異体を選択し、従来の増加したOPS排出活性を有するyhhS遺伝子変異体であるyhhS M45(特許文献6)より優れた変異体を確保し、それをyhhS453と命名した。
【0125】
前記yhhS453がコードするポリペプチドのアミノ酸配列を分析した結果、YhhS453は配列番号1のアミノ酸配列を有することが確認された。
【実施例2】
【0126】
yhhS遺伝子変異体yhhS453のOPS排出活性の確認
2-1.OPS生産株を用いたyhhS453導入菌株の作製及びOPS生産能の評価
実施例1で同定した1種の変異体プラスミドpCL_PrhtB-yhhS453をOPS生産株であるCA07-0012に当該技術分野で通常用いられるエレクトロポレーションにより形質転換した。このようにして、yhhS遺伝子変異体yhhS453を導入したOPS生産菌株であるCA07-0012/pCL_PrhtB-yhhS453を作製し、そのO-ホスホセリン生産能を評価した。
【0127】
具体的には、各菌株をLB固体培地に塗抹し、その後33℃の培養器で一晩培養した。LB固体培地で一晩培養した菌株を表2に示す25mLの力価培地に接種し、次いでそれを培養器にて33℃の温度、200rpmで48時間培養した。その結果を表3に示す。
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
表3に示すように、本出願のyhhS遺伝子変異体を導入した菌株においては、野生型yhhS遺伝子を導入した菌株に比べてOPS生産量が増加することが確認され、従来のyhhS遺伝子変異体であるyhhS M45よりもOPS生産量が増加することが確認された。具体的には、yhhS453は、OPS濃度が野生型yhhSに比べて82%、従来のyhhS遺伝子変異体であるyhhS M45に比べて35%増加する結果を示した。
【0131】
前記CA07-0012/pCL_PrhtB-yhhS453をEscherichia coli CA07-0352と命名した。前記CA07-0352菌株をブダペスト条約に基づいて韓国微生物センター(Korean Culture Center of Microorganisms,KCCM)に2020年5月14日付けで寄託番号KCCM12720Pとして寄託した。
【0132】
2-2.serA及びserC強化菌株を用いたyhhS453導入菌株の作製及びOPS生産能の評価
yhhS453の活性を再確認するために、OPS生産能が増加したOPS生産菌株として、OPS生合成経路であるserA(D-3-ホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ,D-3-phosphoglycerate dehydrogenase)及びserC(3-ホスホセリンアミノトランスフェラーゼ,3-phosphoserine aminotransferase)の活性を強化した菌株CA07-0022/pCL_Prmf-serA*(G336V)-serC(KCCM11103P,特許文献2)を用いた。
【0133】
pCL_Prmf-serA*(G336V)-serCベクターのHindIII制限酵素位置にyhhS453をクローニングした。まず、pCL_PrhtB-yhhS453を鋳型とし、配列番号18及び19のプライマー対を用いたPCRによりyhhS453遺伝子断片を得た。PCRは、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で5分間の重合反応を行うものとした。上記PCRにより得られたyhhS453遺伝子断片をインフュージョンクローニングキットでクローニングした。クローニングは、50℃で60分間反応させるものとした。このようにして、pCL_Prmf-serA*(G336V)-(RBS)serC_PrhtB-yhhS453変異体プラスミドを作製した。対照群として、pCL_Prmf-serA*(G336V)-(RBS)serC_PrhtB-yhhS(wt)、CA07-0022/pCL_Prmf-serA*(G336V)-(RBS)serC_PrhtB-yhhS M25、CA07-0022/pCL_Prmf-serA*(G336V)-(RBS)serC_PrhtB-yhhS M45を用いた(特許文献6)。ここで用いたプライマー配列を表4に示す。
【0134】
【表4】
【0135】
前述したように作製した各プラスミドをOPS生産株であるCA07-0022に、当該技術分野で通常用いられるエレクトロポレーションにより形質転換した。このようにして、yhhS遺伝子変異体yhhS453を導入したOPS生産菌株であるCA07-0022/pCL_Prmf-serA*(G336V)-(RBS)serC_PrhtB-yhhS453を作製し、そのO-ホスホセリン生産能を評価した。
【0136】
各菌株をLB固体培地に塗抹し、その後33℃の培養器で一晩培養した。LB固体培地で一晩培養した菌株を表2に示す25mlの力価培地に接種し、次いでそれを培養器にて33℃の温度、200rpmで48時間培養した。その結果を表5に示す。
【0137】
【表5】
【0138】
表5に示すように、本出願のyhhS453をOPS生合成経路の遺伝子が強化されたOPS生産菌株に導入すると、OPS生産量が向上することが確認された。この結果は、本出願のyhhS453がOPS生産に有用であることを示唆するものである。
【0139】
前記CA07-0022/pCL_Prmf-serA*(G336V)-(RBS)serC_PrhtB-yhhS453をEscherichia coli CA07-0353と命名した。前記CA07-0353菌株をブダペスト条約に基づいて韓国微生物センター(Korean Culture Center of Microorganisms,KCCM)に2020年5月14日付けで寄託番号KCCM12721Pとして寄託した。
【0140】
2-3.染色体上のプロモーターの強度に応じたyhhS453導入菌株の作製及びOPS生産能の評価
染色体上にyhhS453を導入してもOPS排出活性が向上するかを確認するために、微生物の自己プロモーターをtrcプロモーターに置換し、本出願のyhhS453を導入した菌株を作製し、O-ホスホセリンの生産能を評価した。具体的には、Trcプロモーターを大腸菌の染色体上に挿入するために、pSKH130ベクター(配列番号30)を用いた。前記ベクターは、PIタンパク質(pir遺伝子)に依存性を有するR6Kレプリコン(replicon)、SacB(Levansucrase)遺伝子、及びカナマイシン(kanamycin)耐性遺伝子を含んでおり、前記ベクターを用いて1次交差においてR6K及びカナマイシンにより所望の菌株を確保し、その後スクロース(sucrose)を含む培地から抗生剤を除去して菌株を作製した。具体的には、CA07-0022菌株中の自己yhhSをyhhS453に置換するために、pSKH130_yhhS453ベクターを作製した。pSKH130-yhhS453を作製するために、実施例1で確保したpCL_PrhtB-yhhS453を鋳型とし、配列番号20及び21のプライマー対を用いてPCRを行い、yhhS453遺伝子断片を確保した。PCRは、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で5分間の重合反応を行うものとした。増幅された遺伝子断片をEcoRVの制限酵素で処理したpSKH130ベクターとインフュージョンクローニングキット(in-fusion cloning kit,Clontech Laboratories,Inc.)でクローニングし、pSK-yhhS453を確保した。確保したプラスミドをCA7-0022菌株にエレクトロポレーションにより形質転換した。形質転換した菌株は、組換え(交差)によりカナマイシン含有LB固体培地で染色体に導入された菌株を選択し、その後スクロース含有培地で2次組換え(置換)により染色体からプラスミド部分を取り除いた。前記2次組換えが完了した菌株に対して、配列番号22及び23のプライマー対によりPCR及び塩基配列分析を行い、CA07-0022::yhhS453菌株を作製した。
【0141】
作製したCA07-0022::yhhS453菌株においてyhhS453のプロモーターを強化するために、pSKH130-Ptrc-yhhS453’を作製した。具体的には、大腸菌野生型菌株W3110を鋳型とし、配列番号24及び25のプライマー対を用いたPCRを行い、yhhSUP DNA断片を得た。PCRは、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で5分間の重合反応を行うものとした。pCL_Ptrc-gfp(特許文献7)を鋳型とし、配列番号26及び27のプライマー対を用いたPCRを行い、PtrcのDNA断片を得た。PCRは、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で5分間の重合反応を行うものとした。また、pCL_PrhtB-yhhS453を鋳型とし、配列番号28及び29のプライマー対を用いたPCRを行い、yhhS453断片を得た。PCRは、94℃で5分間の変性後、94℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で5分間の重合反応を行うものとした。増幅された各遺伝子断片をEcoRVの制限酵素で処理したpSKH130ベクターとISTを行い、pSKH_yhhSUP_Ptrc-yhhS453を確保した。確保したプラスミドをCA7-0022::yhhS453菌株にエレクトロポレーションにより形質転換した。形質転換した菌株は、1次交差によりカナマイシン含有LB固体培地で染色体に導入された菌株を選択し、その後スクロース含有培地で2次組換え(置換)により染色体からプラスミド部分を取り除いた。前記2次組換えが完了した菌株を配列番号22及び23のプライマー対により確認した。作製した菌株をCA07-0022::Ptrc-yhhS453と命名した。ここで用いたプライマー配列を表6に示す。
【0142】
【表6】
【0143】
対照群として、上記と同様に作製したCA07-0022::Ptrc-yhhS、CA07-0022::Ptrc-yhhS M25、CA07-0022::Ptrc-yhhS M45菌株を用いた。PCRのために用いたプライマーの塩基配列は、上記と同一であった。作製した菌株に、当該技術分野で通常用いられるエレクトロポレーションによりserAとserCが強化されたベクターpCL_Prmf-serA*(G336V)-(RBS)serCを導入して形質転換し、その後OPS生産能を確認した。
【0144】
各菌株をLB固体培地に塗抹し、その後33℃の培養器で一晩培養し、培養した菌株を表1に示す25mlの力価培地に接種した。その後、接種した菌株を培養器にて33℃の温度、200rpmで48時間培養した。その結果を表7に示す。
【0145】
【表7】
【0146】
表7に示すように、染色体上におけるプロモーター強化によりyhhS453の活性を増加させると、野生型yhhS導入菌株に比べてOPS生産量が2倍以上増加することが確認され、他のyhhS遺伝子変異体であるM45及びM25に比べてもOPS濃度が大幅に増加することが確認された。
【0147】
以上の説明から、本出願の属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【0148】
【表8】
【0149】
【表9】
【配列表】
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