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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】軽質オレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/20 20060101AFI20231222BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20231222BHJP
   C07C 11/08 20060101ALI20231222BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20231222BHJP
   B01J 29/65 20060101ALI20231222BHJP
   B01J 23/72 20060101ALI20231222BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20231222BHJP
   B01J 29/40 20060101ALI20231222BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231222BHJP
【FI】
C07C1/20
C07C11/06
C07C11/08
C07C11/167
B01J29/65 M
B01J23/72 M
B01J23/745 M
B01J29/40 M
C07B61/00 300
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022556877
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2020039471
(87)【国際公開番号】W WO2022085096
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 典彦
(72)【発明者】
【氏名】椿 範立
(72)【発明者】
【氏名】米山 嘉治
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0166439(US,A1)
【文献】国際公開第2019/155607(WO,A1)
【文献】特開2008-080301(JP,A)
【文献】特開昭63-284136(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0130130(KR,A)
【文献】特開2005-104912(JP,A)
【文献】JANG, H et al.,Ceria and lanthana as blocking modifiers for the external surface of MFI zeolite,Appl. Catal. A: Gen,2014年,476,175-185
【文献】PARK, S. J. et al.,Improved methanol-to-olefin reaction selectivity and catalyst life by CeO2 coating of ferrierite zeo,Micropor. Mesopor. Mater.,2018年,256,155-164
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/20
C07C 11/06
C07C 11/08
C07C 11/167
B01J 29/65
B01J 23/72
B01J 23/887
B01J 23/745
B01J 29/40
C07B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト触媒と、アルミナに酸化銅および酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種を担持した脱水素化触媒と、の存在下で、メタノールを軽質オレフィンに変換することを含む、軽質オレフィンの製造方法。
【請求項2】
ゼオライト触媒と、CuO/Al およびFe /Al からなる群から選択される少なくとも1種の脱水素化触媒と、の存在下で、メタノールを軽質オレフィンに変換することを含む、軽質オレフィンの製造方法。
【請求項3】
前記ゼオライト触媒としてゼオライトに金属酸化物を担持した触媒を用いる、請求項1又は2に記載の軽質オレフィンの製造方法。
【請求項4】
前記金属酸化物が酸化セリウムを含む、請求項に記載の軽質オレフィンの製造方法。
【請求項5】
前記ゼオライト触媒としてCeO/H-FERおよびCeO/ZSM-5からなる群から選択される少なくとも1種を用いる、請求項1~のいずれか1項に記載の軽質オレフィンの製造方法。
【請求項6】
前記メタノールの前記軽質オレフィンへの変換が、触媒床を持つ反応器にメタノールを含むガス流を供給することによりなされ、前記触媒床が、前記ゼオライト触媒を含む第1触媒層と、前記脱水素化触媒を含み前記第1触媒層の下流側に配された第2触媒層とを備える、請求項1~のいずれか1項に記載の軽質オレフィンの製造方法。
【請求項7】
前記メタノールの前記軽質オレフィンへの変換が、前記ゼオライト触媒と前記脱水素化触媒を含む触媒床を持つ反応器に、メタノールと二酸化炭素を含むガス流を供給することによりなされる、請求項1~のいずれか1項に記載の軽質オレフィンの製造方法。
【請求項8】
前記ゼオライト触媒100質量部に対して前記脱水素化触媒を50~300質量部用いる、請求項1~のいずれか1項に記載の軽質オレフィンの製造方法。
【請求項9】
前記軽質オレフィンが、プロピレン、ブテンおよびブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の軽質オレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、軽質オレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軽質オレフィン(低級オレフィンとも称される。)は主にナフサのクラッキングから得られている。近年その需要が高まっているため、石油以外の原料からの軽質オレフィンの合成が求められている。その中で、メタノールから軽質オレフィンへの変換反応(MTO反応)が代替製造法として注目されている。天然ガスを原料とするメタノールを利用できるためである。特に近年開発されたシェールガス(天然ガス)は価格が安いことから、低コストで軽質オレフィンの合成が可能になるとして、高い性能を持つMTO反応触媒の開発が望まれている。
【0003】
この反応の触媒として、固体酸触媒としての様々なゼオライト触媒が提案されている。例えば、特許文献1には、YNU-5ゼオライトを含む触媒が提案されており、また、YNU-5ゼオライトに、Fe等の遷移金属やZn等の第12属元素、Ce等の希土類元素などの金属を担持させてもよいこと、またその担持する金属の形態として硝酸塩や酸化物、塩化物などが挙げられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2019/155607A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軽質オレフィンのなかでもブタジエンはブタジエンゴムの原料になるため、ゼオライト触媒を用いてメタノールからブタジエンを効率的に合成することができれば工業上有利である。
【0006】
本発明の実施形態は、メタノールから軽質オレフィンを製造する方法においてブタジエンの選択率を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る軽質オレフィンの製造方法は、ゼオライト触媒と、銅、鉄、アルミニウム、ビスマス、モリブデンおよびニッケルからなる群から選択される少なくとも2種の金属の酸化物からなる脱水素化触媒と、の存在下で、メタノールを軽質オレフィンに変換することを含むものである。ここで、軽質オレフィンとは、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を持つ炭素数5以下の鎖式炭化水素をいう。
【0008】
一実施形態において、前記脱水素化触媒としてアルミナに酸化銅および酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種を担持した触媒を用いてもよい。
【0009】
一実施形態において、前記脱水素化触媒としてCuO/AlおよびFe/Alからなる群から選択される少なくとも1種を用いてもよい。
【0010】
一実施形態において、前記脱水素化触媒としてビスマス、鉄およびモリブデンを含む複合酸化物からなる触媒を用いてもよい。また、該複合酸化物は、ビスマス1モルに対して、鉄0.5~1モル、モリブデン0.5~1.5モル、およびニッケル0.01~0.2モルを含む複合酸化物でもよい。
【0011】
一実施形態において、前記ゼオライト触媒としてゼオライトに金属酸化物を担持した触媒を用いてもよい。また、該金属酸化物が酸化セリウムを含んでもよい。
【0012】
一実施形態において、前記ゼオライト触媒としてCeO/H-FERおよびCeO/ZSM-5からなる群から選択される少なくとも1種を用いてもよい。
【0013】
一実施形態において、前記メタノールの前記軽質オレフィンへの変換が、触媒床を持つ反応器にメタノールを含むガス流を供給することによりなされ、前記触媒床が、前記ゼオライト触媒を含む第1触媒層と、前記脱水素化触媒を含み前記第1触媒層の下流側に配された第2触媒層とを備えてもよい。
【0014】
一実施形態において、前記メタノールの前記軽質オレフィンへの変換が、前記ゼオライト触媒と前記脱水素化触媒を含む触媒床を持つ反応器に、メタノールと二酸化炭素を含むガス流を供給することによりなされてもよい。
【0015】
一実施形態において、前記ゼオライト触媒100質量部に対して前記脱水素化触媒を50~300質量部用いてもよい。
【0016】
一実施形態において、前記軽質オレフィンが、プロピレン、ブテンおよびブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【発明の効果】
【0017】
本実施形態によれば、メタノールからブタジエンの効率的な合成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】CeO/H-FER触媒のXRD分析結果を示すグラフ
図2】CeO/ZSM-5触媒のXRD分析結果を示すグラフ
図3】CuO/Al触媒のXRD分析結果を示すグラフ
図4】Fe/Al触媒のXRD分析結果を示すグラフ
図5】BiFe0.65Ni0.05Mo酸化物触媒のXRD分析結果を示すグラフ
図6】BiFe0.65Ni0.05Mo酸化物触媒の反応実施後のXRD分析結果を示すグラフ
図7】実施例で用いた反応装置の概念図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施形態に係る軽質オレフィンの製造方法は、メタノールから軽質オレフィンを合成するMTO反応において、その触媒として、(1)ゼオライト触媒と、(2)銅、鉄、アルミニウム、ビスマス、モリブデンおよびニッケルからなる群から選択される少なくとも2種の金属の酸化物からなる脱水素化触媒と、を用いるものである。
【0020】
ゼオライト触媒としては、メタノールを軽質オレフィンに変換するMTO反応に対して触媒作用を持つものであれば、特に限定されず、種々のゼオライト触媒を用いることができる。
【0021】
ゼオライト触媒を構成するゼオライトとしては、例えば、ZSM-5、SAPO-34、H-FER、MCM-22、H-MORなどが挙げられ、これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。ここで、H-FERは、FER(フェリエライト)型構造をとるH型ゼオライトの総称である。また、H-MORは、MOR(モルデナイト)型構造をとるH型ゼオライトの総称である。
【0022】
ゼオライトにおけるアルミニウム元素に対するケイ素元素のモル比Si/Alは、特に限定されず、例えば、10~400でもよく、20~200でもよい。一実施形態において、ZSM-5におけるモル比Si/Alは、例えば40~300でもよく、100~200でもよい。一実施形態において、H-FERにおけるモル比Si/Alは、例えば20~100でもよく、40~60でもよい。
【0023】
一実施形態において、ゼオライト触媒としては、ゼオライトに金属酸化物を担持した触媒を用いることが好ましく、触媒作用を高めることができる。金属酸化物としては、特に限定されず、例えば、酸化セリウム(IV)(CeO)、酸化セリウム(III)(Ce)などの酸化セリウム、酸化鉄(III)(Fe)、酸化鉄(II,III)(Fe)、酸化鉄(II)(FeO)などの酸化鉄、酸化ランタン(III)(La)などの酸化ランタンが挙げられ、これらはいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。酸化セリウムや酸化ランタンであると、外部酸点の失活化効果が得られる。
【0024】
金属酸化物を担持したゼオライト触媒における金属酸化物の担持量は、特に限定されず、例えば、金属元素換算で1~20質量%でもよく、3~15質量%でもよい。該担持量は、触媒全体の質量を100質量%としたときの、当該触媒に含まれる担持金属元素の質量の割合である。本明細書において、金属酸化物の担持量はEDX(エネルギー分散型X線分光法)により測定される。
【0025】
ゼオライトに金属酸化物を担持させる方法は、特に限定されず、例えば、含浸法やイオン交換法などの公知の方法により担持させることができる。
【0026】
脱水素化触媒は、酸化的脱水素化反応(oxidative dehydrogenation、ODH反応)を促進する触媒であり、ゼオライト触媒によるMTO反応にODH反応を組み合わせることにより、ブタジエンの選択率を向上することができる。
【0027】
脱水素化触媒としては、銅(Cu)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ビスマス(Bi)、モリブデン(Mo)およびニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも2種の金属の酸化物からなる触媒が用いられる。該少なくとも2種の金属の酸化物は、酸素原子を介した異種の金属原子の結合を持つ複合酸化物でもよく、あるいはまた、少なくとも2種の金属酸化物同士が接着した複合体(例えば、金属酸化物担体に他の金属酸化物を担持(即ち、付着)させたもの)でもよく、両者の形態を包含する概念である。
【0028】
一実施形態において、脱水素化触媒は、アルミナ(Al)に金属酸化物を担持した触媒でもよく、より詳細には、アルミナに酸化銅および酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種を担持した触媒でもよい。具体的には、アルミナにCuOを担持させたCuO/Al、アルミナにFeを担持させたFe/Alが挙げられ、これらはいずれか一方または両者を併用してもよい。
【0029】
脱水素化触媒として、アルミナに金属酸化物を担持した触媒を用いる場合、当該触媒における金属酸化物の担持量は、特に限定されず、例えば、金属元素換算で1~30質量%でもよく、3~20質量%でもよく、5~15質量%でもよい。該担持量は、触媒全体の質量を100質量%としたときの、当該触媒に含まれる担持金属元素の質量の割合である。
【0030】
一実施形態において、脱水素化触媒は、ビスマス、鉄およびモリブデンを含む複合酸化物からなる触媒でもよい。ビスマスと鉄とモリブデンの含有比(モル比)は特に限定されず、例えば、ビスマス1モルに対して、鉄0.5~1モル、モリブデン0.5~1.5モルでもよい。該複合酸化物は、ビスマス、鉄およびモリブデンとともにニッケルを含んでもよく、その場合、ニッケルの含有比は、ビスマス1モルに対して0.01~0.2モルでもよい。該複合酸化物としては、BiFe0.65Ni0.05Mo酸化物でもよい。ここで、BiFe0.65Ni0.05Mo酸化物は、BiとFeとNiとMoを1:0.65:0.05:1のモル比で含む複合酸化物である。これら金属の含有比はEDX(エネルギー分散型X線分光法)により測定される。
【0031】
本実施形態では、上記のゼオライト触媒と脱水素化触媒との存在下で、メタノールを軽質オレフィンに変換する。そのためには、メタノールを含む原料を上記触媒に接触させればよい。
【0032】
メタノールとしては、特に限定するものではないが、例えば天然ガスと二酸化炭素を原料として製造されたメタノールを用いてもよい。これにより、従来の石油由来ナフサを原料として製造される軽質オレフィンの代替製造法になるとともに、二酸化炭素の削減にも繋がる。
【0033】
上記原料には、メタノールとともに、その転化率を計算するためにヘキサン、へプタンなどのMTO反応条件下において気体で存在する飽和炭化水素を加えてもよい。
【0034】
メタノールを触媒に接触させる方法としては、触媒の存在下でメタノールを軽質オレフィンに変換できる方法であれば、特に限定されず、例えば、メタノールを気体にして、これを含むガス流を、触媒を含む触媒床を持つ反応器に供給することが挙げられる。
【0035】
その場合、ガス流は、窒素やアルゴンなどの不活性ガスとメタノールとの混合ガスとして供給してもよい。また、ODH反応において脱水素化触媒を再生するために二酸化炭素を混合ガスに加えてもよい。
【0036】
触媒床としては、ゼオライト触媒と脱水素化触媒を含んでいれば特に限定されないが、ゼオライト触媒を含む第1触媒層と、脱水素化触媒を含み第1触媒層の下流側に配された第2触媒層とを備えたものが好ましい。このように上流側にゼオライト触媒、下流側に脱水素化触媒をそれぞれ設けたことにより、メタノールをゼオライト触媒により軽質オレフィンに変換した後、該軽質オレフィンを脱水素化触媒により酸化的脱水素化してその不飽和度を向上させるという一連の反応をスムーズに行うことができる。
【0037】
また、触媒床については、ゼオライト触媒および/または脱水素化触媒に、石英砂などの不活性な無機粒子(希釈材)をそれぞれ加えることにより、これら触媒を希釈したものを用いてもよい。無機粒子の添加量は特に限定されず、例えば触媒の質量の2~5倍の質量でもよい。
【0038】
ゼオライト触媒と脱水素化触媒の使用割合は、特に限定されず、例えばゼオライト触媒100質量部に対して脱水素化触媒を50~300質量部用いてもよく、100~200質量部用いてもよい。
【0039】
MTO反応およびODH反応の反応温度(触媒床の温度)は、メタノールを軽質オレフィンに変換できる温度であれば特に限定されず、例えば350~450℃でもよく、400~450℃でもよい。
【0040】
反応方式としては、連続流通式でも、回分式でもよい。連続流通式の場合、ガス空間速度(GHSV)は特に限定されず、例えば、ゼオライト触媒と脱水素化触媒のそれぞれについて、触媒1g当たり、1000~2500mLgcat -1-1でもよく、1300~2000mLgcat -1-1でもよい。また、反応形式としては、特に制限はなく、固定床式、移動床式、流動床式のいずれでもよい。反応器の形式としても特に制限はなく、例えば管型反応器等を用いることができる。
【0041】
本実施形態において生成される軽質オレフィンは、炭素数2~4のオレフィンであることが好ましく、より好ましくはプロピレン、ブテンおよびブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことであり、さらに好ましくはブテンおよびブタジエンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことである。ブタジエンとしては、1,3-ブタジエンが好ましい。本実施形態であると、1,3-ブタジエンの選択率を高めることができるため、1,3-ブタジエンの製造方法として好適である。
【実施例
【0042】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
[1]触媒の調製
[CeO/H-FER触媒の調製]
Na-FER(東ソー(株)製ゼオライト、Si/Al=46)を1Mの硝酸アンモニウム水溶液に添加し、80℃で6時間撹拌を行い、アンモニウム型にイオン交換した。イオン交換を2回行い、粉体を取り出し乾燥させた。その後、9時間で550℃まで昇温し、550℃で6時間維持することにより焼成を行い、H-FERを得た。
得られたH-FERに硝酸セリウム水溶液をCe担持量が10質量%になるように含浸し、2時間減圧後、一晩乾燥させた。その後、9時間で550℃まで昇温し、550℃で4時間維持することにより焼成を行い、CeO/H-FER触媒を得た。得られた触媒におけるCeO担持量はCe換算で11.1質量%であった。
【0044】
[CeO/ZSM-5触媒の調製]
ZSM-5をSiO:Al:HO:TPAOH:EtOH=1:0.00333:50:0.24:4(モル比)となるよう調製した。
【0045】
まず、TFF容器にイオン交換水を32.45g、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)20-25質量%を9.63g、エタノール(EtOH)を8.18g、硝酸アルミニウム九水和物を0.11g加え、撹拌した。撹拌中の溶液にシリカ源としてオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を9.74gゆっくりと添加し、4時間撹拌を行った。その後、前駆体溶液が均一なゾル溶液になっていることを確認し、180℃で24時間、4rpmで撹拌させながら水熱合成を行った。水熱合成後、生成物を取り出し、イオン交換水でpHが中性を示すまで洗浄を行い、120℃で一晩乾燥させた。その後、9時間で550℃まで昇温し、6時間550℃で温度を維持して焼成を行い、ZSM-5(Si/Al=150)を得た。
【0046】
得られたZSM-5に硝酸セリウム水溶液をCe担持量が10質量%になるように含浸し、2時間減圧後、一晩乾燥させた。その後、9時間で550℃まで昇温し、550℃で4時間維持することにより焼成を行い、CeO/ZSM-5触媒を得た。得られた触媒におけるCeO担持量はCe換算で9.8質量%であった。
【0047】
[CuO/Al触媒の調製]
直径2.5mmの球状γアルミナ(日揮ユニバーサル株式会社製「ALO-6」)に、硝酸銅水溶液をCu担持量が10質量%になるように含浸し、2時間減圧後、一晩120℃で乾燥させた。その後、9時間で550℃まで昇温し、550℃で6時間維持することにより焼成を行い、CuO/Al触媒を得た。得られた触媒におけるCuOの担持量はCu換算で9.7質量%であった。
【0048】
[Fe/Al触媒の調製]
直径2.5mmの球状γ-アルミナ(日揮ユニバーサル株式会社製「ALO-6」)に硝酸鉄九水和物水溶液をFe担持量が10質量%になるように含浸し、2時間減圧後、一晩120℃で乾燥させた。その後、9時間で550℃まで昇温し、550℃で6時間維持することにより焼成を行い、Fe/Al触媒を得た。得られた触媒におけるFeの担持量はFe換算で12.0質量%であった。
【0049】
[BiFe0.65Ni0.05Mo酸化物触媒の調製]
硝酸5.8gで酸性化された水溶液を100g調製した。これに硝酸ビスマス五水和物11.6g、硝酸鉄九水和物6.28g、硝酸ニッケル六水和物0.34gを添加し60℃で激しく攪拌した。この3種の金属が溶けた溶液を溶液1とする。七モリブデン酸六アンモニウム四水和物4.27gの溶解した50mLの水溶液を調製した。この溶液を溶液2とする。60℃で激しく撹拌している溶液2に対して溶液1を添加した。その後、28~30質量%のアンモニア水で溶液のpHを5に調整し、60℃で3時間撹拌し続けた。撹拌後の溶液をエバポレーションにより回収し、12時間100℃で乾燥した。乾燥後、550℃まで3時間で昇温し、550℃で2時間維持することにより焼成を行い、BiFe0.65Ni0.05Mo酸化物触媒を調製した。
【0050】
[金属担持量・金属含有比]
上記触媒についての金属担持量および金属含有比は、EDXによる元素分析による測定結果から算出した。分析機器及び測定条件は以下のとおりである。
【0051】
(分析機器)
・島津製作所製卓上型エネルギー分散型蛍光X線分析装置「Rayny EDX-700」
【0052】
(測定条件)
・コリメータ・・・10mm
・雰囲気・・・真空
・チャンネル・・・Na-U
・電圧・・・50kV
・電流・・・100μV
・試料形態・・・フィルム
・化合物形態・・・金属(感度係数は「sysmetal」を参照した)
・処理計算方法・・・FP法
【0053】
[結晶構造の解析]
上記で調製した触媒について、X線回折(XRD)法(CuKα 40kV,20mA,2°~80°)を用いて結晶構造の解析を行った。
【0054】
結果は図1~5に示す通りである。図中、「ZSM-5standard」はZSM-5の標準試料、「CeO」はCeOの標準試料、「Fe」はFeの標準試料、「Al」はAlの標準試料、「CuO」はCuOの標準試料、「Fe(MoO」はFe(MoOの標準試料、「Bi(FeO)(MoO」はBi(FeO)(MoOの標準試料、「(Ni0.22Fe0.78)(Ni0.78Fe1.22)O」は(Ni0.22Fe0.78)(Ni0.78Fe1.22)Oの標準試料についての各分析結果を示す。
【0055】
図1~5に示すように、調製した各触媒はそれぞれに特有のピークがみられたため、触媒調製に成功していた。
【0056】
詳細には、図1,2において、CeO/H-FER触媒とCeO/ZSM-5触媒は、H-FER、ZSM-5の標準試料と同様の特徴的なピークと、2θ=28°,47.5°付近にCeOに特徴的なピークが確認できた。
【0057】
図3において、CuO/Al触媒は、2θ=48°,68°付近にAlの特徴的なピークと、2θ=35°,38°付近にCuOの特徴的なピークを確認できた。
【0058】
図4において、Fe/Al触媒は、2θ=48°,68°付近にAlの特徴的なピークと、2θ=30°~40°にかけてFeの連続したピークを確認できた。
【0059】
図5において、BiFe0.65Ni0.05Mo酸化物触媒は、2θ=18°,28°,33°,40°,46°,53°,56°~59°付近にBi(FeO)(MoOの特徴的なピークを確認した。また22°~23°付近にFe(MoOのピークも確認した。2θ=35°,62°付近に(Ni0.22Fe0.78)(Ni0.78Fe1.22)Oのピークによるベースラインの上昇を確認した。以上より、Bi、Fe、Ni、Moの複合金属酸化物の調製に成功したことが分かる。
【0060】
[2]触媒性能評価試験
[第1実施例]
上記で調製したCeO/H-FER触媒およびCuO/Al触媒を用いて、メタノールから軽質オレフィンの合成反応における触媒性能評価試験を行った。
【0061】
反応試験は、常圧(0.1MPa)において、固定床石英ガラス反応器を用いて行った。反応装置の概念図は図7に示す通りであり、内径6mmの管状の反応器の流路の途中に触媒床を設けた。触媒床はその両側に石英ウールを詰めて固定した。反応器の外周には触媒床を加熱するためのヒータを設け、触媒床の内部温度を測定する温度測定用熱電対温度計と、反応器の外壁温度を測定する反応温度コントロール用熱電対により、ヒータの出力を制御するように構成した。
【0062】
触媒床は、触媒と石英砂を混ぜ合わせて反応器内に入れることにより形成した。詳細には、実施例1では、CeO/H-FER触媒0.5gと石英砂1.5gを混ぜ合わせて第1触媒層を形成し、CuO/Al触媒0.5gと石英砂1.5gを混ぜ合わせて第2触媒層を形成した。
【0063】
比較例1では、CeO/H-FER触媒1.0gと石英砂3.0gを混ぜ合わせて単一の触媒層を形成した。
【0064】
反応ガスとしては、メタノール:n-ヘキサンを90:1(モル比)の割合で混合し、該反応原料(液体混合物)を300℃で気化させて、反応器の一端から反応器内に流通させた。その際、反応器内のガス比(体積%)は窒素:メタノール:n-ヘキサン=88:11:1として、窒素ガスを30mL/minで流通させた。反応は400℃まで80分で昇温させて行った。昇温が完了した後、1時間ごとにガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製「GC-2014」、FID:Secaconitrile 18% Shinwasorb-U 60-80 SUSColumn 6.0m×3.0mmI.D.カラム)によりオンラインで生成物を測定し、7時間反応を行った。
【0065】
ガスクロマトグラフィーによる測定により、メタノール転化率を求めるとともに、各生成物の選択率を求めた。算出式は以下の通りである。
【数1】
【0066】
7時間の反応での平均のメタノール転化率と、7時間の反応での各生成物の選択率の平均を下記表1に示し、炭素数4のオレフィン(C4オレフィン)についての選択率の内訳を下記表2に示す。表1,2に示すように、実施例1および比較例1であると、C4オレフィンの選択率が高く、特に実施例1では1,3-ブタジエンの選択率が比較例1に対して向上していた。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
[第2実施例]
CeO/H-FER触媒およびBiFe0.65Ni0.05Mo酸化物触媒を用いて、メタノールから軽質オレフィンの合成反応における触媒性能評価試験を行った。
【0070】
詳細には、比較例2については、第1実施例の触媒性能評価試験において、反応ガスを反応器内に流通させる際、窒素を30mL/minで流通させる代わりに、窒素28mL/minとともに二酸化炭素2mL/minを流通させ、その他は比較例1と同様に評価を行い、メタノール転化率と各生成物の選択率を求めた。
【0071】
実施例2では、触媒床として、CeO/H-FER触媒0.5gと石英砂1.5gを混ぜ合わせて第1触媒層を形成し、BiFe0.65Ni0.05Mo酸化物0.5gと石英砂1.5gを混ぜ合わせて第2触媒層を形成した。その他は、比較例2と同様に触媒性能評価試験を行った。
【0072】
実施例2および比較例2について、7時間の反応での平均のメタノール転化率と、7時間の反応での各生成物の選択率の平均を下記表3に示し、C4オレフィンについての選択率の内訳を下記表4に示す。
【0073】
表3,4に示すように、実施例2および比較例2であると、C4オレフィンの選択率が高く、特に実施例2では1,3-ブタジエンの選択率が比較例2に対して向上していた。
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
[反応終了後の結晶構造の解析]
実施例2で用いた反応終了後のBiFe0.65Ni0.05Mo酸化物触媒について、上記と同様のX線回折法による結晶構造の解析を行った。分析結果を図6に示す。図6中、「Carbon」はGraphiteの標準試料、「Bi」は金属ビスマス単体の標準試料、「MoO」はMoOの標準試料、「Bi」はBiの標準試料についての各分析結果を示す。
【0077】
図6に示されるように、実施例2の反応後のBiFe0.65Ni0.05Mo酸化物触媒はCarbon、Biのピークが大きく観測される。Bi酸化物が還元され、Biが精製していることと、カーボンが出現していることから、BiFe0.65Ni0.05Mo酸化物触媒が生成物を酸化し、BiFe0.65Ni0.05Mo酸化物触媒は還元している、すなわち生成物に対して脱水素の効果が発現しているといえる。
【0078】
[第3実施例]
上記で調製したCeO/ZSM-5触媒およびFe/Al触媒を用いて、メタノールから軽質オレフィンの合成反応における触媒性能評価試験を行った。
【0079】
詳細には、触媒床として、実施例3では、CeO/ZSM-5触媒0.25gと石英砂0.75gを混ぜ合わせて第1触媒層を形成し、Fe/Al触媒0.25gと石英砂0.5gを混ぜ合わせて第2触媒層を形成した。比較例3では、CeO/ZSM-5触媒0.5gと石英砂1.5gを混ぜ合わせて単一の触媒層を形成した。また、ガスクロマトグラフィーによる生成物の測定は2時間ごととし、反応は8時間を行った。その他は第1実施例と同様に触媒性能評価試験を行った。8時間の反応での平均のメタノール転化率と、8時間の反応での各生成物の選択率の平均を下記表5に示し、C4オレフィンについての選択率の内訳を下記表6に示す。
【0080】
表5,6に示すように、実施例3および比較例3であると、C4オレフィンの選択率が高く、特に実施例3では1,3-ブタジエンの選択率が比較例3に対して向上していた。
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7