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特許7407977細胞培養制御装置およびこれを備えた細胞培養装置、細胞培養制御方法、細胞培養制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】細胞培養制御装置およびこれを備えた細胞培養装置、細胞培養制御方法、細胞培養制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/36 20060101AFI20231222BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
C12M1/36
C12M1/34 D
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022578127
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2021046057
(87)【国際公開番号】W WO2022163181
(87)【国際公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2021014583
(32)【優先日】2021-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314005768
【氏名又は名称】PHCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129012
【弁理士】
【氏名又は名称】元山 雅史
(72)【発明者】
【氏名】福本 悟史
(72)【発明者】
【氏名】平 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】福島 省吾
(72)【発明者】
【氏名】徳丸 智祥
【審査官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-124169(JP,A)
【文献】特開平06-141844(JP,A)
【文献】特開2019-154343(JP,A)
【文献】特開2015-216886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養容器に入れられた培地に含まれる栄養素の濃度を連続的に測定した結果から前記栄養素の消費量を取得する消費量情報取得部と、
前記消費量情報取得部において取得された前記栄養素の消費量を微分処理して前記栄養素が消費される消費速度を算出する消費速度算出部と、
前記培養容器に入れられた前記培地の交換または追加が行われたことを検出する培地交換検出部と、
前記培地交換検出部において前記培地の交換または追加が行われたことが検出されると、前記消費速度算出部において算出された前記培地の交換または追加後の前記消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて、次工程に進むか否かを判定する次工程移行判定部と、
を備えている細胞培養制御装置。
【請求項2】
前記次工程移行判定部は、前記培地を交換または追加する前後における前記消費速度の差が所定値以上であった場合に、前記次工程へ進む判定を行う、
請求項1に記載の細胞培養制御装置。
【請求項3】
前記次工程移行判定部は、所定時間内に前記培地を交換または追加した直後よりも前記消費速度が小さくなった場合に、前記次工程へ進む判定を行う、
請求項1に記載の細胞培養制御装置。
【請求項4】
前記消費速度算出部において算出された前記消費速度を微分処理して前記栄養素が消費される消費加速度を算出する消費加速度算出部を、さらに備え、
前記次工程移行判定部は、所定時間内に前記消費加速度算出部において算出された前記消費加速度が負になった場合に、前記次工程へ進む判定を行う、
請求項1に記載の細胞培養制御装置。
【請求項5】
前記次工程移行判定部は、前記培地を交換または追加後の前記消費速度が所定値以上である場合に、前記次工程へ進む判定を行う、
請求項2から4のいずれか1項に記載の細胞培養制御装置。
【請求項6】
前記培養容器に前記培地を供給する注入ポンプと、前記培養容器から前記培地を排出する排出ポンプと、を制御して、前記培地の交換または追加を行う制御部を、さらに備えている、
請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞培養制御装置。
【請求項7】
前記培地交換検出部は、前記培養容器に入れられた前記培地の交換または追加を行うために駆動されていた前記注入ポンプおよび前記排出ポンプが停止したことを検出して、前記培地の交換または追加が行われたことを検出する、
請求項6に記載の細胞培養制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、予め設定された所定時間を経過すると、前記培地の交換または追加を行う、
請求項6または7に記載の細胞培養制御装置。
【請求項9】
前記培地交換検出部は、前記栄養素の測定が一時停止された後、前記測定が再開される入力があった場合に、前記培地の交換または追加が行われたことを検出する、
請求項1から8のいずれか1項に記載の細胞培養制御装置。
【請求項10】
前記次工程移行判定部において前記次工程へ進むと判定されると、前記次工程へ進むように促すメッセージを表示する表示部を、さらに備えている、
請求項1から9のいずれか1項に記載の細胞培養制御装置。
【請求項11】
前記次工程移行判定部において前記次工程へ進むと判定されると、前記次工程へ進むように促す通知を送信する通信部を、さらに備えている、
請求項1から10のいずれか1項に記載の細胞培養制御装置。
【請求項12】
前記培養容器に入れられた前記培地に浸漬されたセンサと接続されており、前記栄養素の濃度を連続的に測定する測定部を、さらに備えている、
請求項1から11のいずれか1項に記載の細胞培養制御装置。
【請求項13】
前記培地交換検出部が、前記培養容器に入れられた前記培地の交換が行われたことを検出すると、
前記消費量情報取得部は、前記培地に含まれる前記栄養素の濃度に基づいて前記栄養素の消費量を算出する、
請求項1から12のいずれか1項に記載の細胞培養制御装置。
【請求項14】
前記培地交換検出部が、前記培養容器に入れられた前記培地の追加が行われたことを検出すると、
前記消費量情報取得部は、前記培地に含まれる前記栄養素の濃度と、前記培地の体積とに基づいて、前記栄養素の消費量を算出する、
請求項1から12のいずれか1項に記載の細胞培養制御装置。
【請求項15】
請求項1から13のいずれか1項に記載の細胞培養制御装置と、
前記細胞培養制御装置によって制御され、前記培養容器の前記培地を供給する注入ポンプと、
前記細胞培養制御装置によって制御され、前記培養容器から前記培地を排出する排出ポンプと、
を備えた細胞培養装置。
【請求項16】
請求項14に記載の細胞培養制御装置と、
前記細胞培養制御装置によって制御され、前記培養容器の前記培地を供給する注入ポンプと、
を備えた細胞培養装置。
【請求項17】
培養容器に入れられた培地に含まれる栄養素の濃度を連続的に測定した結果から前記栄養素の消費量を取得する消費量情報取得ステップと、
前記消費量情報取得ステップにおいて取得された前記栄養素の消費量を微分処理して前記栄養素が消費される消費速度を算出する消費速度算出ステップと、
前記培養容器に入れられた前記培地の交換または追加が行われたことを検出する培地交換検出ステップと、
前記培地交換検出ステップにおいて前記培地の交換または追加が行われたことが検出されると、前記消費速度算出ステップにおいて算出された前記培地の交換または追加後の前記消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて、次工程へ進むか否かを判定する次工程移行判定ステップと、
を備えている細胞培養制御方法。
【請求項18】
培養容器に入れられた培地に含まれる栄養素の濃度を連続的に測定した結果から前記栄養素の消費量を取得する消費量情報取得ステップと、
前記消費量情報取得ステップにおいて取得された前記栄養素の消費量を微分処理して前記栄養素が消費される消費速度を算出する消費速度算出ステップと、
前記培養容器に入れられた前記培地の交換または追加が行われたことを検出する培地交換検出ステップと、
前記培地交換検出ステップにおいて前記培地の交換または追加が行われたことが検出されると、前記消費速度算出ステップにおいて算出された前記培地の交換または追加後の前記消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて、次工程へ進むか否かを判定する次工程移行判定ステップと、
を備えている細胞培養制御方法をコンピュータに実行させる細胞培養制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養装置の制御を行う細胞培養制御装置およびこれを備えた細胞培養装置、細胞培養制御方法、細胞培養制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の細胞培養装置は、培養容器の培養室内に入れられた細胞を含む培養液の液面上に存在する気相の圧力を管理している。具体的には、従来の細胞培養装置は、圧力センサ、ポンプ、気圧調整弁、気圧調整管、流量調整器等を備えている。
例えば、特許文献1には、細胞を培養するための培養容器と、培養容器内に気体を送気するための送気部と、培養容器内の気体を排気するための排気部と、培養容器内の圧力を調節するための圧力調節部と、を備えた細胞培養装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-154343号公報
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、上記従来の細胞培養装置では、以下に示すような問題点を有している。
通常、培養容器内で培養される細胞は、培地に含まれる栄養分を取り込んで増加し、培地に含まれる栄養分が減ってくると減少する。特に、細胞は、培地交換直後は、急激に増加した後、増加が鈍化し、減少に転じることが分かっている。
しかし、培養容器に入れられた細胞が、例えば、過密状態、過剰代謝状態にある場合、負の影響を及ぼす代謝物(乳酸等)が存在する場合等のように細胞に負荷が掛かる状態では、それ以上培養を継続しても細胞が適切に培養されないおそれがある。
【0005】
上記公報に開示された細胞培養装置では、細胞培養の進行状態に応じて液体培地の交換を行うか否かを判定している。しかし、所定の日数が経過するまで細胞の状態を観察することが開示されているものの、細胞の状態に応じて適切な時期に次工程へ移行することについては何ら考慮されていない。
本発明の課題は、細胞の状態に応じて次工程へ移行する時期を適切に判定することが可能な細胞培養制御装置およびこれを備えた細胞培養装置、細胞培養制御方法、細胞培養制御プログラムを提供することにある。
【0006】
第1の発明に係る細胞培養制御装置は、消費量情報取得部と、消費速度算出部と、培地交換検出部と、次工程移行判定部と、を備えている。消費量情報取得部は、培養容器に入れられた培地に含まれる栄養素の濃度を連続的に測定した結果から栄養素の消費量を取得する。消費速度算出部は、消費量情報取得部において取得された栄養素の消費量を微分処理して栄養素が消費される消費速度を算出する。培地交換検出部は、培養容器に入れられた培地の交換または追加が行われたことを検出する。次工程移行判定部は、培地交換検出部において培地の交換または追加が行われたことが検出されると、消費速度算出部において算出された培地の交換または追加後の消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて、次工程へ進むか否かを判定する。
【0007】
ここでは、培地の交換または追加が行われた後、培養容器に入れられた培地に含まれる栄養素の濃度を連続的に測定して取得される栄養素の消費量を微分処理して得られる栄養素の消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて、現工程を終了して次工程へ進むか否かを判定する。
培養容器内の培地に含まれる栄養素には、例えば、グルコース、乳糖(ラクトース)、アミノ酸等が含まれる。
【0008】
培養容器に入れられた培地の交換または追加が行われたことは、例えば、培養容器に設置された注入ポンプおよび排出ポンプが駆動された後で停止したことを検出することで検出することができる。
次工程へ進むか否かの判定は、例えば、現工程を終了して次の培養工程、後処理工程等へ進むか否かを判定する処理であって、細胞培養を終了させるか否かを判定する工程も含む。
【0009】
一般的に、栄養素の消費速度と、培養容器内で培養される細胞の状態の正常または異常とは、例えば、実験やシミュレーションの結果から相関関係があることが知られている。
栄養素の消費速度は、栄養素の消費量を微分処理して得られる数値であって、例えば、栄養素が減少する速度は細胞が増加する速度と相関がある。
なお、栄養素の消費量を微分処理して得られる値には、時間と栄養素の濃度との関係を示す関数を算術的に微分した値、あるいは、所定時間経過ごとに栄養素の濃度を測定して得られる経過時間ごとの変化量を含む。
【0010】
例えば、培地の交換または追加が行われると、栄養素を含む新たな培地が交換または追加されるため、細胞が正常な状態であれば、栄養素の消費速度は培地交換または追加前から継続して上昇する。一方、何らかの要因により細胞にストレスが掛かった異常な状態であれば、培地の交換または追加が行われた後であっても、培地の交換または追加前後で消費速度に大きな差が生じたり、消費速度が低下したりするおそれがある。
【0011】
これにより、培地の交換または追加後に、栄養素の消費量を微分処理して得られる栄養素の消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて次工程へ進むか否かを判定することで、細胞が異常な状態にあると判断し、次工程へ進むように促すことができる。
この結果、細胞の状態に応じて次工程へ進むべき時期を適切に判定することができる。
第2の発明に係る細胞培養制御装置は、第1の発明に係る細胞培養制御装置であって、次工程移行判定部は、培地を交換または追加する前後における消費速度の差が所定値以上であった場合に、次工程へ進む判定を行う。
【0012】
ここで、培地を交換または追加する前後における消費速度の差が所定値以上の乖離があるということは、例えば、培地交換前に細胞が飢餓状態にある、培地の交換または追加後に過剰な代謝状態になっている等、細胞に負荷が掛かっている恐れがあることを意味している。
これにより、培地を交換または追加した後、細胞が正常であれば培地の交換または追加前から継続して消費速度が上昇していくところ、消費速度が所定値以上プラスあるいはマイナスに変化することを検出することで、細胞が異常な状態にあると判断し、次工程へ進むように促すことができる。
【0013】
第3の発明に係る細胞培養制御装置は、第1の発明に係る細胞培養制御装置であって、次工程移行判定部は、所定時間内に培地を交換または追加した直後よりも消費速度が小さくなった場合に、次工程へ進む判定を行う。
ここで、培地を交換または追加した直後にグルコースの消費速度が低下しているということは、例えば、培地の交換または追加によって細胞培養にマイナスの影響を及ぼす代謝物(例えば、乳酸等)が存在しない環境下でも細胞の過密状態(オーバーグロース)等によりグルコースの比消費速度が低下(細胞1個当たりの代謝が低下)している恐れがあることを意味している。
【0014】
これにより、培地を交換または追加した後、細胞が正常であれば培地の交換または追加前から継続して消費速度が上昇していくところ、培地の交換または追加直後よりも消費速度が減少したことを検出することで、細胞が異常な状態にあると判断し、次工程へ進むように促すことができる。
第4の発明に係る細胞培養制御装置は、第1の発明に係る細胞培養制御装置であって、消費速度算出部において算出された消費速度を微分処理して栄養素が消費される消費加速度を算出する消費加速度算出部を、さらに備えている。次工程移行判定部は、所定時間内に消費加速度算出部において算出された消費加速度が負になった場合に、次工程へ進む判定を行う。
【0015】
ここで、培地を交換または追加した直後にグルコースの消費加速度がマイナスになるということは、例えば、培地の交換または追加によって細胞培養にマイナスの影響を及ぼす代謝物(例えば、乳酸等)が存在しない環境下でも細胞の過密状態(オーバーグロース)等によりグルコースの比消費速度が低下(細胞1個当たりの代謝が低下)している恐れがあることを意味している。
【0016】
これにより、培地を交換または追加した後、細胞が正常であれば培地の交換または追加前から継続して消費加速度がプラスで推移していくところ、消費加速度がマイナスになったことを検出することで、細胞が異常な状態にあると判断し、次工程へ進むように促すことができる。
第5の発明に係る細胞培養制御装置は、第2から第4の発明のいずれか1つに係る細胞培養制御装置であって、次工程移行判定部は、培地を交換または追加後の消費速度が所定値以上である場合に、次工程へ進む判定を行う。
【0017】
これにより、上述した消費速度または消費加速度の条件に、培地の交換または追加後の消費速度が所定値以上であるという条件を加えることで、例えば、栄養素の濃度を測定するセンサ等の分解能が低い場合でも、細胞が異常な状態にあることを検出することができる。
第6の発明に係る細胞培養制御装置は、第1から第5の発明のいずれか1つに係る細胞培養制御装置であって、培養容器に培地を供給する注入ポンプと、培養容器から培地を排出する排出ポンプと、を制御して、培地の交換または追加を行う制御部を、さらに備えている。
【0018】
これにより、制御部が培養容器に設置された注入ポンプおよび排出ポンプを制御することで、自動的に培養容器内の培地の交換または追加を行うことができる。
第7の発明に係る細胞培養制御装置は、第6の発明に係る細胞培養制御装置であって、培地交換検出部は、培養容器に入れられた培地の交換または追加を行うために駆動されていた注入ポンプおよび排出ポンプが停止したことを検出して、培地の交換または追加が行われたことを検出する。
【0019】
これにより、培地の交換または追加を行うために駆動が開始された注入ポンプおよび排出ポンプが停止したことを検出することで、培地の交換または追加が終了したことを検出することができる。
第8の発明に係る細胞培養制御装置は、第6または第7の発明に係る細胞培養制御装置であって、制御部は、予め設定された所定時間を経過すると、培地の交換または追加を行う。
【0020】
これにより、予め設定された所定時間が経過するごとに、注入ポンプおよび/または排出ポンプを駆動することで、自動的に培地の交換または追加を行うことができる。
第9の発明に係る細胞培養制御装置は、第1から第8の発明のいずれか1つに係る細胞培養制御装置であって、培地交換検出部は、栄養素の測定が一時停止された後、測定が再開される入力があった場合に、培地の交換または追加が行われたことを検出する。
【0021】
これにより、注入ポンプおよび排出ポンプが設置されていない構成であっても、栄養素の測定が一時停止状態から再開された入力を検出することで、培地の交換または追加が終了したことを検出することができる。
第10の発明に係る細胞培養制御装置は、第1から第9の発明のいずれか1つに係る細胞培養制御装置であって、次工程移行判定部において次工程へ進むと判定されると、次工程へ進むように促すメッセージを表示する表示部を、さらに備えている。
【0022】
これにより、使用者に対して、現工程を終了して次工程へ進むように促すメッセージ等の文字情報を表示部に表示させることで、使用者は、培地の交換または追加後に細胞が異常な状態になったタイミングで、次工程へ進むように対応することができる。
第11の発明に係る細胞培養制御装置は、第1から第10の発明のいずれか1つに係る細胞培養制御装置であって、次工程移行判定部において次工程へ進むと判定されると、次工程へ進むように促す通知を送信する通信部を、さらに備えている。
【0023】
これにより、使用者に対して、通信部を介して、現工程を終了して次工程へ進むように促すメッセージを含むメール等を送信することで、使用者は、所有する携帯電話、スマートフォン等でそのメールを受信して、培地の交換または追加後に細胞が異常な状態になったタイミングで、次工程へ進むように対応することができる。
第12の発明に係る細胞培養制御装置は、第1から第11の発明のいずれか1つに係る細胞培養制御装置であって、培養容器に入れられた培地に浸漬されたセンサと接続されており、栄養素の濃度を連続的に測定する測定部を、さらに備えている。
【0024】
これにより、培養容器内の培地に浸漬されたセンサと接続された測定部によって、培地に含まれる栄養素の濃度を連続的に測定することができる。
第13の発明に係る細胞培養制御装置は、第1から第12の発明のいずれか1つに係る細胞培養制御装置であって、培地交換検出部が、培養容器に入れられた培地の交換が行われたことを検出すると、消費量情報取得部は、培地に含まれる栄養素の濃度に基づいて栄養素の消費量を算出する。
【0025】
これにより、培養容器内の培地が新しい培地に交換される場合には、培地の体積は考慮する必要がないため、培地に含まれる栄養素に基づいて栄養素の消費量を算出することができる。
第14の発明に係る細胞培養制御装置は、第1から第12の発明のいずれか1つに係る細胞培養制御装置であって、培地交換検出部が、培養容器に入れられた培地の追加が行われたことを検出すると、消費量情報取得部は、培地に含まれる栄養素の濃度と、培地の体積とに基づいて、栄養素の消費量を算出する。
【0026】
これにより、培養容器内の培地に新しい培地が追加される場合には、培地に含まれる栄養素に加えて培地の体積を考慮して、栄養素の消費量を算出することで、栄養素の消費量を高精度に算出することができる。
第15の発明に係る細胞培養装置は、第1から第13の発明のいずれか1つに係る細胞培養制御装置と、細胞培養制御装置によって制御され、培養容器の培地を供給する注入ポンプと、細胞培養制御装置によって制御され、培養容器から培地を排出する排出ポンプと、を備えている。
【0027】
これにより、培養容器に設置された注入ポンプおよび排出ポンプを制御することで、自動的に培地の交換を行うことができる。
第16の発明に係る細胞培養制御装置は、第14の発明に係る細胞培養制御装置と、細胞培養制御装置によって制御され、培養容器の培地を供給する注入ポンプと、を備えている。
【0028】
これにより、培養容器に設置された注入ポンプを制御することで、自動的に培養容器内へ培地を追加することができる。
第17の発明に係る細胞培養制御方法は、消費量情報取得ステップと、消費速度算出ステップと、培地交換検出ステップと、次工程移行判定ステップと、を備えている。消費量情報取得ステップでは、培養容器に入れられた培地に含まれる栄養素の濃度を連続的に測定した結果から栄養素の消費量を取得する。消費速度算出ステップでは、消費量情報取得ステップにおいて取得された栄養素の消費量を微分処理して栄養素が消費される消費速度を算出する。培地交換検出ステップでは、培養容器に入れられた培地の交換または追加が行われたことを検出する。次工程移行判定ステップでは、培地交換検出ステップにおいて培地の交換または追加が行われたことが検出されると、消費速度算出ステップにおいて算出された培地の交換または追加後の消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて、次工程へ進むか否かを判定する。
【0029】
ここでは、培地の交換または追加が行われた後、培養容器に入れられた培地に含まれる栄養素の濃度を連続的に測定して取得される栄養素の消費量を微分処理して得られる栄養素の消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて、現工程を終了して次工程へ進むか否かを判定する。
培養容器内の培地に含まれる栄養素には、例えば、グルコース、乳糖(ラクトース)、アミノ酸等が含まれる。
【0030】
培養容器に入れられた培地の交換または追加が行われたことは、例えば、培養容器に設置された注入ポンプおよび排出ポンプが駆動された後で停止したことを検出することで検出することができる。
次工程へ進むか否かの判定は、例えば、現工程を終了して次の培養工程、後処理工程等へ進むか否かを判定する処理であって、細胞培養を終了させるか否かを判定する工程も含む。
【0031】
一般的に、栄養素の消費速度と、培養容器内で培養される細胞の状態の正常または異常とは、例えば、実験やシミュレーションの結果から相関関係があることが知られている。
栄養素の消費速度は、栄養素の消費量を微分処理して得られる数値であって、例えば、栄養素が減少する速度は細胞が増加する速度と相関がある。
なお、栄養素の消費量を微分処理して得られる値には、時間とグルコース濃度との関係を示す関数を算術的に微分した値、あるいは、所定時間経過ごとにグルコース濃度を測定して得られる経過時間ごとの変化量を含む。
【0032】
例えば、培地の交換または追加が行われると、栄養素を含む新たな培地が交換または追加されるため、細胞が正常な状態であれば、栄養素の消費速度は培地交換または追加前から継続して上昇する。一方、何らかの要因により細胞にストレスが掛かった異常な状態であれば、培地の交換または追加が行われた後であっても、培地の交換または追加前後で消費速度に大きな差が生じたり、消費速度が低下したりするおそれがある。
【0033】
これにより、培地の交換または追加後に、栄養素の消費量を微分処理して得られる栄養素の消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて次工程へ進むか否かを判定することで、細胞が異常な状態にあると判断し、次工程へ進むように促すことができる。
この結果、細胞の状態に応じて次工程へ進むべき時期を適切に判定することができる。
第18の発明に係る細胞培養制御プログラムは、消費量情報取得ステップと、消費速度算出ステップと、培地交換検出ステップと、次工程移行判定ステップと、を備えている細胞培養制御方法をコンピュータに実行させる。消費量情報取得ステップでは、培養容器に入れられた培地に含まれる栄養素の濃度を連続的に測定した結果から栄養素の消費量を取得する。消費速度算出ステップでは、消費量情報取得ステップにおいて取得された栄養素の消費量を微分処理して栄養素が消費される消費速度を算出する。培地交換検出ステップでは、培養容器に入れられた培地の交換または追加が行われたことを検出する。次工程移行判定ステップでは、培地交換検出ステップにおいて培地の交換または追加が行われたことが検出されると、消費速度算出ステップにおいて算出された培地の交換または追加後の消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて、次工程へ進むか否かを判定する。
【0034】
ここでは、培地の交換または追加が行われた後、培養容器に入れられた培地に含まれる栄養素の濃度を連続的に測定して取得される栄養素の消費量を微分処理して得られる栄養素の消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて、現工程を終了して次工程へ進むか否かを判定する。
培養容器内の培地に含まれる栄養素には、例えば、グルコース、乳糖(ラクトース)、アミノ酸等が含まれる。
【0035】
培養容器に入れられた培地の交換または追加が行われたことは、例えば、培養容器に設置された注入ポンプおよび排出ポンプが駆動された後で停止したことを検出することで検出することができる。
次工程へ進むか否かの判定は、例えば、現工程を終了して次の培養工程、後処理工程等へ進むか否かを判定する処理であって、細胞培養を終了させるか否かを判定する工程も含む。
【0036】
一般的に、栄養素の消費速度と、培養容器内で培養される細胞の状態の正常または異常とは、例えば、実験やシミュレーションの結果から相関関係があることが知られている。
栄養素の消費速度は、栄養素の消費量を微分処理して得られる数値であって、例えば、栄養素が減少する速度は細胞が増加する速度と相関がある。
なお、栄養素の消費量を微分処理して得られる値には、時間とグルコース濃度との関係を示す関数を算術的に微分した値、あるいは、所定時間経過ごとにグルコース濃度を測定して得られる経過時間ごとの変化量を含む。
【0037】
例えば、培地の交換または追加が行われると、栄養素を含む新たな培地が交換または追加されるため、細胞が正常な状態であれば、栄養素の消費速度は培地交換または追加前から継続して上昇する。一方、何らかの要因により細胞にストレスが掛かった異常な状態であれば、培地の交換または追加が行われた後であっても、培地の交換または追加前後で消費速度に大きな差が生じたり、消費速度が低下したりするおそれがある。
【0038】
これにより、培地の交換または追加後に、栄養素の消費量を微分処理して得られる栄養素の消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて次工程へ進むか否かを判定することで、細胞が異常な状態にあると判断し、次工程へ進むように促すことができる。
この結果、細胞の状態に応じて次工程へ進むべき時期を適切に判定することができる。
(発明の効果)
本発明に係る細胞培養制御装置によれば、細胞の状態に応じて次工程へ進むべき時期を適切に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の一実施形態に係るPCを含む細胞培養装置の構成を示す概略図。
図2図1のPCの内部構成を示す制御ブロック図。
図3図2のPCの表示部に表示される初期画面を示す図。
図4図2のPCの表示部に表示される細胞培養中の表示画面であって、2回目の培地交換を実施して96時間経過した状態を示す図。
図5図2のPCの表示部に表示される細胞培養中の表示画面であって、3回目の培地交換後に次工程移行判定が行われた状態を示す図。
図6図2のPCの表示部に表示される細胞培養中の表示画面であって、4回目の培地交換後の次工程移行判定が行われた状態を示す図。
図7図2のPCによって実行される細胞培養制御方法の培地交換が行われるまでの処理の流れを示すフローチャート。
図8図7に続く細胞培養制御方法の培地交換後の次工程移行判定処理の流れを示すフローチャート。
図9】本発明の他の実施形態に係るPCの内部構成を示す制御ブロック図。
図10】本発明のさらに他の実施形態に係るPCを含む細胞培養装置の構成を示す概略図。
図11図10のPCの内部構成を示す制御ブロック図。
図12】本発明のさらに他の実施形態に係る細胞培養制御方法の培地交換後の次工程移行判定処理の流れを示すフローチャート。
図13】本発明のさらに他の実施形態に係る細胞培養制御方法の培地交換後の次工程移行判定処理の流れを示すフローチャート。
図14】本発明のさらに他の実施形態に係るPCを含む細胞培養装置の構成を示す概略図。
図15】(a)は、図14の細胞培養装置による培地追加制御における時間と培養容器内の培地量との関係を示すグラフ。(b)は、(a)に対応して変化するグルコース濃度と時間との関係を示すグラフ。
図16】培養容器に入れられた培地の量が所定時間当たりのグルコース濃度の変化量に影響を及ぼすことを示すグラフ。
図17】本発明のさらに他の実施形態に係る細胞培養制御方法の培地交換後の次工程移行判定処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0040】
(実施形態1)
本発明の一実施形態に係るPC(Personal Computer)(細胞培養制御装置)10およびこれを備えた細胞培養装置50について、図1図8を用いて説明すれば以下の通りである。
(1)細胞培養装置50
本実施形態の細胞培養装置50は、図1に示すように、PC(細胞培養制御装置)10と、培養容器20と、センサ21と、注入ポンプ22と、培地貯蔵容器23と、排出ポンプ24と、廃液容器25と、を備えている。
【0041】
PC10は、図1に示すように、センサ21、注入ポンプ22および排出ポンプ24と接続されており、センサ21において検出されたグルコース(栄養素)の濃度を測定して細胞Yの培養状況(細胞数)を推定するとともに、培養容器20に入れられた培地Xを注入または排出する注入ポンプ22および排出ポンプ24を制御する。
なお、PC10の内部構成については、後段にて詳述する。
【0042】
培養容器20は、グルコース等の栄養素を含む培地Xと、グルコースを消費しながら培養される細胞Yとが入れられている。培養容器20に入れられた培地Xは、細胞の培養状況(グルコースの消費状況)に応じて交換される。
センサ21は、培養容器20に入れられた培地Xに浸漬された状態で配置されており、浸漬された部分に配置された測定電極(作用極、対極、参照極)を有している。そして、培地Xに浸漬されたセンサ21の各測定電極に所定の電圧が印加されることで、電気化学的に培地Xに含まれる特定の成分(グルコース等)の濃度を測定する。
【0043】
ここで、培地Xに含まれるグルコースの濃度を測定する場合には、作用極の表面に固定化された試薬層には、グルコース酸化酵素として、例えば、グルコースオキシダーゼ(GOx)、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、さらにはレドックスメディエータが含まれ得る。
グルコースの濃度は、保護膜を通して培地Xから透過してきたグルコースが、試薬層の酵素(例えば、GOx、GDH)との反応で酸化されてグルコノラクトンとなり、同時に生成されるレドックスメディエータの還元体、もしくは過酸化水素の酸化反応によって生じる電子を電流値に変換することで測定される。
【0044】
注入ポンプ22は、図1に示すように、細胞培養を開始する際、または培養容器20内の培地Xを交換する際に、培地貯蔵容器23に入れられた培地Xを、培養容器20に設置された注入口22aを介して培養容器20へ注入する。
培地貯蔵容器23は、培養容器20へ注入される培地Xを貯蔵する容器であって、グルコース等の栄養素を含む培地Xが貯蔵されている。
【0045】
排出ポンプ24は、図1に示すように、培養容器20に入れられた培地Xを交換するために、培養容器20に設置された排出口24aを介して廃液容器25へ培地Xを排出する。
廃液容器25は、培養容器20において細胞培養によってグルコース等の栄養素が消費され、排出ポンプ24によって回収された培地Xを貯蔵する。
【0046】
(2)PC10
PC10は、細胞培養装置50に含まれるセンサ21によって培養容器20内の培地Xに含まれるグルコースの濃度を測定しつつ、細胞培養の状況(グルコースの消費状況)に応じて培地Xの交換を行うように注入ポンプ22および排出ポンプ24を制御する。
PC10は、図2に示すように、制御部11と、測定部(消費量情報取得部、測定部)12と、消費速度算出部13と、消費加速度算出部14と、培地交換検出部15と、次工程移行判定部16と、記憶部17と、入力部18と、表示部19とを備えている。
【0047】
制御部11は、図2に示すように、測定部12、消費速度算出部13、消費加速度算出部14、培地交換検出部15、次工程移行判定部16、記憶部17、入力部18、表示部19とそれぞれ接続されており、各部を制御する。また、制御部11は、注入ポンプ22および排出ポンプ24と接続されており、例えば、培養容器20内の培地Xの交換を行う際に、注入ポンプ22および排出ポンプ24を制御する。
【0048】
測定部(消費量情報取得部、測定部)12は、図2に示すように、制御部11およびセンサ21と接続されている。測定部12は、センサ21の測定電極に電圧を印加して測定される培地X中のグルコースの濃度を取得し、制御部11へ送信する。
消費速度算出部13は、図2に示すように、制御部11と接続されており、測定部12において所定時間、連続的に測定されたグルコースの濃度から細胞Yによるグルコースの消費量を算出するとともに、グルコースの消費量を微分処理してグルコースの消費速度を算出する。
【0049】
消費加速度算出部14は、図2に示すように、制御部11と接続されており、消費速度算出部13において算出されたグルコースの消費速度をさらに微分処理してグルコースの消費加速度を算出する。
培地交換検出部15は、図2に示すように、制御部11と接続されており、培養容器20に入れられた培地Xの交換が行われ、その処理が終了したことを検出する。例えば、培地交換検出部15は、培養容器20に入れられた培地Xの交換を行うために駆動されていた注入ポンプ22および排出ポンプ24が停止したことを検出して、培地Xの交換が終了したことを検出する。
【0050】
次工程移行判定部16は、図2に示すように、制御部11と接続されており、培地交換検出部15において培養容器20に入れられた培地Xの交換が完了したことが検出されると、消費速度算出部13において算出された培地Xの交換後の消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて、次工程に進むか否かを判定する。
具体的には、次工程移行判定部16は、後述する次工程移行判定処理において、例えば、培地Xの交換が行われた後、培地Xを交換する前後における消費速度の差が所定値(例えば、1.0mM/h)以上であった場合に、次工程へ進む判定を行う(条件1)。
【0051】
ここで、培地Xを交換する前後における消費速度の差が所定値以上の乖離があるということは、例えば、培地交換前に細胞が飢餓状態にある、培地交換後に過剰な代謝状態になっている等、細胞に負荷が掛かっている恐れがあることを意味している。
このため、条件1を満たすか否かに応じて次工程移行判定処理を実施することで、細胞に負荷が掛かっている状態になっていることを検出して、適切なタイミングで次工程へ移行するように促すことができる。
【0052】
また、次工程移行判定部16は、後述する次工程移行判定処理において、例えば、培地Xの交換が行われた後、所定時間(例えば、2時間)内に培地Xを交換した直後よりも消費速度が小さくなった場合に、次工程へ進む判定を行う(条件2)。
ここで、培地Xを交換した直後にグルコースの消費速度が低下しているということは、例えば、培地交換によって細胞培養にマイナスの影響を及ぼす代謝物(例えば、乳酸等)が存在しない環境下でも細胞の過密状態(オーバーグロース)等によりグルコースの比消費速度が低下(細胞1個当たりの代謝が低下)している恐れがあることを意味している。
【0053】
このため、条件2を満たすか否かに応じて次工程移行判定処理を実施することで、細胞の状態が悪化していることを検出して、適切なタイミングで次工程へ移行するように促すことができる。
さらには、次工程移行判定部16は、後述する次工程移行判定処理において、例えば、培地Xの交換が行われた後、所定時間(例えば、2時間)内に消費加速度算出部14において算出された消費加速度が負になった場合に、次工程へ進む判定を行う(条件3)。
【0054】
ここで、培地Xを交換した直後にグルコースの消費加速度がマイナスになるということは、条件2と同様に、例えば、培地交換によって細胞培養にマイナスの影響を及ぼす代謝物(例えば、乳酸等)が存在しない環境下でも細胞の過密状態(オーバーグロース)等によりグルコースの比消費速度が低下(細胞1個当たりの代謝が低下)している恐れがあることを意味している。
【0055】
このため、条件3を満たすか否かに応じて次工程移行判定処理を実施することで、条件2と同様に、細胞の状態が悪化していることを検出して、適切なタイミングで次工程へ移行するように促すことができる。
また、例えば、培養容器20に設置されたグルコース測定用のセンサ21の分解能が低い場合には、培地Xを交換後の消費速度が所定値以上である場合という条件4を、上記条件1~3と組み合わせて次工程へ進む判定を行ってもよい。
【0056】
これにより、分解能が低いセンサ21が用いられているためにノイズの影響を受けやすい場合でも、消費速度が所定値以上という条件4を組み合わせることで、より適正な判定を行うことができる。
また、上記条件1~3は、いずれか1つが選択されて次工程移行判定処理が行われてもよいし、2つまたは3つの条件を組み合わせて次工程移行判定処理が行われてもよい。さらに、条件1~3は、それぞれ上述した第4条件と組み合わせて次工程移行判定処理が行われてもよい。
【0057】
なお、次工程への移行には、例えば、現在の細胞培養工程に続く次の細胞培養の工程への移行、現工程に続いて行われる各種後処理工程への移行、細胞培養工程の終了処理への移行等が含まれる。
記憶部17は、図2に示すように、制御部11に接続されており、例えば、測定部12において連続的に測定されたグルコースの濃度および消費量、消費速度算出部13において算出された消費速度、消費加速度算出部14において算出された消費加速度等の情報を保存する。
【0058】
入力部18は、図2に示すように、制御部11に接続されており、例えば、表示部19に表示される操作ボタン(入力ボタン)等を介して使用者から各種設定、各種情報等が入力される。
表示部19は、例えば、PC10に搭載された液晶表示パネルであって、図2に示すように、制御部11に接続されており、測定部12における測定結果、細胞培養の状況、培地Xの交換、次工程へ移行するように促すメッセージ等に関する情報を表示する表示画面19aを有している。
【0059】
表示画面19aには、例えば、図3に示すように、グラフ表示エリア30a、細胞状態表示エリア30b、グラフ表示選択エリア30c、STARTボタン30dおよびSTOPボタン30eが表示される。
なお、図3は、表示画面19aに表示される初期画面であって、細胞培養工程が行われる前の状態を示している。
【0060】
グラフ表示エリア30aは、横軸に経過時間(h)、第1縦軸(左)にグルコース濃度(mM)、第2縦軸(右)にグルコースの消費速度(mM/h)および消費加速度(mM/h/h)とするグラフを表示する。
細胞状態表示エリア30bは、現在の経過時間における培養容器20内の細胞Yの状態を表示する。
【0061】
グラフ表示選択エリア30cは、グラフ表示エリア30aに表示するパラメータを選択するためのエリアである。具体的には、グラフ表示選択エリア30cでは、グルコース濃度、消費速度、消費加速度という3つのパラメータが選択肢として表示されている。よって、使用者は、これら3つのパラメータのいずれか1つあるいは2つまたは3つ全てのチェックボックスにチェックを入れることで、グラフ表示エリア30aに表示するか否かを選択する。
【0062】
STARTボタン30dは、表示画面19aの左下のエリアに表示され細胞培養工程を開始する際に操作される入力ボタンであって、センサ21を用いたグルコース濃度の測定が開始される。
STOPボタン30eは、表示画面19aの左下のエリアに表示され細胞培養工程を停止する際に操作される入力ボタンであって、センサ21を用いたグルコース濃度の測定が停止される。
【0063】
次に、図4は、細胞培養工程が開始され、2回の培地交換(ME(Medium Exchange))が行われ、96時間が経過した際に表示される表示画面19aを示している。
なお、図4に示す例では、細胞培養の開始から、24時間、72時間経過時に、培地交換(ME)が行われており、グラフ表示選択エリア30cにおいてグルコース濃度、消費速度、消費加速度が全て選択された状態を示している。
【0064】
培地交換(ME)が行われると、培養容器20へ新しい培地Xが注入されるため、図4に示すように、毎回、グルコース濃度が15(mM)に戻り、そこから細胞培養の進行とともにグルコース濃度が徐々に低下する。
細胞培養工程の開始から96時間が経過した状態では、図4に示すように、実線で示されるグルコース濃度は、培地X交換(ME)の直後に最大となり細胞Yの培養が進むにつれて徐々に低下していく。
【0065】
破線で示されるグルコースの消費速度は、図4に示すように、2回目の培地交換(ME)までは、0~0.1(mM/h)の間で推移し、2回目の培地交換(ME)後に徐々に上昇して、0.1(mM/h)を超えている。
点線で示されるグルコースの消費加速度は、図4に示すように、2回目の培地交換(ME)までは、ほぼ0(mM/h/h)で推移し、2回目の培地交換(ME)後に少し上昇している。
【0066】
このとき、細胞状態表示エリア30bには、図4に示すように、細胞の状態として「培養中」と表示される。
次に、図5は、細胞培養工程が開始され、3回の培地交換(ME(Medium Exchange))が行われ、120時間が経過した際に表示される表示画面19aを示している。
なお、図5に示す例では、細胞培養の開始から、24時間、72時間、120時間経過時に、培地交換(ME)が行われており、図4と同様に、グラフ表示選択エリア30cにおいてグルコース濃度、消費速度、消費加速度が全て選択された状態を示している。
【0067】
細胞培養工程の開始から120時間が経過した状態では、図5に示すように、実線で示されるグルコース濃度は、培地X交換(ME)の直後に最大となり細胞Yの培養が進むにつれて徐々に低下していく。特に、3回目の培地交換(ME)後には、グルコース濃度が急激に低下している。
破線で示されるグルコースの消費速度は、図5に示すように、2回目の培地交換(ME)までは、0~0.1(mM/h)の間で推移し、2回目の培地交換(ME)後に徐々に上昇して、0.1(mM/h)を超えた後、100時間経過時にピークとなり120時間までに徐々に低下している。そして、グルコースの消費速度は、図5に示すように、120時間経過時に培地交換(ME)が行われた後、培地交換(ME)直前の0.1(mM/h)から0.25(mM/h)まで、0.1(mM/h)以上、急激に上昇している。
【0068】
なお、消費速度は、後述する次工程移行判定処理において、所定の条件を満たしているか否かに応じて、次工程へ移行するように促すか否かの判定が行われる。
すなわち、図5に示す例では、後述する次工程移行判定処理において、例えば、培地交換(ME)が行われた後、消費速度が0.1(mM/h)以上であって、かつ培地交換(ME)の前後における消費速度の差Dが所定値(例えば、0.1mM/h)以上であった場合に、次工程へ進む判定を行う(条件1)。
【0069】
点線で示されるグルコースの消費加速度は、図5に示すように、2回目の培地交換(ME)までは、ほぼ0(mM/h/h)で推移し、2回目の培地交換(ME)後に少し上昇し、100時間経過時にマイナスに転じている。その後、グルコースの加速度は、図5に示すように、120時間経過時に培地交換(ME)が行われた後、再びプラスに転じて急激に上昇している。
【0070】
このとき、細胞状態表示エリア30bには、図5に示すように、後述する次工程移行判定処理による判定の結果として、細胞の状態を「消費速度が乖離しています。次工程へ進んでください」と表示される。
次に、図6は、細胞培養工程が開始され、4回の培地交換(ME(Medium Exchange))が行われ、144時間が経過した際に表示される表示画面19aを示している。
【0071】
なお、図6に示す例では、細胞培養の開始から、24時間、72時間、120時間、144時間経過時に、培地交換(ME)が行われており、図4および図5と同様に、グラフ表示選択エリア30cにおいてグルコース濃度、消費速度、消費加速度が全て選択された状態を示している。
また、図6に示すグラフは、図5の示すグラフの24時間経過後を示すものではなく、別の例を示している。
【0072】
細胞培養工程の開始から144時間が経過した状態では、図6に示すように、実線で示されるグルコース濃度は、培地X交換(ME)の直後に最大となり細胞Yの培養が進むにつれて徐々に低下していく。特に、3回目の培地交換(ME)後には、グルコース濃度が急激に低下し、4回目の培地交換(ME)後も急激に低下している。
破線で示されるグルコースの消費速度は、図6に示すように、2回目の培地交換(ME)までは、0~0.1(mM/h)の間で推移し、2回目の培地交換(ME)後に徐々に上昇して、0.1(mM/h)を超えた後、130時間経過時にピークとなり144時間までに徐々に低下している。そして、グルコースの消費速度は、図6に示すように、144時間経過時に培地交換(ME)が行われた後、0.3(mM/h)から0.2(mM/h)付近まで急激に下降している。
【0073】
なお、消費速度は、後述する次工程移行判定処理において、所定の条件を満たしているか否かに応じて、次工程へ移行するように促すか否かの判定が行われる。
図6に示す例では、後述する次工程移行判定処理において、例えば、培地交換(ME)が行われた後、消費速度が0.1(mM/h)以上であって、かつ培地Xを交換した直後よりも所定時間(例えば、2時間)内に消費速度が小さくなった場合に、次工程へ進む判定を行う(条件2)。
【0074】
点線で示されるグルコースの消費加速度は、図6に示すように、2回目の培地交換(ME)までは、ほぼ0(mM/h/h)で推移し、2回目の培地交換(ME)後に少し上昇し、120時間経過時に再び0付近に低下し、144時間経過時に培地交換(ME)が行われた後、マイナスの値が大きくなっている。
なお、消費加速度は、後述する次工程移行判定処理において、所定の条件を満たしているか否かに応じて、次工程へ移行するように促すか否かの判定が行われる。
【0075】
図6に示す例では、後述する次工程移行判定処理において、例えば、培地交換(ME)が行われた後、消費速度が0.1(mM/h)以上であって、かつ所定時間(例えば、2時間)内に消費加速度算出部14において算出された消費加速度がマイナス(負)になった場合に、次工程へ進む判定を行う(条件3)。
このとき、細胞状態表示エリア30bには、図6に示すように、後述する次工程移行判定処理による判定の結果として、細胞の状態を「消費速度が低下しています。次工程へ進んでください」と表示される。
【0076】
これにより、使用者は、表示部19の表示画面19aの細胞状態表示エリア30bに表示されたメッセージによって、次工程へ進むように促される。よって、使用者は、例えば、培養容器20を細胞培養装置50から取り出して次工程へ進むように対応することができる。
<次工程移行判定処理>
本実施形態の細胞培養装置50では、以上のような構成により、PC10の制御部11が、培養容器20内の培地Xに含まれるグルコースの消費速度が所定の条件を満たすか否かに応じて、現工程から次工程へ進むか否かを判定する。
【0077】
具体的には、細胞培養装置50のPC10は、図7および図8に示すフローチャートに従って、次工程移行判定処理を実施する。
すなわち、図7に示すように、ステップS11では、表示部19の表示画面19aに表示されたSTARTボタン30dが押下されて細胞培養が開始されると、測定部12がセンサ21を用いて、1分経過ごとに培養容器20内のグルコース濃度を連続的に測定する。
【0078】
次に、ステップS12では、測定部12が、グルコース濃度を所定時間(例えば、1時間)以上、連続して測定したか否かを判定し、1時間以上測定するまでステップS11を繰り返す。
次に、ステップS13では、ステップS12において所定時間(1時間(60点))以上、測定したと判定されたため、制御部11が、直近のグルコース消費量の移動平均(例えば、60点)を算出し、グルコースの消費量の平均値の時系列データに追加する。
【0079】
次に、ステップS14では、消費速度算出部13が、グルコースの消費量を微分処理して、消費量の平均値を示すグラフの勾配、つまり、グルコースの消費速度を算出する。
次に、ステップS15では、消費加速度算出部14が、グルコースの消費速度を微分処理して、消費速度を示すグラフの勾配、つまり、グルコースの消費加速度を算出する。
次に、ステップS16では、培地交換検出部15が、予め設定された所定の培地交換(ME)の時間(例えば、図5に示す例では、24時間、72時間、120時間経過時)であるか否かを判定する。ここで、所定の培地交換時間であると判定された場合には、ステップS17へ進み、所定の培地交換時間ではないと判定された場合には、図8のフローチャートへ進む。
【0080】
次に、ステップS17では、ステップS16において所定の培地交換時間であると判定されたため、培養容器20内の培地Xの交換を行い、再び、ステップS11へ戻る。
培養容器20内の培地Xの交換は、制御部11が、培養容器20に設置された注入ポンプ22および排出ポンプ24を駆動させて、自動的に行われる。
なお、培養容器20内の培地Xの交換は、表示部19の表示画面19aに培地交換を促すメッセージ等を表示することで、例えば、ピペット等を用いて使用者に手動で行わせてもよい。
【0081】
次に、図8に示すように、ステップS21では、図7のステップS16において、培地交換検出部15が、所定の培地交換時間ではないと判定したため、直前に行われた培地交換が完了しているか否かを判定する。
ここで、培養容器20内の培地交換が完了するまで繰り返し判定が行われ、培地交換検出部15が、培地交換が完了していると判定すると、ステップS22へ進む。
【0082】
なお、培養容器20内の培地交換の完了は、例えば、制御部11が、培地交換時に駆動されていた注入ポンプ22および排出ポンプ24が停止したことで、培地交換検出部15によって検出される。あるいは、培地交換検出部15は、表示画面19aに表示されたSTARTボタン30dが操作されて、培地交換時に一時的に停止されていた細胞培養が再開されたことを検出することで、培地交換の完了を検出してもよい。
【0083】
次に、ステップS22では、ステップS21において培地交換が完了したと判定されたため、培地交換後に所定時間(例えば、2時間)が経過しているか否かを判定する。ここで、所定時間経過している場合は、ステップS23へ進み、経過していない場合には、図7のステップS11へ戻る。
次に、ステップS23では、ステップS22において、培地交換が完了してから所定時間(例えば、2時間)が経過したと判定されたため、次工程移行判定部16が、所定時間(2時間)内におけるグルコースの消費速度が所定の条件を満たすか否かを判定する。
【0084】
具体的には、次工程移行判定部16は、ステップS23において、グルコースの消費速度が所定値(例えば、0.1mM/h)以上(条件4)であって、かつ培地交換前との差D(図5参照)が所定値(例えば、0.1mM/h)以上(条件1)であるか否かを判定する。
ここで、上記条件1,4を共に満たしている場合には、次工程移行判定部16は、ステップS24へ進み、上記条件1,4のいずれか1つでも満たしていない場合には、ステップS26へ進む。
【0085】
次に、ステップS24では、ステップS23において、上記条件1,4を満たしていると判定されたため、制御部11が、表示部19を制御して、次工程へ移行するように促すメッセージ等を表示画面19aに表示させる。
次に、ステップS25では、表示画面19aに表示されたメッセージを見た使用者によって、表示画面19aに表示されたSTOPボタン30eが押下され、次工程への移行処理が行われる。
【0086】
これにより、表示画面19aに表示されたメッセージを見た使用者は、次工程へ移行するように対応することができる。よって、細胞の状態に応じて、次工程へ進むべき時期を適切に判定された結果に基づいて、次工程への移行を実施することで、細胞の品質を維持することができる。
一方、ステップS26では、ステップS23において、次工程移行判定部16が、上記条件1,4のいずれか1つを満たしていないと判定されたため、他の条件2,4を満たしていないかを判定する。
【0087】
具体的には、次工程移行判定部16は、ステップS26において、グルコースの消費速度が所定値(例えば、0.1mM/h)以上(条件4)であって、かつ培地交換直後と比較して消費速度が低下している(条件2)であるか否かを判定する(図6参照)。
なお、この条件2の代わりに、図6において点線で示されているグルコースの消費加速度が培地交換後、所定時間(例えば、2時間)内にマイナスになっている(条件3)ことで、次工程移行判定処理が行われてもよい。
【0088】
ここで、上記条件2,4を共に満たしている場合には、次工程移行判定部16は、ステップS24へ進み、上記条件2,4のいずれか1つでも満たしていない場合には、図7のステップS11へ戻る。
(実施形態2)
本発明の他の実施形態に係るPC(Personal Computer)(細胞培養制御装置)210およびこれを備えた細胞培養装置250について、図10および図11を用いて説明すれば以下の通りである。
【0089】
すなわち、本実施形態の細胞培養装置250は、図10に示すように、上記実施形態1において培養容器20に設置されていた注入ポンプ22および排出ポンプ24が設けられていない点で異なっている。
なお、その他の構成についてはほぼ同様であることから、説明の便宜上、同様の機能を持つ構成については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0090】
細胞培養装置250は、図10に示すように、培養容器20に入れられた培地Xにセンサ21の先端が浸漬された状態で設置されている。
そして、PC210は、図11に示すように、上記実施形態1と同様に、制御部11が、センサ21に接続された測定部12を用いて、培地Xに含まれるグルコースの濃度を連続的に測定する。
【0091】
そして、制御部11は、予め設定された培地交換時間になると、手動で培地Xの交換を行うように使用者へメッセージ等を表示するように、表示部19を制御する。
これにより、PC210では、培地交換検出部15において培養容器20に入れられた培地Xの交換が完了したことを検出し、次工程移行判定部16が、上述した条件1~4等を満たすと判定すると、制御部11が、次工程へ移行するように促すメッセージ等を表示部19の表示画面19aに表示させる。
【0092】
この結果、培養容器20に入れられた培地Xの交換を、ポンプを用いることなく手動で実施する場合でも、例えば、培地交換が終了したことを示す入力を受け付けた場合、あるいは、培地交換が完了して一時停止していた細胞培養を再開させるための入力を受け付けた場合には、制御部11が、次工程へ移行するように促すメッセージ等を表示部19の表示画面19aに表示させることで、使用者は、細胞の状態に応じて適切な時期に次工程へ移行して、細胞の品質を維持することができる。
【0093】
(実施形態3)
本発明の他の実施形態に係るPC(Personal Computer)(細胞培養制御装置)310およびこれを備えた細胞培養装置350について、図14から図16を用いて説明すれば以下の通りである。
すなわち、本実施形態の細胞培養装置350は、培養容器320に対して新たな培地Xを追加していくために、図14に示すように、排出ポンプ、排出口および廃液容器を備えていない点で、上記実施形態1の構成とは異なっている。
【0094】
なお、その他の構成についてはほぼ同様であることから、説明の便宜上、同様の機能を持つ構成については同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
具体的には、本実施形態の細胞培養装置350では、PC310が、所定時間が経過するごとに、培養容器320内の培地Xを新しい培地Xに交換する(入れ替える)代わりに、新しい培地Xを培養容器320へ追加するように制御を行う。
【0095】
例えば、所定時間が経過するごとに培養容器320内へ、最初に培養容器320に入れられた培地Xの濃度と同等の新たな培地Xを追加する場合には、培養容器320内の培地Xの量は、図15(a)に示すように、段階的に増加していく。
このとき、新たな培地Xを追加した直後のグルコース濃度は、上記実施形態1のように培地Xの交換ごとに初期濃度まで回復することなく、図15(b)に示すように、100%回復することなく徐々に低下していく。
【0096】
ここで、グルコースの消費速度は、培養容器320内の細胞数、単位細胞数当たりの消費速度が同じ場合には、図16に示すように、培地Xの体積(V,2v,nV)に応じて、所定時間Δt(サンプリングレート)毎のグルコース濃度の変化量は変化する。
つまり、培養容器310内の培地Xを交換するのではなく、培地Xを追加していく場合には、グルコースの濃度変化は、グルコース濃度だけでなく、培地Xの体積にも依存する。
【0097】
本実施形態では、所定時間が経過するごとに培養容器320内へ、最初に培養容器320に入れられた培地Xと同等の濃度の新たな培地Xが追加される。このため、PC310(消費量情報取得部)は、培地Xに含まれるグルコース濃度と、培地Xの体積とに基づいて、グルコースの消費量を算出する。
よって、上記実施形態1で説明した図7のフローチャートは、図17に示すように、ステップS12の後に、ステップS31において、グルコース濃度と培地Xの体積からグルコース消費量を算出する。
【0098】
なお、培地Xの体積は、例えば、培養容器320に最初に入れられた培地Xの体積と、注入ポンプ22の駆動量あるいは予め設定された注入量との和として算出される。
次に、ステップS13では、グルコース消費量を微分して消費速度を算出する。
次に、ステップS14では、消費速度算出部13が、グルコースの消費量を微分処理して、消費量の平均値を示すグラフの勾配、つまり、グルコースの消費速度を算出する。
【0099】
次に、ステップS15では、消費加速度算出部14が、グルコースの消費速度を微分処理して、消費速度を示すグラフの勾配、つまり、グルコースの消費加速度を算出する。
次に、ステップS36では、培地交換検出部15が、予め設定された所定の培地追加であるか否かを判定する。ここで、所定の培地追加時間であると判定された場合には、ステップS37へ進み、所定の培地追加時間ではないと判定された場合には、図8のフローチャートへ進む。
【0100】
次に、ステップS37では、ステップS36において所定の培地追加時間であると判定されたため、培養容器20内へ培地Xの追加を行い、再び、ステップS11へ戻る。
これにより、上述した実施形態と同様に、細胞の状態に応じて適切な時期に次工程へ移行して、細胞の品質を維持することができる。
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0101】
(A)
上記実施形態では、細胞培養制御装置および方法として、本発明を実現した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、上述した細胞培養制御装置の方法をコンピュータに実行させる細胞培養制御プログラムとして本発明を実現してもよい。
【0102】
このプログラムは、細胞培養制御装置に搭載されたメモリ(記憶部17)に保存されており、CPUがメモリに保存された細胞培養制御プログラムを読み込んで、ハードウェアに各ステップを実行させる。より具体的には、CPUが細胞培養制御プログラムを読み込んで、上述した消費量情報取得ステップと、消費速度算出ステップと、培地交換検出ステップと、次工程移行判定ステップとを実行することで、上記と同様の効果を得ることができる。
【0103】
また、本発明は、細胞培養制御プログラムを保存した記録媒体として実現されてもよい。
(B)
上記実施形態では、次工程へ進むように促すメッセージ等を表示する表示部19を備えたPC10を、細胞培養制御装置として用いた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0104】
例えば、表示部にメッセージを表示する代わりに、次工程へ進むように促すメッセージ等を含むメールを、使用者が所有する携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、PC等へ送信する通信部111(図9参照)を備えたPC(細胞培養制御装置)110であってもよい。
また、例えば、表示部にメッセージを表示する代わりに、音声や光、振動等で次工程へ進むべき時期であることを使用者に報知する構成であってもよい。
【0105】
(C)
上記実施形態では、図2に示すように、PC10が、グルコースの消費速度をさらに微分処理して消費加速度を算出する消費加速度算出部14を備えている例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、上述した条件1~4のうち、条件1または2を用いて次工程移行判定処理を実施する場合には、消費加速度は判定条件に用いられないため、消費加速度算出部のない構成であってもよい。
【0106】
(D)
上記実施形態では、図8に示すように、上述した条件1,4(ステップS23)および条件2,4(ステップS26)を満たすか否かの判定をともに実施する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、図12に示すように、ステップS26を削除して、ステップS21~ステップS25までの処理によって、次工程移行判定処理が実施されてもよい。
【0107】
あるいは、図13に示すように、ステップS23の代わりにステップS26を実施することで、次工程移行判定処理が実施されてもよい。
(E)
上記実施形態では、次工程移行判定部16が、上述した条件1~4のうち、条件1,4または条件2,4を満たす場合に、次工程移行判定処理を実施する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0108】
例えば、センサの分解能が高い場合にはノイズの影響を受けるおそれがないため、条件4の「消費速度が所定値(例えば、0.1mM/h)以上」という条件4を除き、条件1または条件2あるいは条件3のみを満たすか否かに応じて、それぞれ次工程移行判定処理が行われてもよい。
(F)
上記実施形態では、条件1~4において、所定時間(例えば、2時間)、消費速度が所定値以上(例えば、1.0mM/h)、消費速度の差が所定値以上(例えば、1.0mM/h以上)という閾値がそれぞれ設定されている例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0109】
例えば、各条件1~4のために設定される閾値は、使用者によって適宜変更が可能であって、細胞培養の環境、各種条件に応じて適切な値に変更されてもよい。
(G)
上記実施形態では、センサ21に接続された測定部12において、培地Xに含まれるグルコースの濃度を測定・取得する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0110】
例えば、外部の測定装置によって測定された培地に含まれる栄養素の測定結果を無線あるいは有線の通信を介して取得して、次工程移行判定処理を実施する構成であってもよい。
(H)
上記実施形態では、培地Xを交換する時期として、24時間、72時間、120時間、144時間経過時(1日、3日、5日、6日経過時)が設定された例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0111】
例えば、培地交換の時期としては、上記経過時間に限定されることなく、他の設定時間であってもよい。
また、数時間、数分等、上記実施形態よりも短いスパンで培地交換が行われるように設定されていてもよい。そして、その短いスパンでの培地交換が行われるごとに、次工程へ進むか否かの判定が行われてもよい。
【0112】
また、上記実施形態では、培地交換を行う条件として、予め設定された培地交換時間になったことを条件として設定されているが、培地を交換する条件として、時間経過以外に、例えば、グルコースの消費速度、消費加速度等が所定の条件を満たした場合を条件として設定されていてもよい。
(I)
上記実施形態では、次工程へ進むように促すメッセージとともに、現工程を終了させるボタン(STOPボタン30e)を表示部19に表示する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0113】
例えば、次工程へ進むように促すボタンは、表示部に表示させる構成に限らず、別途設けられた手動操作されるボタンであってもよい。
(J)
上記実施形態では、本発明の細胞培養制御装置がPC10の中に設けられている例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0114】
例えば、PCの形態としてではなく、細胞培養制御装置、測定装置、培地交換装置としての専用の機器がそれぞれ設けられており、それぞれが連携して上述した次工程移行判定処理を実施する構成であってもよい。
(K)
上記実施形態では、培地Xに含まれる栄養素として、グルコースの濃度を消費量情報として測定する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0115】
例えば、培地に含まれる栄養素として、乳糖(ラクトース)、アミノ酸等を取得あるいは測定する装置であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の細胞培養制御装置は、細胞の状態に応じて次工程へ進むべき時期を適切に判定することができるという効果を奏することから、細胞培養を行う装置に対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0117】
10 PC(細胞培養制御装置)
11 制御部
12 測定部(消費量情報取得部、測定部)
13 消費速度算出部
14 消費加速度算出部
15 培地交換検出部
16 次工程移行判定部
17 記憶部
18 入力部
19 表示部
19a 表示画面
20 培養容器
21 センサ
22 注入ポンプ
22a 注入口
23 培地貯蔵容器
24 排出ポンプ
24a 排出口
25 廃液容器
30a グラフ表示エリア
30b 細胞状態表示エリア
30c グラフ表示選択エリア
30d STARTボタン
30e STOPボタン
50 細胞培養装置
110 PC(細胞培養制御装置)
111 通信部
210 PC(細胞培養制御装置)
250 細胞培養装置
310 PC(細胞培養制御装置)
320 培養容器
350 細胞培養装置
D 差
X 培地
Y 細胞
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17