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特許7407987量子センサーを使用したプロテオームアッセイ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】量子センサーを使用したプロテオームアッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20231222BHJP
   G01N 24/10 20060101ALI20231222BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231222BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20231222BHJP
   G01N 33/551 20060101ALI20231222BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20231222BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N24/10 510S
G01N33/53 D
G01N33/543 501P
G01N33/551
C12N15/115 Z
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023017693
(22)【出願日】2023-02-08
(62)【分割の表示】P 2021133267の分割
【原出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2023071681
(43)【公開日】2023-05-23
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】15/917,524
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505373306
【氏名又は名称】ソマロジック オペレーティング カンパニー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】クリーブランド,ジェイソン ポール
(72)【発明者】
【氏名】ホルツァー,カロリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァント-ハル,バリー パトリック ジョン
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0062957(US,A1)
【文献】特表2005-512022(JP,A)
【文献】米国特許第09759719(US,B1)
【文献】特表2010-533499(JP,A)
【文献】特開2014-095025(JP,A)
【文献】特開2016-205954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
G01N 24/10
G01N 33/48 - G01N 33/98
C12N 15/115
C12M 1/00 - C12M 3/10
C12Q 1/00 - C12Q 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル液中のラベルフリーの標的分子の濃度を測定する方法であって、
基板の表面に付着した複数の捕捉試薬が前記サンプル液と接触するように、前記基板を前記サンプル液に曝露する工程であって、ここで前記複数の捕捉試薬は、第1のラベルフリー分子に結合するように構成された第1の捕捉試薬と、前記第1のラベルフリー分子とは異なる第2のラベルフリー分子に結合するように構成された第2の捕捉試薬とを含む、前記曝露する工程と、
前記基板内の少なくとも1つの色中心からの電磁放射線の放出に基づき前記第1のラベルフリー分子と前記第1の捕捉試薬との間の結合に応答した前記少なくとも1つの色中心の性質の変化を検出する工程と、
検出された前記変化に基づき、前記サンプル液中の前記第1のラベルフリー分子の濃度を測定する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1および第2のラベルフリー分子がタンパク質であり、前記第1および第2の捕捉試薬がアプタマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各アプタマーが、それぞれ少なくとも1つの5位が修飾されたピリミジンを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基板が、ダイヤモンド結晶を含み、前記少なくとも1つの色中心が、前記ダイヤモンド結晶の窒素-空孔中心である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記性質が、前記色中心の磁気共鳴に関連する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
電磁放射線の放出を誘導するように構成された第1の波長範囲を有する放射線で前記少なくとも1つの色中心を照射する工程を更に含む方法であって、前記放出された電磁放射線は、前記第1の波長範囲と同一ではない第2の波長範囲を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの色中心の電子の基底状態の下位レベルの共振周波数を含む周波数範囲を有するマイクロ波の放射で前記少なくとも1つの色中心を照射する工程を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の捕捉試薬が、それぞれ磁気スピンラベルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記表面は、それぞれが前記第1の捕捉試薬を1つしか含まない別の領域のアレイを含み、前記少なくとも1つの色中心は、前記第1の捕捉試薬の1つとそれぞれ関連する複数の色中心を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
サンプル液中のラベルフリーの標的分析物を検出する方法であって、
表面に付着した少なくとも2つの捕捉試薬をサンプル液に曝露する工程であって、ここで各捕捉試薬はそれぞれ異なるラベルフリーの標的分析物に結合するように構成され、前記表面は複数の色中心に近接して配置される、前記曝露する工程と、
異なるラベルフリーの標的分析物の1つが対応する捕捉試薬の1つに結合することに応答して、複数の色中心のうちの第1の色中心の性質の変化を検出する工程と、
を含む、方法。
【請求項11】
前記変化を検出する工程は、前記第1の色中心からの電磁放射線の放射を光検出器によって検出することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記光検出器は、前記複数の色中心のうちの前記第1の色中心のみからの放出を検出するように構成される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記捕捉試薬がアプタマーである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記アプタマーがそれぞれ磁気スピンラベルを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ラベルフリーの標的分子を検出する方法であって、
表面に付着した複数の捕捉試薬のうちの第1の捕捉試薬によってサンプル液から第1のラベルフリーの標的分子を捕捉する工程であって、ここで前記第1の捕捉試薬は前記第1のラベルフリーの標的分子に結合するように構成された第1の種に属し、前記複数の捕捉試薬は、第2のラベルフリーの標的分子に結合するように構成された第2の種に属する第2の捕捉試薬を更に含む、前記捕捉する工程と、
前記表面に隣接して配置された色中心からの第1の電磁放射線の放出に基づいて、前記第1の捕捉試薬による前記第1のラベルフリーの標的分子の捕捉を検出する工程と、
を含む、方法。
【請求項16】
前記第1および第2のラベルフリー分子がタンパク質であり、前記第1および第2の捕捉試薬がアプタマーである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の捕捉試薬が、5位が修飾されたピリミジン塩基を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
第2の電磁放射線によって前記色中心を励起することにより、前記色中心からの第1の電磁放射線の放出を引き起こす工程を更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
第1のラベルフリーの標的分子の捕捉を検出する工程が、光検出器によって第1の電磁放射を検出することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の捕捉試薬が磁気スピンラベルを含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテオーム解析の最初のステップにおける、血液または尿などの生体液中の数百または数千のタンパク質の同時検出に関する。特に本発明は、当該検出を、質量分析またはクロマトグラフィー的方法を用いることなく達成し、かつ、コンパクトで、安価で、再利用可能である器具の使用を可能にする、ラベルフリーアッセイを使用する。
【背景技術】
【0002】
従来より、遺伝子の活性を評価するための、または疾患のプロセスもしくは薬理作用の生体プロセスを含む生体プロセスを解読するための様々な試みは、遺伝子に焦点を当ててきた。しかしながら、プロテオミクスは、細胞および生物の生体機能についてのさらなる情報を提供し得る。プロテオミクスは、遺伝子レベルよりタンパク質レベルに関する発現を検出および定量化することによる遺伝子活性の定性的および定量的な測定を含む。またプロテオミクスは、タンパク質の翻訳後修飾およびタンパク質間の相互作用などの、遺伝的にコードされていない事象の研究を含む。
【0003】
現在、大量のゲノム情報を入手することが可能である。DNAチップは、この目的のための分子アレイとして実用的に使用されており、直接的なDNAシーケンスの値段は、著しく減少し続けている。また、高スループットプロテオミクスに関する需要が高まっている。DNAよりも生物学的機能においてより複合的であり可変性であるタンパク質を検出するために、チップが提案されており、これは現在多くのアプリケーションのための集中的な研究の対象である。プロテオミクスは、健康のモニタリングに関してゲノムよりもはるかに好ましく、これはゲノムが静的であり、医学上の可能性のみを表すのに対し、プロテオームは、患者の病態で動的に変動し、さらにはそれらの病態を定義すると言われるからである。しかしながら、タンパク質を検出および定量化することは困難であり、対して核酸を検出および定量化することは、比較的容易である。このことは、タンパク質濃度の代わりにmRNA(メッセンジャーRNA)の濃度を測定する多くの試みを動機づけた。残念なことに、mRNAの濃度は、タンパク質の濃度と良好に相関しないことが示されている。プロテオミクスは、タンパク質を直接検出する技量に必然的に依存すると思われる。
【0004】
「タンパク質チップ」は、当該タンパク質を捕捉するためのタンパク質または分子(捕捉試薬)がチップの表面に固定され、タンパク質の結合の検出を可能にする、いずれかの装置を指すために使用される集合的な用語である。近年まで、タンパク質チップ上の捕捉試薬は、圧倒的に抗体であった。生体液などの複雑な混合物における特定のタンパク質の検出は、高い特異性を必要とし、よって抗体を利用する多くのタンパク質チップが、特異性をブーストするためのサンドイッチアッセイにも依存する。このようなアッセイは、プロテオミクスにとって重要な欠点を有することが知られており、そのうちのいくつかは、タンパク質および/または抗体に特異的であり、そのうちのいくつかは、サンドイッチアッセイに特異的である。
【0005】
現在、プロテオミクスのデータを定期的にヒトの対象から集めることが可能な経済的に実行可能な手段は存在しない。サンプルのプロテオミクスの測定は通常、検出および定量化のため様々な質量分析技術と組み合わせたサンプル調製のための様々なクロマトグラフィー技術によって達成される。これらの手法に使用される器具は、高価であり大きく、よって、サンプルは通常、中央処理施設に発送されなければならない。サンプルを輸送する必要性は、サンプルが、発送の間の保管のために収集時に処理されるか、または輸送が可能となるまでその場で保存されることを必要とする。残念なことに、調製および保管のプロトコルは、場所により、さらには同じ場所の中であっても幅広く変動する傾向がある。これらのプロトコルにおける差異は常に、プロテオミクス測定の下流に有意な変動をもたらし、分析を困難または不可能にする。
【0006】
理想的なプロテオミクス収集装置は、完全に固体の状態での作業(移動部分がほとんどない)に近づき、試薬の使用が最小限であるようにラベルフリーの検出技術を利用することにより、費用を最小限にし、無限の測定のため再利用可能であり、かつ少量の生体液で作動する。サンプルの調製および保管プロトコルの変動によるサンプル解析の変動は、サンプル調製を最小限にするかまたは排除することにより、および所定の場所および時間および収集でサンプル測定を行い、サンプルの保管および輸送を排除することにより、低減され得る。
【0007】
新規分類の、非タンパク質ベースの捕捉試薬が、核酸分子で見出されている。長年にわたる定説は、核酸は第1に情報的な役割を有するということであった。場合によりSELEXプロセスとも称されるSELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)として知られる方法を介して、核酸が、タンパク質とそれほど異なるものではない3次元構造的多様性を有することが明らかとなっている。SELEXプロセスは、標的分子に非常に特異的に結合する核酸分子のin vitro進化のための方法であって、それぞれが本開示に参照により組み込まれている、1990年6月11日に出願の、表題「Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment,の米国特許仮出願番号第07/536,428号、現在は放棄されている米国特許第5,475,096号(表題”Nucleic Acid Ligands”)、米国特許第5,270,163号(同様に国際特許公開公報第91/19813号参照)(表題「Nucleic Acid Ligands」)に記載されている。これらの各公開公報は、集合的に、本明細書中でSELEX特許出願と称され、いずれかの望ましい標的分子に対する核酸捕捉試薬を作製するための方法を記載する。
【0008】
SELEXプロセスは、核酸リガンドまたはアプタマーと称されるクラスの生成物を提供し、生成物はそれぞれが固有の配列を有し、望ましい標的化合物または分子に特異的に結合する性質を有する。SELEXにより同定される核酸捕捉試薬はそれぞれ、所定の標的の化合物または分子の特異的なリガンドである。SELEXプロセスは、核酸が、モノマーまたはポリマーであるかにかかわらず、実質的に任意の化学化合物とリガンドとして作用する(特異的な結合対を形成する)ためにそれらのモノマー内で利用可能な、様々な二次元および三次元の構造を形成するために十分な特質ならびに十分な化学的多用途性を有するという固有の知見に基づく。任意の大きさまたは組成の分子が標的として作用し得る。
【0009】
高親和性結合の適用に適したSELEX法は、結合親和性および選択性の実質的に任意の望ましい基準を達成するために、同じ一般的な選択スキームを使用する、候補のオリゴヌクレオチドの混合物からの選択、ならびに結合、分離、および増幅の段階的な繰り返しを含む。核酸、好ましくは無作為化された配列のセグメントを含む核酸の混合物から開始して、SELEX法は、結合に好ましい条件下で標的と混合物を接触させるステップと、標的分子に特異的に結合している核酸から結合していない核酸を分離するステップと、核酸-標的複合体を解離するステップと、核酸-標的複合体から解離した核酸を増幅してリガンドを多く含む核酸の混合物を生じた後、必要に応じたサイクルを通じて結合するステップ、分離するステップ、解離するステップ、および増幅させるステップを繰り返して、標的分子に対して著しく特異的な高親和性の核酸リガンドを生じるステップとを含む。
【0010】
SOMAmer(Slow Off-rate Modified Aptamers)は、解離(off-rate)の特徴が改善されたアプタマーである。この解離の特徴の改善は、解離速度(t1/2)またはアプタマー/標的複合体の50%が解離された時点として表され得る。このような解離速度は、一般的に、5、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、および240分超から変動し得、これは、タンパク質-アプタマー複合体が解離する平均時間である。さらにSOMAmerは、異なる一体型の(built-in)官能性を提供する修飾されたヌクレオシドを含む。これらの官能性は、固定化のためのタグ、検出のためのラベル、分離を促進または制御するための手段、タンパク質との良好な親和性を提供するための疎水性側鎖などを含み得る。タンパク質との親和性を改善するための修飾は、ピリミジン塩基の5位に結合される化学基である。5位を官能基付与することにより(たとえばベンジル基、ナフチル基、またはインドール基で)、SOMAmerの化学的な多様性が拡大し、より幅広い範囲の標的分子との高親和性結合を可能にする。さらに、いくつかのポリメラーゼは、これらの位置の修飾を伴うDNAをさらに転写でき、よって、SELEXプロセスに必要な増幅を可能にする。SOMAmerおよびこれらを作製するための方法は、それぞれが本開示に参照により本明細書中組み込まれる、米国特許第7,964,356号および同第7,947,447号(両表題は「Method for generating aptamers with improved off-rates」に)記載されている。
【0011】
アプタマーおよびSOMAmerは、SELEXプロセスにより発見され得るが、これらを選択するための他の手段が存在し得ることに留意されたい。たとえば、分子的相互作用のコンピュータモデリングが向上しているため、アプタマーに関し理想的な核酸配列およびSOMAmerに関し関連する化学的修飾を直接計算して所定の標的分子に特異的な捕捉試薬を作製することが可能になり得る。SELEX以外のアプタマーおよびSOMAmerをスクリーニングするための他の化学的技術もまた可能である。
【0012】
生体サンプルおよび他のサンプル中の生理的に重要な分子の検出および定量化を目的とするアッセイは、科学的研究およびヘルスケアの分野において重要なツールである。このようなアッセイの他のクラスは、固体の担体に固定された1つ以上のアプタマーを含むマイクロアレイの使用を含む。これらのアプタマーはそれぞれ、特異性の高い様式でおよび非常に高い親和性にて標的分子にそれぞれ結合できる。たとえば、米国特許第5,475,096号(表題「Nucleic Acid Ligands」)、同様に同第6,242,246号、同第6,458,543号、および同第6,503,71号(それぞれ表題が「Nucleic Acid Ligand Diagnostic Biochip」である)を参照されたい。これらの特許は、本開示に参照によって本明細書に組み込まれている。マイクロアレイがサンプルと接触されると、アプタマーは、サンプルに存在する各標的分子に結合し、これによりサンプル中の標的分子の非存在、存在、量、および/または濃度を決定できる。
【0013】
ラベルフリーのアッセイは、非常に望ましいと考えられているが、常に達成できるわけではない。ラベルは、分子の存在または活性を検出するために目的の分子に化学的または一時的に付着される任意の外来性分子である。ラベルフリーのアッセイは、分子の存在または活性をモニタリングするために、分子量、分子の電荷、比誘電率、または(本発明の場合では)アプタマーに対する親和性などの分子の生物物理的な性質を利用する。本発明のいくつかの実施形態は、表面に付着したアプタマーに関連するスピンラベルを利用する。このスピンラベルは、目的の分子(たとえばタンパク質)とは反対に検出系の成分(たとえばアプタマー)に付着されるため、本発明は、ラベルフリーアッセイとみなされる。多くの感受性の高いアッセイは、分析物が検出可能なタグで「ラベル」されることを必要とする。このタグまたはラベルは、色素、放射性同位体、または容易に測定される他のいずれかのものであり得、これによって代理で分析物を測定し得る。
【0014】
ELISAアッセイ(酵素結合免疫吸着測定法)は、その高い感受性および特異性のためイムノアッセイの「絶対的基準」とみなされているが、ラベルフリーとはみなされない。ELISAは、分析物上の異なる結合点(エピトープ)に特異的な2つの抗体を使用し、ラベルフリーとは反対に「サンドイッチアッセイ」である。抗体の1つは表面に固定され、サンプル液由来の分析物を捕捉する。第2の抗体は、特定の添加剤中の検出可能な変化を触媒する酵素に連結される。分析物が固定した抗体によって捕捉された後、この表面を洗浄して望ましくない分子を除去し、第2の抗体を添加した後、洗浄を行い、通常は検出可能な色素へと触媒される添加剤を添加する。第2の抗体は、特異性および検出可能性を付与するが、それはまた費用の高い試薬を含むいくつかのステップをも必要とする。このアッセイのラベルフリーな形態は、第1の抗体、および分析物の結合を検出するいくつかの手段のみから構成される。
【発明の概要】
【0015】
タンパク質チップを含むバイオチップは、他の分子を無視しつつ、サンプル中の特異的な分析物を検出する手段を必要とする。本技術により記載される検出装置および方法は、光検出磁気共鳴(ODMR)または他の技術を介してプローブされ得る固体の表面の近くに位置する色中心に基づく。色中心は、はダイヤモンド、炭化ケイ素、またはシリカなどの理想的な透明の結晶性の絶縁体または大きなバンドギャップの半導体に近い点欠陥である。これらは、結晶中の原子が別の種類の原子により置き換えられている置換欠陥、原子が存在していない空孔欠陥、またはこの2つの組み合わせからなり得る。
【0016】
色中心は、遊離原子に類似している局在化された電子軌道を有する。この電子状態は、主量子数、軌道量子数および磁気量子数の観点から順序付けられており、荷電されるか、中性であるか、またはその両方である場合に安定であり得る。色中心を囲む幅広いバンドギャップまたは絶縁性の結晶は、色中心を分離する「真空(vacuum)」の役割を果たす。十分に低い密度では、これは、長い緩和時間を有する電子/核のスピン状態と共存する可視域で離散する光学的な遷移を伴う(よって「色中心」と称される)、豊富で良好に分割される複合エネルギースペクトラムを有する独立した「原子様」の実体をもたらす。
【0017】
特に興味深いのは、その蛍光強度がスピンの分極状態(すなわち基底状態の磁気量子数)に依存する色中心である。この場合、磁気の下位レベルの集合が蛍光強度に反映され、磁気共鳴の光学的な検出を可能にする。ODMRは本質的に、磁気の下位レベルの遷移による無線周波数(RF)またはマイクロ波周波数の検出物をはるかに高いエネルギー光子の検出に変換するため、それは感度において(約5桁の大きさ)および強い蛍光に関して明らかな利点を有し、個別の色中心の光学的な観察を可能にする。
【0018】
このようなODMRが可能な色中心の例は、ダイヤモンド結晶における窒素-空孔(NV)である。本発明に記載される好ましい実施形態は、検出のためダイヤモンド中のNV中心を利用するが、本発明は他の色中心も使用できる。ダイヤモンド自体は、500を超える既知の色中心を有し、大部分は窒素に関連している。ダイヤモンド格子中の可能性のある置換として知られている他の元素としては、ニッケル、ホウ素、ケイ素、水素、およびコバルトが挙げられる。他の結晶格子中の色中心としては、たとえば、ゲルマノケイ酸塩ガラス中のゲルマニウム関連の欠陥、炭化ケイ素中のケイ素の欠陥、およびLiBaF結晶中のX線により誘導される欠陥が挙げられる。
【0019】
名称が暗示するように、NV中心は、格子中の隣接する空孔の隣に位置する炭素原子に対する窒素置換からなる。これは図1に示され、それはダイヤモンド結晶の概略図であり、一般に100で示され、104で示されるNV中心を含む。NV中心は、その電子のスピン状態と光学状態の間の固有のカップリングを伴う常磁性色中心である。これは、強く安定な蛍光(すなわち短い寿命の励起状態と組み合わされた大きな吸収係数)を発することができ、非常に長い磁気緩和時間も呈し、磁場または電場などの局所的な性質の感度のある検出器となる。ダイヤモンド自体は、機械的、熱的、および化学的に非常に安定である。同時に、ダイヤモンドの表面は、化学的修飾に適しており、これは分子学的作用物質を結合するために有用である。純粋なダイヤモンドは、光学的に透明であり、蛍光中心の自由な励起および放出を可能にし、この蛍光はまた、光退色を呈さず、および最小のルミネッセンス間欠性(「点滅(blinking)」を呈する。これらのすべての性質の組み合わせにより、NV中心は、非常に感度の高いバイオセンシングのための良好な候補となる。
【0020】
本開示は、表面に付着された捕捉試薬に標的分子が結合する際に、基板の表面近くに配置される1つ以上の色センサーの性質における変化に基づき、サンプルにおける標的分子を検出するための装置、システム、および方法を記載する。検出器は、色中心の性質における変化を検出することにより、サンプル中の標的分子を検出するように構成され得る。場合により、標的分子はタンパク質であり、捕捉試薬はアプタマーである。場合により、色中心は、ダイヤモンド中に配置されたNV中心であり、性質の変化は、蛍光放射の変化である。場合により、多数の、たとえば数百、数千、数万、またはさらにはそれより多いタンパク質種が、1つのアッセイで標的化され得る。
【0021】
本技術は、ダイヤモンド表面などの表面上でのアプタマーまたはSOMAmerの付着、および望ましくないタンパク質による非特異的な結合に対するアプタマーまたはSOMAmerと結合しない表面の領域のパッシベーションに関与する。また本技術は、さらなる数ラウンドのタンパク質検出のための、表面に付着されるアプタマーまたはSOMAmerの再生に関与する。
【0022】
本技術は、バイオチップの活性表面への多量の流体の送達に関連するものを除き全ての移動部分を排除することを目的とする。これらの流体は、サンプル液、洗浄液、およびバイオチップの再生のために使用される流体を含む。提案される検出のためのスキームは、ラベルフリーの方法であり、目的のタンパク質の測定を可能にするためにサンプルに検出剤が添加される必要のないことを意味する。活性表面の再生は、非破壊的であり、アプタマーまたはSOMAmerからタンパク質を解離するための軽度のバッファーウォッシュのみを必要とする。NV中心は極めて安定であり、アプタマーおよびSOMAmer自体は非常に安定であり、数百回の使用が可能である。
【0023】
より具体的には、サンプル液が活性表面と接触した後、タンパク質を、固定されたアプタマーと結合させるためにいくらかの時間が必要である。この結合時間はまた、タンパク質がバルク液から表面へ拡散するために必要な時間を含み、これは数時間かかり得る。この結合時間の間、サンプル液は静的であり得るが、未結合のタンパク質を表面に近づけるために流体を撹拌または再循環し、それにより拡散する必要がある距離を減らすことがより一般的である。結合ステップが完了した後に、未結合のタンパク質を除去するために表面を洗浄することが一般的である。この洗浄は一般に、リン酸緩衝液などの、サンプル液と類似するバッファー溶液、または蒸留水を用いて行われる。特異性の高い検出が必要とされる場合、洗浄は、高い塩濃度、低濃度(<1M)の尿素などの軽度の変性剤を使用するか、または目的のタンパク質に対する競合剤を含むことにより、より強化され得る。このような競合剤は、たとえばタンパク質と競合するアルブミン、または核酸と競合するヘパリンが、一般的であり得る。様々なバルク形態の核酸、たとえばサケの精子のDNA、またはバルクで合成されたランダムDNAもまた使用され得る。競合相手もまた特有であってよく、たとえば、目的のタンパク質に類似のタンパク質、またはヒトタンパク質と競合する非ヒトのタンパク質の使用がある。結合に関して、洗浄液は静的であり得るかまたは撹拌されてよく、表面からバルク液中への拡散のためにいくらかの時間が必要である。
【0024】
本技術は、たとえば試験対象のトイレの中といった収集場所でアッセイおよび解析を行うことによりサンプル解析におけるほとんどの不一致を排除する。収集容器(すなわちトイレ)内の新鮮な尿をアッセイおよび解析することは、関連する不一致に加え、サンプルを保存および輸送する必要性を排除する。
【0025】
消費者のレベルで規定のプロテオミクスを安価に行うこの能力は、科学およびヘルスケアに深い影響を与えるであろう。プロテオミクス科学は、意味のある解析に必要な多数の質の良いサンプルの単純な欠如のため、その可能性に大きく後れを取っている。本技術は、このようなサンプルの収集および解析の両方を著しく容易にする。良好なプロテオミクス科学は、良好な医療の診断予測をもたらす。しかしながら、このような診断予測は、患者由来のサンプル収集および分析が容易でない場合、ヘルスケアにおいてほとんど実用的でない。よって、良好なプロテオミクス科学を提供し、本技術はまた、ヘルスケア科学での容易な使用を提供するであろう。
【0026】
本技術に係るシステムおよび方法の様々な他の性質は、本開示に記載されている。性質、機能、および利点は、本開示の様々な実施形態において独立して達成され得るか、またはさらなる他の実施形態で組み合わせられてよく、このさらなる詳細は、以下の説明および図面を参照して理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、ダイヤモンド中の窒素-空孔中心を表す模式図である。
図2図2は、本技術の態様に係る標的分子検出の略図である。
図3A図3Aは、本技術の態様に係る、標的分子を検出するために使用され得る相互作用機構の略図である。
図3B図3Bは、本技術の態様に係る、標的分子を検出するために使用され得る別の相互作用機構の略図である。
図4図4は、本技術の態様に係る、ダイヤモンド窒素空孔(NV)中心での電子エネルギーレベル、およびこれらのレベル間の遷移の略図である。
図5図5は、本技術の態様に係る、NV中心の例示的な光の吸収および放出スペクトルを表す。
図6図6は、本技術の態様に係る、NV中心の光学的な読み取りおよびスピン偏極の略図である。
図7A図7Aは、本技術の態様に係る、NV中心に関連する励起および放出のパルスの略図である。
図7B図7Bは、本技術の態様に係る、結合した標的分子の非存在下および存在下での時間の関数として強度を比較する、NV中心の放出強度のグラフ表示である。
図8A図8Aは、本技術の態様に係る、標的分子を検出するための装置の第1の例示的な構成を表す。
図8B図8Bは、本技術の態様に係る、標的分子を検出するための装置の別の例示的な構成を表す。
図8C図8Cは、本技術の態様に係る、標的分子を検出するための装置のさらなる別の例示的な構成を表す。
図8D図8Dは、本技術の態様に係る、標的分子を検出するための装置のさらなる別の例示的な構成を表す。
図9図9は、本技術の態様に係る、標的分子を検出するための装置のさらなる別の例示的な構成を表す。
図10図10は、本技術の態様に係る、標的分子を検出する方法における例示的なステップを表すフローチャートである。
図11図11は、本技術の態様に係る、標的分子を検出する別の方法における例示的なステップを表すフローチャートである。
図12図12は、本技術の態様に係る、標的分子を検出するさらなる別の方法における例示的なステップを表すフローチャートである。
図13図13は、本技術の態様に係る、標的分子を検出するための装置を製造する方法における例示的なステップを表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、ダイヤモンド中の窒素-空孔中心を表す模式図である。その純粋な形態において、ダイヤモンド結晶100は、炭素原子101のみからなる。窒素原子102がダイヤモンド結晶中の炭素原子と置き換わり、結晶中の空孔103に隣接して配置される場合、窒素-空孔中心104が作製される。
【0029】
図1でわかるように、各炭素は4つの同一の結合パートナーを有するため、どのように空孔が窒素置換に関連して配置されるかに応じてNV中心の軸が位置し得る4つの結晶学的な方向が存在する。これらは、
【数1】
の方向である。さらに、いずれかの所定の方向において、窒素置換および空孔のオーダーは反転し得、よって、実際には8つの固有のNV中心の構成が存在する。
【0030】
NV中心と分子の相互作用は、NV中心に対するの距離だけではなく、この2つの相対的な方向にも依存する。さらに、励起および検出される光に関する光学的な方向が存在する。ダイヤモンド結晶のどの面が検出面として使用されるかを選択する際に、これらの留意事項の全てが考慮されなければならない。
【0031】
窒素-空孔中心は、所定の深度で窒素不純物および空孔を導入すること、次に、窒素不純物に対し拡散を介して空孔を配列させる、1000K~1300Kで焼きなますことにより、所望の深度でダイヤモンドなどの結晶構造中に埋め込まれ得る。窒素欠陥は、ダイヤモンドマトリックスの化学蒸着(CVD)中の窒素パルスを介するか、または析出が完了した後のイオンビーム注入により、所望の深度で注入され得る。空孔は、e-[54]、H+[55]またはHe+のイオンビームを介して注入または作製され得る。
【0032】
天然のダイヤモンドは、約1%の13Cを含み、それは1/2の核スピン(核の常磁性である)を有しよってNV中心と相互作用するため、NV中心の緩和時間は、CVDを使用して既存の結晶上に同位体的に純粋な12Cのダイヤモンドの蒸着層を成長させること、およびこの層内にNV中心を作製することにより、増大され得る。同様に、15Nの1/2核スピンは、14N同位体の核スピン1よりも好ましい。また、窒素置換はスピンを保有するため、NV中心へと変換され得る窒素のパーセンテージが大きいほど、磁気の観点からサンプルはより透明になる。
【0033】
適切なCVD条件下では、作製されるNV中心の配向は、著しく偏りがあり得る。すなわち、可能性のある8つ全ての配向が等しく投入されるよりはむしろ単一の配向が、他のものよりも優先的に起こり得る。99%のもの高いアライメントが可能であり得る。このことは、NV中心の全てが同一でありかつ最適に配向され得る装置を作製するために非常に有用であり得る。たとえば、ダイヤモンドの検知表面が(111)面であり、大多数のNV中心が[111]方向に沿って配向され得る場合、これらは全て、検知表面に対し垂直に配向され得る。
【0034】
本技術のいくつかの実施形態では、さらなる検出電子機器が存在する、シリコンなどの別の基板に付着された非常に薄い層のダイヤモンドを作製することが望ましい。イオン注入に関する別の使用は、たとえば水素原子を使用して、厚いダイヤモンド結晶中に特定の深度で「破壊層(break layer)」を挿入することである。他の基板に厚いダイヤモンド結晶を結合した後に、ダイヤモンドは、機械的に衝撃を与えられてよく、破壊層に沿って破損し、ダイヤモンド結晶の薄い層を残すであろう。同様の技術が、半導体業界ですでに使用されている。
【0035】
図2は、本技術の態様に係る、標的分子検出の略図である。捕捉試薬200は、色中心204のすぐ近くにある基板203(たとえば結晶膜、ダイヤモンド膜、および/または単結晶ダイヤモンドなどの高純度の絶縁体)の表面202に付着される。色中心が励起光208(たとえば光源209からの)で照射される場合、それは、スペクトラムおよび強度により特徴づけられる蛍光210を発するように刺激される。捕捉試薬200は、サンプル液211と接触され(たとえばサンプル液に表面202を曝露することにより)、それにより、サンプル溶液中の標的分析物206(標的分子とも呼ばれる)が捕捉試薬200に結合して複合体212を形成し、それにより、色中心との相互作用214をもたらすかつ/または変化させ、これは、放出された蛍光216の性質(たとえば強度)における検出可能な変化をもたらす。相互作用214において、色中心は、捕捉試薬への標的分子の結合の際に電場の変化または磁場の変化を検出し得る。色中心の性質(たとえば色中心の磁気共鳴またはスピンに関連する性質)は、相互作用214により変えられ得る。
【0036】
サンプル液は、生体液であり得る。捕捉試薬200は、核酸分子、オリゴヌクレオチド、アプタマー、SOMAmer、または標的分子に結合するように構成された他の任意の結合剤であり得る。いくつかの例では、捕捉試薬は、少なくとも5位が修飾されたピリミジン(すなわち、5位が修飾された、ウリジンまたはシチジンなどのピリミジン)を含む。いくつかの例では、異なる種類の5位が修飾されたピリミジンが、表面に付着される。たとえば、少なくとも1つの5位が修飾されたウリジンおよび少なくとも1つの5位が修飾されたシチジンが表面に付着され得る。
【0037】
標的分析物は、タンパク質であり得る。タンパク質は、正常にフォールディングされたポリペプチド鎖、異常にフォールディングされたポリペプチド鎖、アンフォールディングされたポリペプチド鎖、正常にフォールディングされ得るかまたはされなくてもよいポリペプチド鎖のフラグメント、短いポリペプチド、非天然のアミノ酸を組み込むポリペプチド、および翻訳後に修飾される(たとえばリン酸化、グリコシル化、ジスルフィド結合など)ポリペプチド、またはタンパク質複合体中に組み込まれたポリペプチドを含む。標的分析物はまた、代謝物などの生体液中で見出される小分子を含み得る。
【0038】
図3A~3Bは、色中心がNV中心であり、標的分析物がタンパク質であり、捕捉試薬がアプタマーである、検出技術の2つの見込みのある相互作用機構の略図である。
【0039】
図3Aは、本技術の態様に係る、磁気スピンラベルを利用して標的分子を検出するために使用され得る相互作用機構の略図である。安定な有機分子は、通常は反磁性であり、常磁性分子(すなわち「フリーラジカル」)は、対となっていない電子を有し、よってこれらは化学的に活性であり、化学反応を介してスピンを失う傾向にある。生化学的な環境への曝露を免れる安定なフリーラジカルは、例外的である。スピンラベルは、大きな生体分子の部位特異的なスピンラベルのために特に開発された、別の分子、特に核酸およびアミノ酸に結合できる、安定な常磁性有機分子または複合体である。
【0040】
最もよく使用されるスピンラベルは、核酸に組み込むために開発された、窒素酸化物含有有機小分子、または常磁性金属イオンに対し高親和性で錯体形成するEDTAなどの金属キレーターである。核酸塩基の窒素酸化物誘導体もまた開発されている。近年、トリアリールメチル(トリチル)ラジカル誘導体もまた、タンパク質および核酸の両者をラベルするために一般的になった。デオキシリボ-チミンおよびデオキシリボシトシンの両方のEDTA誘導体は、DNAシンセサイザーでの使用のためにホスホラミダイトの形態で開発されている。スピンラベルがNV中心の緩和時間を単純に変化させるように意図される測定では、磁気の相互作用が存在し、かつ幅広い様々なスピンラベルが適用可能であることが重要である。しかしながら、ラベルのスピンラベルが直接提示される測定では、スピンラベルの個別のスペクトルは関連するようになる。たとえば、DEERでは、スペクトルが狭いほど、かつスピンラベルの寿命が長いほど、より良好となる。具体的な例として、DEERにおいて14Nへの超微細カップリングのためスペクトルのトリプレット分裂は不利であり、重水素化されたトリチルの一本線のスペクトルが好ましい選択である。
【0041】
図3Aにおいて、磁気スピンラベル300に結合されたアプタマー301は、色中心104のすぐ近くにあるダイヤモンド結晶100の検知表面202に付着される。サンプル溶液中の標的タンパク質302はアプタマーに結合して複合体303を形成し、スピンラベルとNV中心の間の相互作用304に影響を与えるNV中心とスピンラベルの近位の関係を変えることにより、NV中心の蛍光の性質における検出可能な変化をもたらす。
【0042】
より具体的には、図3Aは、ダイヤモンド中のNV中心の近くにスピンラベルされたアプタマーを載置することにより、磁気相互作用を最大限にするように設計された特定の構成を例示する。タンパク質の結合の際の立体構造的な変化は、NV中心に関連してスピンラベルを移動し得る。NV中心により近い移動は、NV中心の磁場を増大させ、NV中心の下位レベルのスペクトルの動的または準静的な特徴の測定可能な変化をもたらす。
【0043】
下位レベルのスペクトルは、励起光でNV中心を照射し、NV中心からの電磁放射線の放出を検出するように構成された検出器アセンブリを使用して、プロービングされ得る。検出器アセンブリは、下位レベルの共振周波数を含む範囲の周波数にわたるマイクロ波の放射でNV中心を照射し、NV中心により発せられた放射線の変化を検出することにより、下位レベルのスペクトルの変化を検出し得る。共振周波数での放射線は、第1の下位レベルから第2の下位レベルへのNV中心の基底状態の電子の変換を誘導し、これにより、放出された放射線の特徴における変化を誘導し得る。放出された放射線の特徴の一例は、励起光の周波数と放出された光の周波数の間の関係である。さらに、マイクロ波の励起と共にスピンラベルを追加することは、NV中心とのスピンラベルの相互作用を操作するための幅広い選択肢を広げる。
【0044】
図3Bは、本技術の態様に係る、静電気的相互作用を利用して標的分子を検出するために使用され得る別の相互作用機構の略図である。アプタマー301は、NV中心104のすぐ近くのダイヤモンド結晶100の検知表面202に付着される。陽イオン308および陰イオン309の両方が、分析される流体中に存在する。アプタマーの負に荷電した骨格は、陽イオン308を誘引する。これらの結合したイオンは、NV中心に対し局所的な電場に影響を与え、そのためNV中心が励起光208で照射される際に、それがスペクトルおよび強度により特徴づけられる蛍光310を放出するように刺激される。サンプル溶液中のタンパク質はまた、その電荷によりタンパク質に結合したイオンを有する。このタンパク質は、アプタマーに結合して複合体303を形成し、それにより電荷の分布、よってNV中心に対し局所的な電場を変え、これにより放出された蛍光312の性質における検出可能な変化をもたらす。
【0045】
より具体的には、図3Bは、静電気的相互作用が探索され得る構成を例示する。表面近くの可動電荷の存在は、NV中心の緩和時間に顕著に影響を与える。NV中心自体に結合した負の電荷、およびアプタマーの骨格に結合した負の電荷も存在する。さらに、標的タンパク質自体が荷電され得る。これらの電荷は、溶液中の対イオンによりスクリーニングされる。アプタマーに対するタンパク質分子の結合は、NV中心に対しこの電荷分布を再配置する。さらに、タンパク質分子自体は水より著しく低い誘電率を有し、その存在は、電荷分布のスクリーニングに影響を与える。両方の作用は、NV中心に存在する準静的かつ動的な電場の変化をもたらし、下位レベルのスペクトラムの特徴に影響を与える。
【0046】
下位レベルのスペクトルの静的または動的な変化が相互作用を支配する度合いは、測定がなされる環境により影響され得る。測定が室温でなされる場合、溶液および分子自体における電荷の可動性は、Tの直接的な測定により特徴付けられ得る顕著な動的変化に寄与することが予測される。対照的に、測定が生体液の氷点を下回る温度でなされる場合、これらの動的変化は抑制され、下位レベルでの静的な分裂の直接的な検出を可能にする。スピンラベルされたアプタマーの場合、凍結された状態で測定を行うことは、スピンラベルの緩和時間を顕著に増大させ、スピンラベルとNV中心の間の距離の変化を直接測定するために使用されるDEER(electron-electron double resonance)のような技術を可能にする。
【0047】
NV中心を位置づけるための最適な構成はまた、スペクトルの変化が準静的な変化または動的な変化により支配されるかどうかに依存する。動的変化が支配的であり、かつ直接的なT測定が使用される場合、NV中心は表面により近い位置にあり、かつ互いにより近く位置付けられ得る可能性がある。他方で、スペクトラムに対する準静的な変化の注意深い測定は、高忠実度のより長い緩和時間(第1のT)を必要とし、よって、表面からさらに離れておりかつ互いに十分に分離されているNV中心を必要とする。表面からのNV中心の距離は、アプタマーとその結合標的の相互作用を最大限にすることと、準静的な電場および磁場のNV感受性の検出器を作製する長い緩和時間を保つこととの間の折衷案である。
【0048】
図3A~3Bは、磁場および電場が分析物の結合の際にNV中心の変化をもたらす支配的なものである、相互作用の2つの限界を研究した。SELEXプロセスがSOMAmerの作製のゆっくりとした解離をスクリーニングするために修正された際と同じように、本明細書中記載されるものなどの装置に候補のアプタマーを結合させ、標的結合に対するNV中心の応答を測定するためのステップが、その後の選択ラウンドに追加され得る。この方法では、結合イベントの際にシグナルのコントラストを最大限にするSOMAmerが、最大化され得る。
【0049】
図4は、本技術の態様に係る、ダイヤモンド中の窒素空孔(NV)中心の電子エネルギーレベル、およびこれらのレベル間の遷移の略図である。より具体的には、図4は、ダイヤモンド中の負に荷電したNV中心の電子エネルギーレベル、およびこれらのレベル間の遷移の単純化された概略である。NV中心での電子の基底状態399は、3つの下位レベル(下位状態(substatesまたはstates)とも呼ばれる)を含む。ゼロスピンの下位レベル400は、最小のエネルギーを有し、|,0>と表される。m=+1およびm=-1のスピンの下位レベル402は、外場の非存在下で同一のエネルギーを有し、|,±1>と表される。
【0050】
外場は、m=±1のスピン状態に影響を与えるが、m=0のスピン状態に影響を与えず、m=-1のスピン状態のエネルギーを低下させ、m=+1のスピン状態のエネルギーを上昇させる。たとえば、NV中心の対称軸と並んで配列される1027ガウスの磁場は、室温で、|,-1>のレベルを|,0>レベルに低下させる。NV中心のすぐ近くの磁気スピンラベルの存在は、同様ではあるが、著しく小さい作用を有する。修正周波数404(たとえば共振周波数)のマイクロ波での照射は、基底のm=0のスピン状態から基底のm=±1のスピン状態への遷移を誘導する。|E,0>と表される、基底のm=0のスピン状態から励起されたm=0のスピン状態への遷移406、または|E,±1>と表される、基底のm=±1のスピン状態から励起されたm=±1のスピン状態への遷移408は、修正周波数208の励起光での照射により誘導され得る。
【0051】
励起状態から対応する基底状態への遷移は、赤色光子418の放出により達成される。あるいは、励起状態から基底状態への遷移は、大部分または全て遷移が光子の放出を全く伴うことなくまたはより長い波長の赤外線光子の放出412のみを伴い達成されるため、いわゆる「ダーク遷移(dark transition)」410を介して起こり得る。ダーク遷移410は、ダイヤモンド格子により吸収される赤外線範囲の光子412の放出を伴い、または光子放出の全くない経路414に沿って達成され得る。大部分の場合では、ダーク遷移は、|E,±1から|,0>へのスピンの遷移416をもたらす。|E,±1>レベルの遷移上の電子の約30%が、ダーク遷移を介して基底状態に遷移し、検出可能な光子の放出をもたらす。このため、m=±1のスピン状態の電子は、m=0のスピン状態の電子の蛍光の約70%のみをもたらす。
【0052】
さらにより具体的には、図4は、負に荷電したNV中心に関する知見および計算と一致する概略的なエネルギーレベルの構造を示す。6つの電子が、C3V対称性(静的な格子構造により課される)の基底状態の「分子の軌道」に位置している。これらの軌道は、ダイヤモンドのバンド構造の計算と一致する4つの軌道の直線状の組み合わせである。エネルギー的に、図3とラベルされたこの基底状態は、バンドギャップにおける深いレベルの状態である。Eとラベルされる第1の励起状態は、基底状態を超える1.94eVである。それほど局所化されない場合、それは伝導体からさらに1eV超離れる。2つのバンド状態の間の1.94eVの差異は、図4に示される観察された638nmのゼロフォノンの吸収および放出線に対応する。
【0053】
基底状態および励起状態の両方はS=1のスピントリプレットであるが、以降は本出願人らは、基底状態の磁気の下位レベルのみに焦点を当てる。よって図3での扱いにくい状態の記載を使用するよりは、本出願人らは多くの場合単純に、m=0、またはm=±1の状態を指し、これは、本出願人らが基底状態を指していると理解される。
【0054】
適用される場がない場合、基底状態でのm=0およびm=±1の下位レベルの縮退は、NV中心軸に沿った大きな零電界スプリッティング(zero field splitting)(2.88GHz)により最初に高められ、6つの電子の強く非球形の波動関数を反映する。適用される磁場および/または電場の存在下では、m=0およびm=±1の下位レベルはさらに分裂される。NV中心軸と平行な場では、分裂は、磁場ではガウスあたり2.8MHzであり、電場ではV/mあたり3.5mHzである。この図面は、縮尺通りのエネルギー差を表すものではなく、磁気の下位レベルの分裂は、基底状態および励起状態の間の主要な分裂(1.95eV)より小さい約5桁の大きさである。
【0055】
基底状態の下位レベル400および402と励起状態406および408の間の遷移は、視認可能な範囲で存在し、NV中心の興味深い光ルミネセンスの性質をもたらす。図5は、本技術の態様に係る、室温でのNV中心の光の吸収および放出の例示的なスペクトルを表す。吸収スペクトル500は、約570nmでピークに達し、どのように効率的に所定の波長の光子がNV中心により吸収されるかを示している。放出スペクトル502は約690nmでピークに達し、所定の波長で放出される光の相対的な強度を示す。吸収スペクトルでのいずれかの波長の光子の吸収は、放出スペクトルでのいずれかの波長の光子の放出をもたらし得る。予測される別の波長由来のスペクトルの拡散は、振動性エネルギーの分子格子への消散、または分子格子からの熱的エネルギーの吸収によるものである。両スペクトルは、吸収される光子および放出される光子のエネルギーが同一であるピーク504を共有する。このピークは、ゼロフォノン線と呼ばれ、ここでこれらのスペクトルは、大気温度が絶対的な0に達しかつ格子の振動が凍結されるので収束する。
【0056】
より具体的には、吸収スペクトルおよび放出スペクトルの両方は、強い吸収係数、励起状態に関する短い(約4ns)の寿命、および実質的に非退色の強い蛍光をもたらす広いフォノンの広がりを示す。直接的な吸収および放出の経路は、Sおよびmの両方を荷電されないままにする(吸収された光子または放出された光子の角モーメントは、「分子の」軌道の運動量の変化により相殺される)。対照的に、強いフォノンのカップリングはまた別の崩壊経路(中間の系の交差を介する)を可能にし、それは図3の右側に示されるように、mを1つ変える。この崩壊経路は複数の中間状態を経て、放出されるいずれかの光子エネルギーは、直接的な経路によりもたらされる光子と比較してさらに赤外部にある。よって、これは、多くの場合、「ダーク経路(dark path)」と呼ばれ、m=0の下位レベルから励起されるものよりもm=±1の下位レベルから励起される電子に関し高い可能性で採用される。基底状態のm=0の下位レベルから励起された電子に関する正味の結果は、m=±1の下位レベルから励起されるものと比較してより高い視認可能な蛍光強度である。
【0057】
図6は、本技術の態様に係る、NV中心の光学的な読み取りおよびスピン偏極の略図である。励起パルス600は、窒素-空孔中心を照射し、パルスの放出602を刺激する。放出パルスの最初の強度604、Istartは、パルスの最小のポイントであり、測定の開始時のm=0およびm=±1の状態の相対的な集合を表す。この強度は、スピン状態がm=0の状態に対して偏極となる際に、最大強度606、Imaxへと迅速に上昇する。
【0058】
磁気の下位レベルの集合の変化は、まさに電子スピン共鳴(EPR)を介して観察されるものであり、ここで印加されるマイクロ波の励起の周波数はmの下位レベルの分裂と一致する。蛍光強度は、上述の下位レベルの集合に依存し、NV中心上の基底状態の磁気共鳴(ODMR)の光学的な検出を可能にする。本出願人らは引き続きODMR検出に言及しているが、NV中心における光電流の直接的な電気的検出が例証されており、別の検出機構として作用し得ることに留意されたい。
【0059】
従来の磁気共鳴は、連続的なまたはパルス状のマイクロ波/RF電磁場を適用して、同時に多数(>1013)のスピンの磁気の下位レベル間の遷移を誘導するかこれら下位レベルを混合し、すなわち、温度に依存する巨視的(アンサンブル平均)な磁化で作動する。ゼロの絶対温度で、全てのスピンはそれらの最低のエネルギー下位レベルにあり、この系の磁化は最大であり、よってこの状態は、100%スピンが偏極している。有限温度では、下位レベルの集合はボルツマン統計にしたがい、温度の上昇に伴いアンサンブル平均の分極を減少させる。室温では、下位レベル間のエネルギー差が非常に小さいため、異なる磁気の下位レベルの集合は、おおむね等しく、わずか0.1%の分極をもたらす。
【0060】
下位レベルの集合の差異から発生する磁化は、縦磁化と呼ばれ、または従来Z軸が量子化軸と平行に選択されるため磁化のz成分と呼ばれる。いずれかの温度で、縦磁化は、スピンの分極に比例する平衡値を有する。磁化のXY成分である横磁化は、混合状態(固有状態はZ方向に沿って位置する)のアンサンブル平均である。その平衡値はゼロである。
【0061】
下位レベルの遷移または混合状態(一時的な横磁化のゼロではないアンサンブル平均を伴う)は、下位レベルの分裂のエネルギーEと一致する光子エネルギーでRF/マイクロ波電磁場を適用することにより作製され得る。対応する周波数は、E=hf(式中hはプランク定数であり、fはラーモア周波数として知られる)により定義される。混合状態(およびよってアンサンブル平均横磁化)は、ラーモア周波数で歳差運動(precess)(回転)する。通常、この回転する巨視的磁化により誘導されるEMFは、コイルまたは共鳴装置を介して検出される。
【0062】
混合状態の作製の後、横磁化のシグナルは、原則的に2つの理由のため時間の経過とともに崩壊する:
1.個々のスピンは、歳差運動の最中に異なる場または変化する場を経験し、すなわち、mの下位レベルのエネルギー差は異なり、それにより混合状態の歳差運動の周波数は、わずかに異なる。これらが同相で歳差運動を開始する一方で、相の差異が歳差運動の周波数の差異により構築され、アンサンブル平均(ベクトルの合計)横磁化はゼロに進む。歳差運動する巨視的磁気モーメントはゼロに崩壊するため、必然的に誘導されるシグナルも崩壊する。「位相のコヒーレンス」の喪失により引き起こされるこの崩壊の特性時間は、Tまたは横方向の緩和時間と呼ばれる。より詳細な実験では、静的な場の差異(すなわちサンプルにわたる磁場の不均一性)による崩壊は排除され、測定中の動的な変化のみを反映する崩壊時間がしたがって、相記憶時間(phase memory time)Tと呼ばれる。この形式での横磁化の喪失は、環境とのエネルギー交換を必要としない。
2.有限温度で、スピンは、環境とエネルギー交換を行い、1つの下位レベルから別の下位レベルへと変換(flip)し得、すなわち、固有状態は、環境との相互作用により有限の寿命を有する。より正確には、環境によりもたらされる流動的(時間依存的)な電磁場は、状態の変化を誘導するように横方向のゼロではないラーモア周波数の場の成分を有する必要がある。これらの変化の結果として、歳差運動する横磁化は、磁化がz(または縦)方向に戻る際に喪失する。このプロセスに関連する特性時間(固有状態の熱的平衡集合分布へ戻るために必要な時間)はTもしくは縦緩和と呼ばれ、または、それが環境とのエネルギー交換を必要とするため、スピン-格子緩和時間と呼ばれる。このプロセスは、TおよびTなどの、いずれかの歳差運動崩壊時間に上限を課す。
【0063】
従来のEPR検出とは異なり、ODMRは、縦磁化を検出する。しかしながら、横方向およびその利点の喪失は、大幅な感受性の増加により著しく補完され:低エネルギーの磁気の下位レベルの遷移が、ほぼ完全な量子効率で、1000,000倍超のエネルギーを伴い光子を介して観察され得る。
【0064】
ODMR検出を可能にすることに加え、単離されたNV中心において、mに依存的な蛍光はまた、下位レベルの集合の操作をも可能にする。これは、磁気の下位レベルの寿命が、蛍光の寿命よりもはるかに長いためである。十分に高い励起強度では、蛍光率は蛍光の寿命によってのみ限定され、100MHz以上であり得る。たとえば基底状態のm=±1の下位レベルからの励起が、その量子数を保持するw=0.7の確率およびダーク経路を介してm=0の下位レベルに戻る0.3の確率を有する場合、10サイクル後にm=0の状態のスピンのいずれかを見出す確率は、98%であり、すなわち98%のスピン分極が、巨視的なサンプルについて構成され得る。NV中心のTは通常100マイクロ秒よりはるかに長いため、十分に強い100nsのパルスが、室温から0.3Kにダイヤモンドを冷却することに相当するスピン分極を作製し得る。ほぼ完全にスピンが偏極した状態で任意の磁気共鳴測定を開始することは、室温での平衡スピン分極での開始と比較して、シグナルにおける100倍増大である。
【0065】
スピンの集合を偏極する同じパルスはまた、図6に示されるようにスピン分極の測定としても作用する。最大蛍光は、サンプルがm=0の下位レベルにおいて100%のスピンが偏極される際に生じる。本出願人らは、最大蛍光強度をImaxと定義する。本出願人らが、上記の例からの確率を使用し、本出願人らが熱的平衡で開始していることを想定する場合、t=0で励起光がオンになる際に、蛍光応答は、最大効率で蛍光を発するm=0の下位レベルの集合の1/3、および70%の効率(1/3+2/3*0.7=0.8)で蛍光を発するm=±1の状態の2/3に対応する、Imaxの80%である。この強度は、励起光の強度により決定される比率で、Imaxに漸近的に達する。
【0066】
この場合、m=0の下位レベルの最初の分極、Pは、
【数2】

として、最初の蛍光強度Istartの観点から表され得る。
【0067】
上記で解析されたw=0.7の事例では、Istart=Imaxの場合、P=1である。Istart=0.7*Imaxである場合、P=0である。Istart=0.8*Imaxである場合、P=1/3である、などである。
【0068】
上記にまとめられているNV中心の固有の性質は、市販の蛍光顕微鏡を使用して単一のNV中心の蛍光を検出できる実験の設定を構築することが容易であることを意味する。NV中心は、数百ナノメートルごとに分離できるため、顕微鏡で観察される単一のNV中心の蛍光は、単一のスピンの磁気の下位レベルの全ての分光学的な情報を包有する。単一のスピンが観察される場合、従来のEPR測定の場合でのようなアンサンブル平均は存在しないが、アンサンブル平均と単一のスピンの時間平均との間の直接的な対応は依然として存在する。これらの2つを関連づけるために、アンサンブル平均の分極の値は、下位レベルの確率と置き換えられる必要があり、すなわち、巨視的なアンサンブルの98%のm=0のスピン分極をもたらす光学的な励起パルスが、98%の確率でm=0の状態の単一のNV中心を見出すことに変換される。高い蛍光、迅速な反復および十分な時間平均化のおかげで、統計誤差が少なく合理的に短い実験時間が達成され得る。
【0069】
NV中心の性質は、時間領域磁気共鳴に十分に適している:100%偏極した最初の状態、単一の中心の感受性の検出、および長い緩和時間、さらに洗練された高分解能の分光法のために今まで発明された全ての時間領域rf/マイクロ波パルスシーケンスが適用され得るという事実は、単一のNV中心を、利用可能な最も感受性のある量子測定ツールにする。
【0070】
図7A~7Bは、完全に光学的な測定を介して緩和時間、Tを測定するための手段を表す。m=±1のスピンの下位レベルは、m=0の下位レベルの約70%の蛍光強度で放出し、これにより、均等に分割される場合、総蛍光強度は、スピンがm=0の下位レベルへと完全に偏極される場合の約80%である。図6でのような一連のパルスは、m=0およびm=±1の下位レベルの相対的な集合を評価するための、ならびにスピンをm=0の下位レベルへと再偏極するための測定を可能にする。
【0071】
図7Aは、本技術の態様に係る、NV中心に関連する光学的な励起パルス708および放出パルス710の略図である。ダイヤモンド中のNV中心は、それぞれがm=0の下位レベルへのNV中心の完全な分極をもたらすために十分に長い期間である、一連の励起光のパルスで照射される。これらの励起パルスの間の間隔τiは多様である。励起パルスの開始直後の蛍光強度(塗られた四角形(filled square)I,I…)が、スピン状態がm=0の下位レベルで完全に偏極されるはずである場合にとられる、参照強度(開かれた長方形(open rectangles))と同様に、測定される。
【0072】
図7Bは、本技術の態様に係る、結合した標的分子の非存在下および存在下での時間の関数としての強度を比較する、NV中心の放出強度のグラフ表示である。より具体的には、図7Aにおいて最初の強度と参照強度との間の差異が、これらの間の時間間隔τの関数としてプロットされており、下位レベルが熱的平衡に戻るまでにどの程度の時間が必要とされるかを示している。強度=I*exp(-τ/T)の指数関数的な適合は、Tの直接的な測定をもたらす。データ点700は、より迅速な平衡への戻りを示しており、よってこれらの指数関数的な適合702は、データ点704およびそれらの指数関数的適合706よりも短いTをもたらす。異なるT値は、アプタマーに結合しているかまたは結合していない分析物の結果として生じる。
【0073】
より具体的には、図7A~7Bにおいて、NV中心を光学的に偏極させるために十分な期間および強度の一連の励起パルスが、これらの間の様々な待機時間で適用される。この励起波長は、ゼロフォノン線よりも短く、実際には、532nmが多くの場合使用される。励起パルスが適用されると同時に、NV中心からの放出が、放出スペクトラム502の一部または全てを含むバンド幅でモニタリングされる。
【0074】
最初に、基底状態は、熱的に平衡化され、よって蛍光の最初のレベルIは、m=±1およびm=0の状態がほぼ等しく存在するため、最大可能Iよりも少ないレベルに対応する。最初のパルスの過程にわたり、放出は、m=0の状態が上述される動的なスピン分極プロセスにより存在するようになるにつれて、最大値に成長しIで飽和する。待機時間の後、第2のパルスが適用される。待機時間が十分短い場合、周辺環境との相互作用は、基底状態の集団を平衡化するための十分な時間を有さず、m=0がなお多く存在し、よって測定される最初の放出強度Iは、依然として最大値Iに近い。
【0075】
スピン分極は、残りの第2のパルスの間に再度起こり、この状態は、再度m=0および対応するIの強度に偏極される。より長い待機時間がその後続き、全プロセスが、再度反復される。このプロセスは結果的に反復されるため、待機時間は、NV中心の緩和時間よりも実質的に長くなり、基底状態は、熱的に平衡化され、3つ全ての下位レベルは、等しく存在し、測定される最初の放出は、再度Iと等しくなる。
【0076】
待機時間の関数として最初の放出強度I、I、I…をプロットすることにより、図7Bでのものなどのグラフが作成され得る。グラフに対する適合は、NV中心の緩和時間Tをもたらし得る。図7Bは、2つのデータセットの例および異なるT値に対応するそれらの各適合を示す。この測定順序は、標準的なパルス化磁気EPR実験で使用されるものと非常に類似しており、最初の状態が、マイクロ波のπパルスにより調製される反転した熱的平衡の磁化-Mであり、後期の時間の値が、別のマイクロ波のπ/2パルスにより開始されるマイクロ波の放射を検出することにより読み取られる。しかしながら、この場合、磁場またはマイクロ波のアンテナまたは共鳴装置が必要とされないため、測定がかなり単純化される。
【0077】
マイクロ波に加え、より詳細な測定技術が可能になる。たとえば、上述される完全に光学的なT測定の場合、すべての分極する光パルスの直後に追加されたマイクロ波のπパルス(零電界スプリッティングの周波数およびNV中心の対称軸と垂直に配向された場を伴う)は、m=0の状態についてゼロの最初の集団を提供する。マイクロ波のパルスを伴う測定および伴わない測定を交互に行い、それらの差異をプロットおよび適合することにより、残りの(熱的平衡)シグナルの値の適合を必要とせずにTを測定できる。これは、外部の磁場の非存在下でのm=+/-1の状態が縮退している(等しいエネルギー)ため、とても単純に作用することに留意されたい。
【0078】
外場を追加することは、測定の可能性をさらに増大させる。外部の静的な場Hが課される場合、m=+/-1の状態のエネルギーレベルは分裂し、よってm=0からm=+1およびm=からm=-1への遷移が異なる周波数のマイクロ波の励起に応答する。適用される場が小さいかまたはNV中心の対称軸と平行である限り、光学的な応答は変化せず、読み取りのために使用され続け得る。m=0の状態の光学的な分極は、実験にとって理想的な開始点として作用し続け、より後の時間での光学的励起パルスの間に測定される最初の蛍光強度は、m=0の下位レベルの集団を測定するために使用され得、すなわち、感受性のある縦方向の検出として作用し得る。最初の分極と検出の間の時間間隔は変動し得、マイクロ波パルスの周波数により選択されるレベルの間で下位レベルの分光法を行うために使用され得る。外部の電場もまた下位レベルを分裂し、外部の磁場よりも使用され得ることに留意されたい。
【0079】
単純なハーンエコー、CPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)からMREV-8の範囲にある全ての既知のマイクロ波パルスシーケンスが、NV中心のコヒーレンス時間を探索する、すなわち、ミリ秒の時間間隔でミリガウスの数十分の1までの小さな場の変動を決定するために使用され得る。これらの測定の前提条件は、長いTであり、表面から離れた(15~20nm)NV中心だけでなく、アプタマー、タンパク質、およびイオンの動きを凍結すること、すなわち試験される液体を凍結することを必要とする。
【0080】
さらに、アプタマーに付着されるスピンラベルと、タンパク質捕捉により誘導されるNV中心との間の距離の変化は、DEER(Double Electron - Electron Resonance)実験で測定され得る。NVの下位レベルの歳差運動を反転させつつスピンラベル上のスピンを反転させるために異なる周波数で第2のマイクロ波の励起を適用して、スピンの反転による歳差運動の周波数の差異を高い精度で検出でき、最大20nmのナノメートル以下の精度の距離の測定を可能にする。必要とされる距離にわたりDEERを行うために、アプタマー上のNV中心およびスピンラベルの緩和時間は、ミリ秒の桁であることが必要であり、試験される液体を凍結することが再度必要である。
【0081】
上述のように、NV中心間の横方向分離は、NV中心間の顕著な相互作用を予防するために、たとえば100nm超などのように大きくてよい。しかしながら、アプタマーは、小さく、数ナノメートルの桁であり、よって、本出願人らは、2つの異なる認識を区別している。第1の認識では、アプタマーは表面に密集して結合され、それにより、いずれかの所定のNV中心が、NV中心の範囲の相互作用内で無作為に分布された複数のアプタマー部位と相互作用し、よって、複数の部位にわたり平均相互作用変化を測定する。
【0082】
第2の可能性では、部位特異的な界面化学が、アプタマー部位と根底にあるNV中心との間の1:1の対を確実にするために使用される。これは、NV中心に存在する電荷により影響を受ける界面化学を使用することにより、またはNV中心の蛍光により、達成され得る。この構成は、単一のタンパク質の感受性および的確な標的タンパク質と非特異的なバインダーを区別する性質を提供するほぼ同一の測定部位をもたらす利点を有する。分子ごとのはいまたはいいえの決定に基づき統計を集めるこの能力は、同数のNV中心を前提として、第2の構成が優れた分解能および動的範囲を提供し得ることを意味する。
【0083】
本技術の目的の1つは、各個別のタンパク質に特異的なアプタマーを使用することにより同時に複数のタンパク質の濃度を測定することである。これを達成できる少なくとも2つの基本的に異なる方法が存在する。
【0084】
第1の可能性のある検出パラダイムでは、いずれかの所定のタンパク質標的について、独立した検出器によりそれぞれが測定される、多数の個別のNV中心およびアプタマー部位が存在する。これは、多数の単一NV中心実験を効率的に行う。NV中心とアプタマー部位の間の1:1の対形成がさらに存在する場合、結合したタンパク質の数を計測して特異的な標的タンパク質の濃度を表す単数をもたらすことができる。
【0085】
第2の可能性のある検出パラダイムでは、所定のタンパク質標的に関する多数のNV中心およびアプタマー部位が、単一の検出器により同時に測定される。これは、分子ごとの識別の利点を放棄し、標的タンパク質の濃度を定量化するための較正曲線を作成することを必要とするが、それは必要とされる装置の複雑さを低減し得る。
【0086】
各事例において、理想的には全てのNV中心は、同時に励起されおよび検出されるが、しかしながら、それは異なるアプタマーは異なる応答を有し得るという事実に対処するために複数の測定プロトコルを使用することを排除しない。
【0087】
両事例において、ダイヤモンド(またはより一般的には結晶)表面の異なる部分が、異なるタンパク質の濃度を測定するために特化される。しかしながら、必要とされる検出器の数において差異が生じる。たとえば、10,000個のタンパク質の濃度を検出することは、第1の事例では10個程度の検出器を必要とし得るが、第2の事例ではわずか10,000個の検出器のみを必要とする。
【0088】
図8A~Dは、本技術に基づきバイオチップをプロービングするための異なる構成を表す。(111)で終結するダイヤモンド表面に近い[111]方向に沿って存在する同一のNV中心は、測定される全てのNV中心が同等でありかつ大部分の感度のある検出領域がNV中心の真上に位置しているため、理想的な構成であるが、どの配向のダイヤモンド結晶が容易に製造され得るかなどの他の制約がこれを可能にしない場合がある。いくつかの装置の構成は、他のものよりもこの状況を許容する。
【0089】
図8Aは、本技術の態様に係る、標的分子を検出するための装置の第1の例示的な構成を表す。最も単純な構成において、アプタマー301は、検知表面202の下に所定の深度で位置する窒素-空孔中心104のすぐ近くにあるダイヤモンド結晶100の表面に付着される。励起光208により誘導または刺激される蛍光放射光418の性質が、タンパク質-アプタマー複合体800の存在を検出するために測定される。タンパク質の存在は、窒素-空孔中心の1つ以上の性質の変化を誘導し、この変化は、窒素-空孔中心からの蛍光放射に基づき検出される。
【0090】
図8Aに示される構成は、上述の全ての光学的なT測定を行うために必要とされる全てである。これは、NV中心の等価性に関して最も厳しくない条件を課す。全ての8つの異なる可能なNV中心の配向を伴う(100)ダイヤモンド表面が使用され得る。この場合、NV中心の対称軸は、この表面に直角ではなく、これは理想的ではないが、8つ全ての配向は、同じ量だけずれており、よってNV中心は同等に機能する。欠点の1つは、双極子-双極子の相互作用の細部により、NV中心の真上の磁気の相互作用が最小化され、よって大部分の感受性のある相互作用領域は、各NV中心から横方向にいくらか離れて配置されることである。これは、電気的相互作用には当てはまらない。またこの配向は、ダイヤモンド内部で内面的に反射される光を使用する光学的な励起および読み取りにとっても理想的ではない。しかしながらこれは、両者の間の適切な妥協案を表すものであり、製造することがより容易なダイヤモンド表面の使用を可能にする。
【0091】
図8Bは、本技術の態様に係る、標的分子を検出するための装置の別の例示的な構成である。(A)で表された構成に、マイクロ波の放射802がマイクロ波アンテナ804によりダイヤモンド表面に方向づけられる、マイクロ波供給源806が追加される。マイクロ波供給源は、ゼロ電解スプリッティングの周波数(2.89GHz)と一致しており、かつマイクロ波の磁場の角度が全てのNV中心に対して同じであることを確保する方向で、図8Bのように追加されて、測定の精度も支援し得る。蛍光放射光418の強度が測定されてよく、ダイヤモンド内の色中心の共鳴の挙動は、測定される強度とマイクロ波の放射802の周波数との間の関係に基づき同定され得る。
【0092】
図8Cは、本技術の態様に係る、標的分子を検出するための装置のさらなる別の例示的な構成を表す。(B)で表される構成に、外部の磁場812がダイヤモンド表面に課される磁場供給源810が追加される。図8C上で記載されるように外部の静的な場Hを追加することは、位相のコヒーレンス(T)の測定のため必要とされ得る。
【0093】
図8Dは、本技術の態様に係る、標的分子を検出するための装置のさらなる別の例示的な構成を表す。(C)で表される構成に、第1のマイクロ波供給源806と同じマイクロ波アンテナ804を共有する第2のマイクロ波供給源808が追加される。図8Dで示される第2の(独立した周波数)マイクロ波供給源は、DEER実験を行うためのスピンラベルに必要とされ得る-全てのマイクロ波の磁場は理想的には、Hに対してほぼ垂直であることに留意されたい。高い磁場では、場と平行なNV中心のみが光学的に読み取られ得るため、この構成は理想的には、上述の[111]方向に沿って配列されたNV中心を有する(111)表面を使用する。全てのNV中心の配向が等しく投入された場合、それらの75%は使用できない。光学的な励起および蛍光放射は、理想的には、NV軸とほぼ平行である。
【0094】
非同等なNV中心(投入された8つ全てが異なる配向を伴う(100)で終結される結晶のような)の場合、可能性のある解決策は、これらに対して適切にアライメントされた場でNV中心の1/8のみを使用し、異なる場の配向およびマイクロ波の周波数を適用することによりこれらの全てを連続して処理することである。別の可能性のある解決策は、共鳴磁場で「フィールドサイクリング(field cycling)」として知られるものを使用することである。この場合、大きな場(たとえばゼロ電解スプリッティングより2倍以上大きい)が、マイクロ波の作動の間[100]軸に沿って適用され、光学的な分極および検出を行う間にゼロに切り替えられ得る。
【0095】
図9は、本技術の態様に係る、標的分子を検出するための装置899のさらなる別の例示的な構成を表す。より具体的には、図9は、本発明に基づき統合されたバイオチップの略図である(縮尺通りではない)。この図は、スピンラベル、アプタマー、および窒素-空孔中心を利用する検出技術の一実施形態を表しているが、他の検出技術の実施形態が可能である。バイオチップは、4つの層:捕捉層900、ダイヤモンド層902、フィルター層904、および統合された検出および処理層906から構成される。捕捉層900は、磁気スピンラベル300に結合されるSOMAmer301がその上に付着される、ダイヤモンド層の表面を通って目的の標的分子206(たとえば標的タンパク質302)を含むサンプル液を方向付けるチャネルから構成される。
【0096】
捕捉層における機構は、同一のSOMAmerがその上に付着されるダイヤモンド層の検知表面の領域である。各機構は、別々のタンパク質分析物に特異的な1つ以上のSOMAmerを含み、ダイヤモンド層中のNV中心の結合した集合ならびに統合された検出および処理層中の個別の光検出器に、x-y座標(図9)で対応する。
【0097】
各SOMAmer301または他の捕捉試薬200は、特定の種類または種の標的分子206に結合するように構成された特定の種類または種の捕捉試薬であり得る。捕捉試薬の種は、捕捉試薬の官能基に結合し得る。捕捉層900は、少なくとも2つの異なる種に属する捕捉試薬200を含み得、これにより少なくとも2種の標的分子206が、バイオチップ装置により検出され得る。いくつかの実施形態では、捕捉層900は、多数の種、たとえば数百種、数千種、またはそれより多い捕捉試薬を含む。
【0098】
本発明のいくつかの好ましい実施形態は、スピンラベルを含まない。SOMAmer分子へのタンパク質分子の結合は、SOMAmerと近位の窒素-空孔中心104の間の相互作用304に変化をもたらし、このような変化は、蛍光放射216を介して検出される。界面化学およびSOMAmerは、アプタマーへのタンパク質標的の結合の際に、相互作用において大きな相対的差異をもたらすように最適化される。
【0099】
ダイヤモンド層は、化学蒸着により製作される純度の高いダイヤモンドから構成され、その中にNV中心104の層が表面からの所定の固定された距離105で埋め込まれる。いくつかの例では、深度としても表され得る、所定の固定された距離は、5~20ナノメートル、または15~20ナノメートルの範囲である。ダイヤモンド層内のNV中心は、所定の固定された深度よりも大きな距離ごとに分けられ、これらの間の相互作用が、表面上の分子との相互作用と比較して小さいことを確保する。NV中心の層の厚さは、所定の固定された深度と比較して小さい。窒素-空孔中心とSOMAmerの間の距離は、SOMAmerへのタンパク質の結合の際の相互作用の変化が、可能でありかつ/または検出できるよう十分小さいように選択される。外部の磁場812が存在し得る。ダイヤモンド層は、100%12Cダイヤモンドを含み得る。
【0100】
励起光208(レーザーなどの光源によりもたらされる)は、NV中心の蛍光を刺激する。外部のマイクロ波802は、これらの下位レベル間の基底状態の電子を遷移する。フィルター層は、層状化した誘電体から構成されて2色性バンドパスフィルター912を形成し、これは片側でダイヤモンド層902、もう一方の側で統合された検出および処理層906に接着される。全ての他の波長を遮断しつつNV中心からの放射光を通すことに加え、フィルター層904はまた、通常からの狭い範囲の角度の外側にある放射光を遮断し、それにより、隣接するNV中心間の検出におけるクロストークを最小化する。
【0101】
フィルター層は、窒素-空孔中心の放出波長(680nm)あたりの狭いバンドパスフィルターであるように設計される。さらに、フィルター層は、隣接する機構間のクロストークを最小化するために、通常から狭いバンドの角度の外側にある光を遮断する。フィルター層はまた、ダイヤモンド層と統合された検出および処理層の間の機械的な結合として機能する。光学的に透明で機械的に厳格な接着剤が、上面でダイヤモンド層にフィルター層を接合するために、および下部で統合された検出および処理層にフィルター層を接合するために使用され得る。フィルター層は、特定の波長の光を遮断するための波の干渉の原則に依存する誘電体の層から構築される。フィルター層の設計および製作は、本技術の範囲外にある。
【0102】
統合された検出および処理層906は、電子的イベントカウンター918を駆動する高速の電子ゲート916を駆動するCMOSのアバランシェ光検出器914から構成される。光検出器914はまた、検出器アセンブリとも称され得る。本技術では、検出器アセンブリは、1つ以上の周波数の励起光で色中心を照射し、かつ色中心からの電磁放射線の放出を検出するように構成され得る。イベントカウンターの出力は、分析のため収集される。指定された座標920は、x座標およびy座標が上部のダイヤモンド層の表面の面にあり、かつz座標がこの表面に直行するように選択される。光源により放出される範囲の波長(すなわち励起光208のスペクトル)は、光検出器914により検出される範囲の波長と同じであってよく、または同じでなくてもよい。励起光の波長の範囲は、光検出器914が検出するように構成された範囲の波長と部分的に重複してよくまたは実質的に重複していなくてもよい。
【0103】
統合された検出および処理層は、リソグラフィー生産のために設計されてよく、電子的構成要素およびそれらの間の接続の両方を含む。統合された検出および処理層は、リソグラフィーを使用して製作されてよく、光学的に透明な接着剤を使用して、フィルター層(またはフィルター層が除外される場合はダイヤモンド層)に付着され得る。統合された検出および処理層は、光検出器層、ゲーティング層、A-D(アナログ-デジタル)層、および蓄積したデータをプロセッサに移動させるためのバスから構成され得る。図9はこれらの層がz方向に分布されるように表しているが、このような配置は必要でない。
【0104】
光検出器層は、アバランシェフォトダイオードのアレイを含んでよく、各フォトダイオードが捕捉層上の単一の機構に特化され、かつx座標およびy座標においてこの機構と関連している。各フォトダイオードは、ゲーティング層中の高速電子ゲートと関連し得る。NV中心からの蛍光の変化は、マイクロ秒以下のスケールであり得、よって、これら強度の変化をモニタリングするために、非常に短く定義された時間枠でのみ光を収集することが必要である。各ゲートは今度は、イベントカウンター層中のイベントカウンターに関連し、それが光子の計測を実際に行う。各イベントカウンターからのデータは、データ解析のためプロセッサに送達される。
【0105】
図9の捕捉層の機構(すなわちSOMAmerが付着されるダイヤモンド層の検知表面の領域)が構築され得る、少なくとも3つの配置の例が存在し、それぞれが異なる利点を提供する。第1の例では、単一のSOMAmerは、単一のNV中心と関連しており、それが今度は単一の光検出器と関連している。このような設定は、検出の観点において利点を提供するが、NV中心のまたは単一のSOMAmerの載置の正確な制御を必要とする。この形式の構築の主な利点は、それが個々に基づく分子の検出を提供することであり、これは、アンサンブル検出で失われるであろう結合の特徴に基づく第3の次元の特異性(結合親和性および洗浄の後で)を可能にする。さらに、標的分子は1つずつ計測され得、いくつかの較正ステップを排除する。この形式の主な欠点は、異なる濃度間を区別するために多数のこのような機構が必要とされることである。濃度における桁違いの差異を分割することは、単一の分析物に対して(所定のレベルの解決に基づき)数百または数千のこのような特性機構を必要とし、装置の複雑さを増大し得る。
【0106】
第2の例示的な形式の構築物は、複数のNV中心の集合に関連し、よって単一の光検出器に関連する同種の複数のSOMAmerの集合を含む。x-y面でのNV中心の無作為な分布(図9に定義される)および機構の集合におけるSOMAmerの無作為な分布は、光検出器での平均化されたシグナルをもたらし、これはより安定なはずである。ある範囲の濃度もまた、複数のSOMAmerにより、単一の光検出器で定量化され得る。しかしながら、単一のSOMAmerまたはNV中心の代わりにこのような集合を使用することは、第1の形式により可能となった第3の次元の特異性を妨げ、流体中の標的タンパク質の濃度にNV中心の応答を相関させるための較正曲線の作成を必要とする。
【0107】
第3の形式の構築物は、第1の形式および第2の形式のハイブリッドであり、単一のNV中心に関連し、これが今度は単一の光検出器に関連する、同じ種類の複数のSOMAmerの集合を含む。第2の形式と同様に、ある範囲の濃度が、複数のSOMAmerにより、単一の光検出器で定量化でき、これもまた平均化されたシグナルをもたらす。単一のNV中心の使用は、より明確なシグナルをもたらし得る。無作為に分布されたNV中心は、x-y面に光学的に位置し得、その後同じ位置でSOMAmer集合を載置する。
【0108】
図10は、サンプル液中の標的分子を検出するための例示的な方法1000で行われるステップを表し、この方法の完全なプロセスまたは全てのステップを表さなくてもよい。方法1000の様々なステップが後述され、図10に表されるが、これらのステップは、必ずしも全て行われる必要はなく、場合によって同時に、または示された順序以外の異なる順序で行われ得る。
【0109】
ステップ1002では、本方法は、サンプル液と捕捉試薬を接触させることを含む。捕捉試薬は、表面(たとえば結晶膜または基板、または単結晶ダイヤモンドの表面)に付着され、所望の標的分子に結合するように構成される。捕捉試薬は、表面により捕捉されるか、表面に結合されるか、表面に付着されるか、表面に繋留されるか、かつ/または表面に固定されるように記載され得る。標的分子は、限定するものではないが、タンパク質などの本開示に記載される標的分子を含む、捕捉試薬と結合する性質を有するいずれかの標的分子であり得る。同様に、捕捉試薬は、いずれかの適切な捕捉剤であり得る。これは、限定するものではないが、アプタマー、核酸分子、または少なくとも1つの5位が修飾されたピリミジンを有する核酸分子(SOMAmerなど)などの、本開示に記載される捕捉試薬のいずれかを含む。いくつかの例では、少なくとも1つの5位が修飾されたウリジンおよび少なくとも1つの5位が修飾されたシチジンを含む、少なくとも2つの異なる5位が修飾されたピリミジンが、表面に付着される。
【0110】
ステップ1004では、本方法は、励起光で表面近くに(たとえば結晶膜の中の固定深度で)配置された色中心を照射することを含む。励起光は、色中心により蛍光放射を(たとえば中心の波長または帯域幅の選択を介して)誘導するように構成される。いくつかの例では、色中心は、ダイヤモンド結晶の窒素-空孔中心であり、この表面は、ダイヤモンド結晶の表面である。
【0111】
ステップ1006では、本方法は、1つ以上の検出器(たとえば、図9に関連して上述された統合された検出および処理層の光検出器)を使用して蛍光放射の強度を測定することを含む。
【0112】
ステップ1008で、本方法は、蛍光放射の強度の変化を検出することを含む。捕捉試薬に対する標的分子の結合に応じた強度の変化、よって放出された強度における変化は、標的分子の存在を表す。
【0113】
任意選択で、ステップ1010で、本方法は、第1の下位状態から第2の下位状態への色中心における基底状態の電子の変換を誘導できる周波数のマイクロ波の放射で色中心を照射することを含み得る。たとえば、マイクロ波の放射は、基底状態のゼロスピンの下位状態と基底状態の非ゼロスピンの下位状態との間のエネルギー差に対応する共振周波数を含み得る。ステップ1008で標的分子の結合に応じた蛍光放射の強度の変化を検出することは、測定される蛍光放射の強度とマイクロ波の放射の周波数との間の関係に基づき色中心の共振挙動を同定することをさらに含み得る。たとえば、標的分子の結合は、第1の下位状態と第2の下位状態の間の共振周波数の変化を誘導し得る。共振周波数における変化は、マイクロ波の放射の周波数を変動させつつ測定される蛍光放射の強度に基づき同定され得る。
【0114】
図11は、標的分子の濃度を測定するための例示的な方法1100で行われるステップを表し、この方法の完全なプロセスまたは全てのステップを表さなくてもよい。方法1100の様々なステップが後述され、図11に表されるが、これらのステップは必ずしも行われる必要がなく、場合により、同時に、または示された順序以外の異なる順序で行われ得る。
【0115】
ステップ1102で、本方法は、結晶膜(たとえば特にダイヤモンド膜)の表面に流体を曝露して、表面に付着されている捕捉試薬を、流体内の標的分子(たとえば特にタンパク質)に結合させるステップを含む。結晶膜は、窒素-空孔中心または他の適切な欠陥などの、少なくとも1つの色中心を含む。
【0116】
ステップ1104で、本方法は、膜内の少なくとも1つの色中心からの蛍光放射を誘導するように構成された励起光で結晶膜を照射することを含む。任意選択で、ステップ1104は、第1の下位状態から第2の下位状態への色中心での基底状態の電子の変換を誘導できる周波数を有するマイクロ波の放射で色中心を照射することを含む。
【0117】
ステップ1106で、本方法は、蛍光放射に基づき色中心の性質における変化を検出することを含む。色中心における性質の変化は、捕捉試薬による標的分子の結合に応じて生じる。いくつかの例では、捕捉試薬は、標的分子と捕捉試薬の間の結合が色中心で磁場を変えるように、磁気スピンラベルを含む。色中心における性質の変化は、少なくとも部分的に、磁場の変化によりもたらされ得る。
【0118】
ステップ1108で、本方法は、検出される色中心における性質の変化に基づき流体内の標的分子の濃度を決定することを含む。たとえば、検出された変化の特徴は、膜の表面へと捕捉試薬により結合された標的分子の数または近似数を表し得、流体内の標的分子の濃度は、標的分子の数および流体の体積から推定され得る。
【0119】
図12は、標的分子を検出するための例示的な方法1200で行われるステップを表し、この方法の完全なプロセスまたは全てのステップを表さなくてもよい。方法1200の様々なステップが後述され、図12に表されるが、これらのステップは必ずしも行われる必要がなく、場合により、同時に、または示された順序以外の異なる順序で行われ得る。
【0120】
ステップ1202で、本方法は、基板の表面に付着されている捕捉試薬がサンプル液に存在すると予測される標的分子に結合できるように、結晶基板(たとえばダイヤモンド膜)をサンプル液に曝露することを含む。結晶基板は、ダイヤモンド中の窒素-空孔中心などの、少なくとも1つの色中心を含む。標的分子は、タンパク質、または本開示のいずれかに記載される他のいずれかの標的分子であり得る。同様に、捕捉試薬は、所望の標的分子に特異的に結合するのに適したいずれかの分子であり得、アプタマー、SOMAmerなどを含み得る。いくつかの例では、捕捉試薬は、少なくとも2つの明らかに異なる5位が修飾されたピリミジンを含むアプタマーである。
【0121】
ステップ1204で、本方法は、電磁放射線で結晶基板を照射することを含む。電磁放射線は、結晶基板内の色中心により蛍光を刺激または誘導するように構成される。中心周波数、帯域幅、強度、パルスエネルギー、パルス持続期間、および/または分極を含む、電磁放射線の特徴は、少なくとも部分的に、放出された蛍光の特徴を決定するように設計され得る。
【0122】
ステップ1206で、本方法は、たとえば1つ以上の光検出器により、色中心により放出される蛍光を検出することを含む。
【0123】
ステップ1208で、本方法は、サンプル液由来の1つ以上の標的分子を捕捉試薬に結合することによりもたらされる1つ以上の色中心の性質における変化を同定することを含む。たとえば、この変化を同定することは、色中心により放出される放射線のスペクトルにおける変化を同定すること、たとえば色中心により放出される蛍光放射線を検出することを含み得、放出される蛍光の強度、一時的なバリエーション、またはスペクトルにおける変化を同定することを含み得る。
【0124】
図13は、サンプル液におけるタンパク質分子の存在を検出するための装置を製造するための例示的な方法1300のステップを表し、この方法の完全なプロセスまたは全てのステップを表さなくてもよい。方法1300の様々なステップが後述され、図13に表されるが、これらのステップは必ずしも行われる必要がなく、場合により、同時に、または示された順序以外の異なる順序で行われ得る。方法1300の態様は、たとえば、図9に表される統合されたバイオチップを製造するために使用され得る。
【0125】
ステップ1302で、本方法は、たとえば化学蒸着により、結晶膜を製作することを含む。たとえば、12Cを多く含むダイヤモンド膜が、ダイヤモンド基板上でのメタンおよび水素ガスの混合物のプラズマCVD(plasma-enhanced chemical vapor deposition)により生産され得る。
【0126】
ステップ1304で、本方法は、結晶膜中に置換原子を埋め込むことを含む。置換原子は、色中心を形成するために結晶膜中の空孔と共に配置することに適している。
【0127】
1306で、たとえば膜上でイオンビームおよび/または電子ビームを衝突させることにより、空孔が結晶膜中に作製される。
【0128】
ステップ1308で、本方法は、少なくとも一部の空孔と少なくとも一部の置換原子を共に配置させることにより、結晶膜中に色中心を作製することを含む。置換原子および空孔を共に配置することは、たとえば、高温でまたは他のいずれかの適切なプロセスにより、膜を焼きなますことを含み得る。
【0129】
ステップ1310で、本方法は、結晶膜上の第1の表面に捕捉試薬を付着させることを含む。ステップ1310は、結晶膜の表面の一部の領域に捕捉試薬を付着させ、望ましくないタンパク質による非特異的な結合に対し捕捉試薬と結合していない表面の領域を不動態化することを含み得る。捕捉試薬を付着させ表面の他の領域を不動態化することは、特定の標的分子への結合のための活性基を含む不動態化分子の一部を用いて、表面に不動態化分子(たとえば親水性ポリマー)を結合させることにより達成され得る。たとえば、不動態化した分子の一部は、表面に結合するように構成された第1の端部、およびDNAまたは他の標的分子に結合するように構成された活性基を有する第2の端部を有し得る。
【0130】
ステップ1312で、本方法は、光検出器が色中心からの放出を検出できるように、結晶膜の第2の表面に光検出器を付着させることを含む。光検出器は、リソグラフィーを使用して製作されてよく、光学的に透明であり機械的に厳格な接着剤を使用して結晶膜に接着されてよい。いくつかの例では、フィルター層(たとえばフィルター層904)は、光検出器と膜との間に含まれる。
【0131】
サンプル液中の標的分子の濃度を測定するための典型的な検出スキームは、少なくとも1つの色中心による蛍光放射の強度を測定すること、捕捉試薬に対する少なくとも1つの標的分子の結合に応じた蛍光放射の変化を同定すること、および同定した変化に基づきサンプル液中の標的分子の濃度を決定することを含む。たとえば、図7に表される窒素空孔中心の励起および放出の態様は、緩和時間Tが完全に光学的な方法によりモニタリングされる例示的な方法に含まれ得る。Tは、励起光でNV中心を照射することにより、基底のスピン状態をm=0の下位レベルに分極することにより測定される。図4に示されるように、m=±1の下位レベルから励起された電子のフラクションは、ダーク遷移を介して基底状態に戻り、これによりm=0の下位レベルへの遷移を経て、最大強度を提供する。Tは、励起を介した分極が中断された後の蛍光強度を周期的にモニタリングし、どの程度早く基底状態が完全に偏極していない状態に戻るかを見ることにより決定される。尿中のタンパク質を測定するための例示的な方法は、同時にまたは示される順序以外の異なる順序で行われ得る、以下のステップを含む。
1.目的のタンパク質の既知の濃度を含む尿の複数の較正サンプルを調製する。
2.これらの較正サンプルをダイヤモンド層の検知表面にわたり流し、タンパク質に、付着されたSOMAmerに結合するための十分な機会を提供し、任意選択でサンプル液を再循環させる。
3.洗浄液をダイヤモンド層の流体接触表面にわたり流し、洗浄液に、SOMAmerに対し非特異的な形式で結合する分子を除去するための十分な機会を提供し、任意選択で洗浄液を再循環させる。
4.NV中心を、各パルスがNV中心のm=0の状態への完全な分極をもたらすために十分に長い持続期間を有する、一連の励起光のパルスで照射する。これら励起パルス間の時間間隔τは変動する。
5.各励起パルスの起動の直後の蛍光強度、およびスピン状態がm=0の下位レベルに完全に偏極される際の各励起パルスの末端を対象として採用される参照強度を測定する。
6.対応する参照強度で各励起パルスの起動時の蛍光強度を除算することにより正規化した強度を計算する。
7.各較正サンプルの応答プロットを、パルスpの直前の間隔時間tに対する各パルスpの参照強度をプロットすることにより、作製する。
8.各較正サンプルの緩和時間Tを、形態正規化強度(form normalized intensity)=I*exp(-τ/T)の減衰する指数関数を適合することにより見出す。
9.タンパク質濃度vsTの較正曲線を作成する。
10.応答プロットを作製するために、ステップ(2)~(8)を、較正サンプルの代わりに目的のサンプルを使用して反復する。
11.ステップ9の較正曲線を適用して目的の各サンプルのタンパク質濃度を決定する。
【0132】
さらなる方法は、たとえば図8に示されるシステムを含み得る。スピン状態の光学的な検出が好ましいが、マイクロ波の励起の追加および静的な場の導入は、スピン状態を操作するための従来のEPR由来の全ての技術を広げる。これらの例(たとえばハーンエコー、DEERなど)は上述されている。結合した分析物の検出を最適化するために選択され得る当該分野でよく知られている技術を介する追加的なスピン操作のステップを加えた、上記方法に関する多数のバリエーションが存在する。
【0133】
所定の例は、サンプル液として尿または血液(血清もしくは結晶)に主に焦点を当てているが、本技術に係るバイオチップは、様々な生体液または、たとえば希釈によるこれらに由来する溶液で機能し得る。これらは、限定するものではないが、血液、血漿、血清、尿、精液、唾液、髄膜液、羊膜液、腺液、リンパ液、乳頭吸引液、気管支吸引液、滑液、関節吸引液、白血球、末梢血単核細胞、痰、息、細胞、細胞抽出物、糞便、組織、組織抽出物、組織生検、および脳脊髄液を含む。
【0134】
例示的な組み合わせおよび追加的な実施例
このセクションは、一連の段落として限定することなく提示される、プロテオームアッセイのさらなる態様および機構を記載し、これら全てのうちのいくつかは、明良性および効率性のためにアルファベット順に表され得る。これらの段落はそれぞれ、1つ以上の他の段落、および/または参照文献により組み込まれるいずれかの物質を含む本出願のいずれかでの開示と、任意の適切な方法で組み合わせられ得る。以下の段落の一部は、明らかに他の段落を参照しかつ他の段落をさらに限定し、限定するものではないがいくつかの適切な組み合わせの例を提供している。
【0135】
A.流体中の1つ以上の種の標的分子の検出のための装置であって、
a)表面を有する固体の支持体と、
b)上記表面に付着される1つ以上の種の捕捉試薬であって、
c)各種の捕捉試薬が、特定の種の標的分子に選択的に結合する、捕捉試薬と、
d)固体の支持体の表面近くに位置した色中心と、
e)上記捕捉試薬へのタンパク質分子の結合の際に色中心の性質における変化を検出するための検出器
を含む、装置。
【0136】
A1.上記流体が、生体液を含み、上記標的分子が、タンパク質である、段落Aに記載の装置。
【0137】
A2.上記捕捉試薬が、アプタマーである、段落A1に記載の装置。
【0138】
A3.上記アプタマーが、核酸分子である、段落A2に記載の装置。
【0139】
A4.核酸分子の少なくとも一部が、少なくとも1つの5位が修飾されたピリミジンを有する、段落A3に記載の装置。
【0140】
A5.上記固体の支持体が、ダイヤモンド結晶であり、上記色中心が、窒素-空孔中心である、段落A4に記載の装置。
【0141】
A6.上記検出器が、第1の範囲の波長の放射線で窒素-空孔中心を照射し第2の範囲の波長を検出する、光学的システムである、段落A5に記載の装置。
【0142】
A7.光源が、パルス状の光源である、段落A6に記載の装置。
【0143】
A8.上記窒素-空孔中心の性質における変化が、上記窒素空孔中心の磁気共鳴の性質における変化である、段落A7に記載の装置。
【0144】
A9.磁場を提供するための磁場供給源をさらに含む、段落A8に記載の装置。
【0145】
A10.マイクロ波の放射を提供するためのマイクロ波供給源をさらに含む、段落A9に記載の装置。
【0146】
A11.上記マイクロ波供給源が、上記窒素-空孔中心の電子の基底状態の下位レベルと共振する周波数に調節される、段落A10に記載の装置。
【0147】
A12.上記マイクロ波供給源が、パルス状の供給源である、段落A11に記載の装置。
【0148】
A13.上記固体の支持体の表面が、単結晶ダイヤモンドの{111}表面である、段落A5に記載の装置。
【0149】
A14.上記固体の支持体の表面が、単結晶ダイヤモンドの{100}表面である、段落A5に記載の装置。
【0150】
上記窒素-空孔中心が、25ナノメートルのダイヤモンド結晶の表面内に配置される、段落A5に記載の装置。
【0151】
A16.上記核酸分子が、スピンラベルをさらに含む、段落A7に記載の装置。
【0152】
A17.上記核酸分子が、スピンラベルをさらに含む、段落A12に記載の装置。
【0153】
B.サンプル液中の単一または複数の分析物を同時に定量化するための装置であって、
a)1つの面が上記サンプル液と接触し、上記流体と接触する表面から5~25ナノメートル離れた色中心欠陥を含む、薄い結晶層と、
b)結合剤への分析物の結合が、色中心欠陥に対し外部の局所的な磁場に影響を与え、それにより上記色中心欠陥の挙動を検出可能に変えるように、(a)に記載される色中心欠陥のすぐ近くにある結晶層の流体と接触する表面に付着される捕捉剤と、
c)上記色中心欠陥の挙動における変化を検出する手段
を含む、装置。
【0154】
B1.上記色中心欠陥の挙動における変化が、蛍光における変化を含み、上記蛍光における変化を検出する手段が、
a)励起光または他の光を排除しつつ、色中心欠陥からの蛍光放射を通すための、結晶層の非接触表面に結合される光学的フィルター層と、
b)強度を含む、色中心欠陥により放出される蛍光の捕捉および定量化のための、上記結晶層とは反対側で光学的フィルター層に結合される、検出層と、
c)色中心欠陥が蛍光を放出するように刺激されるように、励起光を結晶層に導入するための手段
を含む、段落Bに記載の装置。
【0155】
B2.上記励起光を結晶層に導入するための手段が、上記励起光が上記結晶層の流体と接触する表面に平行な方向で移動するように、上記結晶層の端を介して当該光の導入を行う、段落B1に記載の装置。
【0156】
B3.上記色中心欠陥の挙動における変化が、蛍光における変化を含み、上記蛍光における変化を検出する手段が、
a)励起光または他の光を排除しつつ色中心欠陥からの蛍光放射を通すための、結晶層の非接触表面に結合された、光学的フィルターを任意選択で含む光学的導波管と、
b)強度を含む、色中心の欠陥により放出される蛍光の捕捉および定量化のための、上記結晶層からの光学的導波管の反対側で位置した、検出層と、
c)色中心欠陥が蛍光を放出するように刺激されるような、励起光を結晶層に導入するための手段
を含む、段落Bに記載の装置。
【0157】
B4.上記色中心欠陥の挙動における変化が、上記色中心欠陥に対し局所的な電場または磁場における変化を含み、この電場または磁場における変化を検出する手段が、電子的または光電子的な検出器を含む、段落Bに記載の装置。
【0158】
B5.色中心欠陥の共振挙動に影響を与えかつ/またはそれをモニタリングするための、マイクロ波の放射を結晶層に導入するための手段をさらに含む、段落B1に記載の装置。
【0159】
B6.共振挙動を修正するための、色中心欠陥を含む領域にわたり一定のまたは様々な磁場を課すための手段を含む、段落B5に記載の装置。
【0160】
B7.上記薄い結晶層がダイヤモンド膜であり、上記色中心欠陥が窒素-空孔中心である、段落B5に記載の装置。
【0161】
B8.上記装置が、複数回の使用のために再生され得る、段落B7に記載の装置。
【0162】
B9.上記分析物に特異的な結合剤が、色中心欠陥に対し外部の局所的な磁場上での上記分析物の結合の際に作用を増大させるための磁気スピンラベルに結合され、それにより上記色中心欠陥の挙動を検出可能なように変える、段落B8に記載の装置。
【0163】
B10.上記分析物に特異的な結合剤が、アプタマーまたはSOMAmerである、段落B9に記載の装置。
【0164】
B11.上記光学的なフィルター層が、2色性バンドパスフィルターを形成するために層状化された誘電膜から構成される、段落B9に記載の装置。
【0165】
B12.上記検出層が、上記光学的なフィルター層と即座に接触するCMOSアバランシェ光検出器から構成され、上記光検出器からのシグナルが、高速の電子ゲートを通り、上記高速のゲートを通るシグナルが、イベントカウンターへと通され、イベントカウンターにより収集された結果として得られるデータが、分析のためプロセッサに送達される、段落B9に記載の装置。
【0166】
B13.上記繋留されたSOMAmerの集合が、特異的な分析物に対するそれらの特異性において同一であり、個別の光検出器により捕捉される蛍光を集合的に放出する上記窒素-空孔中心の集合と測定可能な方法で相互作用する、段落B9に記載の装置。
【0167】
B14.上記SOMAmerの集合が、単一の分子からなり、上記窒素-空孔中心の集合が、単一の中心からなる、段落B13に記載の装置。
【0168】
B15.上記SOMAmerの集合が、同じ分析物に対し同一に特異的な複数の分子からなり、上記窒素-空孔中心の集合が、単一の中心からなる、段落B13に記載の装置。
【0169】
B16.複数の上記繋留されたSOMAmerの集合が存在し、それぞれの上記集合が、異なる分析物に特異的である、段落B13に記載の装置。
【0170】
B17.上記繋留されたSOMAmerの集合の数が、100~10,000である、段落B16に記載の装置。
【0171】
B18.必要に応じて上記流体を再循環させるための手段を含む、ダイヤモンド層の流体と接触する表面に流体を配向付けるための手段が含まれ、上記流体が、
a)サンプル液と、
b)上記SOMAmerまたは上記ダイヤモンド層の流体と接触する表面に非特異的な形式で結合する分子を除去するために使用される洗浄液と、
c)上記SOMAmerまたは上記ダイヤモンド層の流体と接触する表面に対して損傷または変性を引き起こすことなく、上記SOMAmerまたは上記ダイヤモンド層の流体と接触する表面に特異的かつ非特異的な両方の形式で結合する分子を除去するために使用される再生液
を含む、段落B13に記載の装置。
【0172】
B19.上記サンプル液が、ヒト対象由来の生体液である、段落B18に記載の装置。
【0173】
B20.上記生体液が、尿である、段落B19に記載の装置。
【0174】
B21.上記装置が、トイレ、便器、または尿の容器内に含まれ、それにより上記トイレ、便器、または尿の容器からの尿の捕捉および分析を可能にするように設計される、段落B20に記載の装置。
【0175】
B22.上記装置により作成されたデータを、可能性のある疾患状態の診断のためのプロテオミクスのデータベースと比較する、段落B21に記載の装置。
【0176】
B23.分析物の濃度が、記載される方法:
a)上記分析物の既知の濃度を含む流体の複数の較正サンプルを調製することと、
b)任意選択で上記較正サンプル液の再循環を含む、上記ダイヤモンド層の流体と接触する表面に上記較正サンプルを方向付けること、および上記繋留されたSOMAmerに結合するために十分な機会を上記分析物に提供することと、
c)上記ダイヤモンド層の流体と接触する表面に上記洗浄液を方向付けることであって、上記洗浄液に、上記SOMAmerに非特異的な形式で結合する分子を除去するための十分な機会を与え、当該機会が任意選択で、上記洗浄液の再循環を含む、方向付けることと、
d)励起光で上記窒素―空孔中心を照射することであって、上記光が、上記窒素-空孔中心の蛍光放射を誘導する周波数を含む、照射すること、および上記蛍光放射強度を測定することと、
e)マイクロ波の放射で上記窒素-空孔中心を照射することであって、上記マイクロ波の放射の周波数が、0のスピン状態から±1のスピン状態への上記窒素-空孔中心での基底状態の電子の変換を誘導する共振周波数を含むと予測される範囲にわたり変動する、照射することと、
f)上記それぞれの較正サンプルに関して、上記蛍光放射強度対上記マイクロ波の放射の周波数のプロットを作成することと、
g)分析物濃度対(f)からの上記較正サンプルのプロットのいくつかの選択された特徴の較正曲線を作成することと、
h)(f)でのようにプロットを作成するために、較正サンプルの代わりに目的のサンプルを使用して、ステップ(b)~(f)を反復することと、
i)ステップ(f)の較正曲線を適用して、上記目的のサンプルのそれぞれの分析物の濃度を決定すること
に従い上記サンプル液中で測定される、段落B18に記載の装置。
【0177】
B24.上記プロットの選択された特徴が、最も極端な極小値を位置づけることにより決定される、共振マイクロ波周波数である、段落B13に記載の装置および方法。
【0178】
B25.上記プロットの選択された特徴が、いくつかの形式、たとえば半値全幅(FWHM)、または変動係数(CV)で、共振反転ピークの幅を表す、段落23に記載の装置および方法。
【0179】
B26.分析物の濃度が、記載される方法:
a)上記分析物の既知の濃度を含む流体の複数の較正サンプルを調製することと、
b)任意選択で上記較正サンプル液の再循環を含む、上記ダイヤモンド層の流体と接触する表面に上記較正サンプルを方向付けること、および上記繋留されたSOMAmerに結合するために十分な機会を上記分析物に与えることと、
c)上記ダイヤモンド層の流体と接触する表面に上記洗浄液を方向付けることであって、上記洗浄液に、上記SOMAmerに非特異的な形式で結合する分子を除去するための十分な機会を与え、当該機会が、任意選択で上記洗浄液の再循環を含む、方向付けることと、
d)一連の励起光の矩形波のパルスpで上記窒素-空孔中心を照射することであって、上記光が、上記窒素-空孔中心の蛍光放射を誘導する周波数を含み、各パルスがそれぞれ、上記窒素-空孔中心の0スピン状態への完全な分極をもたらすために十分長い、照射すること、これらの上記記励起パルスp間の空間τをさらに変動させることと、
e)上記各励起パルスの起動の直後の蛍光強度、および上記各励起パルスの終わりに対し取られる、参照強度を測定することであって、上記参照強度が、スピン状態が0スピン状態に完全に偏極されるはずである場合に測定される、測定することと、
f)対応する上記参照強度で上記各励起パルスpの起動時の蛍光強度を除算することにより正規化された強度を計算することと、
g)パルスpの直前の間隔時間tに対する各パルスpの参照強度をプロットすることにより、各較正サンプルの応答プロットを作製することと、
h)式y=I*exp(-τ/T1)(式中yは、上記各パルスpの正規化した強度の集合からなる依存的な変数であり、独立した変数τは、上記パルスpのそれぞれに先行する間隔時間の集合である)の減衰する指数関数を適合することにより、上記較正サンプルそれぞれの緩和時間Tを見出すことと、
i)上記較正サンプル中の既知の分析物濃度対ステップ(h)由来の緩和時間Tの較正曲線を作成することと、
j)(g)でのようなプロットを作成するために較正サンプルの代わりに目的のサンプルを使用してステップ(b)~(h)を反復すること、およびステップ(h)でのように緩和時間を見出すことと、
k)ステップ(i)の較正曲線を適用して、目的のサンプルそれぞれの分析物の濃度を決定すること
に従い上記サンプル液中で測定される、段落B18に記載の装置。
【0180】
C.標的分子を検出するための装置であって、
流体と接触するように較正された表面と、
それぞれが標的分子に結合するように構成される、上記表面に付着される複数の捕捉試薬と、
上記表面の近位に位置する複数の色中心と、
上記捕捉試薬の1つへの標的分子の結合に応じた色中心の少なくとも1つの性質における変化を検出するように構成された少なくとも1つの検出器
を含む、装置。
【0181】
C1.上記標的分子が、タンパク質であり、上記捕捉試薬が、アプタマーである、段落Cに記載の装置。
【0182】
C2.上記アプタマーが、核酸分子である、段落C1に記載の装置。
【0183】
C3.上記核酸分子が、少なくとも1つの5位が修飾されたピリミジンを有する、段落C2に記載の装置。
【0184】
C4.上記表面が、ダイヤモンド結晶の表面であり、上記色中心が、上記ダイヤモンド結晶の窒素-空孔中心である、段落Cに記載の装置、
【0185】
C5.上記ダイヤモンド結晶が、単結晶ダイヤモンドである、段落C4に記載の装置。
【0186】
C6.第1の範囲の波長を有する放射線で窒素-空孔中心を照射するように構成された光源をさらに含み、上記検出器が、第2の範囲の波長を有する放射線を検出するように構成される、段落C4に記載の装置。
【0187】
C7.上記性質が、窒素-空孔中心の磁気共鳴に関連している、段落C4に記載の装置。
【0188】
C8.窒素-空孔中心の電子の基底状態の下位レベルの共振周波数を含む範囲の周波数を有するマイクロ波の放射を提供するように構成されたマイクロ波供給源をさらに含む、段落C4に記載の装置。
【0189】
C9.捕捉試薬が、複数の捕捉種に属する試薬を含み、各捕捉種が、特定の標的種の標的分子に結合するように構成される、段落Cに記載の装置。
【0190】
C10.標的分子の濃度を測定するための装置であって、
少なくとも1つの色中心を含む結晶膜と、
上記結晶膜の表面に付着され、かつ上記標的分子に結合するように構成される複数の捕捉試薬と、
励起光で上記色中心を照射し、かつ上記色中心からの電磁放射線の放出を検出するように構成される検出器アセンブリ
を含む、装置。
【0191】
C11.上記捕捉試薬が、磁気スピンラベルを含み、上記色中心の磁場が、上記捕捉試薬の1つに対する標的分子の結合に応じて変化する、段落C10に記載の装置。
【0192】
C12.上記検出器アセンブリが、第1の下位状態から第2の下位状態への色中心での基底状態の電子の変換を誘導できる周波数を有するマイクロ波の放射で上記色中心を照射するように構成される、段落C11に記載の装置。
【0193】
C13.上記結晶膜が、ダイヤモンド膜であり、上記色中心が、窒素-空孔中心である、段落C10に記載の装置。
【0194】
C14.上記標的分子の1つに対する上記捕捉試薬のうちの1つの結合が、上記捕捉試薬のスピンラベルと上記色中心の間の相互作用を変化させることにより、上記色中心からの電磁放射線の放射における検出可能な変化をもたらす、段落C10に記載の装置。
【0195】
C15.標的分子を検出するための装置であって、
結晶基板の表面に付着され、かつサンプル液から標的分子を捕捉するように構成される、複数の捕捉試薬と、
上記捕捉試薬から固定距離で配置される複数の色中心であって、上記固定距離が、上記色中心の少なくとも1つの性質が、上記捕捉試薬の1つによる上記標的分子の1つの捕捉に応じて変化するために十分に小さい、複数の色中心と、
上記色中心の少なくとも1つの性質における変化を検出するように構成された検出器
を含む、装置。
【0196】
C16.上記捕捉試薬が、アプタマーである、段落C15に記載の装置。
【0197】
C17.上記捕捉試薬が、オリゴヌクレオチドである、段落C16に記載の装置。
【0198】
C18.上記捕捉試薬が、少なくとも5位が修飾されたピリミジンを有する核酸分子である、段落C16に記載の装置。
【0199】
C19.上記結晶基板が、ダイヤモンド膜であり、上記色中心が、窒素-空孔中心である、段落C18に記載の装置。
【0200】
D0.サンプル液中の標的分子を検出するための方法であって、
サンプル液と、表面に付着されかつ標的分子に結合するように構成された捕捉試薬を接触させることと、
上記表面の近位に配置された上記色中心を、上記色中心による蛍光放射を誘導するように構成された励起光で照射することと、
1つ以上の検出器を使用して上記蛍光放射の強度を測定することと、
上記捕捉試薬に対する上記標的分子の結合に応じた上記蛍光放射の強度における変化を検出すること
を含む、方法。
【0201】
D1.第1の下位状態から第2の下位状態への色中心での基底状態の電子の変換を誘導できる周波数のマイクロ波の放射で上記色中心を放射することをさらに含み、
上記捕捉試薬に対する上記標的分子の結合に応じた上記蛍光放射の強度における変化を検出することが、上記蛍光放射の測定された強度と上記マイクロ波の放射の周波数の間の関係に基づき上記色中心の共振挙動を同定することを含む、
D0に記載の方法。
【0202】
D2.上記標的分子が、タンパク質である、段落D0またはD1に記載の方法。
【0203】
D3.上記捕捉試薬が、アプタマーである、段落D0~D2のいずれか1項に記載の方法。
【0204】
D4.上記捕捉試薬が、少なくとも5位が修飾されたピリミジンを有する核酸分子である、段落D0~D3のいずれか1項に記載の方法。
【0205】
D5.上記表面が、ダイヤモンド結晶の表面であり、上記色中心が、上記ダイヤモンド結晶の窒素-空孔中心である、段落D0~D4のいずれか1項に記載の方法。
【0206】
D6.上記捕捉試薬が、少なくとも1つの第1の5位が修飾されたピリミジンおよび少なくとも1つの第2の5位が修飾されたピリミジンを含むアプタマーであり、上記第1の5位が修飾されたピリミジンおよび上記第2の5位が修飾されたピリミジンが、異なる5位が修飾されたピリミジンであり、
上記第1の5位が修飾されたピリミジンが、5位が修飾されたウリジンであり、かつ
上記第2の5位が修飾されたピリミジンが、5位が修飾されたシチジンであり、または
上記第1の5位が修飾されたピリミジンが、5位が修飾されたシチジンであり、かつ
上記第2の5位が修飾されたピリミジンが、5位が修飾されたウリジンである、
段落D0~D5のいずれか1項に記載の方法。
【0207】
E0.標的分子の濃度を測定するための方法であって、
結晶膜の表面に流体を曝露させて、上記表面に付着されている捕捉試薬を、上記流体内の標的分子に結合させることと、
上記結晶膜内の少なくとも1つの色中心により蛍光放射を誘導するように構成された励起光で上記膜を照射することと、
上記蛍光放射に基づき、上記標的分子と上記捕捉試薬の間の結合に応じた色中心の性質における変化を検出することと、
検出された変化に基づき、上記流体内の標的分子の濃度を決定すること
を含む、方法。
【0208】
E1.上記標的分子が、タンパク質である、段落E0に記載の方法。
【0209】
E2.上記捕捉試薬が、磁気スピンラベルを含み、上記少なくとも1つの色中心の磁場が、上記標的分子と上記捕捉試薬の間の結合に応じて変化する、段落E1またはE2に記載の方法。
【0210】
E3.上記励起光で膜を照射することが、第1の下位状態から第2の下位状態への上記色中心での基底状態の電子の変換を誘導できる周波数を有するマイクロ波の放射で上記色中心を照射することを含む、段落E0~E2のいずれか1項に記載の方法。
【0211】
E4.上記色中心が、窒素空孔中心である、段落E0~E3のいずれか1項に記載の方法。
【0212】
E5.上記結晶膜が、ダイヤモンド膜である、段落E0~E4のいずれか1項に記載の方法。
【0213】
F0.標的分子を検出するための方法であって、
結晶基板を、上記結晶基板の表面に付着される複数の捕捉試薬がサンプル液内の標的分子に結合するように、上記サンプル液に曝露させることと、
上記捕捉試薬に対する上記標的分子の結合に応じた上記結晶基板内の1つ以上の色中心の性質における変化を同定すること
を含む、方法。
【0214】
F1.上記結晶基板が、ダイヤモンド膜であり、上記色中心が、上記ダイヤモンド膜内の窒素-空孔中心である、段落F0に記載の方法。
【0215】
F2.上記結晶基板を電磁放射線で照射することをさらに含み、1つ以上の色中心の性質における変化を同定することが、上記色中心により放出される蛍光放射線を検出することを含む、段落F0またはF1に記載の方法。
【0216】
F3.上記捕捉試薬が、少なくとも2つの明らかに異なる5位が修飾されたピリミジンを含むアプタマーである、段落F0~F2のいずれか1項に記載の方法。
【0217】
F4.上記標的分子が、タンパク質である、段落F0~F3のいずれか1項に記載の方法。
【0218】
G0.サンプル液中のタンパク質分子の存在を検出するための装置を製造するための方法であって、
結晶膜を製作することと、
上記結晶膜内に複数の置換原子を埋め込むことと、
上記結晶膜内に複数の空孔を作製することと、
少なくともいくつかの置換原子を少なくともいくつかの空孔と共に配置することにより、上記結晶膜内に色中心を作製することと、
上記結晶膜の第1の表面に複数の捕捉試薬を付着させることと、
上記結晶膜の第2の表面に光検出器の層を付着させること
を含む、方法。
【0219】
G1.上記結晶膜が、化学蒸着を使用して製作される、段落G0に記載の方法。
【0220】
G2.上記空孔が、電子ビームを使用して作製される、段落G0またはG1に記載の方法。
【0221】
G3.上記置換原子が、高温で上記結晶膜を焼きなますことにより上記空孔と共に配置される、段落G0~G2のいずれか1項に記載の方法。
【0222】
G4.上記光検出器の層を付着させることが、リソグラフィーを使用して上記光検出器の層を製作することと、光学的に透明な接着剤を使用して上記結晶膜の第2の表面に上記光検出器の層を接着させることを含む、段落G0~G3のいずれか1項に記載の方法。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11
図12
図13