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特許7408002マスターバッチ、化学繊維、および成形物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】マスターバッチ、化学繊維、および成形物
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20231222BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231222BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231222BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
C08J3/22 CER
C08J3/22 CEZ
C08L101/00
C08K3/04
D01F6/92 303C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023130335
(22)【出願日】2023-08-09
【審査請求日】2023-08-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 篤
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/018210(WO,A1)
【文献】特表2014-506269(JP,A)
【文献】特表2023-533175(JP,A)
【文献】特開2014-51551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/22
C08L 101/00
C08K 3/04
D01F 6/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと、銅フタロシアニン系顔料と、ペリノン系顔料と、熱可塑性樹脂とを含有するマスターバッチであって、
前記カーボンブラックに対する前記銅フタロシアニン系顔料の質量比(銅フタロシアニン系顔料/カーボンブラック)が、1/5以上1/2以下であり、
前記カーボンブラックに対する前記ペリノン系顔料の質量比(ペリノン系顔料/カーボンブラック)が、1/5以上1/2以下であり、
前記銅フタロシアニン系顔料の平均粒子径が、80nm以上100nm以下であり、
前記マスターバッチが下記条件1を満たす、マスターバッチ。
(条件1)
ポリエステル系樹脂(ユニチカ社製の「MA-2103」)に対し、酸化チタン白色顔料(堺化学工業社製の「TITONE A-160」)1質量%を配合するとともに、前記マスターバッチを当該樹脂組成物中のカーボンブラックの配合量が0.1質量%となるように配合し、混錬して得られた樹脂組成物(配合量100質量%)を調製し、この樹脂組成物を成形して、厚み2.0mmの測定サンプルを作製する。この測定サンプルの表面を、CIE標準光源D65を用い、2度視野にて測定したL値、a値、およびb値が、下記数式(F1)、下記数式(F2)、および下記数式(F3)で示す全ての条件を満たす。
26.0≦L値≦27.75 ・・・(F1)
-0.3≦a値≦0.7 ・・・(F2)
-7.25≦b値≦-6.25 ・・・(F3)
【請求項2】
前記カーボンブラックの平均一次粒子径が、10nm以上50nm以下である、請求項1に記載のマスターバッチ。
【請求項3】
前記ペリノン系顔料の平均粒子径が、1000nm以上5000nm以下である、請求項1に記載のマスターバッチ。
【請求項4】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のマスターバッチで着色されている、化学繊維。
【請求項5】
請求項1~請求項のいずれか1項に記載のマスターバッチで着色されている、成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスターバッチ、化学繊維 、および成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
化学繊維に対する着色の方法として、深みのある青味黒の色調を出すためには染色法が有効的である。しかしながら、染色は排水面など環境に対する側面で不利な所がある。また、耐候性の面では顔料の方が有利である。一方で、化学繊維に対する着色の方法としては、染色法の他に、原液着色法がある。染めにくい繊維または同じ色の繊維を大量に作り出す場合には、原液着色法が用いられる。また、黒色の化学繊維に対する着色には、カーボンブラックによる原液着色法が用いられている。しかしながら、カーボンブラックは、優れた物性を有するものの、赤味黒色の色相となる傾向にある。そこで、この赤味黒色の色相を、青味黒色の色相に改良することが求められている。
例えば、熱可塑性樹脂と、カーボンブラックと、銅フタロシアニン顔料と、銅フタロシアニンスルホン酸誘導体とを含有する、繊維径が8μm以下の極細繊維着色用マスターバッチが記載されている(特許文献1)。
ポリエステル製造中に、カーボンブラックと、カーボンブラックの0.3~2重量倍の塩素置換銅フタロシアニンとを添加する、ポリエステルの製造法が記載されている(特許文献2)。
カーボンブラックにより黒色に着色するにあたり、カーボンブラックの0.05~4重量倍のイミドメチルフタロシアニンを添加する、黒色ポリエステルの色相改良法が記載されている(特許文献3)。
カーボンブラックと特定の銅フタロシアニン誘導体とを併用する、ポリアミドの着色方法が記載されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-109897号公報
【文献】特開昭49-087792号公報
【文献】特公昭59-021903号公報
【文献】特公平6-035540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~4に記載のマスターバッチおよび着色方法などを用いた場合には、化学繊維を青味黒色の色相への改良はできる。しかしながら、特許文献1~4に記載のマスターバッチおよび着色方法などでは、深みのある青味黒は出せず、化学繊維を要求される青味黒色の色相に調整できない場合があった。すなわち、b値のみ-方向に振れず、a値も変動してしまう。そして、b値のみを-方向に振るためには、紫系の顔料の併用が必要であり、かつ赤味方向や緑味方向にいかない色調を出すことが必要である。
【0005】
本発明は、カーボンブラック特有の赤味黒色を青味黒色に改良でき、さらに熱可塑性樹脂に対する分散性に優れた着色用のマスターバッチ、化学繊維、および成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下に示すマスターバッチ、化学繊維、および成形物が提供される。
[1]カーボンブラックと、銅フタロシアニン系顔料と、ペリノン系顔料と、熱可塑性樹脂とを含有するマスターバッチであって、
前記マスターバッチが下記条件1を満たす、マスターバッチ。
(条件1)
ポリエステル系樹脂(ユニチカ社製の「MA-2103」)に対し、酸化チタン白色顔料(堺化学工業社製の「TITONE A-160」)1質量%を配合するとともに、前記マスターバッチをカーボンブラックの配合量が0.1質量%となるように配合し、混錬して得られた樹脂組成物(配合量100質量%)を調製し、この樹脂組成物を成形して、厚み2.0mmの測定サンプルを作製する。この測定サンプルの表面を、CIE標準光源D65を用い、2度視野にて測定したL値、a値、およびb値が、下記数式(F1)、下記数式(F2)、および下記数式(F3)で示す全ての条件を満たす。
26.0≦L値≦27.75 ・・・(F1)
-0.3≦a値≦0.7 ・・・(F2)
-7.25≦b値≦-6.25 ・・・(F3)
【0007】
[2] 前記カーボンブラックの平均一次粒子径が、10nm以上50nm以下である、[1]に記載のマスターバッチ。
【0008】
[3] 前記銅フタロシアニン系顔料の平均粒子径が、80nm以上100nm以下である、[1]または[2]に記載のマスターバッチ。
【0009】
[4] 前記ペリノン系顔料の平均粒子径が、1000nm以上5000nm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のマスターバッチ。
【0010】
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のマスターバッチで着色されている、化学繊維。
【0011】
[6] [1]~[4]のいずれかに記載のマスターバッチで着色されている、成形物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カーボンブラック特有の赤味黒色を青味黒色に改良でき、さらに熱可塑性樹脂に対する分散性に優れた着色用のマスターバッチ、化学繊維、および成形物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<マスターバッチ>
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本実施形態に係るマスターバッチは、カーボンブラックと、銅フタロシアニン系顔料と、ペリノン系顔料と、熱可塑性樹脂とを含有するものである。
また、本実施形態に係るマスターバッチは、下記条件1を満たすことが必要である。
【0014】
(条件1)
ポリエステル系樹脂(ユニチカ社製の「MA-2103」)に対し、酸化チタン白色顔料(堺化学工業社製の「TITONE A-160」)1質量%を配合するとともに、前記マスターバッチをカーボンブラックの配合量が0.1質量%となるように配合し、混錬して得られた樹脂組成物(配合量100質量%)を調製し、この樹脂組成物を成形して、厚み2.0mmの測定サンプルを作製する。この測定サンプルの表面を、CIE標準光源D65を用い、2度視野にて測定したL値、a値、およびb値が、下記数式(F1)、下記数式(F2)、および下記数式(F3)で示す全ての条件を満たす。
26.0≦L値≦27.75 ・・・(F1)
-0.3≦a値≦0.7 ・・・(F2)
-7.25≦b値≦-6.25 ・・・(F3)
【0015】
値が26.0未満の場合、或いは、L値が27.75超の場合には、マスターバッチを用いて化学繊維を着色した際に、高級感のある優れた青味黒色の色相に調整できない。また、同様の観点から、L値は、26.25以上27.5以下であることが好ましく、26.5以上27.25以下であることより好ましい。
【0016】
値が-0.3未満の場合、或いは、a値が0.7超の場合には、マスターバッチを用いて化学繊維を着色した際に、高級感のある優れた青味黒色の色相に調整できない。また、同様の観点から、a値は、-0.2以上0.6以下であることが好ましく、-0.1以上0.5以下であることより好ましい。
【0017】
値が-7.25未満の場合、或いは、a値が-6.25超の場合には、マスターバッチを用いて化学繊維を着色した際に、高級感のある優れた青味黒色の色相に調整できない。また、同様の観点から、b値は、-7.0以上-6.5以下であることが好ましい。
【0018】
値、a値、およびb値は、カーボンブラック、銅フタロシアニン系顔料およびペリノン系顔料の種類または配合量を変更したり、原料に一次加工を行うことにより、調整することができる。なお、カーボンブラック、銅フタロシアニン系顔料およびペリノン系顔料の組合せによれば、L値、a値、およびb値を目的とする範囲に調整できる。
また、この条件1を満たすようなマスターバッチを、例えば、化学繊維に用いた場合には、化学繊維を優れた青味黒色の色相に調整できる。なお、マスターバッチの用途は、化学繊維に限定されない。マスターバッチの用途としては、シート、フィルム、および成形物などが挙げられる。
【0019】
本実施形態に係るマスターバッチにより、カーボンブラック特有の赤味黒色を青味黒色に改良でき、さらに熱可塑性樹脂に対する分散性に優れる理由は、以下のとおりであると、本発明者らは推察している。
すなわち、本実施形態に係るマスターバッチは、カーボンブラックと、銅フタロシアニン系顔料の他に、特定の紫系の顔料(ペリノン系顔料)を、それぞれ所定割合で含有している。このペリノン系顔料により、b値のみを-方向に振り、かつ赤味方向や緑味方向にいかない色調を出している。さらに、銅フタロシアニン系顔料およびペリノン系顔料は、それぞれ一次加工を行ったものを使用しており、結果として、下記条件1を満たすマスターバッチを得られる。このようにして、原液着色法に用いるマスターバッチであるにも拘わらず、染色法に匹敵する色相を兼ね備えていて、極細繊維にも使用できる高分散なマスターバッチが得られる。
また、従来、マスターバッチは、化学繊維を作製した状態(希釈品)で、測色を行い、色相を調整していた。そのため、化学繊維を作製する際に、ベース樹脂の影響などにより、要求する青味黒色の色相に調整できない場合があった。これに対し、本実施形態に係るマスターバッチは、条件1を満たすため、化学繊維に用いた場合に、要求する青味黒色の色相に調整できる。また、酸化チタン白色顔料を添加した測定サンプルでは、サンプルの色差が大きくなるため、これでL値、a値、およびb値を調整すれば、希釈品での色相をより精度よく、調整することができる。また、条件1におけるL値、a値、およびb値をそれぞれ所定範囲とすれば、化学繊維に用いた場合に、要求する青味黒色の色相に調整できる。以上のようにして、上記本発明の効果が達成されるものと本発明者らは推察する。
【0020】
(カーボンブラック)
カーボンブラックは、黒色度を付与するのに重要な着色剤である。カーボンブラックは、市販品として入手可能なものを使用できる。カーボンブラックは、製法によって異なる特徴を有する。ただし、製法によっては、カーボンブラック表面の酸素含有基灰分がpHを変化させると同時に未分解有機物が残留し、臭気成分またはVOCを発生させる原因となる可能性もある。具体的なカーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、およびサーマルブラックなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
原液着色法により得られる色味の観点から、カーボンブラックの平均一次粒子径は、10nm以上50nm以下であることが好ましく、13nm以上40nm以下であることがより好ましく、13nm以上30nm以下であることが特に好ましい。
【0021】
原液着色法により得られる色味の観点から、カーボンブラックの含有量は、マスターバッチ100質量%に対して、10.2質量%以上13.8質量%以下であることが好ましく、10.8質量%以上13.2質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
(銅フタロシアニン系顔料)
銅フタロシアニン系顔料は、青色の着色剤である。この銅フタロシアニン系顔料は、耐候性、耐熱性、および耐久性などに優れている。また、この銅フタロシアニン系顔料を所定量配合することにより、条件1におけるL値、a値、およびb値を目的とする範囲に調整できる。銅フタロシアニン系顔料以外の青色着色剤を用いた場合、条件1におけるL値、a値、およびb値を目的とする範囲に調整することが困難になる。
銅フタロシアニン系顔料としては、銅フタロシアニン、および銅フタロシアニン誘導体が挙げられる。銅フタロシアニン系顔料には、例えば、ロジン処理などが施されていてもよい。
市販されている銅フタロシアニン系顔料としては、C.I.ピグメントブルー(以下、PBとも称する)-15:1、PB-15:2、PB-15:3、およびPB-15:4などが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
原液着色法により得られる色味の観点から、銅フタロシアニン系顔料の平均粒子径は、80nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0023】
原液着色法により得られる色味の観点から、銅フタロシアニン系顔料の含有量は、マスターバッチ100質量%に対して、3.1質量%以上4.7質量%以下であることが好ましく、3.5質量%以上4.3質量%以下であることがより好ましい。
また、カーボンブラックに対する銅フタロシアニン系顔料の質量比(銅フタロシアニン系顔料/カーボンブラック)は、1/5以上1/2以下であることが好ましく、1/4以上2/5以下であることがより好ましく、3/10以上7/20以下であることが特に好ましい。
【0024】
(ペリノン系顔料)
ペリノン系顔料は、紫色の着色剤である。このペリノン系顔料は、耐候性、耐熱性、および耐久性などに優れている。また、このペリノン系顔料を所定量配合することにより、条件1におけるL値、a値、およびb値を目的とする範囲に調整できる。ペリノン系顔料以外の紫色着色剤を用いた場合、条件1におけるL値、a値、およびb値を目的とする範囲に調整することが困難になる。
ペリノン系顔料としては、市販されているペリノン系顔料を適宜使用できる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
原液着色法により得られる色味の観点から、ペリノン系顔料の平均粒子径は、1000nm以上5000nm以下であることが好ましく、1500nm以上4000nm以下であることがより好ましく、2000nm以上3000nm以下であることが特に好ましい。
【0025】
原液着色法により得られる色味の観点から、ペリノン系顔料の含有量は、マスターバッチ100質量%に対して、3.1質量%以上4.6質量%以下であることが好ましく、3.5質量%以上4.2質量%以下であることがより好ましい。
また、カーボンブラックに対するペリノン系顔料の質量比(ペリノン系顔料/カーボンブラック)は、1/5以上1/2以下であることが好ましく、1/4以上2/5以下であることがより好ましく、3/10以上7/20以下であることが特に好ましい。
【0026】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、マスターバッチのバインダーとなるベース樹脂である。この熱可塑性樹脂は、化学繊維の樹脂と同じであることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、およびポリプロピレン樹脂など)、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、およびポリブチレンテレフタレート樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。ポリエステル樹脂は、ホモPETであってもよく、共重合PETであってもよい。
【0027】
熱可塑性樹脂の含有量は、カーボンブラック、銅フタロシアニン系顔料およびペリノン系顔料の分散状態を維持できるような範囲とすることが好ましい。この観点から、カーボンブラック、銅フタロシアニン系顔料およびペリノン系顔料の合計含有量は、マスターバッチ100質量%に対して、15.8質量%以上23.7質量%以下であることが好ましく、質量17.7%以上21.7質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
(他の成分)
本実施形態に係るマスターバッチは、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック、銅フタロシアニン系顔料およびペリノン系顔料以外の顔料、無機フィラー(シリカ、およびチタンなど)、エステル系ワックス、ポリエチレンワックス、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、および界面活性剤などを含有していてもよい。
【0029】
<マスターバッチの製造方法>
次に、本実施形態に係るマスターバッチの製造方法について、説明する。
本実施形態に係るマスターバッチは、例えば、下記工程1から工程3を備える方法により作製できる。
工程1:銅フタロシアニン系顔料および熱可塑性樹脂を含有する青色材料を作製する工程
工程2:ペリノン系顔料および熱可塑性樹脂を含有する紫色材料を作製する工程
工程3:カーボンブラックと、青色材料と、紫色材料と、熱可塑性樹脂とを混合して、マスターバッチを作製する工程
【0030】
工程1においては、銅フタロシアニン系顔料および熱可塑性樹脂を含有する青色材料を作製する。
銅フタロシアニン系顔料および熱可塑性樹脂としては、前述のとおりである。
青色材料を作製する方法としては、高速ミキサー(ヘンシェルミキサーなど)、タンブラーなどの各種混合機で混練する方法、或いは、バンバリーミキサー、ロール、プラストグラフ、単軸押出機、二軸押出機、およびニーダーなどの混練装置で溶融混練する方法が挙げられる。
【0031】
工程2においては、ペリノン系顔料および熱可塑性樹脂を含有する紫色材料を作製する。
ペリノン系顔料および熱可塑性樹脂としては、前述のとおりである。
紫色材料を作製する方法としては、工程1と同様の方法を採用できる。
【0032】
カーボンブラックと、青色材料と、紫色材料と、熱可塑性樹脂とを混合して、マスターバッチを作製する。
カーボンブラックは、前述のとおりである。ただし、カーボンブラックは、カーボンブラックおよび熱可塑性樹脂を含有する黒色材料であってもよい。このとき、黒色材料を作製する方法としては、工程1と同様の方法を採用できる。
青色材料および紫色材料は、前述のとおりである。
カーボンブラックと、青色材料と、紫色材料と、熱可塑性樹脂とを混合する方法としては、工程1と同様の方法を採用できる。
ただし、工程3では、ヘンシェルミキサーなどを用いて十分に混合した後に、押出機などを使用して各成分を溶融混練することが、生産効率を高めることができるために好ましい。また、押出機としては、二軸押出機を用いることが好ましい。押出機などの混練装置を使用して各成分を溶融混練するとともに、混練物をストランド状に押し出した後、ストランド状に押し出された混練物をペレット状またはフレーク状などの所望の形態に加工できる。
溶融混練時の温度は、200℃以上300℃以下であることが好ましく、260℃以上280℃以下であることがより好ましい。
【0033】
<化学繊維>
本実施形態に係る化学繊維は、前述の本実施形態に係るマスターバッチで着色されているものである。この化学繊維は、例えば、化学繊維を形成するための樹脂に、マスターバッチを混合し、紡糸口金(ノズル)から押出して作製できる。
化学繊維を形成するための樹脂としては、ポリエステル樹脂、およびポリアミド樹脂などが挙げられる。
本実施形態に係る化学繊維は、前述の本実施形態に係るマスターバッチを使用しているため、高級感のある優れた青味黒色の色相に調整できる。
【0034】
<成形物>
本実施形態に係る成形物は、前述の本実施形態に係るマスターバッチで着色されているものである。この成形物は、例えば、本実施形態に係るマスターバッチで着色されている樹脂組成物を、成形することで、作製できる。
ここで用いる樹脂としては、前述の熱可塑性樹脂を用いることができる。
本実施形態に係る成形物は、前述の本実施形態に係るマスターバッチを使用しているため、高級感のある優れた青味黒色の色相に調整できる。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0036】
[実施例1]
(青色材料-1の作製)
青色銅フタロシアニン顔料(商品名「シアニンブルー4920D」、大日精化工業社製、平均粒子径80~100nm)50部とポリエステル系樹脂(融点110℃、極限粘度0.70)50部を溶融混錬した。
この混練物40部とポリエステル系樹脂(融点260℃、極限粘度0.68)60部を混合し、混練して、青色材料-1を作製した。
【0037】
(紫色材料-1の作製)
紫色ペリノン系有機顔料(平均粒子径2000~3000nm)50部とポリエステル系樹脂(融点110℃、極限粘度0.70)50部を溶融混錬した。
この混練物40部とポリエステル系樹脂(融点260℃、極限粘度0.68)60部を混合し、混練して、紫色材料-1を作製した。
【0038】
(黒色材料-1の作製)
カーボンブラック(平均一次粒子径19nm)20部と、ポリエステル系樹脂(商品名「MA-2103」、ユニチカ社製)80部とをヘンシェルミキサーを用いて十分に混合した。この混合物を、二軸押出機を用いて260℃~280℃で混練して、黒色材料-1を作製した。
【0039】
(マスターバッチの作製)
得られた青色材料-1、紫色材料-1、および黒色材料-1、並びに、ポリエステル系樹脂(商品名「MA-2103」、ユニチカ社製)を所定の濃度になるように計量し、ヘンシェルミキサーを用いて十分に混合した。配合した混合物を、二軸押出機を用いて260℃~280℃で混練し、円柱状ペレットのマスターバッチ(MB-1)を作製した。
【0040】
(色相評価用の試験片(成形物)の作製)
得られたマスターバッチと、マスターバッチに用いたポリエステル系樹脂と同じポリエステル系樹脂と、酸化チタン顔料をドライブレンドし、色相評価用の樹脂組成物を調製した。この際、カーボンブラック顔料の濃度が0.1質量%、酸化チタン顔料の濃度が1. 0質量%となる組成に調整し、単軸押出機を用いて260℃~280℃で混練し、円柱状ペレットを得た。なお、酸化チタン顔料を添加する目的としては色差を大きくするために添加している。
次いで、成形機(山城精機製作所製 成型機名;SAV-40-50-CP)を使用して、樹脂組成物を成形し、2mm厚の成形物を作製した。
【0041】
[実施例2]
黒色材料-1に代えて、カーボンブラック(平均一次粒子径19nm)を使用した以外は、実施例1と同様にして、マスターバッチ(MB-2)および成形物を作製した。
【0042】
[比較例1]
(青色材料-2の作製)
青色銅フタロシアニン顔料(商品名「シアニンブルーA044」、大日精化工業社製、平均粒子径60~80nm)50部とポリエステル系樹脂(融点110℃、極限粘度0.70)50部を溶融混錬した。
この混練物40部とポリエステル系樹脂(融点260℃、極限粘度0.68)60部を混合し、混練して、青色材料-2を作製した。
【0043】
(マスターバッチおよび成形物の作製)
青色材料-1に代えて、得られた青色材料-2を使用した以外は、実施例1と同様にして、マスターバッチ(MB-C1)および成形物を作製した。
【0044】
[比較例2~8]
表1に示す配合に変更した以外は、実施例1と同様にして、マスターバッチ(MB-C1~MB-C8)および成形物を作製した。
【0045】
[比較例9]
黒色材料-1に代えて、カーボンブラック(平均一次粒子径19nm)を使用し、青色材料-1に代えて、青色銅フタロシアニン顔料(商品名「シアニンブルー4920D」、大日精化工業社製、平均粒子径80~100nm)を使用し、紫色材料-1に代えて、紫色ペリノン系有機顔料(平均粒子径2000~3000nm)を使用した以外は、実施例1と同様にして、マスターバッチ(MB-C9)および成形物を作製した。
【0046】
[実施例3~6]
表2に示す配合に変更した以外は、実施例1と同様にして、マスターバッチ(MB-3~MB-6)および成形物を作製した。
【0047】
[実施例7~14]
表3に示す配合に変更した以外は、実施例1と同様にして、マスターバッチ(MB-7~MB-14)および成形物を作製した。
【0048】
<色相評価>
実施例および比較例で得られた成形物について、コニカミノルタ(株)製の分光光度計(CM-3600d)を使用し、SCI方式を用いて、D65光源2度視野角で測定し、明度および彩度を測定した。
実施例1~2および比較例1~8の結果を表1に示す。また、各例で用いたマスターバッチ名、および各成形物の配合組成を、表1に示す。
実施例1および実施例3~6の結果を表2に示す。また、各例で用いたマスターバッチ名、および各成形物の配合組成を、表2に示す。
実施例1および実施例7~14の結果を表3に示す。また、各例で用いたマスターバッチ名、および各成形物の配合組成を、表3に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
色調を表す方法として、国際照明委員会(CIE)が策定した、目で見える色を色空間として表現するCIE L表色系(色空間)がある。このCIE L表色系においては色を3つの座標で表現し、明度が「L」、赤~緑が「a」(正が赤味、負が緑味)、黄~青を「b」(正が黄味、負が青味)にそれぞれ対応する。そして、青味黒の色調はL値とb値が負の方向で、a値が0に近いものが理想として表示される。本発明のマスターバッチ(MB-1~MB-14)を用いれば、成形物のL値、a値、およびb値が、数式(F1)、数式(F2)、および数式(F3)で示す全ての条件を満たすので、品質の安定性、製造コスト面、または材料コスト面などにおいて利点が多く、有効に利用される可能性が高いものである。このように、本発明のマスターバッチは、ニーズの多様化から求められる色彩(青味黒)の効果を兼ね備えたものである。
【0053】
<分散性評価>
実施例1で得られたマスターバッチ(MB-1)と、比較例9で得られたマスターバッチ(MB-C9)を準備した。そして、それぞれのマスターバッチ2,920g、およびポリエステル樹脂(商品名「MA-2103」、ユニチカ社製)580gをタンブルミキサーで混合して測定用試料を調製した。また、φ30mm溶融紡糸機を改造して昇圧測定機とした。具体的には、先端部分の紡糸パックを外し、635meshスクリーンおよびブレーカープレートを装着して、スクリーンとギアポンプの間に樹脂圧計を取り付けたヘッドに替えたものを昇圧測定機とした。この昇圧測定機のホッパーから調製した測定用試料3,500gを投入し、吐出開始時の樹脂圧力と、ホッパーから測定用試料が見えなくなった際の樹脂圧力を測定した。そして、測定したこれらの樹脂圧力の差(上昇圧力(kgf/cm))を算出した。得られた結果を表4に示す。上昇圧力の値が小さいほど、顔料の分散性が良好であると評価することができる。なお、昇圧試験機は、ブレーカープレート61穴、合計ろ過面積48mm、吐出量75g/min、シリンダ温度280℃、およびスクリュー回転数45rpmであった。
【0054】
【表4】
【0055】
表4に示す結果から、本発明のマスターバッチ(MB-1)を用いれば、上昇圧力の値が小さく、顔料の分散性が良好であることが分かった。
【0056】
<色相評価用の試験片(繊維)の作製および色相評価>
[実施例15~16および比較例10~11]
実施例1で得られたマスターバッチ(MB-1)を準備した。また、青色材料-1および紫色材料-1を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較用のマスターバッチ(MB-C10)を作製した。
これらのマスターバッチを用い、それぞれについて、製品を製造する際の組成を想定した色相評価用の樹脂組成物を調製した。具体的には、マスターバッチと、マスターバッチに用いたポリエステル系樹脂と同じポリエステル系樹脂とをドライブレンドし、色相評価用の樹脂組成物を調製した。この際、カーボンブラック、青色銅フタロシアニン顔料、および紫色ペリノン系有機顔料の濃度をそれぞれ表5に示す組成に調整し、紡糸機を用いて260℃~280℃で混練し、樹脂組成物を紡糸し、3.3デシテックスの糸(繊維)を作製した。
【0057】
[色相評価]
実施例15~16および比較例10~11で得られた糸について、コニカミノルタ(株)製の分光光度計(CM-3600d)を使用し、SCI方式を用いて、D65光源2度視野角で測定し、明度および彩度を測定した。得られた結果を表5に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5に示す結果から、本発明のマスターバッチ(MB-1)を用いれば、b値が負の方向で、a値が0に近い、青味黒の色調を達成できることが分かった。
【要約】
【課題】カーボンブラック特有の赤味黒色を青味黒色に改良できる着色用のマスターバッチを提供すること。
【解決手段】カーボンブラックと、銅フタロシアニン系顔料と、ペリノン系顔料と、熱可塑性樹脂とを含有するマスターバッチであって、前記カーボンブラックに対する前記銅フタロシアニン系顔料および前記ペリノン系顔料の質量比をそれぞれ所定範囲内に調整し、前記マスターバッチが下記条件1を満たす、マスターバッチ。
(条件1)
このマスターバッチを用いた樹脂組成物を成形して、厚み2.0mmの測定サンプルを作製する。この測定サンプルの表面を、CIE標準光源D65を用い、2度視野にて測定したL値、a値、およびb値が、下記数式(F1)~(F3)で示す全ての条件を満たす。
26.0≦L値≦27.75 ・・・(F1)
-0.3≦a値≦0.7 ・・・(F2)
-7.25≦b値≦-6.25 ・・・(F3)
【選択図】なし