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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】介在物評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20231222BHJP
   G01N 33/2045 20190101ALI20231222BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N33/2045
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023189584
(22)【出願日】2023-11-06
(62)【分割の表示】P 2022023648の分割
【原出願日】2022-02-18
【審査請求日】2023-11-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】砂子 真魅
(72)【発明者】
【氏名】仁田 諄
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-217076(JP,A)
【文献】特開2021-081229(JP,A)
【文献】再公表特許第18/062380(JP,A1)
【文献】特開2007-224413(JP,A)
【文献】特開昭54-020787(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112305192(CN,A)
【文献】韓国公開特許第2020-0137646(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N17/00
G01N33/2045
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属介在物を含む線材から切り出され、前記線材の外周面からなる外周面を有する金属材料製の試験片に水素を侵入させ、
前記水素を侵入させた試験片に対して破壊試験を行い、前記非金属介在物を起点とする破壊を前記試験片に生じさせ、
前記破壊の起点となった非金属介在物の前記試験片の外周面からの位置を測定する、 介在物評価方法。
【請求項2】
請求項1の介在物評価方法であって、
前記破壊の起点となった非金属介在物の寸法を測定する、
介在物評価方法。
【請求項3】
請求項1の介在物評価方法であって、
前記破壊の起点となった非金属介在物の種類を同定する、
介在物評価方法。
【請求項4】
請求項2の介在物評価方法であって、
前記破壊の起点となった非金属介在物の寸法の分布関数を求め、この分布関数により前記金属材料の清浄度を評価する、
介在物評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属材料中に含まれる介在物について評価する介在物評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料においては、その中に含まれる非金属介在物が疲労破壊の起点となることが知られている。このため、金属材料中に含まれる非金属介在物を評価することは重要である。
【0003】
従来の介在物評価方法としては、特許文献1のように、水素を侵入させた金属材料製の試験片に対して破壊試験としての引張試験を行うものがある。この介在物評価方法では、引張試験によって破壊の起点となった非金属介在物を同定すると共に寸法を測定して評価する。
【0004】
かかる従来の介在物評価方法では、水素の侵入によって引張試験による非金属介在物を起点とする破壊を生じやすくし、非金属介在物の評価を迅速に行わせることができながら、評価の安定性も確保できる。
【0005】
しかし、破壊の起点となった非金属介在物の線材外周面からの位置情報は、従来の材料を各種規格の試験片形状に加工する方法では得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-65789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、破壊の起点となった非金属介在物の線材外周面からの位置情報が、従来の材料を各種規格の試験片形状に加工する方法では得られない点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、非金属介在物を含む線材から切り出され、前記線材の外周面からなる外周面を有する金属材料製の試験片に水素を侵入させ、前記水素を侵入させた試験片に対して破壊試験を行い、前記非金属介在物を起点とする破壊を前記試験片に生じさせ、前記破壊の起点となった非金属介在物の前記試験片の外周面からの位置を測定する、介在物評価方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、破壊の起点となった非金属介在物の線材外周面からの位置情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施例に係る介在物評価方法に用いられる試験片を概略的に示す側面図である。
図2図2は、実施例に係る焼き戻し温度と試験片の硬さとの関係を示すグラフである。
図3図3は、実施例に係る試験片への水素チャージを示す概念図である。
図4図4は、実施例に係る試験片に対する引張試験を示す概念図である。
図5図5は、実施例に係る非金属介在物の寸法の概念的な極値統計グラフである。
図6図6は、試験片の硬さがHV600、HV500、HV370のそれぞれにおいて、円相当径の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、より小型の試験機で簡易的に破壊試験を行うという目的を、10μm以上の非金属介在物を含む金属材料製の試験片に対し、熱処理によって硬さHV400未満とし、水素を侵入させ、破壊試験を行うことによって実現した。
【0012】
すなわち、介在物評価方法は、10μm以上の非金属介在物1を含む金属材料製の試験片3を熱処理によって硬さHV400未満とし、硬さHV400未満の試験片3に水素を侵入させ、水素を侵入させた試験片3に対して破壊試験を行い、10μm以上の非金属介在物1を起点とする破壊を試験片3に生じさせ、破壊の起点となった非金属介在物1の寸法を測定する。
【0013】
介在物評価方法では、破壊の起点となった非金属介在物の種類を同定してもよい。
【0014】
また、介在物評価方法では、破壊の起点となった非金属介在物1の寸法の分布関数を求め、この分布関数により金属材料の清浄度を評価してもよい。
【0015】
また、試験片3は、線材から切り出され、線材の外周面によって構成される未加工の外周面3aを有してもよい。この場合、破壊の起点となった非金属介在物1の試験片3の外周面3aからの位置を測定する。
【実施例
【0016】
図1は、本発明の実施例に係る介在物評価方法に用いられる試験片を概略的に示す側面図である。
【0017】
本実施例の介在物評価方法では、10μm以上の非金属介在物1(図4)を含む金属材料製の試験片3を、熱処理によって硬さHV400未満とする。
【0018】
本実施例の試験片3は、金属材料としてのばね鋼、例えばSAE9254の線材から切り出されたものである。この試験片3は、線材の形状に応じ、断面円形の棒状である丸棒状となっており、外周面3aが線材の外周面そのままの未加工面となっている。試験片3の軸方向の両側は、つかみ部4を構成する。軸方向とは、試験片3の軸心に沿った方向をいう。
【0019】
本実施例において、試験片3の軸方向長さは、150mm、試験片3の径は、9.8mm、標点間距離及びつかみ部4の軸方向長さは、それぞれ50mmとなっている。
【0020】
ただし、試験片3の形状及びサイズはこれに限られるものではない。例えばJIS4号試験片等としてもよい。また、金属材料としては、10μm以上の非金属介在物1を含む金属材料であれば、ばね鋼以外であってもよい。
【0021】
試験片3が10μm以上の非金属介在物1を含むか否かは、介在物評価方法の適用前において不明であるが、後述の引張試験によって非金属介在物1が起点となって破壊が生じれば、10μm以上の非金属介在物1を含むこととなる。
【0022】
熱処理は、その結果として試験片3を硬さHV400未満とするものであればよく、金属材料に応じて焼き戻し、焼きなまし、焼きならし、焼き入れ等の適宜のものが採用される。本実施例の熱処理は、焼き戻しであり、硬さHV400以上の試験片3を硬さHV400未満にする。
【0023】
図2は、焼き戻し温度と試験片の硬さとの関係を示すグラフである。
【0024】
図2のように、試験片3を400度、455度、580度、700度で焼き戻すと、試験片3の硬さは、それぞれHV600、HV500、HV370、HV280となる。本実施例では、580度で焼き戻して試験片3の硬さをHV370としている。焼き戻し時間は、約30分である。なお、焼き戻し時間は、一例であり、試験片3の材質や焼き戻し温度や硬さ等に応じて適宜設定可能である。図2において、直線は、近似直線である。
【0025】
なお、試験片3の硬さは、HV400未満であればよいので、HV280とし、或いは近似直線に基づき、570度程度で焼き戻して、よりHV400に近づけてもよい。
【0026】
熱処理によって試験片3の硬さをHV400未満とした後は、その試験片3に水素を侵入させる。以下において、水素を侵入させることを「水素チャージ」と称する。
【0027】
図3は、試験片3への水素チャージを示す概念図である。
【0028】
水素チャージは、図3のように、例えば、水素チャージ用の溶液5に試験片3を所定時間浸漬することで行われる。例えば、試験片3を50℃、20mass%のチオシアン酸アンモニウム水溶液に48時間浸漬する。
【0029】
なお、水素チャージ方法は、これに限られるものではなく、例えば、試験片3を水素ガスに暴露する方法、塩化ナトリウムとチオシアン酸アンモニウムの水溶液や硫酸と亜ヒ酸の水溶液等の電解液に浸漬しながら電流を印加する方法がある。
【0030】
また、金属材料に水素チャージを行ってから、試験片3を形成してもよい。この場合、水素チャージ前の金属材料を、焼き戻しによってHV400未満としておく。
【0031】
かかる水素チャージと焼き戻しとが10μm以上の非金属介在物1を含む試験片3に対して行われると、次に行われる引張試験において10μm以上の試験片3中最大の非金属介在物1を起点とする破壊が生じやすくなる。
【0032】
引張試験は、水素チャージされた試験片3に対して行われ、10μm以上の非金属介在物1を起点とする破壊を試験片3に生じさせる。なお、引張試験は、水素チャージ後に行うのが好ましいが、水素チャージ中に行ってもよい。また、引張試験に代えて、疲労試験や衝撃試験等の他の破壊試験を行ってもよい。
【0033】
図4は、試験片3に対する引張試験を示す概念図である。
【0034】
本実施例において、引張試験では、試験片3の両側を把持して引張速度20mm/minで引張り、試験片3の標点間に10μm以上の非金属介在物1を起点とする破壊を生じさせる。なお、非金属介在物1を起点とする破壊とは、試験片3の破面7上に破壊の起点となった非金属介在物1が露出する破壊をいう。
【0035】
かかる引張試験では、本実施例では、水素チャージ前の試験片3の硬さがHV400未満であるため、水素チャージ前の硬さがHV400以上の場合と比較して、試験機(図示せず)に対する負荷が小さい。結果として、水素チャージ前の硬さがHV400以上の場合に対し、より小型の試験機で簡易的に試験を行うことができ、或いは試験機の保護を図ることができる。
【0036】
試験片3の破壊後は、この破壊の起点となった非金属介在物1の種類を同定する。本実施例の非金属介在物1の種類は、Al-Ca-Si-Mg-O系である。ただし、非金属介在物1の種類は、金属材料によって異なる。
【0037】
ここでの同定は、非金属介在物1の種類を一定の確実性をもって特定することをいう。このため、直接、非金属介在物1の成分を検出する同定の他、間接的に同定することも可能である。
【0038】
間接的な同定では、例えば、予め同種の金属材料から作成した試験片3に対して水素チャージせずに疲労試験を行い、破壊の起点となった非金属介在物の種類を特定しておき、本実施例の介在物評価方法による非金属介在物1を疲労試験の非金属介在物と同種であると推定してもよい。
【0039】
また、複数の同種の試験片3に対して介在物評価方法を適用する場合、一部の試験片3について非金属介在物1の成分を検出し、残りの試験片3については破壊の起点となった非金属介在物1が成分を検出した一部の試験片3の非金属介在物1と同種であると推定してもよい。
【0040】
さらに、複数の同種の試験片3に対して介在物評価方法を適用する場合、後述する分布直線9を求め、一部の試験片3について非金属介在物1の成分を検出し、その非金属介在物1が分布直線9の信頼区間に位置するようなとき、それによって残りの試験片3の非金属介在物を成分を検出した一部の試験片3の非金属介在物1と同種であると推定してもよい。
【0041】
また、非金属介在物1の寸法が10μm以上である限り、同種の非金属介在物1であると推定してもよい。つまり、本実施例では、非金属介在物1を実質的に同定しないことも可能である。
【0042】
かかる同定の前又は後或いは同定に代えて、試験片3の破壊後は、非金属介在物1の寸法の測定が行われる。本実施例において、非金属介在物1の寸法の測定は、電子顕微鏡(SEM)を用いて破面観察を行い、長径、短径、及び円相当径を測定する。
【0043】
円相当径は、非金属介在物1と同一の面積を持つ円の直径をいう。なお、円相当径に代えて、長径及び短径による平均径を非金属介在物1の寸法として測定してもよい。
【0044】
このように、本実施例では、破壊の起点となった試験片3中の最大非金属介在物1の寸法を確実に測定することができ、硬さHV400未満の金属材料製の試験片3に対する安定した評価を行うことができる。
【0045】
また、本実施例では、破壊の起点となった試験片3中の最大非金属介在物1の試験片3の外周面3aからの位置を測定する。なお、この位置は、径方向での距離として得る。ここで、試験片3の外周面3aが線材の外周面からなる。このため、本実施例では、線材外周面からの非金属介在物1の位置情報を得ることができる。この位置情報は、従来の材料を各種規格の試験片形状に加工する方法では得られないものである。
【0046】
本実施例の評価では、さらに測定された非金属介在物1の寸法の分布関数を求め、この分布関数により金属材料の清浄度を評価する。具体的には、極値統計を用いて分布関数としての分布直線を求める。
【0047】
なお、分布関数を求めるに際しては、複数の試験片3に対して、焼戻し、水素チャージ、及び引張試験を行い、破壊の起点となった非金属介在物1の寸法を測定しておく。そして、図5のように縦軸を累積確率とし、同横軸を最大介在物の円相当径として、破壊の起点となった非金属介在物1の寸法をプロットした極値統計グラフを生成する。なお、図5では、極値統計グラフを概念的にのみ示している。
【0048】
この極値統計グラフに基づき、回帰直線としての分布直線9を求めることができる。この分布直線9を用いることで、金属材料中における最大の非金属介在物1の寸法を予測することができる。つまり、金属材料の清浄度を評価できる。清浄度は、金属材料中に含まれる非金属介在物1の度合いをいう。本実施例において、清浄度は、金属材料中の最大の非金属介在物1の寸法で判断する。
【0049】
このようにして、本実施例の介在物評価方法では、疲労試験と同様に、最大の非金属介在物1の正確な予測ができる。すなわち、介在物評価方法は、硬さHV400未満の金属材料製の試験片3に対して試験片3中の最大の非金属介在物1を起点に破壊できる。そして、破壊の起点となった非金属介在物1の寸法を測定することを通じて、安定した評価を行わせることが可能となる。
【0050】
図6は、試験片3の硬さがHV600、HV500、HV370のそれぞれにおいて、円相当径の分布を示すグラフである。
【0051】
この図6は、硬さがHV600、HV500、HV370のそれぞれにおいて、複数の試験片3を焼き戻し、水素チャージし、引張試験し、測定された非金属介在物1の円相当径をグラフ化したものである。なお、HV600、HV500、HV370のサンプル数は、それぞれ45、15、10である。
【0052】
図6の縦軸は、円相当径であり、横軸は、試験片3の硬さであり、グラフ中の数値は、円相当径の平均値を示す。また、グラフ中の誤差範囲は、最大値と最小値の範囲を示す。
【0053】
図6のように、HV600、HV500、HV370の何れにおいても、非金属介在物1の寸法の最大値、最小値、及び平均値が同程度となっており、HV400未満でも試験片3中における最大の非金属介在物1の測定がHV400以上と同様に安定してできている。
【0054】
なお、HV370は、非金属介在物1の寸法の最大値が43μmであり、最小値が13μmである。このHV370のように、非金属介在物1の寸法が13μm~43μmであると、試験片3の硬さがHV400未満であっても、安定して最大の非金属介在物1を起点とした破壊を生じさせ、起点となった非金属介在物1の寸法を測定可能とする。
【0055】
この傾向は、非金属介在物1の寸法が10μm以上の範囲において見ることができる。非金属介在物1の寸法の上限は、非金属介在物1が試験片3に含まれ得る限り制限はなく、図示はしないが、例えば非金属介在物1の寸法が500μmであっても、同様の傾向が見られる。
【符号の説明】
【0056】
1 非金属介在物
3 試験片
【要約】
【課題】硬さHV400未満の金属材料製の試験片に対して安定した評価を行うことを可能とする介在物評価方法を提供する。
【解決手段】10μm以上の非金属介在物を含む金属材料製の試験片を熱処理によって硬さHV400未満とし、前記硬さHV400未満の試験片に水素を侵入させ、前記水素を侵入させた試験片に対して破壊試験を行い、前記10μm以上の非金属介在物を起点とする破壊を前記試験片に生じさせ、前記破壊の起点となった非金属介在物の寸法を測定する。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6