(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤、その調製方法及び応用
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20231222BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231222BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20231222BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20231222BHJP
C07D 497/04 20060101ALN20231222BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M10/0569
H01M10/0568
C07D497/04
(21)【出願番号】P 2023521433
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 CN2020130467
(87)【国際公開番号】W WO2022104710
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】202011303478.3
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522232499
【氏名又は名称】中▲節▼能万▲潤▼股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】VALIANT CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 存生
(72)【発明者】
【氏名】宮 園園
(72)【発明者】
【氏名】劉 兆林
(72)【発明者】
【氏名】陸 慶亮
(72)【発明者】
【氏名】劉 斌
(72)【発明者】
【氏名】石 宇
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111403807(CN,A)
【文献】国際公開第2019/078159(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/098624(WO,A1)
【文献】特開2017-037808(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109256590(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1に示す構造を有し、
【化1】
そのうち、R
1及びR
2は、水素原子、フッ素原子、フェニル基、フッ素原子又はシアノ基を含むフェニル基、炭素原子の数が1~6である直鎖又は非直鎖アルキル基、フッ素原子を含む炭素原子の数が1~6であるアルカン基からなる群より独立して選択される1つであり、nは、1又は2であることを特徴とする環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤。
【請求項2】
【化2】
式S01~S27に示す
いずれかの構造を有することを特徴とする請求項1に記載の環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤。
【請求項3】
不活性ガスの保護で20~110℃の温度条件では、原材料1、亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸水素ナトリウムの混合物を溶媒に均一に分散させ、反応時間が1~24時間であり、フラクションがなくなるまで減圧脱溶媒し、濃塩酸で酸性化することにより、中間体1の粗生成物を取得するステップであり、
前記原材料1と中間体1の構造は、次の通りであり、
【化3】
nは、1又は2であり、
前記溶媒は、水、メタノール、エタノール、アセトニトリル又はTHFからなる群より選ばれる1つ又は複数の組み合わせである、ステップ(1)と、
不活性ガスの保護では、得られた中間体1に有機溶媒を加え、80~180℃で水が分離しなくなるまで還流し、フラクションがなくなるまで減圧脱溶媒し、10~3000Pa、100~230°Cで加熱し、反応時間が1~20時間であり、環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤を取得するステップであり、
前記有機溶媒は、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン又はニトロベンゼンからなる群より選ばれる1つ又は複数の組み合わせである、ステップ(2)とを含むことを特徴とする請求項1に記載の環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤の調製方法。
【請求項4】
前記亜硫酸ナトリウムの用量は、原材料1のモル数の0.2~0.8倍であり、前記亜硫酸水素ナトリウムの用量は、原材料1のモル数の1.8~2.4倍であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
非水溶媒、電解質リチウム塩及び請求項1又は2に記載の環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池用電解液添加
剤を含み、前記環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤の用量は、前記リチウムイオン電池非水電解液の総量の0.01~10wt%であることを特徴とするリチウムイオン電池非水電解液。
【請求項6】
前記非水溶媒は、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸フルオロエチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸エチルメチル、炭酸ジプロピル、炭酸メチルプロピル、炭酸エチルプロピル、
炭酸メチル2-プロピニル、1,4-ブチロラクトン、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル又は酪酸エチルからなる群より選ばれる1つ又は複数の組み合わせであることを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン電池非水電解液。
【請求項7】
前記電解質リチウム塩の用量は、前記リチウムイオン電池非水電解液の総量の10~20wt%であり、LiPF
6、LiClO
4、LiBF
4、LiBOB、LiODFB、LiTDI、LiTFSI又はLiFSIからなる群より選ばれる1つ又は複数の組み合わせであることを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン電池非水電解液。
【請求項8】
負極及び正極と、負極と正極の間に設置されている隔膜と、電解液とを含むリチウムイオン電池であって、
前記電解液は、請求項5~7のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池用非水電解液であることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池分野に関し、特に、環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤、その調製方法及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、主に正極、非水電解液及び負極により構成されている。リチウムイオン電池を構成する負極としては、例えば、金属リチウム、リチウムを吸収及び放出することが可能な金属化合物(例えば、金属モノマー、酸化物、リチウムとの合金等である)並びに炭素材料等が知られており、特に、リチウムを吸収及び放出することが可能な人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素材料を用いるリチウムイオン電池が幅広く使用されている。現在、天然黒鉛、人造黒鉛等の結晶性の高い炭素材料を負極材料として使用するリチウムイオン電池では、充電時に非水電解液の中の非水溶媒が負極表面において還元・分解されるので、これにより生じる分解物質、ガスは、電池の本来の電気化学反応を阻害することにより、サイクル特性を低下させる。
【0003】
また、リチウム金属、その合金、シリコン、スズ等の金属モノマー、酸化物等を負極材料として使用するリチウムイオン電池では、初期容量が高いが、サイクルにおいて負極材料の微粉化が進むので、炭素材料の負極に比べ、非水溶媒の還元分解が起こりやすい。よって、電池の容量、サイクル特性等に伴う電池性能が大幅に低下する。
【0004】
正極については、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiFePO4等が知られており、これらを使用するリチウムイオン電池が充電状態で高温になると、正極材料と非水電解液の界面の非水電解液の中の非水溶媒が局部で部分的に酸化分解するので、これにより生じる分解物質、ガスが電池の本来の電気化学反応を阻害し、電池サイクル特性等の性能低下を招いてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの正負極の局部分解を克服し、長期耐久性、出力特性に代表される電池性能を向上させるために、イオン伝導性が高く、電子伝導性が低く、安定したSEIを長期に渡って形成することが重要である。現在、一般的には、DTD、PST、PS等の添加剤のような、少量の環状スルホン酸エステル類の添加剤を電解液に加えることにより、SEI膜の形成を促進する。よって、負極での溶媒の分解反応を抑制し、高温貯蔵時の電池の容量低下を抑制し、ガスの発生を抑制し、電池の負荷特性の劣化を抑制することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した問題を解決するために、式1に示す構造を有する環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤を提供する:
【化1】
そのうち、R
1及びR
2は、水素原子、フッ素原子、フェニル基、フッ素原子又はシアノ基を含むフェニル基、炭素原子の数が1~6である直鎖又は非直鎖アルキル基、並びに、フッ素原子を含み、炭素原子の数が1~6であるアルカン基の中のいずれかを独立して選択し、nは、1又は2である。
【0007】
前記一般式に対応する一連の添加剤は、以下の方法で統一調製することができる。
【0008】
1)不活性ガスの保護で且つ20~110℃の温度条件では、原材料1、亜硫酸ナトリウム及び亜硫酸水素ナトリウムの混合物を溶媒に均一に分散させ、反応時間が1~24時間であり、フラクションがなくなるまで減圧脱溶媒し、濃塩酸で酸性化することにより、中間体1の粗生成物を取得し、前記原材料1と中間体1の構造は、次の通りであり、
【化2】
nは、1又は2であり、前記亜硫酸ナトリウムの用量は、原材料1のモル数の0.2~0.8倍であり、好ましくは、0.3~0.5倍であり、前記亜硫酸水素ナトリウムの用量は、原材料1のモル数の1.8~2.4倍である。
【0009】
前記溶媒は、水、メタノール、エタノール、アセトニトリル又はTHFの中の1つ又は複数の組み合わせから選択する。
【0010】
2)不活性ガスの保護では、得られた中間体1に有機溶媒を加え、80~180℃で水が分離しなくなるまで還流し、フラクションがなくなるまで減圧脱溶媒し、10~3000Pa且つ100~230°Cで加熱し、反応時間が1~20時間であり、環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤を取得し、前記有機溶媒は、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン又はニトロベンゼンの中の1つ又は複数の組み合わせから選択する。
【0011】
具体的には、本発明の環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤は、式S01~S27に示す具体的な構造を有する:
【化3】
【0012】
本発明の環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤は、一種のリチウム電池用の非水電解液の添加剤として、非水溶媒及び電解質リチウム塩と配合してリチウム電池用の非水電解液を形成しなければならない。電解液における本発明の環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤の重量比は、0.01~10%であり、電解液における電解質リチウム塩の重量比は、10~20%である。
【0013】
選択候補としては、非水溶媒は、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸フルオロエチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸エチルメチル、炭酸ジプロピル、炭酸メチルプロピル、炭酸エチルプロピル、炭酸メチル2-プロピニル、1,4-ブチロラクトン、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル又は酪酸エチルの中の1つ又は複数の組み合わせから選択する。電解質リチウム塩の用量は、前記リチウムイオン電池非水電解液の総量の10~20wt%であり、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiBOB、LiODFB、LiTDI、LiTFSI又はLiFSIの中の1つ又は複数の組み合わせから選択する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の添加剤により形成される非水電解液は、一般的なリチウムイオン電池に使用することができ、隔膜と共にリチウム電池の負極と正極との間に配置すれば良い。本発明の環状スルホン酸エステル類リチウムイオン電池電解液添加剤は、リチウム電池に応用され、高温サイクル及び高温貯蔵時の電池容量の低下を効果的に抑制し、電解液の分解によるガスの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例を挙げながら、本発明を説明する。なお、挙げられた実施例は、本発明を解釈するためのものに過ぎず、本発明の範囲を制限しない。
【0016】
一、環状スルホン酸エステルの合成
1、S01の合成
(1)中間体1の調製
【化4】
【0017】
原材料1は、商業的に購入するか、特許CN102249861の調製方法により調製されてよい。
【0018】
123gの原材料1、50.4gの亜硫酸ナトリウム及び140.05gの亜硫酸水素ナトリウムを2Lの三口フラスコに加え、550gの脱イオン水及び150gのエタノールを加えて激しく攪拌し、系内の還流まで温度を上昇させ、反応時間が18時間であり、フラクション(留分)がなくなるまで減圧脱溶媒し、黒色の残留物を、エタノール溶媒を用いて塩化水素ガスを注入して酸化させ、大量のNaCl固体を析出させ、不溶物を濾過して除去し、得られた濾液をフラクションがなくなるまでさらに脱溶媒することにより、溶媒の一部を含む153gの中間体1を取得し、使用に備える。
【0019】
【0020】
上述した、得られた中間体1にクロロベンゼンを加え、132℃まで加熱還流し、水分離器で水を分離し、明らかに水滴が分離しなくなったら、減圧蒸留装置でフラクションがなくなるまで脱溶媒し、更に、50~100Pa、130℃で加熱し、反応時間が3.0時間であり、黒色の粘稠固体を取得する。20~30℃まで温度を下げさせ、上述した反応系にジメチルカーボネートを加えて溶解させ、白露Aを加えて活性化させ、50~60℃で脱色し、30分間で攪拌し、室温まで温度を低下させ、濾過し、濾液を脱溶媒し、ジメチルカーボネート+ノルマル・ヘプタンを用いて再結晶して37.1gのS01の白色個体を取得し、収率が34.97%である。
【0021】
GC-MS:211、1H NMR(400MHz):溶媒重クロロホルム(重水素化クロロホルム)、δ(ppm):4.322ppm(S,1H)。
【0022】
【0023】
55.0gの原材料1、10.1gの亜硫酸ナトリウム及び28.0gの亜硫酸水素ナトリウムを500mLの三口フラスコに加え、100gの脱イオン水及び30gのエタノールを加えて激しく攪拌し、系内の還流まで温度を上昇させ、反応時間が24時間であり、フラクションがなくなるまで減圧脱溶媒し、黒色の残留物を、エタノール溶媒を用いて塩化水素ガスを注入して酸化させ、大量のNaCl固体を析出させ、不溶物を濾過して除去し、得られた濾液をフラクションがなくなるまでさらに脱溶媒することにより、溶媒の一部を含む62gの中間体1を取得し、使用に備える。
【0024】
【0025】
上述した、得られた中間体1にo-ジクロロベンゼンを加え、150℃まで加熱還流し、水分離器で水を分離し、明らかに水滴が分離しなくなったら、減圧蒸留装置でフラクションがなくなるまで脱溶媒し、更に、50~100Pa、160℃で加熱し、反応時間が5.0時間であり、黒色の粘稠固体を取得する。20~30℃まで温度を下げさせ、上述した反応系にジメチルカーボネートを加えて溶解させ、白露Aを加えて活性化させ、50~60℃で脱色し、30分間で攪拌し、室温まで温度を低下させ、濾過し、濾液を脱溶媒し、ジメチルカーボネート+ノルマル・ヘプタンを用いて再結晶して14.8gのS15の白色個体を取得し、収率が28.68%である。
【0026】
GC-MS:516、1H NMR(400MHz):溶媒重クロロホルム、δ(ppm):7.352~7.303ppm(m,5H)。
【0027】
【0028】
54.8gの原材料1、20.3gの亜硫酸ナトリウム及び56.0gの亜硫酸水素ナトリウムを500mLの三口フラスコに加え、250gの脱イオン水及び50gのエタノールを加えて激しく攪拌し、系内の還流まで温度を上昇させ、反応時間が14時間であり、フラクションがなくなるまで減圧脱溶媒し、黒色の残留物を、エタノール溶媒を用いて塩化水素ガスを注入して酸化させ、大量のNaCl固体を析出させ、不溶物を濾過して除去し、得られた濾液をフラクションがなくなるまでさらに脱溶媒することにより、溶媒の一部を含む61gの中間体1を取得し、使用に備える。
【0029】
【0030】
上述した、得られた中間体1にクロロベンゼンを加え、132℃まで加熱還流し、水分離器で水を分離し、明らかに水滴が分離しなくなったら、減圧蒸留装置でフラクションがなくなるまで脱溶媒し、更に、50~100Pa、130℃で加熱し、反応時間が8.0時間であり、黒色の粘稠固体を取得する。20~30℃まで温度を下げさせ、上述した反応系にジメチルカーボネートを加えて溶解させ、白露Aを加えて活性化させ、50~60℃で脱色し、30分間で攪拌し、室温まで温度を低下させ、濾過し、濾液を脱溶媒し、ジメチルカーボネート+ノルマル・ヘプタンを用いて再結晶して12.1gのS24の白色個体を取得し、収率が25.20%である。
【0031】
GC-MS:240、1H NMR(400MHz):溶媒重クロロホルム、δ(ppm):3.603~3.582ppm(t,2H)、2.219~2.198ppm(t,2H)。
【0032】
二、非水電解液とリチウム電池
調製した化合物は、実施例1~12のリチウムイオン電池の非水電解液として用いられ、対応するリチウム電池の配合比率が表1に示されている。
【0033】
【0034】
実施例1~12及び比較例1~6のリチウム電池の調製方法は以下である。
【0035】
(1)正極片の調製
LiCoO2正極材料を例とする。正極LiCoO2粉末、カーボンブラック(粒子サイズが1000nmである)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びN,N-ジメチルピロリドン(NMP)を混合して均一なスラリーを作り、そのスラリーをアルミニウムホイル(15μm)集電体に均一に塗布し、乾燥および圧延することにより、LiCoO2正極材料を取得する。120°Cで12時間焼成し、乾燥後の極片においては、LiCoO2が全コーティングの94%を占め、バインダーが4%を占め、カーボンブラックが2%を占め、得られた極片を、直径が8mmである円盤状に切り出して正極とし、他の正極材料も同様の方法で調製した。
【0036】
(2)負極片の調製
人造黒鉛負極材料を例とする。人造黒鉛、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びN-メチルピロリドン(NMP)を混合して均一なスラリーを作り、そのスラリーを銅箔(15μm)集電体に均一に塗布し、乾燥および圧延することにより、カーボン負極材料を取得する。120°Cで12時間焼成し、乾燥後の極片においては、カーボンが全コーティングの96.4%を占め、バインダーが3.6%を占め、得られた極片を、直径が8mmである円盤状に切り出して負極とする。
【0037】
(3)電解液の調製
水分含有量が1ppm未満であるアルゴン雰囲気のグローブボックスにおいては、リチウム塩を溶媒に溶解し、新しいタイプの環状スルホン酸エステル添加剤を加え、均一に混合した後に電解液を取得する。
【0038】
(4)リチウムイオン電池の調製
上述したステップ(1)及びステップ(2)に記載の材料を作用電極とし、Celgard 2400膜(天津)を隔膜とし、CR2430型ボタン電池を組み立て、負極から正極まで順に負極ケース、板ばね、ガスケット、負極片、電解液、隔膜、正極片及び正極ケースを組み立て、封口機で密封する。なお、この操作は、何れも純アルゴングローブボックスにおいて完成する。
【0039】
三、リチウム電池の性能テスト
テスト1、高温サイクル性能テスト
調製して得られた電池に対しては、それぞれ以下のテストを行う。
【0040】
(1)45℃では、電池を0.1Cの倍率で4.3Vに定電流充電し、その後、相応する倍率で2.7Vに定電流放電し、これが最初のサイクルである。
【0041】
(2)最初のサイクルが完了した後、1.0Cの倍率で4.3Vまで定電流充電し、その後、相応する倍率で2.7Vまで定電流放電し、このサイクル条件に従って50回、100回、500回のサイクルテストをそれぞれ行うことにより、電池の50回、100回、500回のサイクル後の容量維持率をそれぞれ算出する。なお、サイクル後の容量維持率は、次の式に基づいて算出する。
【0042】
サイクル後の容量維持率=(対応するサイクル回数後の放電容量/最初のサイクルの放電容量)×100%
テストデータは、表2に示されている。
【0043】
【0044】
表2の異なる電池のデータから分かるように、本発明による添加剤を用いて調製されたリチウム電池は、45℃では、サイクル安定性を有し、容量維持率が添加剤なしの比較例1のリチウム電池に比べて遥かに高く、比較例2~5の市販の添加剤が用いられるリチウム電池に比べても、その500回サイクルの電池の容量維持率も明らかなメリットが現れ、特に、炭酸メチル2-プロピニルが存在する場合である。
【0045】
テスト2、熱安定性テスト
実施例1~12及び比較例1~6で調製した電池に対して100回のサイクルをした後に、サイクル後の熱安定性テストを行う。
【0046】
25℃の条件では、0.5Cの電流で4.3Vに定電流充電し、4.3Vの定電圧で電流が0.025Cまで充電し、4.3Vの満充電状態にした後、電池を65℃の高温炉に入れて15日間保存し、高温炉における電池の電圧降下及びテスト後の電池の体積変化をテストする。テストデータは、表3に示されている。
【0047】
なお、リチウムイオン電池の高温保存後の電圧降下変化率(%)=(リチウムイオン電池の高温保存前の電圧-リチウムイオン電池の高温保存後の電圧)/リチウムイオン電池の高温保存前の電圧×100%である。
【0048】
リチウムイオン電池の高温保存後の体積変化率(%)=(リチウムイオン電池の高温保存後の体積-リチウムイオン電池の高温保存前の体積)/リチウムイオン電池の高温保存前の体積×100%である。
【0049】
【0050】
表3から分かるように、比較例1~6のリチウム電池の100回サイクル後の熱安定性テストにより現れる状態に比べ、実施例1~12のリチウム電池の100回サイクル後の高温での熱安定性テストを行った後、電池の電圧降下変化率が11~15%だけであり、比較例1~6のリチウム電池の電圧降下変化率より遥かに低い。
【0051】
また、体積変化率にも同じく比較的大きな差があり、比較例1~6のリチウム電池の体積膨張が比較的顕著であるが、実施例1~12のリチウム電池の複数回のサイクル後、高温保存の体積変化率が4~7%だけであり、比較例1~6のリチウム電池の体積変化率より遥かに小さい。これから分かるように、本発明による新しいタイプの環状スルホン酸エステル類添加剤がリチウムイオン電池に用いられると、複数回のサイクル後のリチウムイオン電池の熱安定性を大幅に高め、電解液の分解によるガスの発生を抑制し、良好な応用の見通しがある。
【0052】
上述した内容は、本発明の比較的好ましい実施例に過ぎず、本発明を制限せず、本発明の精神及び原理の範囲内で行われるあらゆる補正、等価置換、改良等が何れも本発明の保護範囲に属する。