(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】水環境中の残留抗生物質に対するマルチレベルのリスク評価方法および評価システム
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20231225BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20231225BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20231225BHJP
C12Q 1/18 20060101ALN20231225BHJP
【FI】
C12Q1/04
G01N33/18 B
G01N33/15 B
C12Q1/18
(21)【出願番号】P 2023081488
(22)【出願日】2023-05-17
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】202210618679.5
(32)【優先日】2022-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521088468
【氏名又は名称】生態環境部南京環境科学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】515190906
【氏名又は名称】南京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100216471
【氏名又は名称】瀬戸 麻希
(72)【発明者】
【氏名】王娜
(72)【発明者】
【氏名】施瑪麗
(72)【発明者】
【氏名】郭欣妍
(72)【発明者】
【氏名】張暁輝
(72)【発明者】
【氏名】倪▲に▼
(72)【発明者】
【氏名】袁青彬
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7009688(JP,B2)
【文献】特開2006-034950(JP,A)
【文献】特開2020-198878(JP,A)
【文献】特開2007-125032(JP,A)
【文献】特表2019-521682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/04
G01N 33/18
G01N 33/15
C12Q 1/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステップS1~S4を含み、
ステップS1、環境監視:
ステップS1-1:目標流域における抗生物質の生産、使用および排出の背景調査を行
い、生態リスク評価目標抗生物質の監視リストを確立し、目標抗生物質の環境監視を行い
、前記目標流域は河川流域、海域および水機能領域を含み、
ステップS1-2:目標流域における目標抗生物質誘導体を監視し、目標抗生物質の副
産物反応や生物変換が発生した場合、目標抗生物質誘導体監視リストを確立し、目標抗生
物質誘導体の環境監視を行う必要があり、
ステップS2、抗生物質初期スクリーニング:ステップS1-1で得られた目標流域の目
標抗生物質およびステップS1-2で得られた目標流域の目標抗生物質誘導体を初期スク
リーニングし、ステップS2-1~S2-2のいずれかを満たす場合、ステップS3微生物
薬品耐性評価に移行して継続的に評価し、それ以外の場合、評価を終了し、
ステップS2-1、オクタノール/水分配係数判定:目標抗生物質または目標抗生物質
誘導体のオクタノール/水分配係数Kowを求め、取得したオクタノール/水分配係数K
owを10の底を持つ対数値とし、lg Kow≧3.5の場合、この目標抗生物質また
は目標抗生物質誘導体が強脂溶性と判定し、ステップS3微生物薬品耐性評価に移行して
継続的に評価し、
ステップS2-2、抗生物質環境濃度判定:目標抗生物質または目標抗生物質誘導体の
環境濃度MECを測定し、環境濃度MEC≧10の場合、この目標抗生物質または目標抗
生物質誘導体が連続的な入力源を有すると判定し、ステップS3微生物薬品耐性評価に移
行して継続的に評価する必要があり、
ステップS3、微生物薬品耐性評価:薬品耐性リスク指数RQ
Rを用いて目標流域中の微
生物群集の薬品耐性リスクを特徴付け、以下の式に示すように:
RQ
R=MEC/PNEC
R、
式において、MECはステップS2-2で測定された目標抗生物質または目標抗生物質誘
導体の環境濃度であり、PNEC
Rは目標流域中の微生物群集の予測された薬品耐性無効
濃度であり、以下の式に示すように:
PNEC
R=MIC/AF、
式において、MICは目標流域中の微生物群集の最小発育阻止濃度であり、AFは10の
値を取る無次元評価要因であり、EUCASTデータベースから目標流域中の微生物群集
の最小発育阻止濃度MICを決定し、目標流域中の微生物群集の予測された薬品耐性無効
濃度PNEC
Rを取得し、前記微生物群集は細菌、真菌または放線菌属を含み、
目標流域中の微生物群集の薬品耐性リスクレベルは、RQ
R値の大きさに応じて、RQ
R
<0.01でリスクなし、0.01<RQ
R<0.1で低リスク、0.1<RQ
R<1で
中リスク、RQ
R>1で高リスクという4クラスに分けられ、RQ
R>0.1のとき、目
標流域中の微生物群集の薬品耐性リスクレベルが高いと見なされ、ステップS4高レベル
評価に移行して継続的に評価し、それ以外の場合、評価を終了し、
ステップS4、高レベル評価:
ステップS4-1、環境微生物抽出:50重量部の目標流域水試料をフィルター膜で濾
過し、前記フィルター膜の孔径は0.2~0.3μmであり、濾過後、フィルター膜を面
積15~28mm
2の断片に切断し、断片を容器に入れ、断片体積の1.2~1.5倍の
リン酸塩緩衝溶液を加え、容器に断片体積の2.5~3倍のガラスビーズを添加し、ボル
テックスで15~20min振とうした後、フィルター膜とガラスビーズを濾過・除去し
て、細菌溶液上澄み液を得て用意し、
ステップS4-2、抗生物質勾配濃度培養:ステップS4-1で得られた細菌溶液の上澄
み液をそれぞれ5~6個の減菌済コニカルフラスコに加え、各減菌済コニカルフラスコに
は2.5~3重量部の細菌溶液上澄み液が含まれ、各減菌済コニカルフラスコに、堆積物
のバイオフィルム形成を模擬するためのスライドを3枚入れ、0.2~0.5重量部のL
B培地を加え、5~6個の異なる減菌済コニカルフラスコに異なる濃度の目標抗生物質ま
たは目標抗生物質誘導体を加え、5~6個の異なる減菌済コニカルフラスコ中の目標抗生
物質または目標抗生物質誘導体濃度はそれぞれ0、0.01μg/L、0.1μg/L、
1μg/L、10μg/L、100μg/Lであり、28~33℃の室温条件下で14日
間振とう反応させ、目標溶液を得、
ステップS4-3、DNA抽出:ステップS4-2で得られた目標溶液から目標溶液中の
細菌DNAを抽出して、減菌済コニカルフラスコ中のスライド上の細菌をリン酸塩緩衝溶
液に収集して細菌DNAを抽出し、
ステップS4-4、耐性遺伝子測定:目標抗生物質または目標抗生物質誘導体に対応す
る耐性遺伝子を測定し、目標溶液中の細菌DNAまたは減菌済コニカルフラスコ中のスラ
イド上の細菌DNAの存在量を測定して耐性遺伝子の相対存在量の平均値Pを算出
し、ス
テップS4前の耐性遺伝子の相対存在量の平均値P
0を算出し、選択性係数Sを算出し、
以下の式に示すように:
S=In(P/P
0)
ステップS4-5、モデルフィッティング:抗生物質濃度Cを横座標とし、目標溶液中
の細菌DNAまたは減菌済コニカルフラスコ中のスライド上の細菌DNAに対応する選択
性係数Sを縦座標として、logisticモデルを用いてフィッティングし、S=0の
とき、対応の抗生物質濃度CはMSC値であり、目標溶液中の細菌DNAまたは減菌済コ
ニカルフラスコ中のスライド上の細菌DNAのMSC値を比較し、小さいMSC値を管理
基準として選択し、このMSC値は、抗生物質濃度Cより高い抗生物質条件下で薬品耐性
遺伝子を有する微生物が濃縮され、その結果、微生物群集中の薬品耐性遺伝子の相対存在
量が増加する、
ことを特徴とする水環境中の残留抗生物質に対するマルチレベルのリスク評価方法。
【請求項2】
前記ステップS3は以下のステップをさらに含み、環境残留性評価:データベースクエリ
ーとモデル予測方法を組み合わせて目標抗生物質または目標抗生物質誘導体の半減期t
1
/2を求め、環境残留性レベルは半減期t
1/2値の大きさに応じて、t
1/2<60d
で非残留性、60d<t
1/2<180dで残留性、t
1/2>180dで高残留性とい
う3クラスに分けられ、t
1/2>60の場合、目標抗生物質または目標抗生物質誘導体
が環境残留性を有すると判定し、すなわち、目標流域中の微生物群集の薬品耐性リスクR
Q
Rの値にかかわらず、ステップS4に移行して継続的に評価する必要がある、ことを特
徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップS4-1とS4-3中のリン酸塩緩衝溶液では、NaCl溶液の質量濃度が1
0g/L、KCl溶液の質量濃度が0.25g/L、Na
2HPO
4溶液の質量濃度が1
.6g/L、KH
2PO
4溶液の質量濃度が0.3g/Lであり、残りは水であり、リン
酸塩緩衝溶液のpHは7.4である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップS4-1中のLB培地では、トリプトンの質量濃度が10g/L、酵母粉末
の質量濃度が5g/L、塩化ナトリウムの質量濃度が10g/Lであり、残りは水である
、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境保護の分野に関し、具体的に、水環境中の残留抗生物質に対するマルチレ
ベルのリスク評価方法および評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質は、細菌を殺すことによって感染症を治療するために使用されるが、広く存在す
る生物群としての細菌も、殺されるリスクを回避するために、様々な形で抗生物質に対す
る耐性を獲得可能であり、この耐性は「細菌薬品耐性」と呼ばれ、薬品耐性能力を獲得し
た細菌は「薬品耐性細菌」と呼ばれる。
生態リスクとは、生態系が生態系に脅威を与える生態系外のあらゆる要素にさらされる可
能性のことで、ある地域における化学物質の排出、人間活動、自然災害などによって生態
系やその構成要素に悪影響を及ぼし、生態系の構造や機能にダメージを与え、生態系の安
全や健康を脅かす可能性があることを指す。
【発明の概要】
【0003】
上記の問題に対して、本発明は、水環境中の残留抗生物質に対するマルチレベルのリスク
評価方法を提供する。
本発明の技術的解決策は以下の通りである。
水環境中の残留抗生物質に対するマルチレベルのリスク評価方法は、以下のステップを含
み、
S1、環境監視:
S1-1:目標流域における抗生物質の生産、使用および排出の背景調査を行い、生態リ
スク評価目標抗生物質の監視リストを確立し、目標抗生物質の環境監視を行い、前記目標
流域は河川流域、海域および水機能領域を含み、
S1-2:目標流域における目標抗生物質誘導体を監視し、目標抗生物質の副産物反応や
生物変換が発生した場合、目標抗生物質誘導体監視リストを確立し、目標抗生物質誘導体
の環境監視を行う必要もあり、
S2、抗生物質初期スクリーニング:ステップS1-1で得られた目標流域の目標抗生物
質およびステップS1-2で得られた目標流域の目標抗生物質誘導体を初期スクリーニン
グし、S2-1~S2-2のいずれかを満たす場合、ステップS3微生物薬品耐性評価に移
行して継続的に評価し、それ以外の場合、評価を終了し、
S2-1、オクタノール/水分配係数判定:目標抗生物質または目標抗生物質誘導体のオ
クタノール/水分配係数Kowを求め、取得したオクタノール/水分配係数Kowを10
の底を持つ対数値とし、lg Kow≧3.5の場合、この目標抗生物質または目標抗生
物質誘導体が強脂溶性と判定し、ステップS3微生物薬品耐性評価に移行して継続的に評
価し、
S2-2、抗生物質環境濃度判定:目標抗生物質または目標抗生物質誘導体の環境濃度M
ECを測定し、環境濃度MEC≧10の場合、この目標抗生物質または目標抗生物質誘導
体が連続的な入力源を有すると判定し、ステップS3微生物薬品耐性評価に移行して継続
的に評価する必要があり、
S3、微生物薬品耐性評価:薬品耐性リスク指数RQRを用いて目標流域中の微生物群集
の薬品耐性リスクを特徴付け、以下の式に示すように:
RQR=MEC/PNECR、
式において、MECはステップS2-2で測定された目標抗生物質または目標抗生物質誘
導体の環境濃度であり、PNECRは目標流域中の微生物群集の予測された薬品耐性無効
濃度であり、以下の式に示すように:
PNECR=MIC/AF、
式において、MICは目標流域中の微生物群集の最小発育阻止濃度であり、AFは10の
値を取る無次元評価要因であり、EUCASTデータベースから目標流域中の微生物群集
の最小発育阻止濃度MICを決定し、目標流域中の微生物群集の予測された薬品耐性無効
濃度PNECRを取得し、前記微生物群集は細菌、真菌または放線菌属を含み、
目標流域中の微生物群集の薬品耐性リスクレベルは、RQR値の大きさに応じて、RQR
<0.01でリスクなし、0.01<RQR<0.1で低リスク、0.1<RQR<1で
中リスク、RQR>1で高リスクという4クラスに分けられ、RQR>0.1のとき、目
標流域中の微生物群集の薬品耐性リスクレベルが高いと見なされ、ステップS4高レベル
評価に移行して継続的に評価し、それ以外の場合、評価を終了し、
S4、高レベル評価:
S4-1、環境微生物抽出:50重量部の目標流域水試料をフィルター膜で濾過し、前記
フィルター膜の孔径は0.2~0.3μmであり、濾過後、フィルター膜を面積15~2
8mm2の断片に切断し、断片を容器に入れ、断片体積の1.2~1.5倍のリン酸塩緩
衝溶液を加え、容器に断片体積の2.5~3倍のガラスビーズを添加し、ボルテックスで
15~20min振とうした後、フィルター膜とガラスビーズを濾過・除去して、細菌溶
液上澄み液を得て用意し、
S4-2、抗生物質勾配濃度培養:ステップS4-1で得られた細菌溶液の上澄み液をそれ
ぞれ5~6個の減菌済コニカルフラスコに加え、各減菌済コニカルフラスコには2.5~
3重量部の細菌溶液上澄み液が含まれ、各減菌済コニカルフラスコに、堆積物のバイオフ
ィルム形成を模擬するためのスライドを3枚入れ、0.2~0.5重量部のLB培地を加
え、5~6個の異なる減菌済コニカルフラスコに異なる濃度の目標抗生物質または目標抗
生物質誘導体を加え、5~6個の異なる減菌済コニカルフラスコ中の目標抗生物質または
目標抗生物質誘導体濃度はそれぞれ0、0.01μg/L、0.1μg/L、1μg/L
、10μg/L、100μg/Lであり、28~33℃の室温条件下で14日間振とう反
応させ、目標溶液を得、
S4-3、DNA抽出:ステップS4-2で得られた目標溶液から目標溶液DNAを抽出す
る同時、減菌済コニカルフラスコ中のスライド上の細菌をリン酸塩緩衝溶液に収集して細
菌DNAを抽出し、
S4-4、耐性遺伝子測定:目標抗生物質または目標抗生物質誘導体に対応する耐性遺伝
子を測定し、目標溶液DNAまたは細菌DNAの存在量を測定して耐性遺伝子の相対存在
量の平均値Pを算出する同時に、ステップS4前の耐性遺伝子の相対存在量の平均値P0
を算出し、選択性係数Sを算出し、以下の式に示すように:
S=In(P/P0)
S4-5、モデルフィッティング:抗生物質濃度Cを横座標とし、目標溶液DNAまたは
細菌DNAに対応する選択性係数Sを縦座標として、logisticモデルを用いてフ
ィッティングし、S=0のとき、対応の抗生物質濃度CはMSC値であり、目標溶液DN
Aまたは細菌DNAのMSC値を比較し、小さいMSC値を管理基準として選択し、この
MSC値は、抗生物質濃度Cより高い抗生物質条件下で薬品耐性遺伝子を有する微生物が
濃縮され、その結果、微生物群集中の薬品耐性遺伝子の相対存在量が増加する。
本発明の一側面として、前記ステップS3は以下のステップをさらに含み、環境残留性評
価:データベースクエリーとモデル予測方法を組み合わせて目標抗生物質または目標抗生
物質誘導体の半減期t1/2を求め、環境残留性レベルは半減期t1/2値の大きさに応
じて、t1/2<60dで非残留性、60d<t1/2<180dで残留性、t1/2>
180dで高残留性という3クラスに分けられ、t1/2>60の場合、目標抗生物質ま
たは目標抗生物質誘導体が環境残留性を有すると判定し、すなわち、目標流域中の微生物
群集の薬品耐性リスクRQRの値にかかわらず、ステップS4に移行して継続的に評価す
る必要がある。環境残留性と微生物薬品耐性を組み合わせることにより、目標抗生物質ま
たは目標抗生物質誘導体が残留性と薬品耐性がある場合には高リスク評価を行い、残留性
がなく薬品耐性がある場合には適時に高レベルリスク評価を行うという、より正確な評価
方法を実現することができる。
本発明の一側面として、前記ステップS4-1とS4-3中のリン酸塩緩衝溶液では、Na
Cl溶液の質量濃度が10g/L、KCl溶液の質量濃度が0.25g/L、Na2HP
O4溶液の質量濃度が1.6g/L、KH2PO4溶液の質量濃度が0.3g/Lであり
、残りは水であり、リン酸塩緩衝溶液のpHは7.4である。このリン酸塩緩衝溶液は細
菌と相性が良い。
本発明の一側面として、前記ステップS4-1中のLB培地では、トリプトンの質量濃度
が10g/L、酵母粉末の質量濃度が5g/L、塩化ナトリウムの質量濃度が10g/L
であり、残りは水である。このLB培地は細菌の培養に有効である。
本発明の一側面として、前記ステップS4-4では2~20種類の耐性遺伝子を取る。
本発明は、上記方法で使用される、水環境中の残留抗生物質に対するマルチレベルのリス
ク評価システムをさらに提供し、この評価システムは、
目標流域内の目標抗生物質および目標抗生物質誘導体の種類および含有量を監視するため
に使用され、まず情報処理装置において目標流域内の目標抗生物質監視リスト、目標抗生
物質誘導体監視リストを作成し、その後目標抗生物質および目標抗生物質誘導体の監視を
実行する環境監視システムと、
情報処理装置上で実際に検出した目標抗生物質、目標抗生物質誘導体と、環境監視システ
ムにより建築された目標抗生物質監視リスト、目標抗生物質誘導体監視リストとを比較し
、実際に検出した目標抗生物質、目標抗生物質誘導体が環境監視システムにより建築され
た目標抗生物質監視リスト、目標抗生物質誘導体監視リストに属するかどうかを判定する
初期スクリーニングシステムと、
情報処理装置上で、前記初期スクリーニングシステムの判定結果がYesである目標抗生
物質、目標抗生物質誘導体に対して微生物薬品耐性評価を行う微生物薬品耐性評価システ
ムと、
情報処理装置上で微生物薬品耐性リスクレベルの高い目標抗生物質、目標抗生物質誘導体
をさらに評価して、制限または禁止する必要のある生態学的リスクの高い抗生物質種類を
特定する高レベル評価システムと、を備える。
【発明の効果】
【0004】
本発明は以下の有益な効果を有する。
(1)本発明の水環境中の残留抗生物質に対するマルチレベルのリスク評価方法は、リス
クを有する水環境目標抗生物質または目標抗生物質誘導体に対してカスケード評価を行い
、まず目標抗生物質または目標抗生物質誘導体を初期スクリーニングし、条件を満たせば
微生物薬品耐性評価に移行して次の評価を行い、薬品耐性の相違について、継続的に高レ
ベル評価およびリスク評価を行うか、または評価を終了し、最終的にMSC値を得、これ
は薬品耐性遺伝子を持つ微生物が対応の抗生物質濃度Cよりも高い抗生物質条件下で濃縮
され、微生物群集における薬品耐性遺伝子の相対存在量が増加することを示す。
(2)本発明の水環境中の残留抗生物質に対するマルチレベルのリスク評価方法は、環境
残留性と微生物薬品耐性を組み合わせることにより、目標抗生物質または目標抗生物質誘
導体が残留性と薬品耐性がある場合には高リスク評価を行い、残留性がなく薬品耐性があ
る場合には適時に高レベルリスク評価を行うという、より正確な評価方法を実現すること
ができる。
(3)本発明の水環境中の残留抗生物質に対するマルチレベルのリスク評価方法は、実験
方法により、MSC値を正確に測定し、抗生物質濃度Cを横座標、目標溶液DNAまたは
細菌DNAに対応する選択性係数Sを縦座標とし、logisticモデルでフィッティ
ングして目標溶液DNAまたは細菌DNAのMSC値を得、その小さいMSC値を管理基
準とする。
(4)本発明の水環境中の残留抗生物質に対するマルチレベルのリスク評価方法で得られ
た評価結果は、水環境の連続監視、発生源分析および発生源管理において重要な役割を果
たし、評価結果によると、点源による汚染について調査・処罰、期限是正などの行政措置
を適用でき、面源による汚染について生態学的リスクの高い抗生物質種の使用を関連地域
で制限または禁止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図2】本発明の実験例における相対存在量と抗生物質耐性遺伝子の濃度を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
実施例1
水環境中の残留抗生物質に対するマルチレベルのリスク評価方法は、以下のステップを含
み、
S1、環境監視:
S1-1:目標流域における抗生物質の生産、使用および排出の背景調査を行い、生態リ
スク評価目標抗生物質の監視リストを確立し、目標抗生物質の環境監視を行い、前記目標
流域は河川流域であり、
S1-2:目標流域における目標抗生物質誘導体を監視し、目標抗生物質の副産物反応や
生物変換が発生した場合、目標抗生物質誘導体監視リストを確立し、目標抗生物質誘導体
の環境監視を行う必要もあり、
S2、抗生物質初期スクリーニング:ステップS1-1で得られた目標流域の目標抗生物
質およびステップS1-2で得られた目標流域の目標抗生物質誘導体を初期スクリーニン
グし、S2-1~S2-2のいずれかを満たす場合、ステップS3微生物薬品耐性評価に移
行して継続的に評価し、それ以外の場合、評価を終了し、
S2-1、オクタノール/水分配係数判定:目標抗生物質または目標抗生物質誘導体のオ
クタノール/水分配係数Kowを求め、取得したオクタノール/水分配係数Kowを10
の底を持つ対数値とし、lg Kow≧3.5の場合、この目標抗生物質または目標抗生
物質誘導体が強脂溶性と判定し、ステップS3微生物薬品耐性評価に移行して継続的に評
価し、一部の抗生物質のlog kow 値は表2に示され、
S2-2、抗生物質環境濃度判定:目標抗生物質または目標抗生物質誘導体の環境濃度M
ECを測定し、環境濃度MEC≧10の場合、この目標抗生物質または目標抗生物質誘導
体が連続的な入力源を有すると判定し、ステップS3微生物薬品耐性評価に移行して継続
的に評価する必要があり、
S3、微生物薬品耐性評価:薬品耐性リスク指数RQRを用いて目標流域中の微生物群集
の薬品耐性リスクを特徴付け、微生物群集は細菌であり、以下の式に示すように:
RQR=MEC/PNECR、
式において、MECはステップS2-2で測定された目標抗生物質または目標抗生物質誘
導体の環境濃度であり、PNECRは目標流域中の微生物群集の予測された薬品耐性無効
濃度であり、以下の式に示すように:
PNECR=MIC/AF、
式において、MICは目標流域中の微生物群集の最小発育阻止濃度であり、AFは10の
値を取る無次元評価要因であり、EUCASTデータベースから目標流域中の微生物群集
の最小発育阻止濃度MICを決定し、目標流域中の微生物群集の予測された薬品耐性無効
濃度PNECRを取得し、一部の抗生物質の最小発育阻止濃度(MIC)と微生物薬品耐
性予測無効濃度(PNECr)は表3に示され、
目標流域中の微生物群集の薬品耐性リスクレベルは、RQR値の大きさに応じて、RQR
<0.01でリスクなし、0.01<RQR<0.1で低リスク、0.1<RQR<1で
中リスク、RQR>1で高リスクという4クラスに分けられ、RQR>0.1のとき、目
標流域中の微生物群集の薬品耐性リスクレベルが高いと見なされ、ステップS4高レベル
評価に移行して継続的に評価し、それ以外の場合、評価を終了し、
S4、高レベル評価:
S4-1、環境微生物抽出:50重量部の目標流域水試料をフィルター膜で濾過し、フィ
ルター膜の孔径は0.25μmであり、濾過後、フィルター膜を面積20mm2の断片に
切断し、断片を容器に入れ、断片体積の1.3倍のリン酸塩緩衝溶液を加え、リン酸塩緩
衝溶液では、NaCl溶液の質量濃度が10g/L、KCl溶液の質量濃度が0.25g
/L、Na2HPO4溶液の質量濃度が1.6g/L、KH2PO4溶液の質量濃度が0
.3g/Lであり、残りは水であり、リン酸塩緩衝溶液のpHは7.4であり、さらに、
容器に断片体積の2.8倍のガラスビーズを添加し、ボルテックスで18min振とうし
た後、フィルター膜とガラスビーズを濾過・除去して、細菌溶液上澄み液を得て用意し、
S4-2、抗生物質勾配濃度培養:ステップS4-1で得られた細菌溶液上澄み液をそれぞ
れ5個の減菌済コニカルフラスコに加え、各減菌済コニカルフラスコには2.7重量部の
細菌溶液上澄み液が含まれ、各減菌済コニカルフラスコに、堆積物のバイオフィルム形成
を模擬するためのスライドを3枚入れ、0.4重量部のLB培地を加え、LB培地では、
トリプトンの質量濃度が10g/L、酵母粉末の質量濃度が5g/L、塩化ナトリウムの
質量濃度が10g/Lであり、残りは水であり、さらに5個の異なる減菌済コニカルフラ
スコに異なる濃度の目標抗生物質または目標抗生物質誘導体を加え、5個の異なる減菌済
コニカルフラスコ中の目標抗生物質または目標抗生物質誘導体の濃度はそれぞれ0.01
μg/L、0.1μg/L、1μg/L、10μg/L、100μg/Lであり、30℃
の室温条件下で14日間振とう反応させて目標溶液を得、
S4-3、DNA抽出:ステップS4-2で得られた目標溶液から目標溶液DNAを抽出す
る同時に、減菌済コニカルフラスコ中のスライド上の細菌をリン酸塩緩衝溶液に収集して
細菌DNAを抽出し、
S4-4、耐性遺伝子測定:目標抗生物質または目標抗生物質誘導体に対応する耐性遺伝
子を測定し、耐性遺伝子は2~20種を取り、20種未満の場合最大値を取り、抗生物質
に対応する耐性遺伝子種類は表4に示され、目標溶液DNAまたは細菌DNAの存在量を
測定して耐性遺伝子の相対存在量の平均値Pを算出する同時に、ステップS4以前の耐性
遺伝子の相対存在量の平均値P0も算出し、以下の式に示すように選択性係数Sを算出し
:
S=In(P/P0)
S4-5、モデルフィッティング:抗生物質濃度Cを横座標とし、目標溶液DNAまたは
細菌DNAに対応する選択性係数Sを縦座標として、logisticモデルを用いてフ
ィッティングし、S=0のとき、対応の抗生物質濃度CはMSC値であり、目標溶液DN
Aまたは細菌DNAのMSC値を比較し、小さいMSC値を管理基準として選択し、この
MSC値は、抗生物質濃度Cより高い抗生物質条件下で薬品耐性遺伝子を有する微生物が
濃縮され、その結果、微生物群集中の薬品耐性遺伝子の相対存在量が増加する。
【0007】
実施例2
本実施例は、上記実施例1で用いた水環境中の残留抗生物質に対するマルチレベルのリス
ク評価システムであり、このシステムは、
目標流域内の目標抗生物質および目標抗生物質誘導体の種類および含有量を監視するため
に使用され、まず情報処理装置において目標流域内の目標抗生物質監視リスト、目標抗生
物質誘導体監視リストを作成し、その後目標抗生物質および目標抗生物質誘導体の監視を
実行する環境監視システムと、
情報処理装置上で実際に検出した目標抗生物質、目標抗生物質誘導体と、環境監視システ
ムにより建築された目標抗生物質監視リスト、目標抗生物質誘導体監視リストとを比較し
、実際に検出した目標抗生物質、目標抗生物質誘導体が環境監視システムにより建築され
た目標抗生物質監視リスト、目標抗生物質誘導体監視リストに属するかどうかを判定する
初期スクリーニングシステムと、
情報処理装置上で、前記初期スクリーニングシステムの判定結果がYesである目標抗生
物質、目標抗生物質誘導体に対して微生物薬品耐性評価を行う微生物薬品耐性評価システ
ムと、
情報処理装置上で微生物薬品耐性リスクレベルの高い目標抗生物質、目標抗生物質誘導体
をさらに評価して、制限または禁止する必要のある生態学的リスクの高い抗生物質種類を
特定する高レベル評価システムと、を備える。
【0008】
実施例3
本実施例は、実施例1とは以下の点で異なり:
目標流域は海域である。
【0009】
実施例4
本実施例は、実施例1とは以下の点で異なり:
目標流域は水機能領域、例えば溜池である。
【0010】
実施例5
本実施例は、実施例1とは以下の点で異なり:
ステップS3中の微生物群集は真菌である。
【0011】
実施例6
本実施例は、実施例1とは以下の点で異なり:
ステップS3中の微生物群集は放線菌属である。
【0012】
実施例7
本実施例は、実施例1とは以下の点で異なり:
ステップS3は以下のステップをさらに含み、環境残留性評価:データベースクエリーと
モデル予測方法を組み合わせて目標抗生物質または目標抗生物質誘導体の半減期t1/2
を求め、環境残留性レベルは半減期t1/2値の大きさに応じて、t1/2<60dで非
残留性、60d<t1/2<180dで残留性、t1/2>180dで高残留性という3
クラスに分けられ、t1/2>60の場合、目標抗生物質または目標抗生物質誘導体が環
境残留性を有すると判定し、すなわち、目標流域中の微生物群集の薬品耐性リスクRQR
の値にかかわらず、表5に示すように、ステップS4に移行して継続的に評価する必要が
ある。
【0013】
実施例8
本実施例は、実施例1とは以下の点で異なり:
S4-1、環境微生物抽出:50重量部の目標流域水試料をフィルター膜で濾過し、フィ
ルター膜の孔径は0.2μmであり、濾過後、フィルター膜を面積15mm2の断片に切
断し、断片を容器に入れ、断片体積の1.2倍のリン酸塩緩衝溶液を加え、リン酸塩緩衝
溶液では、NaCl溶液の質量濃度が10g/L、KCl溶液の質量濃度が0.25g/
L、Na2HPO4溶液の質量濃度が1.6g/L、KH2PO4溶液の質量濃度が0.
3g/Lであり、残りは水であり、リン酸塩緩衝溶液のpHは7.4であり、さらに容器
に断片体積の2.5倍のガラスビーズを添加し、ボルテックスで15min振とうした後
、フィルター膜とガラスビーズを濾過・除去して細菌溶液上澄み液を得て用意し、
S4-2、抗生物質勾配濃度培養:ステップS4-1で得られた細菌溶液上澄み液をそれぞ
れ5個の減菌済コニカルフラスコに加え、各減菌済コニカルフラスコには2.5重量部の
細菌溶液上澄み液が含まれ、各減菌済コニカルフラスコに、堆積物のバイオフィルム形成
を模擬するためのスライドを3枚入れ、0.2重量部のLB培地を加え、LB培地では、
トリプトンの質量濃度が10g/L、酵母粉末の質量濃度が5g/L、塩化ナトリウムの
質量濃度が10g/Lであり、残りは水であり、さらに6個の異なる減菌済コニカルフラ
スコに異なる濃度の目標抗生物質または目標抗生物質誘導体を加え、6個の異なる減菌済
コニカルフラスコ中の目標抗生物質または目標抗生物質誘導体の濃度はそれぞれ0.01
μg/L、0.1μg/L、1μg/L、10μg/L、100μg/Lであり、28℃
の室温条件下で14日間振とう反応させて目標溶液を得る。
【0014】
実施例9
本実施例は、実施例1とは以下の点で異なり:
S4-1、環境微生物抽出:50重量部の目標流域水試料をフィルター膜で濾過し、フィ
ルター膜の孔径は0.3μmであり、濾過後、フィルター膜を面積28mm2の断片に切
断し、断片を容器に入れ、断片体積の1.5倍のリン酸塩緩衝溶液を加え、リン酸塩緩衝
溶液では、NaCl溶液の質量濃度が10g/L、KCl溶液の質量濃度が0.25g/
L、Na2HPO4溶液の質量濃度が1.6g/L、KH2PO4溶液の質量濃度が0.
3g/Lであり、残りは水であり、リン酸塩緩衝溶液のpHは7.4であり、さらに、容
器に断片体積の3倍のガラスビーズを添加し、ボルテックスで20min振とうした後、
フィルター膜とガラスビーズを濾過・除去して、細菌溶液上澄み液を得て用意し、
S4-2、抗生物質勾配濃度培養:ステップS4-1で得られた細菌溶液上澄み液をそれぞ
れ6個の減菌済コニカルフラスコに加え、各減菌済コニカルフラスコには3重量部の細菌
溶液上澄み液が含まれ、各減菌済コニカルフラスコに、堆積物のバイオフィルム形成を模
擬するためのスライドを3枚入れ、0.5重量部のLB培地を加え、LB培地では、トリ
プトンの質量濃度が10g/L、酵母粉末の質量濃度が5g/L、塩化ナトリウムの質量
濃度が10g/Lであり、残りは水であり、さらに6個の異なる減菌済コニカルフラスコ
に異なる濃度の目標抗生物質または目標抗生物質誘導体を加え、6個の異なる減菌済コニ
カルフラスコ中の目標抗生物質または目標抗生物質誘導体の濃度はそれぞれ0.01μg
/L、0.1μg/L、1μg/L、10μg/L、100μg/Lであり、33℃の室
温条件下で14日間振とう反応させて目標溶液を得る。
【0015】
実験例
実施例1中の方法のパラメータを例にとると、目標抗生物質はテトラサイクリン、得られ
た目標抗生物質の濃度と選択性係数Sの対応関係図は
図2に示され、この目標抗生物質は
目標溶液DNAの存在量から算出した耐性遺伝子の相対存在量の平均値Pを選択し、具体
的なパラメータは表1に示される。