(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 3/18 20060101AFI20231225BHJP
A47C 9/02 20060101ALN20231225BHJP
【FI】
A47C3/18 Z
A47C9/02
(21)【出願番号】P 2019178709
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001351
【氏名又は名称】コクヨ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(72)【発明者】
【氏名】▲鶴▼▲崎▼ 健太郎
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3063015(JP,U)
【文献】実開平02-007105(JP,U)
【文献】米国特許第10966528(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0200845(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 3/18
A47C 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座を支持する座支持体の下部に当該座支持体を前記座とともに水平旋回させることを可能にする下旋回支持機構を設けるとともに、前記座と前記座支持体との間に当該座を前記座支持体に対して水平旋回させるための上旋回支持機構を設けてなり、
前記座に着座荷重が作用している状態では前記上旋回支持機構が優先的に作動可能となり、前記着座荷重が作用していない状態では前記下旋回支持機構が優先的に作動可能となるように設定され
たものであって、
着座していない状態で前記座支持体を床面に対して水平旋回させるのに必要な回転モーメントをM1とし、着座した状態で前記座支持体を床面に対して水平旋回させるのに必要な回転モーメントをM2とした場合に、前記下旋回支持機構は、M1<M2という関係が成り立つような特性を有するともに、前記上旋回支持機構は、前記座を前記座支持体に対して水平旋回させるのに必要な回転モーメントをMxとした場合に、着座の有無に拘わらずM1<Mx<M2という関係が成り立つように設定されており、
M1<Mxなる関係が成立する着座していない状態で前記座に旋回力を加えることによって前記座のみならず前記座支持体の向きをも変更することができるように構成されている椅子。
【請求項2】
前記下旋回支持機構が、上載荷重が大きくなると転動抵抗が増加するように構成されたキャスタを備えたものである請求項1記載の椅子。
【請求項3】
前記上旋回支持機構が、前記座支持体に設けられた基板と、この基板に枢着され前記座を支える座受板とを備えたものである請求項1又は2記載の椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィス等で好適に使用される椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の椅子として、キャスタを有した座支持体と、この座支持体に水平旋回可能に支持された座とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、従来のものは、座支持体に対する座の旋回に大きな摩擦抵抗が生じないように作られているため、着座の有無に拘わらず座に外力を加えてその向きを変えようとすると、座が座支持体に対して旋回することになる。そのため、キャスタと床面上の障害物との関係等に起因して座支持体の向きを変更したい場合には、姿勢を低めて座支持体自体に直接操作力を加えなければならない。
【0004】
かかる煩わしさは、いわゆるスツールや事務用回転椅子等において指摘されており、何らかの改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に着目してなされたもので、座の向きを変更する場合と、座支持体の向きを変更する場合とで異なった操作対象物に力を加えなければならないという煩わしさを解消することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明に係る椅子は、座を支持する座支持体の下部に当該座支持体を前記座とともに水平旋回させることを可能にする下旋回支持機構を設けるとともに、前記座と前記座支持体との間に当該座を前記座支持体に対して水平旋回させるための上旋回支持機構を設けてなり、前記座に着座荷重が作用している状態では前記上旋回支持機構が優先的に作動可能となり、前記着座荷重が作用していない状態では前記下旋回支持機構が優先的に作動可能となるように設定されたものであって、着座していない状態で前記座支持体を床面に対して水平旋回させるのに必要な回転モーメントをM1とし、着座した状態で前記座支持体を床面に対して水平旋回させるのに必要な回転モーメントをM2とした場合に、前記下旋回支持機構は、M1<M2という関係が成り立つような特性を有するともに、前記上旋回支持機構は、前記座を前記座支持体に対して水平旋回させるのに必要な回転モーメントをMxとした場合に、着座の有無に拘わらずM1<Mx<M2という関係が成り立つように設定されており、M1<Mxなる関係が成立する着座していない状態で前記座に旋回力を加えることによって前記座のみならず前記座支持体の向きをも変更することができるように構成されているものである。
【0008】
請求項2記載の発明に係る椅子は、請求項1記載のものであって、前記下旋回支持機構が、上載荷重が大きくなると転動抵抗が増加するように構成されたキャスタを備えたものである。
【0009】
請求項3記載の発明に係る椅子は、請求項1又は2記載のものであって、前記上旋回支持機構が、前記座支持体に設けられた基板と、この基板に枢着され前記座を支える座受板とを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、着座している場合には座に旋回力を加えることによって座のみの向きを変えることができ、着座していない場合には座に旋回力を加えることによって当該座のみならず座支持体の向きをも変更することができるため、前述した課題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスツールを示す全体斜視図。
【
図5】同実施形態に係るスツールを示す分解斜視図。
【
図6】同実施形態に係るスツールの座を取り除いた状態を示す平面図。
【
図7】同実施形態に係るスツールの上旋回支持機構の作動を示す説明図。
【
図8】同実施形態に係るスツールの上旋回支持機構を示す中央正断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を
図1~
図8を参照して説明する。
【0013】
この実施形態は、本発明をオフィス等で使用される椅子であるスツールAに適用した場合のものである。
【0014】
スツールAは、
図1、
図2及び
図5に示すように、スツール本体1の上に水平旋回可能に配された座受板51上に座2を載置し、その座2を座受板51の下面51a側から装着した止着具たるねじ3を用いて当該座受板51に固定してなる。座支持体であるスツール本体1は、
図1、
図2、
図4及び
図5に示すように、座2の下面に対向する天壁11を有するとともに、この天壁11の下側に外側方に開放された空間12を備えたものであり、その天壁11に空間12側から止着具たるねじ3を座2に装着するための止着用連通孔13が設けられている。換言すれば、このスツールAは、座2を支持するスツール本体1の下部に当該スツール本体1を座2とともに水平旋回させることを可能にする下旋回支持機構4を設けるとともに、座2とスツール本体1との間に当該座2をスツール本体1に対して水平旋回させるための上旋回支持機構5を設けてなり、座2に着座荷重が作用している状態では上旋回支持機構5が優先的に作動可能となり、着座荷重が作用していない状態では下旋回支持機構4が優先的に作動可能となるように構成されている。座受板51は、後述するように、上旋回支持機構5の一構成要素である。
【0015】
詳述すれば、スツール本体1は、
図1、
図2、
図4及び
図5に示すように、平面視円形をなす底壁14と、この底壁14上に放射状に立設された起立壁15と、これら起立壁15の上端に支持された平面視円形をなす天壁11とを備えたものであり、特定の隣接する起立壁15間に止着用の連通孔13に対応する空間12が形成されている。天壁11には旋回中心軸cを囲むようにして図示しない複数のナットが埋設されており、これらのナットを利用して後述する上旋回支持機構5が取り付けられている。
【0016】
座2は、
図1、
図2及び
図5に示すように、平面視円形をなす円盤状のものであり、その下面における旋回中心軸cから等距離にある複数個所にナットmが埋設されている。
【0017】
下旋回支持機構4は、
図3に示すように、スツール本体1における底壁14の下面に複数、本実施形態では5つのキャスタ41を五角形の頂点の位置に配設したものである。キャスタ41は、いわゆる扁平キャスタと称されるもので、車輪41aの外径が車軸41bの外径に対して相対的に小さく設定されていること等と関連して、上載荷重が大きくなると車輪41の床面に対する転動抵抗が増加する特性を有している。すなわち、このスツールAに着座していない状態でスツール本体1を床面に対して水平旋回させるのに必要な回転モーメントをM1とし、着座した状態でスツール本体1を床面に対して水平旋回させるのに必要な回転モーメントをM2とすると、この下旋回支持機構4は、M1<M2という関係が成り立つような特性を有している。
【0018】
上旋回支持機構5は、
図2及び
図6~
図8に示すように、スツール本体1の天壁11上に設けられた基板52と、この基板52に枢着され前記座2を支える前述した座受板51とを備えたものである。基板52は、
図5~
図8に示すように、平面視略正方形状のもので、旋回中心軸cに対応する部位に軸孔52aを有している。そして、この基板52のコーナ部には、ねじ挿通孔52bが設けられている。すなわち、この基板52は、各ねじ挿通孔52bに挿通させたねじ52cを天壁11に埋設された図示しないナットに螺着することによってスツール本体1に固定されている。なお、この基板52は軸孔52aを中心とする円形の膨出部52dを備えている。膨出部52dは上方に膨出する断面略台形状のものである。
【0019】
座受板51は、
図5~
図8に示すように、平面視略正方形状のもので、旋回中心軸cに対応する部位に軸孔51bを有している。そして、この座受板51のコーナ近傍部には、ねじ挿通孔51cが設けられている。すなわち、この座受板51は、各ねじ挿通孔51cに下から挿通させた止着具たるねじ3を座2のナットmに螺着することによって座2に固定されている。なお、座受板51は軸孔51bを中心とする円形の膨出部51dを備えている。膨出部51dは下方に膨出する断面略台形状のものであり、この膨出部51dと基板52の膨出部52dとを軸心を合致させた状態でスペーサ要素53を介して突き合せてある。基板52と座受板51との連結は、例えば、
図8に示すように、下端に大径フランジ54aを有する軸状ナット54を基板52、スペーサ要素53、及び座受板51の各軸孔52a、53a、51bに下側から貫通させるとともに、その軸状ナット54の貫通端に鍔付きのねじ55を上から螺着することにより行われている。この上旋回支持機構5は、座2をスツール本体1に対して水平旋回させるのに必要な回転モーメントをMxとした場合、着座の有無に拘わらずM1<Mx<M2という関係が成り立つように、各部品の摩擦係数や寸法が設定されている。なお、スペーサ要素53は、座受板51を摩擦抵抗を伴いつスツール本体1に対して旋回可能にするためのものであればどのようなものであってもよく、例えば摩擦板を重ね合わせたものやスラストベアリングと摩擦板とを組み合わせたもの等、種々のものが考えられる。
【0020】
スツール本体1に対する座2の取付けは次のようにして行うことができる。まず、上旋回支持機構5の基板52をスツール本体1の天壁11上にねじ止めする。この状態で座受板51を旋回させて
図6に示すような状態から
図7に示すような状態とすると、この座受板51の複数のねじ挿通孔51cが、スツール本体1の天壁11に設けられた止着用連通孔13に選択的に合致することになる。そのため、スツール本体1の外側方に開放された空間12から止着用連通孔13を通して天壁11上に導いたねじ3を対応する座受板51のねじ挿通孔51cを通して座2のナットmに螺着することができる。この際に止着用連通孔13には、ねじ3が通過するだけでなく、当該ねじ3をナットmに螺合させ緊締するためのドライバ等の工具が差し込まれることになる。そして、かかるねじ定着作業を座受板51の複数のねじ挿通孔51cが止着用連通孔13に順次選択的に合致する毎に繰り返し行うことによって、全てのねじ3を共通の止着用連通孔13を利用して座2のナットmに螺着することができ、座2の座受板51に対する取付けを完了させることができる。
【0021】
以上のような構成によれば、着座している場合には座2に旋回力を加えることによって座2のみの向きを変えることができ、着座していない場合には座2に旋回力を加えることによって当該座2のみならずスツール本体1の向きをも変更することができる。そのため、座2の向きを変更する場合と、スツール本体1の向きを変更する場合とで異なった操作対象物に力を加えなければならないという煩わしさを解消することができる。すなわち、座2に操作力を加えるだけで座2のみを回転させたり座2とともにスツール本体1の向きを変更したりすることが可能となり、使い勝手を向上させることができる。
【0022】
また、下旋回支持機構4を前述したような扁平タイプのキャスタ41により構成すれば、前述したM1<M2の関係を容易に実現することができる。
【0023】
そして、上旋回支持機構5を、スツール本体1に設けられた基板52と、この基板52に枢着され座2を支える座受板51とを備えたものにしておけば、その基板52と座受板51との間に介在させるスペーサ要素53を適宜選択することによって前述したM1<Mx<M2の関係を容易に実現することが可能となる。
【0024】
なお、本発明は以上に述べた実施形態に限らない。
【0025】
例えば、本発明は、前述した実施形態のようなスツールに限らず、事務用回転椅子等にも同様に適用が可能である。
【0026】
また、下旋回支持機構は、前述した扁平キャスタの特性を利用したものに限らず、着座した状態で座支持体を床面に対して水平旋回させるのに必要な回転モーメントを積極的に増加させうるようなものであってもよい。その一例としては、キャスタの車輪を弾性的に昇降可能なものにしておき、着座時には車輪が相対的に没入して摩擦体が床面に接するようなもの等が考えられる。
【0027】
上旋回支持機構も、前述した実施形態のものに限定されるものではなく、前述したM1<Mx<M2という関係を成り立たせるような構成のものであればどのようなものであってもよい。その一例としては、基板の膨出部と座受板の膨出部との間にスペーサ要素である摩擦板を介在させておき、その摩擦板と各膨出部との摩擦抵抗を調整すべく摩擦板の摩擦係数や寸法を設定したものが考えられる。また、他の例としては、基板の膨出部と座受板の膨出部との間にスペーサ要素であるスラストベアリングと、このスラストベアリングのボールに抵抗を与える抵抗部材とを介在させたもの等が考えられる。
【0028】
その上、座支持体の構成も、天壁を省略する等、任意のものを採用してよい。但し、前述した実施形態のように座支持体(前述した実施形態ではスツール本体)に天壁を設けることにより、基板及び座受板を含む上旋回支持機構が下方から見えることにより見栄えが損なわれるのを防ぐことができるとともに、座支持体(スツール本体)が座受板を介して着座者の荷重を受ける部位の面積を広くし、当該部位における単位面積あたりの応力を小さくできるので、当該部位に過度な応力が発生することを避けることもできる。
【0029】
その他、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々に変形してよい。
【符号の説明】
【0030】
A…椅子(スツール)
1…座支持体(スツール本体)
2…座
4…下旋回支持機構
41…キャスタ
5…上旋回支持機構
51…座受板
52…基板