(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】ガス検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
G01N27/12 A
(21)【出願番号】P 2020074548
(22)【出願日】2020-04-20
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000112439
【氏名又は名称】フィガロ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】末松 昂一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 憲剛
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-015703(JP,A)
【文献】特開2020-041833(JP,A)
【文献】特開2011-202993(JP,A)
【文献】特開2001-183324(JP,A)
【文献】特開2018-031685(JP,A)
【文献】特開2016-017741(JP,A)
【文献】特開2018-200283(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0077031(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
G01N 27/416
G01N 27/00 - 27/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物半導体の厚膜から成る感ガス部とヒータを有するMEMSガスセンサを備えるガス検出装置において、
MEMSガスセンサのヒータを制御し、ヒータ温度をプレヒート温度、Low温度、測定温度の順に変化させた後にヒータをオフするように、ヒータを制御するヒータ制御部と、
測定温度への加熱開始時の金属酸化物半導体の抵抗値から、検出対象ガスを検出するガス検出部、とを有し、
プレヒート温度が最高温度で、測定温度が次に高い温度で、Low温度は測定温度よりも低く、かつLow温度でもヒータに電力をヒータ制御部から供給
し、
金属酸化物半導体の厚膜は貴金属触媒を担持しているSnO2を含み、
かつ金属酸化物半導体の厚膜は膜厚が1μm超であり、
ヒータの抵抗温度係数から測定した温度で、プレヒート温度は350~650℃、Low温度は50~250℃、測定温度は200~600℃であり、測定温度はプレヒート温度よりも50℃以上低く、Low温度は測定温度よりも50℃以上低くなるように、ヒータ制御部が構成されていることを特徴とする、ガス検出装置。
【請求項2】
金属酸化物半導体の厚膜は膜厚が10μm以上で60μm以下であることを特徴とする、請求項1のガス検出装置。
【請求項3】
プレヒート温度は350~550℃、Low温度は50~250℃、測定温度は200~400℃であり、測定温度はプレヒート温度よりも100℃以上低く、Low温度は測定温度よりも100℃以上低くなるように、ヒータ制御部が構成されていることを特徴とする、請求項2のガス検出装置。
【請求項4】
プレヒート温度への保持期間は0.2秒以上、Low温度への保持期間は2秒以上、測定温度への保持期間は30m秒以上であることを特徴とする、請求項1~3の何れかのガス検出装置。
【請求項5】
プレヒート温度への保持期間は0.2~10秒、Low温度への保持期間は2~10秒、測定温度への保持期間は30m秒以上であることを特徴とする、請求項4のガス検出装置。
【請求項6】
検出対象ガスはVOC(揮発性有機化合物)ガスであることを特徴とする、請求項5のガス検出装置。
【請求項7】
除湿装置を備えないことを特徴とする、請求項1~6のいずれかのガス検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はガス検出装置に関し、特にVOCガスを金属酸化物半導体MEMSガスセンサにより検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者は、MEMS金属酸化物半導体ガスセンサを、ヒータオフと加熱とを交互に行うように駆動することを提案した(特許文献1:特開2020-41833A)。また加熱開始時の方が、加熱終了時よりもガス感度が高いことを報告した。加熱対象のガスは例えばVOCで、除湿剤により雰囲気を除湿し、水蒸気の影響を受けないようにすると、1ppb以下の濃度のガスを検出できた。しかしながら特許文献1の方法では、除湿が必要なため、ガス検出装置が大がかりになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明の課題は、金属酸化物半導体MEMSガスセンサにより、除湿無しで、VOCガスを、高い感度で検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、金属酸化物半導体の厚膜から成る感ガス部とヒータを有するMEMSガスセンサを備えるガス検出装置において、
MEMSガスセンサのヒータを制御し、ヒータ温度をプレヒート温度、Low温度、測定温度の順に変化させた後にヒータをオフするように、ヒータを制御するヒータ制御部と、
測定温度への加熱開始時の金属酸化物半導体の抵抗値から、検出対象ガスを検出するガス検出部、とを有し、
プレヒート温度が最高温度で、測定温度が次に高い温度で、Low温度は測定温度よりも低く、かつLow温度でもヒータに電力をヒータ制御部から供給することを特徴とする。
【0006】
金属酸化物半導体の種類は任意であるが、例えば貴金属触媒を担持しているSnO2を金属酸化物半導体膜に含んでいる。ヒータの抵抗温度係数から測定した温度(ヒータの温度)で、プレヒート温度は測定温度より高く、例えば350~650℃で、より好ましくは350~550℃、特に好ましくは400~500℃である。Low温度は測定温度より低く、例えば50~250℃で、より好ましくは70~200℃である。測定温度は例えば200~600℃で、より好ましくは200~400℃である。そして測定温度はプレヒート温度よりも例えば50℃以上低く、より好ましくは100℃以上低い。またLow温度は測定温度よりも例えば50℃以上低く、より好ましくは100℃以上低い。好ましくは、プレヒート温度への保持期間は0.2秒以上で、より好ましくは0.2秒~10秒である。Low温度への保持期間は例えば2秒以上で、より好ましくは2秒~10秒である。測定温度への保持期間は、Low温度から測定温度への温度変化がほぼ完了すればよいので、例えば30ミリ秒以上である。なお金属酸化物半導体膜の温度はヒータ膜の温度よりも20~50℃程度低い、と推定される。またこの明細書で A~B のように範囲を示す場合、A以上B以下の意味である。
【0007】
この発明では、プレヒート温度に加熱する期間と、測定温度に加熱する期間との間に、Low温度への加熱期間を設ける。Low温度で金属酸化物半導体は加熱されているので、金属酸化物半導体内への水蒸気の凝縮等を制限し、湿度の影響を小さくする。そして測定温度への加熱開始時の金属酸化物半導体の抵抗値から、ガスを検出する。
図5はLow温度(150℃)に5秒間保持した際の、エタノール20ppm中での金属酸化物半導体の抵抗値を、
図12はLow温度に保持する代わりにヒータをオフした従来例(他は同じ条件)での、金属酸化物半導体の抵抗値を示す。実施例では大きな感度が得られるが、従来例では小さい。
図5では、測定温度での時間の経過と共にガス感度は減少するが、
図12ではこのような傾向は見られない。
【0008】
検出対象ガスは例えばVOC(揮発性有機化合物)ガスで、具体的にはエタノール、メタノール、イソプロパノール、トルエン、ベンゼン、アセトン、アセトアルデヒド、フォルムアルデヒド等である。この発明はこれらのガスを高感度に検出できるので、呼気検出、皮膚ガスの検出等による医学的な検査に適し、またトルエン等のガスを高感度で検出できるので、居住スペース及び作業スペースの安全性、快適性の制御等に適している。
【0009】
この発明のガス検出装置は、除湿を必要としない。これに対して特許文献1のガス検出装置は、ガス検出に除湿が必要である。除湿を必要としないので、この発明のガス検出装置は汎用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例で用いるMEMSガスセンサの要部断面図
【
図3】実施例の波形図で、上段はヒータ電圧VHを、中段はヒータ温度を、下段は金属酸化物半導体の抵抗値を示す。なお下段の抵抗値は模式的なもので、実線がガス中の抵抗値を、破線が空気中の抵抗値を示す。
【
図4】実施例でのヒータ電圧VHの波形図で、Preheat(P)は高温でのヒートクリーニング(プレヒート)を、Low(L)は100~200℃程度のLow温度への保持を、Measure(M)は測定温度への加熱を示し、offでヒータはオフする。
【
図5】気温25℃、RH23%での、空気中及びエタノール20ppm中での、LとMでの金属酸化物半導体の抵抗値を示す図である。動作周期は、off,Preheat,Low,Measureが各5秒、ヒータ抵抗の温度係数から求めた温度で、Pは450℃、Lは150℃、Mは300℃である。
【
図6】
図5の駆動条件から、Preheatの時間を1秒に変更し、他は
図5と同様にした際の、空気中及びエタノール20ppm中での抵抗値を示す図である。
【
図7】
図5の駆動条件から、offの時間を60秒に変更し、他は
図5と同様にした際の、空気中及びエタノール20ppm中での抵抗値を示す図である。
【
図8】
図5の駆動条件から、Lowの温度を100℃に変更し、他は
図5と同様にした際の、空気中及びエタノール20ppm中での抵抗値を示す図である。
【
図9】比較例でのヒータ電圧VHの波形図で、offをLowと同じ150℃に変更し、Low(off),Preheat,Low,Measureは各5秒、合計20秒周期である。
【
図10】
図9の比較例の駆動条件での、空気中及びエタノール20ppm中での抵抗値を示す図である。
【
図11】従来例でのヒータ電圧VHの波形図で、Lowをoffに変更し、Off,Preheat,Off,Measureの順に駆動し、各5秒で合計20秒周期である。
【
図12】
図11の従来例の駆動条件での、空気中及びエタノール20ppm中での抵抗値を示す図である。
【
図13】気温25℃、RH23%での、空気中及びアセトン20ppm中での、LowとMeasureでの金属酸化物半導体の抵抗値を示す図である。動作周期は、off,Preheat,Low,Measureが各5秒、ヒータ抵抗から求めた測定した温度で、Preheatは450℃、Lowは150℃、Measureは300℃である。
【
図14】気温25℃、RH23%での、空気中及びトルエン20ppm中での、LowとMeasureでの金属酸化物半導体の抵抗値を示す図である。動作周期は、off,Preheat,Low,Measureが各5秒、ヒータ抵抗から求めた測定した温度で、Preheatは450℃、Lowは150℃、Measureは300℃である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施するための最適実施例と、その変形、比較例を示す。
【実施例】
【0012】
ガス検出装置の構成
図1はMEMSガスセンサ2を示し、4はSiチップ、6は空洞である。空洞7上を掛け渡すように下部絶縁膜7と上部絶縁膜9とが設けられ、これらの間にPt膜等から成るヒータ膜8が設けてある。上部絶縁膜9上に一対の電極10,10と金属酸化物半導体膜12とを設け、リード13により外部へ接続する。図示を省略するが、他にハウジング、被毒ガスを除去するためのフィルタなどを設ける。
【0013】
SnO2膜(金属酸化物半導体膜12)は厚膜で、膜厚は実施例では40μm、好ましい範囲は10~60μmである。SnO2膜12は、Pd,Pt,Au等の貴金属を担持し、好ましい担持量は、金属酸化物半導体を100mol%として、0.02mol%~5mol%、特に1mol%~5mol%である。またSnO2膜12に、Ba1-xLaxFeO3,LaMnO3(これらは酸素を収脱着する材料である)、貴金属触媒担持のアルミナ膜等、SnO2と担持した貴金属以外の成分を含有させても良い。ヒータ膜12は、Ptの抵抗温度係数から膜温度の測定にも用いた。ヒータ膜8を一方の電極に兼用しても良く、また電極10と上部絶縁膜9を設けず、ヒータ膜8と金属酸化物半導体膜12の並列抵抗を用いても良い。
【0014】
図2はガス検出装置の構成を示し、金属酸化物半導体膜12に負荷抵抗14を接続し、スイッチ15によりヒータ膜8への電力をオン/オフすること等により、ヒータ膜8への電力を制御する。駆動IC16はヒータ制御部17と、ADコンバータ18を備えている。ヒータ制御部17は所定の周期でヒータ膜8を制御する。ADコンバータ18は、Low温度から測定温度にヒータ電力を変更した際に、負荷抵抗14への電圧を読み取る。ガス検出部19は読み取った電圧からガスを検出し、入出力20から外部へ信号を送出する。
【0015】
金属酸化物半導体膜12の調製
1Mの炭酸水素アンモニウムの水溶液に、1Mの4塩化錫の水溶液を滴下し、遠心分離により塩素イオンを除去した。得られた沈殿を120℃で乾燥後、600℃で焼成しSnO2粉末を得た。酢酸パラディウムをエタノールに溶解し、SnO2粉末を入れ、乾燥及び焼成することにより、Pd担持のSnO2粉末を得た。Pd濃度は、SnO2100mol%に対し、3mol%としたが、任意である。また担持する貴金属の種類も任意である。Pd担持のSnO2ペーストを、MEMSガスセンサ2の上部絶縁膜10上に成膜し、ヒータ膜8により450℃で12時間焼成し、膜厚40μmのPd担持SnO2膜12とした。
【0016】
ヒータの電力パターン
図3に、ヒータ膜8への電力パターンを示す。PはPreheatを、Mは測定(Measure)を、LはLowを表し、τは動作周期を、Tsはセンサ温度(ここではヒータ膜の温度)を、RTは室温を表す。またSi(Sensitivity initial)は測定温度初期(例えば測定温度へ移行した直後~1秒以内で、好ましくは0.3秒以内)のガス感度を表し、空気中とガス中の抵抗値の比を意味する。
【0017】
ヒータ膜をオフした後、Preheat,Low,Measureの順に加熱温度を変更する。Preheatでは、金属酸化物半導体膜12から水蒸気を脱離させ、また酸素の吸着と負イオンへのイオン化等を行わせる。Lowでは、水蒸気の蓄積を防止しながら、VOCガスを金属酸化物半導体膜12中に蓄積させ、測定(Measure)で吸着したVOCを活性化させ、何らかの反応に関与させ、検出する。
【0018】
ガス感度の測定
図4~
図14に検出結果を示し、代表的な加熱条件を
図4(実施例)、
図9(比較例)、
図11(従来例)に示す。比較例では、ヒータをオフせず、最低温度はLowの温度である。
図11(従来例)ではLowの代わりにヒータをオフした。
図4~
図12では、検出対象はエタノール20ppm、周囲の温度は25℃、相対湿度は23~24%であった。
図13では20ppmのアセトンを検出し,
図14では20ppmのトルエンを検出した。周囲の温度は25℃、相対湿度は23%、駆動条件は
図4のものであった。
【0019】
Lowでガスが存在すると、金属酸化物半導体の抵抗値を読み取れるが、抵抗値は極めて高かった。LowからMeasureへ移行すると、抵抗値は激減し、Meaureの初期にガス感度は高く、時間と共にガス感度は減少した。このため、Measureの初期の抵抗値からガスを高感度に検出できた(
図5)。これに対してヒータ電力をオフしないと(
図9,
図10)、Measureの初期でのガス感度は小さくなった。またLowの代わりにヒータをオフすると(
図11,
図12)、Measureの初期でのでのガス感度は著しく減少し、時間の経過と共に感度は増加した。以上のように、Preheat,Low,Measureの3期間の両側でヒータをオフすることと、Lowでヒータ電力を加えること、及びMeasureの初期の抵抗値を用いることにより、ガス感度を高めることができた。
【0020】
図6は、Preheatの時間を1秒にした変形例の結果を示す。大きなガス感度が得られ、Preheat時間は例えば0.2秒以上、より狭くは0.5秒以上とすれば良いことが分かる。
【0021】
図7はオフ時間を60秒にした変形例の結果を示す。オフ時間は長くても良いことが分かる。
図4ではオフ時間を5秒にしたので、オフ時間は例えば2秒以上、好ましくは3秒以上である。オフ時間に上限はなく、例えば常時はヒータをオフし、測定時にのみPreheat,Low,Measureの順に加熱しても良い。
【0022】
図8は、Lowでの加熱温度を100℃とした例を示し、ガス感度は高かった。Low温度の最低値は50℃程度で、より好ましくはLow温度は70℃以上とする。
【0023】
図13はアセトン20ppmへの感度を示し、
図14はトルエン20ppmへの感度を示す。実施例の方法は特定のVOCガスに有効なのではなく、各種のVOCガスに有効なことが分かる。
【符号の説明】
【0024】
2 MEMSガスセンサ
4 Siチップ
6 空洞
7 下部絶縁膜
8 ヒータ膜
9 上部絶縁膜
10 電極
12 金属酸化物半導体膜
13 リード
14 負荷抵抗
15 スイッチ
16 駆動IC
17 ヒータ制御部
18 ADコンバータ
19 ガス検出部
20 入出力