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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】多人数への食事提供方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20231225BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20231225BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20231225BHJP
   A47J 39/02 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
A23L7/10 E
A23L5/00 G
A23L5/10 F
A47J39/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022118688
(22)【出願日】2022-07-26
【審査請求日】2023-07-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522298495
【氏名又は名称】株式会社カイプラネット
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】氷室 京介
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-022327(JP,A)
【文献】特開2006-034751(JP,A)
【文献】特開2014-054487(JP,A)
【文献】特開平04-248965(JP,A)
【文献】特開2018-027263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A47J
A47B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチーム発生手段を備え、食品の冷蔵及び再加熱が自動で行えるキャビネットを用いた多人数への食事提供方法であって、
人数分の容器にそれぞれアルファ化米と所定量の水とを入れてアルファ化米を一定時間浸漬し、
その後に各容器内をかき混ぜてアルファ化米の吸水状態を調整したうえで前記キャビネットに容器ごとセットして冷蔵し、
食事時間の前に前記キャビネットを起動し、45分から90分かけて再加熱温度である100~105℃まで蒸気を昇温させ、前記再加熱温度の蒸気により再加熱して温かいご飯とし、
その後に各容器を前記キャビネットから取り出して各人に提供することを特徴とする多人数への食事提供方法。
【請求項2】
冷蔵温度を0~5℃としたことを特徴とする請求項1に記載の多人数への食事提供方法。
【請求項3】
容器として、耐熱性樹脂からなる蓋付き容器を用いることを特徴とする請求項2に記載の多人数への食事提供方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病院、介護施設、福祉施設などの多人数を収容した施設に適した多人数への食事提供方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記したような施設では何十人、何百人という多人数の人々が生活しており、各施設はそれぞれの厨房で収容人数分の食事を365日欠かさず準備し、提供しなければならない。これらの施設では外食産業とは異なり、多彩な献立が必要となる。このため各施設の厨房においてご飯、汁物、主菜、副菜をそれぞれ調理したうえ、容器に盛付け、トレイメイクをしている。これらの一連の作業は多くの時間がかかり効率化が容易ではないうえ、食事を冷めさせる原因となっている。
【0003】
この問題を解決するために、特許文献1に示されるような、食品の冷蔵及び再加熱が自動的に行えるキャビネットが開発されている。このキャビネットは食品を5℃以下の低温で冷蔵保存することができるとともに、プログラムに従って自動的に内部の昇温を開始し、食品の再加熱を行うことができるもので、例えばニチワ電機株式会社から「リヒートウォーマーキャビネット」の商品名で市販されている。
【0004】
このような再加熱用のキャビネットを用いれば、主菜、副菜として外部の工場で製造された完成調理品を利用し、冷たい状態で皿などの容器に盛付けして冷蔵しておき、食事時間の前に再加熱して提供することが可能となる。このため主菜、副菜については、盛付けの手数を軽減することができる。しかし米は水を加えて再加熱用のキャビネットで加熱するとベタベタの状態となってしまい、おいしいご飯とすることが難しかった。
【0005】
そのため現状では、各施設の厨房において大量の米を炊き、炊き上がったご飯を各人の茶碗に盛付ける作業が行われている。しかし炊き上がったご飯は粘り気があるため盛付け作業を自動化することは容易ではなく、人手に頼らざるを得ないのが現状である。特に朝食準備のためには非常に早朝から炊飯を開始し、炊き上がりを待って盛付けしなければならず、この盛付作業は多人数に食事を提供しなければならない場合には長時間を要する重労働となる。また近年、少子高齢化が急速に進んでいることもあって、施設においてこのような作業に従事する厨房人員を確保できない傾向が著しくなっている。
【0006】
そこで早朝からの作業をなくすために、前日に炊飯と炊き上がったご飯の盛付けとを行い、夜間はキャビネットに入れて冷蔵しておき、食事前に再加熱して提供することも行われている。しかしこの場合にも、大量の米を炊き、炊き上がったご飯を各人の茶碗に盛付ける作業を前日に行なう必要があり、作業時間を前日にシフトしただけであって、厨房作業を効率化したことにはならない。しかも炊き上がったご飯を冷やすとでんぷんの老化が進行するため、冷えたご飯を再加熱しても、あまりおいしいとは言い難い。このように、多人数の食事を毎日提供する作業は重労働であり、特にご飯についてその解決策が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5900939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、従来よりも厨房作業の労力を軽減しつつ、多人数に温かいご飯を提供できる多人数への食事提供方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの問題を解決するために試行錯誤を繰り返した結果、普通の白米ではなく、アルファ化米を利用することに思い至った。アルファ化米は工場等において大量生産し保存しておくことができるので、各施設の厨房では炊飯や盛付の手数を大幅に軽減することができる。
【0010】
本発明はこの着想に基づいて完成されたものであり、スチーム発生手段を備え、食品の冷蔵及び再加熱が自動で行えるキャビネットを用いた多人数への食事提供方法であって、人数分の容器にそれぞれアルファ化米と所定量の水とを入れてアルファ化米を一定時間浸漬し、その後に各容器内をかき混ぜてアルファ化米の吸水状態を調整したうえで前記キャビネットに容器ごとセットして冷蔵し、食事時間の前に前記キャビネットを起動し、45分から90分かけて再加熱温度である100~105℃まで蒸気を昇温させ、前記再加熱温度の蒸気により再加熱して温かいご飯とし、その後に各容器を前記キャビネットから取り出して各人に提供することを特徴とするものである。
【0011】
なお、冷蔵温度を0~5℃とし、再加熱温度を100~105℃とすることが好ましく、容器として、耐熱性樹脂からなる蓋付き容器を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多人数への食事提供方法によれば、施設の厨房において大量の米を炊き、炊き上がったご飯を各人の茶碗に分配するという作業の必要がなくなり、従来よりも厨房作業の労力を大幅に削減することができる。しかもタイマーによりキャビネットを起動すれば、任意の時刻に人数分の温かいご飯が出来上がるので、多人数に温かいご飯を提供することができる。また、冷えたご飯を再加熱する場合とは異なり、でんぷんの老化が進行しないのでおいしいご飯となる。
【0013】
なお、冷蔵温度を0~5℃とすれば厚生労働省のHACCP(ハサップ)に定められる5℃以下との冷蔵条件を満たすことができ、再加熱温度を100~105℃とすれば厚生労働省のHACCPに定められる食品の芯温75℃以上の加熱条件を満たすことができる。さらに、容器として耐熱性樹脂からなる蓋付き容器を用いれば軽量で取扱い易いこと、再加熱時に水分が減少することを防止できること、容器の変形や変色がなくなりコスト増加を抑えられること、などの利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の工程を示すブロック図である。
図2】実施形態で用いた容器の断面図である。
図3】撹拌状態を示す断面図である。
図4】冷蔵状態を示す断面図である。
図5】加熱された状態を示す断面図である。
図6】キャビネットの断面図である。
図7】配膳状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。図1に本発明の工程を示す。
先ずステップ1で、人数分の容器を準備し、各容器にアルファ化米と所定量の水を分配する。
【0016】
アルファ化米は加水加熱によって米のでんぷんをアルファ化させたのち、乾燥処理によってそのアルファ化の状態を固定させた乾燥米飯である。加水加熱によりアルファ化した米でんぷんは、放熱とともに徐々に再ベータ化(老化)し食味が劣化するが、アルファ化米はこの老化が起こる前に乾燥処理を施し、アルファ化された状態を固定している。アルファ化米は非常食用に市販されているものを使用することができるが、予め厨房や工場などで大量生産することもできる。
【0017】
アルファ化米を製造するには、先ず白米を流水にて洗い、30分程度流水に浸漬する。次に炊飯器などを用いて炊飯し、炊き上がった白米を流水にて洗い、表面のをでんぷんを除去する。その後、食品乾燥機にて8時間程度乾燥させる。乾燥品は米粒がつながった状態であるので、細かく砕いてアルファ化米とする。アルファ化米に加えるべき水分量は製造時の乾燥条件の違いにより異なるが、市販のアルファ化米ではその重量に対して約2倍、出願人会社で製造したアルファ化米ではその重量に対して約1.2倍である。この水分量はアルファ化米の性状に応じて適宜調整することができる。
【0018】
アルファ化米は粒状体であるから、多数の容器に一定量ずつ分配する作業は容易であり、所定量の水を分配する作業も容易に行える。具体的には、100個の容器にアルファ化米と水を分配する作業は一人で5分以内に行うことができるが、100個の容器に炊き上がった米を分配する作業は、30分以上を要する。
【0019】
容器としては、図2に示すような本体10と蓋11とからなる蓋付き容器を用いることが好ましい。蓋11は本体10の口縁12の内側に係合する段部13を形成した印籠蓋とし、加熱時に内部の水分が飛ばないようにしておくことが好ましい。また、本体10の糸底14には開口15を形成しておき、再加熱用の蒸気が底面に到達し易いようにしておくことが好ましい。
【0020】
容器の材質は特に限定されるものではなく、陶磁器を使うことも不可能ではない。しかし陶磁器は重くて取扱いにくいうえ熱容量が大きくなるので、耐熱性樹脂とすることが好ましい。耐熱温度が130℃以上であること、食洗器で酸素系漂白剤や塩素系漂白剤が使用できることなどを考慮すると、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリエステルカーボネート(PPC)樹脂などを用いることができる。これらの耐熱性樹脂は変形や変色がないため、長期間にわたり使用することができる。また色も乳白色であり、そのまま食器として提供できる利点がある。
【0021】
次にステップ2で、一定時間アルファ化米の浸漬を行い、水分を吸収させる。その時間は例えば30分程度である。しかし浸漬したままでは容器内の下側に水が溜まり、上部のアルファ化米が水分をうまく吸い込まないので、ステップ3において図3のようにかき混ぜ、上下の吸水状態が等しくなるように調整する。その後、図4のように蓋11を被せ、ステップ4で食品の冷蔵及び再加熱用のキャビネット20に容器ごとセットする。
【0022】
キャビネット20は図6に示すように、扉21を備え、内部には食品容器を載せるために多段のラック22が設けられている。キャビネット20の内部には、冷却手段23、スチーム発生手段24、制御手段25等が設けられており、上部には循環ファン26が設けられている。循環ファン26はキャビネット10の内部の冷気又はスチームを吸引し、背面の循環経路27を介して下部に循環させる構造となっている。前記したようにこのキャビネットとしてはニチワ電機株式会社の「リヒートウォーマーキャビネット」を使用することができるが、同じ機能を備えたものであれば、これに限定されるものではない。
【0023】
この食品の冷蔵及び再加熱用のキャビネット20は、制御手段25に搭載された制御ソフトによって、冷蔵、再加熱のプロセスを、任意のタイミング及び設定温度で進行させることができる。冷蔵温度は0~5℃として食品の腐敗を防止することが好ましい。5℃を超えると厚生労働省のHACCPに定められる5℃以下との冷蔵条件を満たすことができず、0℃未満では水分が凍結してしまい、解凍に時間がかかるので好ましくない。本実施形態では3℃に設定されている。
【0024】
朝食準備の場合には、ステップ4までを前日に行ない、夜間はステップ5の冷蔵状態を維持しておく。そして翌朝の食事前にタイマーによりキャビネット20を起動し、ステップ6の蒸気による再加熱を行う。なお、前工程において加熱された食品を冷蔵後に加熱するため、再加熱との表現をしているが、本発明においては前工程における加熱は、アルファ化米の製造工程で行われている。
【0025】
キャビネット20における再加熱温度は、100~105℃とすることが好ましい。再加熱温度がこれより低くなると湿り蒸気となってキャビネット内で水滴発生の問題が生じ、105℃を超えると加熱され過ぎて水分が失われ、おいしさが減少するためである。本実施形態では103℃に設定されている。
【0026】
本発明では高温の蒸気による再加熱を行うので、吸水状態で冷蔵されていたアルファ化米は加熱され、図5に示すおいしいご飯となる。キャビネット20の内部は100~105℃の蒸気で満たされているため、容器の内部の水分が加熱されて蒸気となっても容器の内外の蒸気圧はバランスし、容器内から蓋11を持ち上げて外部に流出することがなく、水分が減少しないおいしいご飯となる。なお再加熱時の昇温速度は自由に設定できるが、急速に昇温すると容器内で均等に加熱されにくくなり、昇温速度が遅いと時間がかかることとなるうえ芯温が75℃以上となりにくいので、45分から90分で100~105℃に達するように設定しておくことが好ましい。朝食の場合にも、再加熱は早朝に自動的に行われるので、再加熱時間が長くなっても差し支えない。
【0027】
厨房の従業員は再加熱が終了したタイミングで出勤し、ステップ7のキャビネット20からの容器の取出しを行い、図7に示すようにトレイ30に載せて各人に提供すればよい。なお前記したように、主菜31、副菜32は完成調理品を利用し、冷たい状態で皿などの容器に盛付けして冷蔵しておき、食事時間の前に再加熱してトレイ30に載せ、提供することができる。また汁物33も熱湯を注ぐだけで容易に準備することができるので、ご飯以外については多くの労力を要しない。
【0028】
以上に説明したように、本発明によればこれまで最も時間と労力を必要としていたご飯の準備作業を大幅に軽減することができ、厨房の従業員が早朝から出勤する必要もなくなる。また従来は必要であった炊き上がったご飯を分配するための時間を省略することができるので、ご飯が冷めることもなくなり、温かいごはんを提供することが可能となる。このため本発明は10人から数百人という多人数に食事を提供する必要のある施設に適した食事提供方法である。
【0029】
また、アルファ化米は外部の工場で予め製造したり、市販品を購入したりすることができるので、従来に比べて厨房施設も簡素化することができる利点もある。よって本発明は従来の問題点を解消した多人数への食事提供方法として、業界に大きく寄与することができる。なお、本発明は朝食の提供方法として好適であるが、昼食や夕食についても同様に適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0030】
10 本体
11 蓋
12 口縁
13 段部
14 糸底
15 開口
20 キャビネット
21 扉
22 ラック
23 冷却手段
24 スチーム発生手段
25 制御手段
26 循環ファン
30 トレイ
31 主菜
32 副菜
33 汁物
【要約】
【課題】従来よりも厨房作業の労力を軽減しつつ、多人数に温かいご飯を提供できる多人数への食事提供方法を提案する。
【解決手段】人数分の容器にそれぞれアルファ化米と所定量の水とを入れてアルファ化米を一定時間浸漬し、その後に各容器内をかき混ぜてアルファ化米の吸水状態を調整したうえで食品の冷蔵及び再加熱用のキャビネットに容器ごとセットして冷蔵し、食事時間の前に前記キャビネットを起動し、蒸気により再加熱して温かいご飯とし、その後に各容器を前記キャビネットから取り出して各人に提供する。冷蔵温度を0~5℃とし、再加熱温度を100~105℃とすることが好ましく、容器として、耐熱性樹脂からなる蓋付き容器を用いることが好ましい。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7