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特許7408132認知症判定プログラム及び認知症判定装置
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  • 特許-認知症判定プログラム及び認知症判定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】認知症判定プログラム及び認知症判定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20231225BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B5/11 230
A61B5/11 200
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019218009
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021087503
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】509111744
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
(74)【代理人】
【識別番号】100150876
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】大渕 修一
(72)【発明者】
【氏名】安永 正史
(72)【発明者】
【氏名】河合 恒
【審査官】山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/181483(WO,A1)
【文献】特開2018-042672(JP,A)
【文献】国際公開第2019/165207(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/066422(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ又はサーバーに格納され
腰の加速度情報を取得することで歩行データを直流電圧データとして取得する取得ステップ、
取得した直流電圧データを周波数データに変換し、更に該周波数データを当該周波数データに基づく画像データに画像化するデータ変換ステップであって、上記画像化は、上記直流電圧データの波形を山毎に分解して周波数データを得、得られた周波数データをそれぞれ色階調の異なる1ピクセル画像として出力し、時間の経過順に所定方向に並べて、正方形の画像データとすることにより行うデータ変換ステップ、及び
得られた周波数データとしての画像データを、予め測定して構築されたデータベースに照合して、被験者が認知症に該当するか否か判定する判定ステップであって、畳み込みネットワークを用い、上記画像データを入力層として、予めデータベースに基づいて作成された畳み込み層、プーリング層、全結合層及び出力層と照合させることにより、認知症の該当性を判定する判定ステップ、
を上記コンピュータ又はサーバーに実行させる認知症判定プログラム。
【請求項2】
コンピュータ又はサーバーに格納され
腰の加速度情報を取得することで歩行データを直流電圧データとして取得する取得ステップ、
取得した直流電圧データを周波数データに変換し、更に該周波数データを当該周波数データに基づく画像データに画像化するデータ変換ステップであって、上記画像化は、上記直流電圧データの波形を山毎に分解して周波数データを得、得られた周波数データをそれぞれ色階調の異なる1ピクセル画像として出力し、時間の経過順に所定方向に並べて、正方形の画像データとすることにより行うデータ変換ステップ、及び
得られた画像データを、予め測定して構築されたデータベースに照合して、被験者の認知機能の状態を数値化する推定ステップであって、得られた画像データの入力により更新されたデータベースのデータを用いて、長・短期記憶型人工知能より、測定データから得られた上記画像データを、データベースにおける、予め計測して格納してある認知機能簡易スクリーニング検査のデータと照合して、認知機能簡易スクリーニング検査の得点を推定する推定ステップ、
を上記コンピュータ又はサーバーに実行させる認知症判定プログラム。
【請求項3】
請求項1又は2記載のプログラムが格納されたコンピュータ又はサーバーと、
被験者の腰の加速度情報を取得する歩行データ取得手段とを具備する認知症判定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煩雑な操作を必要とせず、被験者に対する多大な労力を強いることなく認知症を判定することができる認知症判定プログラム及び認知症判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
認知症の判定には、被験者に多数の試験を行わせる等被験者の労力が多大であり、被験者の負担が大きいため、認知症の判定を被験者が受けたがらないという問題がある。
そこで、ITを活用して、被験者の負担を軽減させる認知症の判定方法が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、認知症が疑われる患者の認知症の種別を判定するため、心電測定装置により測定された認知症が疑われる被診断者の心電データを受け付けるステップと、受け付けられた心電データにおける心拍変動を周波数解析した結果得られるパワースペクトルに基づいて、副交感神経の活動度合いを示す副交感神経活動度指標を算出するステップと、受け付けられた心電データにおける心拍変動を周波数解析した結果得られるパワースペクトルに基づいて、交感神経の活動度合いを示す交感神経活動度指標を算出するステップと、前記被診断者に対して負荷試験を指示するステップと、負荷試験が指示される前の前記被診断者が安静時状態において算出された前記副交感神経活動度指標の値が予め設定された第1の基準値以下の場合に、当該被診断者はアルツハイマー型認知症である可能性が高い旨を表示させ、負荷試験が指示された後に算出された前記交感神経活動度指標の値と、負荷試験が指示される前に算出された前記交感神経活動度指標の値との差である交感神経活動度指標変化量が予め設定された第2の基準値以下の場合に、当該被診断者はレビー小体型認知症である可能性が高い旨を表示させるステップとをコンピュータに実行させるためのプログラムが提案されている。
また、特許文献2には、患者自身に心理的な抵抗感を持たせることなく、高精度な認知症診断を実現するべく、コンピュータに、被検者と質問者の会話に係る音声データを取得する処理と、前記音声データの音声解析を行って、前記質問者が発話する発話区間における質問内容の種別を特定すると共に、当該発話区間に続いて前記被検者が発話する発話区間における応答特徴を抽出する処理と、学習済みの識別器に対して、前記被検者の前記応答特徴を前記質問内容の種別と関連付けて入力し、前記被検者の認知症レベルを算出する処理と、を実行させる認知症診断プログラムであって、前記識別器は、前記被検者の前記応答特徴が前記質問内容の種別と関連付けて入力された際に、所定の認知症レベル決定則に則した認知症レベルを出力するように、教師データを用いた学習処理が施された、認知症診断プログラムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許5901089号公報
【文献】特許6263308号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Dumurgier et al,2017;Ojagbemi et al,2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の提案では、未だ煩雑な操作や被験者への負担が少なくなく、操作も簡易なものとは言えなかった。
一方、認知機能と歩行特性の関連は多数報告されている(例えば、非特許文献1)。しかし、歩行特性を取り入れた認知症の判定装置やプログラムについては報告がなく、歩行特性をどのように測定し、測定データをどのように処理すれば認知症の判定ができるかということについては、未だ提案されていないのが現状である。
したがって、本発明の目的は、簡易な操作で認知機能を判定・推測でき、少ない被験者の負担で、認知症の症状の有無を判断あるいは、認知機能の状態を得点化することができる、認知症判定装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、歩行データを周波数データに変換し、この周波数データをデータベース化することにより上記目的を達成し得ることを知見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の各発明を提供するものである。
1.コンピュータ又はサーバーに格納され、以下のステップを実行させる認知症判定プログラム。
腰の加速度情報を取得することで歩行データを取得する取得ステップ、
取得した歩行データを周波数データに変換するデータ変換ステップ、及び
得られた周波数データを、予め測定して構築されたデータベースに照合して、被験者が認知症に該当するか否か判定する判定ステップ。
2.上記データ変換ステップは、上記周波数データを更に当該周波数データに基づく画像データに画像化する、ことを特徴とする1記載の認知症判定プログラム。
3.コンピュータ又はサーバーに格納され、以下のステップを実行させる認知症判定プログラム。
腰の加速度情報を取得することで歩行データを取得する取得ステップ、
取得した歩行データを周波数データに変換するデータ変換ステップ、及び
得られた周波数データを、予め測定して構築されたデータベースに照合して、被験者の認知機能の状態を数値化する推定ステップ。
4.上記データ変換ステップは、上記周波数データを更に当該周波数データに基づく画像データに画像化する、ことを特徴とする3記載の認知症判定プログラム。
5.1又は3記載のプログラムが格納されたコンピュータ又はサーバーと、
被験者の腰の加速度情報を取得する歩行データ取得手段とを具備する認知症判定装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の認知症判定プログラム及び認知機能得点化プログラムは、簡易な操作で認知機能を判定・推測でき、少ない被験者の負担で、認知症の症状の有無を判断、認知機能の状態を得点化することができるのである。特に、「歩行」という通常行われる動作のみに基づいて認知症の判断を行うので、簡易に且つ少ない被験者の負担で認知症の有無や程度を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の装置の概要を示す概略図である。
図2図2は、本発明のプログラムのフローシートの1例を示す模式図である。
図3図3は、本発明のプログラムにおける変換ステップにおける変換前データと変換後データとを示す概略図であり、(a)が変換前、(b)が変換後を示す。
図4図4は、本発明のプログラムのデータ変換ステップを実行して画像化したデータを示す概略図であり、(a)は実施例の正常なデータ、(b)は実施例の認知症の疑いありのデータを示す。
【符号の説明】
【0009】
1:認知症判定装置、10:コンピュータ、20:歩行データ取得手段、30:サーバー
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
〔認知症判定装置〕
本発明の認知症判定装置の1実施形態を説明することにより、併せて本発明の認知症判定プログラムの1実施形態についても説明する。
本実施形態の認知症判定装置1は、図1に示すように、後述するプログラムが格納されたコンピュータ10と、被験者Aの腰の加速度情報を取得する歩行データ取得手段20とを具備する。
以下、まず、装置について詳細に説明する。
【0011】
<コンピュータ>
本実施形態においてコンピュータ10は、特に図示しないが、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、少なくとも一つの中央処理演算装置(CPU)、記録媒体を備え、キーボード14やポインティングデバイス(例えば、 マウスやタッチパッド)等の1以上のユーザ・インターフェース機器、インターネット等のデータ通信ネットワークにコンピュータシステムを接続するネットワーク・インタフェースを備える。また、歩行データ取得手段20からコンピュータへ無線で移送されるデータを受信するための受信装置も備えているのが好ましい。更に、コンピュータ10液晶ディスプレイ(LCD)パネル装置等のディスプレイ装置12に連結されて、各種情報を利用者に表示する。
本発明においては、コンピュータに代えてサーバーを用いることもでき、サーバーシステムにおいては、ディスプレイ装置に代えていわゆるスマートフォンやタブレット端末等の携帯端末を表示装置として用い、表示と入力機器とを兼用させても良い。
また、オペレーティングシステムとしては、通常の32ビットまたは64ビットのものが用いられる他、一般的にコンピュータシステムに用いられる、ウェブサーバーソフトウェアやスクリプト言語モジュール等の標準的な多数のソフトウェアモジュールを含む。また、利用者や専門家の用いるコンピュータも、同様のコンピュータシステムに後述するプログラムを格納して本実施形態の運用支援装置として機能させることが必要となる。
そして、このコンピュータは、後述するプログラムが格納されていることにより、歩行データ取得手段により取得したデータを、記録媒体に格納する格納部、格納されたデータを所定の形式に変換するデータ変換部、変換されたデータを基に認知症か否かを判定する判定部、並びに、認知症該当可能性を数値化して示す推定部として機能する。
また、上記認知症判定プログラムが、後述する推定ステップを具備する場合には、照合先であるデータベースにはすべての被験者のデータが格納されているのが好ましいため、別途サーバー30を用意し、当該サーバーにデータベースを格納すると共に、各コンピュータからのデータを受領し、都度データを更新するように設定することができる。
【0012】
<歩行データ取得手段>
本実施形態において歩行データ取得手段20は、加速度センサーである。本実施形態においては、被験者の腰の位置に設置されている。設置の態様は特に制限されるベルトに懸架させる、ベルトに取り付ける、身体に貼り付ける等種々の態様を採用しうる。この際用いることのできる加速度センサーとしては、重力、振動、動き及び衝撃を直流電圧として出力可能なものであれば、通常の市販のものを特に制限なく用いることができる。また、出力した直流電圧データをコンピュータに無線で移送するためのzigbee(登録商標)等の通信チップを内蔵しているものが好ましい。
また、歩行データ取得手段としては、ジャイロセンサーを加速度センサーに付加して用いることもできる。ジャイロセンサーとしては、角速度を3軸方向それぞれについて直流電圧データとして出力可能なものであれば、通常の市販のものを特に制限なく用いることができ、通信チップを内蔵していることが好ましい。
【0013】
<他の部材>
本発明の認知症判定装置においては、通常この種の装置に用いられる各種センサー等を設けて種々データをコンピュータに格納可能に設定することもできる。
【0014】
〔認知症判定プログラム〕
本発明の認知症判定装置において、コンピュータ10を、上記格納部、上記データ変換部、上記判定部、並びに、推定部として機能させるべく、コンピュータ10には本発明の認知症判定プログラムがその記録媒体に格納されている。以下、本発明の認知症判定プログラムの1実施形態を説明する。
本実施形態の認知症判定プログラムは、コンピュータ又はサーバーに格納され、以下のステップを実行させるものである。
腰の加速度情報を取得することで歩行データを取得する取得ステップ、
取得した歩行データを周波数に変換するデータ変換ステップ、及び
得られた周波数データを、予め測定して構築されたデータベースに照合して、被験者が認知症に該当するか否か判定する判定ステップ。
また、本実施形態の認知症判定プログラムは、更に、得られた周波数データを、予め測定して構築されたデータベースに照合して、被験者の認知症該当可能性を数値化する推定ステップを具備する。
以下、各ステップについて、図2にフローシートを参照しつつ説明する。
【0015】
<取得ステップ>
上記取得ステップS1は、歩行データ取得手段20としての加速度センサーから移送される歩行データとしての直流電圧データを受信し、受信した歩行データをコンピュータ10の記録媒体に格納する。その際、被験者データと日時データ(データを取得した年月日に関するデータ)とを予め記録媒体に記憶させておき、かかる被験者データ及び日時データと関連付けて格納する。
この際格納されるデータは加速度センサーから移送される直流電圧データである。また、歩行データ取得手段20が加速度センサーと角速度センサーである場合には、それぞれ、移送される直流電圧データがそのまま格納される。
【0016】
<データ変換ステップ>
データ変換ステップS2は、上記取得ステップにより格納された直流電圧データを周波数に変換するステップである。図3(a)に示すように直流電圧データは、波形データである。この波形データのままでは判定ステップや推定ステップにおいて正確に判定又は推定することができないこと、波形データを周波数データに換算することで正確に判定又は推定することが可能となることを、本発明者らは知見した。
本ステップにおいて、まず、波形データにおける波形の山毎に下記式によるフーリエ変換して、各山を構成する関数がどのような周波数で構成されているかを求める。
【数1】

ついで、得られた周波数データを図3(b)に示すように画像化する。
画像化は、判定ステップにおいていわゆる畳込みネットワークによる判定を行うための下準備に相当する操作であり、周波数データを用いて入力層を形成する操作である。具体的には、画像化は、波形を山毎に分解して周波数データを得、得られた周波数データをそれぞれ色階調の異なる1ピクセル画像として出力し、時間の経過順に所定方向(例えば左上から右に移行し、所定個数並べたら次の行へと移行して同様に左から右に並べ、所定行数繰り返す)に並べて、正方形の画像データとすることにより行う。
【0017】
<判定ステップ>
判定ステップS3は、データ変換ステップで得られた周波数データに基づく画像データを入力層として、予めデータベースに基づいて作成された畳み込み層、プーリング層、全結合層及び出力層と照合させることにより、認知症の該当性を判定するステップである。いわゆるAlexnet等の畳み込みネットワークを用いて行われる。
事前に準備されるデータについては後述するが、入力層としての画像データと各層との照合について説明する。
まず、畳み込み層は任意の一つのピクセルデータ(フィルタ)がどの位置に存在するかを確認するための層であり、多数の層が用意されている。入力層と畳み込み層との照合でこのフィルタの存在する位置を確認する。
ついで、プーリング層との照合で、位置を正確に特定する。
最終的にピクセル毎に画像の特定と位置の把握が完了したところですべてのデータを結合させて、結合されたデータをデータベースにおける多数のデータと照合して、入力層、すなわち測定したデータと近似するデータベースに格納されている他のデータを抽出する。そして、近似するデータが認知症であるか否かを確認することで、認知症の該当可能性を判定する。
この際、ネットワークからそれぞれの分類に該当する可能性が出力される。すなわち、近似するデータを所定数検出し、そのうちの認知症該当例の数をもって確率を算出するなどの手段により、可能性を算出して、出力される。得られた該当可能性値に基づいて、認知症該当可能性を判定する(そのまま出力する場合)。
また、単に認知症該当可能性を%で算出するのではなく、例えば、近似するデータのうち認知症のものが60%以上存在する(以下、存在率という)場合には「認知症該当性高(認知症該当)」、40%を超えて60%未満の存在率であれば「認知症該当性中(認知症予備軍)」、40%以下の存在率なら「認知症該当可能性低(正常)」と3段階に分類して、いずれに該当するかによって、3段階で判定することも可能である。
【0018】
<推定ステップ>
推定ステップS4は、データベースに随時測定したデータを追加して、データベースを更新するとともに、上述した判定ステップと同様に検査の推定得点を推定して算出するか、または好ましくは回帰型AIシステムを用い、上記検査の推定得点を示すステップである。
好ましい態様としては、具体的には、更新されたデータベースのデータを用いて、長・短期記憶(LSTM)型人工知能(AI)より測定データから得られる周波数データをデータベースと照合して、予め計測して格納してある認知機能簡易スクリーニング検査のMMSEあるいはMoCA-Jのデータと照合して、これらの得点を推定する。データの入力はセンサーデータを変換処理、画像化処理後にLSTM型AIに入力して、MMSEまたはMoCA-Jの推定される得点を出力する。これらのステップを実行するプログラムは、例えばMathWorks社製「MATLAB」等を用いて構成することができる。
本実施形態のように判定ステップと推定ステップの両方をプログラムに組み込む場合には、判定ステップはオフラインでも使用できるようにすると共に段階判定を行うように設定し、推定ステップはオンラインでサーバーに格納したデータベースにアクセスして具体的な数値として算出するように設定するのが好ましい。また、後述するように、携帯端末に本発明のプログラムを格納して各ステップを実行させる場合には、判定ステップ及び推定ステップも当該携帯端末で実行させるように構成することもできる。
【0019】
<その他のステップ>
(事前準備ステップS0)
本実施形態の認知症判定プログラムにおいては、事前にデータベースを構築しておくのが好ましい。
このデータベースは、取得ステップとデータ変換ステップとを行い、測定データを画像化したデータを、予め被験者について認知機能検査を行っておき、得られた認知機能検査及び被験者データ(年齢、性別、職業等)と紐付けて、コンピュータ又はサーバーの記憶媒体に格納することで構成できる。ここで認知機能検査としては、ミニメンタルステート検査(MMSE)や、Montreal Cognitive Assessment Japanese Version(MoCA-J)が挙げられる。
そして、推定ステップを行う場合には、随時データを更新できるように、データベースをサーバーに構築し、各コンピュータ又は携帯端末(携帯端末を用いた実施態様については後述する)からサーバーのデータベースにアクセス可能とする。
(その他のステップ)
また、本発明においては、上述の各ステップの他に、適宜、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々ステップを実行させるようにプログラムを構成する事が可能である。
【0020】
<使用例>
本発明の認知症判定装置1は、以下のようにして使用することができる。
まず、歩行データ取得手段20である加速度センサーを被験者Aの腰部に装着する。そして、被験者Aに通常行っているのと同様に歩行をしてもらう。この歩行を行っている間、歩行データ取得手段20で歩行データを取得し、得られた歩行データ(電圧データ)をコンピュータ10に移送する。歩行データは、コンピュータに格納された認知症判定プログラムの作用により、歩行データをコンピュータの記憶媒体に予め格納された被験者の情報と紐付けて格納して、コンピュータを格納部として機能させる。この操作は取得ステップS1に該当する。
次に、格納された歩行データを、認知症判定プログラムの作用によって周波数データに変換する。すなわち、コンピュータを変換部として機能させる。これにより周波数データ、ひいては画像化されたデータに、歩行データを変換して、再度コンピュータの記憶媒体に格納する。この操作はデータ変換ステップS2に該当する。
本実施形態においては、判定ステップと推定ステップの両方を実行できるように設定されている。
得られた画像化されたデータは、コンピュータに格納されたか又はサーバーに格納されたデータベースに照合されて、3段階の段階評価、又は認知症該当可能性として具体的な該当確率(%)が出力される。これが判定ステップS3であり、このステップを認知症判定プログラムがコンピュータに実行させることで、コンピュータが判定部として機能する。
また、得られた画像化されたデータは、サーバーに格納され、新たなデータを随時追加して更新されるデータベースに照合されて、認知機能簡易スクリーニング検査(MMSE,MoCA-J)の推定得点が出力される。これが推定ステップS3であり、このステップを認知症判定プログラムがコンピュータに実行させることで、コンピュータが推定部として機能する。
これらの操作をコンピュータに実行させて、段階評価、該当確率(%)、推定得点がディスプレイ装置に表示される。
【0021】
なお、本発明は上述の実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
たとえば、上述の実施形態では加速度センサーとコンピュータとを用いる形態で説明したが、加速度センサーに代えてスマートフォン等の携帯端末を用い、コンピュータに代えてサーバーを用いることもできる。この場合には、スマートフォンに内蔵されている加速度センサーを用い、スマートフォンにいわゆるアプリと言われるプログラムを格納し、スマートフォンの加速度センサーで計測したデータを、WIFI(登録商標)等の通信手段を用いてサーバーに移送する。サーバーでの処理は、上述のコンピュータにおける処理と同じに行うことができ、出力は、当該スマートフォンに結果のデータを移送することで、スマートフォン上で確認するように設定することができる。
なお、本発明におけるコンピュータには、スマートフォン等の携帯端末も含まれる。したがって、携帯端末に本発明のプログラムを格納して本発明の装置におけるコンピュータとして機能させるとともに、当該携帯端末に通常内蔵されている加速度センサーをもって歩行データ取得手段として機能させることもでき、この場合には、上述の推定ステップも含めたすべてのステップの実行が携帯端末で完結することが可能であり、携帯端末をオフライン状態で使用する態様とすることが可能である。
また、加速度センサーを被験者の腰に設けた例をもって説明したが、腰の他に更に膝や足(靴)に設けることもできる。
上述の実施形態では、判定ステップと推定ステップの両方を有するプログラムを例示して説明したが、判定ステップと推定ステップとはいずれかのステップを行えるように設定されていればよい。
また、判定ステップにおける段階評価を、スコア表示して、例えば「認知機能元気度スコア」として出力することも可能である。この場合には、データベースにおける認知機能の高低と画像化されたデータとを紐付けておき、測定したデータがいずれの画像に近似するかを判定し、最も近似するデータの認知機能の高低をもって点数化し、当該点数を出力するなどすることができる。
また、波形データの変換には、上述のフーリエ変換の他、高速フーリエ変換(FFT)を使用することもでき、またウェーブレット変換を用いることもできる。
また、判定ステップは、畳み込みネットワーク(CNN)に代えて、推定ステップで説明したLSTMや回帰型ニューラルネットワーク(RNN)を用いて行うことも可能である。
【実施例
【0022】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらになんら制限されるものではない。
〔実施例〕
都内在住の65歳以上の高齢者881人を対象に、本発明の認知症判定装置を用いて、歩行時の加速度の計測(腰部の加速度、角速度データの収集)を行った。また、これらの対象について別途認知機能検査(MMSE、MoCA-J)を実施した。得られた加速度データを認知機能検査の結果と紐付けてサーバーの記録媒体に格納してデータベースを構築した。また、加速度データに基づいて上述のデータ変換ステップと同じ操作を行い、データを画像化し、画像化されたデータも加速度データ及び認知機能検査の結果と紐付けてデータベースに格納した。
認知機能検査を行い、認知症の疑いがあると認定された被験者及び認知症の疑いありと認定された被験者に歩行データ取得手段としての加速度センサーを装着してもらい、本発明の認知症判定装置を用いて認知症の判定を行った。その結果、事前に認知症の疑いありと認定された方は、認知症に該当するという判定結果であり、事前に正常と認定された方は、認知症に該当しないという判定結果であった。それぞれのデータを以下に示す。また、その際得られた画像データを図4に示す。
正常(a):年齢66歳、女性、事前データ(MMSE28点、MoCA-J26点)、歩行速度1.37m/s
認知症の疑いあり(b):年齢69歳、女性、事前データ(MMSE16点、MoCA-J7点)、歩行速度1.37m/s
この結果から明らかなように、本発明の認知症判定装置及び認知症判定プログラムを用いることにより、認知症機能検査の結果に即した判定結果が得られている。本発明の認知症判定装置及び認知症判定プログラムにより、簡易な操作で且つ少ない被験者の負担で、正確に認知症の判定を行えることがわかる。
また、比較として、データ変換ステップを行わずに判定を行った場合(比較対象品)と比較した。その結果を表1に示す。なお、判定は、正常、認知症予備軍、認知症のそれぞれのいずれに該当するか否かを、本発明の装置またはデータ変換ステップを用いていないプログラムを有する装置を用いて判定すると共に、事前に認知機能検査により得られた結果に対してどの程度の正答率があったかで、性能を評価した。
表1に示すように、本発明の装置を用いた場合には、高い正答率を示すことがわかる。このことから、本発明の装置及びプログラムによれば、歩行データを採るだけで高い確率で認知症か否かを判定することができる。
【表1】
【0023】
このように簡易な操作で且つ少ない被験者の負担で、正確に認知症の判定を行える本発明の認知症判定装置及び認知症判定プログラムは、短時間の歩行計測で、個人が簡便に認知機能の状態を知ることが可能であるので、高齢者の車の運転免許更新に、数分間の歩行計測によって認知機能の状態の推測、スクリーニングを行う等、医療現場、地域での保健福祉サービスなど簡易に認知機能の推定が必要になる場面への利用が期待される。

図1
図2
図3
図4