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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】ロボットハンドおよび搬送機
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
B25J15/08 Q
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019227002
(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2021094642
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】和田 一義
(72)【発明者】
【氏名】寺口 朝弥
(72)【発明者】
【氏名】冨沢 哲雄
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-062788(JP,A)
【文献】特開2019-084673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に接触可能な第1の把持部と、前記第1の把持部に対して傾斜し且つ対象物に接触可能な第2の把持部と、を有し、対象物を把持可能な一対の把持部材と、
前記一対の把持部材のそれぞれを支持するアーム部材であって、前記第1の把持部に対して直交し且つ前記第2の把持部に対して傾斜する軸方向に延びる回転軸を中心として前記把持部材を回転可能に支持する前記アーム部材と、
前記アーム部材のそれぞれを支持して、前記把持部材どうしが互いに接近または離間する方向に相対移動可能なスライダ部材であって、前記第1の把持部どうしが対向して前記第1の把持部どうしで挟まれた前記対象物が前記回転軸を中心として回転可能な状態で支持される第1の位置と、前記第2の把持部どうしが対向して前記第2の把持部どうしで挟まれた前記対象物が回転不能な状態で支持される第2の位置との間で前記アーム部材を移動可能に支持する前記スライダ部材と、
を備えたことを特徴とするロボットハンド。
【請求項2】
前記把持部材は、重心位置が、前記回転軸に対してずれた位置に配置され、
前記第1の位置および前記第2の位置では、前記把持部材の重心位置は、前記回転軸よりも重力方向の下方となり、
前記アーム部材は、前記軸方向が重力方向の下方に対して傾斜し且つ前記把持部材の重心位置が回転軸よりも上方となる第3の位置に移動可能であり、
前記把持部材は、前記アーム部材が前記第1の位置および前記第2の位置に移動した場合に、前記回転軸よりも前記スライダ部材が離間する側に配置される第3の把持部を有し、
前記第3の把持部は、前記アーム部材が前記第1の位置又は前記第2の位置から前記第3の位置に移動した場合に、前記把持部材が前記回転軸を中心に回転して、前記回転軸よりも前記スライダ部材が接近する側に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記アーム部材の位置と前記スライダ部材の接近離間方向の移動とを制御する制御手段であって、前記把持部材どうしの間に対象物を把持した状態で前記アーム部材を第1の位置と第2の位置との間で移動させると共に前記スライダ部材を移動させて、前記対象物を把持する部位を前記第1の把持部と前記第2の把持部との間で切り替える前記制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のロボットハンド。
【請求項4】
搬送する対象物が収納された収納部と、
前記対象物が設置される設置位置に前記収納部から対象物を移動させる請求項1ないし3のいずれかに記載のロボットハンドと、
を備えたことを特徴とする搬送機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体を把持したり離したりすることが可能なロボットハンドおよびロボットハンドで把持した物体を搬送する搬送機に関し、特に、物体を挟んで把持するロボットハンドおよび前記ロボットハンドを有する搬送機に関する。
【背景技術】
【0002】
コンビニエンスストアやスーパーマーケット等の商品陳列棚が多数ある店舗において、商品を陳列棚に自動的に陳列する装置に関し、下記の特許文献1に記載の技術が公知である。
【0003】
特許文献1(特開2019-84673号公報)には、商品を把持して持ち上げる保持部材(241)において、商品が接触する部分に回転自由な回転部(241d-1)が設けられており、把持された商品を、商品の重心位置からずらして把持することで回転させることが可能な構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-84673号公報(「0022」、図14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(従来技術の問題点)
ロボットハンドで物体(把持対象物、搬送対象物)を把持して持ち上げ、搬送して、目的の位置に置く一連の工程において、物体を把持する前の姿勢に対して、物体を目的の位置に置く際の姿勢を変えたい場合がある。例えば、把持する前が倒れた姿勢で、置く際には起立した姿勢にしたい場合がある。
特許文献1に記載の構成では、把持部に回転自由な回転部を設けることで、把持後に、把持された位置と物体の重心位置との関係で回転部が回転して、物体の姿勢を変えている。
なお、回転部をモータ等で回転、停止させる構成とすることで、把持後にモータを駆動して、物体の姿勢を変えることも考えられる。
【0006】
しかしながら、把持部が回転自由な構成では、物体の姿勢を変えたくない場合に、重心位置から離れた位置を把持すると、物体が自然に回転してしまい姿勢が変わってしまう問題がある。姿勢が変わらないようにするには、物体の重心位置を把持部で把持する必要があるが、商品の種類や個体差によって物体の重心位置は異なり、把持しようとする物体の重心位置の判断は容易ではない。したがって、特許文献1に記載の構成では、物体の姿勢を変えたくない場合に、姿勢を変えずに把持、搬送することが困難である問題がある。
【0007】
本発明は、従来の構成に比べて、構成の複雑化を抑えつつ、対象物の姿勢の変更と非変更とを選択可能にすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明のロボットハンドは、
対象物に接触可能な第1の把持部と、前記第1の把持部に対して傾斜し且つ対象物に接触可能な第2の把持部と、を有し、対象物を把持可能な一対の把持部材と、
前記一対の把持部材のそれぞれを支持するアーム部材であって、前記第1の把持部に対して直交し且つ前記第2の把持部に対して傾斜する軸方向に延びる回転軸を中心として前記把持部材を回転可能に支持する前記アーム部材と、
前記アーム部材のそれぞれを支持して、前記把持部材どうしが互いに接近または離間する方向に相対移動可能なスライダ部材であって、前記第1の把持部どうしが対向して前記第1の把持部どうしで挟まれた前記対象物が前記回転軸を中心として回転可能な状態で支持される第1の位置と、前記第2の把持部どうしが対向して前記第2の把持部どうしで挟まれた前記対象物が回転不能な状態で支持される第2の位置との間で前記アーム部材を移動可能に支持する前記スライダ部材と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のロボットハンドにおいて、
前記把持部材は、重心位置が、前記回転軸に対してずれた位置に配置され、
前記第1の位置および前記第2の位置では、前記把持部材の重心位置は、前記回転軸よりも重力方向の下方となり、
前記アーム部材は、前記軸方向が重力方向の下方に対して傾斜し且つ前記把持部材の重心位置が回転軸よりも上方となる第3の位置に移動可能であり、
前記把持部材は、前記アーム部材が前記第1の位置および前記第2の位置に移動した場合に、前記回転軸よりも前記スライダ部材が離間する側に配置される第3の把持部を有し、
前記第3の把持部は、前記アーム部材が前記第1の位置又は前記第2の位置から前記第3の位置に移動した場合に、前記把持部材が前記回転軸を中心に回転して、前記回転軸よりも前記スライダ部材が接近する側に配置される
ことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のロボットハンドにおいて、
前記アーム部材の位置と前記スライダ部材の接近離間方向の移動とを制御する制御手段であって、前記把持部材どうしの間に対象物を把持した状態で前記アーム部材を第1の位置と第2の位置との間で移動させると共に前記スライダ部材を移動させて、前記対象物を把持する部位を前記第1の把持部と前記第2の把持部との間で切り替える前記制御手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
前記技術的課題を解決するために、請求項4に記載の発明の搬送機は、
搬送する対象物が収納された収納部と、
前記対象物が設置される設置位置に前記収納部から対象物を移動させる請求項1ないし3のいずれかに記載のロボットハンドと、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1,4に記載の発明によれば、従来の構成に比べて、構成の複雑化を抑えつつ、対象物を回転させる姿勢の変更と、対象物を回転させない姿勢の非変更とを選択可能にすることができる。
請求項2に記載の発明によれば、第1の把持部および第2の把持部だけでなく、第3の把持部でも対象物を把持できる。したがって、第1の把持部や第2の把持部では把持が不安定な対象物も第3の把持部で把持可能にすることができる。
請求項3に記載の発明によれば、対象物を把持した状態で、第1の把持部と第2の把持部とを切り替えて、対象物の回転/非回転の時期や回転量を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の実施例1の搬送機の説明図である。
図2図2は実施例1のロボットハンドの斜視図である。
図3図3は実施例1のロボットハンドの正面図であり、図3Aはアーム部材が第1の位置に移動した状態の説明図、図3Bはアーム部材が第2の位置に移動した状態の説明図である。
図4図4は実施例1のロボットハンドの正面図であり、図4Aはアーム部材が第3の位置に移動した直後の状態の説明図、図4B図4Aの状態から把持部材が反転位置に移動した状態の説明図である。
図5図5は実施例1のロボットハンドの把持部材の説明図である。
図6図6は実施例1の制御手段の説明図である。
図7図7は対象物の姿勢の一例の説明図であり、回転が必要な対象物と回転が不要な対象物とが存在する状態の説明図である。
図8図8は対象物の一例として、回転させる必要があるサンドイッチを保持した状態の説明図であり、図8Aは回転前の斜視図、図8Bは回転前の正面図、図8Cは回転前の側面図、図8Dは回転後の斜視図である。
図9図9は対象物の一例として、回転不要なサンドイッチを保持した状態の説明図であり、図9Aは斜視図、図9Bは正面図、図9Cは側面図である。
図10図10は対象物の一例として、弁当を保持した状態の説明図である。
図11図11は対象物を把持中に把持する部位を変更する場合の説明図であり、図11Aは回転把持面で保持した状態の説明図、図11Bは回転把持面と固定把持面との間で移行する途中の状態の説明図、図11Cは固定把持面で保持した状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(以下、実施例と記載する)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0015】
図1は本発明の実施例1の搬送機の説明図である。
図1において、本発明の搬送機1は、搬送部の一例としての移動台車2を有する。移動台車2は、下部の四隅にキャスター3が設置されており、モータやギア等が内蔵された駆動ユニット4からの駆動を受けて、前後左右に移動可能に構成されている。移動台車2の上部には、枠体の一例として、複数の柱や梁からなるフレーム6が支持されている。
前記フレーム6には、上下方向の中央部に、収納部の一例としての収納ケース10が支持されている。収納ケース10には、対象物の一例として、包装されたおにぎりやサンドイッチ、弁当等の商品が収納されている。
【0016】
フレーム6には、ケース昇降部20が支持されている。ケース昇降部20は、上下方向に延びるレール21を有する。レール21には、レール21に沿って上下方向に移動する昇降体22が支持されている。昇降体22は、収納ケース10を上下方向に昇降可能に構成されている。
フレーム6の上部には、物品移送部30が支持されている。物品移送部30は、ロボットハンド100と、昇降部材の一例としての把持昇降部50と、把持移動部60とを有する。把持移動部60は、ロボットハンド100および把持昇降部50を前後左右に移動可能に構成されている。把持昇降部50は、ロボットハンド100を上下方向に移動可能に構成されている。
なお、搬送機1の移動台車2やケース昇降部20、把持昇降部50、把持移動部60等については、従来公知の種々の構成を採用可能であり、例えば、特許文献1(特開2019-84673号公報)に記載されているので、詳細な説明は省略する。
【0017】
(ロボットハンドの説明)
図2は実施例1のロボットハンドの斜視図である。
図3は実施例1のロボットハンドの正面図であり、図3Aはアーム部材が第1の位置に移動した状態の説明図、図3Bはアーム部材が第2の位置に移動した状態の説明図である。
図4は実施例1のロボットハンドの正面図であり、図4Aはアーム部材が第3の位置に移動した直後の状態の説明図、図4B図4Aの状態から把持部材が反転位置に移動した状態の説明図である。
【0018】
図2図3において、実施例1のロボットハンド100は、スライダベース102を有する。スライダベース102の下部には、一対のスライダ部材103が支持されている。スライダ部材103は、スライダベース102に内蔵されたモータ(図示せず)により、スライダベース102の下面に沿って、互いに接近または離間する方向に移動可能に支持されている。
各スライダ部材103の下部には、アーム部材104が支持されている。アーム部材104は長手方向に延びる形状となっており、一端部である上端部のアーム軸104aを中心として回転可能に支持されている。各スライダ部材103には、図示しないモータが内蔵されており、アーム部材104は、モータによりアーム軸104aを中心として回転される。実施例1では、アーム部材104は、アーム軸104aを中心として、図3Aに示す第1の位置と、図3Bに示す第2の位置と、図4に示す第3の位置との間で移動可能に構成されている。
【0019】
図5は実施例1のロボットハンドの把持部材の説明図である。
図3図5において、各アーム部材104の他端部には、把持部材106が支持されている。把持部材106は、把持回転軸106aを中心としてアーム部材104の他端部に回転自由な状態で支持されている。把持部材106は、把持回転軸106aの軸方向に対して直交する第1の把持部の一例としての回転把持面107を有する。
【0020】
なお、本願明細書および特許請求の範囲において、回転把持面107と把持回転軸106aとの「直交」とは、厳密に直交(90度)する場合だけでなく、各部材の製作、組立時に必要なあそびや余裕、設計誤差や組立誤差等により、現実には交差する角度が直交からある程度のずれている場合も含む意味で使用している。すなわち、理論的には90度(直交)以外では回転把持面107で対象物を保持した状態で把持部材106は回転できないが、現実的にはあそび等により90度でなくても、回転把持面107が把持回転軸106aを中心に回転可能な角度範囲があり、その角度範囲も含むものである。よって、把持部材106では、回転把持面107で対象物を把持した状態で回転可能な角度範囲で把持回転面107と把持回転軸106aとが交差している。
【0021】
回転把持面107の上方には、第2の把持部の一例としての固定把持面108が形成されている。固定把持面108は、把持回転軸106aの軸方向に対して傾斜する面により構成されている。なお、固定把持面108と把持回転軸106aとの傾斜角度は、固定把持面108で対象物を把持した状態で回転不能な角度範囲となっており、理論的には90度以外の角度であるが、現実的には、あそび等で90度付近の回転可能な角度範囲を除いた角度範囲となる。なお、以下の実施例の説明においては、理解の容易のために、理論的な状態(90度以外では回転しない状態)に基づいて説明を行うが、あそび等のある現実的な状況を除外する意図ではない。
また、回転把持面107に対して把持部材106の裏面側、すなわち、スライダ部材103どうしが離間する側には、第3の把持部の一例としての反転把持面109が形成されている。
【0022】
実施例1の把持部材106は、重心の位置111が、把持回転軸106aよりも、回転把持面107や反転把持面109側にずれた位置に設定されている。
したがって、アーム部材104が第1の位置や第2の位置に移動した状態では、把持部材106の自重により、重心の位置111が把持回転軸106aよりも下方の状態で把持部材106の位置が安定する。したがって、第1の位置では、回転把持面107どうしが対向した状態となり、第2の位置では固定把持面108どうしが対向した状態となる。
したがって、第1の位置または第2の位置では、スライダ部材103が互いに接近する方向に移動することで、回転把持面107どうしまたは固定把持面108どうしで対象物を挟んで把持することが可能であり、対象物を把持した状態からスライダ部材103を互いに離間する方向に移動させることで、対象物を離すことも可能である。
【0023】
アーム部材104が第3の位置に移動すると、移動直後は、図4Aに示す状態となるが、重心位置111が把持回転軸106aよりも上方且つ重力方向が把持回転軸106aに対して傾斜している。したがって、把持部材106の自重で把持回転軸106aが回転し、図4Bに示すように、反転把持面109どうしが外側(スライダ部材103が離間する側)から内側(スライダ部材103が接近する側)に移動した状態となる。いわば、第3の位置では、把持部材106が内側に突起する爪状の形態となっている。
したがって、第3の位置では、スライダ部材103が互いに接近する方向に移動することで、対象物の底面を反転把持面109どうしで支持する状態、いわば、対象物を掬い上げた状態で保持することが可能である。
【0024】
図2において、ロボットハンド100の外方には、把持部材106に把持された対象物の姿勢や位置を検知可能な検知部材の一例としてのカメラ121がフレーム6に支持されている。
【0025】
(実施例1の搬送機1の制御手段の説明)
図6は実施例1の制御手段の説明図である。
図6において、実施例1の搬送機1には、制御手段の一例としての制御部130が設置されている。制御部130は、外部との信号の入出力および入出力信号レベルの調節等を行うI/O(入出力インターフェース)、必要な起動処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータ及びプログラムを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM等に記憶された起動プログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)ならびにクロック発振器等を有するコンピュータ装置により構成されており、前記ROM及びRAM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
制御部130には、基本動作を制御する基本ソフト、いわゆる、オペレーティングシステムOS、アプリケーションプログラムの一例としての搬送機制御プログラムAP1、その他の図示しないソフトウェアが記憶されている。
【0026】
(実施例1の制御部130に接続された要素)
制御部130には、カメラ121等の信号出力要素からの出力信号が入力されている。
また、実施例1の制御部130は、移動台車2やケース昇降部20、把持昇降部50、把持移動部60、ロボットハンド100の各部位に設置されたモータ等の被制御要素へ制御信号を出力している。
【0027】
(制御部130の機能)
実施例1の制御部130の搬送機制御プログラムAP1は、下記の機能手段(プログラムモジュール)131~137を有する。
【0028】
移動制御手段131は、移動台車2を制御して、搬送機1の移動を制御する。移動制御手段131は、対象物の搬送作業を行う位置、例えば、おにぎり等を陳列する陳列棚の位置に搬送機1を移動させる。
ケース昇降制御手段132は、ケース昇降部20を制御して、収納ケース10の高さを制御する。実施例1のケース昇降制御手段132は、ロボットハンド100でおにぎり等の対象物を取り出す作業を行う際に、対象物の高さが予め設定された作業用の高さ(位置)となるように収納ケース10の高さを制御する。
【0029】
対象物判別手段133は、カメラ121の映像に基づいて、収納ケース10から陳列棚へ搬送する対象であるおにぎり等の対象物を判別する。実施例1の対象物判別手段133は、対象物の位置、外形および姿勢を判別する。なお、複数の対象物が存在する場合には、予め定められた優先順位に基づいて搬送する対象物を選定可能である。一例として、収納ケースにおいて、最も高い位置にあるものから順に選定したり、収納ケース10の左上に近いものから順に選定するといった形で対象物を選定することが可能である。
また、おにぎりやサンドイッチ、弁当等の対象物の種類については、種類ごとに異なる収納ケース10に入れる(例えば、おにぎりのみが収納されたケース10にする)とか、収納ケース10内でおにぎりが収納される領域とサンドイッチが収納される領域と弁当が収納される領域を予め区分けしておくとか、おにぎり等の外形を予め登録しておき画像解析で判定するとか、任意の変更が可能である。
【0030】
把持昇降制御手段134は、把持昇降部50を制御して、ロボットハンド100の昇降を制御する。実施例1の把持昇降制御手段134は、ロボットハンド100がおにぎり等の対象物を把持する場合、ロボットハンド100を収納ケース10のおにぎり等の高さまで初期位置から下降させる。そして、ロボットハンド100が対象物を把持すると、ロボットハンド100を上昇させる。そして、ロボットハンド100が対象物の設置位置まで移動するとロボットハンド100を下降させる。ロボットハンド100が対象物を設置位置で離すと、初期位置に向けて上昇させる。
【0031】
把持移動制御手段136は、把持移動部60を制御して、ロボットハンド100の前後左右の位置を制御する。実施例1の把持移動制御手段136は、ロボットハンド100がおにぎり等の対象物を把持する場合、ロボットハンド100を収納ケース10のおにぎり等の位置まで初期位置から移動させる。そして、ロボットハンド100が対象物を把持して上昇すると、対象物の設置位置までロボットハンド100を移動させる。ロボットハンド100が対象物を設置位置で離すと、初期位置に向けて移動させる。
【0032】
図7は対象物の姿勢の一例の説明図であり、回転が必要な対象物と回転が不要な対象物とが存在する状態の説明図である。
ロボットハンド制御手段137は、ロボットハンド100を制御して、おにぎり等の対象物の把持または把持解除を行う。実施例1のロボットハンド制御手段137は、対象物がおにぎりまたはサンドイッチか、弁当かを判別する。すなわち、対象物の種類を判別する。そして、おにぎりまたはサンドイッチを把持する場合、対象物の姿勢を検出して、回転が必要な状態か否かを判別する。図7において、おにぎりまたはサンドイッチには、陳列棚に設置する姿勢が予め登録されており、設置する姿勢とカメラ121で検出した対象物の姿勢とを画像解析で比較することで、回転が必要な対象物141か回転が不要な対象物142かを判別する。
【0033】
図8は対象物の一例として、回転させる必要があるサンドイッチを保持した状態の説明図であり、図8Aは回転前の斜視図、図8Bは回転前の正面図、図8Cは回転前の側面図、図8Dは回転後の斜視図である。
図9は対象物の一例として、回転不要なサンドイッチを保持した状態の説明図であり、図9Aは斜視図、図9Bは正面図、図9Cは側面図である。
【0034】
実施例1では、対象物がおにぎりまたはサンドイッチであり且つ回転が必要な対象物141の場合、アーム部材104を第1の位置に移動させる。そして、スライダ部材103が互いに接近する方向に移動させる。したがって、図8に示すように回転把持面107どうしで対象物を把持する。
また、対象物がおにぎりまたはサンドイッチであり且つ回転が不要な対象物142の場合、アーム部材104を第2の位置に移動させる。そして、スライダ部材103が互いに接近する方向に移動させる。したがって、図9に示すように固定把持面108どうしで対象物を把持する。
【0035】
図10は対象物の一例として、弁当を保持した状態の説明図である。
さらに、対象物が弁当143の場合、アーム部材104を第3の位置に移動させる。そして、アーム部材104を下降させつつスライダ部材103を互いに接近する方向に移動させて、把持部材106が反転した状態から自重で元の状態に戻る前に、反転把持面109を対象物の底面に接触させる。したがって、弁当143の底部が反転把持面109で下から把持される。
また、実施例1のロボットハンド制御手段137は、対象物141~143が陳列棚の設置目標位置に移動すると、スライダ部材103を互いに離間する方向に移動させる。したがって、対象物141~143の把持が解除される。
【0036】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の搬送機1では、回転が必要な対象物141を搬送する場合、回転把持面107で対象物141を把持する。この時、一対の回転把持面107が対向、対面した状態であるため、把持回転軸106aが同軸上に配置された状態となる。したがって、対象物141の重心位置と把持回転軸106a、把持部材106の重心位置111との位置関係で、対象物141の自重により対象物141が回転する。
なお、対象物141の重心位置が回転把持面107の外側にあれば、対象物141を回転させることが容易である。したがって、対象物141の重心位置がある可能性の高い中央部を外した位置を把持することで、容易に回転させることが可能である。
【0037】
また、実施例1の搬送機1では、回転が不要な対象物142を搬送する場合、固定把持面108で対象物142を把持する。一対の固定把持面108で対象物142が両側から挟まれると、各把持回転軸106aは、内側に行くにつれて下方に傾斜する方向、すなわち、内側斜め下方に向かって傾斜した状態となる。したがって、右側の把持回転軸106a(R)と左側の把持回転軸106a(L)とが、同軸にならない。よって、対象物142を把持する把持部材106の一方が把持回転軸106aを中心に回転しようとしても、他方の把持部材106の把持回転軸106aが同軸ではないため、一方の把持部材106の回転の妨げになり、回転しない。よって、対象物142が回転しない状態で搬送することが可能である。
【0038】
従来技術では、対象物の回転/非回転を切り替えることができず、回転させたくない対象物も回転していたり、回転させたい対象物を回転させることができなかったりしていた。これに対して、実施例1では、アーム部材104の位置を切り替えることで、対象物141,142を把持する面を回転把持面107と固定把持面108とで切り替えることが可能であり、対象物141,142の回転/非回転を切り替えることができる。また、対象物141,142の回転/非回転を行う際に、把持部材の回転を行うモータや回転を停止させるブレーキ等を設ける必要がなく、部品点数の増加や構成の複雑化、重量化が避けられる。よって、実施例1の搬送機1は、従来の構成に比べて、構成の複雑化を抑えつつ、対象物141,142の姿勢の変更(回転)と非変更(非回転)とを選択可能にすることができる。
【0039】
また、実施例1の搬送機1では、アーム部材104を第3の位置に移動させることで、把持部材106を反転させることができる。そして、反転した爪状の形態の把持部材106を弁当143の下側に差し込んで、弁当143を掬い上げるような状態で保持することが可能である。おにぎりやサンドイッチに比べて、弁当143の場合、容器が扁平の場合があり、回転把持面107や固定把持面108で水平方向の両側から把持しようとすると、把持面107,108と弁当容器との接触面積が狭くなって、把持が不安定になる恐れがある。
これに対して、実施例1では、把持部材106を反転させて反転把持面109で弁当143を下側から把持(保持、支持)することが可能である。したがって、側面を左右から把持する場合に比べて、弁当143を安定した状態で把持することが可能である。
【0040】
図11は対象物を把持中に把持する部位を変更する場合の説明図であり、図11Aは回転把持面で保持した状態の説明図、図11Bは回転把持面と固定把持面との間で移行する途中の状態の説明図、図11Cは固定把持面で保持した状態の説明図である。
図11において、実施例1において、アーム部材104の位置とスライダ部材103の位置を連動して移動させることで、回転把持面107で保持した状態と固定把持面108で保持した状態との間を、対象物141,142を把持した状態でも、切り替えることも可能である。
【0041】
例えば、対象物141,142を収納ケース10から取り出す場合に、回転把持面107で把持すると、対象物141,142を持ち上げている途中で回転を始めるため、収納ケース10に他の対象物が収容されている場合に、他の対象物を倒してしまう恐れがある。したがって、対象物141,142を収納ケース10から取り出す場合には、固定把持面108で対象物141,142を把持し、目標の設置位置に移動中、または、移動後に把持部材106が対象物を離す前に回転把持面107に切り替えることで、対象物141,142の姿勢を変更することも可能である。
他にも、対象物141,142を回転把持面107で把持して、対象物141,142の姿勢が回転中にカメラ121等で対象物141,142の姿勢を観測(モニタリング)し、対象物141,142の姿勢が目標の姿勢になるのに合わせて固定把持面108に切り替えることも可能である。このようにすることで、対象物141,142が回転しすぎる(姿勢が変化しすぎる)ことを抑制して、目標の姿勢で保持することも可能である。
【0042】
したがって、対象物141,142を把持した状態で、把持面107,108を切り替えることで、対象物141,142が回転または停止する時期を任意に制御することが可能であるし、対象物141,142が回転する時間、すなわち、対象物141,142の姿勢が変化する量を制御することも可能である。
【0043】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)~(H07)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、スライダ部材103やアーム部材104の駆動源の一例としてモータを使用する構成を例示したが、これに限定されない。例えば、油圧や空気圧、ソレノイド等、採用可能な任意の駆動源に変更可能である。
【0044】
(H02)前記実施例において、ロボットハンド100は移動台車2で移動可能な構成を例示したがこれに限定されない。用途や使用環境に応じて、壁や床等に敷設されたレールを移動する台車に設置したり、ロボットハンド100や把持昇降部50、把持移動部60等が、壁に直接設置された構成とすることも可能である。
(H03)前記実施例において、反転把持面109を有する構成とすることが望ましいが、これに限定されない。おにぎりやサンドイッチ等の側面の接触面積が十分に確保可能なものが対象である場合には、反転把持面109を有しない構成とすることも可能である。
【0045】
(H04)前記実施例において、回転把持面107や固定把持面108、反転把持面109が隣接して配置される形態を例示したが、これに限定されない。例えば、回転把持面107と固定把持面108が隙間をあけて離れて配置された形態とすることも可能である。
(H05)前記実施例において、一対のスライダ部材103が両方移動可能な構成を例示したがこれに限定されない。一方のスライダ部材が固定で、他方のスライダ部材が移動可能な構成、すなわち、他方のスライダ部材の移動で、把持部材が相対的に接近、離間可能な構成とすることも可能である。
【0046】
(H06)前記実施例において、回転把持面107と固定把持面108と反転把持面109が面状の把持部の場合を例示したが、これに限定されない。対象物の形状に応じて、任意に変更可能である。例えば、対象部の外形や破損しやすさ等に応じて、線接触や点接触の状態で把持したほうが良い場合は、把持部における接触部分の形状を線状や点状、帯状等、任意の形状とすることも可能である。他にも、把持面107~109が平面状の構成に限定されず、凸湾曲または凹湾曲状の構成とすることも可能である。
(H07)前記実施例において、回転把持面107と固定把持面108との間で把持する面を移行させる構成を例示したが、これに限定されない。例えば、1つの面において、面接触していた状態から、把持部材106を傾斜させて、その面の角で接触するように移行する構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…搬送機、
10…収納部、
100…ロボットハンド、
103…スライダ部材、
104…アーム部材、
106…把持部材、
106a…回転軸、
107…第1の把持部、
108…第2の把持部、
109…第3の把持部、
111…重心位置、
130…制御手段、
141~143…対象物。
図1
図2
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図11