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特許7408142回転切削工具の加工によるワークの面粗度予測方法及び面粗度予測装置
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  • 特許-回転切削工具の加工によるワークの面粗度予測方法及び面粗度予測装置 図1
  • 特許-回転切削工具の加工によるワークの面粗度予測方法及び面粗度予測装置 図2
  • 特許-回転切削工具の加工によるワークの面粗度予測方法及び面粗度予測装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】回転切削工具の加工によるワークの面粗度予測方法及び面粗度予測装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/24 20060101AFI20231225BHJP
   B24B 49/12 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
B23Q17/24 Z
B24B49/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020030697
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021133454
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000150604
【氏名又は名称】株式会社ナガセインテグレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 幸泰
(72)【発明者】
【氏名】板津 武志
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-196740(JP,A)
【文献】特開平11-010535(JP,A)
【文献】特開平11-108617(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0138063(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q17/00-17/24
B24B41/00-51/00
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転切削工具の切削面をその回転切削工具の回転中に撮影し、その画像データを切削面の周方向の長さとワークの送り量との関係に従ってワーク送り方向に圧縮して、圧縮された画像データをもとにワークの被加工面の面粗度を予測することを特徴とする回転切削工具の加工によるワークの面粗度予測方法。
【請求項2】
回転切削工具の切削面をその回転切削工具の回転中に撮影する撮影手段と、
撮影された画像データを記憶する記憶手段と、記憶された画像データを画像データの切削面周方向の長さとワークの送り量との関係に従ってワーク送り方向に圧縮する圧縮手段と、
圧縮された画像データをもとにワークの被加工面の面粗度を予測する予測手段と
を備えた回転切削工具の加工によるワークの面粗度予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転砥石などの回転切削工具の切削面によって加工されるワークの被加工面の加工後における面粗度を予測するための面粗度予測方法及び面粗度予測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,特許文献2及び特許文献3には、回転砥石の砥面の状態を確認するために、その砥面を撮影するようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-42158号公報
【文献】特開2004-45078号公報
【文献】特開2013-2810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、回転砥石の砥面においては、ワークの加工にともない、砥粒の摩耗や脱落、あるいは異物(切り屑など)の付着・蓄積などの変化が同砥面に現れる。このような変化が現れると、ワークの被加工面の加工後の面粗度が低下する結果を招く。このために、砥面を撮影して、砥面の状況を検査する方法が考えられるが、前記特許文献1,特許文献2及び特許文献3においては、被加工面の加工後の面粗度を予測することは困難である。
【0005】
本発明の目的は、ワークの被加工面の加工後における面粗度をワーク加工に先立って予測できるようにした面粗度予測方法及び切れ味予測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の面粗度予測方法においては、回転切削工具の切削面の全周をその回転切削工具の回転中に撮影し、その画像データを画像データの切削面周方向の長さとワークの送り量との関係に従ってワーク送り方向に圧縮して、ワークの被加工面の面粗度を予測することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の面粗度予測装置においては、回転切削工具の切削面の全周をその回転切削工具の回転中に撮影する撮影手段と、撮影された画像データを記憶する記憶手段と、記憶された画像データを画像データの切削面周方向の長さとワークの送り量との関係に従ってワーク送り方向に圧縮する圧縮手段と、圧縮された画像データをもとにワークの被加工面の面粗度を予測する予測手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
従って、本発明においては、回転切削工具の切削面の例えば全周がその回転切削工具の回転中に撮影される。そして、撮影された画像データが切削面周方向の長さがワークの送り量との関係に従ってワーク送り方向に圧縮され、その圧縮された画像データをもとに、ワークの被加工面の面粗度が予測される。従って、ワークの加工前に、ワークの面粗度が予測されるため、ワーク加工前のテスト加工や、テスト加工後の計測、あるいは、実際のワークに対する加工後の計測が不要になって、加工作業を効率よく実行できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ワーク加工に先立ってワークの被加工面の面粗度を予測できるため、ワーク加工前のテスト加工などが不要になって、加工作業を効率よく実行できるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】回転砥石による切削加工部を示す正面図。
図2】撮影装置を示す断面図。
図3】回転砥石の砥面の割付けピッチを示す簡略図。
図4】検査装置の電気的構成を示すブロック図。
図5】加工済みワークの面粗度計測の動作を示すフローチャート。
図6】回転砥石の加工によるワークの面粗度予測の動作を示すフローチャート。
図7】画像データとワークの送り量との関係を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は回転切削工具が回転砥石である切削盤において具体化される。
【0012】
図1に示すように、実施形態の切削盤は、ベッド11上において矢印Pで示すX軸方向(左右方向)に移動可能に支持されたテーブル12を備えている。テーブル12のX軸方向への移動は、テーブル移動モータ(図示しない)により駆動される。テーブル12の上面にワーク100が設置される。従って、ワーク100はX軸方向である矢印P方向に加工送りされる。
【0013】
ベッド11上において前後方向(Z軸方向)に移動されるコラム(図示しない)には砥石軸13が昇降(Y軸方向)可能に支持されている。この砥石軸13は、砥石送りモータ(図示しない)によって昇降駆動される。砥石軸13には回転切削工具としての回転砥石14が支持されており、この回転砥石14は、図4に示す砥石回転モータ15によって一方向に回転駆動される。回転砥石14の回転速度は、例えば、1分間に1800回転や、3600回転であるが、この回転速度は任意に設定される。
【0014】
そして、回転砥石14の外周面が切削面としての砥面14aになっている。回転砥石14が回転されると、砥面14aによってワーク100の上面が切削される。この切削される面を被加工面とする。
【0015】
図1及び図2に示すように、前記回転砥石14の側方位置には撮影手段としての撮影装置21が装設されている。撮影装置21は回転砥石14と一体に昇降(Y軸方向の移動)及び前後動(Z軸方向の移動)される。この撮影装置21は、光の経路22を有しており、その経路22は、第1経路22aと、その第1経路22aと交差する第2経路22bとを有している。第2経路22bの端部にはCCD(固体撮像素子)を有するカメラ23が設けられている。
【0016】
回転砥石14の側方位置にはワーク100の切削された面である被加工面の面粗度を計測して、その計測データを出力する計測手段としての計測装置50が配置されている。この計測装置50は、回転砥石14とともにZ軸方向及びY軸方向に移動される。
【0017】
前記第1経路22aと第2経路22bとの間には、プリズムなどの光反射機能と光透過機能とを有する反射透光部材24が配置されている。第1経路22aの端部には第1ランプ25が設けられている。この第1ランプ25は、特定領域の波長の光を照射するようになっており、本実施形態では、第1ランプ25は砥面14aの砥粒14bを目立出せる波長の光を照射する。
【0018】
第2経路22b上において、反射透光部材24と砥面14aとの間の位置には照明ドーム26が配置されている。照明ドーム26には第2経路22bのための開口27が形成されている。照明ドーム26の内面には照明ドーム26の前方を面照明するための複数の第2ランプ28が設けられている。この第2ランプ28は、特定領域の波長の光を照射するようになっており、本実施形態では、砥面14aを目立たせる波長の光を照射する。
【0019】
そして、第1ランプ25からのビーム状の光が反射透光部材24で反射されて、開口27を通過して砥面14aに照射される。その照射された光による反射画像が反射透光部材24を透過して、前記カメラ23に到達することにより、砥面14aの砥粒14bの画像が取得される。また、複数の第2ランプ28からの光が回転砥石14の砥面14aの広い面積範囲に照射される。この光による反射画像も反射透光部材24を透過して、前記カメラ23に到達することにより、砥面14aの画像が取得される。
【0020】
前記撮影画像のデータは、後述の制御装置31の記憶部33に記憶される。
図2は本実施形態の電気的構成を示すものである。制御装置31は予測手段としての中央処理装置32と記憶手段としての記憶部33とを備えている。そして、本実施形態の切削盤は記憶部33に記憶されたプログラムが中央処理装置32の制御のもとに実行されて動作される。制御装置31には、前記モータ15及びカメラ23が接続されている。また、制御装置31にはエンコーダ34が接続されている。エンコーダ34は、回転砥石14の回転時に、図3に示すように、回転砥石14の所定の等ピッチ(割付けピッチδ)の回転角度ごとに割付けパルスを発生する。そして、そのパルスに対応して、カメラ23が所定間隔でシャッタを開放して、撮影を実行する。割付けパルスは、回転砥石14の1回転につき、例えば1000であるが、この割付けパルスの数は限定されるものではなく、使用されるエンコーダに応じて任意に設定できる。
【0021】
液晶ディスプレイなどよりなる表示装置51は、制御装置31による制御結果を画像表示する。
次に、本実施形態の作用を図5及び図6のフローチャートを中心に説明する。このフローチャートは、制御装置31の記憶部33に記憶されたプログラムが中央処理装置32の制御のもとに進行するものである。
【0022】
図5のステップS(以下、単にSという)1及びS2において、ワーク100の加工が終了すると、S3において計測装置50によりワーク100の被加工面の面粗度が計測され、S4において、計測された面粗度データが記憶される。次いで、S5において、ワーク100の硬度、回転砥石14の番手などの加工条件を示す加工データが記憶される。つまり、ここで、ワーク100の被加工面の面粗度と研削盤による加工条件との相関関係が記録される。
【0023】
なお、図5及び後述の図6に示す作業は、例えば、複数のワーク100が加工される事前において、サンプル的に行われるものであって、各ワーク100の加工前に毎回行われるものではない。
【0024】
次いで、図6のS11において、回転砥石14がドレッサ16の位置に移動される。そして、そのドレッサ16により、回転砥石14の砥面14aのドレッシングがあらかじめ設定された所定時間実行される。所定時間終了後、S12におけるドレッシングの終了判断を経て、S13において、回転砥石14がドレッサ16の位置から離れるとともに、回転砥石14が一方向に回転される。
【0025】
S14においては、エンコーダ34から出力される割付けパルスの出力タイミングに従い、カメラ23によって砥面14aの撮影が実行されて、記憶部33に記憶される。割付けパルスは、前記のように、回転砥石14が1回転するごとに、例えば1000回出力されるようになっており、この1回転ごとの割付けパルスの総数をnとする。
【0026】
S15においては、回転砥石14がn+1の位置まで回転したか否かが判別され、つまり、回転砥石14が1回転プラス1/n分回転したか否かが判別され、n+1の位置まで回転されると、S16において撮影が実行されて、その画像データが記憶部33に記憶される。S17においては、n回の撮影が終了したか否かが判別される。撮影回数がn回に達するまでは、つまり回転砥石14がn回回転するまでは、エンコーダ34によって割付けられた砥面14aの位置が順次撮影される。従って、図7に示すn枚の画像データDが取得される。
【0027】
そして、n回の撮影が終了するのにともない、言い換えれば、回転砥石14の砥面14aの全体の撮影が終了されるのにともない、S17の判断を経て、S18において、回転砥石14の1回転当たりの送り量βが取得される。次いで、S19において、n枚数分の画像データDが回転砥石14の回転方向に沿って、言い換えればワーク100の送り方向に沿って連続するように連結される。
【0028】
次いで、S20において、図7に示すように、回転砥石14の1回転当たりのワーク100の送り量βに従って、n枚の画像データDが圧縮される。すなわち、n枚の画像データDは、回転砥石14の砥面14aの1周分の長さαの画像を表すものである。
【0029】
ここで、ワーク100は回転砥石14の1回転に対して送り量βで送られる。砥面14aの全周長さαと、回転砥石14の1回転当たりのワーク100の送り量βとの関係は、
α>β
であるため、砥面14aの全周の砥粒14bの密度などの条件で表される砥面14aの形状は、ワーク100の送り量βの長さに圧縮されて、ワーク100の送り量β分の長さの被加工面γに転写される。従って、S20においては、回転砥石14の1周分の長さの画像データが回転砥石14の周方向及びワーク100の送り方向に沿ってβ/αの長さに圧縮される。
【0030】
S21においては、圧縮された画像データと、図5のS5において取得された加工データが取得される。そして、この加工データと圧縮された画像データとから、ワーク100の被加工面の面粗度が予測される。例えば、回転砥石14の番手の種類や、ワーク100の硬度などは被加工面の面粗度のレベルに直接関連する。従って、これらの関係によって、被加工面の面粗度が正確に予測される。
【0031】
S21においては、予測された面粗度が表示装置51に表示される。
従って、本実施形態においては、以下の効果がある。
(1)ワーク100に対する加工開始前にワーク100の被加工面の加工後の面粗度の予測できる。このため、ワーク100の加工前にワーク100をテスト加工したり、テスト加工後に面粗度を計測したり、あるいは被加工面を切削するごとに面粗度を計測したりするようなことは不要になる。従って、ワーク100の加工作業を効率よく行うことができる。
【0032】
(2)回転砥石14を1回転させるのみで、ワーク100の被加工面の加工後の面粗度の予測できるため、予測作業を短時間で効率よく実行できる。
(変更例)
前記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。そして、各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0033】
・回転切削工具を回転砥石14以外の他の工具、例えば、フライスやホブとすること。フライスやホブにおいては、刃先が切削面になる。
・側面を砥面とした回転砥石の砥面を撮影して、ワークの被加工面の面粗度を予測すること。
【0034】
・前記実施形態においては、砥面14aの撮影において、回転砥石14を回転させて、n+1ずつずらせて撮影したが、n-1ずつずらせて撮影すること。
・砥面14aの撮影において、回転砥石14の1回転ごとに12割付けピッチ分以上ずつずらせて撮影すること。
【0035】
・回転砥石14の回転速度が低速の場合は、カメラ23による撮影において、回転砥石14の回転にともない、各割付け位置の砥面14aの撮影を順次実行すること。従って、回転砥石14を1回転させることにより、砥面14a全体を撮影できる。
【0036】
・回転砥石14の砥面14aの一部を撮影して、その撮影データに基づいて、面粗度を予測すること。
・前記実施形態では、砥面14aの1周分の画像データを回転砥石14の1回転当たりのワーク100の送り量βとなるように圧縮したが、画像の圧縮比を他の比率、例えば、砥面14aの1周分の画像データDを単純に1000分の1などの整数倍にすること。
【0037】
・砥面14aの画像を、例えば1周分連続的に撮影して、その画像データをもとに面粗度を予測すること。
(他の技術的思想)
前記実施形態から把握される技術的思想は以下の通りである。
【0038】
(A)回転切削工具は回転砥石であり、切削面はその回転砥石の外周の砥面である請求項1に記載の回転切削工具の加工によるワークの面粗度予測方法。
(B)回転砥石の砥面を複数に割付けし、その割付位置ごとに砥面を撮影して、その画像データを砥面の周方向に沿って連続させる前記技術的思想(A)項に記載の回転切削工具の加工によるワークの面粗度予測方法。
【0039】
(C)ワークに対する加工前であって、砥面のドレッシング後に砥面を撮影する前記技術的思想(A)項に記載の回転切削工具の加工によるワークの面粗度予測方法。
(D)撮影は、回転砥石の砥面の全周に対して行う請求項1に記載の回転切削工具の加工によるワークの面粗度予測方法。
【符号の説明】
【0040】
14…回転砥石
14a…砥面
14b…砥粒
21…撮影装置
23…カメラ
31…制御装置
34…エンコーダ
100…ワーク
D…画像データ
α…長さ
β…送り量
γ…被加工面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7