(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】姿勢安定用の補助装置
(51)【国際特許分類】
A61H 1/02 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
A61H1/02 K
(21)【出願番号】P 2020040301
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島 圭介
(72)【発明者】
【氏名】上條 冬矢
(72)【発明者】
【氏名】坂田 茉実
【審査官】関本 達基
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-168590(JP,A)
【文献】特開平11-004910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の姿勢を安定させるために疑似的なライトタッチコンタクトを再現する姿勢安定用の補助装置であって、
前記利用者の体の一部に装着可能な筐体と、
前記筐体が装着された部位に非周期的に変化する刺激を与える刺激付与部と
を備え
、
前記刺激付与部は、乱数に基づいて前記刺激を変化させる
姿勢安定用の補助装置。
【請求項2】
前記刺激付与部は、前記筐体の振動により前記刺激を与える
請求項1に記載の姿勢安定用の補助装置。
【請求項3】
前記刺激付与部は、前記振動の振幅を非周期的に変化させる
請求項2に記載の姿勢安定用の補助装置。
【請求項4】
判定周期ごとに、前記乱数に基づいて前記刺激を変化させるか否かを判定する変化判定部を備え、
前記刺激付与部は、前記刺激を変化させると判定された場合に、前記刺激を変化させる 請求項1に記載の姿勢安定用の補助装置。
【請求項5】
前記変化判定部によって前記刺激を変化させると判定される確率は、前記変化判定部によって前記刺激を変化させないと判定される確率より低い
請求項4に記載の姿勢安定用の補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者の姿勢を安定させるために用いられる姿勢安定用の補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病などに代表される運動機能障害は姿勢動揺を増加させ、転倒事故を引き起こす原因となっている。転倒事故の大きな原因には立位バランス能力の低下が影響していることを鑑みれば、人間の姿勢制御機能の補助が必要である。
これに対し、体性感覚系の姿勢制御能力において固定点へ指先で軽く触れることが直立姿勢時の動揺を顕著に減少させることが知られている。この現象はライトタッチコンタクト(LTC:Light Touch Contact)と呼ばれる。また、特許文献1には、人の周りに仮想的な壁を構成し、壁に触れた反力を振動刺激として指先に与えることで、LTCを仮想的に再現する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の発明によれば、仮想壁に触れるための随意的な指先の運動により、LTCを仮想的に再現する。一方で、LTCの効果は、指先を固定点に接触し続けた状態でも得ることができる。
本発明の目的は、随意的な運動を必ずしも必要とせずにLTCの効果を得ることができる姿勢安定用の補助装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、姿勢安定用の補助装置は、利用者の姿勢を安定させるために疑似的なライトタッチコンタクトを再現する姿勢安定用の補助装置であって、前記利用者の体の一部に装着可能な筐体と、前記筐体が装着された部位に非周期的に変化する刺激を与える刺激付与部とを備える。
【0006】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様に係る姿勢安定用の補助装置において、前記刺激付与部は、前記筐体の振動により前記刺激を与えるものであってよい。
【0007】
本発明の第3の態様によれば、第2の態様に係る姿勢安定用の補助装置において、前記刺激付与部は、前記振動の振幅を非周期的に変化させるものであってよい。
【0008】
本発明の第4の態様によれば、第1から第3の何れかの態様に係る姿勢安定用の補助装置において、前記刺激付与部は、乱数に基づいて前記刺激を変化させるものであってよい。
【0009】
本発明の第5の態様によれば、第4の態様に係る姿勢安定用の補助装置が、判定周期ごとに、前記乱数に基づいて前記刺激を変化させるか否かを判定する変化判定部を備え、前記刺激付与部は、前記刺激を変化させると判定された場合に、前記刺激を変化させるものであってよい。
【0010】
本発明の第6の態様によれば、第5の態様に係る姿勢安定用の補助装置において、前記変化判定部によって前記刺激を変化させると判定される確率は、前記変化判定部によって前記刺激を変化させないと判定される確率より低いものであってよい。
【0011】
本発明の第7の態様によれば、第1から第3の何れかの態様に係る姿勢安定用の補助装置において、前記刺激付与部は、前記筐体の加速度に応じて前記刺激を変化させるものであってよい。
【0012】
本発明の第8の態様によれば、第1から第3の何れかの態様に係る姿勢安定用の補助装置において、前記刺激付与部は、前記筐体の加速度のノルムに応じて前記刺激を変化させるものであってよい。
【発明の効果】
【0013】
上記態様のうち少なくとも1つの態様によれば、利用者の体の一部に非周期的に変化する刺激を与えることで、利用者の随意的な運動を必ずしも必要とせずに利用者にLTCの効果を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態に係る補助装置の構成を示す概略図である。
【
図2】第1の実施形態に係る制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図3】第1の実施形態に係る制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】第2の実施形態に係る補助装置の構成を示す概略図である。
【
図5】第2の実施形態に係る制御装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図6】第2の実施形態に係る制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図7】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【
図8】本発明の実施例に係る実験時の被験者の様子を示す写真である。
【
図9】実験におけるVLTCタスクにおける第1筐体の加速度と振幅の関係を示す図である。
【
図10】実験におけるRSタスクにおける第1筐体の加速度と振幅の関係を示す図である。
【
図11】実験におけるNSタスクにおける第1筐体の加速度と振幅の関係を示す図である。
【
図12】実験におけるCSタスクにおける第1筐体の加速度と振幅の関係を示す図である。
【
図13】各タスクの足圧中心(COP)測定結果の一例を示す図である。
【
図14】各評価指標の全被験者平均値をに示す図である。
【
図15】全被験者のうち最もLTCで姿勢動揺低減効果が得られた被験者の各評価指標の平均値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〈第1の実施形態〉
《補助装置100の構成》
以下、図面を参照しながら実施形態について詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係る補助装置100の構成を示す概略図である。
補助装置100は、利用者の指先に刺激を与えて仮想的にLTCを再現することで、利用者の姿勢の安定を補助するための装置である。
【0016】
補助装置100は、利用者の指先に装着可能な第1筐体110と、当該第1筐体110に設けられた振動子120と、振動子120に与える刺激を制御する制御装置130と、振動子120および制御装置130に電力を供給するバッテリ140と、制御装置130およびバッテリ140を収容する第2筐体150とを備える。
第1の実施形態における振動子120は、刺激付与部の一例であり、振動子120が振動することにより利用者の指先に対して刺激を与える。第2筐体150は、手首等に巻きつけられ、ケーブルによって振動子120と接続される。制御装置130の信号およびバッテリ140の電力は、ケーブルを介して振動子120に供給される。
【0017】
《制御装置130のソフトウェア構成》
図2は、第1の実施形態に係る制御装置130の構成を示す概略ブロック図である。
制御装置130は、乱数発生部131、振動記憶部132、変化判定部133、信号生成部134、信号出力部135を備える。
【0018】
乱数発生部131は、乱数を発生させる。乱数は、自然乱数であっても疑似乱数であってもよい。
振動記憶部132は、振動子120の現在の振動の振幅を記憶する。第1の実施形態において、振動子120の振動の振幅は、弱、中、強の三段階とする。各振幅の大きさは、振幅が切り替わったときに、ヒトがその変化を知覚し得る程度に異なる大きさに設定される。なお、第1の実施形態に係る弱の振幅は、ゼロより大きいものとする。
変化判定部133は、乱数発生部131が発生させた乱数に基づいて、振動子120の振動の振幅を変化させるか否かを判定する。また、変化判定部133は、振幅を変化させる場合に、乱数に基づいて当該振幅を決定する。
信号生成部134は、変化判定部133の判定結果に基づいて振動子120を所定の振幅で振動させるための信号を生成する。
信号出力部135は、信号生成部134が生成した信号を振動子120に出力する。
【0019】
《制御装置130の動作》
図3は、第1の実施形態に係る制御装置130の動作を示すフローチャートである。
制御装置130は、所定の制御周期(例えば、3-10ミリ秒)ごとに、
図3に示す処理を実行する。
まず、乱数発生部131は、0以上99以下の整数の乱数を発生させる(ステップS1)。変化判定部133は、振動記憶部132が記憶する振幅を参照し、現在の振幅を特定する(ステップS2)。
【0020】
現在の振幅が弱である場合(ステップS2:弱)、変化判定部133は、ステップS1で発生させた乱数に基づいて振幅を変化させるか否かを判定する。具体的には、変化判定部133は、乱数が0以上9以下である場合に振幅を中に変化させると判定し、乱数が10以上19以下である場合に振幅を強に変化させると判定し、乱数が20以上99以下である場合に振幅を変化させないと判定する(ステップS3)。
現在の振幅が中である場合(ステップS2:中)、変化判定部133は、ステップS1で発生させた乱数に基づいて振幅を変化させるか否かを判定する。具体的には、変化判定部133は、乱数が0以上9以下である場合に振幅を弱に変化させると判定し、乱数が10以上19以下である場合に振幅を強に変化させると判定し、乱数が20以上99以下である場合に振幅を変化させないと判定する(ステップS4)。
現在の振幅が強である場合(ステップS2:強)、変化判定部133は、ステップS1で発生させた乱数に基づいて振幅を変化させるか否かを判定する。具体的には、変化判定部133は、乱数が0以上9以下である場合に振幅を弱に変化させると判定し、乱数が10以上19以下である場合に振幅を中に変化させると判定し、乱数が20以上99以下である場合に振幅を変化させないと判定する(ステップS5)。
つまり、変化判定部133は、90%の確率で振幅を変化させず、10%の確率で振幅を変化させる。
【0021】
信号生成部134は、ステップS3-5の判定結果に従った振幅に係る信号を生成する(ステップS6)。また、信号生成部134は、ステップS3-5の判定結果に従った振幅の値を振動記憶部132に記憶させる(ステップS7)。信号出力部135は、ステップS6で生成した信号を、振動子120に出力する(ステップS8)。
【0022】
上記処理を繰り返し実行することで、負の二項分布に従った確率で非周期的に振動の振幅を変化させることができる。
つまり、制御装置130は、式(1)に従って振幅Am(t)を決定する。
【0023】
【0024】
ただし、Nは、振幅の段階数(第1の実施形態では1-3)であり、nは1以上N以下の整数であり、rは確率変数であり、Amaxは最大振幅であり、Anは確率変数rによって決まる振幅でありA0=0である。
【0025】
このように、第1の実施形態によれば、補助装置100は、第1筐体110が装着された部位に非周期的に変化する刺激を与えることができる。
【0026】
〈第2の実施形態〉
《補助装置100の構成》
図4は、第2の実施形態に係る補助装置100の構成を示す概略図である。
第2の実施形態に係る補助装置100は、第1の実施形態の構成に加え、さらに加速度センサ160を備える。加速度センサ160は、第1筐体110の互いに直交する三軸に係る加速度を計測する。加速度センサ160は、第1筐体110に設けられる。加速度センサ160は、第2筐体150とケーブルによって接続される。加速度センサ160は、ケーブルを介してバッテリ140から電力の供給を受け、当該ケーブルを介して制御装置130に計測信号を出力する。
【0027】
《制御装置130のソフトウェア構成》
図5は、第2の実施形態に係る制御装置130の構成を示す概略ブロック図である。
第2の実施形態に係る制御装置130は、信号取得部231、ノルム算出部232、振幅決定部233、信号生成部234、信号出力部235を備える。
【0028】
信号取得部231は、加速度センサ160の計測信号を取得し、三軸それぞれの加速度を特定する。
ノルム算出部232は、信号取得部231が特定した三軸それぞれの加速度に基づいて加速度ノルムを算出する。
振幅決定部233は、ノルム算出部232が算出した加速度ノルムに基づいて、振動子120の振幅を決定する。
信号生成部234は、振幅決定部233が決定した振幅で振動子120を振動させるための信号を生成する。
信号出力部235は、信号生成部234が生成した信号を振動子120に出力する。
【0029】
《制御装置130の動作》
図6は、第2の実施形態に係る制御装置130の動作を示すフローチャートである。
制御装置130は、所定の制御周期(例えば、3-10ミリ秒)ごとに、
図6に示す処理を実行する。
まず、信号取得部231は、加速度センサ160から計測信号を取得し、三軸それぞれの加速度を特定する(ステップS21)。ノルム算出部232は、特定された加速度に基づいて、以下の式(2)により加速度ノルムN
aを算出する(ステップS22)。
【0030】
【0031】
ここで、ax、ay、azは、それぞれ加速度センサ160によるX軸、Y軸、Z軸に係る加速度の計測値である。
【0032】
次に、振幅決定部233は、ステップS22で算出したノルムを用いて、以下の式(3)により振幅Am″(t)を決定する(ステップS23)。
【0033】
【0034】
ここで、kおよびN0は定数である。N0は、例えば加速度センサ160のキャリブレーションによって決定される加速度ノルムの初期値であってよい。すなわち、振幅決定部233は、振動の振幅を、第1筐体110の加速度ノルムNaと定数N0との和の絶対値に応じた値に決定する。
【0035】
信号生成部234は、ステップS23で決定された振幅に係る信号を生成する(ステップS24)。また、信号出力部235は、ステップS24で生成した信号を、振動子120に出力する(ステップS25)。
【0036】
このように、第1の実施形態によれば、補助装置100は、第1筐体110が装着された部位に身体の揺らぎによる非周期的に変化する刺激を与えることができる。
【0037】
以上、図面を参照して一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、様々な設計変更等をすることが可能である。すなわち、他の実施形態においては、上述の処理の順序が適宜変更されてもよい。また、一部の処理が並列に実行されてもよい。
例えば、上述した実施形態では、刺激付与部の例として振動子120を用いる場合について説明したが、これに限られない。例えば、電気刺激を与える導子、ジャイロ機構、触覚ディスプレイなどその他の刺激を与える構成を用いても良い。
【0038】
また、上述した実施形態では、第1筐体110を利用者の指先に装着する場合について説明したが、これに限られず、第1筐体110は他の部位に装着される物であっても良い。
【0039】
また、第2の実施形態では、振幅決定部233が第1筐体110の加速度に基づいて振動子120の振動の振幅を決定する場合について説明したが、これに限られない。例えば、振幅決定部233は、第1筐体110の変位や速度に基づいて振幅を決定してもよい。
【0040】
また、第2の実施形態では、制御装置130は、常に
図5の手順により振動子120の振動の振幅を決定するが、これに限られない。例えば、他の実施形態においては、制御装置130は、第1筐体110の加速度または加速度の変化量が所定の閾値未満である場合(随意的な運動でないと判断される場合)に、上述の
図5の手順により振動の振幅を決定し、第1筐体110の加速度または加速度の変化量が所定の閾値以上である場合(随意的な運動であると判断される場合)に、特許文献1に記載の手法などによって振動の振幅を決定してもよい。例えば、振幅決定部233は、第1筐体110の加速度または加速度の変化量が所定の閾値以上である場合において、基準部位である体幹から第1筐体110までの距離が閾値以上である場合に、振幅を正の値に決定し、距離が閾値未満である場合に振幅をゼロに決定してもよい。
【0041】
なお、第2の実施形態に係る定数N0を加速度ノルムの初期値以外の値としてもよい。この場合、式(3)によって振幅を決定することで、利用者の指先がほぼ静止している場合にも、振動を与え続けることができる。なお、利用者の指先の加速度ノルムが定数N0と一致する場合には振動が停止するが、定数N0が加速度ノルムの初期値でない場合、加速度ノルムが定数N0と一致する状態が長時間継続する可能性は限りなく低いため、第2の実施形態によれば、振動子120はほぼ絶えず振動し続ける。
【0042】
〈コンピュータ構成〉
図7は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
コンピュータ300は、プロセッサ301、メインメモリ302、ストレージ303、インタフェース304を備える。
上述の制御装置130は、コンピュータ300に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ303に記憶されている。プロセッサ301は、プログラムをストレージ303から読み出してメインメモリ302に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ301は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ302に確保する。プロセッサ301の例としては、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサなどが挙げられる。
【0043】
なお、他の実施形態においては、コンピュータ300は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサ301によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。
【0044】
ストレージ303の例としては、半導体メモリ、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク等が挙げられる。ストレージ303は、インタフェース304または通信回線を介してコンピュータ300に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ300に配信される場合、配信を受けたコンピュータ300が当該プログラムをメインメモリ302に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ303は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【実施例】
【0045】
ここで、第1の実施形態および第2の実施形態に係る補助装置100の実施例について説明する。
補助装置100の有効性を確認するため、健常若年者6名(平均年齢22.0±1.5歳)および健常高齢者1名(年齢:63歳)に対して第1実施形態および第2実施形態による補助装置100を用いた姿勢保持効果の検証を行った。
【0046】
図8は、本発明の実施例に係る実験時の被験者の様子を示す写真である。
実験では、フォースプレート(TF-3040、テック技研社製、サンプリング周波数:5kHz)2台を使用した。被験者には利き手の第2指の指腹付近に振動子120が位置するように第1筐体110を取り付け、隙間なく並べた2台のフォースプレート上に目を閉じた状態でタンデム(片足のかかとにもう片足の第1指をつけた立位)姿勢をとらせ、以下のタスクを実行させた。
(a)自然にタンデム姿勢をとる(NC)
(b)ハンガーラックにテープで張り付けた紙を軽く触り続けるタスク(LTC)
(c)特許文献1に記載の装置を使用するタスク(VLTC)
(d)第1の実施形態に係る補助装置100を使用するタスク(RS:Random Stimulation、式(5)においてN=3)
(e)第2の実施形態に係る補助装置100を使用するタスク(NS:Norm Stimulation)
(f)指先に一定振幅の振動刺激を与え続けるタスク(CS)
【0047】
なお、予備実験により、タンデム姿勢において腕の姿勢の違いや補助装置100の装着が姿勢同様に与える影響が小さいことを確認されたため、NC条件のみ、自然なタンデム姿勢を維持するために腕を下した状態を指示し、補助装置100は指先に振動刺激を与える(c)-(f)条件のみで装着した。
【0048】
計測回数は各10試行とし,各試行30秒で各条件を無作為な順序で実施・計測した。また疲労が実験結果に与える影響を考慮し、各試行の間には被験者に十分な休憩をとらせた。姿勢の安定性評価にはフォースプレートを用いて計測した足圧中心(center of pressure :COP)に対して,総軌跡長LCOP、前額面/矢状面方向の標準偏差σx、σy、標準偏差σCOP、前額面/矢状面方向の振幅xamp、yamp、矩形面積Srext、実効値面積Srms、標準偏差面積Sσの9個の指標を用いた。これらの指標は、出村慎一ら「静止立位姿勢における足圧中心同様の評価変数の検討~試行間信頼性と変数相互の関係の観点から~、Equilibrium Res、60(1)、pp.44-45、2001年」を参考に決定した。
【0049】
図9は、実験におけるVLTCタスクにおける第1筐体110の加速度と振幅の関係を示す図である。
図10は、実験におけるRSタスクにおける第1筐体110の加速度と振幅の関係を示す図である。
図11は、実験におけるNSタスクにおける第1筐体110の加速度と振幅の関係を示す図である。
図12は、実験におけるCSタスクにおける第1筐体110の加速度と振幅の関係を示す図である。
【0050】
図9に示すように、VLTCタスクでは、被験者の指先の3軸加速度(a
x、a
y、a
z)から一定周期での手振り運動が確認でき、加速度ノルムが点線で示される閾値以上になった際に仮想反力が推定され、振動がフィードバックされている。
【0051】
一方、RSタスク、NSタスク、およびCSタスクにおいては、指先の3軸加速度から手振り運動がないことがわかる。
図10に示すように、RSタスクでは指先の加速度ノルムに関係なく振動振幅がランダムに3段階に変動している。
図11に示すように、NSタスクでは身体の揺れに応じて変動した加速度ノルムN
aとキャリブレーション後の加速度ノルムの初期値N
0(図中の点線)との絶対値差分に比例して振動振幅が変動している。
図12に示すように、CSタスクでは指先の加速度ノルムに関係なく一定振幅で振動が与え続けられていることが確認できる。
【0052】
図13は、各タスクの足圧中心(COP)測定結果の一例を示す図である。
図13は各タスクで得られた30秒間のCOP軌跡の一例であり、横軸が前額面座標であり、縦軸が矢状面座標である。
図13より,NC条件においては計測時間中のCOPの動揺面積が大きくなり(
図13(a)),実際の紙に触れるLTC(
図13(b))およびVLTC(
図13(c))条件において姿勢動揺が小さくなっている。また、第1の実施形態(RS)および第2の実施形態(NS)に係る振動刺激(
図13(d)、(e))に関してもNC条件と比較して重心動揺が低減していることが確認され、CS条件(
図13(f))よりもその効果が大きいことが分かる。
【0053】
図14は、各評価指標の全被験者平均値をに示す図である。
図14の縦軸はNC条件の平均値で正規化した値である。結果から総軌跡長L
COP、矢状面方向の標準偏差σ
y、振幅y
ampでは全タスク間で差異は見られなかったが、標準偏差σ
COP、前額面方向の標準偏差σ
x、振幅x
ampおよび3つの面積指標でVLTCタスク、RSタスク、およびNSタスクは、NCタスクと比較して低減が見られた。
【0054】
図15は、全被験者のうち最もLTCで姿勢動揺低減効果が得られた被験者の各評価指標の平均値を示す図である。
図15より、総軌跡長を除くすべての指標で値が減少しているのが見てとれる。Holm法で多重比較検定を行った結果、特に前額面方向の指標(σ
x、x
amp)や面積指標(S
rect、S
rms、S
σ)において,NC-VLTC、NC-RS、NC-NS間で有意水準0.1~5%で有意差が認められた。
【0055】
図16は、高齢被験者の結果を示す図である。
図16より,RSタスクにおいて振幅y
amp、矩形面積S
rectを除くすべての指標値でNCタスクと比較して最も低減がみられた。
【0056】
ここで標準偏差面積Sσに着目すると,NCタスクと比較してVLTCタスクにおいてp=0.00028で有意水準0.1%を満たし、RSタスクにおいてp=0.00203、NSタスクにおいてp=0.00718で有意水準1%で有意差が認められた。一方でLTCタスクではNC条件との有意差は標準偏差面積Sσのみであったことからも、提案法がより効果的に指先への注意力を向上させ、LTC現象の効果を与えることが分かる。
【0057】
また、
図14に示すように、高齢被験者の結果から,NCと比較して第1の実施形態に係るRSタスクで最も指標値が減少していることがわかる。このことから、高齢者に対してはLTC条件における紙からのわずかな反力の揺らぎよりも振動刺激に揺らぎ与えてフィードバックする提案法の方が指先への注意力が向上し姿勢動揺の低減効果が得られる可能性があることが分かる。また、
図13などに示すように、一定の刺激を与え続けるCSタスクでは、重心動揺の低減効果が低いことが分かる。これは、常に一定の刺激が与えられることで被験者が刺激に慣れ、指先への注意力が維持されないことと考察できる。これに対し、第1の実施形態および第2の実施形態に係る補助装置100(RSタスクおよびNSタスク)によれば、非周期的に変化する刺激を与えることで、被験者が刺激に慣れることなく、指先への注意力を維持させることができ、継続的に重心動揺の低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0058】
100 補助装置
110 第1筐体
120 振動子
130 制御装置
140 バッテリ
150 第2筐体
131 乱数発生部
132 振動記憶部
133 変化判定部
134 信号生成部
135 信号出力部
160 加速度センサ
231 信号取得部
232 ノルム算出部
233 振幅決定部
234 信号生成部
235 信号出力部
300 コンピュータ
301 プロセッサ
302 メインメモリ
303 ストレージ
304 インタフェース