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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】積層型静電アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/00 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
H02N1/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020101365
(22)【出願日】2020-06-11
(65)【公開番号】P2021197776
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】310001067
【氏名又は名称】ストローブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100119426
【弁理士】
【氏名又は名称】小見山 泰明
(72)【発明者】
【氏名】實吉 敬二
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】奥田 一雄
(72)【発明者】
【氏名】内 富男
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕一
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-22926(JP,A)
【文献】特開2019-187038(JP,A)
【文献】特開平9-233858(JP,A)
【文献】特開2010-57321(JP,A)
【文献】特開2013-17287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータ部(2a,2b,2c)が複数積層された積層型静電アクチュエータ(1)であって、
前記アクチュエータ部は、
一方の面に複数の第1接続領域(7a,7b,7c)が所定パターンで形成された第1フィルム(3a,3b,3c)と、
前記第1接続領域を介して前記第1フィルムに接続された第2フィルム(3a,3b,3c)であって、当該第1フィルムとは反対側の面に当該第1接続領域の前記パターンと同一パターンの複数の第2接続領域(7a,7b,7c)が形成された第2フィルム(3a,3b,3c)と、
を有して構成され、
前記第1フィルム及び前記第2フィルムはいずれも、積層方向(Z)から見て隣り合う接続領域間に幅が実質的に一定の非接続領域(15)が形成され、
前記アクチュエータ部の前記第1接続領域と当該アクチュエータ部の前記第2接続領域とは、積層方向から見て互いに重ならないように配置され、
重なり合う2つの前記アクチュエータ部(2a,2b;2b,2c)は前記第2接続領域(7b;7c)を介して接続され、
前記接続される2つのアクチュエータ部(2a,2b;2b,2c)間のパターンの軸線は積層方向から見て互いに所定角度(θ、θ=0°を除く)で交差するように当該2つのアクチュエータ部が積層される、積層型静電アクチュエータ(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記アクチュエータ部の各々において、前記第1接続領域の前記パターンの軸線は互いに平行であり、前記第2接続領域の前記パターンの軸線は互いに平行である、積層型静電アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記アクチュエータ部の各々において、前記第2接続領域の前記パターンの軸線は、前記第1接続領域の前記パターンの軸線と平行である、積層型静電アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記第1接続領域及び前記第2接続領域の前記パターンはいずれも、実質的に均一な幅を有する直線状に形成されて等間隔に配置される、積層型静電アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記アクチュエータ部の各々において、積層方向から見て前記第1接続領域は、2つの前記第2接続領域間の非接続領域の中央に位置するように配置される、積層型静電アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記積層される2つのアクチュエータ部が形成する平面を積層方向から見るとき、積層の上側の前記アクチュエータ部(2a;2b)の前記第1接続領域(7a;7b)の前記パターンの軸線と積層の下側の前記アクチュエータ部(2b;2c)の前記第2接続領域(7b;7c)の前記パターンの軸線とは、少なくとも1箇所で交差する、積層型静電アクチュエータ。
【請求項7】
請求項6に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記第1接続領域及び前記第2接続領域の前記パターンはいずれも、実質的に均一な幅(d)を有する直線状に形成されて等間隔に配置され、
積層の上側の前記アクチュエータ部の前記第1接続領域または下側の前記アクチュエータ部の前記第2接続領域のうちいずれか一方の接続領域のパターンの軸線の、積層方向から見た前記平面における長さをLとし、当該一方の接続領域における積層方向から見た前記非接続領域間の幅を2×l+dとするとき、
前記接続される2つのアクチュエータ部間の前記パターンの軸線における積層方向から見た前記交差角度θ[rad]は、
【数3】
を満たす、積層型静電アクチュエータ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記積層型静電アクチュエータが伸長するとき、
各アクチュエータ部における前記第1フィルムと前記第2フィルムとが離間して当該第1フィルム及び当該第2フィルムの前記非接続領域には空間(13)が形成され、
積層の上側の前記アクチュエータ部の前記第1フィルムと下側の前記アクチュエータ部の前記第2フィルムとが離間して当該第1フィルム及び当該第2フィルムの前記非接続領域には空間(11)が形成され、
2つの当該空間(11,13)は外部との間で流体連通し、
前記積層型静電アクチュエータが伸縮するとき、前記空間と外部との間で流体の流出入を可能とするように構成される、積層型静電アクチュエータ。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記アクチュエータ部の平面形状は、四角形であり、
重なり合う2つの前記アクチュエータ部は、前記所定角度が90°で交差するように積層される、積層型静電アクチュエータ。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記第1フィルムは、絶縁層(23)、導電層(21)、絶縁層(23)の3層構造を含み、
前記第2フィルムは、絶縁層で構成され、
前記第2フィルムは、積層方向から見て、前記第1接続領域を介して前記第1フィルムに接続される第1接続面部(8)と、前記第2接続領域を介して積層方向上側の前記アクチュエータ部の前記第1フィルムに接続される第2接続面部(8)と、当該第1接続領域および当該第2接続領域のいずれも形成されないヒンジ部(15)と、を有し、
外力により積層方向に引っ張られるとき、前記ヒンジ部が弾性変形して前記第1フィルムと前記第2フィルムとが離間して、前記積層型静電アクチュエータが積層方向に伸長し、
積層される2つの前記アクチュエータ部の前記第1フィルムの間に電圧が印加されるとき、当該2つの第1フィルムが静電引力により互いに引き合い、前記積層型静電アクチュエータが積層方向に収縮するように構成される、積層型静電アクチュエータ。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記第1フィルム及び前記第2フィルムはいずれも、絶縁層(23)、導電層(21)、絶縁層(23)の3層構造を含み、
前記第2フィルムは、前記第1接続領域を介して前記第1フィルムに接続される第1接続面部(8)と、前記第2接続領域を介して積層方向上側の前記アクチュエータ部の前記第1フィルムに接続される第2接続面部(8)と、当該第1接続領域および当該第2接続領域のいずれも形成されないヒンジ部(15)と、を有し、
外力により積層方向に引っ張られるとき、前記ヒンジ部が弾性変形して前記第1フィルムと前記第2フィルムとが離間して、前記積層型静電アクチュエータが積層方向に伸長し、
前記第1フィルム及び前記第2フィルムの間に電圧が印加されるとき、当該2つのフィルムが静電引力により互いに引き合い、前記積層型静電アクチュエータが積層方向に収縮するように構成される、積層型静電アクチュエータ。
【請求項12】
請求項11に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記第1フィルムと前記第2フィルムは、長尺なリボン形状を有し、
前記積層型静電アクチュエータは、2つの前記第1フィルムと前記第2フィルムをジグザグ状に折り曲げてそれぞれの長手方向が積層方向から見て互いに90°で交差するように交互に折り重ねた紙ばね構造を有し、
2つの前記第1フィルム及び前記第2フィルムが積層方向から見て重なった平面において複数の積層された前記アクチュエータ部を形成するともに、平面の外に形成される折り曲げ部が外ヒンジ部(17)を構成し、
前記外ヒンジ部により、異なる層の前記アクチュエータ部の第1フィルムどうし、または第2フィルムどうしが、互いに一体となっている、積層型静電アクチュエータ。
【請求項13】
請求項11に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記第1フィルムと前記第2フィルムは、長尺なリボン形状を有し、
前記積層型静電アクチュエータは、2つの前記第1フィルムと前記第2フィルムを中心からそれぞれ一方向に巻き重ねた偏平な渦巻き状の巻き構造を有し、
2つの前記第1フィルム及び前記第2フィルムが積層方向から見て重なった平面において複数の積層された前記アクチュエータ部を形成するともに、平面の外に形成される折り曲げ部が外ヒンジ部(17)を構成し、
前記外ヒンジ部により、異なる層の前記アクチュエータ部の第1フィルムどうし、または第2フィルムどうしが、互いに一体となっている、積層型静電アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型静電アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
全体形状が安定化し、入力と出力の関係について高い再現性を得ることができ、大きな静電力と大きな変位が得られる静電アクチュエータの提供を課題として、互いに対向する複数の平板状の電極に、側壁に連続する空間を含むことにより弾性率を小さくした平板状の誘電体を介在させて積層一体化し、積層された電極は第1電位と第2電位が互い違いに加えられるように電気的に接続し、電極間の電位に応じて電極間の距離が変化するようにした積層型静電アクチュエータに関する公報開示の技術が存在する(特許文献1、図6,7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-259663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電極間に配置される誘電体に「くの字断面高分子材料シート」や「高分子材料チューブ(円筒形状)」を採用した積層型静電アクチュエータは、構造の曲げ弾性率が材料本体の縦弾性率(ヤング率)と比較して小さいことから、誘電体に静電力が作用したときの変形量を大きくできることが知られている。
【0005】
しかし、かかる構造を有する積層型静電アクチュエータでは、「くの字構造」や「円筒構造」の部材を電極間に配置することが製造上困難であるという課題があった。また、これらの構造では、ある特定の駆動範囲(アクチュエータの駆動範囲)では柔らかく変形し、且つ、その範囲を超えて電極間隔が広がろうとするときに急激に硬くなるというような非線形なばね特性が得られないという課題があった。すなわち、これらの構造のばね定数は、構造が伸びきるまで大きく変化せず、一方で、伸びきった状態では電極との接続部が大変形しているため、応力集中により接続部が破損する恐れがあった。このため、従来構造では、ストロークと発生力がトレードオフの関係にあった。
【0006】
本発明は、積層方向に引っ張られるとき、特定の駆動範囲では充分なストロークと静電引力による収縮力を発揮し、且つ、駆動範囲を超えて電極間隔を広げようとすると急激に硬くなるバネ特性(以下、「好適な非線形ばね特性」と呼ぶ)を有する積層型静電アクチュエータを、簡易な構造で実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の積層型静電アクチュエータは、
アクチュエータ部(2a,2b,2c)が複数積層された積層型静電アクチュエータ(1)であって、
前記アクチュエータ部は、
一方の面に複数の第1接続領域(7a,7b,7c)が所定パターンで形成された第1フィルム(3a,3b,3c)と、
前記第1接続領域を介して前記第1フィルムに接続された第2フィルム(3a,3b,3c)であって、当該第1フィルムとは反対側の面に当該第1接続領域の前記パターンと同一パターンの複数の第2接続領域(7a,7b,7c)が形成された第2フィルム(3a,3b,3c)と、
を有して構成され、
前記第1フィルム及び前記第2フィルムはいずれも、積層方向(Z)から見て隣り合う接続領域間に幅が実質的に一定の非接続領域(15)が形成され、
前記アクチュエータ部の前記第1接続領域と当該アクチュエータ部の前記第2接続領域とは、積層方向から見て互いに重ならないように配置され、
重なり合う2つの前記アクチュエータ部(2a,2b;2b,2c)は前記第2接続領域(7b;7c)を介して接続され、
前記接続される2つのアクチュエータ部(2a,2b;2b,2c)間のパターンの軸線は積層方向から見て互いに所定角度(θ、θ=0°を除く)で交差するように当該2つのアクチュエータ部が積層される。
【0008】
請求項2に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項1に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記アクチュエータ部の各々において、前記第1接続領域の前記パターンの軸線は互いに平行であり、前記第2接続領域の前記パターンの軸線は互いに平行である、ことを特徴とすれば、
第1接続領域と第2接続領域のパターンの間隔を簡易に制御できるため構造の安定性が向上し、長寿命化できるので好ましい。また、製作性も向上する。
【0009】
請求項3に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項1又は2に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記アクチュエータ部の各々において、前記第2接続領域の前記パターンの軸線は、前記第1接続領域の前記パターンの軸線と平行である、ことを特徴とすれば、
第1接続領域と第2接続領域のパターンの間隔を簡易に制御できるため構造の安定性が向上し、長寿命化できるので好ましい。また、製作性も向上する。
【0010】
請求項4に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記第1接続領域及び前記第2接続領域の前記パターンはいずれも、実質的に均一な幅を有する直線状に形成されて等間隔に配置される、ことを特徴とすれば、
第1接続領域と第2接続領域を簡易に製作できるので、構造の安定性を向上させることができて好ましい。
【0011】
請求項5に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記アクチュエータ部の各々において、積層方向から見て前記第1接続領域は、2つの前記第2接続領域間の非接続領域の中央に位置するように配置される、ことを特徴とすれば、
伸縮時に非接続領域で発生する応力が平均化され、応力集中が発生しにくくなる。これにより積層型静電アクチュエータの長寿命化が可能となるので好ましい。
【0012】
請求項6に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記積層される2つのアクチュエータ部が形成する平面を積層方向から見るとき、積層の上側の前記アクチュエータ部(2a;2b)の前記第1接続領域(7a;7b)の前記パターンの軸線と積層の下側の前記アクチュエータ部(2b;2c)の前記第2接続領域(7b;7c)の前記パターンの軸線とは、少なくとも1箇所で交差する、ことを特徴とすれば、
平面内の交差により積層の上側のアクチュエータ部の第1フィルムは変形しにくくなり、第2フィルムの非接続領域が主に弾性変形するようになることで各フィルム間で好適な非線形ばね特性を得ることができるので好ましい。
【0013】
請求項7に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項6に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記第1接続領域及び前記第2接続領域の前記パターンはいずれも、実質的に均一な幅(d)を有する直線状に形成されて等間隔に配置され、
積層の上側の前記アクチュエータ部の前記第1接続領域または下側の前記アクチュエータ部の前記第2接続領域のうちいずれか一方の接続領域のパターンの軸線の、積層方向から見た前記平面における長さをLとし、当該一方の接続領域における積層方向から見た前記非接続領域間の幅を2×l+dとするとき、
前記接続される2つのアクチュエータ部間の前記パターンの軸線における積層方向から見た前記交差角度θ[rad]は、
【数1】
を満たす、ことを特徴とすれば、
交差を確実に平面内に実現できるので、積層型静電アクチュエータはより好適な非線形ばね特性を得ることができるので好ましい。
【0014】
請求項8に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記積層型静電アクチュエータが伸長するとき、
各アクチュエータ部における前記第1フィルムと前記第2フィルムとが離間して当該第1フィルム及び当該第2フィルムの前記非接続領域には空間(13)が形成され、
積層の上側の前記アクチュエータ部の前記第1フィルムと下側の前記アクチュエータ部の前記第2フィルムとが離間して当該第1フィルム及び当該第2フィルムの前記非接続領域には空間(11)が形成され、
2つの当該空間(11,13)は外部との間で流体連通し、
前記積層型静電アクチュエータが伸縮するとき、前記空間と外部との間で流体の流出入を可能とするように構成される、ことを特徴とすれば、
伸縮時に、非接続領域に形成される空間への流体の出入りが自由になり、応答性が向上するので好ましい。
【0015】
請求項9に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記アクチュエータ部の平面形状は、四角形であり、
重なり合う2つの前記アクチュエータ部は、前記所定角度が90°で交差するように積層される、ことを特徴とすれば、
簡易な形状でありながら前記第1フィルムが最も変形しにくく、前記第2フィルムの非接続領域におけるばね力は高次成分(3次成分)の効きが強まり、より好適な非線形ばね特性を得ることができるので好ましい。これにより、アクチュエータの特性が向上する。
【0016】
請求項10に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記第1フィルムは、絶縁層(23)、導電層(21)、絶縁層(23)の3層構造を含み、
前記第2フィルムは、絶縁層で構成され、
前記第2フィルムは、積層方向から見て、前記第1接続領域を介して前記第1フィルムに接続される第1接続面部(8)と、前記第2接続領域を介して積層方向上側の前記アクチュエータ部の前記第1フィルムに接続される第2接続面部(8)と、当該第1接続領域および当該第2接続領域のいずれも形成されないヒンジ部(15)と、を有し、
外力により積層方向に引っ張られるとき、前記ヒンジ部が弾性変形して前記第1フィルムと前記第2フィルムとが離間して、前記積層型静電アクチュエータが積層方向に伸長し、
積層される2つの前記アクチュエータ部の前記第1フィルムの間に電圧が印加されるとき、当該2つの第1フィルムが静電引力により互いに引き合い、前記積層型静電アクチュエータが積層方向に収縮するように構成される、ことを特徴とすれば、
第1フィルムが有する導電層は変形しにくいため、フィルムの変形に起因した導電層における電気的切断が発生せず、積層型静電アクチュエータの長寿命化が可能となるので好ましい。
【0017】
請求項11に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記第1フィルム及び前記第2フィルムはいずれも、絶縁層(23)、導電層(21)、絶縁層(23)の3層構造を含み、
前記第2フィルムは、前記第1接続領域を介して前記第1フィルムに接続される第1接続面部(8)と、前記第2接続領域を介して積層方向上側の前記アクチュエータ部の前記第1フィルムに接続される第2接続面部(8)と、当該第1接続領域および当該第2接続領域のいずれも形成されないヒンジ部(15)と、を有し、
外力により積層方向に引っ張られるとき、前記ヒンジ部が弾性変形して前記第1フィルムと前記第2フィルムとが離間して、前記積層型静電アクチュエータが積層方向に伸長し、
前記第1フィルム及び前記第2フィルムの間に電圧が印加されるとき、当該2つのフィルムが静電引力により互いに引き合い、前記積層型静電アクチュエータが積層方向に収縮するように構成される、ことを特徴とすれば、
第1フィルムと第2フィルムとが密に積層し電極間隔が狭まるので、静電引力により互いに引き合う力が向上するので好ましい。
【0018】
請求項12に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項11に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記第1フィルムと前記第2フィルムは、長尺なリボン形状を有し、
前記積層型静電アクチュエータは、2つの前記第1フィルムと前記第2フィルムをジグザグ状に折り曲げてそれぞれの長手方向が積層方向から見て互いに90°で交差するように交互に折り重ねた紙ばね構造を有し、
2つの前記第1フィルム及び前記第2フィルムが積層方向から見て重なった平面において複数の積層された前記アクチュエータ部を形成するともに、平面の外に形成される折り曲げ部が外ヒンジ部(17)を構成し、
前記外ヒンジ部により、異なる層の前記アクチュエータ部の第1フィルムどうし、または第2フィルムどうしが、互いに一体となっている、ことを特徴とすれば、
長尺なリボン形状のアクチュエータ部を単純に折り重ねて製作できるため製作性が向上して好ましい。また、各アクチュエータ部の第1フィルムどうし、第2フィルムどうしは外ヒンジ部で電気的に接続されているため、組み立て後に各層の配線が不要になり、製作性が向上するので好ましい。更に、外ヒンジ部が第1フィルム及び第2フィルムの折り曲げ部における平面に平行な方向の変形を抑制する半円筒の構造体として機能する。このため、フィルム間の距離が不均一になりやすい折り曲げ部でもフィルム間距離を均一にできる。これにより、積層方向の動きが安定し均一になるとともに、駆動力を向上させることができるので好ましい。
【0019】
請求項13に記載の積層型静電アクチュエータは、
請求項11に記載の積層型静電アクチュエータにおいて、
前記第1フィルムと前記第2フィルムは、長尺なリボン形状を有し、
前記積層型静電アクチュエータは、2つの前記第1フィルムと前記第2フィルムを中心からそれぞれ一方向に巻き重ねた偏平な渦巻き状の巻き構造を有し、
2つの前記第1フィルム及び前記第2フィルムが積層方向から見て重なった平面において複数の積層された前記アクチュエータ部を形成するともに、平面の外に形成される折り曲げ部が外ヒンジ部(17)を構成し、
前記外ヒンジ部により、異なる層の前記アクチュエータ部の第1フィルムどうし、または第2フィルムどうしが、互いに一体となっている、ことを特徴とすれば、
長尺なリボン形状のアクチュエータ部を単純に巻くことで製作できるため製作性が向上して好ましい。また、各アクチュエータ部の第1フィルムどうし、第2フィルムどうしは外ヒンジ部で電気的に接続されているため、組み立て後に各層の配線が不要になり、製作性が向上するので好ましい。更に、外ヒンジ部が第1フィルム及び第2フィルムの折り曲げ部における平面に平行な方向の変形を抑制する半円筒の構造体として機能する。このため、フィルム間の距離が不均一になりやすい折り曲げ部でもフィルム間距離を均一にできる。これにより、積層方向の動きが安定し均一になるとともに、駆動力を向上させることができるので好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、各アクチュエータ部において第2フィルムの非接続領域が弾性変形しやすい一方で、第1フィルムは、それに接続する第1、第2接続領域のパターンの軸線が積層方向から見て互いに所定角度で交差しているので変形しにくい。このため、積層型静電アクチュエータが外力により積層方向に引っ張られるとき、第2フィルムの小さい駆動範囲では各アクチュエータ部は柔らかく変形するのに対して、小さい駆動範囲を超えて更に変形させると、第1フィルムの剛性により第2フィルムのばね定数が急激に増加し、各アクチュエータ部は急激に硬くなる。これにより、積層型静電アクチュエータの各アクチュエータ部におけるフィルム間距離の広がり過ぎを抑制でき、静電引力による充分な収縮力を発揮する。言い換えれば、弱い外力で積層方向に引っ張られる場合でも充分に大きなストロークが得られる一方で、強い外力を受けた場合にフィルム間隔が開き過ぎることがない。ストローク量が外力に依存しにくい。このため、フィルム間に電圧を印加して静電引力を発生させたとき、充分な収縮力を確保できる。すなわち、積層型静電アクチュエータは変位に対して非線形なばね特性を有する積層型静電アクチュエータの提供を実現できる。
【0021】
更に、フィルムに形成される接続領域のパターンを、軸線が積層方向から見て互いに所定角度(θ、θ=0°を除く)で交差させるという単純な方法で、所望の非線形なばね特性を得ることが可能である。これにより、接続領域のパターンを簡易に制御でき、構造の安定性が向上し、長寿命化でき、製作性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る積層型静電アクチュエータの基本構造を示す斜視図である。
図2図1に示すアクチュエータ部の基本構造の一部を示す分解斜視図である。
図3図2に示すアクチュエータ部のフィルムの積層構造を示す断面図である。
図4図1に示すアクチュエータ部の基本構造の一部を拡大して示す正面図である。
図5図1に示すアクチュエータ部の基本構造の一部を拡大して示す側面図である。
図6図1に示す積層型静電アクチュエータの伸長状態のアクチュエータ部を示す断面図である。
図7】本実施形態に係る積層型静電アクチュエータの静電力とばね力の合力と、電極層部の発生力との関係を示すグラフである。
図7-1】他の実施形に係る積層型静電アクチュエータの2つのアクチュエータ部の重なり状態を説明するための説明図であり、(a)は積層方向から見た図、(b)は(a)中の位置VII-VIIにおける断面図である。
図7-2】図7-1に示す積層型静電アクチュエータにおいて接続領域の交差条件を説明する説明図である。
図8】折り曲げ構造によって作成した積層型静電アクチュエータを示す斜視図である。
図9】巻き構造によって作成した積層型静電アクチュエータを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態に係る積層型静電アクチュエータの構成と作動態様及び効果について図1図9に示す実施形態を例にとって具体的に説明する。尚、以下の説明では最初に本実施形態の積層型静電アクチュエータの基本構造について説明し、次に当該積層型静電アクチュエータの構成部材について具体的に説明する。続いて、積層型静電アクチュエータの作動態様について説明し、更に、積層型静電アクチュエータの発生力と静電力とばね力の合力との関係について言及する。次に、異なる層の電極を接続する機能を有した積層型静電アクチュエータの2種類の応用例について説明し、積層型静電アクチュエータの効果について言及する。最後に部分的構成を異ならせた積層型静電アクチュエータの他の実施形態について簡単に説明する。
【0024】
[第1実施形態]
(1-1)積層型静電アクチュエータの基本構造
図1は、第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータの基本構造を示す斜視図であり、図2は、図1に示す積層型静電アクチュエータのアクチュエータ部の基本構造の一部を示す分解斜視図である。図1に示すように、積層型静電アクチュエータ1は、複数のアクチュエータ部2a,2b,2c,…2n(以下、適宜「アクチュエータ部2」とする)が積層され、積層方向Zの上下両面に配置された端部材5a,5bに挟まれて構成される。アクチュエータ部2a,2b,2cの各々は、積層方向Zから見て平面形状が四角形に形成される。図2に示すように、アクチュエータ部2a,2b,2cは、一方の面に複数の第1接続領域7a,7b,7cが所定パターンで形成された第1フィルム3a,3b,3cと、第1接続領域7a,7b,7cを介して第1フィルム3a,3b,3cに接続された第2フィルム3a,3b,3cと、を有して構成される。第2フィルム3a,3b,3cは、第1フィルム3a,3b,3cとは反対側の面に第1接続領域7a,7b,7cのパターンと同一パターンの複数の第2接続領域7a,7b,7cが形成される。重なり合う2つのアクチュエータ部2a,2b;2b,2cはそれぞれ第2接続領域7b;7cを介して接続され、アクチュエータ部2aは第2接続領域7aを介して積層方向Zの最上面に配置された端部材5aに接続される。
【0025】
ここで、第1接続領域7aは均一な幅を有する直線状に形成され、複数の第1接続領域7aは第1フィルム3a上に等間隔で互いに平行に配置される。同様に、第1接続領域7bも均一な幅を有する直線状に形成され、複数の第1接続領域7bは第1フィルム3b上に等間隔で互いに平行に配置され、第1接続領域7cも均一な幅を有する直線状に形成され、複数の第1接続領域7cは第1フィルム3c上に等間隔で互いに平行に配置される。また、第2接続領域7a,7b,7cはそれぞれ、第1接続領域7a,7b,7cの直線パターンと同一の直線パターンに形成され、複数の第2接続領域7a,7b,7cは第2フィルム3a,3b,3c上に等間隔で互いに平行に配置される。そして、複数の第1接続領域7aの直線パターンと複数の第2接続領域7aの直線パターンとは、積層方向Zから見て互いに重ならないように配置される。接続領域7b,7cも同様に配置される。よって、第1フィルム3a,3b,3c及び第2フィルム3a,3b,3cはいずれも、積層方向Zから見て隣り合う接続領域間の中央に直線状で幅が実質的に一定の非接続領域15が形成される。
【0026】
かかる構成を有するアクチュエータ部2a,2b,2cは、交差角度θが90°となるように積層される。これにより、積層型静電アクチュエータ1は、図1に示すように、積層方向Zの最上面に配置された端部材5aから下に向けて、1段目のアクチュエータ部2aが設けられ、その下方に、90°角度を変えて2段目のアクチュエータ部2bが設けられる。尚、以下同様にして90°角度を変えて、3段目からn段目までのアクチュエータ部2c,…2nが順次設けられ、積層方向Zの最下面に端部材5bが配置されて、積層型静電アクチュエータ1は構成される。
【0027】
ここで、本明細書においてこの文脈で使用される「幅が実質的に一定の」という用語は、接続領域間に形成される非接続領域の幅が積層方向Zから見て一定の場合に加えて、製造その他の目的のために、±5乃至10%程度の幅の揺らぎも含むことを意図する。また、本第1実施形態では交差角度θが90°となる場合を例にして説明しているが、本発明はこれに限定されることはない。例えば、60°や72°等0°以外の任意角度(厳密には、軸線間の鋭角部が0°<θ≦90°(直角含む))を含むことを意図する。
【0028】
(1-2)積層型静電アクチュエータの構成部材
<フィルム>
図3は、図2に示すアクチュエータ部のフィルムの積層構造を示す断面図である。図3(a)は、アクチュエータ部2a,2b,2cの第1フィルム3a,3b,3c(以下、「導電性フィルムP」と呼称する)の積層構造を示し、図3(b)は、第2フィルム3a,3b,3c(以下、「絶縁性フィルムQ」と呼称する)の積層構造を示す。
【0029】
導電性フィルムPは、例えば、導電層21を中央に挟んでその表面と裏面に絶縁層23を配置した3層フィルム構造によって構成される。導電層21は、例えば、銅(Cu)やアルミ(Al)等の金属膜や導電性高分子、または導電性の炭素同素体(または炭素を主体とした導電性の混合体)が適用できる。絶縁層23としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やカプトン、パリレン(登録商標)、シリコン系材料や炭素系材料等の絶縁性の高分子膜が適用できるが、これに限定されるわけではない。ここで、導電層21の厚さをt21、絶縁層23の厚さをt23とすれば、導電性フィルムPの厚さtは、t=t21+2×t23となる。導電性フィルムPの厚さtは、例えば数マイクロメートルである。なお、導電性フィルムPが3層フィルム構造であるというのは一例を示しているに過ぎず、例えば、導電層21は複数の異なる導電率やヤング率を有する異種導電体から成る多層構造でもよく、また、絶縁層23は複数の異なる電気抵抗率やヤング率を有する異種絶縁体から成る多層構造でもよい。
【0030】
一方、絶縁性フィルムQは、導電層21を有さず、絶縁層23’によって構成される。絶縁層23’としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やカプトン、パリレン(登録商標)、シリコン系材料や炭素系材料等の絶縁性の高分子膜が適用できるが、これに限定されるわけではない。また、絶縁層23’は単一材料から成る1層構造でもよく、複数の異なる電気抵抗率やヤング率を有する異種絶縁体から成る多層構造でもよい。ここで、絶縁層23’の厚さをt23’とすれば、絶縁性フィルムQの厚さt’は、t’=t23’となる。絶縁性フィルムQの厚さt’は、例えば数マイクロメートルである。
【0031】
<接続部>
図4は、図1に示すアクチュエータ部2a,2b,2cの基本構造の一部を拡大して示す正面図であり、図5は、その側面図である。いずれも、2つの端部材5a,5b(図1)の間に積層方向Zに離そうとする向きの外力が作用して、第1フィルム3a,3b,3cと第2フィルム3a,3b,3cとの間隔が伸長した状態を示す。各アクチュエータ部の第1接続領域及び第2接続領域(以下、適宜「接続領域7」とする)は互いに離間しているため、積層される上下の第1フィルムと第2フィルムとの間で接続領域7,7間に形成される非接続領域15には空間11,13が形成される。
【0032】
より具体的には、アクチュエータ部2aの複数の第1接続領域7aは、第1フィルム3aと第2フィルム3aとを接続し、隣り合う第1接続領域7a,7aの間に空間13が形成される(図4)。複数の第2接続領域7aは、第2フィルム3aと積層方向Zの最上面の端部材5aとを接続し、隣り合う第2接続領域7a,7aの間に空間11が形成される。そして、第1接続領域7aは、第2接続領域7aと積層方向Zから見て互いに重ならないように配置される。具体的には、第1接続領域7a及び第2接続領域7aは、奥行き方向Yに長い線状又は帯状で、幅方向Xに等間隔に配置されて構成され、且つ、第1接続領域7a及び第2接続領域7aは、互いに他方の接続領域の間の空間の中央に位置するように、幅方向Xにそれぞれ半ピッチずれて配置される。同様に、アクチュエータ部2cの複数の第1接続領域7cは、第1フィルム3cと第2フィルム3cとを接続し、隣り合う第1接続領域7c,7cの間に空間13が形成される(図4)。複数の第2接続領域7cは、第2フィルム3cと積層方向Zの上側のアクチュエータ部2bの第1フィルム3bとを接続し、隣り合う第2接続領域7c,7cの間に空間11が形成される。
【0033】
また、アクチュエータ部2bの複数の第1接続領域7bは、第1フィルム3bと第2フィルム3bとを接続し、隣り合う第1接続領域7b,7bの間に空間13が形成される(図5)。第2接続領域7bは、アクチュエータ部2bの第2フィルム3bとアクチュエータ部2aの第1フィルム3aとを接続し、隣り合う第2接続領域7b,7bの間に空間11が形成される。そして、第1接続領域7bは、第2接続領域7bと積層方向Zから見て互いに重ならないように配置される。また、第1接続領域7b及び第2接続領域7bは、幅方向Xに長い線状又は帯状で、奥行き方向Yに等間隔に配置されて構成され、且つ、第1接続領域7b及び第2接続領域7bは、互いに他方の接続領域の間の空間の中央に位置するように、奥行き方向Yにそれぞれ半ピッチずれて配置される。
【0034】
接続領域7において第1フィルムと第2フィルムとを接続する材料としては、接着剤が一例として使用でき、凸板印刷、オフセット印刷、孔版印刷やインクジェットプリンタ等の方式を用いて、一定の塗布厚及び所定のパターンになるように精度良く塗布し接着部を構成する。或いは、表面処理等による化学処理によって絶縁層23または23’(図3)に化学結合層を構成してもよい。接着部を構成する場合は2つのフィルム3a,3aは接着剤を介して結合され、化学処理による結合層を構成する場合は2つのフィルム3a,3aは共有結合される。その他にも、絶縁層23または23’を溶着するなどの方法でも接続領域を形成することができ、上記の結合パターンが形成されれば、これらの方法に限定されるものではない。
【0035】
<ヒンジ部>
図4及び図5を用いて上述したように、第2フィルム3aは上下両面がそれぞれ第1接続領域7a及び第2接続領域7aに接続するので、第1接続領域7a及び第2接続領域7aに対応する第2フィルム3aの部分(以下、適宜「接続面部8,8」(図6)とする)は、他の領域(接続に寄与しない非接続領域。以下、「非接続領域15」とする)に対応する第2フィルム3aの部分に比して剛性が大きい。同様に、第1接続領域7b及び第2接続領域7bに対応する第2フィルム3bの接続面部8,8は、第2フィルム3bの非接続領域15に比して剛性が大きい。
【0036】
積層方向Zに2つの端部材5a,5b(図1)を引き離す方向の引っ張り力(外力)が印加されると、アクチュエータ部2aの第2フィルム3a及びアクチュエータ部2bの第2フィルム3bのそれぞれの非接続領域15が弾性変形して、第1フィルムと第2フィルムとの間隔3aと3a,3bと3a,3bと3bの間隔は広がり(図4図5)、積層型静電アクチュエータ1は積層方向Zに伸長する(図1)。非接続領域15に対応する第2フィルム3a,3bの部分を「ヒンジ部15」と定義する。
【0037】
アクチュエータ部2aの第1フィルム3aとアクチュエータ部2bの第1フィルム3bとの間に電圧が印加されると、印加された電圧に起因する静電引力により第1フィルム3a,3b間の間隔は初期状態に戻り(後述)、第1フィルム3a,3bの間隔は狭まる。他の第1フィルム3b,3c間も同様に静電引力により狭まるため、積層型静電アクチュエータ1は積層方向Zに収縮する。
【0038】
アクチュエータ部2aの第1フィルム3aは、上面が第1接続領域7aにおいて第2フィルム3aに接続し、下面が第2接続領域7bにおいて第2フィルム3bに接続する。第1接続領域7aは奥行き方向Yに延伸し、第2接続領域7bは幅方向Xに延伸するので、第2接続領域7bは、アクチュエータ部2aの第1フィルム3aの奥行き方向Yに延伸するヒンジ部15の変形に対してリブとして作用する。よって、アクチュエータ部2aの第1フィルム3aは、第2フィルム3aに比して剛性が大きい。従って、積層型静電アクチュエータ1に積層方向Zに引っ張り力(外力)が印加されるとき、アクチュエータ部2aの第2フィルム3a及びアクチュエータ部2bの第2フィルム3bのそれぞれのヒンジ部15は弾性変形(曲げと伸長)するが、アクチュエータ部2aの第1フィルム3aの弾性変形は前述の構造により抑制される。
【0039】
第1フィルム3a,3bの変形が抑制され、第2フィルム3a,3bのヒンジ部15のみ変形する場合、第2フィルム3a,3bにおいてヒンジ部15と接続面部8,8の境界位置O(図6)は、幅方向Xと奥行き方向Yの動きが拘束される。このような拘束条件の下でヒンジ部15が変形すると、第2フィルム3a,3bの境界位置O付近は主に剪断変形または曲げ変形をしてヒンジ部15が柔らかいばねのように振る舞うのに対して、更に変形させようとして外力を加えると、ヒンジ部15が積層方向Zに向かって傾斜し、ヒンジ部15は引っ張り変形するようになり硬いばねのように振る舞う。このため、外力印加前の初期状態から積層型静電アクチュエータ1が積層方向Zに伸長し始める小変形範囲ではヒンジ部15は柔らかく、外力に対して第1フィルム3a,3b間が広がりやすい一方で、更に変形させようと外力を加えても、ヒンジ部15が急激に硬くなり、第1フィルム3a,3b間が急激に広がりにくくなる。
【0040】
これは言い換えると、積層型静電アクチュエータ1の小変形範囲では各アクチュエータ部2a,2bのヒンジ部15のばね定数が小さく、アクチュエータ部2a,2bは柔らかく変形するのに対して、小変形範囲以上に更に変形させようとしても、第2フィルム3a,3bのばね定数が急激に増加し、各アクチュエータ部2a,2bは急激に変形しにくくなる。即ち、積層型静電アクチュエータ1は、各アクチュエータ部2a,2bにおいて非線形なばね特性を有し、これにより各フィルム間の距離、特に第1フィルム3a,3b間の距離の広がり過ぎを抑制することができ、充分な静電引力を得ることが可能になる。
【0041】
以上の理由から、積層型静電アクチュエータ1は、積層方向Zに引っ張り力(外力)が印加されるとき、アクチュエータ部2a,2bにおいて、第2フィルム3a,3bは弾性変形して、積層型静電アクチュエータ1は伸長状態となる。このとき第1フィルム3aの変形は抑制される。伸長状態のときに積層型静電アクチュエータ1に電圧が印加されると、アクチュエータ部2aの第1フィルム3aとアクチュエータ部2bの第1フィルム3bとの間に静電引力が作用し、第1フィルム3a,3bの間隔は狭まる。その結果、積層型静電アクチュエータ1は積層方向Zに収縮する。逆に電圧を0にすると、外力によってアクチュエータ部2aの第2フィルム3a及びアクチュエータ部2bの第2フィルム3bのそれぞれの非接続領域15が弾性変形して、第1フィルムと第2フィルムとの間隔3aと3a,3bと3a,3bと3bの間隔は広がり、積層型静電アクチュエータ1は積層方向Zに伸長する。従って、印加する電圧をオン/オフすることにより積層型静電アクチュエータ1を伸縮運動させることができる。
【0042】
<空間>
積層型静電アクチュエータ1に積層方向Zの引っ張り力(外力)が印加されて積層型静電アクチュエータ1が伸長状態となるとき、第2フィルム3a,3bは、その上の層(それぞれ、積層方向Zの最上面の端部材5a,アクチュエータ部2aの第1フィルム3a)との間の空間11が大きくなり、その下の層(それぞれ、第1フィルム3a,3b)との間の空間13が大きくなる(図4図5)。これらの空間11,13は、以下に説明する積層型静電アクチュエータ1の伸縮動作を妨げることなく充分な伸縮量を確保するために外部との間で流体連通しており、絶縁流体が通る絶縁流体部として機能する。また、これらの空間11,13の開口面積は、アクチュエータ部2a,2bの伸長時、収縮時の違いによって変化する。即ち、積層方向Zの引っ張り力(外力)が印加されると、主に第2フィルムが弾性変形して各第1フィルムの間隔は離間し、空間11,13の開口面積が大きくなり、電極層間に電圧が印加されて静電引力が作用すると、各第1フィルムの間隔は狭まり、空間11,13の開口面積が小さくなる。
【0043】
(1-3)積層型静電アクチュエータの作動態様
かかる構成を有する積層型静電アクチュエータ1は、積層方向Zに印加される引っ張り力(外力)の有無、及び、第1フィルム間に印加される電圧の有無によって、伸縮状態が変化する。
【0044】
<初期状態(収縮状態)>
初期状態において、或いは、積層方向Zの引っ張り力(外力)が印加された後に第1フィルム間に電圧が印加されて静電引力が作用しバランスするとき、ヒンジ部15は変形せず、第1フィルム3a及び第2フィルム3aは平面状態である。このときの第1フィルム3aの導電層21から第1フィルム3bの導電層21(図3)までの距離uは、u初期=2×t23+t23’である(図示省略)。
【0045】
<伸長状態>
積層型静電アクチュエータ1に積層方向Zに引っ張り力(外力)が印加されると、アクチュエータ部2aの第2フィルム3aの非接続領域15(ヒンジ部15)が弾性変形(曲げと伸長)して、第1フィルム3aと第2フィルム3aとの間隔は広がり(図4)、積層型静電アクチュエータ1は積層方向Zに伸長する(図1)。図6は、積層型静電アクチュエータ1の伸長状態のアクチュエータ部2aを示す断面図である。図6に示すように、積層方向Zに引っ張り力(外力)が印加されると、第1フィルム3aと第2フィルム3aとの間隔は広がる。この場合のヒンジ部15のばね変位をσとすれば、第1フィルム3aの導電層21から第1フィルム3bの導電層21(図3)までの距離uは、u伸長=2×t23+t23’+σである。
【0046】
上述の通り、アクチュエータ部2bの第2接続領域7bがアクチュエータ部2aの第1フィルム3aにおける積層方向Zの変形を妨げるリブとして作用し、第1フィルム3aの変形は抑制されるから、ヒンジ部15の固定端が積層方向Zに移動する変形が生じる。これまで、主にアクチュエータ部2a,2bについて述べてきたが、以上の議論は各アクチュエータ部2a,2b,2c,…,2nについても同様に成り立つから、このようなアクチュエータ部2がn個積層された積層型静電アクチュエータ1のストロークUは、U=n×(u伸長-u初期)=n×σとなる。
【0047】
(1-4)アクチュエータ部の発生力と静電力とばね力の合力との関係
図7は、積層型静電アクチュエータ1の静電力とばね力の合力と、アクチュエータ部2の発生力Fとの関係を示すグラフである。横軸はばね変位σ、縦軸はアクチュエータ部2の発生力Fを示す。ばね力はばね変位σが大きくなるに従って非線形な増加を示し、静電力は、逆にばね変位σが大きくなるに従って、近似的にはσの2乗に反比例して減少する。また、静電力とばね力の合力は、図示のようなU字状のカーブを描く。そして、アクチュエータ部2の発生力Fは、上記合力が最小値をFminとすると、少なくともFmin以上の大きさで収縮方向に作用する。
【0048】
[第2実施形態]
第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1は、アクチュエータ部2を構成する第1フィルム3a,3bが導電性フィルムPで構成され、第2フィルム3a,3bが絶縁性フィルムQで構成されるのに対して、第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータ101は、アクチュエータ部を構成する第1及び第2フィルムのいずれもが導電性フィルムPで構成される点で、第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1と相違する。
【0049】
(2-1)積層型静電アクチュエータの基本構造
第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータ101の基本構造及びアクチュエータ部の基本構造は、第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1のそれらと同じであり、図1及び図2をそのまま適用する。また、第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1との同一又は類似の要素については、同一又は類似の符号を付して説明を省略する。
【0050】
(2-2)積層型静電アクチュエータの構成部材
<フィルム>
上述したように、第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータ101は、アクチュエータ部を構成する第1及び第2フィルム3a,3aのいずれもが、図3(a)に示す導電性フィルムPで構成される。
【0051】
<接続部>
第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータ101のアクチュエータ部の接続部は、第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1のそれと同じである。
【0052】
<ヒンジ部>
第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1では、重なり合うアクチュエータ部2の第1フィルム3a,3b間に電圧が印加されるのに対して、第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータ101では、重なり合う第1及び第2フィルム3a,3a2;3b,3a間に電圧が印加される点で、第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1と相違する。第1及び第2フィルム3a,3a間に電圧が印加されると、静電引力により第1及び第2フィルム3a,3a間の間隔は初期状態に戻り(後述)、積層型静電アクチュエータ101は積層方向Zに収縮する。アクチュエータ部2aの第1フィルム3aと第2フィルム3aとの間に印加された電圧に起因する静電引力が作用し、第1及び第2フィルム3a,3aの間隔は狭まる。他の第1及び第2フィルム3b,3b間も、重なり合う異なるアクチュエータ部2の第1フィルムと第2フィルム(例えば、3bと3a)の間も、同様に静電引力により狭まるため、積層型静電アクチュエータ101は積層方向Zに収縮する。
【0053】
第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータ101のアクチュエータ部の基本構造は、第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1のアクチュエータ部2のそれと同じであるから、アクチュエータ部2bの第2接続領域7bは、アクチュエータ部2aの第1フィルム3aの非接続領域15の積層方向Zの変形に対してリブとして作用する。よって、積層型静電アクチュエータ101に積層方向Zに引っ張り力(外力)が印加されるとき、アクチュエータ部2aの第2フィルム3a及びアクチュエータ部2bの第2フィルム3bのそれぞれの非接続領域15は弾性変形(曲げと伸長)するが、アクチュエータ部2aの第1フィルム3aの変形は抑制される。従って、第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータ101は、第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1と同様に、各アクチュエータ部が非線形なばね特性を有する。
【0054】
<空間>
第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータ101のアクチュエータ部の基本構造は、第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1のアクチュエータ部2のそれと同じであるから、積層型静電アクチュエータ101に積層方向Zの引っ張り力(外力)が印加されると、第2フィルム3aは弾性変形して第1及び第2フィルム3a,3aの間隔は離間し、空間11,13の開口面積が大きくなり、第1及び第2フィルム3a,3a間に電圧が印加されて静電引力が作用すると、第1及び第2フィルム3a,3aの間隔は狭まり、空間11,13の開口面積が小さくなる。
【0055】
(2-3)積層型静電アクチュエータの作動態様
かかる構成を有する積層型静電アクチュエータ101は、積層方向Zに印加される引っ張り力(外力)の有無、及び、第1及び第2フィルム3a,3a間に印加される電圧の有無によって、伸縮状態が変化する。
【0056】
<初期状態(収縮状態)>
初期状態において、或いは、積層方向Zの引っ張り力(外力)が印加された後に第1及び第2フィルム3a,3a間に電圧が印加されて静電引力が作用しバランスするとき、ヒンジ部15は変形せず、第1フィルム3a及び第2フィルム3aは平面状態である。このときの第1フィルム3aの導電層21から第2フィルム3aの導電層21(図3)までの距離uは、u初期=2×t23である(図示省略)。
【0057】
<伸長状態>
積層型静電アクチュエータ101に積層方向Zに引っ張り力(外力)が印加されると、第1フィルム3aと第2フィルム3aとの間隔は広がる。第1フィルム3aの導電層21から第2フィルム3aの導電層21(図3)までの距離uは、u伸長=2×t23+σである。これまで、主にアクチュエータ部2a,2bについて述べてきたが、以上の議論は各アクチュエータ部2a,2b,2c,…,2nについても同様に成り立つから、このようなアクチュエータ部がn個積層された積層型静電アクチュエータ101のストロークUは、U=n×(u伸長-u初期)=n×σとなる。
【0058】
(2-4)アクチュエータ部の発生力と静電力とばね力の合力との関係
第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータ101の基本構造は第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1のそれと同じであるから、第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータ101のアクチュエータ部の静電力とばね力の合力と、アクチュエータ部の発生力Fとの関係も、第1実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1のそれと同じであり、図7がそのまま当てはまる。但し、アクチュエータ部2を構成する第1フィルム3a,3b間の静電引力で収縮する第1実施形態に比して、第2実施形態では第1フィルム3aと第2フィルム3a、または第2フィルム3bと第1フィルム3aとの間の距離が近いので、発生する静電引力が大きくなり収縮力が増加する。
【0059】
(2-5)積層型静電アクチュエータの応用例
第2実施形態に係る積層型静電アクチュエータ101を実際に製造する場合には、生産性の良い構造が求められる。以下、説明する2つの応用例は、生産性の良い効率的な製造が可能な構造の一例を示しており、それぞれ各層のアクチュエータ部2の端部に他層のアクチュエータ部2の端部と接続される外ヒンジ部17が設けられていて、この外ヒンジ部17によって同極電極の後工程接続が不要となり、生産性が向上する。更に、これらの応用例の構造は局所放電リスクのある電極接続部を有しないため、積層型静電アクチュエータの信頼性が向上する。
【0060】
<折り曲げ構造>
図8は、図1に示す積層型静電アクチュエータ1を折り曲げ構造によって作成した応用例1を示す斜視図である。応用例1に係る積層型静電アクチュエータ1Aは、2つの長尺なリボン状電極37、39をジグザグ状に折り曲げて交互に折り重ねた紙ばね構造を有する。また、対向して積層される平面部が各層のアクチュエータ部2となり、それぞれのアクチュエータ部2の外方に延びるループ状の接続部が上述した外ヒンジ部17として機能する。
【0061】
かかる構成の積層型静電アクチュエータ部1Aによれば、上述の通り効率の良い製造が可能である。また、本構成を有しない積層型静電アクチュエータの場合、アクチュエータ部の端部ほど変形しやすくアクチュエータ部間の距離が不均一になりやすいのに対して、積層型静電アクチュエータ部1Aでは、外ヒンジ部17がアクチュエータ部2の面方向の変形を抑制する半円筒の構造体として機能するため、アクチュエータ部2の端部は、アクチュエータ部2の中央部と同様に、各アクチュエータ部2のZ方向に対面する接続面部8間の距離が均一になり、積層方向Zの動きが安定し均一になるとともに、駆動力を向上させることができる。更に、各アクチュエータ部2への電圧の印加は、外ヒンジ部17を介して接続される2つのリボン状電極37、39に対して行えば良いので、配線が簡易になる。
【0062】
<巻き構造>
図9は、図1に示す積層型静電アクチュエータ1を巻き構造によって作成した応用例2を示す斜視図である。応用例2に係る積層型静電アクチュエータ1Bは、2つの長尺なリボン状電極37、39を中心から一方向に巻いた偏平な渦巻き状の巻き構造を有する。また、対向して積層される平面部が各層のアクチュエータ部2となり、それぞれのアクチュエータ部2の外方に延びるループ状の接続部が上述した外ヒンジ部17として機能する。
【0063】
かかる構成の積層型静電アクチュエータ1Bによっても、上記折り曲げ構造の積層型静電アクチュエータ1Aと同様、効率の良い製造が可能である。また、各層のアクチュエータ部2への電圧の印加は、外ヒンジ部17を介して接続される2つのリボン状電極37、39に対して行えば良いので、配線が簡易になる。
【0064】
(3)他の実施形態
上に説明した実施形態が本発明の基本的な実施形態になるが、本実施形態の積層型静電アクチュエータ1は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本実施形態の要旨を逸脱しない範囲内での部分的構成の変更や省略、あるいは当業者において周知、慣用の技術を追加することが可能である。例えば、積層型静電アクチュエータ1の平面形状は、前述した実施形態で述べた四角形に限らず、三角形、五角形等他の多角形でもよいし、円形、半円形、長円形、楕円形等曲線を有する形状であってもよい。また、各層のアクチュエータ部2の交差角度θは、前述した実施形態で述べた90°に限らず、積層型静電アクチュエータ1の平面形状が三角形の場合には、交差角度θを60°にし、五角形の場合には交差角度θを72°にする等、他の角度に設定することが可能である。
【0065】
図7-1は、他の実施形態に係る積層型静電アクチュエータの2つのアクチュエータ部の重なり状態を説明するための説明図であり、(a)は積層方向Zから見た図であり、(b)は(a)中の位置VII-VIIにおける断面図である。第1及び第2の実施形態に係る積層型静電アクチュエータ1はいずれも、交差角度θが90°となるようにアクチュエータ部2a,2bが積層されて構成されるのに対して、他の実施形態に係る積層型静電アクチュエータは、交差角度θが90°以外の鋭角となるようにアクチュエータ部2a,2bが積層されて構成される点で相違する。上に示した実施形態の要素と同一又は類似の要素には同一又は類似の符号を付して説明を省略する。(a)に示される第1フィルム3aには上下に第1接続領域7a(実線で示す)と第2フィルム3bの第2接続領域7b(破線で示す)が配置され、(b)に示される第2フィルム3aには上下に第2接続領域7a(実線で示す)と第1接続領域7a(破線で示す)が配置される。
【0066】
積層方向Zから見るとき、図7-1(a)に示されるように、アクチュエータ部2aの第1フィルム3aの上に配置された第1接続領域7aのパターンの軸線と、アクチュエータ部2aの下に積層されたアクチュエータ部2bの第2フィルム3bの第2接続領域7bのパターンの軸線とは、交差角度θが90°以外の鋭角とで交差する。よって、積層型静電アクチュエータに積層方向Zの引っ張り力(外力)が印加されても第1フィルム3aの変形は抑制される。これに対して、図7-1(b)に示されるように、第2フィルム3aの上に配置された第2接続領域7aのパターンの軸線と、第1フィルム3aの上に配置された第1接続領域7aのパターンの軸線とは、平行であり交差しない。よって、積層型静電アクチュエータに積層方向の引っ張り力(外力)が印加されると、第2フィルム3aは変形する。
【0067】
図7-2は、図7-1に示す積層型静電アクチュエータにおける、第1接続領域7aと第2接続領域7bとが交差する条件を説明する説明図である。第1接続領域7a及び第2接続領域7bのパターンはいずれも、実質的に均一な幅dを有する直線状に形成されて等間隔に配置され、アクチュエータ部2aの第1接続領域7a及びアクチュエータ部2bの第2接続領域7bのうちいずれか一方の接続領域のパターンの軸線の、積層方向Zから見た平面における長さをLとし、一方の接続領域における積層方向Zから見た非接続領域間の幅を2×l+dとするとき(図6参照)、接続される2つのアクチュエータ部2a,2b間のパターンの軸線における積層方向Zから見た交差角度θ[rad]は、
【数2】
を満たす。
【0068】
また、接続領域7の形状や配置(パターン)も前述した実施形態で述べた形状と配置に拘らず、平面視円形または四角形のものを幅方向Xと奥行き方向Yに等間隔で配置したもの等、他の種々の形状と配置(パターン)を採用することが可能である。さらに、上記の説明では、各層のアクチュエータ部2の第1接続領域と第2接続領域はいずれも、均一な幅を有する直線状に形成されて等間隔に配置され、積層方向Zから見て第1接続領域が2つの第2接続領域間の空間の中央に位置するように配置されていたが、第1接続領域と第2接続領域は積層方向Zから見て互いに重なっていなければ、直線状である必要もなく等間隔である必要もない。
【符号の説明】
【0069】
1,101,1A,1B:積層型静電アクチュエータ、
2,2a,2b,2c:アクチュエータ部、
3:フィルム、3a,3b:第1フィルム、3a,3b:第2フィルム、
5a,5b:端部材、
7:接続領域、7a,7b:第1接続領域、7a,7b:第2接続領域、
,8:接続面部、11:空間、13:空間、15:非接続領域(またはヒンジ部)、17:外ヒンジ部、
21:導電層、23:絶縁層、37:リボン状電極、39:リボン状電極、
θ:交差角度、Z:積層方向、X:幅方向、Y:奥行き方向、X、Y:平面方向、
U:ストローク、u:距離、σ:ばね変位、d:(接続領域の)幅、l:(ヒンジ部の)長さ、
O:支点、F:(アクチュエータ部の)発生力、Z:積層方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図7-1】
図7-2】
図8
図9