(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】表面処理
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20231225BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20231225BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20231225BHJP
B29C 59/14 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C08J7/00 306
C08J7/00 CEZ
C08J7/00 CFC
H05H1/24
C08J5/24 CER
B29C59/14
(21)【出願番号】P 2020544116
(86)(22)【出願日】2018-11-02
(86)【国際出願番号】 EP2018080058
(87)【国際公開番号】W WO2019091873
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-11-01
(32)【優先日】2017-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501339171
【氏名又は名称】ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン,ナショナル・ユニバーシティ・オブ・アイルランド,ダブリン
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダウリング デニス
(72)【発明者】
【氏名】バリー ジェームス ニコラス
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0028510(US,A1)
【文献】特表2009-510207(JP,A)
【文献】特開昭51-100172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00
H05H 1/24
C08J 5/24
B29C 59/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
元の表面を有する複合材料の表面処理方法であって、前記材料は、マトリックス内に繊維を含み、前記方法は、残留熱影響部を生成することなく、複数の前記繊維の少なくとも一部分が上部に露出した状態で、新たな表面を露出させ、活性化させるように、プラズマアブレーションによって前記マトリックスの表面部分を除去することを含み、
前記プラズマアブレーションは、
(i)1800~3000l/時のイオン化ガス流、
(ii)前記材料をアブレーションできるように、プラズマノズルの高さを前記材料に十分近くにすること、
(iii)処理速度を、前記表面処理が完了するのに十分遅く、かつ、熱損傷を避けるのに十分速くすること、及び、
(iv)前記複合材料の前記元の表面へのプラズマの曝露を調節するプラズマサイクル時間(PCT)を使用して行われる、方法。
【請求項2】
(i)アブレーションされていない材料の温度を、リフローが発生する閾値温度未満に保つこと、
(ii)前記材料に対する熱損傷なしに、22~25kHzのプラズマ出力を使用することができるように、イオンガス流および前記プラズマサイクル時間を管理すること、
(iii)前記プラズマノズルの高さを9mm未満に保つこと、および
(iv)前記繊維の損傷を回避すること、
のうちの少なくとも1つを行うように、前記プラズマアブレーションを制御することをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プラズマアブレーションは、前記プラズマアブレーションは、50%~85%のプラズマサイクル時間を使用して実行される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記プラズマアブレーションは、22~25kHzのプラズマ出力を使用して実行される、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記プラズマアブレーションは、前記材料から2mm~10mmに、好ましくは、前記材料から6mm~8mmに配置された前記プラズマノズルを使用して実行される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記プラズマアブレーションは、212~309Vの電圧を使用して実行される、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記プラズマアブレーションは、50~60mm/秒の処理速度を使用して実行される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、および/または金属系繊維のうちの1つまたは複数を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記マトリックスは、エポキシなどのポリマーマトリックスである、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記活性化された表面に接着し、上部に層を形成するように構成されたプライマを使用することをさらに含み、前記プライマは、任意選択的には硬化型接着剤を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記プラズマアブレーションプロセスを監視することと、並びに、それに応じて1つまたは複数のプラズマ処理パラメータを調整することをさらに含み、前記プラズマ処理パラメータは、温度、電圧、PCT、プラズマ出力、イオン化ガス流、および処理速度のうちの1つまたは複数を含むことができ、前記監視することは、任意選択的には、光学発光分光とプラズマ音響のうちの少なくとも1つを使用して実行される、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記新たな表面を露出させるように、前記マトリックスの少なくとも100μmの深さが前記元の表面から除去される、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
1つまたは複数の繊維を全体的に露出させることにより、前記全体的に露出した繊維が前記複合材料から分離されるように、前記マトリックスの十分な深さを前記元の表面から除去し、前記複合材料から除去する、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
元の表面を有する複合材料の表面を生成し、活性化するためのシステムであって、前記材料は、マトリックス内に繊維を含み、前記システムは、プラズマを生成するように構成されたプラズマ発生器を備え、前記プラズマは、前記複合材料の新たな表面を露出させ、活性化させるように、残留熱影響部を生成することなく、前記マトリックス内の複数の前記繊維の少なくとも一部分を露出させるように、プラズマアブレーションによって前記マトリックスの表面部分を除去するように構成され、
前記プラズマ発生器は、1800~3000l/時のイオン化ガス流を提供するように構成され、
前記プラズマ発生器は、前記材料をアブレーションできるように、前記材料に十分近いプラズマノズルを介して、前記元の表面にプラズマを供給するように構成され、
前記システムは、処理速度を、表面処理が完了するのに十分遅く、かつ、熱損傷を回避するのに十分速く保つように構成され、
前記システムは、プラズマサイクル時間を使用して、前記複合材料の前記元の表面へのプラズマの曝露を調節するように構成されている、システム。
【請求項15】
前記システムは、プラズマ処理パラメータを調整できるように、前記プラズマアブレーションプロセスに関するフィードバックを提供するように構成された監視ユニットをさらに備え、任意選択的には、前記監視ユニットは、光学発光分光(OES)ユニットおよびとプラズマ音響ユニットのうちの少なくとも1つを備える、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
OESユニットを備え、前記OESユニットのプローブは、前記複合材料の作業ゾーンに向けられる、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
OESユニットを備え、前記OESユニットのプローブは、
(i)プラズマ源に対して30°~60°の角度であること、および
(ii)前記材料の前記元の表面に対して少なくとも実質的に平行かつ水平であること、
のうちの少なくとも1つになるように構成される、請求項15または請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
それぞれの部分の表面の間の境界面で接合される2つの部分を備え、少なくとも1つの前記部分は複合材料である物体の製造方法であって、
前記方法は、
前記表面を有する前記2つの部分を提供することと、
請求項1から13のいずれか1項に記載の方法を使用して、前記少なくとも1つの前記複合材料の部分の前記表面を準備することと、
前記2つの部分の前記2つの表面を接合することと、を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス内に繊維を含む複合材料の表面処理方法に関する。特に、本発明は、残留熱影響部(他の場合には、リフローとしても知られている)を生成することなく、表面の調整にプラズマ処理を使用すること、に関する。特に、本発明は、炭素繊維複合材などの軽量複合材料の1つまたは複数の部品を接合する、改良された方法に関するが、それに限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
複合材料の、特に、炭素繊維材料などのような軽量複合材料(LWC)の、修理の制御および/または結合接合の強化が必要である。LWCは、金属よりも軽量で、一般的に耐力構造の金属部品を交換するために選択される複合材料である。当業者には、本明細書に記載される発明がポリエステルガラス繊維複合材などのより重量のある複合材に対しても有用であるが、より重量のある複合材については、経済的な恩恵をさほど期待できないことが理解されるであろう。
【0003】
先行技術において、プラズマ処理は、表面同士を接合する前の表面のクリーニングおよび活性化に使用されることが知られている。プラズマ処理は、表面汚染物質を除去し、結合性を高めるように表面層にイオンを埋め込むために使用される。当技術分野で知られているように「Surface activation consists in grafting chemical functions (plasma active species) on the material surface in order to give it specific properties by varying its surface energy. The plasma composition influences the treated material superficial properties(表面活性化は、表面エネルギーを変動させることによって、物質の表面に特定の特性を与えるために、物質の表面に化学官能(プラズマ活性種)を移植することを含む。プラズマ組成は、処理された物質の表層特性に影響を与える)」(C. Tendero、C. Tixier、P. Tristant、J. Desmaison、P. Leprince、「Atmospheric pressure plasmas: A review」(Spectrochimica Acta Part B: Atomic Spectroscopy 61(1) (2006) 2~30)を参照)。したがって、表面の活性化とは、プラズマ活性種の移植による、その表面の特性の表層的な改質である。
【0004】
複合材を接合すると、資本コストと加工コストの両方を削減することができ、より小規模な構成要素を使用して、より大規模な製品を生成することが可能になる。現在、LWC材料について利用可能な結合プロセスは、LWC材料の研究および開発並びにその製造プロセスに大きく遅れを取っている。限られた接合に関する研究は、主に接着剤の再開発に集中している。これにより、金属製の締結板とボルトのいずれかが使われ続け、従来通りの金属接合が繰り返され、または「more is better(多ければ多いほどよい)」という誤った仮定に基づき、信頼性を向上させるために接着剤を用いた接合部のオーバーバルキングが行われている。現状、これらは、産業にとって好ましい選択肢とされているが、理想的な解決策とは言えず、複合材産業の技術的な発展に沿っていない。
【0005】
非モノコック形態の複合材(LWCを含む)は、構造に関する用途に、従来よりも使用されやすくなっている。これらの高荷重のシナリオでは、接合システムは極めて重要である。即ち、、制限要因(最弱リンク)であることが多いのである。そのため、特に、構造構成要素の動作保証が要件として満たされる必要がある、自動車、高級な消費財、大量輸送、エネルギー生成および航空宇宙産業などの市場に対する、産業上の利用可能性が制限される。
【0006】
また、LWC材料に関する先行技法の修理技法およびプロセスも、新たなLWC材料の研究および開発に遅れを取っている。これにより、現状の修理の選択肢が、損傷した複合材構成要素を廃棄し、交換すること、または、任意の損傷部を補強するための重金属製のプレートとボルトの追加となっている。これらの選択肢は、廃棄および交換のコストが高いこと、重量(および不均衡の可能性)が増すこと、並びに、重量増により疲労寿命が短くなる。したがって、産業的に好ましい解決策ではない。
【0007】
複合材を用いた結合修理を使用すると、複合材のポリマーマトリックスに類似した材料を使用して複合材同士を結合することによって、複合材の軽量性を維持しながら、構成要素の「廃棄および交換」に比べて修理コストの削減が促進される。しかし、従来の結合技法を使用した実験的な研究では、接着結合を使用して実行される修理は、構成要素を元の強度のわずか30~80%までしか回復できないことが示された。これにより、特に、動作保証が要件として満たされる必要がある、高級な消費財、輸送、エネルギー生成および航空宇宙産業に対する、結合の産業上の利用可能性が限定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このことから、LWC材料の均一な処理のための結合強化技法、修理技法、およびプロセスを開発する必要があることが容易に理解できよう。これは、産業レポートに反映されている。即ち、現在LWCを利用している多数の産業では、結合用途および修理用途において、機械的に固定された場合よりも優れたコスト効率を有し得る結合技法の開発が求められている。
【0009】
修理に加えて、結合剤を使用して2つ以上の別個の構成要素を組み合わせる、結合LWC構成要素の製造の改善も必要である。
【0010】
これを考慮すると、LWC(または他の複合材)の結合、接合、または修理に関して考慮すべき重要な3つの制限がある。
・頑丈かつ軽量の結合ジョイントの製造(2つ(または3つ以上の)LWC構成要素同士を結合する。これは修理作業または新製品製造の一環である。
・使用されている軽量部品の低コストの結合修理。
・複合材製のボートまたは風力タービンなどの中型/大型の複合材製の物体のオンサイト修理。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、元の表面を有する複合材料の表面処理方法であって、材料は、マトリックス内に繊維を含む、方法が提供される。本方法は、残留熱影響部を生成することなく、複数の繊維の少なくとも一部分が上部に露出した状態で、新たな表面を露出させ、活性化させるように、プラズマアブレーションによってマトリックスの表面部分を除去することを含む。
【0012】
アブレーションは、マトリックスの表面部分の昇華であっても、または昇華を含んでもよく、すなわち、マトリックス材料は、最初に融解または炭化することなく、気体として直接的に放出される場合がある。
【0013】
本方法は、露出した繊維を損傷することなく、複数の繊維の少なくとも一部分が上部に露出した状態で、新たな表面を露出させ、活性化させるように、プラズマアブレーションによってマトリックスの表面部分を除去することを含む。
【0014】
アブレーション前には、繊維が露出していなくてもよい。アブレーション前ではなくアブレーション後に、より多くの繊維が露出していてもよい。代替的に、またはそれに加えて、アブレーション後に、1つまたは複数の既に部分的に露出している繊維が露出していてもよい。
【0015】
当業者には、既存の複合材表面のマトリックス材料のプラズマ活性化は既知であるが、マトリックス材料を除去して新たな表面を露出させるためにプラズマを使用することは、現在の手法からの著しい逸脱であることが理解されよう。先行技術のシステムでは、一般に、表面オイルやグリースなどの「弱有機材料」は除去されるが、マトリックスはアブレーションされない。さらに、マトリックス材料を除去することによって繊維を露出させると、好ましいことに、適用された層または材料中に露出した繊維が広がるので、接着剤あるいは他の適用された層または材料により強力に結合することが可能になる。
【0016】
2014年のV. Lawらの論文「Air based atmospheric pressure plasma jet removal of FreKote 710-NC prior to composite-to-composite adhesive bonding(複合材料-複合材料を接着剤接合する前にFreKote 710-NCの空気ベースの大気圧プラズマジェット除去)」(Int. J. of Adhesion and Adhesives,Vol.54,2104)において、著者は、表面汚染物質を除去するためのプラズマ処理方法の試験時に、複合材マトリックス材料が偶発的に除去されたことを報告している。しかし、この論文に記載されているように、残留熱影響部(HAZ)が形成される。「the thermally affected zone expands outwards with the plasma ablating the tip resin layer; after charring it comes away from the surface exposing the underlying carbon weave(熱影響部は、プラズマが先端樹脂層をアブレーションすると、外側に広がり、炭化の後、表面から除去され、下にある炭素ウィーブが露出する)」(引用文献の75ページの1から2列目にまたがる文)。HAZは、材料特性に悪影響を及ぼすことが知られているので、HAZ形成を回避することが望ましい。しかしながら、マトリックスの除去とHAZを用いないマトリックスの除去との間には技術的な飛躍がある。
【0017】
さらに、V. Lawらの論文に開示される材料の除去はアブレーションとして説明されているが、この除去は、表面をゆっくりと炭化させた、マトリックス材料を燃焼させた結果である。したがって、この除去は材料に対する熱損傷の結果である。対照的に、本発明によると、熱損傷および炭化させることなく、昇華または気化によってマトリックス材料が除去される。
【0018】
V. Lawらの論文には、可能な限り少ない回数のマトリックス除去を継続しながら、HAZ形成を回避して、プラズマ処理を制御することは示唆されていない。発明者らは、残留複合材の温度をガラス転移温度Tg超まで上昇させることなく、複合材表面からマトリックス材料をアブレーションすることにより、複合材料の特性に対する負の熱効果が回避されることを確認した。本明細書では、好適なプラズマ処理パラメータを開示し、それについて論じる。
【0019】
本方法は、
(i)アブレーションされていない材料の温度を、リフローが発生する閾値温度未満に保つこと、
(ii)処理速度を、表面処理を完了できる程低速でありながら、かつ、熱損傷を回避できる程度には早く保つこと、
(iii)材料に対する熱損傷なしに、22~25kHzのプラズマ出力を使用することができるように、イオンガス流およびプラズマサイクル時間を管理すること、
(iv)(材料に熱損傷を与えることなく)材料をアブレーションすることができるように、ノズルの高さを材料に十分に近くに、任意選択的には9mm未満に保つこと、および
(v)プラズマ体積当たりのプラズマ反応性種の数を増加させるようにイオン化ガス流を低く、任意選択的には、1バールで3000l/時未満に保つように、プラズマアブレーションを制御すること、
のうちの少なくとも1つ、任意選択的にはすべてを行うように、プラズマアブレーションを制御することをさらに含む。
【0020】
プラズマアブレーションは、任意選択的には、約1バールで1800~2200リットル/時のイオン化ガス流を使用して実行される。
【0021】
当業者には、イオン化ガス流は、様々な他のパラメータよりも、アブレーションプロセスに対してより顕著な寄与因子である、繊維の損傷/保存、ポリマーアブレーション、および表面活性化に影響を与え得ることが理解されよう。一般に、ガス流量が低いほど良く、よりゆっくりと移動することに起因して、エネルギー供給チャンバ内を遷移する際にガスに十分にエネルギー供給し、持続プラズマを生成するのに十分なガスを供給することが可能になる。
【0022】
プラズマアブレーションは、任意選択的には、50%~85%のプラズマサイクル時間(PCT)を使用して実行される。
【0023】
当業者には、PCTはプラズマのオン/オフサイクルを制御するものであることが理解されよう。即ち通常、動作中により多くのプラズマが「オン」になっているほど(PCTが高いほど)、表面に遭遇する反応種が多くなる。様々な実施形態において、安定したプラズマを維持しながら、PCTを現実的に可能な限り低いレベルで使用することにより、繊維の損傷が回避または低減され、マトリックス除去が改善されることが確認された。
【0024】
プラズマアブレーションは、任意選択的に、22~25kHzのプラズマ出力を使用して実行される。
【0025】
当業者には、プラズマ出力の周波数は、イオン化ガス(電子、反応種、イオンなど)内の反応種を選択的に励起するエネルギーを提供し得ることが理解されよう。周波数の制御により、プラズマの熱的性質の制御が促進され得る。周波数の調整により、プラズマ中に存在する反応性種、即ち相対的なエネルギーおよび温度が決定され得る。先行技術の大気圧プラズマ処理法と比較して、様々な実施形態で使用される周波数は比較的高く、熱効果を相殺するために、PCTは低くなり得る。
【0026】
プラズマアブレーションは、任意選択的には、材料から2mm~10mmに、好ましくは、材料から6mm~8mmに、たとえば、表面から7.5mmに配置されたプラズマノズルを使用して実行される。
【0027】
産業上の慣習とは異なるが、発明者らは、ノズルの高さを低減すること(すなわち、処理/アブレーションされる区域にノズルを近づけること)で、HAZ形成を回避しながら、プラズマ表面処理に利点をもたらし得ることを確認した。本明細書で特定されている範囲は、HAZを回避しながらの活性化を実現するため、産業界で一般的に許容される範囲を著しく下回っている。
【0028】
プラズマアブレーションは、任意選択的には、50~100mm/秒の(または任意選択的には、たとえば、速度限界がより高いロボットシステムについてはそれよりも高い)、任意選択的には50~60mm/秒の処理速度を使用して実行される。
【0029】
発明者らは、処理速度を高め、それによって処理される物質の各部分のプラズマ曝露時間を短縮したことにより、ノズルを近づけた(表面からのノズルの高さが低減された)結果としての、材料に対する損傷の可能性が相殺され得ることを確認した。上記の処理速度を仮定すると、処理される複合材表面の任意のスポットの曝露時間は、典型的には、0.05~0.1秒とすることができ、先行技術のシステムよりも大幅に短縮される。
【0030】
プラズマアブレーションは、任意選択的に、212~309Vの、任意選択的に275~309Vの電圧を使用して実行される。
【0031】
当業者には、この電圧がプラズマのストライク電圧であることが理解されよう。この電圧は、安定したプラズマを形成することができ、処理される材料と相互作用する間、安定したプラズマを維持するように作用する。使用される電圧が高すぎた場合、繊維の損傷を引き起こし得る。
【0032】
様々な実施形態では、発明者らは、プラズマ処理プロセスが、特に影響を受けやすい、以下の4つのプラズマパラメータを特定した。
i.イオン化ガス流、
ii.ノズルの高さ、
iii.処理速度、および、
iv.プラズマサイクル時間。
【0033】
これらのパラメータは、処理中のマトリックスの除去、繊維の完全性、および表面のエネルギー供給に大きな影響を与え得る。特に、最初の2つのパラメータを変更すると、様々な実施形態において有益な効果をもたらすことが確認され、業界基準からの逸脱により、様々な状況において有益な効果があることを示すことが分かった。
【0034】
繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維、および/または金属系繊維のうちの1つまたは複数を含み得る。
【0035】
マトリックスは、ポリマーマトリックス、たとえば、エポキシなどの有機ポリマーマトリックスであり得る。
【0036】
本方法は、任意選択的には、活性化された表面に接着し、上部に層を形成するように構成されたプライマを使用することをさらに含む。プライマは、硬化型接着剤を含み得る。
【0037】
本方法は、任意選択的には、プラズマアブレーションプロセスを監視することと、並びに、それに応じて1つまたは複数のプラズマ処理パラメータを調整することをさらに含む。調整されるプラズマ処理パラメータは、温度、電圧、PCT、プラズマ出力、イオン化ガス流、ノズルの高さ、および処理速度のうちの1つまたは複数を含み得る。
【0038】
監視することは、任意選択的には、光学発光分光(OES)とプラズマ音響のうちの少なくとも1つを使用して実行される。
【0039】
OESを使用する実施形態では、OESユニットのプローブは、プラズマが複合材料に対して作用する作業ゾーンに向けられ得る。
【0040】
OESを使用する実施形態では、OESユニットの光学プローブは、アブレーションされる材料の平面に対して30°~60°の、好ましくは55°~60°の角度で、あるいは、プラズマ源/プルームに対して30°~60°の、好ましくは30°~35°の角度で配置され得る。
【0041】
当業者には、プラズマ源/プルームは、一般に、処理されるマトリックスの表面に対して直角に配置され得ることが理解されよう。
【0042】
新たな表面を露出させるように、マトリックスの少なくとも100μmの深さが元の表面から除去され得る。
【0043】
1つまたは複数の繊維を全体的に露出させることにより、全体的に露出した繊維が複合材料から分離されるように、マトリックスの十分な深さを元の表面から除去してもよく、複合材料から除去することができる。
【0044】
本発明の第2の態様によれば、元の表面を有する複合材料の表面処理方法であって、材料は、マトリックス内に繊維を含み、方法は、複数の繊維の少なくとも一部分が上部に露出した状態で、新たな表面を露出させ、活性化させるように、プラズマアブレーションによってマトリックスの表面部分を除去することを含み、方法は、1バールの圧力で3000l/時未満のイオン化ガス流を使用することを含む、方法が提供される。
【0045】
本方法は、複数の繊維の少なくとも一部分を露出させるように、プラズマアブレーションによってマトリックスの表面部分を除去することを含み得る。
【0046】
当業者には、イオン化ガスの圧力および/または流量を比較的低く(たとえば、1バールの圧力で3000l/時に)保つことは、HAZの形成を回避するのに役立ち得ることが理解されよう。
【0047】
当業者には、米国特許第5900104A号に開示されるような低圧プラズマ処理システムは、ほぼ真空の圧力を達成するように、密閉型プラズマ処理チャンバを必要とすることが理解されよう。たとえば、米国特許第5900104A号の真空ポンプを使用して、チャンバ圧力が0.4トル(約0.5ミリバール、または約53Pa)に設定される。したがって、当業者には、1バール(約750トルまたは約100MPa)の圧力で3000l/時未満のイオン化ガス流を使用することは、低圧プラズマ処理システムでは現実的ではなく、不適切であることが理解されよう。
【0048】
当業者には、第1の態様の方法は、大気圧プラズマ処理システムを使用して実行され得ることが理解されよう。当業者には、これが、真空密閉型チャンバおよび真空ポンプが不要となり得るという点で好ましいことが理解されよう。
【0049】
本発明の第2の態様の方法は、第1の態様に関して説明した特徴のうちのいずれかまたはすべてを含み得る。
【0050】
本発明の第3の態様によれば、元の表面を有する複合材料の表面を生成し、活性化するためのシステムであって、材料は、マトリックス内に繊維を含む、システムが提供される。本システムは、プラズマを生成するように構成されたプラズマ発生器を備え、プラズマは、複合材料の新たな表面を露出させ、活性化させるように、残留熱影響部を生成することなく、マトリックス内の複数の繊維の少なくとも一部分を露出させるように、プラズマアブレーションによって前記マトリックスの表面部分を除去するように構成される。
【0051】
本発明の第4の態様によれば、元の表面を有する複合材料の表面を生成し、活性化するためのシステムであって、材料は、マトリックス内に繊維を含み、システムは、プラズマを生成するように構成されたプラズマ発生器を備え、プラズマは、複合材料の新たな表面を露出させ、活性化させるように、マトリックス内の複数の繊維の少なくとも一部分を露出させるように、プラズマアブレーションによってマトリックスの表面部分を除去するように構成され、システムは、1バールの圧力で3000l/時未満のイオン化ガス流を提供するように構成されている、システム。
【0052】
当業者には、イオン化ガスの圧力および/または流量を比較的低く(たとえば、1バールの圧力で3000l/時)保つことは、HAZの形成を回避するのに役立ち得ることが理解されよう。
【0053】
第3または第4の態様のシステムは、プラズマ処理パラメータを調整できるように、プラズマアブレーションプロセスに関するフィードバックを提供するように構成された監視ユニットをさらに備え得る。
【0054】
監視ユニットは、光学発光分光ユニットおよびプラズマ音響ユニットのうちの少なくとも1つを備え得る。
【0055】
光学発光分光(OES)ユニットを備えるシステムでは、OESユニットのプローブは、複合材料の作業ゾーンに向けられ得る。プローブは、プラズマ源に対して30°~60°の角度で配置され得る。
【0056】
本発明の第5の態様によれば、それぞれの部分の表面の間の境界面で接合される複合材の2つの部分を備える物体であって、表面の内の少なくとも一方は、接合の前に、本発明の第1または第2の態様の方法、あるいは本発明の第3または第4の態様のシステムを使用して調整された、物体が提供される。
【0057】
当業者には、接合の前に、本発明の第1または第2の態様の方法、あるいは本発明の第3または第4の態様のシステムを使用すると、他の同等の複合材の接合と比較して接合強度を高め、それにより、物体の強度を高め得ることが理解されよう。
【0058】
複合材の3つ以上の部分を1つに結合してもよい。
【0059】
プラズマアブレーションによるマトリックスの一部分の除去は、マトリックスの一部分がガスを形成するように、マトリックスの昇華エネルギーポイントを超えて複合材料の一部分に熱力学的にエネルギー供給するために、プラズマのイオン化エネルギーを使用することを含む。したがって、本明細書に記載されるプラズマアブレーションは、プラズマ昇華として説明され得る。任意選択的には、連続的なプラズマ流により、昇華されたマトリックス材料が除去される場合がある。
【0060】
当業者には、本明細書に開示される様々な形態のアブレーションプロセスは、結合接合の強度を高めることによって、接合された2つの構成要素間の結合強度を高めるために使用され得ることが理解されよう。
【0061】
当業者には、記載されるプロセスは、結合修理または製造のための複合材料、特に複数の構成要素で構成される複合材料の処理に適用され得ることが理解されよう。この技法により、これらの材料の軽量接合の可能性が高まり、重い金属製のボルトおよびプレートを使用して個々の構成要素を一緒に固定する従来の方法が不要になる。従来の方法には、複合材料の物体の重量全体も増加する一方で、設計製品の疲労限界が生じ、それによって、複合材料の使用による重量に関する利点が低減されることが示されている。当業者には、重量がしばしば、特に自動車産業および航空産業において主要な因子なることが理解されよう。さらに、複合材料は、金属よりも設計自由度が高く、様々な形状および設計が可能になり得る。たとえば、ボルトの必要性を低減または排除される。
【0062】
本明細書に開示されるアブレーション処理は、結合のために表面を調整することを意図とした先行技術の表面処理技法と比較して、以下の利点の1つまたは複数を提供し得る。
【0063】
本発明の実施形態は、熱影響部(HAZ)が形成されない状態で、複合材料(たとえばLWC)から、マトリックスの上部層(たとえば、有機マトリックスまたはポリマーマトリックス)を比較的迅速に除去することができる、制御された簡潔で環境に優しいプロセスを提供し得る。したがって、下方の損傷していない複合繊維構造が露出され得る。これにより、露出した繊維が、後続の結合プロセスにおいて相互作用し、接合部の繊維の強化および結合区域の増加を通じて結合接合を(修理または製造のいずれかのために)強化することができる。
【0064】
第2に、プラズマは、残りの新たに露出した表面を「活性化」し、表面エネルギーを増大させる。これにより、繊維構造と残りのマトリックスとの結合性がさらに向上し、結合剤と繊維構造との間の化学結合の形成が促進され、境界面の接着の強化が提供され得ることが、当業者には理解されよう。対照的に、従来の結合技法は、一般に繊維よりも弱いマトリックス材料への結合に依拠している(これは複合材結合に対する現在の標準的な手法の限界である)。
【0065】
当業者には、発明の一態様に関して説明される特徴は、必要な変更を加えて、本発明の他の態様に適用され得ることが理解されよう。
【0066】
次に、添付の図面を参照して、本発明の実施形態の詳細な説明を単に例として以下の通り示す。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【
図1】一実施形態の方法を実行するように構成された、一実施形態のシステムの概略図である。
【
図2】プラズマアブレーションの前、プラズマアブレーション中、およびプラズマアブレーション後の複合材料の元の表面および新たな表面を概略的に示す。
【
図4】プラズマエネルギーが所望の範囲へと増大する際の複合材表面に対するプラズマエネルギーの効果を示す、複合材表面の画像である。
【
図5】プラズマエネルギーが高すぎる結果として生じる繊維の損傷を示す複合材表面の画像である。
【
図6】本発明に沿って生成された接合部の引張結合強度と、先行技術の技法を使用して生成された接合部の引張結合強度とを比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0068】
図1は、複合材料104のプラズマアブレーションを示す。プラズマ106は、プラズマユニット102のノズル102aを介して供給される。図示の実施形態では、ノズル102aを、複合材料104に対して矢印Aで示された方向に移動させる。代替または追加の実施形態では、複合材料104を、固定ノズルまたは可動ノズル102aに対して移動させてもよい。たとえば、複合材料104は、可動式のサンプルマウントに搭載され得る。ノズル102aに対するサンプルの移動速度は、処理速度と呼ばれる。
【0069】
複合材料104は、マトリックス104b内に繊維104aを含んでいる。
【0070】
記載されている実施形態では、繊維104aは、炭素繊維である。代替または追加の実施形態では、たとえば、ガラス繊維、アラミド繊維、バサルト繊維など、他の繊維を使用してもよい。いくつかの実施形態では、列記した繊維104aに加えてまたはその代わりに、金属系繊維を使用してもよい。好ましくは、繊維104aは材料104を補強する。
【0071】
記載されている実施形態では、マトリックス104bはポリマー樹脂を含んでいる。代替または追加の実施形態では、他のマトリックス材料を、たとえば、好適な有機マトリックス材料、または当技術分野で知られているような材料の組み合わせを使用してもよい。マトリックス104bについて、以下のリストのうちの1つまたは複数を含む多くのポリマー材料が使用され得る。
・ポリエステル(不飽和)、
・エポキシ、
・ポリアミド、
・ポリカーボネート、
・ポリエチレン(PE)、
・高密度ポリエチレン、
・ポリフェニレンスルファイド(PPS)、
・ポリエーテルイミド(PEI)、および
・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)。
【0072】
記載されている実施形態では、材料104は、軽量複合材料(LWC)である。
【0073】
以下に記載する本発明の実施形態は、大気圧空気プラズマの使用に関する。代替または追加の実施形態では、他のタイプおよび圧力のプラズマを、たとえば、低圧(すなわち、大気圧未満の任意の圧力)のプラズマまたは真空プラズマを使用してもよく、並びに/あるいは、空気の代わりに、酸素、ヘリウムもしくは窒素、またはそれらの1つまたは複数の組み合わせなどの代替的なイオン化ガスを使用してもよい。代替的に、またはそれに加えて、メタンなどの1つまたは複数の有機ガスを使用してもよい。
【0074】
記載されている実施形態では、ブローンアークプラズマが使用される。代替または追加の実施形態では、誘電体バリア放電プラズマを使用してもよい。当業者には、誘電体バリア放電プラズマを使用する実施形態では、プラズマプルームに同じエネルギーを供給できるように、必要に応じていくつかのパラメータを調整し得ることが理解されよう。
【0075】
プラズマ106は、軽量複合材(LWC)ポリマー材料の制御されたアブレーションに使用される。制御されたアブレーションは、その後の結合用途のために、マトリックス材料104bの元の表面層110の下方の繊維構造を露出させる。
【0076】
図1に示した実施形態では、プラズマアブレーションは、(PlasmTreat、PVA TePlaなどの供給業者から)市販されるプラズマ源を使用して実行される。
【0077】
図1に示したアブレーションプロセスは、制御された処理条件下でプラズマ106のイオン化エネルギーを利用して、元の複合材料104の上部層110にエネルギー供給する。これが達成されると、このプロセスによってアブレーションされた固体の材料108は、効果的に「昇華する」(ガス状になる)。
図1に示した実施形態では、アブレーションされた材料108は、プラズマガス流で拭い取られる。
【0078】
当業者には、アブレーションされたマトリックス材料108は、一般に、有機ガスとして放出される(一般に、エポキシまたは他の有機ポリマーなどの有機材料が使用される)ことが理解されよう。ガスはプラズマ106と相互作用し、プラズマ106の一部分になることができる。したがって、プラズマ106の組成が影響を受ける可能性がある。当業者には、システム100の圧力勾配によって有機ガスが全般的に自然に排出され、したがって、プラズマプルーム106内に長くはとどまらないことが理解されよう。
【0079】
このアブレーション(または昇華)プロセスは、プラズマシステム100によってマトリックス104bへと供給されるエネルギーを吸収し、好ましいことに、残りのマトリックス材料104bおよび繊維材料104aにおいて熱影響部(HAZ)が生成される機会を制限する。好ましくは、このエネルギー吸収により、繊維104aが損傷されないエネルギーレベルまで十分に低下される。当業者には、熱影響部は、母材の、微細構造および特性が熱によって変化する区域であり、これは、その強度と結合性に重大な影響を与え得ることが理解されよう。また、熱影響部は、「リフロー」と記載され、観察されることもある。本発明の実施形態では、プラズマアブレーションパラメータは、リフローが発生しないように制御される。
【0080】
当業者に、ポリマー系材料(ポリマーマトリックス材料を含む繊維強化複合材を含む)では、熱影響部(HAZ)は、融解温度(Tm)には十分に達さないが、ガラス転移温度(Tg)を超える熱に曝露されると発生し、ポリマー材料の微細構造変化を引き起こすことが理解されよう。当業者には、エポキシなどの熱硬化材料は一般に、硬化プロセス中に化学架橋され、したがって、(熱可塑性材料とは異なり)加熱時に融解せず、その代わりに材料が破壊するので、Tmが適用できなくなることが理解されよう。しかしながら、熱硬化性材料は、上昇した温度では、依然としてわずかに軟化(位相変化)することがあり、したがって、Tgは適用可能なままである。
【0081】
材料のTgを超える温度は、局所的な材料特性を変化させ、多くの場合、脆弱区域および/または動作障害(疲労)に対する感受性の増大を引き起こす。一般に、当業界では、Tgを超える熱(その結果、HAZ形成につながる)は、溶接動作または熱を利用する切断動作中に適用され得るが、制御されていないプラズマ処理の結果、HAZが出現し得ることも当業界では広く理解されている。
【0082】
記載されている実施形態では、HAZは、比較的低いイオン化ガス流量と(先行技術の大気プラズマ処理法に比べて)比較的速い処理速度と組み合わせた処理高さとを使用して、かつ、複合材料104の表面へのプラズマプルームの特性エネルギー曝露を調節するためにプラズマサイクル時間(PCT)を使用して、ポリマー除去プロセス中に回避される。当業者には、これによって、複合材料104に十分なエネルギーを供給して、Tgを超えることなく、ポリマーマトリックス材料をアブレーションさせることが可能になり得ることが理解されよう。特に、アブレーションされた材料は、Tgに達しても達しなくても、あるいはTgを超えても超えなくてもよいが、残りの材料はTgに達しない。いくつかの実施形態では、アブレーションされた材料でさえも、Tgに達しない。
【0083】
図1および
図2に示した実施形態では、複合材料104は、元の表面110を有している。
【0084】
記載されている実施形態では、プラズマユニット102のノズル102aは、左から右へと移動し、複合材104のマトリックス材料104bの層をアブレーションする。材料104bのアブレーションにより、元の表面の下の新たな表面120を露出させる。
【0085】
プラズマアブレーションパラメータは、マトリックス材料104bを除去するが繊維104aを損傷しないように制御される。複数の繊維104aを露出させるために、十分なマトリックス材料104bが除去される。
【0086】
当業者には、プラズマ特性を制御するパラメータは、繊維の完全性/繊維の損傷に影響を与え得ることが理解されよう。記載されている実施形態では、パラメータは、ポリマーマトリックス104bの除去によって露出した繊維104aの完全性を維持するように選択され、制御される。当業者には、いくつかの実施形態では、イオン化ガス流量および/またはノズルの高さが、繊維の損傷および/またはHAZの形成が特に影響を受けやすいパラメータであり得ることが理解されよう。当業者には、繊維104aまたはマトリックス104bに対する熱損傷を引き起こさずに、マトリックスの除去を達成するために十分なエネルギーを提供することは、これらおよび他のプラズマパラメータの慎重な選択および制御が求められ得ることが理解されよう。特に、プラズマサイクル時間(PCT)と処理速度とが相互作用することがあり、ガスに多くのエネルギー供給が行われた(比較的低い流量に起因する)および/またはノズルが閉じた(ノズルの高さが低減された)結果として生じる繊維完全性の損傷に対する損傷を低減または回避するために、PCTを短縮しても、または処理速度を増大させてもよい。
【0087】
炭素繊維104aが内部に埋め込まれているエポキシマトリックス材料104bについて実施された研究では、イオン化ガス圧力の変化は、試験された範囲において、繊維の完全性に対して、他の列記されたパラメータ(プラズマ出力(kHz)、プラズマサイクル時間(%)、ノズルの高さ(mm)、および処理速度(mm/秒))
のいずれかよりも大きな影響を与えることが分かった。他のパラメータは、エポキシを試験した場合、繊維の完全性に対してごくわずかしか影響を与えないことが分かった。
【0088】
これらの研究では、ノズルの高さおよびガス圧力の変化は、ポリマーアブレーションに対して最も大きな影響を与え、ノズルの高さの影響は、ガス圧力の影響よりもわずかに強いことが分かった。プラズマ出力の変化は、アブレーションに対してごくわずかな影響しか与えず、他のパラメータは、中程度の影響を与えることが分かった。
【0089】
また、ノズルの高さの変化は、プラズマ活性化に対して最も大きな影響を与えることが分かった。プラズマ出力、PCT、およびガス圧力の変化は、活性化に対してごくわずかな影響しか与えないことが分かった。
【0090】
当業者には、どの因子が優勢であるかと、最適なパラメータの組み合わせとは、異なるマトリックス材料について、材料の熱特性および他の特性に応じて変動し得ることが理解されよう。たとえば、エポキシ(熱硬化)およびPEEK(熱可塑性)は、大きく異なる特性を示すことがあり、その結果、パラメータの様々な組み合わせに最も適していることがあるが、PEEK(熱可塑性)およびPPS(ポリフェニレンスルファイド、熱可塑性)の特性は、したがって、好適なパラメータの組み合わせは、非常に類似していることがある。
【0091】
本発明の様々な実施形態では、処理後に、HAZが存在せずに、繊維104aを元の状態で機能的なまま保つことができるように、これらのパラメータのバランスが選択される。さらに、記載されている実施形態では、新たに露出した表面の最大限の活性化を達成することは、(活性化が不十分な場合には、さらなるプラズマ活性化ステップを使用し得るので)第2の考慮事項であるが、様々な実施形態は、高い繊維の完全性とHAZの回避に加えて、良好なレベルの活性化を提供する。
【0092】
図1および
図2に示した例では、一部の繊維114aについて、十分なマトリックス104bが除去され、材料104から分離している。これらの繊維114bは、プラズマ流により除去されても、あるいは他の場合には、表面の結合前に除去されてもよい。
【0093】
図1および
図2に示した例は、一方向繊維104aの交互に直交した層を含んでいる。プラズマ流は、一般に、緩んでいる繊維のみを除去するように構成される。好ましくは、部分的に混入した繊維(任意のポイントにおいて残留樹脂/ポリマー104bに依然として付着しているもの)は、任意の後続の結合プロセスにおいて接着剤間のさらなるアンカーとして作用し得るので保持される。
【0094】
織布複合材を使用する実施形態では、最上部の繊維104aは、典型的には、下方の他の繊維と(経糸/横糸形式またツイル形式で)織り交ぜられる。このような実施形態では、繊維ウィーブの上部が露出され得るが、各繊維104aの最下点は、一般に、マトリックス104bに付着したままである。このような実施形態では、一般に、繊維はまったく除去されない。
【0095】
プラズマはまた、新たな表面120も活性化する。
【0096】
図1および
図2に示した実施形態では、元の表面110の深さd内には繊維104aがない。先行技術の複合材サンプルでは、深さdは、ナノメートル(nm)から数十もしくは数百マイクロメートル(μm)の範囲内であることが多い。
【0097】
したがって、元の表面から除去された材料の深さは、記載されている実施形態では、数ナノメートル~数十もしくは数百マイクロメートルであり、200~400μmのオーダーであることが多い。
【0098】
当業者には、深さdは、材料およびプロセスに依存し、それ応じてアブレーションされた深さが制御できることが理解されよう。アブレーション深さは、下方の繊維構造の少なくとも一部分を露出させるのに十分な材料104bを除去するように選択される。
【0099】
当業者には、同じポリマーパラメータおよびプラズマパラメータについても、除去深さが変動し得ることが理解されよう。たとえば、オートクレーブを使用して生成されたエポキシ複合材は、同じ成分で構成されているにもかかわらず、プレスクレーブを使用して生成されたエポキシ複合材とは異なるアブレーションエネルギーを有することがある。当業者には、固結プロセスはプレスクレーブにおいてより基本的なものであるので、除去がより迅速になり、したがって、所与のプラズマパラメータを用いてプレスクレーブで処理された材料について、潜在的な除去深さはより高くなることが理解されよう。
【0100】
当業者には、繊維が露出する程度は、繊維を含まないマトリックスの深さがサンプルによって変動し得るので、多くの場合、マトリックス除去の深さよりも有用なメトリックであり、かつ、下にある繊維の露出は、本明細書に開示される技法を使用する結合を改善することが理解されよう。
【0101】
図3は、様々な実施形態の方法200を要約したものである。
【0102】
ステップ202において、複合材料104を取得する。複合材料104は、マトリックス104b内に繊維104aを含み、元の表面110を有する。複合材料104は、LWCの場合であってもよい。
【0103】
ステップ204において、マトリックス104bの表面部分をプラズマアブレーションによって除去する。マトリックス材料を除去すると、元の表面110の下方の新たな表面120が露出する。マトリックス104b内の複数の繊維104aの少なくとも一部分が露出されるように、十分なマトリックス材料104bが除去される。好ましくは、これにより、新たな表面120に後で適用される接着剤または他のコーティング内に、繊維104aを埋め込むことが可能になる。
【0104】
いくつかの実施形態では、一部の繊維104aを材料104から完全に分離してよく、また、除去してもよい。
【0105】
好ましくは、繊維104aが損傷していない。
【0106】
ステップ206において、新たな表面120を活性化させる。
【0107】
当業者には、プラズマは、材料104の一部分を除去するだけでなく、結果的に露出した表面120を活性化させることが理解されよう。したがって、ステップ204および206は、一般に、厳密には連続的ではなく、プラズマ106が複合材104と相互作用するのと並列で行われる。ステップ204および206は、複合材料の表面の調整と考えることができる。
【0108】
図4および
図5は、エポキシ系複合材に対して実施された試験のプロセス結果を示している。
【0109】
図4の左端の画像400は、複合材料104の元の表面110を示している。繊維104aが表面の下方にあるので、マトリックス材料104bのみが見えている。
【0110】
中央の画像410は、プラズマエネルギーが比較的低く設定されたプラズマを用いた処理後の表面を示している。一部の繊維104aが露出しているが、上部繊維層の多くの繊維は、依然として、マトリックス材料104bの下方に隠れている。
【0111】
右端の画像420は、中央の画像の表面を生成するために使用されるよりも高くプラズマエネルギーが設定されたプラズマを用いた処理後の表面を示している。繊維104aは、表面120の全体にわたって露出している。記載されている実施形態では、繊維構造の完全な露出が望まれるので、これは理想的なアブレーションと言える。
【0112】
図5は、プラズマエネルギーが高すぎる場合に発生し得る繊維の損傷500を示している。本発明の実施形態では、繊維の損傷を回避するために、プラズマアブレーションパラメータが制御される。プラズマの損傷に起因して端部が粗くなった状態(510)で繊維104aが破損していることが分かる。
【0113】
プラズマ評価およびプロセス制御の研究に加えて、前処理され、処理されたエポキシ系複合材サンプルの各種に対して、機械的な「プル」(引張)予備試験を実施した。
図6に結果を示す。
【0114】
先行技術では、強化結合用途に、典型的には、湿式剥離(wet peel-ply)および機械的粗面化(機械的アブレーションとも呼ばれる)が使用される。これらの処理技法および処理技法は、未処理のサンプルに加えて、ベンチマーキング目的の試験に含まれていた。
【0115】
その結果、本明細書に開示するプラズマ技法を使用してアブレーションされたサンプルの境界面結合強度は、他の3つのサンプルと比較して上昇していることが示されている。
【0116】
以下に、発明の実施形態のためのプラズマパラメータの選択について説明する。
【0117】
図5または
図6に結果が示されるような初期検査では、使用されたプラズマアブレーションパラメータを、元の表面および新たな表面の視覚的な顕微鏡的観察に基づいて決定した。プラズマエネルギーは、繊維の露出が不十分なとき(410)には低すぎ、繊維の損傷が観察されたとき(510)には高すぎると考えられた。
【0118】
監視システム(図示されていない)は、代替実施形態における視覚的な顕微鏡的観察の代わりに、あるいはそれと共に使用される。
【0119】
いくつかのこのような実施形態では、監視システムは、プラズマ音響分光ユニットと光学発光分光ユニットのうちの少なくとも1つを備え得る。当業者には、in situで監視すると、マトリックス104bが除去されるレベルまでプラズマエネルギーを徐々に増大し、繊維の損傷またはリフローの兆候が発現した場合には、処理を中断することなく、プラズマエネルギーを低減することが可能になることが理解されよう。
【0120】
図4に示す表面120、420について、表Iに示すプラズマアブレーションパラメータを使用した。試験対象の材料104は、炭素繊維104aが内部に埋め込まれているエポキシマトリックス104bを含んでいる。この実施形態では、表面から、100~200μmの深さの材料を除去した。この実施形態では、複合材104の繊維104aをツイル(織布)パターンで配置し、その結果、表面全体にわって、除去された深さが変動した。
【0121】
【0122】
この材料104についてのいくつかの一般的なパラメータ範囲を表IIに示す。当業者には、エポキシと類似した特性を有する他の様々なポリマーについて、類似した範囲が適している可能性が高いことが理解されよう。一般的なプラズマアブレーションパラメータ範囲を、3つの特定の基材条件(ポリマー除去、繊維の完全性、残留表面活性化)に関連して評価した。この評価を使用してパラメータを精査し、その結果、表Iに示した選択を行った。当業者には、パラメータが相互依存性であることが理解されよう。
【0123】
たとえば、選択した処理速度および他のパラメータには、少なくとも70%のプラズマサイクル時間(PCT)および少なくとも275Vの電圧が必要であることが分かった。エポキシについては、75%のPCTおよび309Vの電圧を選択した。様々なタイプの材料についてPCTを増大させ、特に、PEEKなどの熱耐性の高い材料については、エネルギー曝露を増大させることができる。
【0124】
一般に、イオン化ガス流およびプラズマ出力は、本明細書で論じるように、プラズマアブレーション200の2つの重要なパラメータであり、ノズルの高さがそれに続く。次いで、イオン化ガス流およびプラズマ出力の選択後、残りのパラメータを適宜調整した。
【0125】
当業者には、いくつかの実施形態では、適切な材料および他のパラメータの組み合わせについて、複合材から6mm未満または8mm超に配置されたノズルを使用して、プラズマアブレーションを実行できることが理解されよう。たとえば、PEEKは、融解温度が高い高エネルギー物質なので、同じレベルの他のパラメータについて、エポキシと比較してノズルの高さを下げることができる。たとえば、ノズルの高さが6mmであるエポキシと共に使用するのに好適なプラズマパラメータのセットについて、PEEKについては、2mmのノズル高さが適していることがある。対照的に、特定の材料について、10mmのノズルの高さには、2mmのノズルの高さと比較して、より高エネルギーのプラズマが一般に必要とされる。いくつかの実施形態では、所望の作業ゾーンにおいて(すなわち、処理される複合材の表面の区域で)所望のプラズマ特性を得るように、他のプラズマパラメータを選択した後にノズルの高さを微調整する。
【0126】
【0127】
当業者には、本明細書で論じる実験は、すべて約1バールのガス圧力を使用して実施されたことが理解されよう。しかしながら、他の好適な圧力を使用してもよく、当業者には、ガス流における単位時間当たりの該または各ガスのモル数を節約するために、ガス流(表IIでは、リットル/時単位)を調整(たとえば、低減)し得ることが理解されよう。
【0128】
当業者には、いくつかの実施形態では、50mm/秒未満(たとえば、ノズルの高さがより高い場合)または60mm/秒超(たとえば、ノズルの高さがより低い場合)の処理速度でプラズマアブレーションを実施できることが理解されよう。たとえば、2mmのノズルの高さ(および/またはより高エネルギーのプラズマ)では、150mm/秒またはさらには200mm/秒の処理速度により、アブレーションおよび活性化を行うための滞留時間が十分になり得る。
【0129】
表IIIは、パラメータの変動の一般的な影響を示しており、本発明を実装する際に当業者が留意すべき考慮事項を示す、パラメータの様々な相互依存性について記述している。
【0130】
【0131】
【0132】
プラズマパラメータおよび運用上のトレードオフの他の例について以下に論じる。
【0133】
イオン化ガス流は、プラズマの電極を通過するイオン化ガスの量を経時的に制御する。この流量を低くしすぎると、プラズマが不安定になることがある。流量が高すぎることは、ガス滞留時間(電極によるエネルギー供給にかかる時間)の短縮を意味し、したがって、所与のプラズマ領域では電子およびイオンの生成が減少し得る。これにより、プルーム内のアクティブエネルギーの減少が起こる。
【0134】
PCTは、(プラズマを形成するよう)ガスが通過する間に電極がアクティブである時間を制御する。したがって、利用可能なエネルギーがエネルギー供給のためのガスに付与される時間量が決定され、これは、プラズマへのエネルギーの伝達に直接影響する。PCTが増加すると温度が高くなり、PCTが短縮されると温度が低くなる。PCTは、熱力学的に安定したプラズマが生成されると、最も効果的に動作する。
【0135】
イオン化ガス流を増やした場合、より広い空間領域にわたって同様のイオン場密度/電子場密度を達成するために、PCTを増加させることができる。ただし、空間的拡張が達成されない場合、プラズマ温度が上昇し得る。
【0136】
電子場温度がイオン温度と等しいポイントにプラズマが達すると、プラズマは、熱力学平衡状態に達したと見なされる。これは、プラズマが「持続可能(sustainable)」(入力と出力が等しく、すなわち、電気的にニュートラルである)であることを意味する。これは、一般に、安定したプラズマプロセスの前提条件であり、そうでない場合、種密度および温度は、空間依存性である(真に安定した均一なプラズマではない)。当業者には、プラズマ場(電極から離れている)が安定している場合、その中の空間の任意のユニットは、非常に類似した特性を有する(種密度、温度などが均一で等しい)ことを意味することが理解されよう。不安定な場合は、この均一性が失われ、たとえば、潜在的に、イオンよりも多くの電子が存在することに起因して、プラズマの区域が極端に高温になることがある。一般に、安定したプラズマは、より容易に制御および管理できるので、反復可能性が高い結果を得るのに好ましい。
【0137】
電子からイオン化ガスの利用可能な原子/イオン(典型的には、大気プラズマ中の酸素、アルゴン、窒素の原子/イオン、ヘリウムを使用してもよいが高価である)へのエネルギーの転送は、エネルギーが生成されるのと同じ速度になければならい。これは、プラズマの電子安定性を支持するものである。この安定性は、オペレータの制御に依存したままであり、すなわち、エネルギー入力がオフになる、またはパラメータが変更される場合、プラズマが停止または変化する。
【0138】
使用中、イオン化ガス流は、プラズマ中の酸素、アルゴン、窒素の量を制御し、PCTは、無線周波数のエネルギー入力の時間的側面(原子が励起される頻度)を制御する。22~25kHzで動作するプラズマは、広範囲の原子から切断された電子を介して大量の熱エネルギーを生成する可能性があり、したがって、イオンの数が等しくなる。したがって、イオンと電子との電場密度(したがって電荷)が等しくなければならない。
【0139】
イオンガス流:原子の数密度、したがって、生成されたイオン場の密度は、イオンが電子場からエネルギーを吸収する際にプラズマの熱力学的安定性に対して影響を与える。
【0140】
PCT:エネルギー転送とエネルギー場が安定した状態に達する時間を可能にする。過度に高いPCTの場合、実現される熱平衡は高すぎ得、その結果、リフローが生じ得る。一般に、所与のプラズマ領域では、PCTが長いと、温度が高くなることを意味し、PCTが短いと、温度が低くなることを意味する。ただし、当業者には、この関係が線形でなくてもよいことが理解されよう。
【0141】
当業者には、PCT値の選択は、複数の因子に依存し得ることが理解されよう。材料のタイプ(マトリックス、場合によっては繊維材料)および所望の処理深さ(たとえば、繊維が見える、表面の下方の最小深さ)は、選択に影響を与える可能性のあるような2つの因子である。
【0142】
プラズマパラメータを設定したとき、PCTは、設定される最後のパラメータであることが多い。従来、標準的な処理では、PCTを定期的にチェックし、必要に応じて、熱感受性材料に対する熱損傷を回避するように変更される。本明細書に記載される実施形態では、マトリックスの熱感受性を満たすが、アブレーションエネルギーを超えるプラズマを生成することを意図している。
【0143】
上述したように、PCTは、所与のプラズマ領域の熱力学的安定性に対して、また、プラズマプルームの作動エネルギー(つまり温度)に対して影響を与える。
【0144】
より高いエネルギーが必要なタスクでは、一般に、高いPCTが使用される。アブレーションは1つのこのようなタスクである。これは、存在するガス(酸素、窒素、およびアルゴン)だけでなく、固体ポリマーマトリックス(昇華され、気体へと変わる)を使用することによって、プラズマの熱安定性を達成することを意図していることに起因する。当業者には、プラズマが不安定である結果、より高温の領域においてリフローが生じ得ることが理解されよう。
【0145】
当業者には、PCTとノズルの高さとを調整して、アブレーションの深さを制御できることが理解されよう。
【0146】
周波数、イオンガス圧力、電圧などの他のパラメータは、プラズマの他の属性に影響を与え得る。
【0147】
当業者には、本明細書に記載する技法を新たな複合材料に適用するように計画する場合、使用すべきプラズマパラメータを決定するために、以下の因子が考慮されることが理解されよう。
【0148】
・新しいポリマー材料のTm(融解温度)。Tmは、アブレーション閾値を示すが、他の因子が影響を及ぼすことがある。この情報に基づいて、好適な出力、PCT、およびガス流の範囲を推定することができる。
・新しいポリマー材料のTg(ガラス転移温度)。Tgは、リフロー/HAZ形成の可能性がある上記の温度を示すが、他の因子が影響を及ぼすことがある。この情報に基づいて、好適な出力、PCT、およびガス流の範囲を推定することができる。
・ポリマーマトリックスを連結するプロセス(オートクレーブ:完全連結しやすい‐ポリマーのデータシートに列記されている、オーブン連結:熱力学的安定性が大幅に低下していることを想定-除去が「より容易」である)。プロセスの知識を使用して、電力およびPCTの範囲を絞り込むことができる。
・下方の繊維構造‐たとえば、織布または一方向(UD)。一般に、UD構造の単位時間当たりの吸収エネルギーは、潜在的に、繊維の位置合わせにより、処理部位からエネルギーを伝導できるようになることに起因して、織布構造よりも大きくなり得る。
・ガス流-エネルギー密度を調整するために、ガス流を調整することができる。たとえば、ガス流が低下した場合、これは、エネルギー密度を増大させることができ、したがって、曝露エネルギーが高くなる。このように、必要とされるエネルギーが高くなり得る。
・電圧およびノズルの高さを決定する。係留されていない繊維は、電極に侵入してアーキングを引き起こすことがあるので、UD構造には、より低い最大電圧限界を設定し得ることが、当業者には理解されよう。処理の前に、結果としてプルームが出現したことによって、ノズルの高さを特定することができる。ノズルの高さの選択は、一方向(UD)複合材のプラズマ密度を高めるためにイオン化ガス流が変更されると、プラズマプルームの長さが短くなるため、したがって、ノズルの高さを低減する必要があるという点で、繊維構造に関連し得る。視覚によって(プルームの出現を検査することによって)、この短くなったプルームの同様の位置を表面区域と接触させることが意図される。一般に、ブローンアーク後、フルアフターグローの前の領域間のプラズマを維持することは、プラズマアブレーションのために最も有効であることが分った。
・所望の除去深さ(または繊維露出量)-たとえば、フルアブレーション、部分アブレーション、または表層アブレーション。当業者には、材料特性が所与の深さに好適なパラメータに影響を与えることが理解されよう。ノズルの高さ、イオンガス流、出力、PCT、および処理速度はすべて、除去深さに影響を与える。
【0149】
いくつかの実施形態では、視覚によるプルームの検査の代わりに、またはそれと共に、(
図7に示される)光学発光分光(OES)監視システム700が使用され得る。
【0150】
記載される実施形態では、監視システム700は、プラズマユニット102に搭載されたシャーシ702を備えている。別の実施形態では、監視システム700は、プラズマユニット102に接続されていなくてもよい。
【0151】
記載されている実施形態では、監視システム700は、光学発光プローブ704を備えている。この実施形態では、光学プローブ704は、この場合には、プローブ704の位置および角度θを調整できる可動アームを用いて、シャーシ702に搭載されている。
【0152】
記載されている実施形態では、θはプローブ704とプラズマプルーム106との間の角度である。記載されている実施形態では、プラズマプルーム106と材料が作業される表面110との間の角度は90°であり、したがって、プローブ704と表面110との間の角度は(90‐θ)°である。
【0153】
本実施形態では、監視システム700は、音響プローブ706を備えている。この実施形態では、音響プローブ706は、この場合には、プローブ706の位置と角度を調整できる可動アームを用いて、シャーシ702に搭載されている。
【0154】
追加のまたは代替実施形態では、プローブ704、706のうちの1種類のみを使用しても、あるいは、1つまたは複数の異なるプローブを使用してもよい。
【0155】
先行技術のOES監視システムでは、光学プローブ704は、プラズマの温度および/または含有量を測定するように、一般には作業ゾーン104よりも上でプラズマ106を通って真っ直ぐに見えるように配置される。このような先行技術のシステムでは、作業ゾーン(すなわち、プラズマを用いて複合材料が処理されている領域)から比較的長い距離において、プラズマに関する情報を収集することで足りる。これは、任意の作業/アブレーションの前に、元のプラズマに関する情報を有していることで足りるからである。したがって、このような先行技術のシステムのプローブ704は、一般に、作業ゾーンからいくらかの距離において、プラズマ源に対して90°に配置ており、簡便なOES監視システムの設定が可能になる。対照的に、本明細書に記載されているシステム700は、プローブ704は、作業ゾーン104の近くまたは内部にある領域が見えなければならない。したがって、別のOES設定が必要である。発明者は、プローブ704を、作業ゾーンにおいて検査するように一定の角度で配置しても、あるいは、作業ゾーンを検査するためにサンプルの平面に沿って配置してもよいことを発見した。
【0156】
記載されている実施形態では、プラズマ源とプローブ704との間の角度θは、30°~60°であり、より具体的には約55°である。当業者には、本発明の監視システム700では、プラズマ自体を監視するのではなく、複合材料104に対するプラズマ106の影響が監視されることが理解されよう。
【0157】
当業者には、多くの実施形態では、角度制限がアプリケータ(すなわち、この実施形態ではプラズマノズル)の幾何学的形状の影響を受けることが理解されよう。そのため、薄型のアプリケータ/ノズルが使用される場合は角度を増減する機会があり得る。
【0158】
別の実施形態では、光学プローブは、サンプルの表面と位置合わせされ、作業ゾーンに向かって表面に沿って向けられる。このような形態では、プラズマプルーム106とプローブ704との間の約90°の角度は、先行技術と同じであるが、サンプル104に対する位置は異なる。
図7に示した実施形態について、プローブ704は、作業ゾーンから遠隔のプルーム106の一部分を通してではなく、作業ゾーンにおいて再び検査する。
【0159】
監視システム700は、複合材表面のアブレーションおよび活性化を維持しながら熱影響部を回避するようにプラズマパラメータをリアルタイムで調整するフィードバックループにおいて使用され得る。
【0160】
いくつかの実施形態では、新たな表面120上でプライマが使用される。プライマは、新たな表面120の接着を高めるように選択され得る。記載されている実施形態では、選択されたプライマはシリコーン/ケイ素塩系のプライマである。代替または追加の実施形態では、溶媒溶解性接着剤/ポリマープライマを使用してもよく、溶媒は水であり得る。任意選択的には、プライマは、シリコーンと樹脂との混合物(たとえば、DL 435.10などのプライマ)であっても、当該混合物を含んでいてもよい。当業者には、たとえば、EC-3960またはEC-5000など、当技術分野で知られている任意の好適なプライマを使用してもよいことが理解されよう。
【0161】
当業者には、追加または代替の実施形態では、当技術分野で知られている任意の好適な硬化型接着剤がプライマとして使用され得ることが理解されよう。好ましくは、接着剤は溶媒で希釈され、粘度の低い溶液は、より簡単に表面120上に噴霧できる。当業者には、材料の他の部分へのその後の接合の結合強度を高めるために、プライマを使用できることを理解されよう。
【0162】
好ましくは、アブレーションの直後にプライマが適用されるが、新たな表面は活性化されたままである。当業者には、表面活性化は時間の経過と共に低下すること、並びにプライマを直ぐに追加すると、活性化された表面とプライマとの間の結合がより強力になり得ることが理解されよう。
【0163】
材料パラメータとプラズマパラメータとの好適な組み合わせのいくつかの例を以下の表IVに示す。
【0164】
当業者には、繊維とプラズマ電極との間に衝突が発生した場合に電圧が低下し得ることが理解されよう。
【0165】