(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフィーにおけるリサイクル分取方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/44 20060101AFI20231225BHJP
B01J 20/283 20060101ALI20231225BHJP
B01J 20/282 20060101ALI20231225BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20231225BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
G01N30/44
B01J20/283
B01J20/282
G01N30/26 A
G01N30/88 C
(21)【出願番号】P 2019187719
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591145601
【氏名又は名称】有限会社シマムラテック
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086449
【氏名又は名称】熊谷 浩明
(72)【発明者】
【氏名】小野田 友吉
(72)【発明者】
【氏名】松岡 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小山 哲夫
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-097857(JP,A)
【文献】特開平07-145084(JP,A)
【文献】特開平09-176092(JP,A)
【文献】特開2015-224895(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0270691(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B01J 20/281-20/292
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量が数千~数百の範囲にある合成物質を試料とし、多孔質シリカゲルを充填剤に用いた分離カラムを固定相とし、有機溶媒であるクロロホルムとn-ヘキサンとを所定の混合比率(体積比)で混合してなる混合溶離液を移動相とし、順相クロマトグラフィーのもとで行う液体クロマトグラフィーにおけるリサイクル分取方法において、
前記試料は、ポルフィリンを骨格に持つ2つの混合化合物であり、
前記混合溶離液の混合比率は、クロロホルム80~50%、n-ヘキサン20~50%とすることを特徴とする液体クロマトグラフィーにおけるリサイクル分取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィーにおいて、分子量が数千~数百の範囲にある合成物質からなる試料中から目的成分を少ないリサイクル回数のもとで時間を短縮して精製・分取することができる液体クロマトグラフィーにおけるリサイクル分取方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
リサイクル液体クロマトグラフィー(以下、「RLC」という。)においては、固定相として有機溶媒中で膨潤するポリマーを用いる分離系であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という。)が従来から一般に採用されており、移動相には非常に高価なヘクサフルオロイソプロパノール(HFIP)が溶媒として使用されている。このような条件の下では、分離するまでに長時間を要したり、使用済み廃液を焼却する際に公害を発生させるおそれがあるなどの問題があった。
【0003】
一方、リサイクル液体クロマトグラフィーにおけるリサイクル分取方法については、例えば特許文献1に開示されている分取方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
すなわち、特許文献1には、従前から行われているリサイクル分取手法が分取に適する分離状態のチャートが得られるに至るまでリサイクルを繰り返し行う必要があることから、いつ訪れるか判然としない分取に好適なリサイクル回数に到達するまで、モニタ画面上のチャートを注視しながら長時間にわたり緊張して待機していなければなければならないという不都合があったのに対し、チャートがリサイクル何回目に分取に好適な分離状態となるかを予知することで、分取可能時間帯を予め把握しておいて該時間帯に分取処理を行うことができ、かつ、その自動化も可能とした液体クロマトグラフィーにおけるリサイクル分取方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1の分取手法を順相クロマトグラフィーに適用して行う場合には、従前からポリマーを充填した分離カラムが固定相として用いられており、多孔質シリカゲルを充填した分離カラムを固定相として用いるという発想はなかった。
【0007】
また、これまでのリサイクル分取以外の順相クロマトグラフィーにおいては、移動相としてヘキサンが用いられ、固定相として多孔質シリカゲルを充填した分離カラムが用いられる例はあるものの、安全や環境への影響という点から移動相としてクロロホルムが積極的に利用されることは少なかった。
【0008】
一方、多孔質シリカゲルを充填した分離カラムを固定相とし、試料水溶液とは混じり合わない有機溶媒であるクロロホルムを溶離液(移動相)とするリサイクル分取による順相クロマトグラフィーを試行したところ、分離が始まらないため分取可能には至らず(後述の比較例2参照)、リサイクル分取による順相クロマトグラフィーのもとで短時間で分取できる手法の開発が模索されていた。
【0009】
本発明は、従来手法にみられた上記課題に鑑み、リサイクル分取手法を順相クロマトグラフィーに適用するに際し、多孔質シリカゲルを充填した分離カラムを固定相として用い、所定の混合比(体積比)で混合した有機溶媒からなる溶離液を移動相として用いることにより、有機合成化学で作成された物質や自然界における天然物の成分を多成分に分離することで、有用な物質を正確かつ迅速に精製・分取することができる液体クロマトグラフィーにおけるリサイクル分取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成すべくなされたものであり、その構成上の特徴は、分子量が数千~数百の範囲にある合成物質を試料とし、多孔質シリカゲルを充填剤に用いた分離カラムを固定相とし、有機溶媒であるクロロホルムとn-ヘキサンとを所定の混合比率(体積比)で混合してなる混合溶離液を移動相とし、順相クロマトグラフィーのもとで行う液体クロマトグラフィーにおけるリサイクル分取方法において、前記試料は、ポルフィリンを骨格に持つ2つの混合化合物であり、前記混合溶離液の混合比率は、クロロホルム80~50%、n-ヘキサン20~50%とすることにある。
【0011】
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、移動相としての有機溶媒をクロロホルム70~50%、n-ヘキサン30~50%の混合比率とした混合溶離液としたので、試料中に含まれる成分を分取するために要する時間を従来手法の半分以下に短縮して有用な物質を正確かつ迅速に精製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明方法が適用される装置構成例を示す説明図。
【
図2】ポリフィリンを骨格に持つサンプルAの構造式を示す図。
【
図3】ポリフィリンを骨格に持つサンプルBの構造式を示す図。
【
図4】クロロホルム80%、n-ヘキサン20%の混合溶離液が移動相である実施例1についての分離データを示すグラフ図。
【
図5】クロロホルム90%、n-ヘキサン10%の混合溶離液が移動相である比較例1(ポリフィリンを骨格に持つサンプルC)についての化合物を(a)として、分離データを示すグラフ図を(b)としてそれぞれ示す。
【
図6】クロロホルム100%溶離液が移動相である比較例2についての分離データを示すグラフ図。
【
図7】実施例1および比較例1,2のほか、クロロホルム70%~50%、n-ヘキサン30%~50%の混合溶離液が移動相である実施例2~4を含めた分離データを一覧にして示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明方法が適用される液体クロマトグラフの構成例を模式的に示す説明図である。同図によれば、液体クロマトグラフ11の全体は、移動相としての有機溶媒Sを貯溜させた溶媒タンク12と、該溶媒タンク12から流下する有機溶媒Sの流路に介在させた三方バルブ13と、該三方バルブ13を経て流入する有機溶媒Sを下流へと圧送すべく流路中に介在配置された送液ポンプ14と、該送液ポンプ14を介して圧送される有機溶媒S中に試料を注入する試料導入装置15と、試料注入後の移動相を流下させる分離カラム16と、該分離カラム16を経た移動相中の試料成分を検出する例えば示差屈折率検出器や紫外線吸収検出器などの検出器17と、該検出器17により検出されたデータの記録とその処理とを行う例えばパーソナルコンピュータなどのような出力手段であるモニタ画面19と入力手段であるキーボード20とを備えるデータ処理装置18と、検出器17とデータ処理装置18との間に介在配置される制御ボックス21と、検出器17を経て流下する移動相を導入して送液ポンプ14方向への送液路L
2とフラクションコレクタ24方向への送液路L
3との2方向への流路切換えを可能に配置されるリサイクルバルブ22と、該リサイクルバルブ22とフラクションコレクタ24との間に介在させて移動相をフラクションコレクタ24方向への送液路L
3と廃液タン25方向への送液路L
4との2方向への流路切換えを可能とするフラクションバル23とを少なくとも備えている。
【0015】
この場合、制御ボックス21は、データ処理装置18からの制御信号に基づいてリサイクルバルブ22やフラクションバルブ23を含む流路切り替えバルブを開閉制御するための電子回路等で構成されている。
【0016】
また、データ処理装置18は、他の出力手段として記録紙上にクロマトグラム31をチャートとして出力するためのチャートレコーダー(図示せず)を備えている。
【0017】
次に、上記構成からなる液体クロマトグラフ11に適用して実施される本発明方法について
図1を参酌しながら説明する。本発明は、
分子量が数千~数百の範囲にある合成物質を試料とし、多孔質シリカゲルを充填剤に用いた分離カラムを固定相とし、有機溶媒であるクロロホルムとn-ヘキサンとを所定の混合比率(体積比)で混合してなる混合溶離液を移動相とし、順相クロマトグラフィーのもとで行う液体クロマトグラフィーに適用して実施されるリサイクル分取方法である。
【0018】
この場合、試料は、ポルフィリンを骨格に持つ2つの混合化合物である。
【0019】
また、本発明に用いられる移動相は、クロロホルム80~50%、n-ヘキサン20~50%の混合比率、例えば以下のような好適混合比で混合された有機溶媒を混合溶離液とするのが好ましい。
(1)クロロホルム80%、n-ヘキサン20%
(2)クロロホルム70%、n-ヘキサン30%
(3)クロロホルム60%、n-ヘキサン40%
(4)クロロホルム50%、n-ヘキサン50%
【0020】
以下、
図2と
図3とに示すポルフィリンを骨格に持つ2つの混合化合物(ポルフィリンの前駆体2種)であるサンプルA(化学式が「C
48H
36N
8O
2」で分子量が「756.85」の化学合成物質)とサンプルB(化学式が「C
48H
36N
6O
2」で分子量が「730.85」の化学合成物質)とを試料として用いた。これら2つのサンプルは、展開溶媒にクロロホルム100%を用いたシリカゲル薄層クロマトグラフィー上では、互いに接近した位置にスポットが現れるため、クロロホルム100%では分離がしにくい組み合わせである。
図1に示す液体クロマトグラフ11によりリサイクル分取を試みた際の分離データにつき、実施例1
~4と比較例1,2とを例に説明すれば、以下のとおりである。なお、分離カラム16は、カラム長250mm、内径20mmでカラムオーブンなしの仕様のものを用い、該カラム16内に多孔質シリカゲル系のMightysil Si60 250-20(5μm)を充填剤として充填した。送液ポンプ14は、日立L-7100(流速:3ml/min)を用いた。
【実施例1】
【0021】
移動相は、クロロホルム80%、n-ヘキサン20%の混合比率(v/v)の混合溶離液である。
図4および
図7の下から3段目は、その際に得られた分離データである。これらの図によれば、リサイクル後、試料同士の分離が順調に進み、従来手法の略半分であるおおよそ4時間前後で精製・分取が可能になることが確認された。
【実施例2】
【0022】
移動相は、クロロホルム70%、n-ヘキサン30%の混合比率(v/v)の混合溶離液である(
図7の下から4段目の分離データ参照。)。これによれば、実施例1に比べてリテンションタイムの遅延と分離能の向上、それに伴うリサイクル間隔の若干の広がりが見られるものの、リサイクル後、試料同士の分離が順調に進んで精製・分取が可能になることが確認された。
【実施例3】
【0023】
移動相は、クロロホルム60%、n-ヘキサン40%の混合比率(v/v)の混合溶離液である(
図7の下から5段目の分離データ参照。)。これによれば、実施例1,2に比べてリテンションタイムの遅延と分離能の向上、それに伴うリサイクル間隔の若干の広がりが見られるものの、リサイクル後、試料同士の分離が順調に進んで精製・分取が可能になることが確認された。
【実施例4】
【0024】
移動相は、クロロホルム50%、n-ヘキサン50%の混合比率(v/v)の混合溶離液である(
図7の最上段の分離データ参照。)。これによれば、実施例1~3に比べてリテンションタイムの遅延と分離能の向上、それに伴うリサイクル間隔の若干の広がりが見られるものの、リサイクル後、試料同士の分離が順調に進んで精製・分取が可能になることが確認された。
【比較例1】
【0025】
サンプルは、先に示したサンプルAとポルフィリンを骨格に持つサンプルC(化学式が「C
44H
31N
5」で分子量が「629.75」の化学合成物質)とを試料として用いた。これら2つのサンプルは、展開溶媒にクロロホルム100%を用いたシリカゲル薄層クロマトグラフィー上では、互いに離れた位置にスポットが現れるため、本来ならクロロホルム100%では容易に分離できないはずの組み合わせである。移動相は、クロロホルム90%、n-ヘキサン10%の混合比率(v/v)の混合溶離液である。
図5(b)および
図7の下から2段目は、その際に得られた分離データである。これらの図によれば、9時間かけても双方のサンプルが一部重なっており、余計な時間がかかってしまうことから分離を断念せざるを得なかった。
【比較例2】
【0026】
移動相は、クロロホルム100%の単一溶離液である。
図6および
図7の最下段は、その際に得られた分離データである。これらの図によれば、インジェクト後、約9時間で双方の分取が一応は可能になるものの、あまりにも時間がかかってしまうことが確認された。
【0027】
以上に述べた実施例1~4および比較例1,2の分離データ(
図4~
図7参照)によれば、n-ヘキサンの割合が増えるにつれてリテンションタイムの遅延と分離能の向上、それに伴うリサイクル間隔の広がりが見られるものの、クロロホルム80~50%、n-ヘキサン20~50%の混合比率(v/v)こそが分取可能時間の大幅な短縮と有用な物質の正確かつ迅速な精製とに大いに関係していることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0028】
11 液体クロマトグラフ
12 溶媒タンク
13 三方バルブ
14 送液ポンプ
15 試料導入装置
16 分離カラム
17 検出器
18 データ処理装置
19 モニタ画面
20 入力手段
21 制御ボックス
22 リサイクルバルブ
23 フラクションバルブ
24 フラクションコレクタ
25 廃液タンク
31 クロマトグラム
L1,L2,L3,L4 送液路
S 溶媒