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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】誘電正接測定法および測定治具
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/26 20060101AFI20231225BHJP
   G01N 27/22 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
G01R27/26 T
G01R27/26 H
G01N27/22 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020100191
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021196173
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000227892
【氏名又は名称】日本アンテナ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(74)【代理人】
【識別番号】100199820
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 博志
(72)【発明者】
【氏名】新井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 恵一郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 雄太
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-021399(JP,A)
【文献】特開平08-062267(JP,A)
【文献】特開昭61-031948(JP,A)
【文献】阿部新司、他,液体充填同軸線路を用いた液晶の複素誘電率測定,伝送工学研究会資料,Vol.2018 No.601-4,東北大学電気通信研究所工学研究会,2018年09月,p.1-p.5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/00-27/32
G01N 27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外導体と、該外導体の中心に配置された中心導体とからなり、内部に試料となる液体を充填可能な長さLの同軸線路と、前記同軸線路の一端に設けられた入力コネクタと、前記同軸線路の他端に設けられた出力コネクタとを備えた測定治具を用いる誘電正接測定法であって、
前記入力コネクタおよび前記出力コネクタのインピーダンスをZoとして、前記入力コネクタに所定の測定周波数の信号を入力した際の、液体を充填しない状態の前記同軸線路の位相量が180°になる周波数をFo、液体を充填した状態の前記同軸線路の位相量が180°になる周波数をFsとした時に、前記測定治具の挿入損失ILとFoとFsと前記長さLとに基づいて、nFs(nは1以上の正の整数)における前記液体の少なくとも誘電正接を算出することを特徴とする誘電正接測定法。
【請求項2】
前記入力コネクタと前記同軸線路との間と、前記出力コネクタと前記同軸線路との間とに、前記同軸線路内に前記液体を充填可能な孔部を備えるフランジが設けられており、前記孔部から前記液体を前記同軸線路に充填した後に、前記孔部にネジを螺着して前記孔部を封止することを特徴とする請求項1に記載の誘電正接測定法。
【請求項3】
nを1以上の正の整数とした時に、nFsにおける前記液体の誘電正接tanδを、
tanδ=95.365×nFs×{1-10(IL/20)
/{nFo×L×10(IL/20)
で算出できることを特徴とする請求項1または2に記載の誘電正接測定法。
【請求項4】
前記測定治具の挿入損失ILとFoとFsと前記長さLとに基づいて、前記液体の誘電正接を算出することに加えて、nFs(nは1以上の正の整数)における前記液体の比誘電率も算出することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の誘電正接測定法。
【請求項5】
外導体と、該外導体の中心に配置された中心導体とからなり、内部に試料となる液体を充填可能な長さLの同軸線路と、前記同軸線路の一端に設けられた入力コネクタと、前記同軸線路の他端に設けられた出力コネクタとを備える測定治具であって
前記入力コネクタおよび前記出力コネクタのインピーダンスをZoとして、前記入力コネクタに所定の測定周波数の信号を入力した際の、液体を充填しない状態の前記同軸線路の位相量が180°になる周波数をFo、液体を充填した状態の前記同軸線路の位相量が180°になる周波数をFsとした時に、前記測定治具の挿入損失ILとFoとFsと前記長さLとに基づいて、nFs(nは1以上の正の整数)における前記液体の少なくとも誘電正接を算出できることを特徴とする測定治具。
【請求項6】
前記入力コネクタと前記同軸線路との間と、前記出力コネクタと前記同軸線路との間とに、前記同軸線路内に前記液体を充填可能な孔部を備えるフランジが設けられており、
前記孔部から前記液体を前記同軸線路に充填した後に、前記孔部にネジを螺着して前記孔部を封止することを特徴とする請求項に記載の測定治具。
【請求項7】
nを1以上の正の整数とした時に、nFsにおける前記液体の誘電正接tanδを、
tanδ=95.365×nFs×{1-10(IL/20)
/{nFo×L×10(IL/20)
で算出できることを特徴とする請求項またはに記載の測定治具。
【請求項8】
前記測定治具の挿入損失ILとFoとFsと前記長さLとに基づいて、前記液体の誘電正接を算出できることに加えて、nFs(nは1以上の正の整数)における前記液体の比誘電率も算出できることを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の測定治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状物質の誘電正接を測定する誘電正接測定法および誘電正接測定法に用いる測定治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の誘電正接を測定する測定法の構成を図13に示す。図13に示す従来の誘電正接の測定法は平行電極を用いた容量法100であり、容量法100では、平行対向円板とされる電極111および電極112の間に試料となる誘電体120を挟持してコンデンサを形成させる。そして、形成されたコンデンサに電圧源110から所定の周波数の電圧を印加して、コンデンサの電気特性を取得する。次いで、取得した電気的特性を分析して誘電体120の誘電正接を算出している。この容量法100では、電極111および電極112の実効面積および形状が誘電正接の測定に与える影響が大きくなり、高い測定精度を得ることが困難となる。また、電極111および電極112の間に液体を挟持できない構造とされていることから、誘電体120として液状物質を用いることができず液状物質の誘電正接を測定することができなかった。
【0003】
液状物質の誘電正接を測定することができる従来の測定法が、非特許文献1に開示されている。非特許文献1に開示されている従来の測定法は、液体充填可能な同軸線路を用いて液晶の複素誘電率を測定する測定法とされている。この従来の測定法における同軸線路の構成を図14(a)(b)に示す。図14(a)は同軸線路200の構成を断面図で示す正面図であり、図14(b)は同軸線路200の構成を断面図で示す側面図である。
これらの図に示す同軸線路200は、金属製とされた円筒状の外導体210と、外導体210における軸方向に形成されている貫通孔の中央に配置された導電性の中心導体211とから構成されている。同軸線路200の一端には同軸構造のコネクタ212が設けられ、他端にも同軸構造のコネクタ213が設けられている。同軸構造とされた貫通孔内が軸方向に3分割されており、コネクタ212側の領域は絶縁性の封止材215で封止され、コネクタ213側の領域も絶縁性の封止材215で封止されている。2つの封止材215の間の領域が、試料である液体220を充填する充填領域とされており、液体220はネジ214を螺着する穴から充填領域に充填されるようになる。充填領域に液体220を充填したら、ネジ214を穴に螺着して充填領域を封止する。
【0004】
充填領域に液体220として液晶を充填しコネクタ212を入力端子、コネクタ213を出力端子として、コネクタ212から所定の周波数の信号を印加して、Sパラメータを測定する。そして、液晶の誘電正接をSパラメータのS21の伝送量と位相量を元に算出することができる。この場合、封止材215の誘電率は既知となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】東北大学電気通信研究所工学研究会 伝送工学研究会 伝送工学研究会資料 Vol.2018,No.601-4,2018年9月 阿部 新司 外5名著「液体充填同軸線路を用いた液晶の複素誘電率測定」P.1-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の測定法では、液状物質の誘電正接を測定することができるものの、周波数が高くなると誘電正接を測定し難くなり、広帯域に渡り誘電正接を測定するのが困難になるという問題点があった。
そこで、本発明は広帯域に渡り液状物質の誘電正接を測定することが可能な誘電正接測定法および誘電正接測定法に用いる測定治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の誘電正接測定法は、外導体と、該外導体の中心に配置された中心導体とからなり、内部に試料となる液体を充填可能な長さLの同軸線路と、前記同軸線路の一端に設けられた入力コネクタと、前記同軸線路の他端に設けられた出力コネクタとを備えた測定治具を用いる誘電正接測定法であって、前記入力コネクタおよび前記出力コネクタのインピーダンスをZoとして、前記入力コネクタに所定の測定周波数の信号を入力した際の、液体を充填しない状態の前記同軸線路の位相量が180°になる周波数をFo、液体を充填した状態の前記同軸線路の位相量が180°になる周波数をFsとした時に、前記測定治具の挿入損失ILとFoとFsと前記長さLとに基づいて、nFs(nは1以上の正の整数)における前記液体の少なくとも誘電正接を算出することを最も主要な特徴としている。
上記本発明の誘電正接測定法において、前記入力コネクタと前記同軸線路との間と、前記出力コネクタと前記同軸線路との間とに、前記同軸線路内に前記液体を充填可能な孔部を備えるフランジが設けられており、前記孔部から前記液体を前記同軸線路に充填した後に、前記孔部にネジを螺着して前記孔部を封止している。
また、上記本発明の誘電正接測定法において、nを1以上の正の整数とした時に、nFsにおける前記液体の誘電正接tanδを、
tanδ=95.365×nFs×{1-10(IL/20)
/{nFo×L×10(IL/20)
で算出することができる。
さらに、上記本発明の誘電正接測定法において、前記測定治具の挿入損失ILとFoとFsと前記長さLとに基づいて、前記液体の誘電正接を算出することに加えて、nFs(nは1以上の正の整数)における前記液体の比誘電率も算出できる。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の測定治具は、外導体と、該外導体の中心に配置された中心導体とからなり、内部に試料となる液体を充填可能な長さLの同軸線路と、前記同軸線路の一端に設けられた入力コネクタと、前記同軸線路の他端に設けられた出力コネクタとを備え、前記入力コネクタおよび前記出力コネクタのインピーダンスをZoとして、前記入力コネクタに所定の測定周波数の信号を入力した際の、液体を充填しない状態の前記同軸線路の位相量が180°になる周波数をFo、液体を充填した状態の前記同軸線路の位相量が180°になる周波数をFsとした時に、前記測定治具の挿入損失ILとFoとFsと前記長さLとに基づいて、nFs(nは1以上の正の整数)における前記液体の少なくとも誘電正接を算出できることを最も主要な特徴としている。
上記本発明の測定治具において、前記入力コネクタと前記同軸線路との間と、前記出力コネクタと前記同軸線路との間とに、前記同軸線路内に前記液体を充填可能な孔部を備えるフランジが設けられており、前記孔部からぜんき液体を前記同軸線路に充填した後に、前記孔部にネジを螺着して前記孔部を封止している。
また、上記本発明の測定治具において、nを1以上の正の整数とした時に、nFsにおける前記液体の誘電正接tanδを、
tanδ=95.365×nFs×{1-10(IL/20)
/{nFo×L×10(IL/20)
で算出することができる。
さらに、上記本発明の測定治具において、前記測定治具の挿入損失ILとFoとFsと前記長さLとに基づいて、前記液体の誘電正接を算出できることに加えて、nFs(nは1以上の正の整数)における前記液体の比誘電率も算出できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の誘電正接測定法は、内部に試料となる液体を充填可能な長さLの同軸線路を備える測定治具を用いて、液体を充填しない状態の前記同軸線路の位相量が180°になる周波数Foと、液体を充填した状態の前記同軸線路の位相量が180°になる周波数Fsとに基づいて、nFsにおける液体の誘電正接tanδを算出できるようになる。これにより、本発明の誘電正接測定法および誘電正接測定法に用いる測定治具では、周波数が高くなっても液状物質の少なくとも誘電正接を測定することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例の測定治具の構成を示す正面図および側面図である。
図2】本発明の実施例の測定治具の構成を一部断面図で示す正面図である。
図3】同軸線路の電気的構成を示す回路図である。
図4】同軸線路に誘電体損を与える構成を示す回路図である。
図5】同軸線路に誘電体損を与える等価回路を示す回路図である。
図6】同軸線路の等価回路を示す回路図である。
図7】本発明の実施例の測定治具に液体が充填された際の反射減衰量と挿入損失の周波数特性を示す図である。
図8】本発明の実施例の測定治具を用いて本発明の誘電正接測定法で測定した結果を示す図表である。
図9】本発明の実施例の測定治具を用いて本発明の誘電正接測定法で測定した他の結果を示す図表である。
図10】本発明の実施例の測定治具を用いて本発明の誘電正接測定法で測定したさらに他の結果を示す図表である。
図11】本発明の実施例の測定治具に他の液体が充填された際の反射減衰量と挿入損失の周波数特性を示す図である。
図12】本発明の実施例の測定治具に他の液体が充填された際の誘電正接の周波数特性を示す図である。
図13】従来の誘電正接の測定法を示す回路図である。
図14】液状物質の誘電正接を測定することができる従来の測定法に用いる同軸線路の構成を断面図で示す正面図および側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の測定治具の実施例>
本発明の液状物質の誘電正接を測定する誘電正接測定法は、本発明の実施例の測定治具を用いており、本発明の実施例の測定治具について説明する。本発明の実施例の測定治具1の構成を図1(a)(b)および図2に示す。図1(a)は測定治具1の構成を示す正面図であり、図1(b)は測定治具1の構成を示す側面図であり、図2は測定治具1の構成を一部断面図で示す正面図である。
これらの図に示す本発明の実施例の測定治具1は、金属製等の導電性とされた円筒状の外導体12と、外導体12の軸方向の中心に配置された金属製等の導電性とされた中心導体14とからなる同軸線路を備えており、外導体12の一端に所定の厚さとされた円板状の金属製等の導電性とされた外導体用フランジ12aが固着されており、外導体12の他端に所定の厚さとされた円板状の金属製等の導電性とされた外導体用フランジ12bが固着されている。外導体用フランジ12aと外導体用フランジ12bとは線対称の形状とされており中央には外導体12の内径に等しい径の貫通孔がそれぞれ形成されている。また、外導体用フランジ12aの側周面には試料とされる液体を同軸線路内に注入可能な注入孔12cが形成されており、外導体用フランジ12bの側周面には試料とされる液体を同軸線路内に注入可能な注入孔12dが同様に形成されている。注入孔12cあるいは注入孔12dから注入された液体は、中心導体14と外導体12との間の空間に充填される。注入孔12cおよび注入孔12dには、封止するためのネジ手段を注入孔12cおよび注入孔12dに螺着することができる。
【0012】
外導体用フランジ12aの外側の円形の面に、同軸構造とされた入力コネクタ11が4本のネジにより取り付けられている円板状の金属製等の導電性とされたコネクタ用フランジ11aが、4本の等間隔に配置された4本のネジ11bにより固着されている。そして、外導体用フランジ12aとコネクタ用フランジ11aとが合わさる面を水密構造とするOリング12eが両者の面の間に挟持されており、Oリング12eは外導体用フランジ12aの外側の円形の面に形成された円形の凹部内に係合されている。なお、入力コネクタ11における中心ピンの先端部が中心導体14の一端に形成された孔部内に挿入されて、中心ピンが中心導体14の一端に接続されている。
また、外導体用フランジ12bの外側の円形の面に、同軸構造とされた出力コネクタ13が4本のネジにより取り付けられている円板状の金属製等の導電性とされたコネクタ用フランジ13aが、4本の等間隔に配置された4本のネジ13bにより固着されている。そして、外導体用フランジ12bとコネクタ用フランジ13aとが合わさる面を水密構造とするOリング12fが両者の面の間に挟持されており、Oリング12fは外導体用フランジ12bの外側の円形の面に形成された円形の凹部内に係合されている。なお、出力コネクタ13における中心ピンの先端部が中心導体14の他端に形成された孔部内に挿入されて、中心ピンは中心導体14の他端に接続されている。
【0013】
<本発明の誘電正接測定法>
図1および図2に示す本発明にかかる測定治具1を用いて液状物質の誘電正接を測定する本発明の誘電正接測定法を説明する。
ここでは、入力コネクタ11と出力コネクタ13のインピーダンスはZoとされており、測定治具1に液体を注入していない状態の同軸線路の特性インピーダンスWがZoになるように、中心導体14の外径aと外導体12の内径bの寸法が設定されている。これにより、測定治具1における同軸線路は、全長に亘ってZoに正確に整合しており、接続用コネクタとしての機能も有するようになる。そして、入力コネクタ11をネットワークアナライザの第1ポートに接続し、出力コネクタ13をネットワークアナライザの第2ポートに接続して、キャリブレーション作業を行う。キャリブレーション作業では、信号出力ポートとなる第1ポートと信号入力ポートとなる第2ポートの「オープン,ショート,終端」校正を行って、両ポートをインピーダンスZoに整合させ、反射減衰量RL(S11,S22のSパラメータ)が-∞dBとなるようにする。続いて、両ポート間を直結するスルー校正を液体を充填していない状態の測定治具1を用いて行う。この作業によって挿入損失IL(S21,S12のSパラメータ)には、測定治具1が含まれる挿入損失も加算されて第1ポートと第2ポート間における挿入損失ILが0dBに基準化されることになる。これにより、本発明にかかる測定治具1に液体を注入した後の反射減衰量RLや挿入損失ILの変化は、測定治具1に注入した液体の作用によるものと特定できることになる。
【0014】
そこで、測定治具1の注入孔12c,12dから試料とされる液体を注入し、注入孔12c,12dをネジ手段により封止する。注入孔,12dから注入された液体は、中心導体14と外導体12からなる同軸線路内に充填され、具体的には中心導体14と外導体12との間の空間に液体が充填される。液体として、例えば液晶を注入孔12cから同軸線路内に充填すると、液晶の誘電正接を測定することができる。次いで、所定の周波数の信号を測定治具1の入力端子11に入力して、ネットワークアナライザにより測定治具1における挿入損失ILの周波数特性および反射減衰量RLの周波数特性を測定する。次に、nを1以上の正の整数とした時に、測定の結果を基に、中心導体14と外導体12からなる同軸線路の位相が180°のn倍となる周波数nFsと、その際の挿入損失ILとを求める。これにより、同軸線路内に充填された液体の誘電正接tanδを次に示す(1)式から求めることができる。
tanδ=95.365×nFs×{1-10(IL/20)
/{nFo×L×10(IL/20)} (1)
ただし、(1)式においてLは液体が充填される同軸線路の長さであり、Foは同軸線路内に液体が充填されていない時に、同軸線路で位相が180°となる周波数であり、この場合に、同軸線路の位相が180°のn倍となる周波数がnFoとなる。なお、Lの単位はm(メートル)、ILの単位はdB、Fo,Fsの単位はMHzとされている。
【0015】
<誘電正接測定法の詳細>
上記(1)式により誘電正接tanδを求められることを以下に説明する。
図3に一般的な同軸線路の回路図を示す。図3において無損失同軸線路20の同軸長はLとされその位相がθとされ、特性インピーダンスをWとする。無損失同軸線路20の外導体をアースし、無損失同軸線路20の中心導体の一端を入力端子Pinに接続し、該中心導体の他端を出力端子Poutに接続し、PinとPoutのインピーダンスをZoとする。
無損失同軸線路20の外導体と中心導体との間の絶縁体が空気とされている場合は、絶縁体の比誘電率εrがほぼ1になって波長はほぼ短縮されない。この際の、無損失同軸線路20の位相が180°となる周波数をFoとして、nを1以上の正の整数とした時のnFoを次に示す(2)式から求めることができる。
nFo=(150×n)/L (2)
また、同軸線路の特性インピーダンスWは、中心導体の外径をa、外導体の内径をbとし、中心導体と外部導体間の絶縁体の比誘電率をεrとすると、次に示す(3)式で求められる。
W=(60/√εr)×ln(b/a) (3)
なお、(3)式においてlnは底をeとする自然対数である。
上記(3)式から寸法比b/aを求めると、
b/a=e(W/60)
となり、無損失同軸線路20の特性インピーダンスWからaの寸法とbの寸法との比率を決定できる。そこで、特性インピーダンスWが、PinとPoutのインピーダンスZoと等しくなるように、中心導体の外径aと外導体の内径bの寸法を設定する。
【0016】
次に、図1および図2に示す本発明にかかる測定治具1が備える注入孔12cから試料となる液体を注入し、同軸線路内を液体で充填した場合を考えてみる。中心導体14と外導体12との間の絶縁体となる液体の比誘電率εrは通常1より大きいことから、液体が充填される同軸線路の長さLで電気的に180°のn倍となる周波数nFsは、nFs<nFoとなる。すなわち、同軸線路のTEMモードにおける波長は短縮され、波長短縮率は、次の(4)式に示すように中心導体14と外導体12間の絶縁体の比誘電率εrの平方根に反比例する。
nFs=nFo/√εr (4)
上記(4)式から、
εr=(nFo/nFs) (5)
と導かれる。
【0017】
図3に示す回路において、入力端子Pinから見た入力インピーダンスZinを求めると、
Zin={cosθ×Zo+j(W/Zo)sinθ}/
{j(Zo/W)sinθ+cosθ} (6)
となる。この(6)式において、θ=180°,540°,900°・・・の時は、cosθ=-1,sinθ=0になることから、
Zin=Zo (7)
となる。また、(6)式において、θ=360°,720°,1080°・・・の時は、cosθ=+1,sinθ=0になることから、
Zin=Zo (8)
となる。このように、無損失同軸線路20の位相(電気長)が180°の整数倍となる周波数では、無損失同軸線路20の特性インピーダンスWに関係なく入力インピーダンスZinは、PinとPoutのインピーダンスZoに整合するようになる。出力端子Poutから見た出力インピーダンスZoutも同様であり、出力インピーダンスZoutは、PinとPoutのインピーダンスZoに整合するようになる。
【0018】
ここで、図3に示す回路において無損失同軸線路20の外導体と中心導体との間の絶縁体の比誘電率εrが25であるとした場合の反射減衰量RLと挿入損失ILの周波数特性をシミュレーションすると図7に示すようになる。図7では、横軸が0~1000MHzの周波数とされ、縦軸が挿入損失[dB]および反射減衰量[dB]とされている。この場合、L=0.15mとされてFo=1000MHzとされている。比誘電率εr=25の場合の波長短縮率は、上記(4)式に示すように絶縁体の比誘電率εrの平方根に反比例することから、1/√25=1/5に波長が短縮される。すなわち、絶縁体の比誘電率εr=25とすると、Foの1/5の周波数である200MHzの時に無損失同軸線路20の位相が180°となって整合する。この整合する周波数がFsとなり、図7を参照すると、周波数が200MHzの時に整合してFs=200MHzとなり、2Fsの400MHz、3Fsの600MHz・・・と高域側に繰り返し整合周波数が現れていることが分かる。このように、nFsにおいて整合しているが、それ以外の周波数では不整合になっていることが分かる。ただし、図7に示すシミュレーションでは、無損失同軸線路20の絶縁体の誘電体損による挿入損失の増加や反射減衰量の劣化は考慮されていない。
【0019】
そこで、無損失同軸線路20の絶縁体の誘電体損を回路に抵抗を付加することにより置き換えられるかを検討する。図3に示す同軸線路の回路において、入力端子Pinとアース間に抵抗Rを付加すると共に、出力端子Poutとアース間に抵抗Rを付加した回路を図4に示す。
図4に示す回路では、無損失同軸線路20の同軸長はLとされその位相がθとされ、特性インピーダンスがWとされる。無損失同軸線路20の外導体をアースし、無損失同軸線路20の中心導体の一端を入力端子Pinに接続し、該中心導体の他端を出力端子Poutに接続し、PinとPoutのインピーダンスをZoとする。図4に示す回路において、PinとPoutのインピーダンスをZoとして、無損失同軸線路20の特性インピーダンスWをインピーダンスZoと等しくする。ここで、θ=180°,θ=180°+360°=540°,θ=180°+(360°×2)=900°・・・の場合に限定すると、電気的にはθ=180°になるので、cosθ=-1,sinθ=0 となって、SパラメータS21は、
S21=-1/{1+(Zo/R)} (9)
と求められる。また、θ=360°,θ=360°+360°=720°,θ=360°+(360°×2)=1080°・・・の場合に限定すると、電気的にはθ=360°になるので、cosθ=+1,sinθ=0 となって、SパラメータS21は、
S21=1/{1+(Zo/R)} (10)
と求められる。(9)式あるいは(10)式からS21から挿入損失ILを求めると、同様の値となり、
IL=20log|1/{(1+(Zo/R)}| (11)
と求められる。なお、(11)式においてlogは底を10とする常用対数である。これにより、抵抗Rにより無損失同軸線路20の絶縁体の誘電体損を置き換えられることが分かる。
【0020】
ところで、同軸線路の誘電体損は同軸線路の全長に渡って均等に分布しており、無損失同軸線路20を微小同軸線路CX1,CX2,CX3・・・CXnで表し、微小同軸線路の誘電体損を微小同軸線路CX1~CXnのそれぞれの両側に接続した微小抵抗r1,r2,r3・・・r(2n)で表すと、無損失同軸線路20は図5(a)に示す等価回路で表される。図5(a)に示す等価回路では、微小同軸線路CX1~CXnからなる全体の電気長はLとされその位相がθとされ、特性インピーダンスがWとされている。微小同軸線路CX1~CXnの外導体をアースし、微小同軸線路CX1の中心導体の一端を入力端子Pinに接続し、微小同軸線路CXnの中心導体の他端を出力端子Poutに接続し、PinとPoutのインピーダンスをZoとする。
ここで、図4に示す2個の抵抗Rの合成値を、微小抵抗rを2n個並列接続させた合成抵抗値と等しいとおくと、
r/2n=R/2 (12)
となる。
図5(a)に示す回路において、PinとPoutのインピーダンスをZoとして、微小同軸線路CX1~CXnのそれぞれの特性インピーダンスWをインピーダンスZoと等しくし、θ=180°とする。nの極限値n→∞ではcos(θ/n)=1,sin(θ/n)=0 となって、SパラメータS21は、上記(10)式で表される。従って、挿入損失ILは上記(11)式で表される。
【0021】
このことから、上記した図5(a)の条件の下では、図5(a)の回路は図5(b)の回路と等価となる。図5(b)の回路では、入力端子Pinと出力端子Poutとを接続する接続線とアースとの間に抵抗Rpが並列に接続されており、PinとPoutのインピーダンスがZoとされている。並列に接続された抵抗Rpを、
Rp=R/2 (13)
とおき、図5(a)に示す回路において、PinとPoutのインピーダンスをZoとすると、SパラメータS21は、上記(10)式で表され、挿入損失ILは上記(11)式で表されるようになる。(11)式に(13)式を代入すると、
IL=20log|1/{(1+(Zo/2Rp)}| (14)
と求められる。(14)式は図5(b)の挿入損失ILを示していることから、同軸線路の全長が180°の整数倍の位相に該当する周波数における同軸線路の誘電体損は、並列に接続された抵抗Rpの1個の回路に変換できることが分かる。
【0022】
ところで、本発明にかかる測定治具1の同軸線路は、同心円筒型のコンデンサCpとみなすことができ、このコンデンサCpに寄生した誘電体損となる抵抗RpがコンデンサCpに並列接続された回路と等価と考えられる。そこで、本発明にかかる測定治具1を用いた本発明にかかる誘電正接測定法の等価回路を図6に示す。図6において、コンデンサCpと抵抗Rpの並列回路が測定治具1の等価回路30であり、等価回路30における測定治具1に電圧源31から所定の周波数の信号が印加されている。測定治具1を用いた等価回路30の挿入損失ILは、上記(14)式から求めることができるので、抵抗Rpを(14)式を変形して求めると、
Rp={Zo×10(IL/20)}/[2{1-10(IL/20)}] (15)
と求められる。そして、特性インピーダンスWは比誘電率εr=1の時のインピーダンスZoと等しいことから、この(15)式に上記(3)式でW=Zo,εr=1として求めたZoを代入すると、
Rp={60ln(b/a)×10(IL/20)}/[2{1-10(IL/20)}]
={30ln(b/a)×10(IL/20)}/{1-10(IL/20)} (16)
となる。
等価回路30における誘電正接であるtanδは、次に示す(17)式で定義される。なお、ωnはnFsの角周波数(2π・nFs)である。
tanδ=1/(ωn×Cp×Rp) (17)
【0023】
同心円筒型のコンデンサCpとみなすことができる測定治具1の長さLの同軸線路の静電容量は、同軸線路における絶縁体の誘電率をεとするとε=εoεrであり、絶縁体の比誘電率をεr、真空の誘電率εoを定数の8.854×10-12 [F/m]、中心導体14の外径aと外導体12の内径bの比をb/aとすると、長さL[m]の同心円筒型のコンデンサCpの静電容量は、次に示す(18)式で表せる。
Cp[F]=L×(2πεoεr)/ln(b/a) (18)
(18)式において、Cpの単位を「F」から「pF」に変更すると、
Cp[pF]=1012×(L×2π×8.854×10-12×εr)/ln(b/a)
=(55.63×εr×L)/ln(b/a) (19)
となる。
上記(17)式に上記(5)式と上記(16)式および(19)式を代入して誘電正接tanδを求めると、
tanδ=95.365×nFs×{1-10(IL/20)
/{nFo×L×10(IL/20)} (20)
と求められる。(20)式は上記(1)式と同じ式であり、上記の通り上記(1)が誘導されたことが分かる。なお、(20)式において、Lは液体が充填される測定治具1の中心導体14と外導体12からなる同軸線路の長さであり、nを1以上の正の整数とすると、nFoは同軸線路内に液体が充填されていない時に、同軸線路で位相が180°のn倍となる周波数であり、nFsは液体を同軸線路内に充填した状態における同軸線路の位相が180°のn倍となる周波数であり、ILはnFsにおける測定治具1の挿入損失である。なお、前述したネットワークアナライザのキャリブレーション作業により、同軸線路内に液体が充填されていない時の測定治具1の挿入損失は0dBに基準化されていることから、ILは液体を同軸線路内に充填したことにより増加した挿入損失となる。
上記のとおりであるから、前述したネットワークアナライザの測定の結果を基に、周波数nFsと、その際の挿入損失ILとを求めることにより、測定治具1の同軸線路内に充填された液体の誘電正接tanδを上記(1)式から求めることができるのである。
【0024】
<測定した結果>
本発明にかかる図1および図2に示す測定治具1を用いて本発明の誘電正接測定法で測定した結果を説明する。図8は本発明にかかる測定治具1に液体を充填しない状態として、本発明の誘電正接測定法で測定した結果を示す図表であり、表1としている。
図8に示す表1を参照すると、測定治具1における液体を注入して液体が充填される同軸線路の長さLが0.12mであり、同軸線路を構成する中心導体14の外形寸法aが3.00mm、外導体12の内径寸法bが7.0mmとされて、外導体12と中心導体14の寸法比b/aが約2.33とされていると共に、入力コネクタ11と出力コネクタ13が公称50Ωの同軸コネクタとされて、入出力インピーダンスZoが50Ωとされている。上記寸法およびインピーダンスとされた際には、同軸線路の位相が180°相当(n=1)となる周波数Fo1が1,250MHzと測定され、同軸線路の位相が360°相当(n=2)となる周波数Fo2が2,500MHzと測定され、同軸線路の位相が540°相当(n=3)となる周波数Fo3が3,750MHzと測定され、同軸線路の位相が720°相当(n=4)となる周波数Fo4が5,000MHzと測定されている。
【0025】
次に、図9は本発明にかかる測定治具1に液体として純水を充填して、+20°の室温環境で本発明の誘電正接測定法で測定した挿入損失ILの周波数特性および反射減衰量RLの周波数特性を示す。
図9を参照すると、横軸が0~1000MHzの周波数とされ、縦軸が挿入損失[dB]および反射減衰量[dB]とされている。そして、同軸線路の位相が180°相当(n=1)となる周波数Fs1が約142MHzと読み取れ、この時の挿入損失ILが約0.74dB、反射減衰量RLが約22.2dBと読み取れる。また、同軸線路の位相が360°相当(n=2)となる周波数Fs2が約290MHzと読み取れ、この時の挿入損失ILが約1.80dB、反射減衰量RLが約14.7dBと読み取れる。さらに、同軸線路の位相が540°相当(n=3)となる周波数Fs3が約435MHzと読み取れ、この時の挿入損失ILが3.20dB、反射減衰量RLが約10.3dBと読み取れる。さらにまた、同軸線路の位相が720°相当(n=4)となる周波数Fs4が約578MHzと読み取れ、この時の挿入損失ILが5.02dB、反射減衰量RLが約7.4dBと読み取れる。
【0026】
図9に示す測定結果を基に上記(20)式から誘電正接tanδを算出することができる。この場合、nFoにおいてn=1~4の周波数は表1に示すFo1~Fo4である。算出されたtanδと、nFo、nFs、挿入損失ILとを、入出力インピーダンスZo=50Ωの測定治具1において長さL=0.12mの同軸線路の位相が180°、360°、540°、720°の時の数値の図表を図10に示し、表2としている。
図10に示す表2を参照すると、同軸線路の位相が180°相当(n=1)となる周波数Fs1ではtanδが約0.0064と算出され、同軸線路の位相が360°相当(n=2)となる周波数Fs2ではtanδが約0.0084と算出され、同軸線路の位相が540°相当(n=3)となる周波数Fs3ではtanδが約0.0109と算出され、同軸線路の位相が720°相当(n=4)となる周波数Fs4ではtanδが約0.0144と算出されることが分かる。
【0027】
また、本発明の誘電正接測定法では、図9に示すようにnFsにおける反射減衰量RLも得られ、さらに、上記(5)式、(16)式、(19)式により比誘電率εrおよびコンデンサCpの容量と抵抗Rpとの値を求めることができる。求めたεr、Cp、Rpから上記(17)式によりtanδを算出することができる。そこで、図11にnFsにおける反射減衰量RL並びに算出したεr、Cp、Rpおよびtanδからなる図表を示し、表3としている。
図11に示す表3を参照すると、同軸線路の位相が180°相当(n=1)となる周波数Fs1では、反射減衰量RLが約22.2dBとされ、εrが約77.5,Cpが約610.5pF、Rpが約285.8Ωと算出されて、tanδが約0.0064と算出される。また、同軸線路の位相が360°相当(n=2)となる周波数Fs2では、反射減衰量RLが約14.7dBとされ、εrが約75.4、Cpが約593.7pF、Rpが約110.4Ωと算出されて、tanδが約0.0084と算出される。さらに、同軸線路の位相が540°相当(n=3)となる周波数Fs3では、反射減衰量RLが約10.3dBとされ、εrが約74.7,Cpが約588.2pF、Rpが約57.1Ωと算出されて、tanδが約0.0109と算出される。さらにまた、同軸線路の位相が720°相当(n=4)となる周波数Fs4では、反射減衰量RLが約7.4dBとされ、εrが約74.3,Cpが約585.5pF、Rpが約32.5Ωと算出されて、tanδが約0.0144と算出される。
ここで、純水の常温における低周波での比誘電率εrは約80であることが知られており、表2および表3に示すtanδと概ね合致していることが分かる。
【0028】
本発明の誘電正接測定法で測定した結果である図9に示す挿入損失ILの周波数特性および反射減衰量RLの周波数特性に基づく、図10に示す表2および図11に示す表3からtanδの周波数特性および比誘電率εrを求めて図12に示す。
図12に実線で示すtanδの周波数特性を参照すると、横軸が0~1000MHzの周波数とされ、縦軸がtanδとされている。そして、約100MHzの低域から約900MHzの高域になるに従いtanδが増加しているのが分かる。このように、本発明にかかる測定治具1を用いる本発明の誘電正接測定法では、nが1を超える高次周波数の測定結果を得ることができることから、tanδの広帯域な周波数特性を得ることができる。また、測定精度も高精度が得られるようになる。また、図12に破線で示す比誘電率εrの周波数特性を参照すると、低域になるにつれて比誘電率εrが増加し、直流に近い低周波数において約80に近づく様子が分かる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上説明した本発明にかかる実施例の測定治具を用いる本発明の誘電正接測定法では、本発明にかかる測定治具に充填される液体の比誘電率εrは、同軸線路の波長短縮率から換算されていることから、正確な比誘電率εrを取得することができる。また、本発明にかかる測定治具は、同軸線路の電気長が位相180°の整数倍のときに、誘電損失となる抵抗分以外のリアクタンス成分が消滅する、と言う分布定数線路の伝送姿態であるTEMモードの特性を利用している。
また、本発明にかかる実施例の測定治具を用いる本発明の誘電正接測定法では、ネットワークアナライザ等の測定器により挿入損失を求めていることから、高い測定精度の挿入損失が得られるようになる。また、ネットワークアナライザ等の測定器により正確に反射減衰量を求めていることから、反射減衰量から求められるnFsを高精度で得ることができるようになる。さらに、nFoおよび液体が充填される同軸線路の長さは、寸法測定から得られることから、高精度に得ることができるので、比誘電率εrも正確に得ることができる。そして、これらの精度の高い測定結果をもとに上記(1)式に示した計算式からtanδを求めているので、結果的に得られる誘電正接の精度も高くなる。よって、本発明の誘電正接測定法では、従来の誘電正接の測定法に比べて、高精度にtanδを得ることができるようになる。
さらに、本発明にかかる実施例の測定治具を用いる本発明の誘電正接測定法では、ひとつの測定治具を用いるのみで、同軸線路の長さが180°の整数倍に当たる周波数の測定が可能であるから、それらの測定結果を統合することで、tanδの広帯域特性が必要な場合にも対応できる。この場合、本発明にかかる測定治具の液体が充填される同軸線路の長さは任意の長さを選択できるので、所望の周波数帯域での測定が実行可能となる。
【符号の説明】
【0030】
1 測定治具、11 入力コネクタ、11a コネクタ用フランジ、11b ネジ、12 外導体、12a 外導体用フランジ、12b 外導体用フランジ、12c 注入孔、12d 注入孔、12e Oリング、12f Oリング、13 出力コネクタ、13a コネクタ用フランジ、13b ネジ、14 中心導体、20 無損失同軸線路、30 等価回路、31 電圧源、100 容量法、110 電圧源、111 電極、112 電極、120 誘電体、200 同軸線路、210 外導体、211 中心導体、212 コネクタ、213 コネクタ、214 ネジ、215 封止材、220 液体、CX1~CXn 微小同軸線路、Cp コンデンサ、Pin 入力端子、Pout 出力端子、R 抵抗、Rp 抵抗
図1
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