(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2023501912
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2021040627
(87)【国際公開番号】W WO2023079641
(87)【国際公開日】2023-05-11
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-35897(JP,A)
【文献】特開2019-105314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に同軸に並べて配置した固定側の第1内歯歯車および回転側の第2内歯歯車と、
前記第1、第2内歯歯車の内側に同軸に配置された半径方向に撓み可能な円筒状の外歯歯車と、
前記外歯歯車を半径方向に撓めて前記第1、第2内歯歯車のそれぞれに部分的にかみ合わせ、かみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
前記外歯歯車の前記軸線方向の移動を規制するために、前記外歯歯車を挟み、前記軸線方向における前記第1内歯歯車の側に配置した第1規制部および前記第2内歯歯車の側に配置した第2規制部と、
を有する波動歯車装置において、
前記第1規制部は、前記外歯歯車の前記軸線方向における前記第1内歯歯車の側の第1環状端面に形成した第1軌道溝と、当該第1軌道溝に前記軸線方向から対峙する固定側部材に形成した固定側軌道溝と、前記第1軌道溝と前記固定側軌道溝との間に転動可能な状態で挟まれている複数個の第1転動体とを備えており、
前記第2規制部は、前記外歯歯車の前記軸線方向における前記第2内歯歯車の側の第2環状端面に形成した第2軌道溝と、当該第2軌道溝に前記軸線方向から対峙する前記第2内歯歯車と一体回転する回転側部材に形成した回転側軌道溝と、前記第2軌道溝と前記回転側軌道溝との間に転動可能な状態で挟まれている複数個の第2転動体とを備えていることを特徴とする波動歯車装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1規制部における前記第1軌道溝と前記固定側軌道溝との間に前記第1転動体が軸線方向に所定の与圧が付与された状態で保持されており、
前記第2規制部における前記第2軌道溝と前記回転側軌道溝との間に前記第2転動体が軸線方向に所定の与圧が付与された状態で保持されている波動歯車装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1規制部の前記第1軌道溝および前記固定側軌道溝は、それぞれ、軸線を中心とする連続した円環状軌道溝であり、
前記円環状軌道溝の間には、円周方向に間隔を開けた状態で前記第1転動体である第1ボールがリテーナによって保持されており、
前記第2規制部の前記第2軌道溝および前記回転側軌道溝は、それぞれ、前記軸線を中心として所定の角度間隔で配置された複数の離散軌道溝であり、
前記軸線方向から対峙する前記離散軌道溝の間には、それぞれ、前記第2転動体である第2ボールが1個ずつ保持されている波動歯車装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記第1規制部の前記円環状軌道溝の間には、前記円周方向における等角度間隔の位置に、少なくとも4個の前記第1転動体が保持されており、
前記第2規制部の前記離散軌道溝は、少なくとも、同一円上において等角度間隔で4か所に形成されており、各離散軌道溝に1個ずつ前記第2転動体が保持されている波動歯車装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記円環状軌道溝は、半径方向に所定の幅の平坦な溝底面と、この溝底面における半径方向の外周縁および内周縁に繋がる円弧状凹面からなる外周側溝側面および内周側溝側面とを備えており、
前記離散軌道溝は、所定の大きさの平坦な溝底面と、この溝底面を取り囲む円弧状凹面からなる内周側面とを備えている波動歯車装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記外歯歯車は、前記波動発生器によって楕円形状に撓められ、当該楕円形状の長軸上の位置において前記第1、第2内歯歯車にかみ合っており、
前記円環状軌道溝の溝深さは、前記第1ボールの直径をD1とすると、0.07D1~0.09D1であり、
前記円環状軌道溝の前記溝底面の幅は、前記楕円形状に撓められる前記外歯歯車の長軸位置での撓み幅をdfとすると、少なくとも0.5dfであり、
前記外周側溝側面および前記内周側溝側面を規定する前記円弧状凹面の曲率半径は、0.52D1~0.7D1であり、
前記離散軌道溝の溝深さは、前記第2ボールの直径をD2とすると、0.07D2~0.09D2であり、
前記離散軌道溝の前記溝底面の大きさは、少なくとも、前記撓み幅dfを直径あるいは長径とする円形底面または楕円形底面であり、
前記離散軌道溝の前記内周側面を規定する前記円弧状凹面の曲率半径は、0.52D2~0.7D2である波動歯車装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記外歯歯車の前記第1環状端面の半径方向の幅は、少なくとも、
df+0.65D1
であり、
前記第2環状端面の半径方向の幅は、少なくとも、
df+0.65D2
である波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外歯歯車の軸線方向の移動を規制する機構を備えた波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置としてフラット型波動歯車装置が知られている。フラット型波動歯車装置においては、外歯歯車が軸線方向(スラスト方向)に移動するウォーキングと呼ばれる現象が起きる。通常、外歯歯車の軸線方向の移動を、許容される可動範囲に制限するために、外歯歯車の移動を規制する規制部材(F/S寄り止め部:プレ-ト、止め輪など)が配置される(特許文献1、2)。また、外歯歯車の部位に、エンドレスばねなどを配置すること(特許文献3)、外歯歯車をやま歯にすることなどが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-199130号公報
【文献】実開平3-119643号公報
【文献】国際公開第2016/194066号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、波動歯車装置における外歯歯車の軸線方向の移動を規制する従来の機構では、外歯歯車に微小ではあるが軸線方向の変位が生じ、規制部材との間の接触部分の滑りによる摩擦ロスが大きいという課題がある。
【0005】
本発明の目的は、外歯歯車の軸線方向の変位を抑制でき、かつ、外歯歯車の軸線方向の移動を規制する部材との間の接触部分の滑りによる摩擦ロスを大幅に低減できるようにした波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の波動歯車装置は、
軸線方向に同軸に並べて配置した固定側の第1内歯歯車および回転側の第2内歯歯車と、
これら第1、第2内歯歯車の内側に同軸に配置された半径方向に撓み可能な円筒状の外歯歯車と、
外歯歯車を半径方向に撓めて第1、第2内歯歯車のそれぞれに部分的にかみ合わせ、かみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
外歯歯車の軸線方向の移動を規制するために、外歯歯車を挟み、軸線方向における第1内歯歯車の側に配置した第1規制部および第2内歯歯車の側に配置した第2規制部と、
を有しており、
第1規制部は、外歯歯車の軸線方向における第1内歯歯車の側の第1環状端面に形成した第1軌道溝と、当該第1軌道溝に軸線方向から対峙する固定側部材に形成した固定側軌道溝と、第1軌道溝と固定側軌道溝との間に転動可能な状態で挟まれている複数個の第1転動体とを備えており、
第2規制部は、外歯歯車の軸線方向における第2内歯歯車の側の第2環状端面に形成した第2軌道溝と、当該第2軌道溝に軸線方向から対峙する第2内歯歯車と一体回転する回転側部材に形成した回転側軌道溝と、第2軌道溝と回転側軌道溝との間に転動可能な状態で挟まれている複数個の第2転動体とを備えていることを特徴としている。
【0007】
ここで、第1規制部における第1軌道溝と固定側軌道溝との間に第1転動体が軸線方向に所定の与圧状態で保持されていることが望ましい。また、第2規制部における第2軌道溝と回転側軌道溝との間に第2転動体が軸線方向に所定の与圧状態で保持されていることが望ましい。
【0008】
外歯歯車のリム厚を厚くすることで、その軸線方向の両端の第1、第2環状端面を、転動体が転動する第1、第2軌道溝を形成可能な幅にして、第1、第2規制部を設けることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の波動歯車装置では、外歯歯車と、その軸線方向の移動を規制する両側の固定側部材および回転側部材との間の接触を、これらの間に直接に転動体を介在させることで、転がり接触としてある。接触部分として転がり接触以外の接触が無いので、接触部分の滑りによる摩擦ロスを大幅に低減できる。また、転がり接触する部分に軸線方向から与圧を掛けて、軸線方向のがたつきを無くすことで、外歯歯車の軸線方向の移動が確実に抑制され、大きなスラスト力の発生が防止される。この結果、波動歯車装置の効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(A)は本発明を適用した波動歯車装置を示す概略縦断面図であり、(B)は内歯歯車と外歯歯車のかみ合い状態を示す説明図である。
【
図2】(A)は外歯歯車を示す概略半縦断面図であり、(B1)は第1規制部を示す説明図であり、(B2)は第1規制部の軌道溝を示す説明図であり、(C1)は第2規制部を示す説明図であり、(C2)は第2規制部の軌道溝を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照して本発明を適用した波動歯車装置の実施の形態を説明する。以下に述べる実施の形態は本発明の一例を示すものであり、当該実施の形態に本発明を限定することを意図したものでは無い。
【0012】
図1(A)は実施の形態に係るフラット型波動歯車装置を示す概略縦断面図であり、
図1(B)は内歯歯車と外歯歯車のかみ合い状態を示す説明図である。フラット型波動歯車装置1(以下、単に、「波動歯車装置1」という。)は、軸線方向に同軸に並べて配置した固定側の第1内歯歯車2および回転側の第2内歯歯車3と、第1、第2内歯歯車2、3の内側に同軸に配置された半径方向に撓み可能な円筒状の外歯歯車4と、外歯歯車の内側に同軸に配置された波動発生器5とを備えている。波動発生器5は、剛性プラグ5aと、この剛性プラグ5aの楕円状外周面5bに装着されて楕円状に撓められているウエーブベアリング5cとを備えている。本例の固定側の第1内歯歯車2は固定側部材である装置ハウジング7に締結固定されており、回転側の第2内歯歯車3は、回転側部材である円盤状の出力軸8に締結固定されている。出力軸8は、軸受9を介して、装置ハウジング7によって回転自在の状態で支持されている。
【0013】
外歯歯車4は、
図1(B)に示すように、波動発生器5によって楕円形状に撓められて、楕円形状の長軸Lmaxの両端部分において第1、第2内歯歯車2、3にそれぞれかみ合っている。固定側の第1内歯歯車2の歯数は、外歯歯車4の歯数より2n枚(nは正の整数)多く、回転側の第2内歯歯車3の歯数は、外歯歯車4の歯数と同一である。モータ等によって波動発生器5が回転すると、固定側の第1内歯歯車2と外歯歯車4との間のかみ合い位置が円周方向に移動し、外歯歯車4が歯数差に応じた回転数で回転する。外歯歯車4と歯数が同一の第2内歯歯車3は、外歯歯車4と一体回転し、外歯歯車4の回転が、第2内歯歯車3を介して出力軸8から出力される。
【0014】
ここで、波動歯車装置1は、外歯歯車4の軸線方向の移動を規制するために、外歯歯車4を挟み、軸線方向における第1内歯歯車2の側に配置した第1規制部10および第2内歯歯車3の側に配置した第2規制部20を備えている。
【0015】
図2(A)は外歯歯車を示す概略半縦断面図であり、
図2(B1)は第1規制部の断面形状およびその軌道溝を示す説明図であり、(B2)は第1規制部の軌道溝を示す説明図であり、(C1)は第2規制部の断面形状およびその軌道溝を示す説明図であり、(C2)は第2規制部の軌道溝を示す説明図である。
【0016】
第1規制部10は、
図2(B1)に示すように、外歯歯車4の軸線方向における第1内歯歯車2の側の第1環状端面41に形成されている第1軌道溝11と、当該第1軌道溝11に軸線方向から対峙する固定側部材である装置ハウジング7の環状端面71に形成した固定側軌道溝12と、第1軌道溝11と固定側軌道溝12との間に転動可能な状態で挟まれている複数個の第1ボール13(第1転動体)と、第1ボール13を円周方向に所定の間隔で保持するリテーナ14とを備えている。外歯歯車4の第1環状端面41に形成した第1軌道溝11に対して、第1ボール13を挟み、固定側軌道溝12の側から軸線方向に所定の与圧が付与されている。適切な与圧状態が形成されるように、第1軌道溝11に対する固定側軌道溝12の軸線方向の位置が設定されている。
【0017】
第2規制部20は、
図2(C1)に示すように、外歯歯車4の軸線方向における第2内歯歯車3の側の第2環状端面42に形成した第2軌道溝21と、当該第2軌道溝21に軸線方向から対峙する回転側部材である出力軸8の環状端面81に形成した回転側軌道溝22と、第2軌道溝21と回転側軌道溝22との間に転動可能な状態で挟まれている複数個の第2ボール23(第2転動体)とを備えている。外歯歯車4の第2環状端面42に形成した第2軌道溝21に対して、第2ボール23を挟み、回転側軌道溝22の側から軸線方向に所定の与圧が付与されている。適切な与圧状態が形成されるように、第2軌道溝21に対する回転側軌道溝22の軸線方向の位置が設定されている。
【0018】
第1規制部10は、波動歯車装置1の運転状態において減速回転する外歯歯車4と、固定側の装置ハウジング7との間に配置されている。
図2(B1)、(B2)を参照して説明すると、外歯歯車4の側の第1軌道溝11および装置ハウジング7の側の固定側軌道溝12は、それぞれ、軸線1aを中心とする円環状軌道溝であり、軸線方向から一定の間隔で対峙する対称な形状をしている。
図2(B2)において太い実線で示す固定側軌道溝12に対して、楕円形状に撓められる外歯歯車4の側の第1軌道溝11は、細い一点鎖線で示すように、円環形状から楕円形状に撓められている。波動発生器5の回転に伴って、第1軌道溝11の円周方向の各部分は繰り返し半径方向に一定の振幅(df)で変位する。円環形状の固定側軌道溝12と、各部分が繰り返し半径方向に変位する第1軌道溝11との間において、第1ボール13が転動自在の状態で保持されるように、これらの軌道溝が形成されている。また、これらの軌道溝の間には、4個以上の第1ボール13が挿入されており、これらの第1ボール13はリテーナ14によって円周方向に等角度間隔に保持されている。例えば、
図2(B2)に示すように4個の第1ボール13が挿入されている。
【0019】
第1規制部10の第1軌道溝11および固定側軌道溝12は、平坦な溝底面11a、12aと、この溝底面11a、12aにおける半径方向の外周縁および内周縁に繋がる円弧状凹面からなる外周側溝側面11b、12bおよび内周側溝側面11c、12cを備えている。第1軌道溝11、固定側軌道溝12の溝深さH1は、第1ボール13の直径をD1とすると、0.07D1~0.09D1にすることができる。
0.07D1 ≦ H1 ≦ 0.09D1
【0020】
第1ボール13は、円環形状の固定側軌道溝12と、楕円形状の撓められた状態で周方向の各部分が半径方向に繰り返し変位する第1軌道溝11との間において、
図2(B1)に一点鎖線の矢印13Aで示すように、波動発生器5が1回転する毎に、半径方向に所定の振幅の波状の軌跡に沿って転動する。このような第1ボール13の動きを阻害しないように、溝底面11a、12aの幅W1は、楕円形状に撓められる外歯歯車4の長軸Lmaxの位置での半径方向の撓み量をdfとすると、少なくとも、dfに設定される。
W1≧df
【0021】
また、溝内を動き回る第1ボール13に干渉しないように、外周側溝側面11b、12bおよび内周側溝側面11c、12cを規定する円弧状凹面の曲率半径R1は、0.52D1~0.7D1に設定される。
0.52D1 ≦ R1 ≦ 0.7D1
【0022】
一方、第2規制部20は、軸線1aを中心として同一速度で回転する外歯歯車4と出力軸8との間に配置されている。
図2(C1)、(C2)を参照して説明すると、外歯歯車4の側の第2軌道溝21および出力軸8の側の回転側軌道溝22は、それぞれ、軸線1aを中心として等角度間隔に配置された円形の離散軌道溝(軌道ポケット)である。軸線方向から一定の間隔で対峙する一対の離散軌道溝である第2軌道溝21および回転側軌道溝22が、軸線1aを中心とする同一円上において等角度間隔で4か所以上の位置に形成されている。各位置において、第2軌道溝21と回転側軌道溝22との間には、それぞれ、1個の第2ボール23が転動自在の状態で保持されている。例えば、
図2(C2)に示すように、4か所に、1個ずつ第2ボール23が保持された離散軌道溝が形成されている。
図2(C2)において太い実線で示す4か所に形成した回転側軌道溝22に対して、楕円形状に撓められる外歯歯車の側の4か所の円形の第2軌道溝21は、細い一点鎖線で示すように、波動発生器5の回転に伴って半径方向に一定の振幅で変位する。同一円上に位置する円形の回転側軌道溝22と、繰り返し半径方向に変位する円形の第2軌道溝21との間において、第2ボール23が転動自在の状態で保持されるように、これらの軌道溝が形成されている。
【0023】
円形輪郭の離散軌道溝である第2軌道溝21および回転側軌道溝22は、所定の大きさの平坦な溝底面21a、22aと、この溝底面21a、22aを取り囲む円弧状凹面からなる内周側面21b、22bとを備えている。第2軌道溝21、回転側軌道溝22の溝深さH2は、第2ボール23の直径をD2とすると、0.07D2~0.09D2にすることができる。
0.07D2 ≦ H2 ≦ 0.09D2
【0024】
第2軌道溝21、回転側軌道溝22の間を転動する第2ボール23は、波動発生器5が1回転する毎に、
図2(C1)において一点鎖線の矢印23Aで示すように、溝内において楕円を描く動きをする。このような第2ボール23の動きを阻害しないように、溝底面21a、22aの直径W2は、少なくとも、dfに設定される。
W2≧df
【0025】
また、溝内を動き回る第2ボール23に干渉しないように、第2軌道溝21、回転側軌道溝22の内周側面21c、22cを規定する円弧状凹面の曲率半径R2は、0.52D2~0.7D2に設定される。
0.52D2 ≦ R2 ≦ 0.7D2
【0026】
本例では、第1、第2ボール13、23として同一径のボールを使用しており、D1=D2=Dである。異なる径のボールを使用することも可能である。
【0027】
次に、外歯歯車4はリム厚を厚くしてあり、これによって、両側の第1環状端面41、第2環状端面42を、上記の第1、第2軌道溝11、21を形成可能な幅を備えた端面としてある。鋼製の外歯歯車はリム厚を厚くすると疲労強度が低下するので、リム厚を厚くするには、必要とされる疲労強度が得られるように外歯歯車の材質を選択する必要がある。例えば、アルミニウム素材、樹脂素材から外歯歯車4が製作される。
【0028】
本例では、外歯歯車4の両側の第1、第2環状端面41、42に、前述した第1軌道溝11および第2軌道溝21を形成できるように、第1環状端面41の半径方向の幅T1(厚さ)を、(df+0.65D1)以上にし、第2環状端面42の半径方向の幅T2(厚さ)を、(df+0.65D2)以上にしている。本例では、D1=D2=Dであるので、外歯歯車4の歯幅方向の全体に亘って、そのリム厚Tは、(df+0.65D)以上に設定される。
T ≧ df+0.65D
【0029】
以上説明したように、波動歯車装置1においては、外歯歯車4の軸線方向の移動を規制するために、外歯歯車4の軸線方向の一方の側に第1規制部10を配置し、他方の側に第2規制部20を配置してある。第1規制部10は、外歯歯車4の一方の第1環状端面41と固定側部材である装置ハウジング7に形成した固定側端面との間の間に直接に第1ボール13を介在させた構成となっている。同様に、第2規制部20は、外歯歯車4の他方の第2環状端面42と回転側部材である出力軸8に形成した回転側端面との間に直接に第2ボール23を介在させた構成となっている。外歯歯車4の軸線方向の移動を規制するための接触部分として転がり接触以外の接触が無いので、接触部分の滑りによる摩擦ロスを大幅に低減できる。また、転がり接触する部分に軸線方向から与圧を掛けて、軸線方向のがたつきを無くすことで、外歯歯車4の軸線方向の移動が確実に抑制され、大きなスラスト力の発生が防止され、波動歯車装置の効率を大幅に向上できる。