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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】真空ポンプ及びセンサターゲット
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
F04D19/04 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018106095
(22)【出願日】2018-06-01
(65)【公開番号】P2019210836
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105201
【弁理士】
【氏名又は名称】椎名 正利
(72)【発明者】
【氏名】時 永偉
【合議体】
【審判長】柿崎 拓
【審判官】長馬 望
【審判官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-72216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ軸の軸方向の変位を検出するため、該ロータ軸とは非接触に配置されたセンサコイルを有する軸方向変位センサと、
該軸方向変位センサとギャップを隔てて対向して配置され前記センサコイルで発生する磁束を受ける前記ロータ軸に取り付けられたセンサターゲットとを備えた真空ポンプであって、
前記センサターゲットが磁性を有する金属で構成され、
前記金属は、強磁性材であるフェライトではなく、炭素成分が0.13~0.28%の低炭素鋼であことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記センサターゲットが内側に雌ねじの刻設されたナットで形成されたことを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
ロータ軸の軸方向の変位を検出するためのセンサターゲットであって、
前記センサターゲットは、センサコイルを有する軸方向変位センサとギャップを隔てて対向して前記ロータ軸に配置され、前記センサコイルで発生する磁束を受けるため磁性を有する金属で構成され、
前記金属は、強磁性材であるフェライトではなく、炭素成分が0.13~0.28%の低炭素鋼であことを特徴とするセンサターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空ポンプ及びセンサターゲットに係わり、特に変位センサのセンサターゲットに強磁性材を使用したときよりも安価でセンサ感度の線形性の範囲を広げ、かつ、外乱の発生時でもタッチダウンをし難くした真空ポンプ及びセンサターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクスの発展に伴い、メモリや集積回路といった半導体の需要が急激に増大している。
これらの半導体は、きわめて純度の高い半導体基板に不純物をドープして電気的性質を与えたり、エッチングにより半導体基板上に微細な回路を形成したりなどして製造される。
そして、これらの作業は空気中の塵等による影響を避けるため高真空状態のチャンバ内で行われる必要がある。このチャンバの排気には、一般に真空ポンプが用いられているが、特に残留ガスが少なく、保守が容易等の点から真空ポンプの中の一つであるターボ分子ポンプが多用されている。
【0003】
また、半導体の製造工程では、さまざまなプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、ターボ分子ポンプはチャンバ内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスをチャンバ内から排気するのにも使用される。
【0004】
図7に、例として、このターボ分子ポンプの軸方向変位センサ周りの代表的な構造を示す。図7において、このターボ分子ポンプでは、高速で回転するロータ軸113回りに取り付けられた金属ディスク111を図示しない軸方向電磁石で軸方向に磁気浮上させつつ位置制御している。この位置制御を行うため、ロータ軸113の下端部と軸方向変位センサ1間のギャップ2の大きさが軸方向変位センサ1とセンサターゲット3により測定されている。軸方向変位センサ1は、軸方向電磁石を保持する保持部材5の中心に貫通固定された軸部1Aの上端に取り付けられたボビン1Bに対しコイル7を捲回して構成されている。センサターゲット3は、このコイル7とギャップ2を隔てて、ロータ軸113の下端に配設されている。
【0005】
ロータ軸113の下端部には小径柱状の軸端部113Aが突設されている。軸端部113Aの外周囲には雄ねじが刻設されており、ロータ軸113の下端部付近に配設された金属ディスク111が、内側に雌ねじの刻設されたナット9で固定されるようになっている。ナット9は例えば非磁性材のSUS304で形成されている。ナット9の底部中央には円柱状の凹部11が形成されており、この凹部11には円柱状のセンサターゲット3が埋めこまれ、接着剤で固定されている。
なお、ナット9は、特別に円柱状の凹部11を有しなくとも、雌ねじが終端まで貫通した、一般的なナットを使用し、センサターゲット3を接着し製造することも可能である。
【0006】
このセンサターゲット3に対して、ポンプ本体側に固定された軸方向変位センサ1のコイル7より磁束が発せられ、ロータ軸113の下端部と軸方向変位センサ1間のギャップ2が非接触に測定される(例えば特許文献1、特許文献2を参照)。この測定には軸方向変位センサ1を小型に構成しつつ所定のセンサ感度が求められることから、従来はセンサターゲット3に強磁性材であるフェライトが使われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-313471号公報
【文献】特開2000-283160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ターゲット材としてのフェライトは、小型で透磁率が高く、変位センサとしてのセンシング精度を向上させることが出来るが、コストが高い。また、ロータ軸113の下端部と軸方向変位センサ1間のギャップ2について広範囲での線形性が保持されない。
【0009】
特に、ギャップ2の大きい所でのセンサ感度について線形性が取り難く、その結果、ロータ軸113の下端部と軸方向変位センサ1間のギャップ2を十分大きくは確保できない。この場合、地震等の外部からの振動や、ターボ分子ポンプがチャンバ内のガスを排気しているときに、何らかの原因で急激にガス(大気)を導入し、真空状態から大気に開放され、回転翼が揺動したりすると、ギャップ2が小さい分タッチダウンにも繋がるおそれもあった。
【0010】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、変位センサのセンサターゲットに強磁性材を使用したときよりも安価でセンサ感度の線形性の範囲を広げ、かつ、外乱の発生時でもタッチダウンをし難くした真空ポンプ及びセンサターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため本発明(請求項1)は真空ポンプの発明であって、ロータ軸の軸方向の変位を検出するため、該ロータ軸とは非接触に配置されたセンサコイルを有する軸方向変位センサと、該軸方向変位センサとギャップを隔てて対向して配置され前記センサコイルで発生する磁束を受ける前記ロータ軸に取り付けられたセンサターゲットとを備えた真空ポンプであって、前記センサターゲットが磁性を有する金属で構成され、前記金属は、強磁性材であるフェライトではなく、炭素成分が0.13~0.28%の低炭素鋼であことを特徴とする。
【0012】
センサターゲットを磁性を有する金属で構成したことにより、フェライトをセンサターゲットとした場合よりもセンサ感度を維持しつつ線形性の範囲を拡大できる。線形性の範囲が拡大したことで、ギャップの余裕を大きくとることもできる。この線形性は特に、ギャップの大きさの大きい部分でフェライトを用いた場合とは顕著に相違している。このため、大気突入や振動などの回転体に対する外的な力が生じた場合であっても、タッチダウンの可能性は極めて低くできる。磁性を有する金属で構成することで、フェライトを用いた場合よりも安価である。
また、変位センサとしてはコイルの大きさを抑えられ、また、センサターゲットとしては、加工性、入手性、コスト共に一定の評価ができる素材を適用でき、センサ感度を維持しつつ線形性の範囲を拡大できる。
【0015】
更に、本発明(請求項)は真空ポンプの発明であって、前記センサターゲットが内側に雌ねじの刻設されたナットで形成されたことを特徴とする。
【0016】
ナットで形成することで、ロータ軸の強度低下を防止することができる。ナット全体で一つのセンサターゲットとして機能するので、構成を簡素にできる。
【0017】
更に、本発明(請求項3)はセンサターゲットの発明であって、ロータ軸の軸方向の変位を検出するためのセンサターゲットであって、前記センサターゲットは、センサコイルを有する軸方向変位センサとギャップを隔てて対向して前記ロータ軸に配置され、前記センサコイルで発生する磁束を受けるため磁性を有する金属で構成され、前記金属は、強磁性材であるフェライトではなく、炭素成分が0.13~0.28%の低炭素鋼であことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、センサターゲットを磁性を有する金属で構成したので、フェライトをセンサターゲットとした場合よりもセンサ感度を維持しつつ線形性の範囲を拡大できる。このため、大気突入や振動などの回転体に対する外的な力が生じた場合であっても、タッチダウンの可能性は極めて低くできる。磁性を有する金属で構成することで、フェライトを用いた場合よりも安価である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ターボ分子ポンプの構成図
図2】軸方向変位センサ周りの構造(センサターゲットをナットとした例)
図3】センサターゲットについて低炭素鋼若しくはフェライトを適用した場合の性能比較
図4】コイルの印加電圧に対する検出可能なギャップの大きさを評価した概念特性
図5】コイルの印加電圧に対する検出可能なギャップの線形性を評価した概念特性
図6】本実施形態の別態様(センサターゲットをボルトとした例)
図7】軸方向変位センサ周りの構造(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1にターボ分子ポンプの構成図を示す。
図1において、ポンプ本体100の円筒状の外筒127の上端には吸気口101が形成されている。外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードによる複数の回転翼102a、102b、102c・・・を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103を備える。
この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば、いわゆる5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0021】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石が、ロータ軸113の径方向の座標軸であって互いに直交するX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接かつ対応して、コイルを備えた4個の上側径方向変位センサ107が備えられている。この上側径方向変位センサ107はロータ軸113の径方向変位を検出し、図示しない制御装置に送るように構成されている。
【0022】
制御装置においては、上側径方向変位センサ107が検出した変位信号に基づき、PID調節機能を有する補償回路を介して上側径方向電磁石104の励磁を制御し、ロータ軸113の上側の径方向位置を調整する。
ロータ軸113は、高透磁率材(鉄など)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。
【0023】
また、下側径方向電磁石105及び下側径方向変位センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向変位センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
更に、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向変位センサ109が備えられ、その軸方向変位信号が制御装置に送られるように構成されている。
【0024】
そして、軸方向電磁石106A、106Bは、この軸方向変位信号に基づき制御装置のPID調節機能を有する補償回路を介して励磁制御されるようになっている。軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bは、磁力により金属ディスク111をそれぞれ上方と下方とに吸引する。
このように、制御装置は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。
【0025】
モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置によって制御されている。
回転翼102a、102b、102c・・・とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123a、123b、123c・・・が配設されている。回転翼102a、102b、102c・・・は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0026】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。
そして、固定翼123の一端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125a、125b、125c・・・の間に嵌挿された状態で支持されている。
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0027】
固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設され、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間にはネジ付きスペーサ131が配設されている。そして、ベース部129中のネジ付きスペーサ131の下部には排気口133が形成され、外部に連通されている。
ネジ付きスペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。
【0028】
ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。
回転体103の回転翼102a、102b、102c・・・に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付きスペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付きスペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。
【0029】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ10の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。
ベース部129はターボ分子ポンプ10を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0030】
かかる構成において、回転翼102がモータ121により駆動されてロータ軸113と共に回転すると、回転翼102と固定翼123の相互作用により、吸気口101を通じてチャンバからの排気ガスが吸気される。
【0031】
吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触又は衝突する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導や輻射などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子等による伝導により固定翼123側に伝達される。
【0032】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触又は衝突する際に生ずる摩擦熱などを外筒127やネジ付きスペーサ131へと伝達する。
ネジ付きスペーサ131に移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつ排気口133へと送られる。
【0033】
次に、図2に基づき軸方向変位センサ周りの構造を詳述する。図2はこの軸方向変位センサ109周りの構成を図7と対比し易いように拡大したものである。軸方向変位センサ109は、軸方向電磁石106を保持する保持部材5の中心に貫通固定された軸部109Aの上端に取り付けられたボビン109Bに対しコイル7を捲回して構成されている。
【0034】
このコイル7とギャップ2を隔てて、ロータ軸113の下端部には小径柱状の軸端部113Bが突設されている。軸端部113Bの外周囲には雄ねじが刻設されており、この軸端部113Bに対して内側に雌ねじの刻設されたナット19が螺合されるようになっている。但し、雌ねじの刻設されている範囲はナット19の中間までに止まり、貫通はされていない。即ち、ナット19は上部にのみ開口されたネジ穴19Aを有している。ナット19は低炭素鋼の一つの素材で構成されている。
雌ねじの下穴として、ナットの軸方向の寸法を小さくすることと、ロータ軸及び回転体の回転時の応力集中の発生を低減する為に、図2のように底面が平な形状の穴加工を実施した。
但し、軸方向寸法に関する制約が大きくなく、また多少の応力集中が発生しても、ロータ軸及び回転体の回転に支障が無ければ、下穴は通常のドリル穴としても良い。
【0035】
次に、本実施形態の作用について説明する。
ナット19は全体が一つの金属素材で構成されており、軸方向変位センサ109のセンサターゲットとして機能する。ナット19をロータ軸113の軸端部113Bに螺合させたことで、軸端部113B周りの強度は確保される。コイル7で発生した磁束がセンサターゲットに届くことでそのインダクタンスの変化からギャップ2の距離が測定される。
【0036】
図3に軸方向変位センサ109のセンサターゲットについて低炭素鋼若しくはフェライトを適用した場合の性能比較をまとめた。ここに、磁性材である低炭素鋼はJIS 規格のS10C、S20C、S45Cを例にまとめている。低炭素鋼については炭素成分(炭素含有量)を併記している。性能は4種類の評価対象素材に対する相対的な評価であり、◎、○、△、×の順に最良から不良までを4段階で示している。図3を見て分かる通り、フェライトは4種類の評価対象素材の内で透磁率も高く磁束が集中し易いためコイルの大きさを最も小さくできる。しかしながら、コストは4種類の評価対象素材の内で最も高く、加工性、入手性は他の3種類の評価対象素材に比べて良くない。
【0037】
加工性、入手性、コストを考慮した場合には、炭素成分の多いS45Cが4種類の評価対象素材の内で最も高いが、透磁率が低い分コイルが大きくならざるを得ない。コイルの大きさを抑えつつ加工性、入手性、コスト共に一定の評価のできるのはS20Cであることが分かる。なお、低炭素鋼に代えて同様に磁性材であるステンレス鋼(例えばSUS420等でSUS400番代のもの)で構成されることも可能である。しかしながら、ステンレス鋼はS20C等の低炭素鋼に比べ加工性が悪いという側面がある。
【0038】
次に、センサ感度について検討する。
図4にはコイルの出力と検出可能なギャップ2の大きさを評価した概念特性を示す。また、図5にはコイルの出力と検出可能なギャップ2の線形性を評価した概念特性を示す。図4の感度特性線は図中符号()で示す傾きを有する特性線がフェライトに相当して最もよい感度を有し、符号()で示す傾きを有する特性線がS45Cに相当し感度は劣る。即ち、この傾きは図3に示すコイル大きさの評価と同じ傾向にあり、S10C、S20C、S45Cの順に次第に傾斜角は小さくなり劣る。
【0039】
但し、この点については、本実施形態ではボビン109B周りの径方向の空きスペースを利用してコイルの捲回数を大きくすることで発生する磁束を増大させ、フェライトに相当する感度を維持できるように構成した。例えば、S20Cを適用した場合にはフェライトの場合よりも5割程捲回数を多くしている。
【0040】
図5の線形性特性からは、図中符号(ハ)で示すフェライトの場合にはギャップ2の高い領域にまで線形性が維持できないことが分かる。これに対してS20Cを適用した場合には符号(ニ)で示すようにフェライトの場合よりも高い領域にまで線形性を維持できる。
【0041】
以上の検討結果より、軸方向変位センサ109のセンサターゲットを一素材の磁性材でナットの形状で構成し、かつ、このナットの素材として例えば低炭素鋼のナットS20Cを適用することで、フェライトをセンサターゲットとした場合よりもセンサ感度を維持しつつ線形性の範囲を拡大できることが分かる。線形性の範囲が拡大したことで、ギャップ2の余裕を大きくとることもできる。この線形性は特にギャップ2の大きさの大きい部分で顕著に相違している。このため、大気突入や振動などの回転体103に対する外的な力が生じた場合であっても、タッチダウンの可能性は極めて低くできる。
【0042】
従来、コア部のみをフェライトとしていたが、それでもコストが高くなってしまうという課題が生じていたが、本実施形態ではセンサターゲットと固定部であるナットを一素材として安価な磁性材の低炭素鋼で構成することが可能である。なお、低炭素鋼は便宜上S20Cを例に説明したが、S15C(炭素成分0.13~0.18%)~S25C(炭素成分0.22~0.28%)であれば望ましい。即ち、炭素成分が0.13~0.28%の磁性材が望ましい。
上記定炭素鋼については綜合的に判断したものだが、もちろん加工性、入手性、コイルの大きさ、コスト、およびセンサ感度の要求値の各々から判断する為、加工性や入手性やコストを考慮して、S45C(炭素含有量0.42~0.48%)を採用したり、コイルの大きさを考慮して、S10C(炭素含有量0.08~0.13%)を採用することも可能であることは言うまでもない。また、ステンレス鋼(例えばSUS420等でSUS400番代のもの)であっても良い。
【0043】
次に、本実施形態の別態様について説明する。
本実施形態ではナット19を軸端部113Bに対し螺合するとして説明した。しかしながら、本実施形態の別態様として、図6に示すようにナット19に代えてボルト21とすることもできる。この場合にもボルト頭部21A及びネジ部21Bを一素材の磁性材で構成し、かつ、この素材として例えば炭素成分が0.13~0.28%の磁性材である低炭素鋼を適用する。
【0044】
ボルト頭部21Aが低炭素鋼なので、本実施形態のナット19と同様に、フェライトをセンサターゲットとした場合よりもセンサ感度を維持しつつ線形性の範囲を拡大できる。
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が当該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0045】
2 ギャップ
5 保持部材
7 コイル
19 ナット
19A ネジ穴
21 ボルト
21A ボルト頭部
103 回転体
109 軸方向変位センサ
109A 軸部
109B ボビン
111 金属ディスク
113 ロータ軸
113B 軸端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7