(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池素子、リチウムイオン二次電池およびリチウムイオン二次電池素子を製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20231225BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231225BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20231225BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231225BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231225BHJP
H01M 50/586 20210101ALI20231225BHJP
H01M 50/595 20210101ALI20231225BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/139
H01M10/0566
H01M10/052
H01M4/13
H01M50/586
H01M50/595
(21)【出願番号】P 2019100452
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2022-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】喜多 洋介
(72)【発明者】
【氏名】木村 愛佳
(72)【発明者】
【氏名】堀内 俊宏
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/130821(WO,A1)
【文献】特開2012-074359(JP,A)
【文献】国際公開第2013/187172(WO,A1)
【文献】特開2019-003789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058-10/0587
H01M 10/04
H01M 4/139
H01M 10/052
H01M 4/13
H01M 10/0566
H01M 50/586
H01M 50/595
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に正極活物質が塗布された正極と、
負極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に負極活物質が塗布された負極と、
を重ね合わせて、リチウムイオン二次電池素子を製造する方法であって、
・正極活物質と溶媒とを含む正極活物質含有スラリを、該正極集電体の一部から、所定の一方向に連続的に塗布して、正極活物質層と正極活物質未塗布部とを設け、該正極活物質層は概して矩形であり、該正極活物質未塗布部は、該正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置し、
該正極活物質層全体を、所定の圧力で概して均一に加圧して、正極活物質層薄肉部と正極活物質層平坦部とを同時に形成して、該正極を得る工程:
・負極活物質と溶媒とを含む負極活物質含有スラリを、該負極集電体の一部から、所定の一方向に連続的に塗布して、負極活物質層と負極活物質未塗布部とを設け、該負極活物質層は該正極活物質層と略同一形状の概して矩形であり、該負極活物質未塗布部は、該正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置し、
該負極活物質層全体を、所定の圧力で概して均一に加圧して、負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部とを同時に形成し、該負極活物質層薄肉部の密度が、該負極活物質層平坦部の密度と同じか、またはそれより小さい、該負極を得る工程:
・該正極の該概して矩形の正極活物質層と該負極の該概して矩形の負極活物質層とが、該矩形同士が互いにほぼ重なるように、該正極と該負極とを重ね合わせる工程であって、この際に、該正極の該正極活物質未塗布部と、該負極の該負極活物質未塗布部とが、該矩形の対向する辺に位置し、該負極活物質層と該負極活物質未塗布部との境界部は、該負極活物質未塗布部と隣り合っている該正極集電体の周縁部よりも、該負極集電体の周縁側に位置し、該負極活物質層平坦部と該負極活物質層薄肉部との境界部は、該負極活物質未塗布部と隣り合っている該正極集電体の周縁部よりも、該負極集電体の中央側に位置し、該正極活物質層と該正極活物質未塗布部との境界部は、該正極活物質未塗布部と隣り合っている該負極集電体周縁部よりも、該正極集電体の周縁側に位置し、該正極活物質層平坦部と該正極活物質層薄肉部との境界部は、該正極活物質未塗布部と隣り合っている該負極集電体周縁部よりも、該正極集電体の中央側に位置するように、該正極と該負極とを重ね合わせる該工程:
を少なくとも含む、前記リチウムイオン二次電池素子を製造する方法。
【請求項2】
正極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に正極活物質が塗布された正極と、
負極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に負極活物質が塗布された負極と、
を重ね合わせて、リチウムイオン二次電池素子を製造する方法であって、
・正極活物質と溶媒とを含む正極活物質含有スラリを、該正極集電体の一部から、所定の一方向に連続的に塗布して、正極活物質層と正極活物質未塗布部とを設け、該正極活物質層は概して矩形であり、該正極活物質未塗布部は、該正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置し、
該正極活物質層全体を、所定の圧力で概して均一に加圧して、正極活物質層薄肉部と正極活物質層平坦部とを同時に形成し、該正極活物質未塗布部の少なくとも一部を覆うように絶縁部材を設けて、該正極を得る工程:
・負極活物質と溶媒とを含む負極活物質含有スラリを、該負極集電体の一部から、所定の一方向に連続的に塗布して、負極活物質層と負極活物質未塗布部とを設け、該負極活物質層は該正極活物質層と略同一形状の概して矩形であり、該負極活物質未塗布部は、該正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置し、
該負極活物質層全体を、所定の圧力で概して均一に加圧して、負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部とを同時に形成し、該負極活物質層薄肉部の密度が、該負極活物質層平坦部の密度と同じか、またはそれより小さい、該負極を得る工程:
・該正極の該概して矩形の正極活物質層と該負極の該概して矩形の負極活物質層とが、該矩形同士が互いにほぼ重なるように、該正極と該負極とを重ね合わせる工程であって、この際に、該正極の該正極活物質未塗布部と、該負極の該負極活物質未塗布部とが、該矩形の対向する辺に位置し、該負極活物質層と該負極活物質未塗布部との境界部は、該負極活物質未塗布部と隣り合っている該正極集電体の周縁部よりも、該負極集電体の周縁側に位置し、該負極活物質層平坦部と該負極活物質層薄肉部との境界部は、該負極活物質未塗布部と隣り合っている該正極集電体の周縁部よりも、該負極集電体の中央側に位置し、該正極活物質層と該正極活物質未塗布部との境界部は、該正極活物質未塗布部と隣り合っている該負極集電体周縁部よりも、該正極集電体の中央側に位置し、かつ該正極活物質未塗布部が、該負極活物質層と、該絶縁部材を介して隣り合って配置されるように、該正極と該負極とを重ね合わせる該工程:
を少なくとも含む、前記リチウムイオン二次電池素子を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池、特にリチウムイオン二次電池とそれを構成するリチウムイオン二次電池素子、ならびにリチウムイオン二次電池素子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車等を含む自動車用電池として実用化されている。このような車載電源用電池としてリチウムイオン二次電池が使用されている。リチウムイオン二次電池は、出力特性、エネルギー密度、容量、寿命、高温安定性等の種々の特性を併せ持つことが要求されている。特に電池を小型化するために、電池の体積エネルギー密度を向上させることは、喫緊の課題となっている。このため、電極や電解液を含む電池構成に様々な改良が図られている。
【0003】
特許文献1には、二次電池用電極が開示されている。特許文献1の当該電極は、活物質層塗布部と未塗布部とを有しており、塗布部の外周部分の少なくとも一部に、厚さが薄くかつ密度が高い高密度部分を含むことを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に提案される電極は、電極端部に貼付する絶縁部材により局所的に盛り上がった形状となることを防止すべく、活物質塗布部の外周部に厚さが薄く密度が高い高密度部分を設けている。特許文献1においては、正極に設けられた絶縁部材と対向する場所に重なっている負極部分は実質的に電池の動作に関与しないと考え、当該部分にリチウムイオンが侵入しないように、負極の外周部分に高密度部分を設けている。しかしこのような高密度部分を設けると、当該部分が電池の作動に関与しなくなるため、負極の面積を大きくして電池のエネルギー密度を高める意図とは相反してしまうことになる。
【0006】
本発明は、高いエネルギー密度を有する小型のリチウムイオン二次電池用素子ならびにこれを用いた高容量のリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態にかかるリチウムイオン二次電池素子は、
正極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に正極活物質が塗布された正極であって、
該正極集電体は、該正極活物質が塗布された概して矩形の正極活物質層と、該正極活物質が塗布されていない正極活物質未塗布部とを有し、該正極活物質未塗布部は、該正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置し、
該正極活物質層は、正極活物質層薄肉部と、正極活物質層平坦部とから構成され、る、該正極と、
負極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に負極活物質が塗布された負極であって、
該負極集電体は、該負極活物質が塗布された、該正極活物質層と略同一形状の概して矩形の負極活物質塗布部と、該負極活物質が塗布されていない負極活物質未塗布部とを有し、該負極活物質未塗布部は、該負極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置し、
該負極活物質層は、負極活物質層薄肉部と、負極活物質層平坦部とから構成される、該負極と、
を少なくとも含み、該正極の該概して矩形の正極活物質層と該負極の該概して矩形の負極活物質層とが、該矩形同士が互いにほぼ重なるように、該正極と該負極とが重ね合わされた、リチウムイオン二次電池素子である。ここで、該正極の該正極活物質未塗布部と、該負極の該負極活物質未塗布部とが、該矩形の対向する辺に位置するように、該正極と該負極とが重ね合わされており、
該負極活物質塗布部と該負極活物質未塗布部との境界部は、該負極活物質未塗布部と隣り合う該正極集電体周縁部よりも、該負極集電体の周縁側に位置し、
該負極活物質層平坦部と該負極活物質層薄肉部との境界部は、該負極活物質未塗布部と隣り合う該正極集電体周縁部よりも、該負極集電体の中央側に位置し、
該負極活物質層薄肉部の密度が、該負極活物質層平坦部の密度と同じか、またはそれより小さいことを特徴とする。
【0008】
さらに本発明の別の実施形態にかかるリチウムイオン二次電池素子は、
正極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に正極活物質が塗布された正極であって、
該正極集電体は、該正極活物質が塗布された概して矩形の正極活物質層と、該正極活物質が塗布されていない正極活物質未塗布部とを有し、該正極活物質未塗布部は、該正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置し、
該正極活物質層は、正極活物質層薄肉部と、正極活物質層平坦部とから構成され、該正極活物質未塗布部の少なくとも一部を覆う絶縁部材とを有する、該正極と、
負極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に負極活物質が塗布された負極であって、
該負極集電体は、該負極活物質が塗布された、該正極活物質層と略同一形状の概して矩形の負極活物質塗布部と、該負極活物質が塗布されていない負極活物質未塗布部とを有し、該負極活物質未塗布部は、該負極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置し、
該負極活物質層は、負極活物質層薄肉部と、負極活物質層平坦部とから構成される、該負極と、
を少なくとも含み、該正極の該概して矩形の正極活物質層と該負極の該概して矩形の負極活物質層とが、該矩形同士が互いにほぼ重なるように、該正極と該負極とが重ね合わされた、リチウムイオン二次電池素子である。ここで、該正極の該正極活物質未塗布部と、該負極の該負極活物質未塗布部とが、該矩形の同一の辺に位置し、
該負極活物質塗布部と該負極活物質未塗布部との境界部が、該絶縁部材と隣り合うように位置し、
該負極活物質層薄肉部と該負極活物質層平坦部との境界部が、該正極活物質層平坦部と隣り合うように位置し、
該負極活物質層薄肉部の密度が、該負極活物質層平坦部の密度と同じか、またはそれより小さいことを特徴とする。
【0009】
さらに本発明の別の実施形態にかかるリチウムイオン二次電池素子の製造方法は、
正極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に正極活物質が塗布された正極と、
負極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に負極活物質が塗布された負極と、
を重ね合わせて、リチウムイオン二次電池素子を製造する方法であって、
・正極活物質と溶媒とを含む正極活物質含有スラリを、該正極集電体の一部から、所定の一方向に連続的に塗布して、正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部とを設け、該正極活物質塗布部は概して矩形であり、該正極活物質未塗布部は、該正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置し、
該正極活物質塗布部全体を、所定の圧力で概して均一に加圧して、正極活物質層薄肉部と正極活物質層平坦部とを同時に形成して、該正極を得る工程:
・負極活物質と溶媒とを含む負極活物質含有スラリを、該負極集電体の一部から、所定の一方向に連続的に塗布して、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部とを設け、該負極活物質塗布部は該正極活物質塗布部と略同一形状の概して矩形であり、該負極活物質未塗布部は、該正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置し、
該負極活物質塗布部全体を、所定の圧力で概して均一に加圧して、負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部とを同時に形成し、該負極活物質層薄肉部の密度が、該負極活物質層平坦部の密度と同じか、またはそれより小さい、該負極を得る工程:
・該正極の該概して矩形の正極活物質層と該負極の該概して矩形の負極活物質層とが、該矩形同士が互いにほぼ重なるように、該正極と該負極とを重ね合わせる工程であって、この際に、該正極の該正極活物質未塗布部と、該負極の該負極活物質未塗布部とが、該矩形の対向する辺に位置し、該負極活物質塗布部と該負極活物質未塗布部との境界部は、該負極活物質未塗布部と隣り合う該正極集電体周縁部よりも、該負極集電体の周縁側に位置し、該負極活物質層平坦部と該負極活物質層薄肉部との境界部は、該負極活物質未塗布部と隣り合う該正極集電体周縁部よりも、該負極集電体の中央側に位置するように、該正極と該負極とを重ね合わせる該工程:
を少なくとも含む。
【0010】
さらに本発明の別の実施形態にかかるリチウムイオン二次電池素子の製造方法は、
正極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に正極活物質が塗布された正極と、
負極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に負極活物質が塗布された負極と、
を重ね合わせて、リチウムイオン二次電池素子を製造する方法であって、
・正極活物質と溶媒とを含む正極活物質含有スラリを、該正極集電体の一部から、所定の一方向に連続的に塗布して、正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部とを設け、該正極活物質塗布部は概して矩形であり、該正極活物質未塗布部は、該正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置し、
該正極活物質塗布部全体を、所定の圧力で概して均一に加圧して、正極活物質層薄肉部と正極活物質層平坦部とを同時に形成し、該正極活物質未塗布部の少なくとも一部を覆うように絶縁部材を設けて、該正極を得る工程:
・負極活物質と溶媒とを含む負極活物質含有スラリを、該負極集電体の一部から、所定の一方向に連続的に塗布して、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部とを設け、該負極活物質塗布部は該正極活物質塗布部と略同一形状の概して矩形であり、該負極活物質未塗布部は、該正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置し、
該負極活物質塗布部全体を、所定の圧力で概して均一に加圧して、負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部とを同時に形成し、該負極活物質層薄肉部の密度が、該負極活物質層平坦部の密度と同じか、またはそれより小さい、該負極を得る工程:
・該正極の該概して矩形の正極活物質層と該負極の該概して矩形の負極活物質層とが、該矩形同士が互いにほぼ重なるように、該正極と該負極とを重ね合わせる工程であって、この際に、該正極の該正極活物質未塗布部と、該負極の該負極活物質未塗布部とが、該矩形の同一の辺に位置し、該負極活物質塗布部と該負極活物質未塗布部との境界部が、該絶縁部材と隣り合うように位置し、該負極活物質層薄肉部と該負極活物質層平坦部との境界部が、該正極活物質層平坦部と隣り合うように位置するように、該正極と該負極とを重ね合わせる該工程:
を少なくとも含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池素子は、各電極の活物質層の密度と、各部材の重ね合わせとを調整して正極と負極の充電容量比を適切にすることにより、金属リチウムの析出を防いで電池の安全性を維持しつつエネルギー密度の高い電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態で用いる正極を一の面から見た、平面図である。
【
図2】
図2は、実施形態で用いる正極の断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態で用いる負極を一の面から見た、平面図である。
【
図4】
図4は、実施形態で用いる負極の断面図である。
【
図5】
図5は、正極と負極とを重ね合わせて構成した、第一の形態のリチウムイオン二次電池素子の断面図である。
【
図6】
図6は、
図5のリチウムイオン二次電池素子をA方向から見た平面図(
図6a)と、B方向から見た平面図(
図6b)である。
【
図7】
図7は、正極と負極とを重ね合わせて構成した、第一の実施形態のリチウムイオン二次電池素子の断面図である。
【
図8】
図8は、正極と負極とを重ね合わせて構成した、第二の実施形態のリチウムイオン二次電池素子の断面図である。
【
図9】
図9は、
図8のリチウムイオン二次電池素子をA方向から見た平面図(
図9a)と、B方向から見た平面図(
図9b)である。
【
図10】
図10は、第一の実施形態のリチウムイオン二次電池素子において、正極活物質未塗布部が負極活物質塗布部と隣り合っているような位置関係に正極と負極とが重ね合わされている場合を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を適宜図面を用いて以下に説明する。第一の実施形態のリチウムイオン二次電池素子は、正極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に正極活物質が塗布された正極を含む。ここで正極集電体は、正極活物質が塗布された概して矩形の正極活物質層と、正極活物質が塗布されていない正極活物質未塗布部とを有し、正極活物質未塗布部は、正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置しており、さらに正極活物質層は、正極活物質層薄肉部と、正極活物質層平坦部とから構成されている。
【0014】
実施形態において正極は、金属箔等の正極集電体に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。すなわち正極は、正極集電体と、その両面に塗布された正極活物質とを含む正極活物質層とから構成される。本明細書では、「正極活物質」というとき、電池の充放電時の導電を担う本来の意味での正極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物を意味することがある。正極活物質は、正極集電体の二面を各々の面の側から見たときに、正極集電体の全面に塗布されている必要はなく、少なくともその一部に塗布されていればよい。好ましくは、正極集電体は、正極活物質が塗布された概して矩形の正極活物質層と、正極活物質が塗布されていない正極活物質未塗布部とを有している。
【0015】
実施形態において、正極活物質が略同一の形状に塗布されているとは、正極集電体の二面を各々の面の側から見たときに、正極活物質がほぼ同一の形状に配置されていること、ならびに、正極の断面を見たときに、正極集電体を境にして正極活物質がほぼ対称の形状に配置されていること、の両方を意味する。
【0016】
正極活物質層は、正極活物質の厚さが薄い正極活物質層薄肉部と、正極活物質がほぼ均一の厚さに塗布されている正極活物質層平坦部とから構成されていてよい。正極活物質層薄肉部と正極活物質層平坦部は、正極活物質層のいずれの場所に位置していても良い。たとえば、正極活物質層薄肉部は、正極活物質層の周縁部に位置することができる。正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部との境界部に向かって正極活物質層の厚さが漸次小さくなっていてもよい。すなわち、正極活物質層薄肉部は、正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部との境界部に向かって正極活物質層の厚さが漸次小さくなるように形成されていてもよい。また、正極活物質層の形状は、概して矩形である。ここで「概して矩形」とは、正極集電体の二面を各々の面の側から見たときに、正極活物質層の形状が、四辺形(長方形、正方形、菱形、平行四辺形等)であることを意味する。なお正極の構造については、図面を用いて後述する。なお、正極活物質層を設ける正極集電体の形状も概して矩形であることが好ましいが、矩形の一部を切り取ったL字型等の形状を有する集電体を用いることもできる。
【0017】
代表的な正極の構成を
図1および
図2を用いて説明する。
図1は、正極を一の面から見た平面図である。
図1中、1は正極;11は正極集電体;12は正極活物質層;13は正極活物質塗布部;14は正極活物質未塗布部である。
図2は、正極の断面図である。
図2中、1は正極;21は正極集電体;22は正極活物質層;23は正極活物質塗布部;24は正極活物質未塗布部である。
図1において、正極集電体11の一の面に正極活物質が塗布され、正極活物質層12が形成されている。正極活物質層12が設けられている部分が正極活物質塗布部13であり、正極活物質層12が設けられていない部分が正極活物質未塗布部14である。
図1において、正極活物質未塗布部14は、正極集電体11の周縁部に沿って位置している。すなわち、
図1においては、おおよそ矩形の形状の正極集電体11に、概して矩形の正極活物質層12が設けられ、当該正極集電体11の周縁部の一辺に沿うように正極活物質未塗布部14が設けられている。
図1において、正極集電体11のもう一つの面(一の面の裏面、図示せず)にも、
図1と略同一の形状の正極活物質層が設けられている。
【0018】
一方
図2において、正極集電体21の上面に正極活物質が塗布され、正極活物質層22が形成されており、正極集電体21の下面にも同様に正極活物質が塗布され、正極活物質層22が形成されている。それぞれの面において、正極活物質層22が設けられている部分が正極活物質塗布部23であり、正極活物質層22が設けられていない部分が正極活物質未塗布部24である。先にも述べたとおり、本実施形態において、正極活物質が略同一の形状に塗布されているとは、正極の断面を見たときにも、正極集電体21を境にして正極活物質層22がほぼ対称の形状に配置されていることを意味する。
【0019】
正極活物質層は、正極活物質層薄肉部と、正極活物質層平坦部とから構成されていてよい。正極活物質層薄肉部と正極活物質層平坦部は、正極活物質層のいずれの場所に位置していても良い。たとえば、正極活物質層薄肉部は、正極活物質層の周縁部に位置することができる。
図2は、正極活物質層薄肉部を正極活物質層の周縁部に設けた例である。
図2において、;25は正極活物質層薄肉部;26は正極活物質層平坦部である。
図2では、正極活物質層薄肉部25は、正極活物質塗布部23と正極活物質未塗布部24との境界部に向かって正極活物質層の厚さが漸次小さくなるように形成されている。
【0020】
実施形態のリチウムイオン二次電池素子は、負極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に負極活物質が塗布された負極を含む。ここで負極集電体は、負極活物質が塗布されており、上記の正極活物質層と略同一形状の概して矩形の負極活物質塗布部と、負極活物質が塗布されていない負極活物質未塗布部とを有し、負極活物質未塗布部は、負極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置しており、さらに負極活物質層は、負極活物質層薄肉部と、負極活物質層平坦部とから構成されている。
【0021】
実施形態において負極は、金属箔等の負極集電体に塗布または圧延および乾燥して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。すなわち負極は、負極集電体と、その両面に塗布された負極活物質とを含む負極活物質層とから構成される。本明細書では、負極活物質というとき、電池の導電を担う負極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物を意味することがある。負極活物質は、負極集電体の二面を各々の面の側から見たときに、負極集電体の全面に塗布されている必要はなく、少なくともその一部に塗布されていればよい。好ましくは、負極集電体は、負極活物質が塗布された概して矩形の負極活物質層と、負極活物質が塗布されていない負極活物質未塗布部とを有している。
【0022】
実施形態において、負極活物質が略同一の形状に塗布されているとは、負極集電体の二面を各々の面の側から見たときに、負極活物質がほぼ同一の形状に配置されていること、ならびに、負極の断面を見たときに、負極集電体を境にして負極活物質がほぼ対称の形状に配置されていること、の両方を意味する。
【0023】
負極活物質層は、負極活物質の厚さが薄い負極活物質層薄肉部と、負極活物質がほぼ均一の厚さに塗布されている負極活物質層平坦部とから構成されていてよい。負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部は、負極活物質層のいずれの場所に位置していても良い。たとえば、負極活物質層薄肉部は、負極活物質層の周縁部に位置することができる。負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部に向かって負極活物質層の厚さが漸次小さくなっていてもよい。すなわち、負極活物質層薄肉部は、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部に向かって負極活物質層の厚さが漸次小さくなるように形成されていてもよい。また、負極活物質層の形状は、概して矩形である。ここで「概して矩形」とは、負極集電体の二面を各々の面の側から見たときに、負極活物質層の形状が、四辺形(長方形、正方形、菱形、平行四辺形等)であることを意味する。なお負極の構造については、図面を用いて後述する。なお、負極活物質層を設ける負極集電体の形状も概して矩形であることが好ましいが、矩形の一部を切り取ったL字型等の形状を有する集電体を用いることもできる。
【0024】
代表的な負極の構成を
図3および
図4を用いて説明する。
図3は、負極を一の面から見た平面図である。
図3中、2は負極;31は負極集電体;32は負極活物質層;33は負極活物質塗布部;34は負極活物質未塗布部である。
図4は、負極の断面図である。
図4中、2は負極;41は負極集電体;42は負極活物質層;43は負極活物質塗布部;44は負極活物質未塗布部である。
図3において、負極集電体31の一の面に負極活物質が塗布され、負極活物質層32が形成されている。負極活物質層32が設けられている部分が負極活物質塗布部43であり、負極活物質層42が設けられていない部分が負極活物質未塗布部44である。
図3において、負極活物質未塗布部44は、負極集電体41の周縁部に沿って位置している。すなわち、
図3においておおよそ矩形の形状の負極集電体31に、概して矩形の負極活物質層32が設けられ、当該負極集電体31の周縁部の一辺に沿うように負極活物質未塗布部34が設けられている。
図3において、負極集電体31のもう一つの面(一の面の裏面、図示せず)にも、
図3と略同一の形状の負極活物質層が設けられている。
【0025】
一方
図4において、負極集電体41の上面に負極活物質が塗布され、負極活物質層42が形成されており、負極集電体41の下面にも同様に負極活物質が塗布され、負極活物質層42が形成されている。それぞれの面において、負極活物質層42が設けられている部分が負極活物質塗布部43であり、負極活物質層42が設けられていない部分が負極活物質未塗布部44である。先にも述べたとおり、本実施形態において、負極活物質が略同一の形状に塗布されているとは、負極の断面を見たときにも、負極集電体41を境にして負極活物質層42がほぼ対称の形状に配置されていることを意味する。
【0026】
負極活物質層は、負極活物質層薄肉部と、負極活物質層平坦部とから構成されていてよい。負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部は、負極活物質層のいずれの場所に位置していても良い。たとえば、負極活物質層薄肉部は、負極活物質層の周縁部に位置することができる。
図4は、負極活物質層薄肉部を負極活物質層の周縁部に設けた例である。
図4において、45は負極活物質層薄肉部;46は負極活物質層平坦部である。
図4では、負極活物質層薄肉部45は、負極活物質塗布部43と負極活物質未塗布部44との境界部に向かって負極活物質層の厚さが漸次小さくなるように形成されている。
【0027】
実施形態のリチウムイオン二次電池素子は、上記の正極の概して矩形の正極活物質層と、上記の負極の概して矩形の負極活物質層とが、各々の矩形同士が互いにほぼ重なるように、正極と負極とが重ね合わされている。「正極の概して矩形の正極活物質層と、負極の概して矩形の負極活物質層とが、矩形同士が互いにほぼ重なるように、正極と負極とを重ねる」とは、概して矩形の正極活物質層の各辺と、概して矩形の負極活物質層の各辺とが、おおよそ重なるように、正極と負極とを重ねる、という意味である。たとえば、正極活物質層の形状が長方形である場合、負極活物質層の形状はこれとほぼ同じ長方形であり、正極活物質層の長方形の長辺と負極活物質層の長辺とが互いにだいたい重なるように、正極と負極とを重ねることができる。ここで正極活物質層の形状と負極活物質層の形状とは、寸分違わず厳密に同一である必要はなく、正極活物質層と負極活物質層とが寸分違わず厳密に重なるように正極と負極とを重ねる必要もない。正極活物質層の矩形と負極活物質層との矩形とは、おおよそ同じ形状であれば良く、両者はおおよそ重なっていればよい。
【0028】
本実施形態において、正極の正極活物質未塗布部と、負極の負極活物質未塗布部とは、矩形の対向する辺に位置するように、正極と負極とが重ね合わされていることが好ましい。正極活物質未塗布部と負極活物質未塗布部とが、矩形の対向する辺に位置するように、正極と負極とを重ね合わせる、とは、たとえば、正極活物質未塗布部が正極活物質層の矩形の短辺側に位置している場合は、負極活物質未塗布部は負極活物質層の矩形の対向する短辺側に位置していることを意味する。詳しくは図面を用いて後述する。
【0029】
なお、本実施形態において、正極と負極とを重ね合わせる際に、正極と負極の間に、さらにセパレータを配置することができる。
【0030】
図5は、正極と負極とを重ね合わせて構成した、第一の形態のリチウムイオン二次電池素子の断面図である。
図5において、1:正極;2:負極;3:セパレータ;151:正極集電体;152:正極活物質層;153:正極活物質塗布部;154:正極活物質未塗布部;251:負極集電体;252:負極活物質層;253:負極活物質塗布部;254:負極活物質未塗布部である。なお、
図5においては、正極1とセパレータ3と負極2とが、互いに離れているように記載されているが、各部材の説明上わかりやすく記載したものである。実際のリチウムイオン二次電池素子においては、これらの部材が互いに接するように重ね合わせられている。一方、
図6は、
図5のリチウムイオン二次電池素子をA方向から見た平面図(
図6a)と、B方向から見た平面図(
図6b)である。
図6において、1:正極;2:負極;3:セパレータ;161:正極集電体;162:正極活物質層;163:正極活物質塗布部;164:正極活物質未塗布部;261:負極集電体;262:負極活物質層;263:負極活物質塗布部;264:負極活物質未塗布部である。
【0031】
図6(a)において、正極の正極活物質未塗布部164は、矩形の正極集電体161の短辺に沿うように位置している。そして
図6(b)において負極の負極活物質未塗布部264も矩形の負極集電体261の短辺に沿うように位置している。
図6(a)の正極と
図6(b)の負極とが重ね合わされて
図5の電池素子を構成している。
図6において、正極1の概して矩形の正極活物質層162と、負極2の概して矩形の負極活物質層262とが、各々の矩形同士が互いにほぼ重なるように、正極1と負極2とが重ね合わされている。すなわち、
図6では、正極活物質層162の短辺と、負極活物質層262の短辺とが互いにほぼ重なるように、正極1と負極2とが重ね合わされている。また、正極1の正極活物質未塗布部164と、負極2の負極活物質未塗布部264とは、矩形の対向する辺に位置するように重ね合わされている。すなわち、正極1の正極集電体161の短辺に沿って位置する正極活物質未塗布部164と、負極2の負極集電体261の短辺に沿って位置する負極活物質未塗布部264とが、互いに対向する短辺に位置するように重ね合わされている。つまり
図5においては、正極の正極活物質未塗布部154は図面向かって左側に位置しており、負極の負極活物質未塗布部254は図面向かって右側に位置している。
【0032】
実施形態において、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部は、負極活物質未塗布部と隣り合う正極集電体周縁部よりも、負極集電体の周縁側に位置していることが好ましい。負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部が、負極活物質未塗布部と隣り合う正極集電体周縁部よりも、負極集電体の周縁側に位置しているとは、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部(すなわち負極活物質塗布部の端)が、負極と重ね合わされて隣り合う正極の正極集電体周縁部よりも、負極集電体の周縁側(すなわち負極集電体の外側)に位置することを意味する。なお、本明細書において「隣り合う」の語は、2つのものが隣同士に配置されるように重なっていることを云い、両者が接していなくてもよい。すなわち、隣り合う2つのものの間に別のものが挟まって配置されていてもよいものとする。
【0033】
さらに実施形態において、負極活物質層平坦部と負極活物質層薄肉部との境界部は、負極活物質未塗布部と隣り合う正極集電体周縁部よりも、負極集電体の中央側に位置していることが好ましい。負極活物質層平坦部と負極活物質層薄肉部との境界部が、負極活物質未塗布部と隣り合う正極集電体周縁部よりも、負極集電体の中央側に位置しているとは、負極活物質層平坦部と負極活物質層薄肉部との境界部(すなわち、負極活物質層の厚みが変化する境界となる部分)が、負極と重ね合わされて隣り合う正極の正極集電体周縁部よりも、負極集電体の中心側(すなわち負極集電体の内側)に位置することを意味する。
【0034】
さらに実施形態において、負極活物質層薄肉部の密度が、負極活物質層平坦部の密度と同じか、またはそれより小さいことが好ましい。負極活物質層薄肉部の密度が、負極活物質層平坦部の密度と同じであるか、またはこれらに違いがある場合は、負極活物質層薄肉部の密度の方が小さくなっている。先に述べたとおり、従来技術(たとえば特許文献1)に提案される電極は、電極端部に貼付する絶縁部材により局所的に盛り上がった形状となることを防止すべく、活物質塗布部の外周部に厚さが薄く密度が高い高密度部分を設けている。一般に、リチウムイオン二次電池の充放電中に、金属リチウムが負極に析出することを防ぐために、正極よりも負極の容量が大きくなるようにリチウムイオン二次電池素子の構成を設計する。すなわち、通常は正極活物質層よりも負極活物質層の面積が大きくなるようにしておく。そのような構成とした場合、必然的に、負極活物質層の始端部が正極集電体の正極活物質未塗布部と隣り合う構造となる部分が出てくる。当該部分には、金属リチウムの析出を防止するための絶縁部材を設ける必要がある。その場合には、電極の端部が盛り上がった形状になるので、これを防ぐべく、特許文献1の発明が提唱された。
【0035】
特許文献1においては、正極に設けられた絶縁部材と隣り合って重なっている負極部分は実質的に電池の動作に関与しないと考え、当該部分にリチウムイオンが侵入しないように、負極の外周部分に高密度部分を設けている。ところが、このような高密度部分を設けると、当該部分が電池の作動にほぼ関与しなくなるため、負極の面積を大きくして電池のエネルギー密度を高める意図とは相反してしまうことになる。
【0036】
本発明の実施形態においては、上記の通り、負極活物質層薄肉部の密度を、負極活物質層平坦部の密度と同じか、またはそれより小さくする。このようにすると、リチウムイオン二次電池の充電の際に、正極から負極に向かって移動してきたリチウムイオンが、負極に到着し、負極表面で金属リチウムを析出してしまうことなく、負極活物質層内部に放射状に広がっていく。この際、負極活物質薄肉部の部分にもリチウムイオンが広がって行くため、負極活物質薄肉部も実質的に電池の動作に関与することになる。負極と隣り合う正極上に設けられた正極活物質層の面積は、負極活物質層の面積を超えないようにしさえすれば、必要以上にこれを小さくしなくても良い。つまり正極活物質層始端部が負極活物質層始端部よりも周縁側にならない範囲で正極活物質層の面積を広げることができる。このように本実施形態では、正極活物質層の面積を必要以上に小さくしなくても良くなるため、本リチウムイオン二次電池素子を用いたリチウムイオン二次電池の容量を増やすことが可能となる。
【0037】
図7は、正極と負極とを重ね合わせて構成した、第一の形態のリチウムイオン二次電池素子の断面図である。
図7において、1:正極;2:負極;3:セパレータ;171:正極集電体;172:正極活物質層;173:正極活物質塗布部;174:正極活物質未塗布部;175:正極活物質層薄肉部;176:正極活物質層平坦部;177:正極集電体周縁部;271:負極集電体;272:負極活物質層;273:負極活物質塗布部;274:負極活物質未塗布部;275:負極活物質層薄肉部;276:負極活物質層平坦部;277:負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部;278:負極活物質層平坦部と負極活物質層薄肉部との境界部である。なお、
図7においては、正極1とセパレータ3と負極2とが、互いに離れているように記載されているが、各部材の説明上わかりやすく記載したものである。実際のリチウムイオン二次電池素子においては、これらの部材が互いに接するように重ね合わせられている。
【0038】
図7において、負極活物質塗布部273と負極活物質未塗布部274との境界部277は、負極活物質未塗布部274と隣り合っている正極1の正極集電体周縁部177よりも、負極集電体の周縁側(
図7に向かって右側)に位置している。負極活物質層平坦部276と負極活物質層薄肉部275との境界部278は、負極活物質未塗布部274と隣り合っている正極1の正極集電体周縁部177よりも、負極集電体の中央側(
図7に向かって左側)に位置している。このとき、負極活物質層薄肉部275の密度は、負極活物質層平坦部276の密度と同じか、またはそれよりも小さい。このような負極2を用い、正極1と上記のような位置関係で重ね合わせて第一の形態のリチウムイオン二次電池素子を構成する。
【0039】
なお、第一の実施形態のリチウムイオン二次電池素子において、正極活物質未塗布部が負極活物質塗布部と隣り合っているような位置関係に正極1と負極2とが重ね合わされている場合(
図10参照のこと)、正極活物質未塗布部の少なくとも一部を覆うように絶縁部材(1107)を設けることが好ましい。正極活物質未塗布部が負極活物質塗布部と隣り合っている場合に、その領域で短絡が起きることがある。すると当該部分での発熱量が大きくなりうる。そこで、そのような不都合をできるだけ防ぐために、絶縁部材を設ける場合がある。絶縁部材は、たとえば、ポリオレフィンフィルムに粘着層を設けた粘着テープを使用したり、アルミナなどの絶縁性材料を塗布したりして、設けることができる。また絶縁部材は、後述するように正極活物質層薄肉部と正極活物質層平坦部とを形成した後に設けても良いし、集電体の所定位置に先に絶縁部材を設置して正極活物質層薄肉部の一部が絶縁部材を覆うように正極活物質層薄肉部と正極活物質層平坦部を形成しても良い。
【0040】
本発明の別の実施形態を説明する。第二の実施形態のリチウムイオン二次電池素子は、正極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に正極活物質が塗布された正極を含む。ここで正極集電体は、正極活物質が塗布された概して矩形の正極活物質層と、正極活物質が塗布されていない正極活物質未塗布部とを有し、正極活物質未塗布部は、正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置しており、さらに正極活物質層は、正極活物質層薄肉部と、正極活物質層平坦部とから構成されている。そして正極活物質未塗布部の少なくとも一部を覆う絶縁部材を有している。
【0041】
実施形態において正極は、金属箔等の正極集電体に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。すなわち正極は、正極集電体と、その両面に塗布された正極活物質とを含む正極活物質層とから構成される。本明細書では、正極活物質というとき、電池の導電を担う正極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物を意味することがある。正極活物質は、正極集電体の二面を各々の面の側から見たときに、正極集電体の全面に塗布されている必要はなく、少なくともその一部に塗布されていればよい。好ましくは、正極集電体は、正極活物質が塗布された概して矩形の正極活物質層と、正極活物質が塗布されていない正極活物質未塗布部とを有している。
【0042】
実施形態において、正極活物質が略同一の形状に塗布されているとは、正極集電体の二面を各々の面の側から見たときに、正極活物質がほぼ同一の形状に配置されていること、ならびに、正極の断面を見たときに、正極集電体を境にして正極活物質がほぼ対称の形状に配置されていること、の両方を意味する。
【0043】
正極活物質層は、正極活物質の厚さが薄い正極活物質層薄肉部と、正極活物質がほぼ均一の厚さに塗布されている正極活物質層平坦部とから構成されていてよい。正極活物質層薄肉部と正極活物質層平坦部は、正極活物質層のいずれの場所に位置していても良い。たとえば、正極活物質層薄肉部は、正極活物質層の周縁部に位置することができる。正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部との境界部に向かって正極活物質層の厚さが漸次小さくなっていてもよい。すなわち、正極活物質層薄肉部は、正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部との境界部に向かって正極活物質層の厚さが漸次小さくなるように形成されていてもよい。また、正極活物質層の形状は、概して矩形である。ここで「概して矩形」とは、正極集電体の二面を各々の面の側から見たときに、正極活物質層の形状が、四辺形(長方形、正方形、菱形、平行四辺形等)であることを意味する。
【0044】
実施形態において、正極活物質未塗布部の少なくとも一部を覆うように絶縁部材を設けることができる。正極活物質未塗布部が負極活物質塗布部と隣り合っている場合に、その領域で短絡が起きることがある。すると当該部分での発熱量が大きくなりうる。そこで、そのような不都合をできるだけ防ぐために、絶縁部材を設ける場合がある。絶縁部材として、たとえば、ポリオレフィンフィルムに粘着層を設けた粘着テープを使用することができる。
【0045】
実施形態のリチウムイオン二次電池素子は、負極集電体の両面に、略同一の形状で、該両面の少なくとも一部に負極活物質が塗布された負極を含む。ここで負極集電体は、負極活物質が塗布されており、上記の正極活物質層と略同一形状の概して矩形の負極活物質塗布部と、負極活物質が塗布されていない負極活物質未塗布部とを有し、負極活物質未塗布部は、負極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置しており、さらに負極活物質層は、負極活物質層薄肉部と、負極活物質層平坦部とから構成されている。
【0046】
実施形態において負極は、金属箔等の負極集電体に塗布または圧延および乾燥して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。すなわち負極は、負極集電体と、その両面に塗布された負極活物質とを含む負極活物質層とから構成される。本明細書では、負極活物質というとき、電池の導電を担う負極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物を意味することがある。負極活物質は、負極集電体の二面を各々の面の側から見たときに、負極集電体の全面に塗布されている必要はなく、少なくともその一部に塗布されていればよい。好ましくは、負極集電体は、負極活物質が塗布された概して矩形の負極活物質層と、負極活物質が塗布されていない負極活物質未塗布部とを有している。
【0047】
実施形態において、負極活物質が略同一の形状に塗布されているとは、負極集電体の二面を各々の面の側から見たときに、負極活物質がほぼ同一の形状に配置されていること、ならびに、負極の断面を見たときに、負極集電体を境にして負極活物質がほぼ対称の形状に配置されていること、の両方を意味する。
【0048】
負極活物質層は、負極活物質の厚さが薄い負極活物質層薄肉部と、負極活物質がほぼ均一の厚さに塗布されている負極活物質層平坦部とから構成されていてよい。負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部は、負極活物質層のいずれの場所に位置していても良い。たとえば、負極活物質層薄肉部は、負極活物質層の周縁部に位置することができる。負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部に向かって負極活物質層の厚さが漸次小さくなっていてもよい。すなわち、負極活物質層薄肉部は、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部に向かって負極活物質層の厚さが漸次小さくなるように形成されていてもよい。また、負極活物質層の形状は、概して矩形である。ここで「概して矩形」とは、負極集電体の二面を各々の面の側から見たときに、負極活物質層の形状が、四辺形(長方形、正方形、菱形、平行四辺形等)であることを意味する。
【0049】
実施形態のリチウムイオン二次電池素子は、上記の正極の概して矩形の正極活物質層と上記の負極の概して矩形の負極活物質層とが、矩形同士が互いにほぼ重なるように、正極と負極とが重ね合わされている。「正極の概して矩形の正極活物質層と、負極の概して矩形の負極活物質層とが、矩形同士が互いにほぼ重なるように、正極と負極とを重ねる」とは、概して矩形の正極活物質層の各辺と、概して矩形の負極活物質層の各辺とが、おおよそ重なるように、正極と負極とを重ねる、という意味である。たとえば、正極活物質層の形状が長方形である場合、負極活物質層の形状はこれとほぼ同じ長方形であり、正極活物質層の長方形の長辺と負極活物質層の長辺とが互いにだいたい重なるように、正極と負極とを重ねることができる。ここで正極活物質層の形状と負極活物質層の形状とは、寸分違わず厳密に同一である必要はなく、正極活物質層と負極活物質層とが寸分違わず厳密に重なるように正極と負極とを重ねる必要もない。正極活物質層の矩形と負極活物質層との矩形とは、おおよそ同じ形状であれば良く、両者はおおよそ重なっていればよい。
【0050】
本実施形態において、正極の正極活物質未塗布部と、負極の負極活物質未塗布部とは、矩形の同一の辺に位置するように、正極と負極とが重ね合わされていることが好ましい。正極活物質未塗布部と負極活物質未塗布部とが、矩形の同一の辺に位置するように、正極と負極とを重ね合わせる、とは、たとえば、正極活物質未塗布部が正極活物質層の矩形の短辺側に位置している場合は、負極活物質未塗布部は負極活物質層の矩形の同一の短辺側に位置していることを意味する。詳しくは図面を用いて後述する。
【0051】
なお、本実施形態においても、正極と負極とを重ね合わせる際に、正極と負極の間に、さらにセパレータを配置することができる。
【0052】
実施形態において、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部は、絶縁部材と隣り合うように位置していることが好ましい。負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部が、絶縁部材と隣り合うように位置しているとは、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部(すなわち負極活物質塗布部の端)が、当該部分と隣り合っている正極の、正極活物質未塗布部の少なくとも一部を覆う絶縁部材と重なるように配置されていることを意味する。
【0053】
実施形態において、負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部との境界部は、正極活物質層平坦部と隣り合うように位置していることが好ましい。負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部との境界部が、正極活物質層平坦部と隣り合うように位置しているとは、負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部との境界部(すなわち負極活物質層の厚みが変化する境界となる部分)が、正極の正極活物質層のうち正極活物質層平坦部と重なるように配置されていることを意味する。
【0054】
さらに実施形態において、負極活物質層薄肉部の密度が、負極活物質層平坦部の密度と同じか、またはそれより小さいことが好ましい。負極活物質層薄肉部の密度が、負極活物質層平坦部の密度と同じであるか、またはこれらに違いがある場合は、負極活物質層薄肉部の密度の方が小さくなっている。
【0055】
第二の実施形態では、
図1および
図2で表される形状の正極を用いることができ、
図3および
図4で表される形状の負極を用いることができる。
【0056】
図8は、上記の正極と負極とを重ね合わせて構成した、第二の実施形態のリチウムイオン二次電池素子の断面図である。
図8において、1:正極;2:負極;3:セパレータ;181:正極集電体;182:正極活物質層;183:正極活物質塗布部;184:正極活物質未塗布部;185:正極活物質層薄肉部;186:正極活物質層平坦部;187:絶縁部材;281:負極集電体;282:負極活物質層;283:負極活物質塗布部;284:負極活物質未塗布部;285:負極活物質層薄肉部;286:負極活物質層平坦部である。なお、
図8においては、正極1とセパレータ3と負極2とが、互いに離れているように記載されているが、各部材の説明上わかりやすく記載したものである。実際のリチウムイオン二次電池素子においては、これらの部材が互いに接するように重ね合わせられている。一方、
図9は、
図8のリチウムイオン二次電池素子をA方向から見た平面図(
図9a)と、B方向から見た平面図(
図9b)である。
図9において、1:正極;2:負極;191:正極集電体;192:正極活物質層;194:正極活物質未塗布部;197:絶縁部材;291:負極集電体;292:負極活物質層;294:負極活物質未塗布部である。
【0057】
まず、
図9(a)において、正極の正極活物質未塗布部194は、矩形の正極集電体191の短辺に沿うように位置している。そして
図9(b)において負極の負極活物質未塗布部294も矩形の負極集電体291の短辺に沿うように位置している。そして正極の正極活物質未塗布部194と、負極の負極活物質未塗布部294とは、矩形の同一の辺(
図9aに向かって左側)に位置するように、正極と負極とが重ね合わされている。
【0058】
図8において、上記の通り、正極の正極活物質未塗布部184は、
図8に向かって左側に位置しており、負極の負極活物質未塗布部284も、
図8に向かって左側に位置している。負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部287(すなわち負極活物質塗布部の端)は、絶縁部材187と隣り合うように位置している。そして負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部との境界部288(すなわち負極活物質層の厚みが変化する境界となる部分)は、正極活物質層平坦部183と隣り合うように位置している。このとき、負極活物質層薄肉部285の密度は、負極活物質層平坦部286の密度と同じか、またはそれよりも小さい。このような負極2を用い、正極1と上記のような位置関係で重ね合わせて第二の形態のリチウムイオン二次電池素子を構成する。
【0059】
上記の各実施形態のリチウムイオン二次電池素子を用いて、リチウムイオン二次電池を得ることができる。本発明のもう一つの実施形態は、上記のすべての実施形態のリチウムイオン二次電池素子と、電解液と、を含む発電要素を、外装体内部に含む、リチウムイオン二次電池である。
【0060】
ここで、すべての実施形態のリチウムイオン二次電池素子ならびにリチウムイオン二次電池を構成する部材を詳細に説明する。すべての実施形態において用いることができる正極は、正極活物質が塗布された正極である。正極は、正極活物質、バインダおよび場合により導電助剤の正極活物質混合物をアルミニウム箔などの金属箔からなる正極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た正極活物質層を有している。正極活物質層は、空孔を含む多孔質形状または微孔質形状のものであることが好ましい。各実施形態において、正極活物質層は、好ましくはリチウム・ニッケル系複合酸化物を正極活物質として含む。リチウム・ニッケル系複合酸化物とは、一般式LixNiyMe(1-y)O2(ここでMeは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、Mg、およびPbからなる群より選択される、少なくとも1種以上の金属である。)で表される、リチウムとニッケルとを含有する遷移金属複合酸化物のことである。
【0061】
正極活物質層は、リチウム・マンガン系複合酸化物を正極活物質として含むことができる。リチウム・マンガン系複合酸化物は、たとえばジグザグ層状構造のマンガン酸リチウム(LiMnO2)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)等を挙げることができる。リチウム・マンガン系複合酸化物を併用することで、より安価に正極を作製することができる。特に、過充電状態での結晶構造の安定度の点で優れるスピネル型のマンガン酸リチウム(LiMn2O4)を用いることが好ましい。リチウム・マンガン系正極活物質を含む場合、正極活物質の重量に対して70重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがさらに好ましい。混合正極を使用する場合は、正極活物質中に含まれるリチウム・マンガン系複合酸化物の量が多すぎると、電池内に混入しうる金属異物由来の析出物と混合正極との間に部分電池が形成されやすくなり、短絡電流が流れやすくなる。
【0062】
正極活物質層は、特に、一般式LixNiyCozMn(1-y-z)O2で表される層状結晶構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質として含むことが好ましい。ここで、一般式中のxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以上である。なお、マンガンの割合が大きくなると単一相の複合酸化物が合成されにくくなるため、1-y-z≦0.4とすることが望ましい。高容量の電池を得るためには、y>1-y-z、y>zとすることが特に好ましい。この一般式を有するリチウム・ニッケル系複合酸化物は、すなわちリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(以下、「NCM」と称することがある。)である。NCMは、電池の高容量化を図るために好適に用いられるリチウム・ニッケル系複合酸化物である。たとえば、一般式LixNiyCozMn(1.0-y-z)O2において、x=1、y=0.8、z=0.1の複合酸化物を「NCM811」と称し、x=1、y=0.5、z=0.2の複合酸化物を「NCM523」と称する。
【0063】
正極活物質層に用いられるバインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。
【0064】
正極活物質層に場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メソポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、正極活物質層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0065】
正極活物質層は、上記の通り、正極活物質が塗布されていない未塗布部を設けることが好ましい。正極集電体上の正極活物質未塗布部は、特に正極リードを接続するために設ける。正極活物質層は、均一な厚さで設けてもよく、塗布の部位に応じて厚さを変えることもできる。正極活物質層は、正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部との境界部に向かって正極活物質層の厚さが小さくなった正極活物質層薄肉部と、正極活物質層平坦部とを有することが好ましい。そして場合によっては、このように設けられた正極活物質層薄肉部の少なくとも一部と正極活物質未塗布部の少なくとも一部とを覆うように絶縁部材が設けられていてもよい。正極活物質未塗布部が負極活物質塗布部と隣り合っている構造を有する場合(たとえば、上記の第二の実施形態のリチウムイオン二次電池素子の場合)、その領域で短絡が起きることがある。すると当該部分での発熱量が大きくなりうる。そこで、そのような不都合をできるだけ防ぐために絶縁部材を設ける場合がある。絶縁部材としては、ポリオレフィンフィルムに粘着層を設けた粘着テープを使用することができる。
【0066】
すべての実施形態において用いることができる負極は、負極活物質混合物が塗布された負極である。負極は、負極活物質、バインダおよび場合により導電助剤の負極活物質混合物を銅箔などの金属箔からなる負極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た負極活物質層を有している。負極活物質層は、空孔を含む多孔質形状または微孔質形状のものであることが好ましい。各実施形態において、負極活物質が、黒鉛を含む。特に負極活物質層に黒鉛が含まれると、電池の残容量(SOC)が低いときにも電池の出力を向上させることができるというメリットがある。黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形態であることが好ましい。
【0067】
黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛がある。天然黒鉛は安価に大量に入手することができ、構造が安定し耐久性に優れている。人造黒鉛とは人工的に生産された黒鉛のことであり、純度が高い(同素体などの不純物がほとんど含まれていない)ため電気抵抗が小さい。実施形態における炭素材料として、天然黒鉛、人造黒鉛とも好適に用いることができる。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛、あるいは非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を用いることもできる。
【0068】
非晶質炭素とは、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことである。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等が挙げられる。
【0069】
これらの負極活物質は場合により混合して用いてもよい。また、非晶質炭素で被覆された黒鉛を用いることもできる。黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とをともに含む混合炭素材料を負極活物質として用いると、電池の回生性能が向上する。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛粒子、または非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を負極活物質の炭素材料として用いると、電解液の分解が抑制され、負極の耐久性が向上する。
【0070】
人造黒鉛を用いる場合、層間距離d値(d002)が0.337nm以上のものであることが好ましい。人造黒鉛の結晶の構造は、一般的に天然黒鉛よりも薄い。人造黒鉛をリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いる場合は、リチウムイオンが挿入可能な層間距離を有していることが条件となる。リチウムイオンの挿脱が可能な層間距離はd値(d002)で見積もることができ、d値が0.337nm以上であれば問題なくリチウムイオンの挿脱が行われる。
【0071】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出することができるものであれば、特に限定されるものでなく、公知のものを用いることができる。負極活物質の具体例としては、上記のような黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛等)、コークス、ハードカーボン等の炭素材料のほか、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-鉛合金、リチウム-錫合金等のリチウム合金、リチウム金属、Si、SnO2、SnO、TiO2、SiO、Li4Ti5O12等の電位が正極活物質に比べて卑な金属酸化物が挙げられる。これらは一種または二種以上を混合して使用できる。
【0072】
中でも、Li金属、Si、Sn、Al、などのLiと合金を形成する金属や、Si酸化物(SiOx(0<x≦2))、SiとSi以外の他金属元素(例えば、Li、B、Mg、Na、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等)を含むSi複合酸化物、Sn酸化物、SnとSn以外の他金属元素を含むSn複合酸化物等のリチウムイオンを吸蔵、放出し得る金属酸化物を含む負極活物質と上記の本発明に係る正極を組み合わせて用いることで、より大きなエネルギー密度向上の効果が得られる。これらの負極活物質は、炭素材料と複合体を形成していてもよい。また、炭素材料で被覆されていてもよい。これらの負極活物質の含有量は特に限定されるものではないが、高エネルギー密度化の観点からは、負極活物質中、一般には5重量%以上であり、10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましく、40重量%以上がさらに好ましい。
【0073】
負極活物質層に用いられるバインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。
【0074】
負極活物質層に場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、メソポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、負極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0075】
負極活物質層は、上記の通り、負極活物質が塗布されていない未塗布部を設けることが好ましい。負極集電体上の負極活物質未塗布部は、特に負極リードを接続するために設ける。負極活物質層は、塗布の部位に応じて厚さを変えることができる。負極活物質層は、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部に向かって負極活物質層の厚さが小さくなった負極活物質層薄肉部と、負極活物質層平坦部とを有していてよい。
【0076】
すべての実施形態において用いることができる正極ならびに負極は、先に説明した正極活物質あるいは負極活物質を含む電極活物質層が電極集電体に配置されたものとなっている。このとき各電極活物質層の平坦部の厚さは、片面あたり10~100μmであることが好ましく、さらに50~80μmであることが好ましい。各電極活物質層の平坦部の厚さが小さすぎると均一な電極活物質層の形成が難しいという不都合があり、一方、各電極活物質層の平坦部の厚さが大きすぎると高レートでの充放電性能が低下するという不都合があり得る。なお、負極活物質層の全面において、負極活物質層の厚さが、セパレータを介して隣り合っている正極活物質層の厚さよりも大きいことが好ましい。
【0077】
すべての実施形態のリチウムイオン二次電池素子において、場合によりセパレータを用いることができる。セパレータは、たとえばポリオレフィンフィルムをもちいることができる。ポリオレフィンとは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセンなどのα-オレフィンを重合または共重合させて得られる化合物のことであり、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセンのほか、これらの共重合体を挙げることができる。セパレータとしてポリオレフィンフィルムを用いる場合、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンフィルムであると好都合である。ポリオレフィンフィルムがこのような構造を有していることにより、万一電池温度が上昇しても、セパレータが閉塞して(シャットダウンして)、イオン流を寸断することができる。すなわち一軸延伸ポリオレフィンフィルムは、電池の加熱時に収縮して孔が塞がるため、正負極間の短絡を防ぐことが可能となる。シャットダウン効果を発揮するためには、多孔質のポリエチレン膜を用いることが非常に好ましい。
【0078】
また、架橋されたフィルムをセパレータとして用いることができる。多孔質または微孔質ポリオレフィンフィルムは加熱時に収縮する性質を有するため、電池の過熱時にはフィルムが収縮してシャットダウンする。しかしながらフィルムの熱収縮率が大きすぎると、フィルムの面積が大きく変化してしまい、かえって大電流の流れを生じることにもなりかねない。架橋されているポリオレフィンフィルムは、熱収縮率が適切であるため、過熱時にも、大きく面積を変化させることなく孔を塞ぐ分だけ収縮することができる。
【0079】
すべての実施形態において用いられるセパレータは、該セパレータの片面または両面に耐熱性微粒子層を有していてもよい。この際、電池の過熱を防止するために設けられた耐熱性微粒子層は、耐熱温度が150℃以上の耐熱性を有し、電気化学反応に安定な無機微粒子から構成される。このような無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α-アルミナ、β-アルミナ、θ-アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライトなどの鉱物を挙げることができる。
【0080】
上記の正極、セパレータ、および負極は、いずれも独立したシートの形状をしている。セパレータを重ね合わせる場合は、正極と負極との間にセパレータを介するように配置して、リチウムイオン二次電池素子を形成することができる。
【0081】
このようなリチウムイオン二次電池素子に電解液を浸漬させ、さらに外装体で封止することによりリチウムイオン電池を形成することができる。封止とは、リチウムイオン二次電池素子の少なくとも一部が外気に触れないように、比較的柔軟な外装体材料により包まれていることを意味する。リチウムイオン二次電池の外装体は、ガスバリア性を有し、リチウムイオン二次電池素子を封止することが可能な筐体か、あるいは柔軟な材料から構成される袋形状のものである。外装体として、アルミニウム缶や、アルミニウム箔とポリプロピレン等を積層したアルミニウムラミネートシートなどを好適に使用することができる。リチウムイオン二次電池は、コイン型電池、ラミネート型電池、巻回型電池など、種々の形態であってよい。
【0082】
電解液とは、イオン性物質を溶媒に溶解させた電気伝導性のある溶液のことであり、すべての実施形態において、特に非水電解液を用いることができる。正極と負極とが重ね合わせられ、場合によりセパレータが配置され、これに電解液を含むリチウムイオン二次電池素子は、電池の主構成部材の一単位である。通常は、複数の正極と複数の負極とが複数のセパレータを介して重ね合わされてできた積層物が電解液に浸漬されている。本明細書のすべての実施形態において用いることができる電解液は、非水電解液であって、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジ-n-プロピルカーボネート、ジ-t-プロピルカーボネート、ジ-n-ブチルカーボネート、ジ-イソブチルカーボネート、またはジ-t-ブチルカーボネート等の鎖状カーボネートと、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等の環状カーボネートとを含む混合物であることが好ましい。電解液は、このようなカーボネート混合物に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)等のリチウム塩を溶解させたものである。
【0083】
電解液は、このほか、添加剤として上記の環状カーボネートとは異なる環状カーボネート化合物を含んでいてもよい。添加剤として用いられる環状カーボネートとしてビニレンカーボネート(VC)が挙げられる。また、添加剤としてハロゲンを有する環状カーボネート化合物を用いてもよい。これらの環状カーボネートも、電池の充放電過程において正極ならびに負極の保護被膜を形成する化合物である。特に、上記のジスルホン酸化合物またはジスルホン酸エステル化合物のような硫黄を含む化合物による、リチウム・ニッケル系複合酸化物を含有する正極活物質への攻撃を防ぐことができる化合物である。ハロゲンを有する環状カーボネート化合物として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネート等を挙げることができる。ハロゲンを有し不飽和結合を有する環状カーボネート化合物であるフルオロエチレンカーボネートは特に好ましく用いられる。
【0084】
また、電解液は、添加剤としてジスルホン酸化合物をさらに含んでいてもよい。ジスルホン酸化合物とは、一分子内にスルホ基を2つ有する化合物であり、スルホ基が金属イオンと共に塩を形成したジスルホン酸塩化合物、あるいはスルホ基がエステルを形成したジスルホン酸エステル化合物を包含する。ジスルホン酸化合物のスルホ基の1つまたは2つは、金属イオンと共に塩を形成していてもよく、アニオンの状態であってもよい。ジスルホン酸化合物の例として、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸、およびこれらの塩(メタンジスルホン酸リチウム、1,2-エタンジスルホン酸リチウム等)、およびこれらのアニオン(メタンジスルホン酸アニオン、1,2-エタンジスルホン酸アニオン等)が挙げられる。またジスルホン酸化合物としてはジスルホン酸エステル化合物が挙げられ、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、またはビフェニルジスルホン酸のアルキルジエステルまたはアリールジエステル等の鎖状ジスルホン酸エステル;ならびにメチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロピレンメタンジスルホン酸エステル等の環状ジスルホン酸エステルが好ましく用いられる。メチレンメタンジスルホン酸エステル(MMDS)は特に好ましく用いられる。
【0085】
上記の正極ならびに負極をセパレータを介して重ね合わせ、これを上記の電解液と共に外装体内部に封入してリチウムイオン二次電池を形成することができる。外装体として、電解液を外部に浸出させない材料であればいかなるものを使用してもよい。外装体の最外層にポリエステル、ポリアミド、液晶性ポリマーなどの耐熱性の保護層を有し、最内層にポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、マレイン酸変性ポリエチレンなどの酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレンなどの酸変性ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PETとPENのブレンド、PETとPEIのブレンド、ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂とPETのブレンド、キシリレン基含有ポリアミドとPETのブレンドなどからなる熱可塑性樹脂から構成されたシーラント層を有するラミネートフィルムを用いることができる。外装体は、これらのラミネートフィルムを1枚または複数枚組み合わせて接着または溶着し、さらに多層化したものを用いて形成してもよい。ガスバリア性金属層としてアルミニウム、スズ、銅、ニッケル、ステンレス鋼を用いることができる。金属層の厚みは30~50μmであることが好ましい。特に好適には、アルミニウム箔と、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリマーとの積層体であるアルミニウムラミネートを使用することができる。
【0086】
次にリチウムイオン二次電池素子の製造方法を説明する。本発明の第一の実施形態のリチウムイオン二次電池素子の製造方法は、正極集電体の両面に、略同一の形状で、当該両面の少なくとも一部に正極活物質が塗布された正極と、負極集電体の両面に、略同一の形状で、当該両面の少なくとも一部に負極活物質が塗布された負極と、を重ね合わせて、リチウムイオン二次電池素子を製造する方法である。
当該製造方法は、まず正極活物質と溶媒とを含む正極活物質含有スラリを、正極集電体の一部から、所定の一方向に連続的に塗布して、正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部とを設ける。ここで正極活物質塗布部は概して矩形であり、正極活物質未塗布部は、正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置するようにする。次いで正極活物質塗布部全体を、所定の圧力で概して均一に加圧して、正極活物質層薄肉部と正極活物質層平坦部とを同時に形成して、正極を得る。
次に、負極活物質と溶媒とを含む負極活物質含有スラリを、負極集電体の一部から、所定の一方向に連続的に塗布して、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部とを設ける。ここで、負極活物質塗布部は該正極活物質塗布部と略同一形状の概して矩形であり、負極活物質未塗布部は、正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置するようにする。次いで負極活物質塗布部全体を、所定の圧力で概して均一に加圧して、負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部とを同時に形成し、負極活物質層薄肉部の密度が、負極活物質層平坦部の密度と同じか、またはそれより小さい、負極を得る。
次に、正極の概して矩形の正極活物質層と負極の概して矩形の負極活物質層とが、矩形同士が互いにほぼ重なるように、正極と該負極とを重ね合わせる。この際に、正極の正極活物質未塗布部と、負極の負極活物質未塗布部とが、矩形の対向する辺に位置し、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部は、負極活物質未塗布部と隣り合う正極集電体周縁部よりも、負極集電体の周縁側に位置し、負極活物質層平坦部と負極活物質層薄肉部との境界部は、負極活物質未塗布部と隣り合う正極集電体周縁部よりも、負極集電体の中央側に位置するように、正極と負極とを重ね合わせるようにする。
第一の実施形態のリチウムイオン二次電池素子は、少なくとも以上の工程を遂行することにより製造することができる。なお、正極と負極とを重ね合わせる際には、正極と負極との間にセパレータを配置してもよい。
【0087】
リチウムイオン二次電池素子の製造方法は、まず正極を得る工程を有する。まず、正極活物質(上記の通り、正極活物質と、場合によりバインダならびに導電助剤などを含む正極活物質混合物であってよい)と、溶媒とを含む正極活物質含有スラリを得る。このとき溶媒としては、正極活物質を分散させることが可能な有機溶媒、たとえば、N-メチルピロリドンなどを用いることができる。得られた正極活物質含有スラリを、正極集電体の一部から、所定の一方向に向かって連続的に塗布する。好適には、スラリを平面上に塗布することができるバーコーターなどの機械を用いて、正極集電体の平面上に正極活物質含有スラリを塗布する。この際に、正極集電体の一部、たとえば、概して矩形の正極集電体を用いた場合は、矩形の一辺からわずかに中心部に入った部分から正極活物質含有スラリを塗布を開始し、対向する辺の方向に向かって連続的に塗布することができる。このようにして、概して矩形の正極活物質塗布部と、正極集電体の一辺に沿って位置する正極活物質未塗布部とを設ける。このとき、正極活物質含有スラリの塗布開始端における当該スラリの塗布量は、通常、わずかに少なくなり、その他の部分においては正極活物質含有スラリがほぼ同量に塗布される。次いで正極活物質塗布部全体を所定の圧力で概して均一に加圧する。その後必要に応じて乾燥して、正極活物質の塗布量が若干少ない正極活物質層薄肉部と、正極活物質がほぼ均一に塗布された正極活物質層平坦部とを同時に形成する。
【0088】
続いて負極を得る工程を有する。まず、負極活物質(上記の通り、負極活物質と、場合によりバインダならびに導電助剤などを含む負極活物質混合物であってよい)と、溶媒とを含む負極活物質含有スラリを得る。このとき溶媒としては、負極活物質を分散させることが可能な有機溶媒、たとえば、N-メチルピロリドンなどを用いることができる。得られた負極活物質含有スラリを、負極集電体の一部から、所定の一方向に向かって連続的に塗布する。好適には、スラリを平面上に塗布することができるバーコーターなどの機械を用いて、負極集電体の平面上に負極活物質含有スラリを塗布する。この際に、負極集電体の一部、たとえば、概して矩形の負極集電体を用いた場合は、矩形の一辺からわずかに中心部に入った部分から負極活物質含有スラリを塗布を開始し、対向する辺の方向に向かって連続的に塗布することができる。このようにして、概して矩形の負極活物質塗布部と、負極集電体の一辺に沿って位置する負極活物質未塗布部とを設ける。このとき、負極活物質含有スラリの塗布開始端における当該スラリの塗布量は、通常、わずかに少なくなり、その他の部分においては負極活物質含有スラリがほぼ同量に塗布される。次いで負極活物質塗布部全体を所定の圧力で概して均一に加圧する。その後必要に応じて乾燥して、負極活物質の塗布量が若干少ない負極活物質層薄肉部と、負極活物質がほぼ均一に塗布された負極活物質層平坦部とを同時に形成する。なお、負極活物質含有スラリの塗布量がわずかに少ない負極活物質含有スラリ塗布開始端にかかる圧力は、その他の部分にかかる圧力よりも若干小さくなる。このため、負極活物質の塗布量が若干少ない負極活物質層薄肉部の密度は、負極活物質がほぼ均一に塗布された負極活物質層平坦部の密度に比べて、同じか若干小さくなる。なお上記以外の正極活物質含有スラリを正極集電体に塗布する方法、ならびに負極活物質含有スラリを負極正極集電体に塗布する方法であっても、本発明の各実施形態で用いる正極および負極が得られる方法であれば、適宜適用することができる。
【0089】
このようにして得られた正極と負極とを重ね合わせて、リチウムイオン二次電池素子を得る。正極と負極とを重ね合わせる際には、正極の概して矩形の正極活物質層と負極の概して矩形の負極活物質層とが、矩形同士が互いにほぼ重なるように、正極と負極とを重ね合わせる。矩形同士が互いにほぼ重なるように、正極と負極とを重ね合わせる、とは、概して矩形の正極活物質層の各辺と、概して矩形の負極活物質層の各辺とが、おおよそ重なるように、正極と負極とを重ねる、という意味である。たとえば、正極活物質層の形状が長方形である場合、負極活物質層の形状はこれとほぼ同じ長方形であり、正極活物質層の長方形の長辺と負極活物質層の長辺とが互いにだいたい重なるように、正極と負極とを重ねる。ここで正極活物質層の形状と負極活物質層の形状とは、寸分違わず厳密に同一である必要はなく、正極活物質層と負極活物質層とが寸分違わず厳密に重なるように正極と負極とを重ねる必要もない。正極活物質層の矩形と負極活物質層との矩形とは、おおよそ同じ形状であれば良く、両者はおおよそ重なっていればよい。
【0090】
この際に、正極の正極活物質未塗布部と、負極の負極活物質未塗布部とが、矩形の対向する辺に位置し、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部は、負極活物質未塗布部と隣り合う正極集電体周縁部よりも、負極集電体の周縁側に位置し、負極活物質層平坦部と負極活物質層薄肉部との境界部は、負極活物質未塗布部と隣り合う正極集電体周縁部よりも、負極集電体の中央側に位置するように、正極と負極とを重ね合わせるようにする。正極と負極とは、たとえば
図7に示すような位置関係で配置することができる。
【0091】
続いて本発明の第二の実施形態のリチウムイオン二次電池素子の製造方法を説明する。第二の実施形態のリチウムイオン二次電池素子の製造方法は、正極集電体の両面に、略同一の形状で当該両面の少なくとも一部に正極活物質が塗布された正極と、負極集電体の両面に、略同一の形状で、当該両面の少なくとも一部に負極活物質が塗布された負極と、を重ね合わせて、リチウムイオン二次電池素子を製造する方法である。
当該製造方法は、まず正極活物質と溶媒とを含む正極活物質含有スラリを、正極集電体の一部から、所定の一方向に連続的に塗布して、正極活物質塗布部と正極活物質未塗布部とを設ける。ここで正極活物質塗布部は概して矩形であり、正極活物質未塗布部は、正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置するようにする。次いで正極活物質塗布部全体を、所定の圧力で概して均一に加圧して、正極活物質層薄肉部と正極活物質層平坦部とを同時に形成し、正極活物質未塗布部の少なくとも一部を覆うように絶縁部材を設けて、正極を得る。
次に、負極活物質と溶媒とを含む負極活物質含有スラリを、負極集電体の一部から、所定の一方向に連続的に塗布して、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部とを設ける。ここで負極活物質塗布部は正極活物質塗布部と略同一形状の概して矩形であり、負極活物質未塗布部は、正極集電体の周縁部の少なくとも一部に沿って位置するようにする。次いで負極活物質塗布部全体を、所定の圧力で概して均一に加圧して、負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部とを同時に形成し、負極活物質層薄肉部の密度が、負極活物質層平坦部の密度と同じか、またはそれより小さい、負極を得る。
次に、正極の概して矩形の正極活物質層と負極の概して矩形の負極活物質層とが、矩形同士が互いにほぼ重なるように、正極と負極とを重ね合わせる。この際に、正極の正極活物質未塗布部と、負極の負極活物質未塗布部とが、矩形の同一の辺に位置し、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部が、絶縁部材と隣り合うように位置し、負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部との境界部が、正極活物質層平坦部と隣り合うように位置するように、正極と負極とを重ね合わせるようにする。
第二の実施形態のリチウムイオン二次電池素子は、少なくとも以上の工程を遂行することにより製造することができる。なお、正極と負極とを重ね合わせる際には、正極と負極との間にセパレータを配置してもよい。
【0092】
リチウムイオン二次電池素子の製造方法は、まず正極を得る工程を有する。まず、正極活物質(上記の通り、正極活物質と、場合によりバインダならびに導電助剤などを含む正極活物質混合物であってよい)と、溶媒とを含む正極活物質含有スラリを得る。このとき溶媒としては、正極活物質を分散させることが可能な有機溶媒、たとえば、N-メチルピロリドンなどを用いることができる。得られた正極活物質含有スラリを、正極集電体の一部から、所定の一方向に向かって連続的に塗布する。好適には、スラリを平面上に塗布することができるバーコーターなどの機械を用いて、正極集電体の平面上に正極活物質含有スラリを塗布する。この際に、正極集電体の一部、たとえば、概して矩形の正極集電体を用いた場合は、矩形の一辺からわずかに中心部に入った部分から正極活物質含有スラリを塗布を開始し、対向する辺の方向に向かって連続的に塗布することができる。このようにして、概して矩形の正極活物質塗布部と、正極集電体の一辺に沿って位置する正極活物質未塗布部とを設ける。このとき、正極活物質含有スラリの塗布開始端における当該スラリの塗布量は、通常、わずかに少なくなり、その他の部分においては正極活物質含有スラリがほぼ同量に塗布される。次いで正極活物質塗布部全体を所定の圧力で概して均一に加圧する。その後必要に応じて乾燥して、正極活物質の塗布量が若干少ない正極活物質層薄肉部と、正極活物質がほぼ均一に塗布された正極活物質層平坦部とを同時に形成する。
【0093】
続いて負極を得る工程を有する。まず、負極活物質(上記の通り、負極活物質と、場合によりバインダならびに導電助剤などを含む負極活物質混合物であってよい)と、溶媒とを含む負極活物質含有スラリを得る。このとき溶媒としては、負極活物質を分散させることが可能な有機溶媒、たとえば、N-メチルピロリドンなどを用いることができる。得られた負極活物質含有スラリを、負極集電体の一部から、所定の一方向に向かって連続的に塗布する。好適には、スラリを平面上に塗布することができるバーコーターなどの機械を用いて、負極集電体の平面上に負極活物質含有スラリを塗布する。この際に、負極集電体の一部、たとえば、概して矩形の負極集電体を用いた場合は、矩形の一辺からわずかに中心部に入った部分から負極活物質含有スラリを塗布を開始し、対向する辺の方向に向かって連続的に塗布することができる。このようにして、概して矩形の負極活物質塗布部と、負極集電体の一辺に沿って位置する負極活物質未塗布部とを設ける。このとき、負極活物質含有スラリの塗布開始端における当該スラリの塗布量は、通常、わずかに少なくなり、その他の部分においては負極活物質含有スラリがほぼ同量に塗布される。次いで負極活物質塗布部全体を所定の圧力で概して均一に加圧する。その後必要に応じて乾燥して、負極活物質の塗布量が若干少ない負極活物質層薄肉部と、負極活物質がほぼ均一に塗布された負極活物質層平坦部とを同時に形成する。なお、負極活物質含有スラリの塗布量がわずかに少ない負極活物質含有スラリ塗布開始端にかかる圧力は、その他の部分にかかる圧力よりも若干小さくなる。このため、負極活物質の塗布量が若干少ない負極活物質層薄肉部の密度は、負極活物質がほぼ均一に塗布された負極活物質層平坦部の密度に比べて、同じか若干小さくなる。なお上記以外の正極活物質含有スラリを正極集電体に塗布する方法、ならびに負極活物質含有スラリを負極正極集電体に塗布する方法であっても、本発明の各実施形態で用いる正極および負極が得られる方法であれば、適宜適用することができる。
【0094】
このようにして得られた正極と負極とを重ね合わせて、リチウムイオン二次電池素子を得る。正極と負極とを重ね合わせる際には、正極の概して矩形の正極活物質層と負極の概して矩形の負極活物質層とが、矩形同士が互いにほぼ重なるように、正極と負極とを重ね合わせる。矩形同士が互いにほぼ重なるように、正極と負極とを重ね合わせる、とは、概して矩形の正極活物質層の各辺と、概して矩形の負極活物質層の各辺とが、おおよそ重なるように、正極と負極とを重ねる、という意味である。たとえば、正極活物質層の形状が長方形である場合、負極活物質層の形状はこれとほぼ同じ長方形であり、正極活物質層の長方形の長辺と負極活物質層の長辺とが互いにだいたい重なるように、正極と負極とを重ねる。ここで正極活物質層の形状と負極活物質層の形状とは、寸分違わず厳密に同一である必要はなく、正極活物質層と負極活物質層とが寸分違わず厳密に重なるように正極と負極とを重ねる必要もない。正極活物質層の矩形と負極活物質層との矩形とは、おおよそ同じ形状であれば良く、両者はおおよそ重なっていればよい。
【0095】
この際に、正極の正極活物質未塗布部と、負極の負極活物質未塗布部とが、矩形の同一の辺に位置し、負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部が、絶縁部材と隣り合うように位置し、負極活物質層薄肉部と負極活物質層平坦部との境界部が、正極活物質層平坦部と隣り合うように位置するように、正極と負極とを重ね合わせるようにする。正極と負極とは、たとえば
図8に示すような位置関係で配置することができる。
【0096】
実施形態のリチウムイオン二次電池素子を用いて、リチウムイオン二次電池を製造する方法は従来の方法に従うことができ、特に限定されるものではない。たとえば、正極、セパレータ、負極を重ね合わせたリチウムイオン二次電池素子に、正極および負極タブリードを超音波溶接等の方法によって接続し、これを外装体材料の所定の位置に配置して、まず正極および負極タブと重なる部分(つば部)を熱融着する。そして外装体材料のタブ引き出し部ではない側辺のうち1辺を熱融着して袋状とする。次いで袋の内部に電解液を注入する。最後に、残った一辺を減圧状態で熱融着する。なおここで用いる各電極のタブリードは、電池内の正極または負極と外部との電気の出し入れを行う端子のことである。リチウムイオン二次電池の負極タブとしてニッケルまたはニッケルめっきを施した銅導体を、正極タブとしてアルミニウム導体をそれぞれ用いることができる。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明を例示的説明したに過ぎず、本発明の技術的範囲を特定の実施形態あるいは具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0098】
1 正極
11(21、151、161、171、181、191、1101) 正極集電体
12(22、152、162、172、182、192、1102) 正極活物質層
23(153、163、173、183、193、1103) 正極活物質塗布部
24(154、164、174、184、194、1104) 正極活物質未塗布部
25(175、185、1105) 正極活物質層薄肉部
26(176、186、1106) 正極活物質層平坦部
177 正極集電体周縁部
187(197、1107) 絶縁部材
2 負極
31(41、251、261、271、281、291、2101) 負極集電体
32(42、252、262、272、282、292、2102) 負極活物質層
43(253、263、273、283、293、2103) 負極活物質塗布部
44(254、264、274、284、294、2104) 負極活物質未塗布部
45(275、285、2105) 負極活物質層薄肉部
46(276、286、2106) 負極活物質層平坦部
277(287、2107) 負極活物質塗布部と負極活物質未塗布部との境界部
278(288、2108) 負極活物質層平坦部と負極活物質層薄肉部との境界部
3 セパレータ