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特許7408299過酸化水素の検出のための高分子色素および過酸化水素検出用構造体
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  • 特許-過酸化水素の検出のための高分子色素および過酸化水素検出用構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】過酸化水素の検出のための高分子色素および過酸化水素検出用構造体
(51)【国際特許分類】
   C09B 69/10 20060101AFI20231225BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C09B69/10 B
G01N21/78 A
G01N21/78 Z
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019104770
(22)【出願日】2019-06-04
(65)【公開番号】P2019214713
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2018109803
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】水澤 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】東 隆司
(72)【発明者】
【氏名】関 真範
(72)【発明者】
【氏名】山本 毅
(72)【発明者】
【氏名】金崎 健吾
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-520465(JP,A)
【文献】国際公開第2000/003303(WO,A1)
【文献】NISHIYABU, RYUHEI et al.,Boronic acid as an efficient anchor group for surface modification of solid polyvinyl alcohol,CHEMICAL COMMUNICATIONS,vol. 52, no. 63,2016年,9765 - 9768
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 69/10
G01N 21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度が65mol%以上であるポリビニルアルコールに由来する高分子色素であって、
下記構造式1で表される繰り返し単位、下記構造式2で表される繰り返し単位、および下記構造式3で表される繰り返し単位を有する高分子色素。
【化1】
【化2】
【化3】
(ただし構造式1のDyeは、イオン性またはノニオン性官能基を有する400nm~700nmにおける分子吸光係数の最大値が10-1cm-1以上の光吸収材料であり、構造式2のRは、炭素数1から8までの炭化水素鎖または、下記構造式(I)で表される芳香族基である。)
【化4】
(ただし構造式(I)において、R11乃至R15は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アセトキシ基、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシカルボニル基、炭素数1から8のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数1から8のアルキルアミノカルボニル基、および、炭素数1から8のアルキルカルボニルアミノ基のいずれかであり、*は構造式2のBの結合位置を示す。)
【請求項2】
前記構造式1のDyeの水に対する溶解度が0.1mM以上であることを特徴とする請求項1に記載の高分子色素。
【請求項3】
前記構造式2のRのClogP値が、2以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子色素。
【請求項4】
前記構造式2のRが下記構造式II-XII、II-VIII、II-XIVおよびII-XXVIのいずれかで表されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高分子色素。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
(ただし構造式II-XII、II-VIII、II-XIVおよびII-XXVIにおいて*は構造式2のBの結合位置を示す。)
【請求項5】
前記構造式1のDyeが、トリアリールメタン系色素、アゾ系色素、キサンテン色素、スクアリリウム色素、およびシアニン色素からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の高分子色素。
【請求項6】
前記構造式1が、下記構造式7で表されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の高分子色素。
【化9】
【請求項7】
さらにメチレン基を繰り返し単位として有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の高分子色素。
【請求項8】
さらに下記構造式8で表される繰り返し単位を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の高分子色素。
【化10】
【請求項9】
過酸化水素検出のために用いられることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の高分子色素。
【請求項10】
基材と、請求項に記載の高分子色素を含有することを特徴とする、過酸化水素検出用構造体。
【請求項11】
前記過酸化水素検出用構造体を、前記過酸化水素を含まない生体サンプルに接触させる場合において、接触後の前記過酸化水素検出用構造体の光学濃度は、接触前の前記過酸化水素検出用構造体の光学濃度の10%以上であることを特徴とする請求項10に記載の過酸化水素検出用構造体。
【請求項12】
基材と、請求項に記載の高分子色素と、検出対象とする代謝物を基質として過酸化水素を発生する酵素を含有することを特徴とする、過酸化水素検出用構造体。
【請求項13】
ケン化度が65mol%以上であるポリビニルアルコールに由来する高分子色素であって、下記構造式1で表される繰り返し単位、下記構造式3で表される繰り返し単位、および下記構造式4で表される繰り返し単位を有する高分子色素を基材に塗布する色素塗布工程、および、 前記高分子色素を塗布した基材に下記構造式5で表されるカップリング剤を塗布するカップリング工程、を有することを特徴とする、過酸化水素検出用構造体の製造方法。
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
(ただし構造式1のDyeは、イオン性またはノニオン性官能基を有する400nm~700nmにおける分子吸光係数の最大値が10-1cm-1以上の光吸収材料であり、構造式5のRは、炭素数1から8までの炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基である。)
【請求項14】
基材にケン化度が65mol%以上のポリビニルアルコールまたはブチラール樹脂を塗布し、乾燥を行う樹脂層塗布工程、前記ポリビニルアルコールまたはブチラール樹脂を塗布し、乾燥した基材に、下記構造式6に記載のボロン酸含有色素を塗布し、乾燥を行う、色素塗布工程、および前記構造式6に記載のボロン酸含有色素を塗布、乾燥した基材に下記構造式5に記載のカップリング剤を塗布し、乾燥を行う、カップリング工程を有することを特徴とする、過酸化水素検出用構造体の製造方法。
【化16】
【化17】
(ただし構造式6のDyeは、イオン性またはノニオン性官能基を有する400nm~700nmにおける分子吸光係数の最大値が10-1cm-1以上の光吸収材料であり、構造式5のRは、炭素数1から8までの炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基である。)
【請求項15】
前記ポリビニルアルコールまたは前記ブチラール樹脂の重量平均分子量が5000以上186000以下であることを特徴とする請求項14に記載の過酸化水素検出用構造体の製造方法。
【請求項16】
生体サンプル中に含まれる過酸化水素の検出方法であって、
高分子色素が基材に塗布された過酸化水素検出用構造体に、生体サンプルを接触させる工程、および前記過酸化水素検出用構造体に前記生体サンプルを接触させた後、前記高分子色素を前記基材に塗布した領域の高分子色素の発色量を測定する工程と、を有し、
前記高分子色素が、ケン化度が65mol%以上であるポリビニルアルコールに由来する高分子色素であって、下記構造式1で表される繰り返し単位、下記構造式2で表される繰り返し単位、および下記構造式3で表される繰り返し単位を有する高分子色素であることを特徴とする、過酸化水素の検出方法。
【化18】
【化19】
【化20】
(ただし構造式1のDyeは、イオン性またはノニオン性官能基を有する400nm~700nmにおける分子吸光係数の最大値が10-1cm-1以上の光吸収材料であり、構造式2のRは、炭素数1から8までの炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基である。)
【請求項17】
生体サンプル中に含まれる代謝物の検出方法であって、
生体サンプルに、検出対象である代謝物を基質として過酸化水素を発生する酵素を加える工程、高分子色素が基材に塗布された過酸化水素検出用構造体に、前記生体サンプルを接触させる工程、および前記過酸化水素検出用構造体に前記生体サンプルを接触させた後、前記高分子色素を前記基材に塗布した領域の高分子色素の発色量を測定する工程と、を有し、
前記高分子色素が、ケン化度が65mol%以上であるポリビニルアルコールに由来する高分子色素であって、下記構造式1で表される繰り返し単位、下記構造式2で表される繰り返し単位、および下記構造式3で表される繰り返し単位を有する高分子色素であることを特徴とする、代謝物の検出方法。
【化23】
【化24】
【化25】
(ただし構造式1のDyeは、イオン性またはノニオン性官能基を有する400nm~700nmにおける分子吸光係数の最大値が10-1cm-1以上の光吸収材料であり、構造式2のRは、炭素数1から8までの炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基である。)
【請求項18】
生体サンプル中に含まれる代謝物の検出方法であって、
基材と、高分子色素と、検出対象とする代謝物を基質として過酸化水素を発生する酵素を含有する過酸化水素検出用構造体に前記生体サンプルを接触させる工程、および前記過酸化水素検出用構造体に前記生体サンプルを接触させた後、前記高分子色素を前記基材に塗布した領域の高分子色素の発色量を測定する工程と、を有し、
前記高分子色素が、ケン化度が65mol%以上であるポリビニルアルコールに由来する高分子色素であって、下記構造式1で表される繰り返し単位、下記構造式2で表される繰り返し単位、および下記構造式3で表される繰り返し単位を有する高分子色素であることを特徴とする、代謝物の検出方法。
【化26】
【化27】
【化28】
(ただし構造式1のDyeは、イオン性またはノニオン性官能基を有する400nm~700nmにおける分子吸光係数の最大値が10-1cm-1以上の光吸収材料であり、構造式2のRは、炭素数1から8までの炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基である。)
【請求項19】
生体サンプル中に含まれる過酸化水素の検出キットであって、
前記検出キットが、基材と高分子色素を含有する過酸化水素検出用構造体を含み、
前記高分子色素が、ケン化度が65mol%以上であるポリビニルアルコールに由来する高分子色素であって、下記構造式1で表される繰り返し単位、下記構造式2で表される繰り返し単位、および下記構造式3で表される繰り返し単位を有する高分子色素であることを特徴とする、検出キット。
【化31】
【化32】
【化33】
(ただし構造式1のDyeは、イオン性またはノニオン性官能基を有する400nm~700nmにおける分子吸光係数の最大値が10-1cm-1以上の光吸収材料であり、構造式2のRは、炭素数1から8までの炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基である。)
【請求項20】
生体サンプル中に含まれる代謝物の検出キットであって、
前記検出キットが、基材と、高分子色素と、検出対象とする代謝物を基質として過酸化水素を発生する酵素を含有する過酸化水素検出用構造体を含み、
前記高分子色素が、ケン化度が65mol%以上であるポリビニルアルコールに由来する高分子色素であって、下記構造式1、下記構造式2で表される繰り返し単位、および下記構造式3で表される繰り返し単位を有する高分子色素であることを特徴とする、検出キット。
【化34】
【化35】
【化36】
(ただし構造式1のDyeは、イオン性またはノニオン性官能基を有する400nm~700nmにおける分子吸光係数の最大値が10-1cm-1以上の光吸収材料であり、構造式2のRは、炭素数1から8までの炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基である。)
【請求項21】
生体サンプル中に含まれる代謝物の検出キットであって、
前記検出キットが、基材と高分子色素を含有する過酸化水素検出用構造体、および前記代謝物を基質として過酸化水素を発生する酵素または前記酵素の水溶液が内包されている別体の容器を備え、
前記高分子色素が、ケン化度が65mol%以上であるポリビニルアルコールに由来する高分子色素であって、下記構造式1で表される繰り返し単位、下記構造式2で表される繰り返し単位、および下記構造式3で表される繰り返し単位を有する高分子色素であることを特徴とする、検出キット。
【化39】
【化40】
【化41】
(ただし構造式1のDyeは、イオン性またはノニオン性官能基を有する400nm~700nmにおける分子吸光係数の最大値が10-1cm-1以上の光吸収材料であり、構造式2のRは、炭素数1から8までの炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性検体中の過酸化水素を高感度かつ特異的に定量検出することができる高分子色素、さらに、過酸化水素検出用構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素の検出については、過酸化水素そのものの検出のみならず、酵素反応の生成物としての過酸化水素の検出の需要がある。例えば、グルコース、尿酸、コレステロール、クレアチニン等の検出や定量においては、オキシダーゼなど、それぞれに特異的な酵素と反応させ、発生する過酸化水素の量から求めることができる。このような場合、過酸化水素の検出、定量が必要である。
【0003】
過酸化水素を検出するための物質としては、オキシダーゼやペルオキシダーゼのような酵素を用いる場合と、過酸化水素の存在下で検出可能な色変化(吸収や発光)を受ける機能性色素を用いる場合、あるいはそれらの組み合わせによる場合とがある。機能性色素として代表的なものとして、4-アミノアンチピリンとフェノール系化合物またはアニリン系化合物を組み合わせた被酸化性呈色試薬、3-メチル-2-ベンゾチアゾリンヒドラゾンとアニリン系化合物の組み合わせ試薬、2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)、トリアリールメタン系色素、ベンゾジン誘導体、o-トリアジン誘導体、o-フェニレンジアミン等が挙げられる。この中でもトリアリールメタン系色素は、最大吸収波長が650nm付近にありヘモグロビンの吸収波長領域との重なりが少なく、分子吸光係数も10前後で非常に視認性が高いことから有用なものとして知られている(特許文献1~7)。
【0004】
過酸化水素を検知する染料を使用したデバイスの研究は近年盛んに行われている(非特許文献1)。発明者らは生体サンプル中の代謝物の検出を目的とし、タンパク質(アルブミン等)夾雑物の存在下で過酸化水素の検出が可能か確認した。その結果、染料が夾雑物に吸着しデバイス表面より剥離溶出してしまうため、より高感度の機能性染料を用いても安定した過酸化水素の検出は困難であり、剥離溶出を抑制するために染料を固体表面に固定化させる方法が必要であると考えた。
【0005】
近年、染料の固定化に関して、ボロン酸エステル結合により蛍光性染料を微粒子表面に固定化する方法が検討されており(非特許文献2、3)、過酸化水素量を検知する検査装置の報告もなされている。しかしながら、我々の検討では、色素をボロン酸エステル結合によって単純に樹脂粒子表面に固定化するだけでは、夾雑物への吸着による、染料の樹脂粒子からの剥離溶出を抑制することは困難であり、安定した過酸化水素の検出は困難であった。したがって、安定した過酸化水素を検出する検出装置を提供するためには、単純に染料を固体表面に結合するだけでは不十分であるという認識に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭56-26199号公報
【文献】特開昭56-31641号公報
【文献】特開昭60-194363号公報
【文献】特開昭60-256056号公報
【文献】特開昭62-296号公報
【文献】特開昭62-93261号公報
【文献】特開平3-206896号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Anal. Bioanal. Chem. 2009, 395, 301-313.
【文献】J. Colloid.Interface. Sci. 2014, 432, 92-97.
【文献】Chem. Commun. 2016, 52, 9765-9768.
【文献】Acc. Chem. Res. 2011, 44, 793-804.
【文献】Bioorg. Med. Chem. Lett. 2004, 14, 3979-3983.
【文献】Tetrahedron. 2011, 67, 4939-4947.
【文献】Sensors. 2012, 12, 5420-5431.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生体サンプル中に存在する(または酵素反応により生体サンプル中に生成する)過酸化水素の検出を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、タンパク質などの夾雑物の存在下でも過酸化水素を検出することができる高分子色素を完成した。さらに、高分子色素を用いた過酸化水素検出用構造体を完成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、生体サンプル中に存在する過酸化水素を高感度かつ高選択的に検出する高分子色素および過酸化水素検出用構造体を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第三の実施形態である過酸化水素検出用構造体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は第一の実施形態として、下記構造式1で表される繰り返し単位を少なくとも1以上有し、加えて、下記構造式2または3で表される繰り返し単位のいずれかを有する高分子色素を提供する。
【化1】
【化2】
【化3】
構造式1のDyeは、イオン性またはノニオン性官能基を有する400nm~700nmにおける分子吸光係数の最大値が10-1cm-1以上の光吸収材料である。
構造式2のRは、炭素数1から8までの炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基である。
【0013】
本実施形態の高分子色素は、過酸化水素の検出に好ましく用いられ、すなわち、本発明は第二の実施形態として、本発明の第一の実施形態に係る高分子色素を含む過酸化水素検出用の高分子色素を提供する。
【0014】
本実施形態において、Dyeとは、イオン性またはノニオン性官能基を有する染料、顔料、蛍光物質、色素、金ナノ粒子、金コロイド、銀ナノ粒子等を意味する。つまり、Dyeは、水溶性または水分散性を有し、光学的に計測、観測可能な分子構造を有していればよい。
【0015】
本実施形態において、過酸化水素検出用構造体の安定率とは、生体サンプル中における過酸化水素以外の夾雑物に対する過酸化水素検出用構造体の発色維持率を意味する。過酸化水素検出用構造体の発色維持率とは、標準の生体サンプルに過酸化水素検出用構造体を添加した直後に測定した(波長400nm~700nmの光に対するDye由来の)吸光度(A0)に対する、一定時間経過した後に同様に測定した吸光度(A)の比(100×A/A0)を意味する。生体サンプルとの接触および反応後に、遊離、あるいは非遊離のDyeの量を計測等する観点から、本発明の実施形態においては安定率が10%以上の過酸化水素検出用構造体が好ましい。
【0016】
Dyeの水に対する溶解度は0.1mM以上であることが好ましい。本発明の実施形態の高分子色素は、過酸化水素により、ボロン酸エステルが切断され、高分子色素からDyeが遊離するため、これに基づいて過酸化水素の有無を検出する。Dyeの水に対する溶解度が0.1mM以上であれば、ボロン酸エステル結合の分解によって切断された遊離のDyeが基材等に再吸着することなく溶液中へと移動することができ、基材の光学的変化または移動したDyeの量を計測しやすいからである。
【0017】
Dyeは可視光を吸収することが好ましく、波長400nm~700nmの光を吸収する特性をもつことがより好ましく、波長500nm~700nmの光を吸収する特性をもつことがより好ましい。血清や尿などの生体サンプルに含まれているタンパク質やビタミン、ビリルビン等の夾雑物の吸収波長範囲は波長500nm以下にあり、上記のような吸収特性を持つことで、夾雑物の影響を受けづらく、高感度にDyeを検出することができるからである。
【0018】
また、目視での観察のしやすさの観点において、Dyeの分子吸光係数の最大値が10-1cm-1以上の光吸収材料であることが好ましい。
【0019】
たとえば、Dyeの例として、トリアリールメタン系色素、アゾ系色素、キサンテン色素、スクアリリウム色素、シアニン色素、金ナノ粒子、金コロイド、銀ナノ粒子などが挙げられる。Dyeは、トリアリールメタン系色素、アゾ系色素、キサンテン色素、スクアリリウム色素、及びシアニン色素からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なかでも、Dyeは、分子吸光係数(ε)の観点から高いεを有するトリアリールメタン系色素、キサンテン色素、シアニン色素、または金ナノ粒子であることが好ましく、キサンテン色素であることが特に好ましい。また、構造式1は、下記構造式7で表されることが好ましい。
【化4】
【0020】
本実施形態に使用できる構造式1におけるDyeの好ましい構造の具体例を以下に示すが、下記の例に限定されるものではない。**は、構造式1のBの位置を示す。なお、**は構造式1における-O-B-O-のBに結合する結合手を表わす、と言い換えることもできる。**の意味について、以下も同様である。
【化5】
【化6】

【化7】
【化8】
【化9】
【化10】

【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
【化33】
【0021】
構造式2におけるRは、前述のとおり、炭素数1から8までの炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基である。本実施形態において、炭化水素鎖は、直鎖または枝分かれ構造があってもよく、ニトロ基、ハロゲン原子等で置換されていてもよい、非環式または環式の、非芳香族性の(脂肪族)炭化水素からなる基を意味する。本実施形態において、脂肪族炭化水素は、飽和脂肪族炭化水素でも不飽和脂肪族炭化水素のどちらでもよい。
【0022】
置換または無置換の芳香族基Rの例として、下記構造式(I)から(IX)で表される芳香族基を挙げることができる。
【化34】
【0023】
上記式(I)乃至(IX)において、R11乃至R19は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アセトキシ基、炭素数1から8のアルキル基、炭素数1から8のアルコキシカルボニル基(RO-CO-)、炭素数1から8のアルキルカルボニルオキシ基(R-CO-O)、炭素数1から8のアルキルアミノカルボニル基(R-NH-CO-)、および、炭素数1から8のアルキルカルボニルアミノ基(R-CO-NH-)のいずれかである。なお、R11乃至R19は特には水素原子であることが好ましい。*は構造式2のBの位置を示す。なお、*は構造式2における-O-B-O-のBに結合する結合手を表わす、と言い換えることもできる。*の意味について、以下も同様である。
【0024】
本実施形態の高分子色素の製造方法の例として、ポリビニルアルコール(PVAと表すこともできる)あるいは、ブチラール樹脂等の樹脂と下記の1-1から1-29に例示するような、ボロン酸を有する染料を混合し結合させる方法が挙げられる。この方法により、ボロン酸エステル結合により染料が結合した高分子を得られる。
【0025】
原料となるポリビニルアルコール等については、その重量平均分子量およびケン化度は特に問わないが、ケン化度に関しては65mol%以上が好ましく、さらに好ましくは70mol%以上である。ここで、ケン化度とは、ポリ酢酸ビニルをケン化してポリビニルアルコールを得る際の、ケン化反応によって生じた水酸基のモル数の割合であり、JIS-K6726の方法で測定した値を用いるものとする。ケン化度が低い場合、得られる構造式1の量が少ないため、発色性が低下しやすい。また、ケン化度が低い場合、得られる構造式2の量も少なくなるため、高分子色素の溶解がおきやすい。重量平均分子量に関しては5000以上186000以下であることが好ましく、9000以上124000以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量が小さい場合、高分子色素の水溶性が高いため、基材と疎水性相互作用しにくく、高分子色素が基材に結合しにくい。重量平均分子量が大きい場合、高分子色素の水溶性が低いため、過酸化水素存在下において基材からの高分子色素の剥離がおきにくく、基材上の色変化にばらつきが生じ、検出精度が低下しやすい。
【0026】
本実施形態の高分子色素の製造方法に用いられるボロン酸を有する染料の具体例を以下に示すが、下記構造に限定されるものではない。
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
ボロン酸を有する染料を用いる量は、Dyeの分子吸光係数や、使用するポリビニルアルコールまたは、高分子色素の塗布面積に応じて適宜調整することができる。目視による観察または反射濃度計や蛍光分光濃度計などの測定器によって、基材上の高分子色素の色強度または蛍光強度の信号が判別または、測定できる量であればよい。
【0027】
本実施形態の高分子色素の製造方法においては、さらには、ボロン酸を有する炭化水素鎖または芳香族分子からなるカップリング剤を用いて、高分子の側鎖の一部をカップリングして、高分子色素とすることができる。カップリング剤について、下記に2-1から2-32として例示される。
【0028】
本実施形態の高分子色素を、本発明の第三の実施形態である過酸化水素検出用構造体に用いる場合、基材に高分子色素を結合させるためには、基材と疎水性相互作用しやすい高分子色素として、疎水性の高い高分子色素を用いることが好ましい。具体的には、構造式2中のRが、分配係数(ClogP値)が2以上である、炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基であることが好ましい。ここで、ClogP値は、分子の疎水性の指標であり、分子の疎水性が高いほど、ClogP値が高い値となる。
【0029】
また、ホウ素原子に結合する、炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基のClogP値が2以上であるカップリング剤を用いることが好ましい。ClogP値が2以上である、炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基は、ホウ酸エステル結合によってカップリングされている、あるいは酢酸エステル構造である、カップリング構造であることが好ましい。ClogP値が2以上の炭化水素鎖または、置換または無置換の芳香族基がカップリングされていることにより、高分子色素の疎水性が高くなり、基材に結合しやすくなるためである。カップリング剤を用いる量は、使用するカップリング剤のClogP値やポリビニルアルコールのケン化度に応じて適宜調整することができるが、ポリビニルアルコールの4mol%以上50mol%以下のモノマー比率に相当する量であることが好ましい。用いる量が少ない場合、高分子色素の疎水性が低くなり基材に結合しにくい。用いる量が多い場合、基材に結合した高分子色素の疎水性が高くなり、過酸化水素存在下において基材からの高分子色素の剥離がおきにくく発色性が変化しにくいからである。
【0030】
本実施形態におけるカップリング剤の具体例を以下に示すが、カップリング剤は下記構造に限定されるものではない。
【化40】
【化41】
高分子色素は、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。ブロック共重合体とは、構造式1に由来する複数のユニットが連なったブロックA、及び構造式2(構造式3)に由来する複数のユニットが連なったブロックBを形成し、複数のブロックが配列された構造を有する共重合体である。ランダム共重合体とは、構造式1、及び構造式2又は3に由来するユニットが不規則に配列した構造を有する共重合体である。ここで、ユニットとは、1つの構造式に対応する単位構造のことを意味する。
【0031】
本実施形態の高分子色素の具体的な製造例として、以下の方法が挙げられる。すなわち、ポリビニルアルコールなどの樹脂を水、緩衝溶液またはアルコール溶液に溶解し、その溶液にボロン酸基を有する染料を溶解させたアルコール溶液を添加し、乾燥する。続いて、ボロン酸基を有する炭化水素鎖または、芳香族分子を有するカップリング剤を溶解させたアルコール溶液を添加し、乾燥を行う。必要に応じて乾燥後に洗浄することで、本発明の高分子色素が形成される。なお、これらの手順は順序が入れ替わっても構わない。
【0032】
本発明の第一の実施形態である高分子色素、本発明の第二の実施形態である過酸化水素検出用高分子色素、あるいは、本発明の第三の実施形態である過酸化水素検出用構造体による過酸化水素検出の機構については、例えば、非特許文献4に記載されている。すなわちボロン酸エステルのホウ素部分に過酸化水素が結合することを開始反応とし、炭素-ホウ素結合の分解が起きる。本発明の各実施形態に係る高分子色素、過酸化水素検出用高分子色素、あるいは過酸化水素検出用構造体は、過酸化水素によって高分子色素からDyeまたはカップリング剤が遊離する。過酸化水素の量が少ない場合、高分子色素から遊離するDyeの量は少ない。一方で、過酸化水素の量が多い場合、高分子色素から遊離するDyeの量は多くなる。すなわち、遊離するDyeの量を検出することで過酸化水素の量を見積もることができる。
【0033】
したがって、本各実施形態に係る高分子色素の過酸化水素を検出する機構は、従来の、過酸化水素の存在下で検出可能な色変化(吸収や発光)を示すといったものと、検出機構が異なり、pHの変動や夾雑物の影響といった、環境の変動を受けにくい。
【0034】
また、本発明は第三の実施形態として、基材と、高分子色素を含有することを特徴とする、過酸化水素検出用構造体を提供する。基材とは固体の材料を意味し、過酸化水素に対する反応性が低ければ特に材質を選ばない。粘着性の接着層を有するか、セルロースまたはμファイバー等を用いた紙、フェルト、編み物、不織布、または多孔質材料、ろ紙等が望ましく、入手の容易性の点においては紙材料が好ましい。
【0035】
本発明の第三の実施形態である過酸化水素検出用構造体による過酸化水素検出については、過酸化水素によって基材との結合に寄与していたカップリング剤が遊離するため、基材に結合していた高分子色素が基材から剥離するようになる。過酸化水素の量が少ない場合、基材上には多くの高分子色素が残存する。一方で、過酸化水素の量が多い場合、基材上に残存する高分子色素の量は少ない。すなわち、基材上に残存する高分子色素の量を検出することによって過酸化水素の量を見積もることができる。
【0036】
本実施形態の過酸化水素検出用構造体の一例を図1に示す。図1において、過酸化水素検出用構造体1は、高分子色素2および基材3を含む。必要に応じ、過酸化水素検出用構造体1は支持体4などを含んでもよい。これにより、ペーパークロマトグラフィーのように、基材に結合している高分子色素と、遊離したDyeおよび基材から剥離した高分子色素を分離することができる。過酸化水素存在下においては、高分子色素からのDyeの遊離および基材からの高分子色素の剥離がおきる。5は遊離したDyeおよび剥離した高分子色素を示す。Dyeの遊離による、高分子色素2および基材3の色変化(脱色する、色が薄くなる等)、あるいは、移動した遊離Dye5の移動を観察することにより、過酸化水素の存在を確認することができる。
【0037】
なお、図1に示す例は一例に過ぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
また、過酸化水素検出用構造体1を過酸化水素が含まれる溶液に浸透させてもよい。過酸化水素によって漏出したDyeおよび剥離した高分子色素は溶液に溶解する。溶液中に溶解した、漏出したDyeおよび剥離した高分子色素の発色量、あるいは基材上の高分子色素に残存する高分子色素の色変化を観察することによっても、過酸化水素の存在を確認することができる。ここで、発色量とは、色強度または蛍光強度の信号強度のことを指す。
【0038】
本実施形態の過酸化水素検出用構造体の第一の製造方法として、以下を挙げることができる。構造式1で表される繰り返し単位を少なくとも1以上有し、加えて、構造式3または構造式4で表される繰り返し単位のいずれかを有する高分子色素を基材に塗布する色素塗布工程、前記高分子色素を塗布した基材に構造式5で示されるカップリング剤を含有する塗料を塗布するカップリング工程、を有する、製造方法を挙げることができる。構造式5におけるR1は、構造式2におけるR1と同様である。
【化42】
【化43】
【化44】
【化45】
【0039】
この製造方法の具体的な例として以下の方法が挙げられる。すなわち、ポリビニルアルコールに、ボロン酸基を有する染料を溶解させたアルコール溶液を添加し乾燥させて得られる高分子色素前駆体の溶液を基材に塗布したのち、ボロン酸基を有する炭化水素鎖または、芳香族分子を溶解させたアルコール溶液を感知領域に塗布する。
【0040】
ボロン酸基を有する炭化水素鎖または、芳香族分子が、ポリビニルアルコールに結合し、ポリビニルアルコールの疎水性が上がることで、基材に高分子色素が結合する。
【0041】
また、本実施形態における過酸化水素検出用構造体の第二の製造方法として、以下を挙げることができる。基材にケン化度が65mol%以上のポリビニルアルコールまたはブチラール樹脂等の樹脂を塗布し、乾燥を行う樹脂層塗布工程、前記ポリビニルアルコールまたはブチラール樹脂を塗布、乾燥した基材に、構造式6に記載のボロン酸含有色素を塗布、乾燥を行う色素塗布工程、および前記構造式6に記載のボロン酸含有色素を塗布、乾燥した基材に構造式5のカップリング剤を塗布、乾燥を行うカップリング工程、を有する過酸化水素検出用構造体の製造方法を挙げることができる。構造式5におけるRは、構造式2におけるRと同様であり、構造式6におけるDyeは、構造式1におけるDyeと同様である。
【化46】
【化47】
【0042】
高分子色素の染料含有率を上げるためには、この製造方法のように、基材上で高分子色素を製造することは好ましい。
【0043】
この製造方法の具体的な例としては以下の方法を挙げられる。すなわち、ポリビニルアルコールあるいはブチラール樹脂を水や緩衝溶液に溶解し、その溶液を基材上の感知領域に塗布する。乾燥させたのち、ボロン酸基を有する染料を溶解させたアルコール溶液をその感知領域に塗布し、乾燥する。続いて、ボロン酸基を有する炭化水素鎖または、芳香族分子を溶解させたアルコール溶液を感知領域に塗布し、乾燥を行う。必要に応じて洗浄することで、目的とする過酸化水素検出用構造体が形成される。
【0044】
本発明の実施形態における過酸化水素検出用構造体を用いる方法としては、容器内で過酸化水素を発生する酵素を添加した生体サンプルに、デバイスの感知領域が接触できるように浸してもよく、ペーパークロマトグラフのように毛細管現象を利用して基材上で生体サンプルを展開し感知領域に接触させてもよい。基材上に酵素をあらかじめ塗布してもよい。
【0045】
前記方法によって、生体サンプルを過酸化水素検出装置上の感知領域部分に接触させて一定時間経過後における感知領域部分の色強度または蛍光強度の信号強度の変化量を目視による観察または反射濃度計や蛍光分光濃度計などの測定器を用いて測定することにより、検出対象物の量を判定することができる。
【0046】
検出対象物が少ない場合、感知領域部分の変化量は小さい。検出対象物が多い場合、感知領域部分の変化量は大きい。感知領域の発色強度や、紫外線ランプを用いた紫外線の照射によって感知領域の蛍光強度によって、変化量を評価してもよい。
【0047】
さらに本発明の第四の実施形態として、第一の実施形態である高分子色素と、基材と、さらに、検出対象とする代謝物を基質として過酸化水素を発生する酵素を含有する過酸化水素検出用構造体を提供する。酵素反応の生成物である過酸化水素を検出することで、検出対象物の量を判定することが可能である。なお、検出対象を酵素にすることも可能である。すなわち、検出したい酵素の基質を含有することで、酵素を検出することができる。
【0048】
本発明の実施形態に用いられる酵素として、グルコースオキシダーゼ(glucose oxidase)、ヘキソースオキシダーゼ(hexose oxidase)、コレステロールオキシダーゼ(cholesterol oxidase)、アリールアルコールオキシダーゼ(aryl-alcohol oxidase)、L-グロノラクトンオキシダーゼ(L-gulonolactone oxidase)、ガラクトースオキシダーゼ(galactose oxidase)、ピラノースオキシダーゼ(pyranose oxidase)、L-ソルボースオキシダーゼ(L-sorbose oxidase)、ピリドキシン4-オキシダーゼ(pyridoxine 4-oxidase)、アルコールオキシダーゼ(alcohol oxidase)、カテコールオキシダーゼ(catechol oxidase)、(S)-2-ヒドロキシ酸オキシダーゼ((S)-2-hydroxy-acid oxidase)、エクジソンオキシダーゼ(ecdysone oxidase)、コリンオキシダーゼ(choline oxidase)、第二級アルコールオキシダーゼ(secondary-alcohol oxidase)、4-ヒドロキシマンデル酸オキシダーゼ(4-hydroxymandelate oxidase)、長鎖アルコールオキシダーゼ(long-chain-alcohol oxidase)、グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ(glycerol-3-phosphate oxidase)、チアミンオキシダーゼ(thiamin oxidase)、ヒドロキシフィタン酸オキシダーゼ(hydroxyphytanate oxidase)、ヌクレオシドオキシダーゼ(nucleoside oxidase)、N-アシルヘキサソミンオキシダーゼ(N-acylhexosamine oxidase)、ポリビニルアルコールオキシダーゼ(polyvinyl-alcohol oxidase)、D-アラビノノ-1,4-ラクトンオキシダーゼ(D-arabinono-1,4-lactone oxidase)、バニリルアルコールオキシダーゼ(vanillyl-alcohol oxidase)、ヌクレオシドオキシダーゼ(H形成)(nucleoside oxidase (H2O2-forming))、D-マンニトールオキシダーゼ(D-mannitol oxidase)、アルジトールオキシダーゼ(alditol oxidase)、プロソラナピロン-IIオキシダーゼ(prosolanapyrone-II oxidase)、パロマミン6’-オキシダーゼ(paromamine 6'-oxidase)、6’’’-ヒドロキシネオマイシンCオキシダーゼ(6′′′-hydroxyneomycin C oxidase)、アクラシノマイシン-Nオキシダーゼ(aclacinomycin-N oxidase)、5-(ヒドロキシメチル)フルフラールオキシダーゼ(5-(hydroxymethyl)furfural oxidase)、3-デオキシ-α-D-マンノ-オクツロソン酸8-オキシダーゼ(3-deoxy-α-D-manno-octulosonate 8-oxidase)、(R)-マンデロニトリルオキシダーゼ((R)-mandelonitrile oxidase)、アルデヒドオキシダーゼ(aldehyde oxidase)、ピルビン酸オキシダーゼ(pyruvate oxidase)、シュウ酸オキシダーゼ(oxalate oxidase)、グリオキシル酸オキシダーゼ(glyoxylate oxidase)、インドール-3-アセトアルデヒドオキシダーゼ(indole-3-acetaldehyde oxidase)、ピリドキサールオキシダーゼ(pyridoxal oxidase)、アリールアルデヒドオキシダーゼ(aryl-aldehyde oxidase)、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸オキシダーゼ(4-hydroxyphenylpyruvate oxidase)、アブシシンアルデヒドオキシダーゼ(abscisic aldehyde oxidase)、(メチル)グリオキサールオキシダーゼ((methyl)glyoxal oxidase)、コプロポルフィリノーゲンオキシダーゼ(coproporphyrinogen oxidase)、プロトポルフィリノーゲンオキシダーゼ(protoporphyrinogen oxidase)、ビリルビンオキシダーゼ(bilirubin oxidase)、アシルCoAオキシダーゼ(acyl-CoA oxidase)、ジヒドロウラシルオキシダーゼ(dihydrouracil oxidase)、テトラヒドロベルベリンオキシダーゼ(tetrahydroberberine oxidase)、セコロガニンシンターゼ(secologanin synthase)、トリプトファンα,β-オキシダーゼ(tryptophan α,β-oxidase)、ピロロキノリンキノンシンターゼ(pyrroloquinoline-quinone synthase)、L-ガラクトノラクトンオキシダーゼ(L-galactonolactone oxidase)、アルボノウルシンシンターゼ(albonoursin synthase)、アクラシノマイシン-Aオキシダーゼ(aclacinomycin-A oxidase)、コプロポルフィリノーゲンIIIオキシダーゼ(コプロポルフィリン形成)(coproporphyrinogen III oxidase (coproporphyrin-forming))、D-アスパラギン酸オキシダーゼ(D-aspartate oxidase)、L-アミノ酸オキシダーゼ(L-amino-acid oxidase)、D-アミノ酸オキシダーゼ(D-amino-acid oxidase)、アミンオキシダーゼピロドキサール5’-リン酸シンターゼ(amine oxidase、pyridoxal 5'-phosphate synthase)、D-グルタミン酸オキシダーゼ(D-glutamate oxidase)、エタノールアミンオキシダーゼ(ethanolamine oxidase)、プトレシンオキシダーゼ(putrescine oxidase)、L-グルタミン酸オキシダーゼ(L-glutamate oxidase)、シクロヘキシルアミンオキシダーゼ(cyclohexylamine oxidase)、タンパク質-リジン6-オキシダーゼ(protein-lysine 6-oxidase)、L-リジンオキシダーゼ(L-lysine oxidase)、D-グルタミン酸(D-アスパラギン酸)オキシダーゼ(D-glutamate(D-aspartate) oxidase)、L-アスパラギン酸オキシダーゼ(L-aspartate oxidase)、グリシンオキシダーゼ(glycine oxidase)、L-リジン6-オキシダーゼ(L-lysine 6-oxidase)、第一級アミンオキシダーゼ(primary-amine oxidase)、ジアミンオキシダーゼ(diamine oxidase)、7-クロロ-L-トリプトファンオキシダーゼ(7-chloro-L-tryptophan oxidase)、プソイドオキシニコチンオキシダーゼ(pseudooxynicotine oxidase)、L-アルギニンオキシダーゼ(L-arginine oxidase)、サルコシンオキシダーゼ(sarcosine oxidase)、N-メチル-L-アミノ酸オキシダーゼ(N-methyl-L-amino-acid oxidase)、N-メチル-リジンオキシダーゼ(N6-methyl-lysine oxidase)、(S)-6-ヒドロキシニコチンオキシダーゼ((S)-6-hydroxynicotine oxidase)、(R)-6-ヒドロキシニコチンオキシダーゼ((R)-6-hydroxynicotine oxidase)、L-ピペコリン酸オキシダーゼ(L-pipecolate oxidase)、ジメチルグリシンオキシダーゼ(dimethylglycine oxidase)、ジヒドロベンゾフェナントリジンオキシダーゼ(dihydrobenzophenanthridine oxidase)、N-アセチルポリアミンオキシダーゼ(N1-acetylpolyamine oxidase)、ポリアミンオキシダーゼ(プロパン-1,3-ジアミン形成)(polyamine oxidase (propane-1,3-diamine-forming))、N-アセチルスペルミジンオキシダーゼ(プロパン-1,3-ジアミン形成)(N8-acetylspermidine oxidase (propane-1,3-diamine-forming))、スペルミンオキシダーゼ(spermine oxidase)、非特異的ポリアミンオキシダーゼ(non-specific polyamine oxidase)、L-サッカロピンオキシダーゼ(L-saccharopine oxidase)、4-メチルアミノブタン酸オキシダーゼ(ホルムアルデヒド形成)(4-methylaminobutanoate oxidase (formaldehyde-forming))、N-アルキルグリシンオキシダーゼ(N-alkylglycine oxidase)、4-メチルアミノブタン酸オキシダーゼ(メチルアミン形成)(4-methylaminobutanoate oxidase (methylamine-forming))、コエンザイムF420H2オキシダーゼ(coenzyme F420H2 oxidase)、グリホサートオキシドレダクターゼ(glyphosate oxidoreductase)、NAD(P)Hオキシダーゼ(H形成)NAD(P)H oxidase (H2O2-forming)、NAD(P)Hオキシダーゼ(HO形成)(NAD(P)H oxidase (H2O-forming))、NADHオキシダーゼ(H形成)(NADH oxidase (H2O2-forming))、NADHオキシダーゼ(HO形成)(NADH oxidase (H2O-forming))、レナラーゼ(renalase)、ニトロアルカンオキシダーゼ(nitroalkane oxidase)、アセチルインドキシルオキシダーゼ(acetylindoxyl oxidase)、因子非依存性尿酸ヒドロキシラーゼ(factor-independent urate hydroxylase)、3-aci-ニトロプロパン酸オキシダーゼ(3-aci-nitropropanoate oxidase)、ヒドロキシルアミンオキシダーゼ(シトクロム)(hydroxylamine oxidase (cytochrome))、亜硫酸オキシダーゼ(sulfite oxidase)、チオールオキシダーゼ(thiol oxidase)、グルタチオンオキシダーゼ(glutathione oxidase)、メタンチオールオキシダーゼ(methanethiol oxidase)、プレニルシステインオキシダーゼ(prenylcysteine oxidase)、ファルネシルシステインリアーゼ(farnesylcysteine lyase)、シトクロム-cオキシダーゼ(cytochrome-c oxidase)、ラッカーゼ(laccase)、L-アスコルビン酸オキシダーゼ(L-ascorbate oxidase)、o-アミノフェノールオキシダーゼ(o-aminophenol oxidase)、3-ヒドロキシアントラニル酸オキシダーゼ(3-hydroxyanthranilate oxidase)、リファマイシン-Bオキシダーゼ(rifamycin-B oxidase)、フォトシステムII(photosystem II)、ユビキノールオキシダーゼ(H輸送)(ubiquinol oxidase (H+-transporting))、ユビキノールオキシダーゼ(電位不形成型)(ubiquinol oxidase (non-electrogenic))、メナキノールオキシダーゼ(H輸送)(menaquinol oxidase (H+-transporting))、カルダリエラキノールオキシダーゼ(H輸送)(caldariellaquinol oxidase (H+-transporting))、ユビキノールオキシダーゼ(電位形成型、非H輸送)(ubiquinol oxidase (electrogenic, non H+-transporting))、グリキサゾンシンターゼ(grixazone synthase)、ジヒドロフェナジンジカルボン酸シンターゼ(dihydrophenazinedicarboxylate synthase)、フェロキシダーゼ(ferroxidase)、細菌性非ヘムフェリチン(bacterial non-heme ferritin)、プテリジンオキシダーゼ(pteridine oxidase)、キサンチンオキシダーゼ(xanthine oxidase)、6-ヒドロキシニコチン酸デヒドロゲナーゼ(6-hydroxynicotinate dehydrogenase)、ジュグロン3-ヒドロキシラーゼ(juglone 3-hydroxylase)、イソペニシリン-Nシンターゼ(isopenicillin-N synthase)、コルンバミンオキシダーゼ(columbamine oxidase)、レチクリンオキシダーゼ(reticuline oxidase)、スロクリンオキシダーゼ[(+)-ビスデクロロゲオジン形成]sulochrin oxidase [(+)-bisdechlorogeodin-forming]、スロクリンオキシダーゼ[(-)-ビスデクロロゲオジン形成](sulochrin oxidase [(-)-bisdechlorogeodin-forming])、オーロイシジンシンターゼ(aureusidin synthase)、テトラヒドロカンナビノール酸シンターゼ(tetrahydrocannabinolic acid synthase)、カンナビジオール酸シンターゼ(cannabidiolic acid synthase)、スーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase)、スーパーオキシドレダクターゼ(superoxide reductase)、NADHペルオキシダーゼ(NADH peroxidase)、NADPHペルオキシダーゼ(NADPH peroxidase)、脂肪酸ペルオキシダーゼ(fatty-acid peroxidase)、シトクロム-cペルオキシダーゼ(cytochrome-c peroxidase)、カタラーゼ(catalase)、ペルオキシダーゼ(peroxidase)、ヨージドペルオキシダーゼ(iodide peroxidase)、グルタチオンペルオキシダーゼ(glutathione peroxidase)、クロリドペルオキシダーゼ(chloride peroxidase)、L-アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(L-ascorbate peroxidase)、リン脂質-ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ(phospholipid-hydroperoxide glutathione peroxidase)、マンガンペルオキシダーゼ(manganese peroxidase)、リグニンペルオキシダーゼ(lignin peroxidase)、ペルオキシレドキシン(peroxiredoxin)、万能ペルオキシダーゼ(versatile peroxidase)、グルタチオンアミド依存性ペルオキシダーゼ(glutathione amide-dependent peroxidase)、ブロミドペルオキシダーゼ(bromide peroxidase)、
色素脱色型ペルオキシダーゼ(dye decolorizing peroxidase)(Dye decolorizing peroxidase)、プロスタミド/プロスタグランジンF2αシンターゼ(prostamide/prostaglandin F2α synthase)、カタラーゼ-ペルオキシダーゼ(catalase-peroxidase)、ヒドロペルオキシ脂肪酸レダクターゼ(hydroperoxy fatty acid reductase)、(S)-2-ヒドロキシプロピルホスホン酸エポキシダーゼ((S)-2-hydroxypropylphosphonic acid epoxidase)、フルクトシル-アミノ酸オキシダーゼ(Fructosyl-amino Acid Oxidase)、乳酸オキシダーゼ(Lactate Oxidase)、L-アルギニンオキシダーゼ(L -arginine oxidase)、L-ヒスチジンオキシダーゼ(L- histidine oxidase)、L-システインオキシダーゼ(L- cysteine oxidase)が挙げられるが本発明に併用可能な酵素は上記酵素に限定されるものではない。
【0049】
本実施形態における検出対象物は、生体の疾病、体調、生体にかかっているストレスの程度などに関わるバイオマーカーを挙げることができる。例えば、グルコース、尿酸、コレステロール、クレアチニン等が挙げられるが本発明の実施形態に係る検出対象物は上記物質に限定されるものではない。検出対象物は尿、血液、汗、涙等に含まれるものであることが好ましい。
【0050】
本発明の実施形態における生体サンプルは、尿、血液、汗、涙、粘液およびこれらをもとにする、液体状の試料、または含有する水の量を増減させた希釈、濃縮液などが該当する。これらの試料に含まれていると考えられる検出対象物に対して、酵素および過酸化水素検知装置に生体サンプルを接触させることにより、生体サンプル中の検出対象となる代謝物の量や濃度を測ることができる。
【0051】
本実施形態に係る過酸化水素検出用構造体を用いれば、生体サンプル中の過酸化水素または代謝物の検出キットを提供することができる。そのような検出キットは、少なくとも高分子色素が基材に固定されていればよく、高分子色素が支持体上の基材に固定されていてもよい。過酸化水素を含んでいると思われる生体サンプルを構造体に直接滴下することで過酸化水素の量や濃度を測ることができる。また、生体サンプルに構造体を浸透させるための別体の容器を設けてもよい。別体の容器を設けることで、生体サンプルを構造体に対して均一に浸透させることができる。酵素及び酵素の水溶液を別体の容器内に予め内包していてもよい。その容器内に生体サンプルを添加すると同時に構造体を浸透させることもできる。また、その容器内に生体サンプルを添加し一定時間経過させて過酸化水素を発生させた後に、構造体を浸透させることもできる。
【0052】
検出キットは、過酸化水素または代謝物の、量または濃度に応じた構造体の色(蛍光)変化をみるための、色相、明度や彩度を表した色見本を備えていてもよい。紙やプラスチック板などの別体に印刷されたものでもよい。構造体の変化後の色と色見本との比較を目視で行うことによって、生体サンプルに含まれる過酸化水素や代謝物の量または濃度を半定量的に判定することもできる。
【実施例
【0053】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0054】
<染料の同定>
下記で合成した染料は、下記の分析手法により同定を行った。
Maldi-TOF質量分析:Maldi-TOF MS(autoflex;Bruker Daltonics製)および
LC/MS質量分析:LC(Agilent 1200 series;Agilent Technologies製)、MS(LTQ-Orbitrap XL(FT-MS);Thermo Fisher Scientific製)。なお、LC/MS質量分析でのイオン化法としては、大気圧化学イオン化法(APCI)を利用した。
【0055】
(製造例1)ボロン酸系染料1-4の合成
N,N-ジメチルホルムアミド5mLに、フルオレセインイソチオシアネート,アイソマーI(シグマアルドリッチ製)50mg、3-アミノフェニルボロン酸一水和物13mgとトリエチルアミン1mLを加え、一晩室温で撹拌した。溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し橙色固体を得た。得られた染料が目的とする構造を持つことを、Maldi-TOF質量分析で確認した。Maldi-TOF質量分析の結果は以下のとおりであった。m/z=527.25[M+H]
【0056】
(製造例2)ボロン酸系染料1-9の合成
N,N-ジメチルホルムアミド3mLに、ローダミンBイソチオシアネート(シグマアルドリッチ製)10mg、3-アミノフェニルボロン酸一水和物2.5mgとトリエチルアミン0.5mLを加え、一晩室温で撹拌した。溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し赤色固体を得た。得られた染料が目的とする構造を持つことを、Maldi-TOF質量分析で確認した。Maldi-TOF質量分析の結果は以下のとおりであった。m/z=637.60[M+H]
【0057】
(製造例3)ボロン酸系染料1-11の合成
N,N-ジメチルホルムアミド1mLに、5-カルボキシ-X-ローダミン N-スクシンイミジルエステル(シグマアルドリッチ製)2mg、10mM3-アミノフェニルボロン酸一水和物のN,N-ジメチルホルムアミド溶液0.32mLとトリエチルアミン0.1mLを加え、一晩室温で撹拌し溶媒を留去し赤色固体を得た。得られた染料が目的とする構造を持つことを、Maldi-TOF質量分析で確認した。Maldi-TOF質量分析の結果は以下のとおりであった。m/z=654.56[M+H]
【0058】
(製造例4)ボロン酸系染料1-22の合成
N,N-ジメチルホルムアミド5mLに、Chemistry-An Asian Journal 2008,3(7),pp1134-1139を参照して合成した化合物(A)10mg、ローダミンBイソチオシアネート(シグマアルドリッチ製)20mgとトリエチルアミン1mLを加え、一晩室温で撹拌し溶媒を留去し赤色固体を得た。得られた染料が目的とする構造を持つことを、Maldi-TOF質量分析で確認した。Maldi-TOF質量分析の結果は以下のとおりであった。m/z=708.67[M+H]
【化48】
【0059】
(製造例5)ボロン酸系染料1-25の合成
N,N-ジメチルホルムアミド0.1mLに、Cy5.5モノNHSエステル(GEヘルスケア製)90nmol、1mM3-アミノフェニルボロン酸一水和物水溶液90μLとトリエチルアミン0.1mLを加え、一晩室温で撹拌し溶媒を留去し青色固体を得た。得られた染料が目的とする構造を持つことを、LC/MS質量分析で確認した。LC/MS質量分析の結果は以下のとおりであった。m/z=1037.33[M+H]
【0060】
(製造例6)ボロン酸系染料1-28の合成
(化合物(C)の合成)
N,N-ジメチルホルムアミド20mLに、Proc Natl Acad Sci USA 2016,113(15),ppE2104-E2113を参照して合成した化合物(B)126mg、6-(1-ピペラジニル)ピリジン-3-ボロン酸ピナコールエステル(シグマアルドリッチ製)100mg、水溶性カルボジイミド207mg、HBTU120mgとトリエチルアミン1mLを加え、一晩室温で撹拌した。溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し白色固体を得た。
【0061】
(化合物(D)の合成)
テトラヒドロフラン6mLに、化合物(C)37mg、過ヨウ素酸ナトリウム75mgと2N塩酸0.5mLを加え、一晩室温で撹拌し溶媒を留去した。得られた固体にイソプロパノールを添加した後、溶液をろ過した。得られたろ液の溶媒を留去し、トリフルオロ酢酸1mLとメタノール1mLを添加し一晩室温で撹拌した。溶媒を留去し白色固体を得た。
【0062】
(ボロン酸系染料1-28の合成)
N,N-ジメチルホルムアミド2mLに、化合物(D)10mg、ローダミンBイソチオシアネート(シグマアルドリッチ製)12mg、トリエチルアミン0.2mLを加え、一晩室温で撹拌した。溶媒を留去した後、クロロホルム20mLと硫酸マグネシウムを添加した。溶液をろ過し、ろ紙上の固体をクロロホルムで洗浄した。その固体にメタノールを添加した後、溶液をろ過した。得られたろ液の溶媒を留去し、エタノールとイソプロパノールを添加した後、再度溶液をろ過した。得られたろ液の溶媒を留去し赤色固体を得た。得られた染料が目的とする構造を持つことを、Maldi-TOF質量分析で確認した。Maldi-TOF質量分析の結果は以下のとおりであった。m/z=849.44[M+H]
【化49】
【0063】
(製造例7)カップリング剤2-26の合成
N,N-ジメチルホルムアミド30mLに、3-アミノフェニルボロン酸一水和物2.8gとトリエチルアミン5mLを加えた後、ヘキサノイルクロリド2.1mgを含むN,N-ジメチルホルムアミド溶液20mLを滴下し、一晩室温で撹拌した。溶媒を留去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し白色固体を得た。得られた染料が目的とする構造を持つことを、Maldi-TOF質量分析で確認した。Maldi-TOF質量分析の結果は以下のとおりであった。m/z=236.10[M+H]
【0064】
(サンプル紙1の作製)
ケン化度86-90mol%ポリビニルアルコール(VP-18:日本酢ビポバール製)水溶液(10mg/mL,1μL)を4mm×30mmの濾紙(Advantec製、No.5B)に塗布し、乾燥させた。ここで、ケン化度は、JIS-K6726の方法で測定した値である。次いで、塗布した箇所にボロン酸系染料1-22のメタノール溶液(0.3mM,1μL)を添加し乾燥させた。続いて、その箇所にカップリング剤である化合物2-26のメタノール溶液(20mM,1μL)を塗布したのち乾燥させて、メタノールで洗浄してサンプル紙1を得た。
【0065】
(サンプル紙2の作製)
ボロン酸系染料を1-4に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙2を作製した。
【0066】
(サンプル紙3の作製)
ボロン酸系染料を1-9に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙3を作製した。
【0067】
(サンプル紙4の作製)
ボロン酸系染料を1-11に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙4を作製した。
【0068】
(サンプル紙5の作製)
ボロン酸系染料を1-25に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙5を作製した。
【0069】
(サンプル紙6の作製)
ボロン酸系染料を1-28に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙6を作製した。
【0070】
(サンプル紙7の作製)
カップリング剤を化合物2-7(東京化成工業製)に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙7を作製した。
【0071】
(サンプル紙8の作製)
カップリング剤を化合物2-8(東京化成工業製)に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙8を作製した。
【0072】
(サンプル紙9の作製)
カップリング剤を化合物2-14(東京化成工業製)に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙9を作製した。
【0073】
(サンプル紙10の作製)
ポリビニルアルコールをケン化度98-99mol%ポリビニルアルコール(VF-17:日本酢ビポバール製)に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙10を作製した。
【0074】
(サンプル紙11の作製)
ポリビニルアルコールをケン化度95-97mol%ポリビニルアルコール(VM-17:日本酢ビポバール製)に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙11を作製した。
【0075】
(サンプル紙12の作製)
ポリビニルアルコールをケン化度70-74mol%ポリビニルアルコール(JR-05:日本酢ビポバール製)に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙12を作製した。
【0076】
(サンプル紙13の作製)
ポリビニルアルコールをケン化度65mol%ポリビニルアルコール(JMR-10M:日本酢ビポバール製)に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙13を作製した。
【0077】
(サンプル紙14の作製)
ポリビニルアルコールをケン化度35mol%ポリビニルアルコール(JMR-20L:日本酢ビポバール製)に代えて、サンプル紙1の作製と同等の方法で、サンプル紙14を作製した。
【0078】
(サンプル紙15の作製)
ケン化度86-90mol%ポリビニルアルコール(VP-18)水溶液(10mg/mL,1μL)を4mm×30mmの濾紙(Advantec製、No.5B)に塗布し、乾燥させた。次いで、塗布した箇所にボロン酸系染料1-22のメタノール溶液(0.3mM,1μL)を添加し乾燥させて、メタノールで洗浄してサンプル紙15を得た。
【0079】
(サンプル紙16の作製)
ポリビニルアルコールをケン化度70-74mol%ポリビニルアルコール(JR-05:日本酢ビポバール製)に代えて、サンプル紙15の作製と同等の方法で、サンプル紙16を作製した。
【0080】
(サンプル紙17の作製)
ポリビニルアルコールをケン化度65mol%ポリビニルアルコール(JMR-10M:日本酢ビポバール製)に代えて、サンプル紙15の作製と同等の方法で、サンプル紙17を作製した。
【0081】
(サンプル紙18の作製)
ポリビニルアルコールをケン化度35mol%ポリビニルアルコール(JMR-20L:日本酢ビポバール製)に代えて、サンプル紙15の作製と同等の方法で、サンプル紙18を作製した。
【0082】
[実施例1]
サンプル紙1を、5mM過酸化水素および10%(v/v)ウシ胎児血清を含む1×リン酸緩衝生理食塩水(200μL)に室温で120分浸透させることで評価した。反射濃度計RD-19(Gretag Macbeth製)にて、評価前後でのサンプル紙1の光学濃度(Optical Density、以下OD値)を測定した。評価前のサンプル紙のOD値をOD1、評価後のサンプル紙のOD値をOD2とした。(OD1-OD2)/OD1の式から評価前後での光学濃度の変化割合を求めた。サンプル紙1を3個作製し同様に評価を各々行い、変化割合の平均値(ΔOD)を算出した。新たに作成したサンプル紙1を用いて、同様の方法で、過酸化水素濃度を0mMに変えてサンプル紙1の光学濃度の変化割合の平均値(ΔOD0)を算出した。過酸化水素有無での光学濃度の変化割合の差(ΔOD―ΔOD0)を算出した。算出した値は、表1に記載する。
【0083】
[実施例2]
サンプル紙をサンプル紙2に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0084】
[実施例3]
サンプル紙をサンプル紙3に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0085】
[実施例4]
サンプル紙をサンプル紙4に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0086】
[実施例5]
サンプル紙をサンプル紙5に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0087】
[実施例6]
サンプル紙をサンプル紙6に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0088】
[実施例7]
サンプル紙をサンプル紙7に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0089】
[実施例8]
サンプル紙をサンプル紙8に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0090】
[実施例9]
サンプル紙をサンプル紙9に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0091】
[実施例10]
サンプル紙をサンプル紙10に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0092】
[実施例11]
サンプル紙をサンプル紙11に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0093】
[実施例12]
サンプル紙をサンプル紙12に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0094】
[実施例13]
サンプル紙をサンプル紙13に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0095】
[実施例14]
浸透時間を30分に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0096】
[実施例15]
サンプル紙をサンプル紙6に代えて、実施例14と同等の方法で実施した。
【0097】
[比較例1]
サンプル紙をサンプル紙14に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0098】
[比較例2]
サンプル紙をサンプル紙15に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0099】
[比較例3]
サンプル紙をサンプル紙16に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0100】
[比較例4]
サンプル紙をサンプル紙17に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0101】
[比較例5]
サンプル紙をサンプル紙18に代えて、実施例1と同等の方法で実施した。
【0102】
[感度]
評価としては、本発明の実施例においては下記の基準とし、A~Cまでを許容レベル、Dを許容できないレベルとした。ΔOD―ΔOD0が大きいほど、過酸化水素を選択的かつ高感度に検出していることを示す。
A:ΔOD―ΔOD0が0.3以上
B:ΔOD―ΔOD0が0.2以上0.3未満
C:ΔOD―ΔOD0が0.1以上0.2未満
D:ΔOD―ΔOD0が0.1未満
【0103】
各実施例及び比較例におけるサンプル紙の光学濃度の変化割合の平均値ΔODとΔOD0、過酸化水素有無での光学濃度の変化割合の差ΔOD―ΔOD0および評価結果を表1に記載する。
【0104】
【表1】
図1