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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法及び診断システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20231225BHJP
   G01N 29/11 20060101ALI20231225BHJP
   G01M 13/00 20190101ALI20231225BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01N29/11
G01M13/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019110442
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2020201220
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原口 智
(72)【発明者】
【氏名】角本 雄一
(72)【発明者】
【氏名】村上 和也
(72)【発明者】
【氏名】今村 武
(72)【発明者】
【氏名】田中 翔
(72)【発明者】
【氏名】松野 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】赤地 諭
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0138918(US,A1)
【文献】特開2007-010373(JP,A)
【文献】特開昭64-013433(JP,A)
【文献】特開平03-068834(JP,A)
【文献】特開2012-058046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045,99/00
G01N 29/00-29/52
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相交流を負荷に供給する複数の導体に与えられた振動が所定の締結部材によって前記導体と締結された他の導体に伝達した後の前記振動に関する振動情報を、前記導体と前記他の導体との複数の組み合わせについて取得する取得部と、
取得された複数の前記振動情報が、前記締結部材の異常に関する所定の条件を満たす場合に、前記締結部材に異常があると診断する診断部と、
を備え、
前記所定の条件は、前記複数の組み合わせのうち、いずれか1つの組み合わせにおける振動情報が他の組み合わせにおける振動情報と異なる振動の減衰率を有することである、診断装置。
【請求項2】
診断装置が、多相交流を負荷に供給する複数の導体に与えられた振動が所定の締結部材によって前記導体と締結された他の導体に伝達した後の前記振動に関する振動情報を、前記導体と前記他の導体との複数の組み合わせについて取得する取得ステップと、
診断装置が、取得された複数の前記振動情報が、前記締結部材の異常に関する所定の条件を満たす場合に、前記締結部材に異常があると診断する診断ステップと、
を有し、
前記所定の条件は、前記複数の組み合わせのうち、いずれか1つの組み合わせにおける振動情報が他の組み合わせにおける振動情報と異なる振動の減衰率を有することであする、診断方法。
【請求項3】
多相交流を負荷に供給する複数の導体に与えられた振動が所定の締結部材によって前記導体と締結された他の導体に伝達した後の前記振動に関する振動情報を、前記導体と前記他の導体との複数の組み合わせについて取得する取得部と、
取得された複数の前記振動情報が、前記締結部材の異常に関する所定の条件を満たす場合に、前記締結部材に異常があると診断する診断部と、
を備え、
前記所定の条件は、前記複数の組み合わせのうち、いずれか1つの組み合わせにおける振動情報が他の組み合わせにおける振動情報と異なる振動の減衰率を有することである、診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、診断装置、診断方法及び診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
受変電設備等の電力機器では、定期的な保守点検や状態監視等による予防保全が行われている。電力機器は、初期不良、経年劣化又は汚損等によって、局部的に過熱することがある。局部的に加熱した電力機器は、焼損や事故に至る。特に、通電部分の導体同士を締結する部分は、ボルト等の締結部材の緩みによって過熱する場合がある。そこで、保守作業者は、導体に振動を加えることで、締結部材の緩みを検知する。しかし、このような方法は、検知対象の正常状態の振動特性を予め取得しておく必要があった。このため、正常状態の振動特性を取得していない電力機器については、締結部材の緩み等の異常を検知できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5674935号公報
【文献】特許第4377765号公報
【文献】特許第3560830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、より簡単に電力機器の締結部材の異常を検知することができる診断装置、診断方法及び診断システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の診断装置は、取得部と、診断部とを持つ。取得部は、多相交流を負荷に供給する複数の導体に与えられた振動が所定の締結部材によって前記導体と締結された他の導体に伝達した後の前記振動に関する振動情報を前記導体毎に取得する。診断部は、取得された複数の前記振動情報が、前記締結部材の異常に関する所定の条件を満たす場合に、前記締結部材に異常があると診断する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の振動特性によって締結部材の緩みを検知するための機器構成の一具体例を示す図。
図2】実施形態の診断装置100を示す機能ブロック図。
図3】実施形態の導体締結部20の診断の処理の流れを示すフローチャート。
図4】実施形態の三相の導体のうち導体締結部20wに緩みが発生した場合の測定結果の一具体例を示す図。
図5】実施形態の振動計測機を2つ設置して締結部材の緩みを検知するための機器構成の一具体例を示す図。
図6】実施形態の振動の減衰率に基づいて診断を行う場合の測定結果の一具体例を示す図。
図7】実施形態の固有振動数に基づいて診断を行う場合の測定結果の一具体例を示す図。
図8】実施形態の複数の導体締結部を持つ機器構成の一具体例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の診断装置、診断方法及び診断システムを、図面を参照して説明する。
【0008】
図1は、実施形態の振動特性によって締結部材の緩みを検知するための機器構成の一具体例を示す図である。締結部材は、負荷に電力を供給する導体同士を締結する部材である。電力は産業用の電力機器によって供給される。産業用の電力機器は、遮断機、断路器、変流器又は変圧器等の機器(いずれも不図示)によって構成される。産業用の電力機器は、異常時には通電を遮断する機能を有する。産業用の電力機器は、接続された導体を介して負荷に電力を供給する。産業用の電力機器は、三相交流によって負荷に電力を供給する。負荷は、例えば工場設備やビル設備等である。三相交流では、電力機器は三相の電力を供給する。したがって、電力機器から負荷に向けて電力を供給するための導体は、三相存在する。三相の導体は、いずれも同じ機器構成である。実施形態では、三相をそれぞれ第一相、第二相及び第三相として説明する。なお、実施形態では三相交流であるとして説明するが、三相交流に限定されない。例えば、電力機器は、2相以上の電力を供給する多相交流であればどのような機器であってもよい。
【0009】
第一相では、電力機器(不図示)は、導体10uと導体11uとを通じて負荷(不図示)に電力を供給する。導体10u及び導体11uは、いずれも銅又はアルミ等の負荷に電力を供給できる素材である。導体10u及び導体11uは、樹脂等の絶縁体で覆われていてもよい。導体10uと導体11uとは、導体締結部20uで締結されている。導体10u及び導体11uは、端部に孔を有する。孔にはボルトやねじ等の締結部材が挿入される。
【0010】
導体締結部20uは、導体10uと導体11uとが締結される位置を表す。導体締結部20uには、締結部材21uが設けられる。締結部材21uは、導体10uと導体11uとに形成された孔に挿入及び締め付けされることで、導体10uと導体11uと締結する。締結部材21uは、例えばボルトやねじ等である。
【0011】
ここで、導体10uと導体11uとの締結部材21uの緩みに基づいた過熱現象の一例について説明する。締結部材21uは、既定の締め付けトルクで固定された場合、導体10uと導体11uとの接触抵抗を安定させる。接触抵抗は、数μオーム程度が望ましい。既定の締め付けトルクで導体10uと導体11uとが固定された場合、導体10uと導体11uとの間は、安定して電流が流れる。しかし、締結部材21uは、締め付け不良や固定後に与えられた振動等によって緩みが生じる。締結部材21uが緩むと、導体10uと導体11uとの接触圧力が低下する。接触圧力の低下によって、導体10uと導体11uとの接触点が減少する。このため、導体10uと導体11uとの間を流れる電流は、減少した接触点に集中する。減少した接触点に電流が集中することで、接触点に発熱が生じる。発熱は、導体10uと導体11uとの表面の酸化を進行させる。酸化が進行すると、接触抵抗が増加する。また、導体は、温度が高まると、導体軟化によって反り等の形状変化が起きる。導体10uと導体11uとの接触抵抗が数百μオームを超えた場合、電流は導体10uと導体11uとの間を流れずに締結部材21uに集中する。このため、締結部材21uは、過熱されて溶解する。
【0012】
本実施形態では、導体に振動を加えることで振動の特性を取得する。このため、導体締結部20uを挟む形で加振手段30u及び振動計測機40uが配置される。図1では、加振手段30uは導体10uに配置される。振動計測機40uは導体11uに配置される。加振手段30uは、導体10uに振動を加える。加振手段30uは、電導のアクチュエータを備えた励振器等の機器であってもよいし、ハンマー等の人手によって行われる手段であってもよい。導体10uに加えられた振動は、導体締結部20uを通過して、導体11uに伝達する。導体11uに伝達された振動は、振動計測機40uに到達する。
【0013】
振動計測機40uは、加振手段30uによって導体10uに与えられた振動特性を取得する。振動計測機40uは、圧電素子やひずみゲージ等の接触型の加速度を検知するセンサであってもよいし、静電容量や渦電流を計測する非接触型の変位センサであってもよい。振動計測機40uは、取得された振動特性を診断装置100に出力する。振動特性は、振動計測機40uの設置された導体の振動の特性を表す。振動特性は、加振手段30uによって与えられた振動によって生じた導体の振動の特性を表す。振動特性は、例えば振動の振幅の絶対値であってもよい。振動特性は、固有振動数であってもよい。振動特性は、振動情報の一具体例である。振動情報は、それぞれ異なる位相を持つ電流を負荷に供給する複数の導体に与えられた振動が所定の締結部材によって導体と締結された他の導体に伝達した後の振動に関する情報である。
【0014】
第一相において、導体10uに与えられた振動は、導体10u及び締結部材21uを伝達する際に減衰する。締結部材21uにおいて、緩み又は締結不良等の異常が発生している場合、導体10uと導体11uとを押し付ける接触圧力が低下する。したがって、導体10uから導体11uへの振動の伝達が阻害される。この場合、振動計測機40uは、伝達された振動が小さいことを示す振動特性を取得する。
【0015】
このような導体構成を三相交流のそれぞれの相に設置する。したがって、第二相は、導体10vと導体11vとが締結部材21vによって締結される。導体10vの端部には、加振手段30vが配置される。導体11vの端部には振動計測機40vが配置される。締結部材21vは、導体締結部20vに設けられる。導体締結部20vは、導体10vと導体11vとを締結する位置を表す。
【0016】
また、第三相は、導体10wと導体11wとが締結部材21wによって締結される。導体10wの端部には、加振手段30wが配置される。導体11wの端部には振動計測機40wが配置される。締結部材21wは、導体締結部20wに設けられる。導体締結部20wは、導体10wと導体11wとを締結する位置を表す。以下、いずれの導体、導体締結部、締結部材、加振手段及び振動計測機であるかを区別しないときは、単に導体10、導体11、導体締結部20、締結部材21、加振手段30及び振動計測機40と称して説明する。
【0017】
このように、第二相及び第三相についても、第一相と同等の構成を有する。したがって、締結部材21がいずれも正常(例えば、既定の締め付けトルクで固定されている)である場合、導体10及び導体11を伝わる振動特性は、いずれの相も同様の振動特性を有する。一方で、締結部材21に緩み等の異常がある相では、振動特性が変化する。このため、診断装置100は、3相の振動特性に基づいて締結部材21の異常を診断する。
【0018】
図2は、実施形態の診断装置100を示す機能ブロック図である。診断装置100は、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレットコンピュータ又はサーバ等の情報処理装置である。診断装置100は、導体締結部20に異常があるか否かの診断を行う。導体締結部20の異常とは、例えば締結部材21に緩みや、締め付け不良である。診断装置100は、導体締結部20の振動特性を取得する。診断装置100は、振動特性を解析することで得られるパラメータに基づいて、導体締結部20の異常を診断する。診断装置100は、診断プログラムを実行することによって通信部101、出力部102及び制御部103を備える装置として機能する。
【0019】
通信部101は、ネットワークインタフェースである。通信部101はネットワークを介して、外部の通信装置と通信する。通信部101は、例えば無線LAN(Local Area Network)、有線LAN、Bluetooth(登録商標)又はLTE(Long Term Evolution)(登録商標)等の通信方式で通信してもよい。
【0020】
出力部102は、診断装置100に接続された不図示の出力装置を介し、診断装置100のユーザに対してデータの出力を行う。出力装置は、例えば画像や文字を画面に出力する装置を用いて構成されても良い。例えば、出力装置は、CRT(Cathode Ray Tube)や液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等を用いて構成できる。また、出力装置は、画像や文字をシートに印刷(印字)する装置を用いて構成されても良い。例えば、出力装置は、インクジェットプリンタやレーザープリンタ等を用いて構成できる。また、出力装置は、文字を音声に変換して出力する装置を用いて構成されても良い。この場合、出力装置は、音声合成装置及び音声出力装置(スピーカー)を用いて構成できる。出力装置は、LED(Light Emitting Diode)等の発光装置を用いて構成されてもよい。出力部102は、診断装置100に設けられた通信装置を介して他の情報処理装置に対し判定結果を送信してもよい。ユーザは、例えば、電気機器の締結部材の点検を行う点検員であってもよい。
【0021】
制御部103は、診断装置100の各部の動作を制御する。制御部103は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ及びRAM(Random Access Memory)を備えた装置により実行される。制御部103は、診断プログラムを実行することによって診断情報生成部131及び診断部132として機能する。
【0022】
診断情報生成部131は、振動特性に基づいて診断情報を生成する。具体的には、診断情報生成部131は、振動計測機40u、振動計測機40v及び振動計測機40wからそれぞれ振動特性を取得する。診断情報生成部131は、取得された3つの振動特性に基づいて診断情報を生成する。診断情報は、導体締結部20に異常があるか否かの診断に用いられる情報である。診断情報は、振幅に基づいて得られる情報と時間とを対応付けた情報である。この情報は、第一相から第三相までの各相毎に生成される。
【0023】
診断情報生成部131は、例えば第一相から第三相までの各相毎に、振幅の絶対値と時間とを対応付けた情報を診断情報として生成してもよい。また、診断情報生成部131は、例えば加振手段30近傍で計測された振動の振幅と、振動計測機40によって取得された振動の振幅とに基づいて得られる、振動の減衰率を算出してもよい。この場合、診断情報生成部131は、第一相から第三相までの各相毎に、振動の減衰率と時間とを対応付けた情報を診断情報として生成してもよい。また、診断情報生成部131は、例えば第一相から第三相までの各相毎に、固有振動数と振幅とを対応付けた情報を診断情報として生成してもよい。診断情報生成部131は、取得部の位置具体例である。取得部は、振動情報を導体毎に取得する。
【0024】
診断部132は、診断情報に基づいて導体締結部20に異常があるか否かを診断する。具体的には、診断部132は、診断情報が有する第一相から第三相までの各相毎の、振幅に基づいて得られる情報と時間とを対応付けた情報とに基づいて導体締結部20を診断する。例えば、導体10と導体11とを締結している締結部材21が緩むと、導体間の振動の伝達が阻害される。したがって、ある相の導体締結部20において締結部材21の締め付け不良又は緩み等の異常が発生すると、異常を有する相では、振動の伝達が導体締結部20において減衰する。その結果、異常を有する相では、締結部材21が正常に締結されている相の振幅よりも、振幅が大きく減衰する。診断部132は、診断情報に基づいて、このような減衰に伴う振動特性の変化の有無を診断することで、いずれかの相にて発生した導体締結部20の異常を診断する。診断部132は、診断結果を出力部102に出力する。診断結果は、導体締結部20に異常があるか否かを示す情報を含む。導体締結部20に異常がある場合、診断結果はいずれの相に異常があるかを示す情報を含んでもよい。
また、診断部132は、診断結果を通信部101を介して外部の通信装置に送信してもよい。診断部132は、例えば電子メール、SMS(Short Message Service)又はメッセンジャー等の予め定められた通信手段を用いて診断結果を送信してもよい。この場合、診断部132は、通信手段及び診断結果の送信先を予め記憶されている。
【0025】
図3は、実施形態の導体締結部20の診断の処理の流れを示すフローチャートである。電気機器の診断は、所定のタイミングで行われる。所定のタイミングとは、電気機器の定期メンテナンスのタイミングであってもよいし、電気機器に異常が発生したタイミングであってもよい。まず、ユーザは導体11に振動計測機40が設置する(ステップS101)。具体的には、ユーザは、診断対象となる導体締結部20を診断可能な場所に振動計測機40を設置する。ユーザは、第一相から第三相までの各相毎に振動計測機40を設置する。ユーザは、診断対象となる導体締結部20の位置から同等の位置に各振動計測機40を設置する。加振手段30は、導体10に振動を与える(ステップS102)。具体的には、加振手段30は、振動計測機40の設置された場所から導体締結部20を挟む形で導体10に振動を与える。加振手段30は、電導のアクチュエータを備えた励振器等の機器であってもよいし、ハンマー等の人手によって行われる手段であってもよい。振動は、3相とも同じ加振手段30で与えられることが望ましい。
【0026】
振動計測機40は、加振手段30によって導体10に与えられた振動特性を取得する(ステップS103)。診断情報生成部131は、振動計測機40からそれぞれ振動特性を取得する。診断情報生成部131は、取得された3つの振動特性に基づいて診断情報を生成する(ステップS104)。
【0027】
診断部132は、診断情報に基づいて導体締結部20に異常があるか否かを診断する(ステップS105)。異常があると診断された場合(ステップS105:YES)、診断部132は、導体締結部20に異常があること示す診断結果を出力部102に出力する(ステップS106)。異常がないと診断された場合(ステップS105:NO)、診断部132は、導体締結部20に異常がないこと示す診断結果を出力部102に出力する(ステップS107)。
【0028】
図4は、実施形態の三相の導体のうち導体締結部20wに緩みが発生した場合の測定結果の一具体例を示す図である。このような測定結果は、例えば第一相から第三相までの各相毎に、振幅の絶対値と振幅の発生時間とを対応付けた診断情報の一態様である。図4では、縦軸は振幅の絶対値である。横軸は時間である。時間とは、振幅の発生時間である。加振手段30が導体10に振動を与える場合、3相とも一定の振幅で振動を与える。各相が同等の構成を有する場合、振動計測機40は、導体10及び導体11の締結状態が正常であればほぼ同等の振動特性を取得する。すなわち、振動特性は、同等の振幅の絶対値を示す。一方で、導体10及び導体11の締結状態に異常がある場合、振動計測機40は、他の相とは異なる振動特性を取得する。
【0029】
図4によると、第一相と第二相ではほぼ同等の振幅が計測されている。第三相では、第一相及び第二相よりも振幅が小さくなっている。診断部132は、第一相及び第二相における振幅の絶対値の差分を算出する。診断部132は、第二相及び第三相における振幅の絶対値の差分を算出する。診断部132は、第一相及び第三相における振幅の絶対値の差分を算出する。診断部132は、算出された3つの絶対値の差分間の差が所定の範囲内であるか否かを判定する。所定の範囲とは、導体締結部20が正常であると考えられる範囲の値である。所定の範囲は予め定められた値が用いられる。診断部132は、算出された3つの絶対値の差分間の差が所定の範囲内である場合、導体締結部20に正常であると診断する。診断部132は、算出された3つの絶対値の差分間の差が所定の範囲内でない場合、導体締結部20に異常があると診断する。この場合、診断部132は、各相のうち、振幅の絶対値がもっとも小さい相の導体締結部20に異常があると診断する。図4の場合、診断部132は、第三相の導体締結部20に異常があると診断する。このように導体締結部20に締め付け不良又は緩み等の異常がある相では、振幅の減衰が大きくなる。診断部132は、診断情報に基づいて、このような振幅の差異を検出することで異常の有無を診断する。
【0030】
図5は、実施形態の振動計測機を2つ設置して締結部材の緩みを検知するための機器構成の一具体例を示す図である。図5の機器構成において、第一相では、振動計測機41uが加振手段30uの近傍に配置される。より具体的には、振動計測機41uは、加振手段30uと同じ導体(例えば、導体10u)に配置される。振動計測機41uは、加振手段30uによって導体10uに与えられた振動特性を取得する。振動計測機41uは、圧電素子やひずみゲージ等の接触型の加速度を検知するセンサであってもよいし、静電容量や渦電流を計測する非接触型の変位センサであってもよい。振動計測機41uは、振動計測機40uと同じ手段で振動特性を取得するセンサであることが望ましい。振動計測機41uは、取得された振動特性を診断装置100に出力する。
【0031】
このような振動計測機41を三相交流のそれぞれの相に設置する。したがって、第二相には、振動計測機41vが配置される。第三相には、振動計測機41wが配置される。以下、いずれの振動計測機41であるかを区別しないときは、単に振動計測機41と称して説明する。このように、振動計測機41が配置されることで、診断装置100は、振動計測機41によって計測された振動の振幅と振動計測機40によって計測された振動の振幅とに基づいて、振動の減衰率を算出することができる。診断装置100は、算出された振動の減衰率に基づいて、導体締結部20の異常を診断することができる。この方法では、加振手段30から導体10に与えられた振動の強さがそれぞれの相で異なる場合でも、異常を診断することができる。
【0032】
図5の構成にて、導体締結部20の異常を診断する場合、診断装置100の診断情報生成部131は、例えば、以下の処理によって診断情報を生成してもよい。ここで、振動特性は、振幅の絶対値であるとして説明する。まず、診断情報生成部131は、取得された振動特性に基づいて、各相の振動の減衰率を算出する。具体的には、診断情報生成部131は、振動計測機40によって取得された振動の振幅を、振動計測機41によって取得された振動の振幅で除算することで減衰率を算出する。診断情報生成部131は、第一相から第三相までの各相毎に、減衰率を算出する。診断情報生成部131は、第一相から第三相までの各相毎に、振動の減衰率と振幅の発生時間とを対応付けた情報を診断情報として生成する。
【0033】
図6は、実施形態の振動の減衰率に基づいて診断を行う場合の測定結果の一具体例を示す図である。図6では、第三相の導体締結部20wにおいて緩みが発生した場合の、振動計測機40及び振動計測機41での測定例を示している。図6では、縦軸は振幅である。横軸は時間である。時間とは、振幅の発生時間である。図6の一点鎖線は、振動計測機41によって測定された振幅の絶対値を表す。図6の実線は、振動計測機40によって測定された振幅の絶対値を表す。図6によると、振動計測機41によって計測された振幅の絶対値は、第一相から第三相のいずれも大きな差はみられない。一方で、振動計測機40によって計測された振幅の絶対値は、第一相及び第二相とで、大きな差は見られない。しかし、第三相の振幅の絶対値は、第一相及び第二相と比べて小さくなっていることがわかる。
【0034】
ここで、振動計測機41によって計測された振幅の絶対値のピーク値をA0とする。振動計測機40によって計測された振幅の絶対値のピーク値をA1とする。診断情報生成部131は、A1をA0で除算することで各相の減衰率を算出することで、診断情報を生成する。診断部132は、各相の減衰率に基づいて、導体締結部20の異常を診断する。具体的には、診断部132は、各相の減衰率を比較することで、いずれか1つの導体締結部20に異常があるか否かを診断する。例えば、診断部132は、第一相、第二相及び第三相の減衰率を比較して、減衰率が他の二相よりも大きい相について、導体締結部20に異常があると診断してもよい。診断部132は、減衰率を比較するにあたって、減衰率同士の差分を算出してもよいし、基準となる減衰率からの差分を算出してもよい。また、診断部132は、減衰率が他の二相よりも大きい相の減衰率が、所定の閾値よりも大きい場合に導体締結部20に異常があると診断してもよい。所定の閾値とは、減衰率に関する閾値である。所定の閾値は予め定められた閾値であればどのような閾値であってもよい。診断部132は、診断情報に基づいて、このような振幅の減衰率を比較して、異常の有無を診断してもよい。
【0035】
診断装置100は、振動特性として固有振動数を求め、各相間で比較することで導体締結部20を診断してもよい。固有振動数は、振動する物体の材質、構造、寸法等の機械的な物性から決定される特性である。そのため導体締結部20において締結部材21の緩み又は締め付け不良等の異常が発生すると、物質の連続性や拘束状態に変化が生じ、固有振動数も変化する。振動計測機40は、固有振動数の変化に応じて、極大を示す振動数が変化したことを示す振動特性を取得する。診断装置100は、各相の極大を示す振動数同士を比較し、固有振動数に差異がみられる場合には各相の導体締結部20の異常を診断することができる。
【0036】
図7は、実施形態の固有振動数に基づいて診断を行う場合の測定結果の一具体例を示す図である。図7では、第三相の導体締結部20wにおいて緩みが発生した場合の、振動計測機40での測定例を示している。図7では、縦軸は振幅である。横軸は振動数である。図7において、固有振動数はf1、f2及びf3で表される。図7では、全ての相において、f1、f2及びf3の固有振動数が見られる。第一相及び第二相では、締結部材21が正常に締結されているため、ほぼ同じ固有振動数を示す。一方で、第三相では、締結部材21が正常に締結されていないため、固有振動数f3が第一相及び第二相と比較して低周波側にシフトしている。
【0037】
診断情報生成部131は、振動特性として固有振動数が取得された場合、固有振動数とその固有振動数における振幅とを対応付けた情報を診断情報として生成する。診断情報生成部131は、各相毎に固有振動数とその固有振動数における振幅とを対応付けることで診断情報を生成する。診断部132は、各相の固有振動数に基づいて、導体締結部20の異常を診断する。具体的には、診断部132は、各相毎に、振幅が検知された固有振動数を特定する。診断部132は、特定された固有振動数を各相毎に比較することで、いずれか1つの導体締結部20に異常があるか否かを診断する。例えば、診断部132は、固有振動数同士の差分を算出してもよいし、特定された固有振動数の数の差分を算出してもよい。診断部132は、異常を診断するにあたって、固有振動数同士の差分が所定の閾値よりも大きい場合に導体締結部20に異常があると診断してもよい。所定の閾値とは、固有振動数に関する閾値である。所定の閾値は予め定められた閾値であればどのような閾値であってもよい。診断装置100は、導体締結部20の構造に起因する固有振動数の変化に基づいて、導体締結部20に締結部材21の緩み又は締め付け不良等の異常常が発生しているか否かを診断することができる。
【0038】
このように構成された診断装置100では、各相の導体10に加振手段30によって与えられた振動を、振動計測機40が振動特性として取得する。診断装置100の診断部132は、各相毎の振動特性に基づいて、導体締結部20の異常の有無を診断する。例えば、診断部132は、各相毎の振動特性のうち、いずれか1つが他の相と異なる振動特性を有する場合には、導体締結部20は異常を有すると診断する。このため、診断装置100は、締結部材21の正常時の振動特性を予め取得することなく、異常を診断することが可能になる。このため、診断装置100は、より簡単に電力機器の締結部材21の緩みや締め付け不良等の異常を診断することが可能になる。
【0039】
また、診断装置100は、振動特性として振動の減衰率を用いてもよい。診断装置100は、減衰率を指標に用いることで、導体10に与えられる振動の強さの影響を受けること無く異常を診断することができる。例えば、加振手段30としてハンマー等を用いて人が振動を与える場合、毎回同じ強さの振動を与えることは難しい。このため、診断装置100は、単純に振幅の絶対値を比較するだけでは困難な場合であっても、各相毎の減衰率を比較することで、より簡単に締結部材21の異常を診断することが可能になる。
【0040】
<変形例>
上述の実施形態では、導体締結部20は、加振手段30と振動計測機40との間に1つ挟まれる構成であったが、1つに限定されない。例えば、導体締結部20は、加振手段30と振動計測機40との間に2つ以上挟まれてもよい。図8は、実施形態の複数の導体締結部を持つ機器構成の一具体例を示す図である。以下、図1の機器構成と異なる点について説明する。第一相では、導体10uと導体11uとは、導体締結部20uで締結されている。第一相では、導体11uと導体12uとは、導体締結部22uで締結されている。導体締結部22uは、導体11uと導体12uとが締結される位置を表す。導体締結部22uには、締結部材23uが設けられる。締結部材23uは、導体11uと導体12uとに形成された孔に挿入及び締め付けされることで、導体11uと導体12uと締結する。締結部材23uは、例えばボルトやねじ等の締結部材21uと同じ部材であってもよい。振動計測機40は、導体11uの端部の代わりに、導体12uの端部に配置される。
【0041】
このような導体構成を三相交流のそれぞれの相に設置する。したがって、第二相は、導体11vと導体12vとが締結部材23vによって締結される。導体12vの端部には振動計測機40vが配置される。締結部材23vは、導体締結部22vに設けられる。導体締結部22vは、導体11vと導体12vとが締結される位置を表す。
【0042】
また、第三相は、導体11wと導体12wとが締結部材23wによって締結される。導体12wの端部には振動計測機40wが配置される。締結部材23wは、導体締結部22wに設けられる。導体締結部22wは、導体11wと導体12wとが締結される位置を表す。以下、いずれの導体、導体締結部、締結部材、加振手段及び振動計測機であるかを区別しないときは、単に導体12、導体締結部22及び締結部材23称して説明する。
【0043】
このように、第二相及び第三相についても、第一相と同等の構成を有する。したがって、締結部材23がいずれも正常(例えば、既定の締め付けトルクで固定されている)である場合、導体11及び導体12を伝わる振動特性は、いずれの相も同様の振動特性を有する。一方で、締結部材23に緩み等の異常がある相では、振動特性が変化する。このため、診断装置100は、導体締結部20及び導体締結部22のうち、1つ以上の導体締結部で異常が発生している場合、異常を検知することができる。したがって、診断装置100は、より少ない回数で、より広い範囲の導体締結部の異常を診断することが可能になる。
【0044】
診断情報生成部131は、振幅の平均値を算出して診断情報を生成してもよい。この場合、加振手段30は複数の振動を導体10に与える。振動計測機40及び振動計測機41は、与えられた振動の回数に応じた複数の振動特性を診断装置100に送信する。診断情報生成部131は、取得した振動特性が有する振幅の平均値を算出する。診断情報生成部131は、算出された平均値に基づいて診断情報を生成してもよい。
【0045】
また、診断情報生成部131は、周波数毎の振幅を取得し、診断情報を生成してもよい。この場合、診断情報生成部131は、振動特性に対してフーリエ変換を行うことで、周波数特性を取得する。そして、診断情報生成部131は、周波数毎に振幅を取得し、診断情報を生成してもよい。
【0046】
診断装置100は、ネットワークを介して通信可能に接続された複数台の情報処理装置を用いて実装されてもよい。この場合、診断装置100が備える各機能部は、複数の情報処理装置に分散して実装されてもよい。例えば、診断情報生成部131と診断部132とはそれぞれ異なる情報処理装置に実装されてもよい。
【0047】
上記各実施形態では、診断情報生成部131及び診断部132はソフトウェア機能部であるものとしたが、LSI等のハードウェア機能部であってもよい。
【0048】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、診断情報生成部131及び診断部132を持つことにより、より簡単に電力機器の締結部材21の緩みや締め付け不良等の異常を診断することができる。
【0049】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0050】
10、11…導体、20、22…導体締結部、21、23…締結部材、30…加振手段、40、41…振動計測機、100…診断装置、101…通信部、102…出力部、103…制御部、131…診断情報生成部、132…診断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8