(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】モールド、インプリント方法、および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20231225BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 B
(21)【出願番号】P 2019116787
(22)【出願日】2019-06-24
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】古川 広明
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-020350(JP,A)
【文献】特開2014-069543(JP,A)
【文献】特開2015-221561(JP,A)
【文献】特開2016-149547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプリント装置のためのモールドであって、
前記モールドは、所定のパターンが形成されたパターン部と、
前記パターン部の外側の周辺部と、を有し、前記周辺部は、凹凸部を有し、前記インプリント装置によって前記パターン部と前記周辺部が基板に押し付けられた場合に、前記凹凸部により形成される空気の流路が、前記周辺部の前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて連通し、
前記凹凸部は、前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて放射状に延びている溝を含む、
ことを特徴とするモールド。
【請求項2】
前記凹凸部は突起を含むことを特徴とする請求項1に記載のモールド。
【請求項3】
前記溝は前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて複数形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のモールド。
【請求項4】
前記溝の断面の深さと幅の積は10μm
2以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のモールド。
【請求項5】
前記溝は前記パターン部側から前記モールドの端側に向かうに従って深さが異なることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のモールド。
【請求項6】
前記溝の内側のエッジ部は曲面を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のモールド。
【請求項7】
前記突起は前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて複数形成されていることを特徴とする請求項2に記載のモールド。
【請求項8】
前記インプリント装置は前記モールドの裏側のチャック部を負圧によりチャックするためのチャック手段を有し、前記インプリント装置によって前記パターン部と前記周辺部が前記基板に押し付けられた場合に、前記基板に接触する前記凹凸部の凸部の面積が、前記チャック部の面積よりも小さくなるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のモールド。
【請求項9】
前記周辺部は、前記インプリント装置によって前記パターン部と前記周辺部が前記基板に押し付けられた場合に生じる正圧と前記基板から離される場合の負圧を逃がすための凹凸部を有していることを特徴とする請求項1に記載のモールド。
【請求項10】
インプリント装置のためのモールドであって、
前記モールドは、所定のパターンが形成されたパターン部と、
前記パターン部の外側の周辺部と、を有し、前記周辺部は、凹凸部を有し、前記インプリント装置によって前記パターン部と前記周辺部が基板に押し付けられた場合に、前記凹凸部により形成される空気の流路が、前記周辺部の前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて連通し、
前記凹凸部は、断面の深さと幅の積は10μm
2以上である溝を含む、
ことを特徴とするモールド。
【請求項11】
インプリント装置のためのモールドであって、
前記モールドは、所定のパターンが形成されたパターン部と、
前記パターン部の外側の周辺部と、を有し、前記周辺部は、凹凸部を有し、前記インプリント装置によって前記パターン部と前記周辺部が基板に押し付けられた場合に、前記凹凸部により形成される空気の流路が、前記周辺部の前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて連通し、
前記凹凸部は、前記パターン部側から前記モールドの端側に向かうに従って深さが異なる溝を含む、
ことを特徴とするモールド。
【請求項12】
インプリント装置のためのモールドであって、
前記モールドは、所定のパターンが形成されたパターン部と、
前記パターン部の外側の周辺部と、を有し、前記周辺部は、凹凸部を有し、前記インプリント装置によって前記パターン部と前記周辺部が基板に押し付けられた場合に、前記凹凸部により形成される空気の流路が、前記周辺部の前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて連通し、
前記凹凸部は、前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて複数形成されている突起を含む、
ことを特徴とするモールド。
【請求項13】
インプリント装置のためのモールドであって、
前記モールドは、所定のパターンが形成されたパターン部と、
前記パターン部の外側の周辺部と、を有し、前記周辺部は、凹凸部を有し、前記インプリント装置によって前記パターン部と前記周辺部が基板に押し付けられた場合に、前記凹凸部により形成される空気の流路が、前記周辺部の前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて連通し、
前記インプリント装置は前記モールドの裏側のチャック部を負圧によりチャックするためのチャック手段を有し、前記インプリント装置によって前記パターン部と前記周辺部が前記基板に押し付けられた場合に、前記基板に接触する前記凹凸部の凸部の面積が、前記チャック部の面積よりも小さくなるように構成されている、
ことを特徴とするモールド。
【請求項14】
モールドを有するインプリント装置によるインプリント方法であって、
前記モールドは、所定のパターンが形成されたパターン部と、
前記パターン部の外側の周辺部と、を有し、前記周辺部は、凹凸部を有し、インプリント装置によって前記パターン部と前記周辺部が基板に押し付けられた場合に、前記凹凸部により形成される空気の流路が、前記周辺部の前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて連通し、前記凹凸部は、前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて
放射状に延びている溝を含む、ことを特徴とするモールドであって、前記インプリント方法は、
前記基板上に未硬化のインプリント材を供給する供給工程と、
前記インプリント材に前記モールドを接触させる接触工程と、
前記インプリント材から前記モールドを引き離す離型工程と、
を含むことを特徴とするインプリント方法。
【請求項15】
請求項1乃至13のうちいずれか1項に記載のモールドを使用して基板にパターンを形成する工程と、
前記工程でパターンが形成された前記基板を加工する工程と、
加工された前記基板から物品を製造する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置等に用いるモールド、インプリント方法、および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の要求が進み、従来のフォトリソグラフィー技術に加えて、基板上の未硬化の樹脂(インプリント材)をモールド(型、マスク)で成型し、樹脂のパターンを基板上に形成する微細加工技術が注目を集めている。かかる技術は、インプリント技術とも呼ばれ、基板上にナノメートルオーダーの微細な構造体を形成することができる。
【0003】
インプリント技術の1つとして、例えば、光硬化法がある。光硬化法を採用したインプリント装置では、まず、基板上のショット領域(インプリント領域)に未硬化の樹脂を供給(塗布)する(供給工程)。次いで、基板上の未硬化の樹脂とモールドとを接触(接触工程)させた状態で光を照射して樹脂を硬化させ、硬化した樹脂からモールドを引き離す(離型工程)ことで基板上に樹脂のパターンを形成する。
【0004】
上記装置に於いて、モールドと基板上の未硬化の樹脂を接触させるためにモールドを降下させるが、降下させる速度を速くしても基板とモールド間の空気が残り空圧により接触するまでの時間が短くならない。また、硬化した樹脂からからモールドを引きはがす際にモールドを上昇させる速度を速くすると基板とモールド間の空気が負圧となり基板が基板ステージから引きはがされる可能性があるという問題がある。特許文献1には、基板のズレや剥がれを抑制し、パターンの歪みなどを抑えるのに有利なインプリント装置技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、モールドと基板を近づける時、インプリントヘッドの降下速度が速い時に正圧でインプリントヘッドの降下が阻害される。また、離型時にインプリントヘッドの上昇速度が速いと負圧により基板を基板ステージから引き剥がしてしまう可能性がある。空気に2つの圧力差がある場合、圧力が高い空気の状態を正圧、低い状態を負圧という。
【0007】
さらに、モールドのパターン領域外が基板へ押し付けられた場合、モールドと基板が密着し剥がれない可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、インプリント時等の押印、離型の時間を短縮及び基板に密着した場合においても基板から引き離す事が可能なモールドを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のモールドは、インプリント装置のためのモールドであって、モールドは、所定のパターンが形成されたパターン部と、パターン部の外側の周辺部と、を有し、周辺部は、凹凸部を有し、前記インプリント装置によってパターン部と周辺部が基板に押し付けられた場合に、凹凸部により形成される空気の流路が、前記周辺部の前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて連通し、
前記凹凸部は、前記パターン部側から前記モールドの端側に向けて放射状に延びている溝を含む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、インプリント時等の押印、離型の時間を短縮することが可能なモールドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施例に係るモールドを適用したインプリント装置の構成を示す図である。
【
図7】第5実施例のモールドが基板と接触した状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施形態を添付の図面及び実施例に基づいて詳細に説明する。
【0013】
〔第1実施例〕
まず、本発明の第1実施例に係るモールド10を適用可能なインプリント装置1について説明する。
図1は、本発明の第1実施例に係るモールド10を適用したインプリント装置1の構成を示す図である。以下の図において、鉛直方向の軸をZ軸、当該Z軸に垂直な平面内で互いに直交する2軸をX軸及びY軸としている。インプリント装置1は、モールド10を用いて基板20上にインプリント材18のパターンを形成するインプリント処理を行う。具体的には、モールド10に形成されたパターン11と基板20上に供給された未硬化のインプリント材18とを接触させた状態でインプリント材18を硬化させ、硬化したインプリント材18からモールド10を引き離す。これにより、モールド10に形成された3次元形のパターン(凹凸パターン)が基板20上に形成される。
【0014】
本実施例のインプリント装置1は、モールド10を保持するチャック部(モールドチャック)を含むインプリントヘッド17と、基板20を保持する基板ステージ21と、供給部19と、を含む。
【0015】
インプリントヘッド17は、例えば、真空吸着力又は静電力によってモールド10を保持して移動する。インプリントヘッド17は、例えば、リニアモータ、エアシリンダ等の駆動機構を備え、モールド10をZ軸方向に駆動可能に構成されている。インプリントヘッド17は、モールド10を-Z方向に移動させることにより、モールド10のパターン11とインプリント材18とを接触させる。インプリントヘッド17は、例えば、不図示の照明系からの光(例えば紫外光)を基板20上に供給されたインプリント材18に導き、インプリント材18を硬化させる。なお、本実施例では、一例として光硬化性組成物をインプリント材18として使用するが、インプリント材18が加熱によって硬化する組成物である場合は、加熱により硬化させても良い。インプリント材18は、製造する半導体デバイスの種類により適宜選択されうる。インプリントヘッド17は、モールド10を+Z方向に移動させることで硬化したインプリント材18からモールド10を引き離す。
【0016】
基板ステージ21は、例えば、真空吸着力又は静電力によって基板20を保持して移動する。基板ステージ21は、例えば、リニアモータやピエゾアクチュエータ等の駆動機構(不図示)によって移動可能となっている。当該駆動機構は、基板ステージ21を微小量移動させるための微小駆動系と、当該微小駆動系よりも大きな移動量で移動させる粗動駆動系とを含んでいてもよい。基板ステージ21は、例えば、基板20を保持してXY平面内を移動することにより、インプリント処理を行うショット領域を供給部19の直下に配置する。また、モールド10と基板上のインプリント材18を接触させる際に、モールド10と基板20とのXY平面方向の位置決めを行う。なお、基板ステージ21の移動方向はこれに限られず、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向、に沿った方向及びこれらの軸周りの回転方向に移動可能に構成されていてもよい。基板ステージ21がXY平面方向に移動する間、基板20の表面とモールド10との距離は1mm以下に保たれる。このような狭ギャップにすることで、インプリント処理においてモールド10とインプリント材18の接触動作及び引き離し動作を迅速に行えるようにしている。
【0017】
供給部19は、1又は複数のショット領域の上に未硬化のインプリント材18を供給するように構成される。供給部19から供給されるインプリント材18の供給量は、例えば、基板20に形成されるパターン11の厚さ(残膜厚)やインプリント材18のパターンの密度などに応じて設定されても良い。
【0018】
制御部22は、インプリントヘッド17、基板ステージ21、供給部19等のインプリント処理に関わる構成部材と有線又は無線の通信回線により接続され、これらの動作を制御する。制御部22は、各種動作を制御するためのコンピュータプログラムを記憶したメモリを内蔵し、さらにコンピュータプログラムを実行するCPUを内蔵している。
【0019】
図2は、モールド10の第1実施例における一例を示す図である。そして、
図2(A)は凹凸パターンを形成した側から見た平面模式図であり、
図2(B)は
図2(A)のA-A線における断面模式図である。
【0020】
図2において、モールド10は転写すべき所定の凹凸パターンであるパターン11が形成されたパターン部(パターン領域)が設けられている。またパターン部の外側にはパターン領域外14である周辺部がある。そして、インプリント装置1によるナノインプリントの押印によってパターン部と周辺部が基板20に押し付けられた場合に生じる正圧と基板20から離される場合の負圧を逃がすため、パターン部の外側の周辺部に凹凸部13が設けられている。また、凹凸部13により形成される空気の流路が周辺部のパターン部側からモールド10の端側に向けて連通をしている。凹凸部13の形状は、中心と外側とで同一形状である必要はなく、外側に向うにしたがって幅が広がっていても良いし、深さが異なっていても良い。
【0021】
本実施例のモールド10を作製するにあたり、大きさ6インチ角、厚さ0.25インチの合成石英ガラス基板を一例とする。まず、一主面上にスパッタリング法により石英エッチングマスク膜としてクロム膜を10nmの厚さに成膜をする。次に、クロム膜上に電子線レジストを塗布し、電子線描画し、現像する。そして、パターン11の領域に所定の凹凸パターンを形成するパターン部と、パターン部の外側の周辺部に凹凸部13とのレジストパターンを形成する。凹凸部13は、例えば空気の流路を形成するための溝である。また、凹凸部13は凹形状や凸形状であっても良く、突起であっても良い。例えば突起の形状として、台形形状や半円形状、円柱形状であっても良い。突起は無作為に設けられても、等間隔に設けられていても良い。
【0022】
次に、レジストパターンをマスクとして、クロム膜を塩素と酸素の混合ガス、次いで石英ガラスをCF4ガスで順にドライエッチングした後、レジストパターンとクロム膜を剥離する。そして、
図1に示すように、石英ガラス基板に主パターンとなる凹凸パターンと空気の流路を形成するための溝からなるラインパターンを形成したモールド10を作製する。
【0023】
作製したモールド10の空気の流路を形成するための溝の深さは一例として、主パターン及び光硬化性材料吸収用パターンともに50nmとした。また、主パターンとして、凹部の幅40nm、ピッチ80nm、高さ30nmの複数のラインアンドスペースパターンと、凹部の幅30nm、ピッチ60nm、高さ30nmの複数のラインアンドスペースパターン等がある。そして、1フィールドエリアの大きさは一例として25mm×30mmとして、モールド10の中央に形成する。所定のパターンが形成されたパターン部と、パターン部の外側の周辺部に設けられた凹凸部13は、どちらも同様の材質であって良いが、異なる材質同士であっても良い。
【0024】
溝は、モールド10の中心から設けても良いが、コア部12周辺はモールド10の厚さによって、一部厚さが薄い箇所があることを考慮し、モールド10の中心から離れた位置から設けることが好ましい。この際、上述したモールド10のサイズを一例とすると、中心から30mm程度離すことが好ましい。そして溝はモールド10の第1面側からラインパターンで設けるものとして、端側に向けて連通させる。
【0025】
次に、モールド10を使用し基板20へラインパターンを作成する工程において、上記の基板上に、ナノインプリント用の光硬化性材料をインクジェット方式でパターンごとに塗布量を変えて1フィールドエリア分を塗布する。
【0026】
続いて、上述のモールド10を用いて、基板上の光硬化性材料に押し付けるが、従来モールド(不図示)は、押し付け時に基板20と従来モールドの間隔が狭くこの中の空気が逃げづらい状態であったため、速い速度での押し付け処理が困難であった。また、逃げられなかった空気がパターン内に留まり空気だまりとなり欠陥を引き起こす問題もあった。しかし、このモールド10を使用することで空気の逃げ道が大きくなる為、押し付け速度を上げることが可能となりスループットを向上させることができる。また、空気が逃げることでパターン内に留まる空気量が減少するため空気だまりが減少することで欠陥を減少することができる。
【0027】
また、押し付け時の力が強くパターン領域外14が基板上に押し付けられた場合、従来モールドでは、基板と密着し装置内で引き離すことが困難であった。しかし、上述したモールド10を使用することで基板20と密着する面積(密着エリア16)が小さくなるため、基板20との接地面積も従来モールドと比較すると小さくなる。また、凹凸部13がモールド10の外部へ通じていることで負圧となりにくくなり装置内で引き離すことができる。従って高価なモールド10を回収することができる。
【0028】
次にモールド10を介して光硬化性材料を感光させる紫外光をモールド10のパターン内に照射して、光硬化性材料を光硬化させる。
【0029】
次に、モールド10を端面から上方に離型力を加えて、モールド10を基板20から離型する。
【0030】
このとき、従来モールドは引き上げる際、従来モールドと基板20の間隔が狭く空気の流入が少ない為、負圧となり下にある基板20を持ち上げてしまい、最悪、基板ステージ21から引き剥がされる可能性がある。しかし、本実施例のモールド10を使用することで凹凸部13によって空気の流入が多くなり負圧が軽減され、基板20を持ち上げるリスクも軽減することができる。また、インプリント処理後のモールド10を洗浄する方法としては、ウェットエッチングやその他のさまざまな手法があるが、本実施例において、どの手法を用いても良い。洗浄の際に、後述する溝の有効断面積Sが所定の数値以内であれば、溝の方向に沿うように洗浄をするような必要は無く、洗浄工程も遅らせずかつ高価なモールド10を損傷なく洗浄することができる。
【0031】
本実施例におけるモールド10を使用することで、スループットの向上、欠陥削減、基板20との密着を軽減することができる。
【0032】
〔第2実施例〕
次に、
図3に基づいて第2実施例のモールド10について説明する。
図3は、第2実施例のモールド10を示した図である。
【0033】
図3のモールド10は凹凸部13がパターン部側から放射状にモールド10の端側に向けて複数形成されている。このモールド10を使用することで、押印時のモールド10の中心から外側への空気の移動、または、離型時にモールド10の外側方向から中心への空気の移動時の抵抗が少なくスムーズな移動が可能となるため、スループットを向上させることができる。また凹凸部13は、例えば縦溝又は横溝、またはこれらの組み合わせであっても良く、モールド10の中心方向から外側へ向けて同心円状または螺旋状に形成されていても良く、ラビリンスを構成するように蛇行して形成されていても良い。
【0034】
〔第3実施例〕
次に、
図4に基づいて第3実施例のモールド10について説明する。
図4は凹凸部13のY軸方向における断面を表したものである。また、
図4において、一例として四角い形状の凹凸部13を示しているが、溝はその他の形状である多角形状でも良く、内側のエッジ部を曲面としても良い。
【0035】
押し付け時の力が強くパターン領域外14が基板上に押し付けられた場合において、重要となるのが溝の断面の深さと幅の積である。この溝の断面の深さと幅の積を有効断面積Sとする。そして、モールド10が基板20に押し付けられたとき負圧になる領域が最も大きくなる場合の体積を、体積V0とする。体積V0は、(モールド10底面の面積-パターン11が形成された第1面の面積)×パターン11の高さ、で見積もられる。ここで、以下の数1または数2は、音速コンダクタンスCを表す式である。音速コンダクタンスCは、2000年のJIS規格(JIS B 8390-2000)で採用されたISO方式による流量表示式の所定の係数で、上述した有効断面積Sと同様に空気の流れ易さを表す指標である。そして有効断面積Sは、音速コンダクタンスCに換算することが可能であり、S=5.0Cとすることができる。よって、溝の有効断面積Sは以下の音速コンダクタンスCを表す数1または数2で求めることができる。
【0036】
【0037】
【数2】
体積V
0が完全に真空状態の場合、これがどれくらいの時間で大気開放されるかを考える。この際、基板上に押し付けられたモールド10が基板20から外れるために必要となる時間を時間Tとする。この時間Tがインプリント装置1を復旧するための待機時間よりも長い時間であった場合には、モールド10の固着が問題となり得る。ここで、一例として待機時間を1時間と仮定する。上述した本実施例のモールド10の場合、この仮定した1時間より時間Tを短縮するには、数1または数2を用いた計算により、流入速度等を考慮した上で溝の有効断面積Sは10μm
2以上とするのが望ましい。有効断面積Sを10μm
2以上とすることで、時間Tは仮定した1時間より短い時間となり、スムーズにモールド10を基板20から引き離すことが可能となる。有効断面積Sはある点で見た溝の断面の深さと幅の積であり、溝における断面の深さと幅の積が一番小さくなる箇所を指す。また、モールド10の中心から端側までの距離を、距離Lとする。距離Lと時間Tとは比例関係にあり、距離Lが短くなるほど時間Tは短縮される。なお、有効断面積Sはモールド10の大きさや形状によって、体積V
0や距離Lが異なるため望ましい数値はこれに限らない。
【0038】
〔第4実施例〕
次に、
図5に基づいて第4実施例のモールド10について説明する。
図5(A)はモールド10及びパターン11の裏側におけるチャック部(吸着エリア15)の例を示す平面模式図である。
図5(B)はパターン11の外側の周辺部の張り付きに加担する面積(密着エリア16)が
図5(A)に示した吸着エリア15の面積より小さくなるように基板20に接触する凹凸部13の凸部がモールド10の端側まで設けられている例を示す平面模式図である。なお、凹凸部13における凸部の面積をチャック部の面積より小さくすることで密着エリア16の面積を吸着エリア15の面積より小さくしている。
図5(C)は密着エリア16が基板20に張り付けている状態をY軸方向から見た図である。
【0039】
本実施例におけるモールド10は吸着エリア15の面積と密着エリア16の面積の関係が、吸着エリア15>密着エリア16となるようなモールドである。即ち、本実施例のモールド10を使用することで
図5(C)の様に密着エリア16が基板20に押し付けられ、張り付いたとしても吸着エリア15における凹凸部13の凸部の吸着面積が密着エリア16の面積よりも小さい。従って、吸着力が大きくなり離型時にモールド10と基板20を引き離すことができる。
【0040】
〔第5実施例〕
次に、
図6と
図7に基づいて第5実施例のモールド10について説明する。
図6(A)はパターン11の外側の張り付きに加担する面積(密着エリア16)が、
図5(A)に示した吸着エリア15の面積より小さくなるように凹凸部13が形成されている例を示す平面模式図である。また、
図6(A)のA´-A´線における断面模式図が
図6(B)である。
【0041】
図7(A)は、モールド10を基板20へ押し付けた時の力が強くパターン11の外側の周辺部が基板20に押し付けられ基板20に張り付けている状態を示す平面模式図である。
図7(B)は密着エリア16が基板20に張り付けている状態をY軸方向から見た図である。
【0042】
そして、
図6及び
図7におけるモールド10は、転写すべき所定の凹凸パターンであるパターン11を形成するパターン部と、パターン部の外側の周辺部に基板20に接触する凸部を有する凹凸部13が形成されているモールドである。そして、凹凸部13の凸部は端側まで連通していない。また、吸着エリア15の面積と密着エリア16の面積の関係が、吸着エリア15>密着エリア16となるようなモールドである。なお、凹凸部13における凸部の面積をチャック部の面積より小さくすることで密着エリア16の面積を吸着エリア15の面積より小さくしている。
【0043】
本実施例におけるモールド10を使用することで、密着エリア16が基板20に押し付けられ、張り付いたとしても吸着エリア15における凹凸部13の凸部の吸着面積が密着エリア16の面積より大きい。従って、吸着力が大きくなり離型時にモールド10と基板20を引き離すことができる。また密着エリア16と吸着エリア15の吸着力が同じ程度であったとしても同様にモールド10と基板20を引き離すことができる。
【0044】
〔物品製造方法に係る実施例〕
本実施例にかかる物品の製造方法の例は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施例の物品の製造方法は、基板に塗布されたインプリント材に上記のインプリント装置1を用いてパターンを形成する工程(基板にインプリント処理を行う工程)と、かかる工程でパターンを形成された基板を加工する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、組成物剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品の製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0045】
インプリント装置1を用いて成形した硬化物のパターンは、各種物品の少なくとも一部に恒久的に、或いは各種物品を製造する際に一時的に、用いられる。物品とは、電気回路素子、光学素子、MEMS、記録素子、センサ、或いは、モールド等である。電気回路素子としては、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、MRAMのような、揮発性或いは不揮発性の半導体メモリや、LSI、CCD、イメージセンサ、FPGAのような半導体素子等が挙げられる。モールドとしては、インプリント用のモールド等が挙げられる。
【0046】
硬化物のパターンは、上記物品の少なくとも一部の構成部材として、そのまま用いられるか、或いは、組成物マスクとして一時的に用いられる。基板の加工工程においてエッチング又はイオン注入等が行われた後、組成物マスクは除去される。
【0047】
次に、物品の具体的な製造方法について説明する。
図8(A)に示すように、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコン基板等の基板4zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0048】
図8(B)に示すように、インプリント用のモールド4zを、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。
図8(C)に示すように、インプリント材3zが付与された基板4zとモールド4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zはモールド4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を、モールド4zを透して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0049】
図8(D)に示すように、インプリント材3zを硬化させた後、モールド4zと基板4zを引き離すと、基板4z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、モールドの凹部が硬化物の凸部に、モールドの凹部が硬化物の凸部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zにモールド4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0050】
図8(E)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。
図8(F)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用しても良い。なお、モールド4zとして、凹凸パターンを設けた回路パターン転写用のモールドを用いた例について述べたが、凹凸パターンがない平面部を有する平面テンプレートであっても良い。
【0051】
〔その他の実施形態〕
以上、本発明の実施の形態を説明してきたが、本発明はこれらの実施の形態に限定されず、その要旨の範囲内において様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 モールド
11 パターン
12 コア部
13 凹凸部
14 パターン領域外
15 吸着エリア
16 密着エリア
20 基板