(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】心房細動サイクル長(AFCL)勾配を用いた心房細動マッピング
(51)【国際特許分類】
A61B 5/343 20210101AFI20231225BHJP
A61B 5/361 20210101ALI20231225BHJP
A61B 5/341 20210101ALI20231225BHJP
【FI】
A61B5/343
A61B5/361
A61B5/341
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019150998
(22)【出願日】2019-08-21
【審査請求日】2022-06-24
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(73)【特許権者】
【識別番号】519303896
【氏名又は名称】カルロ・パッポーネ
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ズィヤード・ゼイダン
(72)【発明者】
【氏名】アハロン・ツルゲマン
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・コーエン
(72)【発明者】
【氏名】メイル・バル-タル
(72)【発明者】
【氏名】タル・ハイム・バル-オン
(72)【発明者】
【氏名】カルロ・パッポーネ
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0216438(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/318-5/367
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
心臓の複数の心内位置
のそれぞれに対応する心房細動サイクル長(AFCL)値を記憶するように構成されたメモリと、
プロセッサであって、
前記記憶されたAFCL値から、前記それぞれの複数の心内位置における平均AFCL値を計算することと、
前記計算された平均AFCL値が、規則的な心房細動(AF)活動を示すか否かを判定することと、
規則的なAF活動を示すと判定された複数の平均AFCL値に対して、前記平均AFCL値の対の間の勾配を計算することと、
ユーザに、前記心臓の少なくとも一部分のマップ上に重ね合わせて前記計算されたAFCL勾配を提示することと、を行うように構成されたプロセッサと、を備える、システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、平均AFCL値が事前設定された下限と事前設定された上限との間にあるか否かをチェックすることによって、前記平均AFCL値が規則的なAF活動を示すか否かを判定するように構成されている、請求項
1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサは、平均AFCL値の標準偏差(SD)が事前設定されたSD限界よりも小さいか否かをチェックすることによって、前記平均AFCL値が規則的なAF活動を示すか否かを判定するように構成されている、請求項
1に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは、異なる時間で取得された心電図から導出された平均AFCL値の対に対するAFCL勾配を計算するように構成されている、請求項
1に記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記AFCL勾配の少なくとも大きさ及び方向に従って前記AFCL勾配をカラーコーディングすることによって、前記AFCL勾配を提示するように構成されている、請求項
1に記載のシステム。
【請求項6】
前記プロセッサは、前記AFが発生するかあるいは前記AFが伝播する位置を示す矢印を前記マップ上に記すことによって、前記AFCL勾配を提示するように構成されている、請求項
1に記載のシステム。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記規則的なAF活動の開始及び伝播のうちの少なくとも1つを含むアニメーションを前記マップ上に表示することによって、前記AFCL勾配を提示するように構成されている、請求項
1に記載のシステム。
【請求項8】
前記プロセッサは、前記ユーザに、前記マップ上に重ね合わせて前記平均AFCL値を提示するように更に構成されている、請求項
1に記載のシステム。
【請求項9】
前記プロセッサは、各位置における前記平均AFCL値に従って、前記マップ上に前記位置をカラーコーディングすることによって、前記平均AFCL値を提示するように構成されている、請求項
1に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義には、プローブを用いた体内電気生理学的マッピングに関するものであり、具体的には、心臓電気解剖学的マッピングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
侵襲的心手技は多くの場合、心臓組織の電気解剖学的特性をマッピングするための技術を用いている。例えば、米国特許出願公開第2005/0288599号には、心房細動の発生部位の特定を支援するシステム及び方法が記載されている。それらのシステム及び方法は、心房細動サイクル長値及びそれに関連する統計値を、所与の電極の電位図上における時間的部位と関連付けること、及び/又は、電極の部位を、電位図信号のそれぞれのスペクトル解析及びそれに関連する更なるパラメータ及び統計値で連携調整すること、を含む。アブレーション治療は、そのような情報のガイダンスに沿って進めることが可能である。
【0003】
別の例として、国際特許出願公開第PCT/US2016/045483号には、心臓マッピングカテーテル及びそのカテーテルを使用するための方法が記載されている。このカテーテルは、心不整脈に関連する脱分極波面の存在、方向及び/又は発生源を検出することができる。マッピングカテーテルは、複数のバイポーラ電極対を含み、各対の部材は、周辺部にわたって、例えば円形パターンで互いに対向する。電極の離間配置は、心内膜表面を通過する任意の方向において、移動する電界又は波面の指向性経路を特定するために利用され得る。カテーテルは、回転子、異所性トリガ焦点を含んだ心不整脈のトリガ及び/若しくはドライバの位置及びタイプを特定するために、並びに/又は、リエントラント経路を描写するために使用され得る。
【0004】
米国特許出願公開第2003/0023130号には、洞律動中の被験者の心臓内のリエントラント回路峡部を特定及び局所化するための方法が記載されており、この方法は、a)電極を介して洞律動中に心臓から電位図信号を受信することと、b)電位図信号を記憶することと、c)電位図信号に基づいてマップを作成することと、d)マップ上の中心基準活動化位置を見つけることと、e)中心基準活動化位置を出発点とする測定ベクトルを定義することと、f)心臓内のリエントラント回路の位置を示す主軸ベクトルを測定ベクトルから選択することと、g)マップ上の電位図信号の閾値点を見つけることと、h)心臓内のリエントラント回路の形状を示す多角形を形成するように、閾値点を接続することと、を含む。
【0005】
米国特許出願公開第2017/0202515号には、心房回転活動パターン(RAP)源検出の方法が記載されており、この方法は、複数のセンサを介して、心電図(ECG)信号を経時的に検出することであって、各ECG信号は複数のセンサのうちの1つを介して検出される、ことと、心臓の電気活動を指示することと、を含む。この方法はまた、複数のECG信号のそれぞれについて、対応するECG信号の活動化時間をそれぞれが示す1つ又は2つ以上の局所活動化時間(LAT)を決定することを含む。本方法は、心臓内の活動化の1つ以上のRAP源領域が、検出されたECG信号及び1つ以上の局所LATに基づいて示されているか否かを検知することを更に含む。1つ以上のマップを提供するために、検出された心臓内の活動化のRAP源領域のマッピング情報も生成される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある実施形態は、複数の心内位置において、それぞれの平均心房細動サイクル長(AFCL)値を計算することを含む方法を提供する。計算された平均AFCL値が、規則的な心房細動(AF)活動を示すか否かに関する判定が行われる。平均AFCL値の対の間の勾配が、規則的なAF活動を示すと判定される複数の平均AFCL値に対して計算される。計算されたAFCL勾配は、ユーザに、心臓の少なくとも一部分のマップ上に重ね合わせて提示される。
【0007】
いくつかの実施形態では、本方法は、平均AFCL値が事前設定された下限と事前設定された上限との間にあるか否かをチェックすることを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、平均AFCL値の標準偏差(SD)が事前設定されたSD限界よりも小さいか否かをチェックすることを含む。
【0008】
ある実施形態では、本方法は、異なる時間で取得された心電図から導出された平均AFCL値の組に対して、AFCL勾配を計算することを含む。別の実施形態では、本方法は、AFCL勾配の少なくとも大きさ及び方向に従ってAFCL勾配をカラーコーディングすることを含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、本方法は、AFが発生するかあるいはAFが伝播する位置を示す矢印をマップ上に記すことを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、規則的なAF活動の開始及び伝播のうちの少なくとも1つを含むアニメーションをマップ上に表示することを含む。
【0010】
ある実施形態では、本方法は、ユーザに、マップ上に重ね合わせて平均AFCL値を提示することを更に含む。別の実施形態では、本方法は、各位置における平均AFCL値に従って、マップ上に位置をカラーコーディングすることを含む。
【0011】
また、本発明の実施形態によれば、メモリ及びプロセッサを有するシステムが更に提供される。メモリは、それぞれの複数の心内位置に対応する心房細動サイクル長(AFCL)値を記憶するように構成されている。プロセッサは、それぞれの複数の心内位置における平均AFCL値を、記憶されたAFCLから計算することと、計算された平均AFCL値が規則的な心房細動(AF)活動を示すか否かを判定することと、を行うように構成されている。プロセッサは、規則的なAF活動を示すと判定された複数の平均AFCL値について、平均AFCL値の対の間の勾配を計算することと、ユーザに、心臓の少なくとも一部のマップ上に重ね合わせてその計算されたAFCL勾配を提示することと、を行うように更に構成されている。
【0012】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」を図面と併せて考慮することで、より完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のある実施形態による、心臓電気解剖学的マッピングシステムの概略的な描写図である。
【
図2】本発明のある実施形態による、正常なAF活動を示す心内位置に重ね合わされた心臓組織の電気解剖学的マップの概略的な描写図である。
【
図3A】本発明の実施形態による、心臓組織の一部分のAFCL勾配マップの概略的な描写図である。
【
図3B】本発明の実施形態による、心臓組織の一部分のAFCL勾配マップの概略的な描写図である。
【
図4】本発明のある実施形態による、AFCL勾配マップを生成及び使用するための方法を概略的に示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
概論
以下に記載される本発明の実施形態は、心房細動(AF)の電気生理学的(EP)特性評価及び電気解剖学的マッピングのための改善された方法及びシステムを提供する。開示される技術は、発作性AF、持続性AF、又は長年にわたるAFなどの様々な種類の異常な心臓EP活動の特徴付け及びマッピングに適用可能である。
【0015】
開示される技術は、AFCLが様々な解剖学的位置の間で可変であり、それと同時に同じ位置においても経時的に可変であるという経験的観察結果を利用したものである。それでもなお、AFCLは、AF活動化起点(ドライバ)の位置においては規則的であり、活動化がそれらの位置から離れて伝播するにつれて、規則性が低くなる。本文脈において、不整脈の規則的なパターンは、以下に定義されるように、規則的な、すなわち比較的変化のない、AFサイクル長(AFCL)値を有するものとして特徴付けられる。AFCL値(必ずしも規則的な値ではない)とは、特定の心内位置(例えば、心臓の空洞の表面上)における2つの電気的活動化イベント間の時間間隔を指す。
【0016】
それぞれの心内位置におけるAF又は他の不整脈挙動を呈する心臓内電位図から、活動化を自動的に特定し、AFCL値を計算するための例示的なカテーテルベースのシステム及び技術が、その開示が参照により本明細書に組み込まれる、2018年5月22日出願の米国特許出願第15/986,238号、名称「Identifying Activations in an Atrial Fibrillation Electrogram」に記載されている。
【0017】
本明細書に記載されるいくつかの実施形態では、プロセッサは、第1に、電気解剖学的にマッピングされた複数の心内位置のそれぞれに、特有の規則的なAFCL値が存在するか否かを判定する。いくつかの実施形態では、プロセッサは、所与の心内位置における規則的なAFCL値の存在を、AFCL値のセットに対して統計的解析を実施することに基づいて判定するが、このAFCL値は、例えば、プロセッサによって、上記の米国特許出願第15/986,238号に記載されている方法を用いて当該位置において計算される。ユニポーラ心電図信号に基づいてAF活動化を特定するためのもう1つの方法が、その開示内容が参照により本明細書に組み込まれる、2018年2月15日出願の米国特許出願公開第2018/0042504号、名称「Annotation of a Wavefront」に記載されている。ある実施形態では、プロセッサは、AFCL値の各分布(すなわち、セット)ごとに、(a)平均AFCL値が、事前設定された下限値と事前設定された上限値との間にあるか否か、及び(b)平均AFCL値の標準偏差(SD)が、事前設定されたSD限界よりも小さいか否か、を判定する。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、プロセッサは、「AFCLファイル」をアップロードすることによってAFCL値のセットを取得するが、各ファイルは、所与の心内位置ごとに計算されたAFCL値のセットを含むものである。次に、上述したように、プロセッサは、各位置に不整脈の規則的なパターンが存在するか否かを判定するために、各セットごとに平均AFCL値及びそのSDを計算する。ある実施形態では、プロセッサは、患者の心臓の少なくとも一部の解剖学的マップ上に重ね合わされた、決定された規則的な平均AFCL値をユーザに表示する。
【0019】
開示される実施形態は更に、規則的なAFパターンの勾配は、有用な臨床情報、例えば、AF波面の伝播方向、AF活動化の組織全体にわたる活動化起点(ドライバ、発生源)の位置、並びにAF活動化の規則的パターンと良好に相関され、したがってそれらを示すという別の実験的観察結果を利用している。換言すれば、規則的なAFCL勾配は、心腔内のAF小波及び活動化パターンを示唆及び予測するものである。例えば、肺静脈の1つの位置と左心房の位置との間の正の規則的なAFCL勾配は、AFが肺静脈から発生し、左心房の中へと伝播していることを示し得る。このような場合、規則的なAFCL勾配マップは、どの肺静脈を隔離すべきかを示し得る。
【0020】
ある実施形態では、プロセッサは、規則的なAFCL勾配(すなわち、心臓組織全体にわたる隣接する位置のAFCL平均間の差の大きさ及び方向)を計算する。次に、プロセッサは、心臓の少なくとも一部分に重ね合わされたAFCL勾配を描写する電気解剖学的マップを生成する。最後に、プロセッサは、勾配マップ(すなわち、患者の心臓の少なくとも一部分の解剖学的マップ上に重ね合わされた勾配、サイズ、及び方向)をユーザに提示する。
【0021】
いくつかの実施形態では、プロセッサは、それぞれの勾配値及び/若しくは方向に従った心臓内位置のカラーコーディング、並びに/又は各位置における平均AFCL値など、1つ以上のグラフィカルスキームを用いてAFCL平均及び勾配をマップ上で強調する。ある実施形態では、プロセッサは、例えば、心臓の少なくとも一部分のマップ上に重ね合わされた規則的なAFCL値の動的(すなわち、過渡的)なカラーコーディングを示すことによって、規則的なAF活動の開始及び/又は伝播のアニメーションを表示する。いくつかの実施形態では、プロセッサは、マップ上に重ね合わされるベクトルの形態で勾配情報を提供する。
【0022】
開示されるAFCL勾配マップは、AFの診断を支援する際のツールとして非常に有用である。心房の複数の場所からの電気信号の同時記録を必要とする他のAFマッピングスキーム、例えば、局所活動化時間(LAT)又は位相解析に基づくマッピングとは対照的に、AFCL勾配マップは、取得するのがはるかに容易である。他のAFマッピングスキームでは、心腔全体から電気データを同時に収集することは、同時収集を正確に可能にする十分なカテーテルがこれまでのところ存在しないため、著しく制限されている。更に、局所的な同時マッピングのアプローチを適用することは、心房粗動又は心房頻拍などの規則的な不整脈とは対照的に、AFで用いられ得る一貫した基準がないので、マッピングされた領域をステッチングして単一の一貫したマップを製作できないということに直面することになる。
【0023】
一方、AFCL勾配マップは、単一の正規のマッピングカテーテル、例えば、線形又は複数の電極カテーテルによって収集された心電図のセットから計算的に導出されてもよい。各場所で収集された電気データは、他の場所とは独立して解析され、その後、これらの全ての位置がAFCLの規則性に従って組み合わされる。このアプローチを用いて、開示される規則的AFCL勾配法は、同時に収集されなかった様々な解剖学的位置でAF電気データを組み合わせること(ステッチング)することを可能にしている。ある実施形態では、異なる時間で取得された心電図から導出された1対の平均AFCL値を用いて、そのようにしてAFCL勾配が計算される。
【0024】
したがって、開示されるAFCL勾配マッピング技法は、診断処置中に必要とされる侵襲的プロービングを最小限にし、同時記録の必要性を排除し、その制限を克服することによって、AFのマッピングを単純化し得る。
【0025】
システムの説明
図1は、本発明のある実施形態による、心臓電気解剖学的マッピングシステム20の概略的な描写図である。いくつかの実施形態では、システム20は、上述のように、(患者25の心臓23の)複数の心臓内位置から心内電位図を取得することと、その電位図を解析してどの位置がAFの規則的なCLを示すかを判定することとを行うように構成されている。例えば、システム20は、規則的なAFCL平均値及び/又は規則的なAFCL平均値の勾配のマップ55を計算、解析、及び表示して、アブレーションなどによる不整脈の潜在的治療のために心臓組織全体にわたって不整脈の潜在的起源の位置を示すように構成されている。
【0026】
システム20は通常、遠位端部31に取り付けられた複数の遠位電極22を備える、Lasso(登録商標)又はPentaray(登録商標)カテーテル(共にカリフォルニア州アーバイン(Irvine)のBiosense-Webster社によって製造)などのカテーテル29を使用して電位図を取得する。取得される電位図は、バイポーラ信号及び/又はユニポーラ信号から導出され得る。バイポーラ取得では、信号は、それぞれの対の遠位電極22の間の電圧を表す。ユニポーラ取得では、信号は、遠位電極22のうちの1つと、患者25の体外に連結された基準電極との間の電圧を表す。
【0027】
信号は、カテーテル29の近位端部が接続される電気インターフェース33を介してプロセッサ28に送信される。プロセッサ28は、バイポーラ又はユニポーラ信号の活動アノテーションに基づいて、各心内位置において、それぞれのAFCL値のセットを電位図から計算する。いくつかの実施形態では、プロセッサ28は、AFアノテーションファイル50内の計算されたAFCL値の種々のセットをメモリ44に記憶し、各AFアノテーションファイル50は、規則的AF活動化が各位置で生じているか否かを判定すべく更に解析するために、別個の心内位置から導出されたAFCL値のセットを含む。
【0028】
上述のように、AF活動化を自動的に特定し、心房細動又は他の不整脈挙動を示す心内電位図からのAFCL値の計算を可能にするカテーテルベースのシステム及び技法が、上記の米国特許出願第15/986,238号によって提供される。
【0029】
いくつかの実施形態では、プロセッサ28は、AFアノテーションファイル50内のAFCL値のセットのそれぞれから、平均AFCL、及び心内位置における平均AFCLの標準偏差(SD)を計算する。各位置における平均AFCL値が、100ミリ秒<平均AFCL<300ミリ秒など、事前設定された下限と上限との間にある場合、また、そのSDが、SD<30ミリ秒など、事前設定されたSD値よりも小さい場合、プロセッサは、その心内位置を、AFの規則的なパターンが生じる位置として分類する。プロセッサは更に、例えば、電気解剖学的マップ内に提示するために、計算された平均AFCL値をその位置に割り当てる。ある実施形態では、解析を改善するために、システムは、10パーセンタイル未満及び90パーセンタイル超など、AFCLの極端な値を無視してもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、例えば、20秒~30秒の長い記録セクションにおいて、規則的なパターンが、数秒間にわたって、また記録されたセクション全体にわたる種々の事象において、これらの事象の間にSDの変動性を伴って出現し得る。この場合、各事象についての規則性、平均AFCL及びSDの決定は、例えば、2秒~3秒の移動時間ウィンドウにおいてこれらのパラメータを計算するプロセッサ28によって行われ得る。次いで、プロセッサ28は、他のセグメントのうちの1つ以上のセグメントのAFCLパラメータが限度内にある場合であっても、(例えば、最小SDに基づいて)最も規則的な時間セグメントのみを選択し、残りのセグメントをドロップする。
【0031】
いくつかの実施形態では、プロセッサ28は、患者25の心臓23の心内組織の少なくとも一部のAFCL勾配マップ55を生成するために、AFCL勾配を計算する。ある実施形態では、プロセッサ28は、計算された勾配(例えば、ベクトルの形態)をマップ55上のそれぞれの位置に重ね合わせて、AFが発生し得るかあるいはそれを通って伝播し得る場所を示す。別の実施形態では、プロセッサは、メモリ44にAFCL勾配マップ55を記憶する。
【0032】
プロセッサ28は、ディスプレイ26上にAFCL勾配マップ55を提示するように更に構成されている。例えば、プロセッサは、マップの残りの部分が依然として計算されている間に、AFCL勾配マップ55の完了部分を表示する。
【0033】
一般に、プロセッサ28は、単一のプロセッサとして、あるいは、本明細書に記載されるタスクをプロセッサが実行することを可能にするソフトウェアを稼働するプロセッサの協働的にネットワーク化又はクラスタ化されたセットとして具現化されてもよい。そのソフトウェアは、例えば、ネットワークを介して電子形式でプロセッサ28にダウンロードされてもよく、あるいは、それに代わって若しくはそれに加えて、磁気的、光学的、又は電子的メモリなどの非一時的な有形のメディア上に提供及び/又は記憶されてもよい。
【0034】
サイクル長勾配を用いた心房細動マッピング
図2は、本発明のある実施形態による、正常なAF活動を示す心内位置に重ね合わされた心臓組織の電気解剖学的マップの概略的な描写図である。いくつかの実施形態では、上述のように、プロセッサは、それぞれのアノテーション付きECG時間セグメント49(すなわち、その位置で記録されたもの)を解析することに基づいて、規則的なAF活動の位置として位置51を示す。ある実施形態では、プロセッサ28は、時間セグメント49について計算されたAFCL値の平均及びSDが上記の限界内にあることを、それぞれのアノテーション付きECG時間セグメント49に基づいて判定する。
【0035】
プロセッサ28は次いで、以下に記載されるように、勾配マップへの更なる処理のために、各位置51の各々と、各位置51におけるそれぞれの計算された平均AFCL値とをマップ55上で重ね合わせる。
【0036】
図3A及び
図3Bは、本発明の実施形態による、心臓組織の一部分のAFCL勾配マップ55a及び55bそれぞれの概略的な描写図である。マップ55a及び55bは、マッピングシステム20のディスプレイ26上でユーザに提示され得る。
【0037】
マップ55a及び55bの水平方向及び垂直方向は、心臓組織上の空間的位置を示す。
図3A及び
図3Bによって示される例では、マップ55a及び55bは心臓23の左心房のものである。
【0038】
図3Aは等時マップ55aを示しており、ここで、表示されるグレーレベルは、AFCL勾配の局所的方向及び大きさを示すために、局所平均AFCLの変動値を表し、解剖学的マップ上に重ね合わされる。凡例56は、表示された平均AFCL値のグレーレベルコーディングを提供する。ある実施形態では、100ミリ秒は「Short」を表し、250ミリ秒は「ロング」を表す。輪郭53は、(例えば、トポグラフィーマップの提示によって)等値のAFCLを示す。
【0039】
図3Aに見られるように、「内側の」暗い陰影付きの領域52は、最も短い平均AFCLを有する。わずかな陰影付きの「周囲」領域58A、58B及び58Cは、最も長い平均AFCL値を有する。その間には、中程度の陰影、及びそれに対応する中程度の平均AFCL値を有する領域がある。変化する陰影はしたがって、AFCL勾配の大きさ及び方向を示す。
【0040】
図3A及び
図3Bのように、領域52の周りの複数の活動化点は、(
図3Bのベクトルマップから分かるように)活動化が領域52から「外向き」に周辺位置へと伝播する状態で、規則的なAF活動化が領域52を起点とすることを示している。
【0041】
例として、各位置の解剖学的性質、陰影付き領域の幅及び数、並びに短いAFCLの値(すなわち、領域52)などの他の指示と組み合わされた、領域58と領域52との間のAFCL値における規則性の正の差は、活動化が位置52から位置58Aに向かって伝播することを示す。各位置の解剖学的性質などの他の指示と組み合わされると、例えば、領域52におけるAFCLの値は、位置52がAFの潜在的な発生源であることを示し得る。指示に基づいて、医師27は、この位置をAFの潜在的な発生源、及びアブレーションのための潜在的な標的と見なし得る。
【0042】
経路54は、位置52を起点とする任意のAF活動の、考えられる伝播経路及び方向を示す。ある実施形態において、位置52は肺静脈内にあり、位置58は左心房にあり、位置57は肺静脈の小孔にある。例として、経路54上の位置57は、位置52から位置58AへのAFの伝播を切断するために、アブレーションの候補位置となり得る。
【0043】
図3Bは、解剖学的マップ55上に重ね合わされた、小勾配ベクトル60及び大勾配ベクトル62を表示するベクトルマップ55bである。ベクトルうちのより暗い部分及びより厚い部分は、ベクトル点の方向に位置合わせされている。ある実施形態では、小勾配ベクトル60は、規則的なAFCL値を有するマップ55上の規則的なAFCL位置51のセットから計算される(
図2に示す)。各小勾配ベクトル60は、位置51のセットの3つの隣接する位置(図示せず)によって画定される三角形の2つの差の平均である。大勾配ベクトル62は、2つ以上の小勾配ベクトルの平均である。図示のように、等時マップ及びベクトルマップの両方は、図示の左心房の解剖学的構造の組織上をAFが伝播する類似の経路を示す。
【0044】
図3A及び
図3Bに示される例示的な図は単に、簡潔にすること及び概念を明確にすることを目的として選ばれたものにすぎない。AF活動化の潜在的な位置及び経路を強調する視覚的要素、並びに各位置に表示される規則的なAFCL値などの数が含められてもよい。ある実施形態では、アニメーション化されたAFCL勾配伝播マップ(図示せず)が、例えばディスプレイ26上に、解剖学的構造全体にわたるAFCLの変化を動的に示す。
【0045】
いくつかの実施形態では、
図3Bは、
図3Aに重ね合わされて提示され、例えば、AFCL勾配の局所的な方向及び大きさを示すために、ベクトル60がグレーレベルシェーディング上に重ね合わされる。
【0046】
図3は、本発明のある実施形態による、AFCL勾配マップ55bを生成及び使用するための方法を概略的に示す流れ図である。AFCL勾配マップ55bを生成するプロセスは、プロセッサ28が、AFCLファイルアップロードステップ70において、心臓組織上の対応する位置のAFCL値のセットをアップロードすることによって開始する。
【0047】
プロセッサ28は、AFCL解析工程72において、AFの規則的パターンを決定するために、AFCLセットのそれぞれに統計的解析を適用する。次に、プロセッサ28は、AFCL勾配マッピング工程74において、隣接する位置51の平均AFCL値の対の間のAFCL勾配を計算し、AFCL勾配マップ55bを構築する。最後に、プロセッサ28は、矢印重ね合わせ工程76において、AFCL勾配の大きさ及び方向(すなわち、ベクトル)を含むAF矢印をマップ55b上に重ね合わせる。矢印は、AFが発生するかあるいはAFが伝播する位置を示す。このプロセスは、ディスプレイ48上に、心臓位置における異常な心臓活動の付加的な指示と共に、引き続きマップ55bを表示し得る。
【0048】
図3に示す例示的なフローチャートは、単に概念を明確化する目的のために選ばれたものである。代替的な実施形態では、例えば、プロセッサ28は、連続的に伝播する電気活動化事象のAFCL値のアニメーションを生成する。本明細書に記載された実施形態は、主として特定の心臓用途に対処するものであるが、本明細書に記載された方法及びシステムは、他の心臓用途においても用いられ得る。
【0049】
したがって、上記に述べた実施形態は、例として引用したものであり、また本発明は、上記に具体的に示し説明したものに限定されないことが理解されよう。むしろ、本発明の範囲は、上述の様々な特徴の組み合わせ及びその一部の組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者により想到されるであろう、また従来技術において開示されていない、それらの変形及び修正を含むものである。参照により本特許出願に援用される文献は、これらの援用文献において、いずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾して定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の一部とみなすものとする。
【0050】
〔実施の態様〕
(1) 方法であって、
複数の心内位置において、それぞれの平均心房細動サイクル長(AFCL)値を計算することと、
前記計算された平均AFCL値が、規則的な心房細動(AF)活動を示すか否かを判定することと、
規則的なAF活動を示すと判定された複数の平均AFCL値に対して、前記平均AFCL値の対の間の勾配を計算することと、
ユーザに、前記心臓の少なくとも一部分のマップ上に重ね合わせて前記計算されたAFCL勾配を提示することと、を含む、方法。
(2) 平均AFCL値が規則的なAF活動を示すか否かを判定することは、前記平均AFCL値が事前設定された下限と事前設定された上限との間にあるか否かをチェックすることを含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 平均AFCL値が規則的なAF活動を示すか否かを判定することは、前記平均AFCL値の標準偏差(SD)が事前設定されたSD限界よりも小さいか否かをチェックすることを含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記勾配を計算することは、異なる時間で取得された心電図から導出された平均AFCL値の対に対するAFCL勾配を計算することを含む、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記AFCL勾配を提示することは、前記AFCL勾配の少なくとも大きさ及び方向に従って、前記AFCL勾配をカラーコーディングすることを含む、実施態様1に記載の方法。
【0051】
(6) 前記AFCL勾配を提示することは、前記AFが発生するかあるいは前記AFが伝播する位置を示す矢印を前記マップ上に記すことを含む、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記AFCL勾配を提示することは、前記規則的なAF活動の開始及び伝播のうちの少なくとも1つを含むアニメーションを前記マップ上に表示することを含む、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記ユーザに、前記マップ上に重ね合わせて前記平均AFCL値を提示することを含む、実施態様1に記載の方法。
(9) 前記平均AFCL値を提示することは、各位置における前記平均AFCL値に従って、前記マップ上で前記位置をカラーコーディングすることを含む、実施態様8に記載の方法。
(10) システムであって、
それぞれの複数の心内位置に対応する心房細動サイクル長(AFCL)値を記憶するように構成されたメモリと、
プロセッサであって、
前記記憶されたAFCL値から、前記それぞれの複数の心内位置における平均AFCL値を計算することと、
前記計算された平均AFCL値が、規則的な心房細動(AF)活動を示すか否かを判定することと、
規則的なAF活動を示すと判定された複数の平均AFCL値に対して、前記平均AFCL値の対の間の勾配を計算することと、
ユーザに、前記心臓の少なくとも一部分のマップ上に重ね合わせて前記計算されたAFCL勾配を提示することと、を行うように構成されたプロセッサと、を備える、システム。
【0052】
(11) 前記プロセッサは、平均AFCL値が事前設定された下限と事前設定された上限との間にあるか否かをチェックすることによって、前記平均AFCL値が規則的なAF活動を示すか否かを判定するように構成されている、実施態様10に記載のシステム。
(12) 前記プロセッサは、平均AFCL値の標準偏差(SD)が事前設定されたSD限界よりも小さいか否かをチェックすることによって、前記平均AFCL値が規則的なAF活動を示すか否かを判定するように構成されている、実施態様10に記載のシステム。
(13) 前記プロセッサは、異なる時間で取得された心電図から導出された平均AFCL値の対に対するAFCL勾配を計算するように構成されている、実施態様10に記載のシステム。
(14) 前記プロセッサは、前記AFCL勾配の少なくとも大きさ及び方向に従って前記AFCL勾配をカラーコーディングすることによって、前記AFCL勾配を提示するように構成されている、実施態様10に記載のシステム。
(15) 前記プロセッサは、前記AFが発生するかあるいは前記AFが伝播する位置を示す矢印を前記マップ上に記すことによって、前記AFCL勾配を提示するように構成されている、実施態様10に記載のシステム。
【0053】
(16) 前記プロセッサは、前記規則的なAF活動の開始及び伝播のうちの少なくとも1つを含むアニメーションを前記マップ上に表示することによって、前記AFCL勾配を提示するように構成されている、実施態様10に記載のシステム。
(17) 前記プロセッサは、前記ユーザに、前記マップ上に重ね合わせて前記平均AFCL値を提示するように更に構成されている、実施態様10に記載のシステム。
(18) 前記プロセッサは、各位置における前記平均AFCL値に従って、前記マップ上に前記位置をカラーコーディングすることによって、前記平均AFCL値を提示するように構成されている、実施態様10に記載のシステム。