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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】ボールペンレフィル及びボールペン
(51)【国際特許分類】
   B43K 7/01 20060101AFI20231225BHJP
   C09D 11/18 20060101ALI20231225BHJP
   B43K 24/10 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
B43K7/01
C09D11/18
B43K24/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019156206
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021030665
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119862(JP,A)
【文献】特開2011-178979(JP,A)
【文献】特開2012-183706(JP,A)
【文献】特公昭63-041756(JP,B2)
【文献】特開2005-059315(JP,A)
【文献】特開2016-041515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/00- 1/12
B43K 5/00- 8/24
B43K 24/10-24/18
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン先とインキ収容管とを備え、前記インキ収容管に水性インキ組成物が収容され、前記水性インキ組成物の端面にインキ逆流防止体が充填されたボールペンレフィルであって、
前記ペン先は、金属製のパイプの先細状の先端部に径方向内方への押圧変形によって形成されたカシメ部と、前記パイプの先端近傍側壁に径方向内方への押圧変形によって形成された複数の内方突出部と、前記カシメ部と複数の内方突出部とによってボールが回転可能に抱持されてなるボール抱持部とを有するパイプ式のボールペンチップであって、
前記ボールペンチップは、前端にボールを回転可能に抱持する直円筒状の小径筒部と、該小径筒部より後方に一体に連設され且つ後方に向かうに従い漸次拡径するテーパ筒部と、該テーパ筒部より後方に一体に連設される直円筒状の大径筒部とからなる金属製筒体よりなり、
前記小径筒部の内方突出部より後方の直円筒状内面の軸方向長さは、前記ボールの直径より小さく、
前記ボールの直径は0.3~0.5mmであり、
前記水性インキ組成物が、水と、水溶性有機溶剤と、板状光輝性顔料と、着色顔料と、水分散性を有する、アクリル酸系重合物、ウレタン系重合物およびオレフィン系重合物から選ばれる1種以上の水分散性重合物と、増粘剤とを含有し、
20℃における前記水性インキ組成物の粘度が、3.84sec-1において800~1600mPa・sであり、
20℃における前記水性インキ組成物の剪断減粘指数nが、0.15~0.5であり、
前記インキ収容管が、合成樹脂からなるとともに、2.5~4.0mmの外径と、0.3~1.0mmの肉厚とを有することを特徴とするボールペンレフィル。
【請求項2】
前記小径筒部の直円筒状内面の内径が、ボールの直径に対し0.03~0.06mm大きい、請求項1に記載のボールペンレフィル。
【請求項3】
前記大径筒部の直円筒状内面の内径が0.9mm以上である、請求項1または2に記載のボールペンレフィル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のボールペンレフィルを収容したボールペン。
【請求項5】
軸筒内に複数のボールペンレフィルを収容してなり、出没機構の作動によっていずれかのボールペンレフィルの筆記先端部が軸筒前端開口部から出没する複合タイプの出没式ボールペンである、請求項4に記載のボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボールペンレフィルに関する。更には、紙面で光輝性と発色性に優れる筆跡を長期に渡って形成できるボールペンレフィルと、ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属光沢調の筆跡が得られる水性ボールペンが知られ、文字書きから描画まで幅広く利用されている。そのようなボールペンは、インキ成分に、得られる筆跡の輝度が高い点から、反射性顔料として板状(鱗片状)の金属粉やパール顔料等である板状光輝性顔料が用いられることが多い。
また、前記インキにおいては、インキの色相を調整するために、インキ中に汎用の顔料を添加したり、板状光輝性顔料表面を着色処理することが行われている(例えば、特許文献1,2参照)。
前記特許文献1に記載されるように、インキ中に汎用の着色顔料を添加した際には、紙面が浸透性を有するため、筆記時には粒子径が大きい板状光輝性顔料のみが紙の表面に積層し、着色顔料は紙面に浸透してしまい、所望の色相の筆跡が得られ難くなる。また、板状光輝性顔料表面を着色処理したものを用いた場合には、前述の着色顔料の浸透を考慮する必要はなくなるが、インキ全体を着色するためには、使用する板状光輝性顔料の粒子径を大きくすることや、添加量をより多くする必要があるため、保管時に板状光輝性顔料の沈降等が生じて、インキ吐出性が低下し易いものとなる。
【0003】
ところで、近年は、1本のボールペンで黒、赤、青などの異なる色調の筆跡を形成できることから、軸筒に複数色のボールペンレフィル(レフィル)を収容した多色(多芯式)ボールペンが盛んに利用されている。前記ボールペンは、使いやすさの点から細軸であるものが好まれる傾向にあるが、そのようなボールペンは軸筒の内容積が小さいため、細身のレフィルが収容されることが多い。しかしながら、細身のレフィルは、レフィルに備わるインキ収容管も細身で薄肉とされることが多く、インキ収容管の材質によっては水などの揮発性溶剤の透過抑制性が乏しくなり、経時的にレフィル内のインキから揮発性溶剤がインキ収容管を透過してレフィル外へ揮散し、インキが過度に増粘したり、インキ不溶成分が凝集してインキ吐出性が悪化する傾向がある。前記傾向は、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成樹脂を材質としたインキ収容管の場合に著しく、さらにインキが着色剤に光輝性顔料を用いたインキの場合、前記インキは光輝性に優れる筆跡を形成できるように板状光輝性顔料が多量に添加されることが多いが、顔料等の固形分を多量に含有するインキは相対的にインキ中の液体分が少ないため、溶剤が揮発したときのインキ増粘や固形分の凝集が顕著であり、インキ吐出性が一層悪化しやすかった。
【0004】
このように板状光輝性顔料をインキに用いたボールペンは、筆記性能や経時安定性を良好としにくいことがあるため改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-29734号公報
【文献】特開2003-12973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、細身で薄肉のインキ収容管を備え、板状光輝性顔料を用いた輝度の高い水性インキを内蔵したボールペンレフィルであっても、様々な色相の紙面に対して、光輝性と発色性に優れ、カスレや途切れが抑制された鮮やかな筆跡を長期に亘って安定して形成できるボールペンレフィルとそれを収容したボールペンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のボールペンレフィルは、ペン先とインキ収容管とを備え、前記インキ収容管に水性インキ組成物が収容され、前記水性インキ組成物の端面にインキ逆流防止体が充填されたボールペンレフィルであって、
前記水性インキ組成物が、水と、水溶性有機溶剤と、板状光輝性顔料と、着色顔料と、水分散性を有する、アクリル酸系重合物、ウレタン系重合物およびオレフィン系重合物から選ばれる1種以上の水分散性重合物と、増粘剤とを含有し、
20℃における前記水性インキ組成物の粘度が、3.84sec-1において800~1600mPa・sであり、
20℃における前記水性インキ組成物の剪断減粘指数nが、0.15~0.5であり、
前記インキ収容管が、合成樹脂からなるとともに、2.5~4mmの外径と、0.3~1mmの肉厚とを有することを要件とする。
更に、前記水性インキ組成物の総質量に対して、前記水の含有率が40~80質量%であり、前記有機溶剤の含有率が1~20質量%であることを要件とする。
前記板状光輝性顔料の総質量と前記着色顔料の総質量との和をAとし、前記水分散性重合物の総質量をBとした場合に、B/Aが0.05~0.5であることを要件とする。
更に、前記水性インキ組成物が、水溶性を有する、アクリル酸とスルホン酸系モノマーとの共重合体をさらに含むことを要件とする。
更に、前記水分散性重合物の総質量をXとし、前記アクリル酸とスルホン酸系モノマーとの共重合体の総質量をYとした場合に、Y/Xが0.1~1.0であることを要件とする。
更に、前記ペン先が、外径が0.2~0.7mmであるボールを備えることを要件とする。
更に、前記ペン先がパイプ式のボールペンチップであって、前記ボールペンチップが、先端部がストレート状の円筒体であるパイプを有し、かつ、前記先端部の後方が外径及び内径が拡径する形状を有することを要件とする。
更には、前記ボールペンレフィルを収容したボールペンを要件とする。
更に、前記ボールペンが、軸筒内に複数のボールペンレフィルを収容してなり、出没機構の作動によっていずれかのボールペンレフィルの筆記先端部が軸筒前端開口部から出没する複合タイプの出没式ボールペンであることを要件とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、細身で薄肉のインキ収容管を備え、板状光輝性顔料を用いた輝度の高い水性インキを内蔵したボールペンレフィルであっても、様々な色相の紙面に対して、光輝性と発色性に優れ、カスレや途切れが抑制された鮮やかな筆跡を長期に亘って安定して形成できるボールペンレフィルとそれを収容したボールペンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のボールペンレフィルの例を示す断面図である。
図2】本発明のボールペンレフィルに備わるペン先(ボールペンチップ)の例を示す断面図である。
図3図2のX-X断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0011】
本発明によるボールペンレフィルは、ペン先とインキ収容管とを備え、前記インキ収容管に板状光輝性顔料を含む水性インキ組成物(以下、場合により、「インキ組成物」または「組成物」と表すことがある。)が収容され、前記水性インキ組成物の端面にインキ逆流防止体が充填されてなる。以下、本発明によるボールペンレフィルを構成する各要素について説明する。
尚、本発明における板状顔料の平均粒子径とは、レーザー回折法(体積基準)により測定した際に、粒度分布図における粒子径軸の最小値を0.5μmとして計算した値である。
【0012】
水性インキ組成物は、水と水溶性有機溶剤と板状光輝性顔料と着色顔料と水分散性を有する、アクリル酸系重合物、ウレタン系重合物およびオレフィン系重合物から選ばれる1種以上の水分散性重合物と、増粘剤とを含有し、特定範囲内のインキ粘度および剪断減粘指数を有する。
【0013】
前記板状光輝性顔料としては、筆跡状態で光を反射させる光輝性を発揮する板状や鱗片状の顔料であれば良く、特にパール顔料、アルミニウム顔料、金属または金属酸化物コーティングガラスフレーク等を挙げることができる。これらは一種以上を選択してインキ中に配合される。
【0014】
具体的に、前記パール顔料には魚鱗箔のような天然品と、天然マイカ、合成マイカ、シリカ等の表面を金属酸化物で被膜した合成品とがあり、一般的には後者が多く用いられる。パール顔料は、マイカ表面に被覆させた金属酸化物の種類やコーティング膜厚によって様々な色調を示すものである。市販されているパール顔料としては、例えば、イリオジン100(銀色)、同111(銀色)、同151(銀色)、同153(銀色)、同201(金色)、同217(赤銅色)、同289(青色)、同302(金色)、同504(ワインレッド色)、イリオジン530(銅色)〔以上、メルクジャパン(株)製〕、アルティミカSB-100(銀色)〔以上、トピー工業(株)製〕等がある。更に、コレステリック液晶型光輝性顔料と称されるHELICONE HCS、同HCXS〔以上、ワッカーケミー社製〕等がある。
【0015】
前記アルミニウム顔料は、アルミニウム片を高級脂肪酸やミネラルスピリットなどの石油系溶剤とともにボールミル等で粉砕、研磨することで、非常に薄い鱗片上のアルミニウム微粒子のペーストとして得られるものが使用できる。市販品としては、アルペーストWXM-0630、同EMERAL EMR-D5660、同WJC-U75C〔以上、東洋アルミニウム(株)製〕等がある。
また、真空蒸着によって得られた薄膜状のアルミニウムを細かく粉砕したものであってもよく、市販品としては、METALURE W-52012 IL、Ultravario Aqua PG-24001〔以上、ECKART社製〕、エルジーneo Silver#500(銀色)、同Gold#500(金色)〔以上、尾池工業(株)製〕等がある。
【0016】
前記金属コーティングガラスフレークは、ガラスフレークに無電解メッキ法によりガラス表面に銀、ニッケルを皮膜、金属酸化物コーティングガラスフレークは、ガラスフレークの表面に液相法により二酸化チタンを皮膜することで得られる。この酸化チタン膜の厚みを変えることで、銀、黄、赤、青、緑等の色が得られるものである。市販されている金属又は金属酸化物コーティングガラスフレークとしては、メタシャイン2040PS、同2020PS、同5090NS、同5090RC〔以上、日本板硝子(株)製〕等がある。
【0017】
これらの板状光輝性顔料は、所望の色相、光輝度に合わせて、一種又は二種以上を併用することができる。また、上記板状光輝性顔料の使用量は、インキ組成物全量に対して1.0~20重量%、好ましくは1.5~10質量%の範囲で使用される。
【0018】
また、インキ組成物に使用される板状光輝性顔料において、特に粒子径の制限はないが、使用するボールペンにおいて筆記できなかったり、筆記中に該顔料が吐出溝(インキ流出孔)を閉塞させたりして、筆記できなくなる虞のない粒子径が選択される。粒子径が小さすぎると筆跡状態での光輝感が得られ難くなり、大きすぎるとインキ吐出性を阻害したり座摩耗を促進する傾向が強くなるため、特に好ましい平均粒子径としては、3~25μmの範囲である。
【0019】
水性インキ組成物は、水分散性を有する、アクリル酸系重合物、ウレタン系重合物およびオレフィン系重合物から選ばれる1種以上の水分散性重合物を含んでなる。前記水分散性重合物は、エマルション形態とされたものが用いられる。
前記水分散性重合物は、板状光輝性顔料と着色顔料に吸着して前記顔料が凝集することを抑えてインキ吐出性が低下することを抑制するとともに、水分散性重合物を介して板状光輝性顔料や紙面に着色顔料を吸着させ、着色顔料が紙面から内部に浸透することを抑制し、カスレや途切れが抑制された、光輝性と着色顔料の発色性に優れる筆跡を形成させるものである。なお、前記水分散性重合物は、水酸化ナトリウム、アンモニア、アルカノールアミン等のアルカリ物質で中和されたものであっても良い。
【0020】
アクリル酸系重合物としては、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸系モノマー共重合体、アクリル酸/不飽和カルボン酸共重合体、スチレン/アクリル酸共重合体等が用いられる。
【0021】
前記アクリル酸系重合物の具体例としては、ジョンクリルPDX-7182、同PDX-7630A、同PDX-7692、同7787〔以上、BASFジャパン製〕、ボンコート5400EF〔以上、DIC(株)製〕、モビニール7525〔以上、日本合成化学(株)製〕、ネオクリルA-639、同A-6016〔以上、楠本化成(株)製〕等が挙げられ、一種又は二種以上が用いられる。
【0022】
ウレタン系重合物としては、その種類は特に限定されず、例えばポリイソシアネートとポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート等のポリオールとの反応生成物が挙げられる。
前記ウレタン系重合物は、分子内に存在する非晶性の部分と結晶性のウレタン結合が、着色顔料や板状光輝性顔料と相互作用するため、筆記時に着色顔料だけが紙面に吸収されることを抑制でき、発色性が高い鮮やかな色調の筆跡を形成することが可能となる。特に分子内にアニオン性の官能基を有する自己乳化型エマルジョンは、インキのpHに左右されず高い効果を発現するためにより有用である。
具体的には、NeoRez R-972、同R-2170、同R-966、同R-967、同R-986、同R-9603、同R-9404〔以上、楠本化成(株)製〕、ユーコートUX-485、同UWS-145、ユープレンUXA-307〔以上、三洋化成(株)製〕、ハイドランAP-40N、同APX-101H〔以上、DIC(株)製〕、スーパーフレックス150、同460、同470、同820〔以上、第一工業製薬(株)製〕等が挙げられ、一種又は二種以上が用いられる。
【0023】
オレフィン系重合物としては、その種類は特に限定されず、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合物、エチレン-酢酸ビニル共重合物、エチレン-エチルアクリレート共重合物等が挙げられ、これらを媒体に分散してエマルション形態としたものが用いられる。特に分子内にアニオン性の官能基を有する自己乳化型エマルションは、インキのpHに左右されず高い効果を発現するためにより有用である。
具体的には、ザイクセンL、同A、同A-GH〔以上、住友精化(株)製〕、HYTEC E-4A、同E-5403、同E-9460〔以上、東邦化学工業(株)製〕等が挙げられ、一種又は二種以上が用いられる。
【0024】
前記水分散性重合物を含むエマルションは、造膜温度(MFT)が60℃以上であるものが好ましい。より好ましくは70℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上である。
造膜温度が上記範囲であると、ボールペンレフィルが過度な温度変化にさらされた場合に、インキ中で水分散性重合物が造膜をして顔料が凝集し、インキ吐出性が低下して筆跡のカスレや途切れが生じることを抑制しやすい。
【0025】
前記水分散性重合物の中でも、アクリル酸系重合物は着色顔料のみならず、板状光輝性顔料や紙面に対しても吸着し易く、結果的に着色顔料が板状光輝性顔料や紙面に吸着して、着色顔料が紙面から内部に浸透することが抑制されやすくなり、筆跡の光輝性および発色性を一段と優れたものとすることができるため、インキ組成物に好適である。
【0026】
前記水分散性重合物の含有率は、インキ組成物全質量に対して0.1~5質量%とすることが好ましく、0.5~3質量%とすることがより好ましい。含有率を前記範囲とすると、インキ組成物が過度に増粘することを抑えつつ板状光輝性顔料や着色顔料の分散安定性を良好とし、筆跡のカスレや途切れが抑制された、光輝性と発色性に優れる筆跡を形成しやすい。
【0027】
インキ組成物は、さらに、水溶性を有する、アクリル酸とスルホン酸系モノマーとの共重合体を含んでなることで着色顔料が紙面から内部に浸透すること、および板状光輝性顔料が凝集することを一層抑制し、筆跡のカスレ、途切れを抑制しつつ、発色性と光輝性がより優れる筆跡を形成することが容易となる。
前記共重合体は、アクリル酸とスルホン酸系モノマーとの共重合体を水酸化ナトリウム、アンモニア、アルカノールアミン等のアルカリ物質で中和して水溶性とされ、インキ組成物に適用される。その具体例としては、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体の中和物を挙げることができ、商品名:アロンA-6012、同A-6016、同A-6017、同A-6020(以上、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸との共重合体のナトリウム塩、東亞合成株式会社製)を用いることができる。
インキ組成物に用いることができるアクリル酸とスルホン酸系モノマーとの共重合体は、前記に限られるものではない。
前記共重合体は複数種を併用することが可能である。
【0028】
前記アクリル酸とスルホン酸系モノマーとの共重合体の含有率は、インキ組成物全質量に対して0.05~2質量%とすることが好ましく、0.1~1質量%とすることがより好ましい。含有率を前記範囲とすると、インキ組成物が過度に増粘してペン先からのインキ吐出性が低下することを抑制しつつ、光輝性と発色性に優れる筆跡を形成しやすい。
【0029】
また、水性インキ組成物において、前記水分散性重合物の総質量をXとし、前記アクリル酸とスルホン酸系モノマーとの共重合体の総質量をYとした場合、Y/Xは、0.1~1.0であることが好ましく、0.2~0.8であることがより好ましい。特に好ましくは、0.3~0.6である。総質量の比の値が上記範囲内であると、着色顔料が紙面から内部に浸透すること、および板状光輝性顔料が凝集することを抑制し、筆跡の発色性および光輝性に優れる、優れた筆跡を形成しやすい。
【0030】
前記着色顔料としては、カーボンブラック、群青などの無機顔料や銅フタロシアニンブルー、ベンジジンイエロー等の有機顔料の他、予め界面活性剤等を用いて微細に安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品等が用いられ、例えば、C.I.Pigment Blue 15:3B〔品名:S.S.Blue GLL、顔料分22%、山陽色素株式会社製〕、C.I. Pigment Red 146〔品名:S.S.Pink FBL、顔料分21.5%、山陽色素株式会社製〕、C.I.Pigment Yellow 81〔品名:TC Yellow FG、顔料分約30%、大日精化工業株式会社製〕、C.I.Pigment Red220/166〔品名:TC Red FG、顔料分約35%、大日精化工業株式会社製〕等を挙げることができる。
蛍光顔料としては、各種蛍光性染料を樹脂マトリックス中に固溶体化した合成樹脂微細粒子状の蛍光顔料が使用できる。
その他、蓄光性顔料、二酸化チタン等の白色顔料、更には熱変色性組成物、光変色性組成物、香料等を直接又はマイクロカプセル化したカプセル顔料等を例示できる。
【0031】
前記熱変色性組成物としては、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物が好適であり、マイクロカプセルに内包させて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料として適用される。
前記可逆熱変色性組成物としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料が適用できる。
更に、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている比較的大きなヒステリシス特性(ΔH=8~50℃)を示すものや、特開2006-137886号公報、特開2006-188660号公報、特開2008-45062号公報、特開2008-280523号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度以上の高温域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包させ加熱消色型のマイクロカプセル顔料も適用できる。
尚、前記色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち-50~0℃、好ましくは-40~-5℃、より好ましくは-30~-10℃、且つ、完全消色温度を摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度、即ち50~95℃、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃の範囲に特定し、ΔH値を40~100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0032】
更に、必要に応じて、水性媒体に溶解可能な染料を併用することもできる。
前記染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料等を使用することができ、酸性染料としては、ニューコクシン(C.I.16255)、タートラジン(C.I.19140)、アシッドブルーブラック10B(C.I.20470)、ギニアグリーン(C.I.42085)、ブリリアントブルーFCF(C.I.42090)、アシッドバイオレット6B(C.I.42640)、ソルブルブルー(C.I.42755)、ナフタレングリーン(C.I.44025)、エオシン(C.I.45380)、フロキシン(C.I.45410)、エリスロシン(C.I.45430)、ニグロシン(C.I.50420)、アシッドフラビン(C.I.56205)等が用いられる。
塩基性染料としては、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、ローダミンB(C.I.45170)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、メチレンブルーB(C.I.52015)等が用いられる。
直接染料としては、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)、フタロシアニンブルー(C.I.74180)等が用いられる。
【0033】
前記着色顔料は一種又は二種以上を適宜混合して使用することができ、インキ組成物中0.1~20質量%、さらには0.5~15質量%の範囲で好ましく用いられる。
【0034】
また、筆跡のカスレや途切れを抑制しつつ、筆跡の発色性や光輝性を良好とすることを考慮すると、水性インキ組成物において、着色顔料の総質量と前記板状光輝性顔料の総質量との和をAとし、前記水分散性重合物の総質量をBとした場合、B/Aは、0.05~0.5であることが好ましく、0.1~0.4であることがより好ましい。
【0035】
更に、インキ組成物には汎用の顔料分散剤を用いることもできる。顔料分散剤としては、水溶性樹脂や界面活性剤等が適用できる。水溶性樹脂としては例えば、水溶性マレイン酸樹脂、水溶性スチレン樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコ-ル、水溶性ウレタン樹脂等が挙げられる。また界面活性剤はアニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性界面活性剤より任意の者を選択して用いられる。
【0036】
インキ組成物には増粘剤が添加される。これにより、保管時における粒子成分(板状光輝性顔料、着色顔料)の沈降や筆跡滲みの抑制を図ることができる。
増粘剤としては従来公知のものが適用できるが、好ましくはインキ組成物に剪断減粘性を付与できる物質(剪断減粘性付与剤)である。
インキ組成物に剪断減粘性付与剤を用いることで、筆記時のインキ吐出性を損なうことなく前記した粒子の耐沈降安定性や筆跡の滲み抑制を良好とすることができる。
【0037】
前記剪断減粘性付与剤としては、水に可溶乃至分散性の物質が効果的であり、キサンタンガム、ウェランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100~800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万~15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、ポリN-ビニルカルボン酸アミド、無機質微粒子、HLB値が8~12のノニオン系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩やアミン塩等を例示でき、更には、インキ組成物中にN-アルキル-2-ピロリドンとアニオン系界面活性剤を併用して添加しても安定した剪断減粘性を付与できる。
【0038】
増粘剤の含有率は、インキ組成物全質量に対して0.01~3質量%とすることが好ましく、0.1~1質量%とすることがより好ましい。増粘剤の含有率を前記範囲とすると、筆記時のインキ吐出性と顔料の耐沈降安定性や筆跡の滲み抑制とを両立しやすい。
【0039】
水性インキ組成物には、レフィルに収容されたインキから水が過度に蒸発してインキ吐出性が低下することを抑制するために水と相溶性のある従来汎用の水溶性有機溶剤が用いられる。具体的には、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、スルフォラン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
尚、前記水溶性有機溶剤は一種又は二種以上を併用して用いることができ、好ましくは1~20質量%、より好ましくは5~15質量%の範囲で用いられる。
有機溶剤の含有率を上記範囲とすると、インキ粘度を過大にすることなく過度な水分蒸発を抑制しやすくなるため、良好なインキ吐出性が維持されて、カスレや途切れのない筆跡を長期に亘って形成しやすい。
【0040】
また、水の含有率は、インキ組成物の流動性を高め、ペン先からのインキ吐出性を良好とすることを考慮して、インキ組成物全質量に対して40~80質量%とすることが好ましく、45~70質量%とすることがより好ましい。
【0041】
インキ組成物はリン酸エステル系界面活性剤を含むことが好ましい。
リン酸エステル系界面活性剤は、ボール表面およびボールペンチップのボール受け座の表面にも吸着して、ボール表面およびボール受け座の表面にリン酸エステル系界面活性剤からなる潤滑層を形成し、筆記時のボール回転をより円滑にすることができる。
また、リン酸エステル系界面活性剤は顔料表面にも吸着して、顔料の凝集、沈降を抑制し易くすることもできる。
【0042】
インキ組成物に用いられるリン酸エステル系界面活性剤は、下記式(1)に示される化合物である。
【化1】
式中、X、X、Xは、下記式(2)に示す官能基、または水酸基であり、X、X、Xの少なくとも1種は、式(2)に示す官能基である。
【化2】
式中、Rは炭化水素基、Rはアルキレン基である。また、nは1以上の整数である。
【0043】
インキ組成物に好ましいリン酸エステル系界面活性剤は、前記炭化水素基がアルキル基、アルケニル基またはアリール基であるリン酸エステル系界面活性剤であり、より好ましくは、前記炭化水素基がアルキル基、アルケニル基またはアリール基であり、かつ前記アルキレン基がエチレン基であるリン酸エステル系界面活性剤である。特に好ましいリン酸エステル系界面活性剤は、前記炭化水素基がアルキル基であり、かつ、前記アルキレン基がエチレン基であるリン酸エステル系界面活性剤、即ちポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸である。前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸を用いると、筆記時のボールの回転をより円滑とし、筆記時のインキの吐出性を一層良好とし、また、顔料が凝集、沈降することを一層抑え易くすることができる。これは、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸が、ボールとボールチップのみならず顔料に対して高い親和性を有し、前記した、ボール表面ならびにボールチップ表面での潤滑層の形成性や顔料の分散性に優れた効果を奏するからである。特に、インキの着色材に前記板状光輝性顔料を用いたボールペンは滑らかな筆記感や良好なインキ吐出性が奏されにくいことがあるが、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸は、板状光輝性顔料とボール表面およびボール座表面との間に介在し、ボール表面およびボール座表面に顔料が吸着することで、前記顔料が筆記時のボール回転においてコロの効果を奏するため、ボールの回転を円滑として筆記感やインキ吐出性を良好とし易い。
前記リン酸エステル系界面活性剤は、アルカリ金属塩またはアミン塩であっても良い。
【0044】
リン酸エステル系界面活性剤の含有率は、インキ組成物全質量に対して0.01~5質量%とすることが好ましく、0.1~3質量%とすることがより好ましい。インキ組成物中のリン酸エステル系界面活性剤の含有率を前記範囲内とすることで、リン酸エステル系界面活性剤の溶解安定性を良好としつつボール回転を円滑にし易く、また、顔料凝集、沈降を抑制することが容易となる。
【0045】
更に、インキ組成物には紙面への固着性や粘性を付与するために水溶性樹脂を添加することもできる。前記水溶性樹脂としては、アルキッド樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等が挙げられる。前記水溶性樹脂は一種又は二種以上を併用することができ、インキ組成中1~30重量%の範囲で用いられる。
【0046】
その他、インキ組成物には、必要に応じて、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等のpH調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、サポニン等の防錆剤、石炭酸、1、2-ベンズチアゾリン3-オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン等の防腐剤或いは防黴剤、尿素、ノニオン系界面活性剤、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤、消泡剤、インキの浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン系の界面活性剤を使用してもよい。
更に、アスコルビン酸類、エリソルビン酸類、α-トコフェロール、カテキン類、合成ポリフェノール、コウジ酸、アルキルヒドロキシルアミン、オキシム誘導体、α-グルコシルルチン、α-リポ酸、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩、亜硫酸塩、スルホキシル酸塩、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素等を添加して化学的に気泡を除去することもできる。
更に、デキストリンを用いて、ペン先の耐ドライアップ性を高めることもできる。
また、N-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー、N-ビニル-2-ピペリドンのオリゴマー、N-ビニル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、N-ビニル-ε-カプロラクタムのオリゴマー等の増粘抑制剤を添加することで、出没式形態での機能を高めることもできる。
更に、潤滑剤を使用することができ、例えば、金属石鹸、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加型カチオン活性剤、リン酸エステル系活性剤、β-アラニン型界面活性剤、N-アシルアミノ酸、N-アシルメチルタウリン、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールやその塩やオリゴマー、3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、チオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、α-リポ酸、N-アシル-L-グルタミン酸とL-リジンとの縮合物やその塩等が用いられる。
【0047】
水性インキ組成物の20℃における粘度は、せん断速度が3.84sec-1の条件において、800~1600mPa・sであることが重要であり、1000~1500mPa・sであることが好ましい。
なお、粘度の測定は、例えば、ティーエイインスツルメント社製のレオメーター「DHR-2」を用いて行うことができる。
【0048】
また、水性インキ組成物の20℃におけるせん断減粘指数nは、0.15~0.5であることが重要であり、0.2~0.4であることが好まく、0.25~0.35であることがより好ましい。ここで、せん断減粘指数nは、S=αDで示される粘性式中のnを指す。なお、Sはせん断応力(dyn/cm=0.1Pa)、Dはせん断速度(sec-1)、αは粘性係数を示す。
せん断減粘指数nの測定は、例えば、ティーエイインスツルメント社製のレオメーター「DHR-2」を用いて行うことができ、3.84sec-1、38.4sec-1及び384sec-1のせん断速度と、それらのせん断速度でそれぞれ得られるせん断応力とを上記式に適用してnを求める。
水性インキ組成物の粘度およびせん断減粘指数が上記数値範囲内とすると、静置時において板状光輝性顔料や着色顔料が沈降、凝集することを抑制しつつ、筆記時におけるペン先からのインキ吐出性を良好とし、カスレ、途切れが抑制された、発色性と光輝性に優れる鮮明な筆跡を形成できる。
【0049】
水性インキ組成物の表面張力は、20℃環境下において、25~55mN/mが好ましい。表面張力が上記数値範囲内であれば、筆跡のカスレ、途切れおよび滲み等を抑制して、筆記性を向上させることができる。筆記性の向上をより考慮すれば、水性インキ組成物の表面張力は、30~50mN/mがより好ましい。
なお、表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求められる。
【0050】
水性インキ組成物のpHは、6~10であることが好ましく、7~9であることがより好ましい。水性インキ組成物のpHが上記数値範囲内であれば、着色材の分散性を良好とし易い。
本発明において、pHの値は、例えば株式会社堀場製作所製のpHメーター「D-51」により20℃にて測定することができる。
【0051】
水性インキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、プロペラ攪拌、ホモディスパー、またはホモミキサーなどの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0052】
水性インキ組成物は、水と水溶性有機溶剤と板状光輝性顔料と着色顔料と水分散性を有する、アクリル酸系重合物、ウレタン系重合物およびオレフィン系重合物から選ばれる1種以上の水分散性重合物と、増粘剤とを少なくとも含有し、粘度および剪断減粘指数を特定範囲内とされたことで、板状光輝性顔料と着色顔料の分散安定性やインキ吐出性が良好になるとともに、着色顔料が紙面から紙内部へ沈み込むことが抑制されるため、カスレや途切れが抑制された、発色性と光輝性に優れる鮮やかな筆跡を形成できる。
顔料の分散安定性は、長期経時後や経時的にインキ中の水分量が減少し、板状光輝性顔料と着色顔料の濃度が高まった場合でも持続し、また、水性インキ組成物はインキ中の水分量が減少しても過度に増粘することが抑制され、良好なインキ吐出性が持続するため、水性インキ組成物は、前記した鮮やかな筆跡を長期に亘って形成することができる。
【0053】
本発明のボールペンレフィルは、ボールペンチップがボールペンチップと直接、またはホルダーを介して装着されたインキ収容管に前記水性インキ組成物を内蔵し、インキの後部にインキの消費と共に追従するインキ逆流防止体(液栓)を充填してなる。
【0054】
ペン先(ボールペンチップ)の構造、形状は特に限定されない。例えば、金属をドリル等により切削加工してボールを抱持するためのボール抱持室と、当該ボール抱持室の底壁の中央に形成されたインキ流通孔と、当該インキ流通孔から放射状に延びる複数本のインキ流通溝と、を設けたチップ本体のチップ先端部を内側にかしめることにより、ボール抱持室内に抱持されるボールの一部をチップ先端縁より突出させると共に当該ボールを回転自在に抱持する構造が挙げられ、また金属製のパイプの先細状の先端部を径方向内方に押圧変形することにより形成したカシメ部と、前記パイプの先端近傍側壁を径方向内方に押圧変形することにより形成した複数の内方突出部とによってボールが回転可能に抱持されるボール抱持部を有する、いわゆるパイプ式のボールペンチップ構造が挙げられる。
【0055】
前記パイプは、例えば、先端部がストレート状の円筒体(直管状の円筒体)であり、かつ、先端部の後方が外径及び内径が拡径する形状である構成が挙げられる。パイプの形状は、全体がストレート状の円筒体から成る構成であっても良い。
【0056】
ボールペンチップからのインキ吐出性を良好とすることを考慮すると、ボールペンチップは、前記パイプ式のボールペンチップであって、前記パイプの先端部がストレート状の円筒体であり、かつ、先端部の後方が外径及び内径が拡径する形状を有するボールペンチップ(以下、先端部の後方が拡径する形状を有するパイプ式のボールペンチップと呼ぶこともある)が好ましい。
【0057】
前記先端部の後方が拡径する形状を有するパイプ式のボールペンチップは、ボールペンチップ内部の前記ボール抱持室より後方のインキ流路が広く形成されており、潤沢なインキをボール抱持室へ供給できる。このようなボールペンチップを備えるボールペンレフィルは、ペン先からのインキ吐出性を良好とし、光輝性や発色性に優れ、筆跡トギレやカスレが抑制された鮮明な筆跡を形成しやすい。
【0058】
ボールペンチップおよびボールペンチップに抱持されるボールの材質は、ボールや、ボール座の良好な耐摩耗性を考慮して、ステンレス、タングステンカーバイドを基材とする超硬合金、炭化珪素、アルミナ、ジルコニア、および窒化珪素などから選択され、好ましく用いられる。
【0059】
ボール径は0.2~0.7mm、好ましくは0.3~0.5mm、より好ましくは0.3~0.45mmが適用される。
【0060】
ボール径が0.7mm以下、特には0.5mm未満のボールペンレフィルはインキ吐出量が少なく、筆跡の鮮明性を良好としにくいことがある。しかしながら、前記、先端部の後方が拡径する形状を有するパイプ式のボールペンチップは、そのような外径を有するボール備えた場合でもインキ吐出性を良好とし、カスレや途切れが抑制された鮮明な筆跡を形成することを容易とするため、前記範囲のボール径を有するボールと組み合わせて好ましく用いることができる。
【0061】
ボールペンチップには、チップ内にボールの後端を前方に弾発する弾発部材を配していても良い。これにより、筆記時には筆圧によりボールを後退させてインキを流出可能とすることができるとともに、非筆記時にはチップ先端の内縁にボールを押圧させて密接状態とし、不使用時のインキ漏れを抑制することが容易となる。
【0062】
弾発部材としては、例えば、金属細線のスプリング、金属細線のスプリングの一端にス
トレート部(ロッド部)を備えたもの、線状プラスチック加工体等が挙げられ、例えば、
10g以上40g以下の弾発力により押圧可能であるように構成される。
【0063】
ボールペンチップが直接、あるいはホルダーを介して装着されるインキ収容管は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートまたはエチレンビニルアセテート共重合樹脂等の合成樹脂の成形部材が、水蒸気透過性が低く、生産性が良好であるとともに、透明性を有し、充填したインキの視認性に優れることから用いられる。
前記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、直鎖状短鎖分岐ポリエチレン、メタロセン触媒直鎖状短鎖分岐ポリエチレン、高密度ポリエチレンを挙げることができ、ポリプロピレンとしては、ホモポリマーポリプロピレン、ランダムコポリマーポリプロピレン、ブロックコポリマーポリプロピレンを挙げることができ、いずれも好ましく用いることができる。中でも、ポリプロピレンは、強度および耐熱性に優れ、水分透過性が低く、経時的な水分蒸発に伴うインキ増粘が抑制されやすいことから好ましく用いられる。
前記インキ収容管は、前記合成樹脂を押出し成型や射出成型をすることで得られる。
また、前記樹脂の表面は他の材料でコーティングされていても良い。
【0064】
前記合成樹脂からなるインキ収容管は、単層でも良く、多層であっても良いが、インキ収容管は、経時によるインキの劣化を防止する目的で、インキ収容管を多層構造として酸素等の気体の透過を防止する層を有する方が好ましい。さらに、インキがインキ収容管の内壁に付着することを抑制する等の目的で、必要に応じてインキ収容体内面にシリコーン樹脂やフッ素樹脂などを塗布して撥インキ処理をすることもできる。
【0065】
インキ収容管は、2.5~4mmの外径と0.3~1mmの肉厚とを有する。
外径および肉厚が前記範囲内であるインキ収容管は、細身でありつつ、十分なインキ内蔵量と高い強度とを両立させることが可能であるため、前記インキ収容管を備えるボールペンレフィルを、軸筒内に複数のボールペンレフィルを収容してなり、出没機構の作動によっていずれかのボールペンレフィルの筆記先端部が軸筒前端開口部から出没する複合タイプの出没式ボールペンに収容した場合、前記ボールペンの軸筒をスリムな外径としつつ、十分な距離を筆記可能な実用性の高いボールペンとすることができる。
前記インキ収容管を備えるボールペンレフィルは、経時的に、内蔵したインキから水がインキ収容管を透過してレフィル外に揮散しやすいため、水分量の減少に伴う、固形分の凝集やインキの過度な増粘によってインキ吐出性が低下する傾向がある。特に、ボールペンレフィル内のインキが板状光輝性顔料インキのように顔料等の固形分を多く含む場合にはその傾向が顕著であり、インキ吐出性が悪化しやすい。しかしながら、前記インキ組成物は板状光輝性顔料を用いたインキでありながら、長期経時後や、経時的に組成物中の水分量が減少した場合でもインキ粘度の過度な増粘が抑えられるとともに、板状光輝性顔料や着色顔料の良好な分散性が維持されるため、前記インキ組成物を収容した本発明のボールペンレフィルは、前記インキ収容管を備えながらも良好なインキ吐出性が持続し、光輝性と着色顔料の発色性に優れる筆跡を、長期に亘って安定して形成させることができる。
また、前記インキ収容管を備えるボールペンレフィルは、液栓に衝撃が加わったときに液栓が変形しにくいため、ボールペンレフィルが落下したときにレフィル後端からインキが漏れ出すことを抑制することもできる。このためボールペンレフィルは、保管性に優れたものとなる。
なお、インキ収容管の外径は、2.5~3.5mmであることが好ましく、肉厚は、0.5~0.8mmであることが好ましい。
【0066】
更に、インキ収容管内に充填されたインキ組成物の後端部にはインキ逆流防止体(液栓)が配される。
前記インキ逆流防止体は、不揮発性媒体を基油とし、シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、脂肪酸アマイド等の固体を添加することで高粘度化した、粘稠液体である。
基油に用いられる不揮発性媒体としては、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α-オレフィン、α-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等が挙げられ、前記固体を添加したときに高粘度化しやすいこと、また、経時的に前記固体が分離しにくいこと、さらに水蒸気透過性が低く、水分蒸発による経時的なインキ増粘を抑制しやすいことからポリブテンが好ましく用いられる。ポリブテンは、40℃において、1000~10000mm-1の動粘度を有することが好ましく、1500~5000mm-1であることがより好ましく、2000~4000mm-1であることがさらに好ましい。このようなポリブテンを液栓の基油に用いることで、筆記時にインキが吐出されたときに液栓がインキに追従しやすくなり、インキ吐出が阻害されることを抑制しやすくしつつ、ボールペンレフィルが落下し、インキ組成物の荷重が液栓に加わった場合でも液栓が変形してレフィル後端からインキが漏れ出すことを抑制しやすくなる。
インキ逆流防止体は、前記ポリブテンと前記シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、脂肪酸アマイド等とを3本ロールまたはニーダー等の混錬機で混錬することで調整できる。
また、動粘度は、JIS K 2283:2000「原油及び石油製品―動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に従って測定することができる。
【0067】
なお、ボールペンレフィルには前記インキ逆流防止体とともに固体栓を設けて、インキの逆流を抑制することができる。
固体栓としては、例えば樹脂製、例えばポリエチレン製、ポリプロピレン製及びポリメ
チルペンテン製の固体栓が挙げられる。
【0068】
本発明のボールペンレフィルは、キャップ式またはノック式、回転式もしくはスライド式等の出没機構を備え、軸筒の先端孔からペン先を出没可能に構成した出没式のボールペンに装着される。
【0069】
ボールペンに出没式を適用する場合、出没式ボールペンの構造、形状は特に限定されるものではなく、ボールペンレフィルに設けられた筆記先端部が外気に晒された状態で軸筒内に収納されており、出没機構の作動によって軸筒開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。出没機構の操作方法としては、例えば、ノック式、回転式、スライド式等が挙げられる。ノック式は、軸筒後端部や軸筒側面にノック部を有し、ノック部の押圧により、筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成、或いは、軸筒に設けたクリップ部を押圧することにより、筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。回転式は、軸筒後部に回転部を有し、回転部を回すことにより筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。スライド式は、軸筒側面にスライド部を有し、スライドを操作することにより筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成、或いは、軸筒に設けたクリップ部をスライドさせることにより、筆記先端部を軸筒前端開口部から出没させる構成を例示できる。出没式ボールペンは軸筒内に複数のボールペンレフィルを収容してなり、出没機構の作動によっていずれかのボールペンレフィルの筆記先端部が軸筒前端開口部から出没する複合タイプの出没式ボールペン(以降複合タイプの出没式ボールペンと呼ぶ場合がある)であってもよい。
更に、前記軸筒として透明、着色透明、或いは半透明の成形体を用いることにより、インキ色やインキ残量等を確認できる。
【0070】
本発明のボールペンレフィルは、細身でありながらも、光輝性と発色性に優れる、カスレや途切れのない鮮やかな筆跡を長期に亘って形成することができるため、細身のボールペンレフィルが適する、複合タイプの出没式ボールペンに好ましく用いることができる。
【0071】
以下本実施形態に係るボールペンレフィルの一例を図を用いて説明する。
【0072】
・ボールペンレフィル
前記ボールペンレフィルの実施の形態を図1~3に示す。
本実施の形態のボールペンレフィル1は、前端部にボール4を回転可能に抱持したボールペンチップ2と、前記ボールペンチップ2の内部に収容配置されるスプリング5と、該ボールペンチップ2が前部に圧入固着されたホルダー6と、該ホルダーの後部が前端開口部に圧入固着されたインキ収容管7とを備える。
尚、本実施の形態で「前」とはペン先ボール側を指し、「後」とはその反対側を指す。
【0073】
・ボールペンチップ
前記ボールペンチップ2は、チップ本体3とボール4とからなる。前記チップ本体3は、前端にボール4を回転可能に抱持する直円筒状の小径筒部31と、該小径筒部31より後方に一体に連設され且つ後方に向かうに従い漸次拡径するテーパ筒部32と、該テーパ筒部32より後方に一体に連設される直円筒状の大径筒部33とからなる金属製筒体よりなる。前記金属製筒体は、例えば、SUS304、SUS305、SUS321等のオーステナイト系ステンレス鋼により得られる。
【0074】
前記チップ本体3の小径筒部31の前端近傍内面には、内方への押圧変形により、複数(例えば、4個)の内方突出部31bが周方向に等間隔に形成される。前記内方突出部31bによりボール受け座が形成される。また、チップ本体3の前端には、周状に内方に押圧変形されることにより、内向きの前端縁部31aが形成される。前記内方突出部31b(ボール受け座)の前面と前記前端縁部31aの後面との間にはボール4を回転可能に抱持するボール抱持部が形成される。前記内方突出部31bの相互間には、中心部から径方向外方に延び且つ軸方向に貫通するインキ流通孔31cが形成される。即ち、前記ボール受け座には、前記インキ流通孔31cが形成される。前記ボールペンチップ2は、金属製のチップ本体3の前端部にボール受け座を切削加工によって形成するタイプであってもよい。
【0075】
・直円筒状内面
前記内方突出部31bより後方の前記小径筒部31の内面には、直円筒状内面が形成される。前記大径筒部33の内面には、直円筒状内面が形成される。
【0076】
・テーパ状内面
前記テーパ筒部32の内面には、後方に向かうに従い漸次拡径するテーパ状内面(または円錐面状内面)が形成される。
【0077】
・スプリング
前記スプリング5は、前部のロッド部51と、後部のコイル部52とが1本の金属線材(例えば、線径0.11mmのステンレス鋼製線材)により一体に連設される。
【0078】
・ロッド部
前記ロッド部51は、軸方向に直線状に伸び、前記ボール受け座31bのインキ流通孔31cに挿通される。前記ロッド部51の前端がボール4の後面の略中心部に当接され、前記ロッド部51によって、直接、前記ボール4が前方に付勢される。それにより、前記ボール4が前記前端縁部31aの内周面に密接され、チップ本体3の前端からのインキの漏出及びインキの蒸発を防止できる。
【0079】
・コイル部
前記コイル部52は、線材が螺旋状に巻回されて形成される。前記コイル部52の前端部及び後端部には、線材同志が密着する密着巻部が形成される。前記コイル部52の前端部及び後端部を除く中間部には、線材間に隙間を備えた有効巻部が形成される。スプリング5がボール4を前方に付勢する弾発力(具体的にはボール4を後方に0.01mmだけ押圧した際の荷重)は、14グラム~25グラム(好ましくは15グラム~22グラム)の範囲に設定される。
【0080】
・ホルダー
前記ホルダー6は合成樹脂(例えば、ポリプロピレン)の射出成形によって得られる筒状体である。前記ホルダー6は、ボールペンチップ1が取り付けられる先細状の前部61と、インキ収容管7の前端面に当接する鍔部62と、インキ収容管7の前端開口部に圧入される後部63とからなる。前記ホルダー6の前部61の取付孔にチップ本体3の後部が圧入固着される。前記取付孔内面の後端に段部64が突設され、前記段部64にチップ本体3の後端が係止されるとともに、前記段部64にスプリング5の後端(コイル部52の後端)が係止される。
【0081】
・インキ収容管
前記インキ収容管7は、合成樹脂(例えば、ポリプロピレン)の押出成形により得られる、両端が開口された円筒体である。前記インキ収容管7は、2.5~4mmの外径と0.3~1mmの肉厚とを有し、内部には、インキ71と、該インキ71の消費に伴って前進する高粘度流体からなるインキ逆流防止体72が充填される。前記インキ71は、本発明のボールペンレフィルに係る水性インキ組成物である。前記インキ逆流防止体72は、40℃において1000~10000mm-1の動粘度を有するポリブテンを基油とし、固形物を混合してなる高粘度流体が挙げられる。
【0082】
・ボール
前記ボール4は、直径Aが、0.2mm~0.7mm(好ましくは0.3mm~0.5mm、さらに好ましくは0.3mm~0.45mm)の範囲のものが採用される。具体的には、ボール4は、所望する筆跡幅に応じて複数種のサイズのものが用意され、例えば、直径が0.2mm、0.25mm、0.3mm、0,4mm、0,5mm、0.7mmのものが採用される。
【0083】
前記ボール抱持部のボール4の軸方向の移動可能量は、円滑なインキ流出性が得られる点で、0.02mm~0.05mmの範囲が好ましい。前記ボール抱持部のボール4の軸方向の移動可能量は、ボール4の直径Aにより異なり、ボール4直径Aの5%~15%(好ましくは8%~12%)の範囲に設定され、それにより、円滑なインキ流出性と十分なボール露出量が得られる。
【0084】
前記ボール4の材料には、ステンレス、タングステンカーバイドを基材とする超硬合金、炭化珪素、アルミナ、ジルコニア、および窒化珪素などが用いられる。
前記ボール4の軸方向前方への露出量Eは、ボール4の直径Aの22%~32%の範囲に設定される。前記ボール4の軸方向前方への露出量Eは、スプリングの前方付勢に抗してボール4を後方に押圧し、ボール4が各々の内方突出部31b(ボール受け座)に接触した状態で測定される。直径Aが前記範囲(特にボール4の直径Aが0.3mm~0.45mm)において、直径が異なる複数種のボール4を採用し複数種のボールペンチップ2を得る場合、共通のスプリング6が採用される。
【0085】
・小径筒部
ボール4の直径Aが前記範囲(特にボール4の直径Aが0.3mm~0.45mm)の場合において、前記小径筒部31の直円筒状内面の内径Bは、ボール4の直径Aより大きく設定される。具体的には、前記小径筒部31の内径Bは、ボール4の直径Aより、0.03mm~0.06mmだけ大きく設定される。
【0086】
前記小径筒部31の内方突出部より後方の直円筒状内面の軸方向の長さFは、ボール4の直径Aより小さく設定される。それにより、ボール4の後面に潤沢にインキが供給され、円滑なインキ流出性が得られる。
【0087】
・テーパ筒部
ボール4の直径Aが前記範囲(特にボール5の直径Aが0.3mm~0.45mm)の場合において、前記テーパ筒部32のテーパ状内面の角度α(軸線を中心とした円錐面状内面の角度α)は、30度~40度に設定される。前記テーパ状内面の軸方向の長さGは、ボール4の直径Aより大きく設定される。具体的には、前記テーパ状内面の軸方向の長さGは、ボール4の直径Aの1.1倍~5.0倍(好ましくは2倍~4.5倍)に設定される。前記テーパ筒部32により、円滑なインキ流通性が得られるよう、小径筒部31と大径筒部33とが適正に接続される。
【0088】
・大径筒部
ボール4の直径Aが前記範囲(特にボール4の直径Aが0.3mm~0.45mm)の場合において、前記大径筒部33の直円筒状内面の内径Cは、0.9mm以上(好ましくは1mm以上)に設定され、前記大径筒部33の直円筒状内面の外径Dは、1.2mm以上(好ましは1.3mm以上)に設定される。前記大径筒部333の直円筒状内面の軸方向の長さHは、4.0mm~5.0mmの範囲に設定される。
【0089】
また、ボール4の直径Aが前記範囲(特にボール4の直径Aが0.3mm~0.45mm)において、異なる直径の複数種のボール4を採用し複数種のボールペンチップ1を得る場合、各々の大径筒部33の内径Cが同一に設定され、且つ、各々の大径筒部33の外径Dが同一に設定され、それにより、ホルダー6に対するボールペンチップ2の取付部の形状が共通化でき、製造工程の簡略化が可能となる。
【0090】
・まとめ
本実施の形態のボールペンレフィル1は、少なくとも以下の構成を要件とする。
本実施の形態のボールペンレフィル1は、前端部にボール4を回転可能に抱持したボールペンチップ2と、ボールペンチップ2の内部に収容配置されるスプリング5と、該ボールペンチップ2の後部63が固着されたホルダー6と、該ホルダー6の後部63がその前端開口部に固着されたインキ収容管7とを備え、
インキ収容管7は、合成樹脂からなり、
インキ収容管7は、2.5~4mmの外径と0.3~1mmの肉厚とを有し、
インキ収容管7の内部に、インキ71と、該インキ71の消費に伴って前進する高粘度流体からなるインキ逆流防止体72とが充填され、
ボールペンチップ2は、前端にボール4が回転可能に抱持された直円筒状の小径筒部31と、該小径筒部31より後方に一体に連設され且つ後方に向かうに従い漸次拡径するテーパ筒部32と、該テーパ筒部32より後方に一体に連設される直円筒状の大径筒部33とからなる金属製筒体よりなりチップ本体3を備え、
ボール4を前方に付勢するスプリング5の弾発力は、14g~25グラムの範囲に設定され、
ボール4の直径Aは,0.2mm~0.7mmの範囲に設定され、
ボール抱持部のボール4の軸方向の移動可能量は、0.02mm~0.05mmの範囲に設定され、
ボール受け座31bより後方の小径筒部31の直円筒状内面の内径Bは、ボール4の直径Aより0.03mm~0.06mmだけ大きく設定され、
ボール受け座31bより後方の小径筒部31の直円筒状内面の軸方向の長さFは、ボール4の直径Aより小さく設定され、
大径筒部33の直円筒状内面の内径Cは、0.9mm以上に設定されている。
【実施例
【0091】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の表に実施例及び比較例のボールペンレフィル用光輝性インキの組成を示す。尚、表中の組成の数値は質量部を示す。
また、平均粒子径は、堀場製作所製レーザー式粒度分布測定機LA-300(体積基準)を用いて測定し、そのメジアン径を平均粒子径とした値である。その際、板状光輝性顔料の粒子径については、粒度分布図における粒子径軸の最小値を0.5μmとして計算した値を用いている。
【0092】
【表1】
【0093】
表中の原料の内容について注番号に沿って説明する。
(1)アルミ粉ペースト、東洋アルミニウム(株)製、商品名:アルペーストWXM-0630(アルミ粉含有率60質量%、平均粒子径:7μm)
(2)アルミ粉ペースト、東洋アルミニウム(株)製、商品名:アルペーストEMERAL EMR-D5660H(アルミ粉含有率60質量%、平均粒子径:9μm)
(3)パール顔料、メルクジャパン社製、商品名:イリオジン221(平均粒子径:15μm)
(4)平均粒子径0.2μmの青色顔料水分散体(固形分:20質量%)
(5)平均粒子径0.2μmのマゼンダ色顔料分散体(固形分:20質量%)
(6)平均粒子径0.2μmの黄色顔料分散体(固形分:16質量%)
(7)保土ヶ谷化学工業(株)製、商品名:フロキシン
(8)オレフィン系重合物エマルション[水分散体、住友精化(株)製、商品名:ザイクセンL、有効成分:25質量%)
(9)ウレタン系重合物エマルション[水分散体、楠本化成(株)製、商品名:NeoRez R-2170、有効成分:40質量%]
(10)アクリル酸系重合物エマルション[水分散体、楠本化成(株)製、商品名:NeoCryl A-639、有効成分:42質量%]
(11)アクリル酸系重合物エマルション[楠本化成(株)製、商品名:NeoCryl A-6016、有効成分:45質量%]
(12)アクリル酸とスルホン酸系モノマーとの共重合体のナトリウム塩の水溶液[東亞合成(株)製、商品名:アロンA-6017(固形分:40質量%)]
(13)ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸[第一工業製薬(株)製、商品名:プライサーフM208F]
(14)サクシノグリカン
(15)デキストリン[三和澱粉工業(株)製、商品名:サンデック#100]
【0094】
インキの調製
水に各成分を添加して、20℃で、ディスパーにて2000rpm、1時間攪拌した後、剪断減粘性付与剤を加えて更に1時間攪拌することで各インキを調製した。
【0095】
インキ逆流防止体の調製
基油としてポリブテン98.5部中に、増粘剤として脂肪酸アマイド1.5部を添加した後、3本ロールにて混練してインキ逆流防止体を得た。
【0096】
ボールペンレフィルの作製
前記実施例及び比較例のインキ組成物を用いて、前記実施形態に係るボールペンレフィルを作製した。なお、インキ収容管はポリプロピレン樹脂からなり、前記インキ収容管の外径は3.07mmであり、肉厚は0.69mmであった。
ボール径は、0.4mmであり、ボールペンに内蔵したインキ量は、0.15gであった。
インキ逆流防止体(液栓)は、ポリブテン98.5部と脂肪酸アマイド1.5部とを3本ロールにて混錬し、調整した。
【0097】
ボールペンの作製
前記ボールペンレフィルを、商品名:HI-TEC-C COLETO[(株)パイロットコーポレーション製]用の外装(品番:LHKC15C-NC、(株)パイロットコーポレーション製)に装着し、ボールペンを作製した。
【0098】
前記ボールペンの作製で作製したボールペンを用いて以下の試験を行った。
・筆跡のカスレおよび途切れの評価
筆記可能であることを確認したボールペンを、自動筆記試験機にて、JIS P3201筆記用紙Aに螺旋状の丸を20丸連続筆記し、筆跡の状況を確認した(各10本ずつ試験)。尚、前記試験機は、筆記荷重100g、筆記角度70°、筆記速度4m/分の条件で使用した。
〇…カスレ、途切れのない良好な筆跡を形成できる。
△…カスレ、途切れがわずかに確認される。
×…カスレや途切れが顕著である。
・筆跡の光輝性および発色性の評価
黒紙に手書きで螺旋状の丸を10個連続筆記した筆跡を目視により確認し、光輝性および色相を官能評価した。
◎…金属光沢調の輝きと色相が鮮明である。
〇…金属光沢調の輝きが鮮明であり、色相が視認できる。
△…金属光沢調の輝きは鮮明であるものの、色相が若干視認しにくい。
×…金属光沢調の輝きは鮮明であるものの、色相が不明瞭である。
・保管性の評価
筆記可能であることを確認したボールペンを50℃下の恒温槽で30日間放置した後、手書きで螺旋状の連丸を筆記し、筆跡を目視で確認した。なお、筆記用紙は前記筆記用紙Aであり、筆記荷重、筆記角度および筆記速度は、前記筆記試験と同条件とした。
〇…初期と同様に、筆跡にカスレ、途切れが確認されない。
△…初期と比較して筆跡のカスレ、途切れを視認しやすいものの、実用上問題はない。
×…筆記不能である。または、初期と比較して筆跡のカスレ、途切れが顕著である。
前記各試験の結果を以下の表に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
(応用例)
多色ボールペンの作製
実施例5、6および10のインキ組成物を内蔵した各ボールペンレフィルを、商品名:HI-TEC-C COLETO[(株)パイロットコーポレーション製]用の外装(品番:LHKC15C-NC、(株)パイロットコーポレーション製)に装着し、複合タイプの出没式ボールペン(スライド式)を作製した。
前記ボールペンは、各ボールペンレフィルの着脱操作およびスライド操作を容易に行うことができ、カスレや途切れがなく、赤、青、黄色の色相が鮮やかな、光輝性に優れる筆跡を長期に亘って形成することができた。
【符号の説明】
【0101】
図1~3に示す、ボールペンレフィルの符号
1 ボールペンレフィル
2 ボールペンチップ(ペン先)
3 チップ本体 31 小径筒部 31a 前端縁部 31b 内方突出部
31c インキ流通孔 32 テーパ筒部 33 大径筒部
4 ボール
5 スプリング 51 ロッド部 52 コイル部
6 ホルダー 61 前部 62 鍔部 63 後部 64 段部
7 インキ収容管 71 インキ 72 インキ逆流防止体(液栓)
A ボール4の直径
B 小径筒部31の直円筒状内面の内径
C 大径筒部33の内径
D 大径筒部33の外径
E ボール4の軸方向前方への露出量
F 小径筒部31の内方突出部より後方の直円筒状内面の軸方向の長さ
G テーパ状筒部32のテーパ内面の軸方向の長さ
H 大径筒部33の直円筒状内面の軸方向の長さ
図1
図2
図3