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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
G03G15/20 530
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019162957
(22)【出願日】2019-09-06
(65)【公開番号】P2021043247
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】道田 一洋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亞弘
(72)【発明者】
【氏名】若津 康平
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-178315(JP,A)
【文献】特開2013-235181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回転体と、
前記第1の回転体の外周面に接触する第2の回転体と、
前記第1の回転体の内周側に位置し、前記第1の回転体を支持して前記第1の回転体と前記第2の回転体との接触領域であるニップ領域を形成するニップ形成部材と、
前記第1の回転体の内部空間に配置され、前記ニップ形成部材によって保持されるヒータと、を備え、記録材に担持されたトナー像を前記ニップ領域において加熱する定着装置であって、
前記ニップ形成部材が、
前記ニップ領域の内側、かつ記録材の搬送方向の下流側の端部の近傍に位置し、前記第1の回転体の内周面と当接する第1の凸部と、
前記ニップ領域の外側、かつ前記搬送方向の下流側に位置し、前記第1の回転体の前記内周面と当接する第2の凸部と、を有し、
前記ヒータが前記第1の回転体の前記内周面と接している前記ニップ領域における前記第1の回転体と前記第2の回転体との接触面を通り、当該接触面と平行に伸びるニップ接線に対して直交する方向において、前記第2の凸部の先端と前記ニップ接線との間の距離が、前記第1の凸部の先端と前記ニップ接線との間の距離よりも大きく、
前記第2の凸部が、前記ニップ接線を越えずに、前記直交する方向において前記第2の回転体の方へ延びており、
前記第2の凸部の先端部の曲率半径が、前記第1の回転体の内周円の半径よりも小さく、
前記第1の凸部が、前記ニップ接線を越えずに、前記直交する方向において前記第2の回転体の方へ延びていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
第1の回転体と、
前記第1の回転体の外周面に接触する第2の回転体と、
前記第1の回転体の内周側に位置し、前記第1の回転体を支持して前記第1の回転体と前記第2の回転体との接触領域であるニップ領域を形成するニップ形成部材と、
前記第1の回転体の内部空間に配置され、前記ニップ形成部材によって保持されるヒータと、を備え、記録材に担持されたトナー像を前記ニップ領域において加熱する定着装置であって、
前記ニップ形成部材が、
前記ニップ領域の内側、かつ記録材の搬送方向の下流側の端部の近傍に位置し、前記第1の回転体の内周面と当接する第1の凸部と、
前記ニップ領域の外側、かつ前記搬送方向の下流側に位置し、前記第1の回転体の前記内周面と当接する第2の凸部と、を有し、
前記ヒータが前記第1の回転体の前記内周面と接している前記ニップ領域における前記第1の回転体と前記第2の回転体との接触面を通り、当該接触面と平行に伸びるニップ接線に対して直交する方向において、前記第2の凸部の先端と前記ニップ接線との間の距離が、前記第1の凸部の先端と前記ニップ接線との間の距離よりも大きく、
前記第2の凸部が、前記ニップ接線を越えずに、前記直交する方向において前記第2の回転体の方へ延びており、
前記第2の凸部の先端部の曲率半径が、前記第1の回転体の内周円の半径よりも小さく、
前記第1の回転体の長手方向の両端部に挿入され、前記両端部の少なくとも一部を支持する規制部材を更に有し、
前記長手方向の中央部において、前記第2の凸部が前記搬送方向の下流側に湾曲して配置されることを特徴とする定着装置。
【請求項3】
前記第1の凸部が、前記ニップ接線を越えて、前記直交する方向において前記第2の回転体の方へ延びていることを特徴とする請求項に記載の定着装置。
【請求項4】
前記第1の凸部が、前記ニップ接線を越えずに、前記直交する方向において前記第2の回転体の方へ延びていることを特徴とする請求項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記第1の回転体の長手方向の両端部に挿入され、前記両端部の少なくとも一部を支持する規制部材を更に有し、
前記長手方向の中央部において、前記第2の凸部が前記直交する方向における前記第2の回転体の方へ延伸して配置されることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項6】
前記ヒータが、第1の発熱体と、前記第1の発熱体よりも長手方向の長さが短い第2の発熱体と、前記第2の発熱体よりも前記長手方向の長さが短い第3の発熱体と、を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項7】
前記ヒータは、前記第1の発熱体、前記第2の発熱体、及び前記第3の発熱体が配置される基板を備え、
前記第1の発熱体は、前記基板の短手方向の一方の端部に配置され、
前記第1の発熱体と対称となるように前記基板の前記短手方向の他方の端部に配置された第4の発熱体を有し、
前記第2の発熱体及び前記第3の発熱体は、前記基板の前記短手方向において前記第1の発熱体と前記第4の発熱体との間に配置されることを特徴とする請求項6に記載の定着装置。
【請求項8】
記録材にトナー像を形成する画像形成手段と、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の定着装置と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関し、特に、レーザプリンタ、複写機、ファクシミリ等の電子写真記録方式を利用する画像形成装置における定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置における定着装置として、加熱部材である定着フィルム内部に加熱源を配置し、加圧部材である加圧ローラと定着フィルム間にて定着ニップ部を形成するものが、例えば特許文献1に開示されている。この定着装置は、定着フィルムの熱容量が小さいので、定着フィルムを瞬時に高温に到達させることができる。
【0003】
また、例えば特許文献2には、特許文献1と同様に定着フィルムと加圧ローラとを有し、定着ニップ部に定着フィルムの内周面と接触する定着ニップ形成部材を有する定着装置が開示されている。この定着ニップ形成部材は、用紙の搬送方向の下流側かつ定着ニップ部の領域(以下、定着ニップ領域という)外に突起物を有しており、用紙の分離性能を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-114621号公報
【文献】特開2012-002956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
定着ニップ領域を用紙が通過すると、用紙上に形成されたトナー像は加熱されながら定着フィルムと接触する。加熱されたトナーは粘性が高まり、定着フィルムの外表面(以下、定着フィルム外表面という)とトナー像とが接着する傾向がある。この接着力が高すぎる場合、用紙が定着フィルム外表面に接着したまま貼りつき、用紙が定着フィルム外表面から分離できない場合がある。特許文献1の定着装置において、定着フィルムは真円に近い楕円形状であり、定着フィルム外表面の曲率半径はいずれの箇所でもほぼ同じなので、分離性能の向上が課題となる。
【0006】
また、画像形成装置には、排出された用紙の積載性も求められる。用紙の表面側に加熱源を配置する定着構成において、用紙の表面の方が裏面より高温に達する。このような場合、用紙の裏面側が内側となる円筒状に用紙が丸まりやすい。丸まり方が強い場合、用紙を排出部に積載できないことがある。特許文献2の定着装置において、ニップ形成部材は、搬送方向の下流側かつ定着ニップ領域の外側に突起物を備え、その突起物は加圧ローラの方向に大きく張り出している。用紙が加圧ローラの回転方向に沿って排出されるので、加熱によって丸まる方向と、排出方向によってつけられるくせの方向とが同一方向となっており、高温高湿下の条件で用紙が円筒状に丸まる場合がある。
【0007】
本発明は、このような状況のもとでなされたものであり、用紙の分離性能及び排出された用紙の積載性を両立させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、以下の構成を備える。
【0009】
(1)第1の回転体と、前記第1の回転体の外周面に接触する第2の回転体と、前記第1の回転体の内周側に位置し、前記第1の回転体を支持して前記第1の回転体と前記第2の回転体との接触領域であるニップ領域を形成するニップ形成部材と、前記第1の回転体の内部空間に配置され、前記ニップ形成部材によって保持されるヒータと、を備え、記録材に担持されたトナー像を前記ニップ領域において加熱する定着装置であって、前記ニップ形成部材が、前記ニップ領域の内側、かつ記録材の搬送方向の下流側の端部の近傍に位置し、前記第1の回転体の内周面と当接する第1の凸部と、前記ニップ領域の外側、かつ前記搬送方向の下流側に位置し、前記第1の回転体の前記内周面と当接する第2の凸部と、を有し、前記ヒータが前記第1の回転体の前記内周面と接している前記ニップ領域における前記第1の回転体と前記第2の回転体との接触面を通り、当該接触面と平行に伸びるニップ接線に対して直交する方向において、前記第2の凸部の先端と前記ニップ接線との間の距離が、前記第1の凸部の先端と前記ニップ接線との間の距離よりも大きく、前記第2の凸部が、前記ニップ接線を越えずに、前記直交する方向において前記第2の回転体の方へ延びており、前記第2の凸部の先端部の曲率半径が、前記第1の回転体の内周円の半径よりも小さく、前記第1の凸部が、前記ニップ接線を越えずに、前記直交する方向において前記第2の回転体の方へ延びていることを特徴とする定着装置。
(2)第1の回転体と、前記第1の回転体の外周面に接触する第2の回転体と、前記第1の回転体の内周側に位置し、前記第1の回転体を支持して前記第1の回転体と前記第2の回転体との接触領域であるニップ領域を形成するニップ形成部材と、前記第1の回転体の内部空間に配置され、前記ニップ形成部材によって保持されるヒータと、を備え、記録材に担持されたトナー像を前記ニップ領域において加熱する定着装置であって、前記ニップ形成部材が、前記ニップ領域の内側、かつ記録材の搬送方向の下流側の端部の近傍に位置し、前記第1の回転体の内周面と当接する第1の凸部と、前記ニップ領域の外側、かつ前記搬送方向の下流側に位置し、前記第1の回転体の前記内周面と当接する第2の凸部と、を有し、前記ヒータが前記第1の回転体の前記内周面と接している前記ニップ領域における前記第1の回転体と前記第2の回転体との接触面を通り、当該接触面と平行に伸びるニップ接線に対して直交する方向において、前記第2の凸部の先端と前記ニップ接線との間の距離が、前記第1の凸部の先端と前記ニップ接線との間の距離よりも大きく、前記第2の凸部が、前記ニップ接線を越えずに、前記直交する方向において前記第2の回転体の方へ延びており、前記第2の凸部の先端部の曲率半径が、前記第1の回転体の内周円の半径よりも小さく、前記第1の回転体の長手方向の両端部に挿入され、前記両端部の少なくとも一部を支持する規制部材を更に有し、前記長手方向の中央部において、前記第2の凸部が前記搬送方向の下流側に湾曲して配置されることを特徴とする定着装置。
【0010】
(2)記録材にトナー像を形成する画像形成手段と、上記(1)の定着装置と、を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、用紙の分離性能及び排出された用紙の積載性を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の定着装置の断面図
図2】実施例1のニップ形成部材の断面図
図3】実施例1のニップ形成部材の斜視図
図4】比較例1のニップ形成部材の断面図
図5】比較例2のニップ形成部材の断面図
図6】比較例3のニップ形成部材の断面図
図7】実施例1~4の画像形成装置の断面図
図8】実施例1の用紙積載性の説明図
図9】比較例2の用紙積載性の説明図
図10】実施例1の分離性能及び用紙積載性の評価結果
図11】実施例2の分離性能及び用紙積載性の評価結果
図12】実施例3の定着装置の断面及び斜視図
図13】実施例3の定着装置の斜視図
図14】実施例3のニップ形成部材の模式図
図15】実施例3のニップ形成部材のA-A’断面図
図16】実施例3のニップ形成部材のB-B’断面図
図17】実施例4のニップ形成部材の模式図
図18】実施例4のニップ形成部材のA-A’断面図
図19】実施例4のニップ形成部材のB-B’断面図
図20】実施例5のヒータの模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
[定着装置]
本発明は、レーザプリンタ、複写機、ファクシミリ等の電子写真記録方式を利用する画像形成装置における定着装置に関する。実施例1の定着装置1の断面図を図1に示す。定着装置1は、円筒状の回転可能な第1の回転体としての定着フィルム2と、定着フィルム2と共に定着ニップ部を形成する第2の回転体としての加圧ローラ3、ヒータ4、ヒータ4を保持するニップ形成部材5と、を有する。ニップ形成部材5は、定着フィルム2の内周側に配置され、定着ニップ部において定着フィルム2を支持する。定着装置1は、定着装置1の長手方向の強度を保持するステー6を更に有する。定着装置1の長手方向は記録材としての用紙の搬送方向に略直交する方向でもある。定着ニップ部は、ニップ形成部材5によって形成される、定着フィルム2と加圧ローラ3との接触領域であるニップ領域に形成される。
【0015】
定着フィルム2は、膜厚50μmのポリイミド基材の上に、膜厚200μmのシリコーンゴム層、その上に、膜厚20μmのPFA離型層で構成される。加圧ローラ3は外径13mmのSUM芯金、その上に膜厚3.5mmのシリコーンゴム弾性層、更にその上に膜厚40μmのPFA離型層で構成される。駆動源(不図示)により、加圧ローラ3を回転させ、加圧ローラ3により付勢される定着フィルム2は加圧ローラ3の駆動を受け従動回転する。
【0016】
ヒータ4はニップ形成部材5に保持され、定着フィルム2の内周面とヒータ4の表面とが接触する。ステー6は、不図示の手段によって両端が加圧され、その加圧力はニップ形成部材5、定着フィルム2を介して加圧ローラ3が受ける。これにより、定着フィルム2と加圧ローラ3とが押圧接触する定着ニップ部を形成する。ニップ形成部材5は剛性・耐熱性・断熱性を有する必要があり、液晶ポリマーで形成される。
【0017】
ヒータ4は、アルミナなどで形成された板状のセラミック基板の上に、銀とパラジウムが主成分のヒータとで形成される。セラミック基板の寸法は厚みt=1mm、幅W=6.3mm、長さl=280mmである。セラミック基板上のヒータが発熱する。ヒータ4の裏面には、温度検知手段であるサーミスタ7と安全素子であるサーモスイッチ(不図示)が接触して配置される。サーミスタ7はチップ抵抗式のサーミスタである。サーミスタ7のチップ抵抗を検出し、サーミスタ7により検出された結果はヒータ4の温度制御に使用される。セラミック基板としてはアルミナ(Al)、窒化アルミ(AlN)、ジルコニア(ZrO)、炭化ケイ素(SiC)等が広く知られている。中でも、アルミナ(Al)は価格的にも安く工業的に入手容易である。また、基板には、強度面に優れる金属を用いてもよく、金属基板としては、ステンレス(SUS)が価格的にも強度的にも優れており好適に用いられる。基板としてセラミック基板、金属基板のいずれを用いる場合においても、導電性を有する場合は絶縁層を設けて使用すればよい。
【0018】
サーミスタ7は過剰昇温も検出できる。サーモスイッチはバイメタルサーモスイッチであり、ヒータ4とサーモスイッチは電気的に接続されている。サーモスイッチがヒータ4裏面の過剰昇温を検知すると、サーモスイッチ内部のバイメタルが動作し、ヒータ4に供給される電力を遮断することができる。
【0019】
[ニップ形成部材]
図2(a)は実施例1のニップ形成部材5の断面を示す。定着フィルム2と加圧ローラ3とが接触する領域をニップ領域N1、定着フィルム2とヒータ4とが接触する領域をニップ領域N2とする。ニップ領域N2の接線をニップ接線Wとし、ニップ接線Wと平行な方向をX方向(図2の紙面において右方向(搬送方向と逆方向)がプラス)、図2の紙面上、ニップ接線Wと垂直な方向をY方向(図2の紙面において上方向がプラス)とする。ニップ接線Wは、ヒータ4が定着フィルム2の内周面と接しているニップ領域N2における定着フィルム2と加圧ローラ3との接触面を通り、当該接触面と平行に伸びる直線である。
【0020】
ニップ形成部材5は第1の凸部51と、第2の凸部52と、を備える。第1の凸部51は、用紙の搬送方向においてヒータ4よりも下流側に位置し、かつ、定着フィルム2を挟んで加圧ローラ3と接触する凸部である。第1の凸部51は、ニップ領域N1内、かつ搬送方向の下流側のニップ領域N1の端部の近傍に位置する。第1の凸部51は、ニップ接線Wに略直交する方向において、加圧ローラ3の方(Y軸方向マイナス側)へ延びて(突出して)いる。第1の凸部51は、定着フィルム2の内周面を押圧し、押圧されている個所における定着フィルム2の外表面の曲率半径を変化させる。第1の凸部51は、用紙が定着ニップ部から排出される直前の位置に配置し、高い圧力(ピーク圧)を用紙に付与し、トナー像を用紙に固着させる機能を有する。第1の凸部51は、定着ニップ部の、搬送方向における下流側の端部近傍において、定着フィルム2の内周面を加圧ローラ3へ向けて押圧する。
【0021】
第2の凸部52は、搬送方向においてヒータ4及び第1の凸部51よりも下流側に位置し、かつ、定着フィルム2の内周面と当接し、加圧ローラ3から圧を受けない、言い換えれば定着フィルム2を介して加圧ローラ3とは接しない凸部である。第2の凸部52は、ニップ領域の外側、かつ搬送方向の下流側に位置する。第2の凸部52は、ニップ接線Wに略直交する方向において、加圧ローラ3の方(Y軸方向マイナス側)へ延びている。第2の凸部52は、定着フィルム2を挟んで加圧ローラ3と接触しない。第2の凸部52は、用紙が定着ニップ部から排出される直後の位置において、定着フィルム2の内周面を押圧して定着フィルム2に変曲点を付与することで、定着フィルム2の外表面の曲率半径を小さくできる。これにより、第2の凸部52は、定着フィルム2から用紙を分離させる機能を有する。第1の凸部51と第2の凸部52との間に定着フィルム2の内周面とニップ形成部材5とが当接せず、かつ、定着フィルム2の外表面と加圧ローラ3とが接触しない空間Rを設けることで、定着フィルム2を第2の凸部52に巻きつくように接触させる。これにより、定着フィルム2が第2の凸部52により確実に接触できるため、用紙の定着フィルム2からの分離性能を安定して付与できる。ここで、ニップ領域N1は約8mm、ニップ領域N2は約6mmである。
【0022】
図2(b)は実施例1のニップ形成部材5の搬送方向の下流側における、第1の凸部51及び第2の凸部52を含む図2(a)の部分拡大図である。第1の凸部51において、ニップ領域N1内に位置し、かつ、加圧ローラ3側(Y軸方向マイナス側)に最も張り出している点を第1の凸部51の頂点511とする。第2の凸部52において、加圧ローラ3側(Y軸方向マイナス側)に最も張り出している点を第2の凸部52の頂点521とする。
【0023】
第1の凸部51は、第2の凸部52よりも搬送方向の上流側(X方向プラス側)に位置し、第1の凸部51の頂点511と第2の凸部52の頂点521との間のX方向における距離X1は例えば3mmである。第1の凸部51はニップ接線Wを越えて(Y方向マイナス側に)侵入し、第1の凸部51の頂点511のニップ接線Wに対する侵入量Y1は例えば0.2mmである。ここで、第1の凸部51の頂点511のニップ接線Wに対する侵入量Y1とは、ニップ接線Wに対して略直交する方向における、第1の凸部51の頂点511とニップ接線Wとの間の距離である。その一方、第2の凸部52はニップ接線Wに到達することなく、ニップ接線Wと間隔を有して配置され、第2の凸部52の頂点521からニップ接線Wまでの距離(最小退避量)Y2は例えば0.8mmである。ここで、第2の凸部52の頂点521のニップ接線Wまでの距離(最小退避量Y2)とは、ニップ接線Wに対して略直交する方向における、第2の凸部52の頂点521とニップ接線Wとの間の距離である。
【0024】
第2の凸部52の先端部分は長手方向に略直交する方向における断面形状が半径4mmの半円形状であり、定着フィルム2の内周面と当接する領域の曲率半径R522は4mmである。定着フィルム2は内周円の半径が9mmの略円筒形状であり、外表面の曲率半径は基本的には約9mmである。曲率半径の小さい第2の凸部52を定着フィルム2の内周面に押圧接触させ、押圧箇所における定着フィルム2の表面の曲率半径を小さくすることで、用紙の定着フィルム2からの分離性能を高めることができる。第2の凸部52の曲率半径は、定着フィルム2の内周円の半径より小さいことが好ましい。ここで、定着フィルム2の内周円の半径とは、円筒状の定着フィルム2の円筒が延びる方向に直交する断面において、定着フィルム2が形成する略円形に内接する最大の円の半径である。
【0025】
図3(a)は、実施例1の定着装置1の斜視図である。加圧ローラ3の芯軸に平行な方向をZ方向(図3の紙面において上方向がプラス)として定義する。図3(b)は、実施例1のニップ形成部材5の斜視図である。第1の凸部51及び第2の凸部52は、いずれもZ方向に延びるように、連続的に形成されている。
【0026】
以上より、ニップ領域N1外に配置した第2の凸部52を定着フィルム2内の周面に接触させることで、定着フィルム2の表面を湾曲させ、定着フィルム2の表面の曲率半径を小さくすることができる。これにより、定着フィルム2から用紙を容易に分離することが可能になる。
【0027】
また、第2の凸部52は、第1の凸部51よりニップ接線Wから加圧ローラ3とは逆方向(Y軸方向プラス側)に遠ざけて配置されており、ニップ領域N1から排出された用紙は、加圧ローラ3とは逆方向(Y軸方向プラス側)に向かって、傾斜して排出される。これは、加熱によって用紙が丸まる向きとは逆向きに用紙にくせをつけて排出することになるため、用紙の丸まり方は大幅に緩和され、用紙の積載性を高めることができる。
【0028】
[効果]
実施例1の効果を確認するために、ニップ形成部材5の形状が異なる比較例1、比較例2、比較例3との比較により、(i)用紙の分離性能、及び(ii)排出された用紙の積載性を確認した。
【0029】
(比較例1)
図4(a)に比較例1のニップ形成部材60の断面図を示す。図4(b)は、搬送方向の下流側における、第1の凸部61を含む図4(a)の部分拡大図である。図4(a)において、ニップ形成部材60は第1の凸部61を有する。比較例1において、ニップ領域N1、N2は実施例1と同じであり、それぞれニップ領域N1は約8mm、ニップ領域N2は約6mmである。図4(b)において、第1の凸部61の頂点611は、ニップ接線Wを越えて侵入しており、その侵入量Y3は0.2mmである。実施例1のニップ形成部材5とは異なり、ニップ形成部材60は第2の凸部を備えていない。
【0030】
(比較例2)
図5(a)に比較例2のニップ形成部材70の断面図を示す。図5(b)は、搬送方向の下流側における、第1の凸部71及び第2の凸部72を含む図5(a)の部分拡大図である。比較例2において、ニップ領域N1、N2は実施例1と同じであり、それぞれニップ領域N1は約8mm、ニップ領域N2は約6mmである。図5(b)において、第1の凸部71の頂点711の侵入量Y4は0.2mmである。第2の凸部72は第1の凸部71より搬送方向の下流側に配置され、第1の凸部71の頂点711と第2の凸部72の頂点721との間の距離X2は3mmである。第2の凸部72の頂点721は、ニップ接線Wを越えて交差し、Y方向マイナス側に侵入しており、侵入量Y5は0.6mmである。つまり、第2の凸部72の方が第1の凸部71よりも、更にヒータ4の表面よりも、加圧ローラ3側に突出する点が、実施例1とは異なる。
【0031】
(比較例3)
図6(a)に比較例3のニップ形成部材80の断面図を示す。図6(b)は、搬送方向の下流側における、第1の凸部81及び第2の凸部82を含む図6(a)の部分拡大図である。比較例3において、ニップ領域N1、N2は実施例1と同じであり、それぞれニップ領域N1は約8mm、ニップ領域N2は約6mmである。図8(b)において、第1の凸部81の頂点811の侵入量Y6は0.2mmである。第2の凸部82の頂点821の最小退避量も実施例1と同じであり、最小退避量Y7は0.8mmである。第2の凸部82は第1の凸部81より搬送方向の下流側に配置され、第1の凸部81と第2の凸部82との間の距離X3は3mmである。実施例1と異なる点は、第2の凸部82の先端部分の曲率半径R822が10mmで、定着フィルム2の内周の半径9mmよりも大きいということである。
【0032】
(i)用紙の分離性能
用紙の分離性能について、実施例1、比較例1~3の構成にて比較した。定着フィルム2と加圧ローラ3とで形成される定着ニップ部に、トナー像が定着フィルム2と接触する向きで用紙を突入させた。定着ニップ部から排出された用紙が定着フィルム2から分離されたかどうかを確認した。
【0033】
試験条件について以下に記す。試験室の温度を30℃、湿度を80%とした。用紙は坪量60g/m、厚さ81μmのキヤノン製CS-060FのA4用紙を使用した。定着装置1内のサーミスタ7が220℃を維持するよう定着装置1に投入する電力を制御した。駆動源(不図示)より加圧ローラ3を回転させ、用紙を200mm/secで搬送させた。先後端余白5mm、左右余白5mm、マゼンタ色のトナーを0.5mg/cm、シアン色のトナーを0.5mg/cmの密度にて重ねて用紙上に形成した。ここで先後端とは用紙の搬送方向の下流側(先端)の端部と上流側(後端)の端部をいう。
【0034】
用紙の分離性能について確認結果を記す。実施例1、比較例2は用紙を分離することができた。その一方、比較例1、比較例3は用紙を分離できなかった。分離性能の試験結果について考察する。実施例1及び比較例2では、曲率半径が小さい第2の凸部52、72を有し、定着フィルム2の内周面に押圧接触させている。押圧箇所において定着フィルム2の表面の曲率半径を大幅に小さくすることができ、その域にて用紙を分離することが可能になった。一方、比較例1では第2の凸部を有しておらず、定着フィルム2の表面の曲率半径を小さくできず、用紙を分離することが不可能であった。比較例3の第2の凸部82は定着フィルム2の内周面に押圧しつつ接触させている。しかしながら、第2の凸部の曲率半径が10mmと定着フィルム2の内周の半径よりも大きく、定着フィルム2の表面の曲率半径を小さくできなかったため、用紙を定着フィルム2から分離できなかった。以上より、ニップ領域の外側に配置された第2の凸部を有し、第2の凸部の曲率半径を定着フィルム2の内周の半径より小さくすることで、用紙を分離することができることがわかった。
【0035】
(ii)定着装置1から排出される用紙の積載性
(画像形成装置について)
図7に示す画像形成装置を使用して、実施例1、比較例1~3の構成にて、排出される用紙の積載可否を確認した。画像形成装置はインライン方式のカラーレーザビームプリンタである。以下に画像形成装置の構成について説明する。画像形成装置は、イエロー(Y)色、マゼンタ(M)色、シアン(C)色、ブラック(Bk)色の4つのステーションを備える。各ステーションは、いずれも同構成であり、図7では、ブラック(Bk)のステーションに符号を付し他のステーションの符号は省略する。各ステーションには像担持体である感光ドラム20、感光ドラム20を帯電する帯電ローラ21、感光ドラム20上のトナーを回収するクリーニングユニット22、現像ローラとトナーと現像ブレードとからなる現像ユニット23が備わっている。これらは画像形成装置から着脱自在な一体型のプロセスカートリッジである。露光装置24はレーザー光を多面鏡によって走査させるスキャナユニットであり、画像信号に基づいて変調された走査ビームを感光ドラム20上に照射する。感光ドラム20と1次転写ローラ25は中間転写ベルト13を挟んで対向配置される。中間転写ベルト13はテンションローラ14、2次転写対向ローラ12、補助ローラ15に張架し、2次転写対向ローラ12に2次転写ローラ11を対向配置する。中間転写ベルトクリーニングユニット16は中間転写ベルト13上のトナーを除去する。定着装置1は搬送方向において2次転写ローラ11より下流側に配置する。
【0036】
次に画像形成プロセスについて説明する。露光装置24により感光ドラム20上に静電潜像を形成する。その感光ドラム20がトナーを表面に保持する現像ローラと接触し、感光ドラム20上にトナー像を現像する。1次転写ローラ25に電圧を印加し、感光ドラム20上のトナー像を中間転写ベルト13に転写する。2次転写ローラ11に電圧を印加し、2次転写ローラ11に搬送される用紙に中間転写ベルト13上のトナー像を転写する。定着装置1に到達するまでに用紙上に未定着のトナー像を形成するために寄与する部材は画像形成手段として機能する。定着装置1はトナー像を用紙上に加熱固着させる。その用紙は画像形成装置の排出部に積載される。
【0037】
試験条件について以下に記す。試験室の温度を30℃、湿度を80%とした。用紙は坪量60g/m、厚さ81μmのキヤノン製CS-060FのA4用紙を使用した。定着装置1内のサーミスタ7が220℃を維持するよう定着装置1に投入する電力を制御した。画像形成装置のプロセススピードは200mm/secである。トナー像を用紙に形成せずに、用紙を連続で10枚通紙し、用紙の丸まり方と排出部の積載可否を確認した。
【0038】
図8に、実施例1の用紙の積載性の説明図を示す。図8(a)は、定着装置1から排出される用紙の状態を示している。図8(a)において、搬送方向に対して、用紙の表面(表側の面)が内側となるように緩やかに湾曲して、定着装置1から用紙が排出された。図8(a)において、斜線が示されている面が用紙の裏面である。図8(b)に、用紙を連続で排出した際の1枚目から3枚目までの、排出部において用紙が積載される様子を示す。用紙は画像形成装置の排出部にきれいに重なって積載された。実施例1のみならず、比較例1、比較例3においても、ほぼ同様に用紙は難なく積載された。
【0039】
次に、図9に、比較例2の用紙の積載性の説明図を示す。図9(a)は、定着装置1から排出される用紙の状態を示している。用紙の長手方向において、用紙の裏面が内側となるよう円筒状に丸まって用紙が排出された。図9(a)において、斜線が示されている面が用紙の裏面である。図9(b)に、用紙を連続で排出した際の1枚目から3枚目までの、排出部に用紙が排出される様子を示す。まず、円筒状に丸まった用紙が1枚目として排出部に排出された。2枚目の用紙は、1枚目の用紙を押し出しつつ、排出部に排出された。同じように、3枚目の用紙は、2枚目の用紙を押し出し、2枚目の用紙が1枚目の用紙を押し出し、1枚目の用紙は排出部より落下した。比較例2では用紙の積載は不可であった。
【0040】
図10に、実施例1、比較例1~3の用紙の分離性能、及び排出された用紙の積載性の評価結果を一覧として示す。図10において、分離性能として、各定着装置1による定着フィルム2からの用紙の分離の可否と、排出された用紙の積載性として、排出部における用紙積載の可否と、を示す。また、搬送方向の下流側におけるニップ形成部材5の部分断面図と、用紙の排出方向Nwを示す。用紙の排出方向Nwは、搬送方向の下流側における定着フィルム2と加圧ローラ3とが接触するニップ部の接線から求められる方向である。すなわち、排出方向Nwは、定着ニップ部の用紙の搬送方向における下流側の端部における接線方向である。
【0041】
実施例1、比較例1、比較例3においては、排出方向NwがY軸方向プラス側の方向成分を有して傾斜した状態で用紙が排出されている。加熱によって用紙が丸まる向きとは逆向きに用紙にくせをつけて用紙が排出されるため、用紙積載が可能であった。一方、比較例2においては、第2の凸部72が、Y軸方向において、第1の凸部よりもマイナス側に突出しており、用紙の排出方向NwがY軸方向マイナス側の方向成分を有して傾斜した状態で用紙が排出されている。そのため、用紙が丸まり、用紙積載は不可であった。排出方向NwがY軸方向プラス側に傾斜するように用紙を排出させると、用紙表面が内側になるように用紙を湾曲させて排出できるため、加熱によって用紙が円筒状に丸まる方向とは逆方向に用紙にくせづけすることができる。第1の凸部と第2の凸部とを有するニップ形成部材5を定着装置1に搭載する際には、第2の凸部の先端を、Y軸方向において、少なくとも第1の凸部の先端よりプラス側に配置することで、用紙の積載を可能にすることができた。これらのことから、実施例1の構成であれば、用紙の分離性能と排出された用紙の積載性を両立できることが確認できた。
【0042】
以上、実施例1によれば、第2の凸部52の先端部分の曲率半径を定着フィルム2の内表面の半径よりも小さくすると共に、第2の凸部52の先端を第1の凸部51よりも加圧ローラ3又はニップ接線Wから遠位に配置することができる。これにより、用紙の分離性能及び排出された用紙の積載性を両立させることができる。以上の説明において、カラーレーザビームプリンタを例に説明したが、実施例1の定着装置は、モノクロ、カラーに関わらず、電子写真記録方式を利用する画像形成装置であれば、特に制限なく用いることができる。
【0043】
以上、実施例1によれば、用紙の分離性能及び排出された用紙の積載性を両立させることができる。
【実施例2】
【0044】
図11に実施例2の分離性能及び用紙積載性の評価結果を示す。図11には、実施例1と実施例2の用紙の分離性能、排出された用紙の積載性の評価結果、及び、搬送方向の下流側におけるニップ形成部材5の部分断面図を示す。実施例2のニップ形成部材5は、第1の凸部53と第2の凸部54とを有し、第1の凸部53は頂点531を有し、第2の凸部は頂点541を有する。
【0045】
実施例2のニップ形成部材は5、第1の凸部53をニップ接線Wに侵入させず、Y1=0とした点が実施例1とは異なる。実施例1、実施例2いずれも用紙積載は問題なく可能であった。図11の断面図より、実施例2の方が用紙の排出方向NwがY軸方向プラス側に傾いている。排出方向NwがY軸方向プラス側に傾けば傾くほど、用紙の表面が谷となる方向に用紙にくせをつけて、用紙を排出できる。つまり、加熱によって、用紙が円筒状に丸まる方向とは反対方向に用紙を矯正する能力が高い。画像形成装置のプロセススピードが高く、用紙を高温で加熱しなければならない場合などにおいては、用紙の丸まり量が大きくなる傾向があるので、実施例2の構成の方が用紙の積載性を改善しやすく、好ましい。
【0046】
以上、実施例2によれば、用紙の分離性能及び排出された用紙の積載性を両立させることができる。
【実施例3】
【0047】
実施例3は定着フィルム2や加圧ローラ3などは実施例1と同様とし、定着フィルム2の端部にフィルム形状を規制する規制部材9を備える。このような構成にすることで、用紙の分離性能と排出された用紙の積載性とを両立させることができる。実施例3の定着装置1はニップ形成部材90を有し、ニップ形成部材90は第1の凸部91及び第2の凸部92を有する。
【0048】
[規制部材]
図12(a)は実施例3の定着装置1の断面図である。図13(b)は実施例3の定着装置1の斜視図である。実施例1の定着装置1とは異なり、規制部材9を定着フィルム2の内周面と接触する位置に配置する。規制部材9は定着フィルム2の長手方向の両端に挿入し、定着フィルム2の両端部の少なくとも一部を支持する。規制部材9により、定着フィルム2の両端の位置が固定できるので、定着フィルム2の回転搬送性が安定する。
【0049】
図13(a)は加圧ローラ3が停止しているとき(以下、加圧ローラ3停止時)の定着装置1の斜視図、図13(b)は加圧ローラ3が回転しているとき(以下、加圧ローラ3回転時)の定着装置1の斜視図である。定着フィルム2の長手方向(加圧ローラ3の軸方向)に平行な方向をZ方向とする。図13(a)において、加圧ローラ3停止時、定着フィルム2は湾曲することなく加圧ローラ3に追従して、Z方向と平行に配置されている。図13(b)において、加圧ローラ3回転時、定着フィルム2は湾曲し、Z方向と平行でなくなっている。規制部材9が定着フィルム2の両端部のフィルム形状を規制しているため、加圧ローラ3回転時の定着フィルム2は、その両端部(A-A’部近傍)において、停止時の定着フィルム2の軌跡とほぼ同じ軌跡を示す。一方、定着フィルム2の長手方向中央部(B-B’部近傍)においては、定着フィルム2を規制する部材がないので、定着フィルム2は搬送方向に引っ張られる。そのため、定着フィルム2は長手方向の中央部において、搬送方向に湾曲する。
【0050】
[ニップ形成部材]
図14(a)にニップ形成部材90の平面図及び断面図を示す。図14(b)にニップ形成部材90の側面図及び断面図を示す。図14(a)において、第2の凸部92は、ニップ形成部材90の長手方向の端部(A-A’部近傍)より、長手方向の中央部(B-B’部近傍)において、X軸方向マイナス側に配置されている。すなわち、第2の凸部92は、長手方向の中央部において、長手方向の中心軸から離れるように、弓なりの円弧状に湾曲している。図14(b)において、第2の凸部92はZ軸方向に連続して形成されており、Z軸方向のいずれの位置においてもY軸方向の長さは一定である。
【0051】
次に実施例3のニップ形成部材90の長手方向の端部A-A’部と、長手方向の中央部B-B’部の詳細について説明する。図15に、長手方向の端部A-A’部におけるニップ形成部材90の断面図を示す。図15(a)において、ニップ形成部材90は第1の凸部91と第2の凸部92とを有する。ニップ領域N1は約8mm、ニップ領域N2は約6mmである。図15(b)は、第1の凸部91及び第2の凸部92を含む、ニップ形成部材90の搬送方向の下流側における部分拡大図である。図15(b)において、第1の凸部91は第2の凸部92よりもX軸方向プラス側に配置されており、第1の凸部91の頂点911と、第2の凸部92の頂点921との間の距離X4は3mmである。第1の凸部91はニップ接線Wと交差するように侵入し、第1の凸部91の頂点911の侵入量Y8は0.2mmである。一方、第2の凸部92は、ニップ接線Wと交差させずに遠ざけて配置されており、第2の凸部92の頂点921からニップ接線Wまでの最小退避量Y9は0.8mmである。第2の凸部92の先端部分は半径4mmの半円形状であり、定着フィルム2の内周面と接触する領域の曲率半径R922は4mmである。
【0052】
図16に長手方向の中央部B-B’部におけるニップ形成部材90の断面図を示す。図16(a)において、ニップ形成部材90は第1の凸部91と第2の凸部92とを有する。ニップ領域N1は約8mm、ニップ領域N2は約6mmである。図16(b)は、第1の凸部91及び第2の凸部92を含む、ニップ形成部材90の搬送方向の下流側における部分拡大図である。図16(b)において、第1の凸部91は第2の凸部92よりもX軸方向プラス側に配置されており、第1の凸部91の頂点911と第2の凸部92の頂点921との間の距離X41は4mmである。長手方向の端部は距離X4が3mmであったのに対して、長手方向の中央部では距離X41が4mmと、1mmだけX軸方向マイナス側に第2の凸部92の位置がずれている。第1の凸部91はニップ接線Wと交差するように侵入し、第1の凸部91の頂点911の侵入量Y81は0.2mmである。一方、第2の凸部92は、ニップ接線Wと交差させずに遠ざけて配置されており、第2の凸部92の頂点921からニップ接線Wまでの最小退避量Y91は0.8mmである。第2の凸部92の先端部分は半径4mmの半円形状であり、定着フィルム2の内周面と接触する領域の曲率半径R922は4mmである。
【0053】
ニップ形成部材90は、長手方向の中央部における第2の凸部92を長手方向の端部における第2の凸部92よりも1mmだけX軸方向マイナス側に配置することにより、外側に湾曲する定着フィルム2に追従して接触できるようにした。これにより、長手方向の端部、長手方向の中央部いずれの領域であっても、第2の凸部92が定着フィルム2の内周面と接触できることになる。以上、実施例3のニップ形成部材90によれば、長手方向の端部、中央部のいずれの位置であっても、定着フィルム2の内周面と第2の凸部92とを接触させることができ、用紙の分離性能を高めることができる。
【0054】
[効果]
実施例3の効果を確認するために、実施例3のニップ形成部材90を定着装置1に搭載した場合の用紙の分離性能を確認した。試験条件について以下に記す。試験室の温度を30℃、湿度を80%とした。第1の用紙として、坪量60g/m、厚さ81μmのキヤノン製CS-060FのA4用紙を使用した。第2の用紙として、坪量64g/m、厚さ83μmのキヤノン製PBPAPERのA5用紙を使用した。定着装置1内のサーミスタ7が220℃を維持するよう定着装置1に投入する電力を制御した。駆動源(不図示)により、加圧ローラ3を回転させ、第1の用紙、次いで第2の用紙を、200mm/secで搬送させた。先後端余白5mm、左右余白5mm、マゼンタ色のトナーを0.5mg/cm、シアン色のトナーを0.5mg/cmの密度にて重ねて用紙上に形成した。
【0055】
実施例3のニップ形成部材90を用いたところ、第1の用紙(A4用紙)、第2の用紙(A5用紙)のどちらとも用紙は、定着フィルム2から分離可能であった。また、実施例1と同様の用紙の積載性の確認を行ったところ、問題なく用紙を積載することが可能であった。このように、用紙幅に関わらず、定着フィルム2から用紙を容易に分離することが可能であり、かつ、加熱によって用紙が丸まる方向とは反対方向に用紙を矯正し、用紙の丸まり方を緩和することで、用紙積載性を高めることができる。
【0056】
以上、実施例3によれば、用紙の分離性能及び排出された用紙の積載性を両立させることができる。
【実施例4】
【0057】
実施例4は、実施例3と同様に、定着フィルム2の端部にフィルム形状を規制する規制部材9を備える。実施例4の構成とすることで、用紙の分離性能と排出された用紙の積載性を両立させることができる。実施例4の定着装置1はニップ形成部材100を有し、ニップ形成部材100は第1の凸部101及び第2の凸部102を有する。実施例3について前述した通り、規制部材9を配置した場合、図13(b)に示すように、長手方向の中央部における定着フィルム2が搬送方向に引っ張られ、定着フィルム2は、長手方向の中央部において搬送方向に湾曲する。
【0058】
[ニップ形成部材]
図17(a)にニップ形成部材100の平面図及び断面図を示す。図17(b)にニップ形成部材100の側面図及び断面図を示す。図17(a)において、第2の凸部102は、ニップ形成部材100の長手方向の端部(A-A’部近傍)であっても、長手方向の中央部(B-B’部近傍)であっても、X軸方向の長さは一定である。図17(b)において、第2の凸部102は、長手方向の端部(A-A’部近傍)より長手方向の中央部(B-B’部近傍)の方が、Y軸方向マイナス側に延伸し、張り出している。第2の凸部102はZ軸方向に連続して形成されている。
【0059】
次に、実施例4のニップ形成部材100の長手方向の端部A-A’部と、長手方向の中央部B-B’部の詳細について説明する。図18に、長手方向の端部A-A’部におけるニップ形成部材100の断面図を示す。図18(a)において、ニップ形成部材100は第1の凸部101と第2の凸部102とを有する。ニップ領域N1は約8mmであり、ニップ領域N2は約6mmである。図18(b)において、第1の凸部101は第2の凸部102よりもX軸方向プラス側に配置され、第1の凸部101の頂点1011と第2の凸部102の頂点1021との間の距離X5は3mmである。第1の凸部101はニップ接線Wと交差するように侵入し、第1の凸部101の頂点1011の侵入量Y10は0.2mmである。一方、第2の凸部102はニップ接線Wと交差せずに遠ざけて配置され、第2の凸部102の頂点1021からニップ接線Wまでの最小退避量Y11は0.8mmである。第2の凸部102の先端部分は半径4mmの半円形状であり、定着フィルム2の内周面と接触する領域の曲率半径R1022は4mmである。
【0060】
図19に、長手方向の中央部B-B’部におけるニップ形成部材100の断面図を示す。図19(a)において、ニップ形成部材100は第1の凸部101と第2の凸部102とを有する。ニップ領域N1は約8mmであり、ニップ領域N2は約6mmである。図19(b)において、第1の凸部101は第2の凸部102よりもX軸方向プラス側に配置され、第1の凸部101の頂点1011と第2の凸部102の頂点1021との間の距離X51は3mmである。第1の凸部101はニップ接線Wと交差するように侵入し、第1の凸部101の頂点1011の侵入量Y101は0.2mmである。一方、第2の凸部102はニップ接線Wと交差せずに遠ざけて配置され、第2の凸部102の頂点1021からニップ接線Wまでの最小退避量Y111は0.2mmである。第2の凸部102は半径4mmの半円形状であり、定着フィルム2の内周面と接触する領域の曲率半径R1022は4mmである。
【0061】
ニップ形成部材100は、長手方向の中央部における第2の凸部102を長手方向の端部における第2の凸部102よりも0.6mmだけY軸方向マイナス側に配置することにより、外側に湾曲する定着フィルム2に追従して接触できるようにした。長手方向の端部、中央部のいずれの領域であっても、第2の凸部102が定着フィルム2の内周面と接触できることになる。以上、実施例4のニップ形成部材100によれば、長手方向の端部、中央部のいずれの位置であっても、定着フィルム2の内周面と第2の凸部102とを接触させることができ、用紙の分離性能を高めることができる。
【0062】
[効果]
実施例4の効果を確認するために、実施例4のニップ形成部材100を定着装置1に搭載した場合の用紙の分離性能を確認した。試験条件は実施例3の確認方法と同じとした。実施例4のニップ形成部材100を用いたところ、第1の用紙(A4用紙)、第2の用紙(A5用紙)のどちらとも用紙は、定着フィルム2から分離可能であった。また、実施例1と同様の用紙の積載性の確認を行ったところ、問題なく用紙を積載することが可能であった。このように、用紙幅に関わらず、定着フィルム2から用紙を容易に分離することが可能であり、かつ、加熱によって用紙が丸まる方向とは反対方向に用紙を矯正し、用紙の丸まり方を緩和することで、用紙積載性を高めることができる。
【0063】
以上、実施例4によれば、用紙の分離性能及び排出された用紙の積載性を両立させることができる。
【実施例5】
【0064】
実施例5は、実施例1において、図20(a)に示すような、搬送方向に直交する方向(用紙の幅方向)において長さが異なる3つの発熱体を備えるヒータ54を用いた場合の実施例である。図20(a)に、実施例5のヒータ(長さが異なる3つの発熱体を備えるヒータ54)の模式図を示す。本実施例において、発熱体が発熱している領域で、用紙が通紙していない領域を非通紙領域(又は非通紙部)といい、用紙が通紙している領域を通紙領域(又は通紙部)という。
【0065】
ヒータ54は、基板54a、第1の発熱体である発熱体54b1a、第4の発熱体である発熱体54b1b、第2の発熱体である発熱体54b2、第3の発熱体である発熱体54b3、導体54c、接点54d1~54d4、保護ガラス層54eからなる。以下、発熱体54b1a、54b1b、54b2、54b3を総称して発熱体54bということもある。また、長手方向の長さが略同じ長さである発熱体54b1a、54b1bを総称して発熱体54b1ということもある。基板54aは、セラミックであるアルミナ(Al)を用いている。基板54a上に、発熱体54b1a、54b1b、54b2、54b3、導体54c、接点54d1~54d4が形成されている。そして、その上に発熱体54b1a、54b1b、54b2、54b3とフィルム51との絶縁を確保するために保護ガラス層54eが形成されている。
【0066】
発熱体54bは、長手方向の長さ(以下、サイズともいう)が異なっている。発熱体54b1a、54b1bの長手方向の長さが第1の長さであるL1=222mmであり、発熱体54b2の長手方向の長さが第2の長さであるL2=188mmであり、発熱体54b3の長手方向の長さが第3の長さであるL3=154mmである。長さL1、L2、L3は、L1>L2>L3の関係になっている。
【0067】
また、実施例5の画像形成装置において使用することができる用紙の中で最も大きい紙幅(以下、最大紙幅という)は216mmであり、最も小さい紙幅(以下、最小紙幅という)は76mmである。したがって、L1は、発熱体54b1によって最大紙幅(216mm)の画像サイズ(206mm)を定着可能な長さになっている。発熱体54b1は導体54cを介して第2の接点である接点54d2、第4の接点である54d4に電気的に接続されており、発熱体54b2は導体54cを介して接点54d2、54d3に電気的に接続されている。発熱体54b3は導体54cを介して第1の接点である接点54d1、第3の接点である54d3に電気的に接続されている。ここで、発熱体54b1aと発熱体54b1bとは同じ長さであり、必ず略同時に使用される。発熱体54b1aは、基板54aの短手方向の一方の端部に設けられ、発熱体54b1bは、基板54aの短手方向の他方の端部に設けられる。発熱体54b2、54b3は、基板54aの短手方向において発熱体54b1aと発熱体54b2bとの間に、短手方向中心に対して対称に設けられる。
【0068】
温度検知手段である定着温度センサ59は、サーミスタである。定着温度センサ59の構成について図20(b)を参照しながら説明する。図20(b)に示す定着温度センサ59は、メインサーミスタ素子59a、ホルダ59b、セラミックペーパー59c、絶縁樹脂シート59dで構成される。セラミックペーパー59cは、ホルダ59bとメインサーミスタ素子59aとの間の熱伝導を阻害する役割を果たす。絶縁樹脂シート59dは、メインサーミスタ素子59aを物理的、電気的に保護する役割を果たす。メインサーミスタ素子59aは、ヒータ54の温度に応じて出力値が変化する温度検知手段であり、ジュメット線(不図示)と配線により画像形成装置のCPU(不図示)に接続される。メインサーミスタ素子59aはヒータ54の温度を検知して検知結果をCPUに出力する。
【0069】
定着温度センサ59は、基板54aに対して保護ガラス層54eと反対の面に位置し、かつ発熱体54bの長手方向における基準線aの位置(中央に対応する位置)に設置され、基板54aと接している。CPUは、定着温度センサ59の検知結果に基づいて、定着処理時の温度を制御する。以上がメインサーミスタである定着温度センサ59の構成についての説明である。
【0070】
以上のようなヒータ54により、用紙の幅がヒータ54の長手方向の長さよりも小さい場合であっても、発熱体54b1の電力比率を下げることにより、非通紙部の昇温を抑制し、用紙の両端が高温になることを軽減できる。また、用紙が円筒状に丸まろうとする力を軽減することができる。よって、用紙積載性においても、通紙の条件などが変化したとしても、それを許容する定着装置を提供できる。なお、ここで言う電力比率とは、発熱体54b2又は発熱体54b3に供給される電力に対する全幅の発熱体54b1に供給される電力の割合である。
【0071】
以上、実施例5によれば、定着ニップ部における通紙部と非通紙部との温度差を小さくし、用紙分離性能及び許容性の高い用紙積載性を両立させることができる。
【符号の説明】
【0072】
2 定着フィルム
3 加圧ローラ
4 ヒータ
5 ニップ形成部材
51 第1の凸部
52 第2の凸部
図1
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