IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニューラヴィ・リミテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】逆行性血流閉塞物フラッシングデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/22 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
A61B17/22 528
【請求項の数】 6
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019182735
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2020058799
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】16/152,159
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515248931
【氏名又は名称】ニューラヴィ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】レイ・マッカーシー
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-521462(JP,A)
【文献】特表2017-533051(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0054347(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0189654(US,A1)
【文献】特開2015-107301(JP,A)
【文献】特開平04-221544(JP,A)
【文献】特開2016-202231(JP,A)
【文献】特開2002-143311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/22
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスであって、
近位端及び反対の遠位端を有するカテーテル本体であって、少なくとも1つの内腔が前記カテーテル本体内で長手方向に画定されている、カテーテル本体と、
前記カテーテル本体の前記遠位端に近接して配置され、前記カテーテル本体から半径方向外側に延びる閉塞構成要素であって、折りたたみ状態から拡張状態に移行するように作動可能であり、前記カテーテル本体の縦軸から測定すると、前記折りたたみ状態の間の直径と比較して、前記拡張状態においてより拡大した直径を有する、閉塞構成要素と、
前記カテーテル本体の少なくとも1つの内腔を通して送達可能であり、前記カテーテル本体内に画定されたポートから出るフラッシング流体であって、前記ポートは前記閉塞構成要素の近位に配置されている、フラッシング流体と、
折りたたみ状態と拡張状態との間で移行可能な血塊捕捉機械的構成要素と、
を含み、
前記血塊捕捉機械的構成要素の前記拡張状態において、前記血塊捕捉機械的構成要素は、前記閉塞構成要素の近位の前記カテーテル本体の遠位セクションから半径方向外側に延び、
前記血塊捕捉機械的構成要素は、少なくとも1つの突出部又はアームである、デバイス。
【請求項2】
前記ポートが、前記カテーテル本体の側面に画定されており、前記閉塞構成要素が膨張式バルーンであり、前記カテーテル本体が、前記カテーテル本体を通して長手方向に画定された複数の内腔を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記複数の内腔のうちの1つが、前記フラッシング流体を送達するためのフラッシング内腔であり、前記複数の内腔のうちの別のものが、膨張流体を送達して、前記膨張式バルーンを膨張させて、前記折りたたみ状態から前記拡張状態に移行させる、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記フラッシング流体は生理食塩水、は他の生体適合性液体であり、前記膨張流体は空気である、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記複数の内腔のうちの1つは、前記カテーテル本体が上をたどるワイヤを受けて通すためのワイヤ内腔であり、前記ワイヤ内腔は、前記カテーテル本体を通して長手方向に、かつ前記閉塞構成要素を越えて遠位まで延びている、請求項2に記載のデバイス。
【請求項6】
前記ポートは、前記カテーテル本体の遠位端にて画定されており、前記閉塞構成要素は、前記閉塞構成要素の前記拡張状態において前記カテーテル本体の先端から伸長した状態となるパラシュートであり、前記パラシュートは、前記伸長した状態で半径方向外側に拡張する、請求項1に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内医療システムに関する。特に、本発明は、逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスを用いる急性虚血性脳卒中の改善された処置及び治療に関する。
【背景技術】
【0002】
急性虚血性脳卒中は、脳の脳動脈内の血栓性又は塞栓性の閉塞物(例えば、妨害物)によって引き起こされる。閉塞は、典型的には、血管を通って順行性方向(通常の血流の方向)に移動し、最終的に脳の脳動脈内に詰まった、身体の別の部分から遊離した血液血塊によって引き起こされる。血塊は、経時的に血管内の血塊を小さくし、かつ更に適所に押し込み得る、拍動圧力勾配(即ち、近位血栓面に作用する全身性血圧から遠位血栓面での逆行性の側副血流からの圧力を引く)を受ける。加えて、血塊と血管の内壁との間にある程度の生物学的接着が生じ得る。
【0003】
血栓除去術として既知の手順を使用し、機械的デバイスを使用して血管内に詰まっている血栓、閉塞物、妨害物、又は血塊を除去することができる。血栓除去治療又は処置は、典型的には、脳卒中後の比較的短い期間(例えば、脳卒中の発症後約48時間未満)内の患者に対して実施され、典型的には約1.0mm超の直径を有する大型血管閉塞物に最適である。非侵襲的撮像、例えば、非造影CT(NCCT)を典型的には使用して、血栓除去治療がその特定の患者に好適であるかどうかを判定するために血塊のサイズを判定する。
【0004】
血栓除去は典型的には、ワイヤの末端に取り付けられたステント回収装置型デバイスを使用して、又は、吸引を適用することができる末端開放型チューブからなる吸引カテーテルを使用して、実施される。多くの場合、両方のデバイスを組み合わせて、同一手順で用いられる。ステント回収装置は、血塊の上にデバイスを展開することによって作用し、それによって、間に連続気泡を有する金属支柱のメッシュワークで血塊を係合させる。血塊は、一旦ステント回収装置と係合された後、血管からカテーテルに引き込まれる。一方、吸引カテーテルのみによる血栓除去は、吸引カテーテルを血塊の近位面に対して配置することを伴い、その後、注射器又はポンプを使用して吸引を適用することにより、血塊がカテーテル内に吸引される。多くの場合、同時吸引はステント回収装置を採用する場合に使用され、ステント回収装置は、機械的抽出中に生成されることがあるなんらかの血塊残屑を捕捉するように作用する。
【0005】
血栓除去処置又は治療の間、医師又は介入医は、脈管構造を通してガイドカテーテルを血管内に、典型的には鼠径部内に位置する動脈内に導入する。ガイドカテーテルの先端は、通常、頭蓋外血管内に配置され、処置中に他のデバイスの支持体として機能する。二次的に、ガイドカテーテルは、処置中に血塊及び血液を吸引するために使用されてもよい。処置中の血液の吸引は、流れ反転を引き起こすために使用することができ、それによって、遠位血管へと洗い流される血塊の残屑の可能性を低下させるように作用する。ガイドカテーテルの中には、遠位先端にバルーンを装着したものがあり、バルーンは膨張すると、血管を通過する血流を止め、より良好な封止を作り出して、カテーテルに吸引が適用されてからの流れ反転を容易にする。
【0006】
血栓除去処置又は治療の間、医師又は介入医は、脈管構造を通してガイドワイヤを血管内に、典型的には鼠径部内に位置する動脈内に、又は頸動脈を通る直接アクセスによって導入する。ガイドワイヤは、標的血塊、妨害物、又は閉塞物の近位側に面する場所まで脈管構造を通して進められる。ガイドワイヤが適切に位置付けられると、典型的には約1.0mm未満の外径を有するマイクロカテーテルは、マイクロカテーテルを通して軸方向に画定された内腔を通過するガイドワイヤの上をたどる。
【0007】
ガイドワイヤはその後、閉塞物を通って進められてもよく、典型的には、ワイヤの遠位端は、ワイヤが前進した血管の後方に向けられ、それによってループからなる前縁部が形成されるように操作される。血塊をループ状ワイヤと交差させることにより、血管への外傷の可能性が低減されると考えられる。一部の医師又は介入医は、血塊に面する近位側でマイクロカテーテルの内腔内にガイドワイヤ遠位端又は先端を保持しながら、血塊を横切って、血塊の周りを、又は血塊を越えてマイクロカテーテルのみを前進させることを好む。つまり、ガイドワイヤの遠位端又は先端は、血塊を越えて又はその周りを、遠位側へと横断することはない。この原理は、マイクロカテーテルの比較的柔らかく、かつ比較的可撓性の遠位端が、ガイドワイヤのものよりも脈管構造組織に対して外傷性が低いことである。多くの場合、その可撓性のために、ガイドワイヤの補助なく、血塊を横切って、血塊の周りを、又は血塊を越えてマイクロカテーテルを前進させることは非常に困難である。このような困難を克服するために、マイクロカテーテル及びガイドワイヤは、マイクロカテーテルの遠位セクションの内側に位置付けられたガイドワイヤの遠位端又は先端と共に血塊を横切って前進させることができる。別様に、ガイドワイヤが最初に血塊を横切って前進されて、その後、マイクロカテーテルが続いてもよい。
【0008】
ステント回収装置を伴う血栓除去の間、マイクロカテーテルが血塊を横切って配置されると、ガイドワイヤが除去され、ステント回収装置で置き換えられる。次に、マイクロカテーテルを血塊の近位側の位置に引き上げ、ステント回収装置が血塊を横切って展開することを可能にする。これに続いて、埋め込まれているか又は中に係合されている血塊を搬送しながら、ステント回収装置が引き上げられる。多くの場合、遠位アクセスカテーテルを、ステント回収装置と組み合わせて使用して、脈管構造内に追加の支持を提供し、血塊の捕捉を補助するための局所的な同時吸引を可能にする。遠位アクセスカテーテル及びガイドカテーテルを通して同時に吸引を行うこともまた、利用される一般的な方法である。他の場合、中間の遠位アクセスカテーテルを用いることなく、ステント回収装置が直接ガイドカテーテルに引き上げられ、この状況では、ガイドカテーテルを通しての同時吸引が多くの場合用いられる。
【0009】
吸引のみを伴う血栓除去の間、ワイヤ及びマイクロカテーテルが血塊にたどり着くと、遠位アクセスカテーテルが血塊の近位面まで前進し、次いでガイドワイヤ及びマイクロカテーテルが除去され、可能な限り大きな開口腔が確保される。注射器又はポンプを用いて、遠位アクセスカテーテルに吸引が適用されて、血管から血塊が吸引される。場合によっては、血塊は遠位アクセスカテーテルの末端を遮断し、この状況においては、末端にて捕捉された血塊と共に、遠位アクセスカテーテルがガイドカテーテル内に引き上げられながら、吸引が維持される。遠位アクセスカテーテル及びガイドカテーテルによる同時吸引が一般に用いられる。
【0010】
不可能ではなくとも、血塊、閉塞物、又は妨害物によっては、急性虚血性脳卒中の治療のために従来の機械的血栓除去を使用して除去するのが難しいものがある。このような事態において、複数回の試み又は段階を行い、再灌流を成功させることが、医師又は介在医にとっては一般的である。望ましくないことに、機械的血栓除去デバイス(例えば、ステント回収装置)の複数回の試み又は段階は、塞栓の(全部又は一部の)圧縮、剪断、及び/又は分裂をもたらす場合がある。再灌流、すなわち以前に閉塞した血管に血流が回復することが成功する可能性はしたがって、著しく低下し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来の機械的血栓除去システムに関連する上述の問題を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、不必要な圧縮、剪断、及び/又は遠位分裂のリスクを最小限にしながら、中に血塊、塞栓、妨害物、又は閉塞物が存在する血管を通る血流の再疎通のための、改善されたシステム及び治療に関する。
【0013】
本発明の別の態様は、標的妨害物の遠位側の圧力が、標的妨害物の近位側の圧力よりも著しく大きい逆圧差を確立する、逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスに関する。この圧力差の変化の結果、標的妨害物が吸引器カテーテルに向かう逆行性方向に押され、ここで標的妨害物が直接吸引される、かつ/又は機械的除去デバイス(例えばステント回収装置)を使用して捕捉されることができる。
【0014】
本発明の更に別の態様は、近位端及び反対の遠位端を有するカテーテル本体であって、少なくとも1つの内腔がカテーテル本体内で長手方向に画定されている、カテーテル本体を含む、逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスに関する。逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスはまた、カテーテル本体の遠位端に近接して配置され、カテーテル本体から半径方向外側に延びる閉塞構成要素であって、折りたたみ状態から拡張状態に移行するように作動可能な閉塞構成要素を有する。閉塞構成要素は、カテーテル本体の縦軸から測定すると、折りたたみ状態である間の直径と比較して、拡張状態においてより拡大した直径を有する。フラッシング流体は、カテーテル本体の少なくとも1つの内腔を通して送達可能であり、カテーテル本体内に画定されたポートから出るものであり、ポートは閉塞構成要素の近位に配置されている。
【0015】
本発明の更に別の態様は、標的妨害物が中に配置された血管を再疎通する間の逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスの使用方法に関し、このデバイスは先行する段落に記載されている。このような使用方法は、閉塞構成要素が折りたたみ状態にある間に、閉塞構成要素が標的妨害物の遠位に配置されるまで、標的妨害物を血管内で遠位に横断する逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスを導入する工程を含む。標的妨害物の遠位に適切に配置されると、閉塞構成要素を作動させて、折りたたみ状態から拡張状態に移行させる。拡張状態にある間、拡大した直径は、血管の内壁と共に封止を形成し、順行性血流が閉塞構成要素を遠位に越えることを防止する。その後、拡張した閉塞構成要素により一端にて結合され、標的妨害物により反対端にて結合された血管の領域において、フラッシング流体をカテーテル本体のポートから血管のこの領域に分注することにより、逆行性血流が確立される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の上記の特徴及びその他の特徴は、本発明の実例となる以下の詳細な説明及び図面より容易に明らかとなるであろう。ただし、複数の図面を通じて同様の参照符合は同様の要素を示すものとする。
図1】標的妨害物を囲む遠位血管セグメント及び近位血管セグメントの両方における、血管の一部での血圧を例示的に示したものの断面図である。
図2A】血栓除去処置の間にマイクロカテーテルが横断した、図1の標的妨害物を含む血管の部分の断面図であり、ここで、妨害物の横断の間に、血流が妨害物を自由に横断することができるような開口部又は開存流路が形成され、ここで、妨害物の近位側と遠位側の圧力は等しくなる。
図2B】血栓除去処置の間にマイクロカテーテルが横断した、図1の標的妨害物を含む血管の部分の断面図であり、ここで、妨害物の横断の間に:(i)封止がマイクロカテーテルを中心に形成され、妨害物の遠位側及び近位側における圧力差が無変化のままとなる;又は、(ii)比較的少量の血流が妨害物を横断することが可能となるが、妨害物の遠位側及び近位側における圧力差を逆転する、又は更には等しくするには不十分である。
図3A】閉塞構成要素が膨張式バルーンである、本発明による例示的逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスの側面図である。
図3B図3Aの線3B-3Bに沿った、逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスの複数腔カテーテル本体の横断面図である。
図3C図3Aの破線円における、逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスの拡大部分長手方向断面図である。
図3D】展開される前の格納状態又は折りたたみ状態で示される、閉塞構成要素が格納式フラップである、本発明による代替の逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスの部分長手方向断面図である。
図3E】格納式フラップが拡張状態又は完全展開状態で示される、図3Dの逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスの部分長手方向断面図である。
図4】バルーンガイドカテーテルを介して、頭蓋内血管を通して標的妨害物の遠位側に送達された、図3Aの、本発明の逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスの例示的図である。
図5】分岐した頭蓋内血管の各枝部に展開された、図3Aの本発明の逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスの、特定の応用である。
図6A】閉塞構成要素が収縮状態にある間、標的妨害物の遠位移動を防止する、本発明の逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスによる、展開済みの折りたたみ可能な血塊捕捉アームの、血管を通る、部分断面図である。
図6B】完全な展開状態の間に、線6B-6Bに沿って図6Aの折りたたみ可能な血塊捕捉アームを描写した、(バルーン閉塞構成要素を有しない)本発明の逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスの、カテーテル本体の一部の斜視図である。
図6C】線6C-6Cに沿った、図6Bの完全に展開した折りたたみ可能な血塊捕捉アームの端面図である。
図6D】包まれた状態で描写される、折りたたみ可能な血塊捕捉アームを有するバルーンガイドカテーテルの、内腔を通って近位側に引き上げられている、(バルーン閉塞構成要素を有しない)本発明の逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスのカテーテル本体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
「遠位」又は「近位」という用語は、以下の説明において、治療医師若しくは医療介在医に対する位置又は方向に関して使用される。「遠位」又は「遠位に」とは、医師若しくは介在医から離れた位置又は離れる方向である。「近位」又は「近位に」又は「近接した」とは、医師若しくは医療介在医に近い位置又は向かう方向である。「閉塞物」、「血塊」、又は「妨害物」は、互換的に使用される。
【0018】
図1は、遠位血管セグメント及び近位血管セグメント、又は血管の一部における、妨害物の血圧環境の例示的図である。血流又は血行の通常の方向は矢印(fa)により表され、以下では、順行性血流と呼ばれる。血圧(Pp)は、妨害物100の近位側又は近位面における圧力を表す一方、血圧(Pd)は、妨害物100の反対側の遠位側又は遠位面における圧力を表す。遠位側の血圧(Pd)は、近位側の圧力(Pp)よりも実質的に低く、側副血管を通過する血流量、及び全身血圧などの因子に応じて、実質的な圧力差(ΔP=Pp-Pd)を表す。例えば、Journal of NeuroInterventional Surgery,Vol.3,Issue 1(2010)において、T.Sorimachiは、95.2mmHgとして平均近位圧力を、及び35.9mmHgにて遠位圧力を測定し、圧力差(ΔP=Pp-Pd)は、約60mmHgであった。この実質的な圧力差(ΔP)により、吸引カテーテルによる機械的介入により克服可能でない限り、又は、ステント回収装置などの閉塞物除去デバイスを使用して機械的に捕捉して抽出することが可能でない限り、確実に妨害物が順行に移動し、先細る血管にて詰まったままとなる。
【0019】
いくつかの血栓除去処置の間では、ガイドワイヤ及び/又はマイクロカテーテルによる妨害物の横断が、圧力差(ΔP)に影響を及ぼし得る。図2A及び図2Bは、妨害物100がマイクロカテーテル205により横断される際の圧力差(ΔP)における、2つの例示的影響について示している。もちろん、マイクロカテーテルに代えてガイドワイヤが妨害物を横断する場合でも、又は、両方の構成要素を同時に使用して妨害物が横断される場合でも、同様の原理が等しく適用可能である。ある方法において、影響を受け得る圧力差が、図2Aの例示的図に示され、ここでは、妨害物100と血管壁の内側表面との間の封止が、妨害物の近位側から反対の遠位側にマイクロカテーテル205が通過することにより、破壊される。妨害物を横断する際、ガイドワイヤ及び/又はマイクロカテーテルは、近位側からその反対の遠位側/面に延びる、開存開口部又は流路を作る。このような開口部、又は開存流路は、妨害物と、血管の内壁との間で作られる、又は、妨害物それ自体の少なくとも一部を通して作られることができる。開口部又は開存流路により、これらの箇所を通過する血液が遮られず自由に流れるため、圧力差(ΔP)が等しくなる(Pp=Pd)。
【0020】
他の場合において、マイクロカテーテル205が妨害物100を横断することで、図2Bに示すように、圧力差(ΔP)が実質的に無変化のままとなる場合がある。妨害物を横断しながら、マイクロカテーテル205を中心にして妨害物100が封止を形成する場合にこれは生じ得、これにより、血流が妨害物を横断することができなくなる。別様に、少量の血流が、妨害物の近位側から遠位側に横断する場合がある(例えば、冠血流予備量比<約0.5)が、圧力差(ΔP)を等しくするには不十分であるため、圧力差は実質的に無変化のままとなる(Pp>>Pd)。図2Bにおいて、妨害物をマイクロカテーテル205が横断する際、妨害物100は不所望にも、血管の遠位方向に移動する、又は前進する場合がある。
【0021】
本発明は、妨害物を横切る逆圧力差(ΔP)を意図的に確立すること、即ち、妨害物の遠位側の圧力(Pd)が、妨害物の近位側の圧力を実質的に超える{例えば、(Pd>>Pp)}まで増加させることにより、逆行性血流(通常方向の流れとは反対の、逆の暴風流(blow flow))を確立するための、血行再建処理又は治療の間に用いられる。結果的に、妨害物は有利には、血管を通して近位に、血流の逆行性方向(通常の血流方向、例えば順行性方向とは反対)に押される。最初、圧力差は血管の内壁に当接する標的妨害物を移動させるには十分に大きい。移動すると、その後、圧力差は低下し得るが、依然として血管を通して妨害物を遠位に推進するには十分であり得る。例示的例として、最初、圧力差が少なくとも約25%になるまで、圧力は標的妨害物の遠位面にて増加し、その後、圧力差は少なくとも約5%の値まで低下し得る。
【0022】
カテーテル本体の遠位端に閉塞構成要素が近接して配置され、カテーテル本体を含む逆行性(逆)血流閉塞物フラッシングデバイスを標的妨害物の遠位に配置することにより、本発明による血流の逆行(通常に対して逆)が達成される。作動の際、閉塞構成要素は未封止、非遮断、折りたたみ、又は収縮状態から、封止、遮断、閉塞、伸長、又は膨張状態に移行する。(より大きい直径を有する)伸長又は膨張状態において、閉塞構成要素は、カテーテル本体の縦軸から測定すると、(より小さな直径を有する)収縮又は圧縮状態の間と比較して、更に半径方向外側に拡大する。(閉塞構成要素が折りたたみ又は収縮状態にある間、)逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスは、閉塞構成要素が標的妨害物の遠位に配置されるまで、血管内で標的妨害物と交差する、又は血管内で標的妨害物を横断するように導入される。逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスは、マイクロカテーテルの内腔を介して、標的妨害物の遠位にある所望の位置に前進することができる。縮小された、又はより低いレベルのプロファイルを有する代替方法において、マイクロカテーテルを完全に排除することができ、逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスをワイヤのみで、標的妨害物の遠位にある所望の位置までたどることができる。妨害物をワイヤ、及び低プロファイルデバイス(例えば折りたたみ又は収縮閉塞構成要素)と交差させる、又はこれらで横断することを除いて、妨害物は、本発明の逆行性血流反転閉塞物フラッシングデバイスを使用して、従来のステント回収装置が、血塊にまたがって展開された後引き上げられる場合ほど、機械的に圧縮又は剪断されない。標的妨害物の遠位に適切に配置されると、物理的に接触するまで、閉塞構成要素はカテーテル本体から、半径方向外側に作動される(例えば、伸長又は膨張する)ことによって、血管の内壁との封止を確立する。このような封止は、遠位流れ(順行性流れ-通常の血流)が、伸長した、又は膨張した閉塞構成要素を越えることを防止する。更に、伸長した、又は膨張した閉塞構成要素によりもたらされる封止は、塞栓が一時的な障壁を越え、血管を通して遠位に前進して(全体に、又は部分的に)分裂することを防止する障壁を提供する。
【0023】
例示的例として、本発明の逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスは、図3A図3Cに示すように、近位端313及び反対の遠位端315を有する複数腔カテーテル本体305を備えた、カテーテル300であることができる。膨張式閉塞構成要素310は、カテーテル本体305の遠位に位置する。図3Aの例示的実施形態において、膨張式閉塞構成要素310は、図3A図3Cにおいて膨張状態で示す、標的妨害物の遠位に位置しながら、血管の内壁と物理的接触を行うことにより、血流を一時的に(意図的に収縮するまで)遮断、閉塞、又は封止するのに十分な拡大直径を有するバルーンである。標的妨害物を除去する前に、膨張した閉塞構成要素310により血管を閉塞することにより、閉塞構成要素により形成された一時的な障壁を越えて、血管を通って妨害物の塞栓性フラグメントが遠位まで前進することが防止される。
【0024】
図3Bは、図3Aの線3B-3Bに沿った、例示的な複数腔カテーテル本体305の断面図を示す。図3Bに示す例示的例において、3つの内腔(320、325、330)が、カテーテル本体305を通して長手方向に画定される。内腔のうちの1つ320は、その中に、バルーンカテーテル300がたどることができるワイヤ340を受けるのに十分な直径の寸法を有する。ワイヤを用いるのではなく、マイクロカテーテルを使用して、代替的にバルーンカテーテルを所望の部位まで血管を通して前進させることができ、この場合、ワイヤ内腔320がカテーテル本体の中にある必要性もまた、完全に排除することができる。バルーン閉塞構成要素310は、以下、カテーテル本体305の膨張内腔と呼ばれる、第2の内腔325を介して送達される膨張流体(例えば、ガス、空気、液体、又はこれらの任意の組み合わせ)を導入することにより膨張される(直径が拡大する)。図3Bに示す、以下フラッシング内腔と呼ばれる第3の内腔330を使用して、フラッシング液体(例えば、生理食塩水、対比流体、又は他の生体適合性液体)を血管内に分注して、逆行性方向に逆圧力差(ΔP)を確立する。任意的に、膨張内腔は、膨張内腔でありながら、カテーテルの遠位端に位置する一方向バルブ機構により一度膨張したバルーンが流体を放出することができることによりフラッシング内腔と同一のものであってもよい。3つの内腔(320、325、330)のそれぞれは、必ずしもそうである必要はないが、実質的に内径が等しい場合がある。所望により、2つ以上の任意数の内腔を有することが想到され、かつ、本発明の意図する範囲内である。内腔を2つのみ有するカテーテル本体305の構成において、内腔のうちの1つを、複数の機能のために利用することができる。例えば、1つの内腔を、ワイヤ挿入とバルーン膨張の両方のために使用することができる。このような場合において、内腔は、カテーテル本体の近位端から反対の遠位端に延び、バルーン310を通して延びる内腔のこの部分は、その中に、膨張流体をバルーン310内に分注することを可能にするように画定された、1つ以上の半径方向の開口部を有することができる。逆行性流れ反転バルーンガイドカテーテル300を血管によりその意図する場所に送達するために使用するワイヤの代わりに、マイクロカテーテルのみを利用する場合、第3の内腔(例えばワイヤ内腔)の必要性は排除され、内腔が2つのカテーテルで十分である。
【0025】
図3Cは、図3Aの破線円内の、逆行性血流反転カテーテル300の拡大部分長手方向断面図である。この具体的な視野から、ワイヤ内腔320の遠位端が、バルーン閉塞構成要素310を通して、好ましくはカテーテル本体310の遠位端315まで長手方向に完全に延びることが明らかである。膨張内腔325の遠位端は、バルーン閉塞構成要素310自体で終端し、空洞になるように配置される。しかし、フラッシング内腔330の遠位端は、バルーン閉塞構成要素310の近位のカテーテル本体305の外側周囲に画定された、側面出口ポート又は開口部335を有する。側面出口ポート又は開口部335により、フラッシング内腔330を介して送達されるフラッシング流体(例えば、生理食塩水、対比流体、又は他の生体適合性液体)が、バルーン閉塞構成要素310(膨張状態にある間)と標的妨害物との間の、カテーテル本体310から分注されることが可能となる。
【0026】
閉塞構成要素310の他の構成が可能であり、伸長又は膨張状態の間に、血管の内壁が物理的に接触して、標的妨害物及びそのなんらかのフラグメントが、閉塞構成要素を遠位に越えて通過することを防止することにより、閉塞構成要素が血管を封止するという唯一の基準をもって、本発明の意図される範囲内となる。例えば、閉塞構成要素は代替的には、圧縮又は収縮状態の間に、例えば、図3D及び図3Eに示すものなどの、パラシュートのもののような格納式フラップなどのカテーテル本体の縦軸から半径方向に外向きの縮小された、又はより低いプロファイルを有することができる。1つ以上のテザー360が、カテーテル本体305に格納式フラップ(例えばパラシュート350)を固定するために提供されてよい。最初、図3Dに示すように、フラップ(例えばパラシュート350)は、直径が小さい格納又は折りたたみ状態にある。フラッシング内腔330’から出るフラッシング流体(例えば、導入された生理食塩水、対比流体、又は他の生体適合性液体355)からの血流又は流れは、膨張式バルーン閉塞構成要素と同様に、個別の膨張流体を用いる代わりに、自動的にパラシュート350を展開することができる。側面出口ポート335を有するものの代わりとなるこの例示的構成においては、フラッシング内腔330’は、カテーテル本体305の遠位端に位置する出口ポート335’を有するように設計される。カテーテル本体の遠位端に出口ポート335’を構成することにより、フラッシング流体の流れが、出口ポート335’から、折りたたまれたパラシュート350の中心に向かう。これは、パラシュート350の展開において両方を支持し、展開されると、パラシュートを開いた(完全に拡張した、又は完全に展開した)状態で維持する。完全に展開したとき、格納式フラップ(例えばパラシュート350)は、血管の内壁と物理的に接触を行うことで血管415を封止し、これにより、図3Eに示すように、間に封止を形成し、妨害物400の遠位側又は遠位面の圧力を増加させる。
【0027】
図4は、任意の付属デバイス、即ち、バルーン閉塞構成要素310(収縮状態の間)が、標的妨害物400をその遠位側又は遠位面まで横断するまで、頭蓋内血管415を介して、本発明の逆行性流れ反転カテーテル300を送達するために、内腔425が長手方向に通して画定された、バルーンガイドカテーテル420(これには、バルーンが遠位端に近接して装着されている、又は、そうでない場合、単にガイドカテーテルであるため)を示す。バルーンガイドカテーテル420の遠位端が、標的妨害物400の近位側の位置に維持される間、逆行性流れ反転カテーテル300は、バルーン閉塞構成要素310(依然として収縮状態)が、標的妨害物400の遠位に位置するまで、内腔425を介して遠位方向(即ち、順行性方向-通常の血流と同一方向)に前進し、ガイドカテーテル420の遠位端を通って外に出る。ガイドワイヤ及び/又はマイクロカテーテルを任意的に、一方を他方に続けて、又は同時に使用して、本発明の閉塞構成要素310を、血管415を通して、標的妨害物の遠位側の所望の部位へ送達することができる。膨張流体、例えば空気などの気体、又は生理食塩水などの液体を膨張内腔325を介して導入し、バルーン閉塞構成要素310を、血管415の内壁と物理的に接触するのに十分な直径まで拡大、拡張、又は膨張させ、血管を標的妨害物400の遠位に遮断、妨害、閉塞、又は封止する。膨張したバルーン閉塞構成要素310により血管415が遮断、妨害、閉塞、又は封止されると、フラッシング流体(例えば、生理食塩水、対比流体、又は他の生体適合性液体)を、フラッシング内腔330を介して導入し、膨張したバルーン閉塞構成要素310と標的妨害物400との間に配置された側面出口ポート335から分注することができる。膨張したバルーン閉塞構成要素310により血管415が遮断、妨害、閉塞、又は封止されるため、フラッシング内腔330を介して分注され、側面出口ポート335から出るあらゆるフラッシング流体は、通常の血流(即ち、矢印「fa」により示される、順行性方向)とは逆の、逆行性方向(矢印「fr」により示される)に流される。フラッシング内腔330を介して投与されるフラッシング流体の体積は、標的妨害物400の遠位側の圧力(Pd)が、標的妨害物410の近位側の圧力(Pp)を超える(即ち、Pd>>Pp)まで増やされる。それ故、標的妨害物を同一方向に押す、逆行性方向(通常の血流の方向とは逆)へのより大きな釣り合った力を付与する逆の圧力差(ΔP、Pd>>Pp))が確立される。膨張したバルーン閉塞構成要素310を標的妨害物400の遠位に配置することにより、障壁として機能し、妨害物のフラグメントが障壁を遠位に越えて塞栓することを防止するという、2つの用途として機能する。
【0028】
有利には、ガイドカテーテル420は構造的支持をもたらし、吸引(例えば、注射器又はポンプを介しての減圧)と組み合わせた際に、治療中に血塊の逆行性移動(即ち流れ反転)を促進し、かつ同時に、処置中に血液及び妨害物のフラグメントと共に導入された、過剰のフラッシング流体(例えば、生理食塩水、対比流体、又は他の生体適合性液体)を除去する。バルーンガイドカテーテル420は、閉塞物を除去している間に、閉塞物の近位側にて流れ(例えば、血液及び/又は妨害物のフラグメント)を一時的に閉塞し、これにより、妨害物、閉塞物、又は血塊の近位圧力を低下させる、近位での流れ停止をもたらす。従来の遠位アクセスカテーテル(図示せず)を任意的に、バルーンガイドカテーテルと組み合わせて使用し、閉塞物、妨害物、又は血塊400のより近くで局所吸引をもたらすことができる。逆行性方向に減圧を適用することにより、このような付属の吸引デバイスは、近位圧力(Pp)を更に低下させ、これは圧力差(ΔP)の逆転と組み合わせて、標的妨害物400が通常の血流とは逆の、逆行性方向への移動を補助し、妨害物が最初は血液を通って移動するプロセスを、本質的に逆転させる。
【0029】
本発明の逆行性流れ反転バルーンガイドカテーテルを応用する潜在的な制限は、バルーン閉塞構成要素310が標的妨害物の遠位に配置されると、血管の分岐部(即ち、主な枝部血管435、及び側枝部血管440)が、標的妨害物400の遠位端とバルーン閉塞構成要素310の近位端との間に存在することになる、特定の用途において存在する。このような場合、膨張状態にある間、バルーン閉塞構成要素310は、図5に示すように、分岐血管を形成する2つの枝部のうちの1つ(例えば、主な枝部血管435)のみを遮断、閉塞、又は封止し、他の枝部(例えば側枝部血管440)を遮断しないままである。2つの分岐血管枝部のうちの1つのみが逆行性流れ反転バルーンガイドカテーテルにより遮断されるため、フラッシング内腔330を通して流れ、側面開口部又はポート335から出るフラッシング流体345(例えば、生理食塩水、対比流体、又は他の生体適合性液体)の力は、圧力差(ΔP)を逆転させるには不十分である場合がある(即ち、(Pd)は実質的に(Pp)より大きくない場合がある)。更に、フラッシング流体(例えば、生理食塩水、対比流体、又は他の生体適合性液体)は、有利には、遮断されていない分岐枝部血管(即ち、膨張したバルーン閉塞構成要素により遮断されていない分岐枝部血管(440))を通して、順行性方向に流れることが可能となってよい。このような状況において、分岐血管の両方の枝部は、直接、又はマイクロカテーテルを介して、1つのバルーン閉塞構成要素が分岐血管(435、440)のそれぞれの各枝部に展開されるように、2つの個別の膨張式バルーン閉塞構成要素を展開することにより、他方と独立して遮断されるのが好ましい。
【0030】
いくつかの状況において、本発明の逆行性流れ反転バルーンカテーテル300は、吸引カテーテル及び/又は閉塞物除去デバイス(例えば、ステント回収装置)を用いて、血管から近位の標的妨害物を捕捉して除去可能になる前に、複数回又は複数段階展開され、収縮される必要があり得る。各段階にて、逆行性流れ反転カテーテルは、遠位方向に標的妨害物を横断して、又標的妨害物に横切って前進し、その後、標的妨害物を横切り、血管を通して近位後方に引き上げられる。逆行性流れ反転バルーンガイドカテーテルが血管を通して近位に引き上げられる毎に、バルーン閉塞構成要素310は収縮状態に戻る。バルーン閉塞構成要素310が収縮状態にある間、標的妨害物400は不利なことに、遠位方向(通常の血流の方向における順行性方向)に、血管を通して前進する場合がある。バルーン閉塞構成要素310が収縮する間、遠位方向への標的妨害物の移動量を制限する、又は、別の方法で遠位方向への標的妨害物の移動を完全に防止するために、本発明の逆行性流れ反転バルーンガイドカテーテルは更に、血塊捕捉機械的構成要素を含むことができる。本発明のデバイスが血管415内に展開されている図6Aを参照すると、血塊捕捉機械的構成要素は、カテーテル本体305の遠位セクションから、半径方向外側に延びる、1つ以上の格納式、折り畳み式、又は拡張式構成要素605(例えば、突出部又はアーム)を備える。展開又は拡張された際、突出部又はアーム605は、収縮したバルーン閉塞構成要素310と標的妨害物400との間に配置された、血管415のゾーン又は領域内で伸長する。図6A図6Dに示す例示的実施形態において、3つの突起又はアーム605は等距離で固定され、カテーテル本体305から半径方向外側に伸長する、又は広がる。各突起又はアーム605は、完全に伸長又は展開している間、血管415の内壁と物理的に接触するのに十分な長さを有するのが好ましい。展開した各突起又はアーム605は、拡張した自由な末端を有するのが好ましく、これにより、展開して物理的に接触しているとき、血管の内壁を損傷しない。展開状態にある間、血塊捕捉構成要素605を遠位に越えて標的妨害物が血管を通して遠位移動することは、バルーン閉塞構成要素310が再膨張可能な時間まで、防止される。図6Dにはっきりと示されるように、突出部605は自動的に折りたたまれる(collapse or wrap down)ことにより、マイクロカテーテル420の内腔425の中へと、近位後方に引き上げられた際に、直径が縮小する。
【0031】
本発明の逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスは、多目的の機能性を提供する。上で詳述したように、閉塞構成要素が、拡張した直径を有する拡張状態にあるとき、血管を標的妨害物の遠位位置の中で封止すること、血管の中で、標的妨害物、又はそれに関係する残屑が閉塞デバイスを越えて遠位に前進することは、防止される。加えて、標的妨害物の遠位に位置し、かつ同時に拡張状態にある間に、閉塞構成要素により形成された一時的な妨害物、閉塞物、又は封止は、塞栓のあらゆるフラグメントが、治療中に障壁を遠位に越えて、遠位塞栓形成することを防止する障壁として機能する。また更に、本発明の逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスにより、フラッシング流体を、拡張状態にある閉塞構成要素と、標的妨害物との間にあるゾーン又は領域にて、血管に導入することで、Pd>>Ppである逆圧力差(ΔP)が確立される。このような逆の圧力差(ΔP)の結果、標的妨害物は有利には、任意的に本発明と組み合わせて使用可能な、吸引カテーテル及び/又は機械的閉塞物除去デバイス(例えば、ステント回収装置)に向けて逆行性方向(順行性方向の通常の血流とは逆)に押される。更に、妨害物を除去するための従来のステント回収装置のみを用いる場合と比較して、本発明の逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスは、標的妨害物の圧縮、及び場合により剪断を低減する。
【0032】
本発明のバルーンカテーテルは、機械的血栓除去処置で使用するために図示及び説明されてきたが、他の神経血管又は血管内医学処置で使用するためにも適用可能である。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施形態に適用されるような本発明の基本的な新規特徴を示し、記載し、かつ指摘してきたが、当業者であれば、例示されたシステム/デバイスの形態及び詳細、並びにそれらの操作における様々な省略、置換、及び変更を、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく実施し得ることが理解されよう。例えば、同じ結果を達成するために、実質的に同じ機能を実質的に同じやり方で実行して同じ結果を達成する構成要素及び/又は工程の組み合わせはすべて、本発明の範囲内に包含されるように明らかに意図される。また、上述のある実施形態から別の実施形態への構成要素の置き換えも、完全に意図及び想定の範囲内である。また、図面は必ずしも一定の比例尺で描かれておらず、あくまでも概念的なものにすぎない点も理解されるべきである。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲に示される内容によってのみ限定されるものとする。
【0034】
本明細書に引用されたすべての発行済み特許、係属中の特許出願、刊行物、論文、書籍、又は他の参照文献はいずれも、その全体が本明細書に援用によって組み込まれる。
【0035】
〔実施の態様〕
(1) 逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスであって、
近位端及び反対の遠位端を有するカテーテル本体であって、少なくとも1つの内腔が前記カテーテル本体内で長手方向に画定されている、カテーテル本体と、
前記カテーテル本体の前記遠位端に近接して配置され、前記カテーテル本体から半径方向外側に延びる閉塞構成要素であって、折りたたみ状態から拡張状態に移行するように作動可能であり、前記カテーテル本体の縦軸から測定すると、前記折りたたみ状態の間の直径と比較して、前記拡張状態においてより拡大した直径を有する、閉塞構成要素と、
前記カテーテル本体の少なくとも1つの内腔を通して送達可能であり、前記カテーテル本体内に画定されたポートから出るフラッシング流体であって、前記ポートは前記閉塞構成要素の近位に配置されている、フラッシング流体と、
を含む、デバイス。
(2) 前記ポートが、前記カテーテル本体の側面に画定されており、前記閉塞構成要素が膨張式バルーンであり、前記カテーテル本体が、前記カテーテル本体を通して長手方向に画定された複数の内腔を有する、実施態様1に記載のデバイス。
(3) 前記複数の内腔のうちの1つが、前記フラッシング流体を送達するためのフラッシング内腔であり、前記複数の内腔のうちの別のものが、膨張流体を送達して、前記膨張式バルーンを膨張させて、前記折りたたみ状態から前記拡張状態に移行させる、実施態様2に記載のデバイス。
(4) 前記フラッシング流体は生理食塩水、対比流体、又は他の生体適合性液体であり、前記膨張流体は空気である、実施態様3に記載のデバイス。
(5) 前記複数の内腔のうちの1つは、前記カテーテル本体が上をたどるワイヤを受けて通すためのワイヤ内腔であり、前記ワイヤ内腔は、前記カテーテル本体を通して長手方向に、かつ前記閉塞構成要素を越えて遠位まで延びている、実施態様2に記載のデバイス。
【0036】
(6) 前記ポートは、前記カテーテル本体の遠位端にて画定されており、前記閉塞構成要素は、前記伸長状態において前記カテーテル本体から半径方向外側に延び、かつ前記折りたたみ状態のときに、前記カテーテル本体の外側表面とプロファイルが実質的にぴったり重なる、フラップである、実施態様1に記載のデバイス。
(7) 前記フラップは、前記ポートから出る前記フラッシング流体により自動的に展開される、実施態様6に記載のデバイス。
(8) 折りたたみ状態と拡張状態との間で移行可能な血塊捕捉機械的構成要素を更に含み、前記拡張状態において、前記血塊捕捉機械的構成要素は、前記閉塞構成要素の近位の前記カテーテル本体の遠位セクションから半径方向外側に延びる、実施態様1に記載のデバイス。
(9) 前記血塊捕捉機械的構成要素は、少なくとも1つの突出部又はアームである、実施態様8に記載のデバイス。
(10) 標的妨害物が中に配置された血管を再疎通する間の、逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスの使用方法であって、前記デバイスは、近位端及び反対の遠位端を有するカテーテル本体であって、少なくとも1つの内腔が前記カテーテル本体内で長手方向に画定されている、カテーテル本体、を含み、前記デバイスは、前記カテーテル本体の前記遠位端に近接して配置された閉塞構成要素であって、折りたたみ状態から拡張状態に移行するように作動可能であり、前記カテーテル本体の縦軸から測定すると、前記折りたたみ状態の間の直径と比較して、前記拡張状態においてより拡大した直径を有する、閉塞構成要素と、前記カテーテル本体の前記少なくとも1つの内腔を通して送達可能であり、前記カテーテル本体内に画定されたポートから出るフラッシング流体であって、前記ポートは前記閉塞構成要素の近位に配置されている、フラッシング流体と、を更に含み、
前記方法が、
前記閉塞構成要素が前記折りたたみ状態にある間に、前記閉塞構成要素が前記標的妨害物の遠位に配置されるまで、前記標的妨害物を血管内で遠位に横断する前記逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスを導入する工程と、
前記標的妨害物の遠位に適切に配置されると、前記閉塞構成要素を作動させて、前記折りたたみ状態から前記拡張状態に移行させる工程であって、前記拡張状態にある間、前記拡大した直径が、前記血管の内壁との封止を形成し、順行性血流が前記閉塞構成要素を遠位に越えることを防止する、工程と、
前記拡張した閉塞構成要素により一端にて結合され、前記標的妨害物により反対端にて結合された前記血管の領域において、前記フラッシング流体を前記カテーテル本体の前記ポートから前記血管の前記領域に分注することにより、逆行性血流を確立する工程と、を含む、方法。
【0037】
(11) 前記確立する工程は、前記標的妨害物の遠位面において圧力を増加させることで、前記標的妨害物の遠位面における前記圧力が、前記標的妨害物の近位面における圧力よりも実質的に大きくなる工程を含む、実施態様10に記載の方法。
(12) 前記圧力は最初、圧力差が少なくとも約25%となり、前記標的妨害物を前記血管の内壁から移動させるまで、前記標的妨害物の前記遠位面にて増加され、前記標的妨害物が移動すると、その後、前記圧力差は少なくとも約5%となり、前記標的妨害物を前記血管を通して遠位に推進する、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記増加させる工程は、前記カテーテル本体の前記ポートから、前記閉塞構成要素により前記一端にて結合され、前記標的妨害物により前記反対端にて結合された前記血管の前記領域内に、前記フラッシング流体を分注することを含む、実施態様11に記載の方法。
(14) 前記カテーテル本体は、前記カテーテル本体を通して長手方向に画定された複数の内腔を有し、前記複数の内腔のうちの1つが、前記フラッシング流体を送達するためのフラッシング内腔である、実施態様10に記載の方法。
(15) 前記ポートが、前記カテーテル本体の側面に画定され、前記閉塞構成要素が膨張式バルーンであり、前記複数の内腔のうちの別のものが、膨張流体を送達して、前記膨張式バルーンを前記折りたたみ状態から前記拡張状態に膨張させる、実施態様14に記載の方法。
【0038】
(16) 前記ポートは、前記カテーテル本体の遠位端にて画定されており、前記閉塞構成要素は、前記伸長状態において前記カテーテル本体から半径方向外側に延び、かつ前記折りたたみ状態のときに、前記カテーテル本体の外側表面とプロファイルが実質的にぴったり重なる、フラップであり、前記フラップは、前記ポートから出る前記フラッシング流体により自動的に展開される、実施態様10に記載の方法。
(17) 前記逆行性血流を確立することにより、前記標的妨害物が前記血管から近位に逆行性方向に押される、実施態様10に記載の方法。
(18) 前記血管は、前記標的妨害物に対してすぐ遠位の分岐部を有し、前記分岐部は主な枝部及び側枝部を含み、前記逆行性血流閉塞物フラッシングデバイスの2つのうちの1つを、前記主な枝部及び前記側枝部のそれぞれにおいて、送達する、実施態様10に記載の方法。
(19) 前記閉塞構成要素が前記血管を通して近位に引き上げられる間、前記閉塞構成要素の近位に配置された血塊捕捉機械的構成要素を作動させて、折りたたみ状態から、前記カテーテル本体から半径方向外側に延びる拡張状態に移行させ、前記拡張状態の間、前記血塊捕捉機械的構成要素は、前記標的妨害物が、前記血管を通して展開された前記血塊捕捉機械的構成要素を越えて遠位まで移動することを防止する、実施態様10に記載の方法。
(20) 展開したとき、前記血塊捕捉機械的構成要素の終端した自由端が前記血管の内壁と物理的に接触している、実施態様19に記載の方法。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D