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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20231225BHJP
   C10M 105/04 20060101ALN20231225BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20231225BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20231225BHJP
   C10M 129/74 20060101ALN20231225BHJP
   C10M 129/76 20060101ALN20231225BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20231225BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20231225BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20231225BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20231225BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M105/04
C10M107/02
C10M105/38
C10M129/74
C10M129/76
C10N20:02
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019192472
(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公開番号】P2021066795
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】517436615
【氏名又は名称】シェルルブリカンツジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠田 憲明
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 真二
(72)【発明者】
【氏名】岸 美里
(72)【発明者】
【氏名】小川 仁志
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真一郎
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119748(JP,A)
【文献】特表2015-507075(JP,A)
【文献】特表2016-520158(JP,A)
【文献】特開2008-285672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0187457(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A-1)組成物の全質量に対して30~80質量%の100℃における動粘度が2~3.5mm/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油、(A-2)組成物の全質量に対して5~40質量%の100℃における動粘度が400~700mm/sであるポリアルファオレフィン及び(A-3)組成物の全質量に対して5~20質量%の100℃における動粘度が3~6mm/sであり、3価以上のポリオールのエステルであるエステル化合物を含有し、さらに(B-1)組成物の全質量に対して0.2~2質量%の、不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物を含有する潤滑油組成物であって、当該不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物は、不飽和脂肪酸とグリセロールとのモノエステル、不飽和脂肪酸とトリメチロールプロパンとのモノエステル又は不飽和脂肪酸とペンタエリスリトールとのモノエステル、或いはこれらの組み合わせであり、不飽和脂肪酸は、炭素数10~20を有する不飽和脂肪酸である、40℃における動粘度が25mm/s~45mm/sである潤滑油組成物。
【請求項2】
上記(A-3)エステル化合物は、3価又は4価のポリオールと飽和脂肪酸とのエステルである、請求項に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
上記(A-3)エステル化合物は、トリメチロールプロパンと直鎖の炭素数8及び炭素数10の飽和カルボン酸とのエステル化合物である、請求項に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
L-5自動車用ハイポイドギヤ油としての、請求項1乃至のいずれか一項に記載の潤滑油組成物の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関し、特に自動車用ギヤ油、自動車用ハイポイドギヤ油として使用される潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用のギヤ油に要求される耐荷重性能は、自動車の高出力化に伴いAPI(American Petroleum Institute)のギヤ油タイプのGL-4からGL-5のレベルが必要となってきている。
また、様々な道路状況に対応して運転される自動車用ギヤユニットは、油膜の形成されにくい低速条件での駆動を想定する必要がある上に、ユニットの小型化に伴うギヤ油充填量の減少による発熱によりギヤ油温度が上昇し、粘度低下に起因する油膜破断も発生しやすい傾向にもあるため、ギヤ油にはさらなる耐久性が求められている。
このような耐久性を求められるギヤ油はギヤ歯面上の油膜形成を保持するためSAE(Society of Automotive Engineers)の粘度番号90を採用するのが一般的であった。
【0003】
しかし、一方では省燃費性も求められており、これを実現するためには、攪拌抵抗を低減させ、これに対処するために低粘度化が必要となる。こうした、ギヤ歯面の保護と低粘度化の双方の要求を満足するために、従来手法に基づいて低粘度基油に対して極圧添加剤の添加量を増量させるといった方法を採用すると、極圧添加剤として用いられているリン・硫黄系添加剤が、銅成分を含む部品に対する腐食性の悪影響を高め、装置寿命の短命化を招来する危険性が多い。そのため、このような銅や銅合金の腐食を低下させるギヤ油用の添加剤組成物も提案されている(特許文献1)。
また、基油に炭化水素系合成油とエステル系合成油を採用してGL-5レベルを維持し、一方で低粘度化を図り、耐久性と省燃費性の両立を達成する技術も提案されている(特許文献2)。
【0004】
さらに、フィッシャー・トロプシュ由来基油とポリアルファオレフィン及びエステル化合物とを組み合わせることで、ディファレンシャルギヤ部の良好な耐焼き付き性を実現することができるような技術も提案されているが(特許文献3)、一方で、低粘度化によるベアリングの耐摩耗性低下については、使用負荷条件の制限や軸受の構造変更などでの対応が必要であり、低粘度油で従来のSAE粘度番号90を要求するギヤユニットへの完全置き換えは困難であった。ここでいうベアリングの摩耗としては、例えばハイポイドギヤの入力側のピニオンギヤを支えるテーパーローラーベアリングの摩耗が挙げられる。このベアリングが摩耗すると、ピニオンギヤとリングギヤの位置関係を正しく保持できなくなり、結果として歯車の耐久性を低下させることが知られている(特許文献4)。
【0005】
さらにまた、潤滑油の低粘度化は油膜形成能に影響を及ぼし、ギヤ歯面等におけるスコーリングの発生という問題が生じることが知られており、良好な耐スコーリング性の実現が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-323850号公報
【文献】特開2008-179780号公報
【文献】特開2017-115038号公報
【文献】特開2007-100792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高出力の自動車その他の高出力、高回転のギヤ機構に対してギヤオイルとして適用できる耐久性及び耐焼き付き性を維持しつつ、さらなる省燃費性に加えて、ベアリングの良好な耐摩耗性及び良好な耐スコーリング性を実現することができるGL-5レベルの自動車用ギヤ油などに適用できる潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明は、100℃における動粘度が2~3.5mm/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油、100℃における動粘度が400~700mm/sであるポリアルファオレフィン及び100℃における動粘度が3~6mm/sであり、3価以上のポリオールのエステルであるエステル化合物を含有し、さらに不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物を含有する潤滑油組成物であって、当該不飽和脂肪酸の部分エステル化合物は、不飽和脂肪酸とポリオールとのモノエステル化合物を含み、40℃動粘度が25~45mm/sである潤滑油組成物に関する。
フィッシャー・トロプシュ由来基油は組成物の全質量に対して30~80質量%含有され、ポリアルファオレフィンは組成物の全質量に対して5~40質量%含有され、エステル化合物は組成物の全質量に対して5~20質量%含有される。
不飽和脂肪酸の部分エステル化合物は、組成物の全質量に対して0.2~2質量%含有される。不飽和脂肪酸は、炭素数10~20を有する不飽和脂肪酸である。
潤滑油組成物は、APIギヤ油タイプでGL-5レベルを満たし、粘度指数が160以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高出力の自動車その他の高出力、高回転のギヤ機構に対するギヤオイルとして適用できる耐久性及び耐焼き付き性を維持しつつ、さらなる省燃費性に加えてベアリングの良好な耐摩耗性及び良好な耐スコーリング性を実現することができる潤滑油組成物を提供できる。さらに、当該潤滑油組成物は、自動車用ギヤ油、ハイポイドギヤ油などに効果的に使用するために、API GL-5レベルを満たし、かつ粘度指数が160以上である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
ギヤ機構について省燃費を図るには、主として、(1)金属同士の接触によって生ずるギヤ歯面間のすべりを低減すること、(2)回転するギヤ歯車が潤滑油を攪拌することに要するエネルギーを低減すること、(3)潤滑油膜を介在したギヤ歯面間でおこる高圧力条件下でのすべり摩擦を低減すること、の3点を高度にバランスさせることによって行う必要がある。
【0011】
こうしたバランスをとる為に、通常、上記(1)のためには添加する油性剤の効果的活用によって摩擦係数の低下を図り、上記(2)のためには低粘度基油の採用によって低粘度化を図り、上記(3)のためにはせん断力の小さな基油を選択することによってトラクション係数の低下を図るという手段を講じることが考えられる。
【0012】
また、良好な耐荷重能を実現させるためには、(4)極圧添加剤の使用によってギヤ歯面に強固な金属皮膜を形成すること、(5)金属同士の接触を妨げるような油膜を形成すること、などが必要とされる。また、この油膜の保持は軸受の疲労寿命にも影響を及ぼすものである。
【0013】
このような省燃費性と耐荷重能を両立させるためには、先ず、潤滑油組成物の主要な組成材料の選定が重要なポイントの一つである。すなわち、低温においては低粘度であって攪拌抵抗が低く、高温で発生する極圧状態においては、高粘度であるような組成材料が好ましい。こうした好ましい組成材料に近いものは、温度による粘度変化が小さい粘度指数(VI)が高いものであり、VI値にして160以上が必要とされ、特に高温下での良好な耐焼き付け性及や良好な耐摩耗性の実現のためには180以上の高い粘度指数が必要とされる。
【0014】
このVIを向上させるためには、ポリアルファオレフィン、特には高粘度のポリアルファオレフィンとエステル基油に加えて、フィッシャー・トロプシュ由来基油を混合して使用することができる。
【0015】
このような省燃費性と耐荷重能の向上に加えて、自動車などのディファレンシャルギヤ部での疲労寿命を改善させるためには、ポリアルファオレフィンと、エステル化合物とに加えて、フィッシャー・トロプシュ由来基油を混合して使用することが有効な手段である。また、ピニオンギヤを支持するベアリングの良好な耐摩耗性を実現させるためには、フィッシャー・トロプシュ由来基油、ポリアルファオレフィン及びエステル化合物に加えて、不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物を混合して使用することが有効である。
【0016】
さらに、ギヤ歯面等における良好な耐スコーリング性の実現のためには、高温における動粘度が低いフィッシャー・トロプシュ由来基油、高温における動粘度が高いポリアルファオレフィン及び高温における動粘度が低い3価以上のポリオールのエステル化合物を組み合わせて使用することが有効である。以下に本発明の各構成成分について説明する。
【0017】
本発明の(A-1)成分であるフィッシャー・トロプシュ由来基油は、当技術分野において既知である。「フィッシャー・トロプシュ由来」という用語は、基油が、フィッシャー・トロプシュ法の合成生成物である又はこの合成生成物に由来することを意味する。フィッシャー・トロプシュ由来基油は、GTL(ガス液化)基油とも称することができる。潤滑油組成物内で基油として好都合に使用できる適切なフィッシャー・トロプシュ由来基油は例えば、EP0776959、EP0668342、WO97/21788、WO00/15736、WO00/14188、WO00/14187、WO00/14183、WO00/14179、WO00/08115、WO99/41332、EP1029029、WO01/18156及びWO01/57166において開示されているものである。
【0018】
フィッシャー・トロプシュ由来基油の動粘度は、100℃における動粘度が2~3.5mm/sである。フィッシャー・トロプシュ由来基油の100℃における動粘度が2mm/s未満であると、高温における蒸発量が大きく組成物の粘度が上昇してしまい、省燃費の効果が低減される。フィッシャー・トロプシュ由来基油の100℃における動粘度が3.5mm/sを超えると、高粘度PAOとの混合で組成物のVIを高くすることが困難となるので望ましくない。
フィッシャー・トロプシュ由来基油の100℃における動粘度は、油膜形成の観点から2~3.5mm/sであり、好ましくは2.5~3.5mm/sであり、より好ましくは2.5~3.0mm/sである。
【0019】
フィッシャー・トロプシュ由来基油の含有量は、潤滑油組成物の全質量(100質量%)に対して30~80質量%である。フィッシャー・トロプシュ由来基油の含有量が30質量%未満であると、潤滑油組成物が40℃において25~45mm/s程度の粘度を維持するために高粘度(400~700mm/s)のポリアルファオレフィン(PAO)を多量に使用することとなり、合成油の比率が増えるため経済的でない。フィッシャー・トロプシュ由来基油の含有量が80質量%を超えると、高粘度のポリアルファオレフィン(PAO)の配合量に制限が生じ、潤滑油組成物の粘度を45mm/s以下にしながら組成物の粘度指数160以上を維持するために粘度指数向上剤の配合量を増やす必要があるので経済的でない。フィッシャー・トロプシュ由来基油の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対して30~80質量%、好ましくは40~75質量%、より好ましくは50~75質量%、よりさらに好ましくは60~75質量%、最も好ましくは65~70質量%である。
本発明のフィッシャー・トロプシュ由来基油としては、例えば、リセラX415としてロイヤルダッチシェル社から市場で入手可能なフィッシャー・トロプシュ由来基油が挙げられる。
フィッシャー・トロプシュ由来基油は1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本発明の(A-2)成分であるポリアルファオレフィン(PAO)には、各種アルファオレフィンの重合物又はこれらの水素化物が含まれる。アルファオレフィンとしては任意のものが用いられるが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、炭素数5乃至19のα-オレフィンなどが挙げられる。
ポリアルファオレフィンの製造にあたっては、上記アルファオレフィンの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アルファオレフィンは、エチレン及びプロピレンが好ましく、エチレン及びプロピレンを組み合せたものが、高い増粘効果を示すためより好ましい。エチレン及びプロピレンの組み合せの比率は任意の割合でよいが、エチレン及びプロピレンの比率は、20:80~80:20が好ましく、30:70~70:30がより好ましい。
【0021】
このポリアルファオレフィンは、使用するアルファオレフィンの種類、重合度などによって種々の粘度のものが得られるが、高粘度のポリアルファオレフィンが好ましくは使用される。
【0022】
ポリアルファオレフィンは、100℃における動粘度が、400~700mm/sである高粘度のポリアルファオレフィンを使用する。ポリアルファオレフィンの100℃における動粘度が400mm/s未満であると潤滑油組成物の粘度指数向上効果が低いため好ましくない。ポリアルファオレフィンの100℃における動粘度が700mm/sを超えると、潤滑油組成物の油膜厚さが薄くなるため好ましくない。
ポリアルファオレフィンは100℃における動粘度は400~700mm/s、好ましくは500~650mm/s、より好ましくは550~650mm/sである。
【0023】
ポリアルファオレフィンの含有量は、潤滑油組成物の全質量に対して5~40質量%で配合される。ポリアルファオレフィンの含有量が5質量%未満であると、潤滑油組成物の粘度が低くなり油膜厚さが薄くなるため好ましくない。ポリアルファオレフィンの含有量が40質量%を超えると、潤滑油組成物の粘度が高くなり省燃費性が低下するため好ましくない。ポリアルファオレフィンの含有量は5~40質量%、好ましくは5~30質量%、より好ましくは7~20質量%、よりさらに好ましくは10~15質量%である。
ポリアルファオレフィンは1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本発明の(A-3)成分であるエステル化合物としては、3価以上のポリオールのエステルが挙げられる。
【0025】
(A-3)成分の例として挙げられるポリオールエステルは、3~4価のポリオール及びそのエチレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種と、炭素数が4~12の脂肪酸とから得られる脂肪酸エステルからなる。2価以下のポリオールのエステルは、動粘度が低くなり、またシールの膨潤性を過剰にすることがある。以下、3~4価のポリオール及びそのエチレンオキサイド付加物について順次説明する。
【0026】
水酸基を3個以上有するポリオールとしては、具体的には、例えばトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、トリ-(ペンタエリスリトール)、グリセロール、ポリグリセロール(グリセロールの2~20量体)、1,3,5-ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセロール縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール及びマンニトール等の多価アルコール、並びにキシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース及びメレジトース等の糖類、並びにこれらの部分エーテル化物、並びにメチルグルコシド(配糖体)等がある。
これらのうち、水酸基を3個有するポリオールが熱酸化安定性、添加剤溶解性及び低温流動性のバランスが良好であるため好ましく、中でもトリメチロールプロパンが最も好ましい。
【0027】
上記ポリオールエチレンオキサイド付加物は、上記のポリオールにエチレンオキサイドを1~4モル、好ましくは1~2モルの割合で付加して得られる。好ましくは、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、及びペンタエリスリトールのエチレンオキサイド付加物である。付加モル数が4モルを超えると、得られる脂肪酸エステルの耐熱性が悪くなることがある。
上記3~4価のポリオール及びそのエチレンオキサイド付加物は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0028】
本発明の(A-3)成分であるエステル化合物の原料に用いられる脂肪酸は、特に制限されず、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物などを用いることができ、さらにこれらの脂肪酸は、直鎖脂肪酸、分岐を有する脂肪酸、又はこれらの混合物であってもよい。飽和脂肪酸としては、例えば、直鎖飽和脂肪酸を50モル%以上含有する飽和脂肪酸、分岐鎖飽和脂肪酸を50モル%以上含有する飽和脂肪酸などが挙げられる。得られる脂肪酸エステルの高温における安定性を有する点、潤滑油として適切な粘度を有し、粘度指数が高いなどの点から、飽和脂肪酸が好ましく、特に直鎖飽和脂肪酸が好ましい。
【0029】
上記の脂肪酸は、炭素数が4~12の脂肪酸、好ましくは炭素数が6~12の脂肪酸、さらに好ましくは炭素数が8~10の脂肪酸である。炭素数が3以下の脂肪酸を使用した場合には、期待されるエステルの添加効果が十分ではないことがある。一方、炭素数が12を超える脂肪酸を使用した場合には、得られるエステルの低温流動性に劣ることがある。
【0030】
上記直鎖飽和脂肪酸としては、例えば酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、ヘプチル酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、及びラウリン酸が挙げられる。
これらのうち、カプリル酸及びカプリン酸が最も適切な粘度を示すため好ましく、カプリル酸及びカプリン酸の混合物がより好ましい。
【0031】
本発明の(A-3)成分であるエステル化合物は、上記3~4価のポリオール及びそのエチレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種と、脂肪酸とを任意の割合で反応させることによって得られる。好ましくは、当該ポリオール及びその付加物1モルに対して、脂肪酸が2~6モル程度、より好ましくは2.1~5モル程度の割合で反応させることにより得られる。
【0032】
本発明の(A-3)成分であるエステル化合物は、好ましくはアルコール部分が完全にエステル化した完全エステル化合物であり、例えば3価以上のポリオールの完全エステル化合物である。
本発明の(A-3)成分であるエステル化合物は、トリオールエステルが好ましい。最も好ましいエステル化合物は、トリメチロールプロパンと直鎖の炭素数8及び炭素数10のカルボン酸とのエステル化合物である。
【0033】
本発明の(A-3)成分であるエステル化合物は、100℃における動粘度が3~6mm/sであるエステル化合物である。エステル化合物は100℃における動粘度が3mm/s未満であると高温時の蒸発損失量が多いため好ましくない。100℃における動粘度が6mm/sを超えると、低温流動性が低下するため好ましくない。本発明のエステル化合物の100℃における動粘度は、好ましくは4~5mm/sである。
【0034】
本発明の(A-3)成分であるエステル化合物の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対して5~20質量%で配合される。エステル化合物の含有量が5質量%未満であると、添加剤の溶解性が低下するため好ましくない。エステル化合物含有量が20質量%を超えると、加水分解される可能性があること、極圧添加剤との金属表面への競争吸着の発生が見られることなどの点から好ましくない。本発明のエステル化合物の含有量は、好ましくは7~15質量%、より好ましくは8~12質量%で配合される。
エステル化合物は1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本発明の(B-1)成分である不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物について説明する。本発明では、(B-1)不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物は、不飽和脂肪酸とポリオールとのモノエステル化合物を含む。好ましくは、不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物は、不飽和脂肪酸とポリオールとのモノエステル化合物である。
【0036】
本発明の(B-1)成分である不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物における不飽和脂肪酸は、実用的には炭素数10~20の不飽和脂肪酸である。不飽和脂肪酸の炭素数が10未満であると製品の臭気及び腐食に影響を及ぼすため好ましくなく、他方、炭素数が20を超えると低温特性が低下するため好ましくない。さらに好ましくは炭素数16~20の不飽和脂肪酸である。たとえば、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、リノール酸、エイコサジエン酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸、ピノレン酸、α-エレオステアリン酸、β-エレオステアリン酸、ミード酸、ジホモ-γ-リノレン酸、エイコサトリエン酸ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸などが挙げられる。不飽和脂肪酸の分子中の不飽和数については特に制限が無いが、酸化安定性の点で、不飽和数が1であることが好ましい。たとえば、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸などが挙げられ、特にオレイン酸が好ましい。
【0037】
本発明の(B-1)不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物におけるポリオールは、2価以上のポリオールであれば特に制限は無いが、3価以上のポリオールが好ましい。具体的には、例えばトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、トリ-(ペンタエリスリトール)、グリセロール、ポリグリセロール(グリセロールの2~20量体)、1,3,5-ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセロール縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール及びマンニトール等の多価アルコール、並びにキシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース及びメレジトース等の糖類並びにメチルグルコシド等が挙げられる。
これらのうち、3価~4価のポリオールが不飽和脂肪酸との反応生成物としての潤滑油への溶解性の点でより好ましい。具体的には、例えばグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリト-ル、などが挙げられる。これらのうち、グリセロール及びトリメチロールプロパンが特に好ましく、グリセロールが最も好ましい。
【0038】
本発明の(B-1)不飽和脂肪酸とポリオールの部分エステル化合物は、ポリオールが完全エステル化されていない化合物である。具体的には、ポリオールのモノエステル化合物、ポリオールが3価のポリオールの場合にはポリオールのジエステル化合物、そしてポリオールが4価のポリオールの場合にはポリオールのジエステル化合物及び/又はポリオールのトリエステル化合物などが含まれる。
本発明の(B-1)不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物は、金属表面への親和性と潤滑油への溶解性の点、及び所定の性能を発揮するためには、モノエステル化合物が好ましい。部分エステル化合物がジエステル化合物以上の部分エステル化合物を含む場合には、不飽和脂肪酸とポリオールとのモノエステル化合物が、当該部分エステル化合物全体の50質量%以上、好ましくは80質量%以上含まれる。本発明の(B-1)不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物は、グリセロールモノオレート、トリメチロールプロパンモノオレート及びペンタエリスリト-ルモノオレートが特に好ましく、グリセロールモノオレートが最も好ましい。
本発明の(B-1)不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物は、市販の製品を購入しても、又は調製してもよい。市販の製品としては、例えばエキセパールPE-MO、エマゾールMO-50として株式会社花王から入手できるものなどが挙げられる。
【0039】
本発明の(B-1)成分である不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル化合物の配合量は、潤滑油組成物の全質量に対して0.2質量%以上配合されなければならないが、通常は0.2~2質量%の範囲で配合される。0.2質量%未満であると、耐摩耗性の改善効果が得られないため好ましくない。2.0質量%を超えると、酸化安定性の低下を招くことと、溶解性の低下を招くことがあるため好ましくない。当該成分の添加による最大限の性能を発揮させるために、0.5~1.5質量%の範囲で、さらには0.7~1.3質量%の範囲で配合することが特に好ましい。
【0040】
上記成分の他に、さらに性能を向上させるため、必要に応じて種々の添加剤を適宜使用することができる。これらのものとしては、極圧添加剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、金属不活性剤、油性向上剤、消泡剤、流動点降下剤、清浄分散剤、防錆剤、抗乳化剤等や、その他の公知の潤滑油添加剤を挙げることができる。
【0041】
上記極圧添加剤としては、硫黄系極圧添加剤やリン化合物若しくはこれらを組み合わせた物、又はホスフォロチオネートなどを用いることができる。硫黄系極圧添加剤としては、下記の一般式(1)で表される炭化水素硫化物、硫化テルペン、油脂と硫黄との反応生成物である硫化油脂などが使用される。
(化1)
-Sy-(R-Sy)n-R (1)
上記一般式(1)中、R、Rは一価の炭化水素基で、それぞれ同一でも異なっていてもよく、Rは二価の炭化水素基、yは1以上の整数で、好ましくは1~8で、繰り返し単位中においてそれぞれのyが同一又は異なる数であることもあり、nは0又は1以上の整数である。
上記R、Rの一価の炭化水素基としては、炭素数2~20の直鎖又は分枝の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基)、炭素数6~26の芳香族炭化水素基が挙げられ、具体的には、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、ヘキシルフェニル基などが挙げられる。
上記Rの二価の炭化水素基としても、炭素数2~20の直鎖又は分枝の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基、炭素数6~26の芳香族炭化水素基が挙げられ、具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基などが挙げられる。
【0042】
上記一般式(1)で表される炭化水素硫化物の代表的なものは、硫黄オレフィン及び一般式(2)で示されるポリサルファイド化合物である。
(化2)
-Sy-R (2)
上記一般式(2)中、R、Rは、上記一般式(1)と同じであり、yは2以上の整数である。
具体的には、例えば、ジイソブチルジサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジターシャリーノニルポリサルファイド、ジターシャリーブチルポリサルファイド、ジターシャリーベンジルポリサルファイド、あるいはポリイソブチレンやテルペン類などのオレフィン類を硫黄などの硫化剤で硫化した硫化オレフィン類などが挙げられる。
【0043】
上記ホスフォロチオネートとしては、具体的には、トリブチルホスフォロチオネート、トリペンチルホスフォロチオネート、トリヘキシルホスフォロチオネート、トリヘプチルホスフォロチオネート、トリオクチルホスフォロチオネート、トリノニルホスフォロチオネート、トリデシルホスフォロチオネート、トリウンデシルホスフォロチオネート、トリドデシルホスフォロチオネート、トリトリデシルホスフォロチオネート、トリテトラデシルホスフォロチオネート、トリペンタデシルホスフォロチオネート、トリヘキサデシルホスフォロチオネート、トリヘプタデシルホスフォロチオネート、トリオクタデシルホスフォロチオネート、トリオレイルホスフォロチオネート、トリフェニルホスフォロチオネート、トリクレジルホスフォロチオネート、トリキシレニルホスフォロチオネート、クレジルジフェニルホスフォロチオネート、キシレニルジフェニルホスフォロチオネート、トリス(n-プロピルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(n-ブチルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(イソブチルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(s-ブチルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(t-ブチルフェニル)ホスフォロチオネート等が挙げられる。
【0044】
また、極圧性や耐摩耗性を付与するために、リン化合物を使用することもできる。本発明に適したリン化合物としては、例えば、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスフォロチオネート、ジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸とアルカノール又はポリエーテル型アルコールとのエステルあるいはその誘導体、リン含有カルボン酸、リン含有カルボン酸エステルが挙げられる。
【0045】
上記リン酸エステルとしては、例えば、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリス(iso-プロピルフェニル)ホスフェート、トリアリルフォスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及びキシレニルジフェニルホスフェートなどが挙げられる。
【0046】
上記酸性リン酸エステルの具体例としては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、及びジオレイルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
【0047】
上記酸性リン酸エステルのアミン塩としては、前記酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、及びトリオクチルアミンなどのアミンとの塩などが挙げられる。
【0048】
上記亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、及びトリクレジルホスファイトなどが挙げられる。
【0049】
上記極圧添加剤は、単独で又は適宜混合して使用することができる。この極圧添加剤の添加量は、潤滑油組成物の全質量に対して、3~20質量%、好ましくは5~15質量%となるように使用するとよい。また、添加剤を選択し、硫黄系化合物とリン系化合物の混合物である極圧添加剤パッケージは製品の品質管理上好適であり、例えば、ルーブリゾール社のアングラモール99,98Aや6043、アフトンケミカル社のハイテック340、380各シリーズなどが挙げられる。
【0050】
本発明の潤滑油組成物に対して、粘度特性や低温流動性を向上させるために、粘度指数向上剤や流動点降下剤を添加することができる。
粘度指数向上剤としては、例えばポリメタクリレート類やエチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ジエン共重合体、ポリイソブチレン、ポリスチレンなどのオレフィンポリマー類等の非分散型粘度指数向上剤や、これらに含窒素モノマーを共重合させた分散型粘度指数向上剤等が挙げられる。その添加量は組成物の全質量に対して、0.5~15質量%の範囲、好ましくは1~10質量%の範囲で使用するとよい。経済的な観点から、粘度指数向上剤は、好ましくは使用しない。
また、流動点降下剤としては、例えばポリメタクリレート系のポリマーが挙げられる。その添加量は、潤滑油組成物の全質量に対して、0.01~5質量%の範囲で使用できる。経済的な観点から、流動点降下剤は、好ましくは使用しない。
【0051】
本発明において使用する酸化防止剤としては、潤滑油に使用されるものが実用的には好ましく、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤を挙げることができる。これらの酸化防止剤は、潤滑油組成物の全質量に対して、0.01~5質量%の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。
【0052】
本発明の組成物と併用できる金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール、4-メチル-ベンゾトリアゾール、4-エチル-ベンゾトリアゾールなどの4-アルキル-ベンゾトリアゾール類、5-メチル-ベンゾトリアゾール、5-エチル-ベンゾトリアゾールなどの5-アルキル-ベンゾトリアゾール、1-ジオクチルアミノメチル-2,3-ベンゾトリアゾールなどの1-アルキル-ベンゾトリアゾール類、1-ジオクチルアミノメチル-2,3-トルトリアゾールなどの1-アルキル-トルトリアゾール類等のベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾミダゾール、2-(オクチルジチオ)-ベンゾイミダゾール、2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾール、2-(ドデシルジチオ)-ベンゾイミダゾールなどの2-(アルキルジチオ)-ベンゾイミダゾール類、2-(オクチルジチオ)-トルイミダゾール、2-(デシルジチオ)-トルイミダゾール、2-(ドデシルジチオ)-トルイミダゾールなどの2-(アルキルジチオ)-トルイミダゾール類等のベンゾイミダゾール誘導体などが挙げられる。これらの金属不活性剤は、潤滑油組成物の全質量に対して、0.01~0.5質量%の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。
【0053】
本発明の潤滑油組成物に対して、消泡性を付与するために、消泡剤を添加してもよい。本発明に適した消泡剤として、例えばジメチルポリシロキサン、ジエチルシリケート、フルオロシリコーン等のオルガノシリケート類、ポリアルキルアクリレート等の非シリコーン系消泡剤が挙げられる。その添加量は、潤滑油組成物の全質量に対して、0.0001~0.1質量%の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。
【0054】
本発明に適した抗乳化剤として、通常潤滑油添加剤として使用される公知のものが挙げられる。その添加量は、潤滑油組成物の全質量に対して、0.0005~0.5質量%の範囲で使用できる。
【0055】
本発明の潤滑油組成物は、フィッシャー・トロプシュ由来基油、ポリアルファオレフィン及びエステル化合物、並びに不飽和脂肪酸の部分エステル化合物のいずれか1種、2種若しくはそれ以上と、さらには任意の添加剤を、任意の順序で混合して調製することができる。
【0056】
本発明の潤滑油組成物は、動粘度が40℃において25mm/s~45mm/sの範囲に入るものである。25mm/sより低いと、デフの信頼性が損なわれるおそれがある。45mm/sより高いと、期待した燃費が得られないおそれがある。
また、本発明の潤滑油組成物は、動粘度が100℃において4mm/s以上、好ましくは5mm/s以上、10mm/s未満、より好ましくは6mm/s以上8mm/s未満で、特に好ましくは6.3mm/s以上8.0mm/s未満である。4mm/s未満であると、デフの信頼性が損なわれるおそれがある。10mm/s以上であると、期待した燃費が得られないおそれがある。
また、本発明の潤滑油組成物は、省燃費性と潤滑性の両立を図るべく160以上の粘度指数(VI)、特には180以上の粘度指数(VI)を有している。
【0057】
本発明の潤滑油組成物は、さらに実機デフのピニオンギヤのベアリングの耐摩耗性を実現することができる。ピニオンギヤのベアリングの耐摩耗性は、ASTM D4172を参考にしたシェル四球試験において摩耗痕直径の平均値(mm)を測定することにより概ね判断することができる。ここでいうシェル四球試験は、主軸回転数を毎分1500回転、荷重98N、油温135℃、60分の運転(条件1)及び主軸回転数を毎分1500回転、荷重98N、油温160℃、60分の運転(条件2)の両方の条件で、摩耗痕直径の平均値(mm)を測定する。
本発明の潤滑油組成物は、いずれの条件(条件1及び条件2)においても、摩耗痕直径の平均値が0.23mm以下であり、良好な耐摩耗性を実現することができる。
【0058】
本発明の潤滑油組成物は、さらに低粘度でありながら、十分な添加剤被膜を形成することで、良好な耐スコーリング性を実現できる。本発明の潤滑油組成物の耐スコーリング性能は、JIS K2519を参考にしたチムケン式極圧試験において、焼付き荷重(lbs)を測定することにより概ね判断することができる。ここでいうチムケン式極圧試験は、回転数を毎分800回転、油温120℃、最初の荷重を30lbsとし、荷重を2.5分毎に5lbsずつ段階的に上昇させるステップ荷重の条件にて、焼き付きを生じない最大の荷重である焼付き荷重を測定する。
本発明の潤滑油組成物は、焼き付き荷重が65lbsであり、良好な耐スコーリング性能を実現することができる。
その結果、本発明の潤滑油組成物は、APIのギヤ油タイプがGL-5レベルで、SAE粘度グレードが75W-85の市販高粘度ギヤ油と同等以上の耐スコーリング性を達成でき、ディファレンシャルギヤ部の良好な耐焼き付き性を実現することができる。
【0059】
本発明の潤滑油組成物は、高出力の自動車その他の高出力、高回転のギヤ機構に対してギヤオイルとして適用できる。特に、APIのギヤ油タイプがGL-5というレベルの優れた耐久性、耐焼き付き性を維持しつつ、さらなる省燃費性に加えて、ベアリングの良好な耐摩耗性及び良好な耐スコーリング性を実現でき、GL-5レベルの自動車用ギヤ油、ハイポイドギヤ油などに効果的に適用できる。
【実施例
【0060】
以下本発明について、実施例、比較例及び参考例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
実施例及び比較例の調製にあたり、下記の組成の材料を用意した。
1.フィッシャー・トロプシュ由来基油(GTL基油):A-1
(1-1)100℃における動粘度が2.7mm/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油
(1-2)100℃における動粘度が3.8mm/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油
(1-3)100℃における動粘度が7.8mm/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油
2.ポリアルファオレフィン(PAO):A-2
(2-1)100℃における動粘度が3.9mm/sである低粘度のポリアルファオレフィン
(2-2)100℃における動粘度が595mm/sである高粘度のエチレン-プロピレン共重合体からなるポリアルファオレフィン
(2-3)100℃における動粘度が38.6mm/sである中粘度のエチレン-プロピレン共重合体からなるポリアルファオレフィン
3.エステル基油:A-3
(3-1)TMP(トリメチロールプロパンと直鎖の炭素数8及び炭素数10のカルボン酸とのエステル);100℃における動粘度が4.42mm/sであるエステル基油TMP
(3-2)DINA(アジピン酸ジイソノニル);100℃における動粘度が3.1/sであるエステル基油
4.飽和脂肪酸
ステアリン酸:試薬 ステアリン酸、純度90%以上
5.不飽和脂肪酸とポリオールとの部分エステル:B-1
グリセロールモノオレート:モノ比率90%以上の市販グリセロールモノオレートを精製し、モノ比率を95%にしたもの。
6.粘度指数向上剤:質量平均分子量が1万~10万であるポリメタクリレート;100℃における動粘度が約260mm/sであるもの。
7.硫黄-リン系極圧剤:極圧剤パッケージ(GL-5添加剤パッケージ)であって、硫化オレフィン、リン酸エステルアミン塩等を配合したもので、そのリン含有量は約1.3%、硫黄含有量は約23%であるもの。
【0061】
(実施例及び比較例)
上記した組成材料を用いて、表1に示す組成により実施例1並びに比較例1乃至6の潤滑油組成物を調製した。
【0062】
(参考例)
参考例1は乗用車用ギヤ油であって、この乗用車用ギヤ油は、APIのギヤ油タイプがGL―5レベルで、SAE粘度グレードが75W-85の条件を満足する。
参考例2は乗用車用ギヤ油であって、硫黄含有量が多い極圧剤パッケージを使用したものである。この乗用車用ギヤ油は、APIのギヤ油タイプがGL―5レベルで、SAE粘度グレードが75W-85の条件を満足する。
【0063】
(ベアリング摩耗防止性の検討)
本発明の潤滑油組成物について、実機テーパーローラーベアリングのパターン耐久試験を想定したベアリングの特定パターン条件における摩耗部位の荷重及び温度を想定した、ASTM D4172を参考にした2つの条件によるシェル四球試験を実施し、実施例1並びに比較例1乃至6及び参考例1の潤滑油組成物の耐摩耗性の比較を行った。
(条件1):ASTM D4172を参考に、主軸回転数を毎分1500回転、荷重98N、油温135℃、60分の運転を実施。試験後の鋼球の摩耗痕直径を測定した。
(条件2):ASTM D4172を参考に、主軸回転数を毎分1500回転、荷重98N、油温160℃、60分の運転を実施。試験後の鋼球の摩耗痕直径を測定した。
シェル四球試験は、いずれも2回以上実施し、摩耗痕直径の平均値を比較した。合格基準は0.23mm以下とした。
【0064】
(耐スコーリング性能の検討)
本発明の潤滑油組成物について、JIS K2519を参考にしたチムケン式極圧試験において、回転数を毎分800回転、油温120℃、最初の荷重を30lbsとし、荷重を2.5分毎に5lbsずつ段階的に上昇させるステップ荷重の条件にて、実施例1及び参考例2の潤滑油組成物について、焼き付きを生じない最大の荷重である焼付き荷重の比較を行った。60lbs以上を合格とした。
【0065】
(試験結果)
各試験の結果を表1に示す。
【0066】
(考察)
表1に示す結果から明らかなように、参考例1の乗用車用ギヤ油は、APIのギヤ油タイプがGL-5レベルで、SAE粘度グレードが75W-85の条件を満足し、シェル四球摩耗量は少なく充分な耐久性(ベアリングの耐摩耗性)を有しているが、動粘度が高い事からオイルによる攪拌損失が大きく、期待する省燃費性を発揮することは難しい。
一方、省燃費性の改善を目的として攪拌抵抗を抑えるために、40℃での動粘度を35mm/sと低く調整した比較例1乃至6、さらには粘度指数(VI)が160以上となるように調整した比較例4乃至6はいずれも、シェル四球摩耗量が大きく、合格基準である0.23mm以下を満たさない。
比較例5は、実施例1の(A-3)のエステル化合物TMPをエステル化合物DINAに変えたものであるが、シェル四球摩耗量が大きく、合格基準である0.23mm以下を満たさない。
これに対し、本発明の潤滑油組成物である実施例1は、比較例1乃至6と比較してシェル四球摩耗量が少なく、さらに180以上という高い粘度指数(IV)を達成することができる。
さらに、本発明の潤滑油組成物である実施例1は、低粘度であっても、高温でのシェル四球試験での少ない摩耗量に加えて、耐スコーリング性能を想定したチムケン式極圧試験においても、かかる極圧試験に合格する参考例2を超える性能を有しており、高粘度のディファレンシャルギヤ油と同等以上の優れた性能を有することが確認された。
【0067】
【表1】