(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
E02D 27/00 20060101AFI20231225BHJP
E02D 27/12 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
E02D27/00 Z
E02D27/12 Z
(21)【出願番号】P 2019218568
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2019043529
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】土佐内 優介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 仁
(72)【発明者】
【氏名】小林 勝已
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-003308(JP,A)
【文献】特開2017-137711(JP,A)
【文献】特開2016-223094(JP,A)
【文献】特開平08-333757(JP,A)
【文献】特公昭48-011609(JP,B1)
【文献】特開2005-330718(JP,A)
【文献】特開昭49-023406(JP,A)
【文献】特開2009-243238(JP,A)
【文献】特開2017-186803(JP,A)
【文献】特開昭49-063208(JP,A)
【文献】特開2012-031678(JP,A)
【文献】特開平11-043952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00
E02D 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一本の杭、
前記少なくとも一本の杭の上に位置し、鉄筋とコンクリートを含むパイルキャップ、
前記パイルキャップの一部を囲む補強材を有し、
前記パイルキャップの側面は前記補強材から一部が露出
し、
前記補強材は、前記コンクリートよりも引張強度が大きい、または同一の材料を含み、
前記材料は、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック、およびポリエチレン強化プラスチックから選択される構造体。
【請求項2】
前記パイルキャップに接続される少なくとも一本の梁をさらに有する、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記パイルキャップに接続される少なくとも二本の梁をさらに有し、
前記二本の梁の間で前記パイルキャップの側面は前記補強材から露出する、請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
前記補強材は、前記パイルキャップの内部に突出するアンカーを有する、請求項1に記載の構造体。
【請求項5】
前記パイルキャップの前記補強材から露出した部分は、前記補強材の外表面と同一平面上に存在する、請求項1に記載の構造体。
【請求項6】
前記補強材の外表面は、前記パイルキャップの前記補強材から露出した部分の外表面と比較して、前記杭の中心軸から遠い、請求項1に記載の構造体。
【請求項7】
前記梁は、H形の断面、あるいは中空管構造を有する鋼材を含む、請求項2または3に記載の構造体。
【請求項8】
前記補強材は、外枠、および前記外枠の内表面の少なくとも二か所と固定された補強板を備える、請求項1に記載の構造体。
【請求項9】
前記少なくとも一本の杭は複数の杭を含み、
前記複数の杭の各々は、前記外枠と前記補強板によって囲まれる、請求項
8に記載の構造体。
【請求項10】
前記補強板は、前記内表面が形成する領域を複数のゾーンに分割し、
各ゾーンに前記杭が一本ずつ配置される、請求項
8に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、構造体、およびその施工方法に関する。例えば本発明の実施形態の一つは、鉄筋コンクリートを含む構造体に高い強度を付与する補強材、補強材を有する構造体、および構造体の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンションや学校、病院などに代表される、鉄筋コンクリートを使用して建設される建築物のうち、基礎構造に杭基礎を採用しているものは、地中に固定される杭、杭に連結される柱や基礎梁を基本的な構造体として用い、この構造体に壁や床を組み立てることで施工されることが多い。このような施工方法では、杭の上端部(杭頭)にはパイルキャップ、あるいはフーチング(以下、これらを総じてパイルキャップと記す)が設けられ、パイルキャップに基礎梁や柱が固定・接続される。パイルキャップは、平常時には建築物自体の重量や建物内の積載物によって生じる鉛直荷重を杭に伝達する役割を有する。地震時には、地震動によって構造体に生じる応力を杭、基礎梁、柱の間で相互に伝達する役割を有しており、パイルキャップは構造体の安定性や耐震性にとって重要な部材である。パイルキャップは通常鉄筋コンクリートで施工される。パイルキャップの大型化やコンクリート強度の増大、鉄筋量の増加などによってパイルキャップの強度を向上させることができ、その結果、構造体の安定性や耐震性を向上させることができる。特許文献1では、鉄骨造建物のパイルキャップを効率的に作製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、パイルキャップに高い強度を与える補強材、およびパイルキャップと補強材を含む構造体とその施工方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは構造体である。この構造体は、少なくとも一本の杭、パイルキャップ、および補強材を有する。パイルキャップは、少なくとも一本の杭の上に位置し、鉄筋とコンクリートを含む。補強材はパイルキャップの一部を囲む。
【0006】
本発明の実施形態の一つは構造体を施工する方法である。この方法は、少なくとも一本の杭を地中に固定すること、少なくとも一本の杭を囲みつつ杭から離隔するように補強材を形成すること、補強材と接する型枠を形成すること、補強材の少なくとも一部と接するように、型枠内にレディーミクストコンクリートを打設すること、およびレディーミクストコンクリートを硬化させることを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、高い強度を有する鉄筋コンクリート製のパイルキャップを提供することが可能となる。また、このパイルキャップを含む構造体、およびその施工方法を提供することができる。これにより、耐震性の高い建造物とその施工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的斜視図。
【
図2】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的側面図と上面図。
【
図3】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的断面図。
【
図4】本発明の実施形態の一つである補強材の模式的側面図と上面図。
【
図5】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的断面図。
【
図6】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的断面図と上面図。
【
図7】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的上面図。
【
図8】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的断面図と上面図。
【
図9】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的断面図と上面図。
【
図10】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的斜視図。
【
図11】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的側面図と上面図。
【
図12】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的断面図。
【
図13】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的斜視図。
【
図14】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的側面図と上面図。
【
図15】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的断面図。
【
図16】本発明の実施形態の一つである補強材の模式的上面図と断面図。
【
図17】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的側面図と上面図。
【
図18】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的断面図と上面図。
【
図20】構造体の杭の部材角と水平荷重との関係を示す模式図。
【
図21】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的断面図と上面図。
【
図22】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的断面図と上面図。
【
図23】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的断面図と上面図。
【
図24】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的断面図と上面図。
【
図25】本発明の実施形態の一つである構造体の施工方法を示す模式的断面図と上面図。
【
図26】本発明の実施形態の一つである構造体の模式的斜視図。
【
図27】本発明の実施形態の一つである補強材の模式的上面図と断面図。
【
図28】本発明の実施形態の一つである補強材の模式的上面図と断面図。
【
図29】本発明の実施形態の一つである補強材の模式的上面図と断面図。
【
図30】本発明の実施形態の一つである補強材の模式的上面図と断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について、図面等を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0010】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。符号が付された要素の一部を表記する際には、符号に小文字のアルファベットが添えられる。
【0011】
以下、「ある構造体が他の構造体から露出するという」という表現は、ある構造体の一部が他の構造体によって覆われていない態様を意味し、この他の構造体によって覆われていない部分は、さらに別の構造体によって覆われる態様も含む。
【0012】
以下、コンクリートとは、原料の一つであるセメントが水と反応して生成する水和物が硬化し、流動性を示さないものを指す。一方、セメントと水を含む混合物が完全に硬化せずに流動性を有する状態はレディーミクストコンクリート(生コンクリートとも呼ばれる)と記す。
【0013】
1.全体構造
本節では、本発明の実施形態の一つであるパイルキャップ104、およびそれを含む構造体100の構造について説明する。添付される
図1から
図16には構造体100の一部が示されており、以下、便宜上、水平な地表面(例えば
図2(A)などにおいて点線GLで表記される面)をxy平面とし、鉛直方向がz軸であるとして説明を行う。
【0014】
構造体100の模式的斜視図を
図1に、側面図と上面図を
図2(A)、
図2(B)に、
図2(B)の鎖線A-A´に沿ったxz平面の断面模式図を
図3(A)にそれぞれ示す。構造体100は、地中に固定される少なくとも一本の杭102、杭102上に設けられるパイルキャップ104、およびパイルキャップ104に固定される補強材110を基本的な構成として有する。構造体100はさらに、パイルキャップ104上面と側面にそれぞれ接続される柱106や梁108を備えてもよく(
図1)、
図2(A)では、隣接するパイルキャップ104や柱106の一部も示されている。梁108は地上に配置してもよく、地中に配置してもよい。後述するように、少なくとも一本の杭102は、複数の杭102を含んでもよい。
【0015】
杭102は構造体100の基礎となるものであり、地中に埋め込まれ、固定される。杭102は地中の支持層(岩盤)に固定されていてもよく、支持層には達しない摩擦杭でもよい。杭102の上端(杭頭)、あるいは杭頭に接続される鉄筋ユニット(後述)は地表面から露出する。杭102は鉄筋コンクリートで構成されていてもよく、中空管構造を有する鋼材(鋼管)やH形鋼材で構成されていてもよい。あるいは鋼管とコンクリートの両者で構成されていてもよい。鋼管の断面は円形でも角形でもよい。
【0016】
パイルキャップ104は杭102を覆うように杭102の上に設けられ、杭頭はパイルキャップ104内に埋め込まれる。パイルキャップ104は鉄筋コンクリートで構成される。パイルキャップ104の形状にも制約はなく、
図2(A)から
図3(A)に示すように立方体や直方体の形状でもよく、円柱形状でもよい。パイルキャップ104は地表面上に直接設けられてもよく、杭102を囲むように設けられるコンクリートスラブ(捨てコンクリート)上に形成されてもよい。
【0017】
柱106はパイルキャップ104上に設けられて鉛直方向に延伸し、パイルキャップ104上を介して杭102に接続される。柱106は鉄筋コンクリートで構成されてもよく、鉄筋を含まないコンクリートで構成されてもよい。柱106の中心軸は杭102やパイルキャップ104の中心軸と一致するように設けられることが好ましい。柱106の形状にも制約はなく、例えば円柱や四角柱であってよい。
【0018】
梁108はパイルキャップ104の側面に接続され、柱106と交差する。梁108は水平方向に延伸してもよく、水平方向から傾くように延伸してもよい。梁108も鉄筋コンクリートで構成することができる。なお、見やすさを考慮し、
図2(A)から
図3(A)ではパイルキャップ104や柱106、梁108を構成する鉄筋コンクリートの鉄筋は図示されていない。
【0019】
図1、
図3(A)に示すように、補強材110は中空管構造を有することができ、パイルキャップ104の一部を囲む。パイルキャップ104は杭頭、あるいは杭頭に接続される鉄筋ユニットの一部を取り囲んでもよい。補強材110のxy平面における断面の形状はパイルキャップ104の形状によって適宜調整することができ、例えば断面が円、楕円、あるいは正方形や長方形などの多角形となるように補強材110が構成される。補強材110も地表面上に直接設けられてもよく、捨てコンクリート上に形成されてもよい。補強材110は、中空管構造の中心軸がパイルキャップ104の中心軸や杭102の中心軸と一致するように設けることができる。補強材110は、その内表面110aがパイルキャップ104の外表面に接する。
図1や
図2(A)に示すように、パイルキャップ104の側面は、一部が補強材110に覆われ、一部が露出する。例えばパイルキャップ104に接続される二本の梁108の間において、パイルキャップ104の側面は補強材110から露出する。パイルキャップ104の外表面はコンクリートであるため、この露出した部分(以下、単に露出部と記す)ではコンクリートが補強材110から露出することになる。パイルキャップ104の補強材110に囲まれた外表面は、この露出部における外表面と比較して杭102の中心軸により近い(
図3(A))。なお、
図4に示すように、梁108の下においてもパイルキャップ104の側面の一部が補強材110から露出するように構造体100を構成してもよい。
【0020】
補強材110はパイルキャップ104に含まれるコンクリートと同じ、あるいはそれ以上の引張強度を有する材料を含むことが好ましい。このような材料としては、金属、あるいは繊維強化プラスチックを挙げることができる。金属としては鉄が典型例として挙げられるが、補強材110は銅やニッケル、およびクロムなどの他の金属を含んでもよい。繊維強化プラスチックは、例えばガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック、およびポリエチレン強化プラスチックから選択することができる。補強材110の厚さt(すなわち、外径と内径の差の1/2)に制約はなく(
図3(A)参照)、構造体100や杭102の大きさによって適宜設計され、例えば0.1mm以上50mm以下、0.1mm以上20mm以下、5mm以上50mm以下、10mm以上50mm以下、15mm以上30mm以下とすることができる。また、補強材110の高さh
1と厚さtの関係も任意に選択できる。高さh
1と厚さtは同じでもよく、あるいは例えば
図3(A)に示すように、高さh
1が厚さtよりも大きくてもよい。逆に、高さh
1が厚さtよりも小さくてもよい(
図3(B))。
【0021】
補強材110の内表面110aにはアンカー110cが設けられていてもよい。例えば
図4(A)の断面模式図や
図4(B)の上面模式図に示すように、補強材110は、補強材110の内表面110aから補強材110の中心軸方向に突き出る凸部としてアンカー110cを備えることができる。これにより、補強材110をより強固にパイルキャップ104に固定することができる。
図4(B)に示すように、アンカー110cは、補強材110の中心軸に近い部分の断面積がそれ以外の部分の断面積よりも大きい形状を有することが好ましい。
【0022】
2.鉄筋ユニット
パイルキャップ104は、任意の構成として鉄筋を有することができる。本節では、パイルキャップ104や柱106、梁108に組み込むことが可能な鉄筋ユニットの一例を
図6(A)から
図9(B)を用いて説明する。これらの図では、鉄筋ユニット以外の構成は点線で示されている。
【0023】
図6(A)に構造体100のxz平面の断面模式図を、
図6(B)と
図7に上面模式図を示す。これらの図では、パイルキャップ104を主に構成する鉄筋が示されており、柱106や梁108へ延伸する鉄筋は省略されている。パイルキャップ104には、複数の横補強筋122、複数のはかま筋120、および任意の構成としての複数の基礎筋(以下、ベース筋)124が配置される。
【0024】
複数のベース筋124は、例えばそれぞれU字形状を有する鉄筋であり、U字形状の開いた部分が上になるように配置される(
図6(A))。複数のベース筋124の一部はx方向に、他方はy方向に延伸し、互いに交差して格子形状を形成し、杭102と重なるように配置される(
図6(A)、
図6(B))。ベース筋124は、柱106と杭102に心ずれがある際などにパイルキャップのひび割れを防止する。
【0025】
ベース筋124と同様、複数のはかま筋120もそれぞれU字形状を有する鉄筋であり、U字形状の開いた部分が下になるように配置される(
図6(A))。複数のはかま筋120の一部はx方向に延伸し、他方はy方向に延伸し、これらは互いに交差して格子形状を形成し、杭102と重なるように配置される(
図6(A)、
図7)。はかま筋120を設けることで、パイルキャップ104のひび割れを抑制することができ、横補強筋を簡単に配置することができる。
【0026】
横補強筋122は、複数のベース筋124と複数のはかま筋120を囲むように設けられる。横補強筋122により、パイルキャップ104のひび割れを抑制することができる。
【0027】
図8(A)、
図8(B)にそれぞれ、構造体100のxz平面の模式的断面図と上面図を示す。これらの図では、柱106とパイルキャップ104を主に構成する鉄筋が示されており、梁108を主に構成する鉄筋、およびパイルキャップ104を構成する鉄筋の一部は省略されている。パイルキャップ104内部には、複数の杭頭定着筋128が設けられる。杭頭定着筋128は杭102に固定され、鉛直方向に延伸する。杭頭定着筋128は横補強筋122によって囲まれ、少なくともその一部は複数のベース筋124によって形成される格子を貫通する。杭頭定着筋128により、構造体100に対して水平方向に力が加えられた際、杭頭に作用する曲げモーメントをパイルキャップ104や梁108に効果的に伝達することができる。また、杭頭の飲み込み長さh(
図8(A)参照)が大きい場合には杭頭定着筋128を設けないこともあるが、その場合にも補強材110を設けることは可能である。
【0028】
パイルキャップ104と柱106の内部には、杭102と重なり、鉛直方向に柱106内部を延伸する複数の柱筋126が配置される。柱筋126は横補強筋122によって囲まれる。はかま筋120を配置する場合、柱筋126の少なくとも一部は複数のはかま筋120によって形成される格子を貫通する。図示しないが、構造体100は、複数の柱筋126と交差し、柱筋126を囲む補強筋をさらに備えてもよい。
【0029】
図9(A)、
図9(B)にそれぞれ、構造体100のxz平面の模式的断面図と上面図を示す。これらの図では、梁108を主に構成する鉄筋が示されており、柱106とパイルキャップ104を主に構成する鉄筋は一部省略されている。梁108は複数の梁筋130を有しており、各梁筋130は柱筋126や杭頭定着筋128と交差する。梁筋130は、少なくとも一部が二つの杭頭定着筋128の間、および二つの柱筋126の間を通過するように配置される。図示していないが、構造体100はさらに、複数の梁筋130と交差し、梁筋130を囲む補強筋を備えてもよい。梁筋130は、構造体100に作用する荷重を杭102や柱106へ伝達する機能を有する。
図9(A)では梁筋130が水平方向に梁108内部を延伸する例が示されているが、梁108が水平方向から傾くように設けられる場合には、梁筋130も水平方向から傾く。
【0030】
上述した鉄筋によって鉄筋ユニットが構築される。パイルキャップ104が鉄筋ユニットを有する場合、コンクリートは横補強筋122、杭頭定着筋128、柱筋126の一部、梁筋130の一部、はかま筋120ならびにこれらを埋め込むように設けられる。ベース筋124を設ける場合、ベース筋124もコンクリート内に埋め込まれる。一方柱106は、柱筋126の他の一部とこれを埋め込むように打設されるコンクリートを含み、梁108は梁筋130の他の一部とこれを埋め込むように打設されるコンクリートを含む。
【0031】
上述した構造は本発明の実施形態の一例であり、構造体100の杭102や柱106、梁108の数に制約はない。また、構造体100内部に設けられる鉄筋ユニットの構成も上述した構成に限られず、各鉄筋は異なる配置で設けられてもよく、上述した鉄筋以外の鉄筋をさらに備えてもよい。
【0032】
3.変形例
3-1.変形例1
上述した例では、パイルキャップ104の露出部の外表面と補強材110の外表面110d(
図3(A)参照)は同一平面上に存在するが、これらは互いに異なる平面上に存在するように補強材110を構成することができる。具体的には模式的斜視図(
図10)と側面図(
図11(A))、上面図(
図11(B))、およびxz平面の断面模式図(
図12(A)に示すように、補強材110の外表面110dは露出部の外表面と比較して外側に位置する、すなわち杭102の中心軸からより遠くてもよい。
【0033】
あるいは模式的斜視図(
図13)と側面図(
図14(A))、上面図(
図14(B))、およびxz平面の断面模式図(
図15(A)に示すように、補強材110は外表面110dがパイルキャップ104の露出部の外表面と比較して外側に位置し、かつ内表面110aがこの露出部の外表面と同一平面上に存在するように構成してもよい。これらの場合においても、補強材110は内表面110aや上面110bにアンカー110cを備えてもよい(
図12(B)、
図15(B))。
【0034】
3-2.変形例2
補強材110は中空管構造を有するが、複数の中空管構造を有してもよい。すなわち、断面(xy平面における断面)が複数のゾーンに分割されてもよい。具体的には上面図(
図16(A))、およびその鎖線B-B´に沿ったxz平面の断面図(
図16(B))に模式的に示すように、補強材110は外枠110eと一つ、あるいは複数の補助板110fによって構成されてもよい。補助板110fは内表面110aの少なくとも二か所で外枠110eに溶接によって固定され、これにより、内表面110aが形成する領域が補助板110fによって複数のゾーンに分割される。補助板110fを設けることで、補強材110の強度を増大させることができる。補助板110fは、杭102が少なくとも一つのゾーン内に配置されるように設けられる。杭102はこのゾーンを貫通してもよい。複数の補助板110fを設ける場合、補助板110fは互いに平行になるように設けることができる。杭102が一本の場合、杭102は少なくとも二つの補助板110fに挟まれる。補強材110は、補助板110fと杭102が互いに接するように構成してもよく、補助板110fが杭102と接しないように補強材110を構成してもよい。補助板110fの厚さt´は補強材110(すなわち、外枠110e)の厚さtと実質的に同じでもよく、あるいは
図16(A)、
図16(B)に示すように厚さtよりも大きくてもよい。また、補助板110fの高さh
2は補強材110の高さh
1と同じでもよく、あるいは
図16(B)に示すように高さh
1よりも小さくてもよい。
【0035】
複数の補助板110fは互いに交差するように設けてもよい。例えば
図16(C)に示すように、互いに直角に交差する複数の補助板110fを設けてもよい。交差する補助板110f同士は溶接によって固定される。
【0036】
構造体100が複数の杭102を有する場合には、各ゾーンに一つの杭102を配置してもよい。具体的には、
図26に示すように、少なくとも一本の杭102は複数の杭102を含むことができる。この場合、パイルキャップ104は複数の杭102の上に重なるように配置され、
図27(A)、および
図27(A)の鎖線C-C´に沿った断面図(
図27(B))に示すように、複数の杭102が補強材110によって囲まれる。第1実施形態(
図3(A)、
図3(B)参照)と同様、補強材110の高さh
1と厚さtは実質的に同じでもよく、高さh
1が厚さtよりも大きくてもよい(
図27(B))。図示しないが、高さh
1が厚さtよりも小さくてもよい。
【0037】
同様に、
図28(A)に示すように、直線的に延伸し、互いに交差する複数の補助板110fを、それぞれ補強材110の内表面110aの少なくとも二か所と接するように設けてもよい。この場合には、補助板110fによって形成される複数のゾーンのそれぞれに、杭102を一本ずつ配置することができる。したがって各杭102は外枠110eの一部と補助板110fの一部によって囲まれる。
【0038】
杭102を一本のみ配置する場合と同様、
図28(A)の鎖線D-D´に沿った断面の模式図(
図28(B))に示すように、補助板110fの厚さt´は外枠110eの厚さtと実質的に同じでもよい。補助板110fの高さh
2は、外枠110eの高さh
1と実質的に同じでもよく、高さh
1よりも小さくてもよい。高さh
2が高さh
1よりも小さい場合、
図29(A)、および
図29(A)の鎖線E-E´に沿った断面の模式図(
図29(B))に例示されるように、xy平面においては幅と認識することもできる補助板110fの厚さt´は、外枠110eの厚さtや補助板110fの高さh
2よりも大きくてもよい。あるいは
図30(A)、および
図30(A)の鎖線F-F´に沿った断面の模式図(
図30(B))に示すように、外枠110eの厚さtと補助板110fの厚さt´がそれぞれ外枠110eの高さh
1と補助板110fの高さh
2よりも大きくなるように補強板110を構成してもよい。この場合も、厚さtとt´は同じでも異なってもよい。
【0039】
3-3.変形例3
上述した例では、梁108は鉄筋コンクリートによって構成される、いわゆるRC造と呼ばれる構造を有するが、梁108は鉄筋コンクリートと鉄骨を組み合わせたハイブリッド構造を有してもよい。この構成の一例を
図17(A)から
図18(B)に示す。
図17(A)、
図17(B)はそれぞれ構造体100の模式的側面図と上面図であり、内部に鉄筋ユニットを設けた場合の模式的断面図と上面図を
図18(A)、
図18(B)に示す。
図17(A)、
図17(B)に示すように、ハイブリッド構造を有する梁108は、パイルキャップ104に接続される鉄筋コンクリート部(以下、RC部)108a、およびRC部108aに接続され、隣接する二つのRC部108aに挟まれる鉄骨部(以下、S部)108bを有する。
【0040】
図18(A)、
図18(B)に示すように、梁108はパイルキャップ104に接続される鉄骨108cを有する。鉄骨108cはH形の断面を有する鋼(H形鋼)でもよく、中空管構造を有する鋼管でもよい。鉄骨108cは、梁108のRC部108aの補強筋132に囲まれた領域に収まり、パイルキャップ104を貫通しない。パイルキャップ104を介して二つの鉄骨108cが隣接する場合は、梁筋130はパイルキャップ104を貫通する。この場合、梁筋130の少なくとも一部は杭頭定着筋128の間、二つの柱筋126の間を通過するように設けられる。
【0041】
梁108はさらに、複数の梁筋130と一部で重なり、かつ梁筋130を取り囲む補強筋132を備え、これらがコンクリートで一体化されることにより、鉄骨108cがパイルキャップ104と強固に固定される。補強筋132、および補強筋132によって囲まれる鉄骨108cの一部がコンクリートによって埋め込まれる。このコンクリート、補強筋132、および補強筋132によって囲まれる鉄骨108cの一部がRC部108aを構成する。補強筋132の配置密度はRC部108aにおいて均一である必要は無く、RC部108aの両端部の配置密度が高くなるよう、補強筋132を配置してもよい。
【0042】
上述したように、本発明の実施形態の一つである構造体100では、パイルキャップ104は、梁108の下においてその一部が補強材110によって取り囲まれる。このため、構造体100は、補強材110を持たない従来のパイルキャップを備える構造体と比較して高い強度を有することができ、構造体に大きな力が加えられてもひび割れなどが生じにくい。例えば
図19(A)に示すように、地震などによって構造体に対して水平方向に大きな荷重が加えられると、杭頭にせん断力が作用する。これにより、パイルキャップ104の下部に大きな力が加わり、パイルキャップ104が十分な強度を持たない場合、底面付近からパイルキャップ104にひび割れ150が発生する。コンクリートは引張力に抵抗する強度が小さいため、一度ひび割れ150が発生すると、パイルキャップ104の強度は大きく低下し、最終的にパイルキャップ104の破壊に至る(
図19(B))。
【0043】
このようなひび割れ150の発生を防ぐためには、パイルキャップ104の強度を増大させることが必要となる。従来、杭の飲み込み長さhを大きくする、パイルキャップ104の体積を増大させる、コンクリート強度を増大させる、ベース筋124や杭頭付近の横補強筋122の鉄筋量を増やすことなどにより、パイルキャップ104の高強度化が図られてきた。しかしながら、杭の飲み込み長さhを大きくしたりパイルキャップ104を大型化したりすると掘削土が増え、環境に対する負荷が増大し、経済性が低下する。一方、コンクリート強度の高いレディーミクストコンクリートは一般に粘性が高いため、パイルキャップ104内に確実にレディーミクストコンクリートを充填することが困難となる。また、ベース筋124や横補強筋122には配置間隔の制限があるため、鉄筋量の増加にも上限がある。
【0044】
これに対し、本発明の実施形態の一つのように、引張強度が高い鉄などの金属、あるいは繊維強化プラスチックを含む補強材110をパイルキャップ104の下部に設けることで、パイルキャップ104の強度を増大させることができる。その結果、
図20に模式的に示すように、従来の構造体と比較して本実施形態の構造体100では、杭102に同一の水平荷重が作用したとき、杭の変形量は小さくなる。このため、水平方向の荷重に起因するひび割れの発生を効果的に防止することが可能となる。さらに上述したように、パイルキャップ104は一部が補強材110から露出する。すなわち、補強材110はパイルキャップ104の外表面全体を覆う必要は無く、杭102に近いパイルキャップ104の下部のみを覆うだけで高い強度をパイルキャップ104に付与することができる。したがって、本実施形態を適用することで、耐震性の高い構造体、およびこれを基礎とする耐震性の高い構造物を低コストで施工することが可能となる。
【0045】
【0046】
まず、地面に埋設・固定される杭102の杭頭を囲むように、補強材110を形成する(
図21(A)、
図21(B))。この時、補強材110は杭102と接触せず、杭102から離隔する。補強材110は地表面に直接接するように設けてもよく、図示しない捨てコンクリート上に設けてもよい。
図21(A)などでは杭頭は地表面から露出するように杭102が設けられる例が示されているが、杭頭は地表面よりも下に位置するように設けてもよい。
【0047】
次に、構造体100を構成する鉄筋ユニットを構築する。すなわち、杭102の上に上述した鉄筋(ベース筋124、横補強筋122、杭頭定着筋128、柱筋126、梁筋130、はかま筋120)を組み立て、固定する(
図22(A)、
図22(B))。鉄筋ユニットの構築は公知の方法を適宜利用することで行うことができる。梁108が鉄骨である場合には、鉄骨108cを所定の位置に設置した後、梁筋130を有する鉄筋ユニットを構築する。
【0048】
引き続き、杭102、鉄筋ユニット、および補強材110を取り囲むように型枠140を形成する(
図23(A)、
図23(B))。型枠140も公知の方法を適宜利用することで形成されるが、
図23(A)、
図23(B)に示すように、補強材110の外表面110dと接するように形成される。
【0049】
この後、型枠140内にレディーミクストコンクリート142を流し込む(
図24(A)、
図24(B))。これにより、鉄筋ユニットのすべて、あるいは少なくとも一部がレディーミクストコンクリート142によって覆われる。型枠140を補強材110の外表面110dと接するように設けることで、露出部におけるレディーミクストコンクリート142の外表面と補強材110の外表面110dが同一平面上に位置することになる(
図24(A))。必要に応じ、レディーミクストコンクリート142が型枠140内で均一に充填されるよう、バイブレータなどを用いて振動を与える。梁108がハイブリッド構造である場合には、鉄筋ユニットと鉄骨108cを配置した後、鉄骨108cの一部が覆われるようにレディーミクストコンクリートを型枠内に流し込む。
【0050】
この後、レディーミクストコンクリート142を硬化させ、硬化後に型枠140を除去する。これにより、構造体100が施工される。ベース筋124や横補強筋122、杭頭定着筋128などのパイルキャップ104を構成する鉄筋のみだけでなく、梁筋130や柱筋126も埋め込むように型枠140内にレディーミクストコンクリート142を流し込み硬化させることで、パイルキャップ104と柱筋126、梁108が一体化された構造体100を施工することができる。
【0051】
なお、型枠140は補強材110の外表面110dとは接せず、補強材110の上面110bと接するように形成してもよい(
図25(A)、
図25(B))。すなわち、補強材110の内表面110aと上面110bが型枠140から露出されるように型枠140を設けてもよい。このように型枠140を形成した後にレディーミクストコンクリート142を流し込み、硬化させることで、
図11(A)から
図12(B)に示すように、補強材110の外表面110dは露出部におけるパイルキャップ104の外表面と比較して外側に位置することができる。
【0052】
本実施形態を適用するにより、補強材110によって補強されたパイルキャップ104、およびそれを有する構造体100を施工することが可能となる。したがって、本実施形態は、高い耐震性を有する構造物の施工に寄与する。
【0053】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0054】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0055】
100:構造体、102:杭、104:パイルキャップ、104a:露出部、106:柱、108:梁、108a:RC部、108b:S部、108c:鉄骨、110:補強材、110a:内表面、110b:上面、110c:アンカー、110d:外表面、110e:外枠、110f:補助板、120:筋、122:横補強筋、124:ベース筋、126:柱筋、128:杭頭定着筋、130:梁筋、132:補強筋、140:型枠、142:レディーミクストコンクリート