(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】煙灰の処理方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/02 20060101AFI20231225BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20231225BHJP
C22B 3/38 20060101ALI20231225BHJP
C22B 3/40 20060101ALI20231225BHJP
C22B 3/32 20060101ALI20231225BHJP
C22B 3/30 20060101ALI20231225BHJP
B01D 11/04 20060101ALI20231225BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20231225BHJP
【FI】
C22B7/02 B
C22B3/26
C22B3/38
C22B3/40
C22B3/32
C22B3/30
B01D11/04 B
B09B3/70
(21)【出願番号】P 2019220292
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】荒川 和也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真吾
(72)【発明者】
【氏名】中川原 聡
(72)【発明者】
【氏名】本間 善弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮栄
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-045391(JP,A)
【文献】特開平08-325647(JP,A)
【文献】特開2001-205219(JP,A)
【文献】特開平09-077506(JP,A)
【文献】特開2001-192747(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102312101(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B01D 11/00-11/04
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン放出型の有機溶媒
とCa含有アルカリ性煙灰とを反応させることにより
、Ca含有アルカリ性煙灰から重金属を該有機溶媒へと溶媒抽出する重金属溶媒抽出工程を有
し、
前記重金属は、Zn(亜鉛)、Pb(鉛)、Cu(銅)、Sn(錫)、Ag(銀)、Au(金)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)の少なくともいずれかであり、
前記重金属溶媒抽出工程後の前記有機溶媒と硫酸以外の酸とを接触させることにより、前記重金属溶媒抽出工程後の前記有機溶媒からCaを除去し且つ該有機溶媒のプロトンを再生する有機溶媒洗浄工程を更に有し、
硫酸により前記有機溶媒洗浄工程後の前記有機溶媒から重金属を逆抽出する逆抽出工程を更に有する、煙灰の処理方法。
【請求項2】
前記Ca含有アルカリ性煙灰は消石灰を含有する、請求項1に記載の煙灰の処理方法。
【請求項3】
前記Ca含有アルカリ性煙灰においてCaは0.1質量%以上である、請求項1または2に記載の煙灰の処理方法。
【請求項4】
前記重金属溶媒抽出工程に際し、TBP(リン酸トリブチル)を加える、請求項1~3のいずれかに記載の煙灰の処理方法。
【請求項5】
前記有機溶媒洗浄工程における前記硫酸以外の酸は塩酸である、請求項1~4のいずれかに記載の煙灰の処理方法。
【請求項6】
前記有機溶媒洗浄工程における前記硫酸以外の酸はpH4~5の酸である、請求項1~5のいずれかに記載の煙灰の処理方法。
【請求項7】
前記有機溶媒は、ジチオカルバミン酸、リン酸、カルボン酸、オキシムまたはそれらの誘導体の少なくともいずれかを含有する、請求項1~6のいずれかに記載の煙灰の処理方法。
【請求項8】
プロトン放出型の有機溶媒とCa含有アルカリ性煙灰とを反応させることにより、Ca含有アルカリ性煙灰から重金属を該有機溶媒へと溶媒抽出する重金属溶媒抽出工程を有し、
前記重金属溶媒抽出工程後の前記有機溶媒と硫酸以外の酸とを接触させることにより、前記重金属溶媒抽出工程後の前記有機溶媒からCaを除去し且つ該有機溶媒のプロトンを再生する有機溶媒洗浄工程を更に有し、
硫酸により前記有機溶媒洗浄工程後の前記有機溶媒から重金属を逆抽出する逆抽出工程を更に有する、煙灰の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙灰の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業上発生する煙灰(特に金属製錬に伴い発生する煙灰)には、種々の金属が含有される。従来の煙灰の処理方法としては、非特許文献1に記載の技術が知られている。
【0003】
非特許文献1には、金属製錬に伴い発生した煙灰を消石灰(Ca(OH)2)にて中和した後、煙灰に含有される金属を酸浸出し、苛性ソーダおよび水硫化ソーダなどにより煙灰を処理する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「飛灰対策 有害物質除去・無害化・再資源化技術」262頁、株式会社エヌ・ティー・エス発行(1998年7月10日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者により、以下の課題が見出された。
【0006】
煙灰がCa(カルシウム)を含有する場合、煙灰に含有される金属(特に、非鉄金属であって亜鉛、銅、鉛、錫、レアメタル、カドミウム、貴金属等の有価金属)を硫酸にて酸浸出しようと試みてしまうと、難溶性である石膏(CaSO4)が形成されてしまう。この石膏に、本来酸浸出すべき金属が随伴し、結果として煙灰に含有される金属が回収不能となる。この現象は、特に、消石灰による中和処理が行われた後のアルカリ性の消石灰含有煙灰だと顕著である。
【0007】
本発明の目的は、石膏の発生を抑制しつつもCa含有アルカリ性煙灰から重金属を抽出することにある。
本発明の別の目的は、抽出後の該重金属を回収可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、
プロトン放出型の有機溶媒によりCa含有アルカリ性煙灰から重金属を該有機溶媒へと溶媒抽出する重金属溶媒抽出工程を有する、煙灰の処理方法である。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記Ca含有アルカリ性煙灰は消石灰を含有する。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、
前記Ca含有アルカリ性煙灰においてCaは0.1質量%以上である。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の発明において、
前記重金属溶媒抽出工程に際し、TBP(リン酸トリブチル)を加える。
【0012】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれかの態様に記載の発明において、
前記重金属溶媒抽出工程の後、前記有機溶媒からCaを除去し且つ前記有機溶媒のプロトンを再生する有機溶媒洗浄工程を更に有する。
【0013】
本発明の第6の態様は、第5の態様に記載の発明において、
前記有機溶媒洗浄工程後、硫酸により前記有機溶媒から重金属を逆抽出する逆抽出工程を更に有する。
【0014】
本発明の第7の態様は、第1~第6のいずれかの態様に記載の発明において、
前記有機溶媒は、ジチオカルバミン酸、リン酸、カルボン酸、オキシムまたはそれらの誘導体の少なくともいずれかを含有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、石膏の発生を抑制しつつもCa含有アルカリ性煙灰から重金属を抽出できる。
また、本発明によれば、抽出後の該重金属を回収できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る煙灰の処理方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書における「~」は所定の数値以上かつ所定の数値以下を指す。
以下、本実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る煙灰の処理方法のフローチャートである。
【0018】
本実施形態における「Ca含有アルカリ性煙灰」は、産業上発生する煙灰であれば限定は無い。本実施形態においては、金属製錬に伴い発生する煙灰(特に溶融飛灰)を例示し、且つ、消石灰による中和処理がなされた後の煙灰すなわち消石灰含有煙灰を例示する。つまり、本実施形態で主に例示するCaは、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)である。他にも少ないが酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどが混合されている可能性はある。
【0019】
消石灰による中和処理の形式には限定は無く、湿式でも乾式でもよい。また、該煙灰の粒子の大きさには限定は無いが、例えば粒径が1~5000μmであってもよい。
【0020】
煙灰に含有されるCaの量には特に限定は無いが、例えば、Ca含有アルカリ性煙灰においてCaは0.1質量%以上、好ましくは2質量%以上であっても、本実施形態の処理方法を採用することにより、本発明の課題の欄で述べたような石膏の発生に伴う不具合は生じない点で、本発明の技術的思想には大きな意義がある。
【0021】
また、Ca含有アルカリ性煙灰そのものに対して本実施形態の処理方法を適用してもよいし、該煙灰を水と混合することによりスラリー化したものに対して本実施形態の処理方法を適用してもよい。いずれにせよ、Ca含有アルカリ性煙灰から重金属を溶媒抽出することに変わりはない。本実施形態においては、スラリー化した煙灰を例示する。
【0022】
Ca含有アルカリ性煙灰は、その名のとおり、Caを含有し且つアルカリ性であれば特に限定は無い。Ca含有アルカリ性煙灰を水と混合することによりスラリー化したときのスラリーのpHが7を超える状態の煙灰を「Ca含有アルカリ性煙灰」とする。
【0023】
Ca含有アルカリ性煙灰に含有される重金属には特に限定は無く、Zn(亜鉛)、Pb(鉛)、Cu(銅)、Sn(錫)、Ag(銀)、Au(金)、PGM(白金族元素、すなわちルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)からなる群の少なくともいずれか)などが挙げられ、これらの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0024】
本実施形態の大きな特徴の一つが、プロトン放出型の有機溶媒によりCa含有アルカリ性煙灰(本実施形態の一例だと該煙灰のスラリー)から重金属を該有機溶媒へと溶媒抽出する重金属溶媒抽出工程を有することである。
【0025】
重金属溶媒抽出工程では以下の反応が生じる。H-Rは、プロトン放出型の有機溶媒を指す。M2+は重金属イオンを指し、説明の便宜上、2価の重金属イオンを例示する。
2H-R+Ca(OH)2=Ca-2R+2H2O ・・・(1)(主反応)
2H-R+M2+=M-2R+2H+ ・・・(2)(副反応その1)
Ca(OH)2+2H+=Ca2++2H2O ・・・(3)(副反応その2)
溶媒抽出において、プロトン放出型の有機溶媒を採用するため、煙灰中の重金属は有機溶媒(すなわち油相)へと溶媒抽出される((2)のM-2R)。なお、Ca含有アルカリ性煙灰中のCa(OH)2は、プロトン放出型の有機溶媒により酸溶解され、油相(有機溶媒)に溶媒抽出されたり((1)のCa-2R)、元スラリーにより構成される水相に移行したりする((3)のCa2+)。このようにCaは、石膏のような中和物でないため、他の金属イオンを巻き込む共沈を抑制し、さらにはアルカリ性の反応剤としても利用可能な状態である。
【0026】
つまり、重金属溶媒抽出工程により、本発明の課題で述べたような石膏は発生させずにCa含有アルカリ性煙灰から重金属を分離することが可能となる。それに加え、以下の顕著な効果も備える。すなわち、上記(1)~(3)が示すように、重金属溶媒抽出工程ならば、Ca(OH)2の浸出処理と金属Mの抽出処理とを同時に行える。これは、石膏形成を回避すべく単に硫酸以外の鉱酸を使用する選択をしただけでは得られない効果である。
【0027】
また、重金属溶媒抽出工程がもたらす効果として、ハロゲン(塩素(Cl)、臭素(Br)、ここではClを例示)が水相中に残置されることがある。ハロゲンは、煙灰に含有されるNa、Kに付随する形で主に存在しているが、重金属溶媒抽出工程により、Na、Kの大部分が水相中に残置される(後掲の実施例1参照)。これは、ハロゲンも水相中に残置されることを意味し、有機溶媒にはハロゲンがほとんど抽出されないことを意味する。これにより、既存の製錬工程に該有機溶媒を投入した場合において、製錬工程に与える影響を軽減できる。
【0028】
しかも、本実施形態に係る重金属溶媒抽出工程後だと、元スラリーである水相中にハロゲンが多量に存在することから、この水相をブライン浸出に利用することも可能となる。
【0029】
また、硫酸はもとより、それ以外の酸をわざわざ使用する必要もない。プロトン放出型の有機溶媒を利用すれば、溶媒抽出を利用してCa含有アルカリ性煙灰から重金属を回収できるようになるという効果もある。
【0030】
本実施形態における「プロトン放出型の有機溶媒」は、上記(1)(2)のようにプロトン(H+)を放出可能な有機溶媒であれば限定は無い。具体例を挙げると、ジチオカルバミン酸、リン酸、カルボン酸、オキシムに代表されるキレート型抽出剤またはそれらの誘導体の少なくともいずれかを含有するものであってもよい。なお、リン酸またはその誘導体を含有する市販の試薬としてはD2EHPA(ジ-(2-エチルヘキシル)リン酸)、PC-88A(大八化学工業株式会社製:化合物名は2-エチルヘキシルホスホン酸2-エチルヘキシル)、CYANEX272(SOLVAY製:化合物名はジ(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸)が挙げられる。
【0031】
なお、プロトン放出型の有機溶媒以外の有機溶媒と混合して本実施形態に使用してもよい(例えば後掲の実施例1におけるケロシン)。その際の混合物を総有機溶媒とも称する。
【0032】
具体的な重金属溶媒抽出工程の作業内容としては限定は無いが、例えば、プロトン放出型の有機溶媒を収めた容器に煙灰を投入した後、撹拌、振とう等を行うことが挙げられる。もちろん、煙灰を収めた容器に有機溶媒を添加しても構わない。また、その際に、本実施形態で例示するようにスラリー化した煙灰を使用しても構わない。
【0033】
重金属溶媒抽出工程によりもたらされる分相状態をTBP(リン酸トリブチル)により改善する分相改善工程を更に有するのが好ましい。分相改善工程により、煙灰の残渣成分(固体成分)が油相(有機溶媒)中に残置されるのを抑制できる。それに加え、油相の下方の水相中においても、水相下方に固体成分が沈降し、水相中でも液体と固体とに好適に分相する。別の言い方をすると、上方から順に油相、水相、固相(すなわち固体成分)とに良好に分相する。これは、油相(有機溶媒)の分離回収が容易化する(例えばろ過が不要になる)ことにもつながるし、水相に対する残渣除去処理の手間が相当省ける(例えばろ過が不要になる)ことにもつながる。これは、ハロゲンが多量に存在する水相をブライン浸出に利用可能であることを考慮すると、有利な効果である。
【0034】
また、分相を改善するということは、Ca含有アルカリ性煙灰の固体成分が該溶媒中に残置されることを抑制できることにつながる。該固体成分が該溶媒中にてクラッド化(一具体例としては油相(有機溶媒)と水相との間にて固体成分が凝集)してしまうと、処理装置の操業に影響を及ぼすおそれがある。このおそれは、煙灰が、SiO2の品位が比較的低く(例えば煙灰中でSiO2が10質量%以下)、油相(有機溶媒)中にて沈降しづらい溶融飛灰である場合、より顕著になる。その一方、分相改善工程を採用することにより、そのようなおそれを排することができる。
【0035】
その結果、重金属溶媒抽出工程により、石膏の発生を抑制しつつもCa含有アルカリ性煙灰から重金属を抽出できた後、抽出後の該重金属が回収可能となる。
【0036】
なお、重金属溶媒抽出工程と分相改善工程とを同時に行うのが手間が省けて好ましい。具体的には、プロトン放出型の有機溶媒とTBPとを予め混合した混合溶媒を用意しておき、この混合溶媒を用いて煙灰に対して溶媒抽出を行ってもよい。もちろん、重金属溶媒抽出工程を行った後の有機溶媒に対してTBPを添加し、重金属溶媒抽出工程と分相改善工程とを別々に行うことに妨げは無い。これらの作業をまとめて「重金属溶媒抽出工程に際し、TBP(リン酸トリブチル)を加える」と称する。
【0037】
分相改善工程のその他の好適な条件は後掲の実施例2にて述べる。
【0038】
重金属溶媒抽出工程および分相改善工程の後、有機溶媒からCaを除去する有機溶媒洗浄工程を更に有するのが好ましい。なお、分相改善の必要がなければ、重金属溶媒抽出工程後、分相改善工程を行わず、有機溶媒洗浄工程を行ってもよい。これにより、有機溶媒から重金属を逆抽出する際に硫酸を使用しても、石膏の発生を抑制できる。
【0039】
有機溶媒洗浄工程の具体的な手法には限定は無く、硫酸以外の酸(例えば塩酸)(好適にはpH4~5程度)と有機溶媒とを接触させることにより洗浄を行ってもよい。また、有機溶媒洗浄工程は複数回行うのが、Ca除去の度合いを高めるという点で好ましい(後掲の実施例3では3回行っている)。
【0040】
また、有機溶媒洗浄工程がもたらす効果として、Caと同様、有機溶媒に含まれるハロゲンも除去できることがある。これにより、有機溶媒中にハロゲンを残置させずに済み、既存の製錬工程に該有機溶媒を投入した場合において、製錬工程に与える影響を軽減できる。
【0041】
更に、有機溶媒洗浄工程により、有機溶媒はプロトン放出前の状態へと再生させるのがよい。別の言い方だと、有機溶媒洗浄工程によりプロトン付着させる、いわゆるプロトン再生工程を行うのがよい。塩酸により有機溶媒を洗浄する場合、以下の反応が生じる。
Ca-2R+2H+=Ca2++2H-R ・・・(4)
【0042】
プロトン再生工程を経た後の有機溶媒は、別サイクルの煙灰処理において使用可能である。なお、この有機溶媒洗浄工程を経た後でも重金属は有機溶媒中に残置される(後掲の実施例3参照)。洗浄後液に移行するのは、ここではNa、K、Caのような軽金属(非重金属)である。
【0043】
有機溶媒洗浄工程後、硫酸により有機溶媒から重金属を逆抽出する逆抽出工程を更に有するのが好ましい。逆抽出においては以下の反応が生じる。
M-2R+2H+=M2++2H-R ・・・(5)
【0044】
(5)に示すように、逆抽出工程においてもプロトン再生工程が行われる。この有機溶媒も、別サイクルの煙灰処理において使用可能である。
【0045】
このとき、硫酸の濃度は100~250g/Lとしてもよい。なお、逆抽出の手法としては公知のものを採用しても構わない。もちろん、硫酸以外を採用しても構わない。その場合、pHは4以下にするのがよい。
【0046】
ただ、本発明の課題にて述べたように硫酸を使用することに伴う課題が、本発明の技術的思想を適用することにより解決され、硫酸を使用可能となるという点でも本発明の技術的意義がある。
【0047】
逆抽出された重金属は、硫酸ごと既存の金属製錬工程へと移すことにより回収工程を行ってもよい。そのため本実施形態に係る煙灰の処理方法は、重金属の回収方法としての側面もある。なお、逆抽出工程後の有機溶媒はプロトンが再生されていることから、別サイクルの煙灰の処理工程にて再利用してもよい。
また、元スラリーであった水相は、ハロゲンを多量に含有しているためブライン浸出に利用してもよい。
固体成分(固相)は、ろ過後、Pb、Agなどの重金属を公知の手法で回収してもよい。その後、残りの部分は、金属製錬の原料として既存の金属製錬工程へ移してもよい。
有機溶媒洗浄工程後の洗浄液はCaを多量に含んでおり、これを再利用してもよいし、重金属がほとんど含まれていない状態なのでpH調整等の処理を行ったうえで排水としても構わない。
【0048】
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【実施例】
【0049】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載のない内容は、本実施形態で述べた内容と同様とする。
【0050】
なお、実施例1では重金属溶媒抽出工程に係る結果を示し、実施例2では分相改善工程に係る結果を示し、実施例3では有機溶媒洗浄工程に係る結果を示し、実施例4では逆抽出工程に係る結果を示す。
【0051】
<実施例、比較例にて使用した煙灰>
以下の組成を有する溶融飛灰を用意した。以下の組成は、ICP-MSを使用して得た。その結果を示すのが以下の表1である。
【表1】
【0052】
<比較例1>
上記溶融飛灰50gと蒸留水100mlとを混合したものを封入した容器を、室温(25℃程度)にて、振とう機(TAITEC製のダブルシェーカーNR-30)を使用し、200rpmで30分間振とうした。その後、内容物をICP分析装置(Thermo Scientific製のiCAP6000)にて分析した。その結果を示すのが以下の表2である。
【表2】
表2に示すように、液中にも残渣中にもCaが分配されており、重金属の回収のために硫酸を使用する場合、石膏の発生が想定される。
【0053】
<実施例1-1>
上記溶融飛灰50gと蒸留水100mlと、更にプロトン放出型の有機溶媒とを混合したものを封入した容器を、比較例1と同様の手法にて振とうし、同様の手法にて内容物を分析した。なお、プロトン放出型の有機溶媒としては、リン酸(SOLVAY製のCYANEX272)を使用した。その他の有機溶媒としてケロシン(三愛石油製のExxsol TM D80)を使用し、総有機溶媒においてCYANEX272が40vol%となるように両者を混合した。内容物の分析結果を示すのが以下の表3である。なお、本作業の終点pHは5.46であった。
【表3】
表3に示すように、重金属(特にZn、Pb、Cu、Ag)を好適に油相(有機溶媒)中に分配できた。なお、油相(有機溶媒)中の分配率は、油相(有機溶媒)に対して3Nの塩酸を用いて逆抽出工程を行った後の塩酸中の金属濃度に基づいて記載している(以降の実施例1のバリエーションにおいては同様)。
【0054】
<実施例1-2>
プロトン放出型の有機溶媒としてCYANEX272の代わりにPC-88Aを使用した以外は、実施例1-1と同様の手法で試験を行った。内容物の分析結果を示すのが以下の表4である。なお、本作業の終点pHは4.05であった。
【表4】
表4に示すように、重金属(特にZn、Pb、Cu、Ag)を好適に油相(有機溶媒)中に分配できた。
【0055】
<実施例1-3>
プロトン放出型の有機溶媒としてCYANEX272の代わりにD2EHPAを使用した以外は、実施例1-1と同様の手法で試験を行った。内容物の分析結果を示すのが以下の表5である。なお、本作業の終点pHは3.54であった。
【表5】
表5に示すように、重金属(Zn)を好適に油相(有機溶媒)中に分配できた。
【0056】
<実施例1-4>
本例は、Ca含有アルカリ性煙灰を水と混合することによりスラリー化する前に、該煙灰を一度洗浄した場合の例である。それ以外は実施例1-1と同様の手法にて試験および分析を行った。
【0057】
洗浄を行う本例の結果と、洗浄を行わない実施例1-1の結果とを対比して、実施例1-1の結果の方が良好すなわち重金属が油相(有機溶媒)中により分配していれば、本発明により、該煙灰を洗浄する必要が無くなるという効果が更にもたらされることを意味する。
【0058】
本例における該煙灰の洗浄の具体的手法は以下の通りである。
まず、比較例1と同様の手法で該煙灰のスラリーを作製した。その後、該スラリーを全量ろ過した。ここまでの内容が、事前の水洗に該当する。その後、ろ物を100mLの蒸留水に混ぜ、再びスラリー化した。このスラリーに対し、実施例1に記載の総有機溶媒を混合し、実施例1-1に記載の手法にて重金属溶媒抽出工程を行った。内容物の分析結果を示すのが以下の表6である。なお、水洗時のpHは12.05、再スラリー化の時点でのpHは7.27、重金属溶媒抽出工程の終点pHは実施例1-1と同様の5.46であった。
【表6】
本例の結果を示す表6と、実施例1-1の結果を示す表3とを比べると、事前に水洗を行った本例だと重金属溶媒抽出工程後の残渣にZn、Pb、Cuが多く残っていた。つまり、実施例1-1の方が、重金属を有機溶媒に良好に抽出できることがわかった。なお、Na、Kについては両結果は同等である一方、Caに関しては、本例だと実施例1-1に比べ、重金属溶媒抽出工程後の油相(有機溶媒)よりも残渣に分配された。このことを鑑みても、実施例1-1の方が有効であることがわかった。つまり、本発明により、該煙灰を洗浄する必要が無くなるという効果が更にもたらされることがわかった。
【0059】
<実施例2-1>
上記溶融飛灰50gと蒸留水100mlと、更に実施例1のプロトン放出型の有機溶媒とを混合したものを封入した容器を、比較例1と同様の手法にて振とうした。なお、振とう時間、振とう後の静置時間は以下の表7に記載のとおりとした。なお、表中のスラリー濃度の単位は(g/L)であり、TBP濃度とCYANEX272濃度の単位は総有機溶媒中のvol%である。
【表7】
【0060】
<実施例2-2~2-6>
実施例2-1と同様の手法にて、表7に記載の条件で試験を行った。
【0061】
表7に示すように、TBPを総有機溶媒に対して1vol%以上とし、且つ、(油相体積すなわち総有機溶媒体積)/(水相体積)≧2.5とし、且つ、(プロトン放出型の有機溶媒の質量%)/(全Ca質量%)を1.2~5とする、という好適条件を満たすことにより、固体成分が有機溶媒からほとんど存在しなくなることがわかった。
【0062】
なお、実施例2-1は実施例2-2~2-6に比べて分相状態は良好ではないが、本発明の課題である「石膏の発生を抑制しつつもCa含有アルカリ性煙灰から重金属を抽出する」ことができているため、実施例の扱いとしている。
【0063】
<実施例3>
実施例1で使用した総有機溶媒(CYANEX272が40vol%)に対し、蒸留水50mlと所定量の塩酸とを混合し、総有機溶媒が以下の表8に記載のpHとなるよう、有機溶媒洗浄工程を3回行った。各有機溶媒洗浄工程後、総有機溶媒中の各組成を上記ICP分析装置にて分析した。その結果を、総有機溶媒からの除去率として示すのが表8である。
【表8】
表8に示すように、総有機溶媒がpH4~5程度になるよう有機溶媒洗浄工程を行うことにより、3回目の洗浄では、Caをほとんど除去できた。また、Na、Kもほとんど除去できた。これは、総有機溶媒から、Na、Kそしてそれらに付随するハロゲンも除去できたことを意味する。その一方、重金属のうちPb以外は総有機溶媒中に残置された。
【0064】
<実施例4>
実施例3の後の総有機溶媒に対して逆抽出工程を行った。硫酸濃度は200g/Lとした。逆抽出工程後、水相(硫酸)中の各組成を上記ICP分析装置にて分析した。その結果を示すのが表9である。
【表9】
【0065】
以上のとおり、本実施例ならば、石膏の発生を抑制しつつもCa含有アルカリ性煙灰から重金属を抽出できることが明らかとなった。更に、抽出後の該重金属が回収可能となることが明らかとなった。