(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】試薬容器
(51)【国際特許分類】
G01N 35/02 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
G01N35/02 A
(21)【出願番号】P 2019238827
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【氏名又は名称】芝野 正雅
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏典
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼野 誠司
(72)【発明者】
【氏名】久世 雅人
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-090527(JP,A)
【文献】特表2017-521061(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0296936(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引管を備えた分析装置に設置され、
前記吸引管を介して前記分析装置に供給される試薬を収容するための試薬容器であって、
前記吸引管が上方から挿入される開口を有する筒状部材と、前記筒状部材に接合され前記試薬を収容する袋状部材と、を含む容器本体を備え、
前記容器本体は、前記開口から挿入された前記吸引管の先端が前記容器本体を貫通するのを防止するための貫通防止部を有する、試薬容器。
【請求項2】
前記貫通防止部は、前記袋状部材よりも大きい厚みを有する、請求項1に記載の試薬容器。
【請求項3】
前記貫通防止部は、前記袋状部材よりも硬質材料により形成されている、請求項1または2に記載の試薬容器。
【請求項4】
前記貫通防止部は、前記袋状部材よりも高密度の樹脂材料により形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の試薬容器。
【請求項5】
前記容器本体は、前記筒状部材の前記開口の中心軸線と前記容器本体の内面との交点を含む底部領域に、前記貫通防止部を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の試薬容器。
【請求項6】
前記貫通防止部の上面は、前記袋状部材の内底よりも低い位置に形成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の試薬容器。
【請求項7】
前記貫通防止部は、前記筒状部材と一体形成されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の試薬容器。
【請求項8】
前記貫通防止部は、前記筒状部材の閉じた底部を構成する、請求項7に記載の試薬容器。
【請求項9】
前記筒状部材は、上端部に前記開口が形成された筒状の周壁部と、前記周壁部を貫通して前記開口と前記袋状部材内とを連通する側方開口と、を含み、
前記袋状部材は、前記側方開口の周囲を覆うように前記周壁部の外表面に接合されている、請求項1~8のいずれか1項に記載の試薬容器。
【請求項10】
前記貫通防止部は、前記周壁部の下端部を塞ぐように設けられている、請求項9に記載の試薬容器。
【請求項11】
前記貫通防止部の上面が前記袋状部材の内底よりも低い位置に配置されている、請求項10に記載の試薬容器。
【請求項12】
前記袋状部材の前記内底は、前記筒状部材側に向かって傾斜し、前記側方開口の下端部に連なるように接続されている、請求項11に記載の試薬容器。
【請求項13】
前記筒状部材は、前記側方開口の縁部から前記袋状部材の内部へ向けて突出する突起部を有する、請求項9~12のいずれか1項に記載の試薬容器。
【請求項14】
前記突起部は、前記側方開口の幅方向の一方縁部と他方縁部とを接続するように形成されている、請求項13に記載の試薬容器。
【請求項15】
前記突起部は、前記側方開口の上端部および下端部にそれぞれ形成され、
前記袋状部材は、前記突起部の外周面に沿って接合されている、請求項14に記載の試薬容器。
【請求項16】
前記筒状部材を前記容器本体の上部位置に保持するための保持部材を備える、請求項1~15のいずれか1項に記載の試薬容器。
【請求項17】
前記保持部材は、前記袋状部材を支持する支持部を有する、請求項16に記載の試薬容器。
【請求項18】
前記保持部材の外表面に試薬識別用の部材が設けられている、請求項16または17に記載の試薬容器。
【請求項19】
前記保持部材は、前記容器本体と係合して前記開口の位置を決める第1係合部と、前記容器本体と係合して前記貫通防止部の位置を決める第2係合部と、を含む、請求項16~18のいずれか1項に記載の試薬容器。
【請求項20】
前記袋状部材は、ガスバリア性および遮光性を有する積層構造フィルム材からなる、請求項1~19のいずれか1項に記載の試薬容器。
【請求項21】
前記筒状部材の前記開口を封止し、かつ、前記吸引管により穿刺可能なシール材をさらに備える、請求項1~20のいずれか1項に記載の試薬容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置に利用される試薬を収容した試薬容器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、
図16に示すように、試薬収納パウチ901を備えた試薬容器900が開示されている。試薬収納パウチ901は、内部に試薬が収容される袋状部材902と、袋状部材902に取り付けられた筒状の試薬取り出し部材903とを有する。試薬取り出し部材903は、ノズル挿入口904を有し、ノズル挿入口904を利用して、自動分析機のサンプル吸引ノズルが袋状部材902内に挿入されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1において、袋状部材902は、内部に収容される試薬の酸化を抑制するために、ナイロン、ポリプロピレンなどの合成樹脂フィルムにより、柔軟性を有するように構成されている。この場合、分析装置の吸引管(ノズル)をノズル挿入口904から試薬容器100の内部に挿入すると、試薬取り出し部材903を通過した吸引管の先端が袋状部材902の内底に接触する可能性がある。吸引管の先端が袋状部材902の内底に接触すると、吸引管の先端が袋状部材902を貫通する可能性がある。吸引管の先端が袋状部材902を貫通すると、試薬の液漏れの発生の原因となりうる。
【0005】
特に、分析装置では、ノズル挿入口がシール材で覆われた試薬容器に対して、吸引管によってシール材を穿刺しつつ吸引管を試薬容器内に挿入する場合もある。その場合、穿刺性能を確保するために先端が尖った硬質の管部材が吸引管に採用されることがあり、吸引管の先端と袋状部材の内底との接触によって、吸引管の先端が袋状部材を貫通するリスクが高くなる。
【0006】
この発明は、分析装置の吸引管の先端との接触によって、吸引管の先端が容器本体を貫通するのを抑制できる試薬容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明による第1の局面による試薬容器は、
図1に示すように、
吸引管(90)を備えた分析装置に設置され、吸引管(90)を介して分析装置に供給される試薬(11)を収容するための試薬容器(100)であって、吸引管(90)が上方から挿入される開口を有する筒状部材(20)と、筒状部材(20)に接合され試薬(11)を収容する袋状部材(30)と、を含む容器本体(10)を備え、容器本体(10)は、開口から挿入された吸引管(90)の先端(91)が容器本体(10)を貫通するのを防止するための貫通防止部(40)を有する。
【0008】
この発明による試薬容器は、上記のように、容器本体(10)が、開口の上方から挿入された吸引管(90)の先端(91)が容器本体(10)を貫通するのを防止するための貫通防止部(40)を有する。これにより、開口から容器本体(10)の内部へ挿入された吸引管(90)の先端(91)が容器本体(10)の内底に接触した場合には、吸引管(90)の先端(91)が袋状部材(30)ではなく貫通防止部(40)に接触して受け止められる。その結果、試薬(11)を収容した袋状部材(30)を含む試薬容器(100)を用いる場合でも、吸引管(90)の先端(91)と袋状部材(30)との接触を回避できるので、分析装置の吸引管(90)の先端(91)が容器本体(10)を貫通するのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分析装置の吸引管との接触によって、吸引管の先端が容器本体を貫通するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】分析装置に設置された試薬容器の概要を示す模式的な断面図である。
【
図2】
図1の試薬容器の構造例を説明するための図である。
【
図3】シート状部材の構成例(A)および(B)を示す図である。
【
図5】試薬容器の他の構成例を示した模式図である。
【
図6】
図5の試薬容器の変形例を示した模式図である。
【
図7】試薬容器の具体的な構成例を示した分解斜視図である。
【
図8】
図7の試薬容器の筒状部材を示した斜視図である。
【
図9】筒状部材の縦断面図(A)および側面開口側の側面図(B)である。
【
図10】貫通防止部の周辺を示した拡大断面図である。
【
図11】保持部材の第1係合部を示した上面拡大図である。
【
図12】保持部材の第2係合部を示した拡大断面図である。
【
図13】容器本体が保持部材に保持された試薬容器を示した図である。
【
図14】
図7とは試薬の容量が異なる大型の試薬容器の例を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
[試薬容器の概要]
まず、
図1および
図2を参照して、一実施形態による試薬容器100の概要について説明する。
【0014】
図1は、分析装置200に設置された試薬容器100の概要を示す模式的な断面図である。試薬容器100は、検体の分析に使用される試薬11を内部に収容する試薬容器である。試薬容器100は、液体を収容可能な容器である。試薬容器100は、分析装置200に設置され、吸引管90を介して分析装置200に供給される試薬11を収容するための試薬容器である。分析装置200は、試薬容器100が設置可能な試薬設置部221Aを有する。試薬容器100は、試薬設置部に所定の設置姿勢で設置され、保持される。分析装置200は、試薬容器100内の試薬11を取得し、取得した試薬11を用いて検体の分析を行う自動分析装置である。
【0015】
検体は、生体由来の物質でありうる。検体には、被検物質が含まれる。検体に試薬を添加して反応させることにより、被検物質の測定用試料が調製される。被検体は、主としてヒトであるが、ヒト以外の他の動物であってもよい。分析装置200は、たとえば患者から採取された検体の臨床検査または医学的研究のための分析を行う。生体由来の検体は、たとえば、被検体から採取された血液(全血、血清または血漿)、尿などの液体、あるいは、採取された液体に所定の前処理を施して得られた液体などである。また、検体は、たとえば、液体以外の、被検体の組織の一部や細胞などであってもよい。分析装置200は、検体中に含有される被検物質を検出する。被検物質は、たとえば、血液や尿検体中の所定の成分、細胞や有形成分を含んでもよい。被検物質は、DNA(デオキシリボ核酸)などの核酸、細胞および細胞内物質、抗原または抗体、タンパク質、ペプチドなどでもよい。
【0016】
分析装置200は、吸引管90などによって、試薬容器100の内部から試薬11を吸引することができる。試薬容器100は、所定回数の検体分析を行える量の試薬11を収容する。試薬容器100は、収容する試薬11のほぼ全量が吸引されると、廃棄される使い捨て容器でありうる。
【0017】
試薬11は、液体である。試薬11は、たとえば、検体分析による分析項目に応じた成分を含有した水溶液である。試薬11は、たとえば、分析装置200において検体と混合されることにより、検体に含有する成分と反応する成分を含む。試薬11は、たとえば、検体に含まれる被検物質を標識する成分を含む。
【0018】
試薬容器100は、筒状部材20と、袋状部材30と、貫通防止部40と、を含む容器本体10を少なくとも備えている。筒状部材20と袋状部材30と貫通防止部40とは、互いに別体で形成された別部品である。筒状部材20と袋状部材30とは、接合されることにより一体化されている。また、貫通防止部40と袋状部材30とは、接合されることにより一体化されている。
【0019】
筒状部材20は、内部が中空の筒状形状を有する。筒状部材20は、容器本体10の内部と外部とを連通させる部材であり、吸引管90の出入口となる。
【0020】
筒状部材20は、吸引管90が挿入される開口を有する。
図1の例では、開口が筒状部材20の内部で連通している。筒状部材20は、開口を区画する周壁部23を有する。
図1の例では、筒状部材20は、上下方向に直線状に延びる。筒状部材20は、たとえば円筒形状(
図2参照)を有する。筒状部材20は、円筒以外の角筒形状などでもよい。ここで、「上方」とは、吸引管90が挿入される開口が形成された筒状部材20の上端面から上側の位置を示している。言い換えると、「上方」は、吸引管90の先端91が挿入される開口の真上の領域Xを含む。
【0021】
袋状部材30は、試薬11を収容する袋状の容器部分である。袋状部材30は、シート状またはフィルム状の材料により袋状に形成されている。袋状部材30は、柔軟性を有する袋状の液体容器である。袋状部材30は、たとえば、折り重ねた1枚のシート状部材31の外周部の内表面同士を接合することにより袋状に形成される。また、袋状部材30は、たとえば
図2に示すように、複数枚のシート状部材31を重ね合わせて、重ね合わされたシート状部材31同士の周縁に沿う領域BR1を接合することにより袋状に形成される。
【0022】
また、袋状部材30は、筒状部材20に接合されている。
図1および
図2の例では、袋状部材30は、筒状部材20の外周面に沿って筒状部材20の周囲を取り囲む領域BR2において接合されている。接合により、筒状部材20の開口と袋状部材30の内部空間とが連通する。袋状部材30の内部空間は、筒状部材20の開口を介して容器本体10の外部と連通する。接合により、容器本体10は、筒状部材20の開口においてのみ、外部と連通する。
【0023】
筒状部材20の開口は、シール材13(
図2参照)により封止可能である。シール材13は、吸引管90が貫通することにより開口を介して試薬容器100の内部から試薬11を吸引可能でありうる。シール材13は、たとえば試薬容器100を使用する際に、容器本体10から除去してもよい。シール材13は、筒状部材20の開口を覆う位置に繰り返し着脱可能であってもよい。
【0024】
袋状部材30の外表面には、試薬に関する情報を記憶したRFID(radio frequency identifier)タグや表示ラベルなどの試薬識別用の部材14(
図2参照)が設けられていてよい。
【0025】
図1に示すように、分析装置200が試薬11を吸引する場合、吸引管90は、筒状部材20の開口から挿入されて、容器本体10の外部から容器本体10の内部の試薬11へアクセスする。吸引管90は、たとえば直線状に延びる細い中空の管状部材である。吸引管90は、上端が分析装置200の流体回路に接続され、分析装置200に保持される。吸引管90は、筒状部材20の中心軸線CAに沿って容器本体10の外部から筒状部材20の開口の内部に進入する。吸引管90は、分析装置200により吸引力が供給されることにより、先端91から試薬11を吸引する。
【0026】
試薬11のデッドボリュームを低減するため、分析装置200に適合した容器本体10の寸法は、容器本体10内に侵入した吸引管90の先端91が容器本体10の内底に極力近付くように設計される。なお、デッドボリュームとは、吸引管90では吸引できずに試薬容器100内に残存する試薬11の残存量のことである。吸引管90の先端91は、容器本体10の底部に接触しないように設計されているが、寸法誤差等を考慮すると、先端91が底部に接触する可能性がある。
【0027】
そこで、本実施形態では、容器本体10は、吸引管90の先端91が容器本体10を貫通するのを防止するための貫通防止部40を有する。貫通防止部40は、筒状部材20の開口から挿入された吸引管90の先端91の下に配置されている。ここで、「吸引管の先端の下」とは、筒状部材20の中心軸線CAに沿って容器本体10の内底側に移動した吸引管90の先端91の下方を示している。
【0028】
図1の例では、貫通防止部40は、容器本体10の内面12の一部を構成する。容器本体10は、筒状部材20の開口の中心軸線CAと容器本体10の内面12との交点CPを含む底部領域に、貫通防止部40を有する。貫通防止部40の形状は特に限定されない。
図1の例では、貫通防止部40は、平板形状を有する。
図2の例では、貫通防止部40は、筒状部材20の開口の形状に対応した円板形状を有する。
図2の例では、袋状部材30は、貫通防止部40の外周面に沿って貫通防止部40の周囲を取り囲む領域BR3(
図2参照)において接合されている。このため、貫通防止部40の下面部が、容器本体10の外表面の一部を構成している。貫通防止部40は、袋状部材30の内部で袋状部材30の内底に接合されていてもよい。
【0029】
図1の例では、吸引管90の移動方向と交差する方向における貫通防止部40の幅は、吸引管90の移動や先端91の位置のばらつきを考慮し、筒状部材20の開口の幅よりも大きい。貫通防止部40は、より広い範囲、たとえば袋状部材30の内底全域に亘って形成されていてもよい。
【0030】
吸引管90が筒状部材20を介して容器本体10の内部に進入した場合、吸引管90の先端91は、貫通防止部40に接触し得る。そのため、吸引管90の先端91が袋状部材30を貫通することが抑制される。貫通防止部40は、吸引管90の先端91と当接しても貫通されないように構成される。そのため、吸引管90の先端91が当接しても試薬容器100が貫通されることが回避される。
【0031】
以上のように、本実施形態による試薬容器100では、容器本体10が、筒状部材20の開口の上方から挿入された吸引管90の先端91が容器本体10を貫通するのを防止するための貫通防止部40を有する。これにより、筒状部材20の開口から容器本体10の内部へ挿入された吸引管90の先端91が容器本体10の内面12に接触しようとする場合には、吸引管90の先端91が袋状部材30ではなく貫通防止部40に接触して受け止められる。その結果、試薬11を収容した袋状部材30を有する試薬容器100を用いる場合でも、吸引管90の先端91と袋状部材30との接触を回避できるので、分析装置200の吸引管90の先端91が容器本体10を貫通するのを抑制することができる。
【0032】
また、
図1のように、筒状部材20の開口の中心軸線CAと容器本体10の内面12との交点CPを含む底部領域に貫通防止部40を設ける構成では、中心軸線CAに沿って容器本体10の内部に進入する吸引管90を、より確実に貫通防止部40によって受け止められる。また、貫通防止部40が底部領域に配置されるので、吸引管90の先端91を容器本体10の内底に極力近い位置に配置できる。そのため、試薬11のデッドボリュームを低減できる。
【0033】
また、
図1の例では、貫通防止部40が容器本体10の内面12のうち、交点CPを含む底部領域に局所的に形成されている。このため、貫通防止部40を容器本体10の内面12の広い範囲に設ける必要がないので、袋状部材30の柔軟性を保ちつつ、吸引管90の先端91が容器本体10を貫通するのを抑制することができる。
【0034】
なお、試薬容器100の製造の際には、容器本体10内に所定量の試薬11が分注され、内部の空気層が排除され、筒状部材20の開口の上面にはシール材13が接合される。容器本体10内の空気を排除するために、容器本体10内の空気が不活性ガスにより置換されていることが好ましい。つまり、容器本体10の内部の気相領域が、不活性ガスにより満たされうる。不活性ガスとしては、たとえば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素などが採用されうる。
【0035】
(試薬容器の他の態様)
本実施形態では、試薬容器100が下記の構成を備えていてもよい。
【0036】
図1に示した試薬容器100は、分析装置200に設置され、吸引管90を介して分析装置200に供給される試薬11を収容するための試薬容器であって、吸引管90が挿入される開口を有する筒状部材20と、筒状部材20に接合され試薬11を収容する袋状部材30と、を含む容器本体10を備える。袋状部材30の内底は、開口から挿入された吸引管90の先端91が配置される下方から外れた位置に配置されている。
【0037】
すなわち、
図1の例では、筒状部材20の開口から挿入された吸引管90の先端91が配置される下方には、袋状部材30が配置されていない。袋状部材30は、筒状部材20の開口から挿入された吸引管90の先端91が配置される下方位置以外の領域に配置されている。
【0038】
他の態様による試薬容器100は、上記のように、袋状部材30の内底は、筒状部材20の開口から挿入された吸引管90の先端91が配置される下方から外れた位置に配置されている。その結果、試薬11を収容した袋状部材30を含む試薬容器100を用いる場合でも、吸引管90の先端91と袋状部材30との接触を回避できるので、分析装置200の吸引管90の先端91が容器本体10を貫通するのを抑制することができる。
【0039】
(容器本体の構成材料)
容器本体10は、全体としてガスバリア性を有する。ガスバリア性とは、気体を透過させにくい性質である。本明細書では、ガスバリア性は、空気、特に酸素を透過させにくいことを指す。これにより、試薬容器100に収容された試薬11が外部の空気により劣化することを抑制できる。容器本体10は、遮光性を有する。遮光性とは、光を透過させにくい性質である。これにより、試薬容器100に収容された試薬11が日光などの外来光により劣化することを抑制できる。
【0040】
〈筒状部材〉
筒状部材20は、ガスバリア性および遮光性を有する。筒状部材20は、樹脂材料により形成された成形品である。筒状部材20を構成する樹脂材料としては、たとえば熱可塑性樹脂であって、具体的にはポリエチレン(PE)である。筒状部材20を構成する樹脂材料は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタラート(PET)などであってもよい。
【0041】
〈袋状部材〉
袋状部材30は、ガスバリア性を有する。袋状部材30は、筒状部材20よりも高いガスバリア性を有する。袋状部材30は、遮光性を有する。袋状部材30は、たとえばガスバリア性および遮光性を有するシート状部材31により形成されている。具体的には、袋状部材30は、シート状部材31として、ガスバリア性および遮光性を有する積層構造フィルム材からなる。これにより、外部空気に起因する試薬11の劣化を抑制でき、かつ、外来光に起因する試薬11の劣化を抑制できる。そのため、より長期間に亘って試薬11の品質を維持できる。
【0042】
積層構造フィルム材には、いわゆる「ガスバリアフィルム」と呼ばれる各種のフィルム材が含まれる。
図3(A)に示すように、積層構造フィルム材は、典型的には、少なくとも1層の基材層31Aと、少なくとも1層のガスバリア層31Bと、を含みうる。
図3(B)に示すように、積層構造フィルム材は、ガスバリア層31Bの外表面を保護する保護層31Cをさらに含みうる。積層構造フィルム材は、遮光性材料からなる遮光層を有していても良い。ガスバリア性および遮光性の両方の性質を有する材料をガスバリア層31Bに用いる場合、ガスバリア層31Bと遮光層とは、同一の層でありうる。積層構造フィルム材の層数は、2以上であるが、3~9または10以上であってもよく、特に限定されない。
【0043】
積層構造フィルム材には、たとえば、金属箔ラミネートフィルム、樹脂系多層バリアフィルム、コーティング系フィルム、蒸着フィルム、有機無機複合フィルムなどがある。金属箔ラミネートフィルムは、アルミ箔などの金属箔からなるガスバリア層を樹脂基材層に積層した構造のフィルムである。樹脂系多層バリアフィルムは、ガスバリア性に優れた樹脂材料層を積層した構造のフィルムである。ガスバリア性に優れた樹脂材料は、たとえばPVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PVA(ポリビニルアルコール)、EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)などでありうる。コーティング系フィルムは、基材層にガスバリア性材料をコーティング(製膜)した構造のフィルムである。製膜されるガスバリア性材料は、PVDC、PVA、EVOHなどであり、塗工などのウェットプロセスにより成膜されうる。蒸着フィルムは、基材層にガスバリア性材料を蒸着した構造のフィルムである。蒸着されるガスバリア性材料は、アルミニウムなどの金属、または、アルミナやシリカなどの無機酸化物である。なお、ガスバリア性材料は、蒸着以外の堆積処理を行うドライプロセスによっても製膜されうる。有機無機複合フィルムには、有機(樹脂)材料のガスバリア層と無機材料のガスバリア層とを別々に積層した構造の積層フィルムや、有機バインダー中に無機材料を分散させたガスバリア層を備えたフィルムなどが含まれる。
【0044】
袋状部材30のシート状部材31として用いられる積層構造フィルム材には、内表面において、筒状部材20と接合可能な材料からなる基材層31A、または基材層31Aとは別個の接合層が形成される。筒状部材20と接合可能な材料は、たとえば筒状部材20と同じ樹脂材料である。たとえば筒状部材20および基材層/接合層がどちらもポリエチレンなどの熱可塑性樹脂からなり、熱溶着により筒状部材20と基材層/接合層とが接合される。
【0045】
〈貫通防止部〉
貫通防止部40の構成材料は、特に限定されない。貫通防止部40は、袋状部材30の内底よりも貫通しにくいものであればよく、たとえば樹脂材料により形成された成形品でありうる。貫通防止部40は、仮に吸引管90の先端91と接触したとしても貫通されることのないような機械的強度を有する素材や形状であればよい。貫通防止部40は、袋状部材30よりも硬質材料により形成されていてもよい。この場合、貫通防止部40を構成している材料と、袋状部材30を構成している積層構造フィルム材の材料とを比較し、貫通防止部40を構成している材料の方が硬質材料であることが好ましい。構成材料同士の硬度の比較方法としては、硬度を表す尺度の一つであるビッカース硬度を用いたビッカース硬度試験によって比較することが好ましい。なお、袋状部材30を構成している積層構造フィルム材が単一層から構成されている場合は、単一層のビッカース硬度と比較し、複合層の場合は、複合層の中から最大硬度を有する層のビッカース硬度と比較する。また、貫通防止部40は、袋状部材30よりも高密度の樹脂材料により形成されていてもよい。この場合、貫通防止部40を構成している樹脂材料の密度と、袋状部材30を構成している積層構造フィルム材の樹脂材料の密度とを比較し、貫通防止部40を構成している樹脂材料の方が高密度の樹脂材料であることが好ましい。樹脂材料同士の密度の比較方法としては、嵩密度の測定方法である寸法法によって比較することが好ましい。なお、袋状部材30を構成している積層構造フィルム材が単一層から構成されている場合は、単一層の密度と比較し、複合層の場合は、複合層の中から最大密度を有する樹脂材料の密度と比較する。一例として、貫通防止部40は、袋状部材30内に収容される試薬11との間で相互に悪影響が発生しない樹脂材料、ゴム材料またはゴム以外のエラストマーにより形成されていてもよく、貫通防止部40は、たとえばシート状部材31の基材層31Aと同じ材料により形成されている。また、貫通防止部40は、たとえば筒状部材20と同じ材料により形成されている。
【0046】
図1に示した例では、貫通防止部40は、袋状部材30よりも大きい厚みt1を有する。これにより、吸引管90と当接しても貫通しないように貫通防止部40の機械的強度を高めることができる。これにより、より確実に吸引管90の先端91が容器本体10を貫通するのを抑制できる。袋状部材30は、厚みt2を有する。厚みt2は、シート状部材31の厚みである。厚みt1は、厚みt2の2倍以上、好ましくは4倍以上、より好ましくは8倍以上である。
【0047】
(試薬容器の構成例)
図1に示した例では、貫通防止部40と筒状部材20とは別体で設けられており、それぞれ別個に袋状部材30と接合されている。貫通防止部40と筒状部材20とが一部品として形成されていてもよい。
【0048】
図4に示す例では、貫通防止部40は、筒状部材20と一体形成されている。これにより、貫通防止部40を設ける場合でも試薬容器100の部品点数が増大することを抑制できる。また、柔軟な袋状部材30を有していても、貫通防止部40と筒状部材20との位置関係がずれることを抑制できる。さらに、貫通防止部40と筒状部材20とを別々に設けた場合と比べて、袋状部材30を容易に接合できる。
【0049】
図4では、筒状部材20は、上端部に開口を有し、下端部は開口していない。貫通防止部40は、筒状部材20の閉じた底部24を構成している。これにより、筒状部材20の開口から吸引管90を進入させ、そのまま吸引管90を下方へ移動させるだけで、確実に、吸引管90の先端91を貫通防止部40によって受け止めることができる。
【0050】
筒状部材20の下端部は、袋状部材30の内底32の近傍の位置に配置されている。貫通防止部40は、袋状部材30の内底32の近傍の位置に配置された筒状部材20の下端部を塞ぐように設けられている。貫通防止部40は、袋状部材30の内部で、袋状部材30の内底32から離れた上方位置に配置されている。吸引管90の先端91が筒状部材20の開口から進入し、筒状部材20の内部を下方に最大限移動しても、吸引管90の先端91は袋状部材30に接触する前に貫通防止部40に受け止められる。
【0051】
図4の例では、上記
図1において筒状部材20の下端部に形成された開口に代えて、筒状部材20の側面に側方開口25が形成されている。すなわち、筒状部材20は、上端部に開口が形成された筒状の周壁部23と、周壁部23を貫通して筒状部材20の上端部の開口と袋状部材30内とを連通する側方開口25と、を含む。袋状部材30は、筒状部材20の側方開口25の形成部分を内部に収容した状態で、側方開口25よりも上端部側の位置で筒状部材20に接合されている。
【0052】
袋状部材30内の試薬11は、側方開口25を介して筒状部材20の内部へ流入することができる。吸引管90の先端91が貫通防止部40の上面41の付近、つまり筒状部材20の底部24、に配置された状態で、筒状部材20の内部で試薬11が吸引される。このように、底部に貫通防止部40を有する筒状部材20は、筒状部材20の内部空間に吸引管90の先端91を配置させた状態で、試薬11を吸引させることができる。
【0053】
図4の例では、貫通防止部40が袋状部材30の内底32よりも上方に配置されているので、吸引管90の先端91も袋状部材30の内底32よりも上方に配置される。そのため、試薬11を最大限吸引した場合に、内底32から貫通防止部40の上面41までの高さに相当するデッドボリュームが発生する。
【0054】
そこで、
図5に示す例では、貫通防止部40の上面41が袋状部材30の内底32よりも低い位置に配置されている。これにより、袋状部材30と接触することなく、吸引管90の先端91を袋状部材30の内底32よりも低い位置まで到達させることができる。そのため、袋状部材30の内部に収容された試薬11を貫通防止部40の上面41の位置まで集めやすくなる。これにより、筒状部材20に対して袋状部材30が側方から接合される構造であっても、試薬11のデッドボリュームを低減できる。
【0055】
図5の例では、
図4と同様、筒状部材20が、上端部に開口が形成された筒状の周壁部23と、周壁部23を貫通して上端部の開口と袋状部材30内とを連通する側方開口25と、を含む。そして、
図5の構成例では、袋状部材30は、側方開口25の周囲を覆うように周壁部23の外表面23Aに接合されている。つまり、
図4のように筒状部材20が袋状部材30の内部に挿入される形態ではなく、
図5では、袋状部材30が筒状部材20の外周面(すなわち、外表面23A)から側方に張り出すように筒状部材20に接合されている。
【0056】
これにより、上下に延びる筒状部材20に対して袋状部材30が側方から接合される構造になる。そのため、筒状部材20の内部に吸引管90を進入させる際に、吸引管90の先端91が袋状部材30の内部に配置されることがない。したがって、より確実に、吸引管90の先端91が袋状部材30に接触することを回避できる。
【0057】
このように、
図5の例では、袋状部材30の内底32は、筒状部材20の開口から挿入された吸引管90の先端91が配置される下方から外れた位置に配置されている。袋状部材30の内底32は、筒状部材20の開口の中心軸線CAと容器本体10の内面12との交点CP以外の領域に配置されている。袋状部材30の内底32は、筒状部材20の外表面23Aの位置、および、筒状部材20の半径方向の外表面23Aよりも外側の位置に配置されている。
【0058】
図5では、貫通防止部40は、周壁部23の下端部を塞ぐように設けられている。これにより、筒状部材20の開口から吸引管90を進入させ、そのまま吸引管90を下方へ移動させるだけで、確実に、吸引管90の先端91を貫通防止部40によって受け止めることができる。また、吸引管90が傾いて進入した場合などでも周壁部23の内面によって吸引管90の先端91が案内され、先端91が袋状部材30に接触することを抑制できる。貫通防止部40の下面部42は、筒状部材20の外表面であって、容器本体10の外部に露出している。
【0059】
袋状部材30と筒状部材20との上側の接合領域BR2は、側方開口25の上端部と開口(すなわち、筒状部材20の上端部)との間の位置に配置されている。袋状部材30と筒状部材20との下側の接合領域BR2は、側方開口25の下端部と貫通防止部40との間の位置に配置されている。
【0060】
したがって、
図5の例では、筒状部材20の上端部が袋状部材30よりも高い位置に突出し、筒状部材20の下端部が袋状部材30よりも低い位置に突出している。貫通防止部40の上面41は、袋状部材30の内底32よりも低い位置に突出するように筒状部材20に設けられている。貫通防止部40は、容器本体10における最下部に配置されている。
【0061】
図5に示した例では、袋状部材30の内底32は、筒状部材20から側方に延びるように、筒状部材20の中心軸線CAに対して直交する方向へ延びている。これに対して、
図6に示す例では、袋状部材30の内底32は、筒状部材20側に向かって傾斜し、側方開口25の下端部に連なるように接続されている。
【0062】
これにより、袋状部材30内の試薬11が傾斜した内底32に沿って貫通防止部40の上面41まで流れやすくなる。その結果、より効果的に、試薬11のデッドボリュームを低減できる。
【0063】
図6では、袋状部材30の上辺部に対して、袋状部材30の下辺部が角度θだけ傾斜している。なお、角度θを示す補助線ALは、袋状部材30の上辺部と平行な線である。袋状部材30の下辺部は、筒状部材20側に向かって傾斜している。これにより、袋状部材30の内底32は、筒状部材20側に向かって傾斜している。袋状部材30の内底32は、筒状部材20側の端部において、上下方向の位置が筒状部材20の側方開口25の下端部と略一致するように形成されている。これにより、袋状部材30の内底32は、側方開口25の下端部に連なっている。貫通防止部40の上面41は、側方開口25の下端部よりも低い位置に配置されている。
【0064】
図6では、貫通防止部40の上面41付近に配置された吸引管90の先端91から試薬11が吸引され、袋状部材30内の試薬量が減少すると、重力の作用により、傾斜した内底32に沿って試薬11が側方開口25側に向けて流れる(
図6の矢印参照)。このため、袋状部材30内に残留する試薬11が極力低減される。
【0065】
図5および
図6では、貫通防止部40を筒状部材20の底部24として筒状部材20に一体形成しているが、たとえば筒状部材20の底部24を開口とし、貫通防止部40を底部の開口を塞ぐように装着されるキャップとして構成してもよい。
【0066】
(試薬容器の具体的構成例)
図7~
図13を参照して、試薬容器100のより具体的な構成例を説明する。
図7~
図13は、
図5に例示した構造を採用した試薬容器100の具体例を示している。
【0067】
図7に示すように、試薬容器100は、筒状部材20と、筒状部材20に接合され試薬11を収容する袋状部材30と、を含む容器本体10を備える。貫通防止部40は、筒状部材20の下端部を塞ぐように筒状部材20に一体形成されている。
【0068】
図7の例では、試薬容器100は、筒状部材20を容器本体10の上部位置に保持するための保持部材50を備えている。容器本体10は、柔軟な袋状部材30内に試薬11を収容する構造を有するため、容器本体10単体での設置状態において袋状部材30が変形しやすい。保持部材50は、容器本体10の少なくとも一部を支持することにより、筒状部材20の位置を確定する機能を有する。
【0069】
これにより、試薬容器100が柔軟な袋状部材30を有する場合でも、吸引管90の進入口である筒状部材20の位置を安定して保持できる。
【0070】
〈容器本体〉
図8に示すように、筒状部材20は、たとえばポリエチレン製の成形品である。筒状部材20は、略円筒形状の周壁部23を有する。周壁部23は、中心軸線CAの延びる方向から見て円形状の外形を有する。周壁部23の上端部には、開口が形成されている。なお、筒状部材20の上端部には、径方向外側へ張り出したフランジ部21Aが形成されている。周壁部23の下端部は、貫通防止部40により塞がれている。貫通防止部40は、筒状部材20の底部24を構成する。筒状部材20は、筒状部材20の内周面と貫通防止部40の上面41(
図9参照)とによって区画された円柱形状の内部空間を有しており、この内部空間の上端部が開口によって筒状部材20の外部に開放されている。
【0071】
筒状部材20は、周壁部23を貫通して側方に開口した側方開口25を有する。側方開口25は、周壁部23の上端部付近から下端部付近まで延びる。側方開口25は、後述する突起部26Aと突起部26Bとの間に形成されている。
【0072】
筒状部材20は、側方開口25の縁部から袋状部材30の内部へ向けて突出する突起部26を有する。突起部26は、周壁部23の外周面から、筒状部材20の中心軸線CAに対して直交する側方へ突出している。突起部26は、側方開口25の正面方向へ向けて突出している。このため、突起部26は、袋状部材30(
図7参照)の内部へ向けて突出し、袋状部材30に覆われている。ここで、袋状部材30を接合する際に袋状部材30が側方開口25を塞ぐように密着すると、袋状部材30の容積が小さくなる。そこで、突起部26を設ける構成によれば、袋状部材30の内部空間を突起部26によって拡げた状態で袋状部材30を接合できるので、袋状部材30の容積を安定して確保できる。
【0073】
突起部26は、側方開口25の上端部および下端部にそれぞれ形成されている。つまり、突起部26は、側方開口25の上端部に形成された突起部26Aと、側方開口25の下端部に形成された突起部26Bと、を含む。
【0074】
また、突起部26は、側方開口25の上端部および下端部との間の位置にも、設けられている。
図8の例では、側方開口25の上端部および下端部との間に、突起部26C、突起部26Dおよび突起部26Eが設けられている。合計5つの突起部26A~26Eが、上下方向に沿って互いに間隔を隔てて配置されている。
図8の例では、5つの突起部26A~26Eは、上下方向に沿って略等間隔となる位置に配置されている。突起部26A~26Eは、いずれも、平坦な板状形状を有する。
【0075】
突起部26は、側方開口25の幅方向の一方縁部と他方縁部とを接続するように形成されている。具体的には、
図9(B)に示すように、突起部26C、突起部26Dおよび突起部26Eが、側方開口25を横切るように跨いで、側方開口25の一方縁部と他方縁部とを接続している。これにより、突起部26が側方開口25の両縁部に跨がる梁状の構造を有する。筒状部材20に形成された側方開口25は、突起部26C、突起部26Dおよび突起部26Eによって、上下方向に並ぶ4つの小領域に分割されている。なお、
図9(B)では、説明の便宜のため、側方開口25の領域にハッチングを付している。
【0076】
これにより、突起部26が側方開口25の補強構造として機能し、筒状部材20の機械的強度を向上させることができる。その結果、側方開口25の縁部の周囲に袋状部材30を接合する際、圧力に起因する筒状部材20の変形を抑止できる。また、仮に筒状部材20内で吸引管90が側方開口25に向けて傾いて進入する場合でも、吸引管90の先端91を突起部26に当接させることができる。そのため、吸引管90の先端91と袋状部材30とが接触することを効果的に抑制できる。
【0077】
さらに、
図8および
図9の例では、筒状部材20は、上下方向に隣り合う突起部26同士を接続する接続部28を有する。接続部28は、突起部26Aと突起部26Cとの間、突起部26Cと突起部26Dとの間、突起部26Dと突起部26Eとの間、突起部26Eと突起部26Bとの間、をそれぞれ接続するように、4箇所に設けられている。接続部28は、側方開口25の長手方向である上下方向に沿って延びている。接続部28は、上下方向に延びる平板形状を有する。接続部28により、5つの突起部26A~26Eが相互に連結されて格子状に一体化するので、筒状部材20の機械的強度が効果的に向上する。
【0078】
接続部28は、側方開口25の一方縁部と他方縁部との中間位置に配置されている。そのため、接続部28は、側方開口25を一方縁部側の部分と他方縁部側の部分とに2分割するように形成されている。したがって、
図9(B)に示すように、側方開口25は、突起部26C~突起部26Eにより上下方向に4分割された4つの開口部分が、さらに接続部28により幅方向に2分割されることにより、合計8個の開口部分25A~25Hに分割されている。
【0079】
突起部26A~突起部26Eの幅W2は、側方開口25の幅W1と略等しいか幅W1よりも大きい。このため、
図7に示すように、袋状部材30には、試薬11が収容されていない状態でも、突起部26A~突起部26Eの形成領域において、内側から幅が拡げられて膨らんだ膨出部33が形成されている。つまり、袋状部材30には、突起部26によってシート状部材31の内面同士が離隔した中空の内部空間が形成されている。予め内部空間が形成された状態で袋状部材30が筒状部材20に接合されるので、その分、試薬11を収容可能な内部容積が増大する。
【0080】
また、
図9(A)に示すように、突起部26A~突起部26Eのうち、上下方向における側方開口25の中央に位置する突起部26Dの突出長さLが、他の突起部26A、26B、26Cおよび26Eの突出長さよりも大きい。これにより、外力が加わりやすい両端の突起部26A、26Bを必要以上に長く形成することなく、膨出部33(
図7参照)における袋状部材30の内部空間(すなわち、試薬11の容量)を大きくできる。
【0081】
また、上端部の突起部26Aと下端部の突起部26Bとは、それぞれ、容器本体10の内部と外部とを隔てる境界部となる接合領域BR2(
図8参照)を構成している。つまり、袋状部材30は、突起部26Aおよび突起部26Bの各外周面に沿って接合されている。これにより、突起部26の部分で筒状部材20と袋状部材30とを接合できる。突起部26は筒状部材20と異なり中空構造である必要がないため、接合時の圧力による変形を効果的に抑制できる。その結果、筒状部材20と袋状部材30との接合を、より容易に行える。
【0082】
突起部26Aおよび突起部26Bの先端部27は、先細ったテーパ形状を有している。このため、袋状部材30のシート状部材31同士が接合されている部分から、シート状部材31と突起部26Aおよび突起部26Bとが接合される部分へ切り替わる境界部で、隙間が形成されることが回避される。
【0083】
図10に示すように、筒状部材20の下端部の貫通防止部40は、丸みを帯びた形状で、袋状部材30よりも低い位置に突出するように形成されている。貫通防止部40の上面41は、概略で球状の凹形状に形成されている。貫通防止部40を含む筒状部材20は、たとえばポリエチレンにより形成され、貫通防止部40の厚みt1はたとえば約1mmである。周壁部23の外表面であって、貫通防止部40と側方開口25との間の位置には、保持部材50との係合用の凹部29が形成されている。凹部29は、具体的には突起部26Bに対して下側に隣接するように形成されている。
【0084】
図7に示したように、袋状部材30は、シート状部材31の一例として、内側から、(ポリエチレン/アルミニウム/ナイロン)の3層の積層構造フィルム材(
図3参照)により構成されている。内側のポリエチレンの基材層31Aが、ポリエチレン製の筒状部材20の表面に溶着されることにより、袋状部材30が筒状部材20に接合されている。ガスバリア層31Bが、アルミニウムにより構成されている。ガスバリア層31Bの表面側に、ナイロンの保護層31Cが成膜されている。シート状部材31の厚みt1は、たとえば100μm以上200μm以下の範囲である。このため、貫通防止部40の厚みt1は袋状部材30の厚みt2よりも大きい。
【0085】
袋状部材30は、上下方向に延びる筒状部材20に対して、側方から接合されている。袋状部材30は、側方開口25を内側に覆うように、筒状部材20に接合されている。袋状部材30の上端部は、筒状部材20の突起部26A(
図8参照)の外周に沿って接合されている。袋状部材30の下端部は、筒状部材20の突起部26B(
図8参照)の外周に沿って接合されている。袋状部材30は、突起部26C、突起部26Dおよび突起部26E(
図8参照)を内部に収容するように設けられている。なお、袋状部材30は、突起部26C、突起部26Dおよび突起部26Eの外周面にも接合されている。
【0086】
また、袋状部材30は、積層フィルムが周壁部23の外表面に沿って巻き付くようにして接合されている。つまり、袋状部材30は、筒状部材20の上端部と、筒状部材20の下端部とを除く外表面を覆うように筒状部材20に接合されている。これらの構成により、袋状部材30の内部空間は、筒状部材20の側方開口25のみに連通し、側方開口25は、筒状部材20の上端部の開口のみと連通している。なお、筒状部材20の上端部のフランジ部21Aが、袋状部材30よりも上方に突出している。筒状部材20の底部24を構成する貫通防止部40の上面41が、袋状部材30の内底32よりも低い位置に突出している。
【0087】
また、
図13に示すように、容器本体10は、筒状部材20の開口を封止し、かつ、吸引管90により穿刺可能なシール材13を備える。
【0088】
これにより、誤開封のおそれなく、未使用の試薬11を密封状態で長期保存できる。また、筒状部材20の開口のシール材13を吸引管90により穿刺する場合、吸引管90には鋭利な先端91を有する硬質な管部材が採用されるので、袋状部材30を傷つけ易い。これに対して、本実施形態では、容器本体10の貫通防止部40によって鋭利な先端91を受け止めることができるので、特に効果的に袋状部材30の損傷を抑制することができる。
【0089】
シール材13は、たとえばガスバリア性および遮光性を備える積層フィルムにより構成され、筒状部材20の上端部の開口を覆うように筒状部材20の上端部に溶着される。シール材13を構成する積層フィルムは、袋状部材30を構成する積層フィルムと同一であってもよいが、異なっていてもよい。好ましくは、シール材13は、袋状部材30と比べて破断し易い性質を有する。これにより、吸引管90の先端91によってシール材13を容易に穿刺できる。シール材13は、一例として、内側から、(ポリエチレン/アルミニウム/ポリエチレン/PET)の4層の積層構造フィルム材により構成されている。保護層としてのPETは、たとえば袋状部材30を構成するシート状部材31のナイロンと比較して、硬く、伸びにくい性質がある。そのため、シール材13は、シート状部材31と比較して穿刺され易い。
【0090】
〈保持部材〉
図7に示した保持部材50は、容器本体10を収容するケースとして構成されている。保持部材50は、袋状部材30よりも変形し難い材料により構成される。保持部材50は、たとえば樹脂材料により形成された成形品である。樹脂材料は、たとえばポリエチレンである。
【0091】
保持部材50は、上部が開放され、容器本体10の周囲を囲むように形成された周壁51と、周壁51の底部に形成された底面部52とを含む。保持部材50は、開放された上部から周壁51の内部に容器本体10が挿入されることにより、容器本体10を収容し、保持する。
【0092】
保持部材50は、袋状部材30を支持する支持部53を有する。これにより、試薬容器100が柔軟な袋状部材30を有する場合でも、試薬容器100の姿勢を安定して保持できる。
【0093】
支持部53は、周壁51の内周面と、底面部52の上面とによって構成されている。周壁51の内周面によって袋状部材30の周囲が支持され、袋状部材30が底面部52上に載置されることにより袋状部材30の下端部が底面部52によって支持される。
【0094】
保持部材50は、容器本体10と係合して筒状部材20の開口の位置を決める第1係合部54と、容器本体10と係合して貫通防止部40の位置を決める第2係合部55と、を含む。
【0095】
これにより、第1係合部54によって吸引管90の進入口である筒状部材20の開口の位置決めができ、第2係合部55によって吸引管90の先端91を受け止める貫通防止部40の位置決めができる。そのため、より確実に、吸引管90の先端91を貫通防止部40に受け止めさせることができるので、吸引管90が袋状部材30と接触することを効果的に抑制できる。
【0096】
図11に示すように、第1係合部54は、周壁51の内周面によって構成されている。具体的には、周壁51には、筒状部材20の外形形状に対応させた内径d1の略円筒形状を有する挿入部56が設けられている。また、挿入部56の外側の支持部53の部分では、周壁51の内周面間の距離d2が内径d1よりも小さく形成されている。第1係合部54は、挿入部56と支持部53との境界のエッジ部分により構成されている。このため、容器本体10の筒状部材20を挿入部56の内部に挿入すると、第1係合部54によって、水平方向における保持部材50に対する筒状部材20の開口の位置が位置決めされる。また、筒状部材20が支持部53側へ移動することが第1係合部54によって規制される。第1係合部54は、筒状部材20が挿入部56内で傾斜せずに真っ直ぐ挿入されるように筒状部材20をガイドする機能も有する。
【0097】
図12に示すように、第2係合部55は、底面部52の端部によって構成されている。底面部52は、支持部53の領域から、筒状部材20が配置される挿入部56まで延びており、第2係合部55は、挿入部56に隣接する位置に形成されている。筒状部材20が挿入部56に挿入されると、筒状部材20の底部の貫通防止部40が第2係合部55を通過して、底面部52よりも低い位置に配置される。そして、第2係合部55は、貫通防止部40の近傍に形成された凹部29(
図10参照)に嵌り込むことにより、筒状部材20と係合する。この結果、上下方向における、保持部材50に対する貫通防止部40の位置が位置決めされる。第2係合部55により、容器本体10が収容された保持部材50を分析装置200に設置した場合に、試薬容器100における貫通防止部40の深さ位置(すなわち、吸引管90の挿入深さ)を機械的に位置決めできる。なお、第2係合部55と凹部29とは、スナップフィット方式の係合構造を構成する。第2係合部55は、凹部29に嵌り込むことによって、保持部材50から容器本体10が誤って抜き取られないように係止する抜け止め部としても機能する。
【0098】
試薬容器100の製造時には、まず、筒状部材20と袋状部材30が熱溶着により接合され、容器本体10が形成される。容器本体10内に、所定量の試薬11が注入され、内部の空気が除去または不活性ガスにより置換される。そして、筒状部材20の上端部の開口にシール材13が熱溶着により接合され、内部の試薬11が封止される。そして、容器本体10を保持部材50に挿入して、筒状部材20を第1係合部54および第2係合部55に係合させることにより、保持部材50に固定する。
【0099】
図13に示すように、容器本体10がケース状の保持部材50に収容される構成では、保持部材50の外表面に、薬に関する情報を記憶したRFIDや表示ラベルなどの試薬識別用の部材14が貼付されうる。
【0100】
なお、試薬容器100における試薬11の容量は任意である。試薬容器100の袋状部材30および保持部材50の形状は、収容可能な試薬11の容量に応じて適宜変更可能である。
【0101】
たとえば
図14では、
図7~
図13に示した試薬容器100よりも容量が大きい大容量タイプの試薬容器100Aの例を示している。試薬容器100Aでは、
図13の例(長さL10)と比べて、筒状部材20の部分の形状は同じであるが、袋状部材30の長さL12が大きい。また、袋状部材30の幅W12が途中から拡大して、
図13の例(幅W10)よりも大きくなっている。同様に、試薬容器100Aの保持部材50では、筒状部材20が挿入される挿入部56の付近の形状は
図13と同じだが、保持部材50の支持部53の形状が、袋状部材30に合わせて変形されている。試薬容器100Aの支持部53は、
図13の例(長さL11)と比べて、長さL13が大きくなっており、支持部53の幅W13が途中から拡大して、
図13の例(幅W11)よりも大きくなっている。
【0102】
(分析装置の説明)
次に、
図15を参照して、試薬容器100を使用する分析装置200の構成例について説明する。
【0103】
図15に示す分析装置200は、血球計数装置である。血球計数装置は、試薬11を用いて血液検体の測定を行い、血液検体中に含まれる血球などの細胞や、固形成分を検出する装置である。
【0104】
分析装置200は、検体301である血液をサンプル容器(試験管)300から吸引する検体吸引部210と、試薬容器100から試薬11を吸引する試薬吸引部220と、吸引された検体301と試薬11とを用いて測定用試料を調製する試料調製部230と、試料調製部230により調製された測定用試料から被検物質を検出する検出部240とを含んでいる。分析装置200は、測定結果の分析を行う制御装置250と通信可能に接続されている。
【0105】
検体吸引部210は、内部を検体が通過する吸引管211および定量部212を含む。検体吸引部210は、吸引管211および定量部212により、サンプル容器300から検体を吸引する。定量部212は吸引管211に接続されたシリンジポンプなどからなる。検体吸引部210は、定量部212により、検体測定に必要な所定量の検体を試料調製部230の反応チャンバ231に供給する。
【0106】
試薬吸引部220は、分析装置200の内部に設けられ、試薬容器100が設置される容器収容部221と、吸引管90と、定量部222とを含む。容器収容部221と、吸引管90と、定量部222とは、検体の測定項目毎に異なる試薬11を供給するために複数の試薬容器100を設置可能なように、複数セット設けられうる。
【0107】
容器収容部221は、試薬容器100を収容可能であり、収容した試薬容器100を所定位置および所定姿勢に保持するように構成されている。容器収容部221は、試薬容器100のうち、下側表面、筒状部材20が配置される前側表面、および両方の側面と当接して試薬容器100を位置決めおよび支持するように構成された試薬設置部221Aを有する。試薬容器100は、ユーザによって、試薬設置部221A上に設置される。
【0108】
吸引管90は、ステンレス鋼の硬質材料により形成され、先端91が試薬容器100のシール材13を穿刺(すなわち、貫通)可能なように尖った形状に形成されている。吸引管90は、容器収容部221に設置された試薬容器100の開口の真上となる位置に、先端91が下向きとなるように配置され、上下移動可能な吸引管保持部223に取り付けられている。吸引管保持部223は、容器収容部221の入口を覆うカバー224と連動して上下に移動するように構成されている。カバー224は、上下方向に移動可能に構成され、容器収容部221の入口を覆う閉鎖位置Z1と、容器収容部221の入口を開放する開放位置Z2とに移動できる。
【0109】
試薬容器100を設置する際、ユーザがカバー224を開放位置Z2まで上方移動させて容器収容部221の入口を開放させる。開放された容器収容部221にユーザが試薬容器100(または試薬容器100A)を設置する。試薬容器100は、試薬設置部221Aによって、吸引管90の真下に開口が配置される位置で支持される。試薬容器100の設置後、ユーザがカバー224を閉鎖位置Z1まで下方移動させて容器収容部221の入口を閉じる。このとき、カバー224の下方移動に連動して吸引管90が下方移動して、吸引管90の先端91がシール材13を貫通して開口から試薬容器100の内部に進入する。
【0110】
定量部222は、シリンジポンプおよびダイアフラムポンプなどからなるポンプ222Aと、吸引された試薬11の移送経路を切り替えるための電磁バルブ222Bおよび222Cと、流路222Dとを含んでいる。電磁バルブ222Bを開放してポンプ222Aを吸引させることにより、試薬容器100の内部から吸引管90および流路222Dを介して試薬11が定量吸引される。電磁バルブ222Cを開放してポンプ222Aを吐出させることにより、定量された試薬11が流路222Dを介して反応チャンバ231に移送される。
【0111】
試料調製部230は、反応チャンバ231を含んでいる。反応チャンバ231は、検体吸引部210により吸引された検体(血液)301と、試薬吸引部220から供給される試薬11とを混合するように構成されている。反応チャンバ231は、測定項目の数に応じて複数設けられ得る。反応チャンバ231には測定項目に応じた試薬11が供給され、検体301と試薬11との混合により測定項目に応じた測定用試料が調製される。そして、調製された測定用試料は、検出部240へと供給される。余剰の測定用試料は、バルブ233を開放することにより廃液チャンバ232に排出される。試薬11は、特定の種類の粒子(細胞)を特異的に染色するための染色液を含む。染色液は、たとえば、血液中の白血球、赤血球、細胞小器官、血小板などを染色するための各種の蛍光色素を含む。
【0112】
検出部240は、血液検体に含まれる血球成分の検出を行う。検出部240は、半導体レーザーを使用したフローサイトメトリー法により、測定用試料に含まれる染色された血球成分の分類検出を行う。また、検出部240で得られた検出結果は、検体の測定データ(測定結果)として、制御装置250に送信される。
【0113】
検出部240は、流路部に形成したシース液の流れの中に細胞などの粒子を流して、流れる粒子に送光部からレーザー光を照射し、散乱光や蛍光を受光部により検出する。制御装置250は、検出部240が検出した光に基づいて個々の粒子を解析する。たとえば、散乱光強度と蛍光強度をパラメータとして組み合わせたスキャッタグラムなどが作成され、スキャッタグラムの分布などに基づき試料が解析される。フローサイトメトリー法による測定項目としては、NEUT(好中球)、LYMPH(リンパ球)、MONO(単球)、EO(好酸球)、BASO(好塩基球)などがある。
【0114】
また、検出部240は、たとえばシースフローDC検出法による検出を行う。すなわち、検出部240は、試料を流通させる開口部が設けられた流路部と、開口部を挟んで対向するように配置された一対の電極間の電気的な変化を検出する。検出部240は、開口部を通過するシース液の流れの中に細胞などの粒子を流して、電極間には直流電流を流す。検出部240は、粒子が開口部を通過する際のパルス状の電流変化に基づいて、個々の粒子を検出する。シースフローDC検出法による測定項目としては、WBC(白血球)数、RBC(赤血球)数、HGB(ヘモグロビン量)、HCT(ヘマトクリット値)、MCV(平均赤血球容積)、MCH(平均ヘモグロビン量)、MCHC(平均ヘモグロビン濃度)、PLT(血小板数)などがある。
【0115】
(分析装置の他の例)
ここでは、分析装置200が血球計数装置である例を示したが、これに限られない。分析装置200は、試薬11を用いて検体の測定を行う装置であればよい。試薬11は、分析装置200による検体の測定原理に応じた成分を含有するものであり、染色液には限定されない。
【0116】
〈凝固分析装置〉
分析装置200は、たとえば、血液凝固分析を行う血液凝固分析装置でありうる。この場合、検体は、血液から分離された血漿または血清である。分析装置200は、凝固法、合成基質法、免疫比濁法および/または凝集法を用いて検体の分析を行う。
【0117】
凝固法では、測定用試料に光が照射され、試料からの透過光または散乱光の電気信号に基づいて、検体中のフィブリノーゲンがフィブリンに転化する凝固時間が測定される。試薬11として、凝固因子を含む凝固試薬が用いられる。凝固法の測定項目としては、PT(プロトロンビン時間)、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)やFbg(フィブリノーゲン量)などがある。
【0118】
合成基質法では、測定用試料に光が照射され、試料からの透過光の電気信号に基づいて、測定用試料中の酵素に対する発色性合成基質の作用による発色度合いが測定される。試薬11は、発色性合成基質を含有する。合成基質法の測定項目としては、ATIII(アンチトロンビンIII)、α2-PI(α2-プラスミンインヒビター)、PLG(プラスミノーゲン)などがある。
【0119】
免疫比濁法では、検体中の凝固・線溶因子などに対して抗原抗体反応を生じる抗体感作試薬が検体に添加され、試薬11に含有される物質が抗原抗体反応の結果として凝集する。試薬11は、抗体感作試薬である。免疫比濁法では、測定用試料に光が照射され、試料からの透過光または散乱光の電気信号に基づいて、測定用試料中の試薬含有物質の凝集速度が測定される。免疫比濁法の測定項目としては、Dダイマー、FDP(フィブリン分解産物)などがある。
【0120】
凝集法では、測定用試料に光が照射され、試料からの透過光の電気信号に基づいて、測定用試料中の血小板などが凝集反応する過程の吸光度変化が測定される。試薬11は、血小板凝集反応の惹起物質または固定化血小板を含有する。凝集法の測定項目としては、vWF:RCo(フォンビルブランドリストセチンコファクター)や血小板凝集能などがある。
【0121】
分析装置200は、たとえば、血液凝固分析を行う血液凝固分析装置でありうる。この場合、検体は、血液から分離された血漿または血清である。分析装置200は、凝固法、合成基質法、免疫比濁法または凝集法を用いて検体の分析を行う。制御装置250は、検出した光に基づいて検体を分析する。
【0122】
〈免疫測定装置〉
また、たとえば、分析装置200は、免疫測定装置でもよい。分析装置200は、血液中の対象成分と試薬中の成分との抗原抗体反応を利用して、対象成分を検出する。対象成分として、たとえば、血液に含まれる抗原または抗体、タンパク質や、ペプチドなどを検出する。免疫測定装置は、血清または血漿を検体として取得して、検体に含まれる抗原または抗体などを定量測定または定性測定する。なお、抗原抗体反応は、抗原と抗体との反応のみならず、アプタマー等の特異的結合物質を用いた反応を含む。アプタマーは、特定の物質と特異的に結合するように合成された核酸分子またはペプチドである。
【0123】
分析装置200は、試料から生じた光、すなわち、検体に含まれる被検物質に基づく化学発光を測定する。分析装置200は、検出部が検出した光に基づいて測定データを生成する。試薬11は、対象成分と特異的に結合して免疫複合体を形成する成分を含有する試薬、免疫複合体の単体を含有する試薬、標識物質を含有する試薬、化学発光を発生させるための酵素試薬などを含みうる。
【0124】
ここで、化学発光とは、化学反応によるエネルギーを利用して発せられる光である。化学発光は、たとえば、化学反応により分子が励起されて励起状態になり、励起状態から基底状態に戻る時に放出される光である。検出部が検出する化学発光は、たとえば、酵素免疫化学発光法(CLEIA)に基づくものであり、酵素と基質との反応により生じた光である。酵素免疫化学発光法の測定項目としてはHBsAb、FT3、FT4、TSHなどがある。
【0125】
なお、検出部が検出する化学発光は、たとえば、化学発光分析法(CLIA)、電気化学発光分析法(ECLIA)、蛍光酵素測定法(FEIA法)、LOCI法(Luminescent Oxygen Channeling Immunoassay)、BLEIA法(生物発光酵素免疫法)などに基づく光であってもよい。
【0126】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0127】
10:容器本体、11:試薬、12:内面、13:シール材、20:筒状部材、23:周壁部、24:底部、25:側方開口、26(26A、26B、26C、26D、26E):突起部、30:袋状部材、32:内底、40:貫通防止部、41:上面、50:保持部材、53:支持部、54:第1係合部、55:第2係合部、90:吸引管、91:先端、100、100A:試薬容器、200:分析装置